宅建の引っかけ表現パターン|2,000肢で検証
宅建の引っかけを「型」ではなく肢に印字された語で数える。自社模範解答2,000肢を全文走査し、断定語・期間の副詞・境界語・除外語の出現数と誤り率を実測して読み方の作法を示す。
目次
この記事は、選択肢のどこに目を止めるかを決めるための一本である。引っかけを「数字の入れ替え」「主体のすり替え」といった型で分類する記事は宅建試験AIブートラボにも複数あり、型のカタログは過去問の活用法と出題傾向の読み方が扱っている。本記事はそこには踏み込まない。代わりに、実際に紙に印字されている語そのものを数える。
結論を先に書く。宅建試験AIブートラボが自社で管理している模範解答(2016年から2025年までの10年分、権利関係・法令上の制限・宅建業法・税その他の4科目、合計2,000肢)を全文走査したところ、受験対策でよく言われる「必ず・すべて・常にが出てきたら誤りを疑え」という助言は、適用する機会がほとんどないことが分かった。全称・断定を表す語を含む肢は、集計対象1,582肢のうち27肢しかない。割合にして1.7%である。しかもそのうち、条文が全称形で書いている表現をそのまま写した肢は正しい肢だった。語に線を引く前に、その語が条文の文言なのか作問者が足した語なのかを判定する。この一段が抜けているために、断定語スクリーニングはむしろ誤答を生む。
以下に出てくる出現数・誤り率は、すべて宅建試験AIブートラボの自社模範解答2,000肢を集計した数値であり、公的機関が公表した統計ではない。不動産適正取引推進機構や国土交通省が同種の集計を公表しているわけではないので、他の資料と突き合わせて検証することはできない。あくまで自社データ内での傾向として読んでほしい。
引っかけを「型」で数えるのをやめて、表現で数える
引っかけの型を並べた解説は、読んでいる最中は納得できるのに、いざ本試験の肢を前にすると使えない。理由は抽象度にある。
「数字の入れ替え」という型は、その肢に数字が書いてあることに気づいた後でなければ発動しない。「主体のすり替え」という型は、主語が入れ替わりうる論点だと知っていなければ発動しない。「原則と例外のすり替え」に至っては、その論点の原則と例外を両方覚えている人にしか使えない。つまり型のカタログは、知識が完成した後で答え合わせに使う道具であって、知識が不完全なまま肢を読んでいる最中の道具ではない。
これに対して、語は目に見える。「速やかに」と書いてあれば見える。「以内」と書いてあれば見える。「承諾」と書いてあれば見える。語は肢の表面に印字されているので、論点を特定する前に検出できる。この記事が扱うのは、その表面の層である。
もう一つ、型のカタログには測定できないという弱点がある。「数字の入れ替えは頻出です」と書くことはできるが、10年分の肢のうち何肢がそれに当たるのかは、型が抽象概念である以上、数えられない。語なら数えられる。何肢に出るか、その肢の内容が正しいか誤りかも、機械的に集計できる。実測できるところまで降りることが、この記事の方法である。
この記事が扱わないこと
法令用語の意味そのものは扱わない。「遅滞なく」「速やかに」「直ちに」の即時性の強弱、「しなければならない」と「することができる」の差、「推定する」と「みなす」の違い、「以上・以下」と「超える・未満」が基準の数を含むかどうか。これらの定義は未経験から合格するための基礎が扱っている。用語の定義と、紛らわしい対をどの軸で分けるかは不動産・法律用語50語にまとめてある。本記事は定義を一行も書かず、その語が何肢に出るかと、その肢が誤りだったかどうかだけを扱う。
論点別の頻出テーマ、科目別にどの分野が重いかという話も扱わない。それは出題傾向の読み方と宅建業法の頻出論点の担当である。本記事が科目差に触れるのは、科目によって出てくる語が違うという一点に限る。
集計の枠
対象は、宅建試験AIブートラボが管理する模範解答データのうち、2016年から2025年までの各年200肢、合計2,000肢である。1肢につき、選択肢本文と、その肢の内容が正しいか誤りかの判定と、条文根拠つきの解説が1件ずつ紐づいている。
この2,000肢から、選択肢本文が15字以上あり、かつ解説が「正しい。」または「誤り。」で始まるものを抜き出した。文字数の下限を置いたのは、判決文問題の空欄補充のように、語を数える意味のない短い文字列を除くためである。解説の書き出しで絞ったのは、その肢の内容が正しいか誤りかが機械的に読み取れるものだけを対象にするためである。残ったのが1,582肢だった。
集計は選択肢本文に対する単純な文字列一致で行っている。たとえば「必ず」を含む肢を数えるとき、それが「必ずしも」の一部であっても文字列としては一致する。この粗さは意図的なもので、受験者が肢を読むときに実際に目に入るのは文字列だからである。むしろ「必ず」と「必ずしも」が同じ文字列として拾われることが、後述するとおり断定語スクリーニングの弱点をそのまま可視化してくれる。
もう一点、集計しているのは肢の本文であって、解説の本文ではない。解説には条文の引用が含まれるので、そちらを数えると条文の語ばかりが集まってしまう。あくまで受験者が本試験の紙面で目にする文字列だけを対象にしている。
判定の土台をそろえる|2,000肢の基準値と科目差
個々の語の誤り率を見る前に、必ず基準値を置かなければならない。これを飛ばすと、どんな数字も意味を持たなくなる。
まず全体の誤り率を出す
対象1,582肢のうち、内容が誤りである肢は908肢だった。57.4%である。この数字が本記事のすべての土台になる。
ここで重要なのは、「正解肢かどうか」ではなく「内容が誤りかどうか」で数えている点である。宅建の四肢択一には、正しいものを1つ選ばせる問題と、誤っているものを1つ選ばせる問題が混在する。前者では誤り肢が3つ、後者では誤り肢が1つになるので、「正解肢」で数えると問題の設問形式に引きずられて何も見えなくなる。内容の真偽で数えて初めて、作問者がどれくらいの割合で嘘を混ぜているかが分かる。
57.4%という数字自体にも意味がある。正しいものを選ばせる問題と誤っているものを選ばせる問題が半々なら誤り肢は50%になるはずだが、実際には7ポイント高い。つまり本試験全体としては、正しい肢よりも誤り肢のほうがやや多い。何も情報がないまま一つの肢を見て「これは誤りだ」と当てずっぽうに言えば、57.4%の確率で当たる。この「何もしなくても当たる率」を超えない指標は、指標として無価値である。
基準値は年ごとにぶれない
この57.4%が特定の年に引っ張られた数字でないことも確認しておく。年度別に出すと、2016年59.1%、2017年57.1%、2018年56.0%、2019年55.0%、2020年62.2%、2021年57.7%、2022年59.1%、2023年57.9%、2024年53.4%、2025年56.4%。最も高い2020年と最も低い2024年で8.8ポイントの幅があるが、10年のうち8年が55%から60%の帯に収まっている。
この安定性が、以降の節で語ごとの誤り率を基準値と比べることを正当化する。年によって基準値が40%と70%のあいだで揺れるなら、ある語の誤り率が63%だと分かっても意味を持たない。実際にはそうなっていないので、基準値との差は読める。
なお、2,000肢のうち集計から外した418肢の内訳は、選択肢本文が15字未満のものが290肢、残る128肢が解説の書き出しから真偽を機械的に判定できなかったものである。除外の基準は語の種類とは無関係なので、特定の表現だけが体系的に抜け落ちることはない。
ただし、除外は科目に均等には散らばっていない。ここは数字を読むうえで無視できないので明記しておく。15字未満の290肢のうち240肢が宅建業法である。宅建業法には個数問題と組合せ問題が多く、その選択肢が「一つ」「二つ」「三つ」「四つ」「なし」や「ア、イ」といった短い文字列になるからである。ア〜エの記述そのものは問題文の側に置かれていて選択肢本文ではないので、肢としては数えていない。したがって以下に出てくる宅建業法の基準値64.6%は、四肢択一の形で書かれた520肢についての数字であって、宅建業法の全800肢についての数字ではない。
真偽を判定できなかった128肢のほうは、税・その他に72肢が集中している。うち71肢が問49(土地)と問50(建物)で、この2問は「最も適当なもの」「最も不適当なもの」を選ばせる形式なので、解説が「適当。」「不適当。」で始まり、「正しい。」「誤り。」の枠に入らない。つまり税・その他の248肢は、実質的に問23から問48までの範囲を集計したものになっている。
科目別の基準値
同じ集計を科目ごとに分けると、はっきり差が出る。
宅建業法は対象520肢のうち誤り336肢で64.6%。税・その他は対象248肢のうち誤り149肢で60.1%。法令上の制限は対象313肢のうち誤り163肢で52.1%。権利関係は対象501肢のうち誤り260肢で51.9%。
宅建業法が最も高く、権利関係が最も低い。差は12.7ポイントある。宅建業法は条文の数値と手続が細かく、しかも同じ論点が10年のあいだに何度も出る密度の高い科目なので、作問者は細部を一箇所だけずらすという作り方をしやすい。どの論点がその「何度も出る」に当たるかは宅建業法の頻出論点に整理してある。逆に権利関係は、判例の射程や条文の解釈をそのまま問う肢が多く、そもそも「正しい記述をそのまま置く」ことで難易度が確保できるため、誤り肢の比率が上がりにくい。
この科目差が意味するのは、同じ「誤り率60%」という数字でも、宅建業法の肢に出た語であれば基準値64.6%を下回っているので実は誤り寄りではなく、権利関係の肢に出た語であれば基準値51.9%を8ポイント上回るので誤り寄りだ、ということである。以降の各節で語ごとの誤り率を出すが、それは常にこの基準値との差でしか読めない。
誤り率を「危険度」と読み替えない
もう一つ約束しておく。ある語の誤り率が高いことは、その語を見たら誤りだと判断してよいことを意味しない。誤り率80%の語であっても、5肢に1肢は正しい肢である。四肢択一で1問4肢のうち1肢だけを間違えれば、その問題は落ちる。
誤り率の使い道は、判断ではなく配分である。時間と注意力は有限なので、どの語で立ち止まるかを決めるために使う。立ち止まった先で結論を出すのは、あくまで条文の知識である。
断定語は本当に危険信号か|「必ず」「すべて」「いかなる」「一切」の実測
ここが本記事の中心である。
27肢しかない
全称や断定を表す語として、「必ず」「すべて」「全て」「いかなる」「一切」「常に」「例外なく」の7語を選び、選択肢本文に含まれる肢を数えた。結果、対象1,582肢のうち27肢だった。1.7%である。
内訳は次のとおり。「全て」10肢、「必ず」6肢、「すべて」4肢、「一切」4肢、「いかなる」3肢。そして「常に」と「例外なく」は、絞り込み前の2,000肢全体を見ても0肢だった。10年で一度も出ていない。
27肢のうち内容が誤りだったのは17肢で、誤り率は63.0%である。全体の基準値57.4%より5.6ポイント高い。確かに高い側ではあるが、この程度の差で「危険信号」と呼べるかは疑わしい。しかも母数が27肢しかないので、数肢の増減で数字が大きく動く。統計として安定していない。
肝心なのは頻度のほうだ。1.7%ということは、50肢に1肢に満たない。本試験は4肢×50問で200肢だから、単純計算で1回の試験に3肢か4肢しか出ない。断定語スクリーニングという道具は、200肢のうち3肢にしか適用できない。それを「引っかけの第一の見分け方」として練習することの費用対効果は低い。
「必ず」の6肢は、4肢が部分否定だった
さらに踏み込むと、事態はもっと悪くなる。「必ず」を含む6肢を一つずつ見ると、そのうち4肢は「必ずしも……ない」という部分否定の形だった。
部分否定の「必ずしも」は、断定を強める語ではない。むしろ逆で、「例外がある」「一律ではない」と言っている。断定語として警戒する対象ではまったくない。にもかかわらず、文字列としては「必ず」を含む。「必ずと書いてあったら疑う」という運用を機械的に実行すると、この4肢に反応してしまう。
そしてこの4肢のうち3肢は、内容が正しい肢だった。宅地建物取引士の信用失墜行為の禁止(宅建業法15条の2)について、害される信用の範囲は職務に必ずしも直接関係しない私的な行為も含む、という趣旨の肢が2肢。専任媒介契約の業務処理状況の報告(同法34条の2第9項)について、報告は必ずしも書面による必要はない、という肢が1肢。いずれも正しい。ここで「必ず」に反応して切ってしまえば、そのまま失点になる。
純粋な断定としての「必ず」は、10年で2肢しかなかった。住宅販売瑕疵担保保証金の供託所の所在地等の説明について「必ず書面を交付して説明しなければならず、買主の承諾を得ても電磁的方法によることはできない」とする肢と、不動産の表示に関する公正競争規約に関して「増築・改築・改装・改修した中古住宅については、その内容及び時期を必ず表示しなければならない」とする肢である。この2肢はどちらも誤りだった。
前者が誤りなのは、履行確保法15条2項が同法10条2項を準用しており、買主の承諾を得れば書面の交付に代えて電磁的方法による提供ができるからである(特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律15条1項・2項、10条2項)。後者が誤りなのは、規約の表示基準が求めているのが「増改築等を表示する場合はその内容と時期を明示せよ」という条件つきの義務であって、増改築の事実そのものを表示する義務ではないからである。
つまり、断定語スクリーニングが本来当てるべき対象は10年で2肢。適用機会は事実上ないに等しく、そのうえ部分否定への誤反応というコストを伴う。
「いかなる」の3肢は、条文の文言かどうかで割れた
「いかなる」を含む3肢は、本記事の中心命題をそのまま示す教材になっている。
1肢目は、建物の貸借の媒介における重要事項説明について、「敷金その他いかなる名義をもって授受されるかを問わず、契約終了時において精算することとされている金銭の精算に関する事項」を説明しなければならない、とする肢。これは正しい。宅地建物取引業法施行規則16条の4の3第11号が、まさにこの文言をそのまま置いている。「いかなる名義をもって授受されるかを問わず」は作問者の言葉ではなく、条文の言葉である。
2肢目は、宅建業者が自ら売主となる売買契約の締結に際して手付を受領したときは、「その手付がいかなる性質のものであっても」買主は手付を放棄して解除できる、とする肢。これも正しい。宅建業法39条2項の文言そのものである。証約手付でも違約手付でも、名目にかかわらず解約手付としての効力が法律上与えられる、という規定なので、条文自身が全称形をとる必然性がある。手付の性質と額の制限については手付額の制限と解約手付に条文単位で整理してある。
3肢目は、原価法について、対象不動産が土地のみである場合には「いかなる場合も適用することができない」とする肢。これは誤りである。不動産鑑定評価基準は、土地のみであっても再調達原価を適切に求めることができるときは原価法を適用できるとしている。造成地や埋立地がその例に当たる。ここでの「いかなる場合も」は条文にも基準にもない語で、作問者が例外を潰すために足したものである。
3肢のうち2肢は条文の文言由来で正しく、1肢は作問者の付加で誤り。断定語という文字列は同じでも、由来が違えば結論が正反対になる。
統計の語が条文に埋め込まれている例はほかにもある
宅建業法71条は「国土交通大臣はすべての宅地建物取引業者に対して、都道府県知事は当該都道府県の区域内で宅地建物取引業を営む宅地建物取引業者に対して……必要な指導、助言及び勧告をすることができる」と定めている。条文本文に「すべての」が入っている。
この条文を素材にした誤り肢が実際に作られていて、そこでは「すべての宅地建物取引士に対して」と書き換えられていた。誤っているのは「すべて」ではない。指導・助言・勧告の対象が宅建業者であって宅建士ではない、という主体の部分である。「すべて」に線を引いた人は、正しい語に線を引いて、誤っている語を素通りしたことになる。
区分所有法のように、条文自身が分数の全称表現を持つ領域もある。ただし区分所有法は令和7年法律第47号により2026年4月1日から決議要件の構造が変わっているので、決議の分母を例に引くときは改正後の条文で確認してほしい。詳細は区分所有法の決議要件にある。
27肢のうち5肢が問47に集まる
断定語を含む27肢を出題番号ごとに並べると、問47に5肢が集中していた。全体の18.5%が1問に固まっている計算になる。他の問番号は多くて2肢である。
理由は、問47が扱う領域の性質にある。問47は不動産の表示に関する公正競争規約からの出題で、表示基準は「原則としてこう表示せよ。ただし、それが困難なときはこう表示してよい」という構造を大量に持っている。管理費が住戸ごとに異なりすべての住戸の管理費を示すことが困難なときは最低額と最高額のみで表示できる、新築賃貸マンションの賃料をすべての住戸について表示することがスペース上困難なときは最低賃料と最高賃料で表示できる、といった具合である。
条文の側に「すべて」という語と「困難なとき」という例外がセットで用意されているので、作問者は「すべての住戸を示すことが困難なときは平均額を表示すればよい」「最高額のみを表示すればよい」というように、例外の中身だけを差し替えれば誤り肢を作れる。全称語は例外条項を呼び出すための足場として使われているのであって、それ自体が嘘のしるしになっているわけではない。
実際、集計した5肢のうち4肢が、この「困難なときの表示方法」を最低額・最高額の組から別のものに差し替えた誤り肢だった。問47の実体、つまり景品表示法と公正競争規約が何を規律しているかは不当景品類及び不当表示防止法に、表示基準の要件と例外の中身は不動産広告の表示基準にまとめてある。
したがって、語より先に由来を判定する
ここまでを一つの命題にまとめる。全称・断定語に線を引く作業には意味がない。意味があるのは、その語が条文の文言か、作問者が足した語かを判定する作業である。
条文の文言なら、その語はその肢を正しい方向に押す。条文をそのまま写しているのだから当然である。作問者の付加なら、その語は例外を潰すために足されているので、例外の有無を確認しに行く合図になる。同じ「いかなる」でも、判定が逆になる。
宅建試験AIブートラボの出題傾向の読み方には「必ず・すべて・常にを疑う」という節があり、そこでは副詞を「例外の有無を確認する合図」として位置づけたうえで、副詞そのものが答えを教えてくれるわけではないと留保している。本記事の実測は、その留保のほうを実データで裏づける結果になった。合図として使うのはよい。ただし合図が鳴る回数は10年で27回しかなく、鳴ったときは条文の文言かどうかを先に確かめる必要がある。
期間の副詞|「遅滞なく」「直ちに」「速やかに」が実際に置かれる場所
3語で37肢
「遅滞なく」を含む肢は19肢、「直ちに」は10肢、「速やかに」は8肢。合計37肢で、対象1,582肢の2.3%にあたる。誤り率はそれぞれ57.9%、60.0%、75.0%で、全体基準値57.4%から大きくは離れない。「速やかに」だけが高めだが、母数8肢なので数字を強く読むべきではない。
3語の即時性の強弱、つまりどれが最も急ぐ意味かという定義は本記事では扱わない。未経験から合格するための基礎にある。ここで見るのは、誤り肢が「なぜ」誤りだったかの内訳である。
副詞そのものが入れ替えられている肢は少ない
37肢の誤り肢を解説の根拠まで追うと、副詞を別の副詞に置き換えて誤りにしている肢は少数派だった。多くは、副詞は条文どおりに置かれたまま、別の要素が誤っている。
代表的なものを論点の水準で挙げる。
宅地建物取引士が事務の禁止の処分を受けたときは、速やかに宅地建物取引士証を提出しなければならない。ここまでは条文どおりである(宅建業法22条の2第7項)。誤り肢は、提出先を「処分をした都道府県知事」に差し替えていた。条文は「その交付を受けた都道府県知事」と定めているので、甲県知事の登録を受けている取引士が乙県知事から事務禁止処分を受けても、提出先は甲県知事である。副詞は無傷で、提出先だけが動いている。登録と取引士証をめぐる手続は宅建士の登録と取引士証に整理してある。
営業保証金の供託所が主たる事務所の移転によって変わった場合、宅建業者は遅滞なく手続をとらなければならない。ここも条文どおりである(宅建業法29条1項)。誤り肢は、金銭のみで供託しているときに「新たに供託しなければならない」としていた。条文は、金銭のみのときは保管替えを請求し、有価証券を含むときは新たに供託する、と供託方法で分けている。副詞は正しく、分岐の向きが逆になっている。
宅建業者は、売買・交換・貸借に関する注文を受けたときは遅滞なく取引態様の別を明らかにしなければならない(宅建業法34条2項)。誤り肢は、この副詞を残したまま「事前に取引態様を明示した広告を見てから注文してきた場合は明らかにする必要はない」という例外を足していた。同条1項の広告時の明示義務と2項の注文時の明示義務は独立した義務なので、一方を果たしても他方は消えない。副詞は正しく、条文にない例外が付け足されている。取引態様の明示義務に二つの義務の関係を書いてある。
37条書面は、契約が成立したときに遅滞なく交付する(宅建業法37条1項)。この副詞が正しい位置に置かれた肢は複数あり、誤りは記名の要否や取引士による説明義務の有無といった別の要素に仕込まれていた。37条書面の交付時期と記載事項は37条書面の記載事項にある。
副詞そのものが争点になる場所もある
一方で、副詞を置いたこと自体が誤りになる肢もある。最も分かりやすいのが手付金等の保全措置である。
宅建業法41条1項は、工事完了前の宅地建物の売買について、所定の保全措置を「講じた後でなければ、買主から手付金等を受領してはならない」と定める。措置は受領に先立つのであって、受領後に速やかに講じればよいという制度ではない。「手付金を受領した後に、速やかに保全措置を講じなければならない」とする肢は、この前後関係を逆にしているので誤りになる。ここでは「速やかに」という語の存在が、そもそも順序が違うことを示す指標になっている。保全措置の要否と方法は手付金等の保全措置に整理してある。
建築基準法の既存不適格をめぐる肢も同型である。法改正により既存の建築物が改正後の規定に適合しなくなった場合に「速やかに適合させなければならない」とする肢は、10年で2回作られていて、いずれも誤りだった。建築基準法3条2項は、規定の施行または適用の際に現に存する建築物がその規定に適合しない部分を有する場合には当該規定を適用しないと定めており、遡及適用しないのが原則である。適合させる義務がそもそも生じないので、副詞を何に替えても誤りになる。この場合の「速やかに」は、作問者が義務を作り出すために置いた語である。
権利関係では「直ちに」が条文の語である
科目が変わると事情も変わる。権利関係に出てくる「直ちに」は、条文の文言であることが多い。
賃借人が賃貸人の負担に属する必要費を支出したときは、賃貸人に対し「直ちに」その償還を請求することができる(民法608条1項)。契約終了時まで待つ必要はない。集計した誤り肢は、この結論を反転させて「直ちに償還請求できる旨の特約がない限り、契約終了時でなければ償還を求められない」と書いていた。同条2項が有益費について「賃貸借の終了の時に」償還すると定めているので、必要費のほうもそちらに引きずらせる作りである。条文が必要費にだけ「直ちに」と書いていること自体が、この肢の結論を決めている。
債務者が債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したときは、債権者は催告することなく「直ちに」契約の解除をすることができる(民法542条1項2号)。これも条文の語である。
逆に、賃借人による修繕の場面では条文は「相当の期間内」と書いていて「直ちに」とは書いていない。賃借人が賃貸人に修繕の必要を通知したにもかかわらず賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないとき、賃借人は自ら修繕できる(民法607条の2第1号)。ここを「賃貸人が直ちに修繕しないとき」と書き換えた肢は誤りだった。賃貸人に修繕の機会を与えるための期間が条文の要求だからである。
つまり権利関係では、「直ちに」が条文にあるかないかそれ自体が論点になっている。宅建業法で副詞が背景に退くのとは対照的である。
「遅滞なくに寄せる」という助言の限界
未経験から合格するための基礎は、日数が明示されているものだけを数字で覚え、それ以外は「遅滞なく」に寄せておけばよい、という趣旨の助言をしている。学習初期の負荷を下げる方針としては合理的だが、無条件の運用にすると落ちる場所がある。
宅建業法には「速やかに」と書いてある条文が実在する。クーリング・オフによる申込みの撤回等が行われた場合、宅建業者は申込者等に対し「速やかに」手付金その他の金銭を返還しなければならない(宅建業法37条の2第3項)。前述の宅建士証の提出(同法22条の2第7項)も「速やかに」である。宅地建物取引士証の返納(同条6項)も同じく「速やかに」。さらに、提出を受けた知事が禁止期間満了後に返還するときは「直ちに」である(同条8項)。
宅建業法22条の2という一つの条文の中に、「速やかに」が2回と「直ちに」が1回、書き分けられている。「遅滞なくに寄せる」を貫くと、この書き分けを問う肢に対応できない。クーリング・オフの手続全体はクーリング・オフに整理してある。
副詞の使い方の結論
副詞は、答えを教えてくれる語ではない。副詞は索引語である。「速やかに」を見たら、その手続を定めている条文を思い出し、条文が何と書いているかを確認する。確認すべき対象は副詞だけではなく、提出先・請求先・順序・例外の有無を含む。副詞に線を引いて終わるのが最も危ない読み方である。
数値の境界語|「以内」「以上」「を超える」「未満」の出方
出現数と誤り率
境界を示す語の出現は次のとおり。「以内」79肢で誤り53肢、誤り率67.1%。「以上」45肢で誤り25肢、55.6%。「を超える」22肢で誤り16肢、72.7%。「未満」12肢で誤り10肢、83.3%。「以下」14肢で誤り7肢、50.0%。
「以内」「を超える」「未満」は基準値57.4%より高い側に寄り、「以上」「以下」は基準値付近かそれ以下だった。ただし「未満」は12肢、「以下」は14肢と母数が小さいので、数字を強く読むべきではない。安定して読めるのは「以内」の79肢である。
境界を含むか含まないか、つまり「以上」と「を超える」の差、「以下」と「未満」の差については、意味の説明を未経験から合格するための基礎と不動産・法律用語50語に譲る。ここで扱うのは、「以内」という語の直前に立っている期間の分布である。
「以内」の直前に立つ期間は十数種類しかない
79肢の「以内」について、直前の期間表現を抜き出して並べると、次のようになった。
2週間が13肢、30日が13肢、1年が8肢、1月が6肢、3週間が5肢、5年と10年と8日がそれぞれ3肢、7日と1週間と6月と3月と1か月と3年がそれぞれ2肢、そして2か月・60日・50日・5日・3か月・1箇月が1肢ずつ。
上位2つの「2週間」と「30日」だけで26肢、「以内」を含む肢の3分の1を占める。上位5つまでで45肢、6割近くになる。10年分の全科目を通じて、期限として問われる期間は事実上十数種類しかない。
これは数字の一覧ではなく、語の並びとして見てほしい。「2週間以内」という4文字の並びが見えたら、その肢が扱っている論点は保証協会の弁済業務保証金分担金・営業保証金の不足額の供託・専任の宅建士の設置措置・国土利用計画法の事後届出のいずれかである可能性が高い、と読む。数字そのものの値を横断的に整理した一覧は宅建業法の数字まとめにあり、どの数字を語呂で持つべきかの線引きは語呂合わせの基礎にある。
「2週間以内」の13肢が扱っていた論点
実際に13肢が何を扱っていたかを見ると、宅建業法が9肢、法令上の制限が4肢で、権利関係と税・その他は0肢だった。宅建業法の9肢は、8肢までが保証協会と営業保証金、残る1肢が専任の宅地建物取引士の設置措置である。法令上の制限の4肢は、3肢が国土利用計画法の事後届出、1肢が盛土規制法の工事に関するものだった。「2週間以内」という並びは、この二つの科目にしか出ない。
保証協会の社員が弁済業務保証金分担金を納付した後に新たに事務所を設置したときは、その日から2週間以内に分担金を納付しなければならない(宅建業法64条の9第2項)。納付しなければ社員の地位を失う(同条3項)。これに対して、保証協会に加入しようとする者の納付期限は「その加入しようとする日」までであって、2週間以内ではない(同条1項1号)。この二つの期限を入れ替えた誤り肢が実際に作られている。同じ条文の中で、加入時は「加入しようとする日まで」、事務所新設時は「その日から2週間以内」と書き分けられているのが誤り肢の材料になっている。保証協会の制度全体は宅建業保証協会に整理してある。
営業保証金の還付によって不足が生じたときは、法務省令・国土交通省令で定める日から2週間以内に不足額を供託しなければならない(宅建業法28条1項)。その「省令で定める日」は、免許権者から不足額を供託すべき旨の通知書の送付を受けた日である(宅地建物取引業者営業保証金規則5条)。ここでは「還付があった日」ではなく「通知書の送付を受けた日」が起算点になっている点が問われる。起算点の話は次節で扱う。
事務所に置く成年者である専任の宅地建物取引士の数が不足した場合、2週間以内に必要な措置を執らなければならない(宅建業法31条の3第3項)。これを「30日以内」と書き換えた誤り肢が実際にある。宅建業者の届出義務の多くが30日以内であるため、そちらに引きずらせる作りになっている。
「30日以内」の13肢はほぼ届出
「30日以内」を含む13肢のうち12肢が宅建業法だった。そしてその大半が、免許を受けた宅建業者の変更の届出と廃業等の届出である(宅建業法9条、11条1項)。商号・事務所の所在地・専任の宅建士の氏名などに変更があったとき、法人が合併により消滅したとき、破産手続開始の決定があったとき、いずれも30日以内である。
例外として、個人である宅建業者が死亡した場合の廃業等の届出だけが「その事実を知った日から30日以内」となっており、他の事由が「その日から30日以内」であるのと起算点が違う。この違いを潰した誤り肢と、免許の失効時期を「届出があった日」にずらした誤り肢の両方が作られていた。11条2項が免許の失効を定めているのは1項3号から5号までの届出があったときであり、1号の死亡と2号の合併消滅はそこに含まれていない。免許は届出の有無にかかわらず死亡の時に効力を失う。
12肢のうち残る4肢は、届出の主体か期間が別のところにある。2肢は宅地建物取引士側の届出で、ここでも同じ構造が繰り返される。宅建士の死亡等の届出は、宅建業法21条が「その日(第一号の場合にあつては、その事実を知つた日)から三十日以内」と定めており、11条1項とまったく同じ書き方をしている。だから宅建士が死亡した場合の届出も、相続人が死亡の事実を知った日から30日以内である。これを「死亡した日から30日以内」とした誤り肢が実際にある。
あとの2肢は、そもそも30日ではないものに30日を当てた誤り肢だった。前節で見た専任の宅地建物取引士の設置措置は2週間以内であり(同法31条の3第3項)、営業保証金の不足額を供託したときの届出も2週間以内である(同法28条2項)。後者は、供託そのものの期限が通知書の送付を受けた日から2週間以内(同条1項)、供託後の届出も2週間以内、という二段構えになっている。つまり「30日以内」という語は、宅建業法の中で正しく置かれる場所と、誤りとして置かれる場所がはっきり分かれている。
なお、同じ宅建士の手続でも、登録事項の変更は30日ではない。宅建業法20条は変更の登録の申請を「遅滞なく」と定めている。業者側の変更の届出が30日以内(同法9条)であるのと対照的で、この二つを入れ替えるのも作りやすい。登録まわりの手続は宅建士の登録と取引士証に整理してある。
「3週間以内」の5肢は2つの領域に割れた
「3週間以内」を含む5肢は、内訳が興味深い。3肢が住宅瑕疵担保履行法の届出、2肢が国土利用計画法の事後届出だった。
前者の3週間は実在する。特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律施行規則16条1項が、同法12条1項による資力確保措置の状況の届出を「基準日から三週間以内」に行うと定めている。3肢のうち1肢は基準日から3週間以内と正しく書いていて、正しい肢だった。
後者の3週間は実在しない。国土利用計画法23条1項は事後届出の期限を「その契約を締結した日から起算して二週間以内」としている。2肢はいずれも2週間を3週間に膨らませた誤り肢だった。
同じ「3週間以内」という語が、一方では条文どおりの正しい記述、他方では2週間の水増しになっている。語の水準では区別がつかない。区別は、その論点がどの法律のどの条文かを思い出すことでしかつかない。
境界語が条文本文に組み込まれている例
境界語が条文の側にある例も押さえておきたい。
宅建業者が自ら売主となる売買契約の締結に際して受領できる手付は「代金の額の十分の二を超える額」を受領できない(宅建業法39条1項)。ここは「10分の2以上」ではない。10分の2ちょうどは受領できる。条文が「を超える」と書いているので、この境界語は正しい語である。詳細は手付額の制限と解約手付にある。
専任媒介契約の有効期間は「三月を超えることができない」(宅建業法34条の2第3項)。これより長い期間を定めたときは、その期間は3月とされる。更新後も同様に3月を超えられない(同条4項)。ここも条文の語である。媒介契約の類型と規制は媒介契約の種類と規制にまとめてある。
開発許可の面積要件では、市街化区域内で1,000平方メートル以上の開発行為に許可が必要になる。1,000平方メートル未満は不要である。ここで結論が反転するので、境界語の置き換えが誤り肢の材料になりやすい。面積要件の全体像は開発許可の面積要件にある。
起算点を差し替える|「〜の日から」「基準日から」「翌日から起算して」
数値は正しいのに起算点だけが違う
境界語や数値そのものではなく、期間の起算点を差し替える型がある。これは数値が合っているので、数字だけを覚えている人には見えない。
「〜の日から」を含む肢は37肢で誤り21肢、誤り率56.8%。基準値とほぼ同じである。「から起算して」を含む肢は11肢で誤り9肢、誤り率81.8%。母数は小さいが、基準値を24ポイント上回る。
引渡しの日と基準日
住宅瑕疵担保履行法の資力確保措置の状況の届出は、この型の代表例である。10年で3肢作られていて、そのうち2肢が起算点を差し替えた誤り肢だった。
条文の構造はこうである。新築住宅を引き渡した宅建業者は、基準日ごとに、当該基準日に係る住宅販売瑕疵担保保証金の供託および住宅販売瑕疵担保責任保険契約の締結の状況について、免許権者に届け出なければならない(履行確保法12条1項)。この届出は基準日から3週間以内である(同法施行規則16条1項)。基準日は毎年3月31日である(同法3条1項括弧書)。
誤り肢は、これを「その住宅を引き渡した日から3週間以内に」としていた。3週間という数値は合っている。届出先が免許を受けた国土交通大臣または都道府県知事である点も合っている。差し替えられているのは起算点だけである。
しかもこの差し替えは、制度の設計を根本から変えてしまう。基準日起算なら年1回まとめて届け出る制度になるが、引渡日起算なら住宅を引き渡すたびに3週間以内の届出が発生することになる。基準日前10年間に引き渡した新築住宅についてまとめて届け出るという仕組みが、成り立たなくなる。数値が合っていても制度が壊れている、というのがこの型の怖さである。
同じ法律の中に「基準日の翌日から起算して50日」という別の期間もある。供託と届出をしなければ、その日以後は新たに自ら売主となる新築住宅の売買契約を締結できない(履行確保法13条)。こちらは「翌日から起算して」が条文の文言なので、正しい肢として使われている。履行確保法の全体像は住宅瑕疵担保履行法にある。
契約を締結した日と、翌日から起算して
国土利用計画法の事後届出は、起算点と数値の両方を同時にずらした肢が存在する点で、さらに厄介である。
条文は「その契約を締結した日から起算して二週間以内」と定めている(国土利用計画法23条1項)。届出義務を負うのは権利取得者、つまり土地に関する権利の移転または設定を受けることとなる者である。
集計した誤り肢のうち1肢は、これを「その契約を締結した日の翌日から起算して3週間以内」としていた。起算点を1日後ろにずらし、期間を1週間膨らませている。二重の差し替えである。もう1肢は「所有権移転登記を完了した日から起算して2週間以内」としていた。こちらは期間は正しく、起算点だけを契約締結日から登記完了日にずらしている。
条文が「その日から起算して」と書く場合は初日を算入する
ここで期間計算の一般原則との関係を明記しておく必要がある。
民法140条は「日、週、月又は年によって期間を定めたときは、期間の初日は、算入しない」と定めている。初日不算入が原則である。この原則からすると、「契約を締結した日から2週間以内」は翌日から数えることになりそうに見える。
しかし国土利用計画法23条1項は「その契約を締結した日から起算して」と書いている。「から起算して」という文言が入っている場合、その日を第1日として数える。初日算入である。だから「翌日から起算して」という肢は、条文が初日算入で書いているものを初日不算入に読み替えている点で、条文と食い違う。
期間計算の一般論、つまり民法140条の初日不算入と、その例外がどこにあるかは条件・期限と期間の計算に整理してある。本記事で押さえておきたいのは、条文が「その日から起算して」と明示している場合はその日を含む、という一点である。
クーリング・オフの8日も同じ構造である。宅建業法37条の2第1項1号は「その告げられた日から起算して八日を経過したとき」と定める。告げられた日が第1日になる。「8日」を含む肢は10年で6肢あり、そのうち2肢が起算点を「申込みを行った日から」「申込みの日から」に差し替えていた。クーリング・オフの起算点は申込みの日でも契約の日でもなく、書面で告げられた日である。クーリング・オフに告知書面の記載事項とあわせて整理してある。
起算点が問われる場所は決まっている
集計から見えたのは、起算点の差し替えが使われる論点が限られていることである。履行確保法の届出、国土法の事後届出、クーリング・オフの8日、営業保証金の不足額供託(通知書の送付を受けた日から2週間)、保証協会の還付充当金の納付(通知を受けた日から2週間)、宅建業者の廃業等の届出(死亡の場合だけ知った日から30日)。
いずれも、条文が起算点を明示的に書いている場所である。逆に言えば、条文が起算点をわざわざ書いている手続は、それ自体が「ここを問う」という予告になっている。国土利用計画法の届出制度の全体像は国土利用計画法の事後届出にある。
例外を書き足す語と、限定を絞り込む語|方向が逆になる
除外を書き足す語は、むしろ正しい寄りだった
本記事のもう一つの発見はここにある。
例外や除外を書き足す語の誤り率を測ると、いずれも基準値57.4%を大きく下回った。「原則として」を含む肢は11肢で誤り4肢、36.4%。「ただし」は6肢で誤り1肢、16.7%。「場合を除き」は20肢で誤り7肢、35.0%。「を除き」は26肢で誤り8肢、30.8%。
「を除き」の26肢は基準値より26.6ポイント低い。誤り率が基準値の半分近くという水準である。母数は小さいが、4語すべてが同じ方向に振れているので、偶然とは考えにくい。
理由は作問の側にある。作問者が正しい肢を作るときは、条文をそのまま写す。そして条文にはただし書や除外規定が付いていることが多い。写せば自然に「一定の場合を除き」「〜を除き」が肢に入る。逆に誤り肢を作るときは、条文の本文だけを取って結論をひっくり返すほうが手っ取り早く、わざわざただし書まで写す必要がない。結果として、除外語を含む肢は条文に忠実な肢に偏る。
実例を見るとよく分かる。宅地造成等工事規制区域内の一定の工事について「一定の場合を除き、都道府県知事への届出が必要となる」とする肢、農地の賃貸借について「一定の場合を除き、期間満了の1年前から6か月前までの間に更新拒絶の通知をしないと従前の賃貸借と同一の条件で更に賃貸借したものとみなされる」とする肢、高さ25メートルの建築物には「周囲の状況によって安全上支障がない場合を除き」有効に避雷設備を設けなければならないとする肢。いずれも正しい肢で、条文のただし書がそのまま肢に載っている。
なお、除外語が集中するのは法令上の制限だった。「を除き」26肢のうち18肢、「場合を除き」20肢のうち14肢が法令上の制限である。都市計画法・建築基準法・農地法・盛土規制法といった行政法規は、条文が許可の例外を列挙する構造をとるので、写せば除外語が入る。
限定を絞り込む語は、逆に誤り寄りだった
同じ「範囲を狭める語」でも、方向が逆になるものがある。
「に限り」を含む肢は9肢で誤り8肢、「に限る」は3肢で誤り2肢。合わせて12肢で誤り10肢、誤り率83.3%である。基準値を25.9ポイント上回る。
「を除き」の30.8%と「に限り」の83.3%。同じく範囲を絞る語なのに、誤り率が2.7倍違う。
構造の違いはこうである。「〜を除き」は、原則を述べたうえで例外を外に出す書き方で、条文のただし書の形と一致する。「〜に限り」は、成立する場合を一つに絞り込む書き方で、要件を一段きつくするのに使いやすい。
集計した誤り肢を三つ挙げる。
一つ目。建築協定の効力について「土地の所有者等の全員で合意したときに限り」公告日以後に土地所有者等となった者に効力が及ぶ、とする肢。建築基準法75条は、認可の公告のあった建築協定は、その公告のあった日以後において当該建築協定区域内の土地の所有者等となった者に対しても効力があると定めており、全員合意という条件は付いていない。ここでの「に限り」は条文にない語である。
二つ目。期間の末日が休日に当たるときについて「その日に取引をしない慣習がある場合に限り、期間はその前日に満了する」とする肢。民法142条は「その日に取引をしない慣習がある場合に限り、期間は、その翌日に満了する」と定めている。「に限り」までは条文の文言そのものであり、誤っているのは前日か翌日かという結論のほうである。
三つ目。定期借地権や定期建物賃貸借について「公正証書によって契約をするときに限り」更新がないことを定められるとする肢。借地借家法38条1項は「公正証書による等書面によって契約をするときに限り」と定めていて、「に限り」自体は条文の語である。公正証書は書面の例示にすぎず、電磁的記録によったときも書面によったものとみなされる(同条2項)。一般定期借地権も同様に「公正証書による等書面によってしなければならない」であって、公正証書に限られるのは事業用定期借地権だけである(同法22条1項、23条3項)。誤り肢は、条文が「書面」と広く定めているところを「公正証書」に絞り込んでいる。
三つを並べると、「に限り」という語そのものが作問者由来だという単純な話ではないことが分かる。二つ目と三つ目では、「に限り」は条文の文言である。それでも誤り率が83.3%と高いのは、この語が「絞り込みの度合い」を動かす場所に立っているからである。条文が「Aに限り」と書いているところを「A'に限り」に狭める、あるいは条文が絞っていないところに絞りを足す。どちらも「に限り」という同じ4文字の周辺で起きる。
だから「に限り」については、第一段の由来判定だけでは足りない。条文にこの語があるかどうかを見たうえで、絞り込みの対象が条文と同じかどうかまで見る必要がある。逆に「〜を除き」は、あれば条文のただし書である蓋然性が高く、由来判定だけでほぼ片が付く。この非対称が、誤り率30.8%と83.3%という2.7倍の差になって現れている。
譲歩構文は判定材料にならない
「〜であっても」「〜にかかわらず」といった譲歩の構文はどうか。
「場合であっても」を含む肢は31肢で誤り18肢、58.1%。「であっても」全体では71肢で誤り42肢、59.2%。「にかかわらず」は24肢で誤り15肢、62.5%。いずれも基準値57.4%の周辺にとどまり、有意な偏りがない。
譲歩構文は、条文が例外を認めない趣旨のときにも、認める趣旨のときにも使える。「買主の承諾があっても短縮できない」も「工事完了前であっても保全措置を講じれば受領できる」も、同じ構文で書ける。だから構文そのものからは何も読めない。譲歩構文を見たら、譲歩されている中身が条文上の例外なのかどうかを個別に確認するしかない。
なお、規制の適用がそもそも及ばない「適用除外」と、原則に対する「例外」は、議論の位相が違う。宅建業法78条2項の射程をめぐるこの言い分けは8種制限の適用除外で扱っている。また、「みなす」と「推定する」が実際に効果を分ける場面の中身は失踪宣告と同時死亡の推定にある。本記事の集計では「みなす」を含む肢は2肢、「推定」は0肢だったので、語としては数える意味がなかった。
まとめると一本の理屈になる
除外語と限定語で誤り率が2.7倍違う理由は、二つの語が条文に対して置かれている位置の違いにある。
「〜を除き」「ただし」は、条文がただし書を持っているからこそ肢に現れる。写せば入る語なので、あること自体が条文に忠実だという弱い証拠になる。これに対して「〜に限り」は、条文にあってもなくても、絞り込みの幅を肢の側でいくらでも動かせる。条文が絞っていないところに絞りを足すこともできるし、条文が絞っている対象を別の対象に取り替えることもできる。前節で見た三つの誤り肢は、ちょうどその三通りだった。建築協定では条文にない絞りを足し、民法142条では絞りの対象は同じまま結論だけを裏返し、借地借家法38条1項では「書面」という条文の絞りを「公正証書」に取り替えている。
だから判定の作法も非対称になる。除外語は「条文のただし書と一致するか」を一度確認すれば足りる。限定語は「この語が条文にあるか」を確認しただけでは終わらず、「何を絞り込んでいるか」まで踏み込む必要がある。誤り率83.3%という数字は、この二段目を省いた読み方が受け取る結果である。
前節の断定語で得た命題と、形は同じである。語そのものは判定材料ではない。判定材料は、その語と条文との距離である。断定語では距離を「条文にあるか、作問者が足したか」で測り、限定語では「絞り込みの対象が条文と同じか」で測る。測り方が一段細かくなるだけで、問いは変わらない。
「承諾があればできる」という装置|承諾・書面・電磁的方法
承諾30肢の誤り率80.0%
集計した語のうち、誤り率が最も鋭かったのが「承諾」だった。30肢で誤り24肢、80.0%である。基準値を22.6ポイント上回る。
内訳は宅建業法13肢、権利関係17肢で、二つの科目で意味が違う。
権利関係の「承諾」は、条文が定める要件そのものである。賃借人は賃貸人の承諾を得なければ賃借権を譲渡し、または賃借物を転貸することができない(民法612条1項)。配偶者居住権を有する配偶者は、居住建物の所有者の承諾を得なければ第三者に居住建物の使用収益をさせることができない(民法1032条3項)。免責的債務引受は、債務者と引受人となる者が契約をし、債権者が引受人となる者に対して承諾をすることによってもすることができる(民法472条3項)。当事者二人だけでは足りず、債権者の承諾が要件になる。所有権に関する仮登記に基づく本登記は、登記上の利害関係を有する第三者があるときは、その第三者の承諾があるときに限り申請できる(不動産登記法109条1項)。この条文も「に限り」を条文の側に持っている。
これらは「承諾が必要か不要か」を反転させるだけで誤り肢が作れる。集計した権利関係の誤り肢の多くが、この単純な反転だった。「賃貸人の承諾は不要である」「所有者の承諾を得ることなく賃貸できる」といった形である。
宅建業法の「承諾」は強行規定を外させる装置
宅建業法の「承諾」は構造が違う。ここでは承諾が、当事者の合意で動かせないはずの規制を外す条件として持ち出される。
住宅販売瑕疵担保責任保険契約の保険期間は、買主が引渡しを受けた時から10年以上でなければならない(履行確保法2条7項4号)。これを「買主の承諾があれば5年に短縮できる」とした肢は誤りである。買主保護のために設けられた最低期間なので、買主の承諾で下げられるなら制度の意味がない。
居住用建物の賃貸借の媒介で依頼者の一方から受けられる報酬は、借賃1月分の0.55倍が上限で、依頼を受けるにあたって承諾を得ている場合に限り1.1倍まで受けられる(宅建業法46条1項に基づく報酬告示)。ただし、承諾があっても双方から受ける報酬の合計が借賃1月分の1.1倍を超えることはできない。「承諾を得ていれば双方から受ける報酬の合計が1.1倍を超えてもよい」とする肢は、承諾で外せる規律と外せない規律を混同させて作られている。承諾がずらせるのは一方から受ける額の上限だけで、双方合計の上限はずれない。
承諾の取得時期も別に問われている。承諾は「媒介の依頼を受けるにあたって」得ていなければならず、報酬を請求する時点までに得れば足りるものではない。「報酬請求時までに承諾を得ている場合には1.1か月分を受けられる」とする誤り肢が実際に作られていた。報酬額の上限そのものの計算は報酬額の制限に整理してある。
重要事項説明における宅地建物取引士証の提示義務も同型である。宅建業法35条4項は、取引士は説明の相手方に対し取引士証を提示しなければならないと定めており、この義務は相手方の承諾があっても免除されない。「ITを活用して説明するときは相手方の承諾があれば提示を省略できる」とする肢は誤りだった。
37条書面の記載事項も同じである。借賃の額・支払時期・支払方法は貸借に関する37条書面の必要的記載事項なので(宅建業法37条2項2号)、「貸主および借主の承諾を得たときは記載しなくてよい」という肢は誤りになる。必要的記載事項は当事者の合意で削れない。
媒介契約の有効期間についても、依頼者の申出があっても3月を超えることはできない(宅建業法34条の2第3項・4項)。更新は依頼者の申出によりできるが、更新の時から3月を超えられない。この「依頼者の申出」という語が、承諾型の誤り肢の材料として使われる。媒介契約の種類と規制に整理がある。
契約不適合責任の特約にも同じ線が引ける。宅建業者が自ら売主となり業者でない者が買主となる売買では、通知期間を目的物の引渡しの日から2年以上とする特約をする場合を除き、民法566条に規定するものより買主に不利となる特約をしてはならず(宅建業法40条1項)、これに反する特約は無効である(同条2項)。無効という効果は当事者の合意で覆せないので、買主が承諾していてもこの特約が有効になることはない。
ただし、無効になった先で何が起きるかは別問題である。特約が無効になれば、その特約が消えて民法の原則に戻るのであって、自動的に「引渡しの日から2年」という期間が設定されるわけではない。「担保責任を一切負わない旨の特約は無効となり、責任を負う期間は引渡日から2年となる」とする誤り肢が実際に作られている。承諾で外せるかどうかという第一の問いを越えた先に、無効の効果という第二の問いがある。契約不適合責任の特約制限に条文の構造を書いてある。
承諾で外せるものと外せないものの線
では、承諾で外せるのは何か。答えは、書面の交付に代えて電磁的方法で提供すること、である。
35条書面については、相手方等の承諾を得れば、書面の交付に代えて電磁的方法により提供させることができ、この場合は書面を交付させたものとみなされる(宅建業法35条8項)。37条書面についても同様である(同法37条4項・5項)。手付金等の保全措置における保証委託契約の書面も、買主の承諾を得て電磁的方法によることができる(同法41条5項)。履行確保法15条の供託所の所在地等の説明書面も、10条2項の準用により買主の承諾を得て電磁的方法によることができる。
つまり承諾が効くのは「方式」であって「内容」ではない。説明すべき事項の中身、期間の下限、報酬の上限といった内容の規律は、承諾では動かない。この線引きが、承諾を含む肢の8割が誤りである理由である。
書面と電磁的方法
「書面」を含む肢は106肢で誤り70肢、誤り率66.0%。基準値を8.6ポイント上回る。106肢のうち88肢が宅建業法で、書面の交付・記名・説明という三つの要素が入れ替えの材料になっている。前述のとおり、37条書面には取引士の記名は必要だが、取引士による説明は義務づけられていない(宅建業法37条3項)。ここを「記名させたうえで説明させなければならない」とする誤り肢が繰り返し作られている。
「電磁的方法」を含む肢は15肢で誤り11肢、誤り率73.3%。母数は小さいが、この語をめぐる規律は三段に分かれていて、どの段で誤らせるかで肢の作り方が変わる。
第一に、承諾が要るかどうか。35条書面・37条書面・保全措置の書面は承諾が要る。一方、クーリング・オフを告げる書面は電磁的方法による代替が認められていない。「電磁的方法で告げることができる」とする肢は誤りである。
第二に、承諾の方式。承諾は口頭では足りない。宅建業者があらかじめ用いる電磁的方法の種類および内容を示したうえで、書面または国土交通省令で定める情報通信の技術を利用する方法によって得なければならない(宅建業法施行令3条の3第1項、3条の4第1項)。「口頭で依頼があった場合は改めて承諾を得る必要はない」とする肢は誤りになる。
さらに、いったん承諾を得た後でも、相手方から書面等により電磁的方法による提供を受けない旨の申出があったときは、電磁的方法による提供をしてはならない(同施行令3条の3第2項、3条の4第2項)。承諾は撤回されうる。「申出があったときでも提供できる」とする肢は誤りである。
要否・方式・撤回の三段があるので、同じ論点から少なくとも3種類の誤り肢が作れる。IT重説と書面電子化の実体はIT重説と重要事項説明にまとめてある。
包括語と列挙の接続|「その他」「等」「及び」「又は」「かつ」
接続詞と包括語は判定材料にならない
受験対策では「及び」と「又は」の読み分けが強調されることがある。集計するとどうか。
「その他」を含む肢は43肢で誤り22肢、51.2%。「等」は160肢で誤り87肢、54.4%。「及び」は170肢で誤り89肢、52.4%。「又は」は241肢で誤り110肢、45.6%。「かつ」は26肢で誤り14肢、53.8%。「若しくは」は12肢で誤り3肢、25.0%。
すべて基準値57.4%以下である。「又は」に至っては11.8ポイント下回る。これらの語は誤りのしるしではまったくない。むしろ、条文の列挙をそのまま写した肢に多く出るので、正しい肢に寄る傾向すらある。
「若しくは」の25.0%は特に低いが、これは母数12肢のうえ、「又は」と「若しくは」を使い分けるほど条文を精密に写した肢は、そもそも条文に忠実な正しい肢である確率が高い、という事情が働いていると考えられる。
結論として、接続詞や包括語に線を引く作業は捨ててよい。1,582肢のうち「等」を含む肢が160肢もあるのに、その誤り率が基準値より3ポイント低いということは、「等」に反応する運用は10肢に1肢の頻度で無駄な立ち止まりを生むだけだということである。
並列か択一かで結論が変わる場所だけが例外
とはいえ、「及び」と「又は」が実質的に効く場所はある。要件が並列(かつ)なのか択一(または)なのかで結論が変わる論点である。
不動産の表示に関する公正競争規約の新築の定義は、建築工事完了後1年未満であり、かつ、居住の用に供されたことがないものである。二つの要件を両方満たす必要がある。ここを「または」にすると、築3年でも未使用なら新築と呼べることになってしまう。
建築確認の対象も同じ形をしている。建築基準法6条1項2号は、確認を要する建築物として「二以上の階数を有し、又は延べ面積が二百平方メートルを超える建築物」を挙げている。階数と延べ面積は択一の関係にあるので、平屋でも延べ面積が200平方メートルを超えれば対象になり、延べ面積が100平方メートルでも2階建てなら対象になる。ここを「かつ」にすると、2階建てで延べ面積100平方メートルの建築物が確認不要になってしまう。同項1号の特殊建築物は、別表第一(い)欄の用途に供する部分の床面積の合計が200平方メートルを超えるもの、という単一の要件である。
なお、この6条1項の要件は令和4年法律第69号によって2025年4月1日から現在の形になっており、木造か否かで規模要件を分ける従前の書き方は残っていない。宅建試験は当該年度の4月1日現在施行の法令から出題されるので、令和8年度は2026年4月1日時点の条文、つまり改正後の文言で読む。どの改正が出題範囲に入るかは令和8年度の法改正まとめに整理してある。古い教材の文言を覚えていると、「かつ」か「又は」か以前に条文そのものを取り違える。
このように、要件の接続が結論を分ける論点は数えるほどしかない。それ以外の場所では、「及び」「又は」は条文の列挙をなぞっているだけである。
包括語の正しい使い方
「その他」「等」を見たときにすべきことは、その語に線を引くことではない。「条文の列挙のうちどこまでを写しているか」を確かめることである。
たとえば重要事項説明の対象となる金銭の精算に関する事項は、「敷金その他いかなる名義をもって授受されるかを問わず」と書かれている。ここでの「その他」は、敷金を例示として挙げたうえで名義を問わないと述べる包括表現であり、保証金でも権利金でも対象になる。この構造を理解していれば、「敷金については説明が必要だが権利金については不要」といった肢が誤りだと分かる。
逆に、条文が限定列挙をしている場所で「その他」を足すと誤りになる。宅建業者が免許証を返納しなければならない場合は、宅建業法施行規則4条の4第1項が3つに限定列挙している。免許換えにより従前の免許が効力を失ったとき、免許を取り消されたとき、亡失した免許証を発見したときの3つである。これに、廃業等の届出をする者の返納義務(同条2項)が加わる。免許の更新申請を怠って有効期間が満了した場合は、このどれにも当たらない。「その他免許が効力を失ったとき」といった包括表現で読み替えると、この論点を落とす。
つまり「その他」「等」は、条文が例示列挙なのか限定列挙なのかを確認しにいく合図である。判定そのものは条文の構造を知っていなければできない。
科目ごとに出る表現が違う|どこで語を疑うか
科目別に語の出現数を出すと、科目ごとに「使われる語」がはっきり違う。どの語で立ち止まるかを科目に応じて変える根拠になる。
宅建業法は文末と主体と承諾
「しなければならない」を含む肢は全体で222肢あり、そのうち160肢が宅建業法である。「宅地建物取引業者」を含む肢は221肢のうち200肢、「宅地建物取引士」を含む肢は82肢のうち81肢が宅建業法である。「書面」を含む106肢のうち88肢、「承諾」を含む30肢のうち13肢も宅建業法だった。
つまり宅建業法の肢は、「誰が」「何をしなければならないか」を書き、そこに書面と承諾が絡む、という共通の骨格を持っている。誤り肢の作り方も、主体を業者から取引士に替える、義務を権利に替える、書面の要否を反転させる、承諾で外せないものを外せると書く、という限られたパターンに集まる。基準誤り率が64.6%と最も高いのは、この骨格が定型的で、一箇所だけずらす作りが容易だからである。
宅建業法の肢を読むときは、主語と文末と承諾の3点で立ち止まるのが効率的である。
法令上の制限は手続語と数値と除外語
「許可」を含む肢は全体99肢のうち93肢、「届出」を含む54肢のうち42肢が法令上の制限である。「を除き」26肢のうち18肢、「場合を除き」20肢のうち14肢も法令上の制限だった。「又は」を含む241肢のうち86肢もこの科目である。
行政法規は「原則として許可が要る。ただし一定の場合を除く」という構造の集合体なので、除外語と手続語が大量に出る。前節で見たとおり、除外語を含む肢の誤り率は基準値を大きく下回る。したがってこの科目では、除外語ではなく、許可なのか届出なのかという手続の種類、誰に対してするのかという相手方、そして面積や高さの数値と起算点で立ち止まるのが正しい。
実例として、盛土規制法の工事計画の変更は、軽微な変更を除いて「改めて許可」が必要である(同法16条1項本文)。軽微な変更をしたときは遅滞なく届け出れば足りる(同条2項)。この許可と届出の分岐を反転させた誤り肢が作られていた。副詞も除外語も正しく、手続の種類だけが違う。
基準誤り率が52.1%と低めなのは、条文の構造をそのまま写した正しい肢を作りやすい科目だからである。
権利関係は条文の文言と可能表現
「することができる」を含む肢は全体228肢のうち129肢、「することができない」を含む73肢のうち47肢が権利関係である。「承諾」を含む30肢のうち17肢もこの科目だった。
権利関係は、誰に何ができるか・できないかを問う科目なので、可能表現が中心になる。そして前述のとおり、この科目では条文の文言そのもの(「直ちに」「全ての連帯債務者の利益のために」など)が肢に埋め込まれることが多い。断定語を含む27肢のうち6肢が権利関係で、そのうち4肢が正しい肢だったのはこのためである。
基準誤り率は51.9%で4科目中最も低い。判例の判旨や条文をそのまま置いた正しい肢が作りやすいからである。この科目で断定語スクリーニングを働かせると、最も損をする。
税・その他は問47に全称語が寄る
税・その他は基準誤り率60.1%で、宅建業法に次いで高い。そして断定語を含む27肢のうち7肢がこの科目で、うち5肢が問47に集中していた。
前述のとおり、表示規約の表示基準が「原則としてこう表示、困難なときはこう表示」という構造を持つため、全称語が例外条項を呼び出す足場として使われる。この科目では、問47の肢に限って全称語で立ち止まる価値がある。
科目ごとに変える運用
まとめると、宅建業法は主語と文末と承諾、法令上の制限は手続の種類と数値と起算点、権利関係は条文の文言かどうか、税・その他は問47の全称語。立ち止まる場所を科目で切り替える。どの論点が実際に頻出かは出題傾向の読み方と宅建業法の頻出論点にある。
試験での出題ポイント|表現から論点を逆引きする
型のカタログは他の記事にある。ここでは、目に入った語から条文を呼び出す対応だけを並べる。語を見た瞬間に、確認すべき条文が一つに絞れる状態を作るのが目的である。
「速やかに」を見たら、宅建業法22条の2第7項(事務禁止処分を受けたときの取引士証の提出)と同法37条の2第3項(クーリング・オフによる金銭の返還)と同法41条1項(手付金等の保全措置は受領前)の3つを思い出す。3つ目は「速やかに」が書いてあること自体が誤りのしるしになる。
「基準日」を見たら、履行確保法12条1項と同法施行規則16条1項を思い出す。届出は基準日から3週間以内で、引渡しの日からではない。基準日は3月31日である。
「3週間」を見たら、履行確保法の届出か、国土利用計画法の2週間の水増しかを疑う。この2つ以外に3週間はほぼ出ない。
「翌日から起算して」を見たら、その条文が本当に翌日起算なのかを確認する。履行確保法13条の50日は翌日起算だが、国土利用計画法23条1項の2週間と宅建業法37条の2第1項1号の8日は「その日から起算して」で初日算入である。
「承諾」を見たら、それが方式の話か内容の話かを分ける。書面の交付に代えて電磁的方法によることの承諾なら効く。期間の下限・報酬の上限・必要的記載事項・取引士証の提示といった内容の規律なら、承諾では外せない。
「電磁的方法」を見たら、承諾の要否・承諾の方式・承諾の撤回の3点を確認する。クーリング・オフの告知だけは電磁的方法による代替が認められていない。
「2週間以内」を見たら、保証協会の分担金(事務所新設から)か、営業保証金の不足額供託(通知書の送付を受けた日から)か、専任の宅建士の設置措置か、国土法の事後届出かに絞る。
「30日以内」を見たら、宅建業者の変更の届出(宅建業法9条)、廃業等の届出(同法11条1項)、宅建士の死亡等の届出(同法21条)の3つに絞る。死亡の場合だけ「知った日から」である点と、免許の失効時期が届出の日ではない点を確認する。宅建士の登録事項の変更だけは30日ではなく「遅滞なく」である(同法20条)。
「に限り」「に限る」を見たら、絞り込みの対象が条文と同じかを確認する。この語は条文にもあるので、あること自体は判定材料にならない。公正証書に限られるのは事業用定期借地権(借地借家法23条3項)だけで、一般定期借地権(同法22条1項)と定期建物賃貸借(同法38条1項)は公正証書による等の書面、または電磁的記録であればよい。
「一定の場合を除き」「ただし」を見たら、むしろ条文のただし書を写している可能性が高いと考える。この語だけを理由に誤りと判断しない。
「すべて」「いかなる」を見たら、その語が条文にあるかを先に考える。宅建業法39条2項の「いかなる性質のものであつても」、施行規則16条の4の3第11号の「いかなる名義をもつて授受されるかを問わず」、同法71条の「すべての宅地建物取引業者」は条文の語である。条文の語であれば、誤りは別の場所にある。
「必ずしも」を見たら、それは断定語ではなく部分否定である。切ってはいけない。
覚え方・整理の仕方|語に線を引く前の二段判定
二問だけを固定する
本記事の運用は、二つの問いに絞る。それ以外の手順は増やさない。
第一段。この語は条文に書いてある語か、作問者が足した語か。
条文に書いてある語なら、その語は正しい。誤りがあるとすれば、その語の周辺、つまり主体・提出先・起算点・分岐の向きのどこかにある。語に反応して切ると、正しい肢を落とす。
作問者が足した語なら、次に進む。
第二段。足された語は、除外か、限定か。
除外を足している(〜を除き、ただし、原則として)なら、条文のただし書と一致するかを確認する。集計上、除外語を含む肢は正しい方向に寄るので、疑いは弱めてよい。この語は条文由来である蓋然性が高く、第一段でほぼ片が付く。
限定を絞り込んでいる(〜に限り、〜に限る、〜の場合のみ)なら、疑いを強める。集計上、限定語を含む肢は誤り率83.3%で最も高い。ただしこの語は条文の側にも現れるので、第一段だけでは終わらない。「に限り」があること自体ではなく、絞り込みの対象が条文と同じかどうかを見る。条文が「書面によってするときに限り」と書いているところを「公正証書によってするときに限り」に狭めていないか、条文が絞っていないところに絞りを足していないか。この一段深い確認が要る。
この二問で判定が付かなければ、それは表現の問題ではなく知識の問題である。表現チェックの守備範囲を出ているので、条文に戻る。
条文にある語かどうかを判定できるようにする
第一段は、条文を読んでいなければ答えられない。だから、条文を読むときに「この条文が持っている特徴的な語」を意識して拾う習慣を作る。
宅建業法39条2項なら「いかなる性質のものであつても」。同法34条の2第3項なら「三月を超えることができない」。同法41条1項なら「講じた後でなければ……受領してはならない」。国土利用計画法23条1項なら「その契約を締結した日から起算して二週間以内」。履行確保法施行規則16条1項なら「基準日から三週間以内」。民法608条1項なら「直ちにその償還を請求することができる」。
条文の語を数個だけ覚えておくと、肢の中の語がそれと一致するかどうかで第一段が即座に判定できる。覚えるのは条文全文ではなく、その条文に固有の言い回しだけでよい。
自分のデータで表現を数える
本記事の集計は自社の模範解答に対して行ったが、同じことを自分の演習記録に対してもできる。
間違えた肢を、論点別ではなく語別に束ね直す。「以内」で間違えた肢、「承諾」で間違えた肢、「〜に限り」で間違えた肢、というように分ける。同じ語で3回以上間違えていれば、それは知識の穴ではなく読み方の癖である。読み方の癖は、論点をいくら潰しても消えない。
このとき、間違えた理由の分類(知識不足なのか、混同なのか、読み違いなのか)まで踏み込むと精度が上がる。原因の分類と弱点管理の方法は弱点の見つけ方と潰し方にある。束ね直したあとの復習間隔をどう設計するかは暗記の技術に、直前期にこの二段判定をどう回すかは直前期の総仕上げにまとめてある。
肢単位で語の読み分けを鍛えたいときの演習形式の選び方と、肢別演習が主語を見落としやすい理由については学習アプリの比較に整理がある。
数字ではなく、数字を囲む語を持つ
最後に一つ。本記事は数字そのものを扱っていない。2週間・30日・3週間という値の一覧が欲しいなら宅建業法の数字まとめを見てほしい。
本記事が言っているのは、数字を覚えたあとに残る問題がある、ということである。3週間という値を正確に覚えていても、それが「基準日から」なのか「引渡しの日から」なのかを覚えていなければ、誤り肢を正しいと判断してしまう。2週間という値を覚えていても、「契約を締結した日から起算して」なのか「翌日から起算して」なのかで判定が変わる。数字を囲む語のほうが、数字より一段深い。
理解度チェッククイズ
第1問
「必ず」「すべて」を含む選択肢は誤りである可能性が高いので、優先的に切ってよい。○か×か。
答え:×
自社模範解答2,000肢のうち集計対象1,582肢を走査した結果、全称・断定を表す語(必ず・すべて・全て・いかなる・一切・常に・例外なく)を含む肢は27肢、1.7%しかなかった。「常に」「例外なく」は10年で0肢である。誤り率は63.0%で、全体基準値57.4%をわずかに上回るにとどまる。
さらに「必ず」を含む6肢のうち4肢は「必ずしも……ない」という部分否定で、うち3肢は正しい肢だった。宅地建物取引士の信用失墜行為の禁止(宅建業法15条の2)の射程が職務に必ずしも直接関係しない行為も含むとする肢、専任媒介契約の業務処理状況の報告(同法34条の2第9項)が必ずしも書面である必要はないとする肢がこれに当たる。
また、条文自身が全称形で書いている場合もある。宅建業法39条2項の「その手付がいかなる性質のものであつても」、同法施行規則16条の4の3第11号の「敷金その他いかなる名義をもつて授受されるかを問わず」、同法71条の「すべての宅地建物取引業者」がその例で、これらを写した肢は正しい。語に反応して切る運用は、正しい肢を落とす。
第2問
住宅販売瑕疵担保保証金の供託等の状況の届出は、自ら売主として新築住宅を引き渡した宅建業者が、当該住宅を引き渡した日から3週間以内に免許権者へ行う。○か×か。
答え:×
起算点が違う。特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律12条1項は、新築住宅を引き渡した宅建業者は「基準日ごとに」、当該基準日に係る供託および保険契約の締結の状況を、宅建業法3条1項の免許を受けた国土交通大臣または都道府県知事に届け出なければならないと定める。そして同法施行規則16条1項が、この届出を「基準日から三週間以内」に行うと定めている。基準日は毎年3月31日である(同法3条1項括弧書)。
3週間という数値と、届出先が免許権者である点は正しい。誤っているのは起算点だけである。引渡日起算にすると、住宅を引き渡すたびに届出が発生することになり、基準日前10年間に引き渡した新築住宅についてまとめて届け出るという制度の設計が壊れる。
なお、供託と届出をしなければ、当該基準日の翌日から起算して50日を経過した日以後は、新たに自ら売主となる新築住宅の売買契約を締結できない(同法13条)。こちらは「翌日から起算して」が条文の文言である。
第3問
国土利用計画法の事後届出は、土地売買等の契約を締結した日の翌日から起算して2週間以内に行わなければならない。○か×か。
答え:×
国土利用計画法23条1項は、権利取得者は「その契約を締結した日から起算して二週間以内」に届け出なければならないと定めている。翌日からではなく、契約を締結した日を第1日として数える。
民法140条は期間の初日は算入しないと定めているが、条文が「その日から起算して」と明示している場合は初日を算入する。だから国土法の事後届出では、契約締結日が第1日になる。同じ構造は宅建業法37条の2第1項1号のクーリング・オフにもあり、こちらも「その告げられた日から起算して八日を経過したとき」と初日算入で書かれている。
なお、この条文をめぐっては「翌日から起算して3週間以内」と、起算点と期間を同時にずらした誤り肢と、「所有権移転登記を完了した日から起算して2週間以内」と起算点だけをずらした誤り肢の両方が作られている。数値だけを覚えていると、後者を見抜けない。
第4問
「ただし」「〜する場合を除き」を含む選択肢は、例外を書き足している分だけ誤りである可能性が高い。○か×か。
答え:×
自社データの集計では逆の結果が出た。「ただし」を含む肢は6肢で誤り1肢(16.7%)、「場合を除き」は20肢で誤り7肢(35.0%)、「を除き」は26肢で誤り8肢(30.8%)、「原則として」は11肢で誤り4肢(36.4%)。いずれも全体基準値57.4%を大きく下回る。
理由は、作問者が正しい肢を作るときに条文のただし書まで写すからである。実際、「一定の場合を除き、都道府県知事への届出が必要となる」「周囲の状況によって安全上支障がない場合を除き、有効に避雷設備を設けなければならない」といった肢はいずれも正しい肢だった。
一方で、同じく範囲を狭める語でも「に限り」「に限る」は12肢で誤り10肢、誤り率83.3%と跳ね上がる。ただしこれは「に限り」が作問者由来だからではない。民法142条も借地借家法38条1項も不動産登記法109条1項も、条文自身が「に限り」を持っている。差が生まれるのは、「〜を除き」があれば条文のただし書を写している蓋然性が高いのに対して、「〜に限り」は条文にあってもなくても絞り込みの幅を肢の側で動かせるからである。除外語は語の由来を確かめれば片が付き、限定語は何を絞り込んでいるかまで見なければ片が付かない。この非対称が2.7倍の差になっている。
第5問
宅地建物取引士が事務の禁止の処分を受けたときは、速やかに、宅地建物取引士証を当該処分をした都道府県知事に提出しなければならない。○か×か。
答え:×
提出先が違う。宅建業法22条の2第7項は、宅地建物取引士は同法68条2項または4項による禁止の処分を受けたときは、速やかに、宅地建物取引士証を「その交付を受けた都道府県知事」に提出しなければならないと定めている。甲県知事の登録を受けている取引士が乙県知事から事務禁止処分を受けても、提出先は取引士証を交付した甲県知事である。
「速やかに」という副詞は条文どおりで、誤りは提出先にある。副詞に線を引いた人は、正しい語に線を引いて、誤っている語を素通りしたことになる。副詞は答えではなく索引語であり、「その手続の条文を思い出せ」という合図として使うのが正しい。
なお、禁止の期間が満了して提出者から返還の請求があったときは、知事は「直ちに」返還しなければならない(同条8項)。同じ条文の中で「速やかに」と「直ちに」が書き分けられている。
宅建試験AIブートラボのアプリでは、本記事で扱った表現ごとに肢を束ね直して演習できるので、断定語・境界語・起算点・承諾のどこで読み違えているかを自分のデータで確かめてほしい。
肢別演習と年度別演習で、立てた学習計画をそのまま実行に移せます。間違えた肢だけを繰り返す復習にも対応しています。