クーリング・オフ|適用場所と8日間を事例で解説
宅建業法37条の2のクーリング・オフを条文で整理。施行規則16条の5の事務所等、申込地基準、8日間の起算、引渡しと代金全額、発信主義を事例で解説します。
目次
本記事の役割 — この記事は宅建業法37条の2のクーリング・オフだけを扱います。
8種制限の全体像は8種制限の全体像に、8つの制限に共通する数字と効果の横断整理は8種制限の横断整理にまとめています。
クーリング・オフは、宅建業法の中で最も出題頻度の高い論点のひとつです。しかし、多くの受験生が「事務所等以外の場所なら8日間解除できる」という一行だけで覚えているため、事例を変えられると崩れます。
この論点の難しさは、条文が三段構えになっている点にあります。宅建業法37条の2が骨格を定め、「事務所その他国土交通省令・内閣府令で定める場所」の中身は宅地建物取引業法施行規則16条の5が定め、そして16条の5は「法第三十一条の三第一項の規定により…宅地建物取引士を置くべきもの」という形で専任の宅地建物取引士の設置義務の規定を引用しています。つまり、クーリング・オフの可否を判定するには、専任の宅建士を置くべき場所とはどこかまで遡らなければなりません。テント張りの案内所ならクーリング・オフができる、という結論も、この遡り方が分かっていないと丸暗記になります。
本記事では、条文の三段構えをそのまま追いかけたうえで、場所と時期の組み合わせで結論が変わる事例を並べます。結論を先に言えば、判定の順序は「誰と誰の契約か」「どこで申込みをしたか」「書面で告げられてから何日か」「引渡しと代金の両方が済んだか」の四段階です。この順序を崩さないことが正解率に直結します。
なお法令の基準日についても確認しました。宅地建物取引業法は令和7年法律第68号により2026年4月1日施行の版になっていますが、本則には差分がありません。宅地建物取引業法施行規則は令和7年内閣府・国土交通省令第2号により2026年4月1日に改正されていますが、条単位で比較したところ変更されたのは16条の2、16条の4の6、19条の2の5の3か条だけで、クーリング・オフの事務所等を定める16条の5と、告知書面を定める16条の6は改正されていません。この記事の内容は令和8年度の出題範囲そのままです。
誰と誰の契約に適用されるのか
自ら売主となる売買契約に限られる
37条の2第1項は「宅地建物取引業者が自ら売主となる宅地又は建物の売買契約について」と書き出しています。適用の入口はこの一句です。
宅建業者が自ら売主になっていなければ、クーリング・オフの問題は生じません。宅建業者が売買の媒介や代理をしているだけの場合、売主は一般の個人や法人ですから、37条の2の適用はありません。売主が業者でないのに買主が「クーリング・オフする」と主張しても、宅建業法上の根拠はないことになります。
取引態様がどうなっているかは、契約の場面で最初に確認すべき事項です。取引態様の明示義務については取引態様の明示で扱っています。
買主が宅建業者なら適用されない
78条2項は「第三十三条の二及び第三十七条の二から第四十三条までの規定は、宅地建物取引業者相互間の取引については、適用しない」と定めます。37条の2はこの範囲に含まれているので、売主も買主も宅建業者である取引には適用されません。
したがって、適用されるのは「売主が宅建業者で、買主が宅建業者でない」場合に限られます。この組み合わせは8種制限すべてに共通する前提で、8種制限が適用されない場合で整理しています。
交換や貸借には適用がない
条文は「売買契約について」と書いています。交換契約や賃貸借契約は含まれません。宅建業者が自ら売主となる売買契約という限定を、条文の文言どおり読んでください。
「宅建業者が自ら貸主となる建物の賃貸借契約で、借主が事務所以外の場所で申込みをした場合はクーリング・オフができる」という選択肢は誤りです。そもそも自ら貸借を行う行為は宅建業に当たらないため、宅建業法の適用そのものがありません。
この節の要点
- 売主が宅建業者で、自ら売主となる売買契約であること。
- 買主が宅建業者でないこと(78条2項)。
- 媒介・代理、交換、貸借には適用がない。
「事務所等」の正体は施行規則16条の5である
37条の2第1項が言う「事務所等」は、法律が定める「事務所」と、施行規則16条の5が定める場所の合計です。まず16条の5の構造を正確に把握してください。
16条の5は二つの号でできています。第1号がイからホまでの五つの場所を列挙し、第2号が買主の自宅または勤務先を定めます。
第1号の柱書がすべてを絞り込んでいる
第1号の柱書はこうです。「次に掲げる場所のうち、法第三十一条の三第一項の規定により同項に規定する宅地建物取引士を置くべきもの」。
つまりイからホまでの五つの場所は、それだけでは事務所等になりません。専任の宅地建物取引士を置くべき場所であることが、上乗せの条件になっています。31条の3第1項は、事務所等ごとに、国土交通省令で定める数の成年者である専任の宅地建物取引士を置かなければならないと定める規定です。
そして施行規則15条の5の2が、31条の3第1項の場所を定めています。継続的に業務を行うことができる施設を有する場所で事務所以外のもの、一団の宅地建物の分譲を行う案内所、他の業者が行う一団の宅地建物の分譲の代理・媒介を行う案内所、展示会その他これに類する催しを実施する場所の四つで、いずれも「宅地若しくは建物の売買若しくは交換の契約(予約を含む)若しくは……代理若しくは媒介の契約を締結し、又はこれらの契約の申込みを受けるもの」に限られます。
ここから重要な帰結が出ます。契約の締結も申込みの受付もしない場所、たとえばパンフレットを配るだけの案内所は、専任の宅建士を置くべき場所ではないため、16条の5第1号の事務所等にも当たりません。専任の宅建士の設置義務そのものは専任の宅地建物取引士で詳しく扱っています。
イ 継続的に業務を行うことができる施設
イは「当該宅地建物取引業者の事務所以外の場所で継続的に業務を行うことができる施設を有するもの」です。営業所として登記されていなくても、継続的に業務を行える施設があれば該当します。事務所そのものは法律の条文に書かれているので、イは事務所以外を拾う受け皿です。事務所の要件は事務所の要件と設置義務で確認できます。
ロとニ 一団の宅地建物の分譲の案内所
ロは「当該宅地建物取引業者が一団の宅地建物の分譲を案内所(土地に定着する建物内に設けられるものに限る。ニにおいて同じ。)を設置して行う場合にあつては、その案内所」です。ニは、分譲の代理または媒介を依頼された業者が案内所を設置して行う場合の、その案内所です。
括弧書きの「土地に定着する建物内に設けられるものに限る」が、この論点の核心です。後で節を改めて説明します。
なお「一団の宅地建物の分譲」は、施行規則15条の5の2第2号が「十区画以上の一団の宅地又は十戸以上の一団の建物の分譲」と定義しています。10という数字は覚えておいてください。宅建業法に出てくる数字の全体像は宅建業法の数字にまとめています。
ハ 依頼を受けた他の業者の事務所等
ハは、売主業者が他の宅建業者に売却の代理または媒介を依頼した場合における、その依頼を受けた業者の事務所または継続的に業務を行うことができる施設です。
売主業者ではなく媒介業者の事務所で申込みをした場合でも、クーリング・オフはできないということです。「売主業者の事務所ではないからクーリング・オフができる」という選択肢は誤りになります。
ホ 展示会その他これに類する催しを実施する場所
ホは、専任の宅建士を置くべき場所(土地に定着する建物内のものに限る)で売買契約に関する説明をした後、当該宅地建物に関し展示会その他これに類する催しを土地に定着する建物内において実施する場合の、その催しを実施する場所です。
ここでも「土地に定着する建物内」という限定が二度出てきます。屋外の催事スペースやテント内での展示会は、この限定を満たしません。
第2号 買主が申し出た自宅または勤務先
第2号は「当該宅地建物取引業者の相手方がその自宅又は勤務する場所において宅地又は建物の売買契約に関する説明を受ける旨を申し出た場合にあつては、その相手方の自宅又は勤務する場所」です。
条文の主語を確認してください。「相手方が……申し出た場合」です。買主の側から申し出たときに限って、その自宅や勤務先が事務所等になります。業者が「ご自宅にうかがいます」と提案した場合は、この号に当たりません。
また対象は自宅と勤務先の二つだけです。買主が指定した喫茶店や、買主の親族の家は含まれません。
この節の要点
- 16条の5第1号のイからホは、専任の宅建士を「置くべき」場所であることが上乗せ条件。
- ロ・ニ・ホには「土地に定着する建物内」という限定がある。
- 第2号は買主から申し出た場合の自宅・勤務先に限られる。
テント張りの案内所はなぜ事務所等でないのか
31条の3の場所と16条の5の場所はずれている
この論点を丸暗記ではなく理解するには、二つの条文の書きぶりの差に気づく必要があります。
施行規則15条の5の2第2号は、専任の宅建士を置くべき案内所について「宅地建物取引業者が十区画以上の一団の宅地又は十戸以上の一団の建物の分譲を案内所を設置して行う場合にあつては、その案内所」と定めるだけで、土地への定着を要求していません。
これに対して施行規則16条の5第1号ロは、同じ案内所について「土地に定着する建物内に設けられるものに限る」という括弧書きを付けています。
つまり、テント張りの案内所は、契約の締結や申込みの受付をするのであれば専任の宅建士を置かなければならない場所ですが、クーリング・オフの事務所等には当たりません。専任の宅建士がいるからクーリング・オフができない、という推論は成り立たないのです。
なぜ差を設けたのか
クーリング・オフは、買主が冷静に判断できない環境で申込みをしてしまう危険から買主を守る制度です。土地に定着した建物の中であれば、腰を落ち着けて説明を受け、判断できると考えられます。仮設のテントでは、その前提が欠けます。専任の宅建士の設置義務が「誰が説明するか」を担保する制度であるのに対し、クーリング・オフの場所要件は「どんな環境で判断したか」を見ている、という目的の違いが、括弧書きの有無に表れています。
「置くべきもの」であって「置いているもの」ではない
もうひとつ、条文の文言で注意すべき点があります。16条の5第1号の柱書は「宅地建物取引士を置くべきもの」と書いています。現に置いているもの、とは書いていません。
したがって、業者が専任の宅建士を置かないまま案内所で契約の申込みを受けていた場合でも、その案内所が土地に定着する建物内にあり、専任の宅建士を置くべき場所であるなら、事務所等に当たります。設置義務に違反していることは31条の3の問題であって、クーリング・オフの可否には影響しません。「専任の宅建士が不在だったからクーリング・オフができる」という選択肢は誤りです。
事例で確かめる 場所の判定
以下では、条文のあてはめを事例の形で確認します。いずれも売主が宅建業者、買主が宅建業者でない個人であることを前提とします。
事例1 買主が自宅での説明を申し出て、自宅で申込みをした
買主が「自宅で説明を聞きたい」と申し出て、業者が訪問し、その場で買受けの申込みをした場合です。
16条の5第2号に当たるため、買主の自宅は事務所等です。クーリング・オフはできません。
事例2 業者から自宅訪問を提案し、自宅で申込みをした
業者が「ご自宅にうかがって説明します」と提案し、買主が了承して訪問を受け、その場で申込みをした場合です。
同じ自宅でも結論は逆になります。16条の5第2号は「相手方が……申し出た場合」に限っているため、業者から提案した場合はこの号に当たりません。事務所等ではないので、クーリング・オフができます。
事例1と事例2は場所が同じで、申出の主体だけが違います。試験ではこの一点をずらして正誤を作るので、問題文の主語を必ず確認してください。「業者の提案に買主が同意した」という書き方も、申し出たのは業者ですから事例2の側です。
事例3 買主が勤務先での説明を申し出た
買主が「勤務先に来てほしい」と申し出て、勤務先で申込みをした場合です。16条の5第2号は自宅と並べて「勤務する場所」を挙げているため、事務所等に当たり、クーリング・オフはできません。
一方、買主が「自宅の近くの喫茶店で」と申し出た場合は、自宅でも勤務先でもないため第2号に当たりません。クーリング・オフができます。買主が申し出たかどうかだけでなく、場所が自宅または勤務先かどうかも確認する必要があります。
事例4 喫茶店やホテルのロビーで申込みをした
喫茶店、ファミリーレストラン、ホテルのロビーは、いずれも売主業者が継続的に業務を行うことができる施設ではなく、案内所でも展示会場でもありません。事務所等に当たらないため、クーリング・オフができます。
事例5 土地に定着したモデルルームで申込みをした
一団の宅地建物の分譲について、建物内に設けたモデルルームで、専任の宅建士を置いて契約の申込みを受けていた場合です。16条の5第1号ロに当たり、事務所等ですから、クーリング・オフはできません。
事例6 テント張りの案内所で申込みをした
同じ分譲でも、案内所がテント張りで土地に定着していない場合は、16条の5第1号ロの括弧書きを満たしません。事務所等ではないので、クーリング・オフができます。専任の宅建士が常駐していたとしても結論は変わりません。
事例7 媒介業者の事務所で申込みをした
売主業者が他の宅建業者に売却の媒介を依頼し、買主がその媒介業者の事務所で申込みをした場合です。16条の5第1号ハに当たり、事務所等ですから、クーリング・オフはできません。
申込みの場所と契約の場所が違うとき
条文の括弧書きが答えを書いている
この論点は、37条の2第1項の括弧書きを読めば一発で決着します。条文はこうです。
「……事務所等以外の場所において、当該宅地又は建物の買受けの申込みをした者又は売買契約を締結した買主(事務所等において買受けの申込みをし、事務所等以外の場所において売買契約を締結した買主を除く。)は……」
括弧書きが除外しているのは、事務所等で申込みをして、事務所等以外の場所で契約を締結した買主です。裏を返せば、判定の基準になるのは申込みをした場所だということが、条文自身に書かれています。
事例8 案内所で申込みをして、事務所で契約した
土地に定着していないテント張りの案内所で買受けの申込みをし、後日、売主業者の事務所に出向いて契約書に署名した場合です。
申込みをした場所が事務所等以外ですから、クーリング・オフができます。最終的に事務所で契約したことは結論を変えません。
事例9 事務所で申込みをして、喫茶店で契約した
売主業者の事務所で買受けの申込みをし、後日、喫茶店で契約書に署名した場合です。
37条の2第1項の括弧書きが明示的に除外している場合そのものです。クーリング・オフはできません。
なぜ申込地を基準にするのか
クーリング・オフが守ろうとしているのは、冷静に判断できない場所で買う意思を固めてしまった買主です。買う意思が形成されるのは申込みの時点ですから、その時点の環境で判定するのが制度の趣旨に合います。契約書に署名した場所は、すでに意思が固まった後の手続にすぎません。
「撤回」と「解除」は場面が違う
条文は「買受けの申込みの撤回又は当該売買契約の解除」と二つを並べ、まとめて「申込みの撤回等」と呼んでいます。
まだ契約が成立していない段階、つまり申込みだけをした段階でやめるのが撤回です。すでに契約が成立した後にやめるのが解除です。どちらも同じ8日間の枠内で、同じ方式で行います。問題文が「申込みをしたが契約はまだ締結していない」と設定している場合でも、37条の2の対象であることに変わりはありません。
8日間はいつから数えるのか
書面で告げられた日から起算して8日
37条の2第1項1号は、申込者等が「国土交通省令・内閣府令の定めるところにより、申込みの撤回等を行うことができる旨及びその申込みの撤回等を行う場合の方法について告げられた場合において、その告げられた日から起算して八日を経過したとき」に、クーリング・オフができなくなると定めます。
起算点は「告げられた日」です。申込みをした日でも、契約を締結した日でも、引渡しの日でもありません。ここを入れ替えた選択肢が最も多く出ます。
初日を算入する
「その告げられた日から起算して」という表現は、告げられた日そのものを1日目として数えるという意味です。4月1日に告知書面を受け取ったなら、4月1日が1日目、4月8日が8日目です。8日を経過するのは4月9日ですから、4月8日中に書面を発すれば間に合います。
書面で告げなければ期間は進行しない
1号は「告げられた場合において」を条件にしています。告げられていなければ、条件が成就しないので、8日の期間はいつまでも進行しません。契約から半年が経っていても、告知書面を受け取っていなければクーリング・オフができるということです。
そして後述するとおり、告知は書面によることが施行規則16条の6で義務づけられています。口頭で「8日以内なら解除できますよ」と伝えても、それは1号の「告げられた」に当たりません。期間は進行しないままです。
業者に告知義務はない
ここは誤解が多い部分なので、条文の建て付けを正確に押さえてください。
37条の2第1項1号は、告げられた場合に8日の期間が動き出すという条件を定めているだけで、業者に告知を義務づけてはいません。施行規則16条の6も「告げるときは、次に掲げる事項を記載した書面を交付して告げなければならない」という書き方で、告げる場合の方式を定めているにすぎません。
つまり、告知しないことそれ自体は宅建業法違反ではありません。ただし告知しなければ8日が永久に進行せず、買主はいつでもクーリング・オフできる状態が続きます。業者にとって不利益なので、実務上は必ず告知します。「告知しないと業務停止処分を受ける」という選択肢は、条文上の根拠がありません。
事例10 口頭で告げた場合
契約の場で業者が口頭で「8日以内であれば解除できます」と説明し、書面は渡さなかった場合です。
書面の交付がないため、1号の条件は成就しません。8日は進行せず、買主はいつまでもクーリング・オフができます。
告知書面には何を書くのか
施行規則16条の6は、告知書面に記載すべき事項を六つ列挙しています。細かいようですが、告知書面の内容を問う出題に備えて概要を押さえておく価値があります。
第1号は、買受けの申込みをした者または買主の氏名(法人ならその商号または名称)および住所です。
第2号は、売主である宅建業者の商号または名称および住所ならびに免許証番号です。免許証番号まで書かせる点が特徴です。
第3号は、告げられた日から起算して8日を経過する日までの間は、宅地建物の引渡しを受け、かつ、代金の全部を支払った場合を除き、書面により買受けの申込みの撤回または売買契約の解除を行うことができることです。期間と例外を書面に明記させています。
第4号は、撤回または解除があったときは、業者が損害賠償または違約金の支払を請求することができないことです。
第5号は、撤回または解除は、その旨を記載した書面を発した時に効力を生ずることです。発信主義を買主に知らせる趣旨です。
第6号は、手付金その他の金銭が支払われているときは、業者が遅滞なくその全額を返還することです。
なお、法37条の2第3項は返還について「速やかに」と定め、規則16条の6第6号は告知書面に書くべき文言として「遅滞なく」を用いています。条文の言葉づかいが異なる点は、そのまま覚えておいてください。
引渡しと代金全額支払いの両方が必要
「かつ」の意味
37条の2第1項2号は「申込者等が、当該宅地又は建物の引渡しを受け、かつ、その代金の全部を支払つたとき」にクーリング・オフができなくなると定めます。
「かつ」ですから、二つの要件を両方満たす必要があります。片方だけでは権利は失われません。この論点は毎年のように形を変えて出題されます。
事例11 引渡しだけ、代金だけの場合
買主が鍵を受け取って建物に入居したが、代金は住宅ローンの実行待ちで一部しか支払っていない場合、代金の全部を支払っていないため、クーリング・オフができます。
逆に、代金の全額を支払ったが、引渡日がまだ来ておらず物件を受け取っていない場合も、引渡しを受けていないため、クーリング・オフができます。
「代金の全部」という文言にも注意してください。9割を支払っただけでは全部ではありません。手付金と中間金を支払った段階も、当然に全部ではありません。手付金等をめぐる保全措置は手付金等の保全措置で扱っています。
8日以内でも権利を失う
1号と2号は並列の関係にあります。8日が経過していなくても、引渡しと代金全額支払いの両方が済んだ時点でクーリング・オフはできなくなります。告知書面を受け取った翌日に引渡しと決済を済ませたなら、その時点で権利は消えます。
逆に、告知書面を受け取っていなくても、引渡しと代金全額支払いが済めばクーリング・オフはできません。「告知がなければ引渡しと決済が終わってもクーリング・オフできる」という選択肢は誤りです。
行使は書面、効力は発した時
書面によらなければならない
37条の2第1項は「書面により、当該買受けの申込みの撤回又は当該売買契約の解除……を行うことができる」と定めます。口頭や電話では効力が生じません。
なお、宅建業法は2022年5月18日施行の改正で、34条の2の媒介契約書面、35条書面、37条書面、41条・41条の2の保全措置に関する書面について、相手方の承諾を得て電磁的方法によることを認めました。しかし37条の2には、これに相当する電磁的方法の規定が置かれていません。クーリング・オフの意思表示については、条文上は書面によることが求められたままです。書面の電子化の全体像はIT重説と書面電子化で整理しています。
効力は発信の時に生ずる
37条の2第2項は「申込みの撤回等は、申込者等が前項前段の書面を発した時に、その効力を生ずる」と定めます。到達主義ではなく発信主義です。
民法の意思表示は到達主義が原則ですが、買主を保護するために、あえて発信主義を採っています。郵便が遅れても、業者が受取りを拒んでも、買主は不利益を受けません。
事例12 8日目に投函し、10日目に到達した
4月1日に告知書面を受け取り、4月8日に解除の書面を郵便ポストに投函し、業者に届いたのが4月10日だった場合です。
発した時に効力を生ずるので、4月8日に効力が発生します。4月8日は8日目であり、まだ8日を経過していないため、クーリング・オフは有効です。到達日の4月10日を基準に「8日を経過しているから無効」とする選択肢は誤りです。
効果は損害賠償請求の禁止と金銭の返還
損害賠償や違約金を請求できない
37条の2第1項の後段は「この場合において、宅地建物取引業者は、申込みの撤回等に伴う損害賠償又は違約金の支払を請求することができない」と定めます。
契約の準備に要した費用を請求することも、契約書に定めた違約金を請求することもできません。クーリング・オフは、買主が理由を示さずに、負担なく契約から離脱できる制度です。
手付金その他の金銭を速やかに返還する
37条の2第3項は「申込みの撤回等が行われた場合においては、宅地建物取引業者は、申込者等に対し、速やかに、買受けの申込み又は売買契約の締結に際し受領した手付金その他の金銭を返還しなければならない」と定めます。
返還の対象は手付金に限りません。「その他の金銭」ですから、申込証拠金、中間金、内金など、申込みまたは契約の締結に際して受領した金銭はすべて返還の対象です。手付そのものの額の制限は別の条文(39条)の問題で、手付額の制限と解約手付で扱っています。
業者は返還を拒めない
3項は業者に返還義務を課すだけで、買主に何らかの負担を求める規定を置いていません。買主が物件を内見したことによる費用や、契約書作成の実費を差し引いて返す、といった処理も認められません。差し引いて返還する旨の合意があっても、次に述べる4項によって無効になります。
買主に不利な特約は無効
37条の2第4項は「前三項の規定に反する特約で申込者等に不利なものは、無効とする」と定めます。
期間を短くする特約
「クーリング・オフができる期間は、告げられた日から起算して5日とする」という特約は、法定の8日より短く、買主に不利ですから無効です。無効になった結果、8日という法定の期間が適用されます。
逆に「10日とする」という特約は買主に有利なので有効です。4項が無効にするのは不利な特約だけである点を、条文の文言どおり押さえてください。
返還に関する特約
「クーリング・オフの場合、手付金は返還しない」「申込証拠金は返還しない」といった特約は、3項に反し買主に不利ですから無効です。
「クーリング・オフの場合、買主は業者に対し違約金として代金の1割を支払う」という特約も、1項後段に反するため無効です。
方式に関する特約
「クーリング・オフは口頭でもできる」という特約は、書面という要件を緩めるもので、買主に有利です。有効と考えられます。
「クーリング・オフは業者に書面が到達した時に効力を生ずる」という特約は、発信主義を到達主義に変えるもので、買主に不利です。無効になります。
この節の要点
- 無効になるのは買主に不利な特約だけ。
- 期間短縮、返還拒否、違約金請求、到達主義への変更はいずれも不利。
- 期間の延長や方式の緩和は買主に有利で、有効。
違反したときどうなるか
クーリング・オフは買主に権利を与える制度なので、業者に対する制裁の規定の作りが他の条文と少し違います。
まず罰則です。83条1項は50万円以下の罰金に処せられる行為を列挙していますが、37条の2はここに入っていません。37条違反(37条書面の交付)は列挙されているのに対し、37条の2違反には直接の罰金規定がないということです。罰則の全体像は宅建業法の罰則一覧で確認できます。
次に監督処分です。65条2項2号は業務停止処分の事由となる条文を列挙していますが、ここにも37条の2は入っていません。ただし65条1項の柱書は「この法律の規定……に違反した場合においては、当該宅地建物取引業者に対して、必要な指示をすることができる」と定めており、指示処分の対象にはなりえます。さらに65条2項5号は「宅地建物取引業に関し不正又は著しく不当な行為をしたとき」を業務停止の事由としており、有効なクーリング・オフを拒んで金銭を返還しない行為は、この一般条項で捕捉される余地があります。監督処分の仕組みは宅建業者への監督処分で整理しています。
もっとも、買主にとって実際に効くのは私法上の効果です。37条の2第2項により、書面を発した時点で契約は当然に効力を失います。業者が争っても、要件を満たしていれば結論は動きません。
試験での出題ポイント
パターン1 起算点をずらす
「契約を締結した日から起算して8日」「物件の引渡しを受けた日から起算して8日」はいずれも誤りです。1号は「告げられた日から起算して」と定めています。
パターン2 告知の方式を緩める
「口頭で告げられた日から8日を経過すればクーリング・オフはできない」は誤りです。施行規則16条の6は書面の交付を要求しており、口頭では期間が進行しません。
パターン3 引渡しと代金を片方だけにする
「代金の全部を支払ったときはクーリング・オフができない」は誤りです。引渡しも受けていなければなりません。「引渡しを受けたときはできない」も同じく誤りです。
パターン4 申込地と契約地を入れ替える
「事務所で申込みをし、喫茶店で契約を締結した場合はクーリング・オフができる」は誤りです。37条の2第1項の括弧書きがこの場合を明示的に除外しています。逆に「喫茶店で申込みをし、事務所で契約を締結した場合はできない」も誤りです。
パターン5 自宅・勤務先の申出の主体をずらす
「業者の申出により買主の自宅で説明を受け、その場で申込みをした場合はクーリング・オフができない」は誤りです。16条の5第2号は買主が申し出た場合に限っています。
パターン6 案内所の定着性を落とす
「テント張りの案内所であっても、専任の宅地建物取引士が置かれていれば事務所等に当たる」は誤りです。16条の5第1号ロは土地に定着する建物内に設けられるものに限っています。逆に「専任の宅地建物取引士が現に置かれていない案内所は事務所等に当たらない」も誤りで、条文は「置くべきもの」と書いています。
パターン7 到達主義にすり替える
「クーリング・オフの書面が業者に到達した時に効力を生ずる」は誤りです。37条の2第2項は発した時と定めています。
パターン8 特約の向きを逆にする
「クーリング・オフの期間を10日とする特約は、法の定める8日と異なるため無効である」は誤りです。4項が無効にするのは買主に不利な特約だけです。
パターン9 適用の前提を外す
「宅建業者が売買の媒介をした場合、買主は事務所等以外の場所で申込みをすればクーリング・オフができる」は誤りです。売主が宅建業者であることが前提です。「買主が宅建業者であってもクーリング・オフができる」も78条2項により誤りです。
パターン10 告知義務を作り出す
「宅建業者は、契約の締結に際し、クーリング・オフができる旨を書面で告げなければならない」は誤りです。告げないと8日が進行しないだけで、告知そのものは義務ではありません。宅建業法の頻出論点の全体像は宅建業法の頻出論点で確認できます。
覚え方・整理の仕方
四段階の判定手順を固定する
問題文を読んだら、次の順序で処理してください。順序を守るだけで、判定の見落としがなくなります。
第一に、売主が宅建業者で、買主が宅建業者でないかを確認します。ここで外れれば、以降の検討は不要です。
第二に、買受けの申込みをした場所が事務所等かを確認します。契約の場所ではありません。
第三に、書面で告げられた日から8日を経過していないかを確認します。告知が書面でなければ、経過しません。
第四に、引渡しと代金全額支払いの両方が済んでいないかを確認します。
この四つをすべて通過したときだけ、クーリング・オフができます。
場所は「定着」と「申出」の二語で覚える
事務所等の判定でつまずくのは、案内所と自宅の二つです。この二つはそれぞれキーワードが一語で足ります。
案内所と展示会場は「定着」です。土地に定着する建物内かどうかだけを見ます。
自宅と勤務先は「申出」です。買主から申し出たかどうかだけを見ます。しかも場所は自宅と勤務先の二つに限られます。
喫茶店やホテルのロビーはどちらのキーワードにも当てはまらないので、常にクーリング・オフができます。
数字は「8」「10」「1年」で束ねる
クーリング・オフに直接出てくる数字は8日だけです。周辺の数字と混ざりやすいので、束ねて整理しておきます。
8はクーリング・オフの日数。10は一団の宅地建物の分譲の区画数・戸数(施行規則15条の5の2第2号)。専任の宅建士の設置に関する2週間(31条の3第3項)は、別の制度の数字です。他の8種制限の数字は8種制限の横断整理にまとめてあります。
条文の括弧書きを読む癖をつける
この論点は、条文の括弧書きに答えが書かれている箇所が三つあります。37条の2第1項の「事務所等において買受けの申込みをし、事務所等以外の場所において売買契約を締結した買主を除く」、施行規則16条の5第1号ロの「土地に定着する建物内に設けられるものに限る」、そして16条の5第1号柱書の「宅地建物取引士を置くべきもの」です。
括弧書きを飛ばして読むと、いずれも結論を取り違えます。条文を引くときは括弧の中こそ丁寧に読む、という習慣が、そのまま得点になります。
理解度チェッククイズ
Q1. 宅建業者が売主となる宅地の売買について、買主が自ら申し出て自宅で説明を受け、その場で買受けの申込みをした場合、買主はクーリング・オフをすることができない。(○か×か)
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○:施行規則16条の5第2号は、相手方がその自宅または勤務する場所において売買契約に関する説明を受ける旨を申し出た場合の、その自宅または勤務する場所を事務所等としています。買主自らの申出であれば事務所等に当たり、クーリング・オフはできません。Q2. 宅建業者が一団の建物の分譲を土地に定着しないテント張りの案内所を設置して行い、そこに専任の宅地建物取引士を置いていた場合、その案内所で買受けの申込みをした買主はクーリング・オフをすることができない。(○か×か)
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×:施行規則16条の5第1号ロは、案内所について「土地に定着する建物内に設けられるものに限る」と限定しています。テント張りの案内所はこの限定を満たさないため事務所等に当たらず、専任の宅地建物取引士が置かれていてもクーリング・オフができます。Q3. 買主が宅建業者の事務所で買受けの申込みをし、後日、喫茶店で売買契約を締結した場合、契約を締結した場所が事務所等以外であるから、買主はクーリング・オフをすることができる。(○か×か)
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×:宅建業法37条の2第1項の括弧書きは「事務所等において買受けの申込みをし、事務所等以外の場所において売買契約を締結した買主を除く」と定めています。判定の基準は申込みをした場所であり、この場合はクーリング・オフができません。Q4. 宅建業者が買主に対し口頭でクーリング・オフができる旨およびその方法を告げた場合、その日から起算して8日を経過すると、買主はクーリング・オフをすることができなくなる。(○か×か)
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×:宅建業法37条の2第1項1号は「国土交通省令・内閣府令の定めるところにより……告げられた場合」を条件としており、施行規則16条の6は所定の6事項を記載した書面を交付して告げなければならないと定めています。口頭では期間が進行しません。Q5. 買主が代金の全額を支払ったが、まだ宅地の引渡しを受けていない場合、買主はクーリング・オフをすることができる。(○か×か)
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○:宅建業法37条の2第1項2号は「引渡しを受け、かつ、その代金の全部を支払つたとき」と定めており、両方を満たす必要があります。代金だけを支払った段階では、まだクーリング・オフができます。Q6. 買主が告知を受けた日から8日目に解除の書面を発送し、その書面が宅建業者に到達したのが10日目であった場合、8日を経過してからの到達であるためクーリング・オフの効力は生じない。(○か×か)
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×:宅建業法37条の2第2項は「申込者等が前項前段の書面を発した時に、その効力を生ずる」と定めています。発信主義ですから、8日目に発した時点で効力が生じ、到達が10日目であっても有効です。Q7. 宅建業者は、自ら売主となる売買契約を締結するに際し、買主に対しクーリング・オフができる旨を書面で告げなければならず、これを怠ったときは業務停止処分の対象となる。(○か×か)
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×:宅建業法37条の2第1項1号は、告げられた場合に8日の期間が進行するという条件を定めるにとどまり、告知そのものを義務づけてはいません。施行規則16条の6も「告げるときは……書面を交付して告げなければならない」という方式の定めです。告知しない場合の効果は、8日の期間が進行しないことです。まとめ
クーリング・オフは、次の四点に集約できます。
- 適用の前提は自ら売主と非業者買主。 宅建業者が自ら売主となる売買契約で、買主が宅建業者でない場合に限られます(37条の2第1項、78条2項)。媒介・代理、交換、貸借には適用がありません。
- 場所は申込地で判定し、事務所等の中身は施行規則16条の5が定める。 1号のイからホは専任の宅建士を置くべき場所であることが上乗せ条件で、案内所と展示会場には「土地に定着する建物内」という限定が付きます。2号の自宅・勤務先は買主から申し出た場合に限られます。申込地基準は37条の2第1項の括弧書きに書かれています。
- 8日は書面で告げられた日から起算し、告知がなければ進行しない。 告知書面の記載事項は施行規則16条の6が6項目を定めています。告知そのものは義務ではありません。引渡しと代金全部の支払いの両方が済んだときも、8日以内であっても権利を失います。
- 行使は書面、効力は発した時。 業者は損害賠償や違約金を請求できず、受領した手付金その他の金銭を速やかに返還しなければなりません。これらに反する買主に不利な特約は無効です。
8種制限の中でのクーリング・オフの位置づけは8種制限の全体像、契約不適合責任の特約制限など隣接する制限は契約不適合責任の特約の制限、割賦販売に固有の制限は割賦販売契約の制限で扱っています。
宅建試験AIブートラボでは、クーリング・オフの肢別トレーニングを収録しています。場所と時期の条件を入れ替えた肢を繰り返し解いて、四段階の判定手順を身体に入れてください。
宅建業法は20問と配点が最も大きく、確実に得点したい科目です。免許制度・重要事項説明・8種制限を肢別で固めましょう。