造作買取請求権|放棄特約と留置権の可否
借地借家法33条の造作買取請求権を条文から整理。放棄特約が有効な理由、造作代金で建物を留置できない理由、民法608条の費用償還請求権や13条の建物買取請求権との違いを解説します。
目次
本記事は、借地借家法33条の造作買取請求権を中心に、これと対比される民法608条の費用償還請求権、および借地借家法13条の建物買取請求権を扱います。留置権と同時履行の抗弁権という制度そのものの構造は同時履行の抗弁権と留置権に、賃貸借契約の全体像は民法の賃貸借にありますので、ここでは費用の回収という一点に絞ります。
先に結論を述べます。造作買取請求権をめぐる出題は、ほぼ2つの論点に集約されます。第1に、この権利は放棄する特約が有効であること。第2に、造作代金を理由に建物を留置することはできないこと。そしてこの2つは、どちらも条文を突き合わせるだけで導けます。前者は借地借家法37条の列挙に33条が入っていないという事実から、後者は民法295条1項本文の「その物に関して生じた債権」という文言から出てきます。
なお本記事は2026年4月1日時点で施行されている条文に基づいて書いています。宅建試験は当該年度の4月1日現在施行の法令から出題されるためです。借地借家法は令和4年法律第48号により2026年5月21日にも改正が施行されていますが、変更されたのは民事訴訟法の準用に関する手続規定である61条のみで、33条・13条・37条を含む実体規定は同一です。民法についても令和8年法律第45号による2026年6月24日施行の改正で本則の条文は変わっておらず、295条・608条・196条の文言は同一です。
借地借家法33条を条文で読む
1項前段が定める4つの要素
33条1項前段は次のとおりです。
建物の賃貸人の同意を得て建物に付加した畳、建具その他の造作がある場合には、建物の賃借人は、建物の賃貸借が期間の満了又は解約の申入れによって終了するときに、建物の賃貸人に対し、その造作を時価で買い取るべきことを請求することができる。
――借地借家法33条1項前段
短い一文ですが、要素は4つに分解できます。第1に「建物の賃貸人の同意を得て」付加したものであること。第2に対象が「畳、建具その他の造作」であること。第3に賃貸借が「期間の満了又は解約の申入れによって終了するとき」であること。第4に効果が「時価で買い取るべきことを請求することができる」ことです。
この4つのうち、第1と第3が要件、第2が対象の範囲、第4が効果です。出題はこの4か所のどこかを差し替える形で作られるので、条文を4分割して覚えておくと、どこが変えられているかを見つけやすくなります。
同意がなければ請求できない
第1の要素は「賃貸人の同意を得て」です。賃借人が無断で取り付けた造作は、どれほど建物の便益を高めるものであっても33条の対象になりません。
同意の対象は造作を付加することであって、将来買い取ることではありません。賃貸人が造作の設置を承諾していれば、買取りまで約束していなくても要件は満たされます。逆に、設置自体を承諾していなければ、後から賃貸人がその造作を気に入ったとしても、33条による請求権は生じません。
なお、同意を得ずに付加した造作について賃借人がまったく無権利になるわけではありません。それが賃借物の価値を増加させるものであれば、後述する民法608条2項の有益費償還請求権の対象になり得ます。造作買取請求権は同意が要件、有益費償還請求権は同意が不要。この非対称が、両者を対比する最大の実益です。
賃貸人から買い受けた造作も対象になる
見落とされやすいのが1項後段です。
建物の賃貸人から買い受けた造作についても、同様とする。
――借地借家法33条1項後段
賃借人が自分で持ち込んで付加した造作だけでなく、賃貸人から買い受けた造作も対象になります。前段が「同意を得て付加した」ものを扱うのに対し、後段は取得元が賃貸人自身である場合を拾っています。賃貸人から買ったのだから同意の有無を問題にする必要がなく、別に一文が立てられているわけです。
この後段の存在を知らないと、「賃貸人から買い受けた造作は賃貸人が一度所有していたものだから、買取請求の対象にならない」といった肢に迷います。条文が明文で「同様とする」と書いています。
終了原因が2つに限定されている
第3の要素が「期間の満了又は解約の申入れによって終了するとき」です。33条は終了原因を2つに限定しています。
したがって、賃借人の債務不履行を理由とする解除によって賃貸借が終了した場合、それは期間の満了でも解約の申入れでもありませんから、条文の文言上、造作買取請求権は発生しません。判例もこれを認めていません。賃料を滞納して信頼関係を破壊した賃借人が、退去に際して造作の買取りを請求できるのは制度の趣旨に合わない、という価値判断が、終了原因の限定という形で条文に表れています。
ここは判例の結論を暗記する必要がありません。条文が終了原因を書き切っているので、そこに当てはまらない終了は対象外と読めば足ります。信頼関係破壊の法理による解除の枠組みは民法の賃貸借と賃貸借契約の注意点で扱っています。
転借人にも準用される
33条2項は次のとおりです。
前項の規定は、建物の賃貸借が期間の満了又は解約の申入れによって終了する場合における建物の転借人と賃貸人との間について準用する。
――借地借家法33条2項
転借人は、転貸人(賃借人)ではなく賃貸人に対して造作買取請求権を行使します。転借人にとっての直接の契約相手は転貸人ですが、33条2項が準用の相手方を「賃貸人」と明記しているため、請求先は建物の所有者側になります。
準用される場面も1項と同じく、建物の賃貸借が期間の満了または解約の申入れによって終了する場合に限られます。転貸借の終了ではなく、原賃貸借の終了が基準です。転貸借の法律関係そのものは賃貸借の譲渡と転貸で扱っています。
「造作」に当たるものと当たらないもの
条文の例示から輪郭をつかむ
33条1項は「畳、建具その他の造作」と例示しています。畳と建具(ふすま、障子、戸など)が並べられていることから、造作の輪郭が見えてきます。
第1に、建物とは別個の物として観念できること。畳も建具も、取り外せば独立した動産になります。第2に、建物に付加され、建物の使用に便益を与えること。単に室内に置いてあるだけの物ではなく、建物と結びついて機能するものです。
この2つの性質から、対象になるかどうかの判断がある程度できます。据え付けられた設備で、取り外せば独立の動産として残るものは造作に近く、建物と一体化して分離できなくなっているものは造作ではありません。
建物の構成部分は造作ではない
壁材、屋根材、床下地、柱、梁といった建物の構成部分は、造作ではありません。これらは建物そのものの一部であり、「建物に付加した」別個の物とは言えないからです。
たとえば賃借人が費用を負担して外壁を張り替えた場合、張り替えられた外壁は建物と一体化しており、独立した動産として売買の目的物になりません。この場合に問題になるのは造作買取請求権ではなく、費用が建物に投下されたことによる有益費償還請求権です。
この切り分けは、後で扱う留置権の可否に直結します。造作は建物と別個の物、費用は建物そのものに投下されたもの。この違いが、そのまま牽連性の有無を決めます。
単なる持込み動産も造作ではない
取り外し自由な家具、置き型の家電、装飾品などは、建物に付加されたとは言えません。賃借人が退去時に持ち帰るのが当然の物であり、買い取らせる理由がありません。
判断に迷う場面では、賃貸借が終了したときにその物が建物に残るかどうかを考えるとよいでしょう。残らないなら持込み動産、残るが独立の物として観念できるなら造作、残ったうえで建物と一体化しているなら建物の構成部分です。3段階で切ると整理しやすくなります。
形成権であることの意味
請求すれば売買が成立する
33条1項の効果は「時価で買い取るべきことを請求することができる」です。これは形成権であると解されています。形成権とは、権利者の一方的な意思表示によって法律関係を変動させる権利のことです。
したがって、賃借人が造作の買取りを請求すると、その意思表示が賃貸人に到達した時点で、造作について時価による売買契約が成立したのと同じ効果が生じます。賃貸人の承諾は要りません。賃貸人が「買いたくない」と言っても、代金支払義務は発生します。
「請求できる」という文言から、賃貸人が応じるかどうかを選べる余地があるかのように読んでしまうと、この効果を取り違えます。賃貸人には拒む自由がないという点が、形成権と呼ばれる理由です。
代金は「時価」で決まる
売買の代金は時価です。当事者が交渉して決めるのではなく、客観的な価格で自動的に定まります。ここが通常の売買と違うところで、形成権として構成されている以上、代金額まで法律が決めておかなければ売買が成立しません。
時価とは、買取請求の意思表示がされた時点における客観的な価格です。賃借人が造作を取得したときに支払った金額でも、取り付けにかかった工事費でもありません。数年使用した造作であれば、その使用による価値の減少が反映された額になります。
「造作の取得費用を全額回収できる制度だ」という理解は誤りです。時価という一語が、回収できる額を現在価値に縛っています。
賃借人の側から見た効果
形成権であることは、賃借人にとって強い武器に見えます。しかし実際には、この権利がそのまま働く場面は限られます。理由は2つあり、1つは次章で扱う放棄特約が実務でほぼ例外なく置かれていること、もう1つはその次の章で扱うとおり、代金の支払を受けるまで建物を留め置くことができないことです。
権利の内容が強いことと、権利が使いやすいことは別です。造作買取請求権は、その落差が大きい制度の典型例と言えます。
33条は任意規定である
37条の列挙に33条は入っていない
この論点が、造作買取請求権に関する出題の最頻出です。借地借家法37条は次のとおりです。
第三十一条、第三十四条及び第三十五条の規定に反する特約で建物の賃借人又は転借人に不利なものは、無効とする。
――借地借家法37条
列挙されているのは31条・34条・35条の3つだけです。31条は建物賃貸借の対抗力(引渡しによる対抗要件)、34条は建物賃貸借終了の場合における転借人の保護(通知と6か月)、35条は借地上の建物の賃借人の保護(明渡しの期限許与)です。
33条は入っていません。したがって、造作買取請求権を排除する特約、いわゆる放棄特約は、賃借人に不利であっても無効になりません。有効です。
32条も入っていない
もう1つ、37条の列挙に入っていない重要な条文があります。32条の借賃増減請求権です。
もっとも、こちらは注意が必要です。32条1項の借賃減額請求について、37条の列挙に入っていないから自由に排除できる、と単純に処理することはできません。サブリース契約に賃料自動増額特約が付されていた事案について、最高裁は借地借家法32条1項の規定は強行法規であって賃料自動増額特約によってもその適用を排除することはできないと判示しています。この判例の詳細は賃貸借契約の注意点にあります。
37条に載っていないことと、特約で自由に排除できることは、必ずしもイコールではありません。ただし33条については、放棄特約が有効であることに争いがなく、実務でも当然の前提として運用されています。37条の列挙を「これに載っていれば絶対に無効」という一方向の道具として使い、載っていない場合は個別に検討する、という使い方が正確です。
実務では放棄特約が置かれるのが通例
建物賃貸借契約書には、「賃借人は、本契約終了時において、造作買取請求権を行使しないものとする」といった条項が置かれるのが通例です。賃貸人としては、賃借人が自分の好みで取り付けた造作を、退去のたびに時価で買い取らされるのでは負担が大きすぎるからです。
したがって、実際の紛争で33条が正面から問題になる場面は多くありません。試験で問われるのは、この特約が有効かどうかという一点であり、有効だという結論を条文の列挙から言えるかどうかが問われています。
一時使用目的の建物賃貸借には章ごと適用がない
もう1つの適用除外があります。借地借家法40条です。
この章の規定は、一時使用のために建物の賃貸借をしたことが明らかな場合には、適用しない。
――借地借家法40条
「この章」とは借家に関する第3章のことで、26条から40条までを指します。33条もこの章に含まれるので、一時使用目的であることが明らかな建物賃貸借には造作買取請求権が生じません。特約による排除以前の問題として、そもそも条文が適用されないという構造です。
建設現場の仮設事務所や、期間を限った催事用の店舗のように、一時使用であることが客観的に明らかな場合が想定されています。借地借家法の適用範囲そのものは借地借家法の全体像にまとめています。
定期建物賃貸借でも扱いは変わらない
38条の定期建物賃貸借であっても、33条の適用は排除されません。定期建物賃貸借は更新がないという点に特徴がある制度であって、造作買取請求権に固有の規定を置いていないからです。
もっとも、定期建物賃貸借の契約書にも放棄特約が置かれるのが通例なので、結果として請求権が発生しない点は普通借家と同じです。定期建物賃貸借の成立要件は定期借家契約で扱っています。
造作代金で建物を留置できるか
295条1項本文の文言から考える
ここが本記事の山場です。造作買取請求権を行使して代金債権を取得した賃借人は、その支払を受けるまで建物を明け渡さないと言えるでしょうか。
出発点は民法295条1項本文です。
他人の物の占有者は、その物に関して生じた債権を有するときは、その債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができる。
――民法295条1項本文
留置できるのは「その物に関して生じた債権」を有するときに限られます。占有している物と、被担保債権との間に関連がなければなりません。この関連を牽連性と呼びます。制度の全体像は同時履行の抗弁権と留置権にあります。
造作代金債権は建物について生じた債権ではない
そこで、造作買取請求権によって発生する債権が何についての債権かを確かめます。
33条1項によって成立するのは、造作の売買です。したがって発生するのは造作の代金債権であって、建物の代金債権ではありません。そして条文が挙げる造作の例は「畳、建具その他の造作」であり、いずれも建物とは別個の物として観念されています。
造作代金債権は、造作について生じた債権であって、建物について生じた債権ではありません。したがって建物との牽連性を欠き、建物を留置することはできません。判例もこれを否定しています。
留置の対象になり得るのは造作のほうです。もっとも、造作は既に建物に付加されており、賃借人が造作だけを留め置いて建物を明け渡すという状態は実際には作りにくいでしょう。結果として、造作買取請求権を行使しても賃借人は建物を明け渡さなければならない、ということになります。
同時履行の抗弁権でも同じ結論になる
留置権が使えないなら同時履行の抗弁権はどうか、という発想が次に来ます。しかしこちらも通りません。
民法533条の同時履行の抗弁権は、1個の双務契約から生じた対価的な債務の間で認められる制度です。建物の明渡義務は建物賃貸借契約から生じ、造作代金の支払義務は造作買取請求権の行使によって成立した造作の売買から生じます。契約が別なので、対価的な関係に立ちません。判例も、造作代金の支払と建物の明渡しは同時履行の関係に立たないとしています。
留置権でも同時履行の抗弁権でも建物を留め置けない、という結論が二重に確認できます。
費用償還請求権との違いはどこにあるか
これに対して、賃借人が建物に支出した必要費・有益費の償還請求権(民法608条)は、まさにその建物について支出した費用から生じた債権です。295条1項本文の「その物に関して生じた債権」に当たり、牽連性を満たします。したがって賃借人は、償還を受けるまで建物を留置できます。
分かれ目は1つだけです。費用が建物そのものに投下されたのか、それとも建物とは別個の物の代金なのか。外壁の張替え費用は建物に投下されているので建物を留置でき、取り外せる畳の代金は建物とは別個の物の代金なので建物を留置できません。
この一文を持っていれば、造作か費用かの区別がそのまま留置の可否に直結します。逆に、「造作は留置できない、費用は留置できる」と結論だけ覚えると、どちらがどちらだったかが試験中に反転します。
有益費でも留置できなくなる場合がある
なお、費用償還請求権であっても常に留置できるわけではありません。608条2項にはただし書があります。
ただし、裁判所は、賃貸人の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる。
――民法608条2項ただし書
裁判所が期限を許与すると、その期限が来るまで償還請求権の弁済期は到来していないことになります。295条1項ただし書は「その債権が弁済期にないときは、この限りでない」と定めているので、期限を許与された場合には留置権が成立しません。
この期限許与は有益費についての規定であり、必要費には対応する規定がありません。608条1項が「直ちにその償還を請求することができる」と定めているので、必要費については弁済期の問題が生じにくい構造です。
放棄特約があるとどうなるか
収去義務と収去権が残る
造作買取請求権が特約で排除されている場合、賃借人が付加した造作はどう処理されるのでしょうか。ここで働くのが民法622条による599条の準用です。
622条は、597条1項、599条1項および2項、600条の規定を賃貸借について準用すると定めています。準用される599条1項と2項は次のとおりです。
借主は、借用物を受け取った後にこれに附属させた物がある場合において、使用貸借が終了したときは、その附属させた物を収去する義務を負う。ただし、借用物から分離することができない物又は分離するのに過分の費用を要する物については、この限りでない。
2 借主は、借用物を受け取った後にこれに附属させた物を収去することができる。
――民法599条1項・2項
1項が収去義務、2項が収去権です。賃貸借に準用されるので、賃借人は自分が付加した物を取り外して持ち帰る義務を負い、同時に持ち帰る権利も持ちます。
義務と権利の両方が定められている点が要点です。義務だけなら、賃貸人が「置いていけ」と言えば賃借人は従うことになりますが、2項があるため賃借人の側から取り外すこともできます。
分離できない物は収去しなくてよい
599条1項ただし書は、借用物から分離することができない物、または分離するのに過分の費用を要する物については収去義務を負わないとしています。
外壁の張替えのように建物と一体化してしまったものは、そもそも分離できません。取り外そうとすれば建物を壊すことになります。こうした物について収去義務を課すのは無意味なので、ただし書で外されています。
この線引きは、造作か建物の構成部分かの区別と重なります。造作は分離できるので収去の対象になり、建物の構成部分は分離できないので収去義務がなく、代わりに費用償還請求権の問題になります。制度が一貫していることが分かります。
原状回復義務とは別の話である
収去義務と紛らわしいのが、621条の原状回復義務です。
賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
――民法621条
621条が対象とするのは「損傷」であり、599条が対象とするのは「附属させた物」です。傷を直す義務と、付け足した物を撤去する義務は別の条文に置かれています。そして621条は通常損耗と経年変化を明文で除外しているのに対し、599条にはそうした除外がありません。
この621条も、622条による599条の準用も、平成29年の債権法改正で整理された条文です。改正前は原状回復の範囲が条文になく、判例と契約実務に委ねられていました。改正で明文化された論点の一覧は民法改正のポイントにまとめています。原状回復の範囲をめぐる特約の問題は賃貸借契約の注意点で扱っています。
必要費・有益費の償還請求権
608条1項の必要費
民法608条1項は次のとおりです。
賃借人は、賃借物について賃貸人の負担に属する必要費を支出したときは、賃貸人に対し、直ちにその償還を請求することができる。
――民法608条1項
必要費とは、賃借物の保存に必要な費用です。雨漏りの修繕費、壊れた設備の修理費など、目的物の維持のために不可欠な出費がこれに当たります。
そもそも賃貸人は606条1項により修繕義務を負っているので、必要費は本来賃貸人が負担すべきものです。条文が「賃貸人の負担に属する必要費」と書いているのは、そのことを示しています。賃借人が立て替えた形になるため、支出後直ちに償還を請求できます。賃貸借の終了を待つ必要はありません。
608条2項の有益費
同条2項は次のとおりです。
賃借人が賃借物について有益費を支出したときは、賃貸人は、賃貸借の終了の時に、第百九十六条第二項の規定に従い、その償還をしなければならない。
――民法608条2項本文
有益費とは、賃借物の価値を増加させるために支出した費用です。必要ではないが目的物を良くする出費、たとえば内装のグレードアップや設備の改良にかかる費用がこれに当たります。
償還の時期は賃貸借の終了の時です。必要費と違って直ちには請求できません。価値の増加が残っているかどうかは、終了時にならないと確定しないからです。必要費は直ちに、有益費は終了時に。この時期の違いが出題の中心です。
償還額は196条2項が決める
608条2項が準用する196条2項は次のとおりです。
占有者が占有物の改良のために支出した金額その他の有益費については、その価格の増加が現存する場合に限り、回復者の選択に従い、その支出した金額又は増価額を償還させることができる。
――民法196条2項本文
ここから3つのことが分かります。第1に、価格の増加が現存する場合に限られること。改良したもののその後に価値が失われていれば、償還を求められません。第2に、支出した金額と増価額の2つが候補になること。第3に、そのどちらにするかを選ぶのは「回復者」、賃貸借の文脈では賃貸人であることです。
選択権が賃貸人にあるという点が繰り返し問われます。支出額100万円で増価額が60万円なら、賃貸人は60万円のほうを選びます。賃借人が高いほうを選べる制度ではありません。
同意は要らない
造作買取請求権との最大の違いがここです。608条は賃貸人の同意を要件にしていません。賃借人が無断で改良工事をした場合でも、価値の増加が現存していれば有益費償還請求権が発生します。
もっとも、無断で建物に手を加えることが賃借人の用法遵守義務や信頼関係との関係で問題になる余地は残ります。費用償還請求権が発生することと、その工事が契約上適法であることは別の話です。
608条は任意規定である
ここは、多くの教材が誤って説明している箇所です。
民法608条には、これに反する特約を無効とする規定が置かれていません。借地借家法37条のような強行規定の列挙も、費用償還請求権を対象に含んでいません。したがって、費用償還請求権を排除したり制限したりする特約は、条文上は有効です。
実際、建物賃貸借契約書には、造作買取請求権の放棄特約とあわせて、費用償還請求権を放棄する条項や、修繕費を賃借人の負担とする条項が置かれるのが通例です。
「造作買取請求権は特約で排除できるが、有益費償還請求権は強行規定なので排除できない」という説明を見かけたら、それは誤りです。どちらも任意規定であり、どちらも特約で排除できます。両者を分けるのは特約の可否ではなく、同意の要否と留置の可否です。
ただし、賃借人が消費者である場合には消費者契約法10条による制限がかかり得ますし、通常損耗を賃借人に転嫁する特約については判例が明確性の要件を課しています。「任意規定だから何を書いてもよい」という意味ではない点は、賃貸借契約の注意点で扱っているとおりです。
造作買取請求権と費用償還請求権を軸ごとに比べる
根拠条文が置かれている場所
造作買取請求権は借地借家法33条、費用償還請求権は民法608条です。特別法と一般法という関係にあります。
この配置の違いから、適用範囲の違いが出てきます。借地借家法33条は建物の賃貸借にしか適用されません。土地の賃貸借にも、動産の賃貸借にも及びません。これに対し民法608条は賃貸借一般の規定なので、建物でも土地でも動産でも適用されます。
さらに、借地借家法33条は40条により一時使用目的の建物賃貸借に適用されませんが、民法608条にはそうした除外がありません。
賃貸人の同意が要るかどうか
33条は「賃貸人の同意を得て」を明文の要件としています。608条にはこの要件がありません。同意が要るのが造作、要らないのが費用。
この違いには理由があります。造作買取請求権は賃貸人に売買の当事者になることを強制する制度なので、少なくとも設置の段階で賃貸人の関与がなければ不意打ちになります。これに対し費用償還は、賃貸人が本来負担すべき費用(必要費)や、賃貸人が現に利益を得ている価値の増加分(有益費)を清算するだけなので、同意を要件にする必要がありません。
権利の性質が違う
造作買取請求権は形成権です。行使すれば売買が成立し、賃貸人に拒む自由はありません。
費用償還請求権は形成権ではなく、通常の債権です。費用の支出という事実によって発生し、賃借人はその支払を求めます。新たに契約関係を作り出すわけではありません。
片方は法律関係を作る権利、もう片方は既に発生している債権。この性質の違いが、次の金額の決まり方にもつながります。
金額の決まり方が違う
造作は時価です。売買が成立する以上、代金額が定まらなければ制度が動かないので、法律が「時価」と決めています。
有益費は、価格の増加が現存する場合に限り、支出した金額または増価額のうち賃貸人が選択したほうです。必要費は支出した金額そのものです。
造作は時価の一本、有益費は2つの候補から賃貸人が選ぶ。この違いを取り違えて「造作の買取価格は賃貸人が選択できる」とする肢が作られます。
行使できる時期が違う
造作買取請求権は、賃貸借が期間の満了または解約の申入れによって終了するときです。終了原因が限定されています。
必要費償還請求権は支出後直ちに、有益費償還請求権は賃貸借の終了の時です。有益費のほうは終了原因を限定していません。債務不履行解除で終了した場合でも、有益費償還請求権は発生します。
造作は終了原因が限定され、費用は限定されない。ここも対比のポイントです。
建物を留置できるかどうか
既に述べたとおり、造作代金債権では建物を留置できず、費用償還請求権では留置できます。牽連性の有無が分かれ目です。
この軸だけは、条文を並べても直接には出てきません。295条1項本文の「その物に関して生じた債権」という要件に、それぞれの債権を当てはめて考える必要があります。だからこそ最も問われます。
借地の建物買取請求権との対比
13条は土地の話である
名前が似ていて混同されるのが、借地借家法13条の建物買取請求権です。
借地権の存続期間が満了した場合において、契約の更新がないときは、借地権者は、借地権設定者に対し、建物その他借地権者が権原により土地に附属させた物を時価で買い取るべきことを請求することができる。
――借地借家法13条1項
13条は借地、33条は借家です。13条の主体は借地権者(土地を借りて建物を建てた人)で、相手方は借地権設定者(地主)。対象は土地の上に建っている建物です。33条の主体は建物の賃借人で、相手方は建物の賃貸人。対象は建物に付加された造作です。
制度の趣旨も違います。13条は、借地契約が終わったときに建物を取り壊させるのは社会経済上の損失が大きいという考慮から、建物を地主に買い取らせて存続させる制度です。33条は、賃借人が投下した費用を回収させる制度です。片方は建物の存続、もう片方は費用の回収。
13条は強行規定である
ここが最も出題される非対称です。借地借家法16条を見ます。
第十条、第十三条及び第十四条の規定に反する特約で借地権者又は転借地権者に不利なものは、無効とする。
――借地借家法16条
13条は16条によって強行規定とされています。したがって、建物買取請求権を放棄する特約は、借地権者に不利なものである限り無効です。
これに対し33条は、37条の列挙(31条・34条・35条)に入っていないので任意規定であり、放棄特約が有効でした。同じ借地借家法の中で、13条は強行、33条は任意。この非対称が繰り返し問われます。
覚え方としては、条文の位置と強行規定リストをセットで持つのが確実です。借地の強行規定リストは16条で10条・13条・14条、借家の強行規定リストは37条で31条・34条・35条。どちらのリストにも買取請求権が1つずつ関わっており、借地側は入っていて借家側は入っていません。
14条の第三者の建物買取請求権
16条の列挙に出てくる14条も確認しておきます。
第三者が賃借権の目的である土地の上の建物その他借地権者が権原によって土地に附属させた物を取得した場合において、借地権設定者が賃借権の譲渡又は転貸を承諾しないときは、その第三者は、借地権設定者に対し、建物その他借地権者が権原によって土地に附属させた物を時価で買い取るべきことを請求することができる。
――借地借家法14条
借地上の建物を買った第三者が、地主から借地権の譲渡を承諾してもらえなかった場合に、建物を地主に買い取らせる権利です。13条が期間満了・更新なしの場面、14条が譲渡の不承諾の場面と、発動する場面が違います。
14条も16条により強行規定です。借地権の譲渡と地主の承諾をめぐる仕組みは借地権の対抗力と借地権とはで扱っています。
13条2項の期限許与
13条には2項もあります。建物が借地権の存続期間が満了する前に、借地権設定者の承諾を得ないで残存期間を超えて存続すべきものとして新たに築造されたものであるときは、裁判所は、借地権設定者の請求により、代金の全部または一部の支払につき相当の期限を許与することができるという規定です。
無断で建て替えた建物についてまで、地主に即時の支払を強いるのは酷だという調整です。3項により、転借地権者と借地権設定者との間にも準用されます。
建物買取請求権では建物を留置できる
留置の可否についても、13条と33条は結論が分かれます。
13条の建物買取請求権が行使されると、建物そのものについて時価による売買が成立します。したがって代金債権は建物について生じた債権であり、牽連性を満たします。借地権者は代金の支払を受けるまで建物の引渡しを拒むことができ、これに伴って敷地の占有も継続できます。
造作の場合と違うのは、売買の目的物が占有している物そのものである点です。造作は建物とは別物だから留置できず、建物買取請求権は建物そのものだから留置できる。この対比を持っておくと、両制度の違いが1本の線でつながります。なお、引渡しを拒める間の使用利益をどう扱うかという論点は同時履行の抗弁権と留置権で扱っています。
なお、13条が16条により強行規定とされるのは普通借地権の場面であって、定期借地権では扱いが変わります。22条の定期借地権(存続期間50年以上)と23条1項の事業用定期借地権(30年以上50年未満)は、いずれも「第九条及び第十六条の規定にかかわらず」として、13条の買取りの請求をしないこととする旨を定めることができると明記しています。さらに23条2項の事業用借地権(10年以上30年未満)は、特約を待つまでもなく13条の規定自体を適用しないとしています。16条の強行規定性は、定期借地権の条文が明文で外しているという構造です。3類型の違いは定期借地権で扱っています。
試験での出題ポイント
放棄特約の効力を反転させる
最頻出です。「造作買取請求権を排除する特約は、賃借人に不利であるため無効である」という形で出ます。37条の列挙に33条が入っていないので有効です。
逆方向として、「建物買取請求権を放棄する特約は有効である」という肢も作られます。こちらは16条により13条が強行規定なので、借地権者に不利なら無効です。借家の造作は排除できる、借地の建物は排除できない。セットで覚えてください。
同意の要否を入れ替える
「賃借人が賃貸人の同意を得ずに付加した造作についても、造作買取請求権を行使できる」は誤りです。33条1項が明文で同意を要件にしています。
反対に、「賃借人が賃貸人の同意を得ずに支出した有益費については、償還を請求できない」も誤りです。608条は同意を要件にしていません。造作は同意が要る、費用は要らない。この向きを固定してください。
終了原因をずらす
「賃借人の債務不履行を理由に賃貸借契約が解除された場合であっても、賃借人は造作買取請求権を行使できる」は誤りです。33条1項は終了原因を「期間の満了又は解約の申入れ」に限定しています。
一方、有益費償還請求権には終了原因の限定がありません。「債務不履行解除の場合には有益費の償還も請求できない」とする肢は誤りになります。
留置と同時履行を認めさせる
「賃借人は、造作買取代金の支払を受けるまで建物の明渡しを拒むことができる」は誤りです。造作代金債権は建物について生じた債権ではないので牽連性を欠き、留置権は成立しません。同時履行の抗弁権も、契約が別なので働きません。
逆に、「賃借人は、有益費の償還を受けるまで建物の明渡しを拒むことができる」は正しい記述です。ただし裁判所が608条2項ただし書により期限を許与した場合には、弁済期が到来していないことになるので留置権は成立しません。
なお、敷金の返還を受けるまで明け渡さないという主張は、留置権でも同時履行でも通りません。622条の2第1項1号が敷金返還義務の発生時期を「賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき」と定めており、明渡しが先履行であることが条文に書かれているからです。敷金の仕組みは敷金と礼金にまとめています。
償還額の選択権を賃借人に移す
「有益費の償還額について、支出した金額と増価額のいずれによるかは賃借人が選択する」は誤りです。196条2項は「回復者の選択に従い」と書いており、賃貸借では賃貸人が選択します。
「造作の買取価格は、賃借人が造作を取得するために支出した金額である」も誤りです。33条1項は「時価」と書いています。
請求先を取り違えさせる
「建物の転借人は、転貸人に対して造作買取請求権を行使する」は誤りです。33条2項は「建物の転借人と賃貸人との間について準用する」と書いており、請求先は賃貸人です。
借地と借家を混ぜる
「建物の賃借人は、賃貸借が終了したときに、賃貸人に対して建物を時価で買い取るべきことを請求できる」は、13条と33条を混ぜた誤りです。建物の賃借人が買い取らせられるのは造作であって建物ではありません。
「借地権者は、借地契約が終了したときに、地主に対して造作を時価で買い取るべきことを請求できる」も同種の誤りです。借地権者が買い取らせられるのは建物です。
必要費と有益費の時期をずらす
「必要費は賃貸借の終了時でなければ償還を請求できない」は誤りです。608条1項は「直ちに」と書いています。
「有益費は支出後直ちに償還を請求できる」も誤りです。608条2項は「賃貸借の終了の時に」と書いています。1項が直ちに、2項が終了時。条文の項の順番と時期の順番が一致しているので、順番で覚えられます。
覚え方・整理の仕方
2つの強行規定リストを並べて持つ
借地借家法の強行規定リストは2つです。借地が16条で10条・13条・14条、借家が37条で31条・34条・35条。この6つの条番号を暗唱できるようにしておくと、「33条は入っているか」という問いに即答できます。
さらに、どちらのリストにも買取請求権が関わっていることを意識します。借地側は13条と14条という2つの買取請求権が入っており、借家側の33条は入っていない。買取請求権は借地では守られ、借家では守られない。この一文で非対称を記憶します。
「同意・時価・形成権」を3語で持つ
造作買取請求権の中身は、この3語でほぼ言い切れます。同意を得て付加したものが対象で、価格は時価、権利の性質は形成権。ここに終了原因の限定を足せば要件と効果が揃います。
費用償還請求権のほうは、同意不要・賃貸人の選択・終了時(有益費)または直ちに(必要費)の3語です。造作の3語と1対1で対応させると、どちらの話をしているかを見失いません。
留置の可否は「どこに投下したか」で決める
牽連性の判定は、費用や代金が建物そのものに向かったか、建物とは別個の物に向かったかで決まります。外壁の張替えは建物に向かった、畳の代金は畳に向かった。前者は留置でき、後者は留置できない。
そして借地の建物買取請求権は、売買の目的物が建物そのものなので留置できる。「対象と占有物が一致していれば留置できる」と一般化しておけば、3つの制度の結論を1つのルールから復元できます。
33条の条文を4分割して唱える
「同意を得て付加した/畳、建具その他の造作/期間の満了または解約の申入れによる終了/時価で買い取るべきことを請求」。この4つのブロックを順に唱える練習をしておくと、問題文でどのブロックが差し替えられているかがすぐ分かります。
これに1項後段の「賃貸人から買い受けた造作も同様」と、2項の「転借人と賃貸人との間に準用」を足せば、33条は全部です。条文が短いので、全文を持てる数少ない論点でもあります。権利関係の頻出論点全体の地図は権利関係の全体像にあります。
任意規定であることを2つ並べて確認する
造作買取請求権も費用償還請求権も、どちらも任意規定です。放棄特約が有効かどうかで両者を区別することはできません。区別するのは同意の要否と留置の可否です。
「造作は排除できて有益費は排除できない」という誤った対比を持っていると、正しい対比軸まで一緒に崩れます。ここは意識して上書きしてください。
理解度チェッククイズ
Q1. 建物の賃借人が賃貸人の同意を得て付加した造作について、造作買取請求権を放棄する旨の特約は、賃借人に不利であるため無効である。(○か×か)
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×:借地借家法37条は「第三十一条、第三十四条及び第三十五条の規定に反する特約で建物の賃借人又は転借人に不利なものは、無効とする」と定めており、**33条は列挙に入っていません。**したがって造作買取請求権を排除する放棄特約は、賃借人に不利であっても有効です。実務では建物賃貸借契約書にこの特約が置かれるのが通例です。これに対し、借地の建物買取請求権を定める13条は16条により強行規定とされているため、借地権者に不利な放棄特約は無効になります。この非対称が繰り返し問われます。Q2. 建物の賃借人は、造作買取代金の支払を受けるまで、建物の明渡しを拒むことができる。(○か×か)
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×:民法295条1項本文が留置権の要件とするのは「その物に関して生じた債権」を有することです。造作買取請求権によって成立するのは造作の売買であり、発生するのは**造作の代金債権**です。33条1項が挙げる造作は「畳、建具その他の造作」であって建物とは別個の物ですから、造作代金債権は建物について生じた債権ではなく、牽連性を欠きます。判例も建物の留置を否定しています。同時履行の抗弁権も、建物明渡義務と造作代金支払義務は別個の契約から生じており対価的な関係にないため成立しません。これに対し必要費・有益費の償還請求権(608条)は建物に投下された費用から生じた債権なので、建物を留置できます。Q3. 賃借人が賃貸人の同意を得ずに建物の内装を改良し、その価値の増加が賃貸借の終了時に現存している場合、賃借人は有益費の償還を請求することができる。(○か×か)
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○:民法608条2項は賃貸人の同意を要件としていません。**同意を要件とするのは借地借家法33条の造作買取請求権のほうです。**196条2項により、価格の増加が現存する場合に限り、支出した金額または増価額を償還させることができます。ただし、そのどちらによるかを選択するのは「回復者」、すなわち賃貸人です。賃借人が高いほうを選べるわけではありません。なお、無断で工事をしたこと自体が用法遵守義務や信頼関係との関係で問題になり得る点は、費用償還請求権が発生することとは別の話です。Q4. 賃借人の賃料不払を理由として建物賃貸借契約が解除された場合であっても、賃借人は賃貸人の同意を得て付加した造作について買取りを請求することができる。(○か×か)
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×:借地借家法33条1項は、造作買取請求権が行使できる場面を「建物の賃貸借が**期間の満了又は解約の申入れによって終了するとき**」と限定しています。債務不履行を理由とする解除による終了は、期間の満了でも解約の申入れでもないため、条文の文言上この場面に当たりません。判例もこれを認めていません。一方、民法608条の費用償還請求権には終了原因の限定がないので、債務不履行解除で終了した場合でも有益費の償還は請求できます。**造作は終了原因が限定され、費用は限定されない**という対比で覚えてください。Q5. 建物の転借人が賃貸人の同意を得て付加した造作について、転借人は転貸人に対して造作買取請求権を行使する。(○か×か)
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×:借地借家法33条2項は、1項の規定を「建物の賃貸借が期間の満了又は解約の申入れによって終了する場合における建物の**転借人と賃貸人**との間について準用する」と定めています。したがって転借人の請求先は、直接の契約相手である転貸人ではなく**賃貸人**です。また準用される場面は、転貸借ではなく原賃貸借が期間の満了または解約の申入れによって終了する場合に限られます。Q6. 造作買取請求権が行使された場合、賃貸人は造作の買取りを拒むことができるが、拒んだときは賃借人に損害賠償義務を負う。(○か×か)
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×:造作買取請求権は**形成権**です。賃借人の一方的な意思表示によって、造作について時価による売買が成立したのと同じ効果が生じます。賃貸人の承諾は不要であり、**拒むという選択肢がそもそもありません。**したがって「拒むことができる」という前提が誤りです。賃貸人に生じるのは、拒否権でも損害賠償義務でもなく、時価による代金支払義務です。なお、代金は買取請求の時点における客観的な時価であり、賃借人が造作を取得するために支出した金額ではありません。Q7. 一時使用のために建物を賃貸借したことが明らかな場合であっても、賃借人は賃貸人の同意を得て付加した造作について買取りを請求できる。(○か×か)
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×:借地借家法40条は「この章の規定は、一時使用のために建物の賃貸借をしたことが明らかな場合には、適用しない」と定めています。「この章」とは借家に関する第3章(26条から40条まで)であり、**33条もここに含まれます。**したがって一時使用目的であることが明らかな建物賃貸借には、造作買取請求権の規定自体が適用されません。特約による排除以前に、条文が及ばないという構造です。なお、民法608条の費用償還請求権は民法の規定なので、この場合でも適用されます。まとめ
造作買取請求権は借地借家法33条が定める形成権で、賃貸人の同意を得て付加した造作について、賃貸借が期間の満了または解約の申入れによって終了するときに、時価での買取りを請求できる権利です。賃貸人から買い受けた造作も対象になり(1項後段)、転借人にも準用されます(2項)。
出題の中心は2つです。第1に、37条の強行規定リスト(31条・34条・35条)に33条が入っていないため、放棄特約が有効であること。借地の建物買取請求権(13条)が16条により強行規定とされているのと対照的です。第2に、造作代金債権は建物について生じた債権ではないため、建物を留置できないこと。民法608条の費用償還請求権が建物に投下された費用から生じており留置できるのと対照的です。
そして、造作買取請求権と費用償還請求権を分けるのは、同意の要否・金額の決まり方・終了原因の限定・留置の可否の4つであって、特約による排除の可否ではありません。どちらも任意規定で、どちらも特約で排除できます。
留置権と同時履行の抗弁権という制度そのものに踏み込むなら同時履行の抗弁権と留置権へ、賃貸借契約の条項単位の読み方に進むなら賃貸借契約の注意点へ、借地の側の制度を確認するなら借地借家法の全体像へ進んでください。
条文を確認したら、宅建試験AIブートラボのアプリで権利関係の過去問演習に進み、造作と費用の切り分けを実際に判定してみてください。
民法・借地借家法・区分所有法など、条文だけでは判断しづらい論点は、過去問の肢で覚えるのが最短です。