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失踪宣告と同時死亡の推定|みなすと推定の違い

権利関係 読了 約38分

民法30条から32条の2を条文から解説。普通失踪の7年と特別失踪の1年、死亡とみなされる時期の違い、失踪宣告の取消しと現存利益、そして同時死亡の推定まで。みなすと推定の効果の差を条文の文言で分けます。

目次

    この記事は、民法第1編第2章「人」のうち、第4節(住所)・第5節(不在者の財産の管理及び失踪の宣告)・第6節(同時死亡の推定)を扱います。同じ章の第3節(行為能力)は「制限行為能力者制度」で扱っているので、この記事は「人」の章の後半を担当する位置にあります。権利関係全体での学習設計は「権利関係の全体像」を参照してください。

    この記事にこれだけの分量を割く理由を、先に率直に書きます。失踪宣告そのものが宅建試験の頻出論点だとは言えません。権利関係の全体像」で述べているとおり、権利関係は満点を狙う科目ではなく、深追いする範囲をあらかじめ決めておくべき科目です。それでもこの条文群を丁寧に読む価値があるのは、次の二つの理由からです。

    第一に、この条文群が「みなす」と「推定する」の違いを学ぶ最良の教材になっているからです。31条は「死亡したものとみなす」、32条の2は「同時に死亡したものと推定する」。隣り合う条文で語が使い分けられ、しかも効果が違います。この二語の区別は、民法のあらゆる条文を読むときに効いてきます。20条・23条・24条・121条・886条など、宅建の出題範囲だけでも両方の語が繰り返し現れます。

    第二に、32条の2の同時死亡の推定は、相続の計算問題として現れるからです。同時に死亡した者の間では相続が生じない。この一行が、相続人を確定させる場面で結論を動かします。相続の計算は「相続」で扱っている頻出領域なので、そこへの投資として回収できます。

    逆に、この記事で深追いしないと決めたことも先に書いておきます。失踪宣告が取り消された場合の婚姻関係の帰趨は、条文に規定がなく学説が分かれています。条文にない解釈論の深掘りは宅建試験では報われないので、争いがあるという事実を示すにとどめます。

    先に結論を七つ述べます。

    第一に、失踪宣告は「死亡したものとみなす」制度です(31条)。推定ではないので、生きている証拠を出しただけでは覆りません。家庭裁判所による取消しの手続が必要です。

    第二に、普通失踪は生死不明が7年間続いたとき(30条1項)、特別失踪は危難が去った後1年間生死不明のとき(同条2項)に宣告できます。

    第三に、死亡とみなされる時期は、普通失踪が「期間が満了した時」、特別失踪が「危難が去った時」です(31条)。特別失踪は1年経過時ではありません。ここが最頻出です。

    第四に、32条1項は「取り消さなければならない」と書いています。裁判所の裁量ではありません。

    第五に、32条1項後段により、取消しは「失踪の宣告後その取消し前に善意でした行為の効力に影響を及ぼさない」。この善意について、判例は当事者双方の善意を要するとしています。

    第六に、32条2項により、失踪宣告によって財産を得た者は権利を失いますが、返還義務は「現に利益を受けている限度」にとどまります。

    第七に、32条の2の同時死亡は「推定」です。反証で覆ります。そして同時に死亡した者の間では相続が生じません。

    なお、宅建試験は当該年度の4月1日現在施行の法令から出題されます。この記事で引用する民法の条文は、すべて2026年4月1日時点で施行されているものです。民法は令和8年法律第45号により2026年6月24日に改正・施行されていますが本則1,173条に差分はなく、また30条から32条の2までは2020年4月1日施行の債権法改正でも変更されていません。この記事の内容に影響する改正はありません。

    民法第2章「人」のどこを扱うのか

    六つの節の並び

    民法第1編(総則)第2章は「人」と題され、六つの節で構成されています。

    第1節 権利能力(3条)。第2節 意思能力(3条の2)。第3節 行為能力(4条から21条)。第4節 住所(22条から24条)。第5節 不在者の財産の管理及び失踪の宣告(25条から32条)。第6節 同時死亡の推定(32条の2)。

    この並びには筋があります。第1節から第3節までは「人が権利の主体としてどこまでのことをできるか」を定めています。生まれれば権利能力を持つ(3条1項「私権の享有は、出生に始まる」)。判断能力がなければ意思表示は効力を持たない(3条の2)。判断能力が不十分なら保護する(4条以下)。

    第4節から第6節までは「その人がどこにいて、いつまでいるのか」を定めています。生活の本拠はどこか(22条)。いなくなったらどうするか(25条以下)。死んだかどうか分からないときはどうするか(30条以下)。同時に死んだように見えるときはどうするか(32条の2)。

    前半が「人の中身」、後半が「人の輪郭」と捉えると、この記事の位置づけがはっきりします。

    三つの節が一続きになっている

    第4節から第6節までは、条文上も内容上もつながっています。

    25条は不在者を「従来の住所又は居所を去った者」と定義しています。この定義の中に第4節の住所と居所がそのまま入っているので、第4節を飛ばして第5節を読むことはできません。

    そして第5節の中で、25条から29条までが「戻ってくるかもしれない人」への対応、30条から32条までが「もう戻らないと扱う」ための対応になっています。同じ人に対する対応が、時間の経過とともに段階を上げていく構造です。

    第6節の同時死亡の推定は、死亡の先後が分からないときの処理です。失踪宣告が「死んだかどうか分からない」場面を扱うのに対し、32条の2は「死んだのは確かだが順序が分からない」場面を扱います。扱っている不明の中身が違うだけで、どちらも死亡をめぐる不確実性を法律が処理する規定です。

    • 第2章「人」は六つの節。前半が人の中身、後半が人の輪郭
    • 25条の不在者の定義に、第4節の住所と居所が組み込まれている
    • 第5節は「戻るかもしれない人」から「もう戻らないと扱う」へ段階が上がる

    「みなす」と「推定する」の違い

    条文の語が効果を決めている

    民法は「みなす」と「推定する」を厳密に使い分けています。そして、どちらの語が使われているかで効果が変わります。

    「みなす」は、法律が事実をそう扱うと決めてしまうことです。反対の事実を証明しても覆りません。覆すには、その効果を作り出した手続そのものを取り消す必要があります。

    「推定する」は、法律がひとまずそう扱うと決めることです。反対の事実を証明すれば覆ります。手続は要らず、証拠を出せば足ります。

    この違いは、争いになったときに誰が何を証明すればよいかを決めます。推定される事実については、それを争う側が反証しなければなりません。みなされる事実については、そもそも反証という手段がありません。

    第2章の中に両方が並んでいる

    この記事が扱う範囲だけを見ても、両方の語が使われています。

    「みなす」の例。23条1項「住所が知れない場合には、居所を住所とみなす」。24条「ある行為について仮住所を選定したときは、その行為に関しては、その仮住所を住所とみなす」。31条「……死亡したものとみなす」。

    「推定する」の例。32条の2「これらの者は、同時に死亡したものと推定する」。

    31条と32条の2は、条文番号でいえば隣同士です。同じ「死亡」を扱いながら、一方は「みなす」、他方は「推定する」。条文の起草者が意識的に書き分けていることが、この配置から読み取れます。

    覆すのに何が要るか

    31条の「みなす」を覆すには、32条1項の取消しの手続が要ります。「失踪者が生存すること又は前条に規定する時と異なる時に死亡したことの証明があったときは、家庭裁判所は、本人又は利害関係人の請求により、失踪の宣告を取り消さなければならない」。

    証明があれば足りるのではなく、証明があったうえで請求し、家庭裁判所が取り消して初めて効果が消えます。失踪者が生きて帰ってきただけでは、まだ死亡したものとみなされたままです。

    32条の2の「推定」を覆すには、手続は要りません。一方が他方の死亡後になお生存していたことを証明すれば、それだけで推定が破れます。

    「生きて帰ってきたのだから当然に効果はなくなる」という発想は、みなし規定では通用しません。この点が、失踪宣告という制度を理解する上での中心です。

    他の条文でも同じ区別が効く

    みなすと推定するの区別は、この章に限りません。宅建の出題範囲でも繰り返し現れます。

    「みなす」の例。20条は制限行為能力者の相手方の催告について、確答がない場合に追認したものとみなす、または取り消したものとみなすと定めています。121条は取り消された行為が「初めから無効であったものとみなす」と定めています。886条1項は「胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす」と定めています。

    「推定する」の例。136条1項は「期限は、債務者の利益のために定めたものと推定する」と定めています。420条3項は「違約金は、賠償額の予定と推定する」と定めています。188条は占有者が本権を有するものと推定するとしています。

    条文を読むとき、文末の語を必ず確認する。この習慣は、失踪宣告以外の場面でこそ効いてきます。無効と取消しの効果の違いは「無効と取消しの違い」、期限の利益の推定は「条件と期限の違い」で扱っています。

    • みなすは反証で覆らない。覆すには手続が要る
    • 推定するは反証で覆る。手続は要らない
    • 31条は「みなす」、32条の2は「推定する」。隣接条文で書き分けられている

    住所(22条から24条)

    22条 ― 生活の本拠

    各人の生活の本拠をその者の住所とする。(民法22条)

    条文はこれだけです。基準は「生活の本拠」であり、住民票の登録地とは書かれていません。

    住民票は住民基本台帳法に基づく行政上の記録であって、民法22条の住所を決めるものではありません。実態として生活の中心がどこにあるかで判断されます。単身赴任、施設への入所、長期の出張といった場面で、届出上の住所と生活の本拠がずれることは珍しくありません。

    23条 ― 居所を住所とみなす

    住所が知れない場合には、居所を住所とみなす。
    2 日本に住所を有しない者は、その者が日本人又は外国人のいずれであるかを問わず、日本における居所をその者の住所とみなす。ただし、準拠法を定める法律に従いその者の住所地法によるべき場合は、この限りでない。(民法23条)

    居所とは、生活の本拠とまではいえないが現に住んでいる場所を指します。1項は「住所が知れない場合」という条件つきです。住所が分かっているなら、居所を住所とみなす必要はありません。

    2項は日本に住所を有しない者についての規定で、日本人か外国人かを問わないと明記されています。ただし書は国際私法上の調整で、宅建試験の範囲では深入りする必要がありません。

    24条 ― 仮住所

    ある行為について仮住所を選定したときは、その行為に関しては、その仮住所を住所とみなす。(民法24条)

    「その行為に関しては」という限定つきです。仮住所を選定しても、その行為以外の場面では本来の住所が住所のままです。契約書に「本契約に関する住所として下記を指定する」といった条項を置く実務が、この条文に対応します。

    22条から24条までのうち、23条と24条は「みなす」で書かれています。居所や仮住所が本当は生活の本拠でなくても、法律がそう扱うと決めているわけです。この章の冒頭から、みなし規定が現れていることを確認しておいてください。

    住所が効いてくる場面

    住所は民法のあちこちで基準として使われます。

    弁済の場所。484条1項は、特定物の引渡しは債権発生の時にその物が存在した場所で、その他の弁済は債権者の現在の住所で行うと定めています。弁済の場所については「弁済と供託」で扱っています。

    相続の開始の場所。883条は「相続は、被相続人の住所において開始する」と定めています。相続人の住所でも、財産の所在地でもありません。

    そして不在者の定義。25条が「従来の住所又は居所を去った者」と書いているため、住所の概念が不在者制度の入口になっています。

    不在者とは誰か(25条)

    定義は条文の中にある

    従来の住所又は居所を去った者(以下「不在者」という。)がその財産の管理人(以下この節において単に「管理人」という。)を置かなかったときは、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求により、その財産の管理について必要な処分を命ずることができる。本人の不在中に管理人の権限が消滅したときも、同様とする。(民法25条1項)

    「従来の住所又は居所を去った者」が不在者の定義です。括弧書きで定義されているので、条文を読めば分かります。

    生死不明は要件ではない

    ここが重要です。25条の定義には、生死が明らかでないという要件が入っていません。生きていることが分かっていても、住所や居所を去って戻る見込みがなければ不在者にあたります。

    失踪宣告(30条)が生死不明を要件としているのと対照的です。同じ第5節の中で、条文ごとに生死不明が要件になったりならなかったりするので、条文単位で確認する必要があります。

    管理人を置かなかったとき

    25条1項が発動するのは「管理人を置かなかったとき」です。不在者が自分で管理人を置いていれば、家庭裁判所が処分を命じる必要がありません。後段は、管理人を置いていたがその権限が消滅した場合も同じだとしています。

    2項は、家庭裁判所の命令の後に本人が管理人を置いたときは、家庭裁判所は請求により「その命令を取り消さなければならない」と定めています。必要的な取消しである点は、後述する32条1項と同じ書き方です。

    請求権者は利害関係人または検察官

    25条の請求権者は「利害関係人又は検察官」です。

    これに対し、30条の失踪宣告の請求権者は「利害関係人」だけで、検察官が入っていません。

    理由は制度の性質の違いにあります。財産管理は財産の散逸を防ぐための保全的な措置であり、公益的な観点から検察官の関与を認める余地があります。これに対し失踪宣告は、人を死亡したものとみなすという重大な効果を生じさせるものであり、身分関係にも及びます。公益を理由に国が積極的に発動させる仕組みにはなっていない、という設計です。

    「失踪宣告は利害関係人または検察官の請求によりすることができる」という選択肢は、条文に検察官がないため誤りです。この対比は、条文の文言をそのまま比べれば確認できます。

    不在者の財産管理(26条から29条)

    26条 ― 改任にはここで初めて生死不明が要る

    不在者が管理人を置いた場合において、その不在者の生死が明らかでないときは、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求により、管理人を改任することができる。(民法26条)

    不在者が自分で管理人を置いていた場合の規定です。「その不在者の生死が明らかでないとき」という要件が付いています。

    25条には生死不明の要件がなく、26条にはある。同じ節の中で条文ごとに要件が違うことが、ここで確認できます。理由は、本人が選んだ管理人を裁判所が交代させるという介入の強さにあります。本人が生きていて連絡が取れるなら、本人自身が管理人を交代させればよいからです。

    27条 ― 財産目録の作成

    27条1項は、家庭裁判所が選任した管理人に財産目録の作成義務を課し、その費用は不在者の財産から支弁するとしています。

    2項は、不在者の生死が明らかでない場合において、利害関係人または検察官の請求があるときは、家庭裁判所は不在者が置いた管理人にも目録の作成を命ずることができるとしています。ここでも生死不明が要件になっています。

    3項は、家庭裁判所が管理人に対し、財産の保存に必要と認める処分を命ずることができるとしています。

    28条 ― 権限外の行為には家庭裁判所の許可

    管理人は、第百三条に規定する権限を超える行為を必要とするときは、家庭裁判所の許可を得て、その行為をすることができる。不在者の生死が明らかでない場合において、その管理人が不在者が定めた権限を超える行為を必要とするときも、同様とする。(民法28条)

    この条文は103条を引いています。103条は代理の節にある規定です。

    権限の定めのない代理人は、次に掲げる行為のみをする権限を有する。
    一 保存行為
    二 代理の目的である物又は権利の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的とする行為(民法103条)

    つまり、管理人が当然に持っている権限は、保存行為と、性質を変えない範囲での利用行為・改良行為に限られます。これを超える行為、たとえば不動産の売却や抵当権の設定には、家庭裁判所の許可が必要です。

    28条が条文の中で103条を名指ししていることに注意してください。管理人の権限の中身は28条には書かれておらず、代理の規定を借りています。代理権の範囲については「代理制度」で扱っています。

    なお28条後段は、不在者が自分で置いた管理人について、生死不明の場合に、不在者が定めた権限を超える行為をするときも家庭裁判所の許可が必要だとしています。ここでも生死不明が要件です。

    29条 ― 担保と報酬

    29条1項は、家庭裁判所が管理人に相当の担保を立てさせることができるとしています。2項は、不在者の財産の中から相当な報酬を与えることができるとしています。いずれも「できる」という裁量的な規定です。

    生死不明が要件になる条文とならない条文

    第5節を通して整理すると、次のようになります。

    生死不明を要件としないのは、25条(管理人の選任等)です。不在者の定義そのものに生死不明が入っていないためです。

    生死不明を要件とするのは、26条(改任)、27条2項(不在者が置いた管理人への目録作成命令)、28条後段(不在者が置いた管理人の権限外行為)、そして30条(失踪宣告)です。

    共通しているのは、本人が自分で決めた事柄に裁判所が介入する場面だという点です。本人が生きていて意思を確認できるなら、裁判所が乗り出す必要はありません。理由が分かれば、どの条文に生死不明が付いているかを暗記する必要がなくなります。

    • 25条の不在者の定義に生死不明は入っていない
    • 26条・27条2項・28条後段・30条には生死不明が要件として付いている
    • 管理人の権限は103条から借りている。超えるには家庭裁判所の許可
    • 25条の請求権者は利害関係人または検察官。30条は利害関係人だけ

    失踪宣告の要件(30条)

    1項 ― 普通失踪

    不在者の生死が七年間明らかでないときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求により、失踪の宣告をすることができる。(民法30条1項)

    要件は生死不明が7年間続いたことです。行方が分からなくなってから7年ではなく、生死が明らかでない状態が7年間継続することが条文の文言です。

    2項 ― 特別失踪(危難失踪)

    戦地に臨んだ者、沈没した船舶の中に在った者その他死亡の原因となるべき危難に遭遇した者の生死が、それぞれ、戦争が止んだ後、船舶が沈没した後又はその他の危難が去った後一年間明らかでないときも、前項と同様とする。(民法30条2項)

    条文は三つを並べています。戦地に臨んだ者、沈没した船舶の中に在った者、そしてその他死亡の原因となるべき危難に遭遇した者

    前の二つは例示で、三つ目が受け皿です。「死亡の原因となるべき危難」に当たるかどうかが判断の基準になります。地震、火災、雪崩、航空機事故などが想定されます。

    期間の起算点も三つに対応しています。戦争が止んだ後、船舶が沈没した後、その他の危難が去った後。いずれも1年間です。

    期間が7年から1年に短縮される理由

    普通失踪の7年に対し、特別失踪は1年です。死亡している蓋然性が格段に高いからです。

    普通失踪では、その人が生きているかもしれない可能性が相当程度あります。単に連絡が取れないだけかもしれません。そこで長い期間を置いて慎重に判断します。

    特別失踪では、死亡の原因となるべき危難に遭遇したという事実が既に確認されています。その状況で1年間生死が分からないなら、死亡していると考えるのが自然です。期間の長短には理由があり、理由が分かれば数字が逆になりません。

    請求権者に検察官が入っていない

    前述のとおり、30条の請求権者は「利害関係人」だけです。25条・26条・27条2項が「利害関係人又は検察官」としているのと違います。同じ節の中の対比なので、条文を並べれば確認できます。

    「することができる」という書き方

    30条は「失踪の宣告をすることができる」と書いています。要件を満たせば家庭裁判所が必ず宣告するという書き方ではありません。

    これに対し、後述する32条1項は「取り消さなければならない」と書いています。宣告は裁量的、取消しは必要的という書き分けです。条文の文末に注目する読み方が、ここでも効きます。

    死亡とみなされる時(31条)

    前条第一項の規定により失踪の宣告を受けた者は同項の期間が満了した時に、同条第二項の規定により失踪の宣告を受けた者はその危難が去った時に、死亡したものとみなす。(民法31条)

    条文が二つの時点を書き分けている

    一つの条文の中に、二つの時点が書かれています。

    普通失踪は「同項の期間が満了した時」、つまり生死不明が7年続いてその7年が満了した時点です。

    特別失踪は「その危難が去った時」です。1年が経過した時ではありません。

    なぜ特別失踪だけ前倒しなのか

    普通失踪では、いつ死んだかを推測する手がかりがありません。生死不明の状態が続いたという事実しかないので、期間の満了という区切りを死亡時とするしかないわけです。

    特別失踪では、死亡の原因となるべき危難という具体的な出来事があります。その人が死亡したのだとすれば、死んだのは危難のときだと考えるのが最も自然です。船が沈没して行方不明になった人が、沈没から1年後に死んだと考える理由はありません。

    1年という期間は、宣告をするための待機期間にすぎず、死亡時期を決めるものではない。この区別が31条の要点です。

    宣告の時ではない

    どちらの場合も、失踪宣告がされた時が死亡時になるわけではありません。

    家庭裁判所の審判はもっと後になされるのが通常です。7年が満了してすぐに誰かが請求するとは限りませんし、審判にも時間がかかります。それでも死亡時は遡って決まります。

    「普通失踪の場合、失踪の宣告がされた時に死亡したものとみなされる」という選択肢は誤りです。これは最も基本的な引っかけです。

    具体例で確かめる

    普通失踪の例。Aが2018年4月1日を最後に消息を絶ち、以後生死が明らかでない。2025年4月1日に7年が満了し、2027年になって利害関係人が請求して失踪宣告がされた。Aが死亡したとみなされるのは2025年4月1日であって、宣告がされた2027年ではありません。

    特別失踪の例。Bが2024年3月10日に船舶の沈没に遭い、以後生死が明らかでない。2025年3月10日に1年が経過し、2026年に失踪宣告がされた。Bが死亡したとみなされるのは2024年3月10日、すなわち船舶が沈没した日です。1年後の2025年3月10日でも、宣告がされた2026年でもありません。

    死亡時期がどこまで遡るかは、相続人の確定や相続分の計算に直結します。単なる知識問題ではなく、事例問題の前提として使われます。

    • 普通失踪は「期間が満了した時」
    • 特別失踪は「危難が去った時」。1年経過時ではない
    • どちらも宣告の時ではない

    失踪宣告の効果

    死亡とみなされることの帰結

    31条により死亡したものとみなされると、死亡を要件とする法律効果が発生します。

    相続が開始します。882条は「相続は、死亡によって開始する」と定めており、失踪宣告による死亡のみなしもここでいう死亡に含まれます。相続開始の場所は883条により被相続人の住所です。相続人の範囲や相続分は「相続」、不動産が関わる場合は「相続した不動産の基礎」で扱っています。

    婚姻が解消します。配偶者は再婚できる状態になります。

    死亡を支払事由とする保険金の請求ができるようになります。

    権利能力そのものが消えるわけではない

    注意すべき点があります。失踪宣告は、その人の権利能力を全面的に消滅させる制度ではありません。

    31条が定めているのは、従来の住所を中心とする法律関係について死亡したものとみなすという効果です。失踪者が実際には別の場所で生存していれば、その場所での法律行為は有効に成立します。生きている人間である以上、権利能力は3条1項により存続しています。

    「失踪宣告を受けた者は権利能力を失うので、その後にした契約はすべて無効である」という理解は誤りです。32条1項後段が「失踪の宣告後その取消し前に善意でした行為」の効力を問題にしているのも、失踪宣告後にも法律行為が行われうることを前提にしています。

    みなしであることの実際上の意味

    失踪者が生きて帰ってきたとします。それだけでは、まだ死亡したものとみなされたままです。

    相続人はすでに財産を相続しており、配偶者は再婚しているかもしれません。失踪者が「私は生きている」と主張しても、法律上の効果は自動的には戻りません。32条1項の取消しを得るまで、みなしの効果は続きます。

    これが「みなす」という語の実際上の意味です。推定であれば、生きている事実を証明すればそれだけで覆ります。みなしだから手続が要る。冒頭に述べた一点が、ここで具体的な帰結として現れます。

    失踪宣告の取消し(32条1項)

    失踪者が生存すること又は前条に規定する時と異なる時に死亡したことの証明があったときは、家庭裁判所は、本人又は利害関係人の請求により、失踪の宣告を取り消さなければならない。この場合において、その取消しは、失踪の宣告後その取消し前に善意でした行為の効力に影響を及ぼさない。(民法32条1項)

    取消事由は二つ

    第一に、失踪者が生存すること。生きていたことが証明された場合です。

    第二に、31条に規定する時と異なる時に死亡したこと。死亡していたが、死亡時期がみなされた時期と違っていた場合です。実際にはこちらも重要で、死亡時期が動けば相続人が変わることがあります。

    「失踪者が生存していた場合にのみ取り消される」という選択肢は、二つ目の事由を落としているため誤りです。

    「取り消さなければならない」

    条文は必要的な取消しとして書かれています。証明があって請求があれば、家庭裁判所は取り消さなければなりません。裁量の余地はありません。

    30条が「宣告をすることができる」としているのと対照的です。宣告は裁量、取消しは義務。この非対称は、みなしの効果が事実に反していることが判明した以上、法律状態を放置できないという判断に基づきます。

    「家庭裁判所は失踪の宣告を取り消すことができる」という選択肢は、条文の文末が違うため正確ではありません。

    請求権者に本人が加わる

    32条1項の請求権者は「本人又は利害関係人」です。

    30条の宣告の請求権者は「利害関係人」だけで、本人が入っていませんでした。当然です。生死不明の本人が自分について失踪宣告を請求することは想定できません。

    取消しの場面では、本人が生きて戻ってきていることがあります。そこで本人が請求権者に加わります。条文の書き分けに理由があることが分かります。

    取消しの効果は遡る

    取り消されると、失踪宣告がなかったことになります。死亡したものとみなされていた効果は遡って消滅します。

    その結果、相続は開始しなかったことになり、相続人が取得した財産は失踪者に戻るのが原則です。しかし、それを貫くと取引の安全が害されます。そこで後段と2項が調整を置いています。

    後段 ― 善意でした行為に影響を及ぼさない

    この場合において、その取消しは、失踪の宣告後その取消し前に善意でした行為の効力に影響を及ぼさない。(民法32条1項後段)

    取消しの遡及効を、善意でされた行為との関係では制限する規定です。

    たとえば、失踪宣告により相続人となったCが、相続した土地をDに売却したとします。その後、失踪者Aが生きていたことが判明して宣告が取り消された。この売却が「善意でした行為」に当たるなら、取消しによっても効力に影響を受けず、Dは土地を取得したままになります。

    要件は三つです。第一に、失踪の宣告の後であること。第二に、その取消しの前であること。第三に、善意でした行為であること。

    時期の限定に注意してください。宣告の前にされた行為や、取消しの後にされた行為は、この規定の対象外です。

    「善意」は誰の善意か

    条文は「善意でした行為」とだけ書いており、誰の善意かを書いていません。

    この点について、判例は当事者双方の善意を要するとしています。先の例でいえば、売主Cと買主Dの両方が、失踪者Aが生存していることを知らなかったことが必要です。Cだけが善意でDが悪意であった場合、あるいはその逆の場合には、保護されません。

    「行為の当事者の一方が善意であれば足りる」という選択肢は誤りです。条文に書かれていない部分を判例が埋めている箇所なので、条文だけを読んでも答えが出ません。判例が加えた要件として別に覚える必要があります。

    なお、ここでいう善意とは失踪者が生存していることを知らなかったことを指します。失踪宣告があったことを知らなかったという意味ではありません。

    財産を返す範囲(32条2項)

    失踪の宣告によって財産を得た者は、その取消しによって権利を失う。ただし、現に利益を受けている限度においてのみ、その財産を返還する義務を負う。(民法32条2項)

    本文 ― 権利を失う

    失踪宣告によって財産を得た者、典型的には相続人や生命保険金の受取人は、取消しによってその権利を失います。失踪宣告がなかったことになる以上、当然の帰結です。

    ただし書 ― 現に利益を受けている限度

    返還義務は「現に利益を受けている限度」に限られます。現存利益といいます。

    相続した1,000万円のうち600万円をすでに費消していれば、返還するのは残っている400万円だけでよい、という意味です。ただし、費消の仕方によっては現存利益が残っていると評価されることがあります。生活費のように、本来支出するはずだった出費に充てた場合には、その分の自分の財産が減らずに済んでいるので、利益は形を変えて残っていると考えられます。浪費してしまった場合とは扱いが分かれます。

    この考え方は、制限行為能力者の返還義務や無効な行為の原状回復義務でも同じように使われます。「制限行為能力者制度」と「無効と取消しの違い」で扱っている論点と共通です。

    条文は善意悪意を区別していない

    32条2項の文言には、善意・悪意の区別がありません。「失踪の宣告によって財産を得た者は」とだけ書かれています。

    これに対し、不当利得の一般規定は区別しています。703条は「受益者は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う」とし、704条は「悪意の受益者は、その受けた利益に利息を付して返還しなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う」としています。

    善意の受益者は現存利益、悪意の受益者は利息付きで全部返還のうえ損害賠償という建て付けです。32条2項が善意悪意を区別していないことをどう扱うかは、条文の文言だけでは決まりません。

    宅建試験の対策としては、32条2項の文言をそのまま覚えるのが安全です。「現に利益を受けている限度においてのみ」という条文の言葉で答えられるようにしておいてください。条文にない解釈論に踏み込む必要はありません。

    現存利益は民法の複数箇所に出てくる

    現存利益という概念は、この条文に固有のものではありません。

    32条2項(失踪宣告の取消し)。121条の2第2項(無効な無償行為で善意の給付受領者)。121条の2第3項(意思無能力者・制限行為能力者)。703条(善意の受益者の不当利得返還義務)。

    返還の範囲を全部ではなく現存分に絞るという発想が、場面ごとに繰り返し使われています。条文の在りかとセットで覚えると、どの場面の話をしているのかが混ざりません。

    • 本文 ― 財産を得た者は権利を失う
    • ただし書 ― 返還は「現に利益を受けている限度においてのみ」
    • 条文は善意悪意を区別していない。703条・704条は区別している

    身分関係についてはどこまで書けるか

    失踪宣告が取り消された場合、配偶者が再婚していたらどうなるか。前の婚姻は復活するのか。

    32条は、この問題について何も定めていません。1項後段の「善意でした行為」に婚姻が含まれるのか、含まれるとして双方の善意をどう考えるのか、学説が分かれています。

    この記事では、争いがあるという事実を示すにとどめます。権利関係の全体像」で述べているとおり、条文にない解釈論の深掘りは宅建試験では報われません。宅建試験は不動産取引に関わる法律知識を問う試験であり、婚姻関係の帰趨が正面から問われる可能性は低いと判断しています。

    押さえるべきは、32条1項後段と2項が財産関係について何を定めているかです。そこは条文に書かれているので、確実に答えられるようにしてください。

    同時死亡の推定(32条の2)

    数人の者が死亡した場合において、そのうちの一人が他の者の死亡後になお生存していたことが明らかでないときは、これらの者は、同時に死亡したものと推定する。(民法32条の2)

    要件は「明らかでないとき」

    条文が扱っているのは、死亡の先後が分からない場面です。死亡したこと自体は確かで、どちらが先に死んだかだけが不明、という状況を想定しています。

    事故や災害で複数の人が同時に亡くなった場合が典型です。飛行機の墜落、船舶の沈没、火災、地震など、死亡の順序を確定できない場面が現実に生じます。

    要件は「そのうちの一人が他の者の死亡後になお生存していたことが明らかでないとき」です。生存していなかったことの証明は要りません。生存していたことが明らかでない、という消極的な要件です。

    推定なので反証で覆る

    32条の2は「推定する」と書いています。31条の「みなす」と違い、反証によって覆ります。

    一方が他方の死亡後になお生存していたことを証明できれば、推定は破れます。手続は要りません。証拠を出せば足ります。

    「同時死亡の推定は、反証によって覆すことができない」という選択肢は誤りです。31条と32条の2の語の違いを意識していれば、迷いません。

    同時死亡者の間では相続が生じない

    この帰結が、相続の計算で効いてきます。

    882条は「相続は、死亡によって開始する」と定めています。相続人になるには、相続開始の時点で生存していることが必要です。同時に死亡したと推定される者どうしは、互いに相手の死亡時点で生存していなかったことになります。

    したがって、同時死亡者の間では相続が生じません。

    具体例で確かめる

    父Aと子Bが同じ事故で死亡し、死亡の先後が明らかでないとします。Aには配偶者Cがおり、Bには子Dがいます。

    32条の2によりAとBは同時に死亡したものと推定されるので、AとBの間では相続が生じません。BはAを相続せず、AもBを相続しません。

    では、Aの財産は誰が相続するのか。887条2項が答えを持っています。

    被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。(民法887条2項)

    条文が「相続の開始以前に死亡したとき」と書いている点が決定的です。「以前」は同じ時点を含みます。同時死亡は「相続の開始以前の死亡」に当たるので、Bの子Dが代襲相続します。

    したがってAの相続人は、配偶者Cと、Bを代襲するDです。「BがAより先に死んだわけではないから代襲もしない」という結論にはなりません。887条2項の「以前」という一語が、この結論を支えています。

    代襲相続の要件と範囲は「相続」で扱っています。遺産の分け方は「遺産分割協議」、相続を受けない選択は「相続放棄と限定承認」を参照してください。

    遺言があるとどうなるか

    Aが「全財産をBに相続させる」という遺言を残していた場合はどうか。BはAを相続しないので、この遺言は効力を生じないのが原則です。遺言の効力が生じる時点でBが存在していないためです。

    遺言の方式と効力は「遺言の方式」で扱っています。同時死亡の推定が遺言の帰趨にも及ぶという点は、条文の帰結として押さえておいてください。

    • 32条の2は「推定する」。反証で覆る
    • 同時死亡者の間では相続が生じない
    • 887条2項の「相続の開始以前」に同時死亡が含まれるので、代襲相続は生じる

    試験での出題ポイント

    死亡とみなされる時期をずらす肢

    最も基本的な引っかけです。「普通失踪の場合、失踪の宣告がされた時に死亡したものとみなされる」。正しくは7年の期間が満了した時です。

    特別失踪を1年経過時とする肢

    「特別失踪の場合、危難が去った後1年が経過した時に死亡したものとみなされる」。正しくは危難が去った時です。1年は宣告をするための待機期間であって、死亡時期ではありません。31条の中でこの二つが書き分けられていることを確認してください。

    期間を入れ替える肢

    普通失踪を1年、特別失踪を7年とする形。死亡の蓋然性が高いほうが短いという理由で覚えていれば、逆になりません。

    請求権者に検察官を入れる肢

    「失踪の宣告は、利害関係人又は検察官の請求によりすることができる」。30条に検察官はありません。25条・26条・27条2項には検察官があるので、条文を並べて確認してください。

    取消しの請求権者から本人を落とす肢

    「失踪の宣告の取消しは、利害関係人の請求によりする」。32条1項は「本人又は利害関係人」です。宣告の場面(利害関係人のみ)と取消しの場面(本人が加わる)で違います。

    取消しを裁量的にする肢

    「家庭裁判所は失踪の宣告を取り消すことができる」。条文は「取り消さなければならない」です。30条の「することができる」との書き分けを意識してください。

    取消事由を生存だけに絞る肢

    「失踪者が生存していることが証明された場合に限り、失踪の宣告は取り消される」。31条に規定する時と異なる時に死亡したことの証明も取消事由です。

    生存すれば当然に効果が消えるとする肢

    「失踪者が生きて帰ってきたときは、失踪の宣告は当然に効力を失う」。みなし規定なので、取消しの審判を経なければ効果は消えません。この記事の中心にある論点です。

    善意を一方だけで足りるとする肢

    「失踪の宣告後その取消し前にされた行為は、当事者の一方が善意であればその効力を妨げられない」。判例は当事者双方の善意を要するとしています。

    返還範囲を全部とする肢

    「失踪の宣告によって財産を得た者は、取消しによってその財産の全部を返還しなければならない」。32条2項ただし書により「現に利益を受けている限度においてのみ」です。

    同時死亡を「みなす」とする肢

    「数人の者が死亡し、死亡の先後が明らかでないときは、同時に死亡したものとみなされる」。32条の2は「推定する」です。31条と32条の2の語を入れ替えるのが定番です。

    同時死亡で代襲相続を否定する肢

    「父と子が同時に死亡したものと推定される場合、子は父より先に死亡したわけではないから、子の子は代襲相続しない」。887条2項が「相続の開始以前に死亡したとき」と書いており、「以前」は同時を含みます。代襲相続は生じます。

    不在者の要件に生死不明を持ち込む肢

    「不在者とは、従来の住所又は居所を去り、その生死が明らかでない者をいう」。25条の定義に生死不明は入っていません。26条以下と混ぜた形です。

    管理人の権限を広げる肢

    「不在者の財産管理人は、家庭裁判所の許可を得ることなく不在者の不動産を売却することができる」。28条により家庭裁判所の許可が必要です。当然の権限は103条の保存行為・利用行為・改良行為に限られます。

    住所を住民票の登録地とする肢

    「民法上の住所とは、住民票に記載された住所をいう」。22条は「生活の本拠」とだけ定めています。

    覚え方・整理の仕方

    語尾を読む癖をつける

    この分野は、条文の文末を読めば大半が解けます。

    31条は「みなす」、32条の2は「推定する」。30条は「することができる」、32条1項は「なければならない」。25条2項も「取り消さなければならない」。四つの語尾を条文番号とセットで持っておくと、書き換えられた肢に反応できます。

    「みなすなら手続、推定なら証拠」

    覆し方を一行で持ちます。みなす規定を覆すには手続が要る。推定規定を覆すには証拠で足りる。

    この一行から、「失踪者が生きて帰れば当然に効果が消える」という肢が誤りであることも、「同時死亡の推定は反証で覆らない」という肢が誤りであることも、両方導けます。

    死亡時期は「終わりか、はじめか」

    普通失踪は期間の終わり(7年が満了した時)。特別失踪は危難のはじめ(危難が去った時)。

    「終わりか、はじめか」の二語で持つと、特別失踪を1年経過時としてしまう誤りを避けられます。特別失踪では手がかりとなる出来事があるから、その時点に遡れる。理由も一緒に持ってください。

    数字は「7と1」だけ

    この分野の数字は普通失踪の7年と特別失踪の1年の二つだけです。死亡している蓋然性が高いほうが短いという理由で結びつけておけば、入れ替えられません。

    検察官が入る条文・入らない条文

    財産管理には検察官が入り、失踪宣告には入らない。25条・26条・27条2項が「利害関係人又は検察官」、30条が「利害関係人」だけ。

    財産を守るだけなら公益的な介入を認めるが、人を死んだことにするには認めない、という筋で覚えると、条文番号を暗記しなくても判断がつきます。

    生死不明が要件になるのは「本人の決めたことに介入するとき」

    25条には生死不明の要件がなく、26条・27条2項・28条後段・30条にはあります。本人が自分で決めた事柄に裁判所が踏み込む場面では、本人の意思を確認できないことが前提になる。この理由を持っておけば、条文ごとの暗記が要りません。

    現存利益は条文の在りかで四つ並べる

    32条2項・121条の2第2項・121条の2第3項・703条。返還の範囲を現存分に絞る規定を、条文の在りかとセットで並べておくと、どの場面の話かが混ざりません。

    同時死亡は「887条2項の以前」で締める

    同時死亡の推定を覚えたら、必ず887条2項の「相続の開始以前に死亡したとき」までセットで唱えてください。同時死亡者の間では相続が生じないが代襲相続は生じる、という一見矛盾して見える結論が、この一語で説明できます。

    理解度チェッククイズ

    Q1. 船舶の沈没により生死が明らかでなくなった者について失踪の宣告がされた場合、その者は、船舶が沈没した後1年の期間が満了した時に死亡したものとみなされる。


    答えを見る
    ×。31条は「前条第一項の規定により失踪の宣告を受けた者は同項の期間が満了した時に、同条第二項の規定により失踪の宣告を受けた者はその危難が去った時に、死亡したものとみなす」と定めています。特別失踪では危難が去った時、すなわち船舶が沈没した時に死亡したものとみなされます。1年は宣告をするための待機期間であって、死亡時期を決めるものではありません。理由は手がかりの有無にあります。普通失踪では死亡時期を推測する材料が「生死不明が続いた」という事実しかないので、期間の満了という区切りを使うほかありません。特別失踪では死亡の原因となるべき危難という具体的な出来事があるので、死亡したのだとすればその時だと考えるのが自然です。「普通失踪は期間の終わり、特別失踪は危難のはじめ」と二語で覚えてください。なお、どちらの場合も失踪の宣告がされた時が死亡時になるのではありません。審判は後になされるのが通常ですが、死亡時は遡って決まります。

    Q2. 失踪の宣告を受けた者が生存していることが判明した場合、失踪の宣告は当然にその効力を失う。


    答えを見る
    ×。31条は「死亡したものとみなす」と定めています。みなし規定は反証によって覆りません。生きていることが判明しただけでは、まだ死亡したものとみなされたままです。効果を消すには32条1項の取消しの審判が必要です。同項は「失踪者が生存すること又は前条に規定する時と異なる時に死亡したことの証明があったときは、家庭裁判所は、本人又は利害関係人の請求により、失踪の宣告を取り消さなければならない」と定めており、証明があるだけでは足りず、請求と審判が要ります。この点が32条の2の「同時に死亡したものと推定する」との決定的な違いです。推定であれば反証だけで覆り、手続は要りません。「みなすなら手続、推定なら証拠」と一行で持ってください。なお32条1項は「取り消さなければならない」という必要的な書き方で、30条の「宣告をすることができる」とは文末が違います。宣告は裁量、取消しは義務です。

    Q3. 失踪の宣告により相続人となったCが相続した土地をDに売却した後、失踪者Aの生存が判明して失踪の宣告が取り消された場合、Cが善意であれば、Dが悪意であっても売買の効力は取消しの影響を受けない。


    答えを見る
    ×。32条1項後段は「その取消しは、失踪の宣告後その取消し前に善意でした行為の効力に影響を及ぼさない」と定めていますが、誰の善意かを書いていません。この点について判例は、当事者双方の善意を要するとしています。したがって、売主Cが善意でも買主Dが悪意であれば保護されず、取消しの遡及効がそのまま及びます。逆にDが善意でCが悪意でも同じです。条文に書かれていない部分を判例が埋めている箇所なので、条文だけを読んでも答えが出ません。判例が加えた要件として別に覚えてください。要件の時期にも注意が必要です。保護されるのは「失踪の宣告後その取消し前にした行為」に限られるので、宣告の前にされた行為や取消しの後にされた行為は対象外です。なお、ここでいう善意とは失踪者が生存していることを知らなかったことを指すのであって、失踪宣告があったことを知らなかったという意味ではありません。

    Q4. 失踪の宣告によって財産を得た者は、その宣告が取り消されたときは、得た財産の全部を返還しなければならない。


    答えを見る
    ×。32条2項は「失踪の宣告によって財産を得た者は、その取消しによって権利を失う。ただし、現に利益を受けている限度においてのみ、その財産を返還する義務を負う」と定めています。返還義務は現存利益に限られます。相続した1,000万円のうち600万円をすでに費消していれば、返還するのは残る400万円です。ただし費消の仕方によって評価が分かれます。生活費のように本来支出するはずだった出費に充てた場合は、その分だけ自分の財産が減らずに済んでいるので、利益は形を変えて残っていると考えられます。浪費した場合とは扱いが違います。なお、32条2項の文言には善意・悪意の区別がありません。不当利得の一般規定である703条が善意の受益者を現存利益にとどめ、704条が悪意の受益者に利息付きの全部返還と損害賠償を課しているのとは書き方が違います。試験対策としては、32条2項の「現に利益を受けている限度においてのみ」という条文の言葉をそのまま覚えるのが安全です。

    Q5. Aとその子Bが同一の事故で死亡し、いずれが先に死亡したか明らかでない場合、AとBは同時に死亡したものと推定され、Bに子Dがいるときは、DはBを代襲してAの相続人となる。


    答えを見る
    ○。前半は32条の2のとおりです。「数人の者が死亡した場合において、そのうちの一人が他の者の死亡後になお生存していたことが明らかでないときは、これらの者は、同時に死亡したものと推定する」。同時に死亡したと推定されると、互いに相手の死亡時点で生存していなかったことになるため、AとBの間では相続が生じません。相続人になるには相続開始の時点で生存していることが必要だからです。後半も正しいのですが、根拠は別の条文にあります。887条2項は「被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき……は、その者の子がこれを代襲して相続人となる」と定めており、「以前」は同じ時点を含みます。同時死亡は「相続の開始以前の死亡」に当たるので、代襲相続が生じます。「BがAより先に死んだわけではないから代襲もしない」という結論にはなりません。この一語が結論を支えているので、同時死亡を覚えるときは887条2項の「以前」までセットで唱えてください。なおAに配偶者Cがいれば、Aの相続人はCとDになります。

    Q6. 不在者の財産管理人の選任は、その不在者の生死が明らかでない場合に限り、家庭裁判所に請求することができる。


    答えを見る
    ×。25条1項は「従来の住所又は居所を去った者(以下「不在者」という。)がその財産の管理人を置かなかったときは、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求により、その財産の管理について必要な処分を命ずることができる」と定めています。不在者の定義に生死不明は入っていません。生きていることが分かっていても、住所や居所を去って戻る見込みがなければ不在者にあたります。生死不明が要件になるのは、26条(管理人の改任)、27条2項(不在者が置いた管理人への財産目録の作成命令)、28条後段(不在者が置いた管理人の権限外行為の許可)、そして30条(失踪宣告)です。共通しているのは、本人が自分で決めた事柄に裁判所が介入する場面だという点で、本人が生きていて意思を確認できるなら裁判所が乗り出す必要がないからです。あわせて請求権者も押さえてください。25条・26条・27条2項は「利害関係人又は検察官」ですが、30条の失踪宣告は「利害関係人」だけで検察官が入っていません。財産を守るだけなら公益的な介入を認めるが、人を死んだことにするには認めない、という筋です。

    まとめ

    • この記事が扱うのは民法第1編第2章「人」の第4節(住所)・第5節(不在者の財産の管理及び失踪の宣告)・第6節(同時死亡の推定)です。25条が不在者を「従来の住所又は居所を去った者」と定義しているため、第4節と第5節は条文上つながっています。
    • この条文群の最大の価値は、「みなす」と「推定する」の違いを条文で学べる点にあります。みなすは反証で覆らず、覆すには手続が要る。推定するは反証で覆り、手続は要らない。31条が「みなす」、32条の2が「推定する」と、隣接条文で書き分けられています。
    • 住所は「生活の本拠」(22条)。住民票の登録地とは書かれていません。住所が知れなければ居所を住所とみなし(23条1項)、仮住所はその行為に関してのみ住所とみなします(24条)。
    • 25条の不在者の定義に生死不明は入っていません。生死不明が要件になるのは26条・27条2項・28条後段・30条で、いずれも本人が自分で決めた事柄に裁判所が介入する場面です。管理人の当然の権限は103条から借りており(保存行為・利用行為・改良行為)、超えるには家庭裁判所の許可が要ります(28条)。
    • 請求権者が違います。25条・26条・27条2項は「利害関係人又は検察官」、30条の失踪宣告は「利害関係人」だけで検察官が入りません。財産を守るだけなら公益的な介入を認めるが、人を死んだことにするには認めない、という筋です。
    • 普通失踪は生死不明が7年(30条1項)、特別失踪は危難が去った後1年(同条2項)。死亡している蓋然性が高いほうが期間が短い。
    • 死亡とみなされる時期は、普通失踪が「期間が満了した時」、特別失踪が「危難が去った時」(31条)。特別失踪は1年経過時ではなく、どちらも宣告の時ではありません。「終わりか、はじめか」で覚えてください。
    • 32条1項は「取り消さなければならない」という必要的な書き方で、30条の「することができる」と文末が違います。取消事由は生存の証明だけでなく、31条と異なる時に死亡したことの証明も含みます。請求権者は「本人又は利害関係人」で、宣告の場面と違って本人が加わります。
    • 32条1項後段は「失踪の宣告後その取消し前に善意でした行為の効力に影響を及ぼさない」と定めます。誰の善意かを条文は書いていませんが、判例は当事者双方の善意を要するとしています。一方だけの善意では保護されません。
    • 32条2項の返還義務は「現に利益を受けている限度においてのみ」です。条文は善意悪意を区別しておらず、703条・704条が区別しているのとは書き方が違います。現存利益という発想は32条2項・121条の2第2項・121条の2第3項・703条に共通します。
    • 32条の2の同時死亡は「推定」なので反証で覆ります。同時死亡者の間では相続が生じませんが、887条2項が「相続の開始以前に死亡したとき」と書いており「以前」は同時を含むため、代襲相続は生じます。この一語が結論を支えています。
    • 失踪宣告の取消しと婚姻関係については、32条に規定がなく学説が分かれています。条文にない解釈論には踏み込まず、条文が定めている財産関係を確実に答えられるようにしてください。

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