IT重説と書面電子化|35条・37条の電磁的方法
IT重説の4要件と、35条書面・37条書面・媒介契約書面の電磁的方法による提供を条文で整理。承諾の取り方、押印廃止、宅建士の記名、出題パターンまで解説します。
目次
本記事の役割 — この記事は、重要事項説明と契約書面の「渡し方」と「説明のしかた」がデジタル化された部分だけを扱います。
35条書面に何を書くのかという説明事項そのものは35条書面の記載事項一覧|重要事項説明で覚えることを整理に、35条と37条の役割の違いは35条書面と37条書面の横断整理にまとめています。
宅地建物取引業法のデジタル化は、性格の異なる二つの改革が同じ時期に重なって進みました。ひとつは、重要事項説明をテレビ会議等で行うIT重説です。もうひとつは、35条書面・37条書面・媒介契約書面を電磁的方法で提供する書面電子化です。前者は説明という行為のやり方を変えたもので、根拠は国土交通省の「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」にあります。後者は書面交付義務そのものを法律で組み替えたもので、根拠は宅建業法35条8項・9項、37条4項・5項、34条の2第11項・12項という条文にあります。
試験で狙われるのは、この二つを混ぜた選択肢です。「IT重説をするには相手方の承諾が必要か」「電子交付をするには宅建士証の提示が必要か」といった問いは、どちらの制度の話をしているのかを取り違えた瞬間に間違えます。本記事では、二つを完全に切り分けたうえで、それぞれの要件を条文と通達の文言に沿って確認します。結論から言えば、IT重説は「対面と同じ扱いにしてよい4条件」を満たすかどうかの問題であり、書面電子化は「相手方の承諾を書面等で得たか」と「省令の技術基準を満たすか」の問題です。
IT重説と書面電子化は別の制度である
変えたものが違う
IT重説が変えたのは、宅建士が説明をする場面の形です。宅建業法35条1項は「宅地建物取引士をして、少なくとも次に掲げる事項について、これらの事項を記載した書面を交付して説明をさせなければならない」と定めるだけで、説明を対面で行えとは書いていません。条文が対面を要求していない以上、テレビ会議等で行っても35条の説明として成立しうる、という理解が出発点です。ただし何の歯止めもなくオンライン化すると、宅建士でない者が説明したり、相手方が書面を手元に置かないまま説明を受けたりする事態が起こります。そこで国土交通省は「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」の第35条第1項関係に、ITを活用する場合の取扱いを書き加えました。
書面電子化が変えたのは、書面を渡すという行為そのものです。35条1項は「書面を交付して」と定めており、紙の書面を渡すことが義務の内容でした。これを電子データで済ませるには、条文を足すしかありません。そこで2021年5月に成立した「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律」(令和3年法律第37号)によって宅建業法が改正され、2022年5月18日から施行されました。追加されたのが35条8項・9項、37条4項・5項、34条の2第11項・12項です。
根拠の階層が違う
この違いは、根拠の階層の違いとして現れます。IT重説の4要件は法律にも政令にも省令にも書かれていません。書かれているのは解釈・運用の考え方、つまり国土交通省が示す通達です。これに対して書面電子化は、法律が「政令で定めるところにより承諾を得て」と枠を示し、政令(宅地建物取引業法施行令)が承諾の取り方を定め、省令(宅地建物取引業法施行規則)が電磁的方法の中身と満たすべき基準を定める、という三層構造になっています。
試験で条文番号が問われるのは書面電子化の側です。IT重説について「宅建業法第35条第◯項により」と条番号を挙げた選択肢が出たら、そこはまず疑ってよい部分です。
組み合わせは4通りある
二つが別の制度である以上、実務での組み合わせは4通りあります。紙の書面を郵送して対面で説明する従来型、紙の書面を郵送してテレビ会議で説明する型、電子書面を提供して対面で説明する型、電子書面を提供してテレビ会議で説明する完全非対面型です。IT重説をするから書面も電子でなければならない、という関係はありません。逆に、電子書面を提供したから説明もオンラインでよい、という関係もありません。それぞれ独立に要件を判定します。
解禁の時期も別々である
国土交通省の実施マニュアルによれば、IT重説は2015年8月31日から社会実験として始まり、2017年3月13日の検証検討会で支障がないと認められたことを受けて、賃貸取引について同年10月1日から本格運用に移行しました。売買取引は2021年1月25日の検証検討会を経て、同年3月30日から本格運用となっています。書面電子化はさらに後で、施行日は2022年5月18日です。賃貸のIT重説だけが先に動き、売買が4年近く遅れ、書面電子化がその翌年にようやく実現した、という順序を押さえておくと年号問題に強くなります。
IT重説が満たすべき4つの要件
解釈・運用の考え方の第35条第1項関係は、売買・交換の場合と、売買・交換・貸借の代理または媒介の場合について、テレビ会議等のITを活用するに当たっては「次に掲げるすべての事項を満たしている場合に限り、対面による重要事項の説明と同様に取り扱う」としています。要件は4つで、すべてを満たすことが条件です。ひとつでも欠ければ、その説明は35条の重要事項説明として扱われません。
要件1 双方向でやりとりできる環境で行うこと
第一の要件は、宅建士および重要事項の説明を受けようとする者が、図面等の書類および説明の内容について十分に理解できる程度に映像を視認でき、かつ双方が発する音声を十分に聞き取ることができるとともに、双方向でやりとりできる環境において実施していることです。
ここには三つの要素が畳み込まれています。映像が視認できること、音声が聞き取れること、そして双方向であることです。この三つ目が電話を排除します。電話は音声の双方向性はありますが映像がありません。逆に、録画した説明動画を送りつける方法は映像も音声もありますが双方向性がありません。どちらも要件1を満たさないので、35条の説明としては無効です。
映像の水準も「映っていればよい」ではありません。図面等の書類および説明の内容について十分に理解できる程度、という限定が付いています。国土交通省の実施マニュアルは、静止画の状態が数秒続くことが連続して生じないこと、宅建士の表情が判別できること、といった具体例を挙げています。相手方がスマートフォンの小さい画面で受けている場合に、画面上に図面を表示して説明するのは馴染まないとも指摘されており、その場合は図面を事前送付するなどの対応が必要になります。
要件2 記名済みの重要事項説明書と添付書類を事前に交付していること
第二の要件は、宅建士により記名された重要事項説明書および添付書類を、重要事項の説明を受けようとする者にあらかじめ交付していることです。この交付には電磁的方法による提供も含まれます。
この要件は二重の意味を持ちます。ひとつは、相手方が手元の書面を見ながら説明を聞ける状態を作ること。もうひとつは、記名という宅建士の関与の痕跡を、説明が始まる前の段階で完成させておくことです。ここで「宅建士により記名された」と限定されている点が重要で、記名のない下書きを送っておいて説明の場で埋める、という運用は認められません。
35条書面の記名は宅建業法35条5項が定める義務です。誰が記名しなければならないのか、専任である必要はあるのか、といった論点は専任の宅地建物取引士の設置義務と併せて確認しておくとよいでしょう。
要件3 説明開始前に相手方の状態と映像・音声を確認していること
第三の要件は、重要事項の説明を受けようとする者が、重要事項説明書および添付書類を確認しながら説明を受けることができる状態にあること、ならびに映像および音声の状況について、宅建士が重要事項の説明を開始する前に確認していることです。
要件2が「送ってあること」を求めるのに対し、要件3は「届いていて、いま手元にあることを確認したか」を求めます。送付した事実だけでは足りず、説明を始める前に宅建士自身が確認する行為が要件になっている点が特徴です。実施マニュアルは、宅建士側の映像や音声が相手方の端末で確認できること、相手方の映像や音声が宅建士側の端末で確認できること、事前に送付した重要事項説明書および添付書類が相手方の手元にあること、を確認事項として挙げています。
電子書面で提供している場合には追加の注意があります。相手方の画面において、電子書面と説明中の宅建士の画像が同時に閲覧可能である必要があります。同一画面への表示が困難な端末であれば、端末を2台用意してもらうか、電子書面を出力して紙を用意してもらうか、あらかじめどちらかを依頼しておくことになります。
要件4 宅建士証を提示し、視認できたことを確認すること
第四の要件は、宅建士が宅地建物取引士証を提示し、重要事項の説明を受けようとする者が、当該宅建士証を画面上で視認できたことを確認していることです。
対面での提示義務は宅建業法35条4項が定めています。IT重説の要件4はそれに一段階を上乗せしたものだと理解してください。対面なら「提示した」で足りるところ、オンラインでは「相手方が視認できたことを確認した」ところまでが要件です。カメラの性能や画面の大きさによっては、かざしただけでは文字が読めないからです。
実施マニュアルは確認の方法として、宅建士証に記載された氏名等を相手方に読み上げてもらう、宅建士証の顔写真と画面上の宅建士の顔が同じであることを声に出して答えてもらう、提示を受けたことを声に出して答えてもらう、といった手順を示しています。なお、個人情報保護の観点から宅建士証の住所欄にシールを貼って提示することは差し支えないとされており、これは対面での提示と同じ扱いです。ただしシールは容易に剥がせるものにする必要があります。宅建士証そのものの記載事項や有効期間については宅地建物取引士の登録と取引士証を参照してください。
この節の要点
- 4要件はすべて満たす必要があり、ひとつ欠ければ35条の説明にならない。
- 電話のみは映像がないため不可、録画配信は双方向性がないため不可。
- 事前交付される書面は「記名済み」でなければならない。
- 宅建士証は「提示した」だけでなく「視認できたことを確認した」まで求められる。
中断と中止のルール
支障が生じたら直ちに中断する
解釈・運用の考え方は、4要件に続けて次のように定めています。宅建士は、ITを活用した重要事項の説明を開始した後、映像を視認できないまたは音声を聞き取ることができない状況が生じた場合には、直ちに説明を中断し、当該状況が解消された後に説明を再開するものとする、と。
「直ちに」という文言が置かれている点に注意してください。相手方から申し出があってから中断するのではなく、宅建士の側が状況を把握して自ら中断します。要件1が説明の開始時点だけでなく説明の全過程を通じて維持されるべきものだ、という理解がここに表れています。実施マニュアルも、電波の入りやすいところに移動する、通信網を固定系のものに変更するといった措置を試みて問題の解消を図り、そのうえで再開する必要がある、と述べています。
解消しないときは中止する
原因の把握ができず解消が困難な場合は、IT重説を中止することになります。中止した場合、当事者の希望により、IT重説で実施することができなかった残りの部分のみを対面による重要事項説明に切り替える対応も可能です。全部をやり直す必要はありません。
もうひとつ、相手方の意向が変わってIT重説を拒否する旨の申出があった場合にも中止が必要になります。IT重説は相手方に押し付けられるものではなく、相手方が選ぶものだという位置づけです。
説明が終わるまで契約は締結できない
中断・中止のルールでいちばん出題されやすいのは、契約締結との関係です。35条1項が求めているのは「その売買、交換又は貸借の契約が成立するまでの間に」説明をさせることです。したがって、通信障害で説明が途中で終わったのに契約だけ先に締結する、という順序は35条違反になります。中断したまま契約を成立させることはできません。
なお35条違反は監督処分の対象です。宅建業法65条2項2号は、35条1項から3項までの規定に違反したときを業務停止処分の事由として列挙しています。他方、37条違反には50万円以下の罰金という罰則が用意されており(83条1項2号)、35条違反には直接の罰金規定がありません。処分と罰則の対応関係は宅建業者への監督処分で整理しています。
IT重説はどの取引でできるのか
通達の柱書が示す範囲
解釈・運用の考え方の該当箇所は、「宅地若しくは建物の売買若しくは交換又は宅地若しくは建物の売買、交換若しくは貸借の代理若しくは媒介に係る重要事項の説明にITを活用する場合の取扱いについて」という見出しの下に置かれています。
この書きぶりを分解すると、自ら当事者となる場合は売買と交換、代理または媒介の場合は売買・交換・貸借のすべてが対象です。貸借だけが代理・媒介に限られているのは、宅地建物取引業の定義(宅建業法2条2号)で自ら貸借を行う行為が業に当たらないためであり、IT重説だけの制限ではありません。つまり、35条の説明義務が生じるあらゆる場面でIT重説は可能だ、と読めます。
賃貸だけしかできない、という古い理解は現在は誤りです。売買のIT重説は2021年3月30日から本格運用に入っています。この点は改正が正誤を反転させた論点なので、古い教材の記述をそのまま覚えていると失点します。
37条書面にIT重説という論点はない
しばしば混同されるのが、37条書面をIT重説で交付できるか、という問いです。この問い自体が成り立ちません。37条は書面を交付する義務を定めるだけで、説明する義務を定めていないからです。説明義務がないのですから、説明の方法を規律するIT重説の要件が問題になる余地もありません。
37条書面についてデジタル化が問題になるのは、あくまで電磁的方法による提供の側です。37条書面に何を書くのか、必要的記載事項と任意的記載事項がどう分かれるのかは37条書面の記載事項にまとめています。
業者間取引ではどうなるか
相手方が宅建業者である場合、宅建業法35条6項の読替規定により、同条4項(宅建士証の提示)と5項(宅建士の記名)は適用されません。説明そのものも不要になり、書面を交付すれば足ります。したがって業者間取引ではIT重説という論点が生じません。説明を省略できるのですから、説明の方法を論じる意味がないからです。
ただし書面の交付義務は残ります。そして35条7項は、読替後の1項または2項により交付すべき書面を作成したときは、宅建士をして当該書面に記名させなければならないと定めています。記名は業者間でも必要だという点は繰り返し問われます。宅建業者が取引の相手方になる場合の扱い全般は宅建業者間取引の特例で確認してください。
書面電子化の根拠条文
35条8項と9項の書き分け
35条8項は、一般の相手方に対する電磁的方法による提供の規定です。宅建業者は、1項から3項までの規定による書面の交付に代えて、政令で定めるところにより、相手方等の承諾を得て、宅建士に、当該書面に記載すべき事項を電磁的方法により提供させることができる、と定めます。この場合、書面を交付させたものとみなされ、5項(記名の規定)は適用されません。
35条9項は、業者間取引の場合の規定です。6項の読替えを経た1項または2項による書面の交付に代えて、相手方である宅建業者の承諾を得て、電磁的方法により提供することができる、と定めます。7項が適用されなくなる点が8項と対をなします。
8項と9項の違いは、相手方が一般人か宅建業者かという点です。どちらも承諾が必要である点は共通しており、業者間だから承諾なしで電子提供してよい、ということにはなりません。ここは引っかけとして使いやすい部分です。
37条4項と5項の書き分け
37条4項は売買・交換の37条書面、37条5項は貸借の37条書面についての規定です。35条が相手方の属性で項を分けたのに対し、37条は取引の類型で項を分けています。この差は、37条書面の交付先が契約の各当事者であり、売買と貸借とで交付先の顔ぶれが変わることに対応しています。
4項は、自ら当事者として契約を締結した場合は契約の相手方、当事者を代理して契約を締結した場合は契約の相手方および代理を依頼した者、媒介により契約が成立した場合は契約の各当事者、と承諾を得るべき者を号で書き分けています。5項は自ら当事者となる場合を含まないため、代理と媒介の二つの号だけです。
いずれの場合も、電磁的方法により提供したときは書面を交付したものとみなされ、3項(宅建士の記名)は適用されません。
34条の2第11項・12項
媒介契約書面も同時に電子化されました。34条の2第11項が媒介契約書面そのもの、12項が指定流通機構への登録を証する書面(登録証)についての規定です。いずれも依頼者の承諾を得て電磁的方法により提供することができます。
登録証まで電子化の対象に含まれている点は見落とされがちです。専任媒介契約を締結した宅建業者は指定流通機構に登録しなければならず(34条の2第5項)、登録した業者は登録を証する書面を遅滞なく依頼者に引き渡さなければなりません(同条6項)。この引渡しに代えて電磁的方法による提供ができる、というのが12項です。媒介契約そのものの規律は媒介契約の種類と規制、指定流通機構についてはレインズとは何かで扱っています。
保全措置に関する書面にも同様の規定がある
電子化されたのは35条・37条・34条の2だけではありません。手付金等の保全措置として銀行等が交付する連帯保証を約する書面や、保険証券に代わるべき書面についても、買主の承諾を得て電磁的方法によることができます(41条5項、41条の2第6項)。承諾の手続は施行令4条の2が定めており、35条や37条と同じ構造です。
出題頻度は高くありませんが、「電磁的方法による提供が認められているのは35条書面・37条書面・媒介契約書面の3つに限られる」という形の選択肢が出た場合、この規定の存在が正誤を分けます。
押印は廃止され、記名だけが残った
35条5項・37条3項の文言を読む
改正で正誤が反転した論点として最も出題価値が高いのが、押印の廃止です。
現在の35条5項は「第一項から第三項までの書面の交付に当たつては、宅地建物取引士は、当該書面に記名しなければならない」と定めています。37条3項は「宅地建物取引業者は、前二項の規定により交付すべき書面を作成したときは、宅地建物取引士をして、当該書面に記名させなければならない」です。どちらにも押印の語がありません。改正前はいずれも「記名押印」でした。
したがって、35条書面や37条書面に宅建士の押印が必要だと述べる記述は誤りです。紙で交付する場合であっても、押印は法律上の義務ではありません。電子化されたから押印がなくなったのではなく、電子化と同じ改正で押印義務そのものが廃止された、という順序で理解してください。
34条の2第1項は記名押印のまま
ところが、媒介契約書面については話が違います。34条の2第1項は現在も「次に掲げる事項を記載した書面を作成して記名押印し、依頼者にこれを交付しなければならない」と定めています。押印が残っているのです。
この違いは、誰の押印かという点に由来します。35条書面と37条書面に求められていたのは宅建士の記名押印であり、媒介契約書面に求められているのは宅建業者の記名押印です。廃止されたのは前者だけです。国土交通省の実施マニュアルも、紙の交付に切り替える場合の注意として「34条の2書面は宅建業者の記名押印、35条書面及び37条書面は宅建士の記名を行うことを失念しないよう留意してください」と明記しています。
書面ごとに誰が何をするのかを取り違えないことが、この論点の核心です。媒介契約書面には宅建士の関与が要求されておらず、逆に35条書面・37条書面には宅建業者の押印が要求されていません。記載事項の違いも含めて媒介契約書面の記載事項で整理しておくとよいでしょう。
電子提供でも宅建士の記名は必要
35条8項は「第五項の規定は、適用しない」と定め、37条4項・5項も「第三項の規定は、適用しない」と定めています。条文だけを読むと、電子提供なら記名は不要だと読めてしまいます。
しかし、これは記名が消えるという意味ではありません。8項は電磁的方法について「第五項の規定による措置に代わる措置を講ずるものとして国土交通省令で定めるもの」と限定しており、記名に代わる措置を省令に委ねているだけです。そして施行規則16条の4の8第2項4号は、電磁的方法が満たすべき基準のひとつとして「書面の交付に係る宅地建物取引士が明示されるものであること」を挙げています。37条については施行規則16条の4の12第2項4号が同じ内容を定めています。
解釈・運用の考え方も、35条第8項関係および37条第4項関係の双方で「重要事項説明書の提供にあたっては、宅地建物取引士の記名が必要である」「本条第1項又は第2項の書面の提供にあたっては、宅地建物取引士の記名が必要である」と述べています。実施マニュアルも同様に、電子書面の提供を行う宅建士を明示するため当該宅建士の記名が必要だとしています。結論として、紙でも電子でも宅建士の記名は必要です。
電子署名は記名の代わりではない
ここで誤解が生じやすいのが電子署名の位置づけです。電子署名は宅建士の記名の代替物ではありません。電子署名が出てくるのは、後述する改変防止措置の例としてです。記名と改変防止措置は別々の要件であり、電子署名を付したから記名が不要になる、という関係にはありません。
承諾の取り方
口頭では足りない
電磁的方法による提供には相手方の承諾が必要ですが、その承諾の取り方が政令で細かく定められています。35条書面については施行令3条の3、37条書面については施行令3条の4、媒介契約書面については施行令2条の6です。
いずれも構造は同じで、宅建業者があらかじめ相手方に対し、電磁的方法による提供に用いる電磁的方法の種類および内容を示したうえで、相手方から「書面又は電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であつて国土交通省令で定めるもの」によって承諾を得るものとする、と定めます。政令が略称として用いる「書面等」がこれです。
したがって、電話で口頭の同意を得ただけでは承諾になりません。承諾したことが記録に残り、書面に出力できる形であることが必要です。解釈・運用の考え方は、電子メールによる方法、WEB上で承諾を得る方法、CD-ROMの交付等を例示しています。
示すべきものは「種類及び内容」
承諾を求める前に示さなければならないのは、電磁的方法の種類と内容です。施行規則16条の4の10(35条書面)、16条の4の14(37条書面)、15条の15(媒介契約書面)が、示すべき事項を「省令に列挙された方法のうち宅建業者が使用するもの」と「ファイルへの記録の方式」の二つと定めています。
具体的には、電子メールで送るのか、WEBページからダウンロードさせるのか、CD-ROMやUSBメモリを交付するのかという提供手段と、PDFなのかExcelなのかといったファイル形式やバージョンです。これを示さずに「電子でよろしいですか」とだけ尋ねて得た同意は、政令の求める承諾になりません。
実施マニュアルはさらに、承諾を得る際に、宅建業者が利用を予定するソフトウェア等に相手方のIT環境が対応可能であることを確認するよう求めています。承諾を得る手続と、相手方の環境を確認する手続はセットで行われます。
承諾は撤回できる
承諾を得たあとでも、相手方の意向は変わりえます。施行令3条の3第2項は、承諾を得た場合であっても、相手方から書面等により電磁的方法による提供を受けない旨の申出があったときは、当該電磁的方法による提供をしてはならない、と定めます。37条書面(施行令3条の4第2項)、媒介契約書面(施行令2条の6第2項)も同じです。
ただし、その申出の後に相手方から再び承諾を得た場合はこの限りでない、というただし書が付いています。承諾は撤回でき、撤回後にもう一度承諾することもできる、という往復を条文が想定しています。
撤回の申出も「書面等」による必要があります。口頭で嫌だと言われただけでは撤回の効果が生じないのかというと、実務上は撤回の意思が示された以上は電子提供を控えるのが穏当ですが、条文の建て付けとしては書面等による申出が要件です。試験では、承諾も撤回も書面等が必要という対称性を押さえておけば足ります。
方式を変えたら取り直す
もうひとつ実務的な注意があります。承諾を得たあとで、示していた提供方法やファイル形式に変更が生じた場合には、変更後の内容で改めて承諾を取得する必要があります。実施マニュアルが明記している点です。メールで送ると言って承諾を得たのに、実際にはダウンロード形式で提供した、という場合には承諾が有効に及んでいないことになります。
電磁的方法が満たすべき技術基準
承諾を得ただけでは足りません。提供の方法そのものが、省令の定める基準に適合している必要があります。35条書面については施行規則16条の4の8第2項、37条書面については16条の4の12第2項、媒介契約書面については15条の14第2項です。内容はほぼ共通しています。
出力して書面を作成できること
第一の基準は、相手方がファイルへの記録を出力することにより書面を作成することができるものであることです。相手方が紙に印刷して手元に残せる形でなければならない、という意味です。閲覧はできるが保存も印刷もできない仕組みは、この基準を満たしません。
改変の有無を確認できる措置
第二の基準は、ファイルに記録された記載事項について、改変が行われていないかどうかを確認することができる措置を講じていることです。解釈・運用の考え方は、記載事項が交付された時点と将来のある時点において同一であることを確認できる措置が必要だとし、その方法として電子署名等を挙げています。実施マニュアルは電子署名とタイムスタンプを想定される手段として示しています。
ここで押さえるべきは、この措置が「改ざんされていないことを証明する」ためのものであって、「誰が作成したかを示す」ためのものではないという点です。宅建士が誰かを示すのは別の基準、つまり記名です。二つを混ぜないでください。
また、電子署名やタイムスタンプに用いる電子証明書には有効期間があります。実施マニュアルは、有効期間を相手方に説明したうえで、有効期間後の取扱いを事前に協議しておくことが望ましいとしています。
ダウンロード方式には通知が要る
第三の基準は、WEBページからのダウンロード形式で提供する場合に限って課されるものです。記載事項を宅建業者側の電子計算機に備えられたファイルに記録する旨または記録した旨を、相手方に対し通知するものであることが求められます。ただし、相手方が当該記載事項を閲覧していたことを確認したときはこの限りでない、というただし書が付きます。
メール添付やCD-ROM交付ならこの通知は不要です。ダウンロード形式だけは、相手方が気づかないまま放置される危険があるため、通知が義務づけられています。
宅建士が明示されること
第四の基準が、35条書面と37条書面にだけ課される「書面の交付に係る宅地建物取引士が明示されるものであること」です。媒介契約書面についての15条の14第2項にはこの号がありません。媒介契約書面には宅建士の記名義務がないためで、書面ごとに宅建士の関与の有無が違うという原則が、電子化の技術基準にもそのまま反映されています。
この節の要点
- 4つの基準のうち3つは3書面に共通、宅建士の明示だけが35条・37条固有。
- 出力可能性と改変確認措置は、どの提供方法でも必要。
- 通知義務はダウンロード形式に固有。
- 改変防止措置と記名は別物で、電子署名は前者の例。
区分所有建物の説明事項は2026年4月1日に10項目になった
施行規則16条の2に9号が新設された
電子化とは別の改正ですが、35条書面を扱う以上避けて通れない変更が令和8年度の出題範囲に入っています。宅地建物取引業法施行規則16条の2に第9号が新設され、2026年4月1日に施行されました(令和7年内閣府・国土交通省令第2号)。
新9号の内容は、当該一棟の建物およびその敷地の管理者等が、当該建物およびその敷地に係る管理組合から委託を受けて管理事務を行うマンション管理業者である場合にあっては、その旨、というものです。マンションの管理者を区分所有者から選ぶのではなく管理業者に担わせる、いわゆる第三者管理方式が広がってきたことを受けた改正で、その事実を買主に知らせる趣旨です。管理者等・管理組合・管理事務・マンション管理業者の各語は、いずれもマンションの管理の適正化の推進に関する法律の定義を借りています。
旧9号は10号に繰り下がった
新9号が中間に差し込まれたため、従来9号だった「当該一棟の建物の維持修繕の実施状況が記録されているときは、その内容」は10号に繰り下がりました。結果として、区分所有建物の追加説明事項は9項目から10項目になっています。
古い教材や過去問解説では維持修繕の記録が9号と書かれています。令和8年度を受験する場合、これは10号です。項目の内容そのものは変わっていないので、実質的な学習負担は増えませんが、号数で問われたときに答えが変わります。各号の中身は区分所有建物の重要事項説明で一つずつ確認できます。
建物の貸借は3号と8号のまま
注意すべきは、柱書が変わっていないことです。16条の2は「建物の貸借の契約以外の契約にあつては次に掲げるもの、建物の貸借の契約にあつては第三号及び第八号に掲げるものとする」と定めています。
建物の貸借で必要になるのは3号(専有部分の用途その他の利用の制限に関する規約の定め)と8号(管理の委託先)だけで、これは改正前後で同じです。新設された9号は建物の貸借では説明対象になりません。借主にとって管理者が誰であるかは所有者ほどの利害を持たない、という整理です。
電子化と記載事項は独立している
念のため確認しておくと、電磁的方法で提供する場合でも記載すべき事項は紙の場合と同一です。35条8項は「当該書面に記載すべき事項を電磁的方法により提供させることができる」と定めるだけで、記載事項を減らす規定ではありません。電子だから項目を省略できる、という選択肢は誤りです。説明事項の全体像は35条書面の記載事項を語呂で覚える、賃貸に絞った整理は賃貸借の重要事項説明を参照してください。
試験での出題ポイント
パターン1 二つの制度を混ぜる
最も多いのが、IT重説の要件と書面電子化の要件を入れ替える形です。「IT重説を行うには相手方の書面等による承諾が必要である」という選択肢を考えてみてください。書面等による承諾が要求されているのは電磁的方法による提供であって、IT重説ではありません。IT重説について要求されているのは、相手方が拒否した場合に中止することであり、政令が定める方式の承諾ではありません。
逆に「電磁的方法により35条書面を提供する場合、宅建士証を提示しなければならない」も誤りです。宅建士証の提示は説明の場面の話であり、書面の提供の場面の話ではありません。
パターン2 押印を残す
「35条書面には宅建士の記名押印が必要である」は現在は誤りです。押印は2022年5月18日施行の改正で廃止されました。一方で「媒介契約書面には宅建業者の記名押印が必要である」は正しい記述です。どちらの書面の話をしているのかで正誤が入れ替わります。
パターン3 電子なら記名も不要と書く
「電磁的方法により37条書面を提供する場合、宅建士の記名は不要である」も誤りです。37条4項は3項を適用しないと定めますが、施行規則16条の4の12第2項4号が宅建士の明示を求めており、解釈・運用の考え方も宅建士の記名が必要だと明言しています。条文の「適用しない」という文言だけを拾うと引っかかります。
パターン4 取引類型を限定する
「IT重説は賃貸取引に限り認められる」は古い記述で、現在は誤りです。売買も2021年3月30日から本格運用されています。一方で「自ら貸借の場合もIT重説ができる」という選択肢は、そもそも自ら貸借が宅建業に当たらないため35条の適用がなく、前提から誤りです。
パターン5 承諾の方式を緩める
「相手方が電話で同意すれば電磁的方法により提供できる」は誤りです。政令は書面等によることを求めています。「一度承諾を得れば、その後拒否されても電磁的方法により提供できる」も誤りで、施行令3条の3第2項が明確に禁じています。
パターン6 中断・中止の処理を誤らせる
「通信障害により説明を中断した場合、残りの説明を後日行うことを条件に契約を締結できる」は誤りです。35条1項は契約が成立するまでの間に説明をさせることを求めています。「中止した場合は最初からやり直さなければならない」も誤りで、実施マニュアルは実施できなかった残りの部分のみを対面に切り替える対応も可能だとしています。
パターン7 電子化の対象書面を絞る
「電磁的方法による提供が認められるのは35条書面と37条書面のみである」は誤りです。媒介契約書面(34条の2第11項)、指定流通機構への登録を証する書面(同12項)、手付金等の保全措置に関する書面(41条5項、41条の2第6項)も対象です。
パターン8 号数の繰り下がりを突く
区分所有建物について「維持修繕の実施状況の記録は施行規則16条の2第9号に定められている」は、2026年4月1日以降は誤りです。10号に繰り下がりました。9号は第三者管理方式に関する事項です。改正論点の全体像は宅建業法の最近の改正点で確認できます。
覚え方・整理の仕方
「説明」と「交付」を分けて考える
この分野の混乱は、ほぼすべて説明と交付を区別しないことから生じます。まず頭の中に二本の線を引いてください。
説明の線には、宅建士が行うこと、宅建士証を提示すること、契約成立までに行うこと、業者間では省略できること、そしてIT重説の4要件が並びます。交付の線には、書面を渡すこと、宅建士が記名すること、業者間でも省略できないこと、そして電磁的方法による提供の承諾と技術基準が並びます。
選択肢を読んだら、まずどちらの線の話かを判定します。「宅建士証」が出てきたら説明の線、「承諾」が出てきたら交付の線です。この一手だけで、混合型の選択肢の大半は処理できます。
IT重説の4要件は時系列で覚える
4要件を並列に暗記しようとすると抜けます。説明の準備から実施までの時系列に並べ替えてください。
まず環境を整える(要件1)。次に記名済みの書面を送る(要件2)。説明の直前に、書面が手元にあるかと映像・音声を確認する(要件3)。説明を始めるにあたって宅建士証を提示し、視認できたことを確認する(要件4)。そのあと説明中に支障が生じたら直ちに中断し、解消しなければ中止する。
この順序で覚えると、「事前送付は要件か」「開始前の確認は要件か」といった問いに迷いません。要件2と要件3が別立てになっている理由も、送る行為と確認する行為が時点として離れているからだと理解できます。
承諾は「示す・得る・撤回できる」の三拍子
電磁的方法の承諾は、三つの動作で覚えます。示す、得る、撤回できる、です。
示すのは電磁的方法の種類および内容で、これを先にやらないと承諾が有効になりません。得るのは書面等によってで、口頭は不可です。撤回できるのは相手方の側で、撤回も書面等により、撤回後の再承諾も可能です。この三拍子は35条書面・37条書面・媒介契約書面のいずれについても同じ構造なので、一度覚えれば三つ分の知識になります。
押印は「士は消えた、業者は残った」
押印の廃止は、主語で覚えます。宅建士の押印は消え、宅建業者の押印は残りました。35条書面と37条書面は宅建士が記名する書面なので押印なし、媒介契約書面は宅建業者が記名押印する書面なので押印あり、という対応です。
技術基準は「出せる・変わらない・知らせる・誰が」
省令の4基準は、四つの動詞で覚えます。出せる(出力して書面を作成できる)、変わらない(改変の有無を確認できる)、知らせる(ダウンロード形式なら通知する)、誰が(宅建士が明示される)。最後の「誰が」だけが媒介契約書面には課されない、というところまでがセットです。
理解度チェッククイズ
Q1. IT重説は、宅建士と相手方が音声で双方向にやりとりできれば足りるため、電話により実施することができる。(○か×か)
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×:解釈・運用の考え方は、図面等の書類および説明の内容について十分に理解できる程度に映像を視認でき、かつ双方が発する音声を十分に聞き取ることができるとともに、双方向でやりとりできる環境において実施していることを要件としています。電話は映像の要件を欠くため実施できません。Q2. 35条書面を電磁的方法により提供する場合、宅建業法35条8項により同条5項が適用されないため、宅建士の記名は不要である。(○か×か)
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×:35条8項は5項を適用しないとしていますが、これは記名に代わる措置を省令に委ねる趣旨です。施行規則16条の4の8第2項4号は、書面の交付に係る宅地建物取引士が明示されるものであることを基準とし、解釈・運用の考え方も重要事項説明書の提供にあたっては宅建士の記名が必要であると述べています。Q3. 媒介契約書面を書面で作成して交付する場合、宅建業者の記名押印が必要である。(○か×か)
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○:宅建業法34条の2第1項は、記載事項を記載した書面を作成して記名押印し、依頼者にこれを交付しなければならないと定めています。2022年5月18日施行の改正で廃止されたのは35条書面・37条書面における宅建士の押印であり、媒介契約書面における宅建業者の記名押印は残っています。Q4. 37条書面を電磁的方法により提供することについて相手方から承諾を得た後、相手方から書面により提供を受けない旨の申出があった場合でも、いったん得た承諾は有効であるから電磁的方法により提供することができる。(○か×か)
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×:施行令3条の4第2項は、承諾を得た場合であっても、相手方から書面等により電磁的方法による提供を受けない旨の申出があったときは、当該電磁的方法による提供をしてはならないと定めています。ただし、その申出の後に再び承諾を得た場合はこの限りではありません。Q5. IT重説の実施中に通信障害が生じて音声が聞き取れなくなった場合、宅建士は説明を中断し、状況が解消された後に説明を再開しなければならない。(○か×か)
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○:解釈・運用の考え方は、映像を視認できないまたは音声を聞き取ることができない状況が生じた場合には、直ちに説明を中断し、当該状況が解消された後に説明を再開するものとすると定めています。原因の解消が困難な場合は中止することになり、その場合は実施できなかった残りの部分のみを対面に切り替えることも可能です。Q6. 区分所有建物の売買において、施行規則16条の2により説明すべき事項のうち、管理者等が管理組合から委託を受けて管理事務を行うマンション管理業者である場合にその旨を説明する事項は、建物の貸借の契約においても説明しなければならない。(○か×か)
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×:2026年4月1日施行の改正で新設された9号がこの事項ですが、16条の2の柱書は、建物の貸借の契約にあっては3号および8号に掲げるものとすると定めています。建物の貸借で必要なのは専有部分の用途その他の利用の制限に関する規約の定め(3号)と管理の委託先(8号)だけで、9号は含まれません。まとめ
重要事項説明と契約書面のデジタル化は、次の三点に集約できます。
- IT重説は解釈・運用の考え方が定める4要件の問題である。 双方向でやりとりできる環境、記名済みの重要事項説明書と添付書類の事前交付、説明開始前の状態確認、宅建士証を提示して視認できたことの確認。すべてを満たしてはじめて対面と同様に扱われ、途中で映像や音声に支障が生じたら直ちに中断します。売買でも賃貸でも実施できます。
- 書面電子化は条文の問題である。 35条8項・9項、37条4項・5項、34条の2第11項・12項が根拠で、相手方の承諾を政令の定める方式で得ることと、省令の技術基準を満たすことが条件です。承諾は書面等によることが必要で、口頭では足りません。撤回もできます。
- 押印は廃止されたが記名は残った。 消えたのは35条書面・37条書面における宅建士の押印であり、媒介契約書面における宅建業者の記名押印は残っています。電磁的方法で提供する場合も、宅建士が明示されること、すなわち記名は必要です。
宅建業法全体の中でこの論点がどこに位置するかは宅建業法の全体像、不動産取引のデジタル化を業界動向として捉える視点はIT重説と書面電子化にまとめています。
よくある質問
Q. IT重説を行うのに相手方の承諾は要らないのですか。
A. 政令が定める書面等による承諾は、電磁的方法による書面の提供について要求されているものであり、IT重説について同じ形式の承諾を求める規定はありません。ただし国土交通省の実施マニュアルは、IT重説の実施過程で相手方の意向が変わって拒否する旨の申出があった場合にはIT重説を中止する必要があるとしており、相手方の意向に反して押し進めることはできません。実務では事前にIT環境と意向を確認したうえで実施します。試験では「政令の定める方式の承諾が必要か」という形で問われるので、電磁的方法による提供と混同しないことが要点です。
Q. IT重説を録画しなければなりませんか。
A. 録画・録音を義務づける法令上の規定はありません。実施マニュアルは、トラブルが発生したときの解決手段として有効であるとしつつ、個人情報が含まれることから、利用目的を可能な限り明らかにして宅建業者と相手方の双方の了解のもとで行うこと、記録を残す場合は相手方の求めに応じて複製を提供することなどを適切な対応として挙げています。義務ではなく、行うなら同意を得たうえで、という位置づけです。
Q. 電子書面を提供したあと、相手方が開けなかった場合はどうなりますか。
A. 実施マニュアルは、電子書面が閲覧できないトラブル等が生じ、それが解消しない場合には書面電子化を中止する必要があるとしています。中止した後は、中止の事由が取引自体の継続を拒否するものでない限り、紙の書面を交付する方法に切り替えることが可能です。その場合は通常の交付と変わらないので、35条書面・37条書面には宅建士の記名を、媒介契約書面には宅建業者の記名押印を行うことになります。
Q. 相手方が宅建業者の場合も承諾は必要ですか。
A. 必要です。35条9項は業者間取引についての電磁的方法による提供の規定ですが、「相手方等である宅地建物取引業者の承諾を得て」と定めており、承諾の要否について一般の相手方と差を設けていません。業者間で省略できるのは重要事項の説明であって、書面の交付でも承諾でもない、という切り分けを覚えておいてください。
Q. 供託所等の説明もオンラインでできますか。
A. 宅建業法35条の2が定める供託所等の説明は、書面を交付して説明することを法律上要求されていない説明です。解釈・運用の考え方は、この事項を重要事項説明書に記載して説明することが望ましいとしています。重要事項説明書に記載してIT重説の中で併せて説明する運用は妨げられません。この説明の位置づけは供託所等の説明で扱っています。
宅建試験AIブートラボでは、35条書面と37条書面の肢別トレーニングを収録しています。IT重説と電磁的方法の論点は、条文の項番号ごとに繰り返し解いて定着させてください。
宅建業法は20問と配点が最も大きく、確実に得点したい科目です。免許制度・重要事項説明・8種制限を肢別で固めましょう。