住宅瑕疵担保履行法|供託と保険による資力確保
住宅瑕疵担保履行法の制度全体を条文根拠つきで解説。品確法が定める10年責任との関係、供託と保険という2つの資力確保措置、保険契約の要件、届出、紛争処理体制まで整理します。
目次
この記事は、住宅瑕疵担保履行法(正式名称は特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律)の制度全体を扱うものです。供託額をいくらにするかという算定の手順、すなわち戸数の確定から政令の算定式への当てはめまでは住宅瑕疵担保履行法の供託額で扱うので、ここでは制度の骨格、供託と保険という2つの措置の中身、そして紛争処理の枠組みまでを見ていきます。
結論を先に述べます。この法律は、新しい責任を作る法律ではありません。品確法がすでに定めている10年間の瑕疵担保責任について、それを果たせるだけの資力を売主や請負人に確保させる法律です。したがって理解の順序は、まず品確法が何を定めているかを押さえ、次にその責任が履行されない事態をどう防ぐかを見る、という順になります。この順序で読めば、供託額が引渡し戸数を基礎に算定されることも、保険期間が10年以上でなければならないことも、理由から納得できます。
なぜこの法律ができたのか
責任があっても、資力がなければ履行されない
2005年に発覚した構造計算書の偽装をめぐる問題では、耐震強度が不足するマンションなどが多数建設されていたことが明らかになりました。品確法にもとづく瑕疵担保責任は売主にありましたが、売主である事業者が経営破綻したケースでは、購入者が補修費用を回収できませんでした。
ここで顕在化したのは、制度の構造的な欠落です。法が責任を定めても、その責任を果たす資力が失われていれば、買主は救済されません。責任の存在と、責任の履行可能性は別の問題だったわけです。
そこで2007年に住宅瑕疵担保履行法が制定され、2009年10月1日から施行されました。責任の中身を変えるのではなく、責任を果たすための原資をあらかじめ確保させるという設計です。法律の名称に「履行の確保」とあるのは、この趣旨を表しています。
法の目的
法1条は、この法律が住宅の品質確保の促進等に関する法律と相まって、住宅を新築する建設工事の発注者および新築住宅の買主の利益の保護ならびに円滑な住宅の供給を図り、もって国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与することを目的とすると定めています。
「品確法と相まって」という文言が、両法の関係を端的に示しています。品確法が責任を定め、この法律がその履行を支える。単独では完結せず、二法一組で機能する構造です。
品確法が定める責任と、この法律の役割
10年間の瑕疵担保責任
住宅の品質確保の促進等に関する法律、いわゆる品確法は、新築住宅について10年間の瑕疵担保責任を定めています。
同法94条1項が、住宅を新築する建設工事の請負契約において、請負人は注文者に引き渡した時から10年間、住宅のうち構造耐力上主要な部分または雨水の浸入を防止する部分として政令で定めるものの瑕疵について担保責任を負うと定めています。同法95条1項が、新築住宅の売買契約について売主に同様の責任を課しています。請負なら94条、売買なら95条という対応です。
責任の内容は、民法415条にもとづく債務の不履行による損害賠償の責任、および民法541条・542条にもとづく契約の解除です。追完としての補修請求も含まれます。
対象は2つの部位に限られる
責任の対象は住宅のすべてではありません。構造耐力上主要な部分と、雨水の浸入を防止する部分に限られます。
構造耐力上主要な部分には、基礎、基礎ぐい、壁、柱、小屋組、土台、斜材、床版、屋根版、横架材といった、建物の自重や外力を支える部分が含まれます。雨水の浸入を防止する部分には、屋根、外壁、これらの開口部に設ける戸や枠、および雨水を排除するため住宅に設ける排水管のうち住宅の屋根や外壁の内部にあるものが含まれます。
裏返すと、内装の仕上げ、給排水設備そのもの、建具、電気設備といった部分は、この10年責任の対象外です。「新築住宅は10年間すべて保証される」という理解は誤りで、この点は繰り返し問われます。
買主に不利な特約は無効
品確法95条2項は、同条1項に反する特約で買主に不利なものは無効とすると定めています。したがって、責任期間を10年より短くする特約や、構造耐力上主要な部分についての責任を免除する特約は効力を持ちません。
一方、同法97条により、期間を20年以内に伸長する特約は認められます。買主に有利な方向への変更は許されるという構造で、宅地建物取引業法40条の特約制限と同じ発想です。
「瑕疵」という語を使う法律である
用語について注意点があります。民法は2020年の改正で瑕疵担保責任という枠組みを契約不適合責任に改めましたが、品確法と住宅瑕疵担保履行法は現在も「瑕疵」という語を用いています。品確法2条5項が「瑕疵」を、種類または品質に関して契約の内容に適合しない状態と定義しており、内容としては契約不適合と重なりますが、法律上の用語としては瑕疵のままです。
したがって、この分野を説明するときに「契約不適合責任」へ言い換えるのは正確ではありません。宅地建物取引業法40条が制限しているのは民法の契約不適合責任についての特約であり、そちらは契約不適合責任の特約制限で扱っています。制度としての契約不適合責任そのものは契約不適合責任を参照してください。品確法という法律の全体像はその他の法令上の制限でも触れています。
責任を定める法と、履行を確保する法
以上を整理すると、品確法が「10年間の責任を負え」と定め、住宅瑕疵担保履行法が「その責任を果たすための資力を確保せよ」と定めている、という役割分担になります。
この関係を押さえておくと、住宅瑕疵担保履行法の細部が導けます。資力確保の対象が構造耐力上主要な部分と雨水の浸入を防止する部分に限られるのは、品確法の責任範囲がそうだからです。保険期間が引渡しから10年以上でなければならないのも、責任期間が10年だからです。すべて品確法から降りてきています。
誰が義務を負うのか
この法律は、宅地建物取引業者に対する規律と、建設業者に対する規律の二本立てになっています。
宅地建物取引業者に対する義務
法11条から16条までが、宅地建物取引業者に関する規定です。11条1項は、宅地建物取引業者は各基準日において、当該基準日前10年間に自ら売主となる売買契約にもとづき買主に引き渡した新築住宅について、住宅販売瑕疵担保保証金の供託をしていなければならないと定めています。
義務を負うのは自ら売主となった業者に限られます。媒介や代理として関与しただけの業者に義務はありません。この点は宅地建物取引業法の8種制限と同じ構造で、8種制限とはとあわせて理解しておくと定着します。
建設業者に対する義務
法3条から10条までが建設業者に関する規定で、こちらは住宅建設瑕疵担保保証金と呼ばれます。建設業者が請負人として新築住宅を建設し、発注者に引き渡した場合が対象です。
両者は別の義務です。ある新築住宅について、建設業者が請負人として建て、宅地建物取引業者が売主として売るという流れであれば、それぞれが自分の立場で資力確保措置を講じることになります。宅建試験で問われるのは主に宅地建物取引業者側ですが、建設業者にも並行した義務があるという点は選択肢として登場します。「建設業者には資力確保義務がない」という記述は誤りです。
建設業者側の規定は宅建業者側と同じ構造
法3条以下が定める建設業者に対する規律は、11条以下の宅地建物取引業者に対する規律と並行した作りになっています。基準日ごとに、その日前10年間に引き渡した新築住宅について住宅建設瑕疵担保保証金を供託しておくこと、基準日ごとに許可権者へ届け出ること、届出をしなければ一定期間の経過後に新たな請負契約を締結できなくなること、還付があれば不足額を2週間以内に供託すること(法7条)。いずれも宅地建物取引業者側と同じ骨格です。
違うのは、義務者が請負人であること、相手方が発注者であること、届出先が建設業の許可権者であること、そして保証金の名称が住宅建設瑕疵担保保証金であることです。名称の違いは、条文を読むときの目印になります。「建設」が付いていれば請負の話、「販売」が付いていれば売買の話です。
建設と販売の両方が必要になる場合がある
ここで注意したいのが、ひとつの新築住宅について両方の義務が生じる場合があるという点です。
建設業者が請負人として住宅を建て、その住宅を宅地建物取引業者が自ら売主として買主に売るという流れであれば、建設業者は発注者に対する請負契約上の責任について、宅地建物取引業者は買主に対する売買契約上の責任について、それぞれ資力を確保しなければなりません。二重に見えますが、責任を負う相手方が違うので、どちらか一方で足りるという関係にはなりません。
逆に、宅地建物取引業者が自社で施工まで行う場合や、注文住宅として建設業者が施主から直接請け負う場合は、片方だけになります。誰と誰の間にどの契約があるかを図に描いて確かめるのが確実です。
相手方が業者・建設業者であるとき
買主が宅地建物取引業者である場合、資力確保措置の義務は生じません。専門家どうしの取引では保護の必要が低いという考え方で、これも8種制限と同じです。
請負の場合も同様に、発注者が建設業者であるときは義務が生じません。転売や下請の場面まで保護の対象を広げる必要がないという整理です。
新築住宅であること
対象は新築住宅に限られます。品確法2条2項は、新築住宅を、新たに建設された住宅でまだ人の居住の用に供したことのないもののうち、建設工事の完了の日から起算して1年を経過していないものと定義しています。
要件は2つで、居住歴がないことと、工事完了から1年以内であること。どちらか一方でも欠ければ新築住宅ではありません。工事完了から1年を過ぎた未入居の住宅は対象外ですし、一度でも人が住んだ住宅は完了から半年でも対象外です。中古住宅の売買における責任の扱いは瑕疵(契約不適合)とはで扱っています。
また「住宅」であることも要件です。人の居住の用に供する家屋または家屋の部分をいうので、事務所や店舗のみの建物は対象外になります。
資力確保措置の2つの方法
法が用意している資力確保の方法は2つです。住宅販売瑕疵担保保証金の供託と、住宅販売瑕疵担保責任保険契約の締結です。
どちらを選ぶかは業者の任意で、行政の許可を要するものではありません。全戸を供託で対応することも、全戸を保険で対応することもでき、住宅ごとに使い分けることもできます。法11条2項が、保証金の額を算定する戸数から保険契約に係る新築住宅を除くと定めているため、併用は制度上当然に想定されています。
両者は、資金の拘束のされ方が根本的に違います。供託は基準日前10年間の引渡し分が累積して額を決めるため、引渡しを続けるかぎり供託額は積み上がり、その資金は取り戻すまで拘束されます。保険は住宅ごとに保険料を支払う形なので、まとまった資金を預ける必要がありません。
供託による資力確保
どこに、何で供託するか
法11条6項により、供託は主たる事務所の最寄りの供託所にします。従たる事務所ごとに供託するのではなく、全社分を一括して主たる事務所の最寄りの供託所に納めます。宅地建物取引業法の営業保証金と同じ扱いで、比較は営業保証金の仕組みで確認できます。
保証金は金銭のほか、国債証券や地方債証券などの有価証券をもって充てることもできます。評価額は証券の種類によって異なり、営業保証金と同様に、国債証券は額面金額どおり、地方債証券や政府保証債はそれより低い割合で評価されます。
額は引渡し戸数で決まる
供託すべき額は、基準日前10年間に引き渡した新築住宅の戸数を基礎として、政令が定めるところにより算定します(法11条2項)。事務所の数ではなく戸数で決まるという点が、営業保証金との最大の違いです。
算定式は「戸数×乗ずる金額+加える金額」という形で、戸数の区分ごとに2つの数値が政令で定められています。1戸以下であれば2,000万円、10戸で3,800万円、100戸で1億円という水準です。戸数が増えるほど1戸あたりの負担が逓減する累進的な設計になっています。
また、床面積の合計が政令で定める面積(55平方メートル)以下である新築住宅は、その2戸をもって1戸として数えます(法11条3項)。小規模な住宅を多く供給する業者に過大な負担がかからないようにするための調整です。
区分ごとの数値、戸数の確定手順、換算を含む例題は住宅瑕疵担保履行法の供託額にまとめてあります。計算問題として問われるのはこの部分なので、そちらで手を動かしてください。
還付、不足額の供託、取戻し
売主である宅地建物取引業者が瑕疵担保責任を履行しない場合、買主は供託された保証金から還付を受けることができます。還付を受けられるのは新築住宅の買主で、宅地建物取引業者である買主は除かれます。
還付が行われると、供託されている額が必要額を下回ります。この場合、業者は不足額を供託しなければなりません。期限は2週間以内とされており、建設業者について定めた規定が宅地建物取引業者にも及ぶ形になっています。
逆に、引渡しから10年が経過して住宅が算定の対象から外れると、供託額が必要額を上回ります。この超過分は取り戻すことができますが、免許権者の承認が必要です。承認を得ずに引き出すことはできません。
保険による資力確保
保険法人は国土交通大臣が指定する
保険を引き受けるのは、国土交通大臣が指定した住宅瑕疵担保責任保険法人です。一般の損害保険会社が自由に引き受けられるものではなく、指定を受けた法人に限られます。
指定を受けた保険法人は、保険の引受けのほか、住宅の設計施工基準への適合を確認するための検査、紛争処理への支援などの業務を行います。
保険契約の要件
法2条7項が、住宅販売瑕疵担保責任保険契約として認められるための要件を定めています。主なものは4つです。
第一に、保険金額が2,000万円以上であることです。これを下回る保険では資力確保措置として認められません。
第二に、保険期間が、新築住宅の買主が引渡しを受けた時から10年以上の期間にわたって有効であることです。品確法が定める責任期間が10年なので、それを下回っては意味がありません。「10年間」ではなく「10年以上」である点に注意してください。
第三に、売主である宅地建物取引業者が相当の期間を経過してもなお責任を履行しない場合において、買主の請求にもとづき、その瑕疵によって生じた買主の損害を塡補することです。これが、後述する直接請求権の根拠になります。
第四に、国土交通大臣の承認を受けた場合を除き、変更または解除をすることができないことです。売主の都合で勝手に解約されてしまえば、買主の保護が失われるからです。
引渡し前に締結しなければならない
保険契約は、新築住宅の引渡し前に締結しておく必要があります。引き渡した後に遡って加入することはできません。
これは形式的な要件というより、保険の仕組みから来る制約です。保険法人は住宅が設計施工基準に適合しているかを工事中の現場検査で確認したうえで引き受けるため、完成して引き渡された後では検査ができません。したがって、実務では着工前に申込みを行い、基礎配筋や躯体の段階で検査を受ける流れになります。
検査を通じた品質確保という副次的な機能
保険法人は、保険を引き受けるにあたって独自の設計施工基準を定めており、住宅がこれに適合していることを確認します。確認の方法が、着工前の設計内容の審査と、工事中の現場検査です。基礎の配筋が終わった段階、躯体が組み上がった段階といった要所で検査員が現場に入り、基準への適合を確かめます。
基準に適合しなければ保険は引き受けられません。つまり保険を選ぶということは、第三者による設計と施工のチェックを受けるということでもあります。資金面の担保という本来の目的に加えて、瑕疵そのものの発生を減らす方向にも働く仕組みになっているわけです。
供託にはこの機能がありません。供託はあくまで資金を預けるだけで、住宅の品質を確認する工程を伴わないからです。両者の違いは、単に資金の出し方だけではないということです。
なお、指定を受けた保険法人は複数あり、業者はその中から選んで契約します。国土交通大臣の指定を受けていることが要件なので、指定のない一般の損害保険会社が引き受けた保険では、資力確保措置として認められません。
直接請求できることが制度の核心
保険の仕組みは、売主が存続しているかどうかで動き方が変わります。
売主が存続している場合は、まず買主が売主に対して補修などを求め、売主が補修を実施し、その費用について売主が保険法人に保険金を請求します。保険金は売主に支払われます。この場合の保険は、売主の補修費用負担を填補するものとして機能します。
これに対し、売主が倒産するなどして責任を履行しない場合、買主は保険法人に対して直接請求できます。売主を経由せずに保険法人から支払いを受けられるということです。
この直接請求権こそが、この法律が作られた目的そのものです。売主が倒産しても買主が救済されるようにする、という制定の趣旨が、この一点に集約されています。試験でも最も問われるところです。
基準日と届出
基準日は毎年3月31日
資力確保の状況を確認する日が基準日で、現在は毎年3月31日の年1回です。制度の開始当初は3月31日と9月30日の年2回でしたが、法改正により令和3年度から9月30日の基準日が廃止されました。古い教材には年2回のまま記載されているものがあるので、現行の内容で覚えてください。
届出は免許権者へ3週間以内
法12条1項は、宅地建物取引業者は基準日ごとに、当該基準日に係る供託および保険契約の締結の状況について、免許を受けた国土交通大臣または都道府県知事に届け出なければならないと定めています。期限は基準日から3週間以内で、実際には毎年4月21日までとなります。
届出先は免許権者であって供託所ではありません。供託は主たる事務所の最寄りの供託所に行い、届出は免許権者に行う。この使い分けを取り違えないでください。
届出をしないと50日で契約締結が制限される
法13条は、届出をしない宅地建物取引業者は、当該基準日の翌日から起算して50日を経過した日以後においては、新たに自ら売主となる新築住宅の売買契約を締結してはならないと定めています。
3週間という届出期限と、50日という契約締結の制限は別の数字です。届出の期限を過ぎ、さらに時間が経過して50日を超えると、営業そのものが制限されるという二段構えになっています。制限されるのは新たに自ら売主となる新築住宅の売買契約であって、既存の契約が無効になるわけでも、媒介業務ができなくなるわけでもありません。
なお、資力確保措置や届出を怠った場合、監督処分の対象にもなります。指示処分、業務停止処分、情状が特に重いときは免許取消処分という段階は、宅地建物取引業法上の他の違反と同じです。体系は監督処分の種類と手続で整理しています。
買主への説明義務
法15条は、供託をしている宅地建物取引業者は、自ら売主となる新築住宅の買主に対し、当該新築住宅の売買契約を締結するまでに、住宅販売瑕疵担保保証金の供託をしている供託所の所在地その他の事項について、これらを記載した書面を交付して説明しなければならないと定めています。
押さえるべき点が3つあります。
第一に、時期は売買契約を締結するまでです。契約後では義務を果たしたことになりません。
第二に、これは宅地建物取引業法35条の重要事項説明とは別の義務です。根拠となる法律が違い、説明すべき内容も違います。ただし宅地建物取引業法35条1項にも、担保責任の履行に関して講ずる措置の概要という説明事項があるため、実務では両方が行われます。35条書面の記載事項は35条書面の記載事項を参照してください。
第三に、この15条の説明について、宅地建物取引士による説明を求める規定はありません。宅地建物取引業者が説明すれば足ります。35条が宅建士による説明を要求しているのと対照的で、ここが引っかけになります。
似た制度として、宅地建物取引業法35条の2が定める供託所等の説明があります。こちらは営業保証金や保証協会に関する説明で、まったく別の義務です。混同しないよう供託所等の説明で確認しておいてください。
買主から見ると救済の道筋が違う
供託と保険は、売主にとっては資金の出し方の違いですが、買主にとっては救済の道筋の違いになります。
売主が供託を選んでいる場合、買主は供託所に対して還付を請求します。手続の相手は法務局です。売主が保険を選んでいる場合、買主は保険法人に対して直接請求します。手続の相手は指定を受けた保険法人です。窓口も、必要な書類も、進み方も違います。
だからこそ、法15条は契約締結までに供託所の所在地等を説明せよと定めているわけです。いざというときにどこへ行けばよいかを、買主が契約前に知っておく必要があるからです。説明義務が形式的なものではなく、救済の実効性に直結していると理解しておくと、この規定の位置づけが見えます。
この法律が及ばない場面
制度の輪郭をはっきりさせるために、適用されない場面も確認しておきます。
第一に、中古住宅の売買です。この法律の対象は新築住宅に限られるので、中古住宅の売買に資力確保の義務はありません。実務では既存住宅売買瑕疵保険という別の保険が用意されていますが、これは任意の加入であって、法が義務づけるものではありません。中古住宅を買うときの注意点は瑕疵(契約不適合)とはで扱っています。
第二に、宅地建物取引業者が媒介や代理として関与しただけの取引です。義務を負うのは自ら売主となった業者だけです。
第三に、買主が宅地建物取引業者である取引です。
ここで一点、混同しやすい区別があります。品確法95条が定める10年間の瑕疵担保責任は、新築住宅の売買契約であれば適用され、売主が宅地建物取引業者であるかどうかを問いません。これに対し、住宅瑕疵担保履行法が資力確保を義務づけているのは宅地建物取引業者です。つまり、責任の範囲と、資力確保義務の範囲は一致していません。「品確法の責任があるところには必ず資力確保義務がある」という理解は正確ではない、ということです。
品確法という法律の構造
紛争処理の話に入る前に、品確法がどういう構造の法律かを確認しておくと理解が早くなります。
品確法は3つの柱でできています。第一が、これまで見てきた新築住宅の瑕疵担保責任の特例です。第二が、住宅性能表示制度です。住宅の性能を共通のものさしで表示し、第三者機関である登録住宅性能評価機関が評価する仕組みで、評価を受けた住宅を評価住宅と呼びます。第三が、住宅に関する紛争処理体制です。
この3本柱を知っていると、次に述べる紛争処理の対象がもともと評価住宅だった理由が分かります。性能表示という共通の基準があるからこそ、専門的な判断を要する紛争を迅速に処理できる、という設計だったわけです。
紛争処理の枠組み
瑕疵をめぐる争いは、訴訟で解決しようとすると時間も費用もかかります。そこで、住宅に関する紛争を迅速に処理するための仕組みが用意されています。
品確法は、指定住宅紛争処理機関による住宅紛争処理の制度を設けています。これは各地の弁護士会に設置された住宅紛争審査会が、あっせん、調停、仲裁を行うものです。もともとは住宅性能評価を受けた住宅、いわゆる評価住宅を対象とする制度でした。
住宅瑕疵担保履行法33条は、この対象を広げました。保険付き住宅、すなわち住宅瑕疵担保責任保険契約が締結されている住宅についても、指定住宅紛争処理機関による特別住宅紛争処理を利用できるようにしたのです。性能評価を受けていない住宅でも、保険に入っていれば紛争処理の枠組みに乗れるということです。
また同法34条は、住宅紛争処理支援センターの業務について定めています。紛争処理に要する費用の助成や、相談対応などを行う仕組みです。
保険を選んだ場合、資金面の担保だけでなく、この紛争処理の枠組みも付いてくるという点は、供託との実質的な違いのひとつです。
試験での出題ポイント
対象を広げる、狭める
「中古住宅の売主にも資力確保措置が必要」という記述は誤りです。対象は新築住宅に限られます。逆に「建設業者には資力確保義務がない」という記述も誤りで、法3条以下が請負人である建設業者にも義務を課しています。対象を広げる方向と狭める方向、両方から誤りが作られます。
買主が業者かどうか
買主が宅地建物取引業者である場合、資力確保措置は不要です。「すべての買主について必要」とする記述は誤りになります。自ら売主であること、買主が業者でないこと、対象が新築住宅であること。この3要件を毎回確認してください。
数字を入れ替える
保険金額は2,000万円以上、保険期間は引渡しから10年以上、届出は基準日から3週間以内、契約締結の制限は基準日の翌日から起算して50日を経過した日以後、還付があった場合の不足額の供託は2週間以内。これらを相互に入れ替えた選択肢が出ます。数字の整理は宅建業法の数字まとめで横断的に確認できます。
供託所と免許権者を入れ替える
供託は主たる事務所の最寄りの供託所へ、届出は免許権者へ。「供託所に届け出る」「免許権者に供託する」という記述はいずれも誤りです。また、供託先は「事務所の最寄り」ではなく「主たる事務所の最寄り」です。
保険契約の締結時期
保険契約は引渡し前に締結しなければなりません。「引渡し後でも締結できる」という記述は誤りです。工事中の現場検査を前提とする仕組みだという理由まで理解しておくと迷いません。
15条の説明を35条と混同させる
法15条の説明は宅地建物取引業法35条の重要事項説明とは別の義務で、宅建士による説明までは求められていません。「宅地建物取引士をして説明させなければならない」という記述は誤りです。
責任の範囲
品確法の10年責任は、構造耐力上主要な部分と雨水の浸入を防止する部分に限られます。「住宅のすべての瑕疵について10年間の責任を負う」という記述は誤りです。給排水設備や内装は対象外です。
2つの法律の役割を入れ替える
品確法が責任の内容を定め、住宅瑕疵担保履行法がその履行を確保する。この役割を入れ替えた選択肢が作られます。「住宅瑕疵担保履行法により、新築住宅の売主は10年間の瑕疵担保責任を負う」という記述は、責任の根拠を取り違えており誤りです。10年責任の根拠は品確法94条・95条です。
逆に、「品確法により、新築住宅の売主は保証金の供託または保険契約の締結をしなければならない」という記述も誤りになります。資力確保措置を義務づけているのは住宅瑕疵担保履行法です。どちらの法律の話かを、根拠条文まで含めて区別してください。
覚え方・整理の仕方
品確法から降ろして考える
この法律の数字と要件は、ほぼすべて品確法から導けます。責任期間が10年だから保険期間は10年以上、責任の対象が2つの部位だから資力確保の対象も2つの部位、責任を負うのが売主と請負人だから義務者も宅地建物取引業者と建設業者。丸暗記するより、品確法を起点に降ろすほうが忘れません。
供託と保険を4軸で対比する
誰に払うか(供託所か保険法人か)、いつ資金が出ていくか(あらかじめ供託するか保険料を払うか)、額の決まり方(戸数で算定するか保険料か)、倒産時にどうなるか(供託所から還付を受けるか保険法人へ直接請求するか)。この4軸で並べておけば、どちらの話かを取り違えません。
3つの数字を場面で分ける
制度に登場する数字は、責任に関するもの、金額に関するもの、手続に関するものに分かれます。責任に関するのは10年と1年。金額に関するのは2,000万円と55平方メートル。手続に関するのは3週間、50日、2週間です。どの場面の話かを先に決めれば、探す範囲が3分の1になります。
8種制限と同じ枠に入れる
「自ら売主」で「相手方が宅地建物取引業者でない」という適用要件は、8種制限とまったく同じです。買主が素人であるときに売主業者へ課される規律という同じ枠に入れておけば、要件の確認が習慣になります。宅建業法全体の中での位置づけは宅建業法の全体像で俯瞰できます。
理解度チェッククイズ
Q1. 品確法により、新築住宅の売主は、買主に引き渡した時から10年間、住宅のすべての瑕疵について担保責任を負う。(○か×か)
答えを見る
×:品確法95条1項が定める10年間の担保責任の対象は、住宅のうち構造耐力上主要な部分または雨水の浸入を防止する部分として政令で定めるものに限られます。基礎、柱、壁、屋根、外壁などがこれに当たり、給排水設備そのものや内装の仕上げは対象外です。「すべての瑕疵」とする記述は範囲を広げた誤りです。なお、この責任に反する買主に不利な特約は無効であり(同条2項)、20年以内に伸長する特約は有効です(同法97条)。Q2. 住宅販売瑕疵担保責任保険契約は、保険金額が2,000万円以上であり、かつ買主が引渡しを受けた時から10年以上の期間にわたって有効なものでなければならない。(○か×か)
答えを見る
○:住宅瑕疵担保履行法2条7項が保険契約の要件を定めており、保険金額2,000万円以上、買主が引渡しを受けた時から10年以上有効であることが含まれます。あわせて、売主が責任を履行しない場合に買主の請求にもとづき損害を塡補すること、国土交通大臣の承認を受けた場合を除き変更または解除ができないことも要件です。保険期間は「10年間」ではなく「10年以上」である点に注意してください。Q3. 宅地建物取引業者が自ら売主となって新築住宅を宅地建物取引業者である買主に売却した場合にも、住宅販売瑕疵担保保証金の供託または保険契約の締結が必要である。(○か×か)
答えを見る
×:買主が宅地建物取引業者である場合、資力確保措置の義務は生じません。専門家どうしの取引では保護の必要が低いという考え方によるもので、宅地建物取引業法の8種制限が業者間取引に適用されないのと同じ構造です。適用の要件は、自ら売主であること、買主が宅地建物取引業者でないこと、対象が新築住宅であることの3つです。Q4. 供託をしている宅地建物取引業者は、新築住宅の買主に対し、売買契約を締結した後遅滞なく、供託所の所在地等を記載した書面を交付して説明しなければならない。(○か×か)
答えを見る
×:住宅瑕疵担保履行法15条が求めているのは、売買契約を締結する「までに」説明することです。契約後では義務を果たしたことになりません。また、この説明は宅地建物取引業法35条の重要事項説明とは別の義務であり、宅地建物取引士による説明までは求められていません。宅地建物取引業者が書面を交付して説明すれば足ります。Q5. 住宅瑕疵担保責任保険契約が締結されている新築住宅については、住宅性能評価を受けていなくても、指定住宅紛争処理機関による紛争処理を利用することができる。(○か×か)
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○:品確法が定める指定住宅紛争処理機関による紛争処理は、もともと住宅性能評価を受けた評価住宅を対象とする制度でした。住宅瑕疵担保履行法33条により、保険付き住宅についても特別住宅紛争処理として利用できるよう対象が広げられています。各地の弁護士会に設置された住宅紛争審査会が、あっせん、調停、仲裁を行います。資金面の担保に加えて紛争処理の枠組みが付いてくる点は、保険を選んだ場合の実質的な利点のひとつです。まとめ
住宅瑕疵担保履行法は、新しい責任を作る法律ではなく、品確法がすでに定めている10年間の瑕疵担保責任について、それを果たすための資力を確保させる法律です。品確法94条が請負人に、95条が売主に責任を課し、対象は構造耐力上主要な部分と雨水の浸入を防止する部分に限られます。この責任の枠組みから、資力確保の対象も、保険期間の下限も、すべて導けます。
資力確保の方法は供託と保険の2つで、選択は業者の任意であり併用もできます。供託は主たる事務所の最寄りの供託所に、引渡し戸数を基礎に算定した額を納めます。保険は国土交通大臣が指定する保険法人と契約し、保険金額2,000万円以上、引渡しから10年以上有効、国土交通大臣の承認なしに変更・解除できないといった要件を満たす必要があります。そして売主が責任を履行しない場合、買主は保険法人へ直接請求できます。これがこの法律の核心です。
手続については、基準日が毎年3月31日の年1回であること、届出は基準日から3週間以内に免許権者へ行うこと、届出をしなければ基準日の翌日から起算して50日を経過した日以後は新たに自ら売主となる新築住宅の売買契約を締結できなくなること。供託額の具体的な算定手順は住宅瑕疵担保履行法の供託額で確認してください。
宅建試験AIブートラボのアプリでは、住宅瑕疵担保履行法の過去問を条文根拠つきの解説で演習でき、供託と保険の対比や届出期限といったつまずきやすい箇所を繰り返し確認できます。
宅建業法は20問と配点が最も大きく、確実に得点したい科目です。免許制度・重要事項説明・8種制限を肢別で固めましょう。