心理的瑕疵と告知義務|人の死のガイドライン
国土交通省が令和3年10月8日に公表した人の死の告知に関するガイドラインを、宅建業法47条1号や重要事項説明との関係から整理。告げなくてよい場合と告げるべき場合、調査の範囲を解説します。
目次
この記事は、物件で人が亡くなった事実をどこまで買主や借主に告げる必要があるのかという問題を、国土交通省のガイドラインと宅地建物取引業法の条文の両面から整理する記事です。重要事項説明の全体像は重要事項説明(35条書面)の記載事項と頻出ポイント、告げないこと自体を禁じる条文の構造は宅建業法47条の禁止行為|業務上の規制を整理で扱っています。
結論を先に述べます。人の死に関する事案の告知は、「必ず何年分を告げる」という一律のルールで動いているわけではありません。判断の出発点は宅建業法47条1号ニの、相手方等の判断に重要な影響を及ぼすこととなる事項に当たるかどうかです。国土交通省が令和3年10月8日に公表した「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」は、その判断について実務上の目安を示したもので、これに従わなかったことだけで直ちに宅建業法違反となるものではないと明記されています。目安と法的義務を区別して理解することが、この論点を正確に押さえる鍵になります。
心理的瑕疵とは何か
法律用語ではないという出発点
心理的瑕疵という言葉は、宅建業法にも民法にも出てきません。物件そのものの物理的な欠陥ではないけれども、そこに住むことを心理的に忌避させる事情を指す実務上の呼び名です。過去に自殺や他殺があった、火災で人が亡くなった、といった事案が典型として語られます。
法律用語ではない以上、条文にあてはめるときは翻訳が必要になります。売買契約の場面では、民法562条以下の契約不適合、具体的には「品質に関して契約の内容に適合しない」ものといえるかという形で問題になります。契約不適合責任の枠組みは契約不適合責任|買主の4つの権利と期間制限で整理しています。
宅建業法の場面では、47条1号ニに列挙された事項、すなわち相手方等の判断に重要な影響を及ぼすこととなるものに当たるか、という形で問題になります。同じ事実が、民事上の責任と行政上の規制の両方で意味を持つ点が、この論点の難しさの源です。
平成29年改正で「瑕疵」の語は条文から消えた
民法は平成29年の改正(令和2年4月1日施行)で、売主の瑕疵担保責任を契約不適合責任へと組み替えました。条文の文言としての「瑕疵」は姿を消しています。それでも実務では心理的瑕疵という呼び方が残っており、教材でもこの語が使われ続けています。
用語の変遷は瑕疵(契約不適合)とは?中古住宅購入時の注意点で詳しく扱っています。試験対策としては、「瑕疵」という言葉が出てきたら頭の中で「契約の内容に適合しないこと」に置き換えて読む習慣をつけておくと、条文問題との接続がスムーズになります。
なぜ基準が必要とされたのか
人の死に関する事案は、告げなければ後にトラブルになり、告げすぎれば亡くなった方やその遺族の名誉や生活の平穏を害します。どこまで調べ、どこまで告げればよいのかについて確立した基準がないと、宅建業者は判断に迷い、取引が過度に萎縮したり、逆に説明が不足したりします。
国土交通省は「不動産取引における心理的瑕疵に関する検討会」での議論を踏まえ、令和3年10月8日にガイドラインを公表しました。実務の判断を助ける目安として、現時点で最も参照されている資料です。
ガイドラインの位置づけ
従わなくても直ちに違反ではない
ガイドラインは、そこで示した対応を行わなかった場合、そのことだけをもって直ちに宅地建物取引業法違反となるものではないとしています。同時に、トラブルとなった場合には行政庁における監督に当たって参考にされることになるとも述べています。
つまり、法令そのものではないが、監督処分の判断材料にはなる、という位置づけです。監督処分の仕組みは監督処分と罰則|指示・業務停止・免許取消の違いで扱っています。「ガイドラインに違反したので免許取消しになる」という表現は正確ではなく、「ガイドラインを踏まえて宅建業法上の義務違反があったかが判断される」という順序で理解してください。
民事上の責任を免れさせるものでもない
ガイドラインは、これに基づく対応を行った場合であっても、宅地建物取引業者が民事上の責任を回避できるものではないことに留意する必要があると述べています。
ここは実務でも試験でも重要です。ガイドラインどおりに告げなかったとしても、個別の事情のもとで買主に対する説明義務違反が認められ、損害賠償責任を負う可能性は残ります。行政上の規制と民事上の責任は別の平面にある、という原則がここでも当てはまります。
対象は居住用不動産
ガイドラインは、住宅として用いられる不動産、すなわち居住用不動産を対象としています。オフィスなどの事業用物件は対象外です。取引の形態としては、売買と賃貸借の両方が対象になります。
対象範囲を限定していること自体が、出題のポイントになり得ます。「ガイドラインは賃貸借にのみ適用される」「事業用物件にも当然に適用される」といった記述は、いずれも正確ではありません。
告げなくてもよいとされる場合
自然死と日常生活の中での不慮の死
ガイドラインは、老衰や病死といった自然死について、原則として告げなくてもよいとしています。理由として、自宅における死因割合のうち老衰や病死による死亡が約9割を占めることが挙げられており、居住用不動産で死亡が発生することは当然に予想されるものだ、という考え方が示されています。
自然死のほか、階段からの転落、入浴中の溺水、食事中の誤嚥といった日常生活の中での不慮の死も、同じ扱いとされています。日常生活を送るなかで起こり得る事故であり、通常は買主・借主の判断に重要な影響を及ぼすものではないという整理です。
ただし例外があります。これらの死であっても、発見が遅れたことにより特殊清掃や大規模リフォームが行われた場合には、買主・借主が契約を締結するか否かの判断に重要な影響を及ぼす可能性があるとされ、原則として告げる必要が生じます。ここが最も間違えやすい分岐点です。
賃貸借で概ね3年が経過した場合
ガイドラインは、賃貸借の取引について、自然死や日常生活の中での不慮の死以外の死が発生した場合であっても、そこから概ね3年間が経過した後は、原則として借主に告げなくてもよいとしています。
注意すべき点が三つあります。第一に、この期間の目安は賃貸借について述べられたもので、売買について同じ年数が示されているわけではありません。第二に、事件性、周知性、社会に与えた影響等が特に高い事案はこの限りでないとされています。第三に、起算点は「死が発生し、または特殊清掃等が行われることとなった死が発覚してから」であり、発生時ではなく発覚時が基準になる場合があります。
「3年」という数字だけが独り歩きしやすい部分です。賃貸借に関する目安であること、例外があること、起算点に発覚時が含まれることの三点をセットで覚えてください。賃貸取引特有の説明事項は賃貸の重要事項説明|売買との違いを比較整理で整理しています。
隣接住戸や通常使用しない共用部分での死
取引の対象ではない隣の住戸で発生した死や、買主・借主が日常生活において通常使用しない共用部分で発生した死についても、ガイドラインは原則として告げなくてもよいとしています。
もっとも、ここでも事件性や周知性が特に高い事案は別扱いとされています。また、日常生活で通常使用する共用部分、たとえば居室に至る階段やエレベーターホールなどで発生した事案は、この原則の外に置かれることになります。「共用部分ならすべて告げなくてよい」と読み替えないよう注意してください。
告げる必要がある場合
特殊清掃等が行われた場合
特殊清掃とは、消臭・消毒や清掃を行うサービスを指します。自然死であっても、発見までに時間が経過し特殊清掃等が行われた場合には、買主・借主の判断に重要な影響を及ぼす可能性があるとして、原則として告げることが求められます。
この場合の期間の起算点は、死が発覚した時点です。死亡時ではなく発覚時から数えるという点が、賃貸借の概ね3年という目安と組み合わさって出題される可能性があります。
事件性・周知性・社会的影響が大きい事案
賃貸借で概ね3年が経過した場合や、隣接住戸・通常使用しない共用部分での事案であっても、事件性、周知性、社会に与えた影響等が特に高い事案については、原則どおりに扱ってよいわけではありません。報道が繰り返されたような事案がこれに当たると考えられます。
この例外があるために、期間の経過だけを根拠に告げないという判断は成り立ちません。個別の事情を踏まえて判断する必要がある、というのがガイドラインの基本的な立場です。
買主・借主から問われた場合
ガイドラインは、買主・借主から事案の有無について問われた場合や、その社会的影響の大きさから買主・借主において把握しておくべき特段の事情があると認識した場合等には、当該事案は取引の相手方等の判断に重要な影響を及ぼすと考えられるため、調査を通じて判明した点を告げる必要があるとしています。
つまり、質問されたかどうかで結論が変わり得ます。原則として告げなくてよい類型に当たる事案でも、相手から尋ねられれば、調査で判明している範囲を告げることになります。ここは実務でも試験でも効く知識です。宅建業者の説明義務の全体像は宅建業者の説明義務まとめ|告知すべき事項と違反の効果にまとめています。
何をどこまで調査し、どう告げるか
調査の範囲は売主・貸主への照会が基本
ガイドラインは、媒介を行う宅地建物取引業者について、売主・貸主に対して告知書(物件状況等報告書)その他の書面に過去に生じた事案についての記載を求めることにより、媒介活動に伴う通常の情報収集としての調査義務を果たしたものとするとしています。
そのうえで、宅地建物取引業者は原則として、売主・貸主・管理業者以外に自ら周辺住民に聞き込みを行ったり、インターネットサイトを調査するなどの自発的な調査を行ったりする義務はないと考えられるとしています。調査義務が無限に広がるものではない、という線引きです。物件調査の実務的な手順は不動産の物件調査の方法|重要事項説明に必要な調査で扱っています。
不明・無回答のときの扱い
売主・貸主等から不明であると回答された場合、あるいは回答がなかった場合であっても、宅地建物取引業者に重大な過失がない限り、照会を行った事実をもって調査はなされたものと解するとされています。そして、その場合はその旨を告げれば足りるとされています。
「分からなかったので何も言わない」ではなく、「照会したが不明との回答だった」と伝えるところまでが求められている、と理解してください。
管理業者への照会という経路
ガイドラインは、不明であるとの回答や無回答であった場合の記述のなかで、売主・貸主と並べて管理業者を挙げています。賃貸物件では、貸主本人よりも管理を委託されている業者のほうが事案の経緯を把握していることがあるため、照会先として想定されているわけです。
賃貸の媒介では、貸主が個人で遠方に居住しているなど、直接の照会が難しい場面もあります。そうした場合に管理業者へ確認するという経路が想定されていることを知っておくと、実務の流れが理解しやすくなります。不動産管理会社が担う業務の内容は不動産管理会社の仕事内容|宅建が必要なケースとはで扱っています。
照会先が複数あることは、調査義務が重くなることを意味しません。ガイドラインの整理は、通常の情報収集として照会を行えば足りるというものであり、複数の経路を必ず全部たどらなければならないという趣旨ではないと読むのが自然です。
告げる内容と、告げなくてよい内容
告げる内容は、事案の発生時期(特殊清掃等が行われた場合には発覚時期)、場所、死因、および特殊清掃等が行われた場合にはその旨とされています。
一方で、氏名、年齢、住所、家族構成や具体的な死の態様、発見状況等を告げる必要はないとされています。亡くなった方やその遺族等の名誉および生活の平穏に十分配慮する必要があるためです。告知は必要な範囲にとどめる、という考え方がここに表れています。
35条書面との関係
法定記載事項には列挙されていない
35条1項各号には、「過去に人の死があったこと」という項目は置かれていません。登記された権利、法令上の制限、私道の負担、飲用水・電気・ガスの供給施設の整備状況、代金以外に授受される金銭の額と目的、契約の解除に関する事項といった項目が並んでいるだけです。35条書面の記載事項の全体像は35条書面の記載事項を完全網羅|売買・賃貸の違いも整理で確認できます。
したがって、人の死に関する事案を告げる根拠は、35条の法定記載事項ではありません。宅建業法上の根拠は47条1号ニ、すなわち相手方等の判断に重要な影響を及ぼすこととなる事項について故意に事実を告げず、または不実のことを告げてはならないという規定に求められます。
この違いは効果に直結します。35条違反には罰則がありませんが、47条1号違反には79条の2による罰則があります。同じ「説明が足りない」場面でも、どの条文に当たるかで結論が変わるということです。罰則の対応関係は宅建業法の罰則一覧|懲役・罰金の金額を整理で条文単位に整理しています。
実務では告知書と重要事項説明が併用される
実務上は、売主・貸主に記入してもらう告知書(物件状況等報告書)で事案の有無を確認し、判明した内容を重要事項説明の場で伝える、という流れが取られることが一般的です。ガイドラインが調査方法として告知書への記載を求めることを挙げているのも、この流れを前提としています。
試験対策としては、「35条書面の記載事項に心理的瑕疵が含まれる」という記述には慎重になってください。条文に列挙されていない以上、法定記載事項として問われれば誤りと判断するのが素直な読み方です。
民事上の責任との関係
契約不適合責任として争われる場合
売買契約において、買主が「知っていれば買わなかった」と主張する場面では、民法562条以下の契約不適合責任が問題になります。目的物が種類、品質または数量に関して契約の内容に適合しないときは、買主は追完請求、代金減額請求、損害賠償請求、契約の解除をすることができます。
心理的な事情がここでいう「品質」の不適合に当たるかは、契約の内容をどう解釈するかによります。契約書や重要事項説明でどのような説明がされていたか、その物件の用途や価格がどう設定されていたか、といった事情を踏まえて判断されることになります。買主の権利と期間制限は契約不適合責任|買主の4つの権利と期間制限で整理しています。
業者が自ら売主となる場合の特約制限
宅地建物取引業者が自ら売主となる場合には、8種制限の一つとして特約の制限が働きます。宅建業法40条1項は、民法566条に規定する期間についての特約について、目的物の引渡しの日から2年以上となる特約を除き、民法の規定より買主に不利となる特約をしてはならないとし、2項はこれに反する特約を無効としています。
「心理的瑕疵については一切責任を負わない」という特約を業者が売主として付けた場合、この規定との関係が問題になります。特約制限の詳細は契約不適合責任の特約制限|民法との違いで扱っています。相手方が宅建業者である場合には78条2項により8種制限の適用がない点も、あわせて押さえておいてください。
説明義務違反という構成
契約不適合責任とは別に、宅建業者が調査・説明を怠ったことを理由とする責任が問題になることもあります。媒介業者は依頼者に対して善良な管理者の注意をもって媒介業務を行う義務を負っており、その内容として一定の調査・説明が求められると考えられています。
ガイドラインが、これに基づく対応を行った場合であっても民事上の責任を回避できるものではないと述べているのは、まさにこの領域を指しています。行政上の目安を守ることと、個別の契約関係で責任を負わないこととは別だ、という理解が必要です。不動産取引で起こりやすいトラブルの類型は不動産トラブル事例集|宅建の知識で自分を守る方法でも扱っています。
売買と賃貸借で扱いが分かれる部分
期間の目安が示されているのは賃貸借だけ
ガイドラインが概ね3年という期間の目安を示しているのは、賃貸借の取引についてです。売買については、同様の年数の目安が示されていません。この差は、試験でも実務でも意識しておく必要があります。
なぜ差が設けられているのかについて、ガイドラインが理由を詳しく述べているわけではありません。もっとも、賃貸借は契約期間が限られ、当事者の入れ替わりが繰り返される取引であるのに対し、売買は所有権を取得して長期にわたり保有することを前提とする取引です。取引によって当事者が受ける影響の持続の仕方が違うことが背景にあると考えられます。
いずれにしても、売買について「何年経てば告げなくてよい」と断定することはできません。個別の事情に照らして、相手方等の判断に重要な影響を及ぼすかどうかを検討する、という原則に立ち返ることになります。
賃貸借では重要事項説明の項目自体が異なる
賃貸借の重要事項説明は、売買とは説明すべき項目が一部異なります。台所・浴室・便所その他の当該建物の設備の整備の状況や、契約期間および契約の更新に関する事項、敷金その他の契約終了時に精算することとされる金銭の精算に関する事項などが、貸借特有の項目として定められています。賃貸の重要事項説明の全体像は賃貸の重要事項説明|売買との違いを比較整理で扱っています。
人の死に関する事案は、これらの法定項目のいずれにも含まれていません。したがって売買と同じく、47条1号ニの受け皿で処理されることになります。賃貸だから根拠条文が変わる、ということはありません。
借主の入れ替わりと「次の次」の問題
賃貸借では、事案の後に一度別の借主が入居し、その後にさらに次の借主と契約する、という場面が生じます。実務ではこうした事情も踏まえて判断されますが、ガイドラインは期間の目安を示すにとどめており、入居者が何人入れ替わったかで機械的に結論が決まる仕組みにはなっていません。
試験対策としては、「一度他人が入居すれば以後は告げなくてよい」という記述に飛びつかないことが大切です。ガイドラインが示しているのは期間の目安であって、入居者数の目安ではありません。
自ら売主の場合と媒介の場合
媒介業者に求められるのは照会と伝達
媒介を行う業者は、物件の履歴をすべて知っている立場にはありません。だからこそガイドラインは、売主・貸主に対する告知書での照会をもって通常の調査義務を果たしたものとする、という整理をしています。
媒介業者の役割は、自ら真実を探り当てることではなく、依頼者から適切に情報を引き出し、判明した内容を相手方に伝えることにあります。媒介契約の類型と業者が負う義務については媒介契約の3類型|一般・専任・専属専任の違いを比較で整理しています。
自ら売主となる業者は事情を知る立場にある
これに対して、業者が自ら売主となる場合は、その物件を取得した経緯を通じて事案を知っていることが少なくありません。知っている事実について故意に告げなければ、47条1号にまっすぐ当たります。
さらに、自ら売主となる場合には8種制限が働きます。契約不適合責任についての特約の制限(40条)はその一つで、責任を負わない旨の特約を設けても、原則として無効となります。8種制限の全体像は8種制限を完全攻略|自ら売主制限の全8項目を解説で確認できます。
相手方が宅建業者である場合
8種制限は、相手方が宅地建物取引業者である場合には適用されません(78条2項)。この適用除外については8種制限が「適用されない」ケース|業者間取引の特例で詳しく扱っています。
しかし、47条には同じ適用除外がありません。買主が宅建業者であっても、故意に事実を告げなければ47条1号違反になり得ます。「プロ同士の取引だから告げなくてよい」という発想が通らない点は、この論点でも共通しています。特約の制限は外れるが、告知の規制は外れない、という二段構えで整理してください。
ガイドラインが扱っていない事項
対象は人の死に関する事案に限られる
ガイドラインの表題は「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」です。対象は人の死に関する事案であって、心理的瑕疵と呼ばれる事情のすべてを網羅したものではありません。
したがって、たとえば近隣に暴力団事務所があるといった事情や、周辺の嫌悪施設、過去の火災や浸水の履歴といった事柄は、このガイドラインの守備範囲の外にあります。これらについて「概ね3年」といった目安を当てはめることはできません。
対象外の事項はどう考えるか
対象外だからといって、告げなくてよいことになるわけではありません。宅建業法上の判断基準は変わらず47条1号ニであり、相手方等の判断に重要な影響を及ぼすこととなる事項について、故意に事実を告げず、または不実のことを告げてはならないという規定が働きます。
つまり、ガイドラインがある領域では目安を参照でき、ない領域では条文の要件に直接あてはめる、という使い分けになります。ガイドラインの存在によって、条文の適用範囲が狭められるわけではありません。
なお、周辺環境に関する事項の一部は、法令上の制限や取引条件として35条の説明事項に含まれることがあります。どの事項が法定の記載事項に当たるかは重要事項説明(35条書面)の記載事項と頻出ポイントで確認してください。
事業用物件は対象外
ガイドラインは居住用不動産を対象としています。オフィスや店舗といった事業用の物件は対象外です。
ただしこれも、事業用物件では告げなくてよいという意味ではありません。事業用物件についても、相手方等の判断に重要な影響を及ぼす事項であれば47条1号ニの問題になります。ガイドラインという目安が用意されていないだけで、条文の規律は及んでいる、という理解が正確です。
目安と条文の関係を一文で言えるようにする
この論点で問われているのは、突き詰めれば「目安と条文の関係」です。条文が義務の根拠であり、ガイドラインはその判断を助ける行政の指針である。指針に従わなかったことだけで直ちに違反にはならないが、監督の場面では参考にされる。そして指針に従っても民事上の責任は残る。この三つの関係を一息で言えるようにしておくと、どの角度から問われても対応できます。
試験での出題ポイント
「必ず告げなければならない」型
最も出やすいのは、原則と例外を裏返す出題です。「居住用建物で過去に人が亡くなった事実は、その死因を問わず必ず告げなければならない」という記述は、自然死や日常生活の中での不慮の死について原則として告げなくてよいとするガイドラインの整理と合いません。
逆に、「自然死であれば、特殊清掃が行われた場合でも告げる必要はない」という記述も誤りです。自然死かどうかという入口の分岐と、特殊清掃等が行われたかどうかという第二の分岐を、二段構えで確認する必要があります。
期間の数字をずらす型
賃貸借について概ね3年という目安が示されていることを利用し、「売買については概ね5年」「賃貸借は7年」といった数字を差し込む選択肢が考えられます。ガイドラインが年数の目安を示しているのは賃貸借についてであり、売買について具体的な年数は示されていません。
数字が出てきたら、その数字が何についての数字なのかを確認する癖をつけてください。宅建業法に登場する期間や金額の整理は宅建業法の数字まとめ|期間・金額・人数の暗記一覧にまとめています。
調査義務の範囲を広げる型
「宅建業者は、近隣住民への聞き込みやインターネット上の情報の調査まで行わなければならない」という記述は、ガイドラインの立場と逆です。原則として自発的な調査までは求められておらず、売主・貸主への照会が基本とされています。
一方で、「照会したが回答がなかったので、何も告げなくてよい」という記述も正確ではありません。不明や無回答であればその旨を告げれば足りる、という整理だからです。調査の範囲と、調査結果の伝え方は、別々に問われます。
ガイドラインの法的性質を問う型
「ガイドラインに違反した宅建業者は、宅建業法違反として業務停止処分を受ける」という記述は、そのままでは正確ではありません。ガイドラインは、示した対応を行わなかったことだけをもって直ちに宅建業法違反となるものではないとしています。
同時に、「ガイドラインは法令ではないので、監督処分の判断には一切影響しない」という記述も誤りです。トラブルとなった場合には行政庁における監督に当たって参考にされるとされています。両極端の記述はいずれも誤り、という構造で覚えると対応しやすくなります。
覚え方・整理の仕方
三つの質問を順に投げる
事案に出会ったら、次の三つを順に確認する形で整理してください。
第一の質問は「どのような死か」です。老衰や病死などの自然死、あるいは階段からの転落や入浴中の溺水といった日常生活の中での不慮の死であれば、原則として告げなくてよい類型に入ります。それ以外の死であれば、原則として告げる側に振り分けられます。
第二の質問は「特殊清掃等が行われたか」です。第一の質問で告げなくてよい側に入った事案でも、発見が遅れて特殊清掃や大規模リフォームが行われていれば、原則として告げる側に戻ります。
第三の質問は「取引の種類と経過期間」です。賃貸借であれば、告げる側に入った事案でも、概ね3年が経過していれば原則として告げなくてよいとされます。ただし事件性や周知性が特に高い事案は例外です。売買については年数の目安が示されていません。
この三段の分岐を図式として持っておくと、どの選択肢がどの分岐をいじっているのかが見えるようになります。
「場所」と「質問」は横から入る二つの修正要素
三段の分岐に加えて、二つの修正要素があります。
一つは場所です。取引対象ではない隣接住戸や、通常使用しない共用部分での事案は、原則として告げなくてよいとされています。もう一つは質問です。買主・借主から事案の有無を問われた場合には、調査を通じて判明した点を告げる必要があります。
この二つは、三段の分岐と独立して働きます。「原則として告げなくてよい類型だが、聞かれたので答える」という組み合わせが成り立つ点を確認しておいてください。
根拠条文を47条1号ニに固定する
覚えるべき条文は多くありません。宅建業法上の根拠は47条1号ニです。ここに「相手方等の判断に重要な影響を及ぼすこととなるもの」という受け皿があり、ガイドラインはその判断の目安を示しています。
35条は法定記載事項を列挙した条文であり、人の死に関する項目は置かれていません。47条1号ニが根拠、35条は根拠ではない、という一点を固定するだけで、多くの選択肢を切ることができます。禁止行為の条文構造は宅建業法47条の禁止行為|業務上の規制を整理で扱っています。
理解度チェッククイズ
Q1. 居住用建物において老衰による自然死があった場合、宅建業者は買主に対し常にその事実を告げなければならない。○か×か。
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×。国土交通省のガイドラインは、老衰や病死などの自然死について、原則として買主・借主に告げなくてもよいとしています。居住用不動産で死亡が発生することは当然に予想されるという考え方が背景にあります。ただし、発見が遅れて特殊清掃や大規模リフォームが行われた場合には、判断に重要な影響を及ぼす可能性があるとして原則として告げる必要が生じます。「常に」という言い切りが誤りの目印になります。Q2. 賃貸借の媒介において、自然死以外の死が発生してから概ね3年が経過した場合でも、事件性や周知性が特に高い事案であれば告げる必要がある。○か×か。
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○。ガイドラインは、賃貸借の取引について、自然死や日常生活の中での不慮の死以外の死が発生してから概ね3年間を経過した後は原則として告げなくてもよいとしつつ、事件性、周知性、社会に与えた影響等が特に高い事案はこの限りでないとしています。期間の経過だけで結論が決まるわけではありません。なお、この年数の目安は賃貸借について示されたもので、売買について具体的な年数は示されていません。Q3. 媒介を行う宅建業者は、人の死に関する事案の有無について、売主・貸主への照会にとどまらず、近隣住民への聞き込みやインターネット上の調査まで行う義務がある。○か×か。
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×。ガイドラインは、売主・貸主に対して告知書その他の書面に過去に生じた事案の記載を求めることにより、媒介活動に伴う通常の情報収集としての調査義務を果たしたものとするとしています。そのうえで、原則として売主・貸主・管理業者以外に自ら周辺住民に聞き込みを行ったり、インターネットサイトを調査したりする義務はないと考えられるとしています。亡くなった方や遺族の名誉と生活の平穏への配慮も理由として挙げられています。Q4. 告げる必要がある場合、宅建業者は亡くなった方の氏名や年齢、家族構成まで買主に伝えなければならない。○か×か。
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×。ガイドラインは、告げる内容を、事案の発生時期(特殊清掃等が行われた場合には発覚時期)、場所、死因、および特殊清掃等が行われた場合にはその旨としています。そのうえで、氏名、年齢、住所、家族構成や具体的な死の態様、発見状況等を告げる必要はないとしています。必要な範囲を超えた告知は、亡くなった方や遺族の名誉および生活の平穏を害するおそれがあるためです。Q5. ガイドラインに沿った対応をしていれば、宅建業者が民事上の責任を問われることはない。○か×か。
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×。ガイドラインは、これに基づく対応を行った場合であっても、宅地建物取引業者が民事上の責任を回避できるものではないことに留意する必要があると明記しています。ガイドラインは行政上の監督において参考にされる目安であり、個別の契約関係における説明義務違反や契約不適合責任の有無は、裁判所が事案ごとに判断することになります。まとめ
人の死に関する事案の告知は、条文と目安の二層構造で理解するのが近道です。宅建業法上の根拠は47条1号ニであり、相手方等の判断に重要な影響を及ぼすこととなる事項について、故意に事実を告げず、または不実のことを告げてはならないという規定が出発点になります。35条1項各号には人の死に関する項目が置かれていないため、法定記載事項としてではなく、この受け皿の条文で処理されるという点が要点です。
国土交通省が令和3年10月8日に公表したガイドラインは、その判断の目安を示しています。自然死や日常生活の中での不慮の死は原則として告げなくてよいこと、ただし特殊清掃等が行われた場合は別であること、賃貸借については概ね3年という期間の目安があること、隣接住戸や通常使用しない共用部分での事案は原則として告げなくてよいこと、そして買主・借主から問われた場合には調査で判明した点を告げる必要があること。この五点が骨格になります。
調査については、売主・貸主への告知書による照会が基本であり、周辺住民への聞き込みやインターネット調査までは原則として求められません。不明や無回答であればその旨を告げれば足ります。告げる内容も、発生時期・場所・死因・特殊清掃等の有無にとどめ、氏名や家族構成までは告げないとされています。
ガイドラインに沿った対応をしても民事上の責任を免れるわけではなく、逆にガイドラインに沿わなかったことだけで直ちに宅建業法違反となるわけでもありません。この二つの「ではない」を両方言えるようになれば、この論点は仕上がったと考えてよいと思います。
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宅建業法は20問と配点が最も大きく、確実に得点したい科目です。免許制度・重要事項説明・8種制限を肢別で固めましょう。