賃貸の重要事項説明|貸借に固有の項目と売買との違い
貸借の重要事項説明を、借主は所有者にならないという一点から整理。落ちる項目とその理由、施行規則16条の4の3が定める貸借固有の項目、建物と宅地の分かれ目、借地借家法38条の説明義務との区別を条文根拠つきで解説します。
目次
この記事は、宅地建物取引業法35条の重要事項説明のうち、貸借の契約に固有の部分だけを扱います。35条の記載事項を全体として見渡したい場合は35条書面の記載事項一覧、記載事項を系統立てて覚える方法は35条書面の覚え方、契約後に交付する37条書面との違いは35条書面と37条書面の横断比較にまとめています。この記事はそこから貸借だけを切り出したものです。
結論から述べます。貸借の重要事項説明で覚えるべきことは、項目の一覧ではありません。「借主はその物件の所有者にならない」という事実ひとつです。所有者にならないのだから、所有者になったときにはじめて効いてくる情報は説明しなくてよい。逆に、借りて住み続けるあいだ効き続ける情報は、売買では要らないのに貸借では要る。落ちる項目も足される項目も、すべてこの一点から導けます。そのうえで、建物を借りるのか宅地を借りるのかでもう一段の分岐があり、さらに定期建物賃貸借では35条とはまったく別系統の説明義務が重なります。この三層を分けて理解すれば、貸借の問題は落とさなくなります。
貸借の重要事項説明は「所有者にならない人」への説明である
35条が守ろうとしているもの
重要事項の説明は、宅地建物取引業者が、その相手方等に対して、契約が成立するまでの間に、宅地建物取引士をして、一定の事項について書面を交付して説明させなければならない、という義務です(35条1項)。趣旨は情報の非対称性の解消にあります。物件の法的な状態や取引条件について、業者が持っている情報と、相手方が自力で得られる情報には大きな差がある。その差を埋めないまま契約させると、相手方は自分が何を引き受けたのかを知らないまま拘束されることになります。
この趣旨は、売買でも貸借でも変わりません。変わるのは、相手方が何を引き受けるのかです。買主は所有権を引き受けます。所有権を持つということは、その土地建物にかかる公法上の規制、隣地との関係、将来の維持管理の負担、瑕疵があった場合のリスクを、まるごと自分のものとして引き受けるということです。これに対して借主が引き受けるのは、契約期間のあいだ使用収益する権利と、それに伴う賃料支払義務にすぎません。
引き受けるものが違えば、知らされるべき情報も違う。これが貸借の重要事項説明を貫く原理です。
誰が、誰に説明するのか
説明義務を負うのは、その取引に関与する宅地建物取引業者です。貸借の場合、業者が関与する形は媒介または代理であり、説明の相手方は借主となる者です。貸主に対する説明義務は35条にはありません。貸主は自分の物件について当然知っている立場だからです。
ここで必ず押さえておくべきなのが、宅建業者が自ら貸主となる場合です。宅建業の定義(2条2号)は、宅地建物の売買・交換と、売買・交換・貸借の代理・媒介を挙げていますが、自ら貸借はここに含まれていません。したがって業者が自分の所有する建物を自分で貸すことは、そもそも宅建業に当たらず、35条の説明義務も37条書面の交付義務も生じません。免許すら不要です。この「自ら貸借は取引に当たらない」という結論は宅建業法で最も繰り返し問われる論点のひとつで、貸借の重要事項説明の問題に紛れ込ませる形でもよく出ます。判定の手順は宅建業の「業」に当たるケースと当たらない例で整理しています。
なお、相手方が宅地建物取引業者である場合、つまり業者間取引では、書面の交付で足り、説明は要しません(35条)。これは売買でも貸借でも同じです。
説明の方式は売買と同じ
説明の方式そのものは、売買と貸借で違いがありません。契約が成立するまでの間に行うこと、宅地建物取引士が行うこと、宅地建物取引士証を提示すること(35条4項)、宅地建物取引士が記名した書面を交付すること。いずれも共通です。専任の宅建士でなくてもよい点も、説明の場所に制限がない点も同じです。宅建士でなければできない事務の全体像は専任の宅建士の設置義務を参照してください。
書面に代えて、相手方の承諾を得て電磁的方法により提供することもできます(35条)。賃貸のオンラインでの重要事項説明は売買より早くから本格運用されており、この扱いは重要事項説明のIT化にまとめています。
貸借では落ちる項目と、落ちる理由
貸借になると説明が要らなくなる項目があります。ここを「暗記すべきリスト」として扱うと必ず取りこぼします。ひとつずつ、なぜ要らないのかを条文とともに押さえます。
私道に関する負担は、建物の貸借だけが不要
35条1項3号は、私道に関する負担に関する事項を挙げていますが、括弧書きで建物の貸借の契約を除いています。つまり不要になるのは建物の貸借だけであって、宅地の貸借では説明が必要です。
理由は使用の実態にあります。宅地を借りる人は、その土地の上で建物を建てたり、車を出し入れしたりします。接する道路が私道であれば、通行できるのか、掘削して配管を引けるのか、負担金を求められるのかが、その土地を借りる意味そのものに直結します。これに対して建物を借りる人は、すでに建っている建物を使うだけです。私道の権利関係が借主の使用を左右する場面は考えにくい。だから建物の貸借だけが外れています。
「貸借では私道負担の説明は不要」という覚え方をしていると、宅地の貸借を問う選択肢で誤ります。除外されているのは建物の貸借だけです。ここは貸借分野で最も差がつく一点です。
手付金等の保全措置の概要
35条1項10号の手付金等の保全措置は、売主が受領した手付金等を、物件の引渡し前に売主が倒産するなどして返せなくなるリスクから買主を守る制度です。前提として代金の一部を先払いする売買の構造があります。貸借にはこの構造がありません。したがって貸借では説明の対象になりません。
紛らわしいのが、35条1項11号の支払金または預り金の保全措置です。こちらは売買でも貸借でも説明が必要な項目で、業者が受領する金銭について保全措置を講ずるかどうかとその概要を説明します。ただし、受領する額が50万円未満のものなどは、施行規則により「支払金又は預り金」から除かれています。10号と11号は名前が似ていて、片方は貸借で落ち、片方は落ちない。ここは意識的に区別してください。
金銭の貸借のあっせんの内容
35条1項12号は、代金または交換差金に関する金銭の貸借のあっせんの内容と、そのあっせんに係る金銭の貸借が成立しないときの措置を挙げています。条文が「代金又は交換差金に関する」と書いている以上、賃料についてのあっせんは含まれません。住宅ローンのあっせんは売買特有の話であり、貸借では説明対象になりません。
契約不適合責任の履行に関する措置
35条1項13号は、契約不適合責任の履行に関して保証保険契約の締結その他の措置を講ずるかどうか、講ずる場合はその概要を説明させます。これは目的物に契約の内容に適合しない点があったときに、売主が責任を果たせるだけの資力を確保しているかを買主に知らせる趣旨です。売主の責任を前提とする制度なので、貸借にはありません。
なお、賃貸物件に不具合があった場合の処理は、貸主の修繕義務や賃料の減額(民法611条)という別の枠組みで扱われます。詳しくは賃貸借契約の基本で扱っています。
住宅性能評価を受けた新築住宅である旨
施行規則16条の4の3が定める事項のうち、住宅性能評価を受けた新築住宅であるときにその旨を説明するという項目は、売買・交換に限られています。住宅性能表示制度は、住宅の性能を共通の物差しで評価して表示し、購入者の選択を助けるための仕組みです。選択の対象が所有権の取得である場面を想定しているため、貸借では外れます。
建物状況調査のうち、書類の保存状況だけが落ちる
35条1項6号の2は、既存の建物について二つのことを求めています。ひとつは建物状況調査を実施しているかどうかと、実施している場合の結果の概要。もうひとつは、設計図書や点検記録その他の建物の建築および維持保全の状況に関する書類の保存の状況です。
このうち貸借で落ちるのは、後半の書類の保存状況だけです。建物状況調査の実施の有無と結果の概要は、貸借でも説明しなければなりません。建物の劣化や不具合の状況は、そこに住む借主にとっても重要な情報だからです。これに対して設計図書や点検記録は、将来その建物を修繕したり増改築したり売却したりする所有者のための資料であり、借主が使う場面がありません。
なお、建物状況調査は実施から国土交通省令で定める期間を経過していないものに限られ、原則として実施から1年以内のものが対象です。また、35条は調査の結果を説明させる規定であって、業者に調査を実施する義務を課すものではありません。この「説明義務はあるが実施義務はない」という構造は、後述する石綿の調査や耐震診断でも同じです。
割賦販売に関する説明
35条2項は、宅地建物の割賦販売の相手方に対して、現金販売価格、割賦販売価格、引渡しまでに支払う金銭の額、賦払金の額と支払時期・方法を説明させる規定です。割賦販売は代金を分割して支払う売買の一形態なので、貸借とはそもそも接点がありません。
賃料を毎月払うことと割賦販売を混同させる選択肢はさすがに出ませんが、35条には1項のほかに2項があり、2項は売買だけの規定である、という条文の構造は知っておくと安心です。
法令に基づく制限は、落ちるのではなく絞られる
35条1項2号の法令に基づく制限の概要は、貸借でも説明が必要です。ただし説明すべき範囲が違います。売買・交換の場合は施行令3条1項が列挙する多数の法令の制限が対象になるのに対し、貸借の場合は施行令3条3項により、その範囲が限定されます。
考え方は他の項目と同じです。都市計画法や建築基準法の建築制限は、その土地に何を建てられるかという所有者向けの情報であり、建物を借りるだけの人には関係がありません。他方、その物件を借りて使ううえで効いてくる制限は、借主にも伝える必要がある。「貸借では法令上の制限は説明不要」という理解は誤りで、正しくは「対象が絞られる」です。ここも選択肢の作り方として狙われます。
貸借でも変わらず必要な項目
落ちる項目ばかり見ていると、逆方向の誤りをします。次の項目は、売買でも貸借でも同じように必要です。
- 登記された権利の種類・内容と登記名義人(35条1項1号)。借りる物件に抵当権が設定されていれば、実行によって借主が退去を迫られる可能性がある
- 飲用水・電気・ガスの供給と排水施設の整備状況、未整備の場合の見通しと負担(同4号)
- 未完成物件の場合の完了時における形状・構造(同5号)
- 造成宅地防災区域内、土砂災害警戒区域内、津波災害警戒区域内にあるときはその旨(施行規則16条の4の3)
- 水害ハザードマップに当該物件の位置が表示されているときは、その所在地(同)
- 石綿の使用の有無の調査結果が記録されているときはその内容(同)
- 昭和56年6月1日より前に新築工事に着手した建物が耐震診断を受けたものであるときはその内容(同)
- 賃料以外に授受される金銭の額と授受の目的(35条1項7号)
- 契約の解除に関する事項(同8号)、損害賠償額の予定または違約金に関する事項(同9号)
災害関連の項目が売買・貸借を問わず必要とされているのは、そこで生活する人の生命身体に関わるからです。所有か賃借かで区別する理由がありません。石綿と耐震診断についても、建物状況調査と同じく、記録や診断結果が存在する場合にその内容を説明する義務があるだけで、業者に調査や診断を実施する義務はありません。「記録がないので説明しなかった」は適法であり、「記録がないので調査を実施しなければならない」は誤りです。
供託所等の説明は35条とは別の条文
貸借の重要事項説明と並べて問われるものに、供託所等の説明があります。宅建業者は、契約が成立するまでの間に、営業保証金を供託した供託所とその所在地、または保証協会の社員である旨と協会の名称・住所・事務所の所在地および弁済業務保証金を供託した供託所とその所在地を、相手方等に説明するようにしなければなりません(35条の2)。
これは35条1項の重要事項説明とは別の条文に基づく別の義務です。違いは三つあります。第一に、条文が「説明するようにしなければならない」と書いており、努力義務にとどまります。第二に、書面の交付は要求されていません。第三に、宅地建物取引士でなければならないという制限がありません。35条の説明が宅建士の独占業務であり書面交付を伴う法的義務であるのと、正面から対照的です。
売買でも貸借でも必要である点は共通です。「貸借では供託所等の説明は不要」という選択肢は誤りになります。制度の中身は供託所等の説明義務で扱っています。
貸借に固有の項目(施行規則16条の4の3)
35条1項14号は、その他国土交通省令・内閣府令で定める事項を説明させるとしており、これを受けた施行規則16条の4の3が、貸借の契約でのみ必要な項目を定めています。ここが貸借の重要事項説明の中核です。
台所・浴室・便所その他の設備の整備の状況
建物の貸借の場合にのみ必要な項目です。台所、浴室、便所、その他その建物の設備がどう整備されているかを説明します。
売買では要求されません。買主は自分の所有物として設備を入れ替えることができ、現状の設備は価格に織り込まれる要素にすぎないからです。これに対して借主は、原則としてそこにある設備をそのまま使うほかありません。給湯設備があるか、浴室と便所が分かれているか、コンロが設置されているかは、そのまま生活の可否に直結します。だから借主にだけ説明が要ります。
宅地の貸借では不要です。土地に台所や浴室はありません。
契約期間および契約の更新に関する事項
貸借に固有の項目です。契約期間が何年か、期間満了時に更新があるのか、更新の方法はどうなるのか、更新料の定めがあるかを説明します。
売買には「期間」という概念そのものがありません。所有権は移転すればそれで完結し、何年後かに買主でなくなるということはない。貸借は期間を区切って使用収益させる契約なので、いつまで使えて、その後どうなるのかが契約の中身の相当部分を占めます。だから期間と更新が独立の説明事項になっています。
なお、契約期間や更新に関する定めがない場合は、その旨を説明することになります。「定めがないから説明しない」ではありません。
定期借地権・定期建物賃貸借・終身建物賃貸借であるときはその旨
その契約が定期借地権を設定するものであるとき、定期建物賃貸借であるとき、または終身建物賃貸借であるときは、その旨を説明しなければなりません。
前項の期間・更新とセットで理解すると位置づけがはっきりします。通常の借地借家契約には更新があり、貸主からの更新拒絶には正当事由が必要です。ところがこれらの類型では更新がなく、期間の満了で確定的に終了します。借主にとっての意味がまったく違うので、その旨を独立の項目として説明させています。終身建物賃貸借は高齢者の居住の安定確保に関する法律に基づく類型で、賃借人の死亡によって終了します。
それぞれの制度の中身は定期借家契約の要件と効果、定期借地権の3類型、借地権の存続期間と更新で扱っています。
用途その他の利用に係る制限に関する事項
その物件をどう使えるか、使えないかに関する制限です。居住用に限り事務所として使えない、ペットの飼育を禁じる、楽器の演奏を禁じる、といった定めがこれに当たります。
売買では説明対象になりません。所有者は自分の物件を法令や規約の範囲内で自由に使えるのが原則で、契約による使い方の縛りが乗ることは通常ないからです。貸借では、貸主が定める利用制限が契約内容として借主を拘束します。しかも借主にとっては、その制限を知らずに借りると生活が成り立たなくなることさえある。だから独立の説明事項です。
敷金その他契約終了時に精算する金銭の精算に関する事項
敷金その他、いかなる名義をもって授受されるかを問わず、契約終了時に精算することとされている金銭について、その精算に関する事項を説明します。
ここで、先に挙げた35条1項7号との違いを押さえてください。7号は「賃料以外に授受される金銭の額と授受の目的」で、契約の入口の話です。敷金をいくら預けるのか、礼金をいくら払うのか、それは何の名目かを説明します。これに対してこの項目は出口の話で、契約が終わったときにその金銭がどう精算されるのかを説明します。
同じ敷金について、入口と出口の二つの項目がかかっている。両方が必要であり、片方で足りるわけではありません。敷金と礼金の法的性質の違いは敷金と礼金の違い、原状回復をめぐる実際の争点は賃貸借契約で注意すべき点にまとめています。
管理が委託されているときの委託先の氏名および住所
その宅地または建物の管理が委託されているときは、委託を受けている者の氏名(法人であれば商号または名称)と住所(法人であれば主たる事務所の所在地)を説明します。
借主にとって、日常の連絡先が誰かは実際的に重要です。設備が壊れた、隣室から騒音がする、鍵をなくしたといった場面で連絡すべき相手は、多くの場合、貸主本人ではなく管理会社です。売買では、買主が所有者として自分で管理方針を決められるので、この項目は要りません。管理会社の役割は賃貸管理会社の業務で扱っています。
契約終了時における宅地上の建物の取壊しに関する事項
宅地の貸借の場合にのみ必要な項目です。契約が終了したときにその宅地の上の建物を取り壊す旨を定めようとするときは、その内容を説明します。
土地を借りて建物を建てる場合、契約終了時に建物をどうするかは借主にとって極めて大きな問題です。取壊しの費用を誰が負担するのか、更地にして返す義務があるのかによって、その土地を借りる経済的な意味が変わります。建物の貸借では、借主が建物を建てるわけではないので、この項目は生じません。
建物の貸借と宅地の貸借の分かれ目
貸借の中でも、建物を借りるのか宅地を借りるのかで結論が分かれる項目があります。試験ではここを混ぜてきます。分岐点は次の三つに集約されます。
私道に関する負担
建物の貸借では不要、宅地の貸借では必要です(35条1項3号)。理由は前述のとおり、宅地を借りる人は土地の上で建築や通行を行うため、接道の権利関係が使用収益に直結するからです。「貸借だから不要」ではなく「建物の貸借だから不要」であることを、条文の括弧書きの位置とセットで覚えてください。
台所・浴室・便所その他の設備の整備の状況
建物の貸借でのみ必要です。宅地の貸借には設備がありません。
契約終了時における宅地上の建物の取壊しに関する事項
宅地の貸借でのみ必要です。建物の貸借では、借主が建物を取り壊す立場にありません。
この三つ以外の貸借固有の項目、すなわち契約期間と更新、定期借地権等である旨、用途その他の利用制限、敷金等の精算、管理の委託先は、建物の貸借でも宅地の貸借でも共通して必要です。分岐するのは三つだけだと割り切ると、判断が速くなります。
区分所有建物の貸借は、10項目が2項目に減る
区分所有建物、つまり分譲マンションのような建物では、35条1項6号を受けた施行規則16条の2が、通常の項目に加えて説明すべき事項を定めています。敷地に関する権利の種類と内容、共用部分に関する規約の定め、専有部分の用途その他の利用の制限に関する規約の定め、専用使用権に関する規約の定め、費用を特定の者にのみ減免する規約の定め、修繕積立金に関する規約の定めと既に積み立てられている額、通常の管理費用の額、管理が委託されているときの委託先、管理者等が管理組合から委託を受けて管理事務を行うマンション管理業者であるときはその旨、維持修繕の実施状況の記録。合わせて10の項目です。このうち9号は令和8年(2026年)4月1日に施行された新設規定で、これに伴い維持修繕の実施状況の記録が10号に繰り下がりました。
ところが、区分所有建物の貸借の場合に必要となるのは、このうち二つだけです。専有部分の用途その他の利用の制限に関する規約の定めと、管理が委託されているときの委託を受けている者の氏名・住所です。
減る理由は一貫しています。敷地の権利、共用部分の規約、専用使用権、修繕積立金、管理費用の額、管理者等がマンション管理業者である旨、維持修繕の記録は、いずれも区分所有者としての立場に伴う権利義務や負担に関する情報です。借主は区分所有者になりません。管理費や修繕積立金を負担するのは区分所有者である貸主であって、借主ではない。だから知らせる必要がない。
残る二つは、借主自身の生活に直接効きます。専有部分の利用制限は、ペット可か、事務所として使えるかという形で借主を拘束します。管理の委託先は、日常の連絡先そのものです。したがってこの二つだけが残る。10項目を丸暗記して「貸借では8つ落ちる」と覚えるより、「借主に効く二つだけが残る」と理解するほうが確実です。10項目それぞれの中身と売買での扱いは区分所有建物の重要事項説明で扱っています。
定期建物賃貸借の説明は、35条とは別にもう一つある
貸借の重要事項説明でもっとも混同が起きるのが、ここです。定期建物賃貸借については、宅建業法35条の重要事項説明とはまったく別に、借地借家法38条が定める説明義務があります。二つは根拠も義務者も効果も違う、別個の制度です。
借地借家法38条が求める事前の説明
期間の定めがある建物の賃貸借をする場合、公正証書による等書面によって契約をするときに限り、契約の更新がないこととする旨を定めることができます(借地借家法38条1項)。そして、この契約をしようとするときは、建物の賃貸人はあらかじめ、賃借人に対し、この賃貸借は契約の更新がなく期間の満了により終了することについて、その旨を記載した書面を交付して説明しなければなりません(同条3項)。
最高裁は、この書面について、契約書とは別個独立の書面でなければならないと判断しています(最判平成24年9月13日)。契約書の中に更新がない旨の条項を置くだけでは足りず、事前に別の書面を交付して説明する必要があるということです。
説明を怠ったときの効果
38条3項の説明をしなかったときは、契約の更新がないこととする旨の定めは無効となります(同条5項)。定めが無効になるということは、その契約は更新のある普通の建物賃貸借として扱われるということです。期間が満了しても、貸主は正当事由がなければ更新を拒めなくなります。
これは35条違反の効果とはまったく異なります。35条の説明を怠った場合、業者は監督処分や罰則の対象になりますが、それによって契約の内容が書き換わるわけではありません。一方の違反は業者に対する制裁であり、他方の違反は契約条項そのものを無効にする。この差は大きい。
軸ごとに並べて区別する
二つの説明義務は、次の各点で異なります。
- 根拠。35条は宅地建物取引業法、事前説明は借地借家法38条3項
- 義務を負う者。35条は取引に関与する宅地建物取引業者、38条3項は建物の賃貸人すなわち貸主本人
- 説明する者。35条は宅地建物取引士でなければならない、38条3項に宅建士でなければならないという制限はない
- 書面。35条は宅建士が記名した35条書面、38条3項は契約書とは別個独立の書面
- 時期。35条は契約が成立するまでの間、38条3項は「あらかじめ」
- 違反の効果。35条は監督処分・罰則、38条3項は更新がない旨の定めが無効
実務では、貸主から委託を受けた宅建業者が38条3項の書面の交付と説明も併せて行うことが多く、そのために二つが一つの手続きのように見えます。しかし法律上の義務者は別であり、35条書面に定期建物賃貸借である旨を記載して説明したからといって、38条3項の説明をしたことにはなりません。この点をそのまま正誤の対象にする出題があります。定期借家制度そのものは定期借家契約の要件と効果で詳しく扱っています。
なお、定期借地権についても同様の構造があります。事業用定期借地権は公正証書によらなければならず(借地借家法23条3項)、一般定期借地権は書面によることを要します(同22条)。契約の方式に関する要件が、35条の説明義務とは別に課されているという点で共通しています。
賃貸住宅管理業法の重要事項説明との違い
賃貸に関わる「重要事項説明」は、宅建業法35条だけではありません。賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律にも、名前の似た説明義務が二つあります。説明の相手方が誰かに注目すると、混同しなくなります。
管理受託契約の重要事項説明
賃貸住宅管理業者は、管理受託契約を締結しようとするときに、賃貸住宅の賃貸人に対して、管理業務の内容や実施方法などの重要事項について書面を交付して説明しなければなりません(賃貸住宅管理業法13条)。
説明の相手方は貸主です。宅建業法35条の貸借における説明の相手方が借主であるのとちょうど逆になっています。契約の性質を考えれば当然で、管理受託契約は貸主と管理業者のあいだの契約であり、そこで情報が不足しているのは貸主のほうだからです。なお、賃貸住宅管理業は一定の管理戸数を超える場合に登録が必要となり、営業所または事務所ごとに業務管理者を選任しなければなりません。
特定賃貸借契約(マスターリース契約)の重要事項説明
特定転貸事業者、いわゆるサブリース業者は、特定賃貸借契約を締結しようとするときに、契約の相手方となろうとする者に対し、家賃や契約期間、契約の解除に関する事項などの重要事項について書面を交付して説明しなければなりません(同法30条)。
ここでも説明の相手方は貸主、すなわち物件のオーナーです。サブリースをめぐる被害は、「家賃保証」をうたって物件を借り上げたあとに賃料が減額されるという形で、オーナー側に生じてきました。そのため同法は、誇大広告等の禁止(28条)や不当な勧誘等の禁止(29条)と併せて、契約前の説明を義務づけています。
サブリースにおける宅建業法上の扱い
サブリースの構造を宅建業法の目で見ると、業者がオーナーから借り上げる部分は業者が借主となる取引であり、業者が入居者に転貸する部分は業者が自ら貸主となる取引です。後者は自ら貸借であって宅建業に当たらないため、宅建業法35条の説明義務は生じません。
これに対して、宅建業者がサブリース物件の転貸借を媒介または代理する場合は、貸借の媒介・代理そのものですから、転借人となる者に対して35条の重要事項説明が必要です。同じ「サブリース」という言葉でも、業者が自ら転貸人となるのか、他人の転貸を媒介するのかで結論が正反対になります。賃貸の仲介業務の全体像は賃貸仲介の実務で扱っています。
試験での出題ポイント
貸借の重要事項説明は、単独で問われるより、売買と混ぜて「どちらで必要か」を判定させる形で出ます。狙われ方は次の型に集約されます。
第一に、私道に関する負担です。「貸借では不要」と単純化して覚えている受験者を、宅地の貸借の事例で誤らせます。除外されているのは建物の貸借だけです。この論点は貸借分野で最も出題頻度が高く、かつ最も差がつきます。
第二に、法令に基づく制限です。「貸借では説明不要」という誤った選択肢と、「貸借では説明の範囲が限定される」という正しい選択肢を並べてきます。ゼロになるのではなく絞られる、という違いを言えるようにしてください。
第三に、建物状況調査です。実施の有無と結果の概要は貸借でも必要、書類の保存の状況は売買・交換のみ、という前後半の分かれ方を突いてきます。あわせて、業者に調査の実施義務はなく説明義務だけがある、という点も問われます。
第四に、敷金に関する二重の項目です。「賃料以外に授受される金銭の額と目的」と「契約終了時に精算する金銭の精算に関する事項」の両方が必要なのに、片方だけで足りるかのような選択肢を作ります。
第五に、区分所有建物の貸借です。修繕積立金の額や通常の管理費用の額を借主に説明する必要があるか、という形で問われます。答えは不要です。残るのは専有部分の利用制限と管理の委託先の二つだけ。
第六に、定期建物賃貸借です。35条書面に定期建物賃貸借である旨を記載して説明すれば借地借家法38条の説明も済んだことになるか、という混同を突く出題があります。答えは別です。義務者も書面も効果も違います。
第七に、自ら貸借です。業者が自ら貸主となって説明を省略した事例で、それが適法かを問います。適法です。宅建業に当たらないので35条の適用そのものがありません。
覚え方・整理の仕方
「所有者になるか」の一問で振り分ける
項目を一覧で覚え直そうとせず、迷ったら「これは所有者になった人に必要な情報か、それとも住み続ける人に必要な情報か」と自問してください。
所有者になった人に必要な情報は、貸借で落ちます。手付金等の保全措置、金銭の貸借のあっせん、契約不適合責任の履行に関する措置、住宅性能評価、設計図書等の保存状況。いずれも所有権を取得することを前提とした情報です。
住み続ける人に必要な情報は、売買にはなく貸借で足されます。設備の整備状況、契約期間と更新、定期借家等である旨、利用の制限、敷金の精算、管理の委託先。いずれも「そこで暮らすあいだ効き続けるもの」です。
生命身体に関わる情報は、どちらでも要ります。災害区域、水害ハザードマップ、石綿、耐震診断。所有か賃借かで区別する理由がありません。
分岐は三つだけと決める
貸借の中の建物・宅地の分岐は三つに限られます。私道負担は宅地だけ必要、設備の整備状況は建物だけ必要、建物の取壊しに関する事項は宅地だけ必要。この三つ以外は建物・宅地を問わず共通です。数を限定しておくと、問題文で「宅地の貸借」と書かれたときに何を確認すべきかが即座に決まります。
区分所有の貸借は「残る二つ」で覚える
10項目のうち何が落ちるかを追うと8つを覚えることになります。残る二つを覚えるほうが少なくて済みます。専有部分の利用制限と管理の委託先。どちらも借主本人の生活に直接効くもの、という共通点で結びつきます。
敷金は入口と出口の二段で押さえる
敷金には二つの項目がかかっています。入口が「賃料以外に授受される金銭の額と目的」(35条1項7号)、出口が「契約終了時に精算する金銭の精算に関する事項」(施行規則16条の4の3)。いくら預けるかと、終わったときにどう返ってくるかは別の情報だ、と考えると自然に二段構えになります。
定期借家は「二本立て」と唱える
35条の説明と借地借家法38条3項の説明は二本立てです。前者は業者が借主に、後者は貸主が賃借人に。前者を欠くと業者が処分され、後者を欠くと更新がない旨の定めが無効になる。「業者の義務」と「貸主の義務」を分けて置くのが、混同を防ぐ最短の方法です。
理解度チェッククイズ
Q1. 宅地建物取引業者が宅地の貸借の媒介を行う場合、私道に関する負担に関する事項について説明する必要はない。(○か×か)
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×:私道に関する負担の説明義務が除外されているのは建物の貸借の契約だけです(35条1項3号の括弧書き)。宅地の貸借では説明が必要です。宅地を借りる人はその土地の上で建築や通行を行うため、接道の権利関係が使用収益に直結するからです。「貸借だから不要」と単純化すると誤ります。Q2. 建物の貸借の媒介において、当該建物が既存の建物であるときは、建物状況調査を実施しているかどうか、および実施している場合はその結果の概要を説明しなければならない。(○か×か)
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○:建物状況調査の実施の有無と結果の概要は、売買・交換・貸借のいずれでも説明が必要です(35条1項6号の2)。貸借で落ちるのは、設計図書・点検記録その他の書類の保存の状況という後半部分だけです。なお、業者に調査を実施する義務はなく、実施されている場合にその結果を説明する義務があるにとどまります。Q3. 区分所有建物の貸借の媒介において、当該建物の一棟の修繕積立金について定める規約の定めがあるときは、その内容および既に積み立てられている額を説明しなければならない。(○か×か)
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×:修繕積立金に関する事項は区分所有者が負担する費用に関する情報であり、区分所有者にならない借主には説明不要です。区分所有建物の貸借で必要となるのは、施行規則16条の2が定める10項目のうち、専有部分の用途その他の利用の制限に関する規約の定めと、管理が委託されているときの委託先の氏名・住所の2つだけです。通常の管理費用の額も同様に不要です。Q4. 定期建物賃貸借の媒介において、宅地建物取引業者が35条書面に定期建物賃貸借である旨を記載して宅地建物取引士に説明させた場合、借地借家法38条が求める事前の説明は行われたものとして扱われる。(○か×か)
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×:二つは別個の義務です。35条の説明義務を負うのは取引に関与する宅建業者ですが、借地借家法38条3項の説明義務を負うのは建物の賃貸人です。しかも38条の書面は契約書とは別個独立の書面であることを要します(最判平成24年9月13日)。38条の説明を欠くと、更新がないこととする旨の定めが無効となり(同条5項)、普通の建物賃貸借として扱われます。Q5. 宅地建物取引業者が自ら貸主として建物を賃貸する場合、借主に対して重要事項の説明を行わなければならない。(○か×か)
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×:自ら貸借は宅建業の定義(2条2号)に含まれず、宅建業に当たりません。したがって35条の重要事項説明義務も37条書面の交付義務も生じず、そもそも免許も不要です。説明義務が生じるのは、貸借の媒介または代理を行う場合です。宅建業者がサブリースで自ら転貸人となる場合も同じ理屈で35条の適用がありませんが、賃貸住宅管理業法上の特定転貸事業者としての義務は別途課されます。まとめ
貸借の重要事項説明は、「借主は所有者にならない」という一点から組み立て直せます。所有権の取得を前提とする情報、すなわち手付金等の保全措置、金銭の貸借のあっせん、契約不適合責任の履行に関する措置、住宅性能評価、書類の保存状況は落ち、法令に基づく制限は範囲が絞られます。逆に、借りて住み続けるあいだ効き続ける情報、すなわち設備の整備状況、契約期間と更新、定期借家等である旨、利用の制限、敷金の精算、管理の委託先が足されます。
そのうえで、建物の貸借と宅地の貸借の分岐は三つだけ。私道負担は宅地のみ、設備の整備状況は建物のみ、建物の取壊しに関する事項は宅地のみです。区分所有建物の貸借では、10項目のうち借主自身に効く二つだけが残ります。
最後に、定期建物賃貸借には35条とは別に借地借家法38条3項の説明義務が重なります。義務者は貸主、書面は契約書とは別個独立、欠けば更新がない旨の定めが無効。宅建業法の義務と混ぜないでください。
宅建試験AIブートラボのアプリでは、35条書面の記載事項を売買・貸借の別で判定させる肢別問題を集中的に演習できるので、この記事で整理した振り分けが本試験の問われ方でどう現れるかを確認してみてください。
宅建業法は20問と配点が最も大きく、確実に得点したい科目です。免許制度・重要事項説明・8種制限を肢別で固めましょう。