区分所有建物の重要事項説明|35条の追加事項
マンションの重要事項説明で追加される施行規則16条の2の10項目を号ごとに解説。売買と建物の貸借で説明範囲が変わる理由、管理費・修繕積立金の滞納額の扱いまで宅建業法の側から整理します。
目次
本記事は、宅地建物取引業法35条にもとづく重要事項説明のうち、対象物件が区分所有建物であるときにだけ追加される事項を扱います。35条書面の記載事項全体の骨組みは35条書面の記載事項一覧に、記載事項の覚え方は35条書面の完全整理にまとめているので、全体像から入りたい場合はそちらを先に読んでください。
扱うのは宅建業法の側の話です。共用部分とは何か、規約はどう設定されるのか、集会の決議には何分の何が必要か、といった制度そのものの説明は区分所有法の基本と区分所有法の決議要件に置いています。本記事では、その制度を前提として、宅建業者が買主や借主に何を説明しなければならないのかに絞ります。
結論を先に述べます。区分所有建物の追加事項は施行規則16条の2に10の号として置かれており、売買・交換ではその10すべてが対象になります。ところが建物の貸借では、3号(専有部分の用途その他の利用の制限に関する規約の定め)と8号(管理の委託先)の2つだけに絞られます。この10対2という落差の理由を理解しておくことが、この分野の出題に対する最大の防御になります。
なお、この10の号のうち9号は令和8年(2026年)4月1日に施行された新設規定です。それに伴い、従来9号にあった維持修繕の実施状況の記録が10号へ繰り下がりました。号数で暗記している場合は付け替えが必要になります。
なぜ区分所有建物だけ追加事項があるのか
買主が引き受けるのは住戸だけではない
一棟の賃貸アパートを一室借りる場合と、分譲マンションを一室買う場合では、取得するものの性質が違います。マンションの買主は、専有部分の所有権を取得すると同時に、共用部分の共有持分と敷地利用権を取得し、さらに管理組合の構成員という地位を法律上当然に引き受けます。加入するかどうかを選べる余地はありません。
しかも、規約および集会の決議は特定承継人に対しても効力を生じます(区分所有法46条1項)。買主は、自分が参加していない過去の決議や、購入前から存在する規約に当然に拘束されます。ペット飼育禁止の規約があれば従わなければならず、修繕積立金の値上げが決議されていればその負担を引き受けます。
つまり、区分所有建物の売買では、専有部分の物理的な状態だけを調べても判断材料としては足りません。建物全体がどう管理され、どんなルールで運営され、どれだけの費用がかかるのかを知らなければ、買うべきかどうかを判断できないのです。35条1項6号が区分所有建物について特別の説明義務を置いているのは、この情報の落差を埋めるためです。
条文の構造
法35条1項6号は、対象建物が区分所有権の目的であるときに、一棟の建物の敷地に関する権利の種類および内容、共用部分に関する規約の定め、その他の一棟の建物またはその敷地に関する権利およびこれらの管理または使用に関する事項で、契約内容の別に応じて国土交通省令・内閣府令で定めるものを説明せよと定めています。
具体的な中身は施行規則16条の2に委任されており、同条が1号から10号までを列挙しています。「契約内容の別に応じて」という文言が、後述する売買と建物の貸借の差を生む根拠です。
これらは通常の35条書面の記載事項に「加えて」必要になるものです。区分所有建物であっても、登記された権利、法令に基づく制限、飲用水・電気・ガスの供給施設と排水施設の整備状況、災害リスクに関する事項といった一般の記載事項はすべて必要で、そこに16条の2の項目が上乗せされます。追加事項だけを説明すればよいという趣旨ではありません。
施行規則16条の2が定める10項目
1号 敷地に関する権利の種類及び内容
一棟の建物の敷地に関する権利が、所有権なのか、地上権なのか、賃借権なのかを説明します。あわせて、敷地権の割合、借地であれば地代の負担や存続期間といった権利の内容も説明対象です。
敷地が所有権であるマンションと、借地権であるいわゆる定期借地権付きマンションとでは、資産としての性格がまったく違います。借地権付きの場合は期間満了時に建物を取り壊して土地を返還する取り決めが置かれていることもあり、買主にとって決定的な情報です。1号が最初に置かれているのは、それだけ影響が大きいからだと理解しておくとよいでしょう。
実務では、敷地利用権が専有部分と一体化して敷地権として登記されているかどうかを登記記録で確認します。敷地権の登記があれば、専有部分の登記に敷地の権利がぶら下がる形になり、分離して処分できないことが公示されます。もっとも、35条1項1号の登記された権利の説明と1号の敷地に関する権利の説明は別の記載事項なので、登記記録を見せれば足りるわけではありません。登記の仕組みそのものは不動産登記の基本で扱っています。
2号 共用部分に関する規約の定め
共用部分に関する規約の定め(その案を含む)があるときは、その内容を説明します。規約共用部分としてどの部分が定められているか、共用部分の持分割合について規約で別段の定めがあるか、といった事項です。
法定共用部分は法律上当然に共用部分となるので規約で定めるまでもありませんが、管理人室や集会室のように規約によって共用部分とされている部分があれば、それは外形上専有部分に見えるだけに、説明の必要性が高くなります。
3号 専有部分の用途その他の利用の制限に関する規約の定め
専有部分の用途その他の利用の制限に関する規約の定め(その案を含む)があるときは、その内容を説明します。住居専用で事務所としての使用を禁じる定め、ペットの飼育を禁止または制限する定め、楽器の使用時間の制限、リフォーム時の届出義務などが該当します。
10の号のうち、建物の貸借でも説明が必要な2つのうちの1つがこの3号です。借りる人にとっても、ペットを飼えるかどうか、在宅で事業を営めるかどうかは生活に直結するからです。
4号 一棟の建物又はその敷地の一部を特定の者にのみ使用を許す旨の規約の定め
いわゆる専用使用権に関する規約の定め(その案を含む)があるときは、その内容を説明します。バルコニー、専用庭、ルーフバルコニー、特定の住戸に割り当てられた駐車場や駐輪場がこれにあたります。
バルコニーは法律上は共用部分でありながら、規約によってその住戸の居住者に専用使用権が与えられているのが通常です。使用料の有無や額、使用にあたっての制約も内容に含まれます。専用使用権は住戸の価値そのものに反映されるため、売買では欠かせない情報ですが、建物の貸借では説明対象になりません。
5号 費用を特定の者にのみ減免する旨の規約の定め
計画的な維持修繕のための費用、通常の管理費用その他の当該建物の所有者が負担しなければならない費用を、特定の者にのみ減免する旨の規約の定め(その案を含む)があるときは、その内容を説明します。
見落とされやすい号ですが、意味は明確です。分譲業者が売れ残った住戸について管理費を減額される取り決めがあったり、店舗部分の負担割合が特別に定められていたりすると、その分の負担は他の区分所有者に回ります。自分の負担額そのものではなく、他人の負担が軽くされている事実が判断材料になるという点で、独立の説明事項とされているのです。
6号 修繕積立金に関する規約の定めと既に積み立てられている額
計画的な維持修繕のための費用の積立てを行う旨の規約の定め(その案を含む)があるときは、その内容および既に積み立てられている額を説明します。
この号は二段構えになっています。前半は規約の定めの内容、すなわち修繕積立金をいくら徴収するか、どのように改定するかというルールです。後半は、管理組合に現に積み立てられている総額という事実です。ルールだけでなく実際の残高まで説明対象にしているのは、積立てが不足しているマンションでは、大規模修繕の際に一時金の負担や借入れが発生し、それが購入後の買主に直接のしかかるからです。
7号 通常の管理費用の額
当該建物の所有者が負担しなければならない通常の管理費用の額を説明します。毎月の管理費のことです。
他の号と違い、7号には「規約の定めがあるときは」という条件がありません。額そのものが端的に説明対象とされています。規約に書かれているかどうかにかかわらず、実際に負担することになる額を伝えなさい、という趣旨です。この書きぶりの差は、条文を読み比べておくと記憶に残ります。
8号 管理の委託先
一棟の建物およびその敷地の管理が委託されているときは、その委託を受けている者の氏名(法人にあってはその商号または名称)および住所(法人にあってはその主たる事務所の所在地)を説明します。
説明対象は委託先が誰かという情報であり、委託契約の内容や委託料の額は法定の説明事項ではありません。ここは細部を足して誤らせる出題がしやすい箇所です。また、自主管理で委託していないマンションであれば、「委託されているとき」という条件を満たさないので、この号による説明義務は生じません。
管理を誰が担っているかは、日常の窓口や修繕の進め方に直結します。管理組合と管理業者の関係についてはマンション管理会社の仕事で扱っています。
9号 管理者等がマンション管理業者であるときはその旨
一棟の建物およびその敷地の管理者等が、当該建物およびその敷地に係る管理組合から委託を受けて管理事務を行うマンション管理業者である場合は、その旨を説明します。令和8年4月1日に施行された新設の号です。
区分所有法上の管理者は、区分所有者のなかから選任されるのが伝統的な形でした。これに対して、管理会社自身が管理者に就任し、管理組合を代表する立場と、委託を受けて管理事務を処理する受託者の立場を同時に持つ運営形態があります。実務で第三者管理方式、あるいは管理会社管理者方式と呼ばれるものです。
この形態では、管理業者を監督すべき立場と監督される立場が同一の主体に重なります。修繕工事の発注先の選定や管理委託契約の更新において、区分所有者の利益と管理業者の利益が対立し得るため、購入を判断する前にその構造を知らせる必要がある。これがこの号の趣旨です。
条文が用いる管理者等、管理組合、管理事務、マンション管理業者という四つの語は、いずれもマンションの管理の適正化の推進に関する法律2条の定義(順に4号、3号、6号、8号)を引いています。宅建業法の側で独自に定義しているわけではありません。
この号が新設されたことで、従来9号だった維持修繕の実施状況の記録は10号に繰り下がりました。宅建試験は当該年度の4月1日現在施行の法令から出題されるため、令和8年度試験ではこの改正後の号数が前提になります。
10号 維持修繕の実施状況の記録
一棟の建物の維持修繕の実施状況が記録されているときは、その内容を説明します。過去に外壁の大規模修繕をいつ行ったか、給排水管の更新をしたかといった履歴です。
ここでも「記録されているとき」という条件が付いています。宅建業者に記録を作成させる規定ではなく、管理組合等に記録があればそれを買主に伝えなさいという規定です。記録が存在しないマンションについて、業者が調査して記録を作り出す義務はありません。
条文の書きぶりから読み取るべき三つのこと
「規約の定め(その案を含む)があるときは」の意味
2号から6号までは、いずれも「規約の定めがあるときは、その内容」という形をとり、かっこ書きで「その案を含む」とされています。ここから二つのことが導かれます。
第一に、規約としてまだ成立していない案の段階でも説明対象になります。新築マンションの分譲では、買主が現れる前に管理組合が発足していることはなく、規約は分譲業者が用意した案として存在するのが通常です。案だからまだ説明しなくてよい、としてしまうと、購入判断に最も影響するルールが説明されないまま契約に至ってしまいます。「規約が成立していないので説明を要しない」という選択肢は誤りです。
第二に、定めがそもそも存在しなければ、その号による説明義務は生じません。専用使用権の定めがないマンションについて4号の説明をする必要はありません。もっとも実務では、定めがない旨を書面に記載して伝えるのが通例です。
条件が付いていない号を見分ける
10の号のうち、条件なしで説明が必要なのは1号(敷地に関する権利の種類および内容)と7号(通常の管理費用の額)です。敷地の権利は必ず存在しますし、管理費もマンションであれば必ず発生するからです。
これに対し、2号から6号は「規約の定めがあるとき」、8号は「管理が委託されているとき」、9号は「管理者等がマンション管理業者である場合」、10号は「記録されているとき」という条件付きです。条件の有無を意識して読むと、「記録がなくても調査して説明しなければならない」「自主管理でも管理委託先を説明しなければならない」といった、義務を過大に書いた選択肢を見抜けるようになります。
「調査せよ」とは書かれていない
35条は、宅建業者が知り得た事実を説明する義務を課すものであって、条文が明示していない事項を積極的に調査する義務まで一般的に課しているわけではありません。もっとも、区分所有建物の取引では、管理組合や管理業者に書面で照会して管理費・修繕積立金の額や滞納の有無、修繕履歴を確認するのが実務の標準的な手順です。照会を怠って誤った説明をすれば、後述するとおり責任を問われます。宅建業者が負う説明義務全体の枠組みは宅建業者の説明義務で整理しています。
売買・交換と建物の貸借で説明範囲が変わる
建物の貸借では3号と8号だけ
施行規則16条の2の柱書は、建物の貸借の契約にあっては3号および8号に掲げるものとする旨を定めています。つまり、区分所有建物を借りる人に対して16条の2にもとづき説明しなければならないのは、次の2つだけです。
- 専有部分の用途その他の利用の制限に関する規約の定め(3号)
- 一棟の建物およびその敷地の管理の委託先の氏名・住所(8号)
売買・交換であれば1号から10号までのすべてが対象になるのに対し、建物の貸借では10項目が2項目に減ります。この落差の大きさが、この分野が繰り返し出題される理由です。
減る理由を所有者かどうかで説明する
なぜこの2つだけが残るのかは、借主の立場を考えると腑に落ちます。
借主は、その住戸に住むあいだ、専有部分の使い方に関する規約に拘束されます(区分所有法46条2項)。ペット不可の規約があれば借主も従わなければなりません。だから3号は必要です。また、共用部分の不具合や騒音の相談をどこに持ち込むのかを知る必要があるので、8号の管理の委託先も必要です。
一方、敷地が所有権か借地権かは、借主が引き受ける負担ではありません。修繕積立金がいくら貯まっているかも、大規模修繕の一時金を負担するのは所有者であって借主ではない以上、判断材料になりません。管理費の額(7号)も、区分所有者が管理組合に納める額であって、借主が賃料とは別に管理組合へ支払うものではありません。専用使用権や費用の減免の規約も同じく所有者の負担に関する事柄です。
要するに、所有者としての地位に伴う情報は貸借では落ち、居住者としての生活に関わる情報だけが残ります。この一本の理由づけを持っておけば、10項目を丸暗記しなくても振り分けができます。
貸借固有の追加事項との重複調整
区分所有建物の貸借では、施行規則16条の4の3が定める貸借固有の追加事項も同時に必要になります。ここで条文が重複しないよう調整が入っている点に注意してください。
16条の4の3第10号は宅地または建物の用途その他の利用に係る制限に関する事項を定めていますが、区分所有建物については16条の2第3号に掲げる事項が除かれています。同じく12号の管理の委託先についても、区分所有建物は除かれています。区分所有建物の用途制限と管理委託先は16条の2の側で拾われるので、二重に規定しないという整理です。
条文上の根拠が違っても、借主に説明すべき内容として結局は用途制限と管理委託先が必要になる、という結論は変わりません。貸借の重要事項説明を全体として押さえるには賃貸の重要事項説明を参照してください。
宅地の貸借には16条の2は適用されない
16条の2は法35条1項6号を受けた規定であり、6号は対象が区分所有権の目的たる建物である場合の規定です。したがって、宅地の貸借にはそもそも適用されません。また、区分所有建物でない一棟のアパートや戸建てを取引する場合も、16条の2の追加事項は不要です。「区分所有建物であること」が入口の要件だという点を確認しておいてください。
管理費・修繕積立金の滞納をどう扱うか
滞納は買主に承継される
区分所有法7条1項は、共用部分等に関して他の区分所有者に対して有する債権や、規約もしくは集会の決議に基づく債権について、債務者の区分所有権等の上に先取特権を認めています。そして8条は、この債権を債務者たる区分所有者の特定承継人に対しても行使できると定めています。
つまり、売主が管理費や修繕積立金を滞納したまま住戸を売却した場合、買主は自分が滞納したわけでなくても、管理組合から滞納分の支払を請求されます。これは買主が予期しない出費であり、金額によっては購入判断そのものを左右します。
滞納額は説明対象になる
国土交通省の「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」は、修繕積立金や通常の管理費用について、売主に滞納があるときはその額も説明すべき旨を示しています。条文の文言上、6号は「既に積み立てられている額」、7号は「通常の管理費用の額」ですが、滞納の事実を伏せたまま額だけを告げても、買主にとっての判断材料としては不十分だからです。
ここで区別しておきたいのが、6号の「既に積み立てられている額」と、当該住戸に係る滞納額は別物だという点です。前者は管理組合全体に積み立てられている総額であり、後者は売主個人の未払です。混同すると、総額だけ説明すれば足りると誤解しかねません。
建物の貸借では滞納の説明は問題にならない
滞納額の説明が問題になるのは、あくまで6号・7号が適用される売買・交換の場面です。建物の貸借では6号も7号も説明対象から外れるため、16条の2にもとづいて管理費の滞納額を説明する義務は生じません。借主が前所有者の滞納を承継することもありません。
説明を怠った場合
滞納額を説明しなかった場合、35条違反として指示処分や業務停止処分の対象となり得ます。さらに、買主が予期しない負担を負ったことについて、民事上の損害賠償責任を問われる可能性もあります。35条の説明は形式的な手続ではなく、買主の判断を支えるための実質的な義務だという位置づけを押さえておいてください。
中古マンションで問題になる隣接の記載事項
16条の2の10項目とは別枠で、中古マンションの取引では次の記載事項が同時に問題になります。混ざりやすいので、根拠条文が違うことを意識して整理してください。
建物状況調査(法35条1項6号の2)
対象が既存の建物であるときは、建物状況調査を実施しているかどうか、実施している場合はその結果の概要を説明します(6号の2イ)。ここでいう建物状況調査は、実施後、国土交通省令で定める期間を経過していないものに限られます。この期間は原則1年ですが、鉄筋コンクリート造または鉄骨鉄筋コンクリート造の共同住宅等については2年とされています。マンションの多くはこの2年のほうに該当します。
イは建物の売買・交換だけでなく貸借でも説明が必要です。これに対しロ、すなわち設計図書、点検記録その他の建物の建築および維持保全の状況に関する書類の保存の状況は、既存住宅の売買・交換に限られます。イとロで適用範囲が違うので、区分所有建物を題材にした問題でここをすり替えられることがあります。
なお、6号の2は建物状況調査を実施する義務を課すものではありません。実施しているかどうかを説明せよという規定であり、実施していなければその旨を伝えれば足ります。
石綿の使用調査と耐震診断
建物について石綿の使用の有無の調査の結果が記録されているときはその内容を、昭和56年5月31日以前に新築工事に着手した建物で耐震診断を受けたものであるときはその内容を、それぞれ説明します(施行規則16条の4の3第4号・第5号)。
いずれも「記録されているとき」「診断を受けたものであるとき」という条件付きで、調査や診断を実施する義務を課すものではありません。10号の維持修繕の記録と同じ構造だと捉えると覚えやすくなります。また、これらは建物の貸借でも説明が必要です。区分所有建物の追加事項が貸借で2つに減ることと混同して、「貸借だから石綿調査の記録も不要」と考えないよう注意してください。
実務ではどう調べるか
管理組合または管理業者への照会
16条の2の項目の多くは、専有部分を見ただけでは分からず、規約や管理組合の帳簿を確認しなければ答えられません。そこで実務では、媒介業者が管理業者に対して書面で照会を行い、管理費・修繕積立金の額、積立総額、当該住戸の滞納の有無と額、管理の委託先、修繕の実施履歴、規約や使用細則の内容などの回答を受け取る手順が定着しています。この回答書は一般に管理に関する重要事項の調査報告書などと呼ばれ、35条書面を作成する際の一次資料になります。
自主管理のマンションでは委託先の管理業者が存在しないため、管理組合の理事長や管理者に直接照会することになります。8号の「管理が委託されているとき」という条件を満たさないので8号の説明義務は生じませんが、6号や7号の費用に関する説明は依然として必要です。委託していないことが、費用の説明をしなくてよい理由にはなりません。
規約と使用細則の入手
2号から5号までは規約の内容そのものを説明する項目なので、現行の規約を入手して読む必要があります。マンションによっては、規約本体ではなく使用細則の側にペット飼育や駐車場の利用ルールが置かれていることもあります。名称が規約でなくても、専有部分の用途その他の利用の制限を定めるものであれば3号の対象として扱うべきです。条文が着目しているのは書面の名称ではなく、定めの実質だからです。
新築分譲の場合
新築分譲では、規約は分譲業者が作成した案として存在します。分譲業者が最初に建物の専有部分の全部を所有する者として公正証書により設定できる規約は、規約共用部分、規約敷地、分離処分の可否、敷地利用権の割合の4項目に限られます(区分所有法32条)。それ以外の管理費の額やペット飼育の可否などは、公正証書ではなく規約案という形で用意されるのが通常です。この案の内容を説明することが、2号から6号の求めるところになります。
説明の手続は通常の35条と同じ
誰が、誰に、いつ、どのように
区分所有建物であっても、35条の手続そのものに特別のルールはありません。宅地建物取引業者は、契約が成立するまでの間に、宅地建物取引士をして、重要事項を記載した書面を交付して説明させなければなりません(35条1項)。説明にあたっては宅建士証を提示する必要があり(35条4項)、書面には宅建士の記名が必要です(35条5項)。
説明の相手方は、売買では取得しようとする者、すなわち買主であり、貸借では借主です。売主や貸主に対して説明する義務はありません。区分所有建物の売買で、管理組合や管理業者に対して説明する義務がないことも当然です。
相手方の承諾を得れば、書面の交付に代えて電磁的方法により提供することができます(35条8項、9項)。いわゆるIT重説も、要件を満たせば区分所有建物の取引で用いることができます。35条書面と37条書面の手続上の違いは35条書面と37条書面の横断整理にまとめています。
複数の宅建業者が関与する場合
中古マンションの売買では、売主側と買主側にそれぞれ媒介業者が付くことが珍しくありません。この場合、関与するすべての宅建業者が35条の説明義務を負います。買主側の業者が説明したから売主側の業者は免れる、という関係にはなりません。実務上は共同で1通の書面を作成し、双方の宅建士が記名したうえで説明を行う扱いが一般的ですが、義務そのものが各業者に生じている点は変わりません。
このことは区分所有建物の追加事項でも同じです。管理業者への照会結果を一方の業者だけが持っていて他方が確認していなかったとしても、誤った説明をすれば双方が責任を問われ得ます。
業者間取引の特例
宅地建物取引業者が取引の相手方である場合、説明は不要になりますが、書面の交付そのものは省略できません(35条6項)。区分所有建物の追加事項についても同じで、業者間だから10項目を記載しなくてよいということにはなりません。「説明が不要」と「書面が不要」は別だという区別は、この分野に限らず頻出です。
区分所有建物でも35条の説明事項にならないもの
長期修繕計画の内容
計画的な維持修繕のための費用の積立てに関する規約の定めと積立総額(6号)、過去の維持修繕の実施状況の記録(10号)はいずれも説明事項ですが、将来の長期修繕計画そのものの内容は、施行規則16条の2の説明事項として掲げられていません。過去の記録と将来の計画は別物だという点に注意してください。実務では計画の有無や概要を伝えることも多いものの、法定の説明事項として問われた場合には条文に立ち返る必要があります。
管理組合の運営に関する事項
管理組合の理事の氏名、総会の議事録の内容、修繕積立金の運用方法といった事項も、16条の2の列挙には含まれていません。区分所有法の側では集会や規約について詳細な規律が置かれていますが(区分所有法の決議要件を参照)、それがそのまま35条の説明事項になるわけではありません。
代金の額と引渡しの時期
区分所有建物であるかどうかにかかわらず、代金の額、引渡しの時期、移転登記の申請の時期は35条の記載事項ではなく、37条書面の必要的記載事項です。35条書面は契約前に判断材料を渡す書面、37条書面は契約後に合意内容を固定する書面だという役割の違いから導かれます。
供託所等に関する説明
営業保証金を供託した供託所およびその所在地等の説明(35条の2)は、重要事項説明とは別の義務です。契約が成立するまでの間に説明する点は共通しますが、宅建士が行う必要はなく、書面の交付も義務づけられていません。混同しやすいので、宅建業者の説明義務で位置づけを確認しておいてください。
試験での出題ポイント
取引類型をすり替える
最も多いのが、売買でしか必要でない項目を貸借でも必要であるかのように書く形です。「区分所有建物の貸借の媒介において、修繕積立金に関する規約の定めがあるときはその内容を説明しなければならない」「一棟の建物の敷地に関する権利の種類および内容を説明しなければならない」といった選択肢は、いずれも誤りです。建物の貸借で16条の2にもとづき説明するのは3号と8号だけだと確定させておけば、この類型は即断できます。
逆方向の引っかけもあります。「区分所有建物の貸借では管理の委託先を説明する必要はない」という書き方です。8号は貸借でも残る2つのうちの1つなので、これも誤りになります。落ちる項目だけでなく、残る項目もセットで覚えてください。
案の段階の扱いを問う
「規約がまだ設定されていないので、共用部分に関する規約の定めについては説明を要しない」といった選択肢が定番です。2号から6号は「その案を含む」とされているので、案があれば説明対象になります。新築分譲マンションでは規約が案の段階であるのが通常だ、という実態と結びつけて覚えると忘れません。
義務のないことを義務のように書く
「維持修繕の実施状況の記録がない場合は、宅建業者が調査して記録を作成し説明しなければならない」「管理が委託されていない場合は、その理由を説明しなければならない」といった、条文にない義務を作り出す選択肢があります。10号は「記録されているとき」、8号は「委託されているとき」という条件付きである、と条文の書きぶりまで覚えておくのが対策になります。
説明の細部を足す
「管理の委託先について、その氏名および住所に加えて委託契約の内容を説明しなければならない」というように、条文にない要素を付け足す形です。8号が求めるのは氏名(商号・名称)と住所(主たる事務所の所在地)だけです。
滞納の扱いを問う
「売主に管理費の滞納があっても、買主が承継するものではないから説明する必要はない」という選択肢は、区分所有法8条の特定承継人の責任を無視しているので誤りです。逆に「修繕積立金として既に積み立てられている額を説明すれば、売主の滞納額を説明する必要はない」も、総額と個別の滞納額を混同しているので誤りになります。
手続の共通ルールを混ぜる
区分所有建物の追加事項を題材にしつつ、業者間取引では書面の交付も不要だと書いたり、宅建士証の提示が不要だと書いたりする形です。追加事項の話であっても、35条の手続ルールはそのまま適用されます。宅建業法全体の出題傾向は宅建業法の頻出論点でも整理しています。
覚え方・整理の仕方
10項目を4つの塊で覚える
1号から10号までを一列に暗記しようとすると崩れます。次の4つの塊に分けてください。
- 敷地の権利(1号)
- 規約の定め4つ(2号の共用部分、3号の用途制限、4号の専用使用権、5号の費用の減免)
- お金2つ(6号の修繕積立金と積立総額、7号の通常の管理費用の額)
- 管理3つ(8号の管理の委託先、9号の管理者等がマンション管理業者である旨、10号の維持修繕の実施状況の記録)
条文の並び自体がこの順になっているので、条文を一度通しで読めば骨格が入ります。語呂で固めたい場合は35条書面の完全整理の語呂も併用してください。
貸借は「住む人が困ることだけ残る」と考える
建物の貸借で残るのが3号と8号だという結論は、「所有者として負担することは落ち、住む人として困ることだけ残る」と一言で覚えられます。ペットを飼えるかどうかは住む人が困る。何かあったときの連絡先も住む人が困る。積立金の残高や敷地が借地かどうかは、住む人ではなく所有する人の問題です。
この理由づけを持っておくと、初見の項目でも振り分けができます。逆に、10項目のうち貸借で残るものを機械的に暗記しただけだと、少し表現を変えられただけで揺らぎます。
「あるときは」と「額」を読み分ける
条文を読むときに、その号が「定めがあるときは、その内容」型なのか、条件なしで「額」や「種類及び内容」を求める型なのかに印を付けておくと、義務を過大に書いた選択肢に強くなります。条件なしなのは1号と7号だけ、と覚えるのが最短です。
区分所有法側と往復する
35条の説明事項は、区分所有法が定める制度を前提として組み立てられています。共用部分や規約の意味があいまいなままだと、説明事項の理由づけが頭に入りません。制度の側があやしいと感じたら区分所有法の基本に戻り、決議の定数が問われる問題で崩れるなら区分所有法の決議要件を回す、という往復が有効です。演習の回し方は過去問の回転法を参考にしてください。
なお、区分所有建物の管理をめぐる法令は、マンション管理士や管理業務主任者の試験範囲と大きく重なります。宅建で学んだ35条の知識がそのまま接続する部分についてはマンション管理士と宅建の関係で整理しています。
理解度チェッククイズ
Q1. 区分所有建物の貸借の媒介を行う宅地建物取引業者は、一棟の建物の敷地に関する権利の種類および内容を借主に説明しなければならない。
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**× 誤り。** 敷地に関する権利の種類および内容は施行規則16条の2第1号の事項ですが、建物の貸借では同条の柱書により3号と8号だけが説明対象となります。敷地が所有権か借地権かは所有者の負担に関わる情報であり、借主の判断材料ではないためです。Q2. 区分所有建物の貸借において、専有部分の用途その他の利用の制限に関する規約の定めがあるときは、その内容を説明しなければならない。
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**○ 正しい。** 3号は建物の貸借でも説明が必要な2つのうちの1つです。借主も専有部分の使用方法については区分所有者と同一の義務を負う(区分所有法46条2項)ため、ペット飼育の可否や用途の制限は生活に直結します。Q3. 新築の分譲マンションの売買において、管理規約がまだ設定されていない場合には、共用部分に関する規約の定めについて説明する必要はない。
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**× 誤り。** 2号は「共用部分に関する規約の定め(その案を含む)があるときは、その内容」と定めており、案の段階でも説明対象になります。分譲時点で規約が確定していないのは通常のことなので、案を除外すると規定がほとんど機能しなくなります。Q4. 一棟の建物の維持修繕の実施状況について記録が存在しない場合、宅地建物取引業者は自ら調査してその内容を説明しなければならない。
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**× 誤り。** 10号は「維持修繕の実施状況が記録されているときは、その内容」と定めています。記録があればそれを説明するという規定であって、記録を新たに作成させる義務を課すものではありません。なお、この項目は令和8年4月1日施行の改正で9号から10号へ繰り下がりました。新設された9号は、管理者等が管理組合から委託を受けて管理事務を行うマンション管理業者である場合にその旨を説明させる規定です。Q5. 区分所有建物の売買において、売主が管理費を滞納している場合でも、通常の管理費用の額を説明すれば足り、滞納額を説明する必要はない。
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**× 誤り。** 管理費の滞納は区分所有法7条1項・8条により特定承継人である買主に承継されるため、買主にとって重大な負担となります。国土交通省の解釈・運用の考え方も、滞納があるときはその額を告げるべき旨を示しています。7号の「額」だけを説明すれば足りるわけではありません。まとめ
区分所有建物の重要事項説明は、通常の35条書面の記載事項に、施行規則16条の2が定める10項目を上乗せするものです。敷地の権利が1つ、規約の定めが4つ、お金が2つ、管理が3つという4つの塊で捉えると、条文の並びのまま記憶に残ります。管理の3つのうち9号は令和8年4月1日施行の新設規定で、これに伴い維持修繕の実施状況の記録が10号へ繰り下がっています。
最大の分岐は取引類型です。売買・交換では10項目すべてが対象になる一方、建物の貸借では3号の専有部分の用途その他の利用の制限に関する規約の定めと、8号の管理の委託先の2つだけに絞られます。所有者として負担する事柄は落ち、住む人として困る事柄だけが残る、という理由づけで覚えてください。
そして実務上も試験上も重い論点が、管理費と修繕積立金の滞納です。区分所有法8条により買主が承継する以上、額だけでなく滞納の有無と金額まで確認して説明する必要があります。制度の側を確かめたいときは区分所有法の基本へ、35条全体の中での位置づけを確かめたいときは35条書面の記載事項一覧へ戻ってください。
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宅建業法は20問と配点が最も大きく、確実に得点したい科目です。免許制度・重要事項説明・8種制限を肢別で固めましょう。