使用貸借と賃貸借の違い|民法の要点を整理
使用貸借と賃貸借の違いを、対価・諾成・引渡し前の解除・必要費・対抗力・借主の死亡・終了・原状回復・借地借家法の軸ごとに比較。過去問の出題の型と「無償だから」で導く覚え方も条文に沿って解説します。
目次
この記事は、民法593条以下が定める使用貸借を、賃貸借との違いを軸に整理する記事です。賃貸借そのものの仕組みは民法の賃貸借|存続期間・対抗要件・敷金を整理、建物所有目的の土地利用に特別法が働く場面は借地借家法の要点整理|借地権と借家権の違いを解説で扱っています。
結論を先に述べます。使用貸借と賃貸借の違いは、突き詰めれば「対価があるかどうか」の一点から派生します。対価がないから借主の地位は弱く保護され、対価がないから貸主の義務は軽くなり、対価がないから当事者間の個人的な信頼が契約の基礎に置かれます。借主の死亡で終了するのも、対抗力が認められないのも、借地借家法が適用されないのも、すべてこの一点から説明できます。条文をばらばらに暗記するのではなく、無償性という幹から枝を伸ばす形で覚えてください。
後半には、両者の違いを対価・成立・解除・費用・対抗力・死亡・終了・原状回復・特別法の軸ごとに並べた節と、自社の模範解答データで確認できた過去問の出題の型をまとめた節を置いています。比較の結論だけを確認したい場合は「使用貸借と賃貸借を軸ごとに比べる」から読んでください。
使用貸借とは何か
593条が定める内容
民法593条は、使用貸借について次のように定めています。使用貸借は、当事者の一方がある物を引き渡すことを約し、相手方がその受け取った物について無償で使用および収益をして契約が終了したときに返還をすることを約することによって、その効力を生ずる。
要素は三つです。物を引き渡すこと、無償で使用収益すること、契約終了時に返還することです。無償という点が賃貸借との決定的な違いで、賃貸借を定める601条は「賃料を支払うこと」を契約の要素として明示しています。
対象となる物は、動産でも不動産でも構いません。宅建試験で問題になるのは、土地や建物を無償で貸すという場面です。親が子に土地を無償で使わせる、会社が役員に社宅を無償で使わせる、といった関係がこれに当たります。
平成29年改正で諾成契約になった
改正前の民法では、使用貸借は要物契約とされていました。目的物を引き渡すことによって初めて契約が成立する、という構成です。平成29年の改正(令和2年4月1日施行)により、この点が改められ、諾成契約になりました。
現在の593条は「引き渡すことを約し」と書いています。物の授受は成立要件ではなく、合意だけで契約が成立します。改正前後で結論が変わる論点なので、古い教材を使っている場合は特に注意が必要です。民法改正の全体像は権利関係の民法改正まとめ|試験で出る改正ポイントで扱っています。
諾成契約化とセットの593条の2
合意だけで契約が成立するとなると、引渡し前に気が変わった貸主をどう扱うかが問題になります。無償で貸すという約束に、有償契約と同じ強さの拘束力を与えるのは酷だからです。
そこで593条の2が置かれました。貸主は、借主が借用物を受け取るまで、契約の解除をすることができる。ただし、書面による使用貸借については、この限りでない、という規定です。
書面によらない使用貸借であれば、引渡し前は貸主が自由に解除できます。書面によっていれば解除できません。書面かどうかで拘束力が変わるという発想は、書面によらない贈与の解除(550条)と同じ考え方です。無償で財産的な利益を与える契約は、書面という形式によって意思の確かさを担保する、という共通の設計になっています。
賃貸借にはこのような規定がない
賃貸借は有償契約なので、諾成契約であることに争いはなく、引渡し前だからといって賃貸人が一方的に解除できる規定は置かれていません。対価があるからこそ、契約は成立した時点で完全な拘束力を持ちます。
ここでも無償性が効いています。「使用貸借だけに認められている貸主の解除権」として593条の2を覚えておくと、比較問題で迷いません。
対価があるかどうかという出発点
無償でなければ使用貸借ではない
使用貸借の要素は無償性です。少しでも対価としての性質を持つ金銭の支払があれば、賃貸借と評価される可能性が出てきます。
もっとも、借主が目的物の維持に必要な費用を負担しているだけの場合は、それが直ちに対価とはいえません。595条1項が「借主は、借用物の通常の必要費を負担する」と定めていることからも分かるとおり、通常の必要費を借主が負担することは、使用貸借であることと矛盾しません。
実際の事案では、支払われている金銭が使用の対価なのか、単なる費用の分担なのかが争われます。金額の水準や当事者の関係を踏まえた個別判断になるため、試験では「無償であること」が明示された前提で出題されるのが通常です。
賃貸借との性質の違い
賃貸借は有償・双務・諾成の契約です。賃貸人は使用収益させる債務を負い、賃借人は賃料を支払う債務を負い、両者が対価関係に立ちます。
使用貸借は無償・片務・諾成の契約です。貸主には使用収益させる債務がありますが、借主に対価の支払債務はありません。双務契約ではないため、同時履行の抗弁権(533条)や危険負担(536条)の規定が働く場面も限られます。同時履行の抗弁権の仕組みは同時履行の抗弁権と留置権|担保的機能の違いを整理で扱っています。
貸主の義務が軽い理由
596条は、551条の規定を使用貸借について準用すると定めています。551条は贈与者の引渡義務等に関する規定で、贈与者は、贈与の目的である物または権利を、贈与の目的として特定した時の状態で引き渡し、または移転することを約したものと推定するという内容です。
これが準用される結果、貸主は原則として、その物をあるがままの状態で引き渡せば足りることになります。賃貸人が606条1項により修繕義務を負い、必要な修繕をしなければならないのとは大きく異なります。
無償で貸している以上、有償で貸している者と同じ責任を負わせるのは相当でない、という価値判断がここに表れています。同じ発想は贈与にも売買との対比で現れており、無償契約に共通する考え方だと理解しておくと応用が効きます。
借主の使い方と第三者への使用収益
594条1項 用法遵守義務
594条1項は、借主は、契約またはその目的物の性質によって定まった用法に従い、その物の使用および収益をしなければならないと定めています。居住用として借りた建物を店舗として使う、駐車場として借りた土地に建物を建てる、といった使い方は用法違反になります。
賃貸借にも同じ趣旨の規定があります。616条が594条1項を準用しており、用法遵守義務は有償・無償を問わず課される義務だと分かります。ここは違いではなく共通点として押さえてください。
594条2項 承諾のない第三者への使用収益は不可
594条2項は、借主は、貸主の承諾を得なければ、第三者に借用物の使用または収益をさせることができないと定めています。
賃貸借の612条1項も、賃借人は賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、または賃借物を転貸することができないとしており、規律は似ています。ただし、無断譲渡・無断転貸をめぐっては、賃貸借について信頼関係が破壊されていない特段の事情があれば解除できないとする判例法理が積み重ねられてきました。譲渡・転貸の詳細は賃貸借の譲渡と転貸|無断転貸の効果で扱っています。
使用貸借は当事者の個人的な信頼関係を基礎とする度合いがより強い契約です。貸主が「この人だから無償で貸した」という関係である以上、第三者に使わせることは契約の前提を崩す行為になります。
594条3項 違反したら解除できる
594条3項は、借主が前二項の規定に違反して使用または収益をしたときは、貸主は契約の解除をすることができると定めています。
条文の書き方に注意してください。催告が必要だとは書かれていません。用法違反または無断での第三者への使用収益があれば、貸主は解除できるという構造です。無償で貸している貸主に、有償契約と同じ手続を要求しない、という設計になっています。
一方、賃貸借の解除については541条の催告解除や542条の無催告解除の枠組みが働き、信頼関係の破壊の有無が考慮されます。「使用貸借は違反があれば解除できると条文に書いてある」という点を、比較の軸として覚えておいてください。債務不履行解除の一般論は債務不履行と損害賠償・解除|3つの類型を整理で扱っています。
費用は誰が負担するのか
通常の必要費は借主の負担
595条1項は、借主は、借用物の通常の必要費を負担すると定めています。必要費とは、物を通常の用法に適する状態で維持・保存するために必要な費用です。建物であれば小規模な修繕費、土地や建物にかかる固定資産税などの公租公課も、通常の必要費として借主の負担になると考えられています。
賃貸借では逆になります。608条1項は、賃借人が賃借物について賃貸人の負担に属する必要費を支出したときは、賃貸人に対し、直ちにその償還を請求することができるとしています。必要費は本来賃貸人の負担であり、賃借人が立て替えた場合は直ちに償還を請求できるわけです。
この逆転は、賃貸人が606条1項により修繕義務を負っていることと対応しています。有償で貸す者は物を使える状態に保つ義務を負い、無償で貸す者はそこまでの義務を負わない、という整理です。
通常の必要費以外は償還請求できる
595条2項は、583条2項の規定は、前項の通常の必要費以外の費用について準用すると定めています。583条2項は買戻しに関する規定で、費用の償還について196条の規律を用いる形になっています。
結論としては、特別の必要費や有益費については、借主は貸主に対して償還を請求できることになります。台風で大破した部分の大規模な修繕費のように、通常の維持の範囲を超える支出がこれに当たると考えられます。
「通常の必要費は借主負担、それ以外は償還請求できる」という二段構えが、595条の要点です。一律に借主負担と覚えてしまうと、選択肢を読み違えます。
公租公課相当額の負担はどう評価されるか
借主が固定資産税相当額だけを負担している、という形は実務でよく見られます。金銭の支払がある以上は賃貸借ではないか、という疑問が生じるところです。
しかし595条1項が通常の必要費を借主の負担としている以上、公租公課相当額の負担は、使用の対価というより目的物の維持に伴う費用の負担と評価される余地があります。支払われている金銭が使用そのものへの対価といえるのか、それとも維持費の分担にとどまるのかが分かれ目になり、金額の水準や当事者の関係を踏まえた個別の判断になります。
試験では、この点が正面から問われることはあまりありません。問題文で「無償で」と明示されていれば使用貸借、「賃料を支払う」と明示されていれば賃貸借として処理すれば足ります。実務的な難しさがあることだけ知っておけば十分です。
有益費の償還と造作買取請求権の区別
有益費は、物の価値を増加させるために支出した費用です。使用貸借でも償還請求の余地がありますが、建物賃貸借で問題になる造作買取請求権とは制度が違います。
造作買取請求権は借地借家法33条が定める権利で、建物の賃貸借に適用されます。使用貸借には借地借家法の適用がないため、この権利は問題になりません。造作買取請求権と有益費償還請求権の違いは造作買取請求権と有益費償還請求権で整理しています。
使用貸借はいつ終わるのか
597条 期間・目的・借主の死亡
597条は終了原因を三つ定めています。1項は、当事者が使用貸借の期間を定めたときは、その期間が満了することによって終了するというものです。2項は、期間を定めなかった場合において使用および収益の目的を定めたときは、借主がその目的に従い使用および収益を終えることによって終了するというものです。
そして3項が、使用貸借は借主の死亡によって終了すると定めています。この3項が、賃貸借との最も分かりやすい違いです。
598条 貸主と借主の解除権
598条1項は、貸主は、前条2項に規定する場合において、同項の目的に従い借主が使用および収益をするのに足りる期間を経過したときは、契約の解除をすることができると定めています。目的は達成されていないけれども、達成に足りる時間は経過したという場面を捉えた規定です。
2項は、当事者が使用貸借の期間ならびに使用および収益の目的を定めなかったときは、貸主はいつでも契約の解除をすることができるとしています。期間も目的も決めていなければ、貸主はいつでも返還を求められるということです。
3項は、借主はいつでも契約の解除をすることができるとしています。借主側には条件が付いていません。無償で借りている以上、いつでもやめられるのは当然だと考えれば覚えやすくなります。
賃貸借の解約申入れとの違い
期間の定めのない賃貸借では、617条1項により各当事者がいつでも解約の申入れをすることができますが、申入れから一定の期間が経過して初めて終了します。土地の賃貸借は1年、建物の賃貸借は3か月、動産および貸席の賃貸借は1日と定められています。
使用貸借の598条2項には、このような猶予期間がありません。解除すれば効力が生じます。さらに建物賃貸借では借地借家法27条・28条により、解約申入れに正当の事由が要求され、賃貸人からの終了はきわめて制限されます。
無償だから終わらせやすい、有償だから終わらせにくい、という対比が、ここでもそのまま当てはまります。
借主の死亡と相続
597条3項は借主の死亡だけを終了原因とする
597条3項は、使用貸借は借主の死亡によって終了すると定めています。条文が挙げているのは借主の死亡だけです。貸主の死亡は終了原因として挙げられていません。
したがって、貸主が死亡した場合、使用貸借は終了せず、貸主の地位は相続人に承継されます。相続人は、被相続人が負っていた「使わせる」義務をそのまま引き継ぐことになります。「土地を無償で貸していた父が亡くなったので、相続した子は直ちに返還を求められる」という記述は誤りです。相続の基本的な仕組みは相続の基礎知識|法定相続分・遺言・遺留分を整理で扱っています。
賃貸借は借主の死亡では終了しない
賃貸借には、借主の死亡を終了原因とする規定がありません。賃借人が死亡すれば、賃借権は相続財産として相続人に承継されます。建物賃貸借であれば、相続人が引き続き居住することができます。
この違いも無償性から説明できます。使用貸借は、貸主が特定の借主との関係を前提に無償で貸したものです。借主が変われば前提が崩れるため、借主の死亡で終了させるのが当事者の意思に沿うと考えられています。これに対し賃貸借は対価を伴う財産的な取引であり、賃借権は財産権として承継されます。
配偶者の居住を保護する制度として、民法は配偶者居住権を設けています。こちらは相続によって発生する法定の権利で、使用貸借とは制度の建て付けが違います。詳細は配偶者居住権|民法改正の新制度を解説で扱っています。
遺産である建物への同居と使用貸借
相続の場面で使用貸借が問題になる典型が、被相続人と同居していた相続人の居住関係です。最高裁平成8年12月17日判決は、共同相続人の一人が相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産である建物に被相続人と同居してきたときは、特段の事情のない限り、被相続人とその相続人との間で、相続開始時を始期とし、遺産分割終了時を終期とする使用貸借契約関係が存続することになるものというべきであるとしました。
この判決の意味は、遺産分割が終わるまでの間、同居していた相続人は無償で住み続けられるという点にあります。他の共同相続人が、自分の持分に応じた賃料相当額の支払を求めることは、この使用貸借関係が認められる限り難しくなります。
共有物の使用に関する一般的なルールと、この判例の関係も押さえておくと理解が深まります。共有の法律関係は共有の法律関係|持分・管理・分割のルールを整理で整理しています。
終了したときの後始末
599条 収去義務と収去権
599条1項は、借主は、借用物を受け取った後にこれに附属させた物がある場合において、使用貸借が終了したときは、その附属させた物を収去する義務を負うと定めています。ただし、借用物から分離することができない物または分離するのに過分の費用を要する物については、この限りでないとされています。
2項は、借主は、借用物を受け取った後にこれに附属させた物を収去することができると定めています。1項が義務、2項が権利です。同じ行為が義務でもあり権利でもあるという構成になっている点が、この条文の特徴です。
599条3項 原状回復義務とその例外
3項は、借主は、借用物を受け取った後にこれに生じた損傷がある場合において、使用貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負うと定めています。ただし、その損傷が借主の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでないとされています。
賃貸借の621条も同様の構造を持ちますが、賃貸借では通常の使用収益によって生じた損耗と経年変化が原状回復の対象から除かれる旨が明記されています。使用貸借の599条3項には、この通常損耗を除く旨の文言がありません。条文の書きぶりが違う点は、比較問題の材料になり得ます。
600条 1年の期間制限
600条1項は、契約の本旨に反する使用または収益によって生じた損害の賠償および借主が支出した費用の償還は、貸主が返還を受けた時から1年以内に請求しなければならないと定めています。
2項は、前項の損害賠償の請求権については、貸主が返還を受けた時から1年を経過するまでの間は、時効は完成しないと定めています。返還を受けるまで貸主が損害を知り得ないことがあるため、時効の完成を猶予する規定が置かれているわけです。
起算点は「貸主が返還を受けた時」です。契約が終了した時ではありません。この起算点のずらしは出題されやすいところで、賃貸借の622条が600条を準用していることもあわせて確認しておいてください。時効の一般的な仕組みは時効|取得時効と消滅時効の要件・効果を解説で扱っています。
対抗力と特別法の適用
使用貸借に対抗力はない
605条は、不動産の賃貸借は、これを登記したときは、その不動産について物権を取得した者その他の第三者に対抗することができると定めています。この規定は賃貸借についてのものであり、使用貸借に同様の規定は置かれていません。
したがって、土地や建物を無償で借りている者は、その不動産が第三者に譲渡された場合、新しい所有者に対して使用を主張することが困難になります。貸主が変われば、借主は明渡しを求められる立場に置かれるということです。物権と債権の優劣の考え方は物権変動と対抗要件|登記の役割と第三者の範囲で整理しています。
賃貸借であれば、605条の登記のほか、借地借家法10条1項の借地上の建物の登記や、同法31条の建物の引渡しによって対抗力が認められます。借地権の対抗要件は借地権の対抗要件|建物登記による対抗を解説で詳しく扱っています。使用貸借にはこれらの経路がありません。
借地借家法の適用がない
借地借家法2条1号は、借地権を、建物の所有を目的とする地上権または土地の賃借権と定義しています。列挙されているのは地上権と賃借権の二つで、使用借権は含まれていません。
したがって、建物の所有を目的として土地を無償で借りていても、借地借家法上の借地権にはなりません。存続期間30年という最低期間(3条)も、更新の規定も、建物買取請求権(13条)も適用されないことになります。定期借地権を含む借地権の種類は普通借地権と定期借地権|3種類の定期借地権を比較で扱っています。
建物についても同じです。借地借家法の借家に関する規定は建物の賃貸借を対象としており、無償で使わせている場合には適用されません。正当事由による更新拒絶の制限も働かないため、貸主は598条の規律に従って終了させることができます。
農地の使用貸借には許可が必要
農地法3条1項は、農地または採草放牧地について所有権を移転し、または地上権、永小作権、質権、使用貸借による権利、賃借権もしくはその他の使用および収益を目的とする権利を設定し、もしくは移転する場合には、原則として農業委員会の許可を受けなければならないと定めています。
使用貸借による権利が条文に明示されている点が重要です。無償だから許可が不要ということはありません。農地法の許可の枠組みは農地法の3条・4条・5条許可|届出との違いも整理で整理しています。
隣接する制度との位置関係
無償の地上権との違い
土地を無償で使う方法は、使用貸借だけではありません。地上権も、地代を成立要件としていないため、無償で設定することができます。民法265条は、他人の土地において工作物または竹木を所有するためその土地を使用する権利と定めるだけで、地代の支払を要件としていません。
同じ無償でも、地上権は物権、使用借権は債権です。物権であれば、原則として所有者の承諾なしに譲渡でき、登記を求める権利があり、第三者にも主張できます。使用貸借にはいずれもありません。用益物権の全体像は地上権・地役権・永小作権|用益物権を比較整理で扱っています。
無償かどうかと、物権か債権かは、別々の軸です。この二つを混同すると、「無償なのだから弱い権利のはずだ」という思い込みで地上権の問題を落とすことになります。軸を分けて考えてください。
使用貸借に基づく占有と取得時効
使用貸借の借主は、目的物を占有しています。では、長期間占有し続ければ所有権を時効取得できるのでしょうか。
162条の取得時効は、所有の意思をもってする占有、すなわち自主占有を要件としています。使用貸借に基づく占有は、貸主の所有権を前提として借りているものであり、所有の意思のない他主占有です。したがって、そのままでは所有権の取得時効は成立しないのが原則です。取得時効の要件は時効|取得時効と消滅時効の要件・効果を解説で整理しています。
賃借人の占有についても同じ理屈が当てはまります。無償か有償かではなく、他人の権利を前提として借りているかどうかが分かれ目になる、という点を押さえてください。
親族間の土地の無償使用
実務でよく見られるのが、親の土地に子が建物を建てて住むという関係です。対価の授受がなければ、法的には土地の使用貸借と評価されるのが通常です。
この場合、子は借地借家法の保護を受けられません。親が死亡しても使用貸借は終了しませんが、土地が第三者に売却されれば、新しい所有者に対して使用を主張することは困難です。無償で使えるという利点の裏側に、地位の不安定さがあるという構造になっています。
親族間の関係であっても、法的な枠組みとしては使用貸借と賃貸借のどちらなのかを確定させてから条文を当てはめる、という手順が必要です。賃貸借と評価されれば、借地借家法の適用という次の論点に進むことになります。
使用貸借と賃貸借を軸ごとに比べる
ここまでは条文の順に使用貸借を見てきました。この節では視点を変え、「使用貸借と賃貸借は何が違うのか」という問いに、比較の軸を一つずつ立てて答えます。各軸について、使用貸借ではどうなるか、賃貸借ではどうなるか、なぜ違うのか、試験でどう使われるかの順に書きます。賃貸借の側の仕組みを先に確認したい場合は民法の賃貸借|存続期間・対抗要件・敷金を整理を併読してください。
対価の有無
使用貸借は、借主が「無償で」使用および収益をすることを要素とする契約です(593条)。賃貸借は、賃借人が「賃料を支払うこと」を要素とする契約です(601条)。条文の上で両者を分けているのは、この一語だけだと言ってよいほどです。
対価の有無は、契約の性質の分類にそのまま反映されます。賃貸借は有償・双務契約で、賃貸人の使用収益させる債務と賃借人の賃料支払債務が対価関係に立ちます。使用貸借は無償・片務契約で、借主の側に対価を支払う債務がありません。
ただし、借主が何らかの金銭を負担していれば直ちに賃貸借になるわけではありません。595条1項が通常の必要費を借主の負担としている以上、固定資産税などの維持費を借主が負担していても、それが使用の対価と評価されない限り使用貸借のままです。試験では「無償で」「賃料を支払って」と前提が明示されるのが通常なので、まず問題文のその言葉に印を付けることから始めてください。
- 使用貸借は無償・片務、賃貸借は有償・双務。
- 維持費の負担だけでは賃料にならない。前提は問題文の文言で確定させる。
契約の成立(諾成契約)
現在の民法では、使用貸借も賃貸借も諾成契約です。使用貸借の593条は「引き渡すことを約し」と書き、物の授受ではなく合意によって効力を生ずると定めています。賃貸借の601条も、使用収益させることと賃料を支払うことを「約することによって」効力を生ずると定めています。
この軸は、違いではなく共通点として押さえる必要があります。平成29年の改正前は使用貸借が要物契約とされていたため、古い知識のまま「使用貸借は引渡しによって成立するが、賃貸借は合意だけで成立する」と対比させる選択肢が作られます。現行法では、この対比自体が成り立ちません。
自社模範解答DBでも、2022年(令和4年度)問6肢1の解説は、賃貸借を「有償・諾成契約」、使用貸借を「改正後は諾成契約となった(民法593条)」無償契約として並べ、そのうえで両者の違いは成立の仕方ではなく引渡し前の解除の可否に現れると整理しています。
- 両方とも諾成契約。成立の仕方では区別できない。
- 違いが出るのは、成立した後の拘束力の強さ(次の軸)。
貸主の引渡し前の解除(593条の2)
成立の仕方が同じでも、成立後の拘束力は違います。使用貸借では、貸主は借主が借用物を受け取るまで契約を解除することができます(593条の2本文)。ただし、書面による使用貸借については解除できません(同条ただし書)。
賃貸借には、引渡し前であれば賃貸人が自由に解除できるという規定がありません。口頭の契約であっても書面の契約であっても、成立した時点で賃貸人は拘束されます。有償契約では、相手方が対価を払う約束をしている以上、一方的に離脱させる理由がないからです。
したがって正しい組み合わせは、「賃貸借は書面の有無を問わず引渡し前の自由な解除なし」「使用貸借は書面によらなければ引渡し前の解除あり、書面によれば解除なし」です。2022年(令和4年度)問6肢1は、まさにこの組み合わせを逆にした肢で、自社DBの解説は「①と②を逆に説明している点で誤っている」としています。
- 引渡し前の解除権は使用貸借の貸主にだけある。
- 書面による使用貸借では、その解除権もない。
通常の必要費の負担(595条1項)
使用貸借では、借主が借用物の通常の必要費を負担します(595条1項)。建物の小規模な修繕費や公租公課がこれに当たると考えられています。通常の必要費以外の費用については、595条2項により償還請求の余地があります。
賃貸借では、必要費は本来賃貸人の負担です。賃借人が賃貸人の負担に属する必要費を支出したときは、賃貸人に対し直ちに償還を請求することができます(608条1項)。この規律は、賃貸人が使用収益に必要な修繕をする義務を負う(606条1項)ことと表裏の関係にあります。
違いの理由は、貸主の義務の重さです。使用貸借の貸主は、551条の準用(596条)により物をあるがままの状態で引き渡せば足り、修繕義務を負いません。修繕義務がない以上、維持の費用を貸主に負わせる根拠もなく、通常の範囲の維持は借りて使っている借主が持つ、という配分になります。
- 通常の必要費は、使用貸借では借主、賃貸借では賃貸人が負担する。
- 使用貸借でも通常の必要費以外は償還請求の余地がある。「すべて借主負担」は言い過ぎ。
第三者への対抗力(605条との対比)
賃貸借では、不動産の賃貸借は登記をしたときに、その不動産について物権を取得した者その他の第三者に対抗できます(605条)。さらに借地借家法により、借地権は借地上の建物の登記(10条1項)、建物賃借権は建物の引渡し(31条)で対抗力を備えることができます。
使用貸借には、605条に相当する規定がありません。借地借家法の対抗要件も、同法が適用されない以上使えません。目的物が第三者に譲渡されると、借主は新しい所有者に使用を主張することが困難になります。
同じ構図は農地法にも現れます。自社DBの2022年(令和4年度)法令上の制限の問21肢1の解説は、農地法16条1項が登記がなくても引渡しがあれば第三者に対抗できるとしているのは「賃貸借」だけで、無償の「使用貸借」は対象外であると説明しています。「賃貸借及び使用貸借」と並べて両方に引渡しによる対抗力を認める肢は誤りです。借地権の側の対抗要件の考え方は借地権とは|期間・更新・対抗要件を条文からで扱っています。
- 対抗の仕組み(民法605条、借地借家法10条1項・31条、農地法16条1項)はすべて賃貸借のためのもの。
- 使用貸借の借主は、所有者が変わると立場を失いやすい。
借主の死亡(597条3項)
使用貸借は借主の死亡によって終了します(597条3項)。貸主の死亡は終了原因ではなく、貸主の地位は相続人に承継されます。
賃貸借は、どちらの当事者が死亡しても当然には終了しません。自社DBの2024年(令和6年度)問7肢4の解説は、賃貸人の地位も賃借人の地位も財産的な契約上の地位であり、相続開始の時から相続人に承継される(896条本文)とし、借主の死亡で当然に終了する旨が定められている使用貸借(597条3項)とは異なると述べています。
597条3項は、配偶者居住権にも準用されています。自社DBの2021年の問4肢3の解説は、配偶者居住権について597条3項が準用される(1036条)ため、配偶者の死亡によって当然に消滅し、相続の対象とならないと説明しています。借主本人の利益のために認められた権利は、本人の死亡で終わる、という共通の発想です。制度の詳細は配偶者居住権|民法改正の新制度を解説で扱っています。
- 使用貸借は借主の死亡でのみ終了。貸主の死亡では終わらない。
- 賃貸借は双方とも相続される。配偶者居住権は597条3項の準用で本人の死亡により消滅。
存続期間と終了(597条・598条)
使用貸借の終了は597条と598条で決まります。期間を定めればその満了で終了し(597条1項)、期間を定めず目的を定めれば目的に従った使用収益を終えることで終了します(同条2項)。目的を定めた場合、目的に従い使用収益をするのに足りる期間を経過すれば、貸主は解除できます(598条1項)。期間も目的も定めなければ、貸主はいつでも解除できます(同条2項)。借主は、いつでも解除できます(同条3項)。
賃貸借では、期間の定めのない場合、各当事者はいつでも解約の申入れができますが、申入れから一定期間の経過で初めて終了します(617条1項。土地1年、建物3か月、動産・貸席1日)。期間の定めがある場合は、期間内に解約する権利を留保したときに限り、617条が準用されます(618条)。存続期間の上限(50年)が定められている点も、使用貸借にはない規律です。
借主の側から比べると違いがよく見えます。自社DBの2022年(令和4年度)問6肢3の解説は、賃貸借では期間内に解約する権利を留保しているときに解約の申入れができ(618条)、使用貸借では借主は解除権を留保していなくてもいつでも解除できる(598条3項)とし、この肢を正しいとしています。
- 使用貸借の借主はいつでも解除できる。賃貸借の賃借人は、期間の定めがあれば留保がない限り途中で抜けられない。
- 使用貸借の貸主の解除は、期間・目的の定め方で条件が変わる(598条1項・2項)。
原状回復と収去(599条)
使用貸借の終了時、借主は附属させた物を収去する義務を負い(599条1項)、収去する権利も持ちます(同条2項)。受け取った後に生じた損傷については原状回復義務を負いますが、借主の責めに帰することができない事由による損傷は除かれます(同条3項)。
賃貸借の原状回復は621条が定め、通常の使用収益によって生じた損耗と経年変化が原状回復の対象から除かれることが明記されています。使用貸借の599条3項には、この文言がありません。附属物の収去については、両者はほぼ同じ規律になっています。
終了後の請求期間は共通です。契約の本旨に反する使用収益による損害の賠償と、借主が支出した費用の償還は、貸主が返還を受けた時から1年以内に請求しなければなりません(600条1項)。この規定は賃貸借にも準用されています(622条)。自社DBの2022年(令和4年度)問6肢4の解説は、賃貸借について「5年以内」とした部分を誤りとし、両者とも1年であると整理しています。
- 収去は両者共通。原状回復の条文は、通常損耗を除く旨の明記が賃貸借(621条)にだけある。
- 600条の1年は両者共通。起算点は「返還を受けた時」。
借地借家法の適用の有無
借地借家法2条1号は、借地権を建物の所有を目的とする地上権または土地の賃借権と定義しています。使用借権は含まれません。建物についても、借家の規定は建物の賃貸借を対象としています。
したがって使用貸借には、存続期間30年(3条)、更新、建物買取請求権(13条)、正当事由による更新拒絶・解約申入れの制限(27条・28条)、造作買取請求権(33条)、対抗要件の特則(10条1項・31条)のいずれも及びません。賃貸借であっても、建物所有を目的としない土地の賃貸借には借地借家法が及ばない点とあわせて、「どの契約に特別法が乗るのか」を定義から判定してください。借地借家法の数字は借地借家法の数字まとめ|期間・通知を根拠から整理で一覧できます。
- 借地借家法の保護は、賃貸借(と地上権)にしか乗らない。
- 使用貸借の終了は、民法597条・598条だけで処理する。
媒介報酬の算定(宅建業法との交差)
軸の最後に、宅建業法との接点を一つ挙げます。使用貸借の媒介には現実の借賃がありません。自社DBの2022年(令和4年度)宅建業法の問27肢2の解説は、この場合の報酬限度額は当該建物の「通常の借賃」を基礎として算定し、その算定に当たって不動産鑑定業者の鑑定評価を求めるのは「必要に応じて」であって義務ではない、としています。
民法上は無償でも、宅建業者が媒介する以上は報酬規制の枠内で処理される、という構造です。報酬の上限の考え方は報酬額の制限|46条と告示が定める上限の枠組みで扱っています。
- 使用貸借の媒介報酬は「通常の借賃」を基礎に算定する。
- 鑑定評価は必要に応じて求めるもので、義務ではない。
試験での出題ポイント
死亡したのが誰かをすり替える
最も多いのが、597条3項の主語を入れ替える出題です。「使用貸借は貸主の死亡によって終了する」という記述は誤りで、条文が終了原因としているのは借主の死亡です。
さらに一段ひねって、「賃貸借は賃借人の死亡によって終了する」という記述が出ることもあります。賃貸借には借主の死亡を終了原因とする規定がなく、賃借権は相続の対象になるため、これも誤りです。使用貸借と賃貸借を並べ、死亡した当事者を入れ替える形が定番だと考えておいてください。
費用負担の向きを逆にする
595条1項の「借主は、借用物の通常の必要費を負担する」と、608条1項の必要費償還請求権は、向きが逆です。「使用貸借の借主が支出した必要費は、貸主に対して直ちに償還を請求できる」という記述は、通常の必要費については誤りになります。
一方で、「使用貸借では借主がすべての費用を負担する」という記述も正確ではありません。595条2項により、通常の必要費以外の費用については償還請求の余地があります。極端な断定はどちらの方向でも誤り、という構造です。
借地借家法を当てはめてしまう
「建物の所有を目的として土地を無償で借りた場合、借地借家法により存続期間は30年となる」という記述は誤りです。借地借家法2条1号の借地権は、地上権または賃借権に限られます。
同じ発想で、「無償で建物を借りている場合でも、貸主からの終了には正当の事由が必要である」という記述も誤りになります。借地借家法の適用がない以上、民法598条の規律で処理されます。特別法が適用される場面かどうかを、条文の定義から確認する習慣をつけてください。
諾成契約化を反映していない選択肢
改正前の知識で作られた「使用貸借は目的物の引渡しによって成立する要物契約である」という記述は、現行法では誤りです。593条は合意による成立を定めています。
あわせて593条の2の書面の有無による違いも問われます。「書面によらない使用貸借であっても、貸主は借用物を引き渡す前に契約を解除することはできない」という記述は誤りです。書面によらなければ、引渡し前は解除できます。
農地法との横断
農地の使用貸借について、「無償の貸借であるから農地法3条の許可は不要である」という記述は誤りです。条文が使用貸借による権利の設定を明示しています。
権利関係の知識と法令上の制限の知識が交差する場面であり、横断的な出題として扱われることがあります。権利関係全体の出題範囲は権利関係の全体像|14問の出題範囲と得点戦略で整理しています。
過去問に見る出題の型
ここでは、自社模範解答DBに収録された肢のうち、使用貸借に触れているものを出題の型ごとに束ねます。問題文は転載せず、肢がどういう操作で作られているかだけを抜き出します。年度・問番号は、いずれもDB上で確認できたものです。
型1 賃貸借の規定を使用貸借に当てはめる
最も基本的な型です。賃貸借に固有の規律を、そのまま使用貸借にも当てはまるかのように書きます。2022年(令和4年度)問6は、同じ甲土地を①賃貸借で貸す場合と②使用貸借で貸す場合を並べ、4肢すべてで両者を比べさせる構成でした。
この型の肢は、次の順で処理すると迷いません。まず、その肢が述べている規律が賃貸借の条文か使用貸借の条文かを特定します。次に、もう一方に同じ規律があるかを確認します。対抗要件(605条、借地借家法10条1項・31条、農地法16条1項)や借地借家法の保護のように、賃貸借にしか存在しない規律を使用貸借に持ち込んでいれば誤りです。
逆向きの操作もあります。2022年(令和4年度)問6肢2は、使用貸借では貸主の承諾がなくても適法に転貸できる、とした部分が誤りでした。自社DBの解説は、使用貸借でも594条2項により貸主の承諾が必要で、違反すれば594条3項で解除できると説明しています。「使用貸借は緩い」という印象を、承諾の要否にまで広げてしまうと落とします。
型2 借主の死亡と貸主の死亡を入れ替える
597条3項の主語を入れ替える型です。この型は、使用貸借を正面から扱う問題だけでなく、別の契約の問題の中にも差し込まれます。
2021年の問3は、準委任・賃貸借・売買・使用貸借の各場面で当事者が死亡したときの扱いを並べ、誤っているものの個数を問う形式でした。自社DBの解説によれば、使用貸借の記述は、借主が死亡しても相続人が借主の地位を相続して建物を使用できるとした点が597条3項に反して誤りとされています。個数問題では一肢の判断ミスがそのまま失点になるため、死亡した当事者の確認を省略できません。個数問題の解き方は宅建の個数問題・組合せ問題の解き方|捨てるか取るかの判断で扱っています。
2024年(令和6年度)問7肢4は、賃貸借について貸主・借主の双方が死亡すれば当然に終了するとした肢でした。解説は、使用貸借の597条3項との違いを示したうえで、賃貸借ではそれぞれの地位が相続人に承継されるとしています。使用貸借の知識が、賃貸借の肢を切る根拠として使われている例です。
2021年の問4肢3は配偶者居住権の問題で、配偶者の死亡後に相続人が配偶者居住権を相続するとした肢が誤りでした。597条3項が1036条で準用されていることを知っていれば、使用貸借と同じ処理で切れます。
型3 対抗力の有無をすり替える
対抗要件の規律を、賃貸借と使用貸借に同じように与える型です。2022年(令和4年度)の法令上の制限の問21肢1は、農地の賃貸借と使用貸借のどちらも引渡しによって第三者に対抗できるとした点が誤りでした。農地法16条1項の対抗力は賃貸借にだけ認められます。
この型は、権利関係と法令上の制限の横断として出るため、農地法の問題として読んでいると民法の知識を使う意識が薄れます。「使用貸借」と「対抗」が同じ肢に出てきたら、無償の貸借に対抗の仕組みはない、という原則から入ってください。
型4 費用負担の向きを入れ替える
595条1項(通常の必要費は借主負担)と608条1項(必要費は賃貸人負担、直ちに償還請求)の向きを入れ替える型です。「使用貸借の借主は、支出した通常の必要費の償還を直ちに請求できる」とすれば誤り、「賃貸借の賃借人は、通常の必要費を自ら負担しなければならない」としても誤りです。
もう一つ、期間の数字を入れ替える操作もこの型の仲間です。2022年(令和4年度)問6肢4は、契約の本旨に反する使用による損害の賠償請求について、賃貸借を5年、使用貸借を1年とした肢でした。600条1項は賃貸借にも準用されている(622条)ため、両者とも返還を受けた時から1年です。「使用貸借と賃貸借で違うはず」という思い込みを利用して、共通の規律に差をつける作り方です。
型5 期間の定めがない場合の終了と、解除権の留保
終了の仕方の違いを問う型です。2022年(令和4年度)問6肢3は、賃貸借の借主は期間内に解約する権利を留保しているときに解約の申入れができ(618条)、使用貸借の借主は留保がなくてもいつでも解除できる(598条3項)という内容で、正しい肢でした。
誤りの肢を作るときは、598条の主語を入れ替えるのが定番です。「期間も目的も定めていない使用貸借では、借主はいつでも解除できるが、貸主は解除できない」とすれば、598条2項に反して誤りです。「使用貸借の貸主は、期間の定めがない場合、解約の申入れから1年を経過して初めて終了させることができる」とすれば、617条1項の猶予期間を使用貸借に持ち込んだ誤りです。598条2項の解除には猶予期間がありません。
型6 判決文の中の使用貸借
使用貸借は、判決文問題の素材としても使われます。2017年(平成29年度)問3は、最高裁昭和63年5月20日判決を素材に、共有者の一部が協議なしに第三者と使用貸借契約を結んだ場面を扱いました。自社DBの解説によれば、判旨は、承認を得た第三者は承認した共有者の持分に基づく限度で占有使用の権原を持つため、承認しなかった共有者は当然には明渡しを請求できない、一方で第三者は承認しなかった共有者に排他的占有権原を主張できない、というものです。
この型では、使用貸借そのものの条文より、判旨の射程を読み取る力が問われます。判決文問題の読み方は宅建の判決文問題の解き方|判旨の読み方と時間の使い方で扱っています。共有物の使用のルールは、共有|持分・変更・管理・分割を条文で整理とあわせて確認してください。
二択で迷ったときの確認順
使用貸借と賃貸借の比較問題で最後の二肢に残ったときは、次の順で確認すると判断がぶれにくくなります。第一に、肢が述べる規律がどちらの契約の条文かを特定する。第二に、その規律がもう一方にもあるか(共通点か相違点か)を確認する。第三に、主語(貸主か借主か)と数字(1年、猶予期間)を条文と照合する。二択で外す原因の分析は宅建で最後の二択を外す原因と直し方|肢別で精度を上げるで扱っています。
覚え方・整理の仕方
「無償だから」で全部つなぐ
使用貸借の論点は、無償であることから一本につながります。
無償だから、貸主は引渡し前に気軽にやめられる(593条の2)。無償だから、貸主は物をあるがままの状態で渡せばよい(596条、551条準用)。無償だから、維持にかかる通常の費用は借主が持つ(595条1項)。無償だから、この人だからという信頼が前提で、借主が死ねば終わる(597条3項)。無償だから、第三者に対抗できる仕組みが用意されていない(605条の不存在)。無償だから、借地借家法という借主保護の特別法が適用されない(2条1号)。
条文番号を先に覚えようとすると崩れますが、「無償だから」を頭に付けて言い直すと、条文の中身のほうから思い出せるようになります。
賃貸借と対にして三点だけ確認する
比較問題では、次の三点を先に確認するのが効率的です。
第一に、終了原因に借主の死亡が入るか。入るのが使用貸借、入らないのが賃貸借です。第二に、通常の必要費を誰が負担するか。借主が負担するのが使用貸借、賃貸人が負担するのが賃貸借です。第三に、対抗力の仕組みがあるか。ないのが使用貸借、あるのが賃貸借です。
この三点で判別できない選択肢は多くありません。迷ったときの検算に使ってください。
例外は593条の2の書面だけと覚える
使用貸借には、書面かどうかで結論が変わる場面が一つだけあります。593条の2ただし書の、書面による使用貸借について貸主の解除権が認められないという規律です。
書面によらない贈与の解除(550条)と同じ発想であることを結びつけておくと、贈与と使用貸借という二つの無償契約が一組で整理できます。無償で財産的利益を与える約束は、書面という形式によって確かなものになる、という共通の考え方です。
相続との交差を一つだけ押さえる
相続の場面では、最高裁平成8年12月17日判決を一つだけ押さえておけば足ります。被相続人と同居していた相続人について、相続開始時から遺産分割終了時までの使用貸借契約関係が推認されるという判断です。
この判例は、使用貸借が終了する原因(借主の死亡)と、使用貸借が始まる場面(黙示の合意の推認)の両方に関わります。相続と使用貸借を結ぶ結節点として覚えておくと、応用問題に対応しやすくなります。
「対価がない」から三段で違いを導く
この節の最初の見出し「「無償だから」で全部つなぐ」では、各違いに「無償だから」を付けて言い直す方法を示しました。ここでは、同じ理由を三段の推論として組み立て、条文を知らない問いにも見当を付けられるようにします。
第一段は「対価がない」です。借主は何も払っていないので、貸主は見返りを受け取らないまま物を使わせています(593条、601条との対比)。
第二段は「だから貸主の義務は軽い」です。見返りのない者に重い義務を課すのは酷なので、貸主は物をあるがままの状態で渡せばよく(596条、551条準用)、修繕義務も負わず、通常の必要費は借主が持ちます(595条1項)。引渡し前であれば、書面によらない限り約束から降りることもできます(593条の2)。期間も目的も決めていなければ、いつでも返還を求められます(598条2項)。
第三段は「だから借主の保護は薄い」です。貸主の好意に支えられた関係なので、借主が死亡すれば終わり(597条3項)、第三者への対抗の仕組みはなく(605条の不存在、農地法16条1項の対象外)、借主保護のための特別法である借地借家法も乗りません(2条1号)。
この三段に当てはまらない規律は、「無償かどうかと関係のない共通のルール」として別に覚えます。用法遵守義務(594条1項、616条で賃貸借に準用)、第三者に使わせるには承諾が要ること(594条2項、612条1項)、返還から1年の請求期間(600条、622条で準用)、合意だけで成立すること(諾成契約)がこれに当たります。違いの束と共通の束を分けておくと、「違うはずだ」という思い込みを使った肢に引っかかりにくくなります。権利関係のどの論点で失点しやすいかの診断は宅建の権利関係が苦手|四つの型に分けて診断する、権利関係の頻出論点の全体は権利関係の頻出論点|どこから手をつけるかで整理しています。
理解度チェッククイズ
Q1. 使用貸借は、借主が死亡しても終了せず、借主の相続人に承継される。○か×か。
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×。民法597条3項は、使用貸借は借主の死亡によって終了すると定めています。無償で貸すという契約は、貸主と特定の借主との個人的な関係を前提としているためです。これに対して賃貸借には借主の死亡を終了原因とする規定がなく、賃借権は相続の対象になります。なお使用貸借であっても、貸主が死亡した場合は終了せず、貸主の地位が相続人に承継されます。誰が死亡したのかを必ず確認してください。Q2. 使用貸借の借主は、借用物の通常の必要費を負担する。○か×か。
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○。民法595条1項がそのとおり定めています。建物の小規模な修繕費や、目的物にかかる公租公課などが通常の必要費に当たると考えられています。賃貸借では608条1項により、賃借人が支出した必要費は賃貸人に直ちに償還を請求できるとされており、向きが逆です。なお使用貸借でも、595条2項により通常の必要費以外の費用については償還を請求する余地があります。Q3. 書面によらない使用貸借の貸主は、借主が借用物を受け取る前であっても、契約を解除することはできない。○か×か。
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×。民法593条の2は、貸主は借主が借用物を受け取るまで契約の解除をすることができるとし、ただし書で書面による使用貸借については解除できないとしています。書面によらないのであれば、引渡し前は解除できます。平成29年の改正で使用貸借が諾成契約とされたことに伴い、無償契約の拘束力を調整するために置かれた規定です。書面によらない贈与の解除(550条)と同じ発想で覚えてください。Q4. 建物の所有を目的として土地を無償で借りた場合、借地借家法が適用され、存続期間は30年となる。○か×か。
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×。借地借家法2条1号は、借地権を建物の所有を目的とする地上権または土地の賃借権と定義しており、使用借権は含まれていません。したがって存続期間30年の規定(3条)や更新に関する規定、建物買取請求権(13条)は適用されません。使用貸借の終了は民法597条・598条の規律によります。無償の貸借に借主保護の特別法は及ばない、という整理です。Q5. 農地を無償で貸し借りする場合、対価の支払がないため農地法3条の許可を受ける必要はない。○か×か。
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×。農地法3条1項は、農地または採草放牧地について、所有権の移転や、地上権、永小作権、質権、使用貸借による権利、賃借権その他の使用および収益を目的とする権利の設定・移転をする場合に、原則として農業委員会の許可を要すると定めており、使用貸借による権利が明示されています。無償であることは許可を不要とする理由になりません。まとめ
使用貸借は、民法593条以下に置かれた無償の貸借契約です。平成29年の改正により要物契約から諾成契約になり、合意だけで成立するようになりました。その代わりに593条の2が置かれ、書面によらない使用貸借であれば、貸主は引渡し前に解除できるとされています。
賃貸借との違いは、すべて無償性から導かれます。貸主は物をあるがままの状態で引き渡せばよく(596条、551条準用)、通常の必要費は借主が負担し(595条1項)、用法違反や無断での第三者への使用収益があれば貸主は解除でき(594条3項)、借主の死亡によって契約は終了します(597条3項)。期間も目的も定めていなければ、貸主はいつでも解除できます(598条2項)。
終了後は、附属させた物の収去義務と収去権、および損傷の原状回復義務が定められ(599条)、損害賠償と費用償還の請求は貸主が返還を受けた時から1年以内にしなければなりません(600条1項)。起算点が返還時である点に注意してください。
そして最も効くのが、対抗力と特別法の不存在です。605条のような対抗要件の仕組みがなく、借地借家法2条1号の借地権にも当たらないため、借主の地位は賃借人よりも弱いままです。一方で、農地法3条1項は使用貸借による権利の設定を許可の対象として明示しており、無償であることが規制を免れる理由にはなりません。
比較問題に出会ったら、終了原因に借主の死亡が入るか、通常の必要費を誰が負担するか、対抗力の仕組みがあるか、の三点をまず確認してください。この三点で多くの選択肢は判別できます。
宅建試験AIブートラボのアプリでは、使用貸借と賃貸借の比較を含む肢別トレーニングと年度別の過去問演習に取り組めます。条文の主語と向きを意識しながら、繰り返し確認してみてください。