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物権変動と対抗要件|登記の役割と第三者の範囲

権利関係 読了 約24分

民法176条・177条を軸に物権変動を整理。第三者の範囲と背信的悪意者、取消し・解除・時効・相続の4場面で「前と後」により処理が変わる構造を判例つきで解説します。

目次

    この記事は、民法176条と177条を軸に、不動産の物権変動が誰との関係でどう決まるのかを整理するものです。登記制度そのものの仕組みは不動産登記の基礎、登記記録の読み方は登記簿の読み方が担当します。権利関係全体での位置づけは権利関係の全体像を参照してください。

    結論を先に述べます。この分野の判例は数が多く見えますが、実際に覚えるべき構造は1つです。取消し、解除、時効、相続の4つの場面で、第三者が登場したのが「前」か「後」かによって処理が変わります。前は物権変動がまだ確定していない段階なので、それぞれの制度に置かれた個別の保護規定で処理します。後は所有権が戻る動きと第三者への移転が重なる二重譲渡類似の状態なので、177条の対抗問題として登記の先後で決まります。この一本の軸を持てば、個別の判例を丸暗記せずに済みます。

    物権変動は意思表示だけで起きる

    176条が定める意思主義

    民法176条は「物権の設定及び移転は、当事者の意思表示のみによって、その効力を生ずる」と定めています。これを意思主義といいます。

    条文が「意思表示のみによって」と書いている以上、物権が移るのに書面も登記も引渡しも要りません。売買契約を締結すれば、その時点で所有権は買主に移ります。代金を払っていなくても、鍵を受け取っていなくても、登記が売主名義のままでも、当事者の間では所有権は買主のものです。

    この出発点を外すと、以降の議論が全部ずれます。「登記をしなければ所有権を取得できない」という理解は誤りで、正しくは「登記をしなければ第三者に主張できない」です。

    効力要件と対抗要件は別のもの

    法律が要求する「要件」には性質の違うものがあります。効力要件は、それがなければ効力そのものが生じないもの。対抗要件は、効力は生じているが第三者との関係で優劣を主張するために必要になるものです。

    不動産の登記は後者です。登記がなくても所有権は移っている。ただし第三者に「私のものだ」と言えない。この二段構えが176条と177条の関係です。

    登記は第三者に対抗するための要件

    177条の条文

    民法177条は「不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない」と定めています。

    対象は「物権の得喪及び変更」です。所有権の移転だけでなく、抵当権の設定や消滅も含まれます。抵当権の順位が登記の前後で決まるのも、この条文の帰結です。抵当権については抵当権で扱っています。

    「対抗することができない」の意味

    この表現がわかりにくいので、意味を確定させておきます。

    対抗できないというのは、無効になるということではありません。当事者の間では有効に権利が移っています。ただ、第三者との間で「どちらが優先するか」を決める場面において、登記のない側は自分の権利を持ち出せない、という意味です。

    したがって、第三者が現れなければ登記がなくても何も問題は起きません。問題が起きるのは、同じ不動産について複数の人が権利を主張する場面だけです。

    二重譲渡が成立してしまう理由

    意思主義を採ると、奇妙なことが起きます。AがBに不動産を売り、次に同じ不動産をCにも売ったとき、Aは最初の売買で所有権を失っているはずなのに、Cへの売買も有効に成立します。

    説明の仕方はいくつかありますが、宅建の学習としては、177条が対抗要件を要求している以上、登記が移るまでは前の物権変動が第三者に対して確定していない、と理解すれば足ります。BもCも所有権を主張でき、優劣は登記の先後で決まる。先に登記を備えたほうが確定的に所有権を取得し、他方は所有権を失います。

    ここで問われるのは契約の先後ではありません。Bが1年前に契約していても、Cが先に登記を備えればCの勝ちです。

    不動産登記には公信力がない

    もう1つ、対抗力と区別すべきものがあります。公信力です。

    対抗力は、登記を備えた者が第三者に優先するという効力です。公信力は、登記の記載を信じて取引した者が、記載が真実と違っていても保護されるという効力です。日本の不動産登記に公信力はありません。

    したがって、まったくの無権利者が何らかの理由で登記名義を得ていた場合、その名義を信じて買い受けた者は所有権を取得できません。登記を見ただけでは安全が確保されない、というのが日本の制度です。動産については178条が引渡しを対抗要件とし、公信力の代わりに即時取得(192条)という別の制度が用意されています。占有と即時取得は占有権と即時取得で扱っています。

    177条の「第三者」とは誰か

    判例が示した定義

    177条は「第三者」としか書いていません。文字どおりに読めば当事者以外の全員が入りますが、判例はこれを限定しています。

    大審院連合部判決明治41年12月15日は、177条の第三者を、当事者およびその包括承継人以外の者であって、登記の欠缺を主張する正当な利益を有する者と解しました。以後この定義が動いていません。

    2つの絞りが入っています。1つは当事者と包括承継人を外すこと。相続人は被相続人の地位をそのまま引き継ぐので、被相続人と取引した相手にとっては当事者と同じです。もう1つが「登記の欠缺を主張する正当な利益」で、こちらが実質的な判定基準になります。

    第三者にあたる典型

    正当な利益を有する者の典型は、同じ不動産について両立しない権利を取得した者です。

    二重譲渡の第二買主。その不動産に抵当権の設定を受けた者。地上権や賃借権の設定を受けた者。不動産を差し押さえた債権者。いずれも、登記が誰の名義かによって自分の権利の帰趨が変わるので、登記の欠缺を主張する正当な利益があります。

    賃借権が対抗要件を備えている場合の扱いは民法の賃貸借、借地の対抗要件は借地権の対抗要件で扱っています。

    債権者は差し押さえて初めて第三者になる

    判断が分かれるのが債権者の扱いです。売主に対して金銭債権を持っているだけの一般債権者は、その不動産について権利を取得していません。特定の不動産について優劣を争う立場にないので、登記の欠缺を主張する正当な利益がありません。

    これに対し、その不動産を差し押さえた債権者は違います。差押えによってその不動産から優先的に回収する地位を得ているので、登記が誰の名義かによって自分の地位が変わります。したがって差押債権者は177条の第三者にあたり、買主は登記を備えていなければ差押債権者に対抗できません。

    同じ「債権者」という語でも、差押えをしたかどうかで結論が変わります。選択肢が「Aの債権者C」とだけ書いているのか「甲土地を差し押さえた債権者C」と書いているのかを読み分ける必要があります。

    第三者にあたらない4つの類型

    逆に、正当な利益を欠くとされる類型が4つあります。ここが出題の中心です。

    第一に、不法占拠者です。何の権原もなく他人の不動産を占拠している者は、登記がどちらの名義かによって自分の地位が変わることがありません。したがって登記の欠缺を主張する正当な利益がなく、買主は登記がなくても明渡しを請求できます。

    第二に、実質的な無権利者です。前述のとおり登記に公信力がないので、無権利者から登記名義を得ても権利は移りません。権利を持たない者は、他人の登記の欠缺を主張する立場にありません。

    第三に、詐欺または強迫によって登記の申請を妨げた者です。不動産登記法5条1項は「詐欺又は強迫によって登記の申請を妨げた第三者は、その登記がないことを主張することができない」と定めています。自分で登記をさせなかった者が、登記がないことを利益として主張するのは筋が通らないからです。

    第四に、他人のために登記を申請する義務を負う者です。不動産登記法5条2項が、そのような第三者は登記がないことを主張することができないとしています。ただし同項ただし書は、その登記の登記原因が自己の登記の登記原因の後に生じたときはこの限りでないとしています。

    第三と第四が条文に根拠を持つ類型である点は、押さえておく価値があります。判例だけの話ではありません。

    背信的悪意者という例外

    単なる悪意者は第三者にあたる

    もっとも誤解されやすいのがここです。177条は第三者の主観について何も書いていません。したがって、先行する売買があることを知っていた者、すなわち悪意の第二買主も177条の第三者にあたります。

    先に買ったBがまだ登記をしていない間に、事情を知ったCがAから買い受けて登記を備えれば、Cが所有権を取得します。「知っていたのだからCが負ける」とはなりません。登記という外形で優劣を決める制度である以上、知っていたかどうかで結論を変えると制度の意味が失われるからです。

    背信的悪意者は第三者から外れる

    ただし、悪意の程度を超えて、登記がないことを主張することが信義に反すると認められる場合があります。判例はこれを背信的悪意者と呼び、177条の第三者から除外しています(最判昭和43年8月2日)。

    判断されるのは、単に知っていたかどうかではなく、その者が登記の欠缺を主張することが信義則に照らして許されるかどうかです。先行する買主を害する目的で買い受けた場合や、不当な利益を得る目的で介入した場合が、背信性が認められやすい類型として挙げられます。

    したがって、悪意者と背信的悪意者の間には明確な段差があります。「悪意だから対抗できる」は誤り、「背信的悪意だから対抗できる」は正しい、という区別です。

    背信的悪意者からの転得者

    背信的悪意者Cが登記を備えたあと、CからDが買い受けた場合はどうなるか。

    判例は、Dが背信的悪意者と評価されるのでない限り、Dは177条の第三者としてBに対して所有権の取得を主張できるとしています(最判平成8年10月29日)。背信性はあくまで当事者ごとに判断され、Cが背信的悪意者であることがDに引き継がれるわけではありません。

    この構成の意味は、背信的悪意者を「無権利者」ではなく「第三者から除外される者」と位置づけている点にあります。Cは無権利者ではないので、Cから買ったDは有効に権利を取得できます。あとはDとBの関係を、D自身の事情で判断するという整理です。

    「前」と「後」で処理が変わるという構造

    2つの段階を分ける

    ここからが本題です。取消し、解除、時効、相続の4場面では、第三者が登場した時点によって処理が変わります。

    第三者が登場したのが「前」の段階、すなわち取消しや解除がされる前、時効が完成する前であれば、その時点では所有権が戻る動きがまだ起きていません。第三者は、いったん有効に成立した権利関係を前提に取引に入っています。この場面を規律するのは177条ではなく、それぞれの制度に置かれた個別の保護規定です。

    第三者が登場したのが「後」の段階であれば、状況が変わります。取消しや解除によって所有権が元の所有者に戻る動きと、譲受人から第三者への移転が、同じ人を起点として重なります。これは二重譲渡と同じ形なので、177条の対抗問題として登記の先後で決まります。

    なぜ後は必ず177条になるのか

    「後」の場面を図にすると、いずれも同じ形になります。BのところからAへ戻る流れと、BからCへ移る流れが、Bを起点として枝分かれしている。時効の場合はAを起点として、時効による取得と売買による取得が枝分かれしている。

    起点が同じで、両立しない2つの権利変動がある。これが二重譲渡の構造です。だから177条が働き、登記を先に備えたほうが勝ちます。取消しの原因が詐欺か強迫かも、解除の理由も関係ありません。

    この理解があれば、「後」については覚えることが1つしかなくなります。覚える必要があるのは「前」の側だけです。

    取消しと登記

    取消し前の第三者

    取消しの原因ごとに扱いが違います。

    詐欺による取消しについては、民法96条3項が「前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない」と定めています。したがって、取消し前に登場した第三者が善意無過失であれば、取消しをした者はその第三者に対抗できません。

    ここは2020年4月1日施行の改正が入った箇所です。改正前は「善意の第三者」とだけ書かれており、無過失は要求されていませんでした。「善意であれば保護される」という記述は、現行法では不正確です。改正の全体像は民法改正のポイントで扱っています。

    強迫による取消しについては、これに対応する規定がありません。96条3項が詐欺のみを対象としているためです。したがって強迫による取消しは、取消し前の第三者に対して、その主観を問わず対抗できます。

    扱いが分かれる理由は、取消しをする側の帰責性にあります。詐欺は騙された本人にも不注意の余地がありますが、強迫された者に落ち度を求めるのは酷です。意思表示の各類型は意思表示で扱っています。

    取消原因ごとに第三者保護規定の有無が違う

    取消しの原因は詐欺と強迫だけではありません。錯誤と制限行為能力もあります。取消し前の第三者をどう扱うかは、それぞれに保護規定が置かれているかどうかで決まります。

    錯誤については、民法95条4項が、錯誤による意思表示の取消しは善意でかつ過失がない第三者に対抗することができないと定めています。詐欺と同じ要件です。この規定は2020年4月1日施行の改正で新設されました。改正前の錯誤は無効とされており、第三者保護の規定も置かれていませんでした。

    制限行為能力を理由とする取消しには、これに対応する規定がありません。したがって取消し前の第三者に対しても、その主観を問わず取消しを対抗できます。強迫と同じ扱いです。

    並べると、保護規定があるのが詐欺(96条3項)と錯誤(95条4項)で、いずれも善意無過失が要件。保護規定がないのが強迫と制限行為能力で、いずれも第三者の主観を問わず対抗できる。取消原因を4つ並べて、2対2に分かれると押さえておくと、どの原因が出ても処理できます。

    取消し後の第三者

    取消しがされた後に第三者が登場した場合は、原因を問わず177条の対抗問題になります。

    取消しによって所有権はAに戻りますが、その時点でBの登記名義が残っていれば、BからCへの譲渡も外形上は可能です。Aへの復帰とCへの譲渡がBを起点として重なるので、二重譲渡と同じ形になります。先に登記を備えたほうが優先します。

    したがって、詐欺取消しの場合であっても、取消し後の第三者に対しては96条3項の出番がありません。Aが取消し後に速やかに登記を戻していれば勝ち、放置している間にCが登記を備えれば負けます。

    解除と登記

    解除前の第三者

    民法545条1項は「当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に回復させる義務を負う。ただし、第三者の権利を害することはできない」と定めています。このただし書が、解除前の第三者を保護する規定です。

    条文は第三者の主観について何も書いていません。したがって善意でも悪意でも保護の対象になります。ただし判例は、保護されるためには権利保護要件として登記を備えていることを要するとしています(最判昭和33年6月14日)。

    まとめると、解除前の第三者は「善意悪意は問わないが登記は必要」です。詐欺取消し前の第三者が「善意無過失が必要」であるのと、要件の立て方がまったく違います。この2つを混ぜると答えが逆になります。解除に至る債務不履行の枠組みは債務不履行で扱っています。

    解除後の第三者

    解除後に登場した第三者との関係は、177条の対抗問題です(最判昭和35年11月29日)。

    解除によって所有権がAに復帰する流れと、BからCへの譲渡が、Bを起点として重なります。取消し後とまったく同じ構造なので、登記の先後で決まります。

    時効と登記

    完成前と完成後

    取得時効についても同じ枠が使えます。

    時効が完成する前に第三者が登場した場合、占有者は登記がなくてもその第三者に対抗できます(最判昭和41年11月22日)。時効が完成した時点の所有者はその第三者であり、占有者の時効取得はその第三者からの承継取得に類似する関係に立つからです。当事者の関係であって対抗関係ではないので、177条の出番がありません。

    時効が完成した後に第三者が登場した場合は、177条の対抗問題になります(大審院連合部判決大正14年7月8日)。元の所有者を起点として、時効による取得と売買による取得が重なるためです。

    起算点を動かせないこと

    この枠を知ると、占有者は起算点をずらして「完成前」に持ち込みたくなります。しかし判例は、時効の起算点は占有を開始した時点に固定され、占有者が任意に選択することはできないとしています(最判昭和35年7月27日)。

    ただし、時効完成後に第三者が登記を備えた場合であっても、その登記の時から占有者がさらに時効期間占有を継続すれば、新たな取得時効が完成し、その第三者に対して登記なくして対抗できます(最判昭和36年7月20日)。二度目の時効から見れば、その第三者は「完成前の第三者」の位置に立つからです。時効制度そのものは時効で詳しく扱っています。

    相続と登記

    相続人は第三者にあたらない

    AがBに不動産を売り、登記が移らないうちにAが死亡してCが相続した場合、CはAの包括承継人です。177条の定義から外れるので、Bは登記がなくてもCに対して所有権を主張できます。

    相続人は被相続人の地位をそのまま引き継ぐのであって、新たに権利を取得した第三者ではありません。ここは定義に戻れば導けます。

    共同相続人の一人が勝手に登記した場合

    Aが死亡してBとCが共同相続したのに、Bが単独名義の登記をしてDに全部を売却した場合はどうなるか。

    判例は、Bの登記はCの持分に関する限り無権利の登記であり、登記に公信力がない以上、Dも Cの持分について権利を取得する理由がないとして、Cは自己の持分を登記なくしてDに対抗できるとしています(最判昭和38年2月22日)。

    ここは177条の対抗問題ではありません。Cの持分についてDは無権利者であり、前に見た「第三者にあたらない類型」の話です。Bの持分については有効に取得できるので、Dは持分を取得した共有者の立場に立ちます。共有の法律関係は共有で扱っています。

    899条の2による対抗要件主義

    相続で問題になるのは、法定相続分を超えて権利を取得した場合です。

    民法899条の2第1項は、相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、900条および901条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記その他の対抗要件を備えなければ第三者に対抗することができないと定めています。

    裏返すと、法定相続分までの部分は登記がなくても対抗できます。相続は当事者の意思によらずに生じるものなので、法定相続分の範囲では登記を要求しないという整理です。

    この規定は2019年7月1日施行の改正で新設されました。それ以前は、特定の財産を相続させる旨の遺言によって取得した場合には登記が不要とされていました。判例の立場を変更した改正なので、古い教材では結論が逆になっていることがあります。「相続させる旨の遺言で取得した不動産は登記なしで第三者に対抗できる」という記述は、現在では誤りです。相続の全体像は相続で扱っています。

    遺産分割の前と後

    遺産分割についても前後の枠が使えます。

    民法909条は、遺産の分割は相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずるとしたうえで、ただし書で第三者の権利を害することはできないとしています。したがって遺産分割前に相続人の持分を譲り受けた第三者は、遡及効によって権利を奪われません。

    遺産分割後に持分が譲渡された場合は、899条の2により、法定相続分を超える部分について登記がなければ対抗できません。遺産分割の手続は遺産分割で扱っています。

    遺贈は相続による承継ではない

    遺贈によって不動産を取得した場合は、899条の2の「相続による権利の承継」にあたりません。遺贈は従来どおり177条の対抗問題として処理され、受遺者は登記がなければ第三者に対抗できません。

    相続人が法定相続分の登記をして持分を第三者に譲渡した場合、受遺者とその第三者は対抗関係に立ち、登記の先後で決まります。

    登記が問題にならない場面

    中間省略登記

    AからB、BからCへと順次譲渡されたのに、Bの登記を経ずにAから直接Cへ移転登記をすることを中間省略登記といいます。

    すでにされた中間省略登記は、現在の権利関係と登記が合致している以上、有効とされています。ただし、Cが当然にAに対して中間省略登記を請求できるわけではありません。現在の不動産登記法では登記原因証明情報の提出が求められるため、実体と異なる登記原因での申請は通りません。登記の手続的な仕組みは不動産登記の基礎で扱っています。

    仮登記

    仮登記は、本登記の要件が整っていない段階で、将来の本登記の順位を保全するためにする登記です。

    仮登記そのものには対抗力がありません。仮登記のままでは第三者に権利を主張できません。ただし仮登記に基づいて本登記をすると、その順位は仮登記の順位によることになります。この順位保全の効力が仮登記の存在意義です。詳細は仮登記と本登記で扱っています。

    動産と不動産の違い

    不動産の対抗要件が登記であるのに対し、動産の対抗要件は引渡しです(178条)。

    公示の方法が違うだけでなく、制度の作りも違います。動産には即時取得(192条)があり、取引の相手方が無権利者であっても、平穏かつ公然と善意無過失で占有を始めた者は権利を取得します。不動産にこれに相当する制度はありません。だから登記名義を信じただけでは保護されない、という結論になります。

    試験での出題ポイント

    「当事者間でも対抗できない」と書き換える

    もっとも基本的なひっかけが、177条の効果を当事者間に及ぼす形です。「登記がなければ売主に対しても所有権を主張できない」という趣旨の記述は誤りです。176条により当事者間では所有権が移っており、177条が働くのは第三者との関係だけです。

    同じ発想で、「登記をしなければ所有権を取得できない」という記述も誤りになります。登記は効力要件ではありません。

    悪意と背信的悪意をすり替える

    第三者の主観を扱う選択肢では、悪意と背信的悪意が入れ替えられます。「第二買主が先行する売買を知っていた場合、第一買主は登記なくして対抗できる」という記述は誤りです。単なる悪意者は177条の第三者にあたります。

    逆に、背信的悪意者について「悪意にすぎないから第三者にあたる」とする記述も誤りです。信義に反すると認められる事情があれば除外されます(最判昭和43年8月2日)。

    転得者の扱いも狙われます。背信的悪意者からの転得者は、その転得者自身が背信的悪意者と評価されるのでない限り、177条の第三者として保護されます(最判平成8年10月29日)。「背信的悪意者からの転得者は常に保護されない」という記述は誤りです。

    前の第三者の要件を混ぜる

    4場面のうち「前」の要件が、それぞれ違う形で書かれます。

    詐欺取消し前の第三者は善意無過失が必要(96条3項)。強迫取消し前の第三者は保護規定がないので取消しを対抗できる。解除前の第三者は善意悪意を問わないが登記が必要(545条1項ただし書、最判昭和33年6月14日)。時効完成前の第三者に対しては占有者が登記なくして対抗できる(最判昭和41年11月22日)。

    出題は、これらの要件を隣の場面に付け替えて作られます。「解除前の第三者は善意でなければ保護されない」「詐欺取消し前の第三者は登記があれば保護される」といった形です。場面と要件の組み合わせで覚える必要があります。

    相続の場面は改正前の結論で作られる

    相続と登記は、改正前の判例で解ける形の選択肢が出ることがあります。「特定の不動産を相続させる旨の遺言によって取得した相続人は、登記がなくても第三者に対抗できる」という記述は、2019年7月1日施行の899条の2により、現在では誤りです。

    一方、共同相続人の一人が単独名義の登記をして譲渡した場合に、他の相続人が自己の持分を登記なくして対抗できること(最判昭和38年2月22日)は、改正後も変わりません。899条の2が扱うのは法定相続分を超える部分であり、この事案は法定相続分の範囲内の話だからです。この2つを混同させる出題があります。

    公信力と対抗力を入れ替える

    「登記を信じて取引した者は保護される」という趣旨の記述は誤りです。日本の不動産登記に公信力はありません。対抗力があることと、公信力があることは別です。

    覚え方・整理の仕方

    覚えるのは「前」だけ

    この分野でもっとも効率がよいのは、「後」を1つのルールに畳んでしまうことです。

    取消し後、解除後、時効完成後、遺産分割後。いずれも二重譲渡類似の状態なので177条で処理し、登記の先後で決まります。例外はありません。ここに個別の記憶は要りません。

    そのうえで、「前」の4つだけを場面と要件のペアで覚えます。

    • 詐欺取消し前は、第三者の善意無過失(96条3項)
    • 強迫取消し前は、保護規定がないので取消しを対抗できる
    • 解除前は、善意悪意を問わず登記が必要(545条1項ただし書)
    • 時効完成前は、占有者が登記なくして対抗できる

    覚える対象が4つに減ります。

    「前は個別、後は177条」を一言で持つ

    なぜ前と後で分かれるのかを一言にすると、「前はまだ戻る動きが起きていない、後は戻る動きと出ていく動きが重なる」です。

    戻る動きが起きていない段階では、第三者は有効な権利関係を前提にしているので、その信頼をどこまで保護するかという個別の政策判断になります。だから制度ごとに要件が違います。戻る動きが起きた後は、同じ起点から2つの権利変動が枝分かれするので、形が二重譲渡と同じになります。だから177条に一本化されます。

    第三者にあたらない類型は4つで固定する

    177条の第三者から外れるのは、不法占拠者、実質的無権利者、詐欺または強迫によって登記の申請を妨げた者(不動産登記法5条1項)、他人のために登記を申請する義務を負う者(同条2項)です。これに判例上の背信的悪意者が加わります。

    第三者にあたる者を列挙すると際限がないので、外れる側を固定して、それ以外は第三者にあたると判断する。この向きで持つほうが実戦的です。

    悪意は「知っているだけ」と読み替える

    悪意という言葉が悪い印象を持つので、感覚で判断すると誤ります。民法の悪意は「知っている」という意味しかありません。知っているだけの者は177条の第三者です。

    そこに「先行する買主を害する目的」のような事情が加わって初めて、背信的悪意者として除外されます。悪意という語を見たら「知っているだけ」と読み替える習慣をつけると、判断がぶれません。

    相続は「法定相続分までは登記不要」を軸にする

    相続と登記は、899条の2の「法定相続分を超える部分」という線で切ります。

    法定相続分までは登記不要。超える部分は登記が必要。遺贈は相続による承継ではないので、そもそも177条で処理する。この3行を持てば、遺産分割、相続分の指定、相続させる旨の遺言のいずれの場面でも判断できます。

    理解度チェッククイズ

    Q1. AがBに甲土地を売却したが、所有権移転登記をしていない。この場合、BはAに対しても甲土地の所有権を主張することができない。

    答えを見る 誤り。民法176条により、物権の設定および移転は当事者の意思表示のみによって効力を生じます。したがってBは登記がなくても所有権を取得しており、当事者であるAに対して所有権を主張できます。177条が働くのは第三者との関係だけで、登記は効力要件ではなく対抗要件です。

    Q2. AがBに甲土地を売却した後、その事実を知っているCに対して同じ甲土地を売却し、Cが所有権移転登記を備えた。Cは悪意であるから、Bは登記がなくてもCに対して所有権を主張できる。

    答えを見る 誤り。177条は第三者の主観について何も定めておらず、単に先行する売買を知っているだけの悪意者も177条の第三者にあたります。したがってBは登記を備えていなければCに対抗できません。Cが背信的悪意者、すなわち登記の欠缺を主張することが信義に反すると認められる場合に限り、177条の第三者から除外されます(最判昭和43年8月2日)。

    Q3. AがBに甲土地を売却し、Bが登記を備えた後、AがBの債務不履行を理由に契約を解除した。解除前にBから甲土地を買い受けて登記を備えていたCは、悪意であっても保護される。

    答えを見る 正しい。民法545条1項ただし書は、解除による原状回復が第三者の権利を害することはできないと定めており、条文は第三者の主観を要件としていません。したがって善意悪意を問わず保護の対象になります。ただし判例は、保護されるためには権利保護要件として登記を備えていることを要するとしています(最判昭和33年6月14日)。設問のCは登記を備えているので保護されます。

    Q4. Bの甲土地に対する取得時効が完成した後に、所有者AがCに甲土地を売却して登記を移転した。この場合、Bは登記がなくてもCに対して時効取得を主張できる。

    答えを見る 誤り。時効完成後に登場した第三者との関係は177条の対抗問題になり、登記の先後で決まります(大審院連合部判決大正14年7月8日)。Aを起点として、時効による取得と売買による取得が二重譲渡類似の関係に立つためです。時効完成前に登場した第三者に対しては登記なくして対抗できる(最判昭和41年11月22日)のと結論が逆になります。なお、Cの登記の時からさらに時効期間占有を継続すれば、新たな取得時効により登記なくして対抗できます(最判昭和36年7月20日)。

    Q5. Aが「甲土地をBに相続させる」旨の遺言を残して死亡し、相続人はBとCの2名で法定相続分は各2分の1であった。Bは登記がなくても、甲土地の全部について第三者に対抗することができる。

    答えを見る 誤り。民法899条の2第1項は、相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、法定相続分を超える部分については登記その他の対抗要件を備えなければ第三者に対抗することができないと定めています。Bは法定相続分である2分の1までは登記なしで対抗できますが、これを超える部分については登記が必要です。この規定は2019年7月1日施行の改正で新設されたもので、それ以前は相続させる旨の遺言による取得に登記は不要とされていました。

    まとめ

    物権変動と対抗要件について、押さえるべき点を整理します。

    物権は当事者の意思表示のみによって移転します(176条)。登記は効力要件ではなく、第三者に対抗するための要件です(177条)。当事者の間では登記がなくても権利が移っており、登記が問題になるのは第三者が現れた場面だけです。日本の不動産登記に公信力はないので、登記名義を信じただけでは保護されません。

    177条の第三者は、当事者およびその包括承継人以外の者で、登記の欠缺を主張する正当な利益を有する者です(大審院連合部判決明治41年12月15日)。不法占拠者、実質的無権利者、詐欺または強迫によって登記の申請を妨げた者(不動産登記法5条1項)、他人のために登記を申請する義務を負う者(同条2項)はこれにあたりません。単なる悪意者はあたりますが、背信的悪意者はあたりません(最判昭和43年8月2日)。背信的悪意者からの転得者は、自身が背信的悪意者と評価されない限り保護されます(最判平成8年10月29日)。

    取消し、解除、時効、相続の4場面では、第三者が登場したのが前か後かで処理が変わります。後はいずれも二重譲渡類似の状態なので177条により登記の先後で決まり、覚えるべきは前の側だけです。詐欺取消し前は第三者の善意無過失(96条3項)、強迫取消し前は保護規定がないので対抗できる、解除前は善意悪意を問わず登記が必要(545条1項ただし書、最判昭和33年6月14日)、時効完成前は占有者が登記なくして対抗できる(最判昭和41年11月22日)。

    相続については、899条の2により法定相続分を超える部分に対抗要件が必要です。2019年7月1日施行の改正で新設された規定で、相続させる旨の遺言による取得に登記を不要としていた従来の扱いが変更されています。一方、共同相続人の一人による単独名義の登記は他の相続人の持分について無権利の登記であり、その持分は登記なくして対抗できます(最判昭和38年2月22日)。頻出論点の全体像は権利関係の頻出論点で扱っています。

    宅建試験AIブートラボの肢別トレーニングでは、権利関係の物権変動と対抗要件の肢を論点別に演習できます。取消し・解除・時効・相続のどの場面で、前か後かを見分けながら進めてください。

    読んだ内容を、権利関係の肢で確かめる

    民法・借地借家法・区分所有法など、条文だけでは判断しづらい論点は、過去問の肢で覚えるのが最短です。

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