配偶者居住権|住む場所と生活費を両立させる
配偶者居住権は登記しなければ対抗できません(1031条)。引渡しで足りる建物賃借権との違い、配偶者短期居住権との三つの分かれ目を1028条から1041条の条文で整理します。
目次
この記事は、配偶者居住権(1028条以下)と配偶者短期居住権(1037条以下)を扱います。相続人の範囲や法定相続分は相続に、遺産分割の手続は遺産分割協議に、相続財産が不動産である場合の全体像は相続した不動産の基礎にあります。ここでは、この二つの権利そのものを条文で読みます。
先に結論を述べます。配偶者居住権は、一つの立法目的から要件が全部導ける制度です。
目的は、住む場所と生活費を両立させることです。従来は、配偶者が自宅の所有権を相続すると、その評価額が高いために預貯金をほとんど取得できませんでした。住む家はあるが生活費がない、という事態です。そこで、所有権より評価額の低い「居住だけの権利」を作りました。所有権を子に、居住権を配偶者に振り分ければ、配偶者は住居と現金の両方を確保できます。
この目的から、条文の要件が順に出てきます。居住のためのものだから、譲渡できない(1032条2項)。その配偶者のためのものだから、原則として終身(1030条)で、配偶者が死ねば終わる(1036条・597条3項)。遺産分割で価額を割り振るための制度だから、当然には発生せず、遺産分割か遺贈で取得する(1028条1項)。
そして、宅建試験で最も狙われるのが対抗要件です。建物賃借権は借地借家法31条により引渡しがあれば対抗できますが、配偶者居住権にはその準用がなく、605条だけが準用されています(1031条2項)。住み続けているだけでは足りず、登記が必要です。
さらに、名前のよく似た配偶者短期居住権が別の制度として置かれています。当然に発生するか/登記できるか/期間という三つの軸で分かれます。
以下、条文の順に見ていきます。なお本記事は2026年4月1日時点で施行されている条文に基づきます。宅建試験は当該年度の4月1日現在施行の法令から出題されるためです。民法は令和8年法律第45号により2026年6月24日にも改正が施行されていますが、本則の条文に変更はなく、ここで扱う1028条から1041条までの文言はすべて同一です。
なぜこの制度が作られたのか
要件の暗記に入る前に、立法の理由を押さえます。ここを飛ばすと、条文が意味不明な列挙に見えます。
従来の遺産分割で起きていたこと
相続人が配偶者と子1人の場合、900条1号により法定相続分は各2分の1です。
相続財産が自宅(評価額2,000万円)と預貯金(2,000万円)の合計4,000万円であれば、それぞれ2,000万円ずつということになります。
ここで配偶者が住み慣れた自宅に住み続けたいと考えると、自宅の所有権2,000万円を取得した時点で法定相続分を使い切ってしまい、預貯金は一円も取得できません。住む場所は確保できても、生活していく現金がない。これが解決すべき問題でした。
所有権を「住む権利」と「持つ権利」に割る
配偶者居住権は、この行き詰まりを、建物の権利を二つに割ることで解きます。
住み続ける権利を配偶者が取り、所有する権利(配偶者居住権の負担が付いた所有権)を子が取る。所有権の全体が2,000万円だったとして、居住権が1,000万円、負担付所有権が1,000万円と評価されたとします。
すると配偶者は、居住権1,000万円に加えて預貯金1,000万円を取得できます。住む場所と生活費の両方が手に入る。これが制度の眼目です。
評価額が低くなる理由
配偶者居住権の評価が所有権より低くなるのは、権利の中身が薄いからです。
売ることができません(1032条2項)。所有者の承諾なしに増改築したり他人に貸したりできません(同3項)。そして配偶者が死ねば終わります(1036条・597条3項)。処分できず、期限があり、他人に移せない。だから所有権より安く評価されます。
制度の目的が「評価額を下げること」にあるので、権利を弱く作ることが目的にかなっている。この関係を理解しておくと、以下の制限規定がすべて筋の通ったものとして読めます。
903条4項との組み合わせ
もう一つ、目的を後押しする規定があります。1028条3項が903条4項を準用しています。
903条1項は特別受益の持戻しを定めており、遺贈を受けた相続人はその分だけ相続分から差し引かれます。ところが4項は「婚姻期間が二十年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について第一項の規定を適用しない旨の意思を表示したものと推定する」と定めています。
1028条3項がこれを配偶者居住権の遺贈に準用しているので、婚姻期間20年以上の夫婦であれば、配偶者居住権の遺贈は持戻しの対象外と推定されます。配偶者居住権の分だけ他の財産の取り分が減る、ということにならないわけです。住居と生活費の両立という目的が、ここでも貫かれています。特別受益と相続分の関係は相続で扱っています。
1028条 取得の要件
条文を読みます。
1項の全文
「被相続人の配偶者(以下この章において単に「配偶者」という。)は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していた場合において、次の各号のいずれかに該当するときは、その居住していた建物(以下この節において「居住建物」という。)の全部について無償で使用及び収益をする権利(以下この章において「配偶者居住権」という。)を取得する。ただし、被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合にあっては、この限りでない。一 遺産の分割によって配偶者居住権を取得するものとされたとき。二 配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき。」
要件を四つに分解する
第一に、被相続人の配偶者であること。民法上の配偶者、すなわち法律上の婚姻関係にある者に限られます。内縁の配偶者は含まれません。条文が「被相続人の配偶者」としており、民法が「配偶者」という語を法律上の婚姻の当事者について使っているからです。
第二に、被相続人の財産に属した建物であること。被相続人が所有していた建物です。被相続人が借りていた建物には成立しません。
第三に、相続開始の時に居住していたこと。現に住んでいたことが必要です。以前住んでいたが今は別居している、という場合は要件を満たしません。
第四に、遺産分割または遺贈によって取得したこと。1号と2号です。当然には発生しません。この点が後述する配偶者短期居住権との最大の違いです。
ただし書 配偶者以外の者との共有
ただし書は「被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合にあっては、この限りでない」としています。
被相続人が第三者と共有していた建物には、配偶者居住権は成立しません。共有者である第三者は相続に関与していないのに、自分の持分に配偶者居住権という負担を負わされることになってしまうからです。
読み方に注意してください。除外されるのは「配偶者以外の者と共有していた場合」です。したがって、被相続人と配偶者の二人で共有していた場合は除外されません。共有者は相続の当事者である配偶者自身なので、不当な負担を負う第三者がいないからです。共有の一般論は共有で扱っています。
2項 配偶者が所有権を取得しても消滅しない
2項は「居住建物が配偶者の財産に属することとなった場合であっても、他の者がその共有持分を有するときは、配偶者居住権は、消滅しない。」と定めています。
配偶者が居住建物の所有権(または持分)を取得すると、通常であれば自分の権利が自分の所有物の上に乗っている状態になり、混同によって消滅しそうです。しかし他の者が共有持分を持っている場合には消滅しない、というのがこの規定です。
理由は、消滅させると配偶者が不利になるからです。共有者が他にいる以上、配偶者は建物を自由に使えるとは限りません。配偶者居住権を残しておけば、共有者に対して居住を主張できます。配偶者を保護するための規定です。
「建物の全部」「無償で」
1項の効果部分も精密に読んでください。「その居住していた建物の全部について」です。
たとえ配偶者が建物の一部だけを使っていたとしても、配偶者居住権は建物全体に及びます。この点は、一部だけを使っていた場合にその部分についてしか成立しない配偶者短期居住権(1037条1項括弧書き)と正反対です。
そして「無償で使用及び収益をする権利」です。賃料を払う必要はなく、使用だけでなく収益もできます。所有者の承諾を得れば第三者に賃貸して賃料を得ることもできます(1032条3項の反対解釈)。使用しかできない配偶者短期居住権との違いがここにあります。
死因贈与による取得
1項が列挙しているのは遺産分割(1号)と遺贈(2号)の二つです。死因贈与は条文に書かれていません。
もっとも、554条が「贈与者の死亡によって効力を生ずる贈与については、その性質に反しない限り、遺贈に関する規定を準用する」と定めているため、死因贈与によっても取得できると解されています。まずは条文が挙げる二つを押さえたうえで、死因贈与は554条を経由するものだと整理してください。
1029条・1030条 審判による取得と存続期間
取得の経路のうち審判による場合には追加の要件があり、取得した後の期間にも原則が定められています。どちらも短い規定ですが、書き換えて出題できる箇所です。
審判で設定できるのは二つの場合に限られる
1029条は「遺産の分割の請求を受けた家庭裁判所は、次に掲げる場合に限り、配偶者が配偶者居住権を取得する旨を定めることができる」として、二つを挙げます。
1号は「共同相続人間に配偶者が配偶者居住権を取得することについて合意が成立しているとき」です。全員が合意しているなら問題はありません。
2号は「配偶者が家庭裁判所に対して配偶者居住権の取得を希望する旨を申し出た場合において、居住建物の所有者の受ける不利益の程度を考慮してもなお配偶者の生活を維持するために特に必要があると認めるとき」です。
2号のハードルは高い
2号は、他の相続人が反対していても審判で設定できる場面です。だからこそ要件が厳しく作られています。
「居住建物の所有者の受ける不利益の程度を考慮してもなお」という衡量が要求され、そのうえで「配偶者の生活を維持するために特に必要があると認めるとき」でなければなりません。「必要」ではなく「特に必要」です。
配偶者居住権は所有者に長期の負担を課す権利なので、反対を押し切って設定するには相応の理由が要る、という趣旨です。「家庭裁判所は、配偶者が希望すれば常に配偶者居住権を認めることができる」という肢は誤りです。
存続期間の原則と例外
1030条は「配偶者居住権の存続期間は、配偶者の終身の間とする。ただし、遺産の分割の協議若しくは遺言に別段の定めがあるとき、又は家庭裁判所が遺産の分割の審判において別段の定めをしたときは、その定めるところによる。」と定めています。
原則は終身です。期間を定めなければ、配偶者が死ぬまで続きます。
別段の定めができるのは三つの場面です。遺産分割の協議、遺言、家庭裁判所の遺産分割の審判。「10年間」といった期間を定めることができます。
定めた期間は延ばせない
条文に更新や延長の規定は置かれていません。いったん期間を定めれば、その満了で配偶者居住権は終わります。
これは借地借家法が更新の仕組みを詳細に定めているのと対照的です。建物賃貸借であれば26条の法定更新がありますが、配偶者居住権にはそうした規定がありません。借地借家法の更新の仕組みは借地借家法の全体像で扱っています。
終身を超えることはできない
期間を定める場合、終身より長くすることに意味はありません。1036条が597条3項を準用しており、「使用貸借は、借主の死亡によって終了する」という規定が配偶者居住権に及ぶからです。
配偶者が死亡すれば、期間の定めがあってもそこで終わります。したがって終身が事実上の上限です。この点は、次に見る「相続されない」という帰結と同じ条文から出てきます。
1031条 登記しなければ対抗できない
ここがこの分野の最重要論点です。
所有者に登記義務がある
1031条1項は「居住建物の所有者は、配偶者に対し、配偶者居住権の設定の登記を備えさせる義務を負う。」と定めています。
配偶者が単独で登記を申請できるのではなく、所有者が登記に協力する義務を負うという建て付けです。所有者が応じなければ、配偶者は義務の履行を求めることになります。
2項が準用しているのは605条
2項は「第六百五条の規定は配偶者居住権について、第六百五条の四の規定は配偶者居住権の設定の登記を備えた場合について準用する。」と定めています。
605条は「不動産の賃貸借は、これを登記したときは、その不動産について物権を取得した者その他の第三者に対抗することができる」という規定です。これが準用される結果、配偶者居住権は登記が対抗要件になります。
605条の4は、対抗要件を備えた不動産賃借人による妨害の停止の請求と返還の請求を認める規定です。これも準用されるので、登記を備えた配偶者は、建物の占有を妨害する第三者に対して妨害の停止を、建物を占有する第三者に対して返還を請求できます。
引渡しでは対抗できない
準用されていないものに注目してください。借地借家法31条が準用されていません。
借地借家法31条は「建物の賃貸借は、その登記がなくても、建物の引渡しがあったときは、その後その建物について物権を取得した者に対し、その効力を生ずる」と定めています。建物賃借権は引渡しだけで対抗できます。
配偶者居住権にはこの規定の準用がありません。したがって、実際に住み続けているだけでは第三者に対抗できず、登記が必要です。
「配偶者は、居住建物の引渡しを受けていれば配偶者居住権を第三者に対抗できる」という肢は誤りです。建物賃借権のルールを持ち込ませる、この分野で最も典型的な引っかけです。だからこそ1031条1項が所有者に登記義務を課しているのだ、と理解してください。賃借権の対抗要件は民法の賃貸借で扱っています。
不動産登記法上の扱い
配偶者居住権は不動産登記法上の登記事項です。不動産登記法3条は登記することができる権利を十個列挙しており、9号が配偶者居住権です(所有権、地上権、永小作権、地役権、先取特権、質権、抵当権、賃借権、配偶者居住権、採石権)。
登記事項は不動産登記法81条の2が定めており、59条各号のもののほか、1号として存続期間、2号として第三者に居住建物の使用または収益をさせることを許す旨の定めがあるときはその定めが記録されます。
そして配偶者居住権は建物についての権利なので、土地には登記できません。建物の権利部乙区に登記されます。登記記録の読み方は不動産登記で扱っています。
1032条から1034条 使えるが、動かせない
取得した後の配偶者の権利義務です。「使える範囲は広いが、権利を動かすことはできない」という方向で統一されています。
1032条1項 用法遵守義務と善管注意義務
「配偶者は、従前の用法に従い、善良な管理者の注意をもって、居住建物の使用及び収益をしなければならない。ただし、従前居住の用に供していなかった部分について、これを居住の用に供することを妨げない。」
原則として、それまでの使い方を守る必要があります。ただし書に注意してください。居住用でなかった部分を居住用にすることは妨げられません。店舗として使っていた部分を住居にする、といった変更は許されます。制度の目的が居住の確保にある以上、居住の方向への変更は制限しないという趣旨です。
1032条2項 譲渡できない
「配偶者居住権は、譲渡することができない。」
一文だけの規定ですが、この制度の性格を決めています。配偶者本人の居住を守るための権利なので、換金手段にはできません。
「配偶者は配偶者居住権を第三者に譲渡して対価を得ることができる」という肢は誤りです。
1032条3項 承諾が要る二つの行為
「配偶者は、居住建物の所有者の承諾を得なければ、居住建物の改築若しくは増築をし、又は第三者に居住建物の使用若しくは収益をさせることができない。」
承諾が必要なのは、増改築と、第三者に使用・収益させることの二つです。
裏を返せば、所有者の承諾があれば第三者に賃貸できます。配偶者居住権が「使用及び収益」の権利である(1028条1項)ことの現れです。譲渡は承諾があってもできない(2項)が、賃貸は承諾があればできる(3項)。この差を押さえてください。
1032条4項 消滅請求には催告が必要
「配偶者が第一項又は前項の規定に違反した場合において、居住建物の所有者が相当の期間を定めてその是正の催告をし、その期間内に是正がされないときは、居住建物の所有者は、当該配偶者に対する意思表示によって配偶者居住権を消滅させることができる。」
違反があれば直ちに消滅するのではありません。相当の期間を定めた催告をし、その期間内に是正がなかったことが必要です。そのうえで、配偶者に対する意思表示によって消滅させます。裁判は要りません。
「用法違反があれば配偶者居住権は当然に消滅する」という肢は誤りです。催告という手順が条文に書かれています。
1033条 修繕
1項は「配偶者は、居住建物の使用及び収益に必要な修繕をすることができる」と定めています。配偶者は自分で修繕できます。
2項は「居住建物の修繕が必要である場合において、配偶者が相当の期間内に必要な修繕をしないときは、居住建物の所有者は、その修繕をすることができる」としています。配偶者が先で、所有者が後という順序です。
3項は通知義務です。「居住建物が修繕を要するとき(第一項の規定により配偶者が自らその修繕をするときを除く。)、又は居住建物について権利を主張する者があるときは、配偶者は、居住建物の所有者に対し、遅滞なくその旨を通知しなければならない。ただし、居住建物の所有者が既にこれを知っているときは、この限りでない。」
1034条 費用の負担
1項は「配偶者は、居住建物の通常の必要費を負担する」と定めています。日常的な修繕費や、建物の固定資産税といった通常の維持費用は配偶者の負担です。
2項は「第五百八十三条第二項の規定は、前項の通常の必要費以外の費用について準用する」としています。583条2項は196条に従った費用の償還を定めた規定で、有益費について裁判所が相当の期限を許与できるとしています。通常の必要費以外は、最終的に所有者の負担という整理です。
「通常の必要費は所有者が負担する」という肢は誤りです。無償で使わせてもらっている以上、日常的な費用は使っている側が持つ、という配分になっています。
1035条・1036条 終わり方
1035条 返還義務とその例外
1項は「配偶者は、配偶者居住権が消滅したときは、居住建物の返還をしなければならない」としつつ、ただし書で「配偶者が居住建物について共有持分を有する場合は、居住建物の所有者は、配偶者居住権が消滅したことを理由としては、居住建物の返還を求めることができない。」と定めています。
配偶者が共有持分を持っているなら、共有者として建物を使用する権原があります。配偶者居住権が消滅したことだけを理由に出ていけとは言えません。
2項は、配偶者が相続開始後に附属させた物や生じた損傷について、599条1項・2項(収去義務・収去権)と621条(原状回復義務)を準用しています。
1036条 準用されている四つ
1036条は「第五百九十七条第一項及び第三項、第六百条、第六百十三条並びに第六百十六条の二の規定は、配偶者居住権について準用する」と定めています。
597条1項は「当事者が使用貸借の期間を定めたときは、使用貸借は、その期間が満了することによって終了する」。期間を定めた場合の満了による終了です。
597条3項は「使用貸借は、借主の死亡によって終了する。」これが最も重要です。配偶者が死亡すれば配偶者居住権は終了します。
600条は損害賠償と費用償還の請求について、貸主が返還を受けた時から1年という期間制限を定めた規定です。
613条は転貸の効果に関する規定で、1032条3項の承諾を得て第三者に使用収益させた場合の関係を処理します。
616条の2は「賃借物の全部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合には、賃貸借は、これによって終了する」。建物が滅失すれば配偶者居住権も終了します。
相続されない理由は597条3項にある
配偶者居住権は相続の対象になりません。配偶者が死亡すれば消滅し、所有者は負担のない完全な所有権を回復します。
根拠は1036条による597条3項の準用です。「一身専属権だから」という説明もされますが、条文上の根拠は597条3項の準用にあると押さえておくほうが確実です。
消滅事由を並べる
以上を整理すると、配偶者居住権が消滅するのは次の場合です。
存続期間の満了(1030条ただし書で期間を定めた場合。1036条・597条1項)。配偶者の死亡(1036条・597条3項)。居住建物の全部滅失(1036条・616条の2)。所有者による消滅請求(1032条4項。催告が前提)。そして当事者の合意による消滅です。
なお、配偶者が居住建物の所有権を取得した場合でも、他の者が共有持分を有するときは消滅しません(1028条2項)。
配偶者短期居住権は別の制度である
1037条から1041条までが、名前のよく似た別の権利を定めています。混同させる出題が繰り返されるので、条文を分けて読んでください。
1037条1項 当然に発生する
「配偶者は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に無償で居住していた場合には、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める日までの間、その居住していた建物の所有権を相続又は遺贈により取得した者(以下この節において「居住建物取得者」という。)に対し、居住建物について無償で使用する権利(居住建物の一部のみを無償で使用していた場合にあっては、その部分について無償で使用する権利)を有する。」
遺産分割も遺贈も要りません。要件を満たせば相続開始によって当然に発生します。ここが1028条との最大の違いです。
そして効果は「使用する権利」です。収益は含まれません。第三者に賃貸して賃料を得ることはできません。1028条が「使用及び収益」としているのと書き分けられています。
さらに、一部のみを使用していた場合はその部分についての権利です。1028条が「建物の全部について」としているのと正反対です。
1037条1項ただし書 発生しない場合
「ただし、配偶者が、相続開始の時において居住建物に係る配偶者居住権を取得したとき、又は第八百九十一条の規定に該当し若しくは廃除によってその相続権を失ったときは、この限りでない。」
遺贈によって相続開始時に配偶者居住権を取得している場合は、短期居住権を認める必要がありません。より強い権利があるからです。
891条の相続欠格に該当する場合や、廃除によって相続権を失った場合も発生しません。相続人としての資格を失った者を保護する理由がないからです。
二つの存続期間
1項各号が期間を定めています。場合分けの基準は、居住建物が遺産分割の対象になるかどうかです。
1号は「居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産の分割をすべき場合」で、期間は「遺産の分割により居住建物の帰属が確定した日又は相続開始の時から六箇月を経過する日のいずれか遅い日」です。
いずれか遅い日である点に注意してください。遺産分割が3か月で終わっても、相続開始から6か月は居住が保障されます。逆に遺産分割が1年かかれば、その確定日まで保障されます。引っ越し先を探す時間を確保するという趣旨です。
2号は「前号に掲げる場合以外の場合」で、期間は「第三項の申入れの日から六箇月を経過する日」です。居住建物が遺贈された場合など、遺産分割の対象にならない場合がこれに当たります。
1037条2項・3項
2項は「居住建物取得者は、第三者に対する居住建物の譲渡その他の方法により配偶者の居住建物の使用を妨げてはならない」と定めています。短期居住権には対抗力がないので、建物を第三者に売られてしまえば配偶者は使用を続けられません。そこで、そうした妨害行為を禁じる義務を取得者に課しています。
義務を課すという形で保護しているのであって、第三者に対抗できるようにしているのではありません。この違いが重要です。
3項は「居住建物取得者は、第一項第一号に掲げる場合を除くほか、いつでも配偶者短期居住権の消滅の申入れをすることができる」と定めています。2号の場面で、申入れから6か月の期間が始まる仕組みです。
1038条から1041条
1038条は使用の方法です。1項が従前の用法に従った善管注意義務、2項が「居住建物取得者の承諾を得なければ、第三者に居住建物の使用をさせることができない」、3項が違反した場合の消滅です。
3項の書きぶりに注意してください。「配偶者が前二項の規定に違反したときは、居住建物取得者は、当該配偶者に対する意思表示によって配偶者短期居住権を消滅させることができる。」配偶者居住権の1032条4項と違い、催告が要求されていません。短期の権利なので、催告を待つ手続を置いていないという整理です。催告の要否が二つの制度で違う点は、出題価値があります。
1039条は「配偶者が居住建物に係る配偶者居住権を取得したときは、配偶者短期居住権は、消滅する」。より強い権利を得たので短期居住権は役目を終えます。
1040条は返還義務で、1035条と同じく共有持分を有する場合のただし書があります。
1041条は準用規定で、597条3項、600条、616条の2、1032条2項、1033条、1034条を準用しています。1032条2項が準用されているので、配偶者短期居住権も譲渡できません。また597条3項の準用により、配偶者の死亡で終了します。
登記できない
配偶者短期居住権は登記できません。不動産登記法3条が列挙する十個の権利に含まれているのは「配偶者居住権」(9号)だけで、配偶者短期居住権は入っていません。
したがって第三者に対抗する手段がありません。その埋め合わせとして1037条2項が居住建物取得者に妨害禁止義務を課している、という構造です。
三つの軸で分ける
二つの制度を並べます。軸を決めて比べるのが、混同を防ぐ唯一の方法です。
軸1 当然に発生するか、取得する必要があるか
配偶者居住権は取得しなければ発生しません。1028条1項1号の遺産分割、2号の遺贈(554条により死因贈与も)によります。1029条の審判も遺産分割の一種です。
配偶者短期居住権は当然に発生します。1037条1項の要件を満たせば、相続開始によって自動的に生じます。
軸2 登記できるか
配偶者居住権は登記できます。不動産登記法3条9号に挙げられており、1031条1項が所有者に登記義務を課しています。登記が対抗要件で、引渡しでは足りません(605条は準用、借地借家法31条は準用なし)。
配偶者短期居住権は登記できません。対抗力がないので、1037条2項が取得者に妨害禁止義務を課すという形で保護しています。
軸3 期間
配偶者居住権は原則として終身(1030条本文)。協議・遺言・審判で別段の定めができます(同ただし書)。
配偶者短期居住権は短期です。遺産分割の対象になる場合は「遺産分割で帰属が確定した日」と「相続開始から6か月」のいずれか遅い日まで(1037条1項1号)。それ以外は「消滅の申入れの日から6か月」まで(同2号)。
補助的な二つの違い
三つの主軸に加えて、二つ添えておくと精度が上がります。
権利の中身。配偶者居住権は「使用及び収益」(1028条1項)、配偶者短期居住権は「使用」だけ(1037条1項)。
及ぶ範囲。配偶者居住権は「建物の全部について」(1028条1項)、配偶者短期居住権は一部のみ使用していたなら「その部分について」(1037条1項括弧書き)。
共通する点も押さえる
違いばかりを見ていると、共通点を問われたときに崩れます。
どちらも譲渡できません。配偶者居住権は1032条2項、配偶者短期居住権は1041条による1032条2項の準用です。
どちらも配偶者の死亡で終了します。配偶者居住権は1036条、配偶者短期居住権は1041条で、いずれも597条3項を準用しています。したがってどちらも相続されません。
どちらも無償です。賃料を払う必要はありません。
どちらも共有持分があれば返還を拒める(1035条1項ただし書、1040条1項ただし書)。
宅建試験でどこまでやるか
学習量の配分について、この記事の立場を明示しておきます。
深追いする価値はあるが、量は少ない
権利関係の全体像では、深追いする価値がある領域として頻出テーマの周辺論点、数字が決まっている領域、改正があった領域の三つを挙げています。
配偶者居住権は、相続という頻出テーマの中にあり、6か月という数字が決まっており、改正で新設された制度です。三つすべてに当てはまります。
そして重要なのは、やるべき量が少ないことです。条文は1028条から1041条までの14条しかなく、判例の蓄積を追う必要もありません。短時間で確実に取れる領域です。
深追いしなくてよい部分
一方、止めるべき範囲も明確です。
評価額の算定方法です。配偶者居住権の評価は建物の耐用年数、配偶者の平均余命、法定利率などを用いて計算しますが、宅建試験で計算させる問題は想定しにくく、条文にも算定方法は書かれていません。評価額が所有権より低くなる、という理屈だけ分かっていれば足ります。
1029条2号の当てはめです。「特に必要があると認めるとき」に当たるかどうかは個別の判断で、条文が基準を示していません。要件が厳しいという構造だけ押さえてください。
準用条文の連鎖を全部たどることです。1036条と1041条は複数の条文を準用していますが、試験で効くのは597条3項(配偶者の死亡)と616条の2(建物の滅失)が中心です。相続分野の学習の優先順位は権利関係の頻出論点を参考にしてください。
相続分野の中での位置
相続で先に固めるべきは、相続人の範囲、法定相続分、遺留分といった計算に直結する部分です(相続)。次に相続放棄の熟慮期間(相続放棄と限定承認)、遺言の方式(遺言の方式)、遺産分割協議(遺産分割協議)と進みます。
配偶者居住権は、その後に短時間で足す論点という位置づけが適切です。改正論点の全体像は民法改正のポイントにあります。
試験での出題ポイント
引渡しで対抗できるとする
最頻出の型です。「配偶者は、居住建物の引渡しを受けていれば、配偶者居住権を第三者に対抗することができる」は誤りです。
1031条2項が準用しているのは605条(登記)だけで、借地借家法31条(引渡し)は準用されていません。建物賃借権のルールを持ち込ませる引っかけです。
配偶者短期居住権が登記できるとする
配偶者短期居住権は登記できません。不動産登記法3条9号に挙げられているのは配偶者居住権だけです。「短期居住権も登記により第三者に対抗できる」という肢は誤りです。
収益権の有無を入れ替える
配偶者居住権は「使用及び収益」(1028条1項)、配偶者短期居住権は「使用」のみ(1037条1項)。「配偶者短期居住権を有する配偶者は、居住建物を第三者に賃貸して収益を得ることができる」は誤りです。
及ぶ範囲を入れ替える
配偶者居住権は建物の全部、配偶者短期居住権は使用していた部分。「配偶者居住権は、配偶者が現に使用していた部分についてのみ成立する」は誤りです。
6か月の起算点をずらす
1037条1項1号は「遺産の分割により居住建物の帰属が確定した日又は相続開始の時から六箇月を経過する日のいずれか遅い日」です。「いずれか早い日」とする肢、「遺産分割が確定すれば直ちに終了する」とする肢はいずれも誤りです。2号は「申入れの日から六箇月」で、起算点が違います。
共有の扱いを広げる
1028条1項ただし書が除外しているのは「配偶者以外の者と共有していた場合」です。「被相続人が配偶者と建物を共有していた場合、配偶者居住権は成立しない」という肢は誤りです。
譲渡できるとする、相続されるとする
譲渡は1032条2項により禁止され、配偶者短期居住権も1041条で準用されます。相続は、1036条・1041条が準用する597条3項により、配偶者の死亡で終了するため生じません。どちらも「できる」方向に書き換えて出されます。
消滅請求の手順を落とす
1032条4項は、相当の期間を定めた催告と、期間内に是正がないことを要求しています。「用法違反があれば所有者は直ちに配偶者居住権を消滅させることができる」は誤りです。なお配偶者短期居住権の1038条3項には催告の要求がありません。二つを入れ替える形でも出せます。
通常の必要費の負担者を逆にする
1034条1項は「配偶者は、居住建物の通常の必要費を負担する」と定めています。所有者ではありません。
内縁の配偶者に認める
1028条1項の「配偶者」は法律上の配偶者です。内縁の配偶者には認められません。配偶者短期居住権(1037条1項)も同じです。
覚え方・整理の仕方
目的から要件を導く
暗記事項として並べると多く見えますが、すべて一つの目的から出ています。
「所有権より安い居住だけの権利を作り、住居と生活費を両立させる。」
安く評価させるには権利を弱くする必要がある。だから譲渡できない(1032条2項)、終身で終わる(1036条・597条3項)、増改築や転貸に承諾が要る(1032条3項)。遺産分割で価額を割り振る制度だから、当然には発生せず取得が要る(1028条1項)。
制限規定は、制度の欠陥ではなく設計そのものです。
対抗要件は「準用されているものを見る」
1031条2項が準用しているのは605条と605条の4。借地借家法31条はない。
「605条はある、借地借家法31条はない」という形で持ってください。準用の有無がそのまま結論なので、条文を思い出せば即答できます。
二つの制度は「短期は弱い」で統一する
配偶者短期居住権は、名前のとおりあらゆる面で弱く作られています。
使用だけで収益できない。一部しか及ばない。登記できない。期間が6か月単位。弱いほうを一つずつ思い出すより、「短期はとにかく弱い」と決めておいて、迷ったら弱いほうを選ぶのが実戦的です。
例外は発生の仕方だけです。短期は当然に発生し、配偶者居住権は取得が必要。ここだけが逆転しています。「短期は弱いが、生まれるのは楽」と覚えてください。
数字は6か月だけ
この分野で覚える数字は一つです。6か月。
そして二つの起算点を足します。遺産分割の対象になるなら「帰属確定の日」と「相続開始から6か月」のいずれか遅い日、そうでないなら「申入れの日から6か月」。数字一つと起算点二つ、と決めておけば足ります。
共通点を三つ持つ
違いだけを覚えると、共通点を問われたときに答えられません。どちらも無償、どちらも譲渡不可、どちらも配偶者の死亡で終了(相続されない)。この三つを対で持っておいてください。苦手分野の潰し方は権利関係の苦手克服で扱っています。
理解度チェッククイズ
問1 配偶者居住権を取得した配偶者は、居住建物の引渡しを受けていれば、その後に居住建物を譲り受けた第三者に対して配偶者居住権を対抗することができる。
答え:×。1031条2項は「第六百五条の規定は配偶者居住権について、第六百五条の四の規定は配偶者居住権の設定の登記を備えた場合について準用する」と定めています。605条は「不動産の賃貸借は、これを登記したときは……第三者に対抗することができる」という規定ですから、配偶者居住権の対抗要件は登記です。建物賃借権について引渡しによる対抗力を認める借地借家法31条は準用されていません。したがって実際に住み続けているだけでは第三者に対抗できません。だからこそ1031条1項が「居住建物の所有者は、配偶者に対し、配偶者居住権の設定の登記を備えさせる義務を負う」として、所有者に協力義務を課しています。なお配偶者居住権は不動産登記法3条9号の登記事項で、建物についての権利なので土地には登記できません。
問2 配偶者短期居住権は、相続開始の時に被相続人の建物に無償で居住していた配偶者に当然に発生するが、登記をすることはできない。
答え:○。1037条1項は「配偶者は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に無償で居住していた場合には……無償で使用する権利を有する」と定めており、遺産分割も遺贈も要らず、相続開始によって当然に発生します。この点が、遺産分割(1028条1項1号)または遺贈(同2号)による取得を要する配偶者居住権との最大の違いです。一方、登記はできません。不動産登記法3条が登記することができる権利として列挙する十個のうち、9号に挙がっているのは「配偶者居住権」であって、配偶者短期居住権は含まれていません。対抗力がないため、その埋め合わせとして1037条2項が「居住建物取得者は、第三者に対する居住建物の譲渡その他の方法により配偶者の居住建物の使用を妨げてはならない」という義務を課しています。義務を課す形で保護しているのであって、第三者に対抗できるようにしているわけではありません。
問3 被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者と共有していた場合、配偶者居住権は成立しない。
答え:×。1028条1項ただし書が除外しているのは「被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合」です。共有者が配偶者自身であれば、この除外に当たりません。除外の趣旨は、相続に関与していない第三者が自分の持分に配偶者居住権という負担を負わされるのを防ぐことにあります。共有者が配偶者本人であれば、そうした不当な負担を受ける第三者が存在しないので、除外する理由がありません。関連して1028条2項は「居住建物が配偶者の財産に属することとなった場合であっても、他の者がその共有持分を有するときは、配偶者居住権は、消滅しない」と定めています。配偶者が所有権や持分を取得しても、他に共有者がいる限り配偶者居住権は残ります。これも配偶者を保護するための規定です。
問4 配偶者が用法遵守義務に違反した場合、居住建物の所有者は、催告をすることなく直ちに配偶者居住権を消滅させることができる。
答え:×。1032条4項は「配偶者が第一項又は前項の規定に違反した場合において、居住建物の所有者が相当の期間を定めてその是正の催告をし、その期間内に是正がされないときは、居住建物の所有者は、当該配偶者に対する意思表示によって配偶者居住権を消滅させることができる」と定めています。相当の期間を定めた催告と、期間内に是正がないことが必要です。当然に消滅するのでも、直ちに消滅させられるのでもありません。もっとも、消滅させる方法は配偶者に対する意思表示で足り、裁判は要りません。なお配偶者短期居住権の1038条3項は「配偶者が前二項の規定に違反したときは、居住建物取得者は、当該配偶者に対する意思表示によって配偶者短期居住権を消滅させることができる」とするだけで、催告を要求していません。短期の権利なので手続を簡略にしている、という違いです。二つを入れ替える出題に注意してください。
問5 配偶者居住権を取得した配偶者が死亡した場合、配偶者居住権は配偶者の相続人に相続される。
答え:×。1036条は「第五百九十七条第一項及び第三項、第六百条、第六百十三条並びに第六百十六条の二の規定は、配偶者居住権について準用する」と定めており、597条3項は「使用貸借は、借主の死亡によって終了する」という規定です。したがって配偶者が死亡すれば配偶者居住権は終了し、相続の対象になりません。所有者は負担のない完全な所有権を回復します。「一身専属権だから」という説明もされますが、条文上の根拠は1036条による597条3項の準用にあると押さえておくほうが確実です。同じ準用は配偶者短期居住権にもあり、1041条が597条3項を準用しているので、こちらも配偶者の死亡で終了します。なお1030条本文が存続期間を「配偶者の終身の間」としているのも、この準用と整合しています。期間を定めることはできますが(同ただし書)、配偶者が死亡すればその期間中でも終了します。
まとめ
制度の目的は住居と生活費の両立にある。自宅の所有権を取得すると評価額が高く預貯金を取得できないという行き詰まりを、所有権より低く評価される居住だけの権利を作ることで解きました。1028条3項が903条4項を準用し、婚姻期間20年以上であれば持戻し免除が推定される点も、同じ目的から出ています。
1028条1項の要件は四つ。法律上の配偶者であること、被相続人の財産に属した建物であること、相続開始の時に居住していたこと、遺産分割または遺贈により取得したこと。ただし書により、被相続人が配偶者以外の者と共有していた建物には成立しません。効果は「建物の全部について無償で使用及び収益をする権利」です。
登記しなければ対抗できない(1031条)。2項が準用するのは605条と605条の4で、借地借家法31条は準用されていません。建物賃借権と違い、引渡しでは足りません。所有者は登記を備えさせる義務を負い、不動産登記法3条9号の登記事項として建物に登記されます。
権利は弱く作られている。譲渡できず(1032条2項)、増改築と第三者への使用収益には所有者の承諾が要り(同3項)、用法違反があっても催告を経なければ消滅させられません(同4項)。通常の必要費は配偶者の負担です(1034条1項)。
存続期間は原則として終身(1030条本文)。協議・遺言・審判で別段の定めができますが(同ただし書)、更新や延長の規定はありません。1036条が597条3項を準用するため、配偶者の死亡で終了し、相続されません。建物の全部滅失でも終了します(616条の2の準用)。
配偶者短期居住権は三つの軸で分かれる。当然に発生する(1037条1項)、登記できない(不動産登記法3条に列挙なし)、期間が短い(遺産分割の対象なら帰属確定の日と相続開始から6か月のいずれか遅い日、それ以外は申入れから6か月)。加えて使用のみで収益できず、使用していた部分にしか及びません。
共通点も三つある。どちらも無償、どちらも譲渡できず(1041条が1032条2項を準用)、どちらも配偶者の死亡で終了する(1036条・1041条が597条3項を準用)。違いだけを覚えると共通点を問われたときに崩れます。
よくある質問
Q. 配偶者居住権は宅建試験でどのくらいのウエイトを占めますか。
A. 量は少ないが、取りこぼすと惜しい論点という位置づけです。条文は1028条から1041条までの14条で閉じており、判例を追う必要もありません。相続という頻出テーマの中にあり、6か月という数字が決まっており、改正で新設された制度なので、出題者が問いたくなる条件はそろっています。一方で、相続分野で先に固めるべきは相続人の範囲・法定相続分・遺留分といった計算に直結する部分です。それらを終えたあとに短時間で足す論点と考えてください。
Q. 配偶者居住権と使用貸借は何が違うのですか。
A. 発生の仕方と対抗力が違います。使用貸借は593条により契約によって生じる債権で、登記できません。配偶者居住権は相続を契機として遺産分割や遺贈により生じ、不動産登記法3条9号により登記でき、登記が対抗要件になります(1031条2項・605条)。なお、使用貸借にも収益権はあります。593条は「無償で使用及び収益をして」と定めており、この点は配偶者居住権と同じです。収益できないのは配偶者短期居住権のほうです。使用貸借の規律は使用貸借で扱っています。もっとも配偶者居住権は使用貸借の規定を多数準用しており(1036条)、性質が近い制度であることは条文からも読み取れます。
Q. 配偶者居住権の評価額はどう計算するのですか。
A. 建物の耐用年数、配偶者の平均余命、法定利率などを用いて算定されますが、民法にも不動産登記法にも算定方法は規定されていません。宅建試験で計算させる問題は想定しにくいので、所有権より低く評価されること、その差額の分だけ配偶者が他の財産を取得できることという理屈が分かっていれば足ります。相続に関する税の扱いは相続税と贈与税で扱っています。
Q. 配偶者が居住建物を第三者に貸して家賃を得ることはできますか。
A. 所有者の承諾があればできます。1028条1項は配偶者居住権を「使用及び収益をする権利」としており、収益権限が含まれています。ただし1032条3項が「配偶者は、居住建物の所有者の承諾を得なければ……第三者に居住建物の使用若しくは収益をさせることができない」と定めているため、承諾が必要です。承諾があれば賃貸できるが、承諾があっても譲渡はできない(1032条2項)という差を押さえてください。なお配偶者短期居住権は「使用」のみの権利なので、承諾を得ても賃貸して収益を得ることはできません(1038条2項が承諾を要求しているのは「第三者に居住建物の使用をさせる」場合です)。
Q. 遺産分割が長引いた場合、配偶者はいつまで住めますか。
A. 居住建物について共同相続人間で遺産分割をすべき場合であれば、1037条1項1号により、遺産分割で居住建物の帰属が確定した日と、相続開始の時から6か月を経過する日の、いずれか遅い日まで配偶者短期居住権で守られます。「いずれか遅い日」なので、遺産分割が長引けばその確定日まで延びます。逆に遺産分割が2か月で終わっても、相続開始から6か月は保障されます。引っ越し先を探す時間を確保するための設計です。そのうえで、遺産分割で配偶者居住権を取得すれば、以後はそちらに移ります(1039条により短期居住権は消滅します)。遺産分割の手続は遺産分割協議で扱っています。
Q. 内縁の配偶者は保護されないのですか。
A. 1028条の配偶者居住権も1037条の配偶者短期居住権も、法律上の配偶者に限られます。両条とも「被相続人の配偶者」「配偶者」という語を用いており、民法はこれを法律上の婚姻の当事者を指すものとして使っているためです。そもそも内縁の配偶者は相続人ではないので、遺産分割によって配偶者居住権を取得する余地もありません。居住を確保したいのであれば、遺贈や生前の使用貸借・賃貸借といった別の手段によることになります。相続人の範囲は相続で扱っています。
宅建試験AIブートラボのアプリでは、この記事で扱った1031条の対抗要件、配偶者短期居住権との三つの分かれ目、1037条1項1号の「いずれか遅い日」といった論点を、肢別トレーニングと年度別過去問演習で確認できます。
民法・借地借家法・区分所有法など、条文だけでは判断しづらい論点は、過去問の肢で覚えるのが最短です。