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賃借権の譲渡と転貸|612条と613条を条文で読む

権利関係 読了 約37分

民法612条・613条を条文から解説。承諾が必要な理由、無断譲渡・無断転貸で解除できる要件、判例による信頼関係破壊の法理、適法な転貸の三者関係、合意解除と債務不履行解除で転借人の扱いが変わる理由を整理します。

目次

    この記事は、賃借権の譲渡と転貸(民法612条・613条)を扱います。賃貸借の全体像は「民法の賃貸借」、契約書の条項として読む場合は「賃貸借契約の注意点」、借地権の譲渡に固有の問題は「借地権とは」で扱っているので、この記事は612条と613条そのものを深く読むことに絞ります。権利関係全体での位置づけは「権利関係の全体像」を参照してください。

    この論点の中心は、条文と判例のずれにあります。612条2項は、無断で第三者に使用収益させたときは賃貸人が契約を解除できる、と書いています。条文だけを読めば、無断転貸があれば当然に解除できるように見えます。しかし判例はこの解除権を制限しています。条文に書かれていない制限が付いている、という構造を先に把握してください。

    先に結論を七つ述べます。

    第一に、612条1項が要求しているのは賃貸人の承諾だけです。方式も、承諾の相手方も、時期も、条文は定めていません。書面である必要はありません。

    第二に、612条2項の解除の要件は「第三者に賃借物の使用又は収益をさせたとき」です。譲渡や転貸の契約を結んだだけでは足りず、現実に使用収益させたことが要ります。条文の文言をそのまま押さえてください。

    第三に、判例は、賃借人の行為が賃貸人に対する背信的行為と認めるに足りない特別の事情があるときは、612条2項による解除権は発生しないとしています。条文にはない制限です。

    第四に、ただし原則はあくまで解除できることであり、特別の事情は賃借人の側が主張立証します。向きを逆にしないでください。

    第五に、613条1項により、適法な転借人は賃貸人に対して直接義務を負います。限度は二重にかかり、賃料の前払をもって賃貸人に対抗できません。

    第六に、613条3項により、賃貸人は賃借人との合意解除をもって転借人に対抗できません。ただし解除の当時に債務不履行による解除権を有していたときは対抗できます。合意解除では対抗できないが、債務不履行解除では対抗できる——ここが最頻出です。

    第七に、期間満了・解約申入れによる終了の場合、建物の転貸借については借地借家法34条が通知と6か月の猶予を用意しています。民法613条3項の話ではありません。

    なお、宅建試験は当該年度の4月1日現在施行の法令から出題されます。この記事で引用する民法および借地借家法の条文は、すべて2026年4月1日時点で施行されているものです。民法は令和8年法律第45号により2026年6月24日に改正・施行されていますが本則1,173条に差分はなく、借地借家法も令和4年法律第48号により2026年5月21日に施行された改正があるものの実体規定に差分はありません。この記事の内容に影響する改正はありません。

    譲渡と転貸はどこが違うのか

    賃借権の譲渡 ― 賃借人が入れ替わる

    賃借権の譲渡とは、賃借人としての地位を第三者に移転することです。

    AがBに建物を賃貸しているとき、BがCに賃借権を譲渡すると、Cが賃借人になり、Bは賃貸借関係から離脱します。賃貸借契約は一本のまま、当事者の一方が入れ替わります。

    譲渡された後は、AとCの間に賃貸借があるだけです。Bはもはや賃料を払う義務も、目的物を使う権利も持ちません。

    転貸 ― 契約が二本になる

    転貸とは、賃借人が自分の借りている物を、さらに第三者に貸すことです。

    同じ例で、BがCに転貸すると、AB間の賃貸借はそのまま存続し、BC間に転貸借が成立します。契約が二本になり、Bは賃借人でありながら転貸人でもある、という二重の立場に立ちます。

    Bは離脱しません。Aに対しては賃料を払い続け、Cからは転借料を受け取る。この点が譲渡との決定的な違いです。

    当事者の数で数えると混ざらない

    譲渡なら契約は一本、当事者は二人(AとC)。転貸なら契約は二本、当事者は三人(AとB、BとC)。

    そして転貸の場合、AとCの間には契約関係がありません。にもかかわらず613条1項がCに直接の義務を負わせているのが、後述する転貸の要点です。契約関係がないところに義務を作り出している条文だ、と理解しておくと613条の異例さが見えます。

    612条が両方を同じ扱いにしている理由

    賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。(民法612条1項)

    条文は譲渡と転貸を並べて、同じ要件・同じ効果のもとに置いています。

    理由は、賃貸人にとっての実質が同じだからです。譲渡でも転貸でも、目的物を現実に使う人が賃貸人の知らない者に変わります。賃貸借は目的物を相手に委ねて使わせる契約なので、誰が使うかは賃貸人にとって重大な関心事です。物を大切に使う人か、用法を守る人か、賃料を払える人か。それを見て貸すかどうかを決めているのだから、勝手に使用者を入れ替えることは認められない、という発想です。

    612条は「誰が使うか」を賃貸人の支配下に置く規定だと捉えると、後の論点がすべてこの一点から導けます。

    相続は譲渡ではない

    対比として押さえておきます。賃借人が死亡して相続人が賃借権を承継する場合、賃貸人の承諾は要りません。

    612条1項が承諾を要求しているのは「譲り渡し」と「転貸」です。相続は当事者の意思による移転ではなく、被相続人の地位を包括的に承継するものなので、条文の場面に当たりません。条文の文言から結論が出ます。相続の一般的な効果は「相続」で扱っています。

    なお借地借家法36条は、居住用建物の賃借人が相続人なしに死亡した場合について、事実上の配偶者などの同居者が権利義務を承継すると定めています。これも譲渡ではなく、法律による承継です。

    • 譲渡は契約一本・当事者二人。賃借人が入れ替わる
    • 転貸は契約二本・当事者三人。賃借人は離脱しない
    • 612条は譲渡と転貸を同じ扱いにしている。「誰が使うか」を賃貸人の支配下に置く規定
    • 相続は譲渡ではないので承諾不要

    612条1項 ― 承諾という要件

    条文が要求しているのは承諾だけ

    612条1項は「賃貸人の承諾を得なければ」とだけ書いています。それ以上のことを何も定めていません。この「書いていない」ことの意味を、三つに分けて確認します。

    方式の定めがない

    条文は書面を要求していません。口頭の承諾でも有効です。

    契約書に「賃貸人の書面による承諾を得なければ譲渡・転貸してはならない」と書かれているのが実務の通例ですが、これは当事者が612条より厳しい条件を約定で加えているにすぎません。612条自体は方式を問うていません。

    対比が分かりやすいのは借地借家法38条の定期建物賃貸借で、こちらは書面によることが成立要件です。民法が方式を要求する場面では条文にそう書いてあるので、書いていない612条の承諾に方式の制限はない、と読みます。定期借家の要件は「定期借家契約」で扱っています。

    相手方の定めもない

    誰に対して承諾するかも、条文は限定していません。賃借人に対する承諾でも、譲受人や転借人となる第三者に対する承諾でも構いません。

    比べてみると分かります。債権譲渡の対抗要件を定める467条1項は「譲渡人が債務者に通知をし」と、通知の主体を明示的に限定しています。612条にはそうした限定語がありません。条文に限定語があるかどうかを見るという読み方は、他の条文にも使えます。債権譲渡の対抗要件は「債権譲渡と相殺」で扱っています。

    事前・事後を問わない

    承諾の時期についても条文は何も定めていません。譲渡・転貸の前に承諾を得るのが通常ですが、後から承諾することも妨げられません。

    事後の承諾があれば、その時点から適法な譲渡・転貸になります。無断譲渡・無断転貸として発生していた解除権も、承諾によって行使できなくなると解されます。承諾したということは、賃貸人がその状態を受け入れたということだからです。

    承諾がないとどうなるか ― 1項は無効規定ではない

    ここは条文の書き方を丁寧に読む必要があります。

    612条1項は「譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない」と書いています。しかし、無断でされた譲渡や転貸を無効とする規定はどこにもありません。2項が置いているのは解除権であって、無効ではありません。

    したがって、無断譲渡・無断転貸であっても、賃借人と第三者の間の契約そのものは有効です。無断転貸なら、賃借人と転借人の間に有効な転貸借が成立します。無断譲渡なら、賃借人と譲受人の間で有効に賃借権が移転します。

    「賃貸人に対抗できない」ことと「契約が無効である」ことは別です。この区別は、譲渡制限の意思表示に反する債権譲渡が有効とされる466条2項の構造とも通じています。条文が無効と書いていなければ無効ではない、という読み方を身につけてください。無効と取消しの枠組みは「無効と取消しの違い」で整理しています。

    612条2項 ― 「使用又は収益をさせたとき」

    賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除をすることができる。(民法612条2項)

    解除の要件は契約ではなく使用収益である

    この条文の要件は「第三者に賃借物の使用又は収益をさせたとき」です。譲渡や転貸の契約を締結したことではありません。

    契約を結んだだけでは、まだ解除できません。現実に第三者が目的物を使い始めるか、収益を上げ始めるか、そこまで至って初めて解除権が発生します。

    理由は612条の趣旨から導けます。賃貸人が守られるべき利益は「誰が現実に物を使うか」であって、契約書の上で誰が権利者になったかではありません。契約が結ばれても第三者がまだ物に触れていないなら、賃貸人の利益はまだ害されていない、という判断です。

    「賃借人が賃貸人に無断で転貸借契約を締結した時点で、賃貸人は契約を解除することができる」という選択肢は、条文の要件を先取りしているため誤りです。

    「第三者に」という文言

    条文は「第三者に」と書いています。賃借人自身が使い続けているなら、そもそも612条の場面ではありません。

    たとえば賃借人が家族を同居させた場合。同居者は賃借人の履行補助者的な立場にとどまり、賃借人が自ら使用していると評価できる場面が多くあります。この場合は「第三者に使用又は収益をさせた」に当たらないと考える余地があります。

    同居させたという事実だけで直ちに612条2項の要件を満たすわけではない、という点は押さえておいてください。仮に要件を満たすとしても、次に述べる信頼関係破壊の法理による制限がかかります。

    解除の効果は将来に向かってのみ生じる

    賃貸借の解除をした場合には、その解除は、将来に向かってのみその効力を生ずる。この場合においては、損害賠償の請求を妨げない。(民法620条)

    612条2項によって解除をしても、遡及効はありません。620条が明文で将来効に限定しています。

    これは重要な帰結を持ちます。解除までの間に生じていた賃料債権は消えません。賃貸人は過去の賃料を請求できますし、賃借人が払った賃料を取り戻すこともできません。

    一般の契約解除であれば、545条1項により各当事者は原状回復義務を負います。しかし賃貸借のような継続的契約では、すでに使わせた事実を巻き戻すことができません。そこで620条が将来効に限定しています。「解除」という同じ言葉でも、賃貸借では効果が違うという点を意識してください。解除の一般論は「債務不履行」で扱っています。

    なお620条後段が「損害賠償の請求を妨げない」としているので、解除とは別に損害賠償を求めることはできます。

    • 解除の要件は「使用又は収益をさせたとき」。契約締結だけでは足りない
    • 「第三者に」使用収益させることが必要
    • 解除の効果は将来効のみ(620条)。過去の賃料関係は巻き戻らない

    信頼関係破壊の法理 ― 条文にない制限

    判例が加えた制限

    612条2項は、要件を満たせば解除できると書いています。しかし判例はここに制限を加えています。

    判例は、賃借人が賃貸人の承諾なく第三者に賃借物の使用収益をさせた場合であっても、賃借人の行為を賃貸人に対する背信的行為と認めるに足りない特別の事情があるときは、612条2項による解除権は発生しないとしています。

    条文のどこにもこの制限は書かれていません。条文を読んだだけでは絶対に出てこない知識なので、判例が加えた制限として別に覚える必要があります。

    なぜ制限されるのか

    理由は612条の趣旨に立ち返ると見えます。この条文が守っているのは、賃貸人と賃借人の間の信頼関係です。「誰が使うか」を賃貸人の支配下に置いているのは、信頼関係を基礎とする継続的な契約だからでした。

    だとすれば、形式的には無断譲渡・無断転貸に当たっても、実質的に信頼関係が壊れていない場面では、解除を認める理由がありません。賃貸借は賃借人の生活や事業の基盤になっていることが多く、形式的な違反だけで基盤を奪うのは均衡を欠きます。

    趣旨から制限が導かれているという構造なので、理屈で覚えられます。

    背信性が否定されやすい類型

    判断は個別の事情によりますが、背信性が否定されやすい類型として次のようなものが挙げられます。

    個人で借りていた事業者が法人を設立し、その法人名義で使い続けている場合。形式的には個人から法人への譲渡ですが、実質的に使っている人は変わっていません。

    同居していた親族に名義を移した場合。建物を現実に使っている人の顔ぶれが変わっていないなら、賃貸人が受ける不利益はほとんどありません。

    いずれも共通しているのは、現実の使用状況が実質的に変わっていないという点です。この一点を基準に考えると、個別の類型を丸暗記しなくても判断がつきます。

    主張立証責任は賃借人にある

    ここで向きを間違えないでください。

    612条2項が定める原則は、解除できることです。信頼関係破壊の法理は、その原則に対する例外として働きます。したがって、「背信的行為と認めるに足りない特別の事情」を主張立証するのは賃借人の側です。

    賃貸人が「無断で転貸された」と主張して解除すれば、それだけで原則としては解除が認められます。賃借人が「実質的に信頼関係は壊れていない」と反論し、それを立証して初めて解除が否定されます。

    「無断転貸があっても、信頼関係が破壊されたことを賃貸人が立証しなければ解除できない」という選択肢は、この向きを逆にしたもので誤りです。

    「常に」という語に反応する

    出題では二方向の誤りが作られます。

    一方は、制限を無視する肢です。「賃借人が無断で転貸したときは、賃貸人は常に契約を解除することができる」。判例による制限があるため誤りです。

    もう一方は、制限を原則に格上げする肢です。「無断転貸があっても、信頼関係の破壊がなければ解除できないから、賃貸人は原則として解除できない」。原則と例外が逆転しています。

    「常に」という語が出てきたら制限を思い出し、「原則として」という語が出てきたら向きを確認する。この二段の反応を身につけてください。

    賃料不払いの解除にも及んでいる

    信頼関係破壊の法理は、無断譲渡・無断転貸の場面から出発した考え方ですが、現在では賃貸借の解除全般に及ぶ考え方として機能しています。

    賃料の不払いがあっても、それが一回限りでただちに補填されたような場合には、信頼関係が破壊されたとはいえないとして解除が制限されることがあります。612条2項に固有の法理ではない、という点を知っておくと、賃貸借の他の論点でも応用できます。

    無断譲渡・無断転貸の法律関係

    当事者間では有効である

    すでに述べたとおり、無断譲渡・無断転貸であっても、賃借人と第三者の間の契約は有効です。

    無断転貸なら、賃借人Bと転借人Cの間に有効な転貸借が成立します。CはBに転借料を払う義務を負い、BはCに使用収益させる義務を負います。この二人の関係は、賃貸人Aの承諾があろうとなかろうと変わりません。

    賃貸人との関係

    Aにとっては、Cは賃貸借関係の外にいる第三者です。承諾していない以上、AとCの間には何の法律関係も生じません。

    したがって、613条1項の直接請求もできません。613条1項は「賃借人が適法に賃借物を転貸したときは」と書き出しており、無断転貸を対象外にしています。Aが「Cから直接賃料を取ろう」と考えても、613条を根拠にはできません。

    条文の「適法に」という一語が、613条の適用範囲を画しています。この一語を落とすと、無断転貸でも直接請求できるという誤った結論に至ります。

    解除する前と解除した後

    Aが612条2項による解除をするまでは、AB間の賃貸借は存続しています。Bは適法な占有権原を持っており、その下でCが使っている状態です。

    Aが解除すると、620条により将来に向かってAB間の賃貸借が終了します。Bは占有権原を失い、Bから使用を許されていたCも、Aに対して占有を正当化する根拠を失います。結果としてCは退去を求められる立場になります。

    転借人の運命は原賃貸借に依存しているという関係が、ここでも現れています。

    承諾が後から得られた場合

    前述のとおり、Aが後から承諾すれば、その時点から適法な転貸になります。612条2項の解除権は行使できなくなり、613条の適用場面に移行します。

    無断転貸か適法な転貸かは、固定した状態ではなく、承諾によって切り替わりうると理解しておくと、事例問題で時系列を追うときに迷いません。

    613条1項 ― 転借人の直接義務

    賃借人が適法に賃借物を転貸したときは、転借人は、賃貸人と賃借人との間の賃貸借に基づく賃借人の債務の範囲を限度として、賃貸人に対して転貸借に基づく債務を直接履行する義務を負う。この場合においては、賃料の前払をもって賃貸人に対抗することができない。(民法613条1項)

    契約関係のない者に義務を負わせる規定

    AとCの間には契約がありません。それにもかかわらず、613条1項はCにAへの直接の義務を負わせています。

    理由は、賃貸人の地位を実質的に守ることにあります。承諾したとはいえ、Aは自分の物を使っている者から直接に賃料を取れなければ、Bの資力に完全に依存することになります。Bが賃料を滞納すれば、Cが払った転借料はBの手元に留まったまま、Aは回収できません。それを避けるための規定です。

    限度が二重にかかっている

    条文をよく読むと、Cが負う義務には二つの限度がかかっています。

    第一に、Cが負うのは「転貸借に基づく債務」です。BC間の転貸借で定められた債務が出発点になります。

    第二に、それが「賃貸人と賃借人との間の賃貸借に基づく賃借人の債務の範囲を限度として」に絞られます。AB間の原賃貸借でBが負っている債務が上限です。

    結果として、AがCから直接取れる賃料は、原賃貸借の賃料と転貸借の賃料の低いほうが上限になります。

    具体的な金額で確かめる

    AB間の賃料が月10万円、BC間の転借料が月12万円だとします。Aが直接取れるのは10万円までです。Cが負う「転貸借に基づく債務」は12万円ですが、「賃借人の債務の範囲」である10万円が上限になります。残りの2万円について、AはCに請求できません。

    逆に、AB間が月12万円、BC間が月10万円だとします。Aが直接取れるのは10万円までです。この場合はCの転貸借上の債務そのものが10万円なので、それを超えて請求することはできません。

    どちらの場合も低いほうが上限になるという結論は、二つの限度を順に当てはめれば自動的に出てきます。「低いほう」という結論だけを暗記するより、条文の二段の限度から導くほうが確実です。

    賃料の前払をもって対抗できない

    後段が重要です。「この場合においては、賃料の前払をもって賃貸人に対抗することができない。」

    CがBに転借料を前払いしていても、そのことをAに主張できません。Aから直接請求されれば、Cは改めて払わなければならない立場に置かれます。

    これがないと613条1項が骨抜きになります。BとCが通謀して数年分の転借料を前払いしたことにすれば、Aは直接請求しても「もう払いました」と言われて終わってしまうからです。直接請求の実効性を確保するための規定です。

    なお、前払いでない通常の弁済であれば対抗できます。条文が封じているのは「前払」だけです。支払期が来ている賃料をBに払ったのであれば、それはCに帰責すべき事情のない正常な弁済であり、Aに対しても主張できます。「前払」と「弁済」を区別するのがこの条文の読み方です。

    二重に取れるという意味ではない

    613条1項はAに回収手段を追加する規定であって、AがBとCから二重に賃料を取れるという意味ではありません。

    Cが直接Aに支払えば、その限度でCは自分の転借料債務を免れ、Bの賃料債務も消滅します。同じ一つの経済的給付を、誰から取るかという話にすぎません。

    613条2項 ― 賃貸人は賃借人にも請求できる

    前項の規定は、賃貸人が賃借人に対してその権利を行使することを妨げない。(民法613条2項)

    1項があるからといって、AがBに請求できなくなるわけではありません。Aは、BとCのどちらに請求してもよい立場に立ちます。

    理屈は単純です。AB間の賃貸借は転貸によって影響を受けません。Bは依然として賃借人であり、賃料を払う義務を負い続けます。1項はそこにCへの直接請求という選択肢を足しただけです。

    「適法な転貸がされた場合、賃貸人は転借人に対してのみ賃料を請求することができる」という選択肢は、2項に反するため誤りです。「妨げない」という条文の書き方は、選択肢を足しているだけで既存のものを奪っていない、というサインです。

    613条3項 ― 合意解除は転借人に対抗できない

    賃借人が適法に賃借物を転貸した場合には、賃貸人は、賃借人との間の賃貸借を合意により解除したことをもって転借人に対抗することができない。ただし、その解除の当時、賃貸人が賃借人の債務不履行による解除権を有していたときは、この限りでない。(民法613条3項)

    本文の趣旨

    転貸を承諾しておきながら、AとBが話し合いで賃貸借をやめ、それを理由にCを追い出す。これを封じるのが3項本文です。

    Aは転貸を承諾した以上、Cが目的物を使うことを受け入れています。にもかかわらず、Aとの合意という自分たちの都合だけでCの地位を消せるとすれば、承諾に意味がなくなります。Cは自分の関与しないところで基盤を失うことになり、あまりに不安定です。

    「対抗することができない」という効果にも注意してください。合意解除そのものが無効になるのではありません。AB間では解除の効力が生じますが、Cとの関係ではなかったものとして扱われる、という構成です。

    ただし書 ― 債務不履行による解除権を有していたとき

    ただし書が例外を置いています。合意解除の当時、Aが債務不履行による解除権をすでに持っていたときは、Cに対抗できます。

    理由は明快です。その時点でAは一方的に解除できる立場にあったのだから、実際に一方的な解除をしていればCは保護されなかったはずです。たまたま合意という形をとっただけで結論が変わるのは不合理です。形式は合意解除でも、実質は債務不履行解除だといえる場面を、ただし書がすくい上げています。

    「解除の当時」という時点の限定が要件です。合意解除の後になって初めて解除権が発生しても、ただし書には当たりません。

    改正で明文化された

    3項は2020年4月1日施行の改正で新設された規定です。それ以前は判例によって同じ結論が導かれていました。判例法理が条文になった箇所なので、条文を根拠に答えられるようになっています。

    原賃貸借が終わったとき転借人はどうなるか

    転貸借は原賃貸借の上に乗っています。原賃貸借が終われば転借人の地位も影響を受けますが、終了の原因によって扱いが違います。ここが出題の中心です。原因を四つに分けて整理します。

    合意解除 ― 対抗できない

    613条3項本文のとおりです。Cに対抗できません。ただし解除の当時にAが債務不履行解除権を持っていたときは対抗できます(同項ただし書)。

    債務不履行解除 ― 対抗できる

    Bの賃料不払いなどによってAが原賃貸借を解除した場合、Cに対抗できます。613条3項が合意解除だけを対象にしていることの反対解釈であり、ただし書が「債務不履行による解除権を有していたときは、この限りでない」としていることからも、債務不履行解除は対抗できるという前提が読み取れます。

    BC間の転貸借は、Bが目的物を使用収益させることができなくなるため、履行不能によって終了します。判例は、その終了時期を、賃貸人が転借人に対して目的物の返還を請求した時としています。解除の時点で自動的に終わるのではない、という構成です。

    そして、AがBの債務不履行を理由に解除する前に、Cに賃料の支払いの機会を与える必要はありません。そのような催告をAに義務づける規定は民法にも借地借家法にも置かれていないからです。「賃貸人は、転借人に代払いの機会を与えなければ原賃貸借を解除できない」という選択肢は誤りです。

    期間満了・解約申入れ ― 借地借家法34条

    民法には、期間満了や解約申入れで原賃貸借が終わった場合の転借人保護の規定がありません。613条3項は合意解除の話であって、この場面をカバーしていません。

    建物の転貸借については、借地借家法が特則を置いています。

    建物の転貸借がされている場合において、建物の賃貸借が期間の満了又は解約の申入れによって終了するときは、建物の賃貸人は、建物の転借人にその旨の通知をしなければ、その終了を建物の転借人に対抗することができない。
    2 建物の賃貸人が前項の通知をしたときは、建物の転貸借は、その通知がされた日から六月を経過することによって終了する。(借地借家法34条)

    通知をしなければ対抗できず、通知をしても6か月の猶予があるという二段の保護です。転借人が突然放り出されないようにする規定で、34条は37条により強行規定とされています。これに反する転借人に不利な特約は無効です。

    37条が名指ししているのは31条・34条・35条の三つだけである点も確認しておいてください。33条の造作買取請求権は37条の列挙に入っておらず、任意規定です。放棄特約が有効になるのはこのためで、詳細は「造作買取請求権」で扱っています。

    この6か月は借地借家法の規定であって、民法613条3項の内容ではありません。条文の在りかを取り違えないでください。借地借家法の全体像は「借地借家法」で扱っています。

    賃借物の全部滅失 ― 616条の2

    賃借物の全部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合には、賃貸借は、これによって終了する。(民法616条の2)

    建物が焼失したような場合、AB間の賃貸借は当然に終了します。解除も解約申入れも要りません。基礎を失うので、BC間の転貸借も終了します。

    この場合、Cを保護する仕組みはありません。物がなくなった以上、誰も使えないからです。借地借家法34条は「期間の満了又は解約の申入れ」の場合の規定なので、滅失には適用がありません。

    四つを並べて持つ

    合意解除は対抗できない。債務不履行解除は対抗できる。期間満了・解約申入れは借地借家法34条で通知と6か月。全部滅失は当然終了。

    この四つを一続きで言えるようにしておくと、終了原因をずらしてくる選択肢に対応できます。とくに合意解除と債務不履行解除の対比が最頻出です。

    • 合意解除 ― 対抗できない(613条3項本文)。ただし解除権があったときは対抗できる(ただし書)
    • 債務不履行解除 ― 対抗できる。代払いの機会を与える必要もない
    • 期間満了・解約申入れ ― 借地借家法34条で通知が必要、通知から6か月で終了
    • 全部滅失 ― 616条の2により当然終了

    借地の場合 ― 建物の譲渡と19条・20条

    建物を売れば借地権も移る

    借地権が賃借権である場合、借地上の建物を売却することは、実質的に賃借権の譲渡を伴います。建物だけを買っても、その敷地を使う権利がなければ意味がないからです。

    したがって、借地上の建物の売却には地主の承諾が必要になります。612条1項がそのまま働きます。所有権を売る場合と決定的に違う点で、借地権の売却が難しいと言われる理由でもあります。

    19条 ― 承諾に代わる裁判所の許可

    承諾が得られなければ売れないというだけでは、借地権者の財産権が地主の一存で凍結されてしまいます。そこで借地借家法19条が受け皿を置いています。

    借地権者が賃借権の目的である土地の上の建物を第三者に譲渡しようとする場合において、その第三者が賃借権を取得し、又は転借をしても借地権設定者に不利となるおそれがないにもかかわらず、借地権設定者がその賃借権の譲渡又は転貸を承諾しないときは、裁判所は、借地権者の申立てにより、借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができる。(借地借家法19条1項前段)

    612条の原則に対する重要な例外です。要件は「借地権設定者に不利となるおそれがないにもかかわらず承諾しないとき」で、申立てをするのは借地権者です。

    1項後段は、当事者間の利益の衡平を図るため必要があるときは、借地条件の変更を命じ、またはその許可を財産上の給付に係らしめることができるとしています。実務でいう譲渡承諾料は、この財産上の給付に対応するものです。

    3項には地主側の対抗手段が置かれています。裁判所が定める期間内に借地権設定者が自ら建物および賃借権の譲渡を受ける旨の申立てをしたときは、裁判所は相当の対価を定めてこれを命ずることができます。地主が自分で買い取るという選択肢です。

    7項により、転借地権が設定されている場合の転借地権者と借地権設定者との間にも準用されます。

    20条 ― 競売・公売の場合と2か月

    19条は借地権者が自ら譲渡しようとする場面の規定です。これに対し20条は、第三者が競売または公売により借地上の建物を取得した場合について、同様の許可の制度を定めています。

    申立てをするのはその第三者であり、「建物の代金を支払った後二月以内」という期間制限があります(20条3項)。19条には期間制限がないので、期間制限の有無が19条と20条を分ける目印になります。

    21条 ― 19条は強行規定である

    第十七条から第十九条までの規定に反する特約で借地権者又は転借地権者に不利なものは、無効とする。(借地借家法21条)

    19条は強行規定です。「借地権者は19条の申立てをしない」という特約を置いても無効になります。承諾に代わる許可の制度を契約で外すことはできません。

    19条から20条までのうち、21条が名指ししているのは17条から19条までである点にも注意してください。借地権の各制度の詳細は「借地権とは」で条文ごとに扱っています。

    借家に同じ制度はない

    裁判所の承諾に代わる許可の制度は、借地にしかありません。

    これは条文の配置から確認できます。19条と20条は第2章(借地)の第3節「借地条件の変更等」に置かれており、見出しもそれぞれ「土地の賃借権の譲渡又は転貸の許可」「建物競売等の場合における土地の賃借権の譲渡の許可」です。第3章(借家、26条から40条)には対応する規定が置かれていません。

    「建物の賃借人は、賃貸人が転貸を承諾しないときは、裁判所に承諾に代わる許可を求めることができる」という選択肢は、条文が存在しないため誤りです。

    地上権なら承諾は要らない

    借地権は「建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権」と定義されています(借地借家法2条1号)。借地権が地上権である場合、612条は適用されません。612条は賃貸借の規定だからです。

    地上権は物権なので、設定者の承諾なく譲渡できます。19条・20条が「賃借権」の譲渡について定めているのは、賃借権にだけ承諾の問題が生じるからです。条文が「賃借権」と限定していることに理由がある、という読み方をしてください。借地権の対抗要件は「借地権の対抗要件」で扱っています。

    借地上の建物を賃貸することは土地の転貸か

    条文の「賃借物」は土地である

    借地権者が、借地上に建てた自分の建物を第三者に賃貸した場合、地主の承諾は必要でしょうか。

    必要ありません。612条1項が承諾を要求しているのは「賃借物を転貸する」場合です。借地契約における賃借物は土地であって、建物ではありません。建物は借地権者自身の所有物です。自分の所有物を貸すことに、土地の賃貸人の承諾は要りません。

    実質的にも、借地権者は建物を所有し続けており、土地の使用主体は依然として借地権者です。建物の賃借人は建物を使っているのであって、土地を直接に使っているわけではありません。「誰が土地を使うか」は変わっていないので、612条が守ろうとした利益は害されません。

    三層構造の中の建物賃借人

    この場面では、権利関係が三層になります。地主と借地権者の間に借地権があり、借地権者は自分の建物を所有し、その建物を建物賃借人に貸している。

    建物賃借人は借地権者の借地権に依存していますが、地主との間には何の契約関係もありません。613条の転貸の三者関係とは構造が違います。転貸では第三者が賃借物そのものを使いますが、この場面では第三者が使うのは建物であって土地ではありません。

    「借地上の建物を賃貸することは土地の転貸にあたる」という選択肢は誤りです。「転貸」という言葉に引きずられて、階層を一つ取り違えるのがこの論点の落とし穴です。

    借地借家法35条 ― 借地権が終わったときの建物賃借人

    もっとも、建物賃借人の地位が借地権に依存していることは事実です。借地権の存続期間が満了すれば、借地権者は建物を収去して土地を明け渡さなければならず、建物賃借人も出ていくことになります。

    そこで借地借家法35条が保護を置いています。

    借地権の目的である土地の上の建物につき賃貸借がされている場合において、借地権の存続期間の満了によって建物の賃借人が土地を明け渡すべきときは、建物の賃借人が借地権の存続期間が満了することをその一年前までに知らなかった場合に限り、裁判所は、建物の賃借人の請求により、建物の賃借人がこれを知った日から一年を超えない範囲内において、土地の明渡しにつき相当の期限を許与することができる。(借地借家法35条1項)

    要件が二重に絞られています。第一に、建物の賃借人が存続期間の満了を1年前までに知らなかったこと。知っていたなら備える時間があったので保護しません。第二に、建物の賃借人の請求があること。裁判所が職権で許与するのではありません。

    猶予の上限は知った日から1年です。34条の6か月と数字が違うので、混ぜないでください。34条は建物の転貸借の話、35条は借地上の建物の賃貸借の話と、場面が違います。35条も37条により強行規定とされています。

    • 借地上の建物の賃貸は土地の転貸ではない。612条の「賃借物」は土地である
    • 借地権が満了したときの建物賃借人は、借地借家法35条で保護される
    • 34条は6か月、35条は知った日から1年。場面も数字も違う

    試験での出題ポイント

    「常に解除できる」とする肢

    「賃借人が無断で転貸したときは、賃貸人は常に契約を解除することができる」という形。判例による制限があるため誤りです。「常に」「当然に」といった語が目印になります。

    立証責任の向きを逆にする肢

    「無断転貸があっても、信頼関係が破壊されたことを賃貸人が立証しなければ解除できない」という形。原則は解除でき、特別の事情を主張立証するのは賃借人です。制限を原則に格上げさせるタイプの誤りです。

    契約締結だけで解除できるとする肢

    「賃貸人に無断で転貸借契約を締結した時点で、賃貸人は契約を解除できる」という形。612条2項の要件は「第三者に賃借物の使用又は収益をさせたとき」です。契約締結では足りません。

    無断転貸を無効とする肢

    「賃貸人の承諾がない転貸借契約は無効である」という形。612条に無効の規定はなく、2項が置いているのは解除権だけです。当事者間では有効です。

    承諾に方式や相手方の限定を作る肢

    「譲渡・転貸の承諾は書面によらなければならない」「承諾は賃借人に対してしなければならない」という形。612条は方式も相手方も定めていません。

    613条の「適法に」を落とす肢

    「賃貸人に無断で転貸された場合でも、賃貸人は転借人に対して直接賃料を請求できる」という形。613条1項は「賃借人が適法に賃借物を転貸したときは」と限定しています。

    直接請求の額をずらす肢

    原賃貸借の賃料と転貸借の賃料の高いほうを上限とする、あるいは常に転貸借の賃料が基準になるとする形。二重の限度から、低いほうが上限という結論が出ます。

    前払いの抗弁を認める肢

    「転借人が転貸人に賃料を前払いしていれば、賃貸人からの直接請求を拒める」という形。613条1項後段が明文で封じています。

    賃貸人が転借人にしか請求できないとする肢

    613条2項が「賃貸人が賃借人に対してその権利を行使することを妨げない」と定めています。どちらにも請求できます。

    合意解除と債務不履行解除を入れ替える肢

    最頻出です。「合意解除は転借人に対抗できる」「債務不履行解除は転借人に対抗できない」という形。逆です。そして、合意解除の当時に債務不履行解除権があったときは対抗できる、というただし書まで含めて押さえてください。

    代払いの機会を要求する肢

    「賃貸人は、賃借人の債務不履行を理由に解除するには、あらかじめ転借人に賃料支払いの機会を与えなければならない」という形。そのような規定はありません。

    6か月を民法の規定とする肢、または数字をずらす肢

    期間満了による終了の場合の通知と6か月は借地借家法34条であって民法613条3項ではありません。数字を3か月や1年にずらしてくる形もあります。35条の「1年」と混ぜないでください。

    借家に代諾許可があるとする肢

    裁判所の承諾に代わる許可は借地にしかありません(借地借家法19条・20条)。条文の配置と見出しから確認できます。

    19条と20条を入れ替える肢

    19条は借地権者が譲渡しようとする場合で期間制限なし。20条は競売・公売で建物を取得した第三者が申し立てる場合で、建物の代金を支払った後2か月以内という期間制限があります。

    借地上の建物の賃貸に承諾を要求する肢

    「借地権者が借地上の建物を第三者に賃貸するには、地主の承諾が必要である」という形。土地の転貸ではないので承諾は不要です。

    相続に承諾を要求する肢

    612条が承諾を求めているのは「譲り渡し」と「転貸」です。相続は当たりません。

    解除に遡及効を認める肢

    「賃貸借を解除すると、契約は初めからなかったことになる」という形。620条により将来効のみです。

    覚え方・整理の仕方

    612条は「誰が使うか」の一語で持つ

    612条が承諾を要求する理由を「誰が現実に使うかを賃貸人の支配下に置くため」と一語で持っておくと、そこからほぼすべてが導けます。

    譲渡と転貸を同じ扱いにする理由も、解除の要件が「使用又は収益をさせたとき」である理由も、相続に承諾が要らない理由も、借地上の建物の賃貸に承諾が要らない理由も、すべてこの一点から出てきます。個別に暗記する必要がありません。

    「使用収益させたとき」を条文の言葉で唱える

    612条2項の要件は、条文の言葉をそのまま覚えるのが最も安全です。「第三者に賃借物の使用又は収益をさせたとき」。契約締結だけでは足りない、という結論はこの文言から自然に出ます。

    信頼関係破壊は「原則は解除できる」から始める

    まず原則を口に出す。612条2項は解除できると書いてある。次に例外を足す。背信的行為と認めるに足りない特別の事情があれば解除権は発生しない。最後に立証責任を確認する。それを主張立証するのは賃借人。

    この三段の順序で覚えれば、向きを逆にした肢に引っかかりません。例外から覚えると原則が見えなくなります。

    613条は「限度・前払・妨げない・合意解除」の四語

    1項の前段が限度(二重の限度で低いほうが上限)、1項の後段が前払(対抗できない)、2項が妨げない(賃借人にも請求できる)、3項が合意解除(対抗できない、ただし解除権があれば対抗できる)。四語を順に唱えれば613条が再現できます。

    終了原因は四つを一続きで言う

    合意解除は対抗できない。債務不履行解除は対抗できる。期間満了・解約申入れは借地借家法34条で通知と6か月。全部滅失は616条の2で当然終了。

    四つを一息で言えるようにしておくと、終了原因をずらしてくる肢の判定が速くなります。根拠条文の在りかも一緒に唱えるのが要点で、6か月が民法ではなく借地借家法だと意識できます。

    数字は「6か月は34条、1年は35条、2か月は20条」

    借地借家法の期間で混ざりやすいのが三つあります。34条2項の6か月は建物の転貸借が終了するまでの猶予。35条1項の1年は借地上の建物の賃借人に与えられる明渡しの猶予の上限。20条3項の2か月は競売・公売で建物を取得した第三者が許可を申し立てられる期間。

    数字だけを並べず、条文番号と場面をセットで唱えてください。

    階層を数える

    この分野の誤りの多くは、階層の取り違えから生じます。

    転貸なら、賃貸人・賃借人(転貸人)・転借人の三者で、目的物は同じ一つ。借地上の建物の賃貸なら、地主・借地権者・建物賃借人の三者だが、目的物は土地と建物の二つ

    目的物がいくつあるかを数えると、土地の転貸なのかそうでないのかが判別できます。

    理解度チェッククイズ

    Q1. 賃借人Bが賃貸人Aに無断で第三者Cとの間で転貸借契約を締結した場合、Cがまだ建物の使用を開始していなくても、Aは民法612条2項により賃貸借契約を解除することができる。


    答えを見る
    ×。612条2項は「賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除をすることができる」と定めています。要件は契約の締結ではなく、現実に使用収益させたことです。Cがまだ建物を使い始めていない段階では、解除権は発生していません。理屈も条文の趣旨から出ます。612条が守っているのは「誰が現実に物を使うか」を賃貸人の支配下に置くという利益であり、契約書の上で誰が権利者になったかではありません。第三者がまだ物に触れていないなら、賃貸人の利益はまだ害されていないという判断です。なお、無断でされた転貸借契約であっても、BC間の契約自体は有効です。612条には無効を定める規定がなく、2項が置いているのは解除権だけだからです。「賃貸人に対抗できない」ことと「契約が無効である」ことは別だ、という区別を押さえてください。

    Q2. 賃借人Bが賃貸人Aに無断で建物を第三者Cに転貸し、Cが使用を開始した場合、Aは、Bの行為が背信的行為と認めるに足りない特別の事情があることを自ら立証しない限り、賃貸借契約を解除することができる。


    答えを見る
    ○。原則と例外の向きを問う肢です。612条2項が定める原則は解除できることであり、判例が加えた「背信的行為と認めるに足りない特別の事情があるときは解除権が発生しない」という制限は、その原則に対する例外として働きます。したがって特別の事情を主張立証するのは賃借人Bの側であり、賃貸人Aがその不存在を立証する必要はありません。本肢は「Aは……立証しない限り解除できる」と述べており、Aに立証責任がないことを正しく表現しています。試験では二方向の誤りが作られます。一方は「無断転貸があれば常に解除できる」という形で、判例の制限を無視したもの。もう一方は「信頼関係が破壊されたことを賃貸人が立証しなければ解除できない」という形で、立証責任の向きを逆にしたものです。まず原則を口に出し、次に例外を足し、最後に立証責任を確認するという三段の順序で覚えると、どちらの方向にも対応できます。

    Q3. 賃貸人Aの承諾を得て賃借人Bが建物を転借人Cに転貸した場合において、AB間の賃料が月額10万円、BC間の転借料が月額12万円であるときは、AはCに対して月額12万円の支払を直接請求することができる。


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    ×。613条1項は「転借人は、賃貸人と賃借人との間の賃貸借に基づく賃借人の債務の範囲を限度として、賃貸人に対して転貸借に基づく債務を直接履行する義務を負う」と定めています。限度が二重にかかっている点が要点です。CがAに対して負うのは転貸借に基づく債務(12万円)ですが、それが原賃貸借におけるBの債務の範囲(10万円)に絞られます。したがってAがCに直接請求できるのは10万円までです。逆にAB間が12万円でBC間が10万円なら、Cの転貸借上の債務そのものが10万円なので、やはり10万円が上限です。どちらの場合も低いほうが上限という結論が、二つの限度を順に当てはめれば自動的に出ます。あわせて二点。1項後段により、CはBへの賃料の前払をもってAに対抗できません。通常の弁済であれば対抗できるので、「前払」と「弁済」を区別してください。また613条2項は「賃貸人が賃借人に対してその権利を行使することを妨げない」と定めており、AはBにもCにも請求できます。

    Q4. 賃貸人Aの承諾を得て賃借人Bが建物を転借人Cに転貸した後、AとBが賃貸借を合意により解除した場合、Aはその解除をCに対抗することができない。ただし、その解除の当時、AがBの債務不履行による解除権を有していたときは、対抗することができる。


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    ○。613条3項の内容そのままです。本文は「賃貸人は、賃借人との間の賃貸借を合意により解除したことをもって転借人に対抗することができない」と定めています。転貸を承諾しておきながら、AとBの都合だけでCの地位を消せるとすれば承諾に意味がなくなるからです。効果は「対抗することができない」であり、合意解除そのものが無効になるのではなく、Cとの関係でなかったものとして扱われるという構成です。ただし書は「その解除の当時、賃貸人が賃借人の債務不履行による解除権を有していたときは、この限りでない」としています。その時点でAは一方的に解除できる立場にあったのだから、実際に一方的な解除をしていればCは保護されなかったはずで、たまたま合意という形をとっただけで結論が変わるのは不合理だからです。「当時」という時点の限定が要件で、合意解除の後に初めて解除権が発生してもただし書には当たりません。3項は2020年4月1日施行の改正で新設され、判例法理が条文になった箇所です。

    Q5. 賃貸人Aの承諾を得て賃借人Bが建物を転借人Cに転貸した場合において、AB間の賃貸借が期間の満了によって終了するときは、AはCにその旨を通知しなくても、終了をCに対抗することができる。


    答えを見る
    ×。民法にはこの場面の規定がありません。613条3項は合意解除の話であって、期間満了をカバーしていません。建物の転貸借については借地借家法34条が特則を置いています。1項は「建物の賃貸借が期間の満了又は解約の申入れによって終了するときは、建物の賃貸人は、建物の転借人にその旨の通知をしなければ、その終了を建物の転借人に対抗することができない」と定め、2項は「建物の賃貸人が前項の通知をしたときは、建物の転貸借は、その通知がされた日から六月を経過することによって終了する」と定めています。通知をしなければ対抗できず、通知をしても6か月の猶予があるという二段の保護です。34条は37条により強行規定とされているので、これに反する転借人に不利な特約は無効です。この6か月は借地借家法の規定であって民法613条3項の内容ではない点、そして借地借家法35条1項の「知った日から1年」(借地権の存続期間満了時の建物賃借人の明渡猶予)とは場面も数字も違う点を、あわせて押さえてください。

    Q6. 借地権者Bが、借地上に所有する自己の建物を第三者Cに賃貸する場合、土地の転貸にあたるため、借地権設定者Aの承諾を得なければならない。


    答えを見る
    ×。612条1項が承諾を要求しているのは「賃借物を転貸する」場合です。借地契約における賃借物は土地であって、建物ではありません。建物はB自身の所有物であり、自分の所有物を貸すことにAの承諾は要りません。実質的にも、Bは建物を所有し続けており、土地の使用主体は依然としてBです。Cが使っているのは建物であって土地を直接に使っているわけではないので、「誰が土地を使うか」は変わっておらず、612条が守ろうとした利益は害されません。階層を数えると判別できます。転貸(613条)では三者が同じ一つの目的物をめぐって並びますが、この場面では目的物が土地と建物の二つあります。目的物がいくつあるかを数えるのが、この論点の判定方法です。なお、Bが借地上の建物を売却する場合は結論が逆になります。建物の売却は敷地利用権である借地権の譲渡を伴うため、Aの承諾が必要です。承諾が得られないときは、借地借家法19条により裁判所に承諾に代わる許可を申し立てることができます。建物を「貸す」なら承諾不要、「売る」なら承諾必要という対比で覚えてください。

    まとめ

    • 譲渡は契約一本・当事者二人、転貸は契約二本・当事者三人です。譲渡では賃借人が離脱し、転貸では賃借人が残ります。612条が両方を同じ扱いにしているのは、いずれも「誰が現実に物を使うか」が賃貸人の知らない者に変わるからです。この一点から、この分野のほぼすべての結論が導けます。
    • 612条1項が要求しているのは承諾だけです。方式(書面)も、承諾の相手方も、事前か事後かも、条文は定めていません。契約書の「書面による承諾」条項は、612条より厳しい条件を当事者が加えたものです。
    • 無断譲渡・無断転貸でも、当事者間の契約は有効です。612条に無効の規定はなく、2項が置いているのは解除権だけです。「賃貸人に対抗できない」ことと「無効」は別です。
    • 612条2項の解除の要件は「第三者に賃借物の使用又は収益をさせたとき」です。契約を締結しただけでは足りません。そして解除の効果は620条により将来効のみで、過去の賃料関係は巻き戻りません。
    • 判例は、賃借人の行為が賃貸人に対する背信的行為と認めるに足りない特別の事情があるときは、612条2項による解除権は発生しないとしています。条文にない制限です。ただし原則はあくまで解除できることで、特別の事情を主張立証するのは賃借人です。「常に解除できる」も「賃貸人が破壊を立証しなければ解除できない」も、どちらも誤りになります。
    • 613条1項の直接義務には「適法に」という限定があります。無断転貸では直接請求できません。義務には二重の限度がかかり、原賃貸借の賃料と転貸借の賃料の低いほうが上限です。転借人は賃料の前払をもって賃貸人に対抗できません(同項後段)。封じられているのは「前払」だけで、通常の弁済は対抗できます。
    • 613条2項により、賃貸人は賃借人にも転借人にも請求できます。「転借人にしか請求できない」は誤りです。二重に取れるという意味でもありません。
    • 原賃貸借の終了原因で転借人の扱いが変わります。合意解除は対抗できない(613条3項本文。ただし解除の当時に債務不履行解除権があったときは対抗できる)。債務不履行解除は対抗できる(転借人に代払いの機会を与える必要もありません)。期間満了・解約申入れは借地借家法34条で、通知をしなければ対抗できず、通知から6か月で転貸借が終了します。全部滅失は616条の2により当然終了します。
    • 借地上の建物を売る場合は借地権の譲渡を伴うので承諾が必要ですが、承諾が得られないときは借地借家法19条により裁判所の承諾に代わる許可を申し立てられます。競売・公売で建物を取得した第三者は20条により申し立てられ、建物の代金を支払った後2か月以内という期間制限があります。19条は21条により強行規定です。借家に同じ制度はありません(19条・20条は第2章の借地に置かれ、見出しも「土地の賃借権」です)。借地権が地上権なら612条の適用がなく承諾不要です。
    • 借地上の建物を貸すことは土地の転貸ではありません。612条の「賃借物」は土地であり、建物は借地権者の所有物だからです。借地権の存続期間満了時の建物賃借人は、借地借家法35条により、満了を1年前までに知らなかった場合に限り、請求により知った日から1年を超えない範囲で明渡しの期限を許与されます。34条の6か月と35条の1年を混ぜないでください。

    宅建試験AIブートラボの肢別トレーニングでは、賃貸借の過去問を条文ごとに絞り込んで演習できます。この分野は、目的物がいくつあるかを数えて階層を確定し、次に終了原因を特定するという二段の手順を毎回踏むと、選択肢が当事者や終了原因をずらしてきたときに気づけるようになります。

    読んだ内容を、権利関係の肢で確かめる

    民法・借地借家法・区分所有法など、条文だけでは判断しづらい論点は、過去問の肢で覚えるのが最短です。

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