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民法の賃貸借|存続期間・対抗要件・敷金を整理

権利関係 読了 約26分

宅建の権利関係で問われる民法の賃貸借を条文順に整理。存続期間50年、賃料の当然減額、対抗要件と賃貸人の地位の移転、譲渡・転貸、敷金、借地借家法との切り分けまで。

目次

    この記事は、民法が定める賃貸借の骨格を条文の順に整理するものです。借地借家法による修正は借地借家法で扱うので、ここでは民法の原則に絞ります。権利関係全体のなかでの位置づけは権利関係の全体像を参照してください。

    結論を先に述べます。賃貸借の学習は、民法の原則を先に固めてから借地借家法の修正を上に載せる順序でしか安定しません。そして2020年4月1日施行の債権法改正が集中的に入った領域なので、古い教材のままだと存続期間、賃料の減額、敷金、原状回復、賃貸人の地位の移転の5か所で答えが変わります。改正の全体像は民法改正のポイントで扱っています。以下、条文の番号を示しながら順に見ていきます。

    賃貸借契約とはどういう契約か

    601条が定める4つの要素

    民法601条は「賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる」と定めています。

    この条文には4つの要素が入っています。賃貸人が物を使用収益させること。賃借人が賃料を支払うこと。賃借人が契約終了時に物を返還すること。そしてこれらを「約する」ことによって効力を生じること。

    最後の点が重要です。約束だけで効力が生じるので、賃貸借は諾成契約です。書面の作成も、物の引渡しも、成立の要件ではありません。口頭の合意でも賃貸借は成立します。実務で契約書を作るのは、成立のためではなく、内容を証拠として残すためです。

    有償契約であり双務契約であること

    601条は賃料の支払いを要素にしているので、賃貸借は有償契約です。そして賃貸人の使用収益させる義務と賃借人の賃料支払義務が対価の関係に立つので、双務契約でもあります。

    双務契約であることから、同時履行の抗弁権(533条)や危険負担の規定が適用される場面が出てきます。同時履行の考え方は同時履行の抗弁権で扱っています。後で見る敷金返還義務と目的物返還義務の関係は、この双務契約の枠の外にある論点なので、混同しないよう注意が必要です。

    使用貸借との分かれ目

    同じように物を貸す契約でも、無償であれば使用貸借です。593条の使用貸借は、対価を伴わない点で賃貸借と決定的に違います。この違いは終了原因にも及び、597条3項は「使用貸借は、借主の死亡によって終了する」と定めています。賃貸借にはこの規定がありません。

    つまり賃借人が死亡しても賃貸借は終了せず、賃借権は相続の対象になります。使用貸借の借主が死亡すれば、そこで終わります。無償で貸すのは借主個人への好意だから、という理解です。使用貸借の詳細は使用貸借で扱っています。

    存続期間と更新

    上限は50年

    民法604条1項は「賃貸借の存続期間は、五十年を超えることができない。契約でこれより長い期間を定めたときであっても、その期間は、五十年とする」と定めています。同条2項は、賃貸借の存続期間は更新することができるが、その期間は更新の時から50年を超えることができないとしています。

    ここは2020年4月1日施行の改正で変わった箇所です。改正前の上限は20年でした。ゴルフ場用地や太陽光発電施設の敷地など、20年では足りない長期の土地利用のニーズに対応するために50年へ伸長されました。

    効果の書き方にも注意が必要です。50年を超える期間を定めても契約が無効になるのではなく、期間が50年に短縮されます。「50年を超える定めは無効」とする記述は誤りです。

    下限の定めはない

    民法には存続期間の下限を定める規定がありません。1日の賃貸借も、1か月の賃貸借も有効に成立します。

    下限が問題になるのは借地借家法が適用される場面です。借地権の存続期間は原則30年以上とされ、建物賃貸借では1年未満の期間を定めると期間の定めがない賃貸借とみなされます。数字の整理は借地借家法の数字で扱っています。

    期間満了後も使い続けたとき

    民法619条1項は「賃貸借の期間が満了した後賃借人が賃借物の使用又は収益を継続する場合において、賃貸人がこれを知りながら異議を述べないときは、従前の賃貸借と同一の条件で更に賃貸借をしたものと推定する。この場合において、各当事者は、第六百十七条の規定により解約の申入れをすることができる」と定めています。

    条文の言葉づかいが答えを決めます。「みなす」ではなく「推定する」なので、反証を挙げて更新を否定する余地があります。そして更新後の賃貸借は617条により解約申入れができる、すなわち期間の定めのない賃貸借になります。従前と同一の条件で更新されると書かれていますが、期間だけは引き継がれないということです。

    賃貸人が負う義務

    使用収益させる義務と修繕義務

    賃貸人の中心的な義務は、賃借人に目的物を使用収益させることです。その具体化として、民法606条1項は「賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない」と定めています。

    このただし書は2020年の改正で加えられました。賃借人が自分で壊した箇所まで賃貸人が直す義務はない、という当然の帰結を明文化したものです。

    606条2項は、賃貸人が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときは、賃借人はこれを拒むことができないとしています。裏返しの規定が607条で、賃貸人が賃借人の意思に反して保存行為をしようとする場合において、そのために賃借人が賃借をした目的を達することができなくなるときは、賃借人は契約の解除をすることができるとしています。

    賃借人が自分で修繕できる場合

    民法607条の2は、2020年の改正で新設された規定です。賃借物の修繕が必要である場合において、賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知し、または賃貸人がその旨を知ったにもかかわらず、賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないとき(1号)、または急迫の事情があるとき(2号)に、賃借人は自ら修繕をすることができます。

    改正前は明文がなく、賃借人が勝手に修繕してよいのかが条文からは読み取れませんでした。1号が通知を前提にしているのに対し、2号は通知を要しません。水道管の破裂のように待てない事態を想定した規定だからです。

    費用を出したときの償還

    賃借人が目的物について費用を支出した場合の処理は、民法608条が定めています。

    1項は必要費についての規定です。賃借人が賃借物について賃貸人の負担に属する必要費を支出したときは、賃貸人に対し、直ちにその償還を請求することができます。雨漏りの修理費のように、目的物の維持保存に必要な費用がこれにあたります。

    2項は有益費についての規定です。賃借人が有益費を支出したときは、賃貸人は、賃貸借の終了の時に、196条2項の規定に従いその償還をしなければなりません。196条2項は、価格の増加が現存する場合に限り、回復者すなわち賃貸人の選択に従って、支出した金額または増価額を償還させるとしています。

    必要費は直ちに、有益費は終了時に。この時期の違いが出題の中心です。必要費は目的物を保つための出費なので待つ理由がなく、有益費は目的物の価値を増やす出費なので、終了して価値の増加が残っているかを確認してから精算する、という理屈で覚えると混ざりません。

    使用収益させられなくなったとき

    賃貸人が使用収益させる義務を果たせなくなった場合の処理は、2020年の改正で大きく変わりました。

    民法611条1項は「賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される」と定めています。

    ここが改正の要点です。改正前は「賃借人は、その部分の割合に応じて賃料の減額を請求することができる」という規定でした。改正後は請求を待たずに当然に減額されます。「賃借人は減額を請求することができる」という記述は、現行法では誤りです。

    611条2項は、賃借物の一部が使用収益できなくなった場合において、残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達することができないときは、賃借人は契約の解除をすることができるとしています。こちらは1項と違い、賃借人の帰責事由の有無を問いません。

    そして全部が使えなくなった場合には、民法616条の2が「賃借物の全部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合には、賃貸借は、これによって終了する」と定めています。解除の意思表示を待たずに終了します。使用収益させることが不可能になった以上、契約を維持する意味がないからです。

    賃借人が負う義務

    賃料の支払時期

    民法614条は「賃料は、動産、建物及び宅地については毎月末に、その他の土地については毎年末に、支払わなければならない。ただし、収穫の季節があるものについては、その季節の後に遅滞なく支払わなければならない」と定めています。

    条文の並びを正確に読む必要があります。毎月末なのは動産、建物、そして宅地です。宅地は土地ですが、動産・建物と同じ扱いで毎月末とされています。毎年末になるのは宅地以外の土地、たとえば農地や山林です。「土地はすべて毎年末」という整理は誤りになります。

    そしていずれも後払いです。実務では「毎月末日までに翌月分を支払う」という前払いの特約が一般的ですが、これは614条が任意規定だからできることです。

    善管注意義務と用法遵守義務

    賃借人は賃借物を返還する義務を負っているので、その引渡しまでの間、善良な管理者の注意をもって保存する義務を負います(400条)。自分の物に対するのと同程度の注意では足りず、取引上一般に要求される程度の注意が求められます。

    用法遵守義務は、民法616条が594条1項を準用する形で定められています。賃借人は、契約またはその目的物の性質によって定まった用法に従い、使用収益をしなければなりません。居住用として借りた部屋を無断で店舗として使うのは、この義務の違反です。

    これらの違反は債務不履行になり、損害賠償や解除の問題につながります。債務不履行の枠組みは債務不履行で扱っています。

    原状回復義務の範囲

    民法621条は「賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない」と定めています。

    2020年の改正で新設された条文です。かっこ書きが2つの除外を置いています。通常の使用収益によって生じた損耗、いわゆる通常損耗。そして経年変化。この2つは、そもそも「損傷」から除かれているので、原状回復の対象になりません。

    さらにただし書が、賃借人に帰責事由がない損傷を除いています。したがって賃借人が原状回復義務を負うのは、通常損耗でも経年変化でもなく、かつ賃借人に帰責事由がある損傷に限られます。日焼けによる畳の変色や、家具の設置による床のへこみは通常損耗・経年変化の側です。敷金の精算をめぐる実務との関係は敷金と礼金で扱っています。

    対抗要件と賃貸人の地位の移転

    不動産賃借権の対抗要件

    民法605条は、不動産の賃貸借は、これを登記したときは、その不動産について物権を取得した者その他の第三者に対抗することができると定めています。

    ただし、この登記は実務ではほとんど使われません。賃借権の登記には賃貸人の協力が必要であり、賃貸人には登記に協力する義務がないとされているためです。賃貸人からすれば、登記を入れられると物件の処分が難しくなるので、進んで協力する動機がありません。

    そこで機能しているのが借地借家法の対抗要件です。借地権については借地上の建物の登記(10条)、建物賃貸借については建物の引渡し(31条)で対抗できます。借地権の対抗要件は借地権の対抗要件で扱っています。登記記録の仕組みそのものは登記簿の読み方を参照してください。

    賃借人が第三者を排除できる場合

    民法605条の4は、2020年の改正で新設されました。不動産の賃借人は、605条の2第1項に規定する対抗要件を備えた場合において、その不動産の占有を第三者が妨害しているときはその第三者に対する妨害の停止の請求を、その不動産を第三者が占有しているときはその第三者に対する返還の請求を、それぞれすることができます。

    賃借権は債権なので、本来なら債務者である賃貸人にしか主張できません。しかし対抗要件を備えた不動産賃借権は物権に近い保護を受けます。改正前は判例が同様の結論を認めていましたが、条文として明確になりました。占有そのものに基づく保護は占有訴権の問題で、占有権と即時取得で扱っています。

    不動産が譲渡されたとき

    民法605条の2第1項は「前条、借地借家法第十条又は第三十一条その他の法令の規定による賃貸借の対抗要件を備えた場合において、その不動産が譲渡されたときは、その不動産の賃貸人たる地位は、その譲受人に移転する」と定めています。

    対抗要件を備えた賃借権があれば、所有権の移転に伴って賃貸人の地位が当然に移転します。賃借人の承諾は要りません。賃借人にとっては、誰が賃貸人であっても使用収益できれば不利益がないからです。物権変動の枠組みは不動産物権変動を参照してください。

    ただし移転を賃借人に主張するには手続が要ります。605条の2第3項は、賃貸人たる地位の移転は、賃貸物である不動産について所有権の移転の登記をしなければ、賃借人に対抗することができないとしています。新賃貸人が賃料を請求するには、所有権移転登記を備えている必要があるということです。

    そして605条の2第4項が、賃貸人たる地位が移転したときは、608条による費用償還債務と、622条の2第1項による敷金返還債務は譲受人またはその承継人が承継すると定めています。敷金は新賃貸人が引き継ぐので、賃借人は退去時に新賃貸人へ返還を請求します。

    地位を旧所有者に留保する合意

    民法605条の2第2項は、譲渡人と譲受人が、賃貸人たる地位を譲渡人に留保する旨、およびその不動産を譲受人が譲渡人に賃貸する旨の合意をしたときは、賃貸人たる地位は譲受人に移転しないと定めています。

    条文が2つの合意を要求している点に注意が必要です。留保する合意だけでは足りず、新所有者から旧所有者へ賃貸する合意もなければなりません。この2つがそろうと、旧所有者が新所有者から借りて賃借人に転貸している形になり、賃借人は転借人の立場になります。賃借人を転借人の地位に落とす以上、その保護のために厳格な要件が置かれているという理解です。

    さらに同項後段は、譲渡人と譲受人の間の賃貸借が終了したときは、譲渡人に留保されていた賃貸人たる地位は譲受人またはその承継人に移転するとしています。

    対抗要件がない場合の合意による移転

    民法605条の3は、不動産の譲渡人が賃貸人であるときは、その賃貸人たる地位は、賃借人の承諾を要しないで、譲渡人と譲受人との合意により、譲受人に移転させることができると定めています。この場合には605条の2第3項および4項が準用されます。

    605条の2が対抗要件を備えた賃借権を前提とするのに対し、605条の3は対抗要件の有無を問わず、譲渡人と譲受人の合意で地位を移せる場面の規定です。どちらの場合も賃借人の承諾は不要という点は共通しています。

    賃借権の譲渡と転貸

    賃貸人の承諾が必要な理由

    民法612条1項は「賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない」と定めています。同条2項は、賃借人がこれに違反して第三者に賃借物の使用または収益をさせたときは、賃貸人は契約の解除をすることができるとしています。

    承諾が必要とされるのは、賃貸借が賃貸人と賃借人の個人的な信頼を基礎にしているからです。誰が物を使うかは賃貸人にとって重大な関心事であり、勝手に使用者を入れ替えることは認められません。

    背信的行為と認めるに足りない特段の事情

    もっとも、無断譲渡・無断転貸があれば常に解除できるわけではありません。判例は、賃借人の行為が賃貸人に対する背信的行為と認めるに足りない特段の事情があるときは、賃貸人は612条2項による解除をすることができないとしています(最判昭和28年9月25日)。

    612条2項の解除権は、信頼関係が壊れたことを理由とするものです。だとすれば、形式的には無断譲渡・転貸にあたっても、実質的に信頼関係が壊れていない場面では解除を認める必要がありません。判断は個別の事情によりますが、個人事業を法人化して同一人が実質的に使い続けている場合や、同居の親族に使わせている場合が、背信性が否定されやすい類型として挙げられます。

    したがって「無断転貸があれば賃貸人は常に解除できる」という記述は誤りです。譲渡・転貸の詳細は賃借権の譲渡と転貸でも扱っています。

    適法な転貸があるときの三者の関係

    賃貸人の承諾を得た転貸では、当事者が3人になります。賃貸人と賃借人(転貸人)の間には原賃貸借が存続し、賃借人と転借人の間には転貸借が成立し、賃貸人と転借人の間には契約関係がありません。

    契約関係がないにもかかわらず、民法613条1項は「賃借人が適法に賃借物を転貸したときは、転借人は、賃貸人と賃借人との間の賃貸借に基づく賃借人の債務の範囲を限度として、賃貸人に対して転貸借に基づく債務を直接履行する義務を負う。この場合においては、賃料の前払をもって賃貸人に対抗することができない」と定めています。

    限度が二重にかかっている点が要点です。転借人が賃貸人に対して負うのは転貸借に基づく債務であり、かつ原賃貸借に基づく賃借人の債務の範囲が上限になります。したがって賃貸人が転借人から直接取れる賃料は、原賃貸借の賃料と転貸借の賃料の低いほうが限度です。

    そして前払いの抗弁が封じられています。転借人が転貸人に賃料を先に払っていても、そのことを賃貸人に主張できません。613条2項は、この規定が賃貸人が賃借人に対して権利を行使することを妨げないとしています。賃貸人は転借人に請求してもよいし、賃借人に請求してもよいということです。

    原賃貸借が終わったとき転借人はどうなるか

    原賃貸借が終了すると、転貸借の基礎が失われます。ただし終了の原因によって扱いが違い、ここが出題の中心になります。

    第一に合意解除です。民法613条3項は「賃借人が適法に賃借物を転貸した場合には、賃貸人は、賃借人との間の賃貸借を合意により解除したことをもって転借人に対抗することができない。ただし、その解除の当時、賃貸人が賃借人の債務不履行による解除権を有していたときは、この限りでない」と定めています。

    合意解除は賃貸人と賃借人が自分たちの意思で契約をやめる行為なので、その都合で転借人を追い出すことは認められません。ただし、その時点で債務不履行による解除権が現に発生していたのであれば、合意解除という形をとっただけで実質は債務不履行解除ですから、転借人に対抗できます。このただし書は2020年の改正で明文化されました。

    第二に債務不履行解除です。賃借人の賃料不払いなどにより原賃貸借が解除された場合、転貸借は転貸人の債務の履行不能により終了します。判例は、その終了時期を、賃貸人が転借人に対して目的物の返還を請求した時としています(最判平成9年2月25日)。解除の時点で自動的に終わるのではなく、賃貸人が転借人に明渡しを求めたときに終わる、という構成です。

    そして賃貸人は、解除に先立って転借人に賃料の支払いの機会を与える必要はありません。転借人を保護するために賃貸人に催告を義務づける規定は置かれていないからです。

    第三に期間満了や解約申入れによる終了です。民法にはこの場合の転借人保護の規定がありませんが、建物の転貸借については借地借家法34条が、建物の賃貸借が期間満了または解約申入れによって終了するときは、賃貸人は転借人にその旨の通知をしなければ終了を対抗できず、通知がされたときは通知の日から6か月を経過することによって転貸借が終了すると定めています。この6か月の通知は借地借家法の規定であって、民法613条3項の内容ではありません。

    敷金

    622条の2による明文化

    敷金については、2020年の改正まで民法に定義規定がありませんでした。民法622条の2第1項は、敷金を「いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭」と定義しています。

    名目を問わないと明記されているので、保証金と呼ばれていても、担保の目的で交付された金銭であれば敷金として扱われます。呼び名ではなく機能で判定するということです。

    返還の時期は2つ

    622条の2第1項は、賃貸人が敷金を受け取っている場合において、次に掲げるときは、受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の債務の額を控除した残額を返還しなければならないとしています。

    1号は、賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたときです。2号は、賃借人が適法に賃借権を譲り渡したときです。

    1号の書き方が重要です。賃貸借の終了だけでは足りず、目的物の返還を受けたことが要件になっています。したがって敷金返還義務と目的物返還義務は同時履行の関係に立ちません。賃借人が「敷金を返してくれるまで明け渡さない」と主張することはできず、先に明け渡してから残額の返還を受けます。

    明渡しまでに生じた損害も敷金から控除できるようにするための順序です。明渡しが済むまでは、控除すべき額が確定しないからです。

    充当は賃貸人の側からのみ

    622条の2第2項は、賃貸人は、賃借人が賃貸借に基づいて生じた金銭の給付を目的とする債務を履行しないときは、敷金をその債務の弁済に充てることができるとし、この場合において賃借人は、賃貸人に対し、敷金をその債務の弁済に充てることを請求することができないとしています。

    方向が一方通行です。賃料の滞納があったときに敷金を充てるかどうかは賃貸人が決めます。賃借人の側から「敷金があるのだから今月の賃料はそこから引いてほしい」と請求することはできません。敷金は賃貸人のための担保なので、担保をいつ実行するかは担保権者が決める、という発想です。

    なお、賃貸人の地位が移転したときは、前述の605条の2第4項により敷金返還債務は譲受人に承継されます。

    賃貸借の終了と信頼関係破壊の法理

    期間の定めがある場合とない場合

    期間の定めがある賃貸借は、期間の満了によって終了します。そのほか、当事者双方の合意による解除、賃料不払い等の債務不履行による解除で終了します。

    期間の定めがない賃貸借については、民法617条1項が、各当事者はいつでも解約の申入れをすることができるとし、申入れの日から次の期間を経過することによって終了するとしています。土地は1年、建物は3か月、動産および貸席は1日です。

    この期間は借地借家法が適用される建物賃貸借では修正され、賃貸人からの解約申入れは6か月前で、かつ正当の事由が必要になります。

    信頼関係破壊の法理

    賃借人に債務不履行があった場合、賃貸人は541条により催告のうえ解除できるのが原則です。しかし判例は、賃貸借が当事者間の信頼関係を基礎とする継続的契約であることから、債務不履行があっても信頼関係を破壊するに至らない特段の事情がある場合には、賃貸人による解除を認めないという立場をとっています。

    したがって「賃料を1回滞納すれば直ちに解除できる」という記述は誤りです。逆に、信頼関係が破壊されたと認められる程度に至っていれば、催告を要せずに解除できるとされる場面もあります。無断転貸についての背信性の判断も、この法理の一つの現れです。

    賃貸借の終了をめぐる実務上の注意点は賃貸借契約の注意点で扱っています。

    借地借家法とどう切り分けるか

    適用される場面とされない場面

    借地借家法は民法の特別法なので、適用される場面では民法に優先します。したがって最初に判定すべきは、その賃貸借に借地借家法が適用されるかどうかです。

    適用されるのは2つです。建物の所有を目的とする地上権または土地の賃借権、すなわち借地権。そして建物の賃貸借。この2つ以外の賃貸借には借地借家法が適用されず、民法の規定だけで処理します。

    適用されない典型が、駐車場としての土地の賃貸借、資材置場としての土地の賃貸借、看板を設置するための土地の賃貸借です。いずれも建物の所有を目的としていないので、借地権にあたりません。存続期間の上限は50年、更新に正当事由は不要、対抗要件は賃借権の登記のみ、という民法の原則がそのまま適用されます。借地権の成立要件は借地権の基本で扱っています。

    一時使用目的の借地権や一時使用目的の建物賃貸借についても、借地借家法の主要な規定の適用が除外されます。

    適用されると何が変わるか

    借地権については、存続期間が原則30年以上とされ、民法604条の上限は働きません。更新については、賃貸人が更新を拒絶するのに正当の事由が必要になります。対抗要件は借地上の建物の登記で足ります。定期借地権については定期借地権を参照してください。

    建物賃貸借については、民法604条が適用されないため存続期間に上限がなく、1年未満の期間を定めると期間の定めがない賃貸借とみなされます。対抗要件は建物の引渡しで足り、賃貸人からの解約申入れは6か月前かつ正当の事由が必要です。定期建物賃貸借については定期借家で扱っています。

    借地に関連して法定地上権が問題になる場面は法定地上権で扱っています。

    試験での出題ポイント

    改正前の数字と表現を混ぜてくる

    この分野の出題は、改正前の規定を使った選択肢を混ぜる形で作られます。狙われるのは決まっています。

    存続期間の上限を「20年」とする選択肢は誤りです。604条1項により50年です。

    賃借物の一部が使用収益できなくなった場合について「賃借人は賃料の減額を請求することができる」とする選択肢は誤りです。611条1項により、賃借人に帰責事由がなければ当然に減額されます。請求は要りません。

    原状回復義務について「通常損耗も賃借人が負担する」とする選択肢は誤りです。621条のかっこ書きが通常損耗と経年変化を「損傷」から除いています。

    敷金は「終了だけでは返らない」で処理する

    敷金の返還時期は、622条の2第1項1号の「賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき」という書きぶりがそのまま答えになります。

    したがって「敷金返還義務と明渡義務は同時履行の関係に立つ」とする選択肢は誤りです。賃借人が先に明け渡します。また「賃借人は未払賃料を敷金から充当するよう請求できる」とする選択肢も、622条の2第2項後段により誤りです。

    賃貸人の地位の移転は「承諾不要・登記必要」で覚える

    賃貸人の地位の移転では、2つの要素を入れ替える出題が作られます。

    賃借人の承諾については不要です(605条の2第1項、605条の3)。「賃借人の承諾がなければ賃貸人の地位は移転しない」とする選択肢は誤りです。

    一方、新賃貸人が賃借人に対して賃貸人であることを主張するには所有権移転登記が必要です(605条の2第3項)。「登記がなくても賃料を請求できる」とする選択肢は誤りです。承諾は要らないが登記は要る、という非対称が答えになります。

    転貸は終了原因ごとに結論が違う

    原賃貸借の終了と転借人の関係は、原因ごとに結論が分かれます。合意解除は転借人に対抗できません(613条3項本文)が、解除の当時に債務不履行による解除権があったときは対抗できます(同項ただし書)。債務不履行解除は転借人に対抗でき、転貸借は賃貸人が転借人に目的物の返還を請求した時に終了します(最判平成9年2月25日)。

    そして建物の転貸借について期間満了・解約申入れで終了する場合の通知と6か月の経過は、借地借家法34条の規定です。この条文番号を民法613条3項と取り違えさせる出題があるので、根拠条文まで結びつけて覚える必要があります。

    賃料の支払時期は「宅地」に注意

    614条は、動産、建物および宅地については毎月末、その他の土地については毎年末としています。「土地の賃料は毎年末払い」とだけ覚えていると、宅地の事例で誤ります。宅地は土地でありながら毎月末の側です。

    覚え方・整理の仕方

    改正で変わった5か所を1行ずつ持つ

    2020年4月1日施行の改正が入った箇所は、次の5つを1行で持っておくと選択肢の判定が速くなります。

    • 存続期間の上限は20年から50年(604条)
    • 一部滅失等による賃料減額は、請求ではなく当然に減額(611条1項)
    • 敷金は定義と返還時期が条文になった(622条の2)
    • 原状回復から通常損耗と経年変化が除かれた(621条)
    • 賃貸人の地位の移転が条文になった(605条の2、605条の3)

    古い教材や記憶がこの5つのどれかで止まっていると、そこだけ答えがずれます。

    費用は「直ちに必要、終わって有益」

    必要費は直ちに償還請求、有益費は賃貸借の終了時に償還請求。608条の1項と2項の順に「直ちに必要、終わって有益」と並べて覚えます。有益費は価格の増加が現存する場合に限られ、支出額か増価額かは賃貸人が選ぶ、という続きまでセットにしておきます。

    敷金は「返してから返す」

    目的物を返してもらってから敷金を返す。622条の2第1項1号の順序をこの一言で持っておけば、同時履行の関係に立たないことも、明渡しが先であることも同時に出てきます。

    充当の向きは「担保を実行するのは担保を持っている側」と考えます。敷金は賃貸人が持っている担保なので、充てるかどうかは賃貸人が決め、賃借人からは請求できません。

    転貸の終了は「合意はダメ、不履行はよい」

    原賃貸借の終了を転借人に対抗できるかは、「合意解除はダメ、債務不履行解除はよい」で入口を作ります。そのうえで、合意解除でも当時に解除権があれば対抗できる(613条3項ただし書)、債務不履行解除では返還請求の時に終了する(最判平成9年2月25日)という2つの但し書きを足します。

    借地借家法は「建物が絡むか」で判定する

    借地借家法が適用されるのは、建物の所有を目的とする土地の賃借権と、建物の賃貸借です。どちらにも建物が出てきます。駐車場、資材置場、看板用地には建物がないので、民法だけで処理します。

    「建物が絡むか」を最初に判定し、絡むなら借地借家法、絡まないなら民法。この一手を入れるだけで、存続期間や更新の答えを取り違えなくなります。

    理解度チェッククイズ

    Q1. 賃貸借の存続期間を60年と定めた場合、その定めは無効となり、期間の定めのない賃貸借となる。

    答えを見る 誤り。民法604条1項は「賃貸借の存続期間は、五十年を超えることができない。契約でこれより長い期間を定めたときであっても、その期間は、五十年とする」と定めています。定めが無効になるのではなく、期間が50年に短縮されます。なお上限が50年になったのは2020年4月1日施行の改正によるもので、改正前は20年でした。

    Q2. 賃借物の一部が賃借人の責めに帰することができない事由により使用できなくなった場合、賃借人は賃貸人に対し、使用できなくなった部分の割合に応じた賃料の減額を請求することができる。

    答えを見る 誤り。民法611条1項は、賃料は使用収益をすることができなくなった部分の割合に応じて「減額される」と定めており、請求を待たずに当然に減額されます。改正前は減額請求権として構成されていましたが、2020年4月1日施行の改正で当然減額に改められました。なお、残存部分だけでは賃借の目的を達することができないときは、賃借人は契約を解除できます(611条2項)。

    Q3. 賃貸借が終了した場合、賃借人は敷金の返還と目的物の明渡しが同時履行の関係にあることを理由に、敷金の返還を受けるまで明渡しを拒むことができる。

    答えを見る 誤り。民法622条の2第1項1号は、敷金の返還義務が生じるのを「賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき」としています。目的物の返還が先行するため、両者は同時履行の関係に立ちません。明渡しまでに生じた損害を控除できるようにするための順序です。また賃借人の側から敷金を未払賃料に充てるよう請求することもできません(同条2項後段)。

    Q4. 賃貸人と賃借人が原賃貸借を合意により解除した場合、賃貸人はその解除を適法な転借人に対抗することができない。ただし、解除の当時に賃貸人が賃借人の債務不履行による解除権を有していたときは、対抗することができる。

    答えを見る 正しい。民法613条3項がこのとおり定めています。合意解除は当事者の意思による終了なので転借人を犠牲にできませんが、その時点で債務不履行による解除権が現に発生していたのであれば、実質は債務不履行解除と変わらないため対抗できます。なお賃借人の債務不履行により原賃貸借が解除された場合、転貸借は賃貸人が転借人に目的物の返還を請求した時に履行不能により終了します(最判平成9年2月25日)。

    Q5. 対抗要件を備えた賃借権のある建物が譲渡された場合、賃貸人たる地位は譲受人に移転するが、譲受人が賃借人に対して賃料を請求するには所有権移転登記を備えなければならない。

    答えを見る 正しい。民法605条の2第1項により、賃貸借の対抗要件を備えている場合、不動産の譲渡に伴って賃貸人たる地位は譲受人に当然に移転し、賃借人の承諾は不要です。一方、同条3項は、賃貸人たる地位の移転は所有権の移転の登記をしなければ賃借人に対抗することができないとしています。承諾は不要だが登記は必要、という組み合わせで覚えます。

    まとめ

    民法の賃貸借について、条文単位で押さえるべき点を整理します。

    賃貸借は601条により諾成・有償・双務の契約として成立し、書面も引渡しも成立の要件ではありません。存続期間の上限は604条1項により50年で、これを超える定めは50年に短縮されます。期間満了後も使用を続け賃貸人が異議を述べなければ、従前と同一の条件で更新されたと推定されますが、期間の定めのない賃貸借になります(619条1項)。

    賃貸人は修繕義務を負い(606条1項)、賃借人が通知したのに相当期間内に修繕がないときや急迫の事情があるときは賃借人が自ら修繕できます(607条の2)。費用の償還は、必要費が直ちに、有益費が終了時です(608条)。目的物の一部が使えなくなれば賃料は当然に減額され(611条1項)、全部が使えなくなれば賃貸借は終了します(616条の2)。

    賃借人の側では、賃料は動産・建物・宅地が毎月末、その他の土地が毎年末の後払いで(614条)、原状回復の対象から通常損耗と経年変化が除かれます(621条)。

    対抗要件を備えた賃借権があれば、不動産の譲渡に伴って賃貸人の地位が当然に移転し、賃借人の承諾は不要ですが、賃借人に対抗するには所有権移転登記が必要です(605条の2)。譲渡・転貸には賃貸人の承諾が要り(612条1項)、無断であっても背信的行為と認めるに足りない特段の事情があれば解除できません(最判昭和28年9月25日)。敷金は賃貸借の終了かつ目的物の返還時に、控除後の残額を返還します(622条の2第1項1号)。

    そして借地借家法が適用されるのは、建物の所有を目的とする土地の賃借権と建物の賃貸借に限られます。駐車場や資材置場の賃貸借は民法だけで処理します。借地借家法による修正は借地借家法、賃貸借に関する重要事項説明は賃貸借の重要事項説明で扱っています。

    宅建試験AIブートラボの肢別トレーニングでは、権利関係の賃貸借と借地借家法の肢を単元別に演習できます。改正で答えが変わった論点が集まる分野なので、条文単位で確認しながら進めてください。

    読んだ内容を、権利関係の肢で確かめる

    民法・借地借家法・区分所有法など、条文だけでは判断しづらい論点は、過去問の肢で覚えるのが最短です。

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