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相続|相続人の範囲・法定相続分・遺留分

権利関係 読了 約24分

相続の総論を条文根拠つきで整理。相続人の範囲と順位、代襲相続、法定相続分、承認と放棄、遺産分割、配偶者居住権、遺留分侵害額請求、相続登記の義務化まで解説します。

目次

    この記事は、相続の総論として、誰が相続人になり、どういう割合で承継し、どこまでが最低限保障されるのかを条文に沿って整理するものです。遺言の方式は遺言の方式と要件、遺産分割の手続は遺産分割、放棄の実務は相続放棄、配偶者居住権の詳細は配偶者居住権で扱うので、ここでは全体の骨格に絞ります。

    結論を先に述べます。相続の問題は、相続人を確定する、相続分を計算する、最低保障である遺留分を確認する、という3段階で処理できます。そして近年の改正が集中した領域でもあり、遺留分は金銭債権に変わり、配偶者居住権が新設され、遺産分割前の預貯金の払戻し制度ができ、相続登記が義務化されました。古い教材のままでは対応できない箇所があるので、改正点を意識して確認してください。

    相続の開始と相続人の範囲

    死亡によって開始する

    民法882条は、相続は死亡によって開始すると定めています。開始するのに手続は要らず、届出も要りません。失踪宣告を受けた場合も死亡したものとみなされるため、相続が開始します。ここで注意したいのは、31条が「死亡したものとみなす」と書いている点です。推定ではないので、失踪者の生存が判明しても、家庭裁判所の取消しの審判を経るまで相続開始の効果は消えません。この構造は失踪宣告と同時死亡の推定で扱っています。

    そして883条は、相続は被相続人の住所において開始すると定めています。相続人の住所でも、財産の所在地でもありません。

    配偶者は常に相続人

    890条は、被相続人の配偶者は常に相続人となるとしています。他に誰が相続人になるかにかかわらず、配偶者は必ず相続人です。

    ここでいう配偶者は法律上の配偶者、すなわち婚姻の届出をしている者に限られます。長年同居していても、婚姻届が出ていない内縁の配偶者は相続人になりません。この点は繰り返し出題されます。

    血族相続人には順位がある

    配偶者以外の相続人、いわゆる血族相続人には順位があります。上位の順位の者がいれば、下位の者は相続人になりません。

    第1順位は子です(887条1項)。実子と養子を区別せず、嫡出子と嫡出でない子も区別しません。また886条により、胎児は相続については既に生まれたものとみなされます。ただし死産の場合は適用されません。

    第2順位は直系尊属です(889条1項1号)。子も代襲相続人もいない場合に相続人となります。父母と祖父母がいる場合は親等の近い父母が優先し、父母がいずれもいない場合に初めて祖父母が相続人になります。

    第3順位は兄弟姉妹です(889条1項2号)。子も直系尊属もいない場合に相続人となります。

    順位は絶対的で、子が一人でもいれば直系尊属は相続人になりません。「配偶者と子と父母が相続人になる」といった記述は、順位の理解を欠いた誤りです。

    何が承継されるのか

    896条本文は、相続人は相続開始の時から被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継すると定めています。プラスの財産だけでなく、債務も承継します。

    ただし同条ただし書は、被相続人の一身に専属したものはこの限りでないとしています。扶養を請求する権利や生活保護を受ける権利などがこれにあたります。

    宅建との関係で重要なのが使用貸借と賃貸借の違いです。597条3項は、使用貸借は借主の死亡によって終了すると定めているため、使用貸借の借主の地位は相続されません。これに対し賃借権は相続の対象になり、借主が死亡すれば相続人が賃借人の地位を承継します。無償で借りているか賃料を払っているかで結論が変わるので、混同しないでください。借地借家法上の権利の扱いは借地借家法で扱っています。

    生命保険金についても押さえておく価値があります。判例は、保険契約で受取人として指定された者が取得する保険金請求権は、その者の固有の権利であって相続財産には属さないとしています。したがって相続を放棄しても保険金は受け取れます。ただし、保険金の額が遺産の総額に比して著しく大きいなど特段の事情がある場合には、特別受益に準じて持戻しの対象となりうるとした判例もあります。

    相続人が数人いるときは共有になる

    898条1項は、相続人が数人あるときは、相続財産はその共有に属すると定めています。遺産分割が終わるまでは、個々の財産が誰のものかは確定せず、共同相続人の共有状態にあるということです。

    したがって、遺産分割前に共同相続人の一人が単独で不動産全体を処分することはできません。自分の持分を処分することはできますが、その場合には後述する909条ただし書が働き、譲り受けた第三者は分割の遡及効によって害されません。共有そのもののルールは共有を参照してください。

    なお、金銭債務のような可分債務は、遺産分割を待たずに法定相続分に応じて当然に分割されて各相続人に承継される、というのが判例の立場です。債権者は各相続人に対して、その法定相続分に応じた額を請求できます。

    代襲相続

    代襲原因は3つ

    相続人となるべき者が相続開始以前に死亡した場合などに、その者の子が代わって相続することを代襲相続といいます。

    887条2項は、被相続人の子が相続の開始以前に死亡したとき、または891条の規定に該当し、もしくは廃除によってその相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となると定めています。

    代襲原因は、死亡、相続欠格、廃除の3つです。ここに相続放棄は含まれません。相続放棄をした者の子は代襲相続できないという結論が、この条文から出ます。939条が、相続を放棄した者は初めから相続人でなかったものとみなすと定めている以上、代襲すべき地位がそもそも存在しないからです。

    なお、条文は「相続の開始以前に死亡したとき」と書いています。「以前」なので、被相続人と同時に死亡した場合も含まれます。32条の2は、死亡の先後が明らかでないときは同時に死亡したものと推定すると定めており、同時死亡者どうしの間では相続が生じません。それでも「以前」に当たるため代襲相続は生じる、という結論になります。この二段の処理は失踪宣告と同時死亡の推定で扱っています。

    子は再代襲、兄弟姉妹は一代限り

    887条3項は、2項の規定を代襲者がさらに相続権を失った場合について準用しています。したがって、子が死亡していれば孫が、孫も死亡していればひ孫がというように、直系卑属である限り再代襲が続きます。

    これに対し889条2項は、兄弟姉妹について887条2項だけを準用し、3項を準用していません。したがって兄弟姉妹の代襲は甥姪までの一代限りで、甥姪の子は代襲相続できません。

    条文の準用のしかたが結論を分けているので、「子は再代襲あり、兄弟姉妹は一代限り」という結論とあわせて、なぜそうなるかを覚えておくと忘れません。

    相続欠格と廃除

    代襲原因になる相続欠格と廃除は、性質が違います。

    891条が定める相続欠格は、被相続人や先順位・同順位の相続人を故意に死亡させ、または死亡させようとして刑に処せられた者、被相続人が殺害されたことを知りながら告発・告訴しなかった者、詐欺または強迫によって遺言を妨げた者やさせた者、遺言書を偽造・変造・破棄・隠匿した者について、当然に相続人となることができないとするものです。家庭裁判所の手続は不要で、被相続人の意思にも関係しません。

    892条が定める廃除は、遺留分を有する推定相続人が被相続人に虐待や重大な侮辱を加えたとき、その他の著しい非行があったときに、被相続人が家庭裁判所に請求して相続権を奪う制度です。家庭裁判所の審判が必要で、被相続人の意思にもとづきます。

    対象者にも違いがあります。廃除の対象は遺留分を有する推定相続人に限られます。遺留分のない兄弟姉妹については、遺言で相続させないと書けば足りるので、廃除の制度を使う必要がないからです。

    いずれも代襲原因になる点は共通しています。欠格や廃除は本人の行為に対する制裁であって、その子に責任はないからです。

    法定相続分

    3つの組み合わせ

    900条は法定相続分を定めています。組み合わせは3つです。

    配偶者と子が相続人であるときは、配偶者が2分の1、子が2分の1です。配偶者と直系尊属であるときは、配偶者が3分の2、直系尊属が3分の1です。配偶者と兄弟姉妹であるときは、配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1です。

    配偶者がいなければ、血族相続人が全部を承継します。血族相続人がいなければ、配偶者が全部を承継します。

    同順位の者が数人いるときは、原則として頭割りです(900条4号本文)。配偶者と子2人であれば、配偶者が2分の1、子がそれぞれ4分の1になります。配偶者と父母であれば、配偶者が3分の2、父母がそれぞれ6分の1です。

    半血兄弟姉妹だけが例外

    900条4号ただし書は、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の2分の1とすると定めています。

    全血の兄と半血の姉が相続人であれば、比は2対1になり、兄が3分の2、姉が3分の1です。配偶者がいる場合は、兄弟姉妹の取り分である4分の1をこの比で分けるので、兄が6分の1、姉が12分の1になります。

    頭割りが原則の中で、この半血兄弟姉妹だけが例外です。

    嫡出でない子の相続分は同等

    かつて900条4号ただし書には、嫡出でない子の相続分を嫡出子の2分の1とする部分がありました。しかし最高裁は平成25年9月4日の大法廷決定で、遅くとも平成13年7月当時においてこの規定は憲法14条1項に違反していたと判断しました。家族の形が多様化し、子にとって自ら選択できない事情によって不利益を及ぼすことは許されない、という趣旨です。

    これを受けて同年に民法が改正され、当該部分は削除されました。現在、嫡出子と嫡出でない子の相続分は同等です。古い教材に「2分の1」と書かれていれば、それは改正前の内容です。

    代襲相続人の相続分

    901条は、代襲相続人の相続分は被代襲者が受けるべきであったものと同じであり、代襲相続人が数人あるときはその相続分を頭割りにすると定めています。

    配偶者と、既に死亡した子の子である孫2人が相続人であれば、子が受けるべきであった2分の1を孫2人で分けるので、孫はそれぞれ4分の1です。孫が3人いれば、それぞれ6分の1になります。人数が増えても、被代襲者の枠が広がるわけではありません。

    相続の承認と放棄

    熟慮期間は3か月

    915条1項は、相続人は自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、単純承認、限定承認または放棄をしなければならないと定めています。この3か月を熟慮期間といいます。

    起算点が「自己のために相続の開始があったことを知った時」である点が重要です。被相続人の死亡の時からではありません。疎遠だった親族の死亡を後から知った場合、知った時から数えます。家庭裁判所への申立てにより期間を伸長することもできます。

    3つの選択肢

    単純承認は、被相続人の権利義務を無限に承継するものです。921条は、相続人が相続財産の全部または一部を処分したとき、熟慮期間内に限定承認も放棄もしなかったとき、限定承認や放棄をした後に相続財産を隠匿したり私に消費したりしたときは、単純承認をしたものとみなすと定めています。これを法定単純承認といいます。何もしなければ単純承認になる、という点が実務上も重要です。

    限定承認は、相続によって得た財産の限度においてのみ債務を弁済するという留保付きの承認です。923条は、相続人が数人あるときは、限定承認は共同相続人の全員が共同してのみこれをすることができると定めています。一人でも反対すれば限定承認はできません。

    相続放棄は、938条により家庭裁判所への申述によって行い、939条により初めから相続人でなかったものとみなされます。限定承認と違って各相続人が単独でできます。放棄すると次順位の者が相続人になるので、子が全員放棄すれば直系尊属が、直系尊属もいなければ兄弟姉妹が相続人になります。

    限定承認は全員共同、放棄は単独。この対比が最も問われます。放棄の効果と実務は相続放棄で扱っています。

    遺産分割

    分割の基準と遡及効

    906条は、遺産の分割は遺産に属する物または権利の種類および性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態および生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをすると定めています。

    そして909条本文は、遺産の分割は相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずるとしています。分割の結果、ある不動産を取得した相続人は、相続開始の時からその不動産を単独で所有していたことになるということです。

    ただし909条ただし書は、第三者の権利を害することはできないとしています。分割前に共同相続人の一人から持分を譲り受けた第三者などは、遡及効によって権利を失うことはありません。遡及効を貫くと取引の安全が害されるためです。分割の手続と方法は遺産分割にまとめてあります。

    遺産分割前の預貯金の払戻し

    かつて、預貯金債権は遺産分割の対象となり、分割が終わるまで相続人が単独で払い戻すことができないとされていました。しかし葬儀費用や当面の生活費が必要な場面では、これでは困ります。

    そこで909条の2が新設されました。各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち、相続開始の時の債権額の3分の1に自己の法定相続分を乗じた額について、単独でその権利を行使できます。ただし、一つの金融機関から払戻しを受けられる額には法務省令で定める上限があり、150万円とされています。

    払い戻した分は、その相続人が遺産の一部の分割によって取得したものとみなされます。あとで清算されるということです。この制度は2019年7月1日施行の改正で導入されました。

    相続開始から10年で扱いが変わる

    2023年4月1日施行の改正で、904条の3が新設されました。相続開始の時から10年を経過した後にする遺産の分割については、原則として特別受益と寄与分の規定が適用されず、法定相続分(または指定相続分)によることになります。

    例外もあります。10年を経過する前に相続人が家庭裁判所に遺産の分割を請求したとき、あるいは期間の満了前6か月以内に分割を請求できないやむを得ない事由があり、その事由が消滅した時から6か月を経過する前に請求したときは、従前どおり具体的相続分によることができます。

    長期間放置された遺産分割を促し、所有者不明土地の発生を抑えるための改正です。次に述べる相続登記の義務化と同じ問題意識から出ています。

    相続と登記

    法定相続分を超える部分は登記が必要

    899条の2第1項は、相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、法定相続分または指定相続分を超える部分については、登記その他の対抗要件を備えなければ第三者に対抗することができないと定めています。

    裏返すと、法定相続分までの部分については、登記がなくても第三者に対抗できます。相続は当事者の意思によらずに生じるものなので、法定相続分の範囲では登記を要求しないという整理です。

    これに対し、遺産分割や特定の財産を相続させる旨の遺言によって法定相続分を超える権利を取得した場合は、その超える部分について登記が必要になります。この規定は2019年7月1日施行の改正で導入されたもので、それ以前は「相続させる」旨の遺言による取得には登記が不要とされていました。判例の立場を変更した改正なので、古い解説と食い違うことがあります。対抗要件の考え方全般は不動産物権変動で扱っています。

    相続登記の申請が義務になった

    2024年4月1日施行の改正不動産登記法により、相続登記の申請が義務になりました。

    不動産登記法76条の2第1項は、相続により不動産の所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、その所有権を取得したことを知った日から3年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならないと定めています。遺贈により所有権を取得した相続人も同様です。

    正当な理由がないのに申請を怠ったときは、10万円以下の過料の適用対象になります(164条1項)。

    そして重要なのが適用範囲です。この義務は施行前に発生した相続にも及びます。施行日より前に相続が開始していて未登記のものについては、施行日である2024年4月1日から3年以内、すなわち2027年3月31日までに申請する必要があります。

    相続人申告登記

    遺産分割がまとまらない場合、3年以内に所有権移転登記をすることが難しいこともあります。そこで76条の3が、相続人申告登記という簡易な仕組みを設けました。

    登記名義人について相続が開始したことと、自分がその相続人であることを登記官に申し出れば、申請義務を履行したものとみなされます。持分の割合を確定させる必要がなく、単独で申し出ることができます。

    ただし、これは義務を免れるための暫定的な手当てであり、権利を公示するものではありません。その後に遺産分割が成立したときは、成立した日から3年以内に改めて所有権移転登記を申請する必要があります。登記の仕組みそのものは不動産登記の基礎登記簿の読み方を参照してください。

    配偶者居住権と配偶者短期居住権

    2020年4月1日施行の改正により、配偶者の居住を保護する2つの権利が新設されました。

    配偶者居住権

    1028条以下が定める配偶者居住権は、被相続人の配偶者が相続開始の時に被相続人所有の建物に居住していた場合に、その建物の全部について無償で使用および収益をすることができる権利です。

    取得の方法は、遺産分割、遺贈、そして家庭裁判所の審判です。当然に発生するものではありません。存続期間は原則として配偶者の終身ですが、遺産分割や遺言で別段の定めをすることもできます。

    この権利の意義は、居住権と所有権を分けられる点にあります。従来は、配偶者が自宅を確保しようとすると自宅の所有権を取得するほかなく、その評価額が相続分に食い込んで預貯金を受け取れないという問題がありました。居住権だけを取得すれば、評価額が抑えられ、生活資金も確保できます。

    1031条は、居住建物の所有者は配偶者に対し配偶者居住権の設定の登記を備えさせる義務を負うとしています。そして登記を備えれば第三者に対抗できます。建物が第三者に売却されても、登記があれば居住を続けられるということです。

    一方、1032条2項により配偶者居住権は譲渡することができません。配偶者の居住を保護するための権利であり、換価して他人に移す性質のものではないからです。

    配偶者短期居住権

    1037条以下が定める配偶者短期居住権は、相続開始の時に被相続人所有の建物に無償で居住していた配偶者が、一定期間その建物を無償で使用できる権利です。

    最大の違いは、遺産分割や遺贈を要せず法律上当然に発生する点です。相続開始と同時に生じます。

    存続期間は、配偶者が遺産分割に関与する場合、遺産分割により居住建物の帰属が確定した日または相続開始の時から6か月を経過する日のいずれか遅い日までです。それ以外の場合は、居住建物の取得者から消滅の申入れを受けた日から6か月を経過する日までとなります。

    そして、配偶者短期居住権には登記に関する規定がありません。したがって登記することができず、第三者に対抗することもできません。譲渡できない点は配偶者居住権と同じです。

    登記できるのは配偶者居住権だけ、当然に発生するのは配偶者短期居住権だけ。この2点が対比の中心です。詳細は配偶者居住権にまとめてあります。

    遺留分

    兄弟姉妹には遺留分がない

    1042条1項は、兄弟姉妹以外の相続人は遺留分として一定の割合に相当する額を受けると定めています。条文が最初に兄弟姉妹を除いていることに注目してください。

    したがって、遺留分を有するのは配偶者、子(代襲相続人を含む)、直系尊属です。兄弟姉妹は相続人になることはあっても、遺留分は持ちません。被相続人が全財産を第三者に遺贈すれば、兄弟姉妹は何も受け取れません。

    割合は2段階で計算する

    1042条1項は、直系尊属のみが相続人である場合を3分の1、それ以外の場合を2分の1としています。これが相続財産全体に対する遺留分の総枠です。

    同条2項は、相続人が数人あるときは、この割合に各自の相続分を乗じた割合とすると定めています。つまり、総枠を法定相続分で分けるという2段階の計算です。

    配偶者と子2人であれば、総枠は2分の1で、配偶者の法定相続分が2分の1なので、配偶者の遺留分は4分の1です。子は法定相続分が4分の1ずつなので、遺留分は8分の1ずつになります。

    配偶者と直系尊属であれば、総枠は2分の1です。直系尊属のみが相続人の場合ではないので3分の1にはなりません。配偶者の法定相続分3分の2を乗じて3分の1、直系尊属は3分の1を乗じて6分の1です。

    配偶者と兄弟姉妹であれば、総枠2分の1に配偶者の法定相続分4分の3を乗じて8分の3が配偶者の遺留分となり、兄弟姉妹には遺留分がありません。

    「直系尊属のみが相続人である場合」という限定を落として、配偶者と直系尊属の場合にも3分の1を使ってしまう誤りが典型的です。

    金銭債権に変わった

    2019年7月1日施行の改正で、この分野は大きく変わりました。

    1046条1項は、遺留分権利者およびその承継人は、受遺者または受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができると定めています。請求できるのは金銭であり、それだけです。

    改正前は遺留分減殺請求権と呼ばれ、請求すると当然に物権的な効力が生じて、目的物が遺留分権利者と受遺者の共有になっていました。事業用の不動産や自社株が共有になってしまい、事業承継の妨げになるという問題があったため、金銭債権に改められたのです。

    したがって、現行法のもとで「遺留分減殺請求」「物権的効力」「現物の返還を請求できる」といった説明は、いずれも改正前の制度です。古い教材や解説が残っている領域なので、注意してください。改正点の全体像は民法改正のポイントで扱っています。

    期間の制限

    1048条は、遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が相続の開始および遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは時効によって消滅するとし、相続開始の時から10年を経過したときも同様とすると定めています。

    条文はどちらも「時効によって消滅する」という形で書いていますが、後段の10年については除斥期間と解されています。1年は知った時から、10年は相続開始の時からと、起算点が違う点も確認してください。

    遺留分の放棄

    1049条1項は、相続の開始前における遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を受けたときに限りその効力を生ずると定めています。相続開始後であれば、許可を要せず自由に放棄できます。

    生前の放棄に許可を要するのは、被相続人が推定相続人に圧力をかけて放棄させることを防ぐためです。相続放棄が相続開始前には一切できないのと対比しておいてください。

    そして1049条2項は、共同相続人の一人がした遺留分の放棄は、他の各共同相続人の遺留分に影響を及ぼさないと定めています。一人が放棄しても、他の相続人の遺留分が増えるわけではありません。

    なお、遺留分の放棄は相続の放棄とは別のものです。遺留分を放棄しても相続人としての地位は失わないので、遺産分割には参加できますし、債務も承継します。

    遺言と相続の関係

    遺言の方式そのものは遺言の方式と要件で扱いますが、相続との関係で押さえておくべき点を挙げておきます。

    遺言は要式行為であり、民法が定める方式に従わなければ無効です。遺言をするには15歳に達していれば足り(961条)、制限行為能力者であっても法定代理人の同意なしに遺言できます。

    遺言があれば、法定相続分の定めは遺言に優先されます。ただし遺留分は遺言によっても奪えません。全財産を第三者に遺贈する遺言も有効ですが、遺留分権利者は侵害額に相当する金銭の支払いを請求できます。

    そして1022条により、遺言者はいつでも遺言の方式に従って遺言の全部または一部を撤回できます。前の遺言と後の遺言が抵触する場合、遺言と遺言後の生前処分が抵触する場合は、抵触する部分について後の意思が優先します。公正証書遺言の作成をめぐる近年の動きは公正証書遺言のオンライン化で扱っています。

    試験での出題ポイント

    相続人の確定でつまずかせる

    家族構成を与えて相続分を計算させる問題では、まず相続人を確定できるかが問われます。相続放棄をした者がいる、既に死亡した子に子がいる、内縁の配偶者がいる、といった条件が紛れ込んでいます。

    とくに相続放棄は要注意です。放棄した者は初めから相続人でなかったことになるので、その子は代襲相続せず、かつ次順位の者が相続人になります。子が全員放棄すれば直系尊属が相続人になる、という連鎖まで追えるようにしてください。

    代襲の範囲を入れ替える

    「兄弟姉妹の代襲は甥姪の子まで及ぶ」「相続放棄をした者の子が代襲相続する」という記述はいずれも誤りです。子は再代襲あり、兄弟姉妹は一代限り、放棄は代襲原因でない。この3点です。

    遺留分の総枠の条件を落とす

    「直系尊属のみが相続人である場合」の3分の1を、配偶者と直系尊属の場合にも当てはめる誤りです。配偶者がいる時点で「それ以外の場合」に当たり、総枠は2分の1になります。

    遺留分を旧制度で書く

    「遺留分減殺請求により目的物は共有になる」「現物の返還を請求できる」といった記述は、2019年7月1日施行の改正前の内容です。現行法では金銭の支払請求だけです。改正から年数が経っていますが、旧制度で書かれた選択肢は依然として作られます。

    配偶者居住権と短期居住権を入れ替える

    登記できるのは配偶者居住権のみ、当然に発生するのは配偶者短期居住権のみ。存続期間は終身と6か月。譲渡できない点は共通。この4点で誤りが作られます。

    相続財産に含まれるかを問う

    使用貸借の借主の地位は相続されず(597条3項)、賃借権は相続されます。生命保険金の請求権は受取人の固有の権利であって相続財産に属しません。これらを入れ替えた選択肢が作られます。

    とくに「相続を放棄した者は生命保険金も受け取れない」という記述は誤りです。放棄によって失うのは相続人としての地位であり、受取人固有の権利には影響しません。相続財産に属するかどうかという枠組みで判断してください。

    相続登記の義務化の細部

    3年という期間、10万円以下の過料、施行前の相続にも適用されること、相続人申告登記で義務を履行したものとみなされること。とくに「施行前の相続には適用されない」という記述は誤りです。権利関係の頻出テーマ全体は権利関係の頻出論点で確認できます。

    覚え方・整理の仕方

    3段階で処理する

    相続の問題は、相続人を確定する、相続分を計算する、遺留分を確認する、という順序で処理します。相続人の確定を飛ばして計算に入ると、放棄や代襲の条件を見落とします。家族関係図を書き、放棄した者に印をつけ、死亡した者に代襲者がいるかを確認してから、はじめて分数の計算に入ってください。

    配偶者の取り分は分数が1つずつ増える

    配偶者の法定相続分は、子と組めば2分の1、直系尊属と組めば3分の2、兄弟姉妹と組めば4分の3です。分母も分子も1ずつ増えます。血族相続人が被相続人から遠くなるほど配偶者の取り分が増える、という理屈とセットで覚えれば、順番を取り違えません。

    遺留分は「兄弟なし、尊属のみ3分の1」

    遺留分について覚えるべきことは2つだけです。兄弟姉妹には遺留分がないこと。総枠は直系尊属のみが相続人の場合が3分の1で、それ以外は2分の1であること。あとは法定相続分を乗じるだけです。

    単独でできるか、全員でするか

    限定承認は共同相続人の全員が共同してのみできる。放棄は各相続人が単独でできる。909条の2の預貯金の払戻しも単独でできる。遺留分の放棄も単独でできる。全員でしなければならないのは限定承認だけだ、と押さえておけば迷いません。

    改正点は4つに束ねる

    近年の改正は、遺留分が金銭債権になったこと(2019年7月1日)、配偶者居住権が新設されたこと(2020年4月1日)、遺産分割に10年の区切りができたこと(2023年4月1日)、相続登記が義務化されたこと(2024年4月1日)の4つに束ねられます。施行日順に並べておくと、どれが新しい制度かを取り違えません。相続と不動産の関係は相続と不動産の基礎、税の扱いは贈与税と相続税で扱っています。

    理解度チェッククイズ

    Q1. 被相続人の子が相続を放棄した場合、その子(被相続人の孫)が代襲して相続人となる。(○か×か)

    答えを見る×:887条2項が定める代襲原因は、相続開始以前の死亡、891条の相続欠格、そして廃除の3つであり、相続放棄は含まれていません。939条により、相続を放棄した者は初めから相続人でなかったものとみなされるため、代襲すべき地位そのものが存在しないからです。この場合、子が全員放棄すれば次順位である直系尊属が相続人となり、直系尊属もいなければ兄弟姉妹が相続人になります。

    Q2. 配偶者と直系尊属が相続人である場合、遺留分の総枠は相続財産の3分の1である。(○か×か)

    答えを見る×:1042条1項が3分の1としているのは「直系尊属のみが相続人である場合」です。配偶者がいる以上「それ以外の場合」に当たり、総枠は2分の1になります。そのうえで同条2項により法定相続分を乗じるので、配偶者の遺留分は2分の1×3分の2で3分の1、直系尊属は2分の1×3分の1で6分の1です。総枠の3分の1と、計算結果の3分の1が紛らわしいので、条件を落とさず読んでください。

    Q3. 遺留分を侵害された相続人は、受遺者に対し、遺贈された不動産そのものの返還を請求することができる。(○か×か)

    答えを見る×:1046条1項により、請求できるのは遺留分侵害額に相当する金銭の支払いだけです。2019年7月1日施行の改正前は遺留分減殺請求権と呼ばれ、請求により当然に物権的効力が生じて目的物が共有になっていましたが、事業承継の妨げになるという問題から金銭債権に改められました。「減殺請求」「現物返還」「共有になる」といった記述は、いずれも改正前の制度です。

    Q4. 配偶者短期居住権は、登記をすることにより第三者に対抗することができる。(○か×か)

    答えを見る×:配偶者短期居住権には登記に関する規定がなく、登記することができません。したがって第三者に対抗することもできません。登記を備えさせる義務が定められ、登記により対抗できるのは配偶者居住権のほうです(1031条)。一方、配偶者短期居住権は遺産分割や遺贈を要せず相続開始と同時に法律上当然に発生する点が特徴で、配偶者居住権が遺産分割・遺贈・審判によって取得されるのと対照的です。譲渡できない点は両者に共通しています。

    Q5. 相続登記の申請義務は2024年4月1日から始まった制度なので、施行日より前に開始した相続については申請義務を負わない。(○か×か)

    答えを見る×:施行前に開始した相続にも適用されます。不動産登記法76条の2の義務は、原則として自己のために相続の開始があったことを知り、かつ所有権を取得したことを知った日から3年以内ですが、施行日前に相続が開始し未登記であるものについては、施行日である2024年4月1日から3年以内に申請する必要があります。正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象です(164条1項)。遺産分割がまとまらない場合は、76条の3の相続人申告登記を単独で申し出れば、申請義務を履行したものとみなされます。

    まとめ

    相続は、相続人の確定、相続分の計算、遺留分の確認という3段階で処理します。配偶者は常に相続人となり(890条)、血族相続人は子、直系尊属、兄弟姉妹の順です。代襲は死亡・欠格・廃除を原因とし、放棄は含まれません。子は再代襲まで及びますが、兄弟姉妹は889条2項が887条3項を準用していないため一代限りです。

    法定相続分は、配偶者と子で2分の1ずつ、配偶者と直系尊属で3分の2と3分の1、配偶者と兄弟姉妹で4分の3と4分の1。同順位は頭割りで、半血兄弟姉妹だけが2分の1という例外です。遺留分は兄弟姉妹にはなく、総枠は直系尊属のみが相続人の場合が3分の1、それ以外が2分の1で、これに法定相続分を乗じます。

    そして改正点です。遺留分は金銭債権になり現物返還はできません。配偶者居住権は登記でき譲渡できず、配偶者短期居住権は当然に発生するが登記できません。遺産分割前でも預貯金を一定額まで単独で払い戻せます。相続開始から10年で特別受益と寄与分の主張ができなくなります。相続登記は3年以内の申請が義務で、施行前の相続にも及びます。古い教材では追いつかない部分なので、施行日とセットで確認してください。

    宅建試験AIブートラボのアプリでは、相続の過去問を条文根拠つきの解説で演習でき、代襲相続や遺留分の計算といったつまずきやすい箇所を繰り返し確認できます。

    読んだ内容を、権利関係の肢で確かめる

    民法・借地借家法・区分所有法など、条文だけでは判断しづらい論点は、過去問の肢で覚えるのが最短です。

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