地上権・地役権・永小作権|用益物権を比較整理
地上権・地役権・永小作権を条文に沿って比較。譲渡転貸の自由、登記請求権、対抗要件、抵当権の目的になるかなど、賃借権との違いを軸に整理します。
目次
この記事は、民法が定める用益物権のうち、宅建試験で問われる地上権・地役権・永小作権を、賃借権との違いを軸に整理する記事です。物権と債権の区別そのものを確認したい場合は物権変動と対抗要件|登記の役割と第三者の範囲を、賃貸借の側から見たい場合は民法の賃貸借|存続期間・対抗要件・敷金を整理を先に押さえておくと、本記事の対比が読みやすくなります。
結論を先に述べます。用益物権を覚える作業は、三つの権利それぞれの中身を暗記することではなく、「物権だから何ができるのか」を一本の軸として持ち、そこから各権利の個性を枝分かれさせることです。物権であるがゆえに、地上権も永小作権も原則として所有者の承諾なしに譲渡でき、登記を求める権利があり、抵当権の目的にもなります。賃借権にはこれがありません。地役権だけは、要役地という土地に付いて回る性質から、この原則がさらに変形します。この構造を掴めば、細かい条文はあとから乗せられます。
もうひとつ、本記事では条文の並びそのものを手がかりにします。民法第二編(物権)の第四章に地上権、第五章に永小作権、第六章に地役権が置かれ、どの章も「その権利は何をする権利か」を定める条文から始まります。265条、270条、280条です。共通しているのはここまでで、その先に何を置くかは章ごとに違います。地上権の章は対価(266条)と存続期間(268条)を置き、永小作権の章は土地の変更制限や処分(271条から273条まで)を先に置いてから小作料をめぐる規律(274条から276条まで)と存続期間(278条)に進み、地役権の章は対価の条文も存続期間の条文も持たず、いきなり付従性(281条)と不可分性(282条)から入ります。
章に何が置かれていて何が置かれていないか、それ自体が三つの権利の差です。地役権に存続期間の規定がないのは、要役地という土地に付いた権利で、人の代替わりとは切り離されているからです。永小作権に土地の変更制限があって地上権にないのは、耕作・牧畜のための権利か、工作物を建てるための権利かの違いです。試験の選択肢は、この「章にないもの」を足したり、章をまたいで数字を移し替えたりして作られます。地上権の地代(266条)の位置に永小作権の小作料(270条)の性質を書く、永小作権の存続期間(278条1項)の数字を地上権の裁判所による期間決定(268条2項)の位置に置く、といった具合です。どの章のどのあたりに書いてある話かを添えて覚えると、この種の入れ替えに気づけるようになります。
用益物権とは何か
所有権を分けて使う仕組み
所有権は、物を使用し、収益し、処分できる権利です(民法206条)。用益物権は、このうち使用と収益の部分を、所有者以外の者に物権として与える仕組みです。所有者には処分権と、用益物権が消滅した後に完全な支配が戻る地位が残ります。
物権として与える、という点が決定的です。物権は物を直接に支配する権利なので、誰に対しても主張でき、権利の内容が法律で定められ、原則として自由に処分できます。これに対して債権は特定の相手方に対する請求権にすぎず、相手方以外には主張できないのが出発点です。土地を借りる方法として、物権による方法と債権による方法の二本立てが用意されている、というのが用益物権を理解する入口になります。
民法が定める四つの用益物権
民法が定める用益物権は四つです。地上権(265条以下)、永小作権(270条以下)、地役権(280条以下)、そして入会権です。入会権は、共有の性質を有するものが263条、共有の性質を有しないものが294条に置かれています。263条は「各地方の慣習に従うほか、この節の規定を適用する」として共有の規定を、294条は「各地方の慣習に従うほか、この章の規定を準用する」として地役権の章の規定を、それぞれ後ろに置いています。慣習が先で条文が後、という順番が条文自体に書かれているのが入会権の特徴です。宅建試験で正面から問われることはまずないので、四つ目があるという知識だけで足ります。共有の規定そのものは共有|持分・変更・管理・分割を条文で整理で扱っています。
残る三つには、目的による住み分けがあります。地上権は工作物または竹木を所有するため、永小作権は耕作または牧畜のため、地役権は自分の土地の便益のためです。この目的の違いが、そのまま存続期間や対価の扱いの違いにつながっていきます。
慣習が条文を押しのける場面がある
用益物権の章には「別段の慣習があるときはその慣習に従う」という規定が繰り返し現れます。地上権では、存続期間を定めなかった場合の放棄について「別段の慣習がないときは」という限定が付き(268条1項)、工作物等の収去についても「前項の規定と異なる慣習があるときは、その慣習に従う」とされています(269条2項)。永小作権では、271条から276条までの規定について「これと異なる慣習があるときは、その慣習に従う」という総括規定が277条に置かれ、存続期間を定めなかった場合の30年も「別段の慣習がある場合を除き」という限定付きです(278条3項)。
これは、用益物権が近代法の産物というより、土地の使い方についての各地の慣行を法典に取り込んだ制度だからです。試験対策としては、条文の数字を覚えるときに「慣習があれば動く数字か、動かない数字か」を区別しておけば足ります。永小作権の存続期間の上限50年(278条1項)は慣習で伸ばせません。277条が慣習優先とするのは271条から276条までであって、278条は含まれていないからです。条文が慣習優先の範囲を条番号で区切っているという、この読み方が問われます。
用益物権も時効で取得できる
163条は、所有権以外の財産権を自己のためにする意思をもって平穏かつ公然と行使する者は、162条の区別に従い20年または10年を経過した後にその権利を取得すると定めています。162条2項の10年は占有開始時に善意無過失であった場合ですから、用益物権の取得時効も、原則20年・善意無過失なら10年という枠組みになります。
地役権については、この一般則に283条が上乗せの絞りをかけています。継続的に行使され、かつ外形上認識することができるものに限る、という制限です。逆に言えば、地上権や永小作権には283条のような絞りがなく、163条の一般則で処理されます。時効制度そのものの要件と効果は時効|取得時効と消滅時効の要件・効果を解説で扱っているので、そちらを土台にして本記事の特則を乗せる形で読んでください。
担保物権との対比で位置づける
物権のうち、他人の物の上に成立するものを制限物権と呼び、これが用益物権と担保物権に分かれます。用益物権は物を使うことを目的とし、担保物権は物の交換価値を押さえて債権の回収を確保することを目的とします。
抵当権は担保物権の代表で、目的物を使うわけではないので、抵当権が設定されていても所有者は土地を使い続けられます(民法369条1項)。一方、地上権が設定されると、その土地は原則として地上権者が使い、所有者は使えなくなります。同じ物権でも働き方が正反対である、という対比を持っておくと、両者が同じ土地に併存する場面の理解が早くなります。抵当権の仕組みは抵当権の基本|設定・効力の及ぶ範囲と賃借権で、担保物権四類型の全体地図は質権と先取特権|担保物権4類型の地図として読むで扱っています。
この対比は、条文の書き方にも出ています。369条1項は抵当権を「占有を移転しないで債務の担保に供した不動産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利」と定義しています。占有を移転しない、弁済を受ける、という二つの言葉が担保物権の性格を言い切っています。これに対し265条は「その土地を使用する権利」、270条は「耕作又は牧畜をする権利」、280条は「自己の土地の便益に供する権利」です。用益物権の三か条はいずれも動詞が「使う」側にあり、金銭の回収に触れていません。定義の動詞を見れば、その物権がどちらの系統かは判別できます。
地上権
265条が定める内容
地上権とは、他人の土地において工作物または竹木を所有するため、その土地を使用する権利です(民法265条)。工作物は建物、橋、鉄塔、地下トンネルなど土地に定着する人工物を広く含み、竹木は植林などを指します。
注意したいのは、目的が「所有するため」に限定されていることです。単に土地を通行したい、資材を置きたいという目的では地上権を設定できません。所有すべき工作物や竹木があって初めて成立する権利です。したがって「他人の土地を駐車場として使うために地上権を設定する」という記述は、目的の点で疑問が生じます。
地代は成立要件ではない
地上権にとって地代は要素ではありません。民法266条は、地代を支払うべき場合について永小作権の規定と賃貸借の規定を準用すると定めているだけで、地代の支払を成立要件とはしていません。つまり無償の地上権が成立します。
これは賃貸借と対照的です。賃貸借は601条が「賃料を支払うこと」を契約の要素として明示しているため、無償なら使用貸借になり、賃貸借にはなりません。「地上権では地代が必ず必要である」という選択肢は、この点で誤りになります。
存続期間には上限の定めがない
民法には、地上権の存続期間の上限を定めた規定がありません。当事者が自由に定めることができ、極めて長期の地上権も否定されていません。
問われやすいのが268条です。設定行為で存続期間を定めなかった場合、別段の慣習がなければ、地上権者はいつでも権利を放棄できます。ただし地代を支払うべきときは、1年前に予告するか、期限の到来していない1年分の地代を支払わなければなりません(268条1項)。そして地上権者が放棄しないときは、裁判所が当事者の請求により、20年以上50年以下の範囲で存続期間を定めます(268条2項)。
この「20年以上50年以下」という数字は、存続期間を定めなかった場合に裁判所が定める範囲であって、地上権一般の上限や下限ではありません。永小作権の存続期間(278条1項)がまさに20年以上50年以下なので、両者は非常に混ざりやすいところです。数字が同じで意味が違う、という形で出題されます。
譲渡と転貸は所有者の承諾なしにできる
地上権は物権なので、原則として自由に譲渡でき、他人に土地を使わせることもできます。土地所有者の承諾は不要です。地上権は物を直接支配する権利であり、誰が権利者であるかは所有者の関与すべき事柄ではない、という物権の性質から導かれます。
この点は賃借権との最大の違いで、後述するとおり賃借権の譲渡・転貸には賃貸人の承諾が要ります(612条)。「地上権を譲渡するには土地所有者の承諾を得なければならない」という選択肢は誤りです。
登記請求権があり、抵当権の目的にもなる
地上権者は、土地所有者に対して地上権設定登記への協力を求めることができます。物権を取得した以上、それを公示する手段を確保できるという考え方です。賃借人には原則としてこの登記請求権が認められていない、というのが判例の立場で、ここも対比の要点になります。登記される事項は不動産登記法78条が定めており、地上権設定の目的(1号)は無条件で記録されますが、地代とその支払時期(2号)や存続期間(3号)は「定めがあるときは、その定め」という書き方になっています。定めがなければ登記されない、という条件付きの号だということです。この書き分けの意味は後の「用益物権の登記事項を条文で比べる」で詳しく見ます。登記記録の見方は不動産登記簿の読み方、登記制度の全体像は不動産登記法|表示の登記と権利の登記の違いで確認できます。
また、民法369条2項は「地上権及び永小作権も、抵当権の目的とすることができる」と明記しています。地上権それ自体に担保価値が認められているわけです。この条文が挙げているのは地上権と永小作権の二つだけで、地役権と賃借権は含まれません。条文が列挙している以上、そこにないものは対象外だという読み方が、そのまま出題の答えになります。
区分地上権
269条の2は、地下または空間について、上下の範囲を定めて工作物所有のための地上権を設定できるとしています。地下鉄のトンネルや、送電線が上空を通る場合に使われる形です。設定行為で、地上権の行使のために土地所有者の使用に制限を加えることもできます。
第三者がその土地に使用収益権を持っている場合でも、その者およびその権利を目的とする権利を有するすべての者の承諾があれば、区分地上権を設定できます(269条の2第2項前段)。そして承諾をした使用収益権者は、その地上権の行使を妨げることができません(同項後段)。
この2項は読み方に注意が要ります。すでに賃借権や普通の地上権が設定されている土地に、さらに地下だけを使う区分地上権を重ねる場面の規定です。承諾を求める相手は二層あります。使用収益権を有する者そのもの(たとえば土地賃借人)と、その権利を目的とする権利を有する者(たとえばその賃借権に質権を設定している者、地上権に抵当権を設定している者)です。条文は「すべての者の承諾があるとき」と書いており、一人でも欠ければ設定できません。ここを「土地所有者の承諾があれば足りる」と書き換えるのが選択肢の作り方です。
なお、区分地上権の設定に土地所有者の承諾が要らないという意味ではありません。区分地上権は所有者との設定行為で生まれる権利ですから、所有者は当事者そのものです。2項が承諾を求めているのは、所有者ではなく、すでに土地を使う権利を持っている第三者です。当事者と第三者を混ぜないでください。
区分地上権が登記されると、登記事項として「その目的である地下又は空間の上下の範囲」が記録されます(不動産登記法78条5号)。平面の地番だけでは権利の範囲が特定できないので、高さの区切りまで公示する仕組みになっています。土地を平面ではなく立体で切り分けられる、というのが区分地上権の要点です。
区分地上権と、建物の区分所有権とは別物です。区分所有権は一棟の建物を専有部分に分けて所有する制度で、対象は建物です(区分所有法|令和8年4月1日施行の改正対応)。区分地上権は土地の地下・空間を上下に区切って使用する物権で、対象は土地です。名前が似ているだけで、根拠法も対象も違います。
相隣関係の規定が準用される
267条は、前章第一節第二款(相隣関係)の規定を、地上権者間または地上権者と土地の所有者との間について準用すると定めています。隣り合う土地の所有者どうしに適用される規律が、地上権者にもそのまま働くということです。地上権者は所有者に代わって土地を使う立場なので、隣地との調整も所有者と同じ枠組みで処理される、という発想です。
ただし267条にはただし書があり、229条の準用は、境界線上の工作物が地上権の設定後に設けられた場合に限られます。229条は、境界線上に設けた境界標・囲障・障壁・溝・堀を相隣者の共有に属するものと推定する規定です。地上権が設定される前から境界線上にあった塀については、この共有推定が地上権者について働くことはありません。地上権者が関与していない時点の工作物まで巻き込まない、という限定です。準用の全部ではなく一部だけに条件が付いている、という条文の構造を押さえてください。
消滅したときの収去と買取
地上権が消滅したとき、地上権者は土地を原状に復して工作物および竹木を収去することができます(269条1項本文)。もっとも、土地所有者が時価相当額を提供して買い取る旨を通知したときは、地上権者は正当な理由がなければ拒めません(同項ただし書)。
収去は権利であって義務ではない、という点と、所有者からの買取通知には原則として応じなければならない、という点の二つが押さえどころです。この規定は永小作権にも準用されています(279条)。さらに269条2項は、前項の規定と異なる慣習があるときはその慣習に従うとしており、収去と買取のルール自体が慣習で置き換えられます。
条文の構造を整理すると三段になります。原則として地上権者は収去できる。ただし所有者が時価相当額を提供して買い取る旨を通知したときは、正当な理由がなければ拒めない。さらにこれと異なる慣習があればそちらが優先する。「地上権者は工作物を収去しなければならない」という書き方は第一段の性質を義務に取り違えており、「所有者は買取りを申し出ることができない」という書き方は第二段を落としています。
この収去・買取と混同しやすいのが、借地借家法13条の建物買取請求権です。あちらは借地権の存続期間満了時に更新がされない場合、借地権者から借地権設定者に対して建物を時価で買い取るよう請求できる権利で、請求する側が借地権者です。民法269条1項ただし書は、買取りを通知するのが土地所有者の側です。誰が誰に言う話かが逆になっているので、まとめて出されると迷います。借地借家法側の整理は借地借家法の全体像|適用範囲と借地・借家にあります。
契約によらずに成立する地上権
地上権は当事者の設定行為によって生じるのが原則ですが、法律の規定によって当然に生じる場合があります。民法388条の法定地上権です。
土地およびその上に存する建物が同一の所有者に属する場合において、その土地または建物につき抵当権が設定され、その実行により所有者を異にするに至ったときは、その建物について地上権が設定されたものとみなされます。地代は当事者の請求により裁判所が定めます。土地と建物を別個の不動産とする日本の制度のもとで、競売によって土地と建物の所有者が分かれたときに建物が直ちに収去されてしまう事態を避けるための規定です。
宅建試験では抵当権の論点として問われることが多く、成立要件を四つに分けて検討させる形が定着しています。要件の中身は法定地上権の成立要件|判例で理解する4つの条件で扱っています。ここでは、地上権には契約で生じるものと法律で生じるものがある、という発生原因の整理として押さえてください。
地役権
280条が定める内容と、二つの土地
地役権とは、設定行為で定めた目的に従い、他人の土地を自己の土地の便益に供する権利です(民法280条)。便益を受ける側の土地を要役地、便益を提供する側の土地を承役地と呼びます。
具体例としては、奥まった土地から公道に出るために手前の土地を通行する通行地役権、他人の土地から水を引く引水地役権、眺望を確保するため承役地に高い建物を建てさせない眺望地役権などがあります。共通しているのは、権利が特定の人ではなく土地に結びついている点です。「特定の人が通れる」のではなく「この土地のために通れる」という構成になっています。
似た制度に、袋地の所有者が公道に出るために隣地を通行できる権利があります。210条1項は、他の土地に囲まれて公道に通じない土地の所有者は、公道に至るためその土地を囲んでいる他の土地を通行することができる、と定めています。2項は、池沼・河川・水路・海を通らなければ公道に至ることができないとき、または崖があって土地と公道とに著しい高低差があるときも同様だとしています。こちらは法律上当然に発生するもので、合意も登記も要りません。地役権が当事者の設定行為または時効によって発生するのとは、発生原因が違います。
条文の続きも押さえておくと対比が立ちます。211条1項は、通行の場所および方法は通行権者のために必要でありかつ他の土地のために損害が最も少ないものを選ばなければならないとし、2項は必要があるときは通路を開設することができるとしています。212条は、通行権者は通行する他の土地の損害に対して償金を支払わなければならないとし、ただし通路の開設のために生じた損害に対するものを除き1年ごとに支払うことができるとしています。つまり210条の通行権は原則として有償です。
例外が213条です。分割によって公道に通じない土地が生じたときは、その土地の所有者は他の分割者の所有地のみを通行することができ、この場合には償金を支払うことを要しません。2項により、土地の一部を譲り渡した場合にも準用されます。袋地を自ら作り出した当事者の間では、負担を第三者に転嫁させず、償金も不要とする趣旨です。「210条の通行権は常に無償である」「213条でも償金が必要である」という書き方は、この原則と例外を入れ替えたものになります。
法定の通行権と地役権の関係も整理しておきます。210条の通行権は袋地であることから当然に生じるので、通行地役権を設定する必要はありません。逆に、袋地ではないがより便利な経路を確保したいという場合には、210条は使えず、地役権を設定するか通行の合意をすることになります。土地が道路に接しているかという問題は建築基準法の接道義務にも直結するので、接道義務|2メートル要件と例外・条例による付加とあわせて見ておくと、実務での意味が掴めます。
付従性は二つの条文に分かれている
281条は、地役権が要役地に付き従う性質を二段構えで定めています。
1項は、地役権は要役地の所有権に従たるものとして、その所有権とともに移転し、また要役地について存する他の権利の目的となる、としています。要役地が売られれば地役権も一緒に移り、要役地に抵当権が設定されれば地役権もその効力を受けます。ただし、この1項には「設定行為に別段の定めがあるときは、この限りでない」というただし書があり、移転しない旨を定めることもできます。
2項は、地役権は要役地から分離して譲り渡し、または他の権利の目的とすることができない、としています。こちらにはただし書がなく、絶対的な制約です。地役権だけを売ることも、地役権だけに抵当権を設定することもできません。
同じ付従性でも、1項は特約で外せて2項は外せない、という差があります。「地役権は要役地と分離して譲渡することができる」という選択肢は2項に照らして誤りですし、「地役権は常に要役地とともに移転する」という言い切りも1項ただし書があるため正確ではありません。
不可分性
282条は不可分性を定めています。1項は、土地の共有者の一人は、その持分について、その土地のために存する地役権またはその土地について存する地役権を消滅させることができない、としています。共有者の一人の意思で地役権を部分的に消してしまうことを認めない、という趣旨です。
2項は、土地が分割されたり一部が譲渡されたりした場合、地役権は各部分のためにまたは各部分について存する、としています。要役地が二つに分かれても両方が便益を受け続け、承役地が二つに分かれても両方が負担を負い続けます。ただし、地役権がその性質により土地の一部のみに関するときは、この限りでありません。
なお284条は、時効取得の場面での不可分性を三項に分けて定めています。1項は、土地の共有者の一人が時効によって地役権を取得したときは他の共有者もこれを取得する、としています。2項は、共有者に対する時効の更新は、地役権を行使する各共有者に対してしなければその効力を生じない、としています。更新を主張したい承役地の側は、地役権を行使している共有者の全員に対して更新事由を働かせなければならず、一人でも取りこぼせば時効の進行は止まりません。3項は、地役権を行使する共有者が数人ある場合に、その一人について完成猶予の事由があっても時効は各共有者のために進行する、としています。
三項をまとめると、取得の方向には有利に、阻止の方向には不利に働く構造になっています。一人が取得すれば全員が取得し、阻止するには全員に手を打たなければならず、一人の完成猶予は他の共有者の時効進行を止めない。不可分性は取得の場面にも消滅の場面にも一貫して働く、と理解しておくと整理しやすくなります。共有者の一人がした行為の効果が他の共有者にどこまで及ぶかという発想そのものは共有|持分・変更・管理・分割を条文で整理の枠組みと共通です。
時効取得には二つの要件がある
283条は、地役権は継続的に行使され、かつ外形上認識することができるものに限り、時効によって取得することができる、と定めています。継続性と表現性の二つがそろって初めて時効取得の対象になります。
通行地役権について、判例は要役地の所有者が自ら通路を開設することを必要としています(最判昭和30年12月26日)。単に他人の土地を通り続けただけでは足りず、通路の開設という外形が要るという趣旨です。もっぱら承役地の所有者が作った通路を通っていたにすぎない場合には、時効取得は認められません。
取得時効の一般的な要件は時効|取得時効と消滅時効の要件・効果を解説で扱っています。地役権の時効取得は、その特則として位置づけると覚えやすくなります。
対抗要件と、判例による修正
地役権の登記は承役地の登記記録に行います(不動産登記法80条)。要役地の登記記録には、地役権が存する旨が職権で記録されます。負担を負う側の土地の記録に載せることで、その土地を買おうとする者が負担の存在を知ることができる仕組みです。なお80条2項により、地役権の登記では地役権者の氏名や住所を登記することを要しません。権利が人ではなく土地に付いているという性質が、登記の作りにも表れています。
登記がない場合の扱いについて、判例に重要な修正があります。通行地役権の承役地が譲渡された事案で、最高裁は、承役地が要役地の所有者によって継続的に通路として使用されていることがその位置や形状などの物理的状況から客観的に明らかであり、かつ譲受人がそのことを認識していたか認識することが可能であったときは、譲受人は特段の事情がない限り地役権設定登記の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者に当たらない、としています(最判平成10年2月13日)。見れば分かる状態で通路が使われているのに、登記がないことを理由に地役権を否定するのは許されない、という判断です。
対抗要件をめぐる第三者の範囲という論点は物権変動と対抗要件の枠組みそのものなので、あわせて確認しておくと理解が安定します。
地役権は抵当権の目的にならない
前述のとおり369条2項が挙げているのは地上権と永小作権だけです。地役権は要役地から分離して他の権利の目的とすることができない(281条2項)ので、地役権だけに抵当権を設定することはできません。要役地に抵当権を設定すれば、その効力は地役権にも及びます(281条1項)。
これは要役地の担保価値の話としても意味を持ちます。通行地役権が付いている袋地状の土地は、通行地役権があるからこそ利用でき、担保価値も生まれます。要役地に抵当権を設定した債権者は、281条1項によりその地役権の効力も把握できるので、地役権込みの価値を担保に取れます。逆に、地役権だけを切り離して担保に取ることは281条2項が封じているので、地役権を要役地から引き剥がして債権者が持って行く事態は起きません。付従性の二つの項は、担保の場面で見ると、要役地の価値をひとまとまりに保つ仕組みとして噛み合っています。
地役権の消滅と、承役地側に置かれた規律
承役地の所有者が負う工作物の設置義務は、買主にも引き継がれる
286条は、設定行為または設定後の契約により、承役地の所有者が自己の費用で地役権の行使のために工作物を設け、またはその修繕をする義務を負担したときは、承役地の所有者の特定承継人もその義務を負担する、と定めています。
ここは条文の効果をよく読む必要があります。工作物を設けたり修繕したりする義務は、本来は当事者間の約束にすぎず、債権的な義務です。ところが286条は、承役地を買った人(特定承継人)にもその義務が引き継がれると言っています。契約の当事者でない者が、土地を取得しただけで作為義務を負うわけです。地役権という物権に付随する負担として、土地とともに移っていく、という構成になっています。
宅建の実務目線でも重要です。承役地を購入すると、前の所有者が結んでいた「通路を舗装して維持する」という約束まで背負う可能性があるということです。この負担は不動産登記法80条1項3号により登記事項とされているので、登記記録を確認すれば把握できます。だからこそ売買では乙区の確認が要ります。登記記録の見方は不動産登記簿の読み方で扱っています。
委棄という逃げ道(287条)
286条の義務が土地とともに移るのだとすると、承役地の所有者はいつまでも義務から逃れられないのか、という問題が出ます。ここに用意されているのが287条です。承役地の所有者は、いつでも、地役権に必要な土地の部分の所有権を放棄して地役権者に移転し、これにより286条の義務を免れることができます。
「放棄して地役権者に移転」という言い方が独特です。単に捨てるのではなく、地役権者に所有権を渡すことで義務から抜ける、という組み立てです。渡す範囲も土地全部ではなく「地役権に必要な土地の部分」に限られます。通路として使われている帯状の部分だけを地役権者に移す、というイメージです。
この委棄が使えるのは286条の義務を負担している場合に限られます。地役権が設定されているというだけで承役地所有者が土地を投げ出せるわけではありません。「承役地の所有者は、いつでも承役地の所有権を放棄して地役権を消滅させることができる」という選択肢は、要件(286条の義務負担)も範囲(必要な部分に限る)も効果(消滅ではなく移転)も外しています。
承役地の所有者も工作物を使える(288条)
288条1項は、承役地の所有者は、地役権の行使を妨げない範囲内において、その行使のために承役地の上に設けられた工作物を使用することができる、としています。地役権者が敷いた通路を、承役地の所有者自身も通ってよいということです。承役地の所有者は土地を手放したわけではないので、地役権の目的と衝突しない限りは使える、という当然の帰結を明文化したものです。
2項が続きます。1項の場合には、承役地の所有者はその利益を受ける割合に応じて、工作物の設置および保存の費用を分担しなければなりません。使うなら費用も持て、という均衡です。ここも「無償で使用できる」と書き換えられます。使用できるのは正しいが、費用分担が付いてくる、という二段で覚えてください。
用水地役権には配分の順序がある(285条)
285条1項は、用水地役権の承役地において、水が要役地および承役地の需要に比して不足するときは、その各土地の需要に応じて、まずこれを生活用に供し、その残余を他の用途に供する、と定めています。ただし設定行為に別段の定めがあるときはその定めによります。
順序が明文で決まっている点が特徴です。土地ごとの需要に応じて配分したうえで、用途としては生活用が最優先、残りを農業用などに回します。要役地が優先でも承役地が優先でもなく、用途で切るという発想です。
2項は、同一の承役地について数個の用水地役権を設定したときは、後の地役権者は前の地役権者の水の使用を妨げてはならない、としています。先に設定された地役権が優先する、という単純な先後関係です。物権の優劣が設定の先後で決まるという一般則が、ここでも働いています。
なお285条1項は、条文の中で承役地の定義を置いている条文でもあります。281条1項が要役地を「地役権者の土地であって、他人の土地から便益を受けるもの」と定義し、285条1項が承役地を「地役権者以外の者の土地であって、要役地の便益に供されるもの」と定義しています。定義の置き場所が二か所に分かれているのは、地役権の章が要役地の側の規定と承役地の側の規定に分かれて構成されているためです。
承役地が時効取得されると地役権は消滅する(289条・290条)
289条は、承役地の占有者が取得時効に必要な要件を具備する占有をしたときは、地役権はこれによって消滅する、と定めています。第三者が承役地を時効取得すると、その土地に付いていた地役権は落ちる、ということです。時効取得は原始取得であり、前主の権利関係を引き継がないという性質が現れています。
ただし290条が歯止めを置いています。289条による地役権の消滅時効は、地役権者がその権利を行使することによって中断する、という規定です。承役地が占有されていても、地役権者が通行を続けていれば消滅は食い止められます。地役権者が実際に権利を使い続けているかどうかで結論が変わる、という点が要点です。
条文が「中断」という語を使っている点にも触れておきます。2020年施行の民法改正で、時効の中断・停止は完成猶予・更新という枠組みに置き換わりましたが、290条は「中断」の語のまま残っています。この条文の中断は、時効の進行そのものを断つ趣旨と理解されています。用語が改正前のまま残っている条文がある、という事実だけ知っておけば足ります。
地役権の消滅時効は起算点が特殊(291条・293条)
291条は、166条2項に規定する消滅時効の期間について、継続的でなく行使される地役権は最後の行使の時から、継続的に行使される地役権はその行使を妨げる事実が生じた時から起算する、と定めています。166条2項は債権または所有権以外の財産権について「権利を行使することができる時から20年」と定めていますから、地役権の消滅時効期間は20年です。
起算点が二本立てになっている理由は、地役権の使われ方が二種類あるからです。年に数回だけ通るような不継続の地役権は、最後に使った時から数えます。通路が常時開通しているような継続の地役権は、時が経つだけでは不行使になりません。承役地の所有者が通路を塞ぐなど、行使を妨げる事実が生じて初めて時計が回り始めます。
293条は一部消滅を認めています。地役権者がその権利の一部を行使しないときは、その部分のみが時効によって消滅します。幅5メートルの通路のうち2メートルしか使っていない状態が続けば、使っていない部分についてだけ地役権が消えるという処理です。全部か無かではない、というのが293条の趣旨です。
292条は、要役地が数人の共有に属する場合において、その一人のために時効の完成猶予または更新があるときは、その完成猶予または更新は他の共有者のためにもその効力を生ずる、としています。消滅時効を止める行為が一人でも足りるということです。取得時効の場面の284条2項が、更新するには行使する各共有者全員に対してしなければならないと定めているのと、向きが対称になっています。取得の側でも消滅の側でも、地役権が残る方向に働く。この一文で二か条をまとめて処理できます。
永小作権
270条が定める内容
永小作権とは、小作料を支払って他人の土地において耕作または牧畜をする権利です(民法270条)。定義に「小作料を支払って」と書かれているため、小作料は成立要件です。無償の永小作権はありません。
ここが地上権との明確な違いになります。地上権は地代が要素ではなく無償でも成立するのに対し、永小作権は有償でなければ成立しない。「地上権は有償が原則、永小作権は無償でもよい」という選択肢は、両方の点で逆になっています。
存続期間は20年以上50年以下
278条1項は、永小作権の存続期間を20年以上50年以下とし、設定行為で50年より長い期間を定めたときは50年とする、と定めています。2項により更新はできますが、更新の時から50年を超えることはできません。3項は、設定行為で存続期間を定めなかったときは、別段の慣習がある場合を除いて30年とする、としています。
地上権が上限の定めを持たないのに対し、永小作権には50年という明確な上限があります。前述のとおり、地上権の268条2項に出てくる「20年以上50年以下」は裁判所が期間を定める場面の範囲で、意味がまったく違います。数字が同じであるため、どちらの話をしているかを常に確認する癖をつけてください。
譲渡と賃貸は原則自由だが、禁止特約が可能
272条は、永小作人はその権利を他人に譲り渡し、または存続期間内において耕作もしくは牧畜のため土地を賃貸することができる、と定めたうえで、ただし設定行為で禁じたときはこの限りでない、としています。
物権であるから原則自由という点は地上権と同じですが、永小作権には禁止できることが条文に明記されている点が違います。しかもこの禁止の定めは登記事項とされており(不動産登記法79条)、登記すれば第三者にも主張できます。「永小作権は物権であるから、設定行為で譲渡を禁止することはできない」という選択肢は誤りです。
小作料に関する規定
274条は、永小作人は不可抗力により収益について損失を受けたときであっても、小作料の免除または減額を請求することができない、としています。天候不順による不作を理由に小作料を減らせない、という厳しい規定です。
もっとも275条は、不可抗力によって、引き続き3年以上まったく収益を得ず、または5年以上小作料より少ない収益を得たときは、永小作権を放棄することができるとしています。減額はできないが放棄はできる、という組み立てです。逆に土地所有者の側からは、永小作人が引き続き2年以上小作料の支払を怠ったときに、永小作権の消滅を請求できます(276条)。
三つの数字を主語で並べ直すと混ざりません。3年は永小作人が放棄できる無収益の期間、5年は永小作人が放棄できる減収の期間、2年は所有者が消滅を請求できる不払いの期間です。永小作人が動ける数字が二つ、所有者が動ける数字が一つ、と覚えます。しかも275条は「不可抗力によって」という限定が付いており、自分の怠慢で収益が上がらなかった場合には放棄できません。この限定を落とした「収益が3年以上ないときは放棄できる」という書き方が、そのまま誤りの選択肢になります。
さらに274条から276条までは、266条1項によって地上権に準用されています。地上権者が土地所有者に定期の地代を支払わなければならない場合には、不可抗力による地代の減免を請求できず、一定期間の無収益で放棄でき、2年以上の地代不払いで所有者から消滅請求を受ける、という規律が働くわけです。地上権は地代が要素ではないが、地代を払う約束をした場合には永小作権と同じ扱いになる、という接続を押さえてください。266条2項は、それ以外の点について、性質に反しない限り賃貸借の規定を準用するとしています。
永小作人には土地を変更する自由がない(271条)
271条は、永小作人は土地に対して、回復することのできない損害を生ずべき変更を加えることができない、と定めています。耕作・牧畜のために土地を使う権利ではあるが、土地そのものを不可逆に作り変えることは許されない、という制限です。地上権にはこれに対応する条文がありません。工作物の所有を目的とする以上、土地の形状変更はむしろ前提だからです。
273条は、永小作人の義務について、この章の規定および設定行為で定めるもののほか、性質に反しない限り賃貸借の規定を準用するとしています。永小作権は物権でありながら、義務の側面では賃貸借の規律を借りている、という二重構造です。
そして277条が、271条から276条までの規定と異なる慣習があるときはその慣習に従う、と締めています。土地変更の制限も、小作料の減免不可も、放棄も、消滅請求も、慣習があればそちらが優先します。慣習優先の範囲が271条から276条までであって、存続期間の278条を含んでいないという線引きは、前述のとおりです。
実務でほとんど見られない理由
現在の実務で永小作権が設定されることはほとんどありません。農地に関する権利の設定や移転には農地法3条の許可が必要であり、農地政策の枠組みのなかで賃貸借や利用権設定が用いられているためです。農地法の許可については農地法|3条・4条・5条の切り分けと許可権者で扱っています。
試験では、実務での使用頻度と出題頻度は別物です。永小作権は地上権との数字の対比を作りやすいため、比較の材料として登場します。
用益物権の登記事項を条文で比べる
登記できる権利は不動産登記法3条に列挙されている
不動産登記法3条は、登記をすることができる権利を10種類に限定して列挙しています。所有権、地上権、永小作権、地役権、先取特権、質権、抵当権、賃借権、配偶者居住権、採石権です。用益物権のうち地上権・永小作権・地役権はすべて入っており、賃借権も入っています。入会権は入っていません。慣習に委ねられた権利で、登記になじまないためです。
ここでまず確認しておきたいのは、地役権も賃借権も登記できるということです。抵当権の目的にできるかどうか(民法369条2項が地上権と永小作権に限る)と、登記できるかどうか(不動産登記法3条が地役権・賃借権を含む)は別の話です。「地役権は抵当権の目的にならないから登記もできない」という繋げ方は誤りになります。登記制度の全体像は不動産登記法|表示の登記と権利の登記の違いで扱っています。
共通の登記事項と、権利ごとの上乗せ
59条が権利に関する登記の共通事項を定めています。登記の目的、申請の受付の年月日および受付番号、登記原因およびその日付、権利者の氏名または名称および住所、といったものです。そして78条以下が、権利ごとに「59条各号に掲げるもののほか」何を登記するかを定めています。共通部分プラス上乗せ、という構造です。この上乗せ部分を並べると、各権利の個性がそのまま出てきます。
地上権の登記事項(78条)
78条は5号構成です。1号が地上権設定の目的、2号が地代またはその支払時期の定めがあるときはその定め、3号が存続期間または借地借家法22条1項前段・23条1項などの定めがあるときはその定め、4号が地上権設定の目的が借地借家法23条1項または2項に規定する建物の所有であるときはその旨、5号が民法269条の2第1項前段に規定する地上権すなわち区分地上権について、その目的である地下または空間の上下の範囲および同項後段の定めがあるときはその定めです。
注目すべきは2号の書き方です。「地代又はその支払時期の定めがあるときは、その定め」となっています。定めがあるときは、という条件が付いている。つまり地代の定めがない地上権が当然に想定されており、民法266条が地代を成立要件としていないことが、登記法の側からも裏付けられています。
3号と4号は定期借地権に対応する部分です。地上権として設定された一般定期借地権や事業用定期借地権も登記されます。定期借地権の三類型は定期借地権|三類型は「壁の越え方」で分かれるで扱っています。
永小作権の登記事項(79条)
79条は4号構成です。1号が小作料、2号が存続期間または小作料の支払時期の定めがあるときはその定め、3号が民法272条ただし書の定めがあるときはその定め、4号が前二号に規定するもののほか永小作人の権利または義務に関する定めがあるときはその定めです。
1号を見てください。「小作料」とだけ書かれており、「定めがあるときは」という条件が付いていません。必ず登記される事項だということです。地上権の78条2号が条件付きだったのと真逆で、民法270条が小作料を要素としていることが、ここでも裏付けられます。同じ位置にある号の書き方の差が、そのまま実体法の差を映している。この対応関係を一度確認しておくと、対価が要素か否かの論点は忘れなくなります。
3号も重要です。272条ただし書の定め、すなわち設定行為による譲渡・賃貸の禁止特約が登記事項とされています。登記できるということは、第三者に対して主張できるということです。禁止特約が登記されている永小作権を買った第三者は、その永小作権を取得できません。特約が単なる当事者間の約束にとどまらない点が、この号から読み取れます。
地役権の登記事項(80条)
80条は他の三か条と作りが違います。1項の柱書からして「承役地についてする地役権の登記の登記事項は」と書き始めており、登記をする場所が承役地であることが条文の主語に組み込まれています。
1項が59条各号に上乗せする事項は三つあります。1号が要役地、2号が地役権設定の目的および範囲、3号が民法281条1項ただし書もしくは285条1項ただし書の別段の定め、または286条の定めがあるときはその定めです。1号で要役地を特定し、2号で通行なのか引水なのかとどの範囲かを示し、3号で本記事が扱ってきた特約類を公示する、という並びです。
2項は、59条4号の規定にかかわらず、地役権者の氏名または名称および住所を登記することを要しない、としています。共通事項である59条4号を明文で外しているわけです。地役権は要役地に付いた権利であって、誰が権利者かは要役地の登記記録を見れば分かるので、承役地側に書く必要がありません。
3項は、要役地に所有権の登記がないときは、承役地に地役権の設定の登記をすることができない、としています。要役地の所有権が登記されていない状態では、地役権が誰の土地に付いているのかを確定できないためです。地役権の登記は要役地の登記に依存している、という関係が条文になっています。
4項は、登記官は承役地に地役権の設定の登記をしたときは、要役地について職権で法務省令で定める事項を登記しなければならない、としています。申請するのは承役地についてだけで、要役地への記録は登記官が職権でする。二つの土地の記録が自動的に連動する仕組みです。
賃借権の登記事項(81条)と、原則がひっくり返る号
81条は8号構成で、1号が賃料、2号が存続期間または賃料の支払時期の定めがあるときはその定め、3号が賃借権の譲渡または賃借物の転貸を許す旨の定めがあるときはその定め、4号が敷金があるときはその旨、と続きます。
1号は永小作権と同じく無条件です。民法601条が賃料を要素としているためで、ここも実体法と揃っています。
決定的なのは3号です。賃借権では「譲渡または転貸を許す旨の定め」を登記します。永小作権の79条3号では「譲渡・賃貸を禁じる旨の定め」を登記しました。同じ譲渡の話でありながら、登記される特約の向きが逆です。理由は明快で、賃借権は民法612条1項により譲渡・転貸が原則禁止だから、例外である許諾を登記する。永小作権は272条本文により原則自由だから、例外である禁止を登記する。原則が違えば、公示すべき例外も逆になります。
この一組は、物権と債権の違いを登記事項という具体物で確認できる貴重な材料です。条文の号を丸暗記する必要はありません。「原則の反対側が登記される」と理解しておけば、どちらの向きだったかはその場で導けます。
賃借権との違い
ここが最も出題される箇所です。地上権と土地賃借権は、どちらも他人の土地を使うという点で結果が似ているため、違いを軸ごとに切り分けて覚える必要があります。
物権か債権か
地上権は物権、賃借権は債権です。この一点から、以下の違いのほとんどが導かれます。物権は物を直接支配する権利なので、誰に対しても主張でき、処分も自由です。債権は特定の相手方に対する請求権なので、相手方以外には主張できず、処分にも相手方の関与が入ります。
譲渡と転貸に承諾が要るか
地上権の譲渡・転貸に土地所有者の承諾は不要です。これに対し612条1項は、賃借人は賃貸人の承諾を得なければ賃借権を譲り渡し、または賃借物を転貸することができないと定め、2項は無断で第三者に使用収益させたときは賃貸人が契約を解除できるとしています。
もっとも判例は、賃借人の行為が賃貸人に対する背信的行為と認めるに足りない特段の事情があるときは、解除できないとしています。条文の原則と判例による修正をセットで覚えてください。賃貸借全般の論点は民法の賃貸借に整理があります。
登記請求権があるか
地上権者には登記請求権があり、土地所有者に登記への協力を求められます。賃借人には原則として登記請求権がありません。賃借権は債権であり、登記を求める権利まで当然には含まれない、というのが判例の立場です。
この違いは実際上大きな意味を持ちます。605条は賃借権を登記すれば第三者に対抗できると定めていますが、登記請求権がない以上、賃貸人が任意に協力しなければ登記できません。条文上は対抗手段があるのに、実際には使えないという構造になっています。
対抗要件をどう備えるか
地上権は登記によって対抗できます。賃借権は605条により登記で対抗できますが、いま述べた事情で実際には登記できないことが多く、そこを埋めるのが借地借家法10条1項です。借地権者が土地の上に登記されている建物を所有していれば、借地権の登記がなくても第三者に対抗できます。建物の登記は借地権者が単独でできるので、賃貸人の協力がなくても対抗力を備えられます。この仕組みは借地権の対抗要件|建物登記による対抗を解説で詳しく扱っています。
対価が要素か
地上権では地代は要素ではなく、無償でも成立します。賃貸借は601条により賃料が要素なので、無償なら使用貸借になり賃貸借にはなりません。永小作権も270条により小作料が要素です。三者のうち無償が成立しうるのは地上権だけ、という整理になります。
抵当権の目的になるか
369条2項により、地上権と永小作権は抵当権の目的にできます。賃借権はできません。地役権も、281条2項により要役地から分離して他の権利の目的にできないため、単独では抵当権の目的になりません。
妨害を排除できるか
地上権は物権なので、物権的請求権により妨害の排除や返還を求められます。賃借権については、2020年施行の改正民法で605条の4が新設され、対抗要件を備えた不動産の賃借人は、第三者が占有を妨害しているときは妨害の停止を、第三者が占有しているときは返還を請求できるようになりました。
改正前は判例による処理に委ねられていた領域が明文化されたため、「賃借権には妨害排除請求権が一切ない」という説明は現行法では正確ではありません。ただし条文が認めているのは対抗要件を備えた不動産賃借人に限られる点で、物権的請求権とは範囲が違います。
存続期間の上限
民法604条1項は、賃貸借の存続期間は50年を超えることができないとし、これより長い期間を定めても50年に短縮されます。更新も更新の時から50年が限度です(同条2項)。この50年という数字は2020年施行の改正で20年から引き上げられたもので、古い教材の記述に注意が必要です。
地上権にはこうした上限がありません。もっとも建物所有目的であれば借地借家法が適用され、そちらの期間規定に従います。期間の数字は借地借家法の数字まとめ|期間・通知を根拠から整理でまとめて確認できます。
借地借家法が適用される場面
借地権の定義に地上権が含まれる
借地借家法2条1号は、借地権を「建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権」と定義しています。つまり建物所有目的であれば、物権である地上権も債権である賃借権も、等しく借地権として借地借家法の適用を受けます。
これは重要な帰結を持ちます。存続期間は原則30年(借地借家法3条)となり、更新や建物買取請求の規定も適用され、借地権者の保護が厚くなります。地上権であるか賃借権であるかによる差が、この範囲では縮まるということです。借地権の全体像は借地借家法の全体像|適用範囲と借地・借家、種類ごとの違いは定期借地権|三類型の分かれ方を条文で読むで扱っています。一般向けの入口としては借地権とは|期間・更新・対抗要件を条文からもあります。
条文が「地代」と「借賃」を並べて書いている
借地借家法が地上権と賃借権の両方を相手にしていることは、条文の言葉づかいからも読み取れます。1条は、この法律の趣旨を「建物の所有を目的とする地上権及び土地の賃借権の存続期間、効力等」について特別の定めをするものだと書き出しています。法律の一番最初の条文で、物権と債権の両方が並べて名指しされているわけです。
11条1項はさらに露骨です。「地代又は土地の借賃(以下この条及び次条において「地代等」という。)」と書いて、両方をまとめて「地代等」と呼ぶ定義を置いています。地代は地上権に対する対価、借賃は賃借権に対する対価ですから、二つの語を並べて一語に束ねているのは、どちらの借地権にも増減請求が働くという意味です。租税公課の増減、土地価格の変動、近傍類似の地代等との比較によって不相当になったときに、当事者は将来に向かって増減を請求できます。
ただし、この11条は「地代等が……不相当となったとき」という書き方をしているので、そもそも地代等の定めがあることが前提になります。民法266条のところで見たとおり、地上権は無償でも成立します。無償の地上権として設定された借地権には増減の対象そのものがないので、11条は働きようがありません。対価が要素かどうかという民法側の違いが、借地借家法の適用場面でもそのまま効いてくるところです。
適用されない場面を押さえる
逆に、建物所有が目的でなければ借地権にはなりません。竹木を所有するための地上権、資材置場や駐車場として使うための土地賃借権は、借地借家法の適用を受けず、民法の規定によることになります。
地役権と永小作権も借地権ではありません。地役権は自分の土地の便益のための権利で、建物所有を目的とするものではないからです。永小作権は耕作・牧畜が目的なので、そもそも建物所有目的ではありません。「用益物権にはすべて借地借家法が適用される」という記述は誤りになります。
適用されてもなお残る差
借地借家法が適用される場面でも、地上権と賃借権の違いがすべて消えるわけではありません。譲渡の場面が典型です。借地権が地上権であれば、そもそも承諾なしに譲渡できます。借地権が賃借権の場合は612条により賃貸人の承諾が必要で、承諾が得られないときは借地借家法19条により裁判所に許可を求めることになります。地上権にはこの手続が不要です。
登記請求権の有無も残ります。地上権者は地上権の登記を請求でき、加えて建物登記による対抗も使えます。賃借権の借地権者は建物登記に頼ることになります。借地借家法は債権である賃借権の弱点を補う法律であって、物権と債権の区別そのものを消してしまう法律ではない、と理解してください。
取引の場面で用益物権が顔を出すところ
35条書面の1号で必ず拾われる
宅地建物取引業法35条1項1号は、重要事項として「当該宅地又は建物の上に存する登記された権利の種類及び内容並びに登記名義人又は登記簿の表題部に記録された所有者の氏名」を挙げています。売買でも交換でも貸借でも、契約が成立するまでの間に、宅地建物取引士をして説明させなければならない事項です。
条文は「登記された権利」と書いており、権利の種類を限定していません。したがって、地上権が設定されていればその旨と内容を、地役権が設定されていればその旨と内容を、永小作権であっても同じく説明します。抵当権や賃借権と同じ扱いで1号に入ります。買主は、その土地に区分地上権が設定されていて地下にトンネルが通っていることや、隣地のための通行地役権が付いていて土地の一部を通路として提供し続けなければならないことを、契約前に知る必要があります。35条書面の記載事項の全体像は35条書面の記載事項一覧|重要事項説明書に何を書くかで扱っています。
逆に、登記されていない用益物権は1号の対象になりません。1号は「登記された権利」を説明対象としているからです。もっとも、説明しなくてよいという意味ではありません。未登記の通行地役権が事実として存在し、その土地の利用に影響するのであれば、実務では別途の説明対象になり得ます。1号は説明すべき最低限の範囲を定めたものだ、という読み方をしてください。
承役地を買うときに何を見るか
用益物権が付いた土地を売買する場面で、実際に効いてくるのが本記事で見た条文群です。承役地を買うと、286条により前所有者の工作物設置・修繕義務まで引き継ぐ可能性があります。その負担は不動産登記法80条1項3号により登記事項なので、乙区に地役権の登記があれば、目的・範囲・特約まで読み取れます。
要役地を買う側から見れば、281条1項により地役権も一緒に付いてきますが、設定行為に別段の定めがあれば移転しません。地役権が移転しない特約も80条1項3号で登記されるので、やはり登記記録の確認が出発点になります。「地役権は要役地とともに必ず移転する」と思い込んでいると、この特約を見落とします。
法定地上権は買う前に見えない
契約前に登記で確認できないタイプの用益物権もあります。388条の法定地上権です。競売によって土地と建物の所有者が分かれた瞬間に発生するので、その時点までは登記記録に地上権は現れません。土地を競落したら建物のために地上権が成立していた、という順番です。成立要件は法定地上権の成立要件|判例で理解する4つの条件で扱っています。
登記されている用益物権は登記で確認する、法律上当然に発生する用益物権は要件で確認する。確認の手段が二つある、と整理しておくと、実務の場面でも試験の場面でも取りこぼしが減ります。
法令の基準日について
宅建試験は、当該年度の4月1日現在施行の法令から出題されます。令和8年度(2026年10月18日実施)であれば2026年4月1日時点の条文が基準です。
本記事が扱った条文について、この基準日との関係を確認しておきます。民法は2026年6月24日施行の改正(令和8年法律第45号)がありますが、本則1,173条すべてに差分がなく、用益物権の章(265条から294条まで)も一字も動いていません。借地借家法も2026年5月21日施行の改正がありますが、変わったのは民事訴訟法の準用に関する61条だけで、借地権の定義(2条1号)・存続期間(3条)・対抗力(10条)・建物買取請求権(13条)・土地賃借権の譲渡許可(19条)はいずれも従前どおりです。不動産登記法も2026年6月24日施行の改正で変わったのは筆界特定に関する133条2項のみで、3条・59条・78条から81条までは基準日版と同一です。
つまり、用益物権については令和8年度に向けた条文の書き換えは生じていません。市販教材の記述をそのまま使ってよい領域です。令和8年度に実際に影響する改正がどこにあるかは令和8年度試験に影響する法改正まとめで扱っています。
試験での出題ポイント
「承諾が必要」への置き換え
最も多い作り方が、物権であるはずの地上権や永小作権について、譲渡や転貸に土地所有者の承諾が必要だと書く形です。物権は自由に処分できるのが原則なので誤りになります。ただし永小作権については272条ただし書により設定行為で禁じることができるので、「設定行為で譲渡を禁止することはできない」と書かれていたらそちらが誤りです。原則と例外のどちら側から書かれているかを、必ず確認してください。
対価を要素に格上げ・格下げする
「地上権では地代の支払が必要である」「永小作権は無償でも成立する」という形で、対価の扱いを入れ替えてきます。265条には地代の記載がなく、270条には小作料が書き込まれている、という条文の作りの差がそのまま答えです。
数字の混同を誘う
20年以上50年以下という数字を、地上権の存続期間そのものであるかのように書く形です。この範囲は、存続期間を定めず地上権者も放棄しない場合に裁判所が定める範囲(268条2項)であって、永小作権の存続期間(278条1項)とは意味が違います。数字が一致しているぶん、意味の確認を怠ると引っかかります。
地役権の付従性を反転させる
「地役権のみを譲渡できる」「地役権のみに抵当権を設定できる」は281条2項により誤りです。逆に「地役権は要役地の所有権とともに移転するが、設定行為で別段の定めをすることもできる」は281条1項本文とただし書のとおりで正しくなります。1項と2項でただし書の有無が違うという、条文の構造そのものが問われます。
時効取得の要件を緩める
「地役権は長期間行使していれば時効取得できる」という形で、283条の二要件を落としてきます。継続的な行使と外形上の認識可能性の両方が要ります。通行地役権では判例により要役地所有者による通路の開設が必要とされている点も、あわせて狙われます。
登記の場所をずらす
地役権の登記は承役地に行います。「要役地に地役権設定の登記をする」という選択肢は誤りです。負担を受ける側の記録に載せる、と理由から覚えると迷いません。
抵当権の目的の範囲を広げる
369条2項が挙げるのは地上権と永小作権だけです。「地役権も抵当権の目的とすることができる」「賃借権に抵当権を設定できる」はいずれも誤りになります。列挙型の条文は、そこにないものを足す形で誤りが作られます。
承役地側の規定の主語を入れ替える
286条から288条までは、承役地の所有者を主語とする規定が並んでいます。ここは主語の入れ替えが作りやすい場所です。「地役権者は、承役地の所有者に対して工作物の設置を請求できる」は286条を反転させた形で、条文が定めているのは設定行為または設定後の契約で義務を負担した場合の話です。契約もないのに設置義務が生じるわけではありません。
287条の委棄も同じです。「承役地の所有者は、いつでも承役地の所有権を放棄して地役権を消滅させることができる」は、対象(承役地全部ではなく地役権に必要な部分)、効果(消滅ではなく地役権者への移転)、前提(286条の義務を負担していること)の三つを外しています。
288条は逆に、承役地の所有者に有利な内容なので「承役地の所有者は工作物を使用できない」と否定形で崩されます。使用できるが費用を分担する、が条文です。
慣習優先の範囲を広げる・狭める
用益物権の章には慣習優先の規定が散らばっているので、その範囲がずらされます。277条が慣習優先とするのは271条から276条までであって、278条の存続期間は入りません。「慣習があれば永小作権の存続期間を50年より長くできる」は誤りです。逆に269条2項が収去・買取について慣習優先を認めていることを見落とすと、「収去に関する慣習は考慮されない」という選択肢を正しいと判断してしまいます。
時効の場面で共有者の扱いを取り違えさせる
284条2項と292条は向きが対称なので、入れ替えの標的になります。取得時効を阻止する側は地役権を行使する各共有者全員に手を打たなければならず(284条2項)、消滅時効を止める側は要役地共有者の一人について完成猶予・更新があれば全員に効力が及びます(292条)。「一人に対して更新すれば足りる」「一人の完成猶予は他の共有者には及ばない」はいずれも逆です。地役権が残る方向に働く、という基準で判断してください。
こうした反転・入れ替えの型そのものは科目を問わず共通です。型の一覧は引っかけ表現のパターンで整理しています。
覚え方・整理の仕方
まず「物権だから何ができるか」を一本立てる
三つの権利を別々に暗記すると量が多く感じられますが、共通の幹は一つです。物権であるから、承諾なしに処分でき、登記を求められ、誰に対しても主張でき、担保にもできる。この四つを唱えられるようにしておき、そこから例外を引いていきます。
引く例外は多くありません。永小作権は設定行為で譲渡を禁じられる(272条ただし書)。地役権は要役地から離せないので単独で処分できない(281条2項)。この二つだけです。幹が太くて枝が二本、という形にすると、暗記量は一気に減ります。
目的で三つを呼び分ける
地上権は工作物と竹木、永小作権は耕作と牧畜、地役権は自分の土地の便益。この目的の言葉を、権利の名前とセットで口に出して覚えます。目的が分かれば、対価の扱いもおおむね導けます。耕作して収益を上げる永小作権は小作料が前提になり、便益を受けるだけの地役権は対価が要素にならず、建物を所有する地上権は当事者が決める、という具合です。
数字は「誰が決める数字か」を添える
50年という数字は、永小作権の存続期間の上限(278条1項)と、賃貸借の存続期間の上限(604条1項)の両方に出てきます。20年以上50年以下は、永小作権の存続期間(278条1項)と、地上権で裁判所が定める範囲(268条2項)の両方に出てきます。
数字だけを覚えると必ず混ざるので、「誰が決める数字か」を後ろにつけてください。永小作権の50年は当事者が決められる上限、賃貸借の50年も当事者が決められる上限、地上権の20年から50年は裁判所が決める幅。主語を添えるだけで、混同はかなり防げます。
賃借権との比較は軸で並べる
物権と債権の比較は、権利ごとに縦に並べるのではなく、軸ごとに横に並べます。「譲渡に承諾が要るか」という軸で地上権と賃借権を隣に置く、「登記請求権があるか」という軸でもう一度隣に置く、という作り方です。
これは出題のされ方に合わせた整理でもあります。試験は「地上権について正しいものはどれか」より「地上権と賃借権の異同について正しいものはどれか」という形で問うことが多く、軸で覚えていればそのまま答えられます。
地役権は「土地に付いている」で統一する
地役権の性質は、付従性も不可分性も登記の作り方も、すべて「権利が人ではなく土地に付いている」という一点から説明できます。土地に付いているから土地と一緒に動き(281条1項)、土地から切り離せず(281条2項)、土地が分かれても各部分に残り(282条2項)、登記に権利者の氏名を書く必要がない(不動産登記法80条2項)。
この一文を覚えておけば、地役権に関する多くの選択肢はその場で判断できます。個別の条文を思い出せなくても、土地に付いているという性質と整合するかどうかで方向は決まります。
承役地側の条文は「使うなら払う、逃げるなら渡す」で束ねる
286条から288条までの三か条は、承役地の所有者から見ると一続きの物語になります。地役権の行使のために工作物を設ける義務を契約で負えば、その義務は土地とともに買主に移る(286条)。その義務から逃れたければ、必要な部分の所有権を地役権者に渡す(287条)。逆に、地役権者が作った工作物を自分も使いたければ、利益の割合に応じて費用を分担する(288条)。
「逃げるなら渡す、使うなら払う」という二句にまとめれば、三か条の並びを一度に思い出せます。承役地の所有者は無償で恩恵だけ受けることも、負担だけ押し付けられることもない、という均衡の発想が根にあります。
登記事項は「原則の反対側が登記される」で導く
79条3号(永小作権の譲渡禁止特約)と81条3号(賃借権の譲渡・転貸を許す旨)は、丸暗記するとほぼ確実に取り違えます。導き方を覚えてください。登記されるのは原則の反対側です。永小作権は272条本文で譲渡自由が原則だから、例外である禁止が登記される。賃借権は612条1項で譲渡禁止が原則だから、例外である許諾が登記される。
同じ発想で78条2号と79条1号も導けます。地上権は地代が要素でないから「定めがあるときは」という条件付きで登記され、永小作権は小作料が要素だから条件なしで登記される。実体法の原則が分かっていれば、登記法の書き方は毎回その場で組み立てられます。
数字は三つの箱に分けて置く
用益物権で出てくる期間の数字は、放り込む箱を三つ用意すると混ざりません。
第一の箱は存続期間の箱です。永小作権は20年以上50年以下、定めなければ30年(278条1項・3項)。地上権には上限の定めがなく、定めなければ268条の処理に進みます。賃貸借は50年が上限(604条1項)。
第二の箱は裁判所が決める数字の箱です。地上権で存続期間の定めがなく地上権者も放棄しないとき、裁判所が20年以上50年以下の範囲で定めます(268条2項)。ここにしか裁判所は出てきません。
第三の箱は当事者の行動に紐づく数字の箱です。地上権の放棄には1年前の予告または1年分の地代(268条1項ただし書)。永小作人の放棄には3年以上の無収益または5年以上の減収(275条)。所有者からの消滅請求には2年以上の不払い(276条)。地役権の消滅時効は20年(291条・166条2項)。
同じ50年でも第一の箱と第二の箱では性質が違います。数字を見たら、まずどの箱の話かを確認する。この一手間で失点はかなり減ります。借地借家法側の数字と混ざりやすい場合は借地借家法の数字まとめ|期間・通知を根拠から整理で別枠に切り分けてください。
理解度チェッククイズ
Q1. 地上権者が地上権を第三者に譲渡するには、土地所有者の承諾を得なければならない。○か×か。
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×。地上権は物権であり、原則として土地所有者の承諾なしに自由に譲渡できます。承諾が必要とされるのは債権である賃借権のほうで、民法612条1項が賃貸人の承諾を要求しています。なお永小作権も原則自由ですが、272条ただし書により設定行為で譲渡を禁じることができ、その定めは不動産登記法79条3号により登記事項とされています。登記されていれば第三者にも対抗できるので、禁止特約が付いた永小作権を買い受けても取得できません。地上権には、これに対応する禁止特約の規定も登記事項もありません。Q2. 地上権は、地代の支払を約さなければ成立しない。○か×か。
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×。民法265条は工作物または竹木を所有するために土地を使用する権利と定めるだけで、地代を成立要件としていません。266条は地代を支払うべき場合の規律を置いているにすぎず、無償の地上権も成立します。これに対し永小作権は270条が「小作料を支払って」と定めているため小作料が要素であり、賃貸借も601条により賃料が要素です。Q3. 地役権は、要役地から分離して、これのみを譲渡することができる。○か×か。
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×。民法281条2項は、地役権は要役地から分離して譲り渡し、または他の権利の目的とすることができないと定めており、こちらにはただし書がありません。地役権のみに抵当権を設定することもできません。なお281条1項の、要役地の所有権とともに移転するという部分にはただし書があり、設定行為で別段の定めをすることができます。1項と2項で扱いが違う点に注意が必要です。Q4. 通行地役権を時効取得するには、地役権が継続的に行使され、かつ外形上認識することができるものであることが必要である。○か×か。
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○。民法283条が、継続的に行使され、かつ外形上認識することができるものに限り時効取得できると定めています。さらに通行地役権については、要役地の所有者が自ら通路を開設することが必要であるとするのが判例です(最判昭和30年12月26日)。他人が作った通路を通っていたにすぎない場合は、時効取得は認められません。なお期間そのものは163条により20年、占有開始時に善意無過失であれば10年です。283条は一般則に上乗せされた絞りであって、期間を変える規定ではありません。Q5. 地役権も、地上権や永小作権と同様に、抵当権の目的とすることができる。○か×か。
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×。民法369条2項が抵当権の目的として挙げているのは地上権と永小作権だけです。地役権は281条2項により要役地から分離して他の権利の目的とすることができないため、単独では抵当権の目的になりません。要役地に抵当権が設定されれば、281条1項によりその効力が地役権にも及ぶ、という関係になります。賃借権も抵当権の目的にはなりません。まとめ
用益物権は、所有権のうち使用と収益の部分を物権として切り出す仕組みです。物権であることから、承諾なしの処分、登記請求権、対世的な主張、担保としての利用という四つが原則として認められ、これが債権である賃借権との差を生みます。例外は、永小作権の譲渡禁止特約(272条ただし書)と、地役権が要役地から離せないこと(281条2項)の二つだけです。
三つの権利は目的で呼び分けます。地上権は工作物・竹木の所有、永小作権は耕作・牧畜、地役権は自分の土地の便益。対価の扱いもここから導かれ、地上権だけが無償でも成立します。存続期間の数字は、永小作権の20年以上50年以下(278条1項)と、地上権で裁判所が定める範囲(268条2項)が同じ数字で意味が違うので、主語を添えて覚えてください。
建物所有目的であれば、地上権も土地賃借権も借地借家法上の借地権になります(2条1号)。ただし譲渡に承諾が要るかという差は残るので、借地借家法は賃借権の弱点を補う法律であって、物権と債権の区別を消すものではないと押さえておくと、応用が効きます。
地役権については、要役地側の規定(281条から284条まで)と承役地側の規定(285条から288条まで)に条文が分かれていることを意識してください。要役地側は付従性・不可分性・時効取得という「権利が土地に付いている」話で、承役地側は工作物の設置義務とその承継、委棄、費用分担という「負担をどう配分するか」の話です。消滅の規律(289条から293条まで)は、承役地が時効取得されれば地役権も落ちる、ただし行使を続けていれば食い止められる、という構造になっています。
登記事項を並べて確認する作業も、一度はやっておく価値があります。地上権の地代が「定めがあるとき」(不動産登記法78条2号)で永小作権の小作料が無条件(79条1号)であること、永小作権では禁止特約が(79条3号)賃借権では許諾特約が(81条3号)登記されること。実体法の原則の反対側が登記される、という一本の理屈で両方が導けます。
取引の場面では、登記された用益物権は宅建業法35条1項1号の重要事項説明で拾われ、法定地上権(388条)だけは登記に現れないまま競売で発生します。確認の手段が登記と要件の二つあることを覚えておいてください。
宅建試験AIブートラボのアプリでは、用益物権と賃借権の比較を含む肢別トレーニングと年度別過去問演習に取り組めます。
民法・借地借家法・区分所有法など、条文だけでは判断しづらい論点は、過去問の肢で覚えるのが最短です。