借地権の対抗要件|建物登記による対抗を解説
借地借家法10条が民法605条をどう修正したかを条文から整理。建物登記の名義・種類、滅失後の掲示と2年、対抗要件を備えた効果としての賃貸人たる地位の移転(民法605条の2)まで解説します。
目次
この記事は、借地権の対抗要件という一点を扱います。借地権の存続期間や更新は借地権とは、借地借家法全体の見取り図は借地借家法の全体像、定期借地権の三類型は定期借地権にあります。ここでは対抗要件だけを、条文の構造と、対抗要件を備えたことの効果まで掘り下げます。
結論を先に述べます。借地借家法10条1項は、民法605条の原則を実質的に置き換えた規定です。民法605条は不動産賃貸借を登記すれば対抗できるとしていますが、判例は賃借人に登記請求権を認めていません。賃貸人が協力しなければ登記できず、そして賃貸人には協力する義務がない。つまり605条は、賃借人の側から見ると使える見込みのない条文です。
そこで10条1項は、対抗要件を土地の登記から建物の登記に移しました。建物は借地権者が自分で建てて自分で登記できます。地主の協力が一切要らない。この一点が605条との決定的な違いであり、10条が置かれた理由のすべてです。
そしてもう一つ、見落とされがちな論点があります。対抗要件を備えることの効果は「土地を買った人に追い出されない」だけではありません。民法605条の2第1項が、借地借家法10条を名指しで引用したうえで、対抗要件を備えた不動産が譲渡されたときは賃貸人たる地位が譲受人に移転すると定めています。追い出されないという消極的な効果だけでなく、地主が誰であるかが自動的に切り替わるという積極的な効果まで生じる。この接続まで押さえて、初めて対抗要件を理解したことになります。
民法605条はなぜ機能しないのか
605条の条文
出発点は民法です。
民法605条(不動産賃貸借の対抗力)
「不動産の賃貸借は、これを登記したときは、その不動産について物権を取得した者その他の第三者に対抗することができる。」
賃借権を登記すれば、その後にその不動産について物権を取得した者に対抗できる。条文としては何の問題もありません。土地を借りている人が賃借権の登記をしておけば、地主が土地を売っても新しい所有者に対して「私はここを借りています」と主張できます。
賃借人には登記請求権がない
問題は、その登記が実際にはできないという点にあります。
不動産の登記は、原則として登記権利者と登記義務者が共同で申請します。賃借権の登記であれば、賃借人と賃貸人が共同で申請することになります。賃貸人が協力しなければ登記は実現しません。
そして判例は、土地の賃借人が賃貸人に対して賃借権の登記手続を請求する権利を持たないとしています。賃貸借契約を締結したというだけでは、賃貸人は登記に協力する義務を負わないという立場です。特約で登記に協力する旨を定めていれば別ですが、そのような特約が結ばれることは実際にはほとんどありません。地主の側からすれば、賃借権の登記がある土地は売りにくくなるので、進んで協力する動機がないからです。
結果として、605条は条文としては存在するが、賃借人が単独で使うことはできない規定になっています。登記記録の仕組みそのものは不動産登記法、登記事項の読み方は登記簿の読み方で扱っています。
地上権であれば事情が違う
ここで、借地権の中身によって扱いが分かれる点を確認しておきます。
借地借家法2条1号
「借地権 建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権をいう。」
借地権には地上権と土地の賃借権の二種類があります。地上権は民法265条が定める物権で、他人の土地において工作物または竹木を所有するためにその土地を使用する権利です。物権である以上、地上権者は設定者に対して登記手続を請求できると解されており、賃借権とは事情が異なります。
しかし実際の借地契約のほとんどは賃借権です。地上権を設定すると地主にとって不利になるため、実務では賃借権が選ばれます。したがって、605条が機能しないという問題は借地の大部分で現実に生じます。
そして重要なのは、借地借家法10条1項が地上権と賃借権を区別していないことです。条文は「借地権は」と書いており、2条1号の定義がそのまま当てはまります。地上権による借地権でも、賃借権による借地権でも、建物の登記があれば対抗できます。地上権については法定地上権で別の角度から扱っています。
対抗要件とは何かの確認
前提として、対抗要件という言葉の意味を押さえておきます。
効力要件は、それがなければ権利や契約の効力そのものが生じないものです。対抗要件は、効力は当事者間で生じているが、第三者との関係で自分の権利を主張するために必要になるものです。
借地権は、地主との契約によって当事者間では有効に成立しています。対抗要件がないからといって、借地権が無効になるわけではありません。ただ、地主が土地を第三者に売却した場合に、その第三者に対して「私には借地権がある」と言えなくなる。言えなければ、新しい所有者からの明渡請求に応じるほかありません。対抗要件の有無が決めるのは、契約の効力ではなく、第三者との優劣です。物権変動における対抗要件の一般論は物権変動と対抗要件で扱っています。
借地借家法10条1項 — 建物の登記で足りる
条文
借地借家法10条1項(借地権の対抗力)
「借地権は、その登記がなくても、土地の上に借地権者が登記されている建物を所有するときは、これをもって第三者に対抗することができる。」
短い条文ですが、要素が三つ入っています。
第一に、「その登記がなくても」。借地権そのものの登記、つまり地上権の登記や土地賃借権の登記は不要です。605条の原則を明示的に外しています。
第二に、「土地の上に……建物を所有するとき」。借地上に建物が存在し、それを借地権者が所有していることが必要です。建物がなければこの条文は働きません。
第三に、「借地権者が登記されている建物」。その建物について、借地権者の名義で登記がされていることが必要です。
この三つが揃って初めて対抗できます。ひとつでも欠ければ10条1項による対抗はできません。
なぜ建物の登記でよいのか
理由は単純です。建物は借地権者の所有物だからです。
自分が所有する建物について、借地権者は表題登記も所有権保存登記も単独で申請できます。地主の関与は一切要りません。土地の賃借権の登記が地主の協力を要するのに対し、建物の登記は借地権者ひとりで完結します。
「地主の協力なしに対抗力を備えられるようにする」という目的に対して、建物の登記は完璧な解決策でした。しかも借地権は建物の所有を目的とする権利ですから(2条1号)、借地上に建物が建っているのは通常のことで、特別な負担を課すわけでもありません。
建物の登記が土地の権利を公示できる理由
一見すると奇妙な仕組みです。土地に関する権利を、土地の登記記録ではなく建物の登記記録で公示している。土地を買おうとする人は、土地の登記記録だけを見ていたのでは借地権の存在に気づけないことになります。
しかし実際には気づけます。土地の上に他人名義の建物が建っていれば、その土地に何らかの利用権があることは現地を見れば分かります。そして建物の登記記録を調べれば、誰がその建物を所有しているかも分かる。土地を買おうとする者は、更地でない限り、建物の存在を前提に権利関係を調査するのが当然です。
建物の存在という物理的な事実と、建物の登記という公示が組み合わさって、借地権の存在を第三者に知らせている。これが10条1項の仕組みです。この理解を持っておくと、次に見る「名義」の論点がなぜ厳格に扱われるのかも見えてきます。
建物の登記名義は借地権者本人でなければならない
判例の立場
10条1項が最も出題されるのがここです。条文は「借地権者が登記されている建物」と書いています。登記されている名義人が借地権者本人でなければならないという趣旨です。
判例は、借地権者が同居の家族の名義で建物の保存登記をしていた事案について、借地権の対抗力を否定しています。建物の所有者と登記名義人が一致していない以上、その登記は借地権者がその建物を所有していることを公示していない、というのが理由です。
なぜ厳格に解するのか
前節で見た仕組みに立ち返ると、この結論は自然に導けます。
10条1項が働くのは、建物の登記が「この土地の上の建物は借地権者のものである」と公示しているからです。登記名義が別人であれば、その公示は成り立ちません。土地を買おうとする者が建物の登記記録を調べても、そこに現れるのは別人の名前です。その別人が借地権者なのか、それとも建物だけを買った第三者なのか、登記からは判別できません。
公示の仕組みとして機能しない登記に、対抗力を認めるわけにはいかない。だから名義の一致が要求されます。実質的に借地権者が建物を所有していることが真実であっても、登記がそれを示していなければ足りません。
認められない名義の具体例
判例の考え方からすると、次のような登記では対抗できません。
配偶者名義の登記。借地権者が夫で、建物の登記が妻の名義になっている場合です。実質的に夫婦の財産だから、という主張は通りません。
子の名義の登記。相続を見越して、あるいは税務上の考慮から子の名義で登記することがありますが、対抗力は失われます。
同居の親族名義の登記。同居していることは公示とは無関係です。
借地権者が法人である場合の、代表者個人名義の登記。法人と代表者個人は別の法主体です。実質的な支配関係があっても、登記上は別人です。
出題では、これらを「実質的には借地権者が所有している」「借地権者と生計を一にしている」といった事情とともに提示してきます。事情がどうであれ、登記名義が借地権者本人でなければ10条1項は働きません。この一点で判断してください。
建物を譲渡した場合
逆の方向も考えておきます。借地権者が借地上の建物を第三者に譲渡した場合はどうなるか。
建物の所有権が移転すれば、通常はそれに伴って借地権も譲渡されます。ただし賃借権による借地権であれば、譲渡には地主の承諾が必要です(民法612条1項)。承諾を得ずに譲渡すれば、地主は契約を解除できます(同条2項)。承諾に代わる裁判所の許可の制度など、譲渡をめぐる問題は借地権とはで扱っています。
対抗要件の観点で押さえておくべきなのは、建物の登記名義が新しい借地権者に移っていなければ、新しい借地権者は10条1項による対抗ができないという点です。名義の一致が要求される以上、借地権が移れば建物の登記名義も移す必要があります。
どの登記であれば足りるか
表示に関する登記でもよい
建物の登記には、建物の物理的状況を記録する表示に関する登記(表題登記)と、所有権などの権利を記録する権利に関する登記があります。10条1項の対抗力は、どちらで生じるのか。
判例は、表示に関する登記であっても対抗力を認めています。所有権保存登記まで備えている必要はありません。
理由は、表題登記にも所有者が記録されるからです。表題部には所有者の氏名または名称と住所が記録されるので、誰がその建物を所有しているかは表題登記だけでも公示されます。10条1項が求めているのは借地権者が建物を所有していることの公示であって、権利の登記そのものではない。だから表題登記で足りる、という筋道になります。
この論点は繰り返し出題されます。「借地上の建物について表題登記しかされていない場合は借地権を対抗できない」という選択肢は誤りです。
所在地番が実際と食い違う場合
建物の登記記録には、その建物が所在する土地の地番が記録されます。この地番が実際の土地の地番と食い違っていた場合はどうか。
判例は、地番の表示に多少の相違があっても、建物の同一性を認識できる程度のものであれば対抗力を認めています。登記記録に記載された構造、床面積、その他の事項とあわせて見れば、現地に建っている建物と登記されている建物が同一であると分かる場合です。
逆に、まったく無関係の地番が記載されているなど、登記記録から現地の建物との同一性を認識できない場合には、公示としての機能を果たしていないので対抗力は認められません。
判断の基準は「その登記を見て、現地のこの建物のことだと分かるか」です。登記の記載が一字一句正確であることが要求されているわけではありません。ここでも、公示として機能しているかどうかという一貫した視点が使われています。
未登記建物では足りない
当然の帰結ですが、建物がまったく登記されていない場合には10条1項による対抗はできません。条文が「登記されている建物」と書いている以上、登記の存在は必須です。
建物を建てただけでは対抗力は生じません。少なくとも表題登記を備える必要があります。「借地上に建物を建築して居住していれば、登記がなくても借地権を対抗できる」という選択肢は誤りです。ここは後で見る借家の対抗要件(引渡しで足りる)との違いが際立つところで、混同を誘う出題があります。
10条2項 — 建物が滅失した場合の掲示
条文の構造
建物の登記が対抗要件である以上、建物がなくなれば対抗力も失われるのが理屈です。火災で焼失した、老朽化して取り壊した、という場合に借地権者が直ちに保護を失うのでは酷なので、2項が救済を置いています。
借地借家法10条2項
「前項の場合において、建物の滅失があっても、借地権者が、その建物を特定するために必要な事項、その滅失があった日及び建物を新たに築造する旨を土地の上の見やすい場所に掲示するときは、借地権は、なお同項の効力を有する。ただし、建物の滅失があった日から二年を経過した後にあっては、その前に建物を新たに築造し、かつ、その建物につき登記した場合に限る。」
条文の作りを確認してください。「なお同項の効力を有する」と書かれています。2項が独立の対抗要件を新設しているのではなく、1項の効力を延長しているという構造です。したがって、滅失前に1項の要件を満たしていたこと、つまり借地権者名義の建物登記があったことが前提になります。
もともと登記されていない建物が滅失した場合には、延長すべき効力がありません。この点は条文が「前項の場合において」と書いていることから読み取れます。
掲示すべき三つの事項
条文が求める掲示の内容は三つです。
第一に、その建物を特定するために必要な事項。滅失した建物の所在、種類、構造、床面積など、どの建物のことかが分かる情報です。
第二に、その滅失があった日。いつ滅失したかが分からなければ、2年の期間がいつ満了するかを第三者が判断できません。
第三に、建物を新たに築造する旨。建て直す意思があることを示す必要があります。借地を続ける気がないのであれば、対抗力を維持させる理由がないからです。
三つのうちひとつでも欠ければ、条文の要件を満たしません。出題では、このうちの一つを落とした形で提示されることがあります。三つを言えるようにしておいてください。
掲示の場所
掲示すべき場所は「土地の上の見やすい場所」です。土地を買おうとする者が現地を見れば気づく場所、という趣旨です。
建物がなくなった以上、登記による公示は使えません。そこで、現地の掲示という物理的な方法で公示を代替しています。土地を買おうとする者は現地を確認するのが通常ですから、見やすい場所に掲示があれば借地権の存在に気づけます。10条1項が「建物の存在という物理的事実+建物の登記」で公示していたのに対し、2項は「現地の掲示」で公示している。公示の方法が変わっただけで、公示によって第三者を保護するという発想は一貫しています。
2年の起算点は滅失の日
ただし書が期間を区切っています。「建物の滅失があった日から二年を経過した後にあっては、その前に建物を新たに築造し、かつ、その建物につき登記した場合に限る」。
起算点は建物の滅失があった日です。掲示をした日ではありません。ここを「掲示から2年」と読み違える誤りが出ます。掲示が滅失から1か月後だったとしても、2年は滅失の日から数えます。
そして2年を経過した後も対抗力を維持するには、その2年が経過する前に、建物を新たに築造し、かつ、その建物について登記していることが必要です。築造だけでは足りず、登記まで済ませなければなりません。
掲示がなければ2年の猶予自体がない
順序を正確に押さえてください。
掲示をすれば、滅失の日から2年間は対抗力が続きます。その2年の間に建物を新築して登記すれば、その後も対抗力が続きます。掲示をしなければ、2年の猶予そのものが得られません。
つまり掲示は、2年間の猶予を得るための要件です。「建物が滅失しても2年以内に建て直せば対抗力を維持できる」という説明は、掲示という要件が抜けているので正確ではありません。掲示をしないまま2年以内に建て直した場合、滅失から新建物の登記までの間は対抗力がない状態が生じます。その間に土地が第三者に譲渡されれば、借地権者は対抗できません。
掲示が先。それがあって初めて2年が動き出す。この順序を意識してください。借地借家法に登場する数字を横断的に整理したものは借地借家法の数字にあります。
対抗要件を備えると何が起きるか — 民法605条の2
条文が借地借家法10条を名指ししている
ここからが、対抗要件という論点の後半です。対抗要件を備えた効果は、「新しい土地所有者に追い出されない」だけではありません。
民法605条の2第1項(不動産の賃貸人たる地位の移転)
「前条、借地借家法(平成三年法律第九十号)第十条又は第三十一条その他の法令の規定による賃貸借の対抗要件を備えた場合において、その不動産が譲渡されたときは、その不動産の賃貸人たる地位は、その譲受人に移転する。」
条文が借地借家法10条を名指しで引用しています。民法605条による対抗要件だけでなく、借地借家法10条による対抗要件、31条による対抗要件を備えた場合も、同じ効果が生じるという書き方です。
効果は、賃貸人たる地位が譲受人に移転することです。借地の場面に当てはめると、土地が売られたときに、地主としての地位が土地の買主に自動的に移ります。借地権者の承諾は要りません。契約を結び直す必要もありません。
移転するのは地位そのもの
「賃貸人たる地位が移転する」というのは、契約上の当事者としての立場が丸ごと移るという意味です。
新しい所有者は、借地権者に対して地代を請求する権利を取得します。同時に、土地を使用させる義務も負います。旧地主は契約から離脱し、以後は当事者ではなくなります。
対抗できるというのは、単に「出て行けと言われない」という消極的な状態ではありません。新しい所有者との間に、従前と同じ内容の借地関係が成立するということです。この積極的な側面まで理解しておくと、賃料を誰に払うのか、敷金を誰に請求するのかという派生論点が自分で処理できます。
譲受人は登記をしなければ賃借人に対抗できない
ただし、地位が移ったことを借地権者に主張するには条件があります。
民法605条の2第3項
「第一項又は前項後段の規定による賃貸人たる地位の移転は、賃貸物である不動産について所有権の移転の登記をしなければ、賃借人に対抗することができない。」
新しい所有者は、土地について所有権移転登記を備えなければ、借地権者に対して賃貸人であることを主張できません。登記がない段階で地代を請求されても、借地権者は支払いを拒めます。
この規定には理由があります。借地権者からすれば、突然現れて「土地を買ったので地代を払ってください」と言われても、その主張が本当かどうか確かめる手段がありません。二重に請求されて二重に払わされる危険もあります。登記を確認すれば真の所有者が誰かは分かるので、登記を基準にすれば借地権者は安全に判断できる。借地権者を保護するための要件です。
対抗要件が二段構えになっている点が重要です。借地権者が新所有者に対抗するには建物の登記(借地借家法10条1項)、新所有者が借地権者に対抗するには土地の所有権移転登記(民法605条の2第3項)。方向によって必要な登記が違います。この非対称を問う出題があります。
敷金と費用償還の債務は承継される
民法605条の2第4項
「第一項又は第二項後段の規定により賃貸人たる地位が譲受人又はその承継人に移転したときは、第六百八条の規定による費用の償還に係る債務及び第六百二十二条の二第一項の規定による同項に規定する敷金の返還に係る債務は、譲受人又はその承継人が承継する。」
敷金の返還債務は新しい所有者に承継されます。借地権者が旧地主に差し入れた敷金や保証金は、契約終了時に新しい所有者に対して返還を請求することになります。旧地主に請求するのではありません。
608条による費用償還債務も同様に承継されます。
この規定がないと、借地権者は敷金を返してもらうために、すでに土地を手放して関係がなくなった旧地主を追いかけることになります。それでは保護になりません。地位が移るなら、それに付随する債務も一緒に移るという整理です。
賃貸人たる地位を留保する特約
実務で使われる仕組みが2項に置かれています。
民法605条の2第2項
「前項の規定にかかわらず、不動産の譲渡人及び譲受人が、賃貸人たる地位を譲渡人に留保する旨及びその不動産を譲受人が譲渡人に賃貸する旨の合意をしたときは、賃貸人たる地位は、譲受人に移転しない。この場合において、譲渡人と譲受人又はその承継人との間の賃貸借が終了したときは、譲渡人に留保されていた賃貸人たる地位は、譲受人又はその承継人に移転する。」
譲渡人と譲受人が合意すれば、賃貸人たる地位を譲渡人に残せます。ただし条件が二つあります。
第一に、賃貸人たる地位を譲渡人に留保する旨の合意。第二に、その不動産を譲受人が譲渡人に賃貸する旨の合意。この二つが揃わなければ留保できません。
二つ目の要件が置かれている理由を考えてください。譲渡人が所有権を失ったのに賃貸人であり続けるとすると、譲渡人は自分に何の権利もない土地を貸していることになります。そこで、譲受人から譲渡人へ賃貸するという関係を作り、譲渡人に土地の利用権原を持たせる。その利用権原に基づいて、譲渡人が借地権者に又貸しをしている形にするわけです。借地権者は転借人のような立場になりますが、従前と同じ相手に地代を払い続けられるので、実際上の不利益はありません。
そして2項後段が、譲渡人と譲受人の間の賃貸借が終了したときは、留保されていた賃貸人たる地位が譲受人に移転すると定めています。譲渡人が土地を使う権原を失えば、その時点で地位は譲受人に移る。借地権者が宙に浮かないための手当てです。
対抗要件を備えていない場合 — 605条の3
対抗要件を備えていない賃貸借についてはどうなるか。605条の3が別に定めています。
民法605条の3(合意による不動産の賃貸人たる地位の移転)
「不動産の譲渡人が賃貸人であるときは、その賃貸人たる地位は、賃借人の承諾を要しないで、譲渡人と譲受人との合意により、譲受人に移転させることができる。この場合においては、前条第三項及び第四項の規定を準用する。」
賃借人の承諾は要りません。譲渡人と譲受人の合意だけで地位を移せます。
承諾が不要とされているのは、賃貸人の債務には個性が乏しいからです。賃貸人が負う主たる債務は、目的物を使用収益させることです。誰が賃貸人であっても、賃借人が受け取るものは変わりません。債務者が交代することで賃借人が不利益を受ける場面が想定しにくいので、承諾を要求する必要がないという判断になります。
そして605条の3後段が、605条の2第3項と4項を準用しています。この場合も、譲受人は所有権移転登記をしなければ賃借人に対抗できず、敷金返還債務と費用償還債務は承継されます。扱いは605条の2の場合と同じになるということです。
605条の2は対抗要件を備えた場合に自動的に移転する規定、605条の3は対抗要件の有無にかかわらず合意で移転させる規定。この使い分けを押さえてください。
妨害の停止と返還の請求 — 民法605条の4
対抗要件を備えた賃借人は第三者を排除できる
対抗要件を備えたことのもう一つの効果が605条の4です。
民法605条の4(不動産の賃借人による妨害の停止の請求等)
「不動産の賃借人は、第六百五条の二第一項に規定する対抗要件を備えた場合において、次の各号に掲げるときは、それぞれ当該各号に定める請求をすることができる。一 その不動産の占有を第三者が妨害しているとき その第三者に対する妨害の停止の請求 二 その不動産を第三者が占有しているとき その第三者に対する返還の請求」
条文が「第六百五条の二第一項に規定する対抗要件」と書いているので、借地借家法10条による対抗要件を備えた借地権者も、この請求ができます。
借地上に無断で物を置かれた、資材を積まれたといった場合には妨害の停止を請求でき、第三者が借地を不法に占有している場合には返還を請求できます。
債権なのに物権的な保護を受ける
賃借権は債権です。債権は特定の債務者に対する権利ですから、本来なら契約の相手方である賃貸人にしか主張できません。第三者に対して直接請求することはできないはずです。
しかし対抗要件を備えた不動産賃借権は、物権に近い保護を受けます。対抗要件を備えているということは、その権利が第三者に対しても主張できる状態にあるということですから、第三者からの侵害に対して直接排除を求めることも認めてよい、という発想です。
この規定は2020年施行の債権法改正で新設されました。改正前も判例が同様の結論を認めていましたが、条文として明確になったものです。占有そのものに基づく保護は別の制度で、占有権と即時取得で扱っています。
借地権者が建物の登記を備えているかどうかが、ここでも効いてきます。登記がなければ605条の4の請求もできません。対抗要件を備えることの実益は、明渡請求を防ぐことに尽きるのではないという点を押さえておいてください。
借家の対抗要件(31条)との対比
建物賃貸借は引渡しで足りる
借地と並べて出題されるのが借家です。
借地借家法31条(建物賃貸借の対抗力)
「建物の賃貸借は、その登記がなくても、建物の引渡しがあったときは、その後その建物について物権を取得した者に対し、その効力を生ずる。」
借家の対抗要件は建物の引渡しです。登記は要りません。建物を借りて住み始めていれば、その後にその建物を買った人に対して賃借権を主張できます。
要件が違う理由
借地は建物の登記、借家は引渡し。どちらも民法605条の原則を修正している点では共通ですが、要求される行為が違います。
理由は、それぞれの場面で借主が単独でできることが違うからです。
借地の場合、借地権者は自分の建物を持っているので、それを登記できます。登記という明確な公示手段が使えるなら、それを使うのが確実です。そして土地の上に他人名義の建物が建っていること自体が、土地の買主に対する警告として機能します。
借家の場合、借主は建物を所有していません。登記できるものが何もない。建物の登記は貸主のものです。借主が単独でできることといえば、実際にその建物を使っていることくらいです。だから引渡しという事実状態を対抗要件にした。建物を買おうとする者は、現に誰かが住んでいれば賃借人の存在に気づけます。
単独でできることが何かによって、対抗要件の内容が決まっている。この視点で見ると、二つの条文の違いは覚えるものではなく、導けるものになります。建物賃貸借の実務上の論点は賃貸借契約の注意点で扱っています。
混同を誘う出題
「借地権の対抗要件は土地の引渡しである」は誤りです。引渡しで足りるのは借家です。
「借家権の対抗要件は建物の登記である」も誤りです。登記が要求されるのは借地の側です。
「借地上に建物を建てて居住していれば、建物が未登記でも借地権を対抗できる」も誤りです。居住という事実状態では足りません。10条1項は登記を要求しています。
三つとも、借地と借家の要件を入れ替えた形です。借地は登記、借家は引渡し。この対応を確実にしてください。
借地上の建物の賃借人は二層構造の中にいる
対抗要件を考えるうえで押さえておきたい場面が、借地上の建物が第三者に賃貸されている場合です。
この場合、権利は二層になっています。第一層は、地主と借地権者の間の借地権。第二層は、借地権者と建物賃借人の間の借家権。
建物賃借人は、建物の引渡しを受けていれば31条により建物の賃借権を対抗できます。しかしそれは建物についての権利であって、土地を使う権原ではありません。土地を使う権原は借地権者が持っており、建物賃借人はその借地権に乗っかっているにすぎません。
したがって借地権が終了すれば、建物賃借人は土地を明け渡さなければならなくなります。下の層が崩れれば上の層も維持できないからです。この場面のために35条が置かれています。
借地借家法35条1項(借地上の建物の賃借人の保護)
「借地権の目的である土地の上の建物につき賃貸借がされている場合において、借地権の存続期間の満了によって建物の賃借人が土地を明け渡すべきときは、建物の賃借人が借地権の存続期間が満了することをその一年前までに知らなかった場合に限り、裁判所は、建物の賃借人の請求により、建物の賃借人がこれを知った日から一年を超えない範囲内において、土地の明渡しにつき相当の期限を許与することができる。」
保護の内容は、明渡しの期限を猶予してもらえるという限度にとどまります。建物賃借人が土地を使い続けられるようになるわけではありません。しかも、借地権の存続期間の満了を1年前までに知らなかった場合に限られ、裁判所への請求が必要で、猶予される期間も知った日から1年を超えない範囲です。
建物について対抗要件を備えていても、土地の権利までは手に入らない。この限界を理解しておくと、対抗要件が何に対する対抗なのかという感覚が正確になります。
10条は強行規定である
16条が特約を無効にする
最後に、10条の性質を確認しておきます。
借地借家法16条(強行規定)
「第十条、第十三条及び第十四条の規定に反する特約で借地権者又は転借地権者に不利なものは、無効とする。」
10条に反する特約で借地権者に不利なものは無効です。たとえば「借地上の建物を登記しても借地権を第三者に対抗しないものとする」という特約を契約書に入れても、効力を生じません。
借地借家法には強行規定を定める条文が二つあります。9条が3条から8条まで(存続期間と更新に関する規定)を守り、16条が10条・13条・14条を守っています。対抗要件と建物買取請求権は9条ではなく16条の側にあるという配置を押さえておいてください。
借家についても同じ構造があり、37条が31条・34条・35条に反する借主に不利な特約を無効としています。借地の対抗要件(10条)も借家の対抗要件(31条)も、どちらも強行規定として守られているということです。
定期借地権でも外れない
定期借地権を設定した場合でも、10条の適用は外れません。22条から24条までが特則として外している規定の中に10条は入っていないからです。定期借地権でも、借地上の建物の登記によって第三者に対抗できますし、滅失後の掲示による2年間の猶予も同じように働きます。この点は定期借地権で詳しく扱っています。
「定期借地権には建物の登記による対抗力が認められない」という選択肢は誤りになります。
試験での出題ポイント
建物の登記名義
最も問われるのがここです。配偶者名義、子の名義、同居の親族名義、法人の代表者個人名義。いずれも対抗力は認められません。
選択肢は「実質的には借地権者の所有である」「借地権者と生計を一にしている」といった事情を添えてきますが、結論は変わりません。判例は登記名義と建物所有者の一致を要求しています。
表示に関する登記
「表題登記しかされていない場合は対抗できない」は誤りです。判例は表示に関する登記でも対抗力を認めています。表題部に所有者が記録されるため、公示としては足りるからです。
滅失後の掲示
2年の起算点は滅失の日であって、掲示の日ではありません。
掲示は2年の猶予を得るための要件であり、掲示をしなければ猶予そのものが生じません。「2年以内に建て直せばよい」という記述は掲示が抜けています。
掲示すべき事項は三つ(建物を特定するために必要な事項、滅失があった日、新たに築造する旨)。ひとつ落とした形で出題されます。
2年経過後に対抗力が続くのは、その前に築造しかつ登記した場合に限られます。築造だけでは足りません。
借地と借家の入れ替え
借地は建物の登記、借家は建物の引渡し。この二つを入れ替えた選択肢が定番です。
賃貸人たる地位の移転
土地が譲渡されると、賃貸人たる地位は譲受人に移転します(民法605条の2第1項)。借地権者の承諾は不要です。
譲受人が借地権者に地代を請求するには、土地の所有権移転登記が必要です(同条3項)。「新所有者は登記がなくても賃料を請求できる」は誤りです。
敷金の返還債務は譲受人が承継します(同条4項)。「敷金は旧所有者に請求する」は誤りです。
対抗要件を備えていない場合でも、譲渡人と譲受人の合意で地位を移転でき、賃借人の承諾は不要です(605条の3)。「賃借人の承諾がなければ移転できない」は誤りです。
民法605条との関係
「借地権を対抗するには土地賃借権の登記が必要である」は誤りです。10条1項が「その登記がなくても」と明記しています。
「賃借人は賃貸人に対して賃借権の登記手続を請求できる」も誤りです。判例は登記請求権を認めていません。
覚え方・整理の仕方
「誰が単独でできるか」で対抗要件が決まる
605条が使えない理由も、借地と借家で要件が違う理由も、すべて同じ視点で説明できます。
賃借権の登記は、賃貸人の協力が要るからできない。建物の登記は、借地権者が自分の建物について単独でできる。建物の引渡しは、借主が現に住むという事実で足りる。
借主がひとりで実現できることを対抗要件にする。この一本の基準で三つが並びます。個別に暗記する必要がありません。
公示として機能しているかで判断する
名義の一致、表示の登記の可否、地番の相違、滅失後の掲示。細かく見える論点はすべて「その状態が第三者に借地権の存在を知らせているか」という一つの問いに還元できます。
名義が別人なら知らせていない。表題登記でも所有者が記録されるから知らせている。地番が多少違っても同一性が分かるなら知らせている。建物がなくても掲示があれば知らせている。
公示の機能という物差しを一本持っておけば、初見の事案でも方向を誤りません。
対抗の方向で必要な登記が違う
混乱しやすいところなので、方向を分けて覚えてください。
借地権者が新所有者に対抗するには、借地上の建物の登記(借地借家法10条1項)。
新所有者が借地権者に対抗するには、土地の所有権移転登記(民法605条の2第3項)。
片方は建物の登記、もう片方は土地の登記。主語がどちらかを確認してから、どの登記の話かを判断します。
掲示は「先に立てる」
掲示をしてから2年が動くのではなく、掲示をしていることが2年間の対抗力継続の条件です。滅失の日から2年という枠は固定されていて、その枠の中で対抗力を維持するために掲示が要る、という構造です。
そして2年の終わりまでに新築と登記の両方を終える。掲示が入口、新築と登記が出口。この二点セットで覚えてください。
対抗要件を備えた効果は三つある
対抗要件を備えると何が起きるかを三つ並べておきます。
第一に、新所有者からの明渡請求を拒める。これが最も基本的な効果です。
第二に、賃貸人たる地位が新所有者に移転する(民法605条の2第1項)。地代の支払先が変わり、敷金の返還請求先も変わります。
第三に、第三者に対して妨害の停止と返還を請求できる(民法605条の4)。
対抗要件は「守り」だけの制度ではありません。この三つを持っておくと、派生する問いに対応できます。
理解度チェッククイズ
Q1. 借地権者Aが借地上に建物を建築し、同居している長男B名義で所有権保存登記をした場合、Aは借地権を土地の譲受人に対抗することができる。(○か×か)
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×:借地借家法10条1項は「借地権者が登記されている建物」と定めており、判例は建物の所有者と登記名義人が一致していることを要求しています。同居の家族名義で登記された事案について、判例は借地権の対抗力を否定しました。理由は、登記名義が別人であれば、その登記は借地権者が当該建物を所有していることを公示していないからです。10条1項が働くのは、建物の存在という物理的事実と建物の登記が組み合わさって借地権の存在を第三者に知らせているためであり、公示として機能していない登記に対抗力を認める理由がありません。実質的にAの所有であることや、Bと生計を一にしていることは結論に影響しません。Q2. 借地上の建物について表題登記のみがされており、所有権保存登記がされていない場合、借地権者は借地権を第三者に対抗することができない。(○か×か)
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×:判例は、表示に関する登記であっても借地借家法10条1項の対抗力を認めています。表題部には建物の所有者の氏名または名称と住所が記録されるので、誰がその建物を所有しているかは表題登記だけでも公示されるからです。10条1項が求めているのは、借地権者がその建物を所有していることの公示であって、権利に関する登記そのものではありません。なお、建物がまったく登記されていない場合には対抗できません。条文が「登記されている建物」と書いている以上、少なくとも表題登記は必要です。建物を建てて居住しているという事実だけでは足りない点が、引渡しで足りる借家の対抗要件との違いになります。Q3. 借地上の建物が火災で滅失した場合、借地権者が滅失の日から2年以内に建物を新築して登記すれば、掲示をしていなくても借地権の対抗力は失われない。(○か×か)
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×:借地借家法10条2項が対抗力の継続を認めるのは、借地権者が、建物を特定するために必要な事項、滅失があった日、および建物を新たに築造する旨を土地の上の見やすい場所に掲示した場合です。掲示をしなければ、2年間の猶予そのものが得られません。掲示をしないまま新築した場合、滅失から新建物の登記までの間は対抗力がない状態が生じ、その間に土地が譲渡されれば借地権者は対抗できないことになります。掲示が入口であり、その枠の中で滅失の日から2年以内に新築と登記の両方を終えるのが出口です。なお2年の起算点は滅失の日であって、掲示の日ではありません。Q4. 借地権者が借地上の建物について自己名義の登記を備えている場合において、地主が土地を第三者に譲渡したときは、譲受人は土地の所有権移転登記を備えなくても、借地権者に対して地代の支払を請求することができる。(○か×か)
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×:民法605条の2第1項により、借地借家法10条による対抗要件を備えた場合に土地が譲渡されると、賃貸人たる地位は譲受人に移転します。しかし同条3項が「賃貸人たる地位の移転は、賃貸物である不動産について所有権の移転の登記をしなければ、賃借人に対抗することができない」と定めているため、譲受人は土地の所有権移転登記を備えなければ借地権者に地代を請求できません。借地権者からすれば、突然現れた者の主張が真実かを確かめる手段がなく、二重に支払わされる危険もあるため、登記という明確な基準で判断できるようにしたものです。借地権者が対抗するには建物の登記、譲受人が対抗するには土地の登記と、方向によって必要な登記が違う点に注意してください。Q5. 建物の賃貸借において、賃借人が建物の引渡しを受けていれば、賃借権の登記がなくても、その後その建物について所有権を取得した者に対して賃借権を対抗することができる。(○か×か)
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○:借地借家法31条は「建物の賃貸借は、その登記がなくても、建物の引渡しがあったときは、その後その建物について物権を取得した者に対し、その効力を生ずる」と定めています。借家の対抗要件は引渡しであり、登記は不要です。借地の対抗要件が建物の登記であるのに対し、借家が引渡しで足りるのは、借主が単独でできることの違いによります。借地権者は自分が所有する建物を登記できますが、建物の賃借人は建物を所有していないので登記できるものがなく、現に使用しているという事実状態を対抗要件とするほかないからです。なお31条も37条により強行規定とされており、これに反する賃借人に不利な特約は無効になります。まとめ
借地権の対抗要件は、条文の数こそ少ないものの、民法と借地借家法をまたいで理解する必要がある論点です。骨格を整理します。
民法605条は機能しません。賃借権の登記には賃貸人の協力が必要で、判例は賃借人に登記請求権を認めていないからです。
借地借家法10条1項が対抗要件を建物の登記に置き換えました。借地権者は自分の建物を単独で登記できるので、地主の協力が要りません。地上権による借地権でも賃借権による借地権でも同じです。
登記名義は借地権者本人でなければなりません。家族名義では公示として機能しないため、判例は対抗力を否定しています。他方で、表示に関する登記であれば足り、地番の記載に多少の相違があっても同一性が認識できれば対抗力は認められます。
建物が滅失したときは10条2項の掲示です。三つの事項を土地の上の見やすい場所に掲示することで、滅失の日から2年間は対抗力が続きます。2年を超えて維持するには、その前に新築と登記の両方を終えていることが必要です。
対抗要件を備えた効果は明渡しを拒めることに尽きません。民法605条の2第1項が借地借家法10条を名指しで引用し、土地が譲渡されれば賃貸人たる地位が譲受人に移転すると定めています。譲受人が地代を請求するには土地の所有権移転登記が必要で(同条3項)、敷金の返還債務は譲受人が承継します(同条4項)。さらに605条の4により、第三者に対する妨害停止請求と返還請求もできます。
借家は引渡しで足ります。借地は登記、借家は引渡し。借主が単独でできることの違いから来る差です。
そして10条は16条により強行規定とされ、借地権者に不利な特約は無効です。定期借地権でも10条は外れません。
民法の賃貸借全体の中での位置づけは民法の賃貸借で確認できます。
宅建試験AIブートラボのアプリでは、建物登記の名義と滅失後の掲示を軸にした肢別トレーニングを収録しています。条文を読んだあとに肢を回して、借地と借家の要件が混ざらない状態まで固めてください。
民法・借地借家法・区分所有法など、条文だけでは判断しづらい論点は、過去問の肢で覚えるのが最短です。