宅建試験AIブートラボ 宅建試験AIブートラボ

時効|取得時効と消滅時効の要件・効果を解説

権利関係 読了 約27分

取得時効の20年と10年、消滅時効の5年と10年、完成猶予と更新の区別、援用と放棄、時効と登記の判例を、条文の番号を示しながら整理します。

目次

    この記事は、宅建試験の権利関係で問われる民法の時効を、条文と判例にもとづいて一通り押さえるためのものです。権利関係全体の中での位置づけは権利関係の全体像|14問の出題範囲と得点戦略を、どの論点が繰り返し問われるかは権利関係の頻出論点ランキングTOP15を参照してください。

    先に全体像を述べます。時効には、他人の物を占有し続けた者が権利を取得する取得時効(162条)と、権利を行使しないまま期間が経過して権利が消滅する消滅時効(166条)があります。期間は、取得時効が20年または10年、債権の消滅時効が5年または10年です。そして時効は、期間が経過しただけでは効果が生じません。当事者が援用してはじめて裁判所が時効によって裁判できます(145条)。期間の進行を止める仕組みは、2020年4月1日に施行された債権法改正で「中断・停止」から「更新・完成猶予」へ再編されました。以下、この順に見ていきます。

    なお、この記事の条文番号はすべて民法のものです。改正の全体像は権利関係の民法改正まとめ|試験で出る改正ポイントにまとめてあります。

    時効制度は何のためにあるか

    三つの存在理由

    時効は、一定の事実状態が一定期間続いた場合に、その事実状態にあわせて権利の取得または消滅という効果を認める制度です。真実の権利関係と違う結論が出ることもある制度なので、なぜそれが正当化されるのかを押さえておくと、個々の要件の理解が安定します。

    第一に、永続した事実状態の尊重です。長期間続いた事実状態の上には、多くの取引や生活関係が積み重なります。あとからそれを覆すと、事実状態を信頼して関係を結んだ人々の地位まで崩れてしまいます。

    第二に、立証困難の救済です。時間が経つと、領収書は失われ、契約書は散逸し、関係者の記憶は薄れます。本当に弁済した債務者が、証拠がないという理由で二重払いを強いられるのは不当です。長く続いた事実状態を権利関係として扱うことで、この不都合を避けます。

    第三に、権利の上に眠る者は保護しない、という考え方です。権利を持ちながら長期間行使しない者まで手厚く保護する必要はない、という価値判断です。ただしこれは三つの理由のひとつであって、これだけで時効制度が説明できるわけではありません。取得時効には、権利者の怠慢とは無関係に成立する場面があるからです。

    期間が経っただけでは効果は生じない

    時効の重要な特徴は、期間の経過だけでは完結しないことです。145条は「時効は、当事者が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない」と定めています。つまり、時効期間が満了しても、当事者が援用しない限り、裁判所は時効を前提にした判断ができません。時効の完成と、時効の援用は、別の段階だということです。

    もうひとつ、144条は「時効の効力は、その起算日にさかのぼる」と定めています。取得時効なら占有を開始した時点にさかのぼって所有者だったことになり、消滅時効なら時効期間の起算日にさかのぼって債権が存在しなかったことになります。取得時効の場合、その間に土地から生じた果実も、遡及の結果として占有者に帰属することになります。

    取得時効

    20年と10年の二本立て(162条)

    162条1項は「二十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する」と定めます。同条2項は「十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する」と定めます。

    両者を分けているのは、占有開始時に善意無過失だったかどうかだけです。善意無過失なら10年、それ以外(悪意または善意有過失)なら20年です。ここで決定的なのは、条文が「その占有の開始の時に」と書いていることです。善意無過失の判定時期は占有開始時であり、その後に他人の物だと気づいても、10年で取得時効は完成します。逆に、占有開始時に悪意であれば、途中で誤信するに至っても20年です。

    条文は「他人の物」と書いていますが、判例は、自己の物についても取得時効の援用を妨げないとしています(最判昭和42年7月21日)。売買で買い受けた土地について登記を備えないまま長期間占有していたような場合に、取得時効を主張する実益があるためです。

    四つの要件と、推定されるもの・されないもの

    取得時効の要件は、所有の意思をもった占有であること(自主占有)、平穏であること、公然であること、そして所定の期間継続することの四つです。

    このうち、所有の意思・善意・平穏・公然は、186条1項により推定されます。「占有者は、所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占有をするものと推定する」という条文です。したがって、これらを争う側が、他主占有であることや悪意であることを立証しなければなりません。

    ここに落とし穴があります。186条1項に無過失は書かれていません。無過失は推定されないのです。10年の取得時効を主張する者は、善意については推定を受けられますが、無過失については自ら立証する必要があります。「善意無過失は推定されるから10年で足りる」という趣旨の記述は誤りです。この点は繰り返し出題されます。

    186条2項も押さえておきます。「前後の両時点において占有をした証拠があるときは、占有は、その間継続したものと推定する」。占有開始時と現在の二つの時点で占有していたことを示せば、その間の継続が推定され、毎年の占有をすべて立証する必要はありません。

    所有の意思は権原の性質で客観的に決まる

    「所有の意思」は、占有者の内心の思いで決まるのではなく、占有を取得した原因である権原の性質によって客観的に判断されます。売買・贈与・相続によって始まった占有は自主占有です。これに対し、賃貸借・使用貸借・寄託によって始まった占有は、他人の所有を前提とする占有なので他主占有であり、どれだけ長く続けても取得時効は成立しません。賃借人が長年住み続けても土地建物を時効取得できないのは、この理由によります。賃貸借の基本は民法の賃貸借|存続期間・対抗要件・敷金を整理で確認できます。

    他主占有が自主占有に変わる道は、185条が定めています。占有させた者に対して所有の意思があることを表示するか、新たな権原によりさらに所有の意思をもって占有を始めるか、のいずれかです。判例は、相続がこの「新たな権原」にあたりうるとしています。被相続人の占有が他主占有であっても、相続人が新たに事実上の支配を開始し、そこに所有の意思があると認められる場合には、相続人について自主占有が成立するという趣旨です(最判昭和46年11月30日)。相続の基本構造は相続|相続人の範囲・法定相続分・遺留分にまとめてあります。

    占有の承継(187条)

    187条1項は「占有者の承継人は、その選択に従い、自己の占有のみを主張し、又は自己の占有に前の占有者の占有を併せて主張することができる」と定めます。承継人には選択権があるということです。ただし同条2項により、前の占有者の占有を併せて主張する場合には、その瑕疵をも承継します。

    この組み合わせが試験でよく問われます。前の占有者が善意無過失で占有を始めていれば、承継人はその占有を併せて主張することで、通算10年での時効取得を狙えます。判例は、前主の占有を併せて主張する場合、善意無過失は最初の占有者の占有開始時を基準に判断するとしています(最判昭和53年3月6日)。したがって、承継人自身が悪意であっても、通算10年で足りる場合があります。

    逆向きも成り立ちます。前の占有者が悪意であれば、その瑕疵を承継するため、併せて主張する限り20年が必要です。この場合、承継人は自己の占有のみを主張する選択もできますが、そうすると期間は自分の占有分だけになります。どちらを選ぶかは占有者の判断です。占有そのものの制度は占有権と即時取得|動産と不動産の違いで扱っています。

    所有権以外の権利と、占有の中止

    163条は「所有権以外の財産権を、自己のためにする意思をもって、平穏に、かつ、公然と行使する者は、前条の区別に従い二十年又は十年を経過した後、その権利を取得する」と定めます。地上権や地役権のほか、判例は賃借権の時効取得も認めています。土地の継続的な用益という外形的事実があり、それが賃借の意思にもとづくことが客観的に表現されていることが要件とされます(最判昭和43年10月8日)。地役権については283条が、継続的に行使され、かつ外形上認識することができるものに限ると定めています。

    164条には、改正後も「中断」という語が残っています。「第百六十二条の規定による時効は、占有者が任意にその占有を中止し、又は他人によってその占有を奪われたときは、中断する」。取得時効に固有の中断であり、消滅時効の更新・完成猶予とは別の話です。用語が紛らわしいので、条文の位置で切り分けて覚えてください。

    消滅時効

    二つの起算点、二つの期間(166条1項)

    166条1項は、債権は次の場合に時効によって消滅すると定めます。第1号が「債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき」、第2号が「権利を行使することができる時から十年間行使しないとき」です。

    第1号は主観的起算点、第2号は客観的起算点と呼ばれます。両者は選択関係ではなく、どちらか早く満了したほうで時効が完成します。契約にもとづく債権では、債権者は弁済期を知っているのが通常なので、二つの起算点は一致し、実際には5年で完成することが多くなります。10年が意味を持つのは、権利を行使できることを債権者が知らなかった場合です。

    「権利を行使することができる時」とは、権利行使に法律上の障害がない時を指します。確定期限のある債権は期限の到来時、期限の定めのない債権は債権成立時が起算点になります。債権者の側の事情、たとえば病気や不在といった事実上の障害は、起算点を遅らせません。

    債権以外の財産権と、消滅時効にかからない権利

    166条2項は「債権又は所有権以外の財産権は、権利を行使することができる時から二十年間行使しないときは、時効によって消滅する」と定めます。地上権や地役権がこれにあたります。

    この条文が「債権又は所有権以外の」と書いていることから、所有権は消滅時効にかからないことが導かれます。使わないからといって所有権が消えることはありません。所有権に基づく返還請求権や登記請求権も、所有権の作用なので同じく消滅時効にかかりません。ただし、他人が取得時効を完成させた結果として所有権を失うことはあります。所有権が消滅時効で消えることと、他人の取得時効で反射的に失われることは、別の話です。

    抵当権については396条が特則を置いています。「抵当権は、債務者及び抵当権設定者に対しては、その担保する債権と同時でなければ、時効によって消滅しない」。債務者や設定者との関係では、被担保債権が生きている限り抵当権だけが時効消滅することはない、という意味です。裏を返せば、第三取得者や後順位抵当権者との関係では、166条2項により抵当権が単独で消滅する余地があります。また397条は「債務者又は抵当権設定者でない者が抵当不動産について取得時効に必要な要件を具備する占有をしたときは、抵当権は、これによって消滅する」と定めています。抵当権の全体像は抵当権の基本と頻出論点|物上代位・法定地上権までを参照してください。

    生命・身体の侵害には特則がある

    人の生命または身体の侵害による損害賠償請求権には、被害者保護のための特則が置かれています。ここは債務不履行構成と不法行為構成の両方を押さえる必要があります。

    債務不履行構成の場合、167条が166条1項2号の「十年間」を「二十年間」と読み替えます。主観的起算点の5年は変わりません。結果として5年または20年です。安全配慮義務違反による損害賠償請求権などがこれにあたります。債務不履行の枠組みは債務不履行と損害賠償・解除|3つの類型を整理で整理しています。

    不法行為構成の場合、724条が原則を定め、被害者またはその法定代理人が損害および加害者を知った時から3年、不法行為の時から20年としています。そのうえで724条の2が、人の生命または身体を害する不法行為について、724条1号の「三年間」を「五年間」と読み替えます。結果としてやはり5年または20年です。不法行為の要件は不法行為と使用者責任|損害賠償の要件と時効で扱っています。

    二つの構成で入口の条文は違いますが、生命・身体の侵害という場面では期間が5年と20年にそろう、という結論で覚えると混乱しません。

    確定判決と定期金債権

    169条1項は「確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって確定した権利については、十年より短い時効期間の定めがあるものであっても、その時効期間は、十年とする」と定めます。判決で確定した以上は権利の存在に争いがなく、短期で消滅させる理由がないためです。もともと10年以上の権利がさらに延びるわけではありません。同条2項は「確定の時に弁済期の到来していない債権については、適用しない」としています。まだ弁済期が来ていない部分まで10年に固定する理由がないからです。

    168条1項は定期金債権について、各債権を行使できることを知った時から10年、行使できる時から20年と定めています。地代や年金のように、定期的に給付を受ける基本権についてのルールです。

    職業別の短期消滅時効は廃止された

    改正前の民法には、飲食料は1年、小売代金は2年、医師の診療報酬は3年といった、職業別の短期消滅時効がありました。商行為による債権を5年とする商法の規定もありました。これらは2020年4月1日施行の債権法改正ですべて廃止され、166条1項の5年・10年に統一されています。現行制度として職業別の短期消滅時効を挙げる記述は誤りです。

    ひとつだけ注意点があります。改正法の経過措置により、施行日前に生じた債権や、施行日前に締結された契約から生じる債権には、原則として改正前の規定が適用されます。試験では現行法を前提に解答すればよいのですが、条文が二本立てで動いている時期だという事実は知っておくと理解が深まります。債権が消滅する原因は時効だけではありません。弁済や相殺との関係は債権の消滅原因|弁済・相殺・免除・混同を整理で確認できます。

    完成猶予と更新

    用語の再編

    改正前は「時効の中断」と「時効の停止」という用語が使われていました。改正後は、中断にあたるものが「更新」、停止にあたるものが「完成猶予」に整理されています。中断・停止という用語を現行制度として使う記述は、それだけで古いものだと判断できます。

    二つの効果は性質が違います。更新は、それまで進行した期間がすべて無意味になり、その時点からゼロで数え直すことです。完成猶予は、時効期間の進行そのものは止めず、一定の期間だけ時効が完成しないようにすることです。「あと3か月で時効が完成する」という場面で、更新が起これば期間はまた最初から、完成猶予が起これば猶予期間が終わるまで完成が先送りされる、という違いになります。

    以下、事由ごとに、猶予だけなのか更新まで生じるのかを分けて見ます。ここが試験の核心です。

    裁判上の請求等(147条)

    147条1項は、裁判上の請求、支払督促、訴訟上の和解・民事調停・家事調停、破産手続参加・再生手続参加・更生手続参加について、その事由が終了するまでの間は時効が完成しないと定めます。まず生じるのは完成猶予です。

    そのうえで同条2項は、確定判決または確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したときは、事由が終了した時から新たに進行を始めるとしています。ここではじめて更新です。訴えを提起しただけでは更新は生じず、勝訴判決が確定してはじめて更新される、という二段構えです。

    権利が確定しないまま終わった場合、たとえば訴えを取り下げた場合はどうなるか。147条1項の括弧書きが手当てしています。権利が確定することなく事由が終了した場合は、その終了の時から6か月を経過するまで時効は完成しません。更新はされないが、6か月の猶予は残る、という扱いです。

    強制執行等(148条)

    148条1項は、強制執行、担保権の実行、形式競売、財産開示手続・第三者からの情報取得手続について、その事由が終了するまで時効が完成しないと定めます。同条2項本文は、事由が終了した時から新たに進行を始めるとし、更新を認めています。

    ただし2項ただし書が重要です。申立ての取下げ、または法律の規定に従わないことによる取消しによって事由が終了した場合は、更新されません。この場合は1項括弧書きにより、終了時から6か月の完成猶予にとどまります。147条と同じ発想です。抵当権の実行手続の流れは抵当権の実行と配当|計算問題の解き方で扱っています。

    仮差押え・仮処分(149条)

    149条は、仮差押えと仮処分について、その事由が終了した時から6か月を経過するまで時効は完成しないと定めます。ここには更新の規定がありません。仮差押え・仮処分は完成猶予だけを生じさせる事由です。

    改正前は仮差押え・仮処分が「中断」事由とされていたため、ここは改正で扱いが変わった箇所です。仮差押えをすれば時効期間がリセットされる、という理解は現行法では誤りになります。仮の処分にすぎず権利の確定を伴わないことが、更新を認めない理由です。

    催告(150条)

    150条1項は「催告があったときは、その時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない」と定めます。催告とは、裁判外で履行を求めることです。内容証明郵便で支払いを求める行為が典型です。効果は6か月の完成猶予だけで、更新は生じません。

    同条2項は「催告によって時効の完成が猶予されている間にされた再度の催告は、前項の規定による時効の完成猶予の効力を有しない」と定めます。催告を繰り返して時効の完成を先送りし続けることはできない、ということです。催告は、6か月のうちに訴えの提起などの本格的な手段に移るための時間稼ぎだ、と理解してください。

    協議を行う旨の合意(151条)

    151条は改正で新設された制度です。当事者が権利について協議を行う旨の合意を書面でしたときは、次の三つのうち最も早い時までの間、時効は完成しません。第一に、合意があった時から1年を経過した時。第二に、合意で当事者が協議を行う期間(1年に満たないものに限る)を定めたときは、その期間を経過した時。第三に、当事者の一方から相手方に対して協議の続行を拒絶する旨の通知が書面でされたときは、その通知の時から6か月を経過した時です。

    同条2項により、猶予されている間に再度合意をすれば猶予を延長できます。ただし、猶予がなかったとすれば時効が完成すべき時から通じて5年が上限です。3項は、催告による猶予中にされた合意と、合意による猶予中にされた催告は、いずれも猶予の効力を持たないと定めます。催告と合意を交互に繰り返して引き延ばすことを封じる規定です。4項により、合意が電磁的記録によってされたときは書面によるものとみなされます。

    この制度の趣旨は、話し合いで解決しようとしている当事者が、時効の完成を避けるためだけに訴えを起こさざるをえない状況をなくすことにあります。効果は完成猶予にとどまり、更新は生じません。

    承認(152条)

    152条1項は「時効は、権利の承認があったときは、その時から新たにその進行を始める」と定めます。承認は、完成猶予を経ずにいきなり更新が生じる、数少ない事由です。

    承認とは、時効の利益を受ける者が、相手方の権利が存在することを認める行為です。債務の一部弁済、利息の支払い、支払猶予の申入れが典型例です。権利者が請求する行為ではなく、義務者の側の行為だという点に注意してください。この主体を入れ替えた出題があります。

    152条2項は「前項の承認をするには、相手方の権利についての処分につき行為能力の制限を受けていないこと又は権限があることを要しない」と定めます。承認は権利を処分する行為ではなく、既にある権利を認めるにすぎないため、処分の能力までは要求されず、管理の能力があれば足りる、という趣旨です。したがって、被保佐人が単独でした承認も有効です。行為能力の制度は制限行為能力者制度|4類型と取消し・催告の整理で整理しています。

    効力が及ぶ範囲(153条・154条)

    153条は、完成猶予と更新の効力が、その事由が生じた当事者およびその承継人の間でのみ生じると定めています。相対効の原則です。ある債権者が訴えを起こしても、無関係の第三者との関係で時効が更新されるわけではありません。

    例外として、保証債務については457条1項が、主たる債務者に対する履行の請求その他の事由による完成猶予・更新は保証人にも効力を生ずるとしています。保証の付従性の現れです。連帯債務や保証の相対効・絶対効の整理は連帯債務と保証債務|求償権・催告の抗弁を整理で扱っています。

    154条は、148条・149条の手続を時効の利益を受ける者に対してしないときは、その者に通知した後でなければ完成猶予・更新の効力を生じないと定めています。物上保証人の不動産に対して担保権を実行する場合などが想定されています。

    権利者の事情による完成猶予(158条から161条)

    権利行使が事実上困難な状況にある者を保護する規定群です。いずれも完成猶予であり、更新ではありません。

    158条は、時効期間の満了前6か月以内に未成年者または成年被後見人に法定代理人がないときは、行為能力者となった時または法定代理人が就職した時から6か月を経過するまで、時効は完成しないとします。同条2項は、未成年者・成年被後見人が財産を管理する父母や後見人に対して権利を有する場合について、同様の猶予を定めます。

    159条は夫婦間の権利について、婚姻の解消の時から6か月。160条は相続財産について、相続人が確定した時、管理人が選任された時、または破産手続開始の決定があった時から6か月。161条は天災その他避けることのできない事変のために147条・148条の手続を行うことができないときについて、障害が消滅した時から3か月です。161条の3か月は、改正前の2週間から延長された数字なので、古い記述が残っていないか注意が必要です。

    時効の援用と、時効利益の放棄

    援用しなければ裁判所は時効で裁判できない

    145条は「時効は、当事者(消滅時効にあっては、保証人、物上保証人、第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者を含む。)が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない」と定めます。

    この括弧書きは改正で加えられたものです。改正前は条文が「当事者」としか書いておらず、誰が援用できるかは判例の蓄積に委ねられていました。改正法は、判例で認められてきた保証人・物上保証人・第三取得者を条文に取り込み、さらに「その他権利の消滅について正当な利益を有する者」という受け皿を置きました。援用権者の範囲は判例に依存する、という説明は現在では正確ではありません。

    誰が援用できて、誰ができないか

    消滅時効の場面では、まず債務者本人が援用できます。加えて、保証人は主たる債務の消滅時効を、物上保証人は被担保債権の消滅時効を、抵当不動産の第三取得者は被担保債権の消滅時効を、それぞれ援用できます。いずれも、その債権が消滅すれば自分の負担が直接なくなる立場だからです。

    これに対し、後順位抵当権者は、先順位抵当権の被担保債権の消滅時効を援用できないとするのが判例です(最判平成11年10月21日)。先順位抵当権が消滅すれば配当の順位が上がって有利にはなりますが、それは抵当権の順位上昇によって生じる反射的な利益にすぎず、権利の消滅について正当な利益を有する者にはあたらない、という理由です。有利になる立場と、直接利益を受ける立場は違う、という線引きです。

    取得時効の場面では、時効取得を主張する占有者が援用権者です。援用の効果は相対的で、援用した者との関係で時効の効果が確定します。

    事前の放棄はできない(146条)

    146条は「時効の利益は、あらかじめ放棄することができない」と定めます。事前の放棄を認めると、金銭を貸す側が契約書に「時効の利益を放棄する」という条項を必ず入れるようになり、時効制度が骨抜きになるからです。立場の強い当事者による濫用を防ぐための規定です。

    時効の完成後に放棄することは可能です。完成後であれば、放棄するかどうかは当事者の自由な判断に委ねてよいためです。

    完成後の承認と、信義則

    実務でよく起きるのは、時効が完成しているのに債務者がそれを知らずに債務を承認してしまう場面です。時効完成を知らない以上、時効の利益を放棄する意思があったとはいえません。それでも判例は、時効完成後に債務を承認した者は、その後にその債務について時効を援用することは信義則上許されないとしています(最大判昭和41年4月20日)。承認した以上、もはや時効を援用しないという相手方の信頼が生じるためです。

    ただし、これで永久に時効を主張できなくなるわけではありません。判例は、承認後に改めて時効期間が経過すれば、その新たな時効を援用できるとしています(最判昭和45年4月24日)。承認によって152条の更新が生じ、そこから数え直した期間が満了すれば、新しい時効の話になるからです。

    取得時効と登記

    取得時効が不動産で問題になるとき、必ずセットになるのが登記との関係です。177条の対抗問題として処理される場面と、そうでない場面があります。物権変動の基本は物権変動と対抗要件|登記の役割と第三者の範囲を先に確認してください。

    時効完成前の第三者には登記なしで対抗できる

    Bが A所有の土地の占有を続けている間に、Aがその土地をCに譲渡し、Cが登記を備えた。その後にBの取得時効が完成した、という場面です。

    判例は、この場合Bは登記なくしてCに対抗できるとしています(最判昭和41年11月22日)。理由は、時効完成の時点で所有者だったのはCであり、Bの時効取得はCからの承継取得に類似する関係に立つからです。当事者の関係であって対抗関係ではないため、177条の出番がありません。Cが登記を先に備えていても結論は変わりません。

    時効完成後の第三者とは対抗関係になる

    順序が逆の場合です。Bの取得時効が完成した後に、AがCに土地を譲渡した。この場合、Aを起点としてBとCが二重に権利を取得した形になるため、BとCは対抗関係に立ちます。177条により、先に登記を備えたほうが優先します(大連判大正14年7月8日)。

    この違いは、時効完成の時点で誰が所有者だったかによって生じます。完成前の第三者は「時効完成時の所有者」であり当事者側、完成後の第三者は「時効完成後に現れた別の譲受人」であり対抗関係、という整理です。

    起算点を動かして有利な結論を選ぶことはできない

    そうすると、占有者は起算点をずらして、常に「完成前の第三者」の形に持ち込みたくなります。しかし判例は、時効の起算点は占有を開始した時に固定され、当事者が任意に選択することはできないとしています(最判昭和35年7月27日)。起算点を動かして対抗関係を回避することは認められません。

    完成後の第三者の登記時から、さらに時効が完成する場合

    もうひとつ、実務上重要な判例があります。時効完成後に第三者が登記を備えた場合でも、占有者がその登記の時からさらに時効期間占有を継続すれば、新たな取得時効が完成し、その第三者に対して登記なくして対抗できるとされています(最判昭和36年7月20日)。第三者の登記時を起算点とする二度目の時効を考えると、その第三者は「時効完成前の第三者」の位置に立つからです。登記の実務的な意味は不動産登記法|表示の登記と権利の登記の違い仮登記と本登記の違いとは?順位保全効と1号・2号仮登記もあわせて確認してください。

    試験での出題ポイント

    数字の入れ替え

    最も多いのが数字の書き換えです。取得時効の10年と20年、消滅時効の5年と10年、催告の6か月、天災等の3か月、協議の合意の1年と通算5年。これらを一つずらした肢が作られます。特に狙われるのは、善意有過失の占有者について「10年で取得時効が完成する」とする肢です。10年が使えるのは善意かつ無過失の場合だけで、善意有過失は20年です。

    判定時期のすり替え

    善意無過失をいつ判断するか、というすり替えも定番です。162条2項は「その占有の開始の時に」と書いています。占有開始後に他人の物だと知ったとしても、10年で完成します。「途中で悪意になったから20年必要」とする肢は誤りです。占有を承継した場合に、前主の占有開始時を基準に判断する点(最判昭和53年3月6日)も同じ系統の出題です。

    推定されるかどうか

    186条1項が推定するのは、所有の意思・善意・平穏・公然の四つです。無過失は入っていません。「善意無過失は推定される」「無過失の立証は不要」という肢は誤りです。逆に、所有の意思や善意については、これを争う側が立証責任を負う点も問われます。

    完成猶予か更新か

    事由ごとに効果を取り違えさせる出題が繰り返されます。整理すると、更新まで生じるのは、確定判決等で権利が確定した場合(147条2項)、強制執行等が取下げ・取消し以外で終了した場合(148条2項)、そして承認(152条)です。完成猶予にとどまるのは、仮差押え・仮処分(149条)、催告(150条)、協議の合意(151条)、権利者の事情による猶予(158条から161条)です。

    とりわけ狙われるのが三つあります。第一に、催告に更新の効果があるとする肢。第二に、催告を繰り返せばそのつど猶予されるとする肢(150条2項により誤り)。第三に、仮差押えで時効が更新されるとする肢(改正で更新事由から外れたため誤り)。

    承認の主体と能力

    承認は義務者の側の行為です。債権者が請求することは承認ではありません。また152条2項により、処分の行為能力までは不要です。「被保佐人が保佐人の同意なくした承認は無効」とする肢は誤りになります。

    援用権者

    145条の括弧書きに列挙された保証人・物上保証人・第三取得者は援用できます。後順位抵当権者は援用できません(最判平成11年10月21日)。この一つだけ結論が逆になるので、単独で覚えておくと取りこぼしません。

    時効と登記

    完成前の第三者には登記不要、完成後の第三者には登記必要。この二つを入れ替えた肢が最頻出です。あわせて、起算点を任意に選べないこと(最判昭和35年7月27日)、完成後の第三者の登記時からさらに時効期間が経過すれば登記なしで対抗できること(最判昭和36年7月20日)も問われます。

    廃止された制度を現行制度として出す肢

    職業別の短期消滅時効(飲食料1年、小売2年、医師3年など)や商事債権の5年は、2020年4月1日施行の改正で廃止されています。これらを現行制度として述べる肢は誤りです。「時効の中断」「時効の停止」という用語も同様に、改正前のものです。

    覚え方・整理の仕方

    取得時効は「10は善意無過失、20はそれ以外」

    取得時効の数字は、条件が付いているほうが短い、と押さえます。10年には「占有開始時に善意かつ無過失」という条件が付き、20年には条件がありません。条件が厳しいほど期間が短い、という対応で覚えると逆転しません。

    消滅時効は「知って5年、できて10年」

    166条1項の二本立ては、「知った時から5年」「できる時から10年」と語呂で並べます。知っているほうが短い、というのは取得時効と同じ発想です。そして両者は早いほうが勝つ、と付け加えます。民法全体の語呂は民法の語呂合わせ集|権利関係を楽しく暗記する方法にまとめてあります。

    更新は三つだけ

    覚える量を減らすには、更新が生じる事由のほうを覚えます。確定判決等による権利の確定、強制執行等の正常終了、承認。この三つ以外はすべて完成猶予だ、と裏から押さえれば、仮差押えも催告も協議の合意も迷いません。

    猶予の期間は「6か月が原則、天災だけ3か月」

    完成猶予の期間は6か月が基本です。裁判上の請求が権利確定なく終わった場合、強制執行等が取下げで終わった場合、仮差押え・仮処分、催告、協議続行の拒絶通知、未成年者・成年被後見人、夫婦間、相続財産。いずれも6か月です。3か月は天災等(161条)だけ、1年は協議の合意(151条1項1号)だけ。例外の二つを覚えれば、残りは全部6か月です。

    猶予と更新の性質は「一時停止」と「巻き戻し」

    完成猶予は、時計を止めるのではなく、アラームが鳴るのを先送りする仕組みです。更新は、時計を0に巻き戻す仕組みです。この比喩を持っておくと、「催告後6か月以内に訴えを起こさなければ完成する」という結論が自然に出てきます。

    時効と登記は「完成の前か後か」で一本化

    第三者が現れたのが時効完成の前か後か、それだけを見ます。前なら第三者は時効完成時の所有者であり当事者側なので登記不要。後なら二重譲渡に似た対抗関係なので登記必要。前・当事者・登記不要、後・対抗関係・登記必要、と三語ずつで唱えると定着します。

    援用と放棄は「事前は不可、事後は自由」

    145条で援用が必要、146条で事前放棄は不可、完成後の放棄は可能。この三点を一組にします。そして完成後の承認は、放棄ではないが信義則で援用できなくなる(最大判昭和41年4月20日)という例外を、最後に付け足して覚えます。

    理解度チェッククイズ

    次の記述の正誤を判定してください。

    Q1. 他人の土地を、占有開始時に善意ではあったが過失があった者は、10年間占有を継続すれば、その土地の所有権を時効取得することができる。

    答えは誤りです。162条2項が10年の取得時効を認めるのは、占有開始の時に善意であり、かつ過失がなかったときに限られます。善意であっても過失があった場合は162条1項の適用となり、20年の占有が必要です。あわせて、186条1項が推定するのは所有の意思・善意・平穏・公然の四つであり、無過失は推定されないため、10年を主張する者は無過失を自ら立証しなければならない点も確認してください。

    Q2. 債権者が債務者に対して内容証明郵便で支払いを催告し、その6か月以内に再度催告をした場合、その再度の催告の時からさらに6か月間、時効の完成が猶予される。

    答えは誤りです。150条1項により催告には催告の時から6か月の完成猶予の効力がありますが、同条2項は「催告によって時効の完成が猶予されている間にされた再度の催告は、前項の規定による時効の完成猶予の効力を有しない」と定めています。催告を繰り返して完成を先送りすることはできません。催告は更新の効果も持たないため、6か月以内に裁判上の請求などに移る必要があります。

    Q3. 債権者が債務者の財産に対して仮差押えをした場合、その時から時効期間は新たに進行を始める。

    答えは誤りです。149条は、仮差押えおよび仮処分について、その事由が終了した時から6か月を経過するまで時効は完成しないと定めるだけで、更新の規定を置いていません。効果は完成猶予にとどまります。改正前は仮差押えが中断事由とされていましたが、2020年4月1日施行の改正で、権利の確定を伴わない仮の処分は更新事由から外されました。更新が生じるのは、確定判決等による権利の確定(147条2項)、強制執行等の正常終了(148条2項)、承認(152条)の三つです。

    Q4. 被保佐人が保佐人の同意を得ずに債務の承認をした場合、その承認による時効の更新の効力は生じない。

    答えは誤りです。152条2項は「前項の承認をするには、相手方の権利についての処分につき行為能力の制限を受けていないこと又は権限があることを要しない」と定めています。承認は既に存在する権利を認める行為であって権利の処分ではないため、管理の能力があれば足ります。したがって被保佐人が単独でした承認も有効で、152条1項により時効は更新されます。

    Q5. Aが所有する土地をBが占有し、Bの取得時効が完成した後に、AがCにその土地を譲渡して Cが所有権移転登記を備えた場合、Bは登記がなくてもCに対して時効取得を対抗することができる。

    答えは誤りです。時効完成後に現れた第三者との関係では、AからBへの時効取得とAからCへの譲渡が二重譲渡に類似する関係となり、両者は対抗関係に立ちます。177条により、先に登記を備えたほうが優先します(大連判大正14年7月8日)。登記なくして対抗できるのは、時効完成前に現れた第三者に対してです(最判昭和41年11月22日)。なお、Cの登記の時からさらにBが時効期間占有を継続すれば、新たな取得時効の完成により登記なくしてCに対抗できます(最判昭和36年7月20日)。

    まとめ

    • 取得時効は、占有開始時に善意無過失なら10年、それ以外は20年です(162条)。186条1項が推定するのは所有の意思・善意・平穏・公然であり、無過失は推定されません。前主の占有を併せて主張するときは瑕疵も承継します(187条2項)。
    • 債権の消滅時効は、知った時から5年、行使できる時から10年で、早く満了したほうで完成します(166条1項)。生命・身体の侵害は、債務不履行構成なら167条により、不法行為構成なら724条の2により、いずれも5年または20年になります。職業別の短期消滅時効は2020年4月1日施行の改正で廃止されました。
    • 更新が生じるのは、確定判決等による権利の確定(147条2項)、強制執行等の正常終了(148条2項)、承認(152条)の三つで、仮差押え・催告・協議の合意はいずれも完成猶予にとどまります。時効は当事者の援用が必要で(145条)、事前の放棄はできません(146条)。取得時効と登記は、完成前の第三者に登記不要、完成後の第三者に登記必要が結論です。

    権利関係が苦手だと感じている場合は宅建の権利関係が苦手な人のための克服法もあわせて読んでください。

    宅建試験AIブートラボのアプリでは、時効の期間と完成猶予・更新の区別を肢別トレーニングで繰り返し確認できます。

    読んだ内容を、権利関係の肢で確かめる

    民法・借地借家法・区分所有法など、条文だけでは判断しづらい論点は、過去問の肢で覚えるのが最短です。

    関連記事

    Android版アプリの先行テスターを募集しています

    正式公開に先立ち、先行してご利用いただける方を募集しています。学習記録や有料プランはWeb版と同じアカウントで、そのまま引き継げます。3ステップで、通常その場で使い始められます。

    1
    テスターグループに参加する

    お使いのGoogleアカウントで参加ボタンを押すだけです。承認を待つ必要はありません。

    参加ページを開く
    2
    テスト版を受け取る

    手順1と同じGoogleアカウントでログインしたAndroid端末で受け取りページを開き、「テスターになる」を押してGoogle Playからインストールします。

    受け取りページを開く
    3
    いつものアカウントでログインする

    Web版と同じメールアドレス・パスワードでログインすれば、学習記録がそのまま表示されます。

    「まだご利用いただけません」と表示された場合は、反映待ちの可能性があります。時間をおいて再度お試しいただくか、info@takken-bootlab.com までお知らせください。