宅建の判決文問題の解き方|判旨の読み方と時間の使い方
宅建の権利関係で出る判決文問題を、平成28〜令和7年度の収録問題から出題位置を確認し、判旨を事案・争点・規範・結論に切る読み方、条文への結び直し、時間の使い方と切る基準まで整理します。
目次
この記事は、権利関係の「次の判決文を読んで…」という形式、いわゆる判決文問題だけを取り出して、読み方・条文への結び直し・時間の使い方を扱うものです。権利関係全体の頻出論点は「権利関係の頻出論点」、苦手の原因の切り分けは「権利関係が苦手な人の診断」、捨て問の判断は「宅建の合格戦略」、肢に仕込まれる表現は「引っかけ表現パターン」、個数問題は「個数問題・組合せ問題の解き方」で扱っています。
先に結論を書きます。判決文問題は、判例を暗記しているかを問う問題ではありません。判旨は問題文に印刷されています。問われているのは、その判旨がどんな事案について何を決めたのかを正確に切り出し、四つの肢のそれぞれが判旨のどこと対応しているか、あるいは判旨の外にある条文の知識を問うているのかを仕分ける力です。したがって、知らない判例が出たから捨てる、という判断はこの形式には当てはまりません。切るかどうかは、判旨を読み終えたあとに肢の当てはめが決まるかどうかで決めます。
以下で出題年度と問番号を挙げるときは、宅建試験AIブートラボ収録の平成28〜令和7年度の問題を集計したものです。令和2年度と令和3年度は、収録している1回分だけを数えています。収録データは各肢の模範解答と解説で構成されており、問題文の前置きそのものは持っていないため、解説が判決文に言及している問題を判決文形式として数えました。解説から確認できない年度について「出題がなかった」とは言えない点に注意してください。
判決文問題とはどういう形式か
判決文が示され、その趣旨に照らして肢を判定する
判決文問題は、問題文の冒頭に最高裁判所などの判決の一部が引用され、そのあとに四つの記述が並び、「民法の規定、判例及び下記判決文によれば」といった前置きのもとで、正しいものまたは誤っているものを一つ選ばせる形式です。引用される判決文は数行から十数行ほどで、事案の説明がほとんど省かれ、裁判所が示した判断の部分、いわゆる判旨だけが抜き出されていることが多くあります。
一見すると判例の知識を試す問題に見えますが、構造はむしろ逆です。判例の結論を知らなければ解けない問題であれば、判決文を載せる理由がありません。判決文を載せているのは、その判旨を材料として受験者に渡したうえで、材料を正しく使えるかを見るためです。材料が手元にある以上、勝負は記憶ではなく読解と当てはめになります。
「判例の趣旨に照らし」型との違い
権利関係には、判決文を載せずに「民法の規定及び判例によれば」とだけ前置きする問題も多くあります。こちらは判例の結論を知っていることが前提で、知らなければ条文から推論するしかありません。「宅建の合格戦略」で、事案に心当たりのない判例問題は深追いせずに切る、と書いているのは、主にこちらの形式を念頭に置いた基準です。
判決文問題はこの点で性格が違います。判旨が目の前にあるので、事案に心当たりがなくても判定の手がかりはゼロになりません。知らない判例であることは、そのまま切る理由にはならないのです。逆に、知っている判例であっても、肢が判旨の射程の外を問うている場合には記憶が邪魔をします。覚えている結論を肢に当てはめたくなり、判旨がどこまでしか言っていないかを確かめないまま丸を付けてしまうからです。
四つの肢は二種類に分かれる
判決文問題の四つの肢は、大きく二種類に分かれます。
- 判旨の内容をそのまま、または言い換えて述べている肢。判旨と突き合わせれば正誤が決まります。
- 判旨とは別の、同じ分野の条文知識を問う肢。判旨をいくら読んでも答えは出ず、条文を知っているかで決まります。
この二種類が一つの問題に混在しているのが、判決文問題の普通の姿です。後で具体的に見ますが、収録した8問のうち5問で、解説が判決文に触れずに条文だけで正誤を説明している肢が含まれていました。判決文を読んだから全肢が判決文で解ける、とは限らないということです。最初に肢を仕分けておくと、判旨を読む時間と条文を思い出す時間を混ぜずに済みます。
判旨の文言がそのまま肢になることもある
判旨の文言がほぼそのまま肢に使われる場合もあります。平成30年度問8では、判決文が通常損耗を「賃借人が社会通念上通常の使用をした場合に生ずる賃借物件の劣化又は価値の減少」と定義しており、肢の一つはこの定義をそのまま述べたものでした。こういう肢は判決文と照合するだけで正しいと判定できます。
一方で、同じ問題の別の肢は、判決文の言葉を借りながら、判旨が限定していた範囲を外して一般化していました。文言が似ているほど、どこが違うのかを探す作業が必要になります。判決文問題の難しさは、判旨を理解することよりも、判旨と肢のわずかなずれを見つけることのほうにあります。
平成28〜令和7年度の出題を数える
解説に判決文が出てくる問題は8問だった
収録データの権利関係の解説を「判決文」という語で検索し、該当する問題を一つずつ確認しました。判決文形式と確認できたのは次の8問です。
- 平成28年度 問9 契約締結前の信義則上の説明義務違反と損害賠償請求権の性質(判決文として最判平成23年4月22日が解説に挙げられています)
- 平成29年度 問3 共有者の一部から占有使用を承認された第三者と、承認しなかった共有者との関係(最判昭和63年5月20日)
- 平成30年度 問8 賃貸借の通常損耗と原状回復義務、通常損耗補修特約の成立(解説の出典記録に最判平成17年12月16日)
- 令和元年度 問5 本人の追認拒絶と、その後の無権代理人による相続
- 令和2年度 問3 付随的義務の不履行と契約の解除(最判昭和43年2月23日)
- 令和3年度 問1 家屋明渡債務と敷金返還債務の関係(最判昭和49年9月2日)
- 令和4年度 問1 背信的悪意者からの転得者と民法177条の第三者(最判平成8年10月29日)
- 令和5年度 問1 相続開始から遺産分割までに生じた賃料債権の帰属(最判平成17年9月8日)
括弧内の判決の年月日は、収録している模範解答の解説またはその出典記録に記載があるものだけを書いています。令和元年度は、解説も出典記録も「問題文中の判決文」とするだけで年月日を記録していないため、ここでも挙げていません。
収録範囲では、ほぼ毎年1問の規模だった
平成28年度から令和5年度までの8回分では、各年度に1問ずつ判決文形式が確認できました。権利関係は1回14問ですから、そのうちの1問、試験全体の50問のうちの1問です。
令和6年度と令和7年度については、収録データの解説に判決文への言及が見当たりませんでした。ただし、先に書いたとおり収録データは問題文の前置きを持っていないので、この2年度に判決文形式が出なかったと断定することはできません。確認できたのは「解説から判決文形式だと確認できる問題が、この2年度については見つからなかった」ということまでです。
規模の把握として言えるのは、判決文問題は多くても1回に1問程度の形式であり、1問1点の配点のうち1点分を占めるにすぎない、ということです。この1点のために試験時間を大きく削るのは割に合いません。一方で、毎年のように出る形式への準備がないと、本番で初めて長い判決文を前にして時間を失います。規模が小さいことと、準備が要らないことは別の話です。
出題位置は問1に寄ってきている
問番号を並べると、平成28年度は問9、平成29年度は問3、平成30年度は問8、令和元年度は問5、令和2年度は問3でした。令和3年度から令和5年度までは3年続けて問1です。
問1に置かれると、試験冊子を開いて最初に目にする問題が長文の判決文になります。冒頭から順に解く人は、試験開始直後に時間のかかる1問に取り組むことになります。解く順番を事前に決めていない場合、ここで時間の感覚が狂います。出題位置が今後どうなるかは公表されていないので予測はしませんが、問1に判決文問題が来ることは実際にあった、という事実を前提に当日の段取りを組んでおく必要があります。この段取りは後の時間の節で扱います。
「誤っているもの」を選ぶ問題が多かった
8問の問い方を見ると、「誤っているもの」を選ぶ問題が6問(平成28年度、平成29年度、平成30年度、令和元年度、令和2年度、令和5年度)、「正しいもの」を選ぶ問題が2問(令和3年度、令和4年度)でした。
誤っているものを選ぶ問題では、判旨どおりの肢が三つ並び、判旨と食い違う肢が一つ混ざる形になります。判旨どおりの肢を三つ確認できれば残りが答えになるので、消去法が働きます。逆に正しいものを選ぶ問題では、判旨と食い違う肢が三つあり、判旨どおりの肢は一つだけです。どちらの問い方でも、設問の指示を最初に確認し、問題用紙に大きく印を付けておくことが事故を防ぎます。この点は個数問題の手順と同じで、「個数問題・組合せ問題の解き方」の手順1と同じ作業です。
扱われた分野は権利関係の中心部だった
8問の分野を見ると、契約締結上の説明義務と不法行為、共有、賃貸借の原状回復、無権代理と相続、契約の解除、敷金、不動産の二重譲渡と対抗要件、相続財産の帰属と、権利関係の頻出分野がそのまま並んでいます。判決文問題のためだけの特殊な分野があるわけではありません。
このことから、判決文問題の準備は、判例集を別に読むことではなく、頻出分野の条文と主要な判例を固めることと同じ作業になります。判旨を読んだときに「この話は何条の話か」と当たりが付くかどうかは、その分野の条文がどれだけ頭に入っているかで決まります。頻出分野の整理は「権利関係の頻出論点」にまとめています。
判決文を四つに切り出して読む
事案・争点・規範・結論の四つを探す
判決文は、どれほど短く抜粋されていても、次の四つの要素のどれかを含んでいます。
- 事案:誰と誰の間で、何が起きたのか。
- 争点:その事案で、何が問題になったのか。
- 規範:裁判所がその問題を判断するために立てた一般的な基準。
- 結論:その基準を事案に当てはめた結果、どうなったのか。
試験に引用される判決文は、事案の部分がほとんど削られ、規範と結論が中心になっていることが多くあります。それでも、規範の中に事案の輪郭が埋め込まれています。たとえば「賃借人が社会通念上通常の使用をした場合に生ずる」という一節は、規範の一部であると同時に、この判決が賃貸借の、しかも通常の使用の範囲の損耗を扱っていることを示しています。
読むときは、判決文の横に「事」「争」「規」「結」と小さく書き込み、それぞれに当たる部分に線を引いていきます。全部が揃わないこともありますが、揃わない要素があること自体が情報です。事案が書かれていなければ、肢の側で事案が補われているはずで、肢の事案が判旨の前提と合っているかを確かめる必要が出てきます。
事案を読むときは、登場人物と立場を書き出す
事案の部分が引用されている場合は、登場人物をアルファベットで書き出し、それぞれの立場を一語で添えます。売主、買主、賃貸人、賃借人、共有者、第三者、本人、無権代理人、相続人といった具合です。
これは事例問題を図に落とす作業と同じで、手順は「権利関係が苦手な人の診断」の型その三で整理しています。判決文問題で特に大事なのは、判決文の中の人物と肢の中の人物が、同じ立場で登場しているかを確かめることです。判決文ではXとYだった人物が、肢ではAとBに置き換えられ、しかも立場が入れ替わっていることがあります。立場を書き出しておけば、肢を読んだときに「このAは判決文のどちらに当たるか」をすぐに照合できます。
争点は「〜かどうか」の一文にする
争点は、判決文の中で明示されていないことも多いのですが、規範と結論から逆算できます。規範が「賃借人に通常損耗についての原状回復義務を負わせるには、その旨の特約が明確に合意されていることが必要」と述べているなら、争点は「通常損耗についての原状回復義務を賃借人に負わせる特約が成立しているかどうか」です。
争点を「〜かどうか」の一文にしておくと、肢がこの争点について述べているのか、別の問題について述べているのかがすぐに分かります。争点と関係のない肢は、判旨からは答えが出ない肢、つまり条文知識で判定すべき肢です。ここで肢の仕分けが済みます。
規範と結論を分ける
判決文問題で最も多くの肢が作られるのは、規範の部分です。規範は、事案を離れて一般的に通用する形で書かれているので、肢に作り変えやすいからです。
規範と結論を分けて読む理由は、両者の射程が違うからです。結論は、その事案についての答えにすぎません。規範は、同じ種類の事案一般に通用する基準です。肢が規範を述べているのか、結論を述べているのかによって、判旨と照合する場所が変わります。
たとえば令和3年度問1の判決文は、賃貸人は家屋の明渡しを受けた後に敷金残額を返還すれば足り、家屋明渡債務と敷金返還債務は同時履行の関係に立たない、という内容でした。ここで「明渡しが先、敷金返還が後」という順序が規範であり、「同時履行の関係に立たない」がそこから出てくる結論です。肢の中には、この規範から一歩進めて、敷金返還請求権を被担保債権とする留置権が成り立つかどうかを問うものがありました。これは判決文に書かれていない問題ですが、規範が示した順序を前提にすれば、明渡しの時点ではまだ敷金返還請求権が発生していないので、留置権は成り立たないと導けます。規範を取り出しておくと、判決文に直接書かれていない肢にも手が届きます。
判旨の言い回しには決まった型がある
判決文には、裁判所の判断であることを示す決まった言い回しがあります。代表的なものは次のとおりです。
- 「〜と解するのが相当である」:裁判所が条文の解釈として採用した立場を示す言い回しです。ここに規範があります。
- 「〜というべきである」:前の部分の理由付けを受けて、裁判所が結論として述べる部分に使われます。
- 「〜の場合は格別」:その部分は今回の判断の対象外である、あるいは別の扱いになりうる、という留保を示します。
- 「特段の事情のない限り」「特段の事情がない限り」:原則を述べつつ、例外の余地を残す表現です。
- 「〜を要する」「〜が必要である」:要件を示す言い回しです。
これらの言い回しは、判旨のどこが規範で、どこが例外の余地で、どこが判断の対象外なのかを知らせる目印です。線を引くときは、言い回しの直前の部分をひとかたまりとして囲むと、規範の範囲がはっきりします。
「格別」の部分は、判断していないことの宣言である
「格別」は判決文問題で特に注意が要る語です。平成28年度問9の判決文には、契約締結前の信義則上の説明義務違反について「不法行為による賠償責任を負うことがあるのは格別、当該契約上の債務の不履行による賠償責任を負うことはない」という一節がありました。
この一文の中心は後半の「債務の不履行による賠償責任を負うことはない」です。前半の「不法行為による賠償責任を負うことがあるのは格別」は、不法行為責任の可能性を否定していない、という留保にすぎません。したがって、この判決文から言えるのは「説明義務違反は債務不履行責任にはならない」ということと、「損害賠償請求権は不法行為に基づくものとして扱われる」ということです。実際、この問題の肢はいずれも、損害賠償請求権が不法行為に基づくという前提を使って、消滅時効の期間(民法724条)や相殺の禁止(民法509条1号)を問うものでした。「格別」で留保された部分が、肢の側では判断の前提として使われていたわけです。
「特段の事情」は、例外の中身を探さない
「特段の事情がない限り」という表現は、例外の存在を認めつつ、その中身を具体的に示さないことが多い表現です。令和2年度問3の判決文は、契約をした主たる目的の達成に必須的でない附随的義務の不履行にとどまる場合には、特段の事情がない限り相手方は契約を解除できない、という内容でした。
肢を判定するときに、特段の事情の中身を自分で補って考える必要はありません。肢の事案に特段の事情を示す記述がなければ、原則どおりに判定します。この問題の肢の一つは、売買代金は支払われたが、売主が負担した税金相当額を買主が償還しなかったという事案で、特段の事情のない限り解除できないとしていました。代金の支払という主たる債務は履行されており、怠ったのは付随的な義務だけなので、判旨どおりで正しい肢でした。肢の中に「特段の事情」の具体的な記述が加えられている場合にだけ、例外に当たるかを考えます。
判旨の射程は「どの事案の、どの範囲について」で測る
判旨の射程とは、その判断がどこまでの事案に通用するか、ということです。判決文問題の誤りの肢は、多くの場合、この射程の外に判旨を広げることで作られています。
射程を測るときは、判旨の中の限定語を探します。平成30年度問8の判決文は、通常損耗の減価の回収は賃料に含ませて行われている、としていましたが、その対象は「賃借人が社会通念上通常の使用をした場合に生ずる」損耗に限られていました。これを「賃借人がどのように使用しても」「全て賃料に含ませて」と広げた肢は、限定語を外して射程を超えさせたものとして誤りでした。解説は、通常の使用方法を逸脱して生じた損傷はこれに含まれないとし、民法621条本文も通常の使用及び収益によって生じた損耗と経年変化だけを賃借人の原状回復義務から除外している、と説明しています。
射程を測る手順は次のとおりです。
- 判旨の主語は誰か。賃借人一般か、ある条件を満たした賃借人か。
- 判旨の対象は何か。損耗一般か、通常損耗だけか。
- 判旨の時点はいつか。追認拒絶の前か後か、遺産分割の前か後か。
- 判旨の効果はどこまでか。全部か、持分の限度か。
この四つを判旨の中から拾っておけば、肢がどれかを外したときに気づけます。
時点の限定は、とくに見落としやすい
射程の中でも、時点の限定は見落としやすい要素です。令和5年度問1の判決文は、相続開始から遺産分割までの間に遺産である賃貸不動産から生じた賃料債権は、遺産とは別個の財産であり、各共同相続人が相続分に応じて確定的に取得する、という内容でした。
この判旨が扱っているのは「相続開始から遺産分割まで」の賃料債権だけです。遺産分割のあとに生じる賃料について、この判旨は何も言っていません。実際に、遺産分割後に生じた賃料債権は、分割で不動産を取得した相続人が取得するという肢があり、これは判旨ではなく、不動産の所有者が法定果実を取得するという一般原則(民法89条2項)で正しいと判定されるものでした。判旨の時点の限定を読み落とすと、遺産分割後の賃料まで判旨で処理しようとして迷います。
令和元年度問5も時点の問題でした。判決文は、本人が追認を拒絶すれば無権代理行為の効力が本人に及ばないことが確定し、追認拒絶の後は本人であっても追認によって無権代理行為を有効とすることができない、という内容です。この判旨は「追認拒絶の後」の話です。追認拒絶の前に無権代理人が本人を相続した場合は、判例上、無権代理人が本人の資格で追認を拒絶することは信義則上許されず、無権代理行為は当然に有効になります(収録データの解説は最判昭和40年6月18日を挙げています)。「追認拒絶の前でも後でも法律効果は同じ」とした肢は、この時点の違いを消したもので誤りでした。
肢は判旨をどう歪めるか
歪め方は四つに分けて持つ
判決文と食い違う肢は、判旨をまったく別の内容に書き換えているわけではありません。判旨の文言を借りながら、どこか一か所をずらしています。収録した8問の解説から、ずらし方は大きく四つに分けられます。
- 主体の入れ替え:判旨が誰について述べたかを、別の人物に置き換える。
- 要件の脱落:判旨が求めていた要件の一部を落とす。
- 例外の一般化:判旨が限定していた範囲を外し、すべての場合に広げる。
- 結論だけ逆にする:判旨の前提や言葉はそのまま使い、結論だけを反対にする。
どの肢を読むときも、この四つのどれかが起きていないかを順番に確かめます。四つの型を知っていれば、判旨と肢を最初から最後まで一字ずつ比べる必要はなく、主体、要件、範囲、結論の四か所だけを比べれば済みます。
主体の入れ替え
主体の入れ替えは、判旨が述べた人物の立場を、肢の中で別の立場の人物に置き換えるものです。
平成29年度問3の判決文は、共有者の一部から協議によらずに共有物の占有使用を承認された第三者について、承認しなかった共有者に対して共有物を排他的に占有する権原は主張できないが、承認した共有者の持分に基づく限度では占有使用する権原を有する、という内容でした。この判旨には、承認した共有者、承認しなかった共有者、承認を受けた第三者という三つの立場が出てきます。肢の側では、共有者がDとE、第三者がFというように文字が入れ替わります。どの文字が判旨のどの立場に当たるかを取り違えると、正しい肢も誤りに見えます。
無権代理と相続の組合せも、主体の入れ替えが起きやすい領域です。無権代理人が本人を相続した場合は、追認拒絶が信義則上許されず無権代理行為は当然に有効となり(最判昭和40年6月18日)、本人が無権代理人を相続した場合は、本人の追認拒絶は信義則に反しないので当然には有効とならない(最判昭和37年4月20日)、というのが収録データの解説の整理です。誰が誰を相続したかという向きが一つ変わるだけで結論が反対になります。判決文問題では、この向きが肢の中でひっそりと入れ替えられます。代理制度そのものの整理は「代理制度」にあります。
要件の脱落
要件の脱落は、判旨が求めた要件のうち一つを肢から落とし、要件を満たさない場合まで判旨の効果を及ぼすものです。
令和4年度問1がその例でした。判決文と関連判例の枠組みは、二重譲渡の第二譲受人のうち、第一譲受人の登記の欠缺を主張することが信義則に反する事情のある背信的悪意者は、民法177条の第三者に当たらない、というものです。ここで第三者から外れるための要件は「背信的」であることで、単に第一譲受人の存在や登記未了を知っていたという「悪意」だけでは足りません。肢の一つは、背信的悪意者に当たらなくても、第一譲受人の登記未了について悪意であれば対抗できない、としていました。これは「背信的」という要件を落としたもので誤りです。解説は、単なる悪意者はなお自由競争の範囲内にあり177条の第三者として保護される、としています(最判昭和43年8月2日参照)。
要件の脱落は、判旨の中の形容詞や修飾語が消えることで起きます。「背信的」「明確に」「通常の」「主たる」といった語は、判旨の中で要件を担っていることが多いので、判旨を読むときに線を引いておくと、肢で消えたときに気づけます。平成30年度問8の判決文が、通常損耗補修特約について「明確に合意されていることが必要」としていたのも同じです。肢の一つは、賃貸借契約に賃借人が原状回復義務を負う旨の定めがあるだけでは、通常損耗の補修費を賃料とは別に支払う義務があるとはいえない、としていました。一般的な原状回復条項だけでは「明確な合意」の要件を満たさないので、この肢は判旨どおりで正しい肢でした。
例外の一般化
例外の一般化は、判旨が限定付きで述べたことを、限定を外して一般化するものです。前節で見た平成30年度問8の「賃借人がどのように使用しても」という肢が典型です。
この型を見分ける手がかりは、肢の中の全称的な語です。「どのような」「全て」「常に」「いかなる場合も」といった語が判旨にない形で肢に加わっていれば、判旨の限定が外されていないかを確かめます。ただし、全称的な語があるから誤りと決めつけることはできません。条文や判旨そのものがそうした語を使っている場合もあるからです。語そのものに反応する前に、その語が判旨のどの部分に対応しているかを確かめる、という順序が大切です。語と正誤の関係を実際に数えた結果は「引っかけ表現パターン」にあり、断定語が正しい肢に使われる例も多いことが示されています。
結論だけ逆にする
最も単純で、しかし本番で見落としやすいのが、結論だけを逆にした肢です。判旨の言葉や理由付けをそのまま借りてきて、最後の結論だけを反対にします。
令和3年度問1には、家屋明渡債務と敷金返還債務の間に同時履行の関係を肯定することは、明渡しまでに賃貸人が取得する一切の債権を担保するという敷金の性質にも適合する、という肢がありました。前半の敷金の性質の説明は正しく、判決文の考え方にも沿っています。しかし判決文は、まさにその敷金の性質を理由に、同時履行の関係を否定しています。肢は理由を借りて結論を逆にしたものでした。解説は、同時履行を認めると賃借人が敷金の返還を受けるまで明渡しを拒めることになり、明渡しまでの債権を担保するという敷金の性質に反する、と説明しています。
令和5年度問1の、遺産分割前に生じた賃料債権を不動産を取得した相続人が「相続開始時にさかのぼって取得する」とした肢も、結論を逆にした型です。判旨は、各共同相続人が相続分に応じて「確定的に」取得し、遺産分割の遡及効(民法909条)によって左右されない、としていました。「確定的に」の一語が、さかのぼりを否定する結論を担っています。
結論を逆にした肢は、読んでいて違和感が少ないのが特徴です。理由付けの部分が正しいので、全体としてもっともらしく読めてしまいます。対策は、肢の文末、つまり結論の部分だけを先に読み、判旨の結論と照合することです。理由付けは後から読みます。
数字と起算点の差し替えは、条文の側で起きる
四つの型とは別に、判旨を前提にしたうえで、条文の数字や起算点を差し替える肢もあります。平成28年度問9では、説明義務違反による損害賠償請求権が不法行為に基づくという判旨を前提に、損害を知らない場合でも売買契約から10年で時効消滅する、という肢がありました。解説によると、不法行為による損害賠償請求権は、損害及び加害者を知った時から3年(民法724条1号)、不法行為の時から20年(同条2号)で時効消滅します。肢は起算点を「売買契約」に、期間を「10年」に差し替えていたので誤りでした。
この肢は、判旨を読むだけでは誤りだと分かりません。判旨から分かるのは「不法行為の問題だ」ということまでで、そこから先は民法724条を知っているかどうかで決まります。判旨が肢の入口を示し、条文が出口を決める。判決文問題の肢の多くはこの二段構えになっています。
判旨の語から条文を当てる
判旨の語は条文の要件に対応している
判決文を読んで「この話は何条の話か」が分かれば、肢の判定は条文の問題に変わります。判旨には、特定の条文の要件や効果を言い換えた語が繰り返し出てきます。語と条文の対応を知っておくと、知らない判例でも、どの条文の解釈をめぐる判断なのかが分かります。
ここでは、収録データの解説に実際に出てくる表現と条文の対応を五つ挙げます。いずれも、判決文問題または判例を前提にした肢の解説で使われている表現です。
「登記の欠缺を主張する正当な利益」は民法177条の第三者
「登記の欠缺を主張するにつき正当な利益を有する者」という表現は、民法177条の「第三者」の範囲を画する言い回しです。収録データでは、令和元年度問1の解説が、177条の第三者とは当事者及びその包括承継人以外の者であって、登記の欠缺を主張するにつき正当な利益を有する者をいう、と説明し、何らの権原もなく不動産を不法占有している者はこれに当たらないとしています(最判昭和25年12月19日)。したがって買主は、登記がなくても不法占有者に明渡しを請求できます。
同じ言い回しは、背信的悪意者を177条の第三者から外す場面でも使われます。平成28年度問3の解説は、登記の欠缺を主張することが信義則に反すると認められる事情のある背信的悪意者は177条の第三者に当たらない、としています。令和4年度問1の転得者の問題も、背信的悪意者が第三者から排除されるのは第一譲受人に対して登記の欠缺を主張することが信義則に反するからであり、その判断は転得者ごとに相対的に行われる、という判決文でした(最判平成8年10月29日)。前者が背信的悪意者でも、転得者自身が第一譲受人との関係で背信的悪意者と評価されなければ、転得者は所有権取得を対抗できます。
判旨に「登記」「欠缺」「正当な利益」「信義則に反する」が並んでいれば、177条の第三者の範囲の話だと当たりを付けます。物権変動の全体像は「物権変動と対抗要件」で整理しています。
「新たに独立の法律上の利害関係」は民法94条2項の第三者
「虚偽表示の当事者及びその包括承継人以外の者で、虚偽表示による法律関係を基礎として新たに独立の法律上の利害関係を有するに至った者」という表現は、民法94条2項の「第三者」の定義です。平成30年度問1の解説は、仮装譲受人から目的物を譲り受けた転得者がこれに当たり、善意であれば虚偽表示の無効を対抗されない、としています。そして、94条2項の第三者は善意であれば足り、無過失や登記の具備までは要しないと解されている、と続けています。
判旨に「新たに」「独立の」「法律上の利害関係」が出てくれば、意思表示の条文の第三者の話です。ここで大事なのは、177条の第三者と94条2項の第三者が、同じ「第三者」という語でも別の基準で決まることです。177条は登記の欠缺を主張する正当な利益、94条2項は新たな独立の法律上の利害関係です。この使い分けは「権利関係の頻出論点」の「第三者」の節で詳しく扱っています。意思表示の類型ごとの第三者保護は「意思表示の瑕疵」にもまとめています。
「通常の使用をした場合に生ずる」損耗は民法621条
「賃借人が社会通念上通常の使用をした場合に生ずる賃借物件の劣化又は価値の減少」という表現は、平成30年度問8の判決文にあった通常損耗の定義です。収録データの解説は、これが現行民法621条本文の「通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗」と同趣旨だとしています。621条本文は、賃借人の原状回復義務の対象から、通常損耗と経年変化を除いています。
判旨に「通常損耗」「原状回復」「特約」が並んでいれば、621条の原則と、それを特約で変更するための要件の話です。原則として通常損耗は賃借人の負担にならず、負担させるには明確な合意が要る、という二段で持っておくと、判決文を読む前から肢の方向が見えます。敷金との関係は「敷金と礼金」で扱っています。
「明渡しを受けた後に敷金残額を返還すれば足りる」は民法622条の2
令和3年度問1の判決文(最判昭和49年9月2日)は、賃貸人は家屋の明渡しを受けた後に敷金残額を返還すれば足りる、としていました。収録データの解説は、この考え方が現在は民法622条の2第1項1号で明文化されていると説明しています。同条は敷金を、いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で交付する金銭と定義し、賃貸物の返還を受けたときに未払債務を控除した残額を返還すれば足りるとしています。
判旨に「敷金」「明渡し」「同時履行」が出てくれば、622条の2と533条(同時履行の抗弁)の関係の話です。同時履行の抗弁は1個の双務契約から生じた対価的債務について認められるものなので、賃貸借契約から生じる明渡債務と、別個の敷金契約から生じる返還債務は、そもそもこの関係に立たない、と解説は整理しています。
「契約の要素をなす債務」と「附随的義務」は民法541条・542条
令和2年度問3の判決文(最判昭和43年2月23日)は、契約をした主たる目的の達成に必須的でない附随的義務の不履行にとどまる場合には、特段の事情がない限り契約を解除できない、としていました。この判旨は、どの債務の不履行であれば解除できるかという、解除の要件をめぐる判断です。
現行法では、催告解除について民法541条ただし書が、催告期間を経過した時の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは解除できない、と定めています。無催告解除は542条が定め、債務者が債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき(同条1項2号)などが挙げられています。この問題の肢のうち二つは、541条ただし書と542条1項2号をそのまま問うもので、判旨ではなく条文で正しいと判定されました。
もう一つ、この問題には、債務者に帰責事由がないときは付随的義務の不履行となり解除できない、という肢がありました。解説は、ある債務が付随的義務かどうかは契約の内容から客観的に定まり、帰責事由とは無関係であること、さらに改正民法では解除に債務者の帰責事由は要件とされていないことを理由に、誤りとしています。判旨の「附随的義務」という語を、別の要件である帰責事由と結び付けてしまう肢です。改正の要点は「権利関係の民法改正まとめ」で確認できます。
結び直しの手順
判旨の語から条文を当てる作業は、次の手順で行います。
- 判旨の中から、条文の要件や効果を言い換えたと思われる名詞を三つほど拾う。
- その名詞の組合せから、分野(物権変動、意思表示、賃貸借、解除、相続など)を決める。
- 分野の中で、その名詞が要件として出てくる条文を思い出す。
- 判旨がその条文のどの要件について判断しているのかを特定する。
四つ目まで進めば、判旨は「〇条の△△という要件について、□□と解した」という一文に要約できます。この一文ができれば、肢の判定は条文の問題として処理できます。六法を引いて条文の文言に慣れておくことの効用は「宅建に六法は必要か」にまとめていますが、判決文問題はまさに、条文の文言を知っていることが読解の速さに直結する場面です。
時間の使い方と解く順番
1問あたりの平均は2分24秒
宅建試験は50問を2時間で解きます。単純に割ると1問あたり2分24秒です。判決文問題は、四つの肢に加えて判決文そのものを読む必要があるので、この平均に収まらないことが多い形式です。
ここで考えるべきなのは、判決文問題に何分使うかではなく、判決文問題に使った時間がどこから削られるかです。権利関係の他の問題、あるいは宅建業法の見直しの時間から削られます。1点の問題に平均の倍以上の時間を使えば、その分だけ他の問題の検討時間が減ります。1問1点という配点は形式によって変わらないので、判決文問題の1点は、宅建業法の1点と同じ重さです。
解く順番の中では、後ろに置く
判決文問題は、権利関係の他の問題よりも後に回すのが基本です。理由は二つあります。
第一に、判決文問題は1問を解き切るまでの時間が読めません。判旨が短く肢の仕分けがすぐに済む問題もあれば、判旨の射程を何度も読み直す必要がある問題もあります。時間の読めない問題を先に置くと、後ろの問題の時間配分がすべて不確かになります。
第二に、令和3年度から令和5年度まで3年続けて問1に置かれていたように、判決文問題は冊子の冒頭に来ることがあります。冒頭から順に解く人は、試験開始直後に時間の読めない問題に取り組むことになり、最初の数分で時間の感覚が狂います。解く順番は、宅建業法から入り、法令上の制限、税・その他を経て権利関係に戻る、といった形で事前に固定しておき、権利関係の中でも判決文問題はその最後に置くのが安全です。順番の組み方と当日の段取りは「宅建試験当日ガイド」と「直前期の過ごし方」で扱っています。
最初に肢だけを読んで仕分ける
判決文問題に取りかかったら、いきなり判決文を読み始めるのではなく、先に四つの肢の文頭と文末だけを読みます。これで二つのことが分かります。
一つは、設問が「正しいもの」を選ぶのか「誤っているもの」を選ぶのかです。もう一つは、肢が判旨の内容を問うものか、判旨と別の条文知識を問うものかです。肢の中に判決文の言葉がそのまま出てくれば判旨を問う肢、条文の文言に近い言い回しで判決文と関係のない話をしていれば条文知識の肢です。
条文知識の肢は、判決文を読まずに先に判定できます。令和2年度問3の541条ただし書と542条1項2号の肢、令和元年度問5の追認の遡及効を定めた116条の肢、令和5年度問1の909条と898条・899条の肢は、いずれも条文どおりの記述でした。先に条文肢を片付けておけば、判決文を読む時点で残っている肢は二つか三つに減っています。読むべき判旨の範囲も、残った肢に関係する部分に絞れます。
目安の時間を決めておく
判決文問題に使う時間は、あらかじめ目安を決めておきます。ここで挙げる数字は根拠のある基準ではなく、あくまで自分の時間配分を組むための目安です。
たとえば、平均の2分24秒に対して、判決文問題には最大でその倍程度、4分から5分を上限と決めておく、という置き方があります。上限に達した時点で、判定できている肢の情報から最も可能性の高い選択肢をマークし、問題用紙に印を付けて次に進みます。上限の数字そのものよりも、上限を超えたら必ず手を止める、というルールを持っていることのほうが重要です。
この目安は、過去問や模試で実際に判決文問題を解いたときの所要時間を測って調整します。自分の所要時間が上限を大きく下回るなら、判決文問題を後ろに回す必要すらないかもしれません。反対に、毎回上限を超えるなら、読み方の手順のどこで時間を使っているかを分析します。模試での時間の測り方は「模試の活用法」にあります。
時間を使うのは、判旨の射程を確かめる場面だけ
判決文問題で時間をかけてよいのは、判旨の射程を確かめる場面です。判旨の主語、対象、時点、効果の範囲を拾い、肢と照合する作業には、それなりの時間が必要です。
逆に、時間をかけてはいけないのは、判決文を最初から最後まで精読する場面です。判決文の中には、肢の判定に関係しない部分もあります。先に肢を読んでおけば、判決文のどの部分を精読すればよいかが分かります。関係のない部分は流し読みで構いません。
もう一つ、時間をかけてはいけないのは、判旨の外にある事情を自分で補って考える場面です。「特段の事情」の中身を想像したり、判決文に書かれていない事案の背景を推測したりしても、肢の判定には近づきません。判決文問題の答えは、判決文と条文の中にあります。
判決文問題を捨てるべきか
形式で捨てる理由はない
判決文問題は長い、判例は難しい、という印象から、判決文問題を最初から捨てるという方針を立てる人がいます。しかし、形式を理由に捨てる方針は、この記事で見てきた実態と噛み合いません。
収録した8問のうち5問では、四つの肢の中に条文知識だけで判定できる肢が含まれていました。こうした肢は、判決文を読まなくても判定できます。条文肢を二つ確定できれば、残りの二つの肢を判旨と照合するだけで答えが出る問題もあります。判決文問題を形式で捨てると、この条文肢で取れる1点も一緒に捨てることになります。
さらに、判決文問題は判旨が問題文に書かれているので、知らない判例であっても判定の手がかりがあります。判例の結論を知らなければ手がかりがゼロになる「判例の趣旨に照らし」型の問題よりも、むしろ取りやすい面があります。
切るかどうかは、当てはめが決まるかで決める
判決文問題を切るかどうかは、形式ではなく、判旨を読み終えた時点で肢の当てはめが決まるかどうかで判断します。
具体的には、判旨を事案・争点・規範・結論に切り出し、判旨を「〇条の△△という要件について、□□と解した」という一文にまとめられたかどうかを確かめます。まとめられたなら、残った肢を判旨と照合すれば答えが出ます。まとめられなかったなら、判旨が何を決めたのかがつかめていないので、肢と照合しても判定は決まりません。この状態が、切る合図です。
もう一つの基準は、判旨を問う肢のうち、判定がつかないものがいくつ残ったかです。判定のつかない肢が一つだけなら、残りの肢の判定から消去法で答えが出る可能性があります。判定のつかない肢が二つ以上残ったら、そこで判旨を読み直しても判定が決まる見込みは低いので、後回しにします。この基準は「個数問題・組合せ問題の解き方」の、三角の数で行動を決めるという考え方と同じものです。
切るときも、必ずマークする
切ると決めたら、判定できている肢の情報を使って最も可能性の高い選択肢を選び、その場でマークします。四肢択一なので、何もマークしなければ0点ですが、マークすれば少なくとも可能性は残ります。判定できた肢が一つでもあれば、その肢を選択肢から外せるので、可能性はさらに高くなります。
そして問題用紙に、判定のつかなかった肢の番号を書いておきます。時間が余って戻ってきたときに、どの肢の判定を詰めればよいかがすぐに分かります。戻ってきたときには、最初に読んだときに見落としていた判旨の限定語に気づくことがあります。捨て問の処理の全体像は「宅建の合格戦略」で扱っています。
過去問の判決文問題は、読み方の練習台として使う
判決文問題は、同じ判決文が再び出題されるとは限りません。したがって、過去問の判決文問題を解くときに、判旨の結論を覚えることを目的にしても、得られるものは限られます。
過去問の判決文問題は、読み方の手順を練習する題材として使います。判旨を四つに切り出す、言い回しの目印に線を引く、射程の限定語を拾う、肢を条文肢と判旨肢に仕分ける、判旨の語から条文を当てる。この一連の手順を、収録されている8問で繰り返し試しておけば、本番で知らない判決文が出ても同じ手順で処理できます。過去問をどこまで使い、どこから先は過去問以外で補うかは「宅建は過去問だけで合格できるか」で整理しています。
また、判決文問題に出てきた判例は、権利関係の頻出分野の主要な判例であることが多いので、判決文問題以外の問題で「判例によれば」と問われることもあります。判決文問題を読む練習は、そのまま判例知識の整理にもなります。
試験での出題ポイント
判旨どおりの肢と、判旨の外の条文肢が混在する
判決文問題の四つの肢は、判旨を問う肢と、判旨とは別の条文知識を問う肢が混在しています。収録した8問では、平成29年度問3の持分放棄の肢(民法255条)、令和元年度問5の追認の遡及効の肢(民法116条)、令和2年度問3の催告解除と無催告解除の肢(民法541条ただし書、542条1項2号)、令和3年度問1の敷金で担保される債権の範囲の肢(民法622条の2)、令和5年度問1の相続財産の共有と遺産分割の遡及効の肢(民法898条・899条、909条)が、解説上は判決文に触れずに条文で判定されていました。
判決文問題の準備は、判旨の読み方だけでなく、判旨の周辺にある条文の知識を固めることでもあります。判旨の分野が分かれば、周辺の条文が肢として出てくる可能性が高いということです。
射程の外への一般化は、誤りの肢の典型である
誤りの肢の典型の一つが、判旨が限定付きで述べたことを限定なしに広げる型です。平成30年度問8の「どのように使用しても」、令和5年度問1の「相続開始時にさかのぼって」は、どちらも判旨の対象や時点の限定を外したものでした。判旨を読むときに限定語に線を引いておくことが、そのまま誤りの肢を見つける準備になります。
要件の形容詞が一語だけ消える
令和4年度問1の「背信的悪意者に該当しなくても悪意であれば」という肢のように、要件を担う形容詞が一語だけ消されることがあります。「背信的」「明確に」「通常の」「主たる」といった語は、判旨の中で要件を担っています。肢の中でこれらの語が消えていないか、別の語に置き換わっていないかを確かめます。
相続の向きと時点で結論が変わる
無権代理と相続の組合せでは、誰が誰を相続したかという向きと、本人の追認拒絶の前か後かという時点の二つで結論が変わります。令和元年度問5は、追認拒絶の後に無権代理人が本人を相続しても無権代理行為は有効にならないという判旨を示したうえで、追認拒絶の前後で法律効果が同じとする肢を誤りとして置いていました。向きと時点の組合せは、判決文問題でも、判決文のない問題でも問われます。
判旨を前提に、別の条文の数字を問う
平成28年度問9のように、判旨から「不法行為の問題だ」と分かった後で、不法行為の消滅時効の期間や相殺の禁止を問う肢があります。判旨が入口、条文が出口という二段構えです。判旨を読み解いても条文の数字を知らなければ判定できないので、判決文問題の準備には期間や数字の整理も含まれます。期間の整理は「権利関係の頻出論点」の期間の節にまとめています。
覚え方・整理の仕方
読み方は「事・争・規・結」の四文字で持つ
判決文の読み方は、事案・争点・規範・結論の頭文字をとって「事・争・規・結」の四文字で持ちます。判決文を読むときは、この四文字を判決文の余白に書き、該当する部分に線を引きます。四つ全部が揃わなくても構いません。揃わない要素は肢の側で補われていることが多いので、肢を読むときにその要素を探します。
歪め方は「主・要・範・結」の四か所で比べる
肢と判旨を比べるときは、主体、要件、範囲、結論の四か所だけを比べます。頭文字をとって「主・要・範・結」です。肢を最初から最後まで一字ずつ比べるのではなく、この四か所に絞って照合すると、時間を節約できます。
- 主:誰についての判断か。人物の立場が入れ替わっていないか。
- 要:どんな要件が求められているか。要件を担う語が消えていないか。
- 範:どの範囲、どの時点についての判断か。限定が外されていないか。
- 結:結論はどちらか。理由を借りて結論だけ逆にしていないか。
判旨を一文に要約する型を決めておく
判旨を読み終えたら、「〇条の△△という要件について、□□と解した」という一文に要約します。この型を決めておくと、判旨を読んだ後に何をすべきかが迷わずに済みます。要約できれば肢の判定に進み、要約できなければ切る候補にする。判断の基準がこの一文に集約されます。
判旨の語と条文の対応は、ノートに対にして書く
判旨の語から条文を当てる力は、語と条文の対応を対にして書き出すことで身に付きます。この記事で挙げた対応は次のとおりです。
- 登記の欠缺を主張する正当な利益 → 民法177条の第三者
- 新たに独立の法律上の利害関係 → 民法94条2項の第三者
- 通常の使用をした場合に生ずる損耗 → 民法621条
- 明渡しを受けた後に敷金残額を返還 → 民法622条の2第1項1号
- 契約の主たる目的の達成に必須的でない附随的義務 → 民法541条・542条(解除の要件)
演習で新しい判旨に出会うたびに、この対応を一行ずつ書き足していきます。語呂合わせで覚える必要はありません。対応の数が増えるほど、知らない判旨を読んだときに当たりが付く確率が上がります。民法全体の覚え方の工夫は「民法の語呂合わせ」にもあります。
時間は上限を一つだけ決める
時間の使い方は、判決文問題に使う時間の上限を一つだけ決めておきます。上限の数字は自分の演習結果から決め、上限に達したら必ず手を止めてマークする。ルールを一つに絞っておくと、本番で迷いません。
理解度チェッククイズ
Q1. 背信的悪意者Cから不動産を買い受けて登記を完了した転得者Dは、前者Cが背信的悪意者である以上、D自身が第一譲受人Bとの関係で背信的悪意者と評価されるかどうかにかかわらず、Bに所有権取得を対抗することができない(○か×か)
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×:令和4年度問1の判決文(最判平成8年10月29日)は、背信的悪意者が民法177条の第三者から排除されるのは第一譲受人に対して登記の欠缺を主張することが信義則に反するからであり、その判断は転得者ごと、相手方との関係ごとに相対的に行われる、という立場です。したがって、前者Cが背信的悪意者であっても、転得者D自身がBとの関係で背信的悪意者と評価されない限り、Dは所有権取得をBに対抗できます。Dが対抗できないのは、D自身もBとの関係で背信的悪意者に当たる場合です。Q2. 無権代理人が本人に無断で本人の不動産を売却した後、本人が追認も追認拒絶もしないうちに死亡し、無権代理人が単独で本人を相続した場合、売買は当然に有効となる(○か×か)
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○:無権代理人が本人を単独で相続すると、無権代理人としての地位と本人としての地位が同一人に帰します。判例は、この場合に相続人が本人の資格で追認を拒絶することは信義則上許されず、本人が自ら法律行為をしたのと同様の法律上の地位を生じるとしています(最判昭和40年6月18日)。したがって売買は当然に有効となります。ただし、本人が生前に追認を拒絶していた場合は、無権代理行為の効力が本人に及ばないことが確定しているので、その後に無権代理人が相続しても有効にはなりません(令和元年度問5の判決文)。Q3. 本人が無権代理人を相続した場合、無権代理行為は、その相続により当然に有効となる(○か×か)
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×:本人が無権代理人を相続した場合、本人はもともと有していた追認拒絶権を失いません。本人が追認を拒絶しても信義則に反しないため、無権代理行為は相続によって当然には有効となりません(最判昭和37年4月20日)。Q2の無権代理人が本人を相続した場合とは結論が逆になります。相続の向きが一つ変わるだけで結論が反対になる典型です。Q4. 不動産を買い受けた者は、所有権移転登記を備えていなければ、何らの権原なくその不動産を不法占有している者に対して、所有権に基づく明渡しを請求することができない(○か×か)
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×:民法177条の第三者とは、当事者及びその包括承継人以外の者であって、登記の欠缺を主張するにつき正当な利益を有する者をいいます。何らの権原もなく不動産を不法占有しているにすぎない者は、この正当な利益を持たないので177条の第三者に当たりません(最判昭和25年12月19日)。したがって買主は、登記がなくても不法占有者に明渡しを請求できます。判旨の「正当な利益」という語が、177条の第三者の範囲を画していることを示す例です。Q5. AB間の仮装譲渡の後、Bから目的物を譲り受けたCが民法94条2項により保護されるためには、Cが仮装譲渡について善意であるだけでなく、無過失であり、かつ登記を備えていることが必要である(○か×か)
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×:民法94条2項の第三者は、虚偽表示の当事者及びその包括承継人以外の者で、虚偽表示による法律関係を基礎として新たに独立の法律上の利害関係を有するに至った者をいい、仮装譲受人Bからの転得者Cはこれに当たります。そして、94条2項の第三者は善意であれば足り、無過失や登記の具備までは要しないと解されています。要件を付け加えて保護の範囲を狭める肢は、要件の脱落とは逆向きの歪め方です。まとめ
判決文問題について、押さえるべき点を整理します。
第一に、規模と位置です。宅建試験AIブートラボ収録の平成28〜令和7年度の問題のうち、解説から判決文形式と確認できたのは、平成28年度問9、平成29年度問3、平成30年度問8、令和元年度問5、令和2年度問3、令和3年度問1、令和4年度問1、令和5年度問1の8問でした。令和3年度から令和5年度までは3年続けて問1に置かれています。令和6年度と令和7年度は、収録データの解説からは確認できませんでしたが、出題がなかったとは断定できません。
第二に、判決文問題は暗記ではなく読解と当てはめの問題です。判旨は問題文に書かれているので、知らない判例であることは捨てる理由になりません。判旨を事案・争点・規範・結論に切り出し、言い回しの目印から規範と例外の範囲を読み取り、主語・対象・時点・効果の範囲から射程を測ります。
第三に、誤りの肢は、主体の入れ替え、要件の脱落、例外の一般化、結論だけ逆にする、の四つの型で作られます。肢と判旨は、主体・要件・範囲・結論の四か所に絞って比べます。
第四に、判旨の語から条文を当てます。「登記の欠缺を主張する正当な利益」なら177条、「新たに独立の法律上の利害関係」なら94条2項、通常損耗なら621条、明渡し後の敷金返還なら622条の2、附随的義務なら541条・542条です。判旨を「〇条の△△という要件について、□□と解した」という一文に要約できれば、肢の判定は条文の問題に変わります。
第五に、時間と切る判断です。判決文問題は権利関係の中でも後ろに置き、先に肢を読んで条文肢を片付けます。使う時間の上限を自分の演習結果から一つ決め、上限で必ず手を止めます。切るかどうかは形式ではなく、判旨を一文に要約できたか、判定のつかない肢が二つ以上残ったかで決め、切るときもその場でマークします。
宅建試験AIブートラボでは、権利関係の過去問を肢ごとに分解した演習で、判決文問題の各肢が判旨で決まるのか条文で決まるのかを、解説の根拠と照らして確かめられます。