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代理権の消滅事由|共通4つに1つを上乗せする

権利関係 読了 約35分

111条1項の4つは任意代理でも法定代理でも共通です。分かれるのは本人の破産だけ。653条を経由する二段構造と、101条・102条の代理行為の瑕疵を条文で整理します。

目次

    この記事は、代理権がどう終わるかと、代理行為の主観をどちらについて判定するかを扱います。代理制度の全体像、無権代理、表見代理の三類型、無権代理と相続は代理制度に、復代理と自己契約・双方代理は復代理と自己契約・双方代理にあります。ここでは消滅事由と101条・102条に絞ります。

    先に、この分野で最も多い誤解を潰しておきます。

    「代理人の後見開始は任意代理では消滅事由になるが、法定代理ではならない」という説明は誤りです。もっともらしい理由づけとともに出回っていますが、条文を読めば決着します。

    111条1項は「代理権は、次に掲げる事由によって消滅する」と書いています。「委任による代理権は」とも「法定代理権は」とも書いていません。代理権一般の規定です。したがって1項2号の「代理人の死亡又は代理人が破産手続開始の決定若しくは後見開始の審判を受けたこと」は、法定代理にも及びます。

    では何が分かれるのか。分かれるのは本人の破産だけです。本人の破産は111条1項に挙がっていません。任意代理の場合にのみ、同条2項が委任の終了を消滅事由として引き込み、653条2号の「委任者又は受任者が破産手続開始の決定を受けたこと」を経由して消滅します。法定代理には111条2項の入口がないので、本人が破産しても代理権は消滅しません。

    したがって、この分野の骨格は次の一文に尽きます。共通の4つに、任意代理だけ1つを上乗せする二段構え。共通の4つが本人の死亡・代理人の死亡・代理人の破産・代理人の後見開始で、上乗せの1つが本人の破産です。

    以下、この二段構えを条文で確認したうえで、法定代理に固有の終わり方、消滅を相手方に対抗できるか、そして101条・102条の主観の判定へ進みます。分野全体の設計は権利関係の全体像で扱っています。

    なお本記事は2026年4月1日時点で施行されている条文に基づきます。宅建試験は当該年度の4月1日現在施行の法令から出題されるためです。民法は令和8年法律第45号により2026年6月24日にも改正が施行されていますが、本則の条文に変更はなく、ここで扱う条文の文言はすべて同一です。

    111条1項が定める共通の消滅事由

    まず条文そのものを確認します。

    条文の全文

    111条1項はこう定めています。

    代理権は、次に掲げる事由によって消滅する。一 本人の死亡。二 代理人の死亡又は代理人が破産手続開始の決定若しくは後見開始の審判を受けたこと。

    2項はこうです。「委任による代理権は、前項各号に掲げる事由のほか、委任の終了によって消滅する。

    主語が「代理権は」であることを読む

    1項の主語は「代理権は」です。限定語が付いていません。

    これに対し2項の主語は「委任による代理権は」です。同じ条文の中で、1項は限定なし、2項は任意代理に限定、と書き分けられています。

    条文がわざわざ2項でだけ限定しているということは、1項には限定がないという意味です。同一条文内の書き分けは、起草上の意図と読むのが自然な読み方です。したがって1項各号は、任意代理にも法定代理にも等しく適用されます。

    この一点さえ押さえれば、この分野の誤解はほぼ防げます。

    事由は数え方によって四つ

    条文は号としては二つですが、2号が三つの事由を並べているので、実質は四つです。

    本人の死亡(1号)。代理人の死亡(2号前段)。代理人が破産手続開始の決定を受けたこと(2号中段)。代理人が後見開始の審判を受けたこと(2号後段)。

    この四つを、以下では「共通の四つ」と呼びます。

    なぜこの四つなのか

    丸暗記するより、理由から入るほうが安定します。

    本人の死亡(1号)。代理は、代理人がした行為の効果を本人に帰属させる制度です。効果の受け皿である本人がいなくなれば、代理権を存続させる意味がありません。相続人が新たに代理権を与えるかどうかは別の話です。相続の仕組みは相続で扱っています。

    代理人の死亡(2号前段)。代理権は、その人だからこそ与えられたものです。代理人が死亡した場合に、その相続人が代理権を承継するとすれば、本人がまったく知らない人物に自分の財産の処分権が渡ることになります。代理権は一身専属的なもので、相続の対象になりません。

    代理人の破産(2号中段)。自分の財産を管理できなくなった者に、他人の財産の管理を任せておくのは適当でないという判断です。

    代理人の後見開始(2号後段)。後見開始の審判を受けたということは、事理を弁識する能力を欠く常況にあるということです。判断能力を欠く者に代理行為を続けさせることはできません。

    四つに共通しているのは、代理という仕組みを支える前提が崩れた場面だという点です。受け皿が消えたか、任せた相手が消えたか、任せた相手が任せるに値しなくなったか。だから任意代理と法定代理で区別する理由がありません。

    111条は改正されていない

    この条文は平成29年法律第44号による改正(2020年4月1日施行)でも変わっていません。改正前の111条も、1項2項ともまったく同じ文言でした。改正論点の多い代理の分野にあって、111条は動いていない条文です。改正点の全体像は民法改正のポイントにあります。

    111条1項に書かれていない二つ

    条文に何が書かれているかと同じくらい、何が書かれていないかが重要です。111条1項には、混同されやすい二つの事由が入っていません。

    本人の破産は入っていない

    1号は「本人の死亡」です。本人の破産ではありません。

    そして2号は代理人についての三つの事由を並べており、本人の破産はどこにもありません。111条1項だけを見れば、本人が破産しても代理権は消滅しないということになります。

    ここから先が、次章で扱う二段構造です。任意代理には2項という追加の入口があるため、結論が変わります。しかし出発点は「1項に本人の破産は入っていない」であることを、まず固定してください。

    本人の後見開始はどこにも入っていない

    もう一つ、本人が後見開始の審判を受けたことは、111条1項にも、後述する653条にも入っていません。

    2号の後見開始は「代理人が後見開始の審判を受けたこと」です。本人ではありません。653条3号も「受任者が後見開始の審判を受けたこと」で、委任者ではありません。

    したがって、本人の後見開始は、任意代理でも法定代理でも代理権の消滅事由になりません。

    理由も条文の構造から説明できます。後見開始の審判を受けた本人は、9条本文により単独では有効に法律行為ができなくなります。そのような状態にある本人こそ、代理人に動いてもらう必要があります。代理権を消滅させれば、本人は自分でも動けず、代理人にも動いてもらえないという状態に置かれてしまいます。制限行為能力者の制度は制限行為能力者制度で扱っています。

    二つの「入っていない」の性質は違う

    ここが混乱しやすいところなので、はっきり分けておきます。

    本人の破産が1項に入っていないことは、任意代理では2項で回収されます。結論としては任意代理なら消滅します。

    本人の後見開始は、1項にも653条にも入っていません。回収する経路がないので、任意代理でも法定代理でも消滅しません。

    同じ「1項に書かれていない」でも、行き先が違う。この違いを踏まえずに「1項にないものは消滅事由でない」と単純化すると、本人の破産で間違えます。

    任意代理だけの上乗せ——111条2項と653条

    任意代理には、共通の四つに加えて上乗せがあります。ただし、そこに至るには条文を二段で辿る必要があります。

    第一段 111条2項

    111条2項は「委任による代理権は、前項各号に掲げる事由のほか、委任の終了によって消滅する。」と定めています。

    「委任による代理権」とは任意代理権のことです。そして上乗せされる事由は「委任の終了」です。2項自体は、委任が終わったら代理権も終わる、と言っているだけで、委任がどういう場合に終わるかは書いていません。

    第二段 653条

    そこで委任の終了事由を定める653条に進みます。

    委任は、次に掲げる事由によって終了する。一 委任者又は受任者の死亡。二 委任者又は受任者が破産手続開始の決定を受けたこと。三 受任者が後見開始の審判を受けたこと。

    委任者が本人、受任者が代理人に当たります。この三号を111条1項の四つと突き合わせてください。

    1号の「委任者又は受任者の死亡」は、111条1項1号の本人の死亡と2号前段の代理人の死亡に、そのまま重なります。上乗せになりません。

    2号の「委任者又は受任者が破産手続開始の決定を受けたこと」のうち、受任者すなわち代理人の破産は111条1項2号中段に重なります。しかし委任者すなわち本人の破産は、111条1項にありません。ここが唯一の上乗せです。

    3号の「受任者が後見開始の審判を受けたこと」は、111条1項2号後段に重なります。上乗せになりません。

    上乗せは一つだけ

    突き合わせの結果は明快です。653条の三号のうち、111条1項に含まれていないのは「委任者の破産」だけです。

    したがって、任意代理権の消滅事由は、共通の四つに本人の破産を加えた五つになります。

    653条3号が「受任者」に限られていることの意味

    653条3号を正確に読んでください。「受任者が後見開始の審判を受けたこと」です。委任者は入っていません。

    つまり、任意代理においても本人の後見開始は委任の終了事由ではなく、したがって代理権の消滅事由でもありません。111条1項にもなく、653条にもない。前章で述べた「回収する経路がない」とはこのことです。

    2号だけが「委任者又は受任者」と両方を挙げ、3号は「受任者」だけを挙げている。同じ条文の中の書き分けなので、条文を見れば迷いません。

    653条が強行規定かどうかは条文にない

    653条各号の効果を当事者の合意で変えられるかについて、民法は明文を置いていません。宅建試験で問われるのは条文の列挙そのものなので、まずは111条1項の四つと653条の三号を、文言のまま持ってください。

    二段構えで整理する

    ここまでを一度まとめます。この節の内容が、この記事の中核です。

    共通の四つ

    任意代理でも法定代理でも消滅する。本人の死亡、代理人の死亡、代理人の破産、代理人の後見開始。根拠は111条1項で、この項は代理権一般について定めています。

    任意代理だけの一つ

    本人の破産。根拠は111条2項と653条2号の組み合わせです。法定代理には111条2項が適用されないため、消滅しません。

    どちらでも消滅しない一つ

    本人の後見開始。111条1項にも653条にもありません。任意代理でも法定代理でも消滅事由ではありません。

    誤解の型を名指しで潰す

    この二段構えを持たずに「任意代理と法定代理で消滅事由が違う」とだけ覚えると、違いがどこにあるのかを取り違えます。

    実際に出回っている誤った説明を挙げます。「代理人の後見開始の審判は、任意代理では消滅事由になるが法定代理ではならない。法定代理は本人保護のための制度であるため、簡単には消滅しない。

    理由づけがもっともらしいので通ってしまいがちですが、誤りです。111条1項2号は代理権一般について代理人の後見開始を消滅事由としており、法定代理を除外していません。そもそも、判断能力を欠く常況にある者に法定代理を続けさせるほうが、本人保護に反します。

    「法定代理だから消滅しにくい」という発想で個々の事由を判断しないでください。条文が区別しているのは本人の破産の一点だけです。

    分かれ目の理由

    なぜ本人の破産だけが分かれるのか。理由は任意代理の基礎に委任契約があるからです。

    任意代理は、本人と代理人の間の契約関係の上に乗っています。本人が破産すれば、その財産の管理処分権は破産管財人に移ります。本人が自分の財産について代理人に権限を与え続けても意味がありません。だから委任が終了し、それに伴って代理権も消滅します。

    これに対し法定代理は、契約ではなく法律の規定によって発生します。親権者の代理権は824条、後見人の代理権は859条1項が根拠であり、本人との契約に由来しません。乗っている土台が違うので、委任の終了という事由が働く余地がありません。

    分かれるのは「委任契約に乗っているかどうか」の一点であり、「法定代理は強い」からではない。この理解で持ってください。

    委任の終了は653条だけではない

    111条2項は「委任の終了によって消滅する」とだけ書いており、653条に限定していません。したがって、653条以外の理由で委任が終わっても、任意代理権は消滅します。

    651条 いつでも解除できる

    651条1項は「委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる。」と定めています。

    本人からも代理人からも、理由を問わず解除できます。委任は当事者間の信頼を基礎とする契約なので、信頼が失われた以上続けさせる意味がない、という趣旨です。したがって、本人が委任契約を解除すれば、それによって代理権は消滅します。

    不動産取引でいえば、媒介や代理を依頼した宅地建物取引業者との契約を解除すれば、その業者の代理権はなくなります。媒介契約の類型は媒介契約の3類型で扱っています。

    651条2項 損害賠償が必要な場合

    「いつでも解除できる」ことと「解除しても責任を負わない」ことは別です。

    651条2項は「前項の規定により委任の解除をした者は、次に掲げる場合には、相手方の損害を賠償しなければならない。ただし、やむを得ない事由があったときは、この限りでない。一 相手方に不利な時期に委任を解除したとき。二 委任者が受任者の利益(専ら報酬を得ることによるものを除く。)をも目的とする委任を解除したとき。」と定めています。

    解除そのものは有効で、代理権は消滅します。損害賠償義務が生じるかどうかは別の問題です。「不利な時期の解除は無効だから代理権は消滅しない」という筋にはなりません。

    2号の括弧書き「専ら報酬を得ることによるものを除く」も落とさないでください。報酬をもらえるという受任者の利益は、ここでいう「受任者の利益」に当たりません。

    652条 解除の効力は将来に向かってのみ

    652条は「第六百二十条の規定は、委任について準用する」と定めています。620条は賃貸借の解除について、解除が将来に向かってのみ効力を生じることを定めた規定です。

    委任の解除に遡及効はありません。すでに処理された事務が後から無効になることはなく、代理権も解除の時点から先について消滅します。遡及効の有無は無効と取消しの違いで扱った枠組みと同じ発想です。委任契約そのものの規律は委任と請負にあります。

    期間や事務の完了

    委任の期間を定めていればその満了で、特定の事務の処理を委託していればその事務の完了で、委任は終わります。条文に列挙されているわけではありませんが、契約の内容として当然に導かれます。

    法定代理に固有の終わり方

    法定代理権は委任に乗っていないので、653条ではなく、それぞれの代理権を発生させている制度の側の規定によって終わります。

    親権に基づく代理権

    親権者の代理権の根拠は824条です。「親権を行う者は、子の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為についてその子を代表する。ただし、その子の行為を目的とする債務を生ずべき場合には、本人の同意を得なければならない。」

    この代理権は、次の場合に失われます。

    子が成年に達したこと。4条は「年齢十八歳をもって、成年とする」と定めています。成年に達すれば親権に服さなくなり、代理権も消滅します。なお、婚姻による成年擬制の規定は削除されています。

    親権喪失の審判(834条)。虐待や悪意の遺棄があるときなど、親権の行使が著しく困難または不適当で子の利益を著しく害するときに、家庭裁判所がする審判です。

    親権停止の審判(834条の2)。親権の行使が困難または不適当で子の利益を害するときの審判で、2項により2年を超えない範囲内で期間が定められます。

    管理権喪失の審判(835条)。財産の管理権だけを失わせる審判です。824条の代理権は財産管理権と一体なので、これを失えば代理権も失われます。

    なお836条は、これらの原因が消滅したときに審判を取り消すことができると定めています。

    後見に基づく代理権

    後見人の代理権の根拠は859条1項です。「後見人は、被後見人の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為について被後見人を代表する。

    この代理権は、次の場合に失われます。

    後見開始の審判の取消し(10条)。「第七条に規定する原因が消滅したときは、家庭裁判所は、……後見開始の審判を取り消さなければならない」と定めています。本人が判断能力を回復すれば後見が終わり、成年後見人の代理権も消滅します。

    後見人の辞任(844条)。「後見人は、正当な事由があるときは、家庭裁判所の許可を得て、その任務を辞することができる。」自由に辞められるわけではなく、二つの条件がかかっています。委任がいつでも解除できる(651条1項)のと対照的です。

    後見人の解任(846条)。「後見人に不正な行為、著しい不行跡その他後見の任務に適しない事由があるときは、家庭裁判所は、後見監督人、被後見人若しくはその親族若しくは検察官の請求により又は職権で、これを解任することができる。」

    未成年後見については、被後見人が成年に達したこと。838条1号が未成年者について後見が開始する場合を定めており、その前提が消えれば後見も終わります。

    保佐人・補助人に付与された代理権

    保佐人と補助人は、当然には代理権を持ちません。審判によって個別に付与されて初めて代理権が生じます。

    876条の4第1項は「家庭裁判所は、……被保佐人のために特定の法律行為について保佐人に代理権を付与する旨の審判をすることができる」と定め、2項で「本人以外の者の請求によって前項の審判をするには、本人の同意がなければならない」としています。

    そして3項が「家庭裁判所は、第一項に規定する者の請求によって、同項の審判の全部又は一部を取り消すことができる」と定めています。代理権付与の審判が取り消されれば、その代理権は消滅します。

    保佐開始・補助開始の審判自体が取り消される場合(14条・18条)にも、当然に代理権はなくなります。

    共通の四つはここにも及ぶ

    念のため繰り返します。以上の固有の終わり方は、111条1項の共通の四つに「加えて」あるものです。

    親権者が死亡すれば、111条1項2号前段により代理権は消滅します。成年後見人が後見開始の審判を受ければ、同号後段により消滅します。法定代理だから111条1項が及ばない、ということはありません。

    消滅は誰にどこまで及ぶか

    代理権が消滅したとき、その効果は二方向に波及します。下向きには復代理人へ、外向きには取引の相手方へ。それぞれ別の条文が処理しています。

    復代理権も一緒に消滅する

    代理人が復代理人を選任していた場合、元の代理権が消滅すると復代理権はどうなるか。

    106条1項は「復代理人は、その権限内の行為について、本人を代表する。」と定めています。復代理人は代理人の代理人ではなく、本人を直接代理します。

    もっとも、復代理人の権限は代理人の代理権を土台にして与えられたものです。土台が消えれば、その上に乗っていた復代理権も消滅します。代理人が死亡すれば、その代理人が選任した復代理人の権限も失われます。

    逆方向は成り立ちません。復代理人を選任しても、代理人の代理権は消滅しません。代理人と復代理人の代理権が並存します。復代理の詳細は復代理と自己契約・双方代理で扱っています。

    消滅を相手方に対抗できるか

    代理権が消滅したこと自体と、それを取引の相手方に主張できるかは、別の問題です。民法はこれを二つの条文で処理しています。

    655条 委任の終了の対抗要件

    655条は「委任の終了事由は、これを相手方に通知したとき、又は相手方がこれを知っていたときでなければ、これをもってその相手方に対抗することができない。」と定めています。

    ここでいう「相手方」は委任契約の相手方、つまり本人と代理人の間の話です。委任が終了したことを、通知するか相手が知っているかしなければ、終了を主張できません。

    この条文は委任の内部関係を規律するもので、取引の相手方を保護する規定ではありません。取引の相手方の保護は、次の112条が担当します。

    112条1項 代理権消滅後の表見代理

    112条1項は「他人に代理権を与えた者は、代理権の消滅後にその代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、代理権の消滅の事実を知らなかった第三者に対してその責任を負う。ただし、第三者が過失によってその事実を知らなかったときは、この限りでない。」と定めています。

    かつて代理権があり、それが消滅した後に、元代理人がかつての範囲内で行為をした場合の規定です。相手方の主観要件は、本文が「消滅の事実を知らなかった」(善意)を求め、ただし書が過失ある場合を除いているので、善意かつ無過失です。

    主観の対象は「代理権が消滅した事実」である点に注意してください。かつて代理権があったこと自体は事実なので、そこは問題になりません。

    本人の側の帰責性は、かつて代理権を与えたことと、消滅を外部に知らせなかったことにあります。委任契約を解除したのに委任状を回収しなかった、といった状況が典型です。

    112条2項は改正で新設された

    112条2項は「他人に代理権を与えた者は、代理権の消滅後に、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間で行為をしたとすれば前項の規定によりその責任を負うべき場合において、その他人が第三者との間でその代理権の範囲外の行為をしたときは、第三者がその行為についてその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り、その行為についての責任を負う」と定めています。

    代理権が消滅し、しかもかつての範囲すら超えて行為された、という二段構えの場面です。

    ここは改正で条文が変わっています。改正前の112条は「代理権の消滅は、善意の第三者に対抗することができない。ただし、第三者が過失によってその事実を知らなかったときは、この限りでない」という一項だけの条文でした。2項はなく、条文の表題も「代理権消滅後の表見代理」で、現行の「代理権消滅後の表見代理」ではありませんでした。

    範囲外の行為が絡む場面は、かつて110条との重畳適用として説明されていましたが、現在は112条2項として条文に書き込まれています。「判例上の処理」と説明する教材は現行法に追いついていません。

    主観要件も本文が変わります。範囲内なら「善意かつ無過失」(1項)、範囲外に出れば「正当な理由」(2項)。表見代理の三類型と主観要件の整理は代理制度で扱っています。

    消滅事由と表見代理はつながっている

    代理権の消滅事由を学ぶ意味は、112条につながる点にあります。

    代理権が消滅していれば、その後の行為は無権代理です。しかし相手方から見れば、代理権が消滅したかどうかは外からは分かりません。だから112条が置かれています。

    消滅したかどうかの判断が111条、消滅した後に誰を保護するかの判断が112条。この二段で問題が組み立てられます。無権代理の効果そのものは代理制度にあります。

    代理行為の瑕疵は誰について決めるのか

    ここから後半に入ります。代理では、意思表示をするのが代理人で、効果を受けるのが本人です。では、詐欺にあったか、事情を知っていたかは、どちらについて判断するのか。それを定めるのが101条です。

    101条1項 代理人がした意思表示

    101条1項はこう定めています。

    代理人が相手方に対してした意思表示の効力が意思の不存在、錯誤、詐欺、強迫又はある事情を知っていたこと若しくは知らなかったことにつき過失があったことによって影響を受けるべき場合には、その事実の有無は、代理人について決するものとする。

    原則は代理人基準です。実際に意思表示をしているのは代理人なのだから、その意思表示に瑕疵があったかどうかも代理人について見る、という素直な帰結です。

    したがって、代理人がだまされて契約したのであれば、本人がどれだけ冷静であっても、詐欺による取消しが問題になります。取消権を行使するのは、効果の帰属先である本人です。瑕疵の有無は代理人について判断し、その結果生じる取消権は本人が持つという組み合わせになります。意思表示の瑕疵そのものは意思表示の瑕疵で扱っています。

    101条2項 代理人が受けた意思表示

    2項はこう定めています。

    相手方が代理人に対してした意思表示の効力が意思表示を受けた者がある事情を知っていたこと又は知らなかったことにつき過失があったことによって影響を受けるべき場合には、その事実の有無は、代理人について決するものとする。

    代理人が意思表示を受け取る場面、いわゆる受動代理です。こちらも代理人基準です。

    1項と2項では、列挙されている事由が違います。1項は「意思の不存在、錯誤、詐欺、強迫又はある事情を知っていたこと若しくは知らなかったことにつき過失があったこと」と広く並べているのに対し、2項は「ある事情を知っていたこと又は知らなかったことにつき過失があったこと」だけです。

    理由は場面の違いにあります。受け取る側には、錯誤に陥るとか詐欺を受けるといった問題が生じません。生じるのは、相手方の心裡留保や虚偽表示について悪意だったか有過失だったか、といった認識の問題だけです。条文が場面に応じて書き分けているので、条文の文言を問う出題では効いてきます。

    1項と2項の書き分けは改正で生まれた

    ここは改正で構造が変わった箇所です。

    改正前の101条1項は「意思表示の効力が意思の不存在、詐欺、強迫又は……」と、能動と受動を区別せずに一括して定めていました。現行法は1項を「代理人が相手方に対してした意思表示」に限定し、2項として受動代理の規定を新設しています。

    改正前の1項には「錯誤」が挙がっていませんでした。改正前の錯誤の効果が無効だったため「意思の不存在」の側で処理される整理だったところ、錯誤が取消しに改められたことに伴い、現行1項は錯誤を明記しています。錯誤の改正は意思表示の瑕疵で扱っています。

    101条3項——本人の悪意を持ち込む例外

    1項と2項だけだと抜け道ができます。本人が事情を知っていながら、何も知らない代理人を立てて行為させれば、善意を装えてしまう。それを封じるのが3項です。

    条文の全文

    101条3項はこう定めています。

    特定の法律行為をすることを委託された代理人がその行為をしたときは、本人は、自ら知っていた事情について代理人が知らなかったことを主張することができない。本人が過失によって知らなかった事情についても、同様とする。」

    「指図」は要件ではない

    ここが最も注意すべき点です。改正前の規定には「本人の指図に従って」という要件がありましたが、現行法では削除されています。

    改正前の101条2項はこうでした。「特定の法律行為をすることを委託された場合において、代理人が本人の指図に従ってその行為をしたときは、本人は、自ら知っていた事情について代理人が知らなかったことを主張することができない。本人が過失によって知らなかった事情についても、同様とする。」

    現行3項と比べてください。「代理人が本人の指図に従ってその行為をしたとき」が「特定の法律行為をすることを委託された代理人がその行為をしたとき」に置き換わっています。

    したがって、本人が具体的に指図したかどうかは、現行法では要件ではありません。特定の法律行為を委託していれば足ります。「本人が指図していなければ3項は適用されない」という説明は、改正前の条文に基づくもので、現行法では誤りです。古い教材が残っている領域なので、条文で確認してください。

    残っている限定は「特定の法律行為の委託」

    指図要件がなくなっても、限定がすべて消えたわけではありません。「特定の法律行為をすることを委託された代理人」であることは、現行法でも要件です。

    包括的な代理権を与えただけでは足りません。この限定がないと、本人の主観が常に問題になり、1項・2項の原則が骨抜きになるからです。

    「主張することができない」の意味

    効果の書きぶりも正確に読んでください。3項は「本人は、……代理人が知らなかったことを主張することができない」としています。

    代理人の主観を本人の主観に置き換える規定ではありません。代理人が善意であったことを本人が援用できなくなる、という一方向の効果です。だから、本人が悪意なら代理人の善意を持ち出せないが、本人が善意でも代理人が悪意なら1項で悪意と扱われる、という関係になります。本人にとって有利な方向にだけ働く規定ではないと理解してください。

    過失によって知らなかった場合も含む

    3項の後段は「本人が過失によって知らなかった事情についても、同様とする」としています。

    本人が現に知っていた場合だけでなく、知らなかったが知らないことに過失があった場合も同じ扱いです。知らないふりを決め込めば逃げられる、という抜け道を封じています。

    制限行為能力者を代理人にした場合(102条)

    代理権の話から少し離れますが、代理人の側の属性に関する重要な規定です。

    条文の全文

    102条はこう定めています。

    制限行為能力者が代理人としてした行為は、行為能力の制限によっては取り消すことができない。ただし、制限行為能力者が他の制限行為能力者の法定代理人としてした行為については、この限りでない。

    本文 原則は取り消せない

    未成年者や被保佐人を代理人に選ぶことができ、その者がした代理行為を、行為能力の制限を理由として取り消すことはできません。

    理由は、代理行為の効果が代理人に帰属しないからです。制限行為能力者の保護は、その者自身が不利益を被らないようにする制度です。代理人として行為した場合、不利益を受けるのは効果帰属先である本人であって、代理人ではありません。保護の必要がないので、取消権も認められません。

    本人の側から見ても、制限行為能力者と知りながら代理人に選んだのは本人自身です。その結果を引き受けるべきだ、ということになります。

    なお、「行為能力の制限によっては」という限定に注意してください。取り消せないのは行為能力の制限を理由とする取消しだけです。その代理行為に詐欺や錯誤があれば、96条1項や95条1項による取消しは別途可能です。取消しの枠組みは無効と取消しの違いで扱っています。

    ただし書 法定代理の場合は取り消せる

    ただし書は「制限行為能力者が他の制限行為能力者の法定代理人としてした行為については、この限りでない」としています。

    たとえば、成年被後見人である親が未成年の子の法定代理人として行為した場合です。この場合、本人(子)は代理人を選んでいません。法律が代理人を決めているのですから、選任の責任を本人に負わせることはできません。そこで例外的に、行為能力の制限を理由とする取消しが認められます。

    任意代理では本人が代理人を選ぶので原則どおり取り消せない、法定代理では本人が選べないので例外的に取り消せる。この対応で覚えてください。

    ただし書は改正で新設された

    102条も改正で書き換わっています。改正前の102条は「代理人は、行為能力者であることを要しない。」という一文だけでした。

    現行法は、結論を「取り消すことができない」という形で明示したうえで、ただし書を新設しています。改正前の条文にはただし書に相当する規定がありませんでした。

    「代理人は行為能力者であることを要しない」という一文だけを覚えていると、ただし書の場面を落とします。条文が二文構成になったこと自体が改正点です。

    試験での出題ポイント

    代理人の後見開始を任意代理だけの事由にする

    この記事が最も警戒する型です。「代理人が後見開始の審判を受けた場合、任意代理権は消滅するが法定代理権は消滅しない」という肢は誤りです。111条1項2号は代理権一般について定めており、法定代理を除外していません。

    「法定代理は本人保護の制度だから簡単には消滅しない」といった理由づけが添えられていても、結論は変わりません。条文の主語が「代理権は」であることを確認してください。

    本人の破産の扱いを逆にする

    「本人が破産手続開始の決定を受けた場合、法定代理権も消滅する」という肢は誤りです。本人の破産は111条1項に挙がっておらず、任意代理の場合にのみ111条2項と653条2号を経由して消滅します。

    逆に「本人が破産しても任意代理権は消滅しない」という肢も誤りです。二段で辿れば消滅します。

    本人の後見開始を消滅事由にする

    「本人が後見開始の審判を受けた場合、代理権は消滅する」という肢は誤りです。111条1項2号の後見開始は代理人についてのもの、653条3号の後見開始は受任者についてのものです。本人・委任者の後見開始は、どこにも挙がっていません。

    代理人の死亡で相続人が代理権を承継するとする

    「代理人が死亡した場合、その相続人が代理権を承継する」という肢は誤りです。111条1項2号前段により代理権は消滅します。代理権は一身専属的なもので、相続の対象になりません。

    101条3項に「指図」を要求する

    「本人が指図していなければ、本人の悪意は考慮されない」という形です。改正前の条文には「代理人が本人の指図に従ってその行為をしたとき」という要件がありましたが、現行3項では削除されています。現行法の要件は「特定の法律行為をすることを委託された代理人がその行為をしたとき」です。

    逆に、「特定の法律行為をすることを委託された」という限定を落として、本人の主観が常に考慮されるとする肢も出ます。この限定は残っています。

    代理行為の瑕疵を常に本人基準にする

    「代理行為の瑕疵は本人について判断する」という肢は誤りです。101条1項・2項の原則は代理人基準で、3項は本人が代理人の善意を援用できないという限定的な効果を定めるにとどまります。

    102条ただし書を落とす

    「制限行為能力者が代理人としてした行為は、常に行為能力の制限を理由に取り消すことができない」という肢は誤りです。ただし書により、他の制限行為能力者の法定代理人としてした行為は取り消せます。改正前の「代理人は、行為能力者であることを要しない」という一文だけを覚えていると落とします。

    112条を改正前の形で出す

    「代理権消滅後に、かつての代理権の範囲を超える行為がされた場合の処理は、判例による110条との重畳適用による」という説明は、現行法では不正確です。112条2項として条文化されています。主観要件も、範囲内なら善意かつ無過失、範囲外なら「正当な理由」と切り替わります。

    655条と112条を混ぜる

    655条は委任の当事者間での対抗要件、112条は取引の相手方の保護です。「委任の終了を通知していなければ、取引の相手方に対しても代理権の消滅を主張できない」とする肢は、二つの条文の守備範囲を混ぜたものです。権利関係の頻出論点は権利関係の頻出論点にまとめています。

    覚え方・整理の仕方

    「共通4+任意1」で持つ

    この分野は、消滅事由を一覧で覚えようとすると混ざります。足し算の形で持ってください。

    共通の4つが、本人の死亡・代理人の死亡・代理人の破産・代理人の後見開始。ここに任意代理だけ1つ、本人の破産が上乗せされる。以上。

    法定代理に固有の終わり方(成年到達、親権喪失、後見開始審判の取消し、辞任、解任)は、共通の4つに「加えて」あるものです。共通の4つを削る方向には働きません。

    「本人は死亡だけ、代理人は三つ」

    四つの内訳を人ごとに分けると、さらに短くなります。

    111条1項で本人について挙がっているのは死亡だけ。代理人については死亡・破産・後見開始の三つ。

    そのうえで、本人の破産だけが任意代理で追加されると足します。本人の後見開始はどこにも出てこない、で締めます。この三段で言い切れれば十分です。

    分かれ目は「委任に乗っているか」

    なぜ本人の破産だけが分かれるのかを、一文で持っておきます。「任意代理は委任契約に乗っているから、委任が終われば代理権も終わる。法定代理は法律に乗っているから、委任の終了という事由が働かない。」

    理由から入れば、「法定代理だから消滅しにくいのだろう」という誤った一般化を避けられます。条文が区別しているのは本人の破産の一点だけという結論も、この理由から再現できます。

    101条は「原則・受動・例外」の三項で並べる

    101条は項ごとの役割で覚えます。1項が能動代理の原則、2項が受動代理、3項が本人の悪意を持ち込む例外。

    そして1項と2項はどちらも代理人基準であり、原則は一つだと理解しておけば、3項だけが例外だと分かります。3項の要件は「特定の法律行為の委託」であり、「指図」ではない、を最後に足してください。

    102条は「選んだかどうか」

    102条の本文とただし書は、本人が代理人を選んだかどうかで分かれます。

    選んだのなら結果を引き受けろ(本文、取り消せない)。選んでいないのなら引き受けさせられない(ただし書、取り消せる)。任意代理と法定代理の対応がそのまま結論になります。

    改正点は四つ

    この分野で改正されたのは四つで、111条と653条は動いていません。

    101条が三項構成になり(1項に錯誤を明記、2項を新設)、3項から「指図」要件が削除された。102条が「行為能力者であることを要しない」から現行の書きぶりに変わり、ただし書が新設された。112条に2項が新設され、表題が「代理権消滅後の表見代理等」になった。

    消滅事由の条文(111条・653条)は改正されていないことも、あわせて覚えておくと安心できます。苦手分野の潰し方は権利関係の苦手克服で扱っています。

    理解度チェッククイズ

    問1 代理人が後見開始の審判を受けた場合、任意代理権は消滅するが、法定代理権は消滅しない。

    答え:×。111条1項は「代理権は、次に掲げる事由によって消滅する」と定めており、任意代理と法定代理を区別していません。同項2号の「代理人の死亡又は代理人が破産手続開始の決定若しくは後見開始の審判を受けたこと」は、代理権一般について適用されます。したがって法定代理権も消滅します。同じ111条でも、2項だけが「委任による代理権は」と限定しており、1項に限定がないことは条文の書き分けから読み取れます。判断能力を欠く常況にある者に法定代理を続けさせるほうが本人保護に反する、という点からも結論は支持されます。任意代理と法定代理で分かれるのは本人の破産の一点だけであり、代理人の後見開始ではありません。

    問2 本人が破産手続開始の決定を受けた場合、任意代理権も法定代理権も消滅する。

    答え:×。本人の破産は111条1項に挙がっていません。任意代理については、111条2項が「委任による代理権は、前項各号に掲げる事由のほか、委任の終了によって消滅する」と定め、653条2号が「委任者又は受任者が破産手続開始の決定を受けたこと」を委任の終了事由としているため、この二段を経由して消滅します。これに対し法定代理権は委任に基づくものではないので、111条2項の適用がなく、消滅しません。親権者の代理権は824条、後見人の代理権は859条1項が根拠で、本人との契約に由来しないためです。「本人の破産で分かれる」というのが、この分野で唯一の分岐点です。

    問3 本人が後見開始の審判を受けた場合、任意代理権は消滅する。

    答え:×。本人の後見開始は、111条1項にも653条にも挙がっていません。111条1項2号の後見開始は「代理人が……後見開始の審判を受けたこと」、653条3号は「受任者が後見開始の審判を受けたこと」であり、いずれも代理人側についてのものです。653条2号が「委任者又は受任者」と両方を挙げているのに対し、3号は「受任者」だけを挙げている、という同一条文内の書き分けを確認してください。実質的にも、後見開始の審判を受けた本人は9条本文により単独では有効に法律行為ができなくなるため、むしろ代理人に動いてもらう必要があります。代理権を消滅させれば、本人は自分でも動けず代理人にも動いてもらえない状態に置かれてしまいます。

    問4 特定の法律行為を委託された代理人がその行為をした場合において、本人が知っていた事情については、本人が代理人の指図をしていなかったときであっても、本人は代理人が知らなかったことを主張することができない。

    答え:○。101条3項は「特定の法律行為をすることを委託された代理人がその行為をしたときは、本人は、自ら知っていた事情について代理人が知らなかったことを主張することができない。本人が過失によって知らなかった事情についても、同様とする」と定めています。「指図」は要件になっていません。改正前の101条2項には「代理人が本人の指図に従ってその行為をしたとき」という要件がありましたが、現行法では削除されています。古い教材のまま「指図がなければ適用されない」と覚えていると誤ります。もっとも、「特定の法律行為をすることを委託された」という限定は現行法でも残っており、包括的な代理権を与えただけでは足りません。また効果は「主張することができない」であって、代理人の主観を本人の主観に置き換えるものではない点も押さえてください。

    問5 未成年者が代理人としてした行為は、行為能力の制限を理由として取り消すことができないが、成年被後見人である親が未成年の子の法定代理人としてした行為については、行為能力の制限を理由として取り消すことができる。

    答え:○。102条本文は「制限行為能力者が代理人としてした行為は、行為能力の制限によっては取り消すことができない」と定めています。代理行為の効果は代理人に帰属せず、不利益を受けるのは本人なので、代理人を保護する必要がないからです。他方、同条ただし書は「制限行為能力者が他の制限行為能力者の法定代理人としてした行為については、この限りでない」としています。法定代理では本人が代理人を選んでいないため、選任の責任を本人に負わせることができず、例外的に取消しが認められます。このただし書は改正で新設されたもので、改正前の102条は「代理人は、行為能力者であることを要しない。」という一文だけでした。なお本文の「行為能力の制限によっては」という限定にも注意が必要で、その代理行為に詐欺や錯誤があれば96条1項や95条1項による取消しは別途可能です。

    まとめ

    1. 111条1項は代理権一般の規定である。主語が「代理権は」であり、2項だけが「委任による代理権は」と限定していることから、1項に限定がないことが読み取れます。共通の四つ(本人の死亡・代理人の死亡・代理人の破産・代理人の後見開始)は、任意代理でも法定代理でも同じです。

    2. 上乗せは本人の破産だけ。111条1項に本人の破産は挙がっておらず、任意代理の場合にのみ111条2項と653条2号を経由して消滅します。653条の三号のうち、111条1項に含まれていないのは委任者の破産だけで、残りはすべて重なります。分かれる理由は「委任契約に乗っているかどうか」であり、「法定代理だから消滅しにくい」からではありません。

    3. 本人の後見開始は、どこにも挙がっていない。111条1項2号は「代理人が」、653条3号は「受任者が」後見開始の審判を受けたこととしており、本人・委任者は対象外です。任意代理でも法定代理でも消滅事由になりません。

    4. 法定代理には固有の終わり方が加わる。親権については4条の成年到達、834条の親権喪失、834条の2の親権停止、835条の管理権喪失。後見については10条の後見開始審判の取消し、844条の辞任(正当な事由と家庭裁判所の許可が必要)、846条の解任。保佐・補助については876条の4第3項による代理権付与の審判の取消しなど。いずれも共通の四つに「加えて」あるものです。

    5. 代理行為の瑕疵は代理人について決するのが原則(101条1項・2項)。1項が能動代理、2項が受動代理で、2項は列挙が「知っていたこと・過失」だけに絞られています。3項は例外で、特定の法律行為を委託された場合に、本人が自ら知っていた事情について代理人の不知を主張できないという効果です。「指図」は改正で削除され、現行法の要件ではありません。

    6. 制限行為能力者を代理人にできる(102条本文)。行為能力の制限を理由とする取消しはできません。ただし他の制限行為能力者の法定代理人としてした行為は取り消せます(ただし書)。本人が代理人を選んだかどうかが分かれ目で、このただし書は改正で新設されました。

    7. 消滅した後の処理は112条。1項が範囲内の行為で相手方は善意かつ無過失、2項が範囲外の行為で「正当な理由」です。2項は改正で新設され、表題も「代理権消滅後の表見代理等」に変わりました。655条は委任の当事者間の対抗要件であり、取引の相手方の保護規定ではありません。

    よくある質問

    Q. 111条と653条のどちらを先に見ればよいですか。

    A. 必ず111条からです。111条1項で共通の四つを確認し、任意代理であれば2項の入口を通って653条に進む、という順序で辿ってください。653条から入ると、そこに並んでいる三号がすべて任意代理に固有の事由であるかのように見えてしまいます。実際には三号のうち二号半は111条1項と重なっており、上乗せになるのは委任者の破産だけです。条文の参照順序が、そのまま理解の順序になります。

    Q. 代理人が破産すると代理権が消滅するのに、本人の破産が1項に入っていないのはなぜですか。

    A. 立場が違うからです。代理人の破産は、他人の財産を任せる相手として適当かという問題で、これは任意代理でも法定代理でも共通に生じます。だから111条1項に置かれています。これに対し本人の破産は、本人と代理人の間の契約関係を続ける意味があるかという問題です。本人が破産すれば財産の管理処分権は破産管財人に移るので、本人が代理人に権限を与え続けても意味がありません。これは委任契約に固有の問題なので、653条の側に置かれ、111条2項を通じてのみ代理権に及びます。条文の置き場所が、問題の性質を表しています。

    Q. 本人が死亡した場合、相続人のために代理を続けることはできませんか。

    A. 111条1項1号により、その代理権は消滅します。相続人のために代理するには、相続人からあらためて代理権を与えてもらう必要があります。なお、委任が終了した場合の応急措置として654条があり、「急迫の事情があるときは、受任者又はその相続人若しくは法定代理人は、委任者又はその相続人若しくは法定代理人が委任事務を処理することができるに至るまで、必要な処分をしなければならない」と定めています。ただしこれは必要な処分をする義務を定めたものであって、代理権が存続することを定めたものではありません。

    Q. 委任契約を解除すれば、いつでも代理権を消滅させられますか。

    A. できます。651条1項は「委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる」と定めており、理由を問いません。これによって委任が終了し、111条2項により代理権も消滅します。ただし、解除できることと責任を負わないことは別です。651条2項は、相手方に不利な時期に解除したとき、および委任者が受任者の利益をも目的とする委任を解除したときに、損害賠償義務を定めています(やむを得ない事由があったときを除く)。損害賠償義務が生じても、解除自体は有効で、代理権は消滅します。また652条により620条が準用され、解除の効力は将来に向かってのみ生じます。

    Q. 代理権が消滅した後に元代理人が契約をしたら、その契約はどうなりますか。

    A. 原則として無権代理です。代理権がない者がした行為なので、113条1項により本人に効果が帰属しません。ただし相手方の保護として112条があり、相手方が代理権消滅の事実を知らず、知らないことに過失もなければ、本人が責任を負います(1項)。かつての代理権の範囲を超える行為であれば、代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限られます(2項)。消滅したかどうかが111条、消滅した後に誰を保護するかが112条という役割分担です。無権代理と表見代理の全体像は代理制度で扱っています。

    Q. 代理人が詐欺にあった場合、取消権は誰が持つのですか。

    A. 瑕疵の有無は代理人について判断し(101条1項)、取消権は本人が持ちます。代理行為の効果は本人に帰属するので、その効果を否定する取消権も本人に生じるからです。なお120条2項は、錯誤・詐欺・強迫による取消権者を「瑕疵ある意思表示をした者又はその代理人若しくは承継人」としており、代理人も取消権者に含まれます。判断の基準となる人と、権利を行使できる人を混同しないでください。取消権者の範囲は無効と取消しの違いで扱っています。


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