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敷金と礼金|返る金と返らない金を条文で分ける

権利関係 読了 約30分

敷金は民法622条の2が名目を問わず定義した担保。礼金は返還を予定しない金銭で敷金にあたりません。返還時期・充当・原状回復・宅建業法の説明義務まで条文根拠で整理します。

目次

    この記事は、賃貸借に際して授受される金銭を「返ってくる金」と「返ってこない金」に切り分け、その境界がどの条文で引かれているのかを確認するものです。賃貸借契約書の条項全体を条文と突き合わせる作業は賃貸借契約の注意点で、民法の賃貸借そのものの構造は民法の賃貸借で扱っているので、ここでは金銭の法的性質という一点に絞ります。

    結論を先に述べます。2020年4月1日施行の債権法改正で新設された民法622条の2第1項は、敷金を「いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭」と定義しました。境界を決めるのは名前ではなく目的です。担保する目的で交付された金銭は、契約書に「保証金」と書かれていても敷金であり、622条の2の規律に服します。逆に礼金は、返還を予定しない金銭であって担保の目的を持たないので、どれだけ敷金と並べて請求されようと敷金ではありません。そして、この「敷金ではない金銭」の側には、返還を義務づける条文が存在しません。

    この違いが、返還の時期、充当の可否、当事者が交代したときの承継、そして宅建業者が説明すべき内容のすべてを分岐させます。以下、条文を順に追います。

    賃貸借で動く金銭を2つに割る

    622条の2が引いた線

    改正前の民法には敷金の定義規定がなく、それが何であるかは判例の積み重ねに委ねられていました。2020年4月1日施行の債権法改正は、この判例法理を条文に取り込み、622条の2として賃貸借の節の末尾に置きました。

    定義が置かれたことは、他の条文の書きぶりにも波及しています。619条2項は、期間満了後に賃借人が使用収益を継続し更新が推定される場合について、従前の賃貸借のために供されていた担保は期間の満了によって消滅すると定めたうえで、ただし書で「第六百二十二条の二第一項に規定する敷金については、この限りでない」としています。更新が推定されても敷金だけは消えずに続く、という結論が、622条の2を引用する形で表現されているわけです。

    条文が定義に選んだ基準は「担保する目的」です。何を担保するのかというと、「賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務」です。賃料だけではありません。原状回復義務を金銭に換算した損害賠償債務も、共益費の不払いも、この定義に含まれます。

    そして「賃借人が賃貸人に交付する金銭」と書かれています。交付されることが要件なので、単に「賃借人は賃貸人に対し担保を提供する」という合意があるだけでは足りません。また金銭に限られるので、有価証券や物を担保として差し入れた場合は、この条の敷金にはあたりません。

    名目は判断材料にならない

    定義の冒頭に置かれた「いかなる名目によるかを問わず」という文言が、この条文で最も実務的な部分です。

    契約書に「保証金」と書かれていても、「預り金」と書かれていても、「建設協力金」と書かれていても、賃借人が賃貸人に交付した金銭であって債務担保の目的を持つものであれば、622条の2が適用されます。名前を変えることで返還義務を免れることはできない、という宣言です。

    逆方向も同じです。契約書に「敷金」と書いてあっても、実質が担保でなければ敷金ではありません。典型が、後述する敷引特約によって当初から返還しないと合意された部分です。名目上は敷金の一部でも、返還を予定しない以上、その部分は担保としては機能していません。

    この「名目を問わない」という発想は宅建業法の側にもあります。施行規則16条の3は、35条1項11号の支払金または預り金を定義するにあたって「代金、交換差金、借賃、権利金、敷金その他いかなる名義をもつて授受されるかを問わず」と書いており、同じ書き方をしています。金銭の規律は名前ではなく実質で決める、というのが法令全体を通じた姿勢です。

    「返ってこない金」の側には共通の条文がない

    一方、礼金、権利金、更新料、仲介手数料、保証委託料といった金銭には、それらを一括して定義した条文がありません。共通するのは「返還を予定していない」という点だけで、法的な性質はばらばらです。

    仲介手数料は宅地建物取引業者に対する媒介契約上の報酬であり、支払先が賃貸人ではありません。保証委託料は家賃債務保証会社との保証委託契約の対価で、これも支払先が違います。礼金と権利金は賃貸人に支払われますが、その対価が何であるかは契約によって異なります。更新料は、更新に際して支払われる合意上の金銭です。

    支払先も対価も違うものを「初期費用」という一語でまとめてしまうと、法的な議論ができなくなります。誰に、何の対価として、返還の予定があるのかどうか。この3つで仕分けるのが出発点です。

    前家賃という項目も条文で読める

    賃貸借契約では、入居時に翌月分の賃料を先に支払うのが通例です。しかし民法614条は「賃料は、動産、建物及び宅地については毎月末に、その他の土地については毎年末に、支払わなければならない」と定めており、後払いが原則です。

    つまり実務の前払いは、614条という任意規定を特約で変えた結果です。前家賃は新しい費目ではなく、賃料の支払時期を動かしただけのものであり、性質としては賃料そのものです。返還を予定しない金銭ではありますが、それは対価を受け取るからであって、礼金とは意味が違います。試験では614条の原則が「後払い」であることと、宅地とその他の土地で単位が違うことが問われます。

    敷金の定義を分解する

    要件は「目的」と「交付」の2つ

    622条の2第1項括弧書きの定義を要件に分解すると、次の2つになります。

    第一に、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で交付されたこと。第二に、賃借人が賃貸人に交付する金銭であること。

    第一の要件でいう「担保する目的」は、契約書の文言だけで決まるものではありません。当事者が何のためにその金銭を授受したのかという実質で判断されます。返還する約束があるかどうかが、実質を判断する最も分かりやすい手がかりになります。

    第二の要件でいう当事者は、賃借人と賃貸人です。第三者が賃貸人に差し入れた金銭は、この定義に文字どおり当てはまりません。もっとも、賃借人のために第三者が用意した資金を賃借人名義で交付した場合は、賃借人が交付したものと評価されるでしょう。

    担保される債務の範囲は賃料に限らない

    条文が「賃料債務その他の」と書いているのは、賃料以外も含めるためです。

    具体的には、賃料の不払い、共益費や管理費の不払い、賃借人の善管注意義務違反や用法遵守義務違反によって生じた損害賠償債務、621条による原状回復義務を履行しないことによる損害賠償債務などが含まれます。賃借人が賃貸人に対して負う金銭債務であって、賃貸借に基づいて生じたものであれば、広く担保の対象になります。

    用法遵守義務の根拠は616条です。同条は使用貸借の594条1項を賃貸借に準用しており、賃借人は契約またはその目的物の性質によって定まった用法に従って使用収益しなければなりません。善管注意義務は400条から導かれます。賃借人は賃借物を返還する債務を負う以上、その引渡しをするまで善良な管理者の注意をもって保存しなければなりません。

    逆に、賃貸借と無関係な債務は担保されません。賃借人が賃貸人から個人的に金を借りていたとしても、その貸金債務は「賃貸借に基づいて生ずる」ものではないため、敷金から充当することはできません。

    使用貸借には適用がない

    622条の2は賃貸借の節に置かれた規定であり、使用貸借には適用されません。使用貸借は無償の契約であり(593条)、そもそも賃料債務が発生しないので、担保すべき中心的な債務がありません。

    もっとも、使用貸借でも借主が損傷を生じさせれば599条3項の原状回復義務を負い、賃貸借と似た問題は起こりえます。無償か有償かでどこまで規律が変わるのかという対比は使用貸借と賃貸借で扱っています。

    いつ返ってくるのか

    返還債務が生じるのは2つの場合だけ

    622条の2第1項は、賃貸人が「その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を返還しなければならない」場合として、2つを掲げています。

    1号が「賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき」。2号が「賃借人が適法に賃借権を譲り渡したとき」です。

    この2つ以外に、賃貸人が敷金を返還しなければならない場面は条文上ありません。契約期間の途中で「もう半年住んだのだから一部返してほしい」と請求することはできませんし、契約が終了しただけでも足りません。

    「終了」と「返還」は別の要件である

    1号を注意深く読んでください。「賃貸借が終了し」で切れておらず、「かつ、賃貸物の返還を受けたとき」と続いています。2つの事実がそろって初めて返還債務が発生する、という書き方です。

    賃貸借の終了は、期間の満了、解約申入れ、解除などによって生じます。賃貸物の返還は、賃借人が実際に明け渡すことによって生じます。契約が3月31日で終わっても、荷物を残して4月20日まで明け渡さなければ、返還債務が発生するのは4月20日です。

    この順序は、最高裁昭和49年9月2日の判決(民集28巻6号1152頁)が示した規律を条文化したものです。同判決は、家屋明渡債務と敷金返還債務とは特別の約定のない限り同時履行の関係に立たず、賃貸人は明渡しを受けた後に敷金残額を返還すれば足りるとしました。

    なぜ同時履行にならないのか。理由は敷金の目的から出てきます。敷金は明渡しまでに生じるすべての債務を担保するためのものです。明渡しが完了するまでは、賃料がいくら未払いになるか、部屋がどう損傷しているかが確定しません。控除すべき額が確定しないうちに返還額を決めることはできない、というのが構造的な理由です。同時履行の抗弁権が働く場面とそうでない場面の整理は同時履行の抗弁権にまとめてあります。

    留置権も使えない

    「敷金を返してくれるまで部屋を明け渡さない」という主張は、同時履行の抗弁だけでなく留置権によっても支えられません。

    民法295条1項は、他人の物の占有者がその物に関して生じた債権を有するときに留置権を認めていますが、ただし書で「その債権が弁済期にないときは、この限りでない」と定めています。622条の2第1項1号により、敷金返還債権はそもそも明渡しによって初めて発生します。明渡し前の時点では、弁済期が来ていないどころか債権自体が存在していません。留置権の要件を満たしようがない、という結論になります。

    明渡しを先にしなければならないという結論は、条文と判例のどちらから見ても動きません。

    賃借人が代わると承継されない

    2号は、賃借人が賃貸人の承諾を得て適法に賃借権を譲渡した場合です。612条1項により賃借権の譲渡には賃貸人の承諾が必要で、承諾のない譲渡は同条2項の解除事由になります。

    適法に譲渡がされたとき、旧賃借人が差し入れていた敷金は新賃借人に引き継がれません。旧賃借人に返還され、新賃借人は改めて敷金を差し入れることになります。

    理由は敷金の人的な性格にあります。敷金は「この賃借人が負う債務」を担保するために交付されたものであって、賃借人が入れ替われば担保すべき対象が別人の債務に変わります。旧賃借人の意思にかかわらず、見知らぬ他人の債務の担保に流用されるのは筋が通りません。

    賃貸人が代わったらどうなるか

    605条の2第4項は明文で承継させている

    賃借人が代わっても承継されないのに対し、賃貸人が代わった場合は正反対の扱いになります。

    民法605条の2第1項は、賃貸借の対抗要件を備えた不動産が譲渡されたときは、賃貸人たる地位が譲受人に移転すると定めています。そして同条4項は、この移転があったときは「第六百八条の規定による費用の償還に係る債務及び第六百二十二条の二第一項の規定による同項に規定する敷金の返還に係る債務は、譲受人又はその承継人が承継する」と明記しています。

    オーナーが変わっても、敷金の返還を請求する相手は新オーナーです。旧オーナーが敷金を新オーナーに引き継がなかったとしても、それは旧オーナーと新オーナーの間の問題であって、賃借人は新オーナーに全額を請求できます。608条の費用償還債務が同じ項に並んでいる点も押さえてください。必要費や有益費を支出していた場合の償還請求先も新オーナーになります。費用償還請求権そのものの構造は造作買取請求権と有益費償還請求権で扱っています。

    対抗要件と登記の関係

    605条の2第1項が働くには、賃貸借について対抗要件が備わっていることが前提です。建物の賃貸借であれば、借地借家法31条により建物の引渡しがあれば対抗力が生じます。賃借権の登記(民法605条)は実務上ほとんど行われないので、実際に機能しているのは引渡しのほうです。

    一方、605条の2第3項は、賃貸人たる地位の移転は所有権の移転の登記をしなければ賃借人に対抗できないと定めています。新オーナーが「自分が賃貸人だから賃料を払え」と言うには、所有権移転登記が必要だということです。承諾は要らないが登記は要る、という組み合わせで覚えてください。借地借家法側の対抗力の規律は借地借家法の全体像にまとめてあります。

    地位を留保する合意がある場合

    605条の2第2項は、譲渡人と譲受人が、賃貸人たる地位を譲渡人に留保する旨およびその不動産を譲受人が譲渡人に賃貸する旨の合意をしたときは、賃貸人たる地位は譲受人に移転しないと定めています。

    この場合、賃借人から見た賃貸人は引き続き譲渡人です。敷金の返還請求先も譲渡人のままになります。もっとも同項後段は、譲渡人と譲受人の間の賃貸借が終了したときは、留保されていた賃貸人たる地位が譲受人に移転すると定めており、その時点で4項により敷金返還債務も譲受人に移ります。

    非対称を1行で持つ

    賃貸人が代わったら敷金関係は付いていき、賃借人が代わったら付いていかない。この非対称が試験で繰り返し問われます。

    理由の差も明確です。賃貸人の交代では、担保すべき債務を負う人(賃借人)が変わっていないので、担保をそのまま維持することに支障がありません。賃借人の交代では、担保すべき債務を負う人そのものが入れ替わるので、維持すると別人の債務を担保することになってしまいます。担保の対象が誰の債務かを基準に考えれば、どちらの向きかを覚えていなくても導けます。

    何が差し引かれるのか

    返還額は引き算で決まる

    622条の2第1項の効果は「受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を返還しなければならない」です。

    返還額は、交付した額から賃借人が負う債務の額を引いた残りです。したがって、いくら返ってくるかという問いは、賃借人がどのような債務を負っているかという問いに置き換わります。ここで最も争いになるのが原状回復義務です。

    621条は通常損耗と経年変化を最初から除いている

    民法621条は「賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない」と定めています。

    構造を丁寧に読んでください。通常損耗と経年変化は、原状回復義務の対象から「除く」と括弧書きで抜かれています。義務があるけれど免除される、という書き方ではなく、そもそも義務の対象に入っていないという書き方です。

    さらにただし書があります。賃借人の責めに帰することができない事由による損傷も、原状回復義務の対象から外れます。地震で壁にひびが入った場合などがこれにあたります。

    つまり賃借人が原状に復さなければならないのは、通常損耗でも経年変化でもなく、かつ賃借人に帰責事由がある損傷に限られます。この三重の絞り込みを経た部分だけが、敷金からの控除の対象になります。

    収去義務は原状回復とは別に定められている

    622条は、使用貸借の597条1項、599条1項および2項、600条を賃貸借に準用しています。このうち599条1項が収去義務、2項が収去権です。

    賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに附属させた物がある場合、賃貸借が終了したときはその附属させた物を収去する義務を負います。ただし、分離することができない物や分離するのに過分の費用を要する物については、この限りではありません。逆に2項により、附属させた物を収去する権利も認められています。

    エアコンや棚を後から取り付けた場合、それを外して持ち帰るのは義務でもあり権利でもある、ということです。義務を果たさなければ、撤去費用が賃借人の債務となり、敷金から控除されます。

    賃貸人からの請求には期間の制限がある

    622条が準用する600条1項は「契約の本旨に反する使用又は収益によつて生じた損害の賠償及び借主が支出した費用の償還は、貸主が返還を受けた時から一年以内に請求しなければならない」と定めています。

    明渡しから1年という期間制限が、賃貸人からの損害賠償請求と賃借人からの費用償還請求の双方にかかっています。同条2項は、この損害賠償請求権については貸主が返還を受けた時から1年を経過するまでの間は時効が完成しないとしており、明渡しの時点で時効期間が残り少なくても1年は確保される仕組みになっています。

    明渡しから何年も経ってから損傷を持ち出す、という主張が通らないことの根拠がここにあります。

    通常損耗を賃借人負担とする特約

    621条は任意規定なので、通常損耗の補修費用を賃借人に負担させる特約を結ぶこと自体は禁じられていません。ただし判例はこれに厳しい枠をはめています。

    最高裁平成17年12月16日判決(民集59巻10号2931頁)は、賃貸人が賃貸借契約書に添付された負担区分表に基づき、通常損耗の補修費用を含む額を敷金から控除して残額のみを返還した事案について判断を示しました。通常損耗の補修費用を賃借人に負担させるには、その旨の特約が明確に合意されていることが必要である、という枠組みです。

    賃借人が消費者であれば、さらに消費者契約法10条による審査が加わります。同条は、法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し、または消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法1条2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものを無効としています。621条が通常損耗を除外している以上、それを賃借人負担に転嫁する特約は「義務を加重する」条項にあたり、10条の審査対象になります。

    国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」は、通常損耗と賃借人負担の区分について指針を示していますが、これは法令ではなく、当事者を直接拘束するものではありません。裁判所が判断の参考にすることはあっても、ガイドラインに書いてあるから当然にそうなる、という関係にはありません。実際の紛争でどう争われてきたかは不動産取引のトラブル事例でまとめて扱っています。

    充当は一方通行である

    622条の2第2項の後段が本体

    同条2項は前段と後段に分かれています。前段は「賃貸人は、賃借人が賃貸借に基づいて生じた金銭の給付を目的とする債務を履行しないときは、敷金をその債務の弁済に充てることができる」。後段は「この場合において、賃借人は、賃貸人に対し、敷金をその債務の弁済に充てることを請求することができない」です。

    前段だけを読むと当たり前の規定に見えますが、後段が置かれていることに意味があります。賃料を滞納した賃借人が「敷金を預けてあるのだから、そこから引いておいてください」と言うことは認められません。充当するかどうかを決めるのは賃貸人だけです。

    相殺との違い

    賃借人の側から充当を請求できないのは、これが相殺ではないからです。

    民法505条1項の相殺は、二人が互いに同種の目的を有する債務を負担し、双方の債務が弁済期にあるときに認められます。賃料の支払時期が来ていても、敷金返還債務のほうは、前述のとおり明渡しまで発生していません。片方の債権が存在しない以上、賃借人からの相殺は成り立ちません。

    賃貸人からの充当が認められるのは、敷金が担保だからです。担保をいつ実行するかは担保権者が決める、という一般的な発想が、そのまま2項前段に表れています。担保である以上、賃貸人が充当せずに滞納賃料を別途請求することも自由です。

    充当されると敷金は減る

    賃貸借の継続中に賃貸人が敷金を滞納賃料に充当した場合、敷金はその分だけ減少します。契約書に「賃借人は充当された額を補填しなければならない」という条項があれば、賃借人は補填義務を負いますが、それは契約による義務であって、条文から当然に導かれるものではありません。

    補填条項がない場合、敷金は減ったまま賃貸借が続き、明渡し時に返還されるのは残っている額から更に控除した残額になります。

    礼金は何なのか

    定義した条文がない

    ここまで見てきた敷金には、定義、返還時期、充当の可否を定めた条文がありました。礼金にはそれがありません。民法にも借地借家法にも、礼金を定義した規定は置かれていません。

    したがって、礼金について確実に言えることは、622条の2の定義に当てはまらないという一点です。返還を予定しない以上、債務を担保する目的で交付された金銭ではありません。敷金でない以上、622条の2第1項の返還義務も発生しません。賃貸借が終了しても、明け渡しても、礼金は戻ってきません。

    礼金が法的に何の対価なのかについては、賃借権を設定してもらうことへの対価と説明されることもあれば、賃料の一部を前払いしたものと説明されることもあります。ただし、これを一般的に判示した最高裁判例は見当たりません。契約ごとに当事者が何の趣旨で授受したかによる、というのが正確な整理です。

    権利金という言葉との関係

    宅建業法の報酬告示は、権利金について「名義のいかんを問わず権利設定の対価として支払われる金銭であつて返還されないもの」という考え方をとっています。返還されないことが権利金の要件になっており、返還される敷金は権利金に含まれません。

    そして報酬告示第六は、宅地または建物(居住の用に供する建物を除く)の賃貸借で権利金の授受があるものの代理または媒介について、権利金の額を売買に係る代金の額とみなして売買の計算式を使うことができるとしています。居住用建物は除かれる点が重要です。

    つまり、返還されるかどうかという敷金と礼金の区別が、宅建業者が受け取れる報酬の上限計算にまで影響するということです。計算の具体的な手順と、単位を揃えて比較しなければならないという注意点は報酬額の制限で詳しく扱っています。仲介手数料そのものの上限は不動産の仲介手数料にまとめてあります。

    敷引特約——敷金の顔をした返らない金

    関西を中心に、賃貸借の終了時に敷金または保証金から一定額を控除して返還しない旨の合意が用いられてきました。これが敷引特約です。

    名目上は敷金の一部ですが、当初から返還しないと決まっている部分は、実質的には礼金に近い性格を持ちます。担保として機能していないからです。

    最高裁平成23年3月24日判決(民集65巻2号903頁)は、消費者契約である居住用建物の賃貸借契約に付された敷引特約について、敷引金の額が高額に過ぎると評価すべきものである場合を除き、消費者契約法10条により無効ということはできないと判示しました。特約が一律に無効になるわけでも、一律に有効になるわけでもなく、額の相当性で判断されるという枠組みです。

    更新料も同じ枠組みで判断される

    更新の際に支払われる更新料についても、消費者契約法10条による審査が問題になってきました。最高裁平成23年7月15日判決は、賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載された更新料条項は、更新料の額が賃料の額、賃貸借契約が更新される期間等に照らし高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り、消費者契約法10条により無効ということはできないと判示しています。

    条項が一義的かつ具体的に記載されていること、額が高額に過ぎないこと。この2つの枠が置かれている点が、敷引特約の判例と共通しています。返還されない金銭を賃借人に負担させる特約は、消費者契約であれば額の相当性という関門を通る、と束ねて覚えてください。

    「礼金ゼロ」の法的な意味

    礼金を定めない契約は、単に賃貸人に対する返還不要の金銭を支払わないというだけのことです。法律上、礼金の支払は義務ではないので、合意しなければ発生しません。

    注意すべきなのは、礼金がないことが賃借人にとって当然に有利だとは限らない点です。礼金がない代わりに賃料が高い、あるいは短期解約違約金が設定されている、という設計も契約自由の範囲でありえます。契約全体を通した金銭の総額と、途中解約時の負担で比較するほかありません。定期建物賃貸借の場合は中途解約の可否そのものが借地借家法38条の規律に服するので、定期借家契約もあわせて確認してください。

    宅建業者が仲介するときの規律

    35条1項7号——額と目的を説明する

    宅地建物取引業者が賃貸借の媒介や代理をする場合、契約が成立するまでの間に重要事項の説明をしなければなりません(35条1項)。

    その7号が「代金、交換差金及び借賃以外に授受される金銭の額及び当該金銭の授受の目的」です。敷金も礼金も、借賃以外に授受される金銭なので、ここに含まれます。説明すべきなのは、額と、その金銭が何のために授受されるのかという目的の2つです。

    目的を説明させるという建て付けは、この記事の主題と直結しています。同じ10万円でも、担保として預かるのか、返還しない対価として受け取るのかで、賃借人にとっての意味がまったく違うからです。「保証金10万円」とだけ告げて目的を説明しなければ、7号を満たしません。

    37条2項3号——時期が加わる

    契約が成立したあとに交付する書面については、貸借の場合の記載事項を37条2項が定めています。その3号が「借賃以外の金銭の授受に関する定めがあるときは、その額並びに当該金銭の授受の時期及び目的」です。

    35条1項7号との違いは2つあります。ひとつは「時期」が加わっていること。もうひとつは「定めがあるときは」という条件が付いていることです。35条は契約前の説明なので、授受される金銭があれば必ず説明します。37条は契約内容の書面化なので、定めがある場合に限って記載します。

    額と目的だけが35条、額と時期と目的が37条。この対比は繰り返し出題されます。35条と37条の記載事項を横断的に並べた整理は35条と37条の横断整理にあり、それぞれの条文の全体像は35条書面の完全整理37条書面の記載事項で扱っています。貸借に固有の説明事項は賃貸の重要事項説明にまとめてあります。

    支払金・預り金の保全措置

    35条1項11号は、支払金または預り金を受領しようとする場合において、保全措置を講ずるかどうか、および講ずる場合の措置の概要を説明することを求めています。

    何が支払金・預り金にあたるかを定めているのが施行規則16条の3です。同条は「代金、交換差金、借賃、権利金、敷金その他いかなる名義をもつて授受されるかを問わず、宅地建物取引業者の相手方等から宅地建物取引業者がその取引の対象となる宅地又は建物に関し受領する金銭」としたうえで、4つを除外しています。受領する額が50万円未満のもの、41条または41条の2により保全措置が講ぜられている手付金等、売主または交換の当事者である宅地建物取引業者が登記以後に受領するもの、そして報酬です。

    条文に敷金と権利金が名指しで挙がっている点に注意してください。業者が賃貸人に代わって敷金を預かる場合、その額が50万円以上であれば支払金・預り金にあたり、保全措置の有無を説明しなければなりません。逆に50万円未満であれば1号の除外にかかり、説明義務の対象から外れます。

    保全措置の内容は施行規則16条の4が定めており、銀行等との一般保証委託契約、保険事業者との保証保険契約、指定保管機関との一般寄託契約と質権設定契約の組み合わせという3類型です。なお、宅地建物取引業保証協会が行う一般保証業務(64条の3第2項1号)は、社員である業者が受領した支払金または預り金の返還債務を連帯して保証するものです。保証協会の業務全体は保証協会の仕組みで扱っています。

    報酬は別枠である

    施行規則16条の3が報酬を除外していることからも分かるとおり、仲介手数料は敷金・礼金とは別の系統の金銭です。支払先が賃貸人ではなく宅地建物取引業者であり、根拠も賃貸借契約ではなく媒介契約にあります。

    宅建業法46条は、宅地建物取引業者が受けることのできる報酬の額を国土交通大臣の定めるところによるとし、同条2項は、その額を超えて報酬を受けてはならないと定めています。敷金や礼金の授受があっても報酬の上限が上がるわけではなく、上がりうるのは前述の権利金の特例が適用される場合だけです。

    試験での出題ポイント

    名目で判断させようとする

    「契約書に保証金と記載されている金銭は敷金にあたらない」という趣旨の選択肢が作られます。622条の2第1項が「いかなる名目によるかを問わず」と明記している以上、誤りです。判断基準は目的であって名前ではありません。

    逆に「敷金と記載されていれば、返還を予定しない部分も含めてすべて敷金として返還しなければならない」という書き方も誤りです。敷引特約の判例は、額が高額に過ぎない限り有効としています。

    返還時期の要件を1つに減らす

    「賃貸借が終了したときは、賃貸人は直ちに敷金を返還しなければならない」は誤りです。1号は「賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき」と2つの要件を並べています。

    「明渡しと敷金返還は同時履行の関係に立つ」も誤りです。最高裁昭和49年9月2日判決が明渡しの先履行であることを示しており、622条の2第1項1号がこれを条文化しています。「敷金が返還されるまで明渡しを拒むことができる」という言い換えも同じ理由で誤りです。

    充当の主語を入れ替える

    「賃借人は、賃貸人に対し、敷金を未払賃料の弁済に充てることを請求できる」は、622条の2第2項後段が正面から否定しています。主語が賃借人になっていたら、その時点で誤りだと判断できます。

    「賃貸人は、賃貸借の継続中に敷金を未払賃料に充当することはできない」も誤りです。2項前段は充当できるとしており、時期を終了後に限定していません。

    当事者の交代で向きを逆にする

    「賃貸人たる地位が移転しても、敷金の返還債務は旧賃貸人に残る」は誤りです。605条の2第4項が譲受人の承継を明記しています。

    「賃借人が適法に賃借権を譲り渡した場合、敷金は新賃借人に承継される」も誤りです。622条の2第1項2号は、この場合に旧賃借人へ返還すべきものとしています。2つを並べて、片方だけを逆にした選択肢が作られます。

    原状回復の範囲を広げる

    「賃借人は、賃貸借の終了時に、通常の使用によって生じた損耗についても原状に復する義務を負う」は誤りです。621条は括弧書きで通常損耗と経年変化を対象から除いています。

    「通常損耗を賃借人の負担とする特約は無効である」という言い切りも誤りです。621条は任意規定であり、明確な合意があれば特約は成り立ちえます。消費者契約であれば消費者契約法10条の審査を受けますが、それは一律無効という意味ではありません。「常に」「必ず」「一切」という言葉が出てきたら、条文と判例のどちらの水準の話なのかを確認してください。

    35条と37条をすり替える

    「借賃以外に授受される金銭については、その額、授受の時期および目的を重要事項として説明しなければならない」は誤りです。35条1項7号に時期は入っていません。時期が入るのは37条2項3号のほうです。

    「支払金または預り金を受領しようとする場合、額にかかわらず保全措置の概要を説明しなければならない」も誤りです。施行規則16条の3第1号が50万円未満のものを除外しています。

    改正前の理解を混ぜる

    債権法改正で敷金が明文化されたのは2020年4月1日施行分です。それ以前の教材には、敷金の定義規定が存在しないことを前提とした記述や、原状回復の範囲を判例だけで説明する記述が残っています。条文がある論点について「判例によれば」としか書いていない記述に出会ったら、改正の反映漏れを疑ってください。改正全体の見取り図は民法改正のポイントにまとめてあります。

    覚え方・整理の仕方

    「返るか返らないか」を最初に決める

    賃貸借で動く金銭を見たら、まず返還の予定があるかどうかだけを判定してください。返還の予定があれば敷金の系統で、622条の2の規律に乗ります。返還の予定がなければ、条文による返還義務はなく、争点は特約の有効性に移ります。

    この二分法だけで、返還時期、充当、承継の論点はすべて敷金側の話であり、消費者契約法10条の論点はすべて非敷金側の話だと切り分けられます。

    敷金は「終わって、返して、それから返す」

    622条の2第1項1号の要件を、動作の順序で覚えます。賃貸借が終わって、賃借人が物件を返して、それから賃貸人が敷金を返す。3つ目が最後に来ることが、同時履行の否定と留置権の否定の両方を生みます。

    承継は「担保する相手が変わったか」で判定する

    賃貸人が代わっても賃借人は同じなので、担保すべき債務の主体は変わりません。だから敷金関係は付いていきます。賃借人が代わると担保すべき債務の主体そのものが入れ替わるので、付いていきません。

    どちらが承継されるかを丸暗記するのではなく、「担保しているのは賃借人の債務である」という一点から毎回導いてください。605条の2第4項と622条の2第1項2号は、この発想の裏表です。

    充当は「担保権者が決める」

    担保をいつ実行するかは担保を持っている側が決める、という一般則に引きつければ、622条の2第2項の一方通行は自然に出てきます。賃借人から充当を請求できないのは、賃借人が担保権者ではないからです。

    原状回復は「3回ふるいにかける」

    621条の対象になるのは、第一に賃借物を受け取った後に生じた損傷であり、第二に通常損耗と経年変化を除いたものであり、第三に賃借人に帰責事由があるものです。この3つのふるいを順に通した残りだけが原状回復義務の対象であり、敷金からの控除対象になります。

    「入居後に生じたか」「通常の使用の範囲か」「賃借人のせいか」という3問を順に立てる手順にしておけば、具体例の判断で迷いません。

    35条は「額と目的」、37条は「額と時期と目的」

    金銭に関する説明義務の差は、時期が入るかどうかだけです。契約前の説明は判断材料を与えるためのものなので額と目的、契約後の書面は合意内容を記録するためのものなので時期まで、と趣旨から覚えると入れ替えに強くなります。

    数字は3つだけ

    この分野で覚えるべき数字は多くありません。明渡しから1年(600条1項の期間制限)、支払金・預り金の除外ラインである50万円(施行規則16条の3第1号)、そして賃料の支払時期の原則である毎月末(614条)。これ以外の数字は契約次第で動くものであり、条文上の数字ではありません。

    理解度チェッククイズ

    Q1. 賃貸借契約書に「保証金」と記載されている金銭は、民法622条の2にいう敷金にはあたらない。(○か×か)

    答えを見る×:622条の2第1項の括弧書きは、敷金を「いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭」と定義しています。名目は判断基準ではありません。保証金、預り金、建設協力金といった呼び方であっても、債務を担保する目的で賃借人が賃貸人に交付した金銭であれば敷金として同条の規律に服します。宅建業法側でも、施行規則16条の3が支払金・預り金を「いかなる名義をもつて授受されるかを問わず」と定義しており、同じ発想がとられています。

    Q2. 建物の賃貸借が期間の満了により終了した場合、賃借人は、敷金の返還を受けるまで建物の明渡しを拒むことができる。(○か×か)

    答えを見る×:622条の2第1項1号は、敷金の返還債務が生じる場合を「賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき」としています。終了だけでは足りず、明渡しが完了して初めて返還債務が発生するので、明渡しが先履行です。最高裁昭和49年9月2日判決(民集28巻6号1152頁)も、家屋明渡債務と敷金返還債務は特別の約定のない限り同時履行の関係に立たないとしています。留置権(295条)によることもできません。明渡し前の時点では敷金返還債権がまだ発生しておらず、同条1項ただし書のいう弁済期の到来を論じる以前の問題だからです。

    Q3. 賃借人は、賃料を滞納している場合、賃貸人に対し、敷金をその滞納賃料の弁済に充てるよう請求することができる。(○か×か)

    答えを見る×:622条の2第2項は前段で、賃貸人は賃借人が賃貸借に基づいて生じた金銭債務を履行しないときは敷金をその債務の弁済に充てることができるとしたうえで、後段で「この場合において、賃借人は、賃貸人に対し、敷金をその債務の弁済に充てることを請求することができない」と明記しています。充当は賃貸人の側からのみ可能な一方通行です。相殺(505条)によることもできません。敷金返還債権は明渡しまで発生しないため、双方の債務が弁済期にあるという相殺の要件を満たさないからです。

    Q4. 賃貸人が賃貸建物を第三者に譲渡し、賃貸人たる地位が譲受人に移転した場合、敷金の返還債務は譲渡人に残り、譲受人には承継されない。(○か×か)

    答えを見る×:605条の2第4項は、同条1項または2項後段により賃貸人たる地位が譲受人またはその承継人に移転したときは、608条による費用の償還に係る債務および622条の2第1項による敷金の返還に係る債務は譲受人またはその承継人が承継すると明記しています。オーナーが変わっても、賃借人は新オーナーに敷金全額の返還を請求できます。これに対し、賃借人が適法に賃借権を譲り渡した場合は、622条の2第1項2号により旧賃借人に敷金が返還され、新賃借人には承継されません。賃貸人の交代では承継され、賃借人の交代では承継されないという非対称を対で覚えてください。

    Q5. 宅地建物取引業者が建物の貸借を媒介する場合、借賃以外に授受される金銭については、その額、授受の時期および目的を重要事項として説明しなければならない。(○か×か)

    答えを見る×:35条1項7号が説明を求めているのは「代金、交換差金及び借賃以外に授受される金銭の額及び当該金銭の授受の目的」であり、授受の時期は含まれていません。時期まで求められるのは37条2項3号のほうで、こちらは「借賃以外の金銭の授受に関する定めがあるときは、その額並びに当該金銭の授受の時期及び目的」と書かれています。契約前の説明は額と目的、契約後の書面は額と時期と目的、という対比で押さえてください。なお、業者が敷金を預かる場合は35条1項11号の支払金・預り金の問題も生じますが、施行規則16条の3第1号により受領額が50万円未満のものは除外されます。

    まとめ

    賃貸借で授受される金銭は、返還を予定するものと予定しないものに割れます。この線を引いているのが民法622条の2第1項で、担保する目的で賃借人が賃貸人に交付した金銭を、名目のいかんを問わず敷金として扱います。

    敷金の返還債務が生じるのは2つの場合だけです。賃貸借が終了し、かつ賃貸物の返還を受けたとき(1号)と、賃借人が適法に賃借権を譲り渡したとき(2号)。1号が2つの要件を並べていることから、明渡しが先で返還が後という順序が導かれ、同時履行も留置権も成り立ちません。返還額は、交付額から賃借人が負う債務の額を控除した残額であり、その債務の中身を決めるのが621条の原状回復義務です。621条は通常損耗と経年変化を対象から除き、さらに賃借人に帰責事由のない損傷も除いています。

    充当は賃貸人からのみ可能で、賃借人が請求することはできません(同条2項後段)。当事者が交代した場合の扱いは非対称で、賃貸人が代われば敷金返還債務は譲受人に承継され(605条の2第4項)、賃借人が代われば承継されません(622条の2第1項2号)。担保しているのが賃借人の債務である、という一点から両方向とも導けます。

    礼金には定義規定も返還義務の規定もありません。確実に言えるのは622条の2の定義に当てはまらないということだけで、争点は特約の有効性に移り、消費者契約であれば消費者契約法10条による額の相当性の審査を受けます。敷引特約について最高裁平成23年3月24日判決が、更新料条項について同年7月15日判決が、いずれも高額に過ぎない限り無効とはいえないとしています。

    宅建業法の側では、敷金も礼金も借賃以外に授受される金銭として、35条1項7号で額と目的を説明し、37条2項3号で額と時期と目的を書面に記載します。業者が預かる場合には35条1項11号の支払金・預り金の保全措置も問題になり、施行規則16条の3が敷金と権利金を名指しで対象に含めたうえで50万円未満のものを除外しています。賃貸借契約書全体の読み方は賃貸借契約の注意点で、管理を委託した場合の役割分担は賃貸管理会社の役割で扱っています。

    宅建試験AIブートラボのアプリでは、敷金の返還時期・充当・承継や原状回復の範囲を問う過去問を条文根拠つきの解説で演習でき、返る金と返らない金の切り分けを繰り返し確認できます。

    読んだ内容を、権利関係の肢で確かめる

    民法・借地借家法・区分所有法など、条文だけでは判断しづらい論点は、過去問の肢で覚えるのが最短です。

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