権利関係の頻出論点|どこから手をつけるか
宅建の権利関係を条文で決着する論点と判例まで要る論点に分け、着手順序を示します。意思表示・代理・時効・物権変動・抵当権・借地借家法・相続・区分所有法の要点を条番号つきで整理。
目次
本記事の役割 — この記事は権利関係の論点を横断し、どこから手をつけるかを示すハブです。出題範囲そのものの見取り図は権利関係の全体像、苦手意識の崩し方は権利関係が苦手な人のための克服法にあります。個々の論点は該当記事へ送りますので、気になったところから深掘りしてください。
権利関係は「範囲が広くて何から始めればいいか分からない」と言われる分野です。実際、民法だけでも条文数が膨大なうえに、借地借家法、区分所有法、不動産登記法という特別法まで含みます。
ただし、すべての論点が同じ性質をしているわけではありません。条文の要件と数字を正確に覚えれば確実に決着する論点があり、他方で、条文だけでは答えが出ず判例の立場まで押さえないと解けない論点があります。この二つを混ぜたまま学習すると、覚えれば取れたはずの問題を落とし、逆に判例の理解が要る論点を暗記で押し切ろうとして時間を溶かします。
この記事では、権利関係の論点を条文で決着するものと判例と当てはめが要るものに仕分け、前者から固めるという順序を示します。そのうえで、論点ごとに「何が問われるか」「どこで間違えるか」を書き、詳細は個別記事に送ります。さらに、個別記事では扱いきれない横断的な読み方として、「第三者」という語の使い分けと、期間の起算点のそろえ方を後半に置きました。
権利関係をどう分割するか
出題の根拠と基準日
権利関係と呼ばれる範囲は、宅地建物取引業法施行規則8条2号の「土地及び建物についての権利及び権利の変動に関する法令に関すること」に対応します。民法が中心ですが、借地借家法、建物の区分所有等に関する法律、不動産登記法もこの枠に入ります。
学習を始める前に確認しておくべきことが一つあります。試験実施機関である一般財団法人不動産適正取引推進機構は、試験の内容について「出題の根拠となる法令は、試験を実施する年度の4月1日現在施行されているものです」と案内しています。
これは権利関係では特に重要な意味を持ちます。民法は2020年4月1日施行の債権法改正で大きく変わり、その後も相続、共有、相隣関係、そして区分所有法と、改正が続いています。手元の教材がいつの条文を写しているかによって、正解が変わる論点があるという前提で学習してください。改正点の一覧は権利関係の民法改正まとめに、令和8年度試験に影響する改正全体は令和8年度の法改正まとめに整理しています。
逆に言えば、基準日より後に施行された改正は出題範囲に入りません。「最新の条文に合わせる」ことがそのまま正しさになるわけではなく、4月1日という一点で条文を止めて読む必要があります。
条文型と判例型で仕分ける
権利関係の論点は、性質で二つに分かれます。
条文型は、条文の要件と数字を正確に覚えれば正誤が確定する論点です。区分所有法の決議要件、借地借家法の存続期間と通知期間、法定相続分の割合、制限行為能力者の4類型、時効期間などがここに入ります。覚えれば取れ、覚えていなければ取れない。投じた時間が最も素直に点数に変わる領域です。
判例型は、条文を読んだだけでは答えが出ず、判例がどこで線を引いたかまで押さえる必要がある論点です。意思表示の第三者保護、民法177条の「第三者」の範囲と背信的悪意者、法定地上権の成立要件、無権代理と相続などがここに入ります。理解には時間がかかりますが、いったん筋が通ると忘れにくい領域でもあります。
着手順序の原則
順序としては、条文型を先に固めます。理由は三つあります。
第一に、条文型は完成度が測りやすいからです。借地借家法の期間を言えるかどうかは自分で確認でき、できていなければその場で覚え直せます。判例型は「なんとなく分かった気がする」状態が生じやすく、到達度が自分では見えにくい。
第二に、条文型は判例型の土台になるからです。たとえば法定地上権を理解するには、抵当権の効力が土地と建物にどう及ぶか(民法370条)という条文の前提が要ります。物権変動の判例を読むにも、177条の文言が頭に入っている必要があります。条文が入っていない状態で判例を読むと、判例が何を修正しているのかが見えません。
第三に、判例型は問題演習と往復しないと身につかないからです。先に条文型で得点の土台を作っておくと、演習の時間を判例型に集中させられます。
以下、この順で見ていきます。
条文で決着する論点から固める
区分所有法の決議要件は改正で四段になった
区分所有法の決議要件は、典型的な条文型の論点です。ただし、ここは最優先で最新の条文を確認する必要があります。
老朽化マンション等の管理及び再生の円滑化等を図るための建物の区分所有等に関する法律等の一部を改正する法律(令和7年法律第47号)が2025年5月30日に公布され、2026年4月1日から施行されています。この改正で決議要件の書きぶりが大きく変わりました。
現行の39条1項は、集会の議事は、この法律または規約に別段の定めがない限り、出席した区分所有者(議決権を有しないものを除く)およびその議決権の各過半数で決する、と定めています。区分所有者全体の過半数ではなく、出席者を分母とする建付けです。
規約の設定、変更または廃止は、集会において、区分所有者の過半数の者であって議決権の過半数を有するものが出席し、出席した区分所有者およびその議決権の各4分の3以上の多数による決議によってします(31条1項前段)。定足数と、出席者を分母とする多数決という二段構えになっています。共用部分の変更(形状または効用の著しい変更を伴わないものを除く)も、定足数を置いて出席者を分母とするという点では同じ構造です(17条1項)。ただし17条1項は4分の3について「これを下回る割合(2分の1を超える割合に限る)を規約で定めた場合にあつては、その割合」とする余地を認めており、この緩和は31条1項にはありません。
改正で見落とされやすいのが、3分の2という段が生まれたことです。改正前の決議要件は過半数・4分の3・5分の4の三段でしたが、現行法では3分の2の段が二か所に置かれ、四段構えになりました。
一つ目は61条5項です。建物の価格の2分の1を超える部分が滅失した場合(同条1項本文の場合を除く場合)の復旧決議で、定足数を満たしたうえで出席した区分所有者およびその議決権の各3分の2以上の多数で決します。改正前は4分の3でした。二つ目は17条5項で、共用部分の設置または保存の瑕疵によって他人の権利等が侵害され、または侵害されるおそれがある場合における瑕疵の除去に必要な共用部分の変更と、高齢者・障害者等の移動等円滑化のために必要な共用部分の変更について、17条1項・3項の「四分の三」を「三分の二」と読み替えると定めています。
これに対して建替え決議は違います。62条1項は、集会においては、区分所有者(議決権を有しないものを除く)および議決権の各5分の4以上の多数で建替え決議をすることができる、と定めており、出席者ではなく全体を分母とします。建替え決議だけが「出席した」を伴わないという非対称は、そのまま出題の的になります。
さらに62条2項が新設され、耐震性、防火性、外壁等の剝離落下のおそれ、配管設備の劣化、バリアフリーのいずれかについて法務大臣が定める基準に該当する建物では、「5分の4」を「4分の3」と読み替えると定められました。老朽化したマンションの建替えを進めやすくする趣旨です。
決議要件の全体像は区分所有法の特別決議とは?決議要件を整理、専有部分と共用部分といった基礎概念は区分所有法|マンション管理の基本ルールを参照してください。改正前の「区分所有者及び議決権の各過半数」という書き方の教材が流通しているので、条文の文言まで自分で確認する価値がある論点です。
借地借家法は数字が答えそのもの
借地借家法も条文型の代表です。数字を覚えているかどうかで決着します。
借地権の存続期間は30年で、契約でこれより長い期間を定めたときはその期間になります(3条)。更新後の期間は、最初の更新が20年、二回目以降が10年です(4条)。更新請求や使用継続による更新は、建物がある場合に限り認められ、借地権設定者が遅滞なく異議を述べたときは別です(5条1項・2項)。借地権の対抗力は、土地の上に借地権者が登記されている建物を所有することで得られます(10条1項)。建物が滅失しても、建物を特定するために必要な事項・滅失があった日・新たに築造する旨を土地上の見やすい場所に掲示すれば対抗力は維持されますが、滅失の日から2年を経過した後は、その前に建物を築造して登記した場合に限られます(10条2項)。定期借地権は存続期間を50年以上として設定し、特約は公正証書による等書面でしなければなりません(22条1項)。三類型の違いは定期借地権にあります。
建物賃貸借では、期間を1年未満とするものは期間の定めがない建物賃貸借とみなされ(29条1項)、民法604条の存続期間の上限は適用されません(29条2項)。更新拒絶の通知は期間満了の1年前から6月前までに必要で(26条1項)、賃貸人からの通知や解約申入れには正当の事由が要ります(28条)。建物賃貸借の対抗力は、登記がなくても建物の引渡しがあれば生じます(31条)。定期建物賃貸借は、公正証書による等書面によって契約するときに限り更新がないこととする旨を定められます(38条1項)。同条3項の事前説明を欠くと、更新がないこととする定めが無効になります(38条5項)。居住用で床面積200平方メートル未満の建物について、転勤・療養・親族の介護その他やむを得ない事情があるときは、賃借人から解約を申し入れることができ、申入れの日から1月の経過で終了します(38条7項)。
要点整理は借地借家法の要点整理、数字だけを根拠つきで確認したい場合は借地借家法の数字まとめ、対抗要件は借地権の対抗要件、定期建物賃貸借は定期借家契約、造作買取請求権は造作買取請求権にまとめています。
間違いが起きるのは、借地の数字と借家の数字を取り違えるときです。借地の対抗要件は建物の登記、借家の対抗要件は建物の引渡し。混ぜると両方落とします。
相続分は計算のルールが条文にある
相続も条文型です。配偶者は常に相続人となり(890条)、子は相続人となります(887条1項)。子がいない場合、直系尊属、次いで兄弟姉妹の順で相続人になります(889条1項)。
法定相続分は900条が定めます。子と配偶者なら各2分の1(1号)、配偶者と直系尊属なら配偶者3分の2・直系尊属3分の1(2号)、配偶者と兄弟姉妹なら配偶者4分の3・兄弟姉妹4分の1(3号)。同順位の者が数人あるときは相等しく、ただし父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は双方を同じくする兄弟姉妹の2分の1です(4号)。
代襲相続は、子が相続開始以前に死亡したとき、欠格に該当したとき、廃除によって相続権を失ったときに生じます(887条2項)。ただし同項ただし書は「被相続人の直系卑属でない者」を除いており、たとえば子の配偶者は代襲しません。相続放棄は代襲原因に含まれていません。放棄をした者は初めから相続人とならなかったものとみなされるので(939条)、代襲する余地がないからです。代襲相続人の相続分は、代襲される者が受けるべきであったものと同じです(901条1項)。
再代襲の扱いは系統によって違います。子の系統では887条3項が同条2項を準用しており、孫・ひ孫と下へ続きます。兄弟姉妹の系統では889条2項が準用するのは887条2項だけで、3項は準用されていません。兄弟姉妹の代襲は甥・姪の一代限りという結論はここから出ます。
遺留分は、兄弟姉妹以外の相続人に認められ、直系尊属のみが相続人である場合は3分の1、それ以外の場合は2分の1です(1042条1項)。遺留分権利者は、受遺者または受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求できます(1046条1項)。物の返還ではなく金銭債権である点が要点です。請求権は、相続の開始および遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知った時から1年、相続開始の時から10年で消滅します(1048条)。
詳細は相続|相続人の範囲・法定相続分・遺留分、放棄と限定承認は相続放棄と限定承認、遺言の方式は遺言の方式、配偶者が住み続ける仕組みは配偶者居住権にあります。
共有は「四段階」で読むと崩れない
共有も条文型です。2023年4月1日施行の物権法改正で、条文の書き方が整理されました。
各共有者は他の共有者の同意を得なければ共有物に変更を加えられませんが、その変更から「形状または効用の著しい変更を伴わないもの」が除かれています(251条1項)。この除かれた行為、いわゆる軽微変更は、管理に関する事項として持分の価格の過半数で決します(252条1項)。管理に関する事項も同じく過半数(252条1項)、保存行為は各共有者が単独でできます(252条5項)。全員同意・過半数・過半数・単独という四つの段が、条文の並び順どおりに置かれている構造です。
252条4項は、過半数で設定できる賃借権等の期間の上限を、樹木の栽植または伐採を目的とする山林は10年、それ以外の土地は5年、建物は3年、動産は6箇月と定めます。上限を超える期間の設定は「変更」の側に落ちるという切り分けです。分割請求はいつでもでき、5年を超えない不分割特約は可能で、更新もできますが更新の時から5年が上限です(256条)。
区分所有法の共用部分と混同しやすい領域なので、詳細は共有|持分・変更・管理・分割を条文で整理で確認してください。「著しい変更を伴わない」という一句がどこに掛かっているかを読み違えると、全員同意と過半数が入れ替わります。
制限行為能力者は4類型の対比で決まる
未成年者が法律行為をするには法定代理人の同意が必要で、単に権利を得または義務を免れる法律行為はその限りではありません(5条1項)。同意なくした行為は取り消すことができます(5条2項)。
成年被後見人の法律行為は取り消すことができ、日用品の購入その他日常生活に関する行為は除かれます(9条)。被保佐人は13条1項各号の行為(元本の領収・利用、借財または保証、不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為、新築・改築・増築・大修繕、602条の期間を超える賃貸借など)に保佐人の同意が必要です。被補助人は、家庭裁判所の審判で定められた特定の法律行為について補助人の同意が必要になります(17条1項)。その対象は13条1項に規定する行為の一部に限られる(17条1項ただし書)という限定も条文どおりの要点です。
相手方の催告権は20条にあります。制限行為能力者が行為能力者となった後は本人に対し1箇月以上の期間を定めて追認するかどうかの確答を求めることができ、期間内に確答を発しないときは追認したものとみなされます(20条1項)。法定代理人・保佐人・補助人にその権限内の行為について催告した場合も同じです(20条2項)。ところが、特別の方式を要する行為について期間内に方式を具備した旨の通知を発しないとき(20条3項)と、被保佐人・被補助人本人に「保佐人・補助人の追認を得るべき旨」を催告して期間内にその通知がないとき(20条4項)は、取り消したものとみなされます。同じ沈黙が、誰に催告したかによって追認にも取消しにも転ぶという設計で、ここが催告権の出題の核心です。
そして21条が「制限行為能力者が行為能力者であることを信じさせるため詐術を用いたときは、その行為を取り消すことができない」と定めます。
整理は制限行為能力者制度|4類型と取消し・催告の整理、取消しという効果そのものの意味は無効と取消しの違いにあります。4類型ごとに同意権・取消権・代理権の有無を縦に並べるのが最短経路です。
時効は期間と、猶予・更新の区別
取得時効は、20年間、所有の意思をもって平穏かつ公然と他人の物を占有した者が所有権を取得し(162条1項)、占有の開始時に善意かつ無過失であったときは10年です(同条2項)。善意無過失の判定時点が「占有の開始の時」である点が条文どおりの要点です。
債権の消滅時効は、権利を行使できることを知った時から5年、権利を行使することができる時から10年のいずれか早い方で完成します(166条1項1号・2号)。債権または所有権以外の財産権は20年です(同条2項)。
債権法改正で「中断・停止」という用語が「更新・完成猶予」に改められました。裁判上の請求等は事由が終了するまで完成猶予が働き、確定判決等で権利が確定すれば更新されます(147条)。催告はその時から6箇月の完成猶予にとどまり、再度の催告に効力はありません(150条)。協議を行う旨の合意が書面でされたときも完成猶予が生じます(151条1項)。ただし合意を重ねても、猶予されなかったとすれば時効が完成すべき時から通じて5年が上限です(151条2項ただし書)。承認があれば時効は更新され、その時から新たに進行を始めます(152条1項)。
なお、取消権の期間制限は債権の消滅時効を定める166条ではなく126条に置かれており、追認をすることができる時から5年、行為の時から20年です。条文はどちらについても「時効によって消滅する」と書いています。「取り消せる」状態が永久には続かないという点を、166条とは別枠で覚えておいてください。
完成猶予は時計を止めるだけ、更新はゼロに戻すという違いを最初に固めてください。詳細は時効|取得時効と消滅時効の要件・効果にあります。
判例と当てはめが要る論点
意思表示の第三者保護は類型ごとに要件が違う
ここからが判例型です。意思表示の五類型は、効果と第三者保護の要件がそれぞれ異なり、条文の文言を読み比べたほうが確実です。
心裡留保は原則有効で、相手方が真意でないことを知りまたは知ることができたときに無効となり(93条1項)、その無効は善意の第三者に対抗できません(同条2項)。虚偽表示は無効で(94条1項)、その無効は善意の第三者に対抗できません(同条2項)。ここまでは善意で足り、無過失は要求されていません。
錯誤は、重要な錯誤であれば取り消すことができ(95条1項)、動機の錯誤は事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていた場合に限られます(同条2項)。表意者に重大な過失があれば原則として取消しできません(同条3項)。ただし相手方が錯誤を知りもしくは重大な過失により知らなかったとき、または相手方が同一の錯誤に陥っていたときは、重過失があっても取り消せます(同項1号・2号)。そして取消しは「善意でかつ過失がない第三者」に対抗できません(同条4項)。
詐欺・強迫による意思表示は取り消すことができます(96条1項)。相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合は、相手方がその事実を知りまたは知ることができたときに限り取り消せます(同条2項)。詐欺による取消しは「善意でかつ過失がない第三者」に対抗できません(同条3項)。
強迫だけは第三者保護規定が置かれていません。96条3項が「詐欺による意思表示の取消しは」と限定しているからです。強迫を受けた表意者は保護の必要性が高く、第三者に譲る理由がないという評価です。この非対称が繰り返し問われます。
整理は意思表示の瑕疵|詐欺・強迫・錯誤・虚偽表示の違い、意思表示がいつ効力を生じるかは意思表示の到達主義にあります。「善意で足りるか、無過失まで要るか」を条文の文言で確認するのが間違いを減らす唯一の方法です。
代理は「誰に効果が帰属するか」で読む
代理の論点は、無権代理、表見代理、代理権の濫用、自己契約・双方代理が絡み合います。
代理人が自己または第三者の利益を図る目的で代理権の範囲内の行為をした場合、相手方がその目的を知りまたは知ることができたときは、その行為は代理権を有しない者がした行為とみなされます(107条)。同一の法律行為について相手方の代理人としてまたは当事者双方の代理人としてした行為も、代理権を有しない者がした行為とみなされ、債務の履行および本人があらかじめ許諾した行為は除かれます(108条1項)。同条2項は、それ以外でも代理人と本人との利益が相反する行為を同じく無権代理とみなし、こちらも本人があらかじめ許諾した行為は除かれます(同項ただし書)。いずれも「無効」ではなく「無権代理とみなす」という処理である点が重要です。無権代理なら本人の追認によって有効にできるからです。
無権代理行為は本人が追認しなければ本人に効力を生じません(113条1項)。無権代理人は、自己の代理権を証明したときまたは本人の追認を得たときを除き、相手方の選択に従って履行または損害賠償の責任を負います(117条1項)。ただし相手方が無権代理を知っていたとき、過失により知らなかったとき(無権代理人自身が悪意の場合を除く)、無権代理人が行為能力の制限を受けていたときは、この責任は生じません(117条2項各号)。
表見代理は三類型です。代理権授与の表示による表見代理(109条1項)、権限外の行為の表見代理(110条)、代理権消滅後の表見代理(112条1項)。それぞれ相手方に要求される主観要件の書きぶりが違うので、条文で確認してください。109条1項ただし書は「知り、又は過失によって知らなかったとき」、110条は「代理人の権限があると信ずべき正当な理由」、112条1項は「代理権の消滅の事実を知らなかった第三者」でただし書が過失による不知を除きます。109条2項・112条2項は、表示された代理権または消滅した代理権の範囲外の行為についての重畳適用を条文化したものです。
無権代理人が本人を相続した場合と、本人が無権代理人を相続した場合で結論が分かれるのも、この分野の定番です。誰が誰を承継したかで追認拒絶の可否が変わるため、関係図を書いてから条文に戻る必要があります。基本は代理制度の基本、消滅事由と代理行為の瑕疵は代理権の消滅事由と代理行為の瑕疵、応用論点は復代理と自己契約・双方代理にあります。
物権変動は177条の「第三者」の範囲が争点
不動産に関する物権の得喪および変更は、登記をしなければ第三者に対抗することができません(177条)。条文はこれだけです。
問題は「第三者」に誰が含まれるかで、ここは条文に書かれておらず判例が輪郭を描いてきました。無権利者、不法占拠者、そして背信的悪意者は、177条の第三者に当たらないとされています。単なる悪意者は第三者に含まれるが、背信的といえる事情があれば排除される、という線引きです。「悪意なら常に排除される」と覚えると誤ります。
取消し後の第三者、解除後の第三者、時効完成後の第三者といった時系列型の問題も定番です。時点をどこに置くかで結論が変わるため、必ず時系列の図を描いてから当てはめる手順を固定してください。
詳細は物権変動と対抗要件|登記の役割と第三者の範囲にあります。なお動産については引渡しが対抗要件で(178条)、即時取得との関係は占有権と即時取得で扱っています。
抵当権は条文と判例が半分ずつ
抵当権者は、債務者または第三者が占有を移転しないで担保に供した不動産について、他の債権者に先立って弁済を受ける権利を有します(369条1項)。効力は、抵当地の上に存する建物を除き、抵当不動産に付加して一体となっている物に及びます(370条)。地上権および永小作権も抵当権の目的にできます(369条2項)。用益物権そのものの比較は地上権・地役権・永小作権に、抵当権以外の担保物権の配置は質権と先取特権にあります。
法定地上権は、土地およびその上に存する建物が同一の所有者に属する場合において、その土地または建物につき抵当権が設定され、その実行により所有者を異にするに至ったときに、建物について地上権が設定されたものとみなす制度です(388条)。条文は短いのに、成立するかどうかの判断は判例の蓄積に依存します。抵当権設定時に土地と建物が同一所有者だったか、建物が存在していたか、といった時点の判定が争点になります。法定地上権の成立要件で判例ベースの整理をしています。
競売後の賃借人については、抵当権者に対抗できない賃貸借により抵当建物を使用収益する者のうち競売手続の開始前から使用収益する者等は、買受人の買受けの時から6箇月を経過するまで建物を引き渡すことを要しません(395条1項)。ただし買受人が相当の期間を定めて1箇月分以上の使用対価の支払を催告し、その期間内に履行がないときは、この猶予は適用されません(同条2項)。
抵当権全般は抵当権の基本、配当計算は抵当権の実行と配当、根抵当権は根抵当権にあります。
「第三者」は条文ごとに別の人を指す
権利関係でつまずく原因の多くは、論点の理解不足ではなく、同じ語が条文ごとに違う意味で使われていることに気づいていないことにあります。その筆頭が「第三者」です。ここは横断でしか整理できないので、この記事で扱います。
意思表示の条文の「第三者」は、新たに利害関係に入った者
93条2項、94条2項、95条4項、96条3項の「第三者」は、当事者およびその包括承継人以外の者であって、その意思表示によって作られた外形を前提に、新たに独立の法律上の利害関係を持つに至った者を指す、と判例は捉えてきました。だから相続人のような包括承継人は第三者になりません。承継人は当事者の地位をそのまま引き継ぐので、保護すべき「新たな信頼」がないからです。
この類型の第三者には、条文が主観要件を書き込んでいます。善意で足りるか、無過失まで要るか。主観要件が条文の文言として存在すること自体が、この類型の目印です。
177条の「第三者」は、登記がないことを主張できる立場の者
177条の第三者について、判例は、当事者もしくはその包括承継人以外の者で、登記の欠缺を主張する正当の利益を有する者をいう、としてきました。ここには善意・悪意という言葉が出てきません。だから単なる悪意者も第三者に含まれ、他方で無権利者・不法占拠者は「正当の利益」がないので外れ、背信的悪意者は信義則によって排除されます。
意思表示の第三者は主観要件で絞り、177条の第三者は利益の正当性で絞る。絞り方の軸がそもそも違うのだ、と理解しておくと、「悪意の第三者は保護されないはずでは」という取り違えが起きません。判例の線引きは物権変動と対抗要件に詳しく置いています。
545条1項ただし書の「第三者」は、解除の前に権利を取得した者
解除すると各当事者は原状回復義務を負いますが、第三者の権利を害することはできません(545条1項ただし書)。ここでの第三者は、解除される契約から生じた法律関係を基礎に、解除の前に権利を取得した者です。判例はこの第三者に登記を要求しています。
そして解除の後に現れた第三者は、545条ではなく177条の対抗問題として処理されます。「前」と「後」で適用条文そのものが切り替わるという構造は、取消しの前後、時効完成の前後でも同じ形で現れます。解除の要件と効果は債務不履行と損害賠償・解除にあります。
対抗要件の条文に出てくる「第三者」は、保護される側ではない
民法605条の「その不動産について物権を取得した者その他の第三者」、借地借家法10条1項の「第三者」、同法31条の「その後その建物について物権を取得した者」。これらは、対抗要件を備えた側が権利を主張する相手方を指しているだけで、主観要件は付いていません。善意か悪意かを問う問題ではないのに、条文に「第三者」とあるだけで第三者保護の話だと思い込むと、要件を一つ余計に足してしまいます。
「第三者」と書かれていても保護法理と無関係な条文もある
612条2項の「第三者」は、賃貸人の承諾を得ずに賃借物の使用収益をさせられた譲受人や転借人を指す言葉にすぎず、善意か悪意かを問う規定ではありません。474条1項の「債務の弁済は、第三者もすることができる」の第三者は、債務者以外の弁済者という意味です。537条1項の「第三者のためにする契約」に至っては、その第三者は債務者に対して直接に給付を請求する権利を持つ受益者であって、保護される側どころか請求する側です。語が同じでも、制度が同じとは限らない。賃借権の譲渡と転貸は賃借権の譲渡と転貸で扱っています。
「第三者」を見たら三つ問う
条文や選択肢に「第三者」が出てきたら、次の三点をその場で確認してください。第一に、どの条文の第三者か。第二に、主観要件が条文に書かれているか、書かれているなら善意までか無過失までか。第三に、登記などの権利保護要件が要求されているか。この三つを埋めれば、第三者をめぐる選択肢はほぼ機械的に処理できます。逆に、この三つのどれかを空欄のまま読み進めると、正解に見える誤りが混ざります。
期間の数字は「起算点」と「動詞」で覚える
権利関係には期間の数字が大量に出てきます。数字だけを並べて覚えると、どの制度のものか分からなくなって混線します。数字・起算点・動詞の三点セットで持つと崩れません。
期間計算の原則は初日不算入
日、週、月または年によって期間を定めたときは、期間の初日は算入しません(140条本文)。ただし、その期間が午前零時から始まるときは算入します(同条ただし書)。計算問題の形で問われることもあるので、原則と例外の位置は押さえておいてください。期間と条件・期限の関係は条件と期限の違いにあります。
起算点が「知った時」に置かれている期間
権利者が事情を知って初めて動けるようになる場面では、起算点が主観に置かれます。債権の消滅時効は「債権者が権利を行使することができることを知った時から5年」(166条1項1号)。契約不適合の通知期間は「買主がその不適合を知った時から1年」(566条)。相続の承認・放棄の熟慮期間は「自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月」(915条1項)。遺留分侵害額請求権は「相続の開始および遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知った時から1年」(1048条前段)。不法行為による損害賠償請求権は「被害者またはその法定代理人が損害および加害者を知った時から3年」(724条1号)。相続登記の申請義務は「自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から3年」(不動産登記法76条の2第1項)。
知らないうちに期間が走り出すのは不当だ、という価値判断が共通しています。この発想を掴んでおくと、初見の条文でも起算点を推測できます。
起算点が客観的な事実に置かれている期間
これに対し、権利者の認識と無関係に外形的な事実から数える期間があります。取得時効の起算点は「占有の開始の時」で、10年の短期取得時効における善意無過失の判定時点でもあります(162条2項)。債権の消滅時効の長期側は「権利を行使することができる時から10年」(166条1項2号)。取消権は「行為の時から20年」(126条後段)。不法行為は「不法行為の時から20年」(724条2号)。住所等変更登記の申請義務は「変更があった日から2年」(不動産登記法76条の5)。
主観と客観の二本立てになっている条文では、先に到来したほうで決着します。166条1項も、126条も、724条も、1048条も同じ構造です。「5年と10年のどちらが優先するのか」という問いの答えは、どちらでもなく「早いほう」です。
同じ長さでも制度が違う
1年という期間だけを取り出しても、契約不適合の通知(566条)、遺留分侵害額請求(1048条前段)、協議を行う旨の合意による完成猶予の上限の一つ(151条1項1号)、更新拒絶通知の始期側(借地借家法26条1項)、期間の定めのない土地賃貸借の解約申入れによる終了(617条1項1号)と、まったく違う制度に現れます。3年も、不法行為の主観的起算点(724条1号)と相続登記の申請義務(不動産登記法76条の2第1項)で別物です。6箇月に至っては、時効の完成猶予・引渡猶予・借家の解約申入れ・更新拒絶通知の期限側と四つ以上の制度にまたがります。
数字だけを裸で覚えると、同じ数字の別制度に吸い寄せられます。必ず「何が、いつから、何箇月」の形で持ってください。
「以内」型・「前から前まで」型・「経過するまで」型を分ける
数字と起算点をそろえても、まだ落とし穴が残ります。その期間が締切なのか、幅なのか、猶予なのかという区別です。
「以内」型は締切です。契約不適合の通知は不適合を知った時から1年以内(566条)、相続の承認・放棄は自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内(915条1項)、相続登記は知った日から3年以内(不動産登記法76条の2第1項)、住所等変更登記は変更があった日から2年以内(同法76条の5)。期間が過ぎれば権利や適法性を失いますが、期間の中であればいつ動いてもかまいません。
「前から前まで」型は幅で、早すぎても遅すぎても効力を生じません。建物賃貸借の更新拒絶の通知は、期間の満了の1年前から6月前までの間にしなければならず(借地借家法26条1項)、この幅を外した通知では更新をみなす効果を止められません。定期建物賃貸借で期間が1年以上の場合の終了通知も同じ幅ですが、こちらは通知期間を過ぎてしまっても、その通知の日から6月を経過した後は終了を対抗できるという救済が置かれています(同法38条6項ただし書)。上限と下限の両方が置かれた期間は多くないので、この二つを見たら幅だと判断してください。「6月前までに通知すればよい」という選択肢は、下限だけを書いて上限を落とす作り方です。
「経過するまで」型は猶予で、期間の経過そのものが効果を生みます。催告による時効の完成猶予は催告の時から6箇月(150条1項)、抵当建物使用者の引渡猶予は買受けの時から6箇月(395条1項)、建物賃貸人からの解約申入れは申入れの日から6月で終了し(借地借家法27条1項)、期間の定めのない民法上の賃貸借は解約申入れの日から土地1年・建物3箇月・動産および貸席1日で終了します(617条1項各号)。ここでの数字は「何かをする期限」ではありません。「〜までにせよ」と「〜が過ぎたら効果が生じる」を取り違えると、誰が何をすべきかという主語ごと入れ替わります。
動詞をそろえる
期間内にすべきことが、条文ごとに違います。566条は「通知」、不動産登記法76条の2は「申請」、1046条は「請求」、民法20条は「確答」、151条1項は書面による「合意」。「1年以内に権利を行使しなければならない」「3年以内に登記を完了しなければならない」といった選択肢は、動詞をすり替えることで作られます。数字が合っているぶん、動詞のすり替えは気づきにくい。数字を確認したら動詞まで確認する、を手順として固定してください。
契約の場面で問われる論点
債務不履行と解除は改正の理解がそのまま得点になる
債務者が債務の本旨に従った履行をしないとき、または履行が不能であるときは、債権者は損害賠償を請求できます。ただし、その不履行が契約その他の債務の発生原因および取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りではありません(415条1項)。
解除については、催告解除(541条)と無催告解除(542条)に整理されました。催告解除は相当の期間を定めた催告を要し、期間経過時の不履行が軽微であるときは解除できません(541条ただし書)。無催告解除ができるのは、全部の履行不能、履行拒絶の明確な表示など542条1項各号の場合です。同条2項は一部の解除についても無催告でできる場合を定めています。
改正で押さえるべき核心は、解除に債務者の帰責事由が要らなくなったことです。解除は債権者を契約の拘束から解放する制度であって、債務者への制裁ではないという整理に変わりました。損害賠償には帰責事由が必要(415条1項ただし書)という区別と合わせて覚えてください。詳細は債務不履行と損害賠償・解除にあります。
契約不適合責任は四つの救済手段で覚える
改正前の瑕疵担保責任は、契約不適合責任に置き換わりました。引き渡された目的物が種類、品質または数量に関して契約の内容に適合しないとき、買主は履行の追完(修補、代替物の引渡し、不足分の引渡し)を請求できます(562条1項)。不適合が買主の責めに帰すべき事由によるときは、追完も代金減額も請求できません(562条2項、563条3項)。
追完の催告をして期間内に追完がないときは、不適合の程度に応じて代金の減額を請求できます(563条1項)。追完が不能であるときなど563条2項各号の場合は、催告なしで直ちに減額を請求できます。そして562条・563条の規定は、415条による損害賠償の請求、541条・542条による解除権の行使を妨げません(564条)。追完請求、代金減額請求、損害賠償請求、解除の四つが並ぶ構造です。
期間制限は566条にあり、種類または品質に関する不適合について、買主がその不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しないときは、権利を行使できなくなります。「1年以内に権利を行使する」ではなく「1年以内に通知する」である点が条文どおりの要点です。数量に関する不適合はこの制限の対象外です。さらに同条ただし書は、売主が引渡しの時に不適合を知り、または重大な過失によって知らなかったときはこの期間制限を適用しないと定めています。悪意・重過失の売主まで期間で保護する理由がないからです。
詳細は契約不適合責任|買主の4つの権利と期間制限、宅建業法による特約制限との関係は契約不適合責任の特約制限にあります。
危険負担と危険の移転は「誰が代金を払うか」で読む
当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行できなくなったときは、債権者は反対給付の履行を拒むことができます(536条1項)。改正前のように契約が当然に消滅するのではなく、履行拒絶権という形になった点が要点です。債権者の責めに帰すべき事由による履行不能なら拒めず、債務者は自己の債務を免れて得た利益を償還します(同条2項)。
売買では567条が引渡しを境に危険を移します。目的物の引渡し後に当事者双方の責めに帰することができない事由で滅失・損傷したときは、買主は追完請求も代金減額も損害賠償も解除もできず、代金の支払を拒めません(567条1項)。売主が契約に適合する目的物の履行を提供したのに買主が受領を拒みまたは受領できない場合も同じです(同条2項)。
同じ「履行を拒める」でも、533条の同時履行の抗弁は別の場面の規定です。双務契約の当事者の一方は相手方がその債務の履行を提供するまで自己の債務の履行を拒めますが、相手方の債務が弁済期にないときはこの限りではありません(533条ただし書)。536条1項は「もう履行されない」ことを理由に拒む規定、533条は「まだ履行されていない」ことを理由に拒む規定で、拒める根拠がそもそも違います。この論点は危険負担と同時履行の抗弁権と留置権で扱っています。解除・危険負担・契約不適合責任は、どれも「引渡し後に物が壊れた」場面で顔を出すため、どの条文で処理する場面かを先に決めることが解答の分かれ目になります。
賃貸借は民法と特別法の関係で読む
民法の賃貸借は存続期間の上限が50年で(604条1項)、更新の場合も更新の時から50年が上限です(同条2項)。不動産賃貸借は登記すれば第三者に対抗できます(605条)。賃借人は賃貸人の承諾を得なければ賃借権を譲り渡し、または賃借物を転貸できず、違反して第三者に使用収益させれば賃貸人は契約を解除できます(612条)。敷金は「いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の債務を担保する目的で交付する金銭」と定義され、賃貸借が終了して賃貸物の返還を受けたとき、または賃借人が適法に賃借権を譲り渡したときに返還義務が生じます(622条の2第1項)。賃借人の側から「敷金を債務の弁済に充ててくれ」と請求することはできません(同条2項後段)。
そのうえで、建物の賃貸借には借地借家法が重なります。民法604条の期間の上限は建物賃貸借に適用されず(借地借家法29条2項)、対抗要件は登記ではなく引渡しで足ります(同法31条)。特別法が民法をどこで上書きしているかを意識すると、両者を混同しなくなります。民法側は民法の賃貸借|存続期間・対抗要件・敷金、敷金の実務的な扱いは敷金と礼金、無償で借りる契約との違いは使用貸借と賃貸借の違いに整理しています。
手続として問われる論点
権利に関する登記の申請は、法令に別段の定めがある場合を除き、登記権利者および登記義務者が共同してしなければなりません(不動産登記法60条)。共同申請の原則と、単独申請が認められる場合の対比が問われます。
仮登記は、申請に必要な情報を提供できないとき(1号仮登記)と、権利の設定・移転・変更・消滅に関する請求権を保全しようとするとき(2号仮登記)にできます(105条)。仮登記に基づいて本登記をした場合、その本登記の順位は仮登記の順位による(106条)。これが順位保全効です。詳細は仮登記と本登記の違いにあります。
相続登記は義務化されました。所有権の登記名義人について相続の開始があったときは、当該相続により所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ当該所有権を取得したことを知った日から3年以内に所有権の移転の登記を申請しなければなりません(76条の2第1項)。相続人に対する遺贈により所有権を取得した者も同様です。法定相続分での登記がされた後に遺産分割があったときは、相続分を超えて取得した者が分割の日から3年以内に登記を申請します(同条2項)。起算点が「相続開始日」ではなく「知った日」である点が条文どおりの要点になります。
これと対にして押さえるのが、所有権の登記名義人の氏名・名称・住所の変更登記です。変更があった日から2年以内の申請義務で(76条の5)、正当な理由なく怠れば5万円以下の過料です(164条2項)。相続登記の側は3年以内で、怠れば10万円以下の過料(164条1項)。3年・10万円が相続、2年・5万円が住所等変更という対で覚えると取り違えません。詳細は住所等変更登記の義務化、遺産分割との関係は遺産分割協議と相続登記義務化、登記制度の基本は不動産登記法、登記簿の読み方は不動産登記簿の読み方にあります。
出題形式から逆算して仕上げる
同じ知識でも、問われ方によって要求される完成度が違います。どの形式で出されても耐えるかどうかを基準にすると、仕上げの優先順位が決まります。
個数問題は「全肢を確定できるか」を試している
「正しいものはいくつあるか」という形式では、四つの肢すべてについて正誤を確定しなければ答えが出ません。三つまで確定して一つが曖昧なら、その一問は運になります。個数問題への耐性は、条文型の完成度がそのまま出るところで、判例の理解でカバーできません。だから条文型を先に閉じる意味がここにも現れます。
組合せ問題は逆に、確実な二肢で押し切れることがある
「アとイ」「イとウ」のように選択肢が組み合わせで示される形式では、確信のある肢を二つ確定できれば、残りを判断しなくても答えが一つに絞れることがあります。曖昧な肢に時間を投じる前に、選択肢の並びを見て、あと何を確定すれば絞れるかを先に判断するのが時間の使い方として合理的です。
判決文形式は、知らない判旨を条文に結び直す作業
判決文が示され、その趣旨に照らして正しいものを選ばせる形式があります。ここで試されているのは判例の暗記ではなく、示された判旨の射程を読み取り、条文の枠に当てはめる力です。判旨に「登記の欠缺を主張する正当の利益」と出てくれば177条の話、「新たに独立の法律上の利害関係」と出てくれば94条2項型の話だと当たりがつく。前節で整理した語の使い分けが、そのまま道具になります。
事例形式は図を書いてから条文を当てる
登場人物が三人以上出てきて、譲渡・登記・取消し・解除が時系列で並ぶ形式では、読みながら図を書くのが最短です。人物・移転の矢印・登記の位置・時点の順番の四つを書き込めば、あとはどの条文の場面かを決めるだけになります。引っかけの作り方そのものは引っかけ表現のパターンに、形式ごとの時間配分は計算問題と時間配分に、科目全体での配点設計は科目別攻略法と合格戦略にまとめています。論点ごとの出題傾向は出題傾向を参照してください。
試験での出題ポイント
改正直後の論点は文言の入れ替えで狙われる
改正があった論点では、改正前の文言をそのまま示す選択肢が誤りとして作られます。区分所有法の決議要件で「区分所有者及び議決権の各過半数」と書かれていれば、現行の39条1項が「出席した区分所有者及びその議決権の各過半数」である以上、条文の引用としては現行法と食い違います。
同じ構図は債権法改正でも起きました。民法の条文に「瑕疵担保責任」「時効の中断」といった旧用語が出てくることはもうないので、民法の話としてこれらが示されたら現行法の表現ではないと判断できます。
ただし、「瑕疵」という語そのものが法令から消えたわけではありません。住宅の品質確保の促進等に関する法律は2条5項で「瑕疵」を「種類又は品質に関して契約の内容に適合しない状態」と定義し直したうえで語を使い続けており、特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律も同じです。消えたのは民法の「瑕疵担保責任」という制度名であって、他の法律の用語まで消えたのではない。旧用語だから誤り、と機械的に判断すると、品確法や住宅瑕疵担保履行法の肢を落とします。民法側の整理は契約不適合責任|買主の4つの権利と期間制限にあります。
第三者保護は「善意」か「善意無過失」かで切る
意思表示の第三者保護は、善意で足りる類型と無過失まで要る類型の入れ替えが定番です。心裡留保(93条2項)と虚偽表示(94条2項)は善意で足り、錯誤(95条4項)と詐欺(96条3項)は善意無過失。強迫には規定がない。この四つの区別だけで多くの選択肢が処理できます。
「第三者」がどの条文の第三者かをすり替える
もう一段上の作り方として、177条の第三者に主観要件を持ち込む選択肢があります。「悪意の第三者に対しては登記がなくても対抗できる」という形が典型で、177条の第三者は登記の欠缺を主張する正当の利益で絞られ、単なる悪意では外れないため誤りになります。逆に、94条2項の場面に登記を要求する選択肢も作れます。条文名を言えるかどうかで正誤が決まるので、第三者という語が出たら条文に戻る癖をつけてください。
分母が誰かを問う出題
区分所有法の改正後は、決議の分母が区分所有者全体か出席者かという新しい切り口が生まれました。通常の議事、規約の設定変更、共用部分の変更、大規模滅失の復旧はいずれも出席者基準、建替え決議は全体基準です。加えて、過半数・3分の2・4分の3・5分の4の四段のうちどれかを一段ずらす選択肢も作れます。61条5項の3分の2は改正前が4分の3だったため、旧知識のままだと引っかかります。
代襲相続と放棄の関係
「相続を放棄した者の子が代襲相続する」という選択肢は誤りです。代襲原因は死亡、欠格、廃除であり(887条2項)、放棄は含まれません。放棄した者は初めから相続人でなかったものとみなされます(939条)。代襲原因を三つ言えるかで即断できる論点です。あわせて、兄弟姉妹の系統では再代襲がない(889条2項が準用するのは887条2項のみ)という点も、条文の準用関係から確認しておいてください。
期間制限は「行使」か「通知」か
契約不適合責任の566条は、1年以内に通知することを求めています。「1年以内に権利を行使しなければならない」とする選択肢は誤りです。相続登記の76条の2も「3年以内に申請」であり、起算点は知った日です。動詞と起算点をセットで覚えると落としません。
判例型は時系列の図で処理する
物権変動の「取消し後の第三者」「解除後の第三者」、法定地上権の成立時点、無権代理と相続。いずれも出来事の順番が結論を決める類型です。選択肢を読みながら時間軸を引き、登場人物と登記の移転を書き込む。この作業を省略した瞬間に正答率が落ちます。
覚え方・整理の仕方
「覚えれば取れる」を先に閉じる
学習の順序として最初にやるべきは、条文型の論点を閉じることです。借地借家法の期間、法定相続分の割合、時効期間、制限行為能力者の4類型、区分所有法の決議要件。これらは自分で確認テストが作れます。
確認の仕方も具体化しておきます。紙に論点名だけ書いて、条文の数字と要件を何も見ずに書き出す。書けなかったものだけを翌日にもう一度やる。書けるかどうかで到達度が可視化されるのが条文型の利点で、ここを曖昧にしたまま判例型に進むと、どちらも中途半端になります。
第三者保護は条文の文言を縦に並べる
意思表示の第三者保護は、類型名で覚えるのではなく条文の文言を縦に並べるのが確実です。93条2項「善意の第三者」、94条2項「善意の第三者」、95条4項「善意でかつ過失がない第三者」、96条3項「善意でかつ過失がない第三者」、そして強迫には該当条文なし。
五つの類型を五行に書いて、右側に文言をそのまま写す。表を作るのではなく、条文の言葉をそのまま書くことに意味があります。試験で問われるのも条文の言葉だからです。
数字は「制度名・起算点・動詞・数字」の四点で書く
期間の数字を覚えるときは、数字を先頭に置かないでください。「1年」から書き始めると、1年の付く制度が全部つながって混ざります。制度名を先に書き、次に起算点、次に何をすべきか、最後に数字の順で一行にする。「契約不適合の通知/知った時から/通知する/1年」「相続登記/知った日から/申請する/3年」「熟慮期間/自己のために相続開始があったことを知った時から/承認または放棄する/3箇月」。この形にしておくと、選択肢が動詞や起算点をすり替えたときに、行のどこが書き換えられたかが見えます。
借地と借家は対抗要件で対にする
借地借家法の混同を防ぐには、対になる項目を二つずつ並べます。借地の対抗要件は登記されている建物の所有(10条1項)、借家の対抗要件は建物の引渡し(31条)。存続期間は借地が30年(3条)、借家は1年未満なら期間の定めなしとみなす(29条1項)。定期の要件は、定期借地権が公正証書による等書面(22条1項)、定期建物賃貸借も公正証書による等書面(38条1項)。
対で覚えると、片方を思い出せばもう片方が引き出せます。語呂の作り方は民法の語呂合わせ集で扱っています。
「みなす」と「推定する」を区別する
権利関係には「みなす」規定が多く出てきます。代理権の濫用(107条)と自己契約・双方代理(108条1項)は無権代理とみなす、法定地上権は地上権が設定されたものとみなす(388条)、相続放棄をした者は初めから相続人とならなかったものとみなす(939条)、1年未満の建物賃貸借は期間の定めがないものとみなす(借地借家法29条1項)、催告に確答しなければ追認したものとみなす(20条1項後段)。
「みなす」は反証を許さないという効果を持ちます。条文を読むときにこの語に印をつけておくと、選択肢が「推定される」にすり替えられていたときに気づけます。両者の違いが正面から効く場面は失踪宣告と同時死亡の推定で扱っています。
迷ったら「誰を保護する制度か」に戻る
判例型で当てはめに迷ったら、その制度が誰を保護するために置かれているかに立ち返ってください。虚偽表示の94条2項は、外観を信じた第三者を保護する規定です。だから第三者側に落ち度があれば保護の必要が下がり、錯誤や詐欺では無過失まで求められる。強迫の表意者には落ち度がないので、第三者保護規定を置かない。
背信的悪意者が177条の第三者から外れるのも同じ発想です。登記制度は取引の安全のためにあり、その仕組みを不当に利用する者まで保護する理由がない。条文の暗記が切れたときに、趣旨から筋を引き直せるかどうかが判例型の勝負どころです。
理解度チェッククイズ
問1 区分所有法上、規約の設定、変更または廃止は、区分所有者および議決権の各4分の3以上の多数による決議で行う。
答え:×。2026年4月1日に施行された令和7年法律第47号による改正後の31条1項前段は、規約の設定、変更または廃止について、区分所有者の過半数の者であって議決権の過半数を有するものが出席し、出席した区分所有者およびその議決権の各4分の3以上の多数による決議によってする、と定めています。定足数を満たしたうえで、出席者を分母とする多数決という二段構えです。区分所有者全体を分母とする書き方は改正前の表現です。なお改正後の決議要件は、過半数(39条1項)、3分の2(61条5項の大規模滅失の復旧、17条5項の読替え)、4分の3(17条1項・31条1項)、5分の4(62条1項)の四段構えになっており、建替え決議だけが「出席した」を伴わず全体を分母としています。
問2 強迫による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。
答え:×。民法96条3項は「前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない」と定めており、強迫による取消しについては第三者保護規定が置かれていません。したがって強迫による取消しは、善意無過失の第三者にも対抗できます。心裡留保(93条2項)と虚偽表示(94条2項)が「善意の第三者」、錯誤(95条4項)と詐欺(96条3項)が「善意でかつ過失がない第三者」、強迫は規定なし、という並びで覚えてください。
問3 相続を放棄した者に子がいる場合、その子は放棄した者を代襲して相続人となる。
答え:×。代襲相続が生じるのは、被相続人の子が相続の開始以前に死亡したとき、891条の欠格事由に該当したとき、または廃除によって相続権を失ったときです(887条2項)。相続放棄は代襲原因に含まれていません。放棄をした者は、その相続に関しては初めから相続人とならなかったものとみなされるため(939条)、代襲される地位そのものが存在しないからです。なお887条2項ただし書により、被相続人の直系卑属でない者は代襲しません。
問4 売買の目的物の品質に関する契約不適合について、買主は不適合を知った時から1年以内に権利を行使しなければ、追完請求も代金減額請求もできなくなる。
答え:×。民法566条が求めているのは「権利の行使」ではなく「通知」です。買主がその不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しないときに、追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求および解除ができなくなります。1年以内にすべきは不適合があった旨を通知することであり、その後に権利を行使すること自体は消滅時効の一般原則の範囲で可能です。なお数量に関する不適合は566条の対象外であり、売主が引渡しの時に不適合を知り、または重大な過失によって知らなかったときは同条ただし書によりこの期間制限は適用されません。
問5 民法177条の「第三者」には単に悪意であるにすぎない者も含まれるが、背信的悪意者は含まれない。
答え:○。177条は「不動産に関する物権の得喪及び変更は……その登記をしなければ、第三者に対抗することができない」と定めるのみで、第三者の範囲は条文に書かれておらず、判例が輪郭を定めてきました。判例は、当事者もしくはその包括承継人以外の者で、登記の欠缺を主張する正当の利益を有する者を第三者としています。この定義には善意・悪意という主観要件が入っていないため、無権利者や不法占拠者は「正当の利益」を欠いて第三者に当たらず、単なる悪意者は第三者に含まれ、背信的といえる事情がある者は信義則によって第三者から除かれます。「悪意者は常に排除される」と覚えると誤ります。
まとめ
- 権利関係の論点は、条文で決着するもの(区分所有法の決議要件、借地借家法の期間、法定相続分、共有、制限行為能力者、時効期間)と、判例と当てはめが要るもの(意思表示の第三者保護、177条の第三者、法定地上権、無権代理と相続)に分かれます。前者は到達度が自分で測れ、後者の土台にもなるので、先に閉じるのが合理的です。
- 改正の反映が最優先です。試験の出題根拠となる法令は年度の4月1日現在施行されているもので(不動産適正取引推進機構「試験の内容」)、区分所有法は令和7年法律第47号により2026年4月1日から決議要件の建付けが変わりました。押さえるべき骨は二つで、段が過半数・3分の2・4分の3・5分の4の四つになったことと、分母が建替え決議(62条1項)だけ全体で、他は出席者であることです。段ごとの条文と定足数は区分所有法の特別決議とは?決議要件を整理に譲ります。
- 横断で効くのは二つです。「第三者」はどの条文の第三者かで意味が変わること(意思表示の条文は主観要件で絞り、177条は登記の欠缺を主張する正当の利益で絞り、545条1項ただし書は解除前に権利を取得した者を指す)。そして期間は数字だけでなく起算点と動詞まで持つこと(566条は通知、不動産登記法76条の2は申請、20条は確答)。
- 判例型で迷ったら、その制度が誰を保護するために置かれているかに立ち返ってください。第三者に落ち度があれば保護の必要が下がるから錯誤と詐欺では無過失まで要る。表意者に落ち度がないから強迫には第三者保護規定がない。この視点があれば、暗記が切れても筋を引き直せます。
論点ごとの演習は、宅建試験AIブートラボの肢別トレーニングで条文単位に絞り込んで進められます。
民法・借地借家法・区分所有法など、条文だけでは判断しづらい論点は、過去問の肢で覚えるのが最短です。