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不動産の売却方法|宅建業法が定める手順と義務

不動産の基礎知識 読了 約26分

不動産を売却する手順を宅建業法の条文で追います。34条の2の媒介契約書面と3類型、レインズ登録の7日と5日、報告義務の2週間と1週間、広告規制、35条書面と37条書面までを条文根拠つきで整理します。

目次

    この記事は、不動産の売却という一連の実務プロセスを、宅地建物取引業法のどの条文が支えているかという視点で読み直すものです。宅建業法全体の骨格は宅建業法の全体像に、媒介契約そのものの詳細は媒介契約の3類型にあります。

    売却の流れを「査定を頼む、媒介契約を結ぶ、広告を出す、内覧してもらう、契約する、引き渡す」と並べると、それは単なる手順の列に見えます。しかし宅建業法の側から見ると、この列のひとつひとつが、宅建業者に対する具体的な作為義務の発動点です。媒介契約を締結した瞬間に34条の2第1項の書面作成義務が起き、専任型ならさらに5項の指定流通機構への登録義務と9項の業務処理状況の報告義務が起き、広告を出す段階では32条・33条・34条が同時に効き、契約が成立すれば37条の書面交付義務が起きる。宅建試験で問われるのはこの対応関係そのものです。本記事では、売却の各段階に条文を貼り付けながら、なぜその段階でその義務が課されるのかまで踏み込んで整理します。

    売却の各段階に、どの条文が対応するか

    売主が不動産会社に売却を依頼してから引渡しに至るまでを、宅建業法の条文が起動する順に並べ直すと、次のようになります。

    まず、売主が業者に「売ってほしい」と依頼し、業者がこれを引き受けた時点で媒介契約が成立します。ここで34条の2第1項が起動し、業者は遅滞なく法定の記載事項を書いた書面を作成し、記名押印して依頼者に交付しなければなりません。契約の中身が一般媒介か専任媒介か専属専任媒介かによって、この後に上乗せされる義務の量が変わります。専任媒介であれば、5項によって指定流通機構への登録義務が生じ、9項によって業務処理状況の報告義務が生じます。一般媒介にはどちらもありません。

    次に、業者が販売活動として広告を打つ段階では、32条の誇大広告等の禁止、33条の広告開始時期の制限、34条の取引態様の明示という三つの規制が同時にかかります。この三つは対象も局面も違いますが、いずれも「まだ契約に至っていない段階で、情報が一方的に流れる場面」を規律している点で共通しています。

    購入希望者が現れ、購入の申込みがあったときは、34条の2第8項によって、業者は遅滞なくその旨を依頼者に報告しなければなりません。ここは媒介契約の類型を問いません。条文が「媒介契約を締結した宅地建物取引業者は」と書いており、一般媒介であっても申込みの報告義務からは逃れられません。

    契約の段階に入ると、主役が売主から買主に移ります。35条1項は、宅建業者に対して「その者が取得し、又は借りようとしている宅地又は建物に関し」説明させる義務を課しています。取得しようとしているのは買主ですから、売却の場面で重要事項説明を受けるのは買主であって、売主ではありません。一方、契約が成立したあとの37条書面は、媒介の場合「当該契約の各当事者に」交付されます。売主も受け取る側に入ります。この非対称は、売却プロセスを条文で追うときに最初に押さえるべきポイントです。

    最後に、決済・引渡しが終わり、業者が報酬を受け取ります。ここは46条と国土交通大臣の告示が上限を定めており、超過受領は禁止されています。

    以下の各節では、この流れを段階ごとに分解し、条文の要件と効果、そして試験でどう問われるかを見ていきます。

    媒介契約書面 ── 34条の2第1項が定めること

    なぜ書面が必要とされたのか

    媒介契約は、民法の世界では特別な方式を要しない契約です。口頭で「売ってください」「わかりました」と言えば成立します。にもかかわらず宅建業法が書面の作成・交付を強制しているのは、依頼者と業者のあいだに情報と交渉力の差があるからです。とりわけ、依頼者が他の業者にも重ねて依頼できるのか、自分で買主を見つけて直接売ってよいのか、報酬はいくらなのか、契約はいつまで続くのか。これらは依頼者の自由を直接に縛る条件でありながら、口頭のやり取りでは容易に曖昧なまま進行します。34条の2第1項は、この曖昧さを許さないために、契約の骨格を紙に落とすことを義務づけています。

    適用範囲は「売買又は交換の媒介」

    条文の書き出しは「宅地又は建物の売買又は交換の媒介の契約」です。ここから二つの帰結が出ます。

    第一に、貸借の媒介には34条の2は適用されません。賃貸物件の仲介を依頼したときに媒介契約書面の交付義務があるかと問われれば、答えは「ない」です。賃貸を扱う賃貸仲介の実務でも書面が交付されることはありますが、それは34条の2の義務としてではありません。試験では「貸借の媒介契約についても、遅滞なく書面を作成して交付しなければならない」という形の誤りが繰り返し出ます。

    第二に、代理の依頼を受けた場合には34条の3が34条の2を準用します。したがって、売買の代理を依頼されたときも同じ書面義務がかかります。媒介と代理は報酬の上限が異なりますが、契約書面のルールは共通です。

    記載しなければならない8項目

    34条の2第1項は8つの号を並べています。順に見ていきます。

    1号は物件の特定です。宅地であれば所在・地番その他必要な表示、建物であれば所在・種類・構造その他必要な表示。どの物件についての依頼なのかが曖昧では話になりません。

    2号は「売買すべき価額又はその評価額」です。売買の媒介なら売買すべき価額、交換の媒介なら評価額を書きます。ここは後述する2項の根拠明示義務と直結する、この条文でもっとも試験に出る箇所です。

    3号は、依頼者が他の業者に重ねて売買・交換の媒介や代理を依頼することの許否と、これを許す場合に他の業者を明示する義務があるかどうかです。つまり、この号が一般媒介・専任媒介・専属専任媒介の区別を書面上に固定する役割を担っています。

    4号は既存建物、いわゆる中古住宅の場合の、建物状況調査を実施する者のあっせんに関する事項です。建物状況調査とは、建物の構造耐力上主要な部分や雨水の浸入を防止する部分の状況を、施行規則15条の8が定める者、すなわち建築士であって国土交通大臣が定める講習を修了した者が実施する調査を指します。ここで書くのはあくまで「あっせんに関する事項」であり、調査そのものを実施する義務ではありません。

    5号は媒介契約の有効期間および解除に関する事項、6号は指定流通機構への登録に関する事項、7号は報酬に関する事項です。

    8号は「その他国土交通省令・内閣府令で定める事項」で、施行規則15条の9が四つを挙げています。専任媒介契約における、依頼者が他の業者の媒介・代理で契約を成立させたときの措置。専属専任媒介契約における、依頼者が業者の探索した相手方以外の者と契約を締結したときの措置。明示義務のある一般媒介契約における、依頼者が明示していない業者の媒介・代理で成立させたときの措置。そして、その媒介契約が国土交通大臣の定める標準媒介契約約款に基づくものであるか否かの別です。

    最後の一つは読み方に注意が必要です。「標準媒介契約約款に基づくか否かの別」を書けと言っているのであって、標準約款を使えとは言っていません。標準約款の使用は法律上の義務ではなく、使わないなら使わないと書けばよい、という構造です。媒介契約書面の記載事項をより詳しく追うには媒介契約書の記載事項を参照してください。

    記名押印するのは業者であって宅建士ではない

    34条の2第1項は「書面を作成して記名押印し、依頼者にこれを交付しなければならない」と書いています。主語は宅地建物取引業者です。宅建士の関与を求める文言はありません。これに対して、35条書面は5項で「宅地建物取引士は、当該書面に記名しなければならない」とされ、37条書面は3項で「宅地建物取引士をして、当該書面に記名させなければならない」とされています。

    つまり、売却の一連の書面のうち、宅建士の記名が要るのは35条書面と37条書面の二つだけで、媒介契約書面は業者の記名押印です。この違いは頻出です。業者と宅建士のどちらが義務主体かという切り口での整理は宅建業者と宅建士の義務にまとめてあります。

    なお、34条の2第11項は、政令の定めるところにより依頼者の承諾を得れば、書面の交付に代えて記載すべき事項を電磁的方法で提供できると定めています。この場合、業者は書面に記名押印して交付したものとみなされます。承諾が要件である点を落とすと誤りになります。

    3類型で規制の強さが違う理由

    拘束と義務が交換されている

    一般媒介・専任媒介・専属専任媒介の三つは、しばしば「制限の強さ」の順に並べて覚えられます。しかし、なぜ制限の強い類型ほど業者側の義務も重いのかを説明できないと、数字だけが記憶の中で浮いてしまいます。

    ここにあるのは交換関係です。依頼者が他の業者に依頼する自由を手放すほど、その業者は競争にさらされなくなります。競争がなければ、業者は熱心に売る動機を失いかねない。売却が長引いても、依頼者は他の業者に乗り換えられません。だから宅建業法は、依頼者の自由を制限する類型ほど、業者に対して具体的な作為義務を課し、履行状況を可視化させます。有効期間に上限を設けるのも同じ理屈です。拘束が無期限に続かないよう、法が期限を切っています。

    この交換関係を頭に置くと、専任媒介に登録義務と報告義務があり、一般媒介にはない理由、専属専任の頻度が専任より短い理由が、すべて同じ一本の線でつながります。

    依頼者が手放すもの

    一般媒介契約では、依頼者は複数の業者に重ねて依頼できます。自分で買主を見つけて直接契約すること、いわゆる自己発見取引も自由です。手放すものは基本的にありません。

    専任媒介契約は、条文上「依頼者が他の宅地建物取引業者に重ねて売買又は交換の媒介又は代理を依頼することを禁ずる媒介契約」と定義されています。34条の2第3項の括弧書きがこの定義を置いています。禁じられているのは他の業者への重ねての依頼であって、自己発見取引ではありません。したがって専任媒介では、依頼者が自ら買主を見つけて直接売ることは可能です。

    専属専任媒介契約は、宅建業法本文には登場しない語です。施行規則15条の9第2号が「依頼者が売買又は交換の媒介を依頼した宅地建物取引業者が探索した相手方以外の者と売買又は交換の契約を締結することができない旨の特約を含む専任媒介契約」と定義しています。専任媒介であることが前提で、そこに自己発見取引の禁止という特約が乗った形です。専属専任の依頼者は、たとえ知人が買いたいと言ってきても、業者を通さなければなりません。

    「専属専任は専任の一種である」という条文構造の理解は、そのまま出題に直結します。専任媒介に課される義務は、原則として専属専任にも及びます。専属専任だけを別枠で覚えると、共通部分を取りこぼします。

    有効期間の上限は専任型だけ

    34条の2第3項は、専任媒介契約の有効期間は3月を超えることができないと定め、これより長い期間を定めたときはその期間を3月とする、と続けます。ここが効果の書き方として重要です。3月を超える定めをしても契約全体が無効になるのではなく、期間だけが3月に短縮されます。

    4項は更新について定めます。更新できるのは「依頼者の申出により」であって、業者からの申出や自動更新ではありません。更新後も、更新の時から3月を超えることはできません。そして10項が、3項から6項までおよび8項・9項に反する特約を無効としています。したがって、自動更新条項は10項によって無効になります。

    一般媒介契約には、法律上の有効期間の制限がありません。3項が「専任媒介契約の有効期間は」と限定して書いているためです。実務では標準媒介契約約款に従って3か月とされることが多いのですが、それは約款の定めであって法の定めではない。この区別は、先に触れた施行規則15条の9第4号の存在からも裏づけられます。試験で「一般媒介契約の有効期間は3か月を超えることができない」と書かれていれば誤りです。

    価額について意見を述べるときの根拠明示義務

    34条の2第2項は、業者が1項2号の価額または評価額について意見を述べるときは、その根拠を明らかにしなければならないと定めます。売却の実務でいう査定額の提示が、まさにこの場面です。

    この義務が置かれた理由は明快です。売却を依頼する側は、自分の不動産がいくらで売れるかを知りません。業者が「3,000万円で売れます」と言えば、依頼者はそれを前提に住み替え計画やローンの返済計画を立てます。もし根拠のない高値を示して媒介契約を取り、あとから値下げを迫るような行動が許されるなら、依頼者は判断の土台を奪われることになります。だから法は、意見を述べること自体は禁じず、述べるなら根拠を示せという形で規律しました。

    条文を読むときに二つ注意点があります。ひとつは、根拠を明らかにする義務は「意見を述べるとき」に発動するのであって、意見を述べなければ発動しないということ。もうひとつは、条文が根拠明示の方法を限定していないことです。書面によらなければならないとは書かれていません。試験では「価額について意見を述べるときは、その根拠を書面で示さなければならない」という形で、条文にない要件を足してくる問い方があります。条文の文言に立ち返れば判断できます。

    なお、この2項違反は65条2項2号に業務停止事由として明示的に列挙されています。根拠明示義務は、単なる努力目標ではありません。

    専任型に上乗せされる二つの義務 ── レインズ登録と業務報告

    指定流通機構への登録義務

    34条の2第5項は、専任媒介契約を締結した業者に対し、契約の相手方を探索するため、国土交通省令で定める期間内に、その物件について所在・規模・形質・売買すべき価額その他省令で定める事項を、国土交通大臣が指定する者に登録しなければならないと定めています。この「国土交通大臣が指定する者」が指定流通機構、実務でいうレインズです。制度そのものの説明はレインズとはにあります。

    期間は施行規則15条の10が定めています。専任媒介契約の締結の日から7日、専属専任媒介契約にあっては5日です。そして同条2項が「前項の期間の計算については、休業日数は算入しないものとする」と定めます。つまり7日も5日も、業者の休業日を除いて数えます。この「休業日を除く」は条文に明記された要件であり、落とすと日数計算の問いに答えられません。

    登録義務が専任型にだけ課されている理由も、先の交換関係で説明がつきます。専任媒介では、依頼者は他の業者に依頼できません。その物件の情報が依頼した業者の中に閉じてしまえば、買主に届く経路が細くなります。囲い込みが起きれば、依頼者は損をするだけです。指定流通機構への登録は、依頼者の自由を制限した見返りに、物件情報を業界全体へ強制的に開かせる仕組みなのです。一般媒介では依頼者が自ら複数の業者に声をかけられるので、法が強制するまでもない、という整理になります。

    登録する事項も条文と省令に分かれています。法5項本文が所在・規模・形質・売買すべき価額を挙げ、施行規則15条の11が、都市計画法その他の法令に基づく制限で主要なもの、取引の申込みの受付に関する状況、交換の契約に係る場合の評価額、専属専任媒介契約である場合はその旨、の四つを追加しています。ここに依頼者の氏名は入っていません。売主が誰かは登録事項ではない、というのは条文を読めば分かることですが、問われると迷いやすい箇所です。

    登録したあとの手当ても条文にあります。6項は、登録をした業者は50条の6に規定する登録を証する書面を遅滞なく依頼者に引き渡さなければならないと定めます。50条の6は、指定流通機構が登録を受けたときに業者へ登録を証する書面を発行する義務を定めた規定です。発行するのは機構、引き渡すのは業者、という主体の流れを取り違えないようにします。なお12項により、依頼者の承諾を得れば、この書面の引渡しに代えて証されるべき事項を電磁的方法で提供できます。

    7項は、登録した物件について売買または交換の契約が成立したときは、遅滞なくその旨を当該指定流通機構に通知しなければならないと定めます。通知する事項は施行規則15条の13が定めており、登録番号、宅地または建物の取引価格、契約が成立した年月日の三つです。成約情報が機構に集まることで、次に登録される物件の価額判断の材料になります。制度が自分で自分の精度を上げる仕組みだと考えると覚えやすくなります。

    業務処理状況の報告義務

    34条の2第9項は、専任媒介契約を締結した業者に対し、依頼者に対して当該専任媒介契約に係る業務の処理状況を2週間に1回以上報告しなければならないと定めます。そして括弧書きで、依頼者が業者の探索した相手方以外の者と契約を締結することができない旨の特約を含む専任媒介契約、すなわち専属専任媒介契約については1週間に1回以上とします。

    ここでも数字の差は交換関係で説明できます。専属専任では依頼者は自己発見取引もできず、売却の経路が完全にその業者一社に閉じます。閉じる度合いが強いぶん、業者が何をしているのかを依頼者が確認できる間隔を短くする。それが2週間と1週間の差の意味です。

    報告の方法について、条文は限定していません。書面によることを求める文言はありません。試験では「専任媒介契約では、業務の処理状況を2週間に1回以上、書面で報告しなければならない」という形の誤りが作りやすい箇所です。

    一般媒介にも及ぶ、申込みの報告義務

    9項の一つ手前、8項は主語が違います。「媒介契約を締結した宅地建物取引業者は、当該媒介契約の目的物である宅地又は建物の売買又は交換の申込みがあつたときは、遅滞なく、その旨を依頼者に報告しなければならない」。専任媒介契約を締結した業者、ではなく、媒介契約を締結した業者です。

    したがって、購入の申込みが入ったことの報告は、一般媒介であっても義務です。定期的な業務処理状況の報告は専任型だけ、個別の申込みがあったときの報告は全類型、という二層構造になっています。一般媒介には報告義務が一切ないと丸暗記していると、この8項で足をすくわれます。

    そして10項が、3項から6項までと8項・9項に反する特約を無効としています。報告頻度を「1か月に1回」と定める特約は、9項に反するため無効です。

    売却活動の段階 ── 広告規制と取引態様の明示

    三つの規制が同時にかかる

    媒介契約を結んだ業者は、買主を探すために広告を出します。この場面で効く規制は三つあり、対象がそれぞれ異なります。詳細は広告に関する規制にありますが、売却プロセスの中での位置づけを確認しておきます。

    32条は誇大広告等の禁止です。所在・規模・形質、現在または将来の利用の制限、環境や交通その他の利便、代金や借賃等の対価の額やその支払方法、代金または交換差金に関する金銭の貸借のあっせんについて、著しく事実に相違する表示や、実際のものより著しく優良・有利であると人を誤認させる表示をしてはならない、というものです。ポイントは列挙された対象の広さと、「著しく」という程度要件、そして誤認させるような表示であれば足り、実際に誰かが誤認したり損害が生じたりする必要はない点にあります。

    33条は広告の開始時期の制限です。宅地の造成または建物の建築に関する工事の完了前は、都市計画法29条1項・2項の開発許可、建築基準法6条1項の確認その他政令で定める処分があった後でなければ、その物件の売買その他の業務に関する広告をしてはなりません。まだ許可も確認も下りていない段階で広告を打てば、計画が変わったり実現しなかったりしたときに買主が振り回されます。33条はそれを入口で止める規定です。

    34条は取引態様の明示です。1項は広告をするときに、自ら当事者となるのか、代理として成立させるのか、媒介して成立させるのかの別を明示せよと定めます。2項は、注文を受けたときに、遅滞なくその注文をした者に対して取引態様の別を明らかにせよと定めます。広告時と注文時の両方が必要で、片方で済むわけではありません。広告に明示していたから注文時は不要、という論法は通りません。より詳しくは取引態様の明示を参照してください。

    三つの規制の適用範囲の違い

    売却プロセスの視点で並べると、この三つは適用範囲が微妙にずれています。32条と34条は売買・交換・貸借のいずれにも及びます。33条は工事完了前の物件に限って発動する規制で、広告だけでなく「売買その他の業務に関する広告」を止めます。

    さらに、33条の兄弟にあたる36条は、工事完了前の物件について、許可等の処分があるまで契約自体を締結してはならないと定めています。ただし36条が禁じるのは売買・交換の契約であり、貸借の契約は含まれません。33条は広告なので貸借の広告も止まるのに、36条は貸借の契約を止めない。この非対称は横断整理の定番論点です。宅建業法全体の数字と要件の突き合わせは宅建業法の数字まとめで確認できます。

    契約段階 ── 35条書面・37条書面・報酬と、違反したときの帰結

    重要事項説明を受けるのは買主

    購入希望者が現れて条件がまとまると、契約に進みます。ここで35条が起動します。

    35条1項は、業者が「宅地若しくは建物の売買、交換若しくは貸借の相手方若しくは代理を依頼した者又は宅地建物取引業者が行う媒介に係る売買、交換若しくは貸借の各当事者」に対して、「その者が取得し、又は借りようとしている宅地又は建物に関し」、契約が成立するまでの間に、宅建士をして書面を交付して説明させなければならないと定めています。

    条文の後半、「その者が取得し、又は借りようとしている」という限定が効きます。売却の場面で取得しようとしているのは買主です。売主は自分の物件を手放す側であって、取得する側ではありません。したがって、売主に対する重要事項説明は法律上要求されていません。売主が業者に媒介を依頼している立場であっても同じです。売却を依頼した側が重要事項説明を受けないのは、実務感覚では意外に映るかもしれませんが、条文の構造上そうなっています。

    説明の時期は「契約が成立するまでの間」です。説明をするのは宅建士であり、35条5項により、書面には宅建士が記名しなければなりません。記載事項の全体像は35条書面の記載事項一覧にあります。

    既存建物の売却では、ここで媒介契約段階の話がつながります。34条の2第1項4号で建物状況調査のあっせんに関する事項を媒介契約書面に書き、35条1項6号の2で調査を実施しているかどうかとその結果の概要を説明し、37条1項2号の2で当事者双方が確認した事項を書面に記載する。ひとつの建物状況調査が、媒介契約・重要事項説明・契約書面という三つの局面に姿を変えて現れます。中古住宅の流通を促すという政策目的が、条文の三点セットとして実装されている例です。

    37条書面は売主にも交付される

    契約が成立すると37条が起動します。37条1項は、業者が自ら当事者として契約を締結したときはその相手方に、代理して締結したときはその相手方および代理を依頼した者に、媒介により契約が成立したときは当該契約の各当事者に、遅滞なく法定事項を記載した書面を交付しなければならないと定めます。

    売却を媒介で進めた場合、書面は「各当事者」に交付されます。売主も買主も受け取ります。35条書面が買主側にしか行かないのと対照的です。売主から見れば、契約の内容を法定の形で確認できる最初で最後の書面が37条書面だということになります。この違いを一枚で整理したものが35条書面と37条書面の違いです。

    37条書面には、当事者の氏名および住所、物件の特定表示、代金または交換差金の額と支払時期・方法、引渡しの時期、移転登記の申請の時期といった必要的記載事項があり、これらは定めがあるかどうかにかかわらず記載します。他方、契約の解除に関する定め、損害賠償額の予定または違約金に関する定め、金銭の貸借のあっせんが成立しないときの措置、天災その他不可抗力による損害の負担、契約不適合を担保すべき責任またはその履行に関して講ずべき措置、租税その他の公課の負担については、条文が「定めがあるときは」と条件をつけています。定めがなければ書きようがないからです。この必要的記載と任意的記載の切り分けは37条書面の記載事項で扱っています。

    37条3項により、業者は宅建士をして書面に記名させなければなりません。ただし、35条と違って説明義務はありません。記名は要るが説明は要らない、という点が対比の要になります。

    契約不適合を担保すべき責任について定めを置く場合、その内容は民法562条以下の枠組みを前提に決まります。売主が個人であればどこまで責任を限定できるか、業者が自ら売主となる場合に40条の制限がかかるかは別問題です。実体法側の整理は契約不適合責任にあります。

    報酬は成約後に、告示の上限の範囲で

    決済と引渡しが終わり、業者は報酬を受け取ります。46条1項は、業者が売買・交換・貸借の代理または媒介に関して受けることのできる報酬の額は国土交通大臣の定めるところによると定め、2項がその額を超えて報酬を受けることを禁じています。3項で告示すること、4項で事務所ごとに公衆の見やすい場所に報酬額を掲示することが定められています。

    告示の上限そのものの構造は報酬額の制限に、実際の計算手順は仲介手数料の計算方法と上限にあります。売却プロセスとの関係で押さえるべきは、報酬請求権が原則として契約の成立を条件とすること、そして上限は法が直接定めているのではなく大臣告示に委任されているという条文構造です。

    違反したときに何が起きるか

    売却の場面で登場した条文は、違反したときの帰結が一律ではありません。ここに配分の妙があります。

    65条2項2号は業務停止事由を列挙しており、その中に34条の2第1項および第2項が入っています。媒介契約書面を交付しなかった場合と、価額について意見を述べたのに根拠を示さなかった場合は、業務停止処分の対象として条文に名指しされているということです。同じ号には32条、33条の2、34条、35条1項から3項まで、36条、37条1項・2項、46条2項、47条なども並んでいます。

    一方、この号に34条の2の第5項や第9項は挙がっていません。指定流通機構への登録を怠った場合や、報告義務を果たさなかった場合は、業務停止事由として個別に列挙されているわけではありません。もっとも、65条1項が「業務に関し取引の関係者に損害を与えたとき又は損害を与えるおそれが大であるとき」などを指示処分の事由とし、2項5号が「宅地建物取引業に関し不正又は著しく不当な行為をしたとき」を業務停止事由としていますから、監督処分の対象から外れるという意味ではありません。処分の根拠条文が違う、ということです。監督処分の全体像は監督処分で確認してください。

    罰則の配分はさらに絞られています。81条1号は32条違反、すなわち誇大広告等の禁止に違反した者を6月以下の拘禁刑もしくは100万円以下の罰金に処し、または併科すると定めます。売却に関わる規定の中でもっとも重い部類です。83条1項2号は37条違反を50万円以下の罰金とし、46条4項の報酬額の掲示義務違反も同じ号に入っています。82条2号は46条2項違反、つまり報酬の超過受領を100万円以下の罰金としています。

    そして、34条の2にも35条にも、罰則の条文は用意されていません。媒介契約書面を交付しなくても、重要事項説明をしなくても、刑罰は科されない。監督処分だけで処理される。これは制度の緩さというより、私法上の契約関係に対する介入を刑罰ではなく行政の監督で行うという立法の選択です。試験では「重要事項説明をしなかった場合、50万円以下の罰金に処せられる」といった形で、罰則の有無を入れ替えてくる問い方があります。

    試験での出題ポイント

    数字の帰属を入れ替える

    もっとも多いのは、正しい数字を間違った類型に貼り付けるパターンです。指定流通機構への登録は専任媒介が7日、専属専任媒介が5日。報告義務は専任媒介が2週間に1回以上、専属専任媒介が1週間に1回以上。有効期間は専任型がいずれも3月以内。この三組の数字を入れ替えた選択肢が繰り返し作られます。

    登録期間で見落とされやすいのが休業日の扱いです。施行規則15条の10第2項が休業日数を算入しないと定めているので、締結日から暦の上で7日目までではありません。日数計算を問う形式では、この一行を知っているかどうかで答えが割れます。

    有効期間については、超過した場合の効果が狙われます。3月を超える期間を定めた契約は無効になるのではなく、期間が3月に短縮されます。契約そのものが無効になると書かれていれば誤りです。

    一般媒介に何がないかを問う

    一般媒介契約には、指定流通機構への登録義務も、定期的な業務処理状況の報告義務も、法定の有効期間の上限もありません。ここまでは知られています。試験が突いてくるのはその先で、「一般媒介契約には報告義務が一切ない」と言い切れるかどうかです。34条の2第8項の申込みの報告義務は媒介契約一般に及ぶため、言い切れません。

    また、一般媒介契約であっても34条の2第1項の書面交付義務はあります。書面が要らないのは貸借の媒介であって、一般媒介ではありません。適用範囲の切り分けを混ぜてくる問いに注意が必要です。

    主体と方式を入れ替える

    媒介契約書面は業者が記名押印、35条書面と37条書面は宅建士が記名。ここを入れ替える選択肢が定番です。さらに、35条は説明義務があり37条にはない、という説明の有無も入れ替えの対象になります。

    方式についても同様です。価額の意見の根拠明示、業務処理状況の報告のいずれも、条文は方法を限定していません。ここに「書面で」を足した選択肢は誤りです。逆に、書面の交付を電磁的方法に代えるには依頼者の承諾が必要であり、承諾の要件を落とした選択肢も誤りになります。

    誰に何が交付されるかを問う

    売却の場面で、重要事項説明を受けるのは買主であって売主ではない。37条書面は媒介の場合、売主と買主の両方に交付される。この非対称は、事例形式で問われると一瞬迷います。35条1項の「その者が取得し、又は借りようとしている」という文言に立ち返れば、必ず判断できます。

    建物状況調査の三点セット

    既存建物については、34条の2第1項4号のあっせんに関する事項、35条1項6号の2の実施の有無と結果の概要、37条1項2号の2の当事者双方が確認した事項という三つの局面が用意されています。どの局面で何を扱うかを入れ替えた選択肢が作られます。媒介契約段階で扱うのは「あっせん」であって、調査の実施そのものでも結果の説明でもない、という順序を押さえます。

    覚え方・整理の仕方

    交換関係から数字を導く

    数字を単独で暗記するより、「依頼者が自由をどれだけ手放したか」から導くほうが定着します。一般媒介では何も手放していないので、業者に上乗せの義務はない。専任媒介では他社への依頼を手放したので、情報を外に開かせる登録義務と、状況を見せる報告義務が乗る。専属専任では自己発見取引まで手放したので、同じ義務がさらに厳しくなる。

    この順序に沿えば、登録期間が7日から5日へ短くなり、報告間隔が2週間から1週間へ短くなることは、覚えるまでもなく方向が決まります。方向が決まれば、あとは7と5、2週間と1週間という具体値だけを覚えればよい。逆向きの選択肢を見た瞬間に違和感が出るようになります。

    「専任に書いてあることは専属専任にも及ぶ」

    条文構造として、専属専任媒介契約は専任媒介契約の一種です。34条の2第3項の有効期間の制限も、5項の登録義務も、9項の報告義務も、まず専任媒介について定められ、専属専任はその中の特別扱いとして括弧書きや省令で数字が上書きされています。

    したがって、専属専任について何かを問われたら、まず専任媒介のルールを思い出し、そのうえで「専属専任だけ数字が短くなっているものはあったか」と確認する順序が安全です。専属専任を独立した第三の類型として別枠で暗記すると、共通部分の記憶が薄くなります。

    段階と条文を対にして口に出す

    売却の流れを、条文番号とセットで一本の線として言えるようにしておくと、事例問題の処理が速くなります。依頼を受けたら34条の2第1項の書面。専任なら5項の登録と9項の報告。広告なら32条・33条・34条。申込みがあったら34条の2第8項の報告。契約前に35条の説明、契約後に37条の書面。最後に46条の報酬。

    この七つのポイントを順に思い出せれば、「売却の依頼を受けた業者が次に何をすべきか」を問う形式の問題は、選択肢を読む前に答えの見当がつきます。実務寄りの流れの記述は不動産売買の流れに、条文横断の視点は媒介契約の3類型にあります。

    罰則がある条文を先に覚える

    売却に関わる条文のうち、罰則が用意されているものは限られます。32条の誇大広告等の禁止、37条の書面交付、46条2項の報酬超過受領、46条4項の報酬額の掲示。この四つを覚え、それ以外は監督処分の世界だと割り切ると、罰則の有無を問う選択肢に強くなります。34条の2と35条に罰則がないことは、この裏返しとして自然に出てきます。

    なお、売却で得た利益に対する課税は宅建業法の話ではなく、租税特別措置法の領域です。所有期間の判定基準や特別控除の要件は譲渡所得税の特例で扱っています。業法の義務と税の特例を混ぜないことも、整理の一部です。

    理解度チェッククイズ

    第1問

    宅地建物取引業者が宅地の貸借の媒介契約を締結したときは、遅滞なく、宅地建物取引業法34条の2第1項に定める事項を記載した書面を作成して依頼者に交付しなければならない。○か×か。

    答えは×です。34条の2第1項は「宅地又は建物の売買又は交換の媒介の契約」を締結したときの義務を定めており、貸借の媒介は対象外です。なお、売買・交換の代理を依頼する契約については、34条の3が34条の2を準用するため、同じ書面義務がかかります。適用されるのは売買・交換の媒介と代理であり、貸借は入らない、と押さえます。

    第2問

    専属専任媒介契約を締結した宅地建物取引業者は、契約の締結の日から休業日数を除いて5日以内に、所定の事項を指定流通機構に登録しなければならない。○か×か。

    答えは○です。34条の2第5項が国土交通省令で定める期間内の登録を義務づけ、施行規則15条の10第1項が専任媒介契約は7日、専属専任媒介契約は5日と定めています。同条2項が「前項の期間の計算については、休業日数は算入しないものとする」と定めているため、休業日は数えません。7日と5日の帰属、そして休業日を除く点の両方が要件です。

    第3問

    一般媒介契約を締結した宅地建物取引業者は、当該媒介契約の目的物である宅地について購入の申込みがあったときであっても、依頼者に報告する義務を負わない。○か×か。

    答えは×です。34条の2第9項の業務処理状況の報告義務は専任媒介契約を締結した業者に限られますが、8項は「媒介契約を締結した宅地建物取引業者は」と定めており、類型を問いません。申込みがあったときは、一般媒介であっても遅滞なく依頼者に報告する必要があります。定期的な報告は専任型だけ、個別の申込みの報告は全類型、という二層構造です。

    第4問

    宅地建物取引業者は、媒介契約の目的物である宅地の売買すべき価額について意見を述べるときは、その根拠を書面により明らかにしなければならない。○か×か。

    答えは×です。34条の2第2項は「その根拠を明らかにしなければならない」と定めるにとどまり、方法を書面に限定していません。根拠を示す義務があること自体は正しく、この義務に違反すれば65条2項2号により業務停止処分の対象となりますが、書面によることまでは条文が求めていません。条文にない要件を足した選択肢は誤りだと判断します。

    第5問

    宅地建物取引業者の媒介により宅地の売買契約が成立した場合、当該業者は、売主および買主の双方に対して、宅地建物取引士をして37条書面に記名させたうえで、これを交付しなければならない。○か×か。

    答えは○です。37条1項は「その媒介により契約が成立したときは当該契約の各当事者に」書面を交付しなければならないと定めており、売主も買主も交付の相手方に含まれます。37条3項により、業者は宅建士をして書面に記名させなければなりません。ただし37条書面には説明義務がなく、宅建士による説明が必要なのは35条書面のほうです。また35条1項の説明の相手方は取得しようとしている買主であり、売主は含まれません。

    宅建試験AIブートラボのアプリでは、媒介契約と書面交付義務に関する肢を論点別にまとめて演習できます。

    読んだ内容を、税・その他の肢で確かめる

    税と価格の評定は毎年ほぼ同じ形で出ます。出題パターンを肢別で押さえれば取りこぼしません。

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