借地権とは|期間・更新・対抗要件を条文から
借地権は「建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権」(借地借家法2条1号)です。この定義から適用範囲が決まります。30年という期間、更新の要件、建物の登記による対抗、承諾に代わる裁判所の許可までを条文根拠つきで整理します。
目次
この記事は、借地権付きの物件を検討している方、あるいは借地に建物を所有している方に向けて、借地権という権利が法律上どう組み立てられているかを整理するものです。宅建試験の科目としての借地借家法の全体像は借地借家法の全体像、期間の数字の横断整理は借地借家法の数字まとめにあります。
先に、この記事の方針を二つ述べます。
第一に、出発点は借地借家法2条1号の定義です。借地権とは「建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権」をいいます。この定義に当たるかどうかで、借地借家法という手厚い保護が及ぶかどうかが決まります。土地を借りていれば何でも借地権になるわけではありません。駐車場や資材置場のために土地を借りても、そこに借地権は発生しません。この線引きが最初に来ます。
第二に、この記事では地代・更新料・承諾料の相場を扱いません。これらの金額を定めた法令はなく、公的に集計された統計もありません。出典を示せない数字を目安として書くことは、判断の助けになるどころか誤らせるおそれがあります。代わりに、金額がどういう仕組みで決まることになっているのかを条文から説明します。11条の地代等増減請求権、19条2項の財産上の給付といった条文を知っていれば、提示された金額が何に基づくものかを自分で確かめられます。
なお本記事は2026年4月1日時点で施行されている条文に基づきます。宅建試験は当該年度の4月1日現在施行の法令から出題されるためです。借地借家法は令和4年法律第48号により2026年5月21日にも改正が施行されていますが、変更されたのは61条の手続規定のみで、この記事が扱う実体規定に影響はありません。
借地権とは何か
定義から入ります。
2条1号が定義している
借地借家法2条1号は「借地権」を「建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権」と定義しています。要素は二つです。
第一に、建物の所有を目的とすること。第二に、地上権または土地の賃借権であること。
同条は続けて、借地権を有する者を借地権者(2号)、借地権者に対して借地権を設定している者を借地権設定者(3号)と定義しています。日常語でいう地主が、法律上は借地権設定者です。
建物の所有を目的としない土地の賃貸借は借地権ではない
定義の前半が効きます。建物を建てるためでなければ、借地権になりません。
したがって、青空駐車場のために土地を借りる契約、資材置場として土地を借りる契約、看板を設置するために土地を借りる契約には、借地借家法が適用されません。これらは民法の賃貸借の規定によって処理されます(民法の賃貸借)。
違いは決定的です。借地借家法が適用されれば、後述するとおり存続期間は30年で始まり、更新が原則となり、地主が更新を拒むには正当の事由が要ります。民法の賃貸借であれば、期間は当事者が定めたとおりで、期間満了で終了します。
「土地を長く借りているから借地権があるはずだ」という理解は誤りです。何のために借りているかで、適用される法律が変わります。
建物を建てる前でも、目的が建物所有なら借地権である
逆に、まだ建物が建っていなくても、建物の所有を目的とする契約であれば借地権です。定義は「建物の所有を目的とする」であって、建物が現存することを要件にしていません。
もっとも、後述する更新(5条)と対抗要件(10条)は建物の存在を前提としています。成立には建物が要らないが、保護の中心部分は建物があってこそ働くという構造です。
地上権と賃借権のどちらもありうる
定義の後半には二つが並んでいます。地上権と土地の賃借権です。
地上権は物権で、他人の土地において工作物等を所有するためにその土地を使用する権利です。物権なので、原則として設定者の承諾なく譲渡でき、登記を請求することもできます。
賃借権は債権で、賃貸借契約に基づいて土地を使用収益する権利です。債権なので、譲渡や転貸には賃貸人の承諾が要ります(民法612条1項)。
借地借家法は、この性質の違う二つをまとめて「借地権」として扱い、共通の保護を与えています。ただし、後述する19条や20条のように、賃借権にだけ適用される規定もあります。地上権であれば承諾なく譲渡できるので、承諾に代わる許可の制度が要らないからです。
期間は法律が下から支えている
借地権の存続期間には、法律が下限を設けています。
3条は「30年とする」と書いている
3条はこうです。「借地権の存続期間は、三十年とする。ただし、契約でこれより長い期間を定めたときは、その期間とする。」
条文の書きぶりに注意してください。「30年以上とする」ではなく「30年とする」です。そのうえでただし書が、契約で長い期間を定めたときはその期間によるとしています。
したがって、期間を定めなかった場合は30年になります。40年と定めれば40年です。長くする合意は有効です。
20年と定めたらどうなるか
では、20年と定めたらどうなるか。ここで9条が働きます。9条は「この節の規定に反する特約で借地権者に不利なものは、無効とする」と定めています。
20年という定めは、3条が保障する30年より短く、借地権者に不利です。したがって9条により無効になります。無効になった結果、3条の本則に戻り、存続期間は30年になります。
「20年の契約だから20年で終わる」とはなりません。短い期間の合意は、契約書に書いてあっても効力を持ちません。これは借地権者を保護する仕組みの中核です。
更新後は20年、その次から10年
4条はこうです。「当事者が借地契約を更新する場合においては、その期間は、更新の日から十年(借地権の設定後の最初の更新にあっては、二十年)とする。ただし、当事者がこれより長い期間を定めたときは、その期間とする。」
括弧書きの位置がやや読みにくいのですが、整理すると、最初の更新は20年、2回目以降の更新は10年です。こちらも長くする合意は有効で、短くする合意は9条により無効になります。
30年、20年、10年と段階的に短くなっていく設計です。当初は建物を建てて生活の基盤を作る期間が要るので長く、更新のたびに関係が確認されるので短くしてよい、という考え方だと理解できます。
9条が守る範囲
9条が無効とするのは「この節の規定に反する特約」です。この節とは3条から8条までを指します。存続期間(3条・4条)、更新(5条・6条)、建物の再築による期間の延長(7条)、更新後の滅失(8条)が含まれます。
対抗要件(10条)と建物買取請求権(13条)は、この節に入っていません。これらについては別に16条が「第十条、第十三条及び第十四条の規定に反する特約で借地権者又は転借地権者に不利なものは、無効とする」と定めています。強行規定を定める条文が二つあるという構造を押さえてください。
更新のしくみ
期間が満了したときに何が起きるかを見ます。
更新請求(5条1項)
5条1項はこうです。「借地権の存続期間が満了する場合において、借地権者が契約の更新を請求したときは、建物がある場合に限り、前条の規定によるもののほか、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。ただし、借地権設定者が遅滞なく異議を述べたときは、この限りでない。」
要素が三つあります。借地権者が更新を請求すること。建物があること。そして、地主が遅滞なく異議を述べないこと。
「建物がある場合に限り」という限定が重要です。建物が滅失していて再築されていない状態では、更新請求をしても更新されません。借地権が保護されるのは、そこに生活や事業の基盤があるからだ、という発想が表れています。
使用継続による更新(5条2項)
2項は「借地権の存続期間が満了した後、借地権者が土地の使用を継続するときも、建物がある場合に限り、前項と同様とする」と定めています。
更新を請求しなくても、そのまま使い続けていれば更新したものとみなされます。ここでも建物の存在が条件です。
地主が異議を述べるには正当の事由が要る(6条)
更新を止められるかどうかは6条で決まります。「前条の異議は、借地権設定者及び借地権者……が土地の使用を必要とする事情のほか、借地に関する従前の経過及び土地の利用状況並びに借地権設定者が土地の明渡しの条件として又は土地の明渡しと引換えに借地権者に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、述べることができない。」
条文の構造を読み取ってください。中心にあるのは「双方が土地の使用を必要とする事情」です。「のほか」という語でつながれて、従前の経過、土地の利用状況、そして財産上の給付の申出が考慮要素として並びます。
いわゆる立退料は、この最後の考慮要素にあたります。条文は「その申出を考慮して」としているだけで、立退料さえ払えば正当の事由が認められるとは書いていません。主たる要素を補完するものとして位置づけられています。
なお、この記事では「更新拒絶が認められることはまれである」といった一般化はしません。正当の事由の判断は個別の事情の総合考慮であり、統計的な傾向を示せる資料がないためです。条文が挙げている考慮要素を知っておくことが、実際の場面での出発点になります。
対抗要件は建物の登記でよい
借地権者にとって最も実益のある規定です。
10条1項の内容
10条1項はこうです。「借地権は、その登記がなくても、土地の上に借地権者が登記されている建物を所有するときは、これをもって第三者に対抗することができる。」
借地権そのものの登記がなくても、借地上の建物が借地権者名義で登記されていれば、第三者に対抗できます。
なぜこれが重要なのか
土地の賃借権を登記するには、賃貸人の協力が必要です。賃借人が単独で登記を申請することはできません。そして地主には、自分の土地に賃借権の登記を入れることに応じる義務が一般にはありません。つまり、借地権の登記は地主が協力しなければ実現しません。
これでは、地主が土地を第三者に売却したときに借地権者が保護されないことになります。そこで10条1項は、借地権者が自分ひとりでできる建物の登記を対抗要件として認めました。建物は借地権者の所有物なので、その保存登記は単独で申請できます。
地主の協力なしに対抗力を備えられるようにした規定だと理解すると、意義が見えます。
地主が土地を売っても借地権は残る
この規定があるため、地主が底地を第三者に売却しても、建物の登記を備えた借地権者は新しい所有者に借地権を主張できます。契約関係が引き継がれ、地代の支払先が変わるだけです。
「土地が売られたら出ていかなければならない」ということにはなりません。借地権付き物件を検討する際、建物の登記があるかどうかは真っ先に確認すべき事項です。
建物が滅失した場合(10条2項)
建物が焼失や取壊しで失われると、対抗要件の土台が消えます。10条2項はこの場合の手当てを置いています。
「前項の場合において、建物の滅失があっても、借地権者が、その建物を特定するために必要な事項、その滅失があった日及び建物を新たに築造する旨を土地の上の見やすい場所に掲示するときは、借地権は、なお同項の効力を有する。ただし、建物の滅失があった日から二年を経過した後にあっては、その前に建物を新たに築造し、かつ、その建物につき登記した場合に限る。」
掲示によって対抗力を維持できますが、2年という限度があります。2年以内に建物を再築して登記しなければ、対抗力は失われます。対抗要件の細部は借地権の対抗要件にあります。
16条により、これを奪う特約は無効
前述のとおり16条が、10条に反する特約で借地権者に不利なものを無効としています。「建物の登記があっても借地権を対抗できない」という特約は効力を持ちません。
建物買取請求権
更新されずに終わる場合の受け皿です。
13条1項の内容
13条1項はこうです。「借地権の存続期間が満了した場合において、契約の更新がないときは、借地権者は、借地権設定者に対し、建物その他借地権者が権原により土地に附属させた物を時価で買い取るべきことを請求することができる。」
更新されなければ、借地権者は土地を明け渡さなければなりません。しかし建物を取り壊して更地にして返すのでは、建物の価値がまるごと失われます。社会的にも損失です。そこで、地主に時価での買取りを請求できるようにしています。
請求すれば売買が成立する
この権利は、請求という一方的な意思表示によって効果が生じます。地主が同意しなくても、請求した時点で時価による売買が成立したのと同じ効果が生じます。地主は買取りを拒めません。
なお13条2項は、借地権設定者の承諾を得ずに残存期間を超えて存続すべき建物が新築された場合について、裁判所が代金の支払につき相当の期限を許与できるとしています。
16条により強行規定
16条が13条を挙げているため、建物買取請求権を排除する特約は、借地権者に不利であれば無効です。
ここは建物の賃貸借における造作買取請求権と扱いが違います。造作買取請求権を定める33条は、37条の強行規定の列挙に含まれていないため、排除する特約が有効です。同じ「買取請求権」でも、借地の建物と借家の造作で結論が逆になります。この対比は造作買取請求権で詳しく扱っています。
第三者の建物買取請求権(14条)
14条は別の場面を定めています。「第三者が賃借権の目的である土地の上の建物……を取得した場合において、借地権設定者が賃借権の譲渡又は転貸を承諾しないときは、その第三者は、借地権設定者に対し、建物……を時価で買い取るべきことを請求することができる。」
建物を買い取ったのに地主が賃借権の譲渡を承諾してくれない、という第三者を保護する規定です。この14条も16条の強行規定の対象です。
地主の承諾が要る場面と、裁判所の許可
借地権の売却が所有権の売却と決定的に違う点です。
賃借権の譲渡・転貸には承諾が要る(民法612条)
借地権が賃借権である場合、その譲渡には地主の承諾が必要です。民法612条1項は、賃借人は賃貸人の承諾を得なければ賃借権を譲り渡し、または賃借物を転貸することができないと定めています。2項は、賃借人がこれに違反して第三者に賃借物の使用収益をさせたときは、賃貸人が契約を解除できるとしています。
借地上の建物を売れば、その敷地利用権である借地権も一緒に移ります。つまり建物の売却は、実質的に賃借権の譲渡を伴います。したがって地主の承諾が必要になります。
買い手からすれば、承諾が取れるかどうか不確実なまま代金を払うことになるため、これが売却の実務上の障害になります。
19条 承諾に代わる裁判所の許可
承諾が得られなければ売れないというだけでは、借地権者の財産権が地主の一存で凍結されてしまいます。そこで借地借家法19条1項が受け皿を置いています。
「借地権者が賃借権の目的である土地の上の建物を第三者に譲渡しようとする場合において、その第三者が賃借権を取得し、又は転借をしても借地権設定者に不利となるおそれがないにもかかわらず、借地権設定者がその賃借権の譲渡又は転貸を承諾しないときは、裁判所は、借地権者の申立てにより、借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができる。」
同項後段は、当事者間の利益の衡平を図るため必要があるときは、借地条件の変更を命じ、またはその許可を財産上の給付に係らしめることができるとしています。実務でいう譲渡承諾料は、この財産上の給付に対応するものです。
2項は、裁判所が判断するにあたり、賃借権の残存期間、借地に関する従前の経過、譲渡または転貸を必要とする事情その他一切の事情を考慮しなければならないとしています。
3項には地主側の対抗手段が置かれています。裁判所が定める期間内に借地権設定者が自ら建物および賃借権の譲渡を受ける旨の申立てをしたときは、裁判所は相当の対価を定めてこれを命ずることができます。地主が自分で買い取るという選択肢です。
20条 競売・公売で建物を取得した場合
20条1項は、第三者が競売または公売により借地上の建物を取得した場合について、同様の許可の制度を定めています。3項は、この申立てが「建物の代金を支払った後二月以内」に限りできるとしています。期間制限がある点が19条と違います。
17条 借地条件の変更と増改築の許可
17条1項は、建物の種類・構造・規模・用途を制限する借地条件がある場合において、事情の変更により異なる建物の所有を目的とすることが相当であるにもかかわらず協議が調わないとき、裁判所が借地条件を変更できると定めています。
2項は「増改築を制限する旨の借地条件がある場合において、土地の通常の利用上相当とすべき増改築につき当事者間に協議が調わないときは、裁判所は、借地権者の申立てにより、その増改築についての借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができる」としています。
注意すべき前提があります。17条2項が働くのは、増改築を制限する借地条件がある場合です。契約にそうした制限がなければ、そもそも承諾は不要です。「借地上の建物は常に地主の承諾がなければ増改築できない」わけではありません。
3項は、これらの裁判をする場合に財産上の給付を命じることができるとしています。建替承諾料と呼ばれるものが、ここに対応します。
なお18条は、契約の更新の後に残存期間を超えて存続すべき建物を新築することについて、やむを得ない事情があるにもかかわらず承諾が得られない場合の許可を定めています。
相続には承諾が要らない
対比として押さえておくべき点があります。相続による借地権の承継には、地主の承諾は不要です。
612条が承諾を要求しているのは「譲渡」と「転貸」です。相続は当事者の意思による譲渡ではなく、被相続人の地位を包括的に承継するものなので、612条の場面に当たりません。承諾料も生じません。
ただし、建物の相続登記は済ませておく必要があります。10条1項の対抗力は借地権者名義の建物の登記によって維持されるためです。相続登記の申請義務については相続した不動産の基礎を参照してください。
地上権の場合は承諾が要らない
前述のとおり、借地権が地上権である場合、612条は適用されません。物権なので設定者の承諾なく譲渡できます。19条・20条が「賃借権」の譲渡について定めているのは、賃借権にだけ承諾の問題が生じるからです。
地代・更新料・承諾料はどこから来るのか
金額そのものではなく、決まる仕組みを見ます。
地代の額を定めた法令はない
地代がいくらであるべきかを定めた条文はありません。当事者の合意で決まります。
この記事で相場を示さないのはこのためです。法令に基準がなく、公的に集計された統計もない以上、示せる根拠がありません。実際の水準は、土地の所在・面積・契約の経緯・契約時期によって大きく異なります。
11条の地代等増減請求権
一度決めた地代が動かせないわけではありません。11条1項はこう定めています。
「地代又は土地の借賃……が、土地に対する租税その他の公課の増減により、土地の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍類似の土地の地代等に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって地代等の額の増減を請求することができる。」
三つの事由が挙げられています。公租公課の増減、経済事情の変動、近傍類似の土地との比較。いずれかにより不相当となったときに、当事者のどちらからでも増減を請求できます。地主からの増額請求も、借地権者からの減額請求も、同じ条文が根拠です。
「契約の条件にかかわらず」とある点も重要です。契約で地代を固定していても、この請求は妨げられません。
ただし増額しない特約は有効
11条1項にはただし書があります。「ただし、一定の期間地代等を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。」
増額しないという特約は、借地権者に有利なので有効です。反対に、減額しない旨の特約については、この条文に規定がありません。
協議が調わないときの暫定的な扱い
2項と3項が、争いになっている間の処理を定めています。
増額について協議が調わないときは、請求を受けた借地権者は、増額を正当とする裁判が確定するまでは相当と認める額を支払えば足ります(2項本文)。ただし裁判が確定して既払額に不足があれば、不足額に年1割の割合による支払期後の利息を付して支払わなければなりません(2項ただし書)。
減額について協議が調わないときは、請求を受けた地主は、減額を正当とする裁判が確定するまでは相当と認める額の支払を請求できます(3項本文)。裁判が確定して受領額が超過していれば、超過額に年1割の利息を付して返還します(3項ただし書)。
支払を止めてよいとは書かれていません。争っている間も、相当と認める額を支払い続ける構造になっています。
更新料に法律上の根拠はない
借地借家法に、更新料の支払を義務づける条文はありません。法律上当然に発生する義務ではないということです。
支払義務が生じるのは、契約に更新料の定めがある場合です。契約書に記載がなければ、原則として支払う義務はありません。借地権付き物件を検討する際は、契約書に更新料の条項があるかどうか、あるならどのように算定されるかを確認することになります。
承諾料は条文の中に位置づけがある
これに対し、譲渡承諾料や建替承諾料と呼ばれるものには、条文上の受け皿があります。前述の19条1項後段が「その許可を財産上の給付に係らしめることができる」とし、17条3項が「財産上の給付を命じ」ることができるとしているものです。
裁判所が許可を与える際に、その条件として金銭の給付を命じることができる。実務で当事者間の合意によって支払われる承諾料は、この枠組みに対応した慣行だと位置づけられます。
金額は、19条2項が挙げる考慮要素、すなわち賃借権の残存期間、借地に関する従前の経過、譲渡を必要とする事情その他一切の事情を踏まえて、事案ごとに定まります。一律の割合が法定されているわけではありません。
更新がない借地権と、法が退く場面
普通の借地権とは扱いが違う類型があります。
定期借地権は更新がない
22条から24条までが、更新のない借地権を定めています。
22条の定期借地権は、存続期間を50年以上として設定する場合に、契約の更新がなく、建物の築造による存続期間の延長がなく、13条の建物買取請求をしないこととする旨を定められるものです。この特約は公正証書による等書面によってしなければなりません(2項により電磁的記録も可)。
23条の事業用定期借地権等は二段構えです。1項は専ら事業の用に供する建物(居住用を除く)の所有を目的とし、存続期間を30年以上50年未満として設定する場合。2項は同じく事業用で、存続期間を10年以上30年未満として設定する場合で、こちらは3条から8条まで、13条および18条が適用されません。3項により、いずれも公正証書によってしなければなりません。
24条の建物譲渡特約付借地権は、設定後30年以上を経過した日に建物を借地権設定者に相当の対価で譲渡する旨を定めるものです。
いずれも9条・16条の強行規定にかかわらず特約が有効になる、という形で規定されています。強行規定の例外として作られているわけです。3類型の詳細は普通借地権と定期借地権で扱っています。
一時使用目的の借地権(25条)
見落とされやすい類型があります。25条はこう定めています。「第三条から第八条まで、第十三条、第十七条、第十八条及び第二十二条から前条までの規定は、臨時設備の設置その他一時使用のために借地権を設定したことが明らかな場合には、適用しない。」
工事期間中の現場事務所のように、一時使用であることが明らかな場合には、存続期間も更新も建物買取請求権も適用されません。借地権ではあるが、保護の中心部分が外れるという類型です。
借地権付き物件を検討するときに確認すること
以上を踏まえて、契約書と登記のどこを見るかを整理します。
建物の登記があるか
10条1項の対抗力の土台です。借地権者名義で建物が登記されているかを、登記事項証明書で確認します。登記記録の読み方は不動産登記簿の読み方にあります。
普通の借地権か、更新のない借地権か
22条から24条までの定期借地権であれば、期間満了で確定的に終了します。23条2項の事業用であれば、3条から8条までが適用されません。25条の一時使用に当たる場合も同様です。契約書に更新がない旨の特約があるか、公正証書で作られているかが手がかりになります。
増改築を制限する借地条件があるか
17条2項が働くのは、増改築を制限する借地条件がある場合です。その条項があるかどうかで、建替えに承諾が要るかどうかが変わります。
更新料の定めがあるか
前述のとおり、更新料は契約に定めがある場合に支払義務が生じます。条項の有無と、あるなら算定方法を確認します。
地代の改定に関する定めがあるか
11条1項ただし書の「一定の期間地代等を増額しない旨の特約」があるかどうかを確認します。あれば、その期間中は増額請求ができません。
なお、宅地建物取引業者が媒介する取引であれば、これらの事項は重要事項説明の対象になり得ます。35条書面の記載事項は35条書面の記載事項一覧にまとめてあります。
試験での出題ポイント
宅建試験でこの分野が問われる形を整理します。
適用範囲を広げる肢
「土地の賃貸借契約には借地借家法が適用される」といった形の肢は誤りです。2条1号が「建物の所有を目的とする」と限定しており、駐車場や資材置場のための土地賃貸借には適用されません。
期間の下限を動かす肢
3条は「存続期間は三十年とする」であり、これより短い定めは9条により無効となって30年になります。「20年と定めた場合は20年となる」という肢は誤りです。逆に「50年と定めた場合も30年となる」も誤りで、3条ただし書により長い定めは有効です。
更新後については、最初の更新が20年、2回目以降が10年。数字の入れ替えが定番です。
建物の存在を落とす肢
5条1項・2項はいずれも「建物がある場合に限り」と定めています。建物が存在しないのに更新請求で更新されるとする肢は誤りです。
対抗要件を借地権の登記に限定する肢
10条1項は「その登記がなくても」借地権者名義の建物の登記があれば対抗できるとしています。「借地権の登記がなければ第三者に対抗できない」という肢は誤りです。
建物滅失後の掲示については、2年という期間と、2年経過後は再築・登記が必要であることの二段構えを押さえてください。
強行規定の条文を取り違える肢
9条が3条から8条までを、16条が10条・13条・14条を対象としています。強行規定の条文が二つに分かれている点が問われます。
あわせて、借地の建物買取請求権は16条により排除できないのに対し、借家の造作買取請求権は37条の列挙に33条が入っていないため排除できる、という対比も定番です。
承諾に代わる許可を無視する肢
「地主の承諾がなければ借地上の建物を第三者に譲渡することはできない」という肢は、19条の許可の制度を無視しているため誤りです。競売・公売の場合の20条、増改築についての17条2項もあわせて確認してください。
20条3項の「建物の代金を支払った後2月以内」という期間制限も出題対象です。
相続に承諾を要求する肢
相続による承継に地主の承諾は不要です。612条が対象としているのは譲渡と転貸であり、包括承継である相続は含まれません。
地代増減請求権の主体と扱い
11条1項は「当事者は」としており、地主からも借地権者からも請求できます。増額しない旨の特約は有効です(同項ただし書)。協議が調わない間は相当と認める額を支払えば足りますが、支払を止めてよいわけではありません。年1割の利息も条文にある数字です。数字の横断整理は借地借家法の数字まとめにあります。
覚え方・整理の仕方
定義から適用範囲を導く
迷ったら2条1号に戻ります。「建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権」。建物所有目的でなければ借地借家法の外、というのが最初の分岐です。
期間は「30・20・10」
当初30年、最初の更新で20年、以後10年。下がっていく順で覚えます。そして、いずれも「これより長い期間を定めたときはその期間」というただし書が付いています。下限だけを法律が決めているという理解です。
強行規定は「9条は前、16条は後」
条文の並び順で覚えます。9条は自分より前の3条から8条まで(期間と更新)、16条は10条・13条・14条(対抗要件と買取請求権)。間に挟まれた条文を、前後の二つの強行規定が守っているという配置です。
対抗要件は「自分でできることを要件にした」
10条1項の趣旨を一言で持ちます。借地権の登記には地主の協力が要るが、建物の登記は自分でできる。だから建物の登記を対抗要件にした。理由から入れば、なぜ建物の登記でよいのかを思い出せます。
承諾が要る場面には必ず裁判所の出口がある
612条で承諾が要るとされている場面には、借地借家法が許可の制度を用意しています。譲渡なら19条、競売・公売なら20条、増改築なら17条2項、更新後の再築なら18条。
「承諾が得られない=終わり」ではない。この対応を持っておくと、承諾に関する肢を処理できます。
金額の話は条文の在りかで分ける
地代の増減は11条、承諾料は19条1項後段・17条3項の財産上の給付。更新料には条文がなく、契約に定めがあるときだけ発生する。
「条文があるか、ないか」で三つを分けると、根拠を聞かれたときに答えられます。
理解度チェッククイズ
問1 資材置場として使用する目的で土地を賃借した場合、その賃借権は借地借家法の借地権に当たり、存続期間は30年となる。
答え:×。借地借家法2条1号は借地権を「建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権」と定義しています。資材置場として使用する目的の土地賃貸借は建物の所有を目的としないため、借地権に当たりません。したがって借地借家法は適用されず、民法の賃貸借の規定によって処理されます。存続期間も3条の30年ではなく、当事者が定めたところによります。青空駐車場や看板設置のための土地賃貸借も同様です。「土地を借りている」ことと「借地権がある」ことは別であり、何のために借りているかで適用される法律が変わる、という点がこの分野の出発点になります。
問2 建物の所有を目的として存続期間を20年と定めて土地の賃貸借契約を締結した場合、その存続期間は20年となる。
答え:×。3条は「借地権の存続期間は、三十年とする。ただし、契約でこれより長い期間を定めたときは、その期間とする」と定めています。20年という定めは3条が保障する30年より短く借地権者に不利であるため、9条により無効です。9条は「この節の規定に反する特約で借地権者に不利なものは、無効とする」と定めており、この節とは3条から8条までを指します。特約が無効になった結果、3条の本則に戻り、存続期間は30年になります。なお50年と定めた場合は3条ただし書により50年で有効です。法律は下限だけを決めており、長くする合意は妨げていません。
問3 借地権者は、借地上の建物について自己名義の登記を備えていても、借地権自体の登記がなければ、土地を新たに取得した第三者に借地権を対抗することができない。
答え:×。10条1項は「借地権は、その登記がなくても、土地の上に借地権者が登記されている建物を所有するときは、これをもって第三者に対抗することができる」と定めています。借地権自体の登記は不要で、借地権者名義の建物の登記があれば対抗できます。この規定が置かれた理由は、借地権の登記には地主の協力が必要で借地権者が単独では実現できないのに対し、自己所有の建物の登記は単独で申請できるからです。地主の協力なしに対抗力を備えられるようにした規定です。なお建物が滅失した場合は、10条2項により所定の事項を土地上の見やすい場所に掲示すれば対抗力が維持されますが、滅失の日から2年を経過した後は、その前に再築して登記した場合に限られます。また16条により、10条に反する特約で借地権者に不利なものは無効です。
問4 借地権の存続期間が満了し契約の更新がない場合、借地権者は借地権設定者に対して建物を時価で買い取るべきことを請求できるが、この権利を排除する特約も当事者が合意すれば有効である。
答え:×。前半は正しく、後半が誤りです。13条1項は、存続期間が満了した場合において契約の更新がないときは、借地権者が借地権設定者に対し建物その他権原により土地に附属させた物を時価で買い取るべきことを請求できると定めています。そして16条が「第十条、第十三条及び第十四条の規定に反する特約で借地権者又は転借地権者に不利なものは、無効とする」と定めているため、建物買取請求権を排除する特約は無効です。ここは建物賃貸借の造作買取請求権(33条)と結論が逆になります。造作買取請求権については37条の強行規定の列挙に33条が含まれていないため、排除する特約が有効です。同じ買取請求権でも、借地の建物と借家の造作で扱いが分かれる点が対比として問われます。
問5 借地権者が借地上の建物を第三者に譲渡しようとする場合において、借地権設定者が賃借権の譲渡を承諾しないときは、借地権者は建物を譲渡することができない。
答え:×。借地権が賃借権である場合、その譲渡には民法612条1項により賃貸人の承諾が必要で、承諾なく第三者に使用収益させれば同条2項により契約を解除されます。しかし承諾が得られなければ終わり、というわけではありません。借地借家法19条1項は、その第三者が賃借権を取得しても借地権設定者に不利となるおそれがないにもかかわらず承諾が得られないときは、裁判所が借地権者の申立てにより承諾に代わる許可を与えることができると定めています。同項後段により、裁判所は許可を財産上の給付に係らしめることができ、実務でいう譲渡承諾料はこれに対応します。なお同条3項により、地主が自ら建物および賃借権の譲渡を受ける旨の申立てをすることもできます。競売・公売で建物を取得した第三者については20条に同様の制度があり、申立ては建物の代金を支払った後2月以内に限られます。
まとめ
出発点は2条1号の定義である。借地権は「建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権」であり、建物所有目的でない土地賃貸借には借地借家法が適用されません。地上権と賃借権のどちらもありうるため、承諾が問題になるのは賃借権の場合です。
期間は法律が下限を支えている。当初30年(3条)、最初の更新で20年、以後10年(4条)。長くする合意は有効ですが、短くする合意は9条により無効となり本則の期間に戻ります。
更新には建物の存在が要る。5条1項の更新請求も2項の使用継続も「建物がある場合に限り」働きます。地主が異議を述べるには6条の正当の事由が必要で、双方が土地の使用を必要とする事情が中心にあり、立退料に相当する財産上の給付の申出は考慮要素の一つです。
対抗要件は建物の登記でよい(10条1項)。地主の協力がなければ実現しない借地権の登記に代えて、借地権者が単独でできる建物の登記を対抗要件としたものです。建物滅失後は掲示により2年まで維持できます(10条2項)。
強行規定は9条と16条の二つに分かれている。9条が3条から8条まで、16条が10条・13条・14条を守ります。建物買取請求権(13条)は16条により排除できず、この点で借家の造作買取請求権と結論が逆になります。
承諾が要る場面には裁判所の出口がある。賃借権の譲渡は19条、競売・公売による取得は20条、増改築を制限する借地条件があるときは17条2項、更新後の再築は18条。いずれも承諾に代わる許可を裁判所が与えられ、財産上の給付を条件とすることができます。相続による承継に承諾は要りません。
金額は条文の在りかで分かれる。地代の増減は11条に請求権があり、承諾料は19条1項後段・17条3項の財産上の給付に対応します。更新料には条文上の根拠がなく、契約に定めがある場合に支払義務が生じます。
よくある質問
Q. 契約書に「期間20年」と書かれています。20年で出ていくことになりますか。
A. 建物の所有を目的とする土地の賃貸借であれば、その定めは9条により無効です。3条が存続期間を30年としており、これより短い定めは借地権者に不利な特約として効力を持ちません。結果として存続期間は30年になります。ただし、22条から24条までの定期借地権や25条の一時使用目的に当たる場合は扱いが異なるため、契約書の内容と作成方式を確認してください。
Q. 地主が土地を売ったと聞きました。出ていく必要がありますか。
A. 借地上の建物が自分名義で登記されていれば、10条1項により新しい所有者に借地権を対抗できます。契約関係が引き継がれ、地代の支払先が変わるだけです。まず確認すべきは建物の登記の有無と名義です。建物が共有になっている場合や、名義が実際の借地権者と異なっている場合は、扱いが単純ではないため個別に確認が必要になります。
Q. 更新料を請求されました。払わなければなりませんか。
A. 借地借家法に更新料の支払を義務づける条文はありません。支払義務が生じるのは契約に更新料の定めがある場合です。まず契約書に更新料の条項があるかどうか、あるならどのように算定されることになっているかを確認してください。条項がない場合の取扱いについては、契約の経緯や従前の慣行が問題になることがあり、個別の判断になります。
Q. 建物を建て替えたいのですが、必ず地主の承諾が要りますか。
A. 契約に増改築を制限する借地条件があるかどうかによります。制限がなければ、そもそも承諾は不要です。制限がある場合において、土地の通常の利用上相当とすべき増改築について協議が調わないときは、17条2項により裁判所が承諾に代わる許可を与えることができます。その際、同条3項により財産上の給付を命じられることがあります。なお、契約の更新後に残存期間を超えて存続すべき建物を新築する場合は18条の問題になります。
Q. 地代の値上げを通知されました。応じなければなりませんか。
A. 11条1項は、公租公課の増減、経済事情の変動、近傍類似の土地の地代等との比較により不相当となったときに、当事者が増減を請求できると定めています。請求されたからといって直ちにその額になるわけではありません。協議が調わないときは、2項により、増額を正当とする裁判が確定するまでは相当と認める額を支払えば足ります。ただし裁判が確定して既払額に不足があれば、年1割の利息を付して支払うことになります。支払を止めてよいという規定ではない点に注意してください。なお一定の期間増額しない旨の特約がある場合は、その定めに従います(同項ただし書)。
宅建試験AIブートラボのアプリでは、この記事で扱った借地権の存続期間、更新の要件、対抗要件、承諾に代わる許可といった論点を、肢別トレーニングと年度別過去問演習で確認できます。
税と価格の評定は毎年ほぼ同じ形で出ます。出題パターンを肢別で押さえれば取りこぼしません。