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不動産登記法|表示の登記と権利の登記の違い

権利関係 読了 約24分

不動産登記法を表示に関する登記と権利に関する登記の対比で整理。義務の有無、職権登記、申請人の違いから、相続登記と住所等変更登記の義務化、共同申請の例外まで条番号つきで解説します。

目次

    本記事の役割 — この記事は不動産登記法の全体像を扱います。登記簿の実物をどう読むかは不動産登記簿の読み方、仮登記の詳細は仮登記と本登記の違い、民法177条との関係は物権変動と対抗要件にそれぞれ譲ります。

    不動産登記法は、条文が細かく数字も多いため、暗記の対象が散らばって見えます。しかしこの法律は一本の軸で貫かれています。表示に関する登記と権利に関する登記の区別です。

    義務があるのはどちらか。登記官が職権でできるのはどちらか。誰が申請するのか。どの専門職が扱うのか。これらはすべてこの区別に対応しています。軸を先に立てれば、個々の規定に意味が見えてきます。

    そのうえで、近年この分野は改正が集中しました。相続登記の申請義務化が2024年4月1日に施行され、所有権の登記名義人の氏名等の変更登記の申請義務化が2026年4月1日に施行されています。「権利に関する登記には申請義務がない」という長年の原則に、二つの例外が加わったことになります。古い教材はこの点が更新されていないことがあるので、条文で確認しながら進めてください。

    登記は何をする制度か

    目的は公示による取引の安全

    不動産登記法1条は、この法律の目的を「不動産の表示及び不動産に関する権利を公示するための登記に関する制度について定めることにより、国民の権利の保全を図り、もって取引の安全と円滑に資すること」と定めています。

    不動産は外から見ても誰の所有か分からず、抵当権が付いているかも分かりません。そこで国家が帳簿を作って内容を公開し、取引しようとする者が事前に権利関係を確認できるようにする。これが公示です。

    登記には公信力がない

    ここで最重要の原則があります。日本の不動産登記には公信力がありません。

    公信力とは、登記の内容を信じて取引した者が、その登記が真実と食い違っていても保護される、という効力です。日本ではこれが認められていません。したがって、登記簿にAが所有者と記録されていたのでAから買った場合でも、Aの登記が虚偽で真の所有者がCであったなら、買主は所有権を取得できないのが原則です。

    登記にあるのは対抗力です。民法177条は「不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない」と定めます。登記があれば自分の権利を第三者に主張できるが、登記があるからといって権利があるとは限らない。この非対称を最初に固めてください。第三者の範囲や背信的悪意者の議論は物権変動と対抗要件にあります。

    動産では即時取得(民法192条)という公信力に相当する制度がありますが、不動産にはこれがありません。動産との対比は占有権と即時取得で扱っています。

    登記官の審査は形式的なものにとどまる

    公信力がないことは、手続の設計とも結びついています。登記は登記官が登記簿に登記事項を記録することによって行われますが(11条)、登記官が審査するのは申請が形式的に要件を満たしているかどうかです。権利関係の実体が真実かどうかまで調査する権限(実質的審査権)は与えられていません。

    書類が整っていれば登記される以上、登記の内容が実体と食い違う余地は残ります。だから公信力を与えられない。制度の建付けとして筋が通っています。

    登記所と申請の方法

    登記の事務を取り扱うのは登記所で、法務局、地方法務局およびこれらの支局・出張所がこれにあたります。ある不動産の登記は、その不動産の所在地を管轄する登記所が扱います。管轄は不動産ごとに決まるので、遠方の物件について地元の登記所で登記の申請をすることはできません。

    もっとも、これは「申請」の話です。後述する登記事項証明書の交付請求は、法務省令で定める場合を除き管轄外の登記所に対してもできます(119条5項)。申請は管轄登記所、証明書の請求はどこでもという違いを最初に分けておいてください。

    申請の方法は、申請情報を記載した書面を提出する書面申請と、電子情報処理組織を使用するオンライン申請があります。このほか、公売や収用のように官公署が登記所に依頼する嘱託による登記もあります。嘱託の場合は当事者からの申請によらずに登記が実行されます。

    登記記録の構成と順位

    表題部と権利部

    登記記録は、一筆の土地または一個の建物ごとに作成される電磁的記録です(2条5号)。そして12条が「登記記録は、表題部及び権利部に区分して作成する」と定めます。

    表題部は表示に関する登記が記録される部分(2条7号)、権利部は権利に関する登記が記録される部分(2条8号)です。さらに不動産登記規則4条4項が、権利部は甲区および乙区に区分し、甲区には所有権に関する登記の登記事項を、乙区には所有権以外の権利に関する登記の登記事項を記録すると定めています。

    したがって、所有権移転登記も差押えの登記も甲区、抵当権設定登記も地上権設定登記も賃借権設定登記も乙区です。「所有権かそれ以外か」という一本の基準で振り分けられます。実際の記録例は不動産登記簿の読み方で確認できます。

    登記できる権利は限定されている

    何でも登記できるわけではありません。3条が登記の対象となる権利を列挙しており、所有権、地上権、永小作権、地役権、先取特権、質権、抵当権、賃借権、配偶者居住権、採石権の十種です。配偶者居住権が入っている点は、相続法改正で加わったもので見落とされがちです。

    用益物権の中身は地上権・地役権・永小作権、賃借権の登記と借地権の対抗要件の関係は借地権の対抗要件にあります。

    順位は登記の前後で決まる

    4条1項は「同一の不動産について登記した権利の順位は、法令に別段の定めがある場合を除き、登記の前後による」と定めます。抵当権の優劣が登記の前後で決まる(民法373条)のはこの原則の現れです。

    では「登記の前後」はどう判定するのか。不動産登記規則2条1項が具体化しており、登記記録の同一の区にした登記相互間については順位番号、別の区にした登記相互間については受付番号によると定めています。甲区の中どうし、乙区の中どうしなら順位番号を比べ、甲区と乙区をまたぐときは受付番号を比べる、ということです。

    なお付記登記の順位は主登記の順位により、同一の主登記に係る付記登記の順位はその前後によります(4条2項)。抵当権の順位の実務的な意味は抵当権の基本根抵当権にあります。

    表示に関する登記は義務がある

    一月以内という共通の期限

    表示に関する登記の最大の特徴は、申請義務があることです。しかも期限はいずれも一月以内で揃っています。条文ごとに確認します。

    36条は土地の表題登記について、新たに生じた土地または表題登記がない土地の所有権を取得した者は、その所有権の取得の日から一月以内に表題登記を申請しなければならない、と定めます。埋立てなどで土地が新たに生じた場合と、まだ登記されていない土地を取得した場合の両方が対象です。

    47条1項は建物の表題登記について、新築した建物または区分建物以外の表題登記がない建物の所有権を取得した者は、その所有権の取得の日から一月以内に申請しなければならない、と定めます。起算点が「新築した日」ではなく「所有権の取得の日」である点に注意してください。

    37条1項は、地目または地積について変更があったときは、表題部所有者または所有権の登記名義人が、その変更があった日から一月以内に変更の登記を申請しなければならない、と定めます。42条は土地が滅失したとき、57条は建物が滅失したときで、いずれも滅失の日から一月以内です。51条1項は建物の表題部の登記事項に変更があったときで、これも変更の日から一月以内です。

    義務違反には制裁があります。164条1項が、36条、37条1項・2項、42条、47条1項、51条1項から4項まで、57条などの規定による申請をすべき義務がある者が正当な理由がないのにその申請を怠ったときは、十万円以下の過料に処すると定めています。

    登記官が職権でできる

    もうひとつの特徴が職権登記です。28条は「表示に関する登記は、登記官が、職権ですることができる」と、一文だけで定めています。

    表示に関する登記は不動産の物理的な現況を写すものなので、私人の意思にかからしめる必要がありません。むしろ現況と登記が食い違っていること自体が公示制度の欠陥になります。だから登記官が自ら是正できる建付けになっています。義務があることと職権でできることは、どちらも「現況を正しく反映させる」という同じ要請から出ています。

    合筆の制限は六つ

    分筆は一筆の土地を分けること、合筆は複数の土地を一筆にまとめることです。合筆には制限があり、41条が六つの場合を列挙しています。

    相互に接続していない土地(1号)、地目または地番区域が相互に異なる土地(2号)、表題部所有者または所有権の登記名義人が相互に異なる土地(3号)、表題部所有者または所有権の登記名義人が相互に持分を異にする土地(4号)、所有権の登記がない土地と所有権の登記がある土地(5号)、所有権の登記以外の権利に関する登記がある土地(6号、ただし合筆後の登記記録に登記できるものとして法務省令で定めるものがある土地を除く)。

    2号が「地目または地番区域」であること、4号の持分を異にする場合が独立した号として置かれていることは、見落とされやすい部分です。

    申請するのは表題部所有者か所有権の登記名義人

    表示に関する登記の申請人にも特徴があります。条文に繰り返し出てくるのが「表題部所有者又は所有権の登記名義人」という組み合わせです(37条1項、42条、51条1項、57条など)。

    表題部所有者とは、所有権の登記がない不動産の登記記録の表題部に所有者として記録されている者をいい(2条10号)、登記名義人とは登記記録の権利部に権利者として記録されている者をいいます(2条11号)。まだ所有権の登記がなされていない段階では表題部所有者が、所有権の保存の登記がされた後は所有権の登記名義人が、それぞれ申請義務を負う立場になります。権利部に所有者が現れたら、表題部の記載は所有者の欄としての役目を終えるという関係です。

    権利に関する登記が登記権利者と登記義務者という対立する二者を想定するのに対し、表示に関する登記は所有者側の単独申請で完結します。対立当事者がいないからです。

    担当する専門職も分かれる

    表示に関する登記を業として代理するのは土地家屋調査士、権利に関する登記を業として代理するのは司法書士です。この住み分けは、表示か権利かという区別がそのまま資格制度に反映されたものです。それぞれの業務範囲は土地家屋調査士と宅建司法書士と宅建のダブルライセンスで扱っています。

    権利に関する登記は原則任意、ただし例外が二つ

    原則は申請義務なし

    権利に関する登記には、原則として申請義務がありません。登記をするかどうかは権利者の判断に委ねられています。

    もっとも、登記をしなければ第三者に対抗できません(民法177条)。義務ではないが、しなければ不利益を受ける。これが権利に関する登記のインセンティブ構造でした。表示に関する登記が過料という制裁で義務を担保しているのとは、性格がまったく違います。

    ところが、この原則に二つの例外が加わりました。所有者不明土地の発生を抑えるための改正で、いずれも民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第24号)によるものですが、施行時期が異なります

    相続登記の申請義務化は2024年4月1日から

    76条の2第1項は、所有権の登記名義人について相続の開始があったときは、当該相続により所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から三年以内に所有権の移転の登記を申請しなければならない、と定めます。相続人に対する遺贈により所有権を取得した者も同様です。

    起算点が「相続開始の日」ではなく「知った日」であることを押さえてください。しかも二つの認識が必要で、相続が開始したことを知り、かつその不動産の所有権を取得したことを知った日から数えます。

    第2項も重要です。法定相続分(民法900条・901条により算定した相続分)に応じた登記がされた後に遺産分割があったときは、その分割によって相続分を超えて所有権を取得した者が、遺産分割の日から三年以内に所有権の移転の登記を申請しなければなりません。一度登記して終わりではないということです。遺産分割との関係は遺産分割協議と相続登記義務化、相続そのものの枠組みは相続にあります。

    この義務は施行日前に開始した相続にも及びます。過去の未登記を放置したままにできない設計で、その場合は施行日から三年以内が期限になります。義務違反は164条1項により十万円以下の過料の対象です。

    相続人申告登記という逃げ道

    三年以内に相続登記を済ませるのは、相続人が多数いる場合や遺産分割がまとまらない場合には困難です。そこで76条の3が相続人である旨の申出という簡易な手続を新設しました。

    76条の2第1項の申請義務を負う者は、登記官に対し、所有権の登記名義人について相続が開始した旨および自らがその相続人である旨を申し出ることができます(1項)。そして期間内にこの申出をした者は、所有権の移転の登記を申請する義務を履行したものとみなされます(2項)。登記官は申出があったときは職権でその旨と申出人の氏名住所等を所有権の登記に付記することができます(3項)。

    ただし申出は暫定的な措置です。その後の遺産分割によって所有権を取得したときは、遺産分割の日から三年以内に所有権の移転の登記を申請しなければなりません(4項)。この義務を怠った場合も164条1項の過料の対象です。

    単独で、持分を確定させずに、義務を履行したものとみなしてもらえる。これが相続人申告登記の要点です。

    住所等変更登記の申請義務化は2026年4月1日から

    もう一つの例外が、所有権の登記名義人の氏名等の変更登記です。76条の5は2026年4月1日に施行され、現在すでに義務として機能しています。

    条文はこうです。所有権の登記名義人の氏名もしくは名称または住所について変更があったときは、当該所有権の登記名義人は、その変更があった日から二年以内に、氏名もしくは名称または住所についての変更の登記を申請しなければならない。

    相続登記との違いを二点押さえてください。第一に、期限が二年です。相続登記の三年ではありません。第二に、過料の額が違います。164条2項は、76条の5の規定による申請をすべき義務がある者が正当な理由なく申請を怠ったときは五万円以下の過料に処すると定めており、相続登記の十万円以下(164条1項)とは別の額です。詳細は住所変更登記の義務化にあります。

    権利に関する登記にも職権登記が入った

    ここで、従来の整理が一つ崩れています。「表示に関する登記は職権でできるが、権利に関する登記は職権ではできない」という説明が長く使われてきましたが、76条の6が例外を作りました

    登記官は、所有権の登記名義人の氏名もしくは名称または住所について変更があったと認めるべき場合として法務省令で定める場合には、職権で変更の登記をすることができる。ただし当該所有権の登記名義人が自然人であるときは、その申出があるときに限る、というものです。

    法人については職権で更新でき、自然人については本人の申出が前提になる。プライバシーへの配慮から区別が置かれています。「権利に関する登記は職権ではできない」と断定すると、現行法では不正確になります。28条の職権登記が表示に関する登記について無限定に認められているのとは、性質が違うという整理をしてください。

    共同申請の原則と単独申請の例外

    原則は登記権利者と登記義務者の共同申請

    60条は「権利に関する登記の申請は、法令に別段の定めがある場合を除き、登記権利者及び登記義務者が共同してしなければならない」と定めます。

    登記権利者とは、権利に関する登記をすることにより登記上直接に利益を受ける者(2条12号)、登記義務者とは登記上直接に不利益を受ける登記名義人(2条13号)です。いずれも「直接」に限られ、間接に利益や不利益を受ける者は含まれません。AからBへの売買による所有権移転なら、Bが登記権利者、Aが登記義務者です。

    共同申請を要求するのは、不利益を受ける側を手続に関与させることで登記の真正を担保するためです。実質的審査権を持たない登記官の代わりに、当事者双方の関与が真実性の担保になっているという構造です。

    単独申請が認められる場合

    例外は条文ごとに置かれています。

    63条1項は判決による登記で、共同して申請しなければならない者の一方に登記手続をすべきことを命ずる確定判決による登記は、他方が単独で申請できます。判決が相手方の申請意思に代わるからです。

    63条2項は「相続又は法人の合併による権利の移転の登記は、登記権利者が単独で申請することができる」と定めます。相続の場合、登記義務者である被相続人が死亡しているため共同申請が構造的に不可能です。

    63条3項は見落とされやすい規定です。遺贈(相続人に対する遺贈に限る)による所有権の移転の登記は、60条にかかわらず登記権利者が単独で申請できます。相続人以外の第三者への遺贈は共同申請のままなので、括弧書きが効いています。

    64条1項は「登記名義人の氏名若しくは名称又は住所についての変更の登記又は更正の登記は、登記名義人が単独で申請することができる」。不利益を受ける相手方が存在しないためです。

    74条は所有権の保存の登記で、申請できる者を限定列挙しています。表題部所有者またはその相続人その他の一般承継人(1項1号)、所有権を有することが確定判決によって確認された者(2号)、収用によって所有権を取得した者(3号)。そして2項が、区分建物にあっては表題部所有者から所有権を取得した者も申請できると定め、当該建物が敷地権付き区分建物であるときは敷地権の登記名義人の承諾を得なければならないとしています。区分建物の特則と承諾要件はセットで覚えてください。区分建物の基礎は区分所有法にあります。

    なお62条は、登記権利者・登記義務者・登記名義人について相続その他の一般承継があったときは、相続人その他の一般承継人が当該権利に関する登記を申請することができると定めています。被相続人が生前に負っていた登記申請の立場を承継する規定で、63条2項の相続登記そのものとは別の場面です。

    登記識別情報と本人確認

    権利証に代わる仕組み

    登記官は、その登記をすることによって申請人自らが登記名義人となる場合において登記を完了したときは、速やかに当該申請人に対し登記識別情報を通知しなければなりません(21条本文)。ただし申請人があらかじめ通知を希望しない旨の申出をした場合等は除かれます(同条ただし書)。

    不動産登記規則61条は「登記識別情報は、アラビア数字その他の符号の組合せにより、不動産及び登記名義人となった申請人ごとに定める」と規定しています。かつての権利証(登記済証)に代わる仕組みで、紙の証書ではなく符号である点が本質的な違いです。再発行はされません。

    そして22条本文が、共同して権利に関する登記を申請する場合等には、申請人は申請情報と併せて登記義務者の登記識別情報を提供しなければならないと定めます。ただし、通知されなかった場合その他提供することができないことにつき正当な理由がある場合は除かれます(同条ただし書)。

    提供できないときの手当て

    登記識別情報を提供できないときは、23条の事前通知が働きます。登記官は登記義務者に対し、申請があった旨および申請の内容が真実であると思料するときは法務省令で定める期間内にその旨の申出をすべき旨を通知しなければならず、その期間内は、申出がない限り登記をすることができません(1項)。

    期間は不動産登記規則70条8項が定めており、通知を発送した日から二週間、登記義務者が外国に住所を有する場合は四週間です。

    23条2項には前住所通知という別の仕組みもあります。申請が所有権に関するものであって、登記義務者の住所について変更の登記がされているときは、法務省令で定める場合を除き、登記をする前に、登記記録上の前の住所にあてても申請があった旨を通知しなければなりません。住所を偽って移転登記を仕掛ける類型への備えです。

    事前通知に代えて、資格者代理人が登記義務者と面談して本人確認情報を提供する方法もあります(23条4項1号)。実務ではこちらが多く使われます。

    仮登記と登記事項証明書

    仮登記は二つの場合にできる

    105条は仮登記ができる場合を二つ挙げます。1号は、3条各号の権利について保存等があった場合において、登記申請に必要な情報のうち法務省令で定めるものを提供することができないとき。2号は、3条各号の権利の設定、移転、変更または消滅に関する請求権を保全しようとするとき(始期付きまたは停止条件付きのものを含む)。前者が1号仮登記、後者が2号仮登記です。

    効力の中核は106条で、仮登記に基づいて本登記をした場合、当該本登記の順位は当該仮登記の順位によると定めます。これが順位保全効です。仮登記そのものには対抗力がなく、本登記をして初めて仮登記の順位で対抗力が生じます。

    ここで見落とされやすいのが109条1項です。所有権に関する仮登記に基づく本登記は、登記上の利害関係を有する第三者がある場合には、当該第三者の承諾があるときに限り申請することができます。承諾が得られなければ本登記の申請自体ができません。承諾があって本登記がされたときは、登記官が職権でその第三者の権利に関する登記を抹消します(同条2項)。「仮登記さえしておけば後の第三者に当然に勝てる」という理解は不正確です。

    申請方法も特則があります。107条1項は、仮登記の登記義務者の承諾があるときおよび仮登記を命ずる処分があるときは、60条にかかわらず仮登記の登記権利者が単独で申請できると定めます。110条は仮登記の抹消について、仮登記の登記名義人が単独で申請でき、仮登記の登記名義人の承諾がある場合における登記上の利害関係人も同様であるとしています。仮登記の全体像は仮登記と本登記の違いにあります。

    登記事項証明書は誰でも請求できる

    119条1項は「何人も、登記官に対し、手数料を納付して、登記記録に記録されている事項の全部又は一部を証明した書面の交付を請求することができる」と定めます。利害関係は要りません。公示制度である以上、閲覧の門戸を閉ざす理由がないからです。

    5項により、交付の請求は法務省令で定める場合を除き、請求に係る不動産の所在地を管轄する登記所以外の登記所の登記官に対してもすることができます。管轄外でも取得できるということです。

    6項には配慮規定があります。登記記録に記録されている自然人の住所が明らかにされることにより人の生命もしくは身体に危害を及ぼすおそれがある場合等において、その者からの申出があったときは、登記官は住所に代わる事項を記載しなければなりません。ドメスティック・バイオレンスの被害者などを想定した仕組みです。

    試験での出題ポイント

    義務の有無を入れ替える

    「建物を新築した場合、所有権の保存の登記を一月以内に申請しなければならない」という選択肢は誤りです。一月以内の義務があるのは表題登記(47条1項)であって、所有権の保存の登記(74条)は権利に関する登記で申請義務がありません。表示か権利かの振り分けを間違えると、正しい数字を覚えていても落とします。

    起算点をずらす

    相続登記の三年は「相続の開始があった日から」ではなく「自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から」です(76条の2第1項)。建物の表題登記の一月は「新築の日から」ではなく「所有権の取得の日から」です(47条1項)。起算点だけをすり替える選択肢は定番です。

    二つの義務化を混ぜる

    相続登記と住所等変更登記は、期限も過料も違います。相続登記は知った日から三年以内で十万円以下の過料(76条の2、164条1項)、住所等変更登記は変更があった日から二年以内で五万円以下の過料(76条の5、164条2項)。数字を入れ替えた選択肢が作りやすい箇所です。

    職権登記を断定させる

    「権利に関する登記について登記官が職権で登記をすることはできない」という選択肢は、現行法では誤りになりえます。76条の6が所有権の登記名義人の氏名等の変更登記について職権登記を認めているからです。ただし自然人については申出があるときに限られる、という限定まで含めて押さえてください。

    単独申請の範囲

    相続による所有権移転登記が単独申請であること(63条2項)は繰り返し問われます。あわせて、遺贈による所有権移転登記が単独申請できるのは相続人に対する遺贈に限られること(63条3項)も確認しておいてください。相続人以外への遺贈は共同申請のままです。

    仮登記の本登記に承諾が要る

    「所有権に関する仮登記に基づく本登記は、利害関係を有する第三者があっても、その承諾を得ることなく申請することができる」は誤りです。109条1項が第三者の承諾があるときに限り申請できると定めています。

    公信力と対抗力の言い換え

    「登記には公信力があるため、登記を信頼して取引した者は保護される」は誤りです。日本の登記に認められているのは対抗力であって公信力ではありません。「公示力はあるが公信力はない」という言い回しで覚えておくと、選択肢の言い換えに反応できます。

    覚え方・整理の仕方

    「表示か権利か」を最初に判定する

    この分野の問題は、選択肢を読んだらまず表示に関する登記の話か権利に関する登記の話かを判定するところから始めてください。ここが決まれば、残りの属性がほぼ自動的に決まります。

    表示に関する登記なら、申請義務があり、期限は一月以内で、登記官が職権でできて、申請するのは表題部所有者や所有権の登記名義人、担当は土地家屋調査士。権利に関する登記なら、原則として申請義務がなく、共同申請が原則で、担当は司法書士。

    この二本の縦列を作ってしまえば、細かい条文は列のどちらかに置くだけの作業になります。

    数字は「何を数えているか」で分ける

    登記法の数字は、期限の二系統に分けると混線しません。

    期限は、表示に関する登記が一月、相続登記が三年、住所等変更登記が二年、事前通知の申出が二週間(外国に住所があれば四週間)。額は、表示に関する登記と相続登記の違反が十万円以下の過料、住所等変更登記の違反が五万円以下の過料。

    覚え方としては、「表示は一月、相続は三年、住所は二年」と唱えてから、「過料は十万円、住所だけ五万円」と足す。二段階に分けると取り違えが起きにくくなります。宅建全体の数字整理の考え方は権利関係の頻出論点でも触れています。

    単独申請は「相手がいない」で説明できる

    単独申請の例外を丸暗記する必要はありません。共同申請を要求する理由は、不利益を受ける相手方を関与させて真正を担保することにあります。だから、その相手方が存在しないか、関与させる必要がない場面では単独申請になります。

    相続は登記義務者が死亡している。判決は相手方の意思が判決で代替されている。登記名義人の氏名住所の変更は、そもそも不利益を受ける者がいない。所有権の保存は、まだ権利部に誰も記録されていないので対立する相手がいない。理由から引き直せるので、忘れても復元できます。

    二つの義務化は「何を追跡したいか」で対比する

    相続登記と住所等変更登記は、どちらも所有者不明土地の発生を抑える改正ですが、狙っている情報が違います。相続登記は所有者が誰に変わったかを追跡し、住所等変更登記はその所有者にどう連絡がつくかを追跡します。

    前者は権利の帰属そのものの問題なので期限が長く(三年)、制裁も重い(十万円以下)。後者は連絡先の更新なので期限が短く(二年)、制裁は軽い(五万円以下)。何のための義務かを考えると、数字の大小にも理由が見えます。改正論点の全体像は権利関係の民法改正まとめにあります。

    公信力がないことを取引の場面で思い出す

    公信力がないという原則は、抽象的に覚えると使えません。登記を見て安心して買った買主が保護されない場面として記憶してください。だからこそ実務では登記だけでなく現地確認や本人確認が必要になり、重要事項説明では登記された権利の内容を説明することが義務づけられています(宅地建物取引業法35条1項1号)。説明事項としての扱いは35条書面の記載事項一覧、買主側の確認の視点は重要事項説明書の読み方にあります。

    理解度チェッククイズ

    問1 建物を新築した所有者は、その建物について所有権の保存の登記を、所有権の取得の日から一月以内に申請しなければならない。

    答え:×。一月以内の申請義務があるのは表題登記です。47条1項は、新築した建物または区分建物以外の表題登記がない建物の所有権を取得した者は、その所有権の取得の日から一月以内に表題登記を申請しなければならないと定めています。所有権の保存の登記は74条が定める権利に関する登記であり、申請義務はありません。表示に関する登記と権利に関する登記の振り分けを取り違えさせる典型的な出題です。

    問2 所有権の登記名義人について相続が開始した場合、当該相続により所有権を取得した者は、相続の開始があった日から三年以内に所有権の移転の登記を申請しなければならない。

    答え:×。76条の2第1項の起算点は「相続の開始があった日」ではなく、「自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日」から三年以内です。二つの認識が揃った日から数えます。なお、期間内に76条の3第1項の相続人である旨の申出をした者は、申請義務を履行したものとみなされます(同条2項)。

    問3 所有権の登記名義人の住所に変更があった場合、その登記名義人は変更があった日から三年以内に変更の登記を申請しなければならず、怠ったときは十万円以下の過料に処せられる。

    答え:×。76条の5は「その変更があった日から二年以内」と定めており、三年ではありません。過料も164条2項により五万円以下で、相続登記の違反に対する十万円以下(164条1項)とは異なります。この義務化は2026年4月1日に施行され、現在すでに適用されています。相続登記の三年・十万円と、住所等変更登記の二年・五万円を取り違えないでください。

    問4 遺贈による所有権の移転の登記は、受遺者が相続人であるかどうかにかかわらず、登記権利者が単独で申請することができる。

    答え:×。63条3項が単独申請を認めているのは「遺贈(相続人に対する遺贈に限る)による所有権の移転の登記」です。括弧書きにより相続人に対する遺贈に限定されているため、相続人以外の第三者に対する遺贈による所有権移転登記は、60条の原則どおり共同申請によります。なお相続または法人の合併による権利の移転の登記は、63条2項により登記権利者が単独で申請できます。

    問5 所有権に関する仮登記に基づく本登記は、登記上の利害関係を有する第三者がある場合には、その第三者の承諾があるときに限り、申請することができる。

    答え:○。109条1項がそのとおり定めています。仮登記に基づいて本登記をすれば本登記の順位は仮登記の順位によりますが(106条)、所有権に関する仮登記の場合、利害関係を有する第三者がいるときはその承諾がなければ本登記の申請自体ができません。承諾を得て本登記がされたときは、登記官が職権でその第三者の権利に関する登記を抹消します(同条2項)。

    まとめ

    • 不動産登記法は表示に関する登記と権利に関する登記の区別を軸に読むと整理できます。表示に関する登記は申請義務があり(36条、37条、42条、47条、51条、57条。いずれも一月以内)、登記官が職権でできます(28条)。権利に関する登記は原則として申請義務がなく、共同申請が原則です(60条)。担当する専門職も土地家屋調査士と司法書士に分かれます。
    • 権利に関する登記の「義務なし」の原則には、二つの例外が加わりました。相続登記の申請義務化が2024年4月1日施行で、知った日から三年以内、違反は十万円以下の過料(76条の2、164条1項)。住所等変更登記の申請義務化が2026年4月1日施行で、変更の日から二年以内、違反は五万円以下の過料(76条の5、164条2項)。三年間の猶予として相続人申告登記(76条の3)が用意され、期間内に申出をすれば義務を履行したものとみなされます。
    • 日本の登記に公信力はなく、あるのは対抗力です(民法177条)。登記官の審査が形式的なものにとどまることと表裏一体の帰結で、この原則が仮登記の順位保全効(106条)や、所有権に関する仮登記の本登記に第三者の承諾を要する規定(109条1項)の理解にもつながります。

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