生活の場面から入る宅建|契約書と条文
部屋を借りる、家を買う、契約をやめる、更新する。日常の不動産の場面を宅建業法・民法・借地借家法の条文に結び直し、試験での問われ方まで解説します。
目次
本記事の役割 — この記事は、宅建試験の学習を始めた人が、条文を自分の経験に接地させるための入口です。各論の深掘りは本文中のリンク先に譲り、ここでは「生活のあの場面は、どの条文が動いていたのか」を通しで確認します。宅建業法の全体像は宅建業法の全体像から入るのが早道です。
宅建試験の条文は、初めて読むと抽象的に見えます。「宅地建物取引業者は、契約が成立するまでの間に、宅地建物取引士をして、重要事項を説明させなければならない」。この一文だけを眺めても、頭に像が結びません。
ところが、部屋を借りた経験がある人は、この条文が指している場面をすでに知っています。契約日より前に不動産会社の一室に呼ばれ、担当者が首から下げたカードを見せ、分厚い書類を読み上げていく。あの時間が35条の重要事項説明です。条文が抽象的なのではなく、条文と自分の記憶が結びついていないだけなのです。
この記事では、部屋を借りる、家を買う、契約をやめる、更新する、という四つの場面を取り上げ、その裏で動いている条文に一つずつ戻していきます。生活上の得や損の話はしません。制度がなぜその形になっているのかを説明します。
部屋を借りるときに渡される書類は、どの条文の産物か
賃貸借契約を結ぶと、手元には複数の書類が残ります。重要事項説明書、賃貸借契約書、媒介契約書、入居のしおり。このうち法律が名指しで交付を義務づけているものは限られており、それぞれ根拠条文も義務者も違います。
契約の前に説明されるものが35条書面
宅地建物取引業法35条1項は、宅建業者に対し、契約が成立するまでの間に、宅地建物取引士をして一定の事項を説明させることを義務づけています。この説明に用いる書面が、実務でいう重要事項説明書、通称35条書面です。
押さえるべき分担が三つあります。書面を交付する義務を負うのは宅建業者です。説明をするのは宅地建物取引士でなければなりません。そして書面に記名するのも宅地建物取引士です。交付そのものは宅建士の独占業務ではないので、事務職員が手渡しても違反にはなりません。宅建士でなければできないのは、重要事項の説明、35条書面への記名、37条書面への記名の三つだけです。この切り分けは宅建士の独占業務で扱っています。
説明のときに担当者がカードを提示したのは、35条4項が宅地建物取引士証の提示を義務づけているからです。相手方から請求がなくても提示しなければならず、怠れば10万円以下の過料の対象になります(法86条)。あの動作は接客上の礼儀ではなく、法定の義務の履行でした。
記載事項の並びにも理由があります。登記されている権利、法令上の制限、私道負担、電気・ガス・上下水道の整備状況、未完成物件なら完成時の形状・構造。物件が誰のもので、公法上どう縛られていて、外側との関係はどうで、ライフラインは来ているか、という順に、外枠から内側へ降りていく構造です。項目ごとの整理は35条書面の完全整理にあります。
契約の後に渡されるものが37条書面
契約書に署名した後、あるいは同時に渡される契約書のほうは、37条書面としての性格を持ちます。37条は、契約が成立したときに遅滞なく、一定事項を記載した書面を当事者に交付することを業者に義務づけています。
35条書面との違いで最も重要なのは、37条書面には説明義務がないことです。宅建士が関与するのは記名の場面だけで、交付を宅建士以外の従業者が行っても構いません。「37条書面は宅地建物取引士が交付しなければならない」という記述は誤りです。
交付の相手も違います。35条書面を受け取るのは買主や借主、つまりこれから権利を取得する側です。売主に渡す必要はありません。これに対し37条書面は契約の両当事者に交付します。実務では、賃貸借契約書に37条の記載事項を盛り込み、宅建士が記名することで37条書面を兼ねるのが一般的で、「37条書面」という表題の別紙は存在しません。記載事項の切り分けは37条書面の記載事項、両者の横断整理は35条書面と37条書面の横断整理にまとめています。
なぜ契約の前後で二つに分けたのか
同じ内容を一枚にまとめればよさそうに見えますが、二つの書面は目的が違います。
35条書面が守ろうとしているのは、契約するかどうかを決める前の判断です。物件に抵当権が付いている、前面道路が建築基準法上の道路に当たらない、水害ハザードマップ上で浸水想定区域に入っている。こうした事情は、知っていれば契約しなかったかもしれない情報です。だから契約成立の前でなければ意味がなく、しかも読ませるだけでなく説明させる。
37条書面が守ろうとしているのは、契約した後の紛争予防です。代金の額、引渡しの時期、移転登記の申請時期、契約の解除に関する定め。これらは合意した内容を後から確認できるようにしておくためのもので、契約が成立して初めて内容が確定します。だから交付は契約後で足り、説明までは要求されない。
判断のための情報は事前に説明させ、合意の記録は事後に書面化する。時間軸と目的がセットになっていると理解しておくと、「35条書面は契約後に交付してもよい」といった選択肢に反応できるようになります。
賃貸で特に見落とされやすい項目
賃貸借に固有の記載事項があります。台所・浴室・便所等の設備の整備状況は、建物の貸借に限られる項目です。宅地の貸借には建物がないので適用がなく、売買でも記載事項ではありません。買主は現物を確認するのが前提で、建物の状態は別の仕組みで処理されるからです。
契約期間と契約の更新、用途その他の利用の制限、敷金その他の金銭の精算に関する事項、管理の委託先。いずれも貸借だけの項目で、退去時のトラブルの多くはここに書かれていた内容をめぐって起きています。貸借に特有の論点は貸借の重要事項説明で詳しく扱っています。
説明された権利関係は、自分でも確かめられる
35条1項1号が最初に置いているのは、当該宅地または建物の上に存する登記された権利の種類および内容です。所有権が誰にあり、抵当権や賃借権が付いているかを説明させる項目です。
この説明の裏付けとなる登記記録は、法務局で誰でも取得できます。不動産の登記記録が公開されているのは、権利の所在を外から確認できる状態にしておくことが取引の安全につながるからです。所有者本人しか見られない仕組みにすると、買主は売主の言い分を信じるほかなくなり、二重譲渡や無権利者からの購入を防げません。民法177条が不動産物権変動の対抗要件を登記としているのも、同じ考え方の延長にあります。
登記記録は三つの部分に分かれます。表題部が所在・地番・地目・面積といった物理的な現況、権利部の甲区が所有権に関する事項、権利部の乙区が所有権以外の権利、つまり抵当権や地上権、賃借権です。35条書面で「乙区に抵当権の設定登記あり」と説明されたら、その物件が売主の借入れの担保になっているという意味になります。
ここで注意したいのは、登記に公信力がないことです。登記を信じて取引した者が、それだけで保護されるわけではありません。登記は対抗要件であって権利の存在を保証するものではないため、宅建業者には登記の確認に加えて現地や関係書類の調査が求められます。35条の説明義務が置かれている理由の一つがここにあります。登記記録の読み方は登記簿の読み方で扱っています。
なお、重要事項説明はオンラインでも可能です。2022年5月18日施行の改正で押印義務が廃止され、相手方の承諾を得れば電磁的方法による提供もできるようになりました。ただし承諾は書面または電磁的方法で得る必要があり、口頭では足りません。また電子化されても説明義務そのものは消えません。要件はIT重説の要件にまとめています。
仲介手数料の上限は、法律のどこから出てくるのか
賃貸の契約時に「仲介手数料は家賃の1か月分です」と言われ、売買では「物件価格の3パーセントプラス6万円」と説明される。この数字は業界の慣習ではなく、条文と告示から導かれています。
46条は上限そのものを書いていない
宅地建物取引業法46条1項は、宅建業者が受けることのできる報酬の額は国土交通大臣の定めるところによる、と定めます。2項が、その額を超えて報酬を受けてはならないという超過受領の禁止。3項が大臣の告示義務、4項が事務所ごとの掲示義務です。
つまり46条自体はパーセンテージを書いていません。具体的な上限は昭和45年建設省告示第1552号、いわゆる報酬告示が定めており、この告示は消費税率の変更や制度改正のたびに改められています。直近では令和6年7月1日施行の改正が入りました。
法律が枠だけを定めて具体的な数値を告示に委ねているのは、税率変更や社会情勢の変化に対応するためです。法改正を待たずに数値を動かせる構造になっている、と理解しておくと条文の書きぶりが腑に落ちます。
「3パーセント+6万円」がどこから出てくるか
告示は代金額を三つの帯に分け、200万円以下の部分に5.5パーセント、200万円超400万円以下の部分に4.4パーセント、400万円を超える部分に3.3パーセントを乗じた額の合計を上限としています。この数値は消費税等相当額を含んだものです。税抜きに直せば5パーセント、4パーセント、3パーセントになります。
3,000万円の物件で計算すると、200万円までの部分が10万円、200万円から400万円までの部分が8万円、400万円を超える2,600万円の部分が78万円で、合計96万円(税抜き)。これに消費税を加えて105万6,000円が上限です。
速算式の「6万円」は、この三段階計算を一段階に圧縮したときの補正額です。全額に3パーセントを乗じると、200万円以下の部分で2パーセント分(4万円)、200万円超400万円以下の部分で1パーセント分(2万円)が不足します。合計6万円。だから400万円を超える取引に限り「代金額の3パーセント+6万円」で同じ答えが出るのであって、この式は400万円以下の取引には使えません。計算問題の型は報酬計算のパターンで整理しています。
賃貸の1か月分と、居住用建物の0.55倍
貸借の媒介では、依頼者の双方から受ける報酬の合計額が借賃の1か月分の1.1倍以内とされています。売買が「依頼者の一方につき」で枠を立てるのに対し、貸借は「双方の合計」で枠を立てる。ここが構造上の違いです。
そのうえで、居住の用に供する建物の賃貸借の媒介については、依頼者の一方から受けられる額が原則として借賃の1か月分の0.55倍以内に制限されています。借主と貸主で折半するのが原則ということです。実務で借主が1か月分を負担することが多いのは、告示が「当該媒介の依頼を受けるに当たって当該依頼者の承諾を得ている場合を除き」という例外を置いているからです。
注意すべきは承諾の時期です。条文は「依頼を受けるに当たって」と時期を限定しています。契約が成立した後に承諾を求めても、0.55倍を超えて受け取る根拠にはなりません。「あとから承諾を取れば増額できる」という選択肢は誤りだと覚えてください。報酬規制の全体構造は報酬額の制限、実務側の話は仲介手数料の仕組みと上限にあります。
上限を超えたらどうなるか
超過して受領すれば46条2項違反となり、82条2号により100万円以下の罰金の対象です。加えて監督処分の対象にもなり、受け取りすぎた分は民法703条の不当利得として返還義務が生じます。
興味深いのは、47条2号が別に「不当に高額の報酬を要求する行為」を禁じている点です。こちらは実際に受け取っていなくても、要求した時点で違反が成立します。しかも80条による法定刑は1年以下の拘禁刑もしくは100万円以下の罰金、またはこれらの併科で、実際に受け取った場合より重い。要求そのものの悪質性が高く評価されている、という理解になります。
敷金が返ってくる理由は、民法に書いてある
退去時の敷金精算は、生活上の関心が最も高い場面の一つです。ここは2020年4月1日施行の民法改正で条文が新設された分野で、それ以前は判例とガイドラインに頼っていました。
敷金の定義が条文になった
民法622条の2第1項は、敷金を「いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭」と定義しました。
「いかなる名目によるかを問わず」という書き出しが効いています。保証金と呼ぼうと預り金と呼ぼうと、債務担保の目的で交付された金銭なら敷金として扱われる。名称による潜脱を封じた規定です。
明渡しが先、返還が後
同項は、賃貸借が終了し、かつ賃貸物の返還を受けたときに、敷金の額から賃借人の債務の額を控除した残額を返還しなければならないとしています。
順序が条文に書かれている点が重要です。物件を明け渡してから敷金が返る。したがって敷金返還義務と明渡義務は同時履行の関係に立ちません。「敷金を返してくれるまで鍵は渡さない」という主張は、この条文の順序に反します。明渡しまでに生じた損害まで控除できるようにするための順序だ、と考えると理由まで含めて記憶に残ります。
同条2項は、賃貸人が未払債務に敷金を充当できる一方、賃借人の側から充当を請求することはできないと定めます。担保として預かっている側の権利であって、預けた側が自由に使えるものではない、ということです。
原状回復から通常損耗と経年変化が外れた
民法621条は、賃借人は賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷を原状に復する義務を負うとしたうえで、かっこ書きで「通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化」を除いています。さらにただし書が、賃借人に帰責事由がない損傷を除いています。
したがって賃借人が原状回復義務を負うのは、通常損耗でも経年変化でもなく、かつ賃借人に帰責事由がある損傷に限られます。日焼けによる壁紙の変色や、家具の設置による床のへこみは、そもそも「損傷」から外れている側です。除外されているのではなく、最初から対象に入っていない、という条文の作りを押さえてください。賃貸借全体の構造は賃貸借、精算実務との関係は敷金と礼金で扱っています。
特約で通常損耗を借主負担にできるか
賃貸借契約書に「退去時のハウスクリーニング費用は借主負担とする」という条項が入っていることがあります。621条は任意規定なので、特約で修正すること自体は可能です。
ただし判例は要件を絞っています。最高裁平成17年12月16日判決は、賃借人に通常損耗の原状回復義務を負わせるには、賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が契約書の条項自体に具体的に明記されているか、口頭で説明されて賃借人が明確に認識し合意の内容としたものと認められるなど、その旨の特約が明確に合意されている必要があるとしました。
「通常損耗も借主負担とする」という一行だけでは足りず、どの範囲をいくらで負担するのかが具体的でなければならない。特約の有効性を、意思表示があったかどうかではなく、内容の具体性で判断している点が特徴です。
契約をやめたいとき、なぜ場所で結論が変わるのか
住宅展示場で話が進み、その場で申込書に署名してしまった。翌週になって考え直したい。この場面を規律しているのが宅地建物取引業法37条の2、クーリング・オフの制度です。
三つの前提
37条の2が適用されるには、売主が宅建業者であること、買主が宅建業者でないこと、そして買受けの申込みまたは契約が事務所等以外の場所で行われたことが必要です。
売主が個人である中古住宅の売買では、宅建業者が媒介に入っていてもクーリング・オフはできません。8種制限と総称される規定群は、いずれも「業者が自ら売主で、買主が非業者」の場合にだけ働くからです。この適用場面の共通性は8種制限とはで扱っています。
場所で線を引く理由
なぜ契約した場所で結論が変わるのか。制度が守ろうとしているのは、冷静に判断できる状況が確保されていたか、という点です。
事務所には専任の宅地建物取引士が置かれ、業者の本拠として継続的に業務が行われています。そこへ自分の足で出向いて契約したのなら、判断の環境は整っていたと評価できる。これに対し、喫茶店やホテルのロビー、テント張りの案内所は、その場の勢いで意思決定を迫られやすい。だから撤回の機会を与える。
「事務所等」に含まれるのは、事務所のほか、継続的に業務を行うことができる施設を有する場所、専任の宅建士を置くべき案内所などで、いずれも土地に定着していることが前提です。モデルルームが事務所等に当たるのは、土地に定着した施設で継続的に業務が行われているからで、同じ販売現場でもテント張りの案内所は定着性を欠くため事務所等になりません。
もう一つ、買主が自ら申し出た場合の自宅または勤務先も事務所等として扱われます。呼んだのが買主自身なら、不意打ちの要素がないからです。ただし対象は自宅と勤務先に限られ、買主が指定した喫茶店は含まれません。詳しい場所の判定はクーリング・オフにまとめています。
8日と発信主義
期間は、クーリング・オフができる旨とその方法を書面で告げられた日から起算して8日間です。告知が口頭にとどまる場合、8日の起算は始まりません。書面による告知を受けていなければ、時間が経っても撤回できる状態が続きます。
そして効力は書面を発した時に生じます。到達ではなく発信です。8日目に投函すれば、業者に届くのが9日目以降でも有効に撤回できます。到達主義を原則とする意思表示(民法97条1項)の例外にあたり、買主保護のために置かれた特則です。
もう一つの終了事由
期間の経過とは別に、買主が物件の引渡しを受け、かつ代金の全額を支払ったときも、クーリング・オフはできなくなります。
「かつ」で結ばれている点が試験で狙われます。引渡しだけ、あるいは代金の支払いだけでは足りません。両方がそろって初めて取引が実質的に完了したと評価され、巻き戻しを認めない、という構造です。
手付を放棄してやめる場合との違い
契約をやめる手段として、もう一つ手付解除があります。民法557条により、買主は手付を放棄し、売主は手付の倍額を現実に提供することで契約を解除できます。ただし相手方が契約の履行に着手した後はできません。
クーリング・オフとの違いは、代償を伴うかどうかです。クーリング・オフの場合、業者は受領した手付金その他の金銭を速やかに返還しなければならず、損害賠償や違約金の請求もできません。無条件の撤回です。これに対し手付解除は、手付相当額を失うことで解除権を買う仕組みです。
なお業者が自ら売主となる場合、手付の額は代金の10分の2を超えてはならず、いかなる名目で授受されたものであっても解約手付とみなされます(39条)。買主に不利な特約は無効です。手付についての規制は手付額の制限で扱っています。
買った家に不具合が見つかったら
引渡しの半年後、雨漏りが見つかった。この場面を規律するのが契約不適合責任です。2020年施行の民法改正で枠組みが入れ替わった分野で、古い理解が混ざりやすいところでもあります。
「隠れた瑕疵」という要件はもうない
改正前は瑕疵担保責任と呼ばれ、「隠れた瑕疵」があることが要件でした。買主が知らず、知らないことに過失がない欠陥、という意味です。
現行法は、引き渡された目的物が種類、品質または数量に関して契約の内容に適合しないこと、という基準に置き換えました(562条)。基準は契約の内容です。買主が知っていたかどうかではなく、その契約でどういう物を引き渡す約束だったかを見る。中古住宅で経年相応の傷みが前提とされていたなら、同じ現象でも不適合にならないことがあります。
買主が使える四つの手段
契約不適合があるとき、買主は履行の追完の請求(562条)、代金の減額の請求(563条)、損害賠償の請求、契約の解除(564条)を選べます。改正前は損害賠償と解除の二つしかなかったので、手段が増えています。
要件の分かれ目が三つあります。売主の帰責事由が必要なのは損害賠償だけです。買主に帰責事由があると使えないのが追完請求と代金減額請求。そして原則として催告が必要なのが代金減額請求と催告解除です。全体の構造は契約不適合責任にまとめています。
1年以内に「通知」する
566条は、種類または品質に関する不適合について、買主がその不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しないときは、権利を行使できないとしています。
求められているのは通知であって権利行使ではありません。改正前は1年以内に権利を行使する必要がありましたが、現行法は不適合がある旨を伝えれば足ります。損害額を算定する必要も、どの手段を選ぶか決めておく必要もない。「1年以内に権利を行使しなければならない」は誤りで、「1年以内に通知しなければならない」が正しい、という置き換えが最も狙われます。
対象が種類・品質に限られている点も重要です。数量の不足には566条の期間制限が及びません。もっとも、通知を済ませても無期限になるわけではなく、166条の消滅時効が別に進行します。
売主が業者なら2年以上の特約まで
民法の規定は任意規定なので、特約で買主に不利に変更することもできてしまいます。そこで宅建業法40条が、業者が自ら売主となり買主が非業者である場合について、566条に規定する期間について目的物の引渡しの日から2年以上となる特約を除き、民法より買主に不利な特約は無効だと定めています。
実務の契約書に「引渡しから2年」と書かれているのは、この例外の範囲ぎりぎりを使っているからです。「知った時から1年」を「引渡しから2年」に置き換える形になっており、起算点が主観から客観へ移る点に注意してください。特約制限の詳細は契約不適合責任の特約制限にあります。
新築住宅にはさらに上乗せがあります。住宅の品質確保の促進等に関する法律により、構造耐力上主要な部分と雨水の浸入を防止する部分について、引渡しから10年間の瑕疵担保責任が強行的に課され、住宅瑕疵担保履行法が保証金の供託または保険加入による資力確保を義務づけています。制度の関係は住宅瑕疵担保履行法で扱っています。
更新の案内が届いたとき、法律は何をしているか
賃貸借の期間満了が近づくと、更新の案内が届きます。ここで働いているのは民法ではなく借地借家法です。
何もしなければ更新される
借地借家法26条1項は、期間の定めがある建物の賃貸借について、当事者が期間の満了の1年前から6か月前までの間に更新をしない旨の通知をしなかったときは、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなすと定めます。ただし更新後の期間は定めがないものとなります。
放っておけば続く、というのが原則です。借主が住み続けられることを前提に制度が組まれており、これを法定更新といいます。案内が届くのは、法定更新に任せず合意で期間を定め直すためです。
更新を拒むには正当事由が要る
貸主が更新を拒絶する通知や解約の申入れは、正当の事由があると認められる場合でなければすることができません(28条)。
条文が挙げる考慮要素は、賃貸人および賃借人が建物の使用を必要とする事情のほか、従前の経過、建物の利用状況、建物の現況、そして明渡しの条件としてまたは明渡しと引換えに財産上の給付をする旨の申出があった場合のその申出です。
書き方に注意してください。使用を必要とする事情が「のほか」という形で先に置かれ、他の要素が後に並びます。立退料の申出は考慮要素の一つにすぎず、それだけで正当事由が認められるわけではない。この構造は繰り返し出題されます。
更新のない契約もある
これに対し、借地借家法38条による定期建物賃貸借では更新がありません。期間が来れば、正当事由の有無にかかわらず契約は終わります。
借主が失う保護が大きいため、要件は厳格です。公正証書による等書面によって契約すること、そして契約書とは別個独立の書面をあらかじめ交付して、更新がなく期間の満了により終了することを説明すること。この説明を怠ると、更新がない旨の定めだけが無効となり、普通の建物賃貸借として存続します。
この事前説明の義務者は貸主本人であり、宅建士である必要はありません。宅建業法35条の重要事項説明とは根拠も義務者も別で、35条書面に定期建物賃貸借である旨を記載して説明しても、38条3項の説明をしたことにはなりません。定期借家の要件は定期借家契約、借地借家法全体の見取り図は借地借家法の基本にあります。
更新料の位置づけ
更新のたびに更新料を求められることがあります。更新料は法律が定めた金銭ではなく、契約で合意された金銭です。
最高裁平成23年7月15日判決は、賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載された更新料条項について、更新料の額が賃料の額や更新の期間等に照らして高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り、消費者契約法10条により無効とはいえないとしました。当然に無効でも当然に有効でもなく、条項の明確性と額の相当性で判断されるという枠組みです。
試験での出題ポイント
生活の記憶が正解を邪魔する場面
場面を知っていることは有利に働きますが、実務の慣行と条文の原則がずれている箇所では逆に働きます。
賃貸の仲介手数料が典型です。「借主が1か月分」を当たり前だと思っていると、居住用建物では原則0.55倍で、超えるには依頼を受けるに当たっての承諾が要る、という原則が抜けます。原則と例外が実務では逆転して見える、という点を意識してください。
敷金も同じです。「敷金は返ってこないもの」という印象があると、622条の2の返還義務が例外に見えてしまいます。条文上は返還が原則で、控除できるのは賃借人の債務の額だけです。
場面から条文に戻せるかを問う型
近年の出題は、条文を単独で覚えているかではなく、場面を条文に対応させられるかを問う形が増えています。
「宅建業者が媒介する中古住宅の売買で、売主が個人である場合」という前提が置かれたら、8種制限は働きません。クーリング・オフも、契約不適合責任の特約制限も、手付額の制限も適用外です。前提文の中に判断の分岐が埋め込まれているので、事実関係を読んだ時点でどの規定群が起動するかを切り分ける必要があります。
同じく、「建物の貸借」という前提なら、設備の整備状況が35条の記載事項に入り、建物状況調査の結果の概要も貸借で必要になる一方、書類の保存状況は売買・交換のみ、という細かい分岐が効いてきます。
数字の入れ替え
数字は、正しい数値を別の場面に貼り付ける形で崩されます。
クーリング・オフの8日、契約不適合の通知1年、業法40条の引渡しから2年、更新拒絶の通知の1年前から6か月前まで、手付額の10分の2。いずれも単独では覚えやすい数字ですが、「クーリング・オフは10日」「更新拒絶の通知は3か月前まで」のように一つだけ動かされると見落としやすい。数字の横断整理は宅建業法の数字まとめにあります。
覚え方・整理の仕方
取引の時間軸に条文を並べる
一つの取引を時間順に並べ、そこに条文を置いていくのが最も定着します。
媒介契約の締結(34条の2の書面。記名するのは宅建業者であって宅建士ではない)、広告開始(33条)、重要事項の説明(35条。契約成立まで、宅建士が説明、宅建士証を提示)、契約の締結、37条書面の交付(契約後遅滞なく、両当事者へ、宅建士の記名のみ)、手付金等の保全(41条・41条の2)、引渡しと登記、そして引渡し後の契約不適合責任。
この一本の線を頭に持っておくと、「35条書面は契約後」「37条書面は宅建士が交付」といった時系列の入れ替えに即座に反応できます。
「誰の義務か」で三つに分ける
主体の入れ替えは頻出の崩し方です。義務者を三つに分類しておきます。
宅建業者の義務が、35条書面と37条書面の交付、媒介契約書面の作成と記名、報酬額の掲示。宅地建物取引士の義務が、重要事項の説明、35条書面と37条書面への記名、宅建士証の提示。そして貸主本人の義務が、定期借家における38条3項の事前説明です。
宅建士の仕事は説明と記名と提示の三つだけで、交付は業者の義務。この一線を引いておけば、主語をすり替えた選択肢の多くを処理できます。
数字は根拠とセットで持つ
数字を単独で暗記せず、なぜその数字なのかを一言添えておくと崩れにくくなります。
クーリング・オフの8日は、冷静に考え直すための猶予。契約不適合の1年は、通知の期限であって権利行使の期限ではない。業法40条の2年は、民法より不利にできる唯一の例外の下限。更新拒絶の1年前から6か月前までは、借主が次の住居を探せる期間の確保。理由を添えると、数字だけでなく制度の趣旨まで一緒に取り出せます。
報酬の5.5、4.4、3.3、1.1、0.55という数値は、いずれも消費税等相当額を含んだ表記です。一般に使われる5パーセント、4パーセント、3パーセント、1か月分、半月分は税抜きの言い方で、両者の関係は1.1倍。この対応さえ押さえておけば、どちらの形で問われても答えられます。
理解度チェッククイズ
問1
宅地建物取引業者は、37条書面を交付するに当たり、宅地建物取引士をしてこれを交付させなければならない。
答えを見る
×。37条書面の交付義務を負うのは宅建業者であり、宅建士が交付する必要はありません。宅建士でなければできないのは、重要事項の説明、35条書面への記名、37条書面への記名の三つです。37条書面には説明義務がないため、宅建士が関与するのは記名の場面だけになります。「宅地建物取引士が交付しなければならない」という主語のすり替えは頻出の崩し方です。問2
居住の用に供する建物の賃貸借の媒介において、宅地建物取引業者は、契約が成立した後に借主の承諾を得れば、借主から借賃の1か月分の1.1倍に相当する額の報酬を受けることができる。
答えを見る
×。報酬告示は、居住用建物の賃貸借の媒介に関して依頼者の一方から受けられる報酬の額を、「当該媒介の依頼を受けるに当たって当該依頼者の承諾を得ている場合を除き」借賃の1か月分の0.55倍以内としています。承諾は媒介の依頼を受ける段階で得ていなければならず、契約成立後の承諾では0.55倍を超える根拠になりません。なお双方から受ける合計額は、いずれにせよ借賃の1か月分の1.1倍が上限です。問3
賃貸借が終了した場合、賃借人は、賃貸人が敷金を返還するまで、賃借物の明渡しを拒むことができる。
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×。民法622条の2第1項1号は、敷金の返還義務が生じるのを「賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき」としています。明渡しが先で返還が後という順序が条文に書かれているため、両者は同時履行の関係に立ちません。明渡しまでに生じた損害も控除できるようにするための順序です。あわせて、同条2項後段により、賃借人の側から敷金を未払賃料に充当するよう請求することもできません。問4
宅地建物取引業者が自ら売主となる宅地の売買契約において、買主が申込みの撤回を行う旨の書面を発した場合、その書面が宅地建物取引業者に到達した時に撤回の効力が生じる。
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×。クーリング・オフによる申込みの撤回等の効力は、書面を発した時に生じます。意思表示は到達によって効力を生ずるとする民法97条1項の原則に対する特則で、買主保護のために置かれています。したがって告知を受けた日から8日目に発送すれば、業者への到達が9日目以降になっても有効です。なお、買主が物件の引渡しを受け、かつ代金の全額を支払ったときは、期間内であっても撤回できなくなります。問5
宅地建物取引業者が自ら売主となる建物の売買契約において、契約不適合責任について「引渡しの日から2年間に限り責任を負う」とする特約は無効である。
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×。宅地建物取引業法40条は、民法566条に規定する期間について「目的物の引渡しの日から2年以上」となる特約を除き、民法の規定より買主に不利な特約を無効としています。引渡しの日から2年ちょうどの特約はこの例外に収まるため有効です。ここは「2年を超える」ではなく「2年以上」である点、そして起算点が「知った時」から「引渡しの日」に移る点の両方が問われます。まとめ
- 部屋を借りるときに渡される二つの書面は、目的が違います。35条書面は契約するかどうかの判断材料を守るために契約成立前に説明させ、37条書面は合意の記録を残すために契約成立後に交付させる。交付義務は業者、説明と記名は宅建士、という分担も一貫しています。
- 仲介手数料の上限は、宅建業法46条が枠を定め、報酬告示が具体的な数値を定めるという二段構造です。売買の速算式の「6万円」は三段階計算の補正額であり、賃貸の居住用建物では原則0.55倍で、超えるには依頼を受けるに当たっての承諾が要ります。
- 敷金は民法622条の2により、賃貸借の終了と目的物の返還がそろった時点で、控除後の残額を返還します。621条は原状回復の対象から通常損耗と経年変化を最初から除いており、特約でこれを借主負担とするには内容の具体性が求められます(最判平成17年12月16日)。
- クーリング・オフが場所で分かれるのは、冷静に判断できる環境が確保されていたかを問うているからです。8日の起算は書面による告知から、効力は発信時に生じ、引渡しと代金全額の支払いがそろえば行使できなくなります。
- 引渡し後に不具合が見つかった場合の枠組みは契約不適合責任で、買主は追完・減額・損害賠償・解除の四つを選べます。566条が求めるのは1年以内の通知であって権利行使ではなく、売主が業者のときは宅建業法40条により引渡しから2年以上の特約だけが例外として許されます。
- 更新の場面では借地借家法26条が法定更新を定め、貸主の更新拒絶には28条の正当事由が必要です。更新のない定期借家(38条)は、書面による契約と別個独立の書面による事前説明という二重の要件で、借主が保護を放棄したことを確認しています。
宅建試験AIブートラボのアプリでは、ここで扱った35条書面・報酬・クーリング・オフ・契約不適合責任の各論点を肢別に演習できます。
税と価格の評定は毎年ほぼ同じ形で出ます。出題パターンを肢別で押さえれば取りこぼしません。