不動産登記簿の読み方|甲区・乙区の見方を初心者向けに解説
登記事項証明書の読み方を、表題部・甲区・乙区の役割、順位番号と受付番号、下線の意味、証明書の種類と取得方法、公信力の限界まで、不動産登記法の条文根拠つきで解説します。
目次
本記事は、登記事項証明書(登記簿)を上から順に読み下し、どこに何が書いてあり、その記載が何を意味するのかを説明するものです。登記制度そのものの仕組みは不動産登記法の基礎に、仮登記だけを取り出した解説は仮登記と本登記の違いにまとめてあります。この記事は、実際の紙面を読む作業に焦点を当てます。
登記事項証明書が読みにくいのは、専門用語が多いからというより、三つの部分がそれぞれ別の質問に答えている書類だからです。表題部は「この不動産はどういう物か」に、権利部甲区は「誰のものか」に、権利部乙区は「誰がどんな権利を持っているか」に答えています。この対応を先に頭に入れておくと、どの欄を見れば知りたいことが書いてあるかが分かり、読む速度が一気に上がります。以下では、三つの部分を順に見たうえで、順位の決まり方、下線の意味、証明書の種類と取り方、そして登記を読んでも分からないことまでを扱います。
登記記録は何を公示しているのか
権利関係を公開して取引の安全を守る仕組み
不動産登記は、土地と建物について、その物理的な状況と権利関係を国の記録に載せ、誰でも見られる状態にしておく制度です。目的は取引の安全にあります。買おうとしている土地が本当にその人のものなのか、住宅ローンの担保が付いていないか、税金の滞納で差し押さえられていないか。こうしたことは外から見ただけでは分かりません。登記記録は、その見えない部分を文字にして公開しています。
公開の徹底ぶりは条文にも表れています。不動産登記法119条1項は、何人も、登記官に対し、手数料を納付して登記事項証明書の交付を請求することができると定めています。所有者でなくても、利害関係がなくても、理由を説明する必要もなく、他人の不動産の登記記録を取れます。他人の財産の内容が誰にでも見えるというのは異例に思えますが、権利関係を隠したまま取引させないことが、結果として取引全体の安全につながるという判断です。
登記簿、登記簿謄本、登記事項証明書の関係
かつて登記は紙の帳簿で管理され、その写しが「登記簿謄本」と呼ばれていました。現在は電磁的記録によるコンピュータ管理に移行しており、正式な名称は「登記事項証明書」です。不動産登記法2条5号は、登記記録を、一筆の土地または一個の建物ごとに作成される電磁的記録と定義しています。日常会話では今も「登記簿」「謄本」と呼ばれますが、指しているものは同じです。
呼び方の違いは実務では問題になりませんが、書類の性質としては違いがあります。証明書は登記官が内容を証明したもので、公的な提出書類として使えます。後述する登記情報提供サービスの画面や印刷物には証明力がありません。金融機関や役所に出す必要がある場面では、必ず証明書のほうを取得してください。
土地と建物は別々の登記記録になる
日本では土地と建物が別個の不動産として扱われ、登記記録もそれぞれ独立して作られます。一戸建てを検討するなら、土地の証明書と建物の証明書の二通が必要です。片方だけを見て安心すると、建物には抵当権が付いていないが土地には付いている、といった状態を見落とします。
例外的に一体として扱われるのが、敷地権が登記された区分建物、つまり多くのマンションです。この場合、建物の表題部に敷地権の表示が記録され、建物についてした所有権移転や抵当権設定の登記が敷地の権利にも及びます(不動産登記法73条1項)。分譲マンションの売買で土地の登記記録を別に取らないことが多いのはこのためです。区分所有の仕組みそのものは区分所有法の基礎を参照してください。
登記記録の三層構造と読む順番
表題部、権利部甲区、権利部乙区
登記記録は表題部と権利部に分かれます。不動産登記法2条7号は表題部を表示に関する登記が記録される部分、同条8号は権利部を権利に関する登記が記録される部分と定義しています。そして権利部は、不動産登記規則により甲区と乙区に区分され、甲区には所有権に関する登記が、乙区には所有権以外の権利に関する登記が記録されます。
つまり三層です。表題部が物、甲区が所有権、乙区がそれ以外の権利。この振り分けは例外なく機械的で、所有権に関するものは差押えであれ仮登記であれすべて甲区に、抵当権や地上権や賃借権はすべて乙区に入ります。所有権移転の仮登記は所有権に関する事項なので甲区、抵当権の仮登記は乙区、という具合です。
三つの区が答えている質問が違う
読む順番は上からで構いませんが、それぞれの区が答えている質問を意識すると効率が上がります。表題部は「どこにある、どんな大きさの、どういう物か」を、甲区は「今それが誰のもので、その人はどうやって取得したか」を、乙区は「その所有権にどんな負担が乗っているか」を教えてくれます。
物件の購入を検討している場合、最初に見るべきは甲区の最後の記載です。そこに現在の所有者が書かれています。次に乙区で担保や利用権の有無を確かめ、最後に表題部で面積や種類が契約内容と合っているかを照合する。この順で見ると、致命的な問題を早い段階で拾えます。買主として何をどこまで確認すべきかは重要事項説明書の読み方ともあわせて確認してください。
権利部がない登記記録もある
権利部がまったく存在しない登記記録もあります。建物を新築して表題登記だけを済ませ、所有権保存登記をしていない場合がこれにあたります。表示に関する登記には申請義務がありますが、権利に関する登記には原則として申請義務がないため、こうした状態が生じます。権利部がなければ、その建物の所有権を第三者に主張できません。中古住宅の取引で建物が未登記だったり、増築部分が登記されていなかったりするのは、この義務の差が背景にあります。
表題部の読み方
土地の表題部に記録される事項
不動産登記法34条1項は、土地の表示に関する登記の登記事項として、土地の所在する市、区、郡、町、村および字、地番、地目、地積を挙げています。証明書の表題部には、これに加えて登記の原因およびその日付と登記の日付が記録されます。分筆や地目変更があれば、その履歴がここに残ります。
所在と地番は、その土地を特定するための住所にあたるものです。ただし日常使う住所とは体系が違います。住所は住居表示に関する法律にもとづいて建物に付けられた番号であり、地番は不動産登記法にもとづいて土地に付けられた番号です。住居表示が実施された地域では両者が一致せず、「一丁目2番3号」という住所の土地の地番が「一丁目234番5」だったりします。証明書を請求するには地番が必要なので、住所しか分からない場合は法務局備付けのブルーマップや、登記情報提供サービスの地番検索を使って調べます。
地目は現況と一致しないことがある
地目は土地の用途による区分で、宅地、田、畑、山林、原野、雑種地、公衆用道路などが不動産登記規則で定められた種類として用意されています。ここで注意が必要なのは、地目が必ずしも現況と一致しないことです。実際には駐車場として使われている土地の地目が畑のまま、ということが起こります。
地目が農地、すなわち田または畑である土地は、農地法の規制を受けます。宅地に変えて建物を建てるには農地転用の許可が必要で、市街化調整区域内であればさらに手続が重くなります。買ってから建てられないと分かる事態を避けるため、地目が宅地以外である場合は必ず用途の確認をしてください。地目変更の登記は、土地の用途が変わった日から1か月以内に申請する義務があります。
地積は実測と食い違うことがある
地積は土地の面積で、平方メートルで記録されます。宅地と鉱泉地は1平方メートルの100分の1まで、それ以外の地目は1平方メートル未満を切り捨てて記録するのが原則です。地目が宅地の土地だけ小数点以下まで書かれているのはこのためです。
問題は精度です。登記されている地積は、必ずしも現在の測量技術で測り直した数値ではありません。明治期の地租改正時の測量が元になっている土地もあり、実測すると登記面積と大きく食い違うことがあります。売買では、登記面積を基準に代金を確定する公簿売買と、実測して差額を精算する実測売買のどちらを採るかを契約で決めます。どちらであるかは重要事項の確認事項なので、不動産の物件調査の段階で押さえておくべき点です。
建物の表題部と床面積の測り方
不動産登記法44条1項は、建物の表示に関する登記の登記事項として、所在する市区町村と土地の地番、家屋番号、種類、構造、床面積などを挙げています。家屋番号は登記官が付ける番号で、原則として建物が建っている土地の地番と同じ番号になります。種類は居宅、店舗、共同住宅、事務所、倉庫といった用途による区分、構造は主な構成材料と屋根の種類と階数の組合せで、「木造かわらぶき2階建」のように表されます。
床面積は各階ごとに記録されます。測り方に重要な違いがあり、一戸建てなどの一般建物は壁その他の区画の中心線で囲まれた部分の水平投影面積、つまり壁芯で測るのに対し、区分建物の専有部分は壁の内側の線で囲まれた部分、つまり内法で測ります。マンションのパンフレットに書かれた専有面積と登記記録の床面積が数平方メートル食い違うのは、パンフレットが壁芯を採っているからです。住宅ローン控除など床面積の要件がある制度は登記記録上の面積で判定されるため、この差が効いてくる場面があります。
新築の日付は独立した欄ではなく、原因およびその日付の欄に「令和何年何月何日新築」という形で記録されます。増築があれば床面積の変更が記録され、その日付も残ります。逆に、増築したのに変更の登記がされていなければ、記録上の床面積は増築前のままです。現況と証明書を突き合わせて食い違いがあれば、未登記の増築を疑ってください。建物の表示に関する登記の変更は、変更があった日から1か月以内に申請する義務があります。
区分建物の表題部と敷地権
区分建物、つまりマンションの表題部は二段構えになっています。まず一棟の建物の表示として、建物全体の所在、構造、床面積が記録され、続いて専有部分の建物の表示として、購入する住戸の家屋番号、種類、構造、床面積が記録されます。
そのあとに敷地権の表示が来ます。ここには敷地となっている土地の所在、地番、地目、地積に加えて、敷地権の種類と敷地権の割合が記録されます。敷地権の種類は所有権であることが多いですが、借地の上に建つマンションでは賃借権や地上権になります。割合は、その住戸が敷地全体に対して持っている持分です。区分所有法により専有部分と敷地利用権は原則として分離処分ができないため、敷地権が登記されていれば、住戸を売れば敷地の持分も一緒に動きます。
甲区の読み方
甲区の四つの欄
甲区の各行は、順位番号、登記の目的、受付年月日および受付番号、権利者その他の事項という四つの欄でできています。不動産登記法59条は、権利に関する登記の登記事項として、登記の目的、申請の受付の年月日および受付番号、登記原因およびその日付、登記に係る権利の権利者の氏名または名称および住所を挙げており、証明書の欄立てはこの条文に対応しています。
読むときは右端の欄が中心になります。ここに所有者の氏名と住所が書かれ、共有であれば「持分2分の1」のように持分が付されます。共有物件の売買では共有者全員の同意が必要になるため、持分の記載は最初に確認すべき情報のひとつです。共有関係の処理は共有で扱っています。
所有権保存登記と所有権移転登記
甲区の一番上、順位番号1番に来るのが通常は所有権保存登記です。これはその不動産について初めてされる所有権の登記で、それまで権利部が存在しなかった登記記録に権利部を作る登記でもあります。新築建物であれば、表題登記をした所有者が保存登記を申請します。
二番目以降は所有権移転登記が並びます。ここで注目するのが登記原因です。「原因 令和何年何月何日売買」とあれば売買で、「相続」とあれば相続、「贈与」「遺贈」「財産分与」「交換」「時効取得」「共有物分割」などが原因として記録されます。原因が相続であれば相続人が単独で申請しており、売買であれば売主と買主が共同で申請しています。原因の記載は、その所有権がどういう経路で移ってきたかを示す履歴です。
短期間に売買による所有権移転が何度も繰り返されている物件は、事情を確認する価値があります。転売が挟まっているだけのこともありますが、権利関係が複雑だったり、物件そのものに問題があって手放されていたりする可能性もあります。登記が対抗要件としてどう働くかは物権変動と対抗要件にまとめてあります。
差押え、仮差押え、処分禁止の仮処分
甲区に「差押」の登記があれば、その不動産は強制執行または滞納処分の対象になっています。税金の滞納による差押えは徴収機関が、判決にもとづく強制競売の開始決定による差押えは裁判所が、それぞれ登記を嘱託します。差押えの登記がある物件は、そのままでは通常の売買で買っても所有権を確保できません。
「仮差押」は、金銭債権の保全のために判決が出る前の段階で処分を制限するもので、民事保全法にもとづきます。「処分禁止の仮処分」は、所有権移転登記請求権などを保全するためのものです。いずれも、その不動産をめぐって争いが起きていることを示す記載です。個人が住宅を買う場面でこれらの登記が残った物件を選ぶ理由はほとんどないので、見つけたら仲介業者と専門家に確認してください。
仮登記と買戻特約
甲区には「所有権移転仮登記」や「所有権移転請求権仮登記」が記録されていることがあります。仮登記は対抗力を持ちませんが、後に本登記へ進んだときにその順位が仮登記の時点まで遡ります。したがって、仮登記のある不動産を買って所有権移転の本登記を受けても、先の仮登記が本登記に移された時点で自分の権利が覆される可能性があります。詳しくは仮登記と本登記の違いを参照してください。
もう一つ、甲区に付記登記の形で現れることがあるのが買戻特約の登記です。売主が代金と契約費用を返して売買を解除できる権利で、これが登記されていれば買主から先の第三者にも対抗されます。中古物件では稀ですが、公的機関が分譲した土地などで見かけることがあります。
乙区の読み方
乙区に載る権利の顔ぶれ
乙区には所有権以外の権利が記録されます。実際に見かける頻度が高いのは抵当権と根抵当権で、これに地上権、賃借権、地役権、配偶者居住権などが続きます。所有権に関するものは一切ここには来ません。逆に、担保であっても所有権を移す形式のもの、たとえば譲渡担保による所有権移転は甲区に記録されます。
乙区がまったく存在しない登記記録も珍しくありません。住宅ローンを完済して抵当権を抹消した物件では、乙区の記載がすべて抹消済みになっているか、そもそも乙区が作られていないことがあります。
抵当権の登記事項
抵当権設定の登記では、右端の欄に債権額、利息、損害金、債務者、抵当権者が並びます。不動産登記法83条1項は担保権の登記の登記事項として債権額と債務者の氏名または名称および住所を、88条1項は抵当権について利息に関する定めや損害賠償額の定めを登記事項として挙げています。
読み取れることは多くあります。債権額はローンを借りた時点の金額であり、現在の残債ではありません。何年も返済していれば残債はこれより少なくなっていますが、逆に登記からは今いくら残っているかは分かりません。債務者の欄が所有者と一致していれば本人のローン、一致していなければ他人の債務のために担保に入っている物上保証の可能性があります。抵当権者の欄には金融機関名が入り、保証会社が代位弁済していれば抵当権移転の付記登記が付いていることがあります。抵当権の効力そのものは抵当権で扱っています。
根抵当権と極度額
根抵当権は、一定の範囲に属する不特定の債権を極度額の限度で担保する権利です。抵当権との最大の違いが登記事項に表れており、根抵当権では債権額ではなく極度額が登記されます(不動産登記法88条2項1号)。あわせて「債権の範囲」として、たとえば「銀行取引」「手形債権」「小切手債権」といった担保される債権の種類が記録されます。
極度額は担保の枠の大きさであり、その時点の借入残高ではありません。極度額5,000万円の根抵当権が設定されていても、実際の借入れがゼロということもあります。事業者が事業資金の融資を受けるときに使われる形式で、居住用不動産で見かけたら、事業の担保に自宅が入っていないかを確認する手がかりになります。詳細は根抵当権を参照してください。
地上権、賃借権、地役権
地上権は他人の土地に建物や工作物を所有するための物権で、登記事項として設定の目的、地代の定めがあるときはその内容、存続期間の定めがあるときはその期間などが記録されます。賃借権は債権ですが、登記されれば第三者に対抗できます。ただし賃貸人に登記に協力する義務は当然にはないため、実際に賃借権が登記されている土地は多くありません。借地では、借地上の建物について自分名義の登記があれば借地権を対抗できる仕組みが用意されており、実務はそちらに乗っています。借地の対抗要件は借地権の対抗力にまとめてあります。
地役権は、自分の土地の便益のために他人の土地を使う権利です。通行地役権や、送電線を通すための地役権などが典型で、承役地、つまり使われる側の土地の乙区に登記されます。要役地の側にも登記官が職権で記録します。買おうとしている土地の乙区に地役権があれば、その土地の一部を他人が通行したり、建築が制限されたりする可能性があるということです。
共同担保目録と信託目録
抵当権が複数の不動産にまたがって設定されているとき、証明書の末尾に共同担保目録が付きます。土地と建物を一括して担保に入れる住宅ローンでは、必ずこの形になります。目録には、同じ債権のために担保に入っている不動産の一覧が載るので、売主が他にどの物件を同じローンの担保に入れているかが分かります。ただし共同担保目録は自動では付いてきません。証明書を請求するときに「共同担保目録を含む」旨を指定する必要があります。
信託が設定されている不動産では、甲区に信託を原因とする所有権移転と信託の登記がされ、証明書の末尾に信託目録が付きます。目録には委託者、受託者、受益者、信託の目的、信託財産の管理方法などが記録されます。登記名義人は受託者になっているので、甲区の名義人だけを見て「この人の財産だ」と判断すると実態を取り違えます。信託目録の有無は、名義人の性質を確かめるための重要な情報です。
順位番号・受付番号・下線
同じ区の中は順位番号、区をまたぐと受付番号
不動産登記法4条1項は、同一の不動産について登記した権利の順位は、法令に別段の定めがある場合を除き、登記の前後によると定めています。では登記の前後はどう判断するのか。これを定めているのが不動産登記規則2条1項で、同一の区にした登記相互間については順位番号により、別の区にした登記相互間については受付番号によるとしています。
つまり、乙区の1番抵当権と2番抵当権のどちらが優先するかは順位番号で決まります。一方、甲区の差押えと乙区の抵当権のどちらが先かは、順位番号を比べても意味がありません。甲区の1番と乙区の1番はまったく別系統の番号だからです。この場合は受付番号を比べます。受付番号は登記所に申請が受け付けられた順に通し番号で付されるので、区が違っても大小を比較できます。
実際の場面で言えば、乙区1番の抵当権の受付番号が第12345号、甲区3番の差押えの受付番号が第23456号であれば、抵当権のほうが先順位です。競売になったとき、抵当権者は差押債権者に優先して配当を受けます。番号の種類を取り違えると順位を逆に読んでしまうので、区をまたぐ比較では必ず受付番号を見るという習慣をつけてください。
付記登記の順位
登記には主登記と付記登記があります。付記登記は、既存の登記に従属してその一部を変更したり移転したりするもので、番号も「1番付記1号」のように主登記に紐づけて振られます。抵当権が保証会社に移転したときの抵当権移転登記、債務者の変更登記、買戻特約の登記などがこの形をとります。
不動産登記法4条2項は、付記登記の順位は主登記の順位により、同一の主登記に係る付記登記の順位はその前後によると定めています。つまり1番抵当権が2番抵当権より先であれば、1番付記1号で移転された後の抵当権も2番抵当権に優先します。順位が付記によって落ちることはありません。
下線は抹消された記載
全部事項証明書には、現に効力を持つ記載と、すでに効力を失った記載の両方が載ります。両者を見分ける印が下線です。抹消された事項には下線が付されるので、下線が引かれている行は過去の記録として読み飛ばして構いません。所有権移転で前の所有者の記載に下線が引かれる、抵当権を抹消したときに抵当権設定の記載全体に下線が引かれる、といった形で現れます。
初めて証明書を見る人が最も戸惑うのがこの点です。乙区に抵当権設定の記載が三つ並んでいても、二つに下線が引かれていれば、生きている抵当権は一つだけです。逆に、下線のない記載が残っているのに「もう完済したから大丈夫」と言われた場合は、抹消登記がまだ済んでいないということなので、決済までに抹消される段取りになっているかを確認する必要があります。
登記事項証明書の種類と取り方
四つの証明書と要約書
証明書にはいくつかの種類があり、請求時に選びます。全部事項証明書は、その登記記録に記録されている事項の全部を証明するもので、抹消された過去の記載も下線付きで載ります。現在事項証明書は、現に効力を有する事項だけを載せたもので、履歴が不要なときに読みやすくなります。何区何番事項証明書は、甲区の何番、乙区の何番というように特定の登記だけを取り出したものです。所有者事項証明書は、所有者の氏名住所と持分だけを証明する簡易なものです。
これに加えて、登記記録が閉鎖されている場合に取る閉鎖事項証明書があります。建物を取り壊して滅失の登記をした、複数の土地を合筆した、といった事情で登記記録が閉じられると、以後は閉鎖された記録として保存されます。過去の権利関係を遡って調べるときに使います。
証明書とは別に、不動産登記法119条2項が定める登記事項要約書があります。登記記録の概要を記載した書面で、手数料は証明書より安いのですが、登記官の証明文と職印がなく、抹消された記載も載りません。窓口で内容を確かめるための下見用と考えてください。提出書類としては使えません。
どこで、いくらで取れるか
証明書は、全国どこの法務局でも、全国どの不動産についても取得できます。対象の不動産が遠方にあっても最寄りの法務局で足ります。必要なのは地番または家屋番号で、住所ではありません。窓口では備付けのブルーマップで地番を調べられます。
手数料は、書面で請求して窓口または郵送で受け取る場合が1通600円、オンラインで請求して郵送で受け取る場合が500円、オンラインで請求して法務局の窓口で受け取る場合が480円です。要約書は450円です。オンライン請求は登記・供託オンライン申請システムから行い、電子納付で支払います。手数料は改定されることがあるので、請求前に法務局の案内で確認してください。
証明力が不要で内容だけ見たい場合は、一般財団法人民事法務協会が運営する登記情報提供サービスが便利です。全部事項に相当する情報を1件332円程度で画面上に取得できます。ただしこれは証明書ではなく、あくまで情報の提供なので、契約や登記申請の添付書類には使えません。
図面は別に請求する
証明書に載るのは文字情報だけです。土地の形や隣地との位置関係を知るには、登記所備付地図または地図に準ずる図面、いわゆる公図を別に請求します。分筆や地積更正の際に提出された地積測量図、建物の形状を示す建物図面や各階平面図も、備え付けられていれば取得できます。
境界が争いになりやすい土地では、公図と地積測量図の有無が調査の質を左右します。古い土地では地積測量図が存在しないことも多く、その場合は境界確定測量から始めることになります。購入前の調査項目としてどこまで見るべきかは不動産の物件調査に整理してあります。
登記簿でわかること、わからないこと
買う前に照合する五つの点
物件を検討する段階で証明書を見るときは、次の五つを順に照合してください。第一に、甲区の最後に記載された所有者と、売買契約の売主が一致しているか。相続が発生したまま被相続人名義で放置されている、共有者の一人としか話が進んでいない、といった食い違いはここで見つかります。第二に、甲区に差押え、仮差押え、処分禁止の仮処分がないか。第三に、乙区の抵当権や根抵当権のうち下線が引かれていないものがあるか、あるなら決済時に抹消される段取りが契約に書かれているか。
第四に、表題部の地積および床面積が契約書の面積と一致しているか。一致しない場合、公簿売買なのか実測売買なのか、建物であれば未登記の増築がないかを確認します。第五に、区分建物であれば敷地権の種類と割合が記載されているか。敷地権の登記がない古いマンションでは、土地の持分が別の登記記録になっているため、そちらも取得する必要があります。購入手続の全体の流れは不動産売買の流れを参照してください。
登記に公信力はない
ここからが、証明書を読むうえで最も重要な限界です。日本の不動産登記には公信力がありません。公信力とは、記録を信じて取引した者を、その記録が真実と違っていても保護する効力のことです。これがないということは、登記記録上の所有者が実は所有者でなかった場合、その人から買った人は原則として所有権を取得できないという意味になります。
一方で登記には対抗力があります。民法177条により、不動産に関する物権の得喪および変更は、登記をしなければ第三者に対抗することができません。つまり登記は「自分の権利を他人に主張するための道具」としては強力に働きますが、「記録を信じた者を守る盾」としては働きません。この非対称が、登記制度を理解するうえでの要点です。対抗要件の詳しい範囲は物権変動と対抗要件で扱っています。
まったく救済がないわけではありません。真の所有者が虚偽の登記の作出に関与していたような場合には、民法94条2項の類推適用によって、登記を信頼した第三者が保護されることがあります。最高裁平成18年2月23日判決は、真の所有者が他人名義の登記を積極的に作出したのではないものの、それに準ずるほど不注意な行為をして虚偽の外観を放置していた事案で、94条2項および110条の類推適用により善意無過失の第三者を保護しました。ただしこれは例外的な救済であり、記録を信じれば守られるという一般原則があるわけではありません。
登記されない権利がある
証明書に載っていないからといって、その不動産に何の権利も付いていないとは限りません。建物の賃借権は登記されないのが通常で、借地借家法31条により建物の引渡しがあれば対抗力を備えます。土地の賃借権も、借地上の建物に借地人名義の登記があれば同法10条1項により対抗できます。占有している人がいる物件は、証明書に何も書かれていなくても賃借人がいる可能性があるということです。
法定地上権のように、法律上当然に発生する権利もあります。抵当権が実行されて土地と建物の所有者が分かれた場合、建物のために地上権が成立しますが、これも当初は登記されていません。詳しくは法定地上権を参照してください。
だからこそ、登記記録の確認と現地の確認は両方必要です。証明書は権利関係の出発点であって終着点ではありません。誰が実際に使っているか、境界標があるか、隣地との間に問題がないかは、現地に行かなければ分かりません。
相続登記と住所変更登記の申請義務
相続登記は3年以内
権利に関する登記には申請義務がないのが原則でしたが、この原則に大きな例外が加わりました。不動産登記法76条の2第1項は、所有権の登記名義人について相続の開始があったときは、相続により所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ当該所有権を取得したことを知った日から3年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならないと定めています。令和6年4月1日から施行されており、施行日より前に発生していた相続についても、施行日から3年以内に申請する必要があります。
正当な理由なくこの義務に違反すると、10万円以下の過料の対象になります。義務化の背景にあるのは所有者不明土地の問題で、相続登記がされないまま世代が進むと、権利者が数十人に膨れ上がって用地買収も売却もできなくなります。
遺産分割がまとまらず3年以内の移転登記が難しい場合のために、相続人申告登記という簡易な制度が用意されています(不動産登記法76条の3)。登記名義人について相続が開始したことと、自分がその相続人であることを申し出れば、義務を履行したものとみなされます。これは権利の登記ではなく、あくまで義務を果たすための報告的な仕組みです。相続不動産の扱い全般は相続不動産の基礎知識にまとめてあります。
住所や氏名が変わったときは2年以内
もう一つの義務が、氏名または住所の変更登記です。不動産登記法76条の5は、所有権の登記名義人の氏名もしくは名称または住所について変更があったときは、その変更があった日から2年以内に変更の登記を申請しなければならないと定めています。令和8年4月1日から施行されており、施行日より前に生じていた変更についても、施行日から2年以内に申請する必要があります。違反した場合は5万円以下の過料の対象です。
期間が相続登記の3年に対して2年、過料の上限が10万円に対して5万円と、二つの義務は数字が違います。混同しやすいので、相続は3年で10万円、住所氏名は2年で5万円と対にして覚えてください。手続の詳細は住所変更登記の義務化を参照してください。
試験での出題ポイント
甲区と乙区の振り分け
宅建試験の不動産登記法では、登記記録の構成そのものが問われます。定番は、乙区に所有権に関する事項が記録されるとする誤りの選択肢です。所有権に関するものはすべて甲区、それ以外はすべて乙区という機械的な振り分けを崩す出題はありません。所有権移転の仮登記や差押えを乙区に置いた選択肢も同じ型です。
順位の決まり方
不動産登記法4条1項の「登記の前後による」と、それを具体化した規則の「同一の区は順位番号、別の区は受付番号」の組合せが問われます。甲区と乙区にわたる登記の順位を順位番号で決めるとした選択肢は誤りです。付記登記の順位が主登記の順位によること(4条2項)もあわせて出ます。
申請義務の有無
表示に関する登記には申請義務があり、権利に関する登記には原則として申請義務がない、という原則が土台です。建物を新築した者は所有権の取得の日から1か月以内に表題登記を申請しなければならず(47条1項)、建物が滅失したときも1か月以内に滅失の登記を申請します。これに対して所有権保存登記や抵当権設定登記に期限はありません。そのうえで、相続登記が3年(76条の2)、氏名住所の変更登記が2年(76条の5)という例外が加わった、という構造で覚えると整理できます。
公信力と対抗力
登記に公信力がないこと、他方で民法177条により対抗力があることの対比は、権利関係の分野でも繰り返し問われます。「登記を信じて取引した者は保護される」という趣旨の選択肢は誤りです。あわせて、証明書を誰でも請求できること(119条1項)も出題されます。
覚え方・整理の仕方
表題部は物、甲区は人、乙区は負担
三層構造は「物、人、負担」の三語で覚えます。表題部はその不動産が物としてどういうものかを、甲区は誰のものかという人の話を、乙区はその所有権にどんな負担が乗っているかを記録します。迷ったら、記録しようとしている事項が所有権そのものの話かどうかを考えてください。所有権の話なら甲区、所有権に乗る他人の権利なら乙区です。
順位は「同じ区なら順位、違う区なら受付」
順位の判定は、区が同じか違うかで使う番号が変わります。同じ区なら順位番号、違う区なら受付番号。受付番号は登記所に着いた順の通し番号なので、区をまたいでも比較できるという理屈まで押さえておくと、番号の種類を取り違えません。
数字は1か月、2年、3年
登記に関する期限は三つの数字に集約されます。表示に関する登記が1か月、氏名住所の変更登記が2年、相続登記が3年です。表示の登記だけが単位が月であり、義務化された二つの権利の登記が年単位である、という対比で並べると混ざりません。過料の額は相続が10万円以下、氏名住所が5万円以下です。
抵当権は債権額、根抵当権は極度額
乙区で最も間違えやすいのがこの対比です。普通抵当権は特定の債権を担保するので、その債権額が登記されます。根抵当権は不特定の債権を枠で担保するので、枠の大きさである極度額が登記されます。「特定だから金額、不特定だから枠」と結びつけてください。
下線は消えた印
証明書を読むときの実務的なコツとして、まず下線のある行を線を引いて消してしまう、という手順が有効です。残った行が現在の権利関係です。全部事項証明書は履歴が全部載るぶん情報量が多いので、生きている記載だけを先に絞り込むと、格段に読みやすくなります。
理解度チェッククイズ
Q1. 新築した建物の所有権を取得した者は、その所有権の取得の日から1か月以内に、表題登記を申請しなければならない。(○か×か)
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○:不動産登記法47条1項の定めるとおりです。表示に関する登記には申請義務があり、期間は1か月です。建物を取り壊したときの滅失の登記、地目や床面積が変わったときの変更の登記も同じく1か月以内です。これに対して所有権保存登記や抵当権設定登記のような権利の登記には、原則として申請義務も期限もありません。Q2. 権利部甲区にした登記と権利部乙区にした登記との間の順位は、それぞれの順位番号の前後によって決まる。(○か×か)
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×:不動産登記法4条1項は登記の前後によるとし、これを受けた不動産登記規則2条1項が、同一の区にした登記相互間は順位番号、別の区にした登記相互間は受付番号によると定めています。甲区の1番と乙区の1番は別系統の番号なので比較できません。区をまたぐときは受付番号を見ます。Q3. 根抵当権の設定の登記においては、担保される債権の額として債権額が登記される。(○か×か)
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×:根抵当権で登記されるのは極度額です(不動産登記法88条2項1号)。あわせて担保すべき債権の範囲も登記されます。債権額が登記されるのは特定の債権を担保する普通抵当権のほうです(同法83条1項1号)。極度額は担保の枠の大きさであって、現在の借入残高ではない点にも注意してください。Q4. 登記記録上の所有名義人を真の所有者であると信じて不動産を買い受けた者は、その名義人が真の所有者でなかった場合であっても、登記を信頼したことにより所有権を取得することができる。(○か×か)
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×:日本の不動産登記に公信力はありません。登記には民法177条による対抗力がある一方で、記録を信じた者を保護する効力はないため、無権利者から買っても原則として所有権は取得できません。真の所有者が虚偽の外観の作出に関与していた場合に民法94条2項の類推適用で保護される余地はありますが(最判平成18年2月23日など)、あくまで例外的な救済です。Q5. 相続により所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ当該所有権を取得したことを知った日から3年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。(○か×か)
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○:不動産登記法76条の2第1項の定めるとおりで、令和6年4月1日から施行されています。正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象です。遺産分割が3年以内にまとまらない場合は、相続人申告登記(同法76条の3)を申し出ることで義務を履行したものとみなされます。氏名住所の変更登記の期間が2年である点と混同しないでください。まとめ
登記事項証明書は、表題部が物の情報、甲区が所有権、乙区が所有権以外の権利という三層でできています。読むときは、甲区の最後で現在の所有者を押さえ、乙区で担保や利用権の負担を確かめ、表題部で面積と種類を契約内容と照合する。この順で見れば、致命的な問題を早く拾えます。下線のある記載は抹消済みなので、先に除いてから残りを読むと格段に楽になります。
順位は、同じ区の中なら順位番号、区をまたぐなら受付番号で決まります。抵当権と差押えのどちらが先かを判断するのは受付番号です。数字としては、表示に関する登記が1か月、氏名住所の変更登記が2年、相続登記が3年という三つを押さえておけば足ります。
そして、登記には対抗力はあっても公信力がありません。記録を信じただけでは守られないからこそ、現地の確認と権利関係の調査が必要になります。建物の賃借権や法定地上権のように登記に現れない権利もあるため、証明書は調査の出発点として使ってください。
宅建試験AIブートラボのアプリでは、不動産登記法の出題を肢ごとに演習でき、登記記録の構成や申請義務の期間といった間違えやすい論点を繰り返し確認できます。
税と価格の評定は毎年ほぼ同じ形で出ます。出題パターンを肢別で押さえれば取りこぼしません。