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抵当権の基本|設定・効力の及ぶ範囲と賃借権

権利関係 読了 約27分

抵当権の成立と効力を条文から整理します。369条の非占有担保、370条と371条の効力の範囲、抵当権と賃借権の優劣、395条の明渡猶予、法定地上権の要件まで。

目次

    この記事は、抵当権の成立と効力という土台を条文と判例で押さえるためのものです。競売でどう配当されるか、被担保債権の範囲や順位の処分、共同抵当や物上代位の行使要件といった実行段階の話は抵当権の実行と配当|計算問題の解き方に分けてあります。権利関係全体での位置づけは権利関係の頻出論点ランキングTOP15を参照してください。

    先に全体像を述べます。抵当権は、目的物の占有を移さずに設定できる約定担保物権です(369条1項)。占有を移さないからこそ、設定者は不動産を使い続けられ、住宅ローンを返しながらその家に住むことができます。そして占有を移さないからこそ、抵当権の効力がどこまで及ぶのか、抵当不動産を借りている人はどうなるのか、建物と土地の関係はどうなるのか、という問題が次々に生じます。この記事はその問いに順番に答えていきます。

    条文番号はすべて民法のものです。抵当権に関する条文は369条から398条までにまとまっており、そのあと398条の2以下が根抵当権です。

    抵当権とは何か

    占有を移さない担保(369条)

    369条1項は「抵当権者は、債務者又は第三者が占有を移転しないで債務の担保に供した不動産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する」と定めています。この条文には抵当権の要素がすべて詰まっています。占有を移転しないこと、目的物が不動産であること、そして他の債権者に先立って弁済を受けられること、つまり優先弁済権があることです。

    抵当権は当事者の合意によって設定される約定担保物権です。法律上の要件を満たせば当然に発生する留置権や先取特権のような法定担保物権とは、この点で違います。四類型のどれがどの軸で分かれるのかを一枚に収めた地図は質権と先取特権にあり、抵当権が「約定・非占有」という組み合わせに位置することを確認してから読むと、以下の効力論が置かれている場所がはっきりします。

    そして設定契約は諾成契約です。抵当権設定契約書に押印すれば、それだけで抵当権は成立します。目的物の引渡しは要りません。金融機関の住宅ローン実務で、融資実行と同時に抵当権設定登記を申請するのは、対抗要件を備えるためであって、抵当権を成立させるためではありません。住宅ローンの仕組みは住宅ローンの基礎知識|金利タイプと返済方法の違いで扱っています。

    質権と比べると輪郭がはっきりする

    抵当権の性格は、質権と並べるとよく見えます。342条は「質権者は、その債権の担保として債務者又は第三者から受け取った物を占有し」と定め、344条は「質権の設定は、債権者にその目的物を引き渡すことによって、その効力を生ずる」と定めます。質権は要物契約であり、占有を移さなければ成立しません。345条はさらに、質権者が設定者に代わりに占有させることを禁じています。

    不動産質権については、356条が質権者による使用収益を認め、358条が質権者による利息の請求を禁じ、360条1項が存続期間を10年以内に制限しています。使わせてもらう代わりに利息は取れない、という組み立てです。361条により、不動産質権にはその性質に反しない限り抵当権の規定が準用されます。

    抵当権と質権の違いを一言でまとめれば、預けるのが質権、置いたままにするのが抵当権です。だから抵当権は不動産の担保として広く使われ、不動産質権はほとんど使われません。

    設定できる対象

    抵当権の目的にできるのは不動産です。加えて369条2項が「地上権及び永小作権も、抵当権の目的とすることができる」と定めています。借地権が地上権である場合には、その地上権自体に抵当権を設定できるということです。ただし、借地権の多くは賃借権であり、賃借権には抵当権を設定できません。借地権の種類については借地借家法の要点整理|借地権と借家権の違いを解説を参照してください。

    動産に抵当権を設定することはできません。動産を担保にするなら質権か、譲渡担保などの非典型担保になります。この点は宅建試験でもそのまま問われます。

    設定者は債務者に限らない

    抵当権を設定するのは、債権者と抵当権設定者です。369条1項が「債務者又は第三者が」と書いているとおり、設定者は債務者本人でなくてもかまいません。他人の債務のために自分の不動産を担保に提供する第三者を物上保証人といいます。

    物上保証人は債務を負っているわけではないので、債権者から履行を請求されることはありません。負っているのは、抵当不動産を失うかもしれないという物的な責任だけです。抵当権が実行されて所有権を失った物上保証人は、債務者に対して求償権を取得します。人的な保証との違いは連帯債務と保証債務|求償権・催告の抗弁を整理で整理しています。

    対抗要件は登記、順位は登記の前後

    抵当権の設定は当事者の合意で効力を生じますが、第三者に対抗するには登記が必要です(177条)。物権変動と対抗要件の一般論は物権変動と対抗要件|登記の役割と第三者の範囲にまとめてあります。

    同一の不動産に複数の抵当権を設定することもできます。373条は「同一の不動産について数個の抵当権が設定されたときは、その抵当権の順位は、登記の前後による」と定めます。契約日でも融資実行日でもなく、登記の前後です。登記簿上、抵当権は乙区に順位番号を付けて記録されます。読み方は不動産登記簿の読み方|甲区・乙区の見方を初心者向けに解説で確認できます。

    順位は各抵当権者の合意で変更できますが、374条1項ただし書により利害関係を有する者があるときはその承諾が必要で、同条2項により登記をしなければ効力を生じません。順位の譲渡・放棄・変更が配当額にどう影響するかは抵当権の実行と配当|計算問題の解き方で計算例つきに扱っています。

    担保物権に共通する四つの性質

    抵当権には、担保物権に共通する四つの性質があります。

    第一に付従性です。抵当権は被担保債権を担保するための権利なので、被担保債権が成立しなければ抵当権も成立せず、被担保債権が消滅すれば抵当権も消滅します。債権の消滅原因は債権の消滅原因|弁済・相殺・免除・混同を整理で扱っています。

    第二に随伴性です。被担保債権が譲渡されると、抵当権も譲受人に移転します。債権の担保という役割から当然に導かれる性質です。

    第三に不可分性です。372条が296条を準用しており、抵当権者は債権の全部の弁済を受けるまで、目的物の全部について権利を行使できます。債務の9割を弁済しても、残り1割が残っている限り、抵当権は不動産全体に及びます。

    第四に物上代位性です。372条が304条を準用しており、目的物の売却・賃貸・滅失・損傷によって設定者が受けるべき金銭にも抵当権を行使できます。ただし304条1項ただし書により、払渡しまたは引渡しの前に差押えをしなければなりません。物上代位の対象と差押えの時期は出題の中心ですが、詳細は抵当権の実行と配当|計算問題の解き方に譲ります。

    なお、根抵当権では元本の確定前に付従性と随伴性が働きません。この違いは後で扱います。

    抵当権の効力はどこまで及ぶか

    付加一体物(370条)

    370条本文は「抵当権は、抵当地の上に存する建物を除き、その目的である不動産に付加して一体となっている物に及ぶ」と定めます。抵当権の効力は不動産そのものだけでなく、それに付加して一体となっている物にも及ぶ、というのが原則です。

    まず押さえるべきは、条文が明文で「抵当地の上に存する建物を除き」と書いていることです。日本の民法では土地と建物が別個の不動産なので、土地に設定した抵当権の効力は、その上に建っている建物には及びません。設定時から建物が存在していても同じです。この点は繰り返し出題されます。

    付加一体物の典型は付合物です。242条本文は「不動産の所有者は、その不動産に従として付合した物の所有権を取得する」と定めます。土地に植えられた樹木、埋め込まれた石垣、建物に取り付けられて取り外せなくなった増築部分などが、これにあたります。分離すると経済的な価値を著しく損なうような結合をしているかどうかが判断の目安です。

    370条にはただし書があり、設定行為に別段の定めがある場合と、債務者の行為について424条3項に規定する詐害行為取消請求をすることができる場合には、効力が及びません。当事者の合意で範囲を絞ることができるということです。

    従物(87条2項)

    従物は付合物とは違います。87条1項は「物の所有者が、その物の常用に供するため、自己の所有に属する他の物をこれに附属させたときは、その附属させた物を従物とする」と定め、同条2項は「従物は、主物の処分に従う」と定めます。建物に対する畳や建具、ガソリンスタンドの建物に対する地下タンクや洗車機などが従物です。付合物と違って独立した物であり続ける点が異なります。

    判例は、抵当権設定時に存在した従物にも抵当権の効力が及ぶとしています。ガソリンスタンドの店舗建物に設定された抵当権について、地下タンクや洗車機といった設備は建物の従物であり、370条により抵当権の効力が及ぶとした判断があります(最判昭和44年3月28日)。設定当時に存在した従物には及ぶ、というのが出題される形です。

    従たる権利にも及ぶ

    効力が及ぶのは物だけではありません。判例は、借地上の建物に設定された抵当権の効力は、その建物の所有に必要な敷地の賃借権にも及ぶとしています(最判昭和40年5月4日)。敷地の利用権がなければ建物は存立できないため、賃借権を従たる権利として扱う考え方です。競売で建物を買い受けた者は、賃借権も取得することになります。ただし賃借権の譲渡には賃貸人の承諾が必要であり、承諾が得られない場合には借地借家法20条の裁判所の許可という手当てがあります。賃貸借の一般論は民法の賃貸借|存続期間・対抗要件・敷金を整理を参照してください。

    果実は不履行の後だけ(371条)

    371条は「抵当権は、その担保する債権について不履行があったときは、その後に生じた抵当不動産の果実に及ぶ」と定めます。ここでの果実には、土地から採れる作物などの天然果実と、賃料などの法定果実の両方が含まれます。

    条文が言っているのは、不履行があるまでは果実に及ばない、ということです。抵当権は占有を移さない担保なので、設定者は不動産を使い、収益を上げてよい。返済が滞っていない限り、賃料は設定者のものです。返済が滞ってはじめて、抵当権者は果実にも手を伸ばせるようになります。

    注意したいのは、条文の要件が「不履行があったとき」であって、「弁済期が到来したとき」ではないことです。弁済期が来ても債務者がきちんと弁済していれば、不履行はありません。この二つを同じものとして書いた説明は不正確です。債務不履行の意味は債務不履行と損害賠償・解除|3つの類型を整理で確認できます。

    占有を移さないことの限界

    設定者は使い続けられる

    抵当権を設定しても、設定者は不動産を使用し、収益を上げ、さらには売却することもできます。抵当権が付いたままの不動産を売ることは自由です。買主は抵当権の負担が付いた不動産を取得することになるだけで、売買自体が制限されるわけではありません。この買主が、後で扱う第三取得者です。

    不法占有者に対しては妨害排除ができる

    占有を移さない担保である以上、抵当権者には本来、目的物の占有を取り戻す権能はありません。しかし、第三者が不法に占有して競売手続を妨害し、適正な価格で売却できない状態を作り出すと、抵当権の目的である交換価値の実現が妨げられます。

    判例は、抵当不動産の所有者が占有者に対して有する妨害排除請求権を抵当権者が代位行使できるとしたうえで、抵当権に基づく妨害排除請求としても占有の排除を求めることができるとしました(最大判平成11年11月24日)。さらに、抵当不動産の所有者に適切な維持管理を期待できない場合には、抵当権者が占有者に対し直接自己への明渡しを求めることも認められるとした判断があります(最判平成17年3月10日)。

    非占有担保だから抵当権者は占有に一切関与できない、という理解は正確ではありません。交換価値の実現が妨げられる状態がある場合には例外がある、と押さえてください。

    担保価値を減らす行為への対応

    抵当不動産が損傷されると、担保価値が下がります。137条2号は、債務者が担保を滅失させ、損傷させ、または減少させたときは、期限の利益を主張できないと定めています。抵当権侵害があった場合には、不法行為に基づく損害賠償請求も問題になります。

    抵当権と賃借権の関係

    抵当不動産が賃貸されている場合、抵当権が実行されると賃借人はどうなるか。実務でも試験でも最も問題になる場面です。

    登記の先後で決まる

    原則は単純で、抵当権設定登記と賃借権の対抗要件のどちらが先か、で決まります。抵当権設定登記より前に賃借権が対抗要件を備えていれば、賃借人は競売の買受人に賃借権を対抗できます。建物賃貸借の対抗要件は引渡しであり(借地借家法31条)、借地権の対抗要件は借地上の建物の登記です(借地借家法10条1項)。

    逆に、抵当権設定登記より後に対抗要件を備えた賃借権は、買受人に対抗できません。民事執行法59条1項は、不動産の上の抵当権が売却により消滅することを定め、同条2項は、消滅する権利を有する者や差押債権者に対抗できない不動産に係る権利の取得は、売却によりその効力を失うと定めています。抵当権が消えるときに、その抵当権に劣後する賃借権も一緒に消える、という仕組みです。

    短期賃貸借の保護は廃止された

    かつては、抵当権設定登記後の賃貸借であっても、602条の定める期間、すなわち建物は3年、土地は5年を超えない短期賃貸借であれば抵当権者に対抗できる、という制度がありました。旧395条の短期賃貸借保護制度です。

    しかしこの制度は、競売を妨害する目的で形だけの短期賃貸借を設定する濫用が横行したため、2003年(平成15年)に成立した担保物権および民事執行制度の改善のための法改正によって廃止され、2004年(平成16年)4月1日から、現行395条の建物明渡猶予制度に置き換わりました。現行制度として短期賃貸借保護を挙げる記述は誤りです。「3年以内の建物賃貸借なら抵当権者に対抗できる」という肢は、旧制度を引きずった典型的な誤答です。

    抵当権者の同意による対抗(387条)

    賃借権を保護する道が完全に閉ざされたわけではありません。387条1項は「登記をした賃貸借は、その登記前に登記をした抵当権を有するすべての者が同意をし、かつ、その同意の登記があるときは、その同意をした抵当権者に対抗することができる」と定めます。

    要件は三つです。賃貸借が登記されていること、その登記前に登記をしたすべての抵当権者が同意していること、そして同意の登記があることです。一部の抵当権者の同意では足りません。また同条2項により、抵当権者が同意をするには、その抵当権を目的とする権利を有する者など、同意によって不利益を受けるべき者の承諾が必要です。

    賃貸ビルを担保にした融資で、優良なテナントの地位を安定させたいときなどに使われる制度です。関係者全員の合意と登記が必要なので、要件はかなり重くなっています。

    建物明渡猶予制度(395条)

    対抗できない賃借人を、退去まで一定の猶予期間を与えることで保護するのが395条です。1項は「抵当権者に対抗することができない賃貸借により抵当権の目的である建物の使用又は収益をする者であって次に掲げるものは、その建物の競売における買受人の買受けの時から六箇月を経過するまでは、その建物を買受人に引き渡すことを要しない」と定めます。

    対象者は二つに限られます。1号が競売手続の開始前から使用または収益をする者、2号が強制管理または担保不動産収益執行の管理人が競売手続の開始後にした賃貸借により使用または収益をする者です。競売開始後に自分で契約した賃借人は含まれません。

    期間の起算点は、競売の申立てでも売却許可決定でもなく、買受人の買受けの時です。そこから6か月です。

    この制度の性格を取り違えないことが重要です。これは対抗ではなく猶予です。賃貸借契約が買受人に承継されるわけではないので、買受人が賃貸人になるわけでもありません。6か月が経過すれば明け渡さなければならず、それまでの使用の対価は買受人に支払う必要があります。395条2項は、買受けの時より後の使用の対価について、買受人が相当の期間を定めて1か月分以上の支払を催告し、その期間内に履行がないときは猶予の規定を適用しないと定めています。使用料を払わない者まで猶予する必要はない、ということです。

    もうひとつ、この制度は建物に限られます。土地の賃借人に明渡猶予はありません。条文が「抵当権の目的である建物」と書いているとおりです。

    法定地上権と一括競売

    法定地上権の趣旨と条文(388条)

    388条は「土地及びその上に存する建物が同一の所有者に属する場合において、その土地又は建物につき抵当権が設定され、その実行により所有者を異にするに至ったときは、その建物について、地上権が設定されたものとみなす。この場合において、地代は、当事者の請求により、裁判所が定める」と定めます。

    なぜこの制度が必要かというと、日本では土地と建物が別個の不動産だからです。同じ人が土地と建物の両方を持っている間は、建物のために土地の利用権を設定する必要がありません。自分の土地に自分の建物が建っているだけです。ところが競売で一方だけが他人の手に渡ると、建物には土地を使う権利が何もない、という状態が生じてしまいます。建物を取り壊すしかないというのは社会的な損失なので、法律が地上権の設定を擬制して建物を存続させます。

    成立要件は四つ

    条文から導かれる要件は次の四つです。第一に、抵当権設定当時に土地の上に建物が存在していたこと。第二に、その当時、土地と建物が同一の所有者に属していたこと。第三に、土地または建物の一方または双方に抵当権が設定されたこと。第四に、競売の結果、土地と建物の所有者が異なるに至ったことです。

    第一の要件から、更地に抵当権を設定した後に建物を建てた場合には法定地上権が成立しません。抵当権者は更地としての担保価値を前提に融資しているので、後から法定地上権の負担を負わせるのは不意打ちになるからです。

    第二の要件から、抵当権設定当時に土地と建物の所有者が別だった場合にも成立しません。この場合、建物所有者は賃借権などの土地利用権をすでに持っているはずで、その利用権で建物は存続できます。なお、建物が未登記であっても、設定当時に現に存在していれば要件を満たすとされています。

    共有が絡む場合や、建物を取り壊して建て替えた場合には結論が分かれます。土地の共有者の一人が自分の持分に抵当権を設定した場合には成立せず、建物の共有者の一人が自分の持分に抵当権を設定した場合には成立するとされています。再築の場面では、土地のみに抵当権が設定されていた場合と、土地と建物の双方に共同抵当が設定されていた場合とで扱いが違います。これらのケース別の整理と判例は法定地上権の成立要件|判例で理解する4つの条件にまとめてあるので、そちらで確認してください。

    一括競売(389条)

    更地に抵当権を設定した後に建物が建てられると、法定地上権は成立しませんが、実際問題として土地の上に建物が建っていると買い手が付きません。そこで389条1項は「抵当権の設定後に抵当地に建物が築造されたときは、抵当権者は、土地とともにその建物を競売することができる。ただし、その優先権は、土地の代価についてのみ行使することができる」と定めます。

    押さえるべき点が三つあります。第一に「できる」であって義務ではありません。抵当権者が選択できる手段です。第二に、優先弁済を受けられるのは土地の代価からだけで、建物の代価からは受けられません。建物には抵当権が設定されていないのだから当然です。第三に、同条2項により、建物の所有者が抵当地を占有するについて抵当権者に対抗することができる権利を有する場合には、一括競売はできません。対抗できる利用権を持つ建物まで巻き込むことはできない、ということです。

    なお、建物を築造したのが設定者本人か第三者かは問いません。この点は2003年の改正で明確にされた部分です。

    抵当不動産の第三取得者

    抵当権が付いた不動産を買った人を第三取得者といいます。放っておくと抵当権が実行されて所有権を失うので、民法はいくつかの手当てを置いています。

    代価弁済(378条)

    378条は「抵当不動産について所有権又は地上権を買い受けた第三者が、抵当権者の請求に応じてその抵当権者にその代価を弁済したときは、抵当権は、その第三者のために消滅する」と定めます。

    主導権を握るのは抵当権者です。抵当権者が「代価を払ってくれ」と請求し、第三者がそれに応じて支払うと、抵当権はその第三者のために消滅します。代価が被担保債権額に満たなくても消滅します。

    条文が「所有権又は地上権を買い受けた第三者」と書いている点に注意してください。地上権を買い受けた者が代価弁済をした場合、抵当権が全部消えるわけではなく、その地上権者との関係で消滅します。結果として、地上権が抵当権に優先する形になります。

    抵当権消滅請求(379条以下)

    379条は「抵当不動産の第三取得者は、第三百八十三条の定めるところにより、抵当権消滅請求をすることができる」と定めます。今度は第三取得者の側が主導します。

    請求できる者には制限があります。380条は「主たる債務者、保証人及びこれらの者の承継人は、抵当権消滅請求をすることができない」と定めます。債務を全額弁済すべき立場の人が、一部の金額で抵当権を消してしまうのはおかしいからです。381条により、停止条件付きの第三取得者は、条件の成否が未定の間は請求できません。

    時期の制限もあります。382条は「抵当不動産の第三取得者は、抵当権の実行としての競売による差押えの効力が発生する前に、抵当権消滅請求をしなければならない」と定めます。競売が始まってしまえば手遅れです。

    手続は383条が定めています。第三取得者は、登記をした各債権者に対し、取得の原因や代価などを記載した書面、登記事項証明書、そして債権者が2か月以内に抵当権を実行して競売の申立てをしないときは記載した代価または指定した金額を弁済または供託する旨を記載した書面を送付します。

    384条は、書面の送付を受けた債権者が2か月以内に競売の申立てをしないときなどに、提供された金額を承諾したものとみなすと定めます。そして386条により、登記をしたすべての債権者が承諾し、第三取得者がその金額を払い渡しまたは供託したときに、抵当権は消滅します。

    この二つの制度をどう比べるかは抵当権の実行と配当|計算問題の解き方でも扱っていますが、まずは「代価弁済は抵当権者が言い出す、抵当権消滅請求は第三取得者が言い出す」という主導権の違いを軸に覚えてください。

    第三取得者のその他の地位

    390条は「抵当不動産の第三取得者は、その競売において買受人となることができる」と定めます。自分が所有していた不動産を、競売で買い戻すことができるということです。

    391条は、第三取得者が抵当不動産について必要費または有益費を支出したときは、196条の区別に従い、抵当不動産の代価から他の債権者より先に償還を受けられると定めます。維持管理に費用をかけた者を優先させる規定です。

    根抵当権とどこが違うか

    398条の2第1項は「抵当権は、設定行為で定めるところにより、一定の範囲に属する不特定の債権を極度額の限度において担保するためにも設定することができる」と定めます。これが根抵当権です。

    普通の抵当権は特定の債権を担保します。住宅ローン1本に抵当権1個、というかたちです。これに対し根抵当権は、一定の範囲に属する不特定の債権をまとめて担保します。同条2項により、その範囲は債務者との特定の継続的取引契約から生じるものなど、一定の種類の取引に限定して定めなければなりません。事業者と銀行の間で繰り返し行われる融資と返済を、いちいち抵当権を設定し直さずに担保できる仕組みです。

    最大の違いは、元本の確定前には付従性と随伴性が働かないことです。398条の7第1項は、元本の確定前に根抵当権者から債権を取得した者はその債権について根抵当権を行使できないと定めています。個々の債権が弁済で消えても根抵当権は残り、債権が譲渡されても根抵当権は付いていきません。だからこそ枠として機能します。

    もうひとつ、398条の3第1項により、根抵当権者は確定した元本と利息その他の定期金、損害賠償の全部について、極度額を限度として権利を行使できます。普通抵当権では375条により利息が最後の2年分に制限されますが、根抵当権にはその制限が働きません。この違いは抵当権の実行と配当|計算問題の解き方でも扱っています。

    元本の確定については、398条の19第1項が、設定者は設定の時から3年を経過したときに確定を請求でき、請求の時から2週間の経過で確定すると定め、同条2項が、根抵当権者はいつでも確定を請求でき、請求の時に確定すると定めています。極度額の変更は398条の5により利害関係を有する者の承諾が必要です。根抵当権の詳細は根抵当権|抵当権との違いと試験のポイントを参照してください。

    抵当権が消滅するとき

    付従性による消滅

    最も基本的な消滅原因は、被担保債権の消滅です。弁済、相殺、免除などによって被担保債権が消えれば、付従性により抵当権も消えます。抵当権の登記が残っていても、実体としての抵当権は消滅しています。

    時効による消滅(396条)

    396条は「抵当権は、債務者及び抵当権設定者に対しては、その担保する債権と同時でなければ、時効によって消滅しない」と定めます。債務者や設定者との関係では、被担保債権が生きている限り、抵当権だけが単独で時効消滅することはありません。

    裏を返すと、それ以外の者、たとえば第三取得者や後順位抵当権者との関係では、166条2項の「債権又は所有権以外の財産権」として、権利を行使することができる時から20年で消滅する余地があります。相手によって扱いが変わる条文だと理解してください。消滅時効の一般論は時効|取得時効と消滅時効の要件・効果を解説にまとめてあります。

    取得時効による消滅(397条)

    397条は「債務者又は抵当権設定者でない者が抵当不動産について取得時効に必要な要件を具備する占有をしたときは、抵当権は、これによって消滅する」と定めます。第三者が抵当不動産を時効取得すれば、原始取得として抵当権の負担のない所有権を得るため、抵当権は消滅します。ここでも債務者と設定者は除かれています。自分で担保に出した不動産を占有し続けて抵当権を消す、というのは認められません。

    そのほかの消滅原因

    代価弁済(378条)と抵当権消滅請求(386条)による消滅は、すでに見たとおりです。競売が実行されて売却されれば、民事執行法59条1項により抵当権は消滅します。目的物が滅失した場合も抵当権は消滅しますが、火災保険金などがあれば物上代位の対象になります。

    なお398条は、地上権または永小作権を抵当権の目的とした地上権者・永小作人が、その権利を放棄しても抵当権者に対抗できないと定めています。放棄によって抵当権を消してしまうことを封じる規定です。

    試験での出題ポイント

    質権との入れ替え

    「抵当権は目的物の引渡しによって効力を生ずる」という肢が作られます。引渡しが効力要件なのは質権であって(344条)、抵当権は諾成契約です。逆に「質権者は設定者に占有を続けさせることができる」という肢も誤りです(345条)。占有を移すか移さないか、という一点で切り分けてください。

    目的物の範囲

    「動産に抵当権を設定できる」は誤りです。「地上権に抵当権を設定できる」は正しい記述です(369条2項)。「賃借権に抵当権を設定できる」は誤りです。この三つはセットで問われます。

    土地と建物の切り分け

    370条本文が「抵当地の上に存する建物を除き」と明文で定めているため、「土地に設定した抵当権の効力は、設定当時から存在した建物にも及ぶ」という肢は誤りです。逆に、設定当時に存在した従物には効力が及びます(最判昭和44年3月28日)。建物は別個の不動産だから及ばない、従物は主物の処分に従うから及ぶ、という理由の違いを押さえておくと混同しません。

    果実の要件

    371条の要件は「その担保する債権について不履行があったとき」です。「弁済期が到来すれば果実に及ぶ」「設定と同時に賃料にも及ぶ」といった肢は誤りになります。不履行の前は、賃料は設定者のものです。

    短期賃貸借と明渡猶予

    最も狙われるのがここです。「抵当権設定登記後の建物賃貸借でも、期間が3年以内であれば抵当権者に対抗できる」という肢は、2004年4月1日に廃止された旧395条の短期賃貸借保護を前提とするもので、誤りです。

    現行395条については、期間を9か月や1年に変える肢、起算点を競売の申立て時や売却許可決定時に変える肢、対象を土地に広げる肢、そして「猶予」を「対抗」にすり替える肢が作られます。正しくは、建物のみ、買受人の買受けの時から6か月、猶予であって賃貸借が買受人に承継されるわけではない、です。

    387条についても、「先順位抵当権者の一人が同意すれば対抗できる」とする肢が誤りです。すべての先順位抵当権者の同意と、その登記が必要です。

    法定地上権の成否

    更地に抵当権を設定した後に建物を築造した場合は成立しない、抵当権設定当時に土地と建物の所有者が別だった場合は成立しない、という二つが基本の出題です。あわせて、建物が未登記でも設定当時に存在していれば要件を満たす点も問われます。

    一括競売の三点

    389条については、「抵当権者は土地と建物を一括して競売しなければならない」と義務に変える肢、「建物の代価からも優先弁済を受けられる」とする肢、「建物の所有者が抵当権者に対抗できる利用権を持つ場合でも一括競売できる」とする肢(2項により誤り)が典型です。

    第三取得者の二制度

    「主たる債務者や保証人も、抵当不動産を取得すれば抵当権消滅請求ができる」という肢は380条により誤りです。また、代価弁済と抵当権消滅請求で主導権を入れ替える肢、抵当権消滅請求の期限を「競売による差押えの効力発生後でもよい」とする肢(382条により誤り)も出ます。

    根抵当権の付従性

    「根抵当権にも付従性があるので、個々の債権が弁済されれば根抵当権も消滅する」という肢は誤りです。元本の確定前には付従性も随伴性も働きません(398条の7第1項)。確定後は普通の抵当権に近い扱いになります。

    覚え方・整理の仕方

    抵当と質は「置いたまま」と「預ける」

    抵当権は置いたまま、質権は預ける。この一語で、設定契約が諾成か要物か、設定者が使用収益できるか、対抗要件が登記か占有か、がすべて連動して出てきます。迷ったら占有をどちらが持つかに戻ってください。

    目的物は「不動産・地上権・永小作権」

    369条2項が挙げるのはこの三つです。「不・地・永」と並べて覚え、動産と賃借権は入らない、と付け加えます。

    370条は条文の除外を先に読む

    370条は「抵当地の上に存する建物を除き」から読み始めます。効力が及ぶものを暗記するより、及ばないものを先に押さえたほうが速いからです。土地の抵当権は建物に及ばない、設定行為で別段の定めができる、この二つが除外です。

    371条は「不履行の後の果実だけ」

    条文の順番どおり、不履行が先、果実が後です。「不履行があったとき、その後に生じた果実」と唱えれば、弁済期の到来と取り違えることがありません。

    395条は「建・買・六・猶」

    建物だけ、買受けの時から、6か月、そして猶予であって対抗ではない。四つの語で押さえます。加えて、対象は競売手続の開始前から使用している者であること、使用料を払わなければ猶予が外れること(2項)を付け足します。民法全体の語呂は民法の語呂合わせ集|権利関係を楽しく暗記する方法にまとめてあります。

    法定地上権は「設定時に、同一人が、両方持っていた」

    抵当権設定の時点に立ち返り、そこに建物があったか、土地と建物が同じ人のものだったか、を確認します。この二点さえ判定できれば、残りの二つの要件はほぼ自動的に満たされます。時点は常に「抵当権設定当時」であって、競売の時ではありません。

    第三取得者は「言い出す人」で覚える

    代価弁済は抵当権者が言い出し、抵当権消滅請求は第三取得者が言い出します。そして請求できないのは主たる債務者・保証人とその承継人(380条)。主導権と除外者の二点で、二つの制度は区別できます。

    消滅時効は「相手を見る」

    396条は、債務者と設定者に対しては被担保債権と同時でなければ時効消滅しない、と相手を限定しています。「誰との関係の話か」を確認する癖をつけると、397条の「債務者又は抵当権設定者でない者」という限定も同じ発想で読めます。

    理解度チェッククイズ

    次の記述の正誤を判定してください。

    Q1. 抵当権設定契約は、抵当権者に対して目的物を引き渡さなければ効力を生じない。

    答えは誤りです。目的物の引渡しが効力要件とされているのは質権です。344条は「質権の設定は、債権者にその目的物を引き渡すことによって、その効力を生ずる」と定めています。抵当権は369条1項が「占有を移転しないで」と明記しているとおり非占有担保であり、設定契約は当事者の合意だけで効力を生じる諾成契約です。登記は第三者に対する対抗要件であって、抵当権の成立要件ではありません(177条)。

    Q2. 土地に抵当権を設定した場合、その抵当権設定当時から土地の上に存在していた建物にも、抵当権の効力が及ぶ。

    答えは誤りです。370条本文は「抵当権は、抵当地の上に存する建物を除き、その目的である不動産に付加して一体となっている物に及ぶ」と定めており、建物は明文で除外されています。日本の民法では土地と建物が別個の不動産として扱われるためで、設定当時から存在していたかどうかは関係ありません。これに対し、抵当権設定時に存在した従物には370条により効力が及びます(最判昭和44年3月28日)。建物と従物で結論が分かれる点に注意してください。

    Q3. 抵当権設定登記後に建物の賃貸借契約を結んだ賃借人であっても、賃貸借の期間が3年を超えないものであれば、競売の買受人に対して賃借権を対抗することができる。

    答えは誤りです。これは旧395条の短期賃貸借保護制度を前提とする記述ですが、この制度は2003年(平成15年)成立の法改正により廃止され、2004年(平成16年)4月1日から現行395条の建物明渡猶予制度に置き換わっています。期間の長短にかかわらず、抵当権設定登記後に対抗要件を備えた賃借権は買受人に対抗できません。抵当権者に対抗できる道は、387条により、登記をした賃貸借について先順位のすべての抵当権者が同意し、その同意の登記があるという要件を満たす場合に限られます。

    Q4. 抵当権設定登記後に建物を賃借し、競売手続の開始前から居住していた者は、買受人の買受けの時から6か月を経過するまでは、その建物を買受人に引き渡す必要がない。

    答えは正しい記述です。395条1項1号がそのまま定めています。ただしこれは対抗ではなく猶予である点を取り違えないでください。賃貸借契約が買受人に承継されるわけではなく、6か月経過後は明け渡す必要があります。また同条2項により、買受けの時より後の使用の対価について、買受人が相当の期間を定めて1か月分以上の支払を催告し、その期間内に履行がないときは、猶予の規定は適用されません。なお、この制度の対象は建物に限られ、土地の賃借人に明渡猶予はありません。

    Q5. 抵当不動産を買い受けた第三取得者が主たる債務者である場合、その者は抵当権消滅請求をすることができる。

    答えは誤りです。380条は「主たる債務者、保証人及びこれらの者の承継人は、抵当権消滅請求をすることができない」と定めています。債務の全額を弁済すべき立場にある者が、代価相当額を支払うだけで抵当権を消滅させられるとすれば不合理だからです。あわせて、382条により抵当権消滅請求は競売による差押えの効力が発生する前にしなければならない点、383条・384条により債権者が書面の送付を受けてから2か月以内に競売の申立てをしないときは承諾したものとみなされる点も確認してください。

    まとめ

    • 抵当権は占有を移さずに設定する約定担保物権で、設定契約は諾成契約です(369条1項)。目的物は不動産、地上権、永小作権に限られ(369条2項)、対抗要件は登記、順位は登記の前後で決まります(373条)。
    • 効力は付加一体物に及びますが、抵当地の上の建物には明文で及びません(370条本文)。設定時に存在した従物と、借地上建物の敷地賃借権のような従たる権利には及びます。果実に及ぶのは被担保債権について不履行があった後です(371条)。
    • 抵当権設定登記後の賃借権は買受人に対抗できず、旧法の短期賃貸借保護は2004年4月1日に廃止されました。現行の手当ては、387条の抵当権者の同意による対抗と、395条の建物明渡猶予(買受けの時から6か月、建物のみ、猶予であって対抗ではない)です。

    実行段階の配当計算や順位の処分、共同抵当と物上代位は抵当権の実行と配当|計算問題の解き方へ、法定地上権のケース別の判例整理は法定地上権の成立要件|判例で理解する4つの条件へ進んでください。登記簿上で抵当権や仮登記がどう見えるかは仮登記と本登記の違いとは?順位保全効と1号・2号仮登記不動産登記法|表示の登記と権利の登記の違いが参考になります。

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    民法・借地借家法・区分所有法など、条文だけでは判断しづらい論点は、過去問の肢で覚えるのが最短です。

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