損害賠償額の予定の制限|違約金との合算と超過部分
宅建業法38条を条文から解説。損害賠償額の予定と違約金を合算して代金の10分の2という上限、超過部分だけが無効となる効果、定めなかった場合の扱い、民法420条との二層構造、39条の手付との切り分けを整理します。
目次
この記事は、8種制限のうち損害賠償額の予定等の制限(宅地建物取引業法38条)を扱います。8種制限の全体像は「8種制限とは」、8項目の数字と効果を軸ごとに並べた整理は「8種制限の横断整理」を先に見てください。同じ「代金の額の十分の二」という数字を使う手付の額の制限(39条1項)は別の規律なので、「手付の制限」に分けてあります。
この論点は、民法の原則と宅建業法の制限が二層になっています。下の層に民法420条があり、当事者は損害賠償の額を自由に予定してよい、という原則を置いています。その上に宅建業法38条が乗り、宅建業者が自ら売主となる売買契約に限って、予定額と違約金の合算に上限を置いています。どちらの層の話をしているのかを取り違えると、正しい知識を持っていても選択肢を落とします。まずこの二層構造を頭に置いてください。
先に結論を六つ述べます。
第一に、民法420条1項は「当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる」と定めるだけです。金額の上限はありません。予定を置いた効果として、債権者は実際の損害額を立証しなくても予定額を請求でき、実損害が予定額を上回っても下回っても予定額によることになります。
第二に、改正前の420条1項後段にあった「裁判所は、その額を増減することができない」という一文は、2020年4月1日施行の改正で削除されました。ただし、削除されたからといって裁判所が自由に増減できるようになったわけではありません。公序良俗違反(90条)などの一般法理による制約が残る、という整理です。ここは断定の向きを間違えないでください。
第三に、民法420条3項は「違約金は、賠償額の予定と推定する」と定めます。名前が違っても、原則として同じ扱いを受けます。
第四に、宅建業法38条1項は、損害賠償の額の予定と違約金を「合算した額」が代金の額の十分の二を超えることとなる定めを禁じます。どちらか一方ずつで判断するのではありません。
第五に、38条2項の効果は「代金の額の十分の二をこえる部分について、無効とする」です。契約全体が無効になるのでも、予定の定めが丸ごと消えるのでもありません。超過部分だけが無効になり、十分の二の限度では有効に残ります。ここが最頻出です。
第六に、38条が制限しているのは「定め」であって、実際に生じた損害の賠償請求ではありません。予定も違約金も置かなければ38条の出番はなく、実損害が代金の十分の二を超えていても、立証できる限り全額を請求できます。
なお、宅建試験は当該年度の4月1日現在施行の法令から出題されます。この記事で引用する宅地建物取引業法・民法・消費者契約法の条文は、すべて2026年4月1日時点で施行されているものです。民法は令和8年法律第45号により2026年6月24日に改正・施行されていますが、本則1,173条に差分はなく、宅地建物取引業法も令和7年法律第68号により2026年4月1日に改正されているものの本則86条に差分はありません。この記事の内容に影響する改正はありません。
二層で読む ― 民法420条と宅建業法38条
下の層 ― 民法は「自由に定めてよい」と言っている
契約自由の原則からすれば、債務不履行があったときにいくら払うかは当事者が決めてよい事柄です。民法91条が「法律行為の当事者が法令中の公の秩序に関しない規定と異なる意思を表示したときは、その意思に従う」と定めているとおり、任意規定と違う合意は原則として有効です。
損害賠償についても同じで、民法420条1項は当事者が賠償額を予定できることを正面から認めています。額の上限を定めた条文は民法にありません。代金の5割を違約金とする合意も、民法の条文だけを見る限り禁じられてはいません。
上の層 ― 宅建業法は「上限を置く」と言っている
この自由に対して、宅地建物取引業法38条が特則を置いています。宅建業者が自ら売主となる売買契約に限り、損害賠償額の予定と違約金の合算額を代金の額の十分の二までとする、という制限です。
制限が置かれる理由は、当事者の立場の非対称にあります。売主が業者、買主が一般消費者という組み合わせでは、契約書の条項は業者側が用意したものになるのが通常で、買主が個別に交渉して過大な違約金を削らせることは期待しにくい。そこで、契約自由に外側から枠をはめています。8種制限に共通する発想で、8種制限とはで扱っている他の7項目も、同じ考え方で組み立てられています。
二層で読むとどの問いに答えられるか
二層で読めると、次のような問いに機械的に答えられます。
売主が業者でないなら、上の層は働きません。個人間の売買で違約金を代金の3割と定めても、民法の層だけの問題であり、宅建業法38条の出番はありません。
業者が売主でも、業者が媒介や代理をしているだけなら、やはり上の層は働きません。38条1項が「みずから売主となる」と書いているためです。
上の層が働く場面でも、それは「定め」に対する制限です。予定を置かずに実損害を請求する場面では、上の層は働かず、民法416条の範囲論に戻ります。
そして上の層に触れた場合の効果は、十分の二を超える部分の無効です。契約が無効になるのでも、定めが全部消えるのでもありません。
- 下の層は民法420条。額の上限はない
- 上の層は宅建業法38条。業者が自ら売主となる売買に限って上限を置く
- 上の層が制限するのは「定め」であって、実損害の賠償請求ではない
民法420条 ― 予定を置くと何が変わるのか
1項が定める原則
民法420条1項は「当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる」とだけ定めています。要件は当事者の合意だけで、書面も金額の制限も条文上は要求されていません。
重要なのは効果のほうです。予定を置くと、債権者は実際の損害額を立証する必要がなくなります。予定額の合意があったこと、そして債務不履行があったことを主張すれば、予定額を請求できます。
これは債権者にとって大きな利益です。予定がない場合、債権者は民法416条に従って損害の範囲を主張立証しなければなりません。416条1項は通常生ずべき損害の賠償を目的とすると定め、2項は特別の事情によって生じた損害について当事者がその事情を予見すべきであったときに賠償を請求できるとします。何が通常損害で、何が予見すべき特別損害かは、事案ごとに争いになります。不動産取引のように損害の内容が多岐にわたる場面では、この立証は重い負担です。損害賠償の範囲論そのものは「債務不履行」で詳しく扱っています。
上回っても下回っても予定額による
予定を置いた以上、実際の損害額が予定額を上回っても、下回っても、予定額によります。これが予定という制度の核心です。
代金3,000万円の売買で、損害賠償額の予定を600万円と定めたとします。買主の債務不履行で契約が解除され、売主に実際には800万円の損害が生じていたとしても、売主が請求できるのは600万円です。逆に、実損害が300万円しかなくても、売主は600万円を請求できます。予定額は上限であると同時に下限でもある、という言い方が理解の助けになります。
この双方向性が、予定という制度が当事者にもたらす価値です。債権者は立証の負担から解放され、債務者は負担額の上限を事前に把握できます。紛争になったときに何を争うかがあらかじめ絞られる、という機能もあります。
試験では、この双方向性の片側だけを書いた選択肢が出ます。「実損害が予定額を超えるときは、超える部分についても賠償を請求できる」は誤りです。「実損害が予定額に満たないときは、実損害の限度でしか請求できない」も誤りです。どちらも予定額によります。
2項 ― 履行の請求や解除を妨げない
民法420条2項は「賠償額の予定は、履行の請求又は解除権の行使を妨げない」と定めます。
賠償額を予定したことによって、債権者が持っている他の手段が失われるわけではない、という趣旨です。予定額を払えば債務を免れる、という関係ではありません。債権者はなお本来の履行を請求できますし、解除の要件が備われば契約を解除することもできます。
「損害賠償額の予定を定めた場合、債権者は契約を解除することができない」という選択肢は、この2項に照らして誤りです。逆に、予定額の請求と履行請求・解除がどう組み合わさるかは、解除の効果を定める民法545条の枠組みで処理されます。545条4項が「解除権の行使は、損害賠償の請求を妨げない」と定めているため、解除しても賠償請求は残ります。
3項 ― 違約金は賠償額の予定と推定する
民法420条3項は「違約金は、賠償額の予定と推定する」と定めます。
違約金という言葉には、本来は二つの可能性があります。一つは損害賠償額の予定としての違約金で、この場合は実損害を問わずその額を払えばよい。もう一つは違約罰としての違約金で、この場合は違約金とは別に実損害の賠償も請求できる、という構成になります。当事者がどちらのつもりで定めたかは契約書の文言だけでは決まらないことが多く、そこで条文が「賠償額の予定」のほうに寄せています。
「推定する」であって「みなす」ではありません。推定は反対の証拠によって覆せます。違約罰の趣旨であることを主張する側が、それを立証すれば推定は破れます。条文の用語を「みなす」に書き換えた選択肢は誤りです。用語の違いは細かく見えますが、覆せるかどうかという結論が変わるため、区別して覚えてください。
421条 ― 金銭でないものを予定した場合
民法421条は「前条の規定は、当事者が金銭でないものを損害の賠償に充てるべき旨を予定した場合について準用する」と定めます。
賠償を金銭以外の給付で行う旨を予定した場合にも420条が準用される、という規定です。民法417条が「損害賠償は、別段の意思表示がないときは、金銭をもってその額を定める」として金銭賠償を原則としつつ、別段の意思表示による例外を認めていることと対応しています。宅建試験で正面から問われる条文ではありませんが、420条を読むときに一緒に目に入れておくと、予定という制度が金額だけの話ではないことが見えます。
- 420条1項 ― 予定できる。額の上限は民法にない
- 予定の効果 ― 実損害の立証が不要。上回っても下回っても予定額
- 420条2項 ― 履行の請求も解除も妨げない
- 420条3項 ― 違約金は賠償額の予定と「推定」する。みなすではない
削除された「増減することができない」をどう扱うか
削られた文言そのもの
改正前の民法420条1項は、次のように二文で構成されていました。「当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる。この場合において、裁判所は、その額を増減することができない。」
2020年4月1日施行の改正で、この後段が削除されました。現在の420条1項は「当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる」の一文だけです。冒頭で引用したとおり、条文を実際に読めばそこに増減禁止の文言はありません。
削除は「自由に増減できる」を意味しない
ここが最も注意すべき点です。「増減できないという規定が削除された」から「裁判所が自由に増減できるようになった」と結論するのは飛躍です。
削除前から、予定額があまりに過大な場合には公序良俗違反として一部を無効とするなど、一般法理による調整が行われてきました。後段の文言はその実務と整合しない外観を持っていたため、条文から取り除かれたという経緯です。つまり、削除によって新たな増減権が裁判所に与えられたのではなく、もともと一般法理の側にあった制約が条文の見た目に反映された、という理解になります。
したがって、削除後も残る制約があります。民法90条は「公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする」と定めており、過大な予定額の定めがこれに触れる場合には、その限度で効力を否定されます。民法1条2項の信義誠実の原則も一般的な歯止めとして働きます。
選択肢としてどう出るか、どう答えるか
出題の形は二方向あります。
古い記述をそのまま持ち込むのが一方です。「損害賠償額の予定をしたときは、裁判所はその額を増減することができない」という選択肢は、現行の420条1項にその文言がない以上、条文の記述としては誤りです。
削除を過大に読ませるのがもう一方です。「改正により、裁判所は損害賠償の予定額を自由に増減できることとなった」という選択肢は、削除の意味を取り違えたもので、これも正しくありません。420条は増減権を裁判所に与える規定を新たに置いてはいません。
答え方としては、条文に書かれていることと、条文の外にある一般法理とを分けて述べるのが安全です。条文には増減の可否について何も書かれていない。一般法理による制約は残る。この二段で押さえれば、どちらの方向の選択肢にも対応できます。
過失相殺との関係をどこまで踏み込むか
民法418条は「債務の不履行又はこれによる損害の発生若しくは拡大に関して債権者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の責任及びその額を定める」と定めます。不法行為の過失相殺(722条2項)が「できる」という裁量的な書き方であるのに対し、418条は「定める」と書かれており、考慮が必要的である点が特徴です。
もっとも、賠償額の予定がある場合に418条がどこまで及ぶかは、条文が答えを書いていない領域です。条文に書かれていないことを断定的に覚えると、かえって選択肢の判断がぶれます。宅建試験の対策としては、418条は予定がない場面の規律として押さえ、予定がある場面は420条と宅建業法38条で処理する、という切り分けで足ります。
- 削除されたのは420条1項後段の「裁判所は、その額を増減することができない」
- 削除は「自由に増減できる」を意味しない。90条などの一般法理による制約は残る
- 「増減できない」と書いた肢も「自由に増減できる」と書いた肢も、条文の記述としては正しくない
宅建業法38条1項 ― 条文を五つの部品に分ける
条文を最後まで読み切ります。
宅地建物取引業者がみずから売主となる宅地又は建物の売買契約において、当事者の債務の不履行を理由とする契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定めるときは、これらを合算した額が代金の額の十分の二をこえることとなる定めをしてはならない。(宅地建物取引業法38条1項)
長い一文ですが、五つの部品に分けると要件が見えます。
部品1 ― 「宅地建物取引業者がみずから売主となる」
主体は宅建業者で、その業者が売主の立場にあることが必要です。媒介や代理として関与しているだけでは足りません。この点は後述の78条2項とあわせて、8種制限に共通する前提になります。
条文が「みずから」とひらがなで書かれ、「こえる」も同様である点は、この条文が昭和のまま改められていないことの現れです。39条が「自ら」「超える」と漢字で書かれているのと表記が違います。条文を検索するときに漢字で引くと38条だけ引っかからないことがあるので、実際に条文を引く人は覚えておくと役に立ちます。
部品2 ― 「宅地又は建物の売買契約において」
対象は売買契約に限られます。貸借には適用されません。交換にも適用されません。交換を除く理由は条文の文言そのもので、38条1項は「売買契約において」としか書いていないためです。加えて、上限の基準が「代金の額」とされているため、代金という概念のない交換契約では基準そのものが立ちません。
割賦販売は代金の支払方法が分割になっているだけの売買なので、38条の適用があります。割賦販売については42条が別に催告と解除の制限を置いていますが、これは38条とは別の規律です。詳しくは「割賦販売の解除等の制限」を参照してください。
部品3 ― 「当事者の債務の不履行を理由とする契約の解除に伴う」
条文が制限の対象としているのは、債務不履行を理由とする解除に伴う損害賠償の額の予定と違約金です。「当事者の」と書かれているため、売主の債務不履行による解除の場合も、買主の債務不履行による解除の場合も、どちらも対象に入ります。
売主から解除する場合の違約金だけを定め、買主から解除する場合には何も定めない、という片側だけの条項も、38条の対象になります。定められている側について十分の二を超えていれば、その超過部分が無効になります。
なお、条文が明示的に対象としているのは「契約の解除に伴う」ものです。この限定が条文に置かれていることは、条文を読むうえで押さえておく価値があります。試験で素材になるのは、いずれも解除に伴う違約金・予定額です。
部品4 ― 「損害賠償の額を予定し、又は違約金を定めるとき」
予定と違約金の両方が対象です。民法420条3項が違約金を賠償額の予定と推定していることに対応して、宅建業法は両方を条文に書き並べ、名目による抜け道を塞いでいます。
「違約金」という名前を使えば38条を回避できる、という理屈は成り立ちません。逆に「損害賠償額の予定」とだけ書けば違約金の規制を免れる、ということもありません。条文が両方を並べて「これらを合算した額が」と続けているためです。
部品5 ― 「これらを合算した額が代金の額の十分の二をこえることとなる定めをしてはならない」
上限の判定は合算額で行います。ここが最頻出です。
代金5,000万円の売買を例にとります。上限は5,000万円の十分の二で1,000万円です。損害賠償額の予定を800万円、違約金を500万円と定めた場合、それぞれは1,000万円以内ですが、合算すると1,300万円となり上限を超えます。「予定も違約金もそれぞれ十分の二以内だから適法」という判断は誤りです。
境界値の扱いにも注意します。条文は「十分の二をこえることとなる定め」を禁じているので、ちょうど十分の二は許されます。代金5,000万円で合算1,000万円ちょうどの定めは適法です。「十分の二未満でなければならない」とする選択肢は誤りになります。この境界の考え方は39条1項も同じで、8種制限の数字の扱いは「宅建業法の数字まとめ」でも横断的に整理しています。
- 主体は業者、立場は自ら売主、対象は売買契約
- 予定と違約金の両方が対象で、判定は合算額
- ちょうど十分の二は適法。超えたときが違反
38条2項 ― 超過部分だけが無効になる
条文が「部分について」と書いている
前項の規定に反する特約は、代金の額の十分の二をこえる部分について、無効とする。(宅地建物取引業法38条2項)
効果を定める条文です。読み落としてはならないのは「こえる部分について」という限定です。無効になるのは超過部分だけで、それ以外は有効に残ります。
全部無効との違いが結論を変える
超過部分だけの無効と、特約全部の無効とでは、その後に起きることがまったく違います。
代金3,000万円の売買で、損害賠償額の予定を900万円と定めた場合を考えます。上限は600万円です。
超過部分のみ無効という結論では、600万円の予定額が有効に残ります。債務不履行があれば、債権者は実損害を立証することなく600万円を請求できます。予定を置いたことの利益は、上限の範囲でそのまま維持されます。
これに対し、仮に特約全部が無効だとすると、予定額の定めは存在しなかったことになります。そうすると民法の原則に戻り、債権者は民法416条に従って実際の損害額を主張立証しなければなりません。立証できた額が600万円に届かなければ、その額しか取れません。逆に900万円の損害を立証できれば900万円を請求できることになります。
結論が正反対に近い方向へ動くので、ここを取り違えると連鎖して間違えます。38条2項は明文で「こえる部分について」と書いているのだから前者が正しい、と条文で押さえてください。
計算そのものは単純だが、聞かれ方が多様
超過額の計算は代金に0.2を掛けるだけですが、問われ方に変化がつきます。
代金4,000万円で、損害賠償額の予定600万円と違約金400万円を定めた場合。上限は800万円、合算は1,000万円なので、200万円が無効となり、800万円の限度で有効です。
代金2,500万円で、違約金だけを700万円と定めた場合。上限は500万円、合算は700万円なので、200万円が無効となり、500万円の限度で有効です。予定と違約金の一方しか定めていなくても、合算という言葉に引きずられて「合算する相手がいないから制限を受けない」と考えてはいけません。合算した結果が単独額と一致するだけです。
代金6,000万円で、損害賠償額の予定を1,200万円と定めた場合。上限は1,200万円なので、全部が有効です。境界値は許容される側にあります。
他の8種制限の無効規定と並べる
超過部分だけを無効とする書き方は、8種制限のなかで38条2項だけの特徴です。
37条の2第4項、39条3項、40条2項、42条2項は、いずれも特約そのものを無効とする書き方をしています。たとえば40条2項に反する「契約不適合責任を一切負わない」という特約は、部分的に縮減されるのではなく全部が無効となり、民法の規定がそのまま適用されます。この違いは「契約不適合責任の特約制限」で詳しく扱っています。
39条1項との違いも押さえておきます。39条1項は「代金の額の十分の二を超える額の手付を受領することができない」という行為の禁止として書かれており、無効の規定が置かれていません。同じ十分の二を扱う二つの条文が、効果の書き方だけ違うという構造です。
契約そのものは無効にならない
38条2項が無効としているのは「特約」の超過部分であって、売買契約そのものではありません。8種制限に違反しても売買契約自体が無効になるという規定は、宅建業法のどこにもありません。
「損害賠償額の予定を代金の3割と定めた売買契約は無効である」という選択肢は誤りです。契約は有効に存続し、予定額の定めが十分の二の限度に縮減されるだけです。この点は8種制限全体に共通する結論で、「8種制限の横断整理」でも効果の型として整理されています。
- 無効になるのは超過部分だけ。十分の二の限度では有効に残る
- 全部無効なら実損害の立証に戻る。ここが結論の分岐点
- 超過部分のみ無効という書き方は8種制限のなかで38条2項だけ
- 売買契約そのものが無効になることはない
定めなかった場合に何が起きるか
38条は「定め」を制限する規定である
38条1項の末尾は「定めをしてはならない」です。制限の対象は契約の条項であって、実際の損害賠償請求ではありません。この一点を条文から確認しておくと、次の論点が自動的に解けます。
予定も違約金も置かなければ、上限はかからない
宅建業者が自ら売主となる売買契約で、損害賠償額の予定も違約金も定めなかったとします。買主の債務不履行で契約が解除され、業者に代金の3割にあたる損害が生じました。この場合、業者は代金の十分の二までしか請求できないのでしょうか。
請求できます。38条の適用場面ではないからです。予定の定めがない以上、38条1項が禁じる「定め」が存在せず、38条2項が無効とすべき「特約」も存在しません。残るのは民法の原則だけで、業者は民法415条に基づき、416条の範囲で損害を立証して請求することになります。
逆向きの場面も同じです。買主が業者の債務不履行によって代金の3割の損害を被った場合も、予定を置いていなければ実損害を立証して全額を請求できます。38条は買主保護の規定ですが、予定がない場面ではそもそも働きません。
立証責任という代償
ただし、予定がないということは立証の負担が戻ってくるということでもあります。民法416条1項の通常損害にあたることを示すか、2項の特別損害として当事者が事情を予見すべきであったことを示さなければなりません。不動産取引では、転売利益や代替物件の取得費用、金融費用など、どこまでが賠償範囲かが争いになりやすい領域です。
つまり、予定を置かないという選択は「上限がなくなる代わりに立証が必要になる」というトレードオフです。予定を置くか置かないかで、どちらが有利かは一概に決まりません。この構造を理解しておくと、「予定を定めなかった場合は買主に不利である」といった一方的な断定を含む選択肢を疑えるようになります。
出題での典型形
この論点は、次の形で繰り返し出ます。
「宅地建物取引業者Aが自ら売主となり、宅地建物取引業者でないBとの売買契約において、損害賠償額の予定を定めなかった場合、Aは代金の額の十分の二を超える損害賠償を請求することができない。」
誤りです。定めがない以上38条の適用場面ではなく、実損害を立証すれば十分の二を超える額も請求できます。
判断の手順は単純です。まず、予定または違約金の「定め」があるかを見る。あるなら38条の枠に入り、合算額と十分の二を比べる。ないなら38条の外で、民法の枠だけを考える。定めの有無を最初に確認するという順序を身につけてください。
8種制限としての位置づけ ― 78条2項の射程
条文が範囲を画している
この法律の規定は、国及び地方公共団体には、適用しない。
2 第三十三条の二及び第三十七条の二から第四十三条までの規定は、宅地建物取引業者相互間の取引については、適用しない。(宅地建物取引業法78条)
38条は「第三十七条の二から第四十三条まで」の範囲に含まれています。したがって宅建業者相互間の取引には適用されません。
条文の構造としては、38条1項自身が「宅地建物取引業者がみずから売主となる」と書いて売主側の要件を定め、78条2項が買主側の要件を外側から定めている、という二段構えです。両方をあわせると、38条が働く場面は次の三つの要件がすべて満たされる場合に限られます。
第一に、売主が宅地建物取引業者であること。第二に、その業者が自ら売主となること。第三に、買主が宅地建物取引業者でないこと。
媒介・代理には適用されない
宅建業者が媒介や代理として関与しているだけで、売主が別の者であれば、38条は適用されません。契約の当事者が誰かで判断します。
たとえば、個人Cが売主、個人Dが買主で、業者Aが媒介した売買契約で、違約金を代金の3割と定めたとします。この定めに38条は及びません。売主はCであってAではないからです。媒介業者が契約に関与していることと、その業者が当事者であることは別の話です。
代理も同じです。業者Aが売主Cを代理して契約を締結した場合、契約の当事者はCであり、Aは代理人にすぎません。「代理は本人のために契約を締結するのだから、実質的に業者が売主と同じだ」という発想で読むと誤ります。適用範囲の詳細は「8種制限が適用されない場合」に、78条2項の射程を条文から分解してまとめてあります。取引態様そのものの区別は「取引態様の明示義務」も参照してください。
買主が業者なら民法に戻る
買主が宅建業者であれば、78条2項により38条は適用されません。その結果、民法420条の層だけが残ります。額の上限はなく、代金の3割でも5割でも当事者が合意すれば有効です。
「宅地建物取引業者間の売買契約において、損害賠償額の予定を代金の額の30パーセントと定めた場合、20パーセントを超える部分は無効である」という選択肢は誤りです。業者間では38条2項が働かないため、超過部分の無効という効果も生じません。
なお、買主が業者かどうかは免許を受けているかという属性で決まります。取引の目的が事業用かどうか、買主が不動産に詳しいかどうかは基準になりません。
貸借・交換には及ばない
38条1項が「売買契約において」と書いている以上、貸借契約には適用されません。建物賃貸借の違約金条項に宅建業法38条の上限を持ち込む選択肢は誤りです。
交換契約も同様に対象外です。交換には「代金の額」という基準がないため、仮に適用しようとしても上限を算定できません。交換差金がある場合でも、条文が言う「代金の額」とは別の概念です。
8種制限のどこに位置するか
8種制限は、契約の時系列に沿って並べると理解しやすくなります。契約締結の可否を扱うのが33条の2(自己の所有に属しない物件の売買制限)、申込み直後の撤回を扱うのが37条の2(クーリング・オフ)、契約条項の内容を規律するのが38条・39条・40条、締結後の金銭の受領を扱うのが41条・41条の2(手付金等の保全措置)、長期の履行過程を扱うのが42条・43条です。
38条は「契約条項の内容を規律する段階」に位置します。39条・40条と同じグループで、いずれも契約書に書かれた条項そのものに介入する規定です。この位置づけを持っておくと、41条のような金銭の受領規制と混ざらなくなります。売買全体の流れのなかでの各条文の働きは「不動産売買の流れ」で追えます。
- 三要件は「売主が業者」「自ら売主」「買主が業者でない」
- 媒介・代理は当事者でないため適用なし
- 業者間取引では民法420条だけが残り、上限はない
- 貸借・交換には及ばない
39条1項との切り分け ― 二つの「十分の二」
宅建業法には「代金の額の十分の二」が二か所に出てきます。38条1項と39条1項です。この二つを混ぜることが、この分野で最も多い失点です。軸ごとに分けて比べます。
制限の対象が違う
38条1項が制限しているのは、損害賠償額の予定と違約金の合算額です。契約書に書かれる条項の金額が対象になります。
39条1項が制限しているのは、手付の額です。契約締結に際して実際に授受される金銭の額が対象になります。
対象がそもそも別物です。手付は代金に充当されるのが通常で、契約が予定どおり履行されれば買主の手元から失われません。これに対し違約金は、債務不履行があったときに没収される金銭です。目的も局面も違うものを、同じ枠で足し合わせる理由がありません。
規制の形式が違う
38条1項は「定めをしてはならない」と書き、条項の内容を規制します。
39条1項は「受領することができない」と書き、受領という行為を規制します。契約書に代金の3割の手付を定めること自体ではなく、それを受け取ることが禁じられている、という構造です。
効果の書き方が違う
38条2項は「こえる部分について、無効とする」という明文を置いています。
39条には、額の制限についての無効規定がありません。無効規定が置かれているのは39条3項で、その対象は2項(解約手付としての効力)に反する買主に不利な特約です。39条1項に反した場合の私法上の効果は条文に書かれていません。この非対称は意識して覚えてください。詳細は「手付の制限」で扱っています。
合算しない
最も重要な帰結です。38条の枠と39条の枠は別々に判定します。
代金4,000万円の売買で、損害賠償額の予定を800万円と定め、かつ手付を800万円受領する場合を考えます。38条の上限は800万円、39条の上限も800万円です。それぞれの枠のなかで見れば、どちらもちょうど上限であり、両方とも適法です。合計1,600万円が代金の4割にあたるから違反、という判定にはなりません。
両方を同時に上限いっぱいまで定めることができる、という結論を明確に持ってください。この点を理解すると、「代金の十分の二」という数字が単なる暗記事項ではなくなります。二つの制度が別々の目的で別々の対象に上限を置いており、たまたま同じ割合が使われているだけだからです。
出題での定番形
「宅地建物取引業者が自ら売主となる売買契約において、損害賠償額の予定を代金の額の15パーセント、手付を代金の額の10パーセントと定めた場合、合計が代金の額の十分の二を超えるため、損害賠償額の予定の定めは超過部分について無効となる。」
誤りです。38条の枠では15パーセントで上限内、39条の枠では10パーセントで上限内。合算する条文上の根拠がありません。この形は繰り返し出るので、見た瞬間に枠が二つあることを思い出せるようにしてください。
41条とも別である
さらに別の規律として、41条・41条の2の手付金等の保全措置があります。こちらは買主が支払った金銭の返還を確保する制度で、額の上限を定めるものではありません。工事完了前なら代金の額の100分の5、完了後なら10分の1という別の割合が基準になり、しかもこれは「これを超えたら保全措置が必要になる」という閾値であって、上限ではありません。
代金4,000万円・工事完了前・手付800万円という事例では、39条1項の上限800万円はクリアしますが、100分の5にあたる200万円を超えているため41条の保全措置は必要です。額の制限をクリアしていることと、保全措置が不要であることは別の話です。詳細は「手付金等の保全措置」を参照してください。
- 38条は「定め」の内容規制、39条1項は「受領」の行為規制
- 効果は38条2項に明文があり、39条1項にはない
- 二つの十分の二は別々の枠。合算しない。両方を上限いっぱいに定められる
- 41条の割合はさらに別で、上限ではなく保全措置の要否の閾値
35条書面・37条書面での扱い
38条の内容を知っていても、書面の側から問われると崩れることがあります。条文の書き分けを確認します。
35条1項9号は条件節を持たない
重要事項の説明事項を列挙する35条1項の9号は、次のとおりです。
九 損害賠償額の予定又は違約金に関する事項
注目すべきは、この号に「定めがあるときは」という条件節が置かれていないことです。同じ35条1項のなかでも、10号は「第四十一条第一項に規定する手付金等を受領しようとする場合における」、11号は「支払金又は預り金……を受領しようとする場合において」と条件節を持っています。9号にはそれがありません。
条文が条件節を置いていない以上、9号の項目自体は常に説明の対象になります。定めを置かなかった場合には、その旨が説明の内容になる、という読み方になります。「損害賠償額の予定を定めていないときは、35条の説明事項に含まれない」とする選択肢は、この条文の書き分けに照らして正しくありません。
35条の説明事項全体の並びは「35条書面の記載事項一覧」で確認できます。
37条1項8号は「定めがあるときは」と書いている
一方、37条書面の記載事項を列挙する37条1項の8号は、次のとおりです。
八 損害賠償額の予定又は違約金に関する定めがあるときは、その内容
こちらには条件節があります。定めがある場合にのみ、その内容を記載すればよい。定めがなければ記載する必要はありません。いわゆる任意的記載事項です。
37条1項のなかで、1号から5号までは条件節を持たない必要的記載事項、6号以降は「定めがあるときは」という条件節を持つものが並びます。8号はその後者に属します。必要的記載事項と任意的記載事項の区別は「37条書面の記載事項」で整理しています。
同じ事項で条文の書き方が違う
35条は条件節なし、37条は条件節あり。この対比が、この論点の核心です。同じ「損害賠償額の予定又は違約金」という事項について、二つの書面で扱いが違います。
理由は書面の役割の違いにあります。35条書面は契約が成立するまでの間に交付し、判断材料を提供するための書面です。予定や違約金が置かれているかどうかは買主の意思決定に直結するため、置かれていないことも含めて確認させる意味があります。37条書面は契約が成立した後に交付し、成立した契約の内容を記録するための書面です。存在しない条項を記録する必要はありません。二つの書面の役割の違いは「35条書面と37条書面の違い」で横断的に扱っています。
貸借の37条書面にも入る
37条2項は貸借の場合の記載事項を定めており、その1号は「前項第一号、第二号、第四号、第七号、第八号及び第十号に掲げる事項」としています。8号が含まれているため、貸借の37条書面でも、損害賠償額の予定または違約金に関する定めがあればその内容を記載します。
ここで混乱しないでください。38条の上限規制は売買にしか及びませんが、37条書面の記載義務は貸借にも及びます。内容規制の適用範囲と、書面の記載義務の適用範囲は別です。「貸借には38条が適用されないから、37条書面にも書かなくてよい」という推論は成り立ちません。
書面の違反と契約の効力は別
37条の規定に違反した者は、83条1項2号により50万円以下の罰金に処せられます。35条1項の違反は罰則の対象ではありませんが、65条2項2号の列挙に35条1項が入っているため、業務停止処分の対象になります。
いずれも書面の交付・説明という手続についての効果であって、契約の内容そのものの効力とは別です。「37条書面に損害賠償額の予定を記載しなかった場合、その予定の定めは無効となる」という選択肢は誤りです。記載義務違反は業法上の責任を生じさせますが、私法上の合意の効力を左右する規定は置かれていません。罰則の全体像は「宅建業法の罰則一覧」にまとめてあります。
- 35条1項9号は条件節なし。定めの有無を問わず説明対象
- 37条1項8号は「定めがあるときは」。任意的記載事項
- 貸借の37条書面にも8号が含まれる(37条2項1号)
- 書面の義務違反と、契約条項の効力は別
違反したときの効果 ― 私法・監督処分・罰則
38条に違反したときに何が起きるかを、三つのレベルに分けます。この三つを混ぜて答えると、正しい知識を持っていても選択肢を落とします。
私法上の効果 ― 38条2項が書いている
超過部分の無効です。ここは条文に明文があり、迷う余地がありません。既に述べたとおり、十分の二の限度では有効に残り、契約そのものは無効になりません。
監督処分 ― 65条の枠組みで見る
65条2項2号は、業務停止処分の対象となる違反条文を列挙しています。その列挙を読むと、38条は入っていません。33条の2、34条、34条の2、35条1項から3項まで、36条、37条1項・2項、41条1項、41条の2第1項、43条から45条まで、といった条文が並ぶなかに、38条・39条・40条・42条は含まれていません。
もっとも、これは38条違反が何のとがめも受けないという意味ではありません。65条1項の柱書は「この法律の規定……に違反した場合においては、当該宅地建物取引業者に対して、必要な指示をすることができる」と定めており、指示処分の対象にはなります。さらに65条2項5号は「宅地建物取引業に関し不正又は著しく不当な行為をしたとき」を業務停止事由としているため、態様によってはこの一般条項を通じて業務停止に至る余地もあります。
つまり、条文を名指しした業務停止事由には入っていないが、指示処分の対象にはなり、一般条項による業務停止の可能性も残るという構造です。処分の種類と相互関係は「監督処分」で整理しています。
罰則 ― 38条を名指しした規定はない
罰則を定める79条から83条までを読むと、38条違反を処罰する規定はありません。79条は無免許営業や名義貸し、業務停止命令違反などを対象とし、79条の2から81条までは47条各号の行為を対象とし、82条は免許申請書の虚偽記載などを対象とし、83条1項2号は37条・46条4項・48条1項・50条1項の違反を対象としています。38条はどこにも登場しません。
したがって、「損害賠償額の予定について代金の額の十分の二を超える定めをした宅地建物取引業者は、罰金に処せられる」という選択肢は誤りです。
三つを分けて答える練習
問われ方によって、答えるべきレベルが変わります。
「その定めはどうなるか」と聞かれたら、超過部分が無効。「その契約はどうなるか」と聞かれたら、有効。「業者はどうなるか」と聞かれたら、指示処分の対象にはなるが、38条を名指しした業務停止事由も罰則もない。
質問がどのレベルを聞いているかを見極めることが、この分野の実力差になります。
消費者契約法9条1号という別の枠
38条の枠内であれば常に有効か、という問いには、もう一段の留保がつきます。
事業者と消費者の契約という重なり
消費者契約法2条3項は、消費者契約を「消費者と事業者との間で締結される契約」と定義します。同条1項の「消費者」は事業として又は事業のために契約の当事者となる場合を除く個人、2項の「事業者」は法人その他の団体および事業として契約の当事者となる個人です。
宅建業者が自ら売主となり、個人が自宅として買う、という典型的な8種制限の場面は、そのまま消費者契約にも当たります。つまり、宅建業法38条と消費者契約法9条1号の両方が同じ契約条項にかかります。
基準が違う
消費者契約法9条1号は、消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、または違約金を定める条項について、「これらを合算した額が……当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの」を、その超える部分について無効とします。
宅建業法38条が代金の額の十分の二という定率の基準を置いているのに対し、消費者契約法9条1号は平均的な損害の額という実質基準を置いています。基準の立て方がまったく違います。
したがって理屈のうえでは、代金の十分の二以内に収まっていても、平均的な損害の額を超えていれば9条1号によって超過部分が無効となりうる、という関係になります。二つの枠は択一ではなく、どちらも同時に効きます。
なお、9条1号も38条2項と同じく「当該超える部分」を無効とする書き方で、条項全体を無効とはしません。無効の及ぶ範囲の考え方は共通しています。
試験対策としての位置づけ
本記事の中心はあくまで宅建業法38条です。計算も効果も、38条の枠で処理できるようになることが先決です。消費者契約法9条1号は、「38条の枠内なら常に確実に有効」と言い切れるわけではないという一段深い理解のために置いておくものと考えてください。二層構造の話をもう一段広げると、民法420条・宅建業法38条・消費者契約法9条という三層になっている、という見取り図です。
試験での出題ポイント
合算させない肢と、合算しすぎる肢
同じ「合算」という語をめぐって、二方向の誤りが作られます。
一方は、38条のなかで合算させない肢です。「損害賠償額の予定が代金の15パーセント、違約金が代金の10パーセントであるが、いずれも十分の二以内であるから適法である」という形。38条のなかでは合算します。合算25パーセントで上限を超えます。
もう一方は、38条と39条をまたいで合算させる肢です。「損害賠償額の予定15パーセント、手付10パーセントで合計25パーセントとなるから違反である」という形。枠をまたいでは合算しません。それぞれの枠で判定します。
合算するのは38条の内側だけ。この一行を持っておけば、両方向に対応できます。
効果を全部無効に置き換える肢
「代金の額の十分の二を超える損害賠償額の予定をした場合、その定めは無効となり、実際に生じた損害額を立証して請求することになる」という形です。
誤りです。38条2項は超過部分だけを無効とし、十分の二の限度では予定が有効に残ります。実損害の立証に戻ることはありません。この肢は、結論の一歩先まで書いてあるぶん、もっともらしく見えます。
契約全体を無効にする肢
「損害賠償額の予定を代金の3割と定めた売買契約は無効である」という形です。無効になるのは特約の超過部分であって、契約ではありません。
予定がない場面に上限を持ち込む肢
「損害賠償額の予定を定めなかった場合、代金の額の十分の二を超える損害賠償を請求することはできない」という形です。
誤りです。38条が制限するのは「定め」であり、定めがなければ38条の適用場面ではありません。実損害を立証すれば全額を請求できます。判断の第一歩は、定めがあるかどうかの確認です。
境界値を動かす肢
「十分の二を超えてはならないから、ちょうど十分の二の定めも無効である」という形。条文は「こえることとなる定め」を禁じているので、ちょうど十分の二は適法です。
逆に「十分の三を超えなければよい」といった、数字そのものをずらす肢もあります。十分の三が出てくるのは43条の所有権留保等の禁止だけで、38条とは無関係です。
適用の前提をずらす肢
売主を業者でない者にする、業者を媒介・代理の立場に置く、買主を業者にする、契約を貸借や交換にする。いずれも38条の適用がなくなり、民法420条の層だけが残ります。問題文の当事者と取引態様を最初に確認する習慣をつけてください。
民法の改正論点を持ち込む肢
「裁判所は損害賠償の予定額を増減することができない」は、現行420条1項にその文言がないため誤りです。「改正により裁判所が自由に増減できるようになった」も、削除の意味を取り違えているため正しくありません。条文に書かれていることと、一般法理による制約とを分けて答えるのが安全です。
「みなす」と「推定する」を入れ替える肢
420条3項は「違約金は、賠償額の予定と推定する」です。「みなす」と書き換えた肢は誤りです。推定なら反証で覆せますが、みなしなら覆せません。
書面の側から問う肢
「損害賠償額の予定を定めていない場合、35条書面にはその旨を記載する必要がない」という形。35条1項9号に条件節がないことを根拠に判断します。逆に37条1項8号には条件節があるので、定めがなければ記載は不要です。同じ事項でも二つの書面で扱いが違うことを利用した問いです。
効果のレベルを取り違えさせる肢
「十分の二を超える定めをした業者は罰金に処せられる」「その売買契約は無効となる」「業務停止処分を受けることはない」。それぞれ私法・罰則・監督処分のレベルが違います。分けて処理してください。宅建業法全体での各条文の位置づけは「宅建業法の全体像」で確認できます。
覚え方・整理の仕方
二層を言葉にしてから解く
問題を読んだら、まず「これは民法の層か、業法の層か」を口に出して決めます。売主が業者で買主が業者でない売買なら業法の層、それ以外なら民法の層。層が決まれば、使う条文と結論の型が決まります。業法の層なら十分の二と超過部分無効、民法の層なら上限なしです。
「38は定め、39は受領」
二つの十分の二を分ける最短の合言葉です。38条は「定めをしてはならない」、39条1項は「受領することができない」。条文の述語をそのまま覚えると、対象が「契約書の条項」なのか「実際に受け取る金銭」なのかが自然に出てきます。
そして、述語が違うから効果の書き方も違うという順番で覚えます。定めを規制する38条には無効規定があり、受領を規制する39条1項には無効規定がない。理屈で繋がっているので、片方を思い出せばもう片方も出てきます。
「合算するのは38条の内側だけ」
合算という語が出てきたら、必ずこの一行を思い出します。予定と違約金は足す。手付は足さない。保全措置の割合も足さない。足す相手は条文が指定した相手だけです。
超過部分無効は38条だけ、と場所で覚える
8種制限の効果は三つの箱に分かれます。超過部分だけ無効の箱に入るのは38条2項だけ。特約全部が無効の箱には37条の2第4項、39条3項、40条2項、42条2項。無効規定がない箱には33条の2、39条1項、41条、41条の2、43条。
38条だけが単独で一つの箱を占めている、という覚え方をすると、「超過部分」という言葉を見た瞬間に38条を思い出せます。
「予定を置くと立証がいらない」から逆算する
民法420条の効果は、立証責任の話に還元すると忘れません。予定を置く目的は立証を省くこと。だから実損害がいくらであっても予定額による。だから予定を置かなければ立証が必要になり、そのかわり上限もなくなる。一本の理屈で繋がっているので、個別の結論を暗記する必要がありません。
35条と37条は「条件節の有無」で覚える
損害賠償額の予定について、35条1項9号には「定めがあるときは」がなく、37条1項8号にはある。条文を見る目印を「条件節があるかどうか」に固定すると、他の事項にも同じ方法が使えます。37条1項の6号・7号・8号・9号・10号・11号・12号はいずれも条件節を持つ、という並びで覚えると効率的です。
数字は用途とセットで唱える
十分の二は二つ、100分の5と10分の1は保全措置、十分の三は所有権留保。数字だけを並べて覚えると必ず混ざります。「十分の二(予定+違約金の合算)」「十分の二(手付の受領)」と、括弧まで含めて一息で唱えてください。数字の横断整理は「宅建業法の数字まとめ」にまとめてあります。
理解度チェッククイズ
Q1. 宅地建物取引業者Aが自ら売主となり、宅地建物取引業者でないBとの間で代金4,000万円の建物の売買契約を締結する場合において、損害賠償額の予定を500万円、違約金を400万円と定めたときは、この定めは全体として無効となる。
答えを見る
×。まず合算します。500万円+400万円で900万円です。代金4,000万円の十分の二は800万円ですから、合算額は上限を超えています。ここまでは正しいのですが、結論が違います。38条2項は「代金の額の十分の二をこえる部分について、無効とする」と定めているため、無効になるのは超過する100万円分だけです。800万円の限度では有効に残ります。「全体として無効」「定めがなかったことになる」「実損害を立証して請求することになる」といった結論はいずれも誤りです。なお、予定と違約金のどちらから先に削るかを条文は定めていませんが、合算した結果として800万円まで請求できる、という結論に変わりはありません。
Q2. 宅地建物取引業者Aが自ら売主となり、宅地建物取引業者でないBとの間で代金3,000万円の宅地の売買契約を締結した。損害賠償額の予定も違約金も定めなかった場合において、Bの債務不履行によりAが900万円の損害を被ったときは、Aは600万円を限度として損害賠償を請求できる。
答えを見る
×。38条1項が禁じているのは「定めをすること」です。予定も違約金も定めていない以上、38条が適用される場面ではなく、代金の十分の二という上限もかかりません。Aは民法415条に基づき、416条の範囲で900万円全額を請求できます。ただし、予定がないため損害の発生と額を主張立証する必要があり、通常損害にあたること、または特別の事情による損害について当事者がその事情を予見すべきであったことを示さなければなりません。上限がなくなる代わりに立証の負担が戻る、というトレードオフです。この肢は「38条は買主保護の規定だから業者の請求も制限されるはずだ」という直感に引っかけるものですが、条文の対象が「定め」であることを確認すれば迷いません。
Q3. 宅地建物取引業者Aが自ら売主となり、宅地建物取引業者でないBとの間で代金5,000万円の建物の売買契約を締結する場合、損害賠償額の予定を1,000万円と定め、かつ手付として1,000万円を受領することは、宅地建物取引業法に違反しない。
答えを見る
○。38条の枠と39条の枠は別々に判定します。38条1項の上限は代金5,000万円の十分の二で1,000万円、予定額はちょうど1,000万円なので「こえる」に当たらず適法です。39条1項の上限も同じく1,000万円、手付もちょうど1,000万円なので「超える額」に当たらず受領できます。合計2,000万円が代金の4割になるから違反、という判定にはなりません。二つを同時に上限いっぱいまで定めることができるというのが結論です。制限の対象が「定め」と「受領」で違い、対象となる金銭も違約金と手付で違うため、合算する条文上の根拠がありません。なお、この建物が工事完了前のものであれば、41条により手付金等の保全措置が別途必要です(工事完了前の割合基準は代金の100分の5で250万円)。額の制限をクリアしていることと保全措置が不要であることは別の話です。
Q4. 宅地建物取引業者Aが自ら売主となり、宅地建物取引業者Cとの間で売買契約を締結する場合、損害賠償額の予定と違約金の合算額を代金の額の30パーセントと定めても、宅地建物取引業法の規定により無効となる部分はない。
答えを見る
○。78条2項は「第三十三条の二及び第三十七条の二から第四十三条までの規定は、宅地建物取引業者相互間の取引については、適用しない」と定めています。38条はこの範囲に含まれるため、業者間取引には適用されません。したがって38条2項による超過部分の無効という効果も生じず、残るのは民法420条の層だけです。民法には額の上限がないため、代金の30パーセントの定めも有効です。判定は買主が宅建業者かどうかという属性で行い、買主が不動産に詳しいかどうかや、取引の目的が事業用かどうかは基準になりません。なお、業者間取引でも35条書面の交付や37条書面の交付は必要で、8種制限が外れることと業法上の義務がすべて消えることは別です。
Q5. 宅地建物取引業者Aが自ら売主となり、宅地建物取引業者でないBとの間で売買契約を締結するにあたり、損害賠償額の予定を定めなかった場合、Aは35条書面においてその旨を説明する必要はないが、37条書面にはその旨を記載しなければならない。
答えを見る
×。二つの書面の扱いが逆になっています。35条1項9号は「損害賠償額の予定又は違約金に関する事項」と規定するだけで、「定めがあるときは」という条件節を置いていません。同じ35条1項でも10号や11号は条件節を持つのに、9号にはない。この書き分けから、9号の項目自体は定めの有無を問わず説明の対象になり、定めがないときはその旨が説明の内容になる、と読みます。これに対して37条1項8号は「損害賠償額の予定又は違約金に関する定めがあるときは、その内容」と条件節を持つ任意的記載事項なので、定めがなければ記載する必要はありません。35条は条件節なし、37条は条件節あり。書面の役割の違い(契約前の判断材料か、成立した契約の記録か)から理屈づけて覚えると、他の事項にも応用が効きます。
まとめ
- この論点は二層構造です。下の層に民法420条があり、当事者は損害賠償の額を自由に予定できます。民法に額の上限はありません。上の層に宅建業法38条が乗り、業者が自ら売主となる売買に限って上限を置きます。問題を読んだら、まずどちらの層かを決めてください。
- 民法420条1項の効果は、実損害の立証が不要になることです。予定を置いた以上、実損害が予定額を上回っても下回っても予定額によります。2項は履行の請求と解除権の行使を妨げないとし、3項は違約金を賠償額の予定と推定します(みなす、ではありません)。
- 改正前420条1項後段の「裁判所は、その額を増減することができない」は削除されました。ただし削除は「自由に増減できる」を意味しません。公序良俗違反(90条)などの一般法理による制約が残ります。条文に書かれていることと一般法理とを分けて答えるのが安全です。
- 宅建業法38条1項は、損害賠償額の予定と違約金を「合算した額」が代金の額の十分の二を超えることとなる定めを禁じます。それぞれが十分の二以内でも、合算して超えれば違反です。ちょうど十分の二は適法です(条文は「こえることとなる定め」を禁じているため)。
- 38条2項の効果は「こえる部分について、無効」です。契約全体でも特約全体でもなく、超過部分だけが無効になり、十分の二の限度では有効に残ります。予定が消えて実損害の立証に戻る、という結論にはなりません。超過部分のみ無効という書き方は、8種制限のなかで38条2項だけの特徴です。
- 38条が制限するのは「定め」です。予定も違約金も置かなければ38条の適用場面ではなく、実損害が代金の十分の二を超えていても、立証できる限り全額を請求できます。判断の第一歩は定めの有無の確認です。
- 78条2項により、38条は業者間取引に適用されません。適用の三要件は「売主が業者」「自ら売主」「買主が業者でない」。媒介・代理は当事者でないため適用がなく、貸借・交換にも及びません(38条1項が「売買契約において」と書いているため)。射程の詳細は「8種制限が適用されない場合」にあります。
- 38条の十分の二と39条1項の十分の二は別々の枠です。38条は「定め」の内容規制で対象は予定+違約金、39条1項は「受領」の行為規制で対象は手付。合算しません。両方を同時に上限いっぱいまで定めることができます。効果の書き方も違い、38条2項には無効の明文があり、39条1項にはありません。
- 書面では35条と37条で扱いが逆です。35条1項9号は条件節を持たず、定めの有無を問わず説明対象になります。37条1項8号は「定めがあるときは」という条件節を持つ任意的記載事項です。貸借の37条書面にも8号は含まれます(37条2項1号)。
- 効果は三つのレベルに分けます。私法上は超過部分の無効、契約自体は有効。監督処分は、65条2項2号の列挙に38条は入っていないものの、65条1項により指示処分の対象にはなります。罰則は、79条から83条までに38条を名指しした規定がありません。
- 一段深い理解として、宅建業者が売主・個人が買主という場面は消費者契約にも当たり、消費者契約法9条1号が「平均的な損害の額」を超える部分を無効とする別の枠を持っています。38条の枠内なら常に確実に有効、と言い切れるわけではありません。
宅建試験AIブートラボの肢別トレーニングでは、8種制限の過去問を条文ごとに絞り込んで演習できます。38条は「定めがあるか」「合算していくらか」「代金の十分の二はいくらか」「超過部分はいくらか」という四段階を順に当てはめる練習をすると、選択肢が数字や当事者をずらしてきたときに気づけるようになります。
宅建業法は20問と配点が最も大きく、確実に得点したい科目です。免許制度・重要事項説明・8種制限を肢別で固めましょう。