8種制限の横断整理|数字と効果を軸で比べる
宅建業法の8種制限を、割合の数字、期間の数字、違反の効果、特約の無効、未完成と完成、契約の時系列という六つの軸で横断整理。10分の2が二か所に出てくる理由まで条文根拠つきで解説します。
目次
この記事は、8種制限の8項目を横に並べ、軸ごとに共通点と相違点を取り出すための記事です。8種制限とは何か、8つに何があるかという総論と各項目の中身は8種制限を完全攻略にあります。ここでは、8項目をすでに一通り学んだ人が、混ざりやすい箇所だけを締め直すことを想定しています。
結論を先に述べます。8種制限で失点するのは、条文を知らないからではなく、隣の条文の数字や効果を持ってきてしまうからです。10分の2という数字は38条と39条の二か所に出てきますが、意味も効果も違います。「買主に不利な特約は無効」という言い回しはいくつもの条文に出てきますが、38条だけは超過部分のみが無効で、43条には無効の規定自体がありません。同じに見えるものの違いを言語化することが、この分野の最後の詰めになります。
以下、適用の前提、割合の数字、期間の数字、違反の効果、特約の無効、未完成と完成、契約の時系列という順で、軸ごとに8項目を並べていきます。
8項目に共通する適用の前提
「自ら売主」であること
8種制限は、宅建業法33条の2および37条の2から43条までに置かれた規定の総称です。並んでいるのは、自己の所有に属しない宅地建物の売買契約締結の制限(33条の2)、クーリング・オフ(37条の2)、損害賠償額の予定等の制限(38条)、手付の額の制限等(39条)、契約不適合責任の特約の制限(40条)、手付金等の保全措置(41条、41条の2)、割賦販売契約の解除等の制限(42条)、所有権留保等の禁止(43条)の八つです。
いずれの条文も、主語は「宅地建物取引業者は、自ら売主となる」で始まります。したがって、業者が媒介や代理として関与するにすぎない場合には、これらの規定は一切適用されません。売主が個人で、業者が媒介をしているだけの取引に、手付の額の制限を持ち込むことはできません。
もっとも、媒介業者が適用を受けないというだけで、その取引に登場する別の業者が売主であれば、その売主業者には適用されます。「媒介業者が介在しているから8種制限は適用されない」という言い回しは、誰について論じているのかがすり替えられている典型です。業者と宅建士それぞれの義務の切り分けは宅建業者と宅建士の義務の違いでも扱っています。
相手方が宅建業者でないこと
もう一つの前提が、買主が宅建業者でないことです。根拠は各条文ではなく78条2項にあります。同項は、33条の2および37条の2から43条までの規定は、宅地建物取引業者相互間の取引については適用しないと定めています。
8種制限の適用除外規定が78条という離れた場所に置かれている点は覚えておく価値があります。個々の条文を読んでも「買主が業者でないこと」とは書かれていないため、条文だけを追うと見落とすからです。業者間取引の扱いは8種制限が適用されないケースにまとめてあります。
売買であること
条文はいずれも「売買契約」を対象としています。したがって、貸借には8種制限は適用されません。業者が自ら貸主となる場合はそもそも宅建業に当たらないという別の論点もありますが、条文の文言としても売買に限定されている点を押さえておきます。
前提が外れると8項目が同時に外れる
この三つの前提は、8項目すべてに共通します。裏を返せば、前提のどれか一つが外れた瞬間に、8項目すべてが同時に適用対象外になります。問題文を読むときは、個々の制限の中身に入る前に、まず売主が業者か、買主が業者でないか、売買かを確認する。この順序を固定しておくと、条文の中身を検討する必要すらない問題を素早く処理できます。
- 8種制限は33条の2と37条の2から43条までの八つ
- 「自ら売主」であることが全項目の前提。媒介・代理には適用されない
- 業者間取引に適用しないという根拠は78条2項
割合の数字を横断で整理する
10分の2は二か所に出てくる
代金の額の10分の2という数字が出てくるのは、38条と39条1項です。この二つを混ぜないことが、8種制限で最初に固めるべき点になります。
38条1項は、債務の不履行を理由とする契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、または違約金を定めるときは、これらを合算した額が代金の額の10分の2を超えることとなる定めをしてはならない、と規定します。制限されているのは「定め」であり、対象は損害賠償額の予定と違約金の合計です。
39条1項は、売買契約の締結に際して、代金の額の10分の2を超える額の手付を受領することができない、と規定します。制限されているのは「受領」であり、対象は手付です。詳細はそれぞれ損害賠償の予定額の制限と手付金の制限で扱っています。
二つを合算しない
最も多いひっかけが、38条の枠と39条の枠を合算させるものです。「損害賠償額の予定を代金の15パーセント、手付を代金の10パーセントと定めた場合、合計が10分の2を超えるため無効である」といった選択肢です。
これは誤りです。38条と39条は別個の制限であり、それぞれの枠のなかで10分の2以内かどうかを判断します。合算するのは38条のなかでの損害賠償額の予定と違約金だけです。二つの制度の性質が違うことを考えれば、合算しない理由も理解できます。手付は代金に充当される金銭で、最終的に買主の手元から失われるものではありません。これに対し違約金は、債務不履行があったときに没収される金銭です。目的も局面も違うものを、同じ枠で足し合わせる理由がありません。
予定を定めなかった場合は制限がかからない
38条についてもう一つ重要なのは、この条文が制限しているのはあくまで「予定額」であって、実際に生じた損害の賠償請求を制限するものではないという点です。損害賠償額の予定も違約金も定めていない場合、実損害が代金の10分の2を超えていれば、その全額を請求できます。
「損害賠償額の予定を定めなかった場合、業者は代金の10分の2までしか損害賠償を請求できない」という選択肢は誤りです。予定を定めていないのだから38条の適用場面ではない、という筋道で判断します。
保全措置の100分の5と10分の1
割合の数字はもう一組あります。手付金等の保全措置の基準です。41条1項ただし書は、工事の完了前の物件について、受領しようとする手付金等の額(すでに受領した額を含む)が代金の額の100分の5以下であり、かつ1,000万円以下であるときは保全措置を要しないとします。41条の2第1項ただし書は、工事の完了後の物件について、この割合を10分の1としています。
未完成物件のほうが基準が低い、つまり早い段階で保全が必要になるのは、物件が完成しないまま業者が倒産するリスクを負うためです。完成物件であれば現物が存在しており、買主のリスクは相対的に小さくなります。基準の高低には理由がある、と押さえておくと数字が逆になりません。詳細は手付金等の保全措置を参照してください。
「かつ」と「超えたら全額」
保全措置の基準には二つの読み違いが起きやすい箇所があります。第一に、条文が「100分の5以下であり、かつ、1,000万円以下であるとき」と書いているため、保全措置が不要なのは両方を満たす場合だけです。代金5億円の未完成物件で1,500万円を受領する場合、割合は100分の5以下ですが金額が1,000万円を超えるため、保全措置が必要になります。
第二に、基準を超えた場合に保全措置の対象となるのは、超えた部分ではなく、受領しようとする額の全部です。すでに受領した額も含めて計算し、含めて保全します。38条や39条の「超過部分」の発想を持ち込むと、ここで間違えます。
10分の3は所有権留保だけ
代金の額の10分の3という数字は、43条にしか出てきません。43条1項は、割賦販売を行った場合には、買主に引き渡すまでに登記その他引渡し以外の売主の義務を履行しなければならないとしたうえで、引渡しまでに代金の額の10分の3を超える額の金銭の支払を受けていない場合などをただし書で除外しています。
つまり、引渡しまでに代金の10分の3を超える金銭を受け取ったなら、所有権を留保したまま引き渡すことはできず、登記を移す必要があります。10分の3以下にとどまっている間は、所有権留保が認められます。43条2項は、引渡し後に10分の3を超える額の支払を受けた後は、担保の目的でその物件を譲り受けてはならないとして、譲渡担保も禁止しています。詳細は所有権留保等の禁止にあります。
- 10分の2は38条(予定+違約金の合算)と39条(手付の受領)の二か所。合算しない
- 保全措置は未完成が100分の5、完成が10分の1。1,000万円との「かつ」に注意
- 10分の3は43条の所有権留保・譲渡担保の基準だけ
期間の数字を横断で整理する
8日は起算点まで含めて覚える
クーリング・オフの8日は、37条の2第1項1号が定めるものです。条文は、業者から書面で告げられた日から起算して8日を経過したときは、申込みの撤回等をすることができないとしています。
ここで押さえるべきは、起算点が契約日でも引渡し日でもなく、書面で告げられた日だという点です。そして「その日から起算して」であるため、告げられた日を1日目として数えます。書面で告げられていなければ、いつまでも8日は進行しません。契約から何か月経っていても、告知書面が交付されていなければ撤回できるという結論になります。
なお、8日の経過とは別に、宅地建物の引渡しを受け、かつ代金の全部を支払ったときも撤回等ができなくなります(同項2号)。この二つは並列の要件であり、片方だけでは足りません。引渡しを受けていても代金の一部が未払いなら、まだ撤回できます。クーリング・オフの全体像はクーリング・オフ制度で扱っています。
30日以上は割賦販売の催告期間
42条1項は、割賦販売の契約について賦払金の支払義務が履行されない場合、30日以上の相当の期間を定めてその支払を書面で催告し、その期間内に履行されないときでなければ、賦払金の遅滞を理由として契約を解除し、または支払時期の到来していない賦払金の支払を請求することができない、と定めます。
要素が四つあります。30日以上であること、相当の期間であること、書面によること、そしてその期間内に履行がないことです。「口頭で30日以上の催告をした」「20日の期間を定めて書面で催告した」はいずれも要件を満たしません。書面という要素が落とされる出題があるので、四つ全部を言えるようにしておきます。詳しくは割賦販売の解除等の制限を参照してください。
2年以上は契約不適合責任の特約
40条1項は、種類または品質に関する契約不適合を担保すべき責任について、民法566条に規定する期間(買主が不適合を知った時から1年以内の通知)についてその目的物の引渡しの日から2年以上となる特約をする場合を除き、民法の規定より買主に不利となる特約をしてはならないとします。
この2年は、他の数字と性質が違います。上限ではなく下限であり、しかも例外を認めるための条件です。原則は「民法より買主に不利な特約をしてはならない」で、その唯一の例外として「引渡しの日から2年以上の通知期間」だけが許されています。したがって「引渡しから2年」は有効ですが、「引渡しから1年6か月」は無効です。特約の可否の判断は契約不適合責任の特約制限で詳しく扱っており、民法側の枠組みは契約不適合責任にあります。
期間ではないが時点を区切るもの
39条2項は、手付を受領したときは、その手付がいかなる性質のものであっても、当事者の一方が契約の履行に着手するまでは、買主は手付を放棄して、業者は手付の倍額を現実に提供して契約を解除できるとしています。ここには日数の定めがなく、「履行に着手するまで」という行為の時点で区切られます。
日数で区切るものと行為で区切るものが混在している、という構造の違いを意識しておくと、「手付解除は契約から8日以内に限られる」といった条文にない期間を持ち込む選択肢に反応できます。宅建業法全体の数字は宅建業法の数字まとめで通しで確認できます。
- 8日はクーリング・オフ、起算点は書面で告げられた日
- 30日以上は42条の催告期間。書面であることも要件
- 2年以上は40条の例外を認めるための下限。上限ではない
違反したときの効果の横断整理
超過部分だけが無効になるのは38条
8種制限の条文は、違反があったときにどうなるかを一様には定めていません。まず、超過部分だけを無効とするのは38条だけです。38条2項は、1項の規定に反する特約は、代金の額の10分の2を超える部分について無効とすると明記しています。
したがって、損害賠償額の予定を代金の30パーセントと定めた特約は、全部が無効になるのではなく、20パーセントを超える部分が無効となり、20パーセントの限度で有効に存続します。予定額の定めが消えて実損害の立証が必要になる、という結論にはなりません。
39条1項は「受領できない」であって無効ではない
39条について注意したいのは、無効の規定が置かれているのは2項(解約手付の性質)についてだけで、1項の額の制限については無効の規定がないという点です。1項は「受領することができない」という受領行為の禁止として書かれています。
もっとも、10分の2を超える手付を受領してしまった場合、その超過部分は法律上の原因を欠く受領となるため、買主は返還を求めることができると解されています。結論として超過部分が業者の手元に残らないという点では38条と似ますが、条文の書き方が違うことは知っておく価値があります。
特約全体が無効になるもの
37条の2第4項は、同条の規定に反する特約で申込者等に不利なものは無効とすると定めます。39条3項は、同条2項の規定に反する特約で買主に不利なものは無効とします。40条2項は、1項に反する特約は無効とします。42条2項も、1項に反する特約は無効とします。
これらは超過部分という発想がなく、特約そのものが効力を失います。40条を例にとると、「契約不適合責任を一切負わない」という特約は全部無効となり、民法の規定がそのまま適用されます。つまり買主は、不適合を知った時から1年以内に通知すれば責任を追及できることになります。無効になった結果どうなるかまで問われるので、無効の先の帰結を言えるようにしておきます。
無効の規定が置かれていないもの
33条の2、41条、41条の2、43条には、特約を無効とする規定がありません。これらは、契約締結や金銭の受領といった行為そのものを禁止する規制だからです。
33条の2は、自己の所有に属しない物件について自ら売主となる売買契約を締結してはならないと定めます。41条・41条の2は、保全措置を講じた後でなければ手付金等を受領してはならないと定めます。43条は、引渡しまでに登記その他の義務を履行しなければならないと定めます。いずれも「してはならない」「しなければならない」という行為規範であり、特約の効力を問題にしていません。
契約そのものは無効にならない
ここが最も重要な帰結です。8種制限に違反しても、売買契約そのものが無効になるという規定はどこにもありません。33条の2に違反して他人物売買の契約を締結しても、41条に違反して保全措置なしに手付金等を受領しても、契約が無効になるわけではありません。
違反に対しては、監督処分による対応がされます。指示処分、業務停止処分、情状が特に重い場合の免許取消処分という段階があります。処分の相互関係は監督処分の違いで整理しています。「保全措置を講じずに手付金を受領した場合、当該売買契約は無効となる」といった選択肢は、行政上の規制と私法上の効力を混同させるものです。
なお、41条・41条の2については、業者が保全措置を講じないときは、買主は手付金等を支払わないことができるという規定が置かれています。契約が無効になるのではなく、買主に支払拒絶権が与えられるという構成です。
- 超過部分のみ無効は38条だけ
- 特約全体が無効になるのは37条の2、39条2項、40条、42条
- 33条の2、41条、41条の2、43条には無効規定がなく、行為の禁止として構成されている
- 8種制限違反で売買契約そのものが無効になることはない
「買主に不利なものは無効」という共通の書き方
条文の書き分けを確認する
「買主に不利な特約は無効」という言い回しは複数の条文に出てきますが、書き方が微妙に違います。37条の2第4項は「申込者等に不利なもの」、39条3項は「買主に不利なもの」と、無効の対象を不利な特約に限定しています。
これに対し40条2項は「前項の規定に反する特約は、無効とする」と書き、不利かどうかの限定を置いていません。ただし40条1項自体が「買主に不利となる特約をしてはならない」と定めているため、結論としては買主に不利な特約だけが無効になります。限定がどの項に置かれているかが違うだけで、帰結は同じです。
42条2項も限定を置いていませんが、1項が買主保護のための手続を定めているため、それを緩める特約が無効になるという構造です。
買主に有利な特約は有効
この書き方から導かれる最も重要な帰結が、買主に有利な特約は有効だということです。8種制限は買主保護のための片面的な規制なので、買主により厚い保護を与える合意を妨げる理由がありません。
具体例を挙げます。クーリング・オフができる期間を書面告知から10日とする特約は、買主に有利なので有効です。契約不適合の通知期間を引渡しから3年とする特約も、民法より買主に有利なので有効です。手付の額を代金の1割とすることは、そもそも10分の2の枠内なので当然に可能です。損害賠償額の予定を代金の1割とするのも同様です。
逆に、クーリング・オフの期間を5日とする特約、通知期間を引渡しから1年とする特約、業者が履行に着手した後でも買主が手付解除できないとする特約は、いずれも買主に不利なので無効です。
有利か不利かの判断は民法または条文の原則と比べる
判断の基準は、その特約がなかった場合と比べて買主の地位がどうなるかです。40条であれば民法566条の原則と比べます。39条2項であれば、履行の着手までは手付解除できるという条文の原則と比べます。37条の2であれば、書面告知から8日という原則と比べます。
比較対象を取り違えると判断を誤ります。たとえば「業者は手付の倍額を現実に提供すれば、買主が履行に着手した後であっても契約を解除できる」という特約は、条文の原則では買主が履行に着手した後は業者から解除できないのですから、買主に不利であり無効です。一方「買主は、業者が履行に着手した後であっても手付を放棄して解除できる」という特約は買主に有利なので有効です。同じ「履行の着手後も解除できる」という文言でも、どちらの当事者の解除権かで結論が反転します。
- 買主に不利な特約だけが無効になる片面的規制
- 買主に有利な特約は有効。期間を延ばす方向の特約は通る
- 有利・不利は、特約がなかった場合の原則と比べて判断する
未完成物件と完成物件で結論が変わる制限
変わるのは保全措置だけ
物件が工事完了前か完了後かで結論が変わるのは、手付金等の保全措置です。41条が工事完了前、41条の2が工事完了後を規律しており、保全措置が不要となる割合が100分の5と10分の1で異なります。1,000万円という金額基準は共通です。
もう一つ違うのが保全の方法です。工事完了前は、銀行等による保証委託契約と、保険事業者との保証保険契約の二つが認められます。工事完了後は、これらに加えて指定保管機関による保管が認められます。指定保管機関による保管が完成物件に限られるのは、この方式が物件の引渡しと代金の決済を対応させる仕組みであり、現物が存在していることを前提とするためです。
「未完成物件について指定保管機関による保管の措置を講じた」という選択肢は誤りになります。方法の数は未完成が二つ、完成が三つ、と覚えます。
33条の2の例外とも連動する
33条の2は他人物売買を禁止したうえで、例外を二つ置いています。一つは、業者がその物件を取得する契約を締結しているときなど、取得できることが明らかな場合です。ここでいう取得契約には予約も含まれますが、効力の発生が条件にかかるもの、つまり停止条件付きの取得契約は除かれます。
もう一つの例外が、その物件について41条に規定する手付金等の保全措置が講じられているときです。41条は工事完了前の物件を対象とする条文ですから、この例外は未完成物件についてのみ働きます。つまり、未完成物件であれば、保全措置を講じることで他人物売買の禁止を外せるという連動があります。他人物売買の制限そのものは自己の所有に属しない物件の売買制限で扱っています。
変わらないもの
これ以外の制限、すなわちクーリング・オフ、損害賠償額の予定等、手付の額、契約不適合責任の特約、割賦販売の解除等、所有権留保等の禁止は、物件が未完成か完成かで結論が変わりません。40条の通知期間の起算点が「引渡しの日」であることからも分かるように、これらの条文は工事の進捗を要件にしていないからです。
「未完成物件の場合、手付の額の上限は代金の10分の1となる」といった、完成・未完成の区別を無関係な条文に持ち込む選択肢は誤りです。区別があるのは保全措置と、それに連動する33条の2の例外だけ、と限定して覚えます。
- 完成・未完成で変わるのは保全措置の基準(100分の5と10分の1)と方法(二つと三つ)
- 33条の2の保全措置による例外は未完成物件のみに働く
- 他の六つは工事の進捗と無関係
契約の時系列に並べ直す
申込みと契約締結の「場所」
8項目を契約の流れに沿って並べると、それぞれがどの段階を規律しているかが見えます。最初に位置するのがクーリング・オフです。37条の2は、事務所等以外の場所で買受けの申込みをし、または売買契約を締結した場合を対象とします。着目しているのは契約の内容ではなく、申込みや締結が行われた場所です。
事務所等に当たるかどうかは施行規則が定めており、土地に定着する案内所か否か、買主が申し出た場所か否かといった基準で判断されます。8項目のなかで唯一「どこで」を問題にする制限だ、という位置づけで覚えます。
契約締結の時点の内容規制
次に来るのが、契約の内容そのものを規律する条文群です。33条の2は、そもそもその物件について自ら売主として契約を締結してよいかを問題にします。38条は損害賠償額の予定と違約金の定めを、39条1項は手付の額を、40条は契約不適合責任の特約を、それぞれ契約締結の時点で制限します。
この四つは、契約書の条項を見れば違反しているかどうかが判断できるという共通点があります。契約書のチェックリストとして機能する制限、という括り方ができます。売買の一連の流れは不動産売買の流れで確認できます。
締結後から引渡し前の金銭の受領
41条・41条の2が規律するのは、契約締結後、物件の引渡し前に手付金等を受領する段階です。条文がいう「手付金等」とは、代金の全部または一部として授受される金銭および手付金その他の名義で授受される金銭で代金に充当されるもののうち、契約締結の日以後、引渡し前に支払われるものを指します。
この定義から二つの帰結が出ます。第一に、引渡し後に支払われる金銭は手付金等に当たらないため、保全措置の対象外です。第二に、契約締結前に受け取った申込証拠金であっても、契約締結後に代金に充当されるのであれば手付金等に含めて計算します。時点で区切られている制限だからこそ、定義の時点表現が意味を持ちます。
履行の着手という時点
39条2項の手付解除が可能なのは、当事者の一方が履行に着手するまでです。ここは日付ではなく、当事者の行為によって区切られます。買主が中間金を支払えば買主の履行の着手に当たり、以後は買主から手付を放棄しての解除ができなくなります。
条文が「当事者の一方が」と書いていることにも注意が必要です。自分が着手したかどうかではなく、相手方が着手したかどうかで解除の可否が決まる、という民法557条の解釈と同じ枠組みで理解します。
代金の支払と引渡しの段階
42条は、割賦販売において賦払金の支払が滞った場合の処理を規律します。契約が履行段階に入った後の制限です。43条は、割賦販売において引き渡すまでに登記その他の義務を履行することを求めており、引渡しの時点を捉えています。
この二つが割賦販売という同じ場面に関する制限であることは、セットで覚える手がかりになります。42条が「払われないとき」、43条が「引き渡すとき」を規律している、と時点で区別します。
引渡し後まで効く制限
引渡しの後に効いてくるのが40条です。契約不適合責任の通知期間を引渡しの日から2年以上とする特約だけが例外的に許されるため、この制限の効果は引渡し後2年にわたって及びます。8項目のなかで、引渡し後の期間まで射程を持つのはこの条文だけです。
時系列に並べると、場所(37条の2)、契約内容(33条の2、38条、39条1項、40条)、受領(41条、41条の2)、履行着手(39条2項)、支払遅滞(42条)、引渡し(43条)、引渡し後(40条)という順になります。40条が両端に登場するのは、締結時の特約の可否と、引渡し後の期間の両方を規律しているためです。
- 唯一「場所」を問題にするのがクーリング・オフ
- 契約書を見れば分かる制限は33条の2、38条、39条1項、40条
- 保全措置は「締結後・引渡し前」という時点で区切られる
試験での出題ポイント
数字の付け替え
最頻出は数字の入れ替えです。保全措置の100分の5と10分の1を逆にする形、43条の10分の3を10分の2にする形、42条の30日を20日にする形、40条の2年を1年にする形が定番です。数字を単体で覚えず、どの条文の、何を判断する数字かまで含めて一組で覚えます。
枠の合算
38条と39条の10分の2を合算させる出題は繰り返し出ます。「損害賠償額の予定と手付を合わせて代金の10分の2以内でなければならない」は誤りです。合算するのは38条のなかの予定額と違約金だけだ、と即答できるようにします。
効果の取り違え
「保全措置を講じずに手付金等を受領した場合、売買契約は無効となる」「損害賠償額の予定を代金の3割と定めた場合、その特約は全部無効となる」はいずれも誤りです。前者は契約が無効になる規定がないこと、後者は38条2項が超過部分についてのみ無効としていることから判断します。
有利な特約の可否
「クーリング・オフの期間を書面告知から10日とする特約は無効である」「契約不適合の通知期間を引渡しから3年とする特約は無効である」はいずれも誤りです。買主に有利な方向の特約は妨げられません。無効になるのは買主に不利なものだけ、という片面性を思い出します。
適用の前提のすり替え
「宅建業者が媒介する売買契約において、売主が宅建業者でない場合にも8種制限が適用される」は誤りです。また「買主が宅建業者である場合でも、クーリング・オフの規定は適用される」も78条2項により誤りです。中身に入る前に前提を確認する習慣をつけます。頻出度の全体像は宅建業法の頻出論点ランキングを参照してください。
未完成・完成の持ち込み
保全措置以外の条文に完成・未完成の区別を持ち込む形と、指定保管機関を未完成物件に使わせる形があります。区別があるのは保全措置と33条の2の例外だけ、と限定して覚えておけば対応できます。
覚え方・整理の仕方
数字を用途とセットで唱える
「10分の2・38条・損害賠償額の予定と違約金の合算・超過部分無効」「10分の2・39条1項・手付の受領上限」「100分の5と1,000万円・41条・未完成の保全」「10分の1と1,000万円・41条の2・完成の保全」「10分の3・43条・所有権留保」「8日・37条の2・書面告知から起算」「30日以上・42条・書面催告」「2年以上・40条・引渡しの日から」。数字だけを並べた一覧を作ると必ず混ざるので、数字・条文・場面・効果を一続きで言う形にします。
効果を三つの箱に分ける
違反の効果は三つに分類できます。第一の箱が「超過部分のみ無効」で、入るのは38条だけです。第二の箱が「特約が無効」で、37条の2、39条2項、40条、42条が入ります。第三の箱が「無効規定なし・行為の禁止」で、33条の2、41条、41条の2、43条が入ります。
この三分類を思い出せれば、効果を問う選択肢はほぼ処理できます。第一の箱に入るのが一つだけ、という非対称性が記憶の手がかりになります。
「片面的」という一語で束ねる
8種制限はすべて買主保護のための片面的な規制です。この一語を軸にすると、買主に有利な特約は有効、不利な特約は無効、という判断が一貫します。個別の条文ごとに有効・無効を暗記する必要はありません。迷ったら、その特約が買主の立場を条文の原則より良くするか悪くするかを考えます。
時系列の一本線を頭に持つ
申込み・締結の場所、契約の内容、締結後の受領、履行の着手、支払の遅滞、引渡し、引渡し後という一本の線を引き、そこに8項目を刺していきます。この線があると、「保全措置は引渡し後に支払われる金銭にも及ぶか」といった問いに、定義に戻らずとも位置関係から答えられます。
8項目を条文番号順に言えるようにする
33条の2、37条の2、38条、39条、40条、41条、41条の2、42条、43条という並びを、条文番号ごと口に出せるようにしておきます。条文番号が言えると、問題文に条文番号が出たときに何の話かが即座に分かり、また38条と39条のように隣接する条文の違いを意識しやすくなります。
理解度チェッククイズ
Q1. 宅建業者が自ら売主となる売買契約において、損害賠償額の予定を代金の額の15パーセント、手付を代金の額の10パーセントと定めた場合、合計が代金の額の10分の2を超えるため、損害賠償額の予定の定めは超過部分について無効となる。○か×か。
答えを見る
×。38条1項が合算を求めているのは、損害賠償額の予定と違約金の合計であって、手付の額は含まれません。39条1項の手付の制限とは別個の枠です。損害賠償額の予定15パーセントは38条の枠内、手付10パーセントは39条の枠内で、いずれも10分の2を超えていないため有効です。手付は代金に充当される金銭、違約金は債務不履行時に没収される金銭であり、性質が異なるため合算されません。Q2. 宅建業者が自ら売主となり、工事完了前の建物について代金5,000万円で売買契約を締結し、手付金として200万円を受領する場合、保全措置を講じる必要はない。○か×か。
答えを見る
○。41条1項ただし書により、受領しようとする手付金等の額(すでに受領した額を含む)が代金の額の100分の5以下であり、かつ1,000万円以下であるときは保全措置が不要です。5,000万円の100分の5は250万円であり、200万円はこれ以下で、かつ1,000万円以下です。したがって保全措置は要りません。ただし、その後に中間金を受領して合計が250万円を超えれば、その時点で、すでに受領した額を含む全額について保全措置が必要になります。Q3. 宅建業者が自ら売主となる売買契約において、契約不適合責任の通知期間を目的物の引渡しの日から3年とする特約は、民法の規定より買主に不利であるため無効である。○か×か。
答えを見る
×。民法566条の原則は、買主が不適合を知った時から1年以内の通知です。引渡しの日から3年という特約が買主に不利かどうかは事案によりますが、40条1項は引渡しの日から2年以上となる特約を明文で許容しており、3年はこれを満たします。そもそも8種制限は買主に不利な特約だけを無効とする片面的な規制であり、買主の保護を厚くする方向の特約は妨げられません。無効となるのは、たとえば通知期間を引渡しの日から1年6か月とする特約です。Q4. 宅建業者が自ら売主となる売買契約において、手付金等の保全措置を講じずに手付金等を受領した場合、その売買契約は無効となる。○か×か。
答えを見る
×。41条・41条の2は「保全措置を講じた後でなければ手付金等を受領してはならない」という受領行為の禁止であり、契約を無効とする規定は置かれていません。8種制限のうち契約や特約を無効とする明文があるのは38条、39条2項、40条、42条、37条の2であり、41条・41条の2はこれに含まれません。違反した場合は監督処分の対象となり、また業者が保全措置を講じないときは買主が手付金等の支払を拒むことができます。Q5. 宅建業者が自ら売主となる割賦販売において、買主が賦払金の支払を怠った場合、宅建業者は20日の期間を定めて書面で支払を催告し、その期間内に支払がないときは契約を解除することができる。○か×か。
答えを見る
×。42条1項は、30日以上の相当の期間を定めて書面で催告することを求めています。20日では要件を満たさず、解除も、支払時期の到来していない賦払金の請求もできません。この規定に反する特約は無効です(同条2項)。要件は「30日以上」「相当の期間」「書面」「その期間内に履行がないこと」の四つで、どれか一つでも欠けると解除できません。口頭の催告では足りない点も併せて押さえます。まとめ
8種制限は、条文の数が九か条と限られており、覚える内容自体は多くありません。それでも失点が生じるのは、隣接する条文どうしが似た数字と似た言い回しを持っているためです。したがって仕上げの段階では、項目ごとに読み直すのではなく、軸ごとに並べ直して差分を確認するのが効率的です。
優先して固めるべきは三つです。第一に、10分の2が38条と39条の二か所にあり、合算しないこと。第二に、違反の効果が「超過部分のみ無効」「特約が無効」「無効規定なし」の三つに分かれ、契約そのものが無効になる規定はどこにもないこと。第三に、片面的規制であるため買主に有利な特約は有効であること。この三つを言い切れれば、標準的な出題は取り切れます。
そのうえで、保全措置の完成・未完成の区別と、33条の2の例外がそれと連動していることを追加すれば、複数の条文をまたぐ難易度の高い問題にも対応できます。各項目の中身に戻りたくなったら、8種制限を完全攻略から個別記事へ進んでください。
宅建試験AIブートラボのアプリでは、宅建業法の肢別トレーニングと年度別過去問演習に取り組めます。
宅建業法は20問と配点が最も大きく、確実に得点したい科目です。免許制度・重要事項説明・8種制限を肢別で固めましょう。