所有権留保等の禁止|43条の10分の3は期限の数字
宅建業法43条の所有権留保等の禁止を条文構造から解説。10分の3が義務の発生条件ではなく履行期限であること、1項と2項が逆向きの規制であること、見落とされがちな3項・4項を整理します。
目次
この記事は、宅地建物取引業法43条(所有権留保等の禁止)を条文の構造から読み解くためのものです。8種制限の全体像は8種制限とは何かに、同じ割賦販売を対象とする42条は割賦販売の解除等の制限にあります。ここでは43条の4つの項だけを扱います。
最初に、この論点の位置づけを正直に書いておきます。43条は8種制限8項目のなかで、出題頻度がもっとも低い部類に属します。単独で1問が組まれることは少なく、8種制限の横断整理のなかで1肢として顔を出す程度です。学習の優先順位としては、クーリング・オフや手付金等の保全措置のあとに置いて構いません。
そのうえで、この記事を15,000字書く理由が2つあります。第一に、43条の「10分の3」という数字が、市販の説明では高い確率で誤って紹介されているからです。条文の括弧書きを読むと、10分の3は義務を発生させる条件ではなく、義務の履行期限を後ろにずらす数字です。「10分の3を超えて受領したら登記義務が生じる」という覚え方をしていると、条文どおりの肢が出たときに逆に判断を誤ります。第二に、43条は8種制限8項目のなかで唯一、所有権の帰属を扱う規定だからです。他の7つが金銭か契約条項か意思表示を扱うのに対して、43条だけが「買主が権利そのものを手に入れられるか」を守っています。この1条を丁寧に読むと、8種制限が全体としてどんな不利益を想定して作られたのかが見えます。
この論点にどこまで時間をかけるか
到達目標を3つに絞る
43条を完璧に理解しようとすると、3項・4項の控除計算まで含めて相当な分量になります。試験対策としての到達目標は、次の3つに絞ってください。
第一に、10分の3という数字が何の数字なのかを言えること。義務の発生条件ではなく、履行期限を後ろ倒しする条件です。第二に、1項と2項が逆向きの規制であることを説明できること。1項は所有権を移さないことを禁じ、2項はいったん移した所有権を担保として取り戻すことを禁じます。第三に、3項・4項が存在し、それが割賦販売ではなくローン保証の場合を扱っていることを知っていること。
この3つが言えれば、43条について問われる肢はほぼ処理できます。控除計算の細部を暗記する必要はありません。
深追いしない範囲をあらかじめ決める
宅建試験は、取れるところを確実に取り、深追いしない範囲をあらかじめ決めることで合格ラインに届きます。この考え方は権利関係の全体像で述べたとおりで、宅建業法にも同じ線引きが必要です。
43条について深追いしなくてよいのは、3項・4項の控除額の計算そのものです。条文が何を控除しているかの理屈を1度理解しておけば足り、数値例を暗記する必要はありません。逆に、1項の括弧書きとただし書の役割の違いは、短い時間で確実に得点に変わるので、ここには時間を使ってください。
43条1項の条文構造
条文を分解する
43条1項の本文は、次のとおりです。
宅地建物取引業者は、みずから売主として宅地又は建物の割賦販売を行なつた場合には、当該割賦販売に係る宅地又は建物を買主に引き渡すまで(当該宅地又は建物を引き渡すまでに代金の額の十分の三をこえる額の金銭の支払を受けていない場合にあつては、代金の額の十分の三をこえる額の金銭の支払を受けるまで)に、登記その他引渡し以外の売主の義務を履行しなければならない。
――宅地建物取引業法43条1項本文
括弧書きを外して読むと、こうなります。宅地建物取引業者は、みずから売主として割賦販売を行った場合には、宅地建物を買主に引き渡すまでに、登記その他引渡し以外の売主の義務を履行しなければならない。
これが原則です。期限は「引き渡すまで」。義務の内容は「登記その他引渡し以外の売主の義務」。この2つだけです。
括弧書きは期限を後ろにずらす
そのうえで括弧書きが、期限に例外を設けています。括弧書きが動くのは「引き渡すまでに代金の額の十分の三をこえる額の金銭の支払を受けていない場合」です。このときは期限が「代金の額の十分の三をこえる額の金銭の支払を受けるまで」に置き換わります。
つまり10分の3は、義務を生じさせるスイッチではありません。義務はもともと発生しており、期限が引渡し時から10分の3超の受領時まで後ろにずれるだけです。しかも後ろにずれるのは、引渡しの時点でまだ10分の3を超える支払を受けていない場合に限られます。
言い換えると、43条1項が業者に与えている猶予は次のとおりです。まだ代金の10分の3も受け取っていない段階で先に物件を引き渡してあげるときは、その時点で登記まで移す必要はない。ただし、その後10分の3を超えて受け取った時点で登記等を済ませなさい。
「10分の3を超えたら登記義務が生じる」という説明はなぜ不正確か
よく見かける説明は、「代金の10分の3を超える額を受領したら所有権移転登記の義務が生じる」というものです。この覚え方には2つの問題があります。
第一に、原則が抜け落ちます。10分の3を超える支払をすでに受けたうえで引渡しをするときは、期限は引渡し時です。10分の3を超えるまで待ってよいわけではありません。「10分の3を超えたら義務が生じる」と覚えていると、引渡しまでに登記を移さなかった業者を適法と判断してしまいます。
第二に、ただし書と混ざります。43条1項には、義務そのものを外すただし書が別にあります。10分の3をただし書だと思い込んでいると、本当のただし書が出てきたときに対応できません。
正確な理解は次のとおりです。期限は原則として引渡し時、例外として10分の3超の受領時。義務が外れるのはただし書の場合だけ。この順序で覚えてください。
ただし書は担保の見込みの話である
43条1項のただし書は、次のように定めています。
ただし、買主が、当該宅地又は建物につき所有権の登記をした後の代金債務について、これを担保するための抵当権若しくは不動産売買の先取特権の登記を申請し、又はこれを保証する保証人を立てる見込みがないときは、この限りでない。
――宅地建物取引業法43条1項ただし書
ここで扱われているのは10分の3ではなく、担保の見込みです。買主に所有権の登記を移した後、業者にはまだ残代金の債権が残ります。その債権を担保する手段として、抵当権の登記か、不動産売買の先取特権の登記か、保証人を立てることが考えられます。買主にそのいずれの見込みもないときは、業者は登記等の義務を負いません。
理屈は明快です。買主に所有権登記を移したうえで、残代金の担保が何もない状態を業者に強いるのは酷だからです。43条は買主を保護する規定ですが、業者に無担保での譲渡を義務づけるところまでは踏み込んでいません。
不動産売買の先取特権は民法328条が定める先取特権で、不動産の売買代金とその利息について、その不動産の上に成立します。抵当権については抵当権の基本を参照してください。
数字で当てはめる
代金5,000万円の割賦販売を例にとります。代金の10分の3は1,500万円です。
引渡しの時点で買主から2,000万円を受領している場合、引渡しまでに10分の3を超える支払を受けているので、括弧書きは動きません。期限は引渡し時です。引渡しまでに所有権移転登記を済ませなければなりません。
引渡しの時点で買主から1,000万円しか受領していない場合、括弧書きが動きます。期限は「1,500万円を超える額の支払を受けるまで」に移ります。引渡しの時点で登記を移す必要はなく、その後1,500万円を超えて受領した時点までに登記等を済ませればよいことになります。
1,500万円ちょうどを受領した時点ではまだ「こえる」に達していません。条文は「十分の三をこえる額」と書いており、10分の3以上ではありません。1円でも超えた時点が基準です。
「登記その他引渡し以外の売主の義務」とは何か
引渡しは含まれない
43条1項が履行を求めているのは「登記その他引渡し以外の売主の義務」です。条文が明示的に「引渡し以外の」と書いているので、引渡しそのものは43条の義務の内容に入りません。
これは条文の作りとして当然です。43条は「引き渡すまでに」を期限としているので、引渡しを義務の内容に含めると期限と内容が同じものを指してしまいます。引渡しは期限を画す出来事として扱われており、履行すべき義務の側にはありません。
具体的には何を履行するのか
中心になるのは所有権移転登記です。それ以外に、売主として負う義務のうち引渡し以外のものが広く含まれます。たとえば、その物件に売主の借入れを担保する抵当権が設定されているなら、その抹消登記手続も売主の義務です。買主が完全な所有権を得られる状態にすることが求められます。
登記の仕組みそのものは不動産登記の基礎にまとめてあります。
引渡しを遅らせる特約はどう扱われるか
「目的物の引渡しは代金完済後に行う」という特約は、43条には抵触しません。43条は、引き渡すときまでに登記等を済ませよと命じているだけで、いつ引き渡すかを規律していないからです。代金完済後に引き渡すなら、そのときまでに登記を移せば43条の要求は満たされます。
この点は誤解が多いところです。43条を「引渡しは必ず先にしなければならない規定」と読むと、条文にない義務を作り出してしまいます。43条が守ろうとしているのは引渡しの時期ではなく、引渡しと登記のあいだに買主が置かれる不安定な状態です。
43条2項は逆向きから塞ぐ
条文と2つの条件
43条2項は、次のとおりです。
宅地建物取引業者は、みずから売主として宅地又は建物の割賦販売を行なつた場合において、当該割賦販売に係る宅地又は建物を買主に引き渡し、かつ、代金の額の十分の三をこえる額の金銭の支払を受けた後は、担保の目的で当該宅地又は建物を譲り受けてはならない。
――宅地建物取引業法43条2項
禁止されているのは「担保の目的で当該宅地又は建物を譲り受けること」です。譲渡担保の禁止と呼ばれます。
禁止が働き始める時点は、2つの条件が「かつ」で結ばれています。買主に引き渡したこと、そして代金の額の10分の3を超える額の金銭の支払を受けたこと。両方がそろった後です。片方だけでは足りません。
1項と2項は同じ目的を二方向から塞ぐ
1項と2項を並べると、規制の向きが逆であることがわかります。
1項が禁じているのは、所有権を買主に移さないまま代金を回収し続けることです。買主から見れば、払っているのに登記が来ない状態です。2項が禁じているのは、いったん移した所有権を担保として取り戻すことです。買主から見れば、登記が来たと思ったら担保として持っていかれる状態です。
1項だけがあって2項がなければ、業者は抜け道を使えます。1項に従って登記を移し、その直後に残代金を担保するために譲渡担保を設定して所有権を自分に戻せばよいからです。それでは1項が空文になります。2項は、この迂回路を塞ぐための規定です。
だからこそ2項の起点は「引き渡し、かつ10分の3を超える支払を受けた後」に置かれています。これは1項の期限が到来して業者が登記を移し終えたであろう時点と対応しています。1項の義務が働く場面のあとに、2項の禁止が引き継ぐという時間の流れになっています。
2項は割賦販売に限られる
2項の主語は「みずから売主として宅地又は建物の割賦販売を行なつた場合において」です。割賦販売でない一般の売買には及びません。代金の全部を受領する前に所有権を移転したあらゆる売買で譲渡担保が禁止されるわけではない、という点は正確に押さえてください。
一般の売買で業者が譲渡担保を取ることが宅建業法上まったく問題にならないかというと、47条や65条の一般的な規律で捕捉される可能性は残ります。しかし43条2項という明文の禁止がかかるのは、割賦販売の場合に限られます。
43条3項・4項はローン保証の場合
見落とされやすい2つの項
43条には3項と4項があります。市販の教材では省略されることも多く、本文が長いため読み飛ばされがちですが、条文は確かに存在します。
3項・4項が対象にしているのは、割賦販売ではありません。宅地建物取引業者が自ら売主として売買を行い、かつ、代金の全部または一部に充てるための買主の金銭の借入れで、当該宅地建物の引渡し後1年以上の期間にわたり、かつ2回以上に分割して返還することを条件とするものに係る債務を保証した場合です。
なぜ同じ規律が及ぶのか
買主が金融機関から借りて代金を一括で払い、その借入れを売主である業者が保証した、という場面を考えてください。売主は代金を全額受け取っているので、形の上では割賦販売ではありません。
しかし業者は保証人として、買主が返済できなければ代わりに払う立場にあります。買主が返し終えるまで、業者は債務を抱え続けます。実質的には、業者が分割で回収しているのと変わりません。
だからこそ43条3項・4項は、この場合にも1項・2項と同じ規律を及ぼしています。割賦販売という形式を避けても、実質が同じなら同じ規制がかかる、という組み立てです。
3項は登記義務、4項は譲渡担保の禁止
3項は1項に対応し、業者は物件を買主に引き渡すまでに登記その他引渡し以外の売主の義務を履行しなければならないと定めています。1項と同じく括弧書きがあり、引渡しまでに一定額に達していない場合は期限が後ろにずれます。
ずらす基準になる額が、1項とは違います。3項の括弧書きが見ているのは、受領した代金の額から、保証に係る債務でまだ弁済されていないものの額を控除した額です。この控除後の額が代金の額の10分の3を超えるまで、期限がずれます。
控除する理由は、業者がまだ保証債務を負っている分は実質的に回収できていないと評価するためです。代金を全額受け取っていても、そのうち買主が金融機関に返していない部分については、業者が肩代わりする可能性が残っています。その部分を差し引いて、実質的にいくら手元に確定したかで判断する、という発想です。
3項にもただし書があります。1項のただし書に加えて、業者が保証債務を履行した場合に取得する求償権についても、買主が抵当権や不動産売買の先取特権の登記を申請する見込みも保証人を立てる見込みもないときは、義務を負いません。
4項は2項に対応する譲渡担保の禁止です。物件を引き渡し、かつ受領した代金の額から未弁済の保証債務の額を控除した額が代金の額の10分の3を超える額の支払を受けた後は、担保の目的で当該宅地建物を譲り受けてはならないとされています。
「住宅ローンだから43条とは無関係」ではない
3項・4項があるため、住宅ローンを使う取引でも43条が働く場合があります。働くのは、売主である業者が買主のローン債務を保証した場合です。
もっとも、通常の住宅ローンでは金融機関が物件に抵当権を設定して債権を保全するので、売主が保証人になる必要はありません。売主が保証するのは、金融機関の審査を通すために業者が信用を補完するような限られた場面です。したがって3項・4項が実際に問題になる場面は多くありません。住宅ローンの一般的な仕組みは住宅ローンの基礎知識にあります。
試験対策としては、「43条は割賦販売だけの規定である」という肢が出たときに、3項・4項があることを思い出して誤りと判断できれば十分です。
「割賦販売」の定義を確認する
定義は35条2項の括弧書きにある
43条1項・2項は「割賦販売」を前提としていますが、43条自身は定義を置いていません。定義は35条2項の括弧書きにあります。宅地または建物の割賦販売とは、代金の全部または一部について、目的物の引渡し後1年以上の期間にわたり、かつ、2回以上に分割して受領することを条件として販売することをいう、とされています。
要素は3つです。引渡し後であること、1年以上の期間にわたること、2回以上に分割して受領することを条件とすること。「1年以上」と「2回以上」は「かつ」で結ばれているので、両方を満たさなければ割賦販売ではありません。
起点が「引渡し後」である点も重要です。引渡し前に支払われる手付金や中間金は、何回に分けて支払われても、この定義でいう分割受領には数えません。定義の詳しい分解は割賦販売の解除等の制限で扱っています。
住宅ローンは割賦販売ではない
買主が住宅ローンを組む場合、売主である業者は決済時に代金を一括で受け取ります。分割で返済するのは買主と金融機関のあいだの話であって、売主との関係では一括払いです。したがって割賦販売にあたりません。
この結論を、43条3項・4項の話と混同しないでください。住宅ローンそれ自体は割賦販売ではありませんが、売主がそのローン債務を保証したときには、43条3項・4項が別枠で適用されます。「割賦販売ではない」ことと「43条が及ばない」ことは同じではありません。
42条との切り分け
場面で分ける
割賦販売を対象とする8種制限は、42条と43条の2つです。この2つは場面で切り分けると混ざりません。
42条が扱うのは、賦払金が払われないときです。宅建業者は、30日以上の相当の期間を定めてその支払を書面で催告し、その期間内に履行されないときでなければ、賦払金の支払の遅滞を理由として契約を解除し、または支払時期の到来していない賦払金の支払を請求することができません。
43条が扱うのは、物件を引き渡すときです。登記その他引渡し以外の売主の義務をいつまでに履行するか、そして譲渡担保をいつから取れなくなるかを定めています。
払われないときが42条、引き渡すときが43条。この対応で覚えると、催告期間の30日と10分の3を取り違えません。
無効規定があるのは42条だけ
見落とされやすい違いがあります。42条2項は「前項の規定に反する特約は、無効とする」と定めていますが、43条には対応する無効規定が置かれていません。
8種制限のなかで、条文が明文で特約を無効としているのは、37条の2第4項(クーリング・オフ、申込者等に不利なもの)、38条2項(損害賠償額の予定等、10分の2を超える部分)、39条3項(手付、買主に不利なもの)、40条2項(契約不適合責任の特約)、42条2項です。33条の2、41条、41条の2、43条には無効規定がありません。
したがって、43条に反する特約を結んだ場合の効力は、条文からは直接導けません。43条は業者に対する行政上の行為規範であり、違反すれば監督処分の対象になりますが、契約や特約が当然に無効になるとは書かれていないのです。無効規定の有無の横断整理は8種制限の横断整理にまとめてあります。
監督処分の列挙は43条を挙げ、42条を挙げていない
もう一つ、条文を読まないと気づけない非対称があります。
65条2項2号は、業務停止処分の対象になる違反行為を条文番号で列挙しています。そのなかに「第四十三条から第四十五条まで」という記載があり、43条は列挙に含まれています。一方、42条はこの列挙のどこにも登場しません。
だからといって42条違反が野放しになるわけではありません。65条1項1号・2号は「業務に関し取引の関係者に損害を与えたとき又は損害を与えるおそれが大であるとき」「業務に関し取引の公正を害する行為をしたとき又は取引の公正を害するおそれが大であるとき」を指示事由として一般的に定めており、65条2項5号も「宅地建物取引業に関し不正又は著しく不当な行為をしたとき」を業務停止事由としています。42条違反はこうした一般規定で捕捉されます。
それでも、列挙に名前が挙がっている条文とそうでない条文があるという事実は、条文を読んだ人にしか見えません。監督処分の仕組みは監督処分の種類と手続で扱っています。
罰則はどちらにもない
43条にも42条にも、罰則の定めはありません。79条から83条までの罰則規定のどこにも、42条・43条の名前は出てきません。これは43条・42条に限った話ではなく、78条2項が列挙する9か条、すなわち33条の2と37条の2から43条までのすべてに罰則がありません。8種制限に違反しても刑罰は科されず、効果は監督処分と、条文が無効と定めている場合の特約の無効にとどまります。罰則が用意されているのは、47条の禁止行為や48条の従業者証明書のような別系統の義務です。宅建業法の罰則の段階構造は宅建業法の罰則一覧で確認できます。
まとめると、43条違反の効果は、監督処分(65条2項2号による業務停止、その前段階として65条1項の指示)です。罰則はなく、特約を無効とする明文もありません。
8種制限としての適用範囲
78条2項が範囲を画す
8種制限が業者間取引に適用されない根拠は78条2項です。条文は「第三十三条の二及び第三十七条の二から第四十三条までの規定は、宅地建物取引業者相互間の取引については、適用しない」と定めており、43条は末尾に置かれています。
適用されるための要件は3つです。売主が宅地建物取引業者であること、その業者が自ら売主となること、買主が宅地建物取引業者でないこと。3つがすべて満たされたときにだけ、43条が働きます。要件の細部と判定手順は8種制限の適用除外にまとめてあります。
42条・43条だけは対象がさらに狭い
8種制限のなかで、42条と43条だけは上の3要件に加えて、その取引が割賦販売であること(43条3項・4項ではローン保証があること)が必要です。
つまり8種制限のなかでも二重に絞り込まれています。業者が自ら売主で買主が業者でない売買、そのうち割賦販売のもの。不動産の割賦販売自体が実務では稀なので、43条が現実に問題になる場面は限られます。出題頻度が低いのは、この適用場面の狭さと対応しています。
業者間取引では自由になる
買主が宅地建物取引業者である場合、43条は適用されません。業者間の割賦販売では、代金完済まで所有権を留保する特約を結ぶことも、譲渡担保を設定することも、宅建業法上は妨げられません。取引の相手が専門家である以上、保護の必要がないという考え方です。
ただし、業者間取引で外れるのは78条2項が列挙する9か条だけです。35条書面の交付、37条書面の交付と宅建士の記名、報酬額の制限、47条の禁止行為などはそのまま残ります。8種制限が外れることと、宅建業法の適用がなくなることは別です。
8種制限のなかで43条だけが違うもの
他の7つは何を守っているか
8種制限を守っている対象で分類すると、43条の特異さがはっきりします。
33条の2(他人物売買の禁止)が守るのは、契約の入口です。売主が持っていない物件を売って、結局引き渡せないという事態を防ぎます。詳細は他人物売買の制限にあります。
37条の2(クーリング・オフ)が守るのは、買主の意思決定です。不意打ち的な場所での申込みを撤回できるようにしています。クーリング・オフの要件で扱っています。
38条(損害賠償額の予定等の制限)と39条(手付の額の制限等)が守るのは、契約条項の内容です。買主が過大な負担を負う条項を制限しています。それぞれ損害賠償額の予定の制限と手付の額の制限にあります。
40条(契約不適合責任についての特約の制限)が守るのは、引渡し後の責任追及の余地です。契約不適合責任の特約制限で扱っています。
41条・41条の2(手付金等の保全措置)が守るのは、買主が先に払った金銭です。業者が倒れても取り戻せるようにしています。手付金等の保全措置にまとめてあります。
42条(割賦販売の解除等の制限)が守るのは、契約の存続です。1回の遅滞で契約を切られないようにしています。
43条だけが所有権の帰属を扱う
こうして並べると、43条だけが違う対象を守っていることがわかります。43条が守っているのは、買主が所有権という権利そのものを確実に手に入れられるか、です。
金銭でも、契約条項でも、意思表示でも、契約の存続でもありません。買主が代金を払い続けているのに、法的には他人の物のままである状態。この状態を放置しない、というのが43条の役割です。
買主の不利益を3層で捉える
43条を加えると、8種制限が想定している買主の不利益が3層に整理できます。
第一層は、払った金が返ってこないという不利益です。41条・41条の2の保全措置と、38条・39条の金額制限がここに対応します。
第二層は、不利な条項に縛られるという不利益です。40条の特約制限と42条の解除制限、37条の2のクーリング・オフがここに対応します。
第三層は、権利そのものが手に入らないという不利益です。33条の2と43条がここに対応します。33条の2は入口で、そもそも売主が権利を持っていない場合を塞ぎ、43条は出口で、売主が権利を渡さない場合を塞ぎます。
この3層で捉えておくと、8種制限のどれか1つを忘れたときにも、「この場面で買主が困るのはどの層か」から条文を引き当てられます。
所有権の帰属を扱うから無効規定がない
無効規定が43条に置かれていない理由も、この整理から説明がつきます。
38条や40条が無効とするのは、契約書に書かれた条項です。条項を無効にすれば、それだけで買主は救われます。これに対して43条が問題にしているのは、業者が登記を移すという事実行為をするかどうかです。特約を無効にしても登記は動きません。無効という道具が効かない場面なので、条文は行政上の義務として組み立て、監督処分で担保する形をとっています。
もっとも、43条に反する所有権留保特約が私法上どう扱われるかは別問題です。条文が無効と書いていないことと、裁判で有効と判断されることは同じではありません。試験で問われるのは条文の有無なので、「43条には無効規定がない」と押さえておけば足ります。
不動産取引の実務での位置づけ
不動産の割賦販売は稀である
43条が想定する場面、すなわち不動産の割賦販売は、現在の実務ではほとんど行われていません。買主は住宅ローンを利用し、売主は決済時に代金を一括で受け取るのが標準です。
理由は担保の設計にあります。住宅ローンでは、金融機関が物件に抵当権を設定して債権を保全します。抵当権であれば、所有権は買主に移したうえで担保を確保できます。売主が所有権を留保しなくても、資金の出し手は守られます。
つまり抵当権という制度があるおかげで、不動産では所有権留保を使う必要がありません。動産の割賦販売で所有権留保が広く使われているのは、動産には登記による担保制度が一般には用意されていないからです。
名前の似た新しい法律に注意する
ここで、2026年に条文を検索した人が混乱しやすい点に触れておきます。
「譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律」(令和7年法律第56号)という法律が、2025年6月6日に公布されています。名称が43条の見出しとほぼ同じなので、43条の解説を探して行き当たることがあります。
この法律は、令和8年度の宅建試験には関係しません。理由は2つあります。
第一に、施行されていません。附則1条が「この法律は、公布の日から起算して二年六月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する」と定めており、本則112条は2026年4月1日の時点で施行されていません。宅建試験は当該年度の4月1日現在施行の法令から出題されるので、出題範囲外です。
第二に、対象が動産です。同法2条16号イは所有権留保契約を「動産(抵当権の目的とすることができるものを除く。)の所有権を移転することを内容とする売買その他の契約」であって代金債務等を担保するために所有権を留保する定めのあるもの、と定義しています。譲渡担保契約を定める2条1号も「抵当権の目的とすることができる財産」を除外しています。宅地建物は抵当権の目的とできるので、いずれの定義からも外れます。
したがって、この法律が施行された後も、宅建業法43条の読み方は変わりません。名前が似ているだけの別の法律だと整理しておいてください。
試験での出題ポイント
10分の3を義務の発生条件として書く
もっとも出やすい形です。「宅建業者は、代金の額の10分の3を超える額の金銭の支払を受けるまでは、登記その他引渡し以外の売主の義務を履行する必要はない」という肢が典型です。
これは誤りです。引渡しまでにすでに10分の3を超える支払を受けているときは、期限は引渡し時です。10分の3超の受領時まで待てるのは、引渡しの時点でまだ10分の3を超えていない場合に限られます。
10分の3を他の数字と入れ替える
8種制限には割合の数字が複数あります。38条の損害賠償額の予定等が10分の2、39条1項の手付の額が10分の2、41条の保全措置が100分の5、41条の2の保全措置が10分の1、そして43条が10分の3です。
このなかで10分の3は43条にしか出てきません。逆にいえば、10分の3という数字を見たら43条だと判断してよい、ということでもあります。数字の横断整理は宅建業法の数字まとめにあります。
引渡し義務を43条に読み込ませる
「43条により、宅建業者は代金完済前であっても目的物を引き渡さなければならない」「引渡しを代金完済後とする特約は無効である」といった肢が出ます。
いずれも誤りです。43条1項は「引渡し以外の売主の義務」と明示しており、引渡しの時期を規律していません。43条に無効規定がないことも、あわせて思い出してください。
43条2項の「かつ」を落とす
「宅建業者は、割賦販売に係る物件を買主に引き渡した後は、担保の目的で当該物件を譲り受けてはならない」という肢が出ます。
引渡しだけでは足りません。43条2項は「引き渡し、かつ、代金の額の十分の三をこえる額の金銭の支払を受けた後は」と2つの条件を「かつ」で結んでいます。片方だけを書いた肢は誤りです。
3項・4項の存在を無視させる
「43条は割賦販売の場合にのみ適用される」という肢が出ます。3項・4項は割賦販売ではなく、業者が買主の借入債務を保証した場合を対象としているので、この肢は誤りです。
逆に、3項の控除計算を細かく問う出題は考えにくいので、存在と趣旨を知っていれば足ります。
42条と混ぜる
「宅建業者は、割賦販売において賦払金の支払が遅滞した場合、代金の額の10分の3を超える額を受領していれば、催告なしに契約を解除できる」といった、42条と43条の要素を混ぜた肢が出ます。
42条の催告要件と43条の10分の3は無関係です。42条は30日以上の期間を定めた書面による催告を要求しており、受領額によって免除されることはありません。
業者間取引で結論を反転させる
「業者間の割賦販売であっても、宅建業者は引渡しまでに登記を移さなければならない」は誤りです。78条2項により43条は適用されません。逆に「買主が宅建業者であれば、35条書面の交付も不要になる」といった形で、8種制限の適用除外を宅建業法全体の適用除外にすり替える肢にも注意してください。
無効規定を作り出す
「43条の規定に反する特約は無効である」という肢が出ることがあります。43条には無効規定が置かれていません。42条2項と混同させる作りです。
覚え方・整理の仕方
「原則は引渡しまで」を先に固定する
10分の3から覚え始めると、必ず順序を取り違えます。最初に「原則は引き渡すまでに登記等を済ませる」と固定してください。そのうえで「まだ10分の3も受け取っていないなら、10分の3を超えるまで待ってよい」と付け足します。
原則が先、猶予が後。この順序を口に出せるようにしておくと、10分の3を義務の発生条件として書いた肢に違和感が出ます。
括弧書きとただし書を別の引き出しに入れる
43条1項には、括弧書きとただし書という2つの例外装置があります。役割はまったく違います。
括弧書きは期限をずらす装置で、動くきっかけは受領額です。ただし書は義務そのものを外す装置で、動くきっかけは担保の見込みです。「括弧は期限、ただし書は担保」と2語で覚えておけば、両者を混ぜません。
1項と2項を矢印で持つ
1項は所有権を業者から買主へ移す方向を強制し、2項は買主から業者へ戻す方向を禁止します。矢印を2本、逆向きに描いてみてください。移せ、そして戻すな。この2語で1項と2項の関係が言えます。
3項・4項は「保証したら同じ」で足りる
3項・4項の控除計算を覚えようとしないでください。「業者が買主のローンを保証したら、割賦販売と同じ規律がかかる」とだけ持っておけば、出題される範囲は処理できます。
理由も1文で言えます。保証人になった業者は、買主が返し終えるまで責任を負い続けるので、実質的に分割で回収しているのと変わらないからです。
10分の3は43条の専用番号だと決める
8種制限の割合の数字のうち、10分の2は38条と39条の2か所に出てくるので混ざりやすいのですが、10分の3は43条だけです。「10分の3を見たら43条、43条といえば10分の3」と一対一で結んでしまうのが最短です。
出題頻度の低さを織り込む
43条の学習は、上の到達目標3つに達したところで打ち切って構いません。3項の控除額の計算、ただし書の先取特権の細部、私法上の効力といった論点は、費用対効果が合いません。8種制限のなかで時間を配分するなら、クーリング・オフと手付金等の保全措置に厚く割り当てるべきです。出題傾向の全体像は宅建試験の出題傾向を参照してください。
理解度チェッククイズ
Q1. 宅建業者Aが自ら売主となり、宅建業者でないBに代金5,000万円で宅地を割賦販売した。Aは、Bから2,000万円の支払を受けた後に宅地を引き渡す場合、引渡しの時点では所有権移転登記をせず、代金完済時に登記をすればよい。○か×か。
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×。43条1項本文の原則は「引き渡すまでに」登記その他引渡し以外の売主の義務を履行することです。期限が後ろにずれるのは、括弧書きにあるとおり「引き渡すまでに代金の額の十分の三をこえる額の金銭の支払を受けていない場合」に限られます。本問では代金5,000万円の10分の3である1,500万円を超える2,000万円をすでに受領しているので、括弧書きは動きません。引渡しまでに登記を移す必要があります。10分の3を「義務が生じる条件」と覚えていると、この肢を正しいと判断してしまいます。Q2. 宅建業者Aが自ら売主となり、宅建業者でないBに宅地を割賦販売した。Aは、Bに宅地を引き渡した後であれば、代金の額の10分の3を超える額の支払を受けていなくても、担保の目的でその宅地を譲り受けることができない。○か×か。
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×。43条2項が禁止を働かせるのは「当該割賦販売に係る宅地又は建物を買主に引き渡し、かつ、代金の額の十分の三をこえる額の金銭の支払を受けた後」です。2つの条件が「かつ」で結ばれているので、引渡しだけでは禁止は始まりません。この時点ではまだ43条2項の禁止はかかりません。なお、1項と2項が逆向きの規制であること、すなわち1項が所有権を移さないことを禁じ、2項が移した所有権を担保として取り戻すことを禁じている点をあわせて押さえてください。Q3. 宅建業法43条の規定に反する特約は、無効とする旨が同条に定められている。○か×か。
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×。43条には特約を無効とする規定が置かれていません。8種制限のうち明文で無効としているのは、37条の2第4項、38条2項、39条3項、40条2項、42条2項です。同じ割賦販売を対象とする42条には2項に無効規定があるので、混同を誘う出題がされます。43条違反の効果は監督処分であり、65条2項2号は「第四十三条から第四十五条まで」として43条を業務停止事由に列挙しています。罰則の定めはありません。Q4. 宅建業者Aが自ら売主となり、宅建業者でないBに建物を売却した。Bは代金の全部を金融機関からの借入れで支払い、その借入れは引渡し後3年にわたり毎月返済する条件であった。Aがこの借入債務を保証した場合、Aには43条の登記等の義務は生じない。○か×か。
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×。43条3項は、業者が自ら売主として売買を行った場合において、代金に充てるための買主の借入れで引渡し後1年以上の期間にわたり、かつ2回以上に分割して返還することを条件とするものに係る債務を保証したときに、登記その他引渡し以外の売主の義務の履行を求めています。本問は3年・毎月返済なので、1年以上かつ2回以上の要件を満たします。割賦販売ではありませんが、43条3項が適用されます。保証人になった業者は買主が返し終えるまで責任を負い続けるため、実質的に分割回収と変わらない、という理由づけです。4項には対応する譲渡担保の禁止があります。Q5. 宅建業者Aが自ら売主となり、宅建業者Bに宅地を割賦販売する場合、Aは代金完済まで所有権を留保する特約を結ぶことができる。○か×か。
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○。78条2項は「第三十三条の二及び第三十七条の二から第四十三条までの規定は、宅地建物取引業者相互間の取引については、適用しない」と定めており、43条は適用されません。買主が宅建業者である以上、保護の必要がないという考え方です。ただし、業者間取引で外れるのは78条2項が列挙する9か条だけで、35条書面の交付、37条書面の交付と宅建士の記名、報酬額の制限、47条の禁止行為はそのまま残ります。8種制限の適用除外を宅建業法全体の適用除外と取り違えないでください。まとめ
宅建業法43条は、宅建業者が自ら売主として割賦販売を行った場合に、買主に所有権を確実に移転させるための規定です。要点は4つあります。
第一に、1項の原則は「引き渡すまでに」登記その他引渡し以外の売主の義務を履行することです。10分の3は義務を発生させる条件ではなく、引渡しの時点でまだ10分の3を超える支払を受けていないときに、期限を後ろにずらすための数字です。義務そのものを外すのは、担保の見込みがないことを定めたただし書だけです。
第二に、1項と2項は逆向きの規制です。1項は所有権を移さないことを禁じ、2項は引渡しと10分の3超の受領の両方がそろった後に、担保の目的で物件を譲り受けることを禁じます。同じ目的を二方向から塞いでいます。
第三に、3項・4項は割賦販売ではなく、業者が買主のローン債務を保証した場合を対象としています。「43条は割賦販売だけの規定」と覚えていると足をすくわれます。
第四に、43条には無効規定がなく、罰則もありません。効果は監督処分です。同じ割賦販売を扱う42条には無効規定があり、しかも65条2項2号の列挙には43条だけが挙がっている、という非対称があります。
そして43条は、8種制限8項目のなかで唯一、所有権の帰属を扱う規定です。他の7つが金銭・契約条項・意思表示・契約の存続を守るのに対し、43条は買主が権利そのものを手に入れられるかを守っています。33条の2が入口で売主に権利がない場合を塞ぎ、43条が出口で売主が権利を渡さない場合を塞ぐ、という対応で捉えると、8種制限の設計思想が見えてきます。
宅建試験AIブートラボのアプリでは、8種制限の数字と効果を肢別に演習できます。10分の3が期限の数字であることは、読んで覚えるより、条件を変えた肢を繰り返し判定するほうが確実に定着します。
宅建業法は20問と配点が最も大きく、確実に得点したい科目です。免許制度・重要事項説明・8種制限を肢別で固めましょう。