賃貸借契約の注意点|借地借家法と民法を条文で読む
賃貸借契約書の条項が借地借家法と民法のどの条文に基づくのかを解説。更新拒絶の正当事由、定期借家、敷金、修繕、原状回復、転貸を条文根拠から整理します。
目次
賃貸借契約書に並んでいる条項は、不動産会社が独自に考えた文章ではありません。そのほとんどが、民法の賃貸借の規定と借地借家法の建物賃貸借の規定を、契約書の文体に置き換えたものです。この記事は、契約書に出てくる代表的な条項を条文まで遡って読み解き、宅建試験で問われる論点として整理し直すものです。制度の全体像は借地借家法の全体像と民法の賃貸借で扱っているので、あわせて読むと条文の位置関係がつかみやすくなります。
先に結論を述べます。賃貸借契約で「注意すべき点」とは、突き詰めればその条項が強行規定に反していないか、任意規定を特約で修正しているのか、どちらなのかを見分けることに尽きます。借地借家法には賃借人に不利な特約を無効とする規定が置かれており、その射程に入る条項は契約書に何と書いてあっても効力を持ちません。反対に、民法の賃貸借規定の多くは任意規定なので、特約が優先します。この二層構造を理解していれば、契約書のどこを警戒すべきかが自動的に決まります。宅建試験の権利関係で賃貸借が毎年のように出題されるのも、この二層構造を正しく操作できるかを問いやすいからです。
賃貸借契約書は民法と借地借家法の二層でできている
土台にあるのは民法601条以下の賃貸借
民法601条は、賃貸借を「当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる」と定めています。2020年4月1日施行の債権法改正で、この条文には「引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約する」という文言が加わりました。改正前の601条は返還の約束に触れていませんでしたが、賃貸借が使用収益させる債務と返還債務を含む契約であることは当然の前提だったため、これを条文上明確にしたものです。
この一文が重要なのは、契約書の末尾に必ず置かれる明渡し条項と原状回復条項の根拠が、ここから始まっているからです。賃借人は借りた物を返さなければならず、返すときにどういう状態で返すのかを定めるのが原状回復の規定(621条)です。契約書を読むときは、条項の並びが「使用収益させる義務」「賃料支払義務」「返還義務」という601条の三要素に対応していることを意識すると、全体の構造が見えてきます。
その上に特別法として借地借家法が乗る
借地借家法1条は、この法律が建物の所有を目的とする地上権および土地の賃借権(借地)と、建物の賃貸借(借家)について定めるものであることを宣言しています。借家に関する規定は26条から40条までにまとまっており、建物の賃貸借については、まず借地借家法を見て、そこに定めがなければ民法に戻る、という順序で適用されます。
たとえば存続期間について、民法604条は賃貸借の存続期間を50年とし、これより長い期間を定めても50年に短縮されると定めています。しかし借地借家法29条2項は「民法第604条の規定は、建物の賃貸借については、適用しない」と明言しているため、建物の賃貸借に期間の上限はありません。100年の建物賃貸借も有効です。一方で借地借家法29条1項は、期間を1年未満とする建物の賃貸借は期間の定めがない建物の賃貸借とみなすと定めています。上限は外し、下限には歯止めをかける、という非対称な作りになっているわけです。
この「特別法が一般法を修正する」パターンは試験で頻繁に問われます。数字の整理は借地借家法の数字まとめに譲りますが、どの数字が民法由来でどの数字が借地借家法由来かを区別しておくと、混同を避けられます。
強行規定か任意規定かで契約書の読み方が変わる
借地借家法30条は「この節の規定に反する特約で建物の賃借人に不利なものは、無効とする」と定めています。ここでいう「この節」とは借家に関する節を指し、直接には26条から29条までの規定、すなわち更新、解約申入れ、正当事由、期間に関する規定が対象です。したがって「本契約は更新しない」「賃貸人はいつでも解約を申し入れることができる」といった条項を普通借家契約に書き込んでも、賃借人に不利である限り無効になります。
さらに借地借家法37条は、31条(建物賃貸借の対抗力)、34条(建物賃貸借終了の場合における転借人の保護)、35条(借地上の建物の賃借人の保護)に反する特約で建物の賃借人または転借人に不利なものを無効としています。逆にいえば、32条の借賃増減請求権や33条の造作買取請求権は、この無効リストに入っていません。造作買取請求権を排除する特約が実務でほぼ例外なく入っているのは、33条が任意規定だからです。造作買取請求権そのものの内容は造作買取請求権と有益費償還請求権で詳しく扱っています。
民法側の規定は、原則として任意規定です。修繕の負担、費用償還、原状回復の範囲などは、当事者が特約で変えられるのが建前になっています。ただし後述するように、通常損耗の負担を賃借人に転嫁する特約については判例が厳しい要件を課しており、賃借人が消費者である場合には消費者契約法10条による制限もかかります。「任意規定だから何を書いてもよい」わけではない点が、この分野の難しさです。
適用されない場合を先に押さえる
借地借家法40条は、一時使用のために建物の賃貸借をしたことが明らかな場合には、借家に関する規定(26条から39条まで)を適用しないと定めています。一時使用であることが客観的に明らかであることが必要で、契約書に「一時使用」と書けば足りるわけではありません。また、無償で貸す契約は賃貸借ではなく使用貸借(民法593条以下)であり、借地借家法の適用はありません。使用貸借は借主の死亡によって終了する(597条3項)など、賃貸借とは異なる規律に服します。両者の違いは使用貸借と賃貸借の違いで整理していますが、試験では「無償だから借地借家法で保護される」という誤りの選択肢が作られやすいところです。
存続期間と更新の条項を条文で読む
契約期間の定めと1年未満の扱い
賃貸借契約書の冒頭近くには必ず契約期間の条項があります。実務では2年とすることが多いのですが、これは法律上の要請ではなく慣行です。借地借家法に最短期間の定めはなく、あるのは29条1項の「期間を1年未満とする建物の賃貸借は、期間の定めがない建物の賃貸借とみなす」という規定だけです。
注意すべきは、「無効になる」のではなく「期間の定めがない賃貸借とみなす」という効果です。契約自体は有効に成立し、期間の部分だけが読み替えられます。その結果、後述する27条の解約申入れの規律が適用され、賃貸人からの終了には6か月前の解約申入れと正当事由が必要になります。6か月の建物賃貸借を結んだ賃貸人が、6か月経ったから出ていってほしいと言えないのは、この29条1項の効果です。
なお、この29条1項は定期建物賃貸借には適用されません。借地借家法38条1項は、更新がないこととする旨を定める場合について29条1項を適用しないと定めているため、定期借家であれば3か月や6か月といった1年未満の期間設定が有効になります。普通借家と定期借家で結論が真逆になる、典型的な出題ポイントです。
更新拒絶の通知——26条1項の1年前から6か月前まで
期間の定めがある建物賃貸借について、借地借家法26条1項は次のように定めています。当事者が期間の満了の1年前から6か月前までの間に相手方に対して更新をしない旨の通知または条件を変更しなければ更新をしない旨の通知をしなかったときは、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。ただし、その期間は定めがないものとする。
この条文からは三つの帰結が導かれます。第一に、通知には期間の窓があります。1年前より早い通知は原則として効力を持たず、6か月前を切ってからの通知も遅すぎます。第二に、通知を怠ると自動的に更新されます。これが法定更新で、契約書に更新の合意条項があるかどうかとは無関係に、法律の効果として更新が生じます。第三に、法定更新後の契約は期間の定めがないものになります。従前が2年契約でも、法定更新されると期間の定めのない賃貸借に変わり、以後は27条の解約申入れの世界に移ります。「2年契約が法定更新されて、また2年になる」とする選択肢は、26条1項ただし書に照らして誤りです。
使用継続と遅滞なき異議——26条2項
賃貸人が期間内にきちんと更新拒絶の通知を出したとしても、それだけで契約が終わるとは限りません。借地借家法26条2項は、通知をした場合であっても、建物の賃貸借の期間が満了した後に賃借人が使用を継続する場合において、賃貸人が遅滞なく異議を述べなかったときは、更新したものとみなすと定めています。
つまり賃貸人が終了させるには、期間内の通知に加えて、期間満了後に賃借人が居座ったならば遅滞なく異議を述べる、という二段構えの対応が必要です。異議を述べれば足り、訴訟の提起までは要しませんが、放置すれば更新が擬制されます。さらに26条3項は、建物の転貸借がされている場合において、転借人が使用を継続するときは、賃借人の使用継続とみなすと定めています。
正当事由——28条の考慮要素
更新拒絶の通知も、後述する解約申入れも、それだけでは効力を持ちません。借地借家法28条は、建物の賃貸人による更新拒絶の通知および解約の申入れは、正当の事由があると認められる場合でなければすることができないと定めています。28条が挙げる考慮要素は次のとおりです。建物の賃貸人および賃借人(転借人を含む)が建物の使用を必要とする事情、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況および建物の現況、そして建物の賃貸人が建物の明渡しの条件としてまたは建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出。
条文の構造として重要なのは、最初の「使用を必要とする事情」が主たる要素であり、いわゆる立退料にあたる「財産上の給付の申出」は、それだけで正当事由を基礎づけるものではなく、他の事情を補完する位置づけになっていることです。試験では「立退料を提供すれば常に正当事由が認められる」という選択肢が定番の誤りとして登場します。
また、正当事由が必要なのは賃貸人の側だけです。賃借人からの更新拒絶や解約申入れに正当事由は要りません。28条が「建物の賃貸人による」と主体を限定していることを確認しておいてください。
期間の定めのない賃貸借——27条と民法617条
期間の定めがない建物賃貸借について、借地借家法27条1項は、建物の賃貸人が賃貸借の解約の申入れをした場合においては、建物の賃貸借は、解約の申入れの日から6か月を経過することによって終了すると定めています。この解約申入れにも28条の正当事由が必要です。さらに27条2項は26条2項および3項を準用しているため、6か月経過後に賃借人が使用を継続し、賃貸人が遅滞なく異議を述べなければ、やはり更新が擬制されます。
一方、賃借人から解約を申し入れる場合は借地借家法に規定がないため、民法617条1項に戻ります。同項2号は建物の賃貸借について3か月と定めており、賃借人からの解約申入れは3か月経過で終了します。正当事由も不要です。実務の契約書に多い「借主は1か月前までに通知することにより解約できる」という条項は、617条が任意規定であることを前提に賃借人に有利な方向へ修正した特約なので、借地借家法30条の問題にもなりません。賃貸人6か月・賃借人3か月という非対称は、借地借家法の存続保護の思想が数字に現れた部分です。土地の賃貸借(建物所有目的以外)では617条1項1号により1年になる点もあわせて押さえてください。
対抗要件と賃貸人たる地位の移転
契約書には「賃貸人が本物件を第三者に譲渡した場合」の条項が置かれることがあります。原則は民法605条で、不動産の賃貸借は登記をしたときは、その不動産について物権を取得した者その他の第三者に対抗できると定めています。しかし賃借権の登記は賃貸人の協力がなければできず、実務上ほとんど行われません。そこで借地借家法31条は、建物の賃貸借は、その登記がなくても、建物の引渡しがあったときは、その後その建物について物権を取得した者に対し、その効力を生ずると定めています。この31条は37条により強行規定とされており、反する賃借人に不利な特約は無効です。
対抗要件を備えた不動産賃貸借の目的物が譲渡されたときは、民法605条の2第1項により賃貸人たる地位が譲受人に移転します。同条3項は、賃貸人たる地位の移転は所有権移転登記をしなければ賃借人に対抗できないと定めており、同条4項は、費用の償還債務および敷金の返還債務が譲受人に承継されることを明記しています。オーナーが変わっても敷金の返還請求先は新オーナーになる、という結論が条文から出てきます。
更新料条項の有効性
契約書の更新料条項は、法律上の義務ではなく契約による合意です。賃借人が消費者である場合、消費者契約法10条によって無効にならないかが争われてきました。最高裁は平成23年7月15日の判決で、賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載された更新料条項は、更新料の額が賃料の額、賃貸借契約が更新される期間等に照らし高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り、消費者契約法10条により無効ということはできないと判示しました。更新料が一律に有効とされたわけではなく、条項が一義的かつ具体的に記載されていること、額が高額に過ぎないこと、という二つの枠が置かれた点を読み取ってください。
定期建物賃貸借の条項——借地借家法38条の要件
書面によることが成立要件
借地借家法38条1項は、期間の定めがある建物の賃貸借をする場合においては、公正証書による等書面によって契約をするときに限り、30条の規定にかかわらず、契約の更新がないこととする旨を定めることができると規定しています。「公正証書による等書面によって」という独特の表現は、公正証書は例示であって、書面であれば公正証書でなくてもよいという意味です。ここを「公正証書でなければならない」と読ませる選択肢が、試験の定番の引っかけです。なお、デジタル化に対応する改正により、契約がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは書面によってされたものとみなす旨の規定が置かれ、電子契約による定期借家も可能になりました。
事前説明は契約書とは別個独立の書面で
定期建物賃貸借には、書面による契約とは別に、事前説明の手続が要求されます。借地借家法38条は、賃貸人があらかじめ賃借人に対し、契約の更新がなく、期間の満了により当該建物の賃貸借は終了することについて、その旨を記載した書面を交付して説明しなければならないと定め、この説明をしなかったときは契約の更新がないこととする旨の定めは無効とすると定めています。
最高裁は平成24年9月13日の判決で、この事前説明の書面は契約書とは別個独立の書面でなければならないと判示しました。契約書のなかに「本契約は定期建物賃貸借であり更新はない」という条項を置いて読み上げただけでは、説明したことになりません。要件を欠いた場合、契約が無効になるのではなく、更新がないという定めだけが無効になります。その結果、契約は普通借家として存続し、賃貸人は更新拒絶に正当事由を要求されます。なお、賃借人の承諾を得て、書面の交付に代えて電磁的方法により提供することも認められています。
期間満了の通知——1年以上の場合
定期建物賃貸借の期間が1年以上である場合、賃貸人は期間の満了の1年前から6か月前までの間(通知期間)に、賃借人に対し期間の満了により建物の賃貸借が終了する旨の通知をしなければ、その終了を賃借人に対抗することができません。ただし、通知期間の経過後に通知をした場合においては、その通知の日から6か月を経過した後は、終了を対抗することができます。
ここが普通借家との決定的な違いです。普通借家の26条1項では、通知を怠ると契約そのものが法定更新されます。定期借家では、通知を怠っても契約が更新されるわけではなく、終了を「対抗できない」だけであり、遅れて通知しても6か月経てば対抗できるようになります。契約は期間満了により終了しているという建付けを維持したまま、明渡しを求める時期だけが後ろにずれる構造です。条文の文言が「更新したものとみなす」(26条1項)と「対抗することができない」(38条)で違うことを手がかりに整理してください。なお、期間が1年未満の定期借家に、この通知義務の規定は適用されません。
居住用200平方メートル未満の中途解約権
定期建物賃貸借であっても、居住の用に供する建物の賃貸借で床面積が200平方メートル未満のものについては、転勤、療養、親族の介護その他のやむを得ない事情により賃借人が建物を自己の生活の本拠として使用することが困難となったときは、賃借人は解約の申入れをすることができます。この場合、建物の賃貸借は解約の申入れの日から1か月を経過することによって終了します。そして、これに反する特約で賃借人に不利なものは無効とされています。
要件が四つ重なっている点に注意が必要です。①居住用であること、②床面積200平方メートル未満であること、③転勤・療養・親族の介護その他のやむを得ない事情があること、④生活の本拠として使用することが困難となったこと。事業用の定期借家や、200平方メートル以上の住宅にはこの中途解約権はありません。期間は1か月であり、普通借家における賃借人からの解約申入れの3か月(民法617条1項2号)とは異なります。
借賃改定特約があれば増減請求は排除される
普通借家では、借賃増減請求権を定めた借地借家法32条のうち、減額しない旨の特約は賃借人に不利なものとして効力を認められません。しかし定期建物賃貸借については、借賃の改定に係る特約がある場合には32条の規定を適用しないとされています。定期借家では「賃料は契約期間中改定しない」「毎年何パーセント増額する」といった特約が完全に有効になり、増額請求も減額請求も封じられるということです。
普通借家と定期借家の全体的な比較や再契約実務については定期借家契約で扱っています。宅建業法の側では、定期建物賃貸借であることは重要事項として説明する必要があり、貸借に固有の説明事項とあわせて賃貸の重要事項説明で整理しています。
敷金と保証の条項——民法622条の2と465条の2
敷金の定義が条文に入った
改正前の民法には敷金の定義規定がなく、判例の積み重ねで規律されていました。2020年4月1日施行の債権法改正で新設された民法622条の2第1項は、敷金を「いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭」と定義しました。
「いかなる名目によるかを問わず」という部分が実務上は重要です。保証金、預り金、建設協力金など、契約書での呼び方が何であっても、債務担保の目的で交付された金銭であれば敷金として622条の2の規律に服します。逆に、返還を予定しない礼金は債務を担保する目的の金銭ではないため、敷金にはあたりません。敷金と礼金の性質の違いは敷金・礼金・仲介手数料でも扱っています。
返還時期は「終了かつ返還を受けたとき」
622条の2第1項は、賃貸人が敷金を返還しなければならない場合として二つを挙げています。一つは、賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき。もう一つは、賃借人が適法に賃借権を譲り渡したときです。
第一の場合について、条文が「終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき」と二つの要件を並べていることに注目してください。契約が終了しただけでは足りず、実際に明渡しが完了して初めて返還義務が発生します。したがって、賃借人が「敷金を返してくれるまで部屋を明け渡さない」と主張することはできません。最高裁は昭和49年9月2日の判決で、家屋明渡債務と敷金返還債務とは同時履行の関係に立たず、明渡しが先履行であると判示しており、622条の2はこの判例法理を条文化したものです。
第二の場合は、賃借人が賃貸人の承諾を得て賃借権を譲渡したケースです。この場合、旧賃借人が差し入れた敷金は新賃借人に承継されず、旧賃借人に返還されます。新賃借人は改めて敷金を差し入れることになります。賃貸人が交代した場合には敷金関係が承継される(605条の2第4項)のに対し、賃借人が交代した場合には承継されない、という非対称を対比で覚えると混乱しません。
充当は賃貸人からのみできる
622条の2第2項は、賃貸人は、賃借人が賃貸借に基づいて生じた金銭の給付を目的とする債務を履行しないときは、敷金をその債務の弁済に充てることができると定め、続けて、この場合において、賃借人は、賃貸人に対し、敷金をその債務の弁済に充てることを請求することができないと定めています。
一方通行の規定です。賃料を滞納した賃借人が「敷金から引いておいてください」と言うことは認められません。敷金は賃貸人のための担保であり、その担保をいつ実行するかは賃貸人が決める、という発想です。試験では主語をすり替えて「賃借人は敷金を未払賃料に充当するよう請求できる」とする選択肢が作られます。条文の後段をそのまま覚えておけば即座に切れる論点です。
敷引特約と消費者契約法
関西を中心に、敷金のうち一定額を返還しない旨の敷引特約が用いられてきました。最高裁は平成23年3月24日の判決で、消費者契約である居住用建物の賃貸借契約に付された敷引特約について、敷引金の額が高額に過ぎると評価すべきものである場合を除き、消費者契約法10条により無効ということはできないと判示しています。ここでも、額の相当性が判断の軸に置かれている点は更新料条項と同じ構造です。
個人根保証には極度額が必要
賃貸借契約書には、連帯保証人の条項か、家賃債務保証会社の利用に関する条項が置かれます。個人が賃借人の債務を保証する場合、その保証契約は一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約、すなわち根保証契約にあたります。
民法465条の2は、個人根保証契約について、極度額を定めなければその効力を生じないと定めています。極度額とは保証人が負担する債務の上限額です。あわせて、保証契約は書面または電磁的記録によらなければ効力を生じない(446条2項、3項)という一般ルールも適用されます。したがって、契約書に「連帯保証人は借主と連帯して一切の債務を負う」とだけ書いて極度額の記載がない場合、その保証契約は無効です。
また民法465条の4は個人根保証契約の元本確定事由を定めており、そのなかには主たる債務者または保証人が死亡したときが含まれています。賃借人が死亡した場合、その時点で保証すべき元本が確定し、以後に発生する債務には保証が及びません。保証人が死亡した場合も同様で、相続人が無限定に保証債務を引き継ぐわけではありません。この分野の改正点は連帯債務と保証でまとめて扱っています。
修繕と賃料の条項——606条・607条の2・611条・借地借家法32条
賃貸人の修繕義務とそのただし書
民法606条1項は、賃貸人は、賃貸物の使用および収益に必要な修繕をする義務を負うと定めたうえで、ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでないと続けています。このただし書は債権法改正で新設された部分です。改正前は本文だけだったため、賃借人が壊した場合でも文言上は賃貸人に修繕義務があるように読めてしまい、解釈で処理されていました。
契約書には「賃貸人は本物件の修繕を行う。ただし、賃借人の故意または過失により必要となった修繕は賃借人の負担とする」という条項が置かれるのが一般的で、これは606条1項をそのまま写したものです。さらに実務では、電球や水道パッキンといった小修繕を賃借人負担とする特約が置かれることが多く、606条が任意規定であることを利用した修正にあたります。
606条2項は、賃貸人が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときは、賃借人はこれを拒むことができないと定めています。一方で607条は、賃貸人が賃借人の意思に反して保存行為をしようとする場合において、そのために賃借人が賃借をした目的を達することができなくなるときは、賃借人は契約の解除をすることができると定めています。工事を受け入れる義務はあるが、工事のせいで使えなくなるなら抜けられる、という組み合わせです。
賃借人による修繕——607条の2
債権法改正で新設された民法607条の2は、賃借物の修繕が必要である場合において、次に掲げるときは、賃借人はその修繕をすることができると定めています。一つは、賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知し、または賃貸人がその旨を知ったにもかかわらず、賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないとき。もう一つは、急迫の事情があるときです。
改正前は、賃借人が自ら修繕できるかどうかを直接定めた条文がなく、必要費償還請求(608条1項)から間接的に導くしかありませんでした。607条の2はこれを正面から認めたものです。要件の構造として、原則は通知または賃貸人の認識プラス相当期間の経過であり、急迫の事情がある場合には通知なしでよい、という二段構えになっています。試験では「賃借人はいつでも自ら修繕できる」「賃貸人に通知しなくても常に修繕できる」といった要件を落とした選択肢が作られます。
なお、賃借人には賃貸物が修繕を要する場合に遅滞なく賃貸人に通知する義務があります(615条)。ただし賃貸人が既にこれを知っているときは通知は不要です。607条の2の「賃貸人がその旨を知った」という要件と対応しています。
費用償還請求——608条
民法608条1項は、賃借人が賃借物について賃貸人の負担に属する必要費を支出したときは、賃貸人に対し、直ちにその償還を請求することができると定めています。同条2項は、賃借人が有益費を支出したときは、賃貸人は、賃貸借の終了の時に、196条2項の規定に従い、その償還をしなければならないと定めています。
必要費は直ちに、有益費は終了時に、というタイミングの違いが問われます。有益費については196条2項が準用されるため、価格の増加が現存する場合に限り、賃貸人の選択によって支出額または増価額のいずれかが償還されます。償還請求の相手方や、費用償還請求権と敷金の関係も含めて、造作買取請求権と有益費償還請求権で整理しています。
一部滅失による賃料の当然減額——611条1項
民法611条1項は、賃借物の一部が滅失その他の事由により使用および収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用および収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額されると定めています。
ここは債権法改正で結論が変わった重要ポイントです。改正前の611条1項は「賃借人は、その滅失した部分の割合に応じて、賃料の減額を請求することができる」という規定でした。つまり減額請求権であり、賃借人が請求して初めて減額されるものでした。改正後は「減額される」と書かれており、請求を待たずに当然に減額されます。また、対象が「滅失」だけでなく「その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合」に広がり、設備の故障などで一部が使えなくなった場合も含まれるようになりました。
611条2項は、賃借物の一部が滅失その他の事由により使用および収益をすることができなくなった場合において、残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達することができないときは、賃借人は、契約の解除をすることができると定めています。改正前は賃借人に過失がない場合に限られていましたが、改正後はその限定がありません。
さらに616条の2は、賃借物の全部が滅失その他の事由により使用および収益をすることができなくなった場合には、賃貸借は、これによって終了すると定めています。全部なら当然終了、一部なら当然減額プラス目的不達なら解除、という三段構えで整理してください。
借賃増減請求権——借地借家法32条
賃料の改定条項の背後にあるのが借地借家法32条1項です。建物の借賃が、土地もしくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地もしくは建物の価格の上昇もしくは低下その他の経済事情の変動により、または近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができます。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従うとされています。
条文が「増額しない旨の特約」だけをただし書で救っていることに注意してください。反対解釈として、一定期間減額しない旨の特約は効力を持ちません。賃借人に不利な方向の特約だけが封じられる、という借地借家法らしい非対称です。
増減請求権は形成権であり、請求の意思表示が相手方に到達した時点で効果が生じます。ただし金額について協議が調わない場合の処理が32条2項および3項に置かれており、増額請求について協議が調わないときは、賃借人は相当と認める額の建物の借賃を支払えば足り、裁判が確定した場合に不足額があるときは年1割の割合による支払期後の利息を付して支払わなければなりません。減額請求について協議が調わないときは、賃貸人は相当と認める額の建物の借賃の支払を請求でき、裁判が確定した場合に既に支払を受けた額が正当な額を超えるときは、超過額に年1割の割合による受領の時からの利息を付して返還しなければなりません。
サブリース契約に賃料自動増額特約が付されていた事案について、最高裁は平成15年10月21日の判決で、借地借家法32条1項の規定は強行法規であって、賃料自動増額特約によってもその適用を排除することはできないと判示しています。契約書に何と書いてあっても32条の適用は残る、という点で、普通借家における32条の強さを示す判例です。
明渡しと原状回復の条項——民法621条
621条は通常損耗と経年変化を除外している
契約書の原状回復条項は、この分野で最もトラブルが多い部分です。根拠条文は民法621条で、賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用および収益によって生じた賃借物の損耗ならびに賃借物の経年変化を除く)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う、ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない、と定めています。
この条文には三つの限定が組み込まれています。第一に、対象は「賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷」であり、入居前から存在した傷は含まれません。第二に、括弧書によって通常損耗と経年変化が明文で除外されています。日照による壁紙の変色、家具の設置による床のへこみ、設備の自然な劣化は、原状回復の対象外です。第三に、ただし書によって、賃借人に帰責事由がない損傷も除かれます。
621条もまた債権法改正で新設された条文で、改正前は原状回復義務を正面から定める規定がなく、賃貸借終了時の収去義務に関する規定(旧616条による598条の準用)と解釈に委ねられていました。通常損耗が賃借人負担にならないことは改正前から判例で確立していましたが、それが条文に書き込まれた意味は小さくありません。改正で変わった点の全体像は権利関係の民法改正まとめで扱っています。
収去義務と収去権
民法622条は、賃貸借について599条1項および2項、600条を準用しています。599条1項は借主が借用物を受け取った後にこれに附属させた物がある場合における収去義務を、2項は収去権を定めるものです。賃借人がエアコンや棚を取り付けた場合、原則としてこれを収去して返還する義務を負い、同時に収去する権利も持ちます。ただし、賃借物から分離することができない物または分離するのに過分の費用を要する物については収去義務を負いません。
なお、賃貸人の同意を得て付加した造作については、借地借家法33条の造作買取請求権の対象になりえます。ただし前述のとおり33条は任意規定であり、契約書で排除されているのが通例です。また、賃借人の債務不履行による解除で賃貸借が終了した場合には、造作買取請求権は認められないとするのが判例の立場です。
通常損耗特約が有効になるための要件
621条は任意規定と解されており、通常損耗の補修費用を賃借人に負担させる特約を置くこと自体は否定されていません。しかし最高裁は平成17年12月16日の判決で、この特約が成立するための要件を厳格に示しました。判旨は、賃借人に通常損耗についての原状回復義務を負わせるのは賃借人に予期しない特別の負担を課すことになるから、賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているか、そうでないとしても賃貸人が口頭により説明し賃借人がその旨を明確に認識してそれを合意の内容としたものと認められるなど、その旨の特約が明確に合意されていることが必要である、というものです。
したがって「退去時の原状回復費用は賃借人の負担とする」とだけ書かれた条項では、通常損耗まで負担させる特約として機能しません。範囲が具体的に特定されていることが必要です。賃借人が消費者である場合には、これに加えて消費者契約法10条による無効の主張も問題になりえます。
国土交通省ガイドラインの位置づけ
原状回復の実務では、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」が広く参照されています。同ガイドラインは平成23年8月に再改訂版が公表されたもので、賃借人の原状回復義務を、賃借人の居住・使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること、と定義しています。
あわせて、賃借人負担とされる部分についても、建物や設備の経過年数を考慮し、年数が経つほど賃借人の負担割合を減少させる考え方が示されています。壁紙のように耐用年数が経過した部材について、賃借人が新品同様の張替費用を全額負担するのは適切でない、という発想です。
ただし、このガイドラインは法令ではなく行政の示す指針であり、法的拘束力はありません。裁判で参照されることは多いものの、ガイドラインに反する特約が直ちに無効になるわけではない点は正確に理解しておく必要があります。宅建試験でも、ガイドラインの内容そのものより、621条の条文構造と平成17年判決の要件が問われます。
賃借人の善管注意義務
原状回復の話とセットで理解しておきたいのが、賃借人の善管注意義務です。賃借人は賃貸借の終了時に目的物を返還する債務を負っており、民法400条により、特定物の引渡しをするまで、契約その他の債権の発生原因および取引上の社会通念に照らして定まる善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければなりません。
結露を放置してカビを発生させた、水漏れに気づきながら通知しなかった(615条の通知義務違反)といった事情があれば、通常損耗ではなく善管注意義務違反による損傷として、賃借人が原状回復義務を負うことになります。621条ただし書の「賃借人の責めに帰することができない事由」に当たるかどうかは、この善管注意義務を尽くしたかどうかで判断されます。なお、契約の解除がされた場合でも、民法620条により賃貸借の解除は将来に向かってのみその効力を生じるため、既に経過した期間の賃料の返還が問題になることはありません。
譲渡・転貸の条項——612条と信頼関係破壊の法理
承諾なき譲渡・転貸は解除事由
賃貸借契約書には必ず「賃借人は賃貸人の書面による承諾を得なければ、賃借権を譲渡し、または本物件を転貸してはならない」という条項が置かれます。根拠は民法612条1項で、賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、または賃借物を転貸することができないと定めています。同条2項は、賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用または収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除をすることができると定めています。
条文をそのまま読むと、無断譲渡・無断転貸があれば当然に解除できるように見えます。しかし賃貸借は継続的な契約であり、形式的な違反だけで解除を認めると賃借人の生活基盤が過度に脅かされます。そこで判例は、612条2項の解除権に制限を加えてきました。
信頼関係破壊の法理
最高裁は昭和28年9月25日の判決で、賃借人が賃貸人の承諾なく第三者に賃借物の使用収益をさせた場合においても、賃借人の当該行為を賃貸人に対する背信的行為と認めるに足らない特段の事情があるときは、賃貸人は612条2項による解除権を行使できないと判示しました。これが信頼関係破壊の法理と呼ばれるものです。
典型的には、同居していた親族に名義を移しただけで実際の使用状況が変わらない場合、法人の代表者が個人名義で借りていた物件を法人名義に変えた場合などが、背信的行為と認めるに足りない特段の事情として認められうる例です。無断譲渡・無断転貸の場面から出発した法理ですが、現在では賃料の不払いによる解除など、賃貸借の解除全般に妥当する考え方として機能しています。
試験では「無断転貸があれば賃貸人は常に契約を解除できる」という選択肢が誤りとして出題されます。一方で、「背信的行為と認めるに足りない特段の事情」の主張立証責任は賃借人の側にあり、原則はあくまで解除可能である点も落とさないでください。無断譲渡・無断転貸の効果の詳細は賃貸借の譲渡と転貸で扱っています。
適法な転貸がされた場合の三者関係
賃貸人の承諾を得て転貸がされた場合、民法613条1項は、転借人は、賃貸人と賃借人との間の賃貸借に基づく賃借人の債務の範囲を限度として、賃貸人に対して転貸借に基づく債務を直接履行する義務を負うと定めています。この場合において、転借人は賃料の前払をもって賃貸人に対抗することができません。
「賃借人の債務の範囲を限度として」という文言から、賃料が月10万円、転借料が月12万円であれば、賃貸人が転借人に直接請求できるのは10万円までという結論が導かれます。逆に転借料のほうが低ければ、その低い額が上限になります。また613条2項は、この規定が賃貸人が賃借人に対してその権利を行使することを妨げないと定めており、賃貸人は賃借人にも転借人にも請求できます。
613条3項は、賃貸人は、賃借人との間の賃貸借を合意により解除したことをもって転借人に対抗することができないと定め、ただし、その解除の当時、賃貸人が賃借人の債務不履行による解除権を有していたときは、この限りでないと続けています。賃貸人と賃借人が示し合わせて契約を解除し、転借人を追い出すことを封じる規定です。これも改正で明文化された部分です。
反対に、賃借人の債務不履行によって原賃貸借が解除された場合には、転貸借も履行不能により終了します。この場合、賃貸人が転借人に対して賃料の代払いの機会を与える必要はないとするのが判例です。合意解除は転借人に対抗できないが債務不履行解除は対抗できる、という対比で押さえてください。債務不履行による解除の一般論は債務不履行と損害賠償・解除で整理しています。
原賃貸借が期間満了・解約申入れで終了した場合
借地借家法34条1項は、建物の転貸借がされている場合において、建物の賃貸借が期間の満了または解約の申入れによって終了するときは、建物の賃貸人は建物の転借人にその旨の通知をしなければ、その終了を建物の転借人に対抗することができないと定めています。同条2項は、通知がされたときは、建物の転貸借は、その通知がされた日から6か月を経過することによって終了すると定めています。
34条は37条により強行規定とされているため、これに反する転借人に不利な特約は無効です。原賃貸借の終了原因が期間満了・解約申入れなのか、それとも債務不履行解除なのかで、転借人の処遇が大きく変わることになります。
試験での出題ポイント
民法の原則と借地借家法の修正のどちらを聞いているか
賃貸借の問題文は、冒頭に「AがBに建物を賃貸した」と書かれるのが通例です。この一文で借地借家法の適用が確定します。土地の賃貸借であれば、建物所有目的かどうかを確認しなければなりません。建物所有目的でない土地賃貸借(資材置場、駐車場など)には借地借家法の適用がなく、民法の規定だけで処理します。
出題者は、この適用関係の切り替えを使って選択肢を作ります。存続期間の上限は、建物賃貸借なら上限なし(借地借家法29条2項)、それ以外の賃貸借なら50年(民法604条)。期間の定めのない賃貸借の解約申入れは、建物なら賃貸人6か月・賃借人3か月、それ以外の土地なら民法617条1項1号の1年。同じ「賃貸借」という言葉でも、目的物と目的によって結論が変わります。
効果の落ち着き先を正確に答えさせる問題
この分野は、要件よりも効果のほうが問われやすい傾向があります。要件を欠いたときに何が起きるのかを、条文の文言レベルで押さえておく必要があります。
普通借家で更新拒絶の通知を怠れば「更新したものとみなす」(26条1項)。定期借家で期間満了の通知を怠れば「終了を対抗することができない」。定期借家で事前説明を欠けば「更新がないこととする旨の定めが無効」。極度額を定めない個人根保証は「効力を生じない」(465条の2)。1年未満の普通借家は「期間の定めがない建物の賃貸借とみなす」(29条1項)。いずれも似た場面でありながら効果が異なり、選択肢のなかで入れ替えられます。
改正で結論が変わった箇所
債権法改正が絡む論点は、改正前の知識で答えると誤る仕組みになっています。一部滅失による賃料減額は「請求できる」から「減額される」へ変わりました(611条1項)。賃借人による修繕が正面から認められました(607条の2)。原状回復から通常損耗・経年変化が明文で除外されました(621条)。敷金の定義と返還時期が明文化されました(622条の2)。合意解除を転借人に対抗できないことが明文化されました(613条3項)。賃貸人たる地位の移転と敷金の承継が条文化されました(605条の2)。
主語と方向をすり替える選択肢
正当事由が必要なのは賃貸人からの更新拒絶・解約申入れだけで、賃借人には不要。敷金の充当ができるのは賃貸人だけで、賃借人からの充当請求はできない。増額しない旨の特約は有効だが、減額しない旨の特約は普通借家では効力がない。いずれも主語または方向が逆に書かれた選択肢が量産される箇所です。条文を読むときは、常に「誰が」「どちらの方向に」を意識してください。権利関係全体でどの論点を優先すべきかは権利関係の頻出論点にまとめています。
覚え方・整理の仕方
数字は「6」を軸に配置する
借家の分野は6という数字が繰り返し登場します。普通借家の更新拒絶の通知期間は満了の1年前から6か月前まで。賃貸人からの解約申入れは6か月経過で終了。定期借家の期間満了の通知期間も1年前から6か月前まで、遅れた場合は通知から6か月経過で対抗可。転借人への終了通知後の猶予も6か月。
これに対して6以外の数字は例外として覚えます。賃借人からの解約申入れは3か月(民法617条1項2号)。定期借家の中途解約は1か月。土地の賃貸借(建物所有目的以外)の解約申入れは1年。1年未満の建物賃貸借は期間の定めなしとみなす。定期借家の中途解約権は床面積200平方メートル未満。「原則6、賃借人からは短く、土地は長い」という骨格を先に作り、そこに例外を貼り付けていくのが効率的です。
民法の条文は「入居前・入居中・退去時」の時間軸で並べる
賃貸借の条文は数が多く、番号で覚えようとすると混乱します。時間軸に沿って並べ直すと定着しやすくなります。
入居前から入居時にかけては、契約の成立(601条)、存続期間(604条)、対抗要件(605条、借地借家法31条)、敷金の交付(622条の2)。入居中は、賃貸人の修繕義務(606条)、賃借人による修繕(607条の2)、費用償還(608条)、通知義務(615条)、一部滅失による当然減額(611条1項)、譲渡・転貸(612条、613条)。退去時は、解約申入れ(617条)、解除の非遡及効(620条)、原状回復(621条)、収去(622条による599条の準用)、敷金の返還(622条の2第1項)。
この並べ方をしておくと、契約書を上から読んでいく順序と条文の順序がほぼ一致します。実際の契約書は法律の構造を写して作られているため、条項の順番そのものが記憶の手がかりになります。
普通借家と定期借家は「三つの分岐点」で分ける
両者を比較するとき、細かい違いを列挙するのではなく、分岐点を三つに絞ると整理できます。
第一の分岐点は成立です。定期借家は書面(または電磁的記録)による契約が必須で、契約とは別個独立の書面による事前説明も必要。普通借家は口頭でも成立します。第二の分岐点は期間です。定期借家は1年未満も有効(29条1項の適用除外)で上限もなし。普通借家は1年未満だと期間の定めなしとみなされます。第三の分岐点は終了です。定期借家は期間満了で終了し、通知を怠っても更新はされず対抗できないだけ。普通借家は正当事由がなければ終わらず、通知を怠れば法定更新されます。
この三つを軸にすれば、賃料改定特約の扱い(定期借家では改定特約があれば32条不適用)や中途解約権(定期借家の居住用200平方メートル未満)といった各論も、どの分岐点の話なのかを位置づけられます。
特約の有効性は「三つのフィルター」を順に通す
契約書の特約を見たときの判断手順を固定しておくと、初見の条項にも対応できます。
第一のフィルターは、借地借家法30条・37条の強行規定に触れるかどうか。更新、解約申入れ、正当事由、期間、建物の引渡しによる対抗力、転借人の保護に関する規定に反して賃借人に不利なら、その時点で無効です。第二のフィルターは、民法の任意規定を修正するものであれば、判例が要求する明確性の要件を満たすかどうか。通常損耗特約であれば平成17年判決の基準です。第三のフィルターは、賃借人が消費者である場合の消費者契約法10条。更新料条項や敷引特約は、額が高額に過ぎないかで判断されます。この順序で通せば、契約書のどの条項が危ういかを機械的に判定できます。
理解度チェッククイズ
第1問
期間を2年とする建物の賃貸借契約において、賃貸人が期間満了の3か月前に更新をしない旨の通知をした場合、正当事由があれば契約は期間満了により終了する。○か×か。
答えは×です。借地借家法26条1項は、更新をしない旨の通知を期間の満了の1年前から6か月前までの間にしなければならないと定めています。3か月前の通知は通知期間を過ぎており、効力を持ちません。この場合、通知がなかったものとして扱われ、従前の契約と同一の条件で更新したものとみなされます。ただし、更新後の期間は定めがないものとなります。正当事由の有無を問う前に、通知期間の要件を満たしていない点で結論が決まります。
第2問
賃借人は、賃料を滞納した場合、賃貸人に対して敷金を滞納賃料の弁済に充てるよう請求することができる。○か×か。
答えは×です。民法622条の2第2項は、賃貸人は賃借人が債務を履行しないときに敷金を弁済に充てることができると定める一方、この場合において賃借人は賃貸人に対し敷金を債務の弁済に充てることを請求することができないと明記しています。敷金は賃貸人のための担保であり、実行するかどうかは賃貸人が決めます。なお、賃貸借が終了して賃貸物の返還がされたときは、未払賃料等を控除した残額が返還されることになります(同条1項1号)。
第3問
賃借物の一部が賃借人の責めに帰することができない事由により使用できなくなった場合、賃借人が減額の請求をしなければ賃料は減額されない。○か×か。
答えは×です。民法611条1項は「賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される」と定めており、請求を要せず当然に減額されます。2020年4月1日施行の債権法改正前は「減額を請求することができる」という規定であったため、改正前の知識で判断すると誤ります。あわせて、残存部分のみでは賃借した目的を達することができないときは、賃借人は契約を解除できます(同条2項)。
第4問
定期建物賃貸借契約は、公正証書によって締結しなければ効力を生じない。○か×か。
答えは×です。借地借家法38条1項は「公正証書による等書面によって契約をするときに限り」と定めており、公正証書は書面の例示にすぎません。公正証書以外の書面でも、また契約内容を記録した電磁的記録によっても、定期建物賃貸借は成立します。ただし、書面によらない場合は更新がないこととする旨の定めが認められないため、普通借家契約として扱われることになります。なお、契約書とは別個独立の書面による事前説明が必要である点は、最高裁平成24年9月13日判決が明示しています。
第5問
賃借人が賃貸人の承諾を得ずに第三者に賃借物を転貸した場合、賃貸人は常に契約を解除することができる。○か×か。
答えは×です。民法612条2項は無断転貸を解除事由としていますが、最高裁昭和28年9月25日判決は、賃借人の行為を賃貸人に対する背信的行為と認めるに足らない特段の事情があるときは、賃貸人は同項による解除権を行使できないとしています。これが信頼関係破壊の法理です。もっとも、原則は解除できることであり、特段の事情の主張立証は賃借人の側が行う必要があります。「常に」という断定が誤りである、という読み取り方をしてください。
まとめ
賃貸借契約書を条文に還元して読むと、注意すべき箇所は自然に浮かび上がります。存続期間と更新の条項は借地借家法26条から30条の強行規定に支配されており、賃借人に不利な修正は効きません。定期借家の条項は38条の要件を満たしているかどうかで、普通借家に転落するかが決まります。敷金の条項は民法622条の2の定義と返還時期に従い、賃借人からの充当請求は認められません。修繕と賃料の条項は606条・607条の2・608条・611条の任意規定を修正するもので、修正の程度が問われます。原状回復の条項は621条が通常損耗と経年変化を除外していることを出発点に、特約の明確性が争点になります。譲渡・転貸の条項は612条を基礎としつつ、信頼関係破壊の法理によって解除が制限されます。
宅建試験の権利関係では、これらの条文が単独で問われることは少なく、事例のなかで複数の条文を組み合わせて結論を出す形が中心です。条文の文言を正確に記憶し、要件を欠いたときの効果まで押さえておけば、初見の事例でも処理できます。契約書の条項を見て「これは何条の話か」を言えるようになることが、この分野の到達目標です。
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税と価格の評定は毎年ほぼ同じ形で出ます。出題パターンを肢別で押さえれば取りこぼしません。