取消しと追認とりけしとついにん
取消しは、行為能力の制限や錯誤・詐欺・強迫を理由に、いったん成立した行為を初めから無効であったものとみなす意思表示で、追認は、取り消すことができる行為を以後取り消せないものとして確定させる意思表示です(民法121条・122条)。つまり、守られる立場の人が「なかったことにする」か「このままでよい」かを選ぶ二つの手段です。
17歳の高校生が親に黙って高額の契約をした。売主の嘘を信じて土地を買ってしまった。こうした契約も、結んだ時点では有効に成立していますが、取り消すことができる行為として、後から覆す道が残されています。取り消せば契約は初めからなかったことになり(121条)、受け取った物やお金は互いに返します(121条の2)。逆に、事情が分かったうえで「この契約でよい」と追認すれば、以後は取り消せなくなります(122条)。取り消すか追認するかを決められるのは、120条が挙げる者に限られます。

取り消せるのは、守られるべき本人の側の人だけです
120条は、取消しをすることができる者を二つに分けて定めています。行為能力の制限による取消しは、制限行為能力者本人、その代理人、承継人、同意をすることができる者(保佐人・補助人)ができ、未成年者本人も、法定代理人の同意なしに単独で取り消せます(120条1項)。錯誤・詐欺・強迫による取消しは、瑕疵ある意思表示をした者、つまり勘違いをした人やだまされた人、脅された人と、その代理人・承継人に限られます(120条2項)。承継人には相続人が入るので、だまされた人が死亡すれば、その相続人が取り消せます。反対に、だました売主が死亡したときは、相続人が売主の地位を継ぐので、だまされた買主は、その相続人に対して取消しを主張できます。契約の相手方は、表意者の錯誤や詐欺を理由に取り消すことはできません。

取り消すと、契約は初めから無効だったことになります
取り消された行為は、初めから無効であったものとみなされます(121条)。詐欺による意思表示も強迫による意思表示も、取り消して初めて無効になるのであって、取り消すまでは有効です。売買なら所有権は初めから移らなかったことになり、すでに代金や登記を受け取っていれば、それぞれ相手方を原状に復させる義務を負います(121条の2第1項)。買主が登記を戻す義務と売主が代金を返す義務は、判例により同時履行の関係に立ちます。取消しは、相手方が確定していれば相手方に対する意思表示で行い(123条)、裁判を起こす必要はありません。
追認は、取消しの原因がなくなり、取消権を知った後にします
取り消すことができる行為の追認は、取消しの原因となっていた状況が消滅し、かつ、取消権を有することを知った後にしなければ、効力を生じません(124条1項)。未成年者なら成年に達した後、だまされた人なら詐欺に気づいた後、脅された人なら強迫から逃れた後です。条文に理由は書いていませんが、未成年のままの判断やだまされたままの判断では、本心から有効と認めたとは言えないためと考えられます。法定代理人や保佐人・補助人が追認するとき、成年被後見人以外の制限行為能力者が法定代理人などの同意を得て追認するときは、状況の消滅を待つ必要がありません(124条2項)。成年に達して取消権を知った本人は、元の法定代理人が反対していても、自分で追認できます。

追認できる時以後の履行や譲渡は、追認とみなされます
125条は、追認をすることができる時以後に、全部又は一部の履行、履行の請求、更改、担保の供与、取得した権利の譲渡、強制執行があったときは、追認をしたものとみなすと定めています。これを法定追認といい、「追認します」と言わなくても、契約を前提にした行動をとれば取消権を失います。異議をとどめておけば、追認とはみなされません(125条ただし書)。基準は追認をすることができる時以後なので、未成年のうちに法定代理人の同意なく目的物を転売しても法定追認にはならず、なお取り消せます。
民法 124条1項取り消すことができる行為の追認は、取消しの原因となっていた状況が消滅し、かつ、取消権を有することを知った後にしなければ、その効力を生じない。
試験ではこう問われる
- 錯誤・詐欺・強迫で取り消せるのは、表意者とその代理人・承継人だけ(120条2項)。相手方は、表意者の錯誤を理由に取り消すことはできない
- 詐欺をした売主が死亡して相続人が売主の地位を継いだときは、だまされた買主は、その相続人に対して取消しを主張できる
- 制限行為能力者本人も法定代理人の同意なく取り消せる。法定代理人は、取消しに同意していないことを理由に、その取消しを取り消すことはできない
- 詐欺も強迫も、取り消して初めて無効になる。「強迫による意思表示は取り消すまでもなく無効」は誤り。取消し後の、登記を戻す義務と代金を返す義務は同時履行の関係(判例)
- 成年に達し、取消権を有すると知った本人は、元の法定代理人が反対していても追認でき、追認後は取り消せない(122条・124条1項)
- 法定追認は、追認をすることができる時以後の事実に限る。未成年のうちに法定代理人の同意なく目的物を転売しても、取消権は失われない(125条)
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