錯誤さくご
表意者の勘違いのことで、錯誤に基づく意思表示は、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができます(95条1項)。つまり、契約の大事な点で思い違いをしていた人は、あとからその契約を取り消せます。
100万円で売るつもりの車を、うっかり「10万円で売ります」と言ってしまった。本物の名画を偽物だと思い込み、「偽物なので10万円で売ります」と言ってしまった。どちらも、本人の勘違いが元になって契約が結ばれています。このような勘違いを錯誤といいます。その勘違いが契約にとって重要なものであれば、表意者(意思表示をした人)は意思表示を取り消すことができます。2020年4月より前の民法では「無効」とされていましたが、今は「取り消すことができる」に改められています。

錯誤には、言い間違いと思い込みの二つがあります
一つは、意思表示に対応する意思を欠く錯誤です(95条1項1号)。100万円と言うつもりで10万円と言った場合のように、心の中の意思と口に出した表示が食い違っています。もう一つは、表意者が法律行為の基礎とした事情についての認識が真実に反する錯誤です(同項2号)。本物の絵を偽物だと思い込んで安く売る場合で、意思と表示は一致していますが、契約をする前提の事実を取り違えています。二つ目の錯誤は、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、取り消すことができます(95条2項)。心の中の思い込みは相手方には見えないので、「偽物なので」と相手方に示されていて初めて、取消しを認めても相手方に不意打ちにならないからです。

重大な過失があると、原則として取り消せません
錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合は、取り消すことができません(95条3項)。重大な過失とは、少し注意すれば勘違いに気づけたのに、それを怠ったことです。勘違いした本人の落ち度が大きいときまで、相手方に契約の白紙化を押しつけるのは公平でないからです。ただし、相手方が表意者の錯誤を知り、又は重大な過失によって知らなかったときと、相手方も同一の錯誤に陥っていたときは、重大な過失があっても取り消せます。売主も買主も絵を偽物だと思い込んでいた場合が、同一の錯誤の例です。

取り消せるのは、勘違いをした表意者の側だけです
錯誤によって取り消すことができる行為は、瑕疵ある意思表示をした者又はその代理人若しくは承継人に限り、取り消すことができます(120条2項)。錯誤の取消しは勘違いした人を守るための制度なので、相手方の側から「あなたは勘違いしていたから取り消す」とは言えません。また、錯誤による取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができません(95条4項)。勘違いした本人にも落ち度はあるので、事情を知らず落ち度もない第三者のほうを守ります。
民法 95条1項意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤 二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤
試験ではこう問われる
- 錯誤の効果は取消し。「重要な錯誤に基づく意思表示は無効である」は誤り(95条1項)
- 重大な過失による言い間違いは、相手方が過失なく信じていたときは取り消せない(95条3項)
- 売主も買主も本物の絵を贋作だと思い込み、「贋作なので」と示して売買したときは、同一の錯誤に陥っているので取り消せる(95条2項、3項2号)
- 時価の思い込みを相手方に示さず「手元にお金がないので10万円で売りたい」と言っただけでは、基礎とした事情が表示されていないので取り消せない(95条2項)
- 取り消せるのは表意者、その代理人、承継人だけ。相手方は、表意者の錯誤を理由に取り消すことができない(120条2項)
- 錯誤による取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗できない(95条4項)。悪意の第三者には対抗できる
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