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抵当権の実行と配当|計算問題の解き方

権利関係 読了 約26分

抵当権の実行手続と配当計算を条文ベースで解説。順位の決まり方、375条の2年分制限、順位の譲渡・放棄・変更、共同抵当の同時配当と異時配当、物上代位を例題で追います。

目次

    この記事は、抵当権が実行されたあとに誰がいくら取るのかを、条文と例題で追えるようにするためのものです。抵当権そのものの成立要件や効力範囲は抵当権の基礎知識に、法定地上権の成立要件は法定地上権の成立要件に譲り、ここでは実行と配当に絞ります。

    結論から言えば、配当計算で問われることは4つしかありません。第一に、誰が先に取るか(順位)。第二に、いくらまで取れるか(被担保債権の範囲)。第三に、順位の処分によって当事者間でどう再配分されるか。第四に、複数の不動産に抵当権が及んでいるときにどう分けるか。この4つを、それぞれ根拠条文と結びつけて手順化しておけば、宅建試験で出てくる程度の計算はすべて同じ型で解けます。逆に、公式だけを覚えて条文と切り離すと、少し設定を変えられただけで手が止まります。

    抵当権の実行には2つの方法がある

    抵当権の実行とは、被担保債権の弁済が受けられないときに、抵当権者が抵当不動産の価値を強制的に金銭に換えて、そこから優先弁済を受けることです。実行の引き金になるのは債務者の債務不履行であり、その基本構造は債務不履行と損害賠償で扱った履行遅滞・履行不能の話と地続きになっています。

    民事執行法180条は、担保不動産に対する権利の実行方法として2つを並べています。1号が担保不動産競売、2号が担保不動産収益執行です。

    担保不動産競売

    担保不動産競売は、抵当不動産そのものを売却して、その代金から配当を受ける方法です。抵当権者は債務名義を必要とせず、登記事項証明書などによって抵当権の存在を証明すれば申立てができます。ここが、判決などの債務名義を要する一般債権者の強制競売との決定的な違いです。抵当権が「担保物権」と呼ばれるゆえんは、この手続の入口の軽さにあります。

    手続の流れは次の順に進みます。第一に、抵当権者が不動産所在地の地方裁判所に競売を申し立てます。第二に、裁判所が競売開始決定をし、差押えの登記が嘱託されます。この差押えの登記により、以後の処分は差押債権者に対抗できなくなります。第三に、執行官の現況調査と評価人の評価が行われ、これをもとに裁判所が売却基準価額を定めます。第四に、入札などによって買受人が決まります。買受けの申出ができるのは、売却基準価額から2割を控除した買受可能価額以上の額です(民事執行法60条3項)。第五に、代金が納付され、その時点で買受人が所有権を取得します。第六に、売却代金が配当表に従って配当されます。

    売却代金は、まず手続費用に充てられ、そのうえで各債権者に配当されます。試験の計算問題では手続費用を考慮しない前提が置かれることがほとんどですが、実際には最優先で控除される費用があるという構造は理解しておいてください。

    担保不動産収益執行

    担保不動産収益執行は、不動産を売らずに、そこから生じる賃料などの収益を管理人が収取して債権に充てる方法です。平成15年の担保・執行法制の改正で新設されました。管理人が選任され、賃料の取立てや不動産の管理を行い、そこから配当が行われます。

    売却より回収に時間はかかりますが、市況が悪く売却しても十分な回収が見込めない場合や、安定した賃料収入がある収益物件の場合には、こちらのほうが合理的です。抵当権者は、担保不動産競売と担保不動産収益執行のどちらか一方を選ぶこともでき、両方を併用することもできます。宅建試験ではこの制度そのものが細かく問われることは多くありませんが、後述する賃料への物上代位と選択関係にある点は押さえておく価値があります。

    競売にかけられた不動産の賃借人はどうなるか

    抵当権設定登記より先に対抗要件を備えた賃借人は、買受人にも賃借権を対抗できます。逆に、抵当権設定登記の後に賃借権の対抗要件を備えた賃借人は、買受人に対抗できず、原則として明け渡さなければなりません。この優劣が登記の先後で決まるという発想は、物権変動と対抗要件で扱った177条の考え方そのものです。

    ただし民法395条1項は、抵当権者に対抗できない賃貸借によって競売手続の開始前から建物を使用収益していた者に対し、買受けの時から6か月間の明渡猶予を与えています。あくまで猶予であって賃借権が存続するわけではなく、この6か月間の使用の対価は買受人に支払う必要があります。土地の賃借人には適用がなく、建物に限られる点も出題されます。賃貸借契約そのものの仕組みは賃貸借契約の基本で整理しています。

    優先弁済の順位は登記の前後で決まる

    民法373条は「同一の不動産について数個の抵当権が設定されたときは、その抵当権の順位は、登記の前後による」と定めています。契約の日付でも、貸した順でもなく、登記の前後です。この一文が配当計算のすべての出発点になります。

    上から順に満額を取っていく

    配当は、順位の高い抵当権者から順に、その債権額の満額を取り、残りを次順位に回す形で進みます。途中で足りなくなれば、その順位の抵当権者は一部しか回収できず、それ以下の順位の抵当権者は配当ゼロになります。回収できなかった部分の債権が消えるわけではなく、無担保の一般債権として残るだけです。

    例題1で確認します。抵当不動産が3,000万円で売却され、1番抵当権者Aの債権額が2,000万円、2番抵当権者Bが1,500万円、3番抵当権者Cが1,000万円だとします。

    第一に、Aに2,000万円を配当します。残りは1,000万円です。第二に、Bに配当しますが、原資が1,000万円しかありません。Bは1,000万円だけを受け取り、500万円は回収できません。第三に、Cに回る原資はゼロです。Cは1,000万円全額が回収不能となります。

    Bの500万円もCの1,000万円も、抵当権としては消えますが、債権としては残ります。Bは債務者の他の財産に一般債権者として執行することができます。ここを「債権も消える」と書き換えた選択肢は誤りです。なお、配当を受ける権利者は抵当権者だけとは限りません。先取特権のように法律上当然に発生して優先弁済権を持つ担保物権もあり、その位置づけは質権と先取特権で四類型の地図として整理しています。

    同順位のときは債権額に応じて按分する

    同一の受付番号で同時に登記された抵当権など、順位が同じ抵当権が複数あるときは、優劣がないので、それぞれの債権額に比例して配当します。

    例題2です。同順位の抵当権者DとEがいて、Dの債権額が2,000万円、Eが1,000万円、配当の原資が1,500万円だとします。第一に、債権額の合計を出します。2,000万円と1,000万円で3,000万円です。第二に、それぞれの割合を出します。Dは3分の2、Eは3分の1です。第三に、原資を割合で割り振ります。Dは1,500万円の3分の2で1,000万円、Eは3分の1で500万円です。

    按分の考え方は、後で扱う順位の放棄と共同抵当の同時配当でも同じ形で出てきます。「優劣がないものが並んだら債権額で按分する」という一つの発想が、3か所で使い回されると理解しておくと、公式を3つ覚える必要がなくなります。

    被担保債権の範囲は375条で切られる

    順位が決まっても、いくらまで優先弁済を受けられるかは別問題です。ここを規律するのが民法375条で、配当計算で最も差がつくところです。

    利息その他の定期金は最後の2年分

    375条1項は「抵当権者は、利息その他の定期金を請求する権利を有するときは、その満期となった最後の二年分についてのみ、その抵当権を行使することができる」と定めます。元本は満額が担保されますが、利息は直近2年分しか優先弁済の対象になりません。

    なぜ制限があるのか。抵当権の登記からは元本額と利率は分かっても、いつまで未払いが続いたかは分かりません。後順位抵当権者は、登記された元本額に2年分の利息を加えた額を見込んで、残る担保価値を計算して融資します。ここで利息が無制限に優先されると、後順位抵当権者の見込みが際限なく崩れてしまいます。つまりこの制限は、後順位抵当権者その他の第三者の期待を守るための規定です。

    したがって、保護すべき第三者がいなければ制限をかける理由がありません。後順位抵当権者も第三取得者もいない場合、抵当権者は2年分を超える利息についても優先弁済を受けられます。この「第三者がいなければ制限なし」という但し書き的な結論は、そのまま出題されます。

    例題3で計算します。抵当不動産が3,000万円で売却されました。1番抵当権者Aの元本は2,000万円、約定利率は年5パーセントで、5年分の利息が未払いです。2番抵当権者Bの債権額は1,500万円です。

    第一に、Aの利息総額を出します。年100万円が5年分で500万円です。第二に、375条1項により優先できる利息を絞ります。最後の2年分だけなので200万円です。第三に、Aの配当額を出します。元本2,000万円に利息200万円を足して2,200万円です。第四に、Bに回る額を出します。3,000万円から2,200万円を引いて800万円です。Bは1,500万円のうち800万円しか回収できません。

    もしBがおらず、他に第三者もいなければ、Aは利息500万円全額について抵当権を行使でき、2,500万円を受け取ることになります。同じ数字でも、後順位抵当権者の有無で答えが変わる。ここが375条を配当計算に組み込む意味です。

    遅延損害金も通算して2年分まで

    375条2項は、債務不履行によって生じた損害の賠償を請求する権利についても1項と同じ扱いをするとしたうえで、利息その他の定期金と通算して2年分を超えることができないと定めています。つまり、利息で2年分、遅延損害金でさらに2年分、という積み上げはできません。合わせて2年分が上限です。

    ただし2項但し書きは、その2年分を超える部分についても、満期後に特別の登記をしたときは、その登記の時からその抵当権を行使することができるとしています。制限が絶対的なものではなく、登記によって公示すれば第三者の期待を害さないので認められる、という構造になっています。

    根抵当権では2年分の制限が働かない

    継続的取引から生じる不特定の債権を極度額の枠で担保する根抵当権では、話が変わります。民法398条の3第1項は、根抵当権者は確定した元本と利息その他の定期金および損害賠償の全部について、極度額を限度として根抵当権を行使できると定めています。極度額という上限が登記で公示されているため、2年分という別の歯止めを置く必要がないからです。

    普通抵当権は「元本は全額、利息は2年分」、根抵当権は「極度額まで全部」。この対比は繰り返し問われます。根抵当権の枠組みそのものは根抵当権の基礎で扱っています。

    順位の処分は当事者間の再配分か、絶対的な入替えか

    民法376条1項は、抵当権者が同一の債務者に対する他の債権者の利益のために、その抵当権または順位を譲渡・放棄できると定めています。これとは別に、374条が順位の変更を定めています。似た名前ですが効果がまったく違い、計算結果も変わります。

    順位の譲渡と放棄は当事者2人の取り分を組み替えるだけ

    376条の順位の譲渡・放棄では、登記上の順位そのものは動きません。動くのは、当事者となった2人が本来受け取るはずだった配当額の合計をどう分け合うかだけです。したがって、当事者以外の抵当権者の配当額は1円も変わりません。この「合計は不変、内訳だけが変わる」という性質が、計算の出発点になります。

    計算手順は共通で3段階です。第一に、順位の処分がなかったものとして通常どおり配当し、当事者2人の取り分を出す。第二に、その2人の取り分を合計する。第三に、合計額を譲渡なら受益者優先で、放棄なら債権額按分で分け直す。

    順位の譲渡は受益者が先に満額を取る

    順位の譲渡は、先順位抵当権者が後順位抵当権者に自分の優先的地位を譲る処分です。譲受人が先に満額を取り、余りが譲渡人に回ります。

    例題4です。売却代金3,000万円、1番抵当権者Aの債権額2,000万円、2番抵当権者Bの債権額1,500万円で、AがBに順位を譲渡しました。

    第一に、処分がない場合の配当を出します。Aが2,000万円、Bが1,000万円です。第二に、2人の取り分を合計します。3,000万円です。第三に、Bが優先するので、Bが債権額1,500万円を満額取ります。第四に、残りの1,500万円がAに回ります。結果はAが1,500万円、Bが1,500万円です。

    Bは500万円得をし、Aは500万円損をしました。合計は3,000万円のまま動いていません。

    順位の放棄は2人が債権額で按分する

    順位の放棄は、先順位抵当権者が後順位抵当権者に対して優先的地位を主張しないことにする処分です。譲るのではなく、優先関係をなくす。結果として2人は同順位のような扱いになり、合計額を債権額の割合で按分します。

    例題5は、例題4と同じ数字でAがBに順位を放棄した場合です。第一に、通常の配当はAが2,000万円、Bが1,000万円です。第二に、合計は3,000万円です。第三に、債権額の合計を出します。2,000万円と1,500万円で3,500万円です。第四に、按分します。Aは3,000万円に7分の4を掛けて約1,714万円、Bは7分の3を掛けて約1,286万円です。

    譲渡なら受益者が満額まで先に取り、放棄なら債権額比で分ける。この違いが、そのまま金額の差になります。

    順位の変更は登記が効力要件

    374条の順位の変更は、まったく別の制度です。1項は「抵当権の順位は、各抵当権者の合意によって変更することができる。ただし、利害関係を有する者があるときは、その承諾を得なければならない」と定め、2項は「前項の順位の変更は、その登記をしなければ、その効力を生じない」と定めています。

    第一の違いは、効果が絶対的だということです。当事者間の再配分ではなく、登記上の順位そのものが入れ替わり、すべての者との関係で新しい順位が通用します。第二の違いは、関係者全員の関与が必要だということです。順位を入れ替える抵当権者全員の合意に加え、転抵当権者などの利害関係人がいればその承諾も要ります。第三の違いは、登記が効力要件だということです。対抗要件ではありません。合意しただけでは効力が生じないので、登記がないことを理由に「まだ順位は変わっていない」と言えます。

    例題6です。1番A、2番B、3番Cのうち、AとCが順位を入れ替えることにしました。AとCの合意が必要です。Bは順位が繰り上がるわけではありませんが、上位に来る債権が入れ替わることで配当が変わり得るため、利害関係人として扱われます。そして登記をして初めて効力が生じます。

    登記が効力要件である制度は民法の中でも例外的です。順位の変更のほかには、法人の設立登記などが挙げられます。登記の一般的な意味づけは不動産登記のしくみを参照してください。

    共同抵当は同時配当か異時配当かで結論が変わる

    同一の債権を担保するために複数の不動産に抵当権を設定するのが共同抵当です。民法392条は、これらが同時に競売される場合と、一方だけが先に競売される場合とを分けて規律しています。

    同時配当は各不動産の価額に応じて按分する

    392条1項は、債権者が同一の債権の担保として数個の不動産につき抵当権を有する場合において、同一の債権について同時にその代価を配当すべきときは、その各不動産の価額に応じて債権の負担を按分すると定めています。負担を按分する、という言い回しですが、要するに債権額を各不動産の価額比で割り振るということです。

    例題7です。債権者Aが債権3,000万円のために甲土地と乙土地に共同抵当を設定しました。甲の売却代金は6,000万円、乙は3,000万円です。乙には2番抵当権者Bがいて、債権額は1,500万円です。両方が同時に競売されました。

    第一に、価額の合計を出します。6,000万円と3,000万円で9,000万円です。第二に、Aの債権3,000万円を価額比で割り振ります。甲からは3,000万円の9分の6で2,000万円、乙からは9分の3で1,000万円です。第三に、乙の残額を出します。3,000万円からAの1,000万円を引いて2,000万円です。第四に、Bに配当します。Bの債権1,500万円は残額2,000万円の範囲に収まるので、全額回収できます。

    異時配当では後順位抵当権者に代位が生じる

    392条2項は、ある不動産の代価のみを配当すべきときは、抵当権者はその代価から債権全部の弁済を受けることができるとしたうえで、次順位の抵当権者は、その抵当権者が1項の規定に従って他の不動産の代価から弁済を受けるべきであった金額を限度として、その抵当権者に代位して抵当権を行使できると定めています。

    例題8は、例題7と同じ設定で乙だけが先に競売された場合です。第一に、Aは乙の代価3,000万円から債権全額3,000万円を回収します。第二に、乙の残額はゼロなので、Bはこの配当では1円も受け取れません。第三に、ここで代位が働きます。同時配当であればAは甲から2,000万円を受けるはずでした。Bはこの2,000万円を限度として、甲についてのAの1番抵当権に代位できます。第四に、実際にBが代位して行使できるのは、自分の残債権額1,500万円までです。限度額の2,000万円と残債権額1,500万円のうち、小さいほうが実際の回収可能額になります。

    先に競売された不動産の後順位抵当権者が、たまたま順番が悪かったせいで損をしないようにする。これが代位の趣旨です。試験では「限度額」と「実際に取れる額」を混同させる選択肢が出るので、392条1項で計算した仮の金額が上限であって、それをそのまま受け取れるわけではないことを意識してください。なお、393条は代位した者が代位の付記登記をすることができると定めています。

    共同抵当の一部が物上保証人の所有である場合など、当事者が複雑になると判例が細かく分岐しますが、宅建試験の範囲では、債務者所有の複数不動産を前提とした同時配当と異時配当の対比までで十分です。

    物上代位は払渡し前の差押えが絶対条件

    抵当権は目的物の交換価値を把握する権利なので、目的物が形を変えて金銭債権になった場合にも効力が及びます。これが物上代位です。民法372条が304条を準用しており、条文の本体は304条にあります。

    304条1項は、目的物の売却、賃貸、滅失または損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても行使できるとしたうえで、但し書きで「その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない」と定めています。

    対象になる債権

    売却代金が対象になります。ただし抵当権には追及効があり、抵当不動産が売却されても抵当権は目的物に付いて回るため、実務上は買主の不動産をそのまま競売すれば足り、売却代金への物上代位が使われる場面は限られます。

    賃料も対象になります。最判平成元年10月27日は、抵当権者が抵当不動産の賃料債権に対して物上代位できることを認めました。抵当権は目的物の交換価値を把握しており、賃料はその交換価値が形を変えたものと評価できるからです。前述の担保不動産収益執行は、この賃料回収をより体系的に行うための制度です。

    火災保険金請求権も対象になります。抵当建物が焼失すれば抵当権は目的物を失いますが、その代わりに生じた保険金請求権に効力が及びます。滅失・損傷による損害賠償請求権も同様です。ここで対象になるのは保険金そのものではなく保険金請求権であり、だからこそ「払い渡される前に差し押さえる」ことが意味を持ちます。

    対象にならないものもあります。抵当不動産の賃借人がさらに転貸して得る転貸賃料債権については、原則として物上代位できません(最決平成12年4月14日)。転貸賃料は賃借人が自分の営業として得た収益であって、抵当権者が把握した交換価値の形を変えたものとは言えないからです。所有者と賃借人が実質的に同一で法人格が濫用されているような例外的場合を除きます。

    差押えが要求される理由と時期

    なぜ差押えが要るのか。判例は、第三債務者が誰に払えばよいか分からなくなり、二重に支払う危険を負うことを防ぐためだと説明しています。抵当権者が差し押さえて初めて、第三債務者は抵当権者に払うべきだと知ることができます。

    この趣旨から、いくつかの結論が導かれます。第一に、目的債権が第三者に譲渡され対抗要件が備えられた後であっても、払渡しがまだであれば抵当権者は自ら差し押さえて物上代位できます(最判平成10年1月30日)。譲渡は「払渡し又は引渡し」に当たらないからです。第二に、転付命令が第三債務者に送達される時までに抵当権者が差押えをしなかったときは、もはや物上代位できません(最判平成14年3月12日)。転付命令は債権を差押債権者に移転させ、弁済と同じ効果を生むからです。第三に、抵当権に基づく物上代位と一般債権者の差押えが競合した場合、抵当権設定登記が一般債権者の申立てによる差押命令の第三債務者への送達より先であれば、抵当権者が優先します(最判平成10年3月26日)。ここでも優劣の基準は登記の時期です。

    差押えの後は、賃借人は賃料を賃貸人に支払っても抵当権者に対抗できず、抵当権者への支払いか供託によって免責を受けることになります。供託の一般的な仕組みは弁済と供託で扱っています。

    第三取得者を守る2つの制度

    抵当権が付いたままの不動産を買った人を第三取得者といいます。放っておけば競売で所有権を失うので、自ら抵当権を消す手段が用意されています。代価弁済と抵当権消滅請求です。違いは「誰が言い出すか」です。

    代価弁済は抵当権者が言い出す

    378条は、抵当不動産について所有権または地上権を買い受けた第三者が、抵当権者の請求に応じてその代価を弁済したときは、抵当権はその第三者のために消滅すると定めています。

    起点は抵当権者の請求です。抵当権者が「その代金をこちらに払ってくれれば抵当権を消す」と持ちかけ、第三取得者が応じる形になります。第三取得者の側から代価弁済を強制することはできません。また、対象は所有権と地上権を買い受けた者であり、賃借権を取得しただけの者は含まれません。代価が被担保債権額に満たなくても抵当権は消滅し、残額は無担保の債権として債務者に残ります。

    抵当権消滅請求は第三取得者が言い出す

    379条以下は、抵当不動産の第三取得者が抵当権消滅請求をすることができると定めます。こちらは第三取得者が主導します。

    手続は383条に従い、第三取得者が登記をした各債権者に対して、不動産の性状や代価などを記載した書面と、自らが提供する金額を記載した書面を送付します。384条により、債権者がこの書面の送付を受けた後2か月以内に競売の申立てをしないときなどは、第三取得者が提供した金額を承諾したものとみなされます。そして386条により、登記をしたすべての債権者が承諾し、第三取得者がその金額を払い渡すか供託したときに、抵当権は消滅します。

    380条は、主たる債務者、保証人およびこれらの者の承継人は抵当権消滅請求をすることができないと定めています。これらの者は債務の全額を弁済する義務を負っているのに、一部の金額で抵当権を消せてしまうのは筋が通らないからです。381条は、停止条件付きで第三取得者となった者は、条件の成否が未定である間は請求できないとしています。また382条により、消滅請求は抵当権の実行としての競売による差押えの効力が発生する前にしなければなりません。

    2つの制度の比較で問われるところ

    第一の軸は主導権です。代価弁済は抵当権者、抵当権消滅請求は第三取得者です。ここを入れ替えた選択肢が最も多く出ます。第二の軸は金額の決まり方です。代価弁済では売買の代価がそのまま弁済額になりますが、抵当権消滅請求では第三取得者が金額を提示し、債権者が納得しなければ競売で対抗するという構造になっています。第三の軸は請求できない者です。代価弁済には「この者は不可」という制限規定がありませんが、抵当権消滅請求では債務者・保証人・その承継人が明文で排除されています。

    なお390条は、抵当不動産の第三取得者が競売において買受人となることができると定めています。第三取得者は競売から締め出されるわけではありません。

    抵当権が消えるとき

    被担保債権が消えれば抵当権も消える

    抵当権は債権を担保するための権利なので、担保する債権がなくなれば存在意義を失って消滅します。付従性と呼ばれる性質です。弁済、相殺、免除、混同などで被担保債権が消滅すれば、抵当権も当然に消滅します。債権の消滅原因については債権の消滅原因で整理しています。

    注意すべきは、抵当権が消滅しても登記は自動的には消えないことです。抹消登記をしなければ登記記録上は抵当権が残り続けます。登記記録の読み方は登記簿の読み方で扱っています。

    時効による消滅は相手によって扱いが違う

    396条は、抵当権は債務者および抵当権設定者に対しては、その担保する債権と同時でなければ時効によって消滅しないと定めています。債務者や設定者との関係では、抵当権だけが先に時効消滅することはありません。被担保債権が時効で消えたときに、一緒に消えるだけです。

    これに対し、第三取得者や後順位抵当権者との関係では、抵当権が被担保債権とは別に消滅時効にかかり得ると解されています。条文が消滅しない相手を「債務者及び抵当権設定者」と限定していることの反対解釈です。

    397条は別の消滅原因を定めます。債務者または抵当権設定者でない者が、抵当不動産について取得時効に必要な要件を具備する占有をしたときは、抵当権はこれによって消滅します。第三者が抵当不動産を時効取得すれば、原始取得なので抵当権の負担のない所有権を得るということです。時効の要件そのものは取得時効と消滅時効を参照してください。

    法定地上権と一括競売は実行と表裏の関係にある

    388条の法定地上権は、土地と建物が同一所有者に属する状態で抵当権が設定され、競売によって所有者が異なるに至ったときに、建物のために地上権が設定されたものとみなす制度です。競売で土地だけが売られると建物が撤去せざるを得なくなる、という事態を防ぐための仕組みで、まさに実行の場面で機能します。成立要件と判例の分岐は法定地上権の成立要件で詳しく扱っているので、そちらを参照してください。

    389条の一括競売は、更地に抵当権が設定された後にその土地上に建物が築造された場合に、抵当権者が土地とともに建物も競売できるとする制度です。この場合、抵当権者が優先弁済を受けられるのは土地の代価についてのみです。建物の代価は建物所有者に配当されます。ここも配当の問題として出題され得るところなので、「一括して競売できるが、優先権は土地の代価に限られる」という2段構えで覚えます。

    試験での出題ポイント

    数字と条文をずらしてくるパターン

    第一に、375条の「2年分」を「3年分」や「5年分」に置き換える出題です。数字を変えるだけの単純な誤りですが、計算問題の中に埋め込まれると気づきにくくなります。第二に、2年分の制限を根抵当権にも適用させる出題です。根抵当権は極度額まで全部(398条の3第1項)が正解です。第三に、後順位抵当権者その他の第三者がいない場合にも2年分の制限が働くとする出題です。制限の趣旨が第三者保護にある以上、保護すべき第三者がいなければ制限されません。

    効力要件と対抗要件を入れ替えるパターン

    374条2項の順位の変更は登記が効力要件です。ここを「登記は対抗要件にすぎない」とする選択肢は誤りです。この論点は、177条の対抗要件の話と隣り合っているため混同しやすく、権利関係の頻出論点でも繰り返し確認しておきたいところです。

    主導権を入れ替えるパターン

    代価弁済は抵当権者からの請求、抵当権消滅請求は第三取得者からの請求です。これを逆にした選択肢、および「債務者や保証人も抵当権消滅請求ができる」とする選択肢は誤りです(380条)。

    差押えの時期をずらすパターン

    物上代位は「払渡し又は引渡しの前」に差押えが必要です。「払渡し後でもよい」「債権譲渡がされた後は一切できない」はいずれも誤りです。債権譲渡は払渡しに当たらないので、譲渡後でも差押えができます(最判平成10年1月30日)。一方、転付命令の送達までに差押えをしなければ物上代位はできません(最判平成14年3月12日)。

    譲渡と放棄の計算を取り違えさせるパターン

    順位の譲渡なのに按分計算をさせる、放棄なのに受益者が満額取る形で計算させる、というパターンです。さらに「当事者以外の抵当権者の配当額も変わる」とする選択肢が混ぜられることがありますが、376条の処分は当事者間の再配分にすぎないので、第三者の取り分は動きません。

    代位の限度額を取り違えさせるパターン

    共同抵当の異時配当で、後順位抵当権者が392条1項の計算による限度額を無条件に全額取れるとする出題です。限度額はあくまで上限で、実際の回収は自分の残債権額の範囲にとどまります。この種の計算問題の解き方は計算問題の総まとめでも横断的に扱っています。

    覚え方・整理の仕方

    配当計算はいつも同じ4ステップで解く

    どんな設定でも、次の順に手を動かせば答えが出ます。第一に、原資を確定する。売却代金がいくらで、手続費用の控除があるかを確認します。第二に、順位を確定する。登記の前後で並べ、順位の変更があれば新しい順位に並べ替えます。第三に、各人の優先弁済枠を確定する。元本は全額、利息は375条で2年分に絞る。後順位抵当権者がいなければ絞らない。第四に、上から満額を配り、残りを次に回す。同順位や順位の放棄が出てきたら、そこだけ債権額按分に切り替えます。

    順位の譲渡・放棄が絡む場合は、この4ステップを終えた後に「当事者2人の取り分を合計して分け直す」という第5ステップを足すだけです。最初から特別な公式を持ち出さず、通常配当を先に出す癖をつけると間違いが激減します。

    譲渡と放棄は言葉の意味から結論を引く

    「譲渡」は自分の地位を相手に渡すことなので、渡された側が先に取ります。「放棄」は自分の優先を主張しないことなので、優劣がなくなって按分になります。日本語の意味と結論が一致しているので、公式を覚えるのではなく言葉から引き出すほうが確実です。

    「変更」だけは当事者間の話ではなく、順位そのものを組み替える手続なので、全員の合意と承諾、そして登記が要る。当事者2人で済むのが譲渡と放棄、全員が関わるのが変更、と対比してください。

    375条は「元本は全部、利息は2年」で覚える

    普通抵当権は元本全額と利息2年分、根抵当権は極度額まで全部。この2つを並べて覚えます。そのうえで「2年分の制限は後順位抵当権者などの第三者を守るためのもの」という趣旨を1行添えておけば、第三者がいない場合に制限がかからないことも、遅延損害金と通算されることも、趣旨から思い出せます。

    共同抵当は「同時なら価額比、異時なら代位」

    同時配当は各不動産の価額に応じて負担を按分。異時配当は先に配当した不動産の後順位抵当権者が、他の不動産の抵当権に代位。この2語で392条の1項と2項を対応させます。代位の限度額は「同時配当だったらいくら取れたか」を計算して求める、という手順まで含めて1セットにします。

    物上代位は「ば・か・ひ」の3対象と1条件

    賃料、火災保険金請求権、(滅失・損傷の)賠償金と売却代金。対象を並べたうえで、条件は1つだけ、払渡し・引渡しの前に差し押さえること。転貸賃料は原則として対象外、という例外を末尾に足しておきます。

    理解度チェッククイズ

    Q1. 抵当不動産が3,000万円で売却され、1番抵当権者Aの債権額が2,000万円、2番抵当権者Bの債権額が1,500万円である場合、Bは1,000万円の配当を受け、残る500万円の債権は消滅する。

    答えを見る **× 誤り。** 配当額が1,000万円である点は正しいのですが、回収できなかった500万円の債権が消滅するわけではありません。抵当権は消滅しますが、債権は無担保の一般債権として存続し、Bは債務者の他の財産に対して権利を行使できます。「抵当権の消滅」と「債権の消滅」を混同させる典型的な誤りです。

    Q2. 抵当権者は、利息について満期となった最後の2年分に限って優先弁済を受けることができ、後順位抵当権者その他の第三者が存在しない場合でもこの制限は変わらない。

    答えを見る **× 誤り。** 民法375条1項の2年分の制限は、登記から見込める担保価値を信頼した後順位抵当権者その他の第三者を保護するための規定です。保護すべき第三者が存在しない場合には制限をかける理由がなく、抵当権者は2年分を超える利息についても優先弁済を受けられます。なお根抵当権では、確定した元本と利息・損害賠償の全部について極度額を限度に行使できます(398条の3第1項)。

    Q3. 抵当権の順位の変更は、各抵当権者の合意と利害関係人の承諾によって効力を生じ、登記は第三者に対する対抗要件にすぎない。

    答えを見る **× 誤り。** 民法374条2項は「前項の順位の変更は、その登記をしなければ、その効力を生じない」と定めており、登記は対抗要件ではなく効力要件です。合意と承諾がそろっていても、登記をしない限り順位は変わりません。177条の対抗要件の話と混同させる出題が繰り返されています。

    Q4. 売却代金3,000万円、1番抵当権者Aの債権額2,000万円、2番抵当権者Bの債権額1,500万円のとき、AがBのために抵当権の順位を放棄した場合、Bの配当額は1,500万円となる。

    答えを見る **× 誤り。** 1,500万円になるのは順位の「譲渡」の場合です。順位の「放棄」では、AとBが本来受けるはずだった配当の合計3,000万円を、両者の債権額の割合で按分します。債権額の合計は3,500万円なので、Aは3,000万円の7分の4で約1,714万円、Bは7分の3で約1,286万円となります。譲渡は受益者が先に満額、放棄は債権額按分、と対比してください。

    Q5. 抵当権者が物上代位により賃料債権を差し押さえようとする場合、その賃料債権が第三者に譲渡され対抗要件が備えられた後は、払渡しの前であっても物上代位を行使することができない。

    答えを見る **× 誤り。** 判例は、物上代位の目的債権が譲渡され第三者に対する対抗要件が備えられた後であっても、抵当権者は自ら目的債権を差し押さえて物上代位権を行使できるとしています(最判平成10年1月30日)。304条1項但し書きが差押えを要求する趣旨は第三債務者の二重弁済の危険を防ぐ点にあり、債権譲渡は「払渡し又は引渡し」に当たらないからです。これに対し、転付命令が第三債務者に送達される時までに差押えをしなかった場合には、もはや物上代位できません(最判平成14年3月12日)。

    まとめ

    第一に、順位は登記の前後で決まり(373条)、上位から満額を配って残りを次に回す。同順位が並んだときだけ債権額で按分する。

    第二に、優先弁済を受けられる範囲は元本全額と利息の最後の2年分(375条1項)。遅延損害金は利息と通算して2年分が上限(同2項)。後順位抵当権者その他の第三者がいなければ制限はかからない。根抵当権では極度額まで全部(398条の3第1項)。

    第三に、順位の譲渡・放棄(376条)は当事者2人の取り分を組み替えるだけで、第三者の配当は動かない。譲渡は受益者が先に満額、放棄は債権額按分。順位の変更(374条)は絶対的に順位が入れ替わり、合意・承諾に加えて登記が効力要件。

    第四に、共同抵当(392条)は同時配当なら各不動産の価額比で負担を按分し、異時配当なら後順位抵当権者が同時配当であれば受けられた額を限度に代位する。

    第五に、物上代位(304条、372条)は売却代金・賃料・火災保険金請求権などに及ぶが、払渡し・引渡しの前の差押えが絶対条件。転貸賃料は原則として対象外。

    第六に、第三取得者の保護は代価弁済(378条)と抵当権消滅請求(379条以下)の2本立てで、主導権が抵当権者にあるか第三取得者にあるかが分岐点。債務者・保証人・その承継人は消滅請求できない(380条)。

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