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定期借家契約|成立要件と終了の仕組み

権利関係 読了 約51分

定期建物賃貸借を借地借家法38条の条文構造に沿って解説。書面と事前説明の要件、最判平成24年9月13日の別個独立の書面、1年未満の期間、終了通知、中途解約の200平方メートル要件を条文根拠つきで整理します。

目次

    この記事は、定期建物賃貸借(定期借家)を借地借家法38条の側から通しで扱うものです。宅建業法35条の重要事項説明との関係は貸借の重要事項説明が業法の側から詳しく扱っているので、そちらと役割を分けています。借地借家法全体の見取り図は借地借家法の基本にあります。

    結論を先に述べます。定期借家の要件が厳格なのは、借主が失うものが大きいからです。普通の建物賃貸借では、期間が満了しても契約は更新されるのが原則で、貸主が更新を拒むには正当事由が要ります。定期借家では、この保護が丸ごと外れます。期間が来れば、正当事由の有無にかかわらず契約は終わる。だから法は、借主がそれを分かったうえで契約したことを確保するために、書面による契約と、契約書とは別個独立の書面による事前説明という二重の要件を課しています。

    この「借主が保護を放棄するのだから、放棄したことを確実にする」という筋を押さえると、38条の各項がなぜそう書かれているかが見えてきます。以下、条文の順に追います。

    なお、この記事は令和8年度試験の基準日である2026年4月1日時点で施行されている借地借家法(法令リビジョン 403AC0000000090_20230614_505AC0000000053)に基づいて書いています。借地借家法には令和4年法律第48号による改正が2026年5月21日に施行されていますが、変更されたのは61条(民事訴訟法の準用に関する手続規定)だけで、38条を含む実体規定は一字も動いていません。令和8年度に影響する法改正の全体像は令和8年度の法改正まとめを参照してください。

    普通借家と定期借家はどこが違うのか

    普通借家は更新されるのが原則

    まず、定期借家が外している保護の中身を確認します。

    期間の定めがある建物の賃貸借について、当事者が期間の満了の1年前から6か月前までの間に相手方に対して更新をしない旨の通知、または条件を変更しなければ更新をしない旨の通知をしなかったときは、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなされます(借地借家法26条1項本文)。ただし更新後の期間は定めがないものとなります(同項ただし書)。

    さらに、その通知をしていた場合であっても、期間満了後に借主が使用を継続し、貸主が遅滞なく異議を述べなかったときは、同じく更新されたものとみなされます(同条2項)。転貸借がされている場合には、転借人による使用の継続が借主による使用の継続とみなされます(同条3項)。つまり、又貸しされている部屋に転借人が住み続けていれば、それだけで法定更新が動きます。

    貸主は何もしなければ更新され、通知をしても借主が住み続けて異議を述べ損ねればやはり更新される。放っておくと契約が続く、という設計です。賃貸借の一般的な仕組みは賃貸借の基本を参照してください。

    更新拒絶には正当事由が要る

    そして、貸主による更新拒絶の通知と解約の申入れは、正当の事由があると認められる場合でなければすることができません(同法28条)。

    正当事由の判断で条文が挙げているのは、次のとおりです。建物の賃貸人および賃借人(転借人を含む)が建物の使用を必要とする事情。これに加えて、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況、建物の現況、そして明渡しの条件として、または明渡しと引換えに財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出。

    条文の書き方に注意してください。使用を必要とする事情が「のほか」という形で先に置かれ、他の要素が並びます。立退料の申出は考慮要素の一つであって、それだけで正当事由が認められるわけではありません。この構造は出題されます。

    なお、期間の定めがない建物賃貸借を貸主から終わらせる場合も、解約の申入れに正当事由が要り、しかも申入れの日から6か月を経過しなければ終了しません(27条1項)。民法617条1項2号は建物の賃貸借について3か月と定めていますが、借地借家法27条1項がこれを6か月に引き上げています。借主から解約を申し入れる場合には借地借家法に規定がないので、民法617条の3か月が働きます。この非対称も、借地借家法が借主保護の法律であることの現れです。

    しかも27条2項は、26条2項・3項を解約申入れによる終了の場面に準用しています。したがって、6か月が経過した後であっても、借主(または転借人)が使用を継続し、貸主が遅滞なく異議を述べなければ、契約は同じ条件で続いたものとみなされます。貸主の側は、正当事由を備え、6か月待ち、さらに異議を述べる、という三段階を全部通さないと終わらせられません。

    定期借家は期間の満了で確定的に終了する

    これに対し、38条1項が定めるのが定期建物賃貸借です。期間の定めがある建物の賃貸借をする場合において、公正証書による等書面によって契約をするときに限り、30条の規定にかかわらず、契約の更新がないこととする旨を定めることができる。そして同項後段が「この場合には、第二十九条第一項の規定を適用しない」と続けます。

    30条は、この節の規定に反する特約で建物の賃借人に不利なものは無効とする、という強行規定です。更新を認めない特約は借主に不利なので、本来なら30条によって無効になります。38条1項が「30条の規定にかかわらず」と書いているのは、この強行規定の例外を作っているからです。

    例外を作る以上、その入口には条件が付きます。38条1項が「公正証書による等書面によって契約をするときに限り」と限定を掛け、同条3項が事前説明を課しているのが、その条件です。ここが次の節の話になります。

    借主が失うものの大きさが、要件の厳格さの理由

    普通借家の借主は、期間が満了しても、貸主に正当事由がなければ住み続けられます。定期借家の借主には、この保護がありません。期間が来れば出ていくことになります。

    契約時点では、借主はこの違いを認識しないまま署名してしまう可能性があります。賃貸借契約書は分量が多く、更新に関する条項が埋もれていても気づけません。そこで法は、契約書とは別に説明を受けさせることで、借主が更新のない契約であることを認識したうえで契約する状態を作ろうとしています。

    この趣旨を押さえておくと、後述する最高裁判例の結論が理解できます。

    実務ではどういう場面で使われるか

    制度の輪郭をつかむために、実際に定期借家が選ばれる場面を挙げておきます。試験で直接問われるわけではありませんが、要件の意味が理解しやすくなります。

    一つは、転勤の間だけ自宅を貸す場合です。3年後に戻る予定があるなら、期間を3年とする定期借家にしておけば、満了時に確実に明渡しを受けられます。普通借家で貸すと、戻る時期が来ても正当事由がなければ明渡しを求められません。自分が住むために必要だという事情は正当事由の考慮要素になりますが、それだけで認められるとは限らず、立退料が必要になることもあります。

    もう一つは、建替えや取壊しが決まっている建物を、それまでの間だけ貸す場合です。工事の開始時期に合わせて期間を設定できます。ただし、取壊しの時期が確定的に決まっているなら、後述する39条の取壊し予定の建物の賃貸借という別の制度もあります。

    三つ目は、賃料や利用条件を一定期間ごとに見直したい場合です。定期借家は更新されないので、期間の満了時に新たな条件で契約を結び直すことになります。再契約が事実上の更新のように機能しますが、法律上は別個の新しい契約です。借主に再契約を請求する権利はありません。

    いずれの場面でも共通するのは、貸主が期間の満了で確実に返してもらうことを目的にしている点です。その代わり借主の側は、26条の更新と28条の正当事由という保護を最初から持たない状態で入居することになります。だからこそ38条3項が、その一点を契約前に書面で説明させています。契約時の確認事項は賃貸借契約の注意点にまとめてあります。

    定期建物賃貸借の成立要件

    要件1 期間の定めがあること

    38条1項は「期間の定めがある建物の賃貸借をする場合においては」と書いています。期間の定めのない賃貸借を定期借家にすることはできません。

    当然といえば当然です。定期借家は期間の満了で終了する契約なので、満了する期間がなければ制度が成り立ちません。

    もっとも、この要件は形式的なものではありません。期間が確定していることが、後述する38条9項(借賃改定特約の優先)の正当化根拠にもなっています。期間が定まっているから、その期間の賃料を固定しておくことに合理性が生まれる、という論理です。要件1は「入口」であると同時に、制度全体の前提でもあります。

    要件2 書面によって契約すること

    条文は「公正証書による等書面によって契約をするときに限り」としています。ここは読み間違いが多い箇所です。

    「公正証書による等」は例示です。公正証書でなければならない、という意味ではありません。書面であればよく、公正証書はその一例として挙げられているにすぎません。定期借地権のうち事業用定期借地権が公正証書に限られるのと混同しやすいので、注意してください。定期借地権の類型は定期借地権の3類型にまとめてあります。

    一方で、書面であることは必須です。口頭で「更新はしません」と合意しても、更新がない旨の定めは効力を持ちません。普通の建物賃貸借は口頭でも成立するので、方式が要求されるのは定期借家の側だという対比になります。

    書面が要求される対象にも注意が必要です。38条1項が書面を要求しているのは「契約」であって、更新排除の特約だけを別紙にすればよい、というものではありません。契約そのものを書面でする必要があります。

    要件2の補足 電磁的記録による契約

    38条2項は、1項の規定による建物の賃貸借の契約がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは、その契約は書面によってされたものとみなして1項の規定を適用する、と定めています。

    この2項は、令和3年法律第37号(デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律)によって2022年5月18日に施行された規定です。それ以前の38条は、1項が書面契約、2項が事前説明、3項が説明を欠いた場合の効果、という並びでした。後述する最高裁判例が「38条2項」を論じているのは、この旧番号の時代の判決だからです。改正で電磁的記録の2項と電磁的方法の4項が挿入され、事前説明は3項に、説明を欠いた場合の効果は5項に繰り下がって、現在の9項構成になりました。

    古い教材が「38条2項の書面」と書いていることがありますが、令和8年度の試験で答えるべき条番号は3項です。条番号のずれは、そのまま誤答につながります。

    要件3 あらかじめ書面を交付して説明すること

    38条3項が、この制度の中心です。

    1項の規定による建物の賃貸借をしようとするときは、建物の賃貸人はあらかじめ、建物の賃借人に対し、同項の規定による建物の賃貸借は契約の更新がなく、期間の満了により当該建物の賃貸借は終了することについて、その旨を記載した書面を交付して説明しなければならない。

    読むべき点が四つあります。

    第一に、義務を負うのは建物の賃貸人、つまり貸主本人です。宅建業者ではありません。実務では貸主から委託を受けた業者が行うことが多いのですが、法律上の義務者は貸主です。誰が説明したかにかかわらず、説明がなかったときの不利益は貸主に帰します。

    第二に、時期は「あらかじめ」です。契約の締結前でなければなりません。契約と同時、あるいは契約後では要件を満たしません。契約書に署名した直後に別紙を渡しても、「あらかじめ」にはなりません。

    第三に、書面の交付と説明の両方が必要です。書面を渡すだけでも、口頭で説明するだけでも足りません。条文が「書面を交付して説明しなければならない」と、二つの行為を一続きに書いていることを確認してください。

    第四に、説明すべき内容は「更新がなく、期間の満了により終了する」ことです。定期借家であるという事実だけでなく、その効果まで説明する必要があります。「本契約は定期建物賃貸借です」とだけ述べても、更新がないこと、期間の満了で終了することが伝わっていなければ、条文が求める説明にはなりません。

    要件3の補足 電磁的方法による提供と、借主の承諾

    38条4項は、建物の賃貸人は3項の書面の交付に代えて、政令で定めるところにより、建物の賃借人の承諾を得て、当該書面に記載すべき事項を電磁的方法により提供することができ、この場合において当該建物の賃貸人は当該書面を交付したものとみなす、と定めています。

    ここでいう「政令」が借地借家法施行令(令和4年政令第187号)です。同令は2条構成ではなく、項だけで書かれた短い政令ですが、内容は試験的にも意味があります。

    第1項は、38条4項の承諾は、貸主が法務省令で定めるところによりあらかじめ借主に対して電磁的方法の種類および内容を示したうえで、借主から書面または法務省令で定める情報通信技術を利用する方法によって得るものとする、と定めています。承諾は口頭ではなく、形に残る方法で取ることが求められているわけです。

    第2項が重要です。貸主は承諾を得た場合であっても、借主から書面等により電磁的方法による提供を受けない旨の申出があったときは、電磁的方法による提供をしてはならない。ただし、その申出の後に借主から再び承諾を得た場合はこの限りでない。つまり、いったん承諾しても借主は撤回でき、撤回されれば紙に戻る、という往復ができる設計になっています。

    宅建業法35条・37条の電磁的方法にも同じ構造(承諾を得ること、承諾の撤回があれば電磁的方法によれないこと)があります。書面電子化の横断整理はIT重説と書面の電子化にまとめてあるので、業法側と借地借家法側を並べて確認しておくと取り違えません。

    事前説明の書面と最判平成24年9月13日

    判旨の中身

    この事前説明の書面をめぐって、決定的な判例があります。

    最高裁判所は平成24年9月13日の判決で、この書面は契約書とは別個独立の書面でなければならないと判断しました。判旨の要点は、この書面は、賃借人が当該契約に係る賃貸借は契約の更新がなく期間の満了により終了すると認識しているか否かにかかわらず、契約書とは別個独立の書面であることを要する、というものです。

    判決が出た当時の条文は、現在の38条3項にあたる旧38条2項です。条文の番号は変わりましたが、文言は「その旨を記載した書面を交付して説明しなければならない」で同じなので、判例の射程は現行法にそのまま及びます。

    なぜ「別個独立」でなければならないのか

    最高裁が挙げた理由は、条文の文言と制度の趣旨の二つです。

    文言の側は、条文が「契約の更新がなく、期間の満了により当該建物の賃貸借は終了することについて、その旨を記載した書面を交付して説明しなければならない」と定めていることです。契約書とは別に、この内容を記載した書面を交付したうえで説明することを求めている、と読めます。もし契約書の一条項で足りるなら、契約書を作ることそのものが説明を兼ねてしまい、「交付して説明する」という独立の行為を求めた意味がなくなります。

    趣旨の側は、事前説明の目的が、更新がないという契約条件を借主に明確に認識させたうえで契約を締結させることにある、という点です。賃貸借契約書には数十の条項が並びます。その中に「本契約は更新しない」という一行が紛れていても、借主が気づくとは限りません。契約書から切り離した紙にすることで初めて、その一点だけに注意を向けさせられます。

    「認識しているか否かにかかわらず」の意味

    判旨のこの部分が、試験では最もよく狙われます。

    普通に考えれば、借主が実際に「これは更新のない契約だ」と分かって契約したのなら、保護の必要はないように見えます。しかし最高裁はそう考えませんでした。個別の借主が理解していたかどうかを事後に審理して結論を分けると、要件の内容が事案ごとにぶれます。それでは、契約時点でどうすれば適法なのかが貸主にも分からず、紛争を予防する機能を果たせません。

    そこで、別個独立の書面という形式を、認識の有無から切り離した客観的な要件として立てた。これが判旨の構造です。形式的要件だからこそ、守れば確実に有効になり、欠ければ確実に無効になります。

    実務でも試験でも、ここが最も問われます。契約書に必要事項が書かれていたから説明は済んでいる、という主張は通りません。借主が宅建士の資格を持っていた、不動産のプロだった、といった事情も結論を変えません。

    どこまでが「別個独立」か

    判例が要求しているのは、契約書とは別の書面であることです。同じ日に、同じ場で、契約書と一緒に交付されたとしても、書面として独立していればこの要件は満たしうると理解されています。逆に、契約書の末尾に付属の一葉として綴じ込まれ、契約書の一部を構成しているにすぎない場合は、別個独立とはいえません。

    もう一つ落としてはならないのが、時期の要件です。別個独立の書面を用意しても、それを契約と同時か契約後に渡したのでは、38条3項の「あらかじめ」を満たしません。判例が付け加えたのは書面の独立性であって、条文が元から要求している事前性が消えるわけではありません。試験では、書面の独立性と交付時期の二つを別々の肢で崩してきます。

    要件を欠いたときの効果

    説明を欠いた場合は38条5項

    38条5項は、賃貸人が3項の説明をしなかったときは、契約の更新がないこととする旨の定めは無効とする、と定めています。

    無効になるのは「更新がないこととする旨の定め」だけです。賃貸借契約そのものが無効になるわけではありません。

    なぜ契約全体が無効にならないのか

    ここは理屈で押さえてください。もし契約全体が無効になれば、借主は住む権利を失います。説明を怠ったのは貸主なのに、その不利益を借主が負うことになり、保護の趣旨と逆になります。

    そこで、更新がない旨の定めだけを切り離して無効とし、残りの部分は有効な建物賃貸借として存続させる。結果として、その契約は更新のある普通の建物賃貸借になります。借主は26条の更新の保護と28条の正当事由の保護を受けられることになり、貸主は期間が満了しても正当事由がなければ出ていってもらえません。

    説明を怠った貸主にとって最も重い制裁は、まさにこれです。定期借家のつもりで貸したのに、普通借家として続いてしまう。しかも、そのことが表面化するのは期間が満了して明渡しを求めた時点なので、貸主が気づいたときには手遅れになっています。この効果を理解しておけば、「説明を怠ると契約が無効になる」という誤りの肢を見抜けます。

    契約が書面でされなかった場合は5項の話ではない

    ここは混同されやすいので、条文の系統を分けておきます。

    38条5項が無効とするのは、3項の説明を欠いた場合です。これに対して、そもそも1項の書面による契約がされていない場合は、5項の出番ではありません。1項は「書面によって契約をするときに限り」更新排除の定めができるとしているので、書面がなければ更新排除の定めをする資格そのものがない。したがって、その定めは30条の原則に戻って、借主に不利な特約として無効になります。

    結論はどちらも「更新がない旨の定めが無効になり、普通借家として存続する」で同じです。しかし根拠条文が違うので、「書面によらない定期借家は38条5項により無効となる」という肢は、結論が合っていても根拠がずれています。条文の系統を問う出題に備えて、1項・30条の系統と3項・5項の系統を分けておいてください。

    期間の定めがない場合

    期間の定めがないのに更新排除の定めを置いた場合も、1項の要件を欠きます。定期借家として扱われず、期間の定めのない普通の建物賃貸借になります。この場合、貸主から終わらせるには27条1項の解約申入れと28条の正当事由が必要で、しかも申入れから6か月かかります。短期で返してもらうつもりが、最も終わらせにくい形になってしまうわけです。

    要件は「全部そろって」意味を持つ

    以上を整理すると、定期借家が有効に成立するには、期間の定めがあること、書面(または電磁的記録)で契約したこと、あらかじめ別個独立の書面を交付して更新がなく期間満了で終了することを説明したこと、この三つが全部そろっている必要があります。一つでも欠ければ、更新排除の定めは効力を失い、普通借家になる。

    「厳しい要件を課したうえで、欠けたら普通借家に落とす」という設計は、罰則を置かずに遵守を確保する立法技術です。刑事罰も過料もありませんが、貸主にとっては契約の目的が達せられないという最大の不利益が生じます。この点は、違反に対して業務停止や免許取消しという行政処分を用意する宅建業法とは、規律の作り方が根本的に違います。

    期間の定めについて|1年未満が有効になる

    普通借家では1年未満は「期間の定めなし」になる

    29条1項は、期間を1年未満とする建物の賃貸借は、期間の定めがない建物の賃貸借とみなす、と定めています。

    普通借家で3か月という期間を定めても、その定めは効力を持たず、期間の定めのない賃貸借として扱われます。期間の定めのない賃貸借では、貸主からの解約申入れは正当事由が必要で、しかも申入れの日から6か月を経過しなければ終了しません(27条1項)。短期で貸したつもりが、実質的に貸主から終わらせにくい契約になってしまうということです。

    定期借家には29条1項が適用されない

    これに対し、38条1項後段が「この場合には、第二十九条第一項の規定を適用しない」と明記しています。したがって、1年未満の期間を定めても、その期間の定めがそのまま有効です。3か月の定期借家、6か月の定期借家も成立します。

    条文の位置に注意してください。1年未満が有効になる根拠は、38条の後ろのほうの項ではなく、1項の後段です。「38条1項が29条1項の適用を外している」と条文の場所ごと覚えておくと、根拠条文を問う肢に対応できます。

    なぜ定期借家だけ短期を許すのか

    この違いは制度の目的から説明できます。29条1項が短期の定めを封じているのは、短い期間を繰り返し設定して借主の地位を不安定にすることを防ぐためです。普通借家では更新が原則なので、期間を短く刻んでも借主は保護されるはずですが、それでも1年未満の刻みを許すと、更新のたびに条件変更を迫る圧力が働きます。

    定期借家では、そもそも借主が更新のないことを説明されたうえで契約しているので、この保護を及ぼす前提が違います。期間が短いことは、借主にとって不意打ちではありません。

    この結果、期間の下限は普通借家と定期借家で正反対になります。普通借家は29条1項によって事実上1年が下限として働き、それより短く定めても期間の定めのない賃貸借になります。定期借家には下限がなく、1か月の定期借家も条文上は成立します。なお、期間が1年未満であれば38条6項の終了通知も不要なので、短い定期借家は「1年未満の期間が有効」と「終了通知が不要」の二つが同時に効いていることになります。

    期間の上限はどちらにもない

    民法604条1項は賃貸借の存続期間の上限を50年とし、契約でこれより長い期間を定めたときであってもその期間は50年とする、と定めています。同条2項は更新後の期間についても更新の時から50年を超えることができないとしています。

    しかし、29条2項が「民法第六百四条の規定は、建物の賃貸借については、適用しない」と明記しています。したがって、普通借家でも定期借家でも、期間の上限はありません。100年の定期借家も理論上は可能です。上限があるのは民法上の賃貸借であって、借地借家法の適用がある建物賃貸借ではない、という整理になります。

    この点は、借地権の存続期間に下限(30年など)はあっても上限がないことと並べて覚えると混ざりません。借地の期間は借地権の基本にまとめてあります。借地借家法の数字全体の一覧は借地借家法の数字まとめにあります。

    終了の通知

    期間が1年以上の場合に必要

    38条6項は、1項の規定による建物の賃貸借において、期間が1年以上である場合には、建物の賃貸人は、期間の満了の1年前から6か月前までの間(通知期間)に建物の賃借人に対し期間の満了により建物の賃貸借が終了する旨の通知をしなければ、その終了を建物の賃借人に対抗することができない、と定めています。

    対象は期間が1年以上の定期借家です。「1年以上」なので、期間がちょうど1年の定期借家は通知が必要です。期間が1年未満であれば、この通知は不要です。短い契約では、期間の満了が近いことを借主が失念する危険が小さいためです。

    ここで「未満」と「以上」が近接して出てくることに注意してください。29条1項が封じるのは「1年未満」、38条6項が通知を求めるのは「1年以上」。この二つはちょうど裏表になっており、境界の1年ちょうどはそれぞれ「29条1項の対象外」「38条6項の対象内」に振り分けられます。

    通知期間は1年前から6か月前まで

    通知は、期間の満了の1年前から6か月前までの間に行います。この期間を条文自身が「通知期間」と定義しています。

    早すぎても遅すぎてもいけません。1年3か月前に通知しても通知期間内の通知にはならず、5か月前に通知しても遅れたことになります。

    この「1年前から6か月前まで」は、26条1項が普通借家の更新拒絶通知について定めている期間と、数字がまったく同じです。窓の位置は同じで、通知の意味と効果だけが違う、と押さえてください。普通借家の26条1項は「通知しなければ更新される」という規定で、通知には28条の正当事由が必要です。定期借家の38条6項は「通知しなければ終了を対抗できない」という規定で、正当事由は要りません。定期借家の終了通知は、単に期間が満了することを知らせる通知であって、契約を終わらせる意思表示ではないからです。

    通知をしなかったらどうなるか

    条文は「その終了を建物の賃借人に対抗することができない」と書いています。契約が更新されるとは書いていません。

    ここは正確に読んでください。定期借家である以上、期間の満了によって契約は終了します。しかし、通知をしていなければ、貸主はその終了を借主に対抗できません。借主が住み続けることを、貸主は拒めないということです。

    普通借家の法定更新とは仕組みが違います。普通借家では契約が更新されて存続しますが、定期借家では終了自体は生じており、対抗の可否の問題として処理されます。

    この違いは実務上の帰結にも出ます。法定更新であれば、更新後の契約には期間の定めがなくなり(26条1項ただし書)、以後は27条の解約申入れの世界に入ります。定期借家で通知を怠った場合は、契約が更新されたわけではないので、貸主は次に述べる遅れた通知によって、あらためて終了を対抗できる状態に持っていくことができます。

    遅れた場合は通知から6か月

    38条6項ただし書が救済を用意しています。賃貸人が通知期間の経過後に借主に対してその旨の通知をした場合においては、その通知の日から6か月を経過した後は、この限りでない。

    つまり、通知が遅れても、通知をすれば、その日から6か月を経過した後は終了を対抗できるようになります。通知を忘れたら永久に終了を主張できない、というわけではありません。

    この6か月は、通知期間の終期の6か月とは別のものです。前者は期間の満了から遡って数える6か月、後者は通知の日から進んで数える6か月です。同じ数字が違う起算点で出てくるので、混同しないよう後述の整理を参照してください。

    なお、この救済があるからといって、通知期間内に通知しなかったことが無害になるわけではありません。期間の満了後も6か月分は借主の居住を拒めないので、その分だけ明渡しが遅れます。

    再契約は更新ではない

    期間が満了しても、当事者が合意すれば新たに契約を結び直すことができます。実務ではこれを再契約と呼びます。

    ただし、法律上は更新ではなく、まったく新しい契約です。したがって、再び定期借家にするのであれば、書面による契約と、契約書とは別個独立の書面による事前説明を、もう一度最初からやり直す必要があります。前回説明したから省略してよい、ということはありません。同じ貸主と同じ借主が同じ部屋について何度目かの再契約をする場合でも同じです。

    また、借主に再契約を求める権利はありません。定期借家である以上、貸主が応じなければ契約は終わります。宅建業者が媒介するときは、宅地建物取引業法施行規則16条の4の3第8号が「契約期間及び契約の更新に関する事項」を建物の貸借の説明事項としているので、更新がないこと、再契約が当事者の合意によることは、35条の重要事項説明の側でも触れられることになります。管理を委託している場合の役割分担は管理会社の業務を参照してください。

    試験では、再契約と更新を同一視させる肢が作られます。定期借家に更新はない、あるのは新たな契約だけ、と押さえてください。

    借主に不利な特約は無効

    38条8項は、6項と7項の規定に反する特約で建物の賃借人に不利なものは無効とする、と定めています。

    したがって、「終了の通知は不要とする」「通知期間は満了の3か月前までとする」といった特約は、借主に不利であれば無効です。逆に、借主に有利な方向、たとえば通知期間をより早い時期から可能にする特約は許容されます。

    38条8項が名指ししているのは6項と7項だけである点にも注意してください。1項から5項までは、そもそも要件規定なので特約で動かす余地がありません。9項(借賃改定特約)は、むしろ特約を優先させる規定なので、8項の対象から外れています。

    中途解約

    借主から解約できる四つの要件

    定期借家は期間の満了まで続くのが原則ですが、38条7項が借主からの解約を認める場面を定めています。要件は次のとおりです。

    第一に、居住の用に供する建物の賃貸借であること。店舗や事務所の賃貸借は対象外です。

    第二に、床面積が200平方メートル未満であること。建物の一部分を賃貸借の目的とする場合は、その一部分の床面積で判断します。条文が括弧書きで「建物の一部分を賃貸借の目的とする場合にあっては、当該一部分の床面積」と明記しているので、一棟のマンション全体の床面積で判断するのではありません。

    第三に、転勤、療養、親族の介護その他のやむを得ない事情により、借主が建物を自己の生活の本拠として使用することが困難となったこと。条文が具体例を三つ挙げたうえで「その他のやむを得ない事情」と受けているので、三つに限定されるわけではありません。ただし、単に引っ越したくなった、賃料が高く感じるようになった、といった事情では足りません。生活の本拠として使用することが困難になった、という水準が要求されます。

    第四に、借主が解約の申入れをすること。要件を満たせば当然に終了するのではなく、申入れが必要です。転勤の辞令が出た時点で契約が終わるわけではありません。

    200平方メートル未満という数字の読み方

    「未満」です。ちょうど200平方メートルの場合は、この規定の対象になりません。境界の扱いを入れ替えた肢が出るので、以上か未満かを条文で確認しておいてください。

    この面積要件は、規模の大きい住宅は事業性や資産性が高く、居住者保護を及ぼす必要が小さいという判断に基づくものと理解されています。同じ「居住用かどうか」で線を引く制度でも、たとえば36条の居住用建物の賃貸借の承継(相続人なしに死亡した場合の内縁配偶者等による承継)には面積要件がありません。面積で絞っているのは38条7項に固有の設計です。

    解約申入れの日から1か月で終了

    要件を満たす解約の申入れがあった場合、建物の賃貸借は解約の申入れの日から1か月を経過することによって終了します。

    普通借家において貸主から解約を申し入れた場合の6か月(27条1項)と混同しやすい数字です。主体も場面も違うので、セットで覚えてください。民法617条1項2号が建物賃貸借について定める3か月とも別物です。定期借家の借主の中途解約は1か月、これが最も短い数字になります。

    この規定に反する借主に不利な特約は無効

    前述の38条8項により、7項に反する特約で借主に不利なものは無効です。したがって、「借主からの中途解約は一切できない」という特約は、要件を満たす場面では無効になります。「解約の申入れから3か月を経過して終了する」という特約も、1か月より長くなるので借主に不利であり無効です。

    逆に、「借主はいつでも解約を申し入れることができ、申入れから2週間で終了する」といった特約は、7項の要件より借主に有利なので有効です。8項が無効とするのは「賃借人に不利なもの」に限られます。

    合意解除・債務不履行解除は別の話

    38条7項は法定の中途解約権を定めた規定です。当事者が合意して契約を終わらせること(合意解除)や、借主の賃料不払いを理由に貸主が契約を解除することは、7項の要件とは無関係に可能です。

    賃料不払いによる解除については、判例上、当事者間の信頼関係を破壊するに至る程度の不履行であることが必要とされています。定期借家だからといって、この基準が緩むわけではありません。信頼関係破壊の法理と解除の要件は民法の賃貸借で扱っています。

    事業用の建物の定期借家で「やむを得ない事情」が生じた場合も、7項は使えませんが、合意解除の道は閉ざされていません。7項が意味を持つのは、貸主が合意に応じないときに借主が一方的に終わらせられるかどうか、という場面です。

    貸主からの中途解約は法定されていない

    38条7項が認めているのは借主からの解約だけです。貸主から中途解約できる法定の規定はありません。

    ただし、当事者の合意で中途解約権を留保する特約を置くこと自体は、民法618条が「当事者が賃貸借の期間を定めた場合であっても、その一方又は双方がその期間内に解約をする権利を留保したときは、前条の規定を準用する」として認めています。問題は、その特約が借地借家法の強行規定に触れないかどうかです。

    38条1項が排除しているのは30条と29条1項だけで、28条は排除していません。したがって、貸主が中途解約権を留保しても、その解約の申入れには28条の正当事由が必要になると解されています。正当事由を不要とする特約は、借主に不利な特約として30条により無効になります。定期借家にすれば期間中いつでも追い出せる、という理解は誤りです。

    賃料の改定に関する特約

    32条の借賃増減請求権

    普通の建物賃貸借では、建物の借賃が、土地建物に対する租税その他の負担の増減により、土地建物の価格の上昇低下その他の経済事情の変動により、または近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は将来に向かって借賃の額の増減を請求することができます(32条1項本文)。

    条文が「契約の条件にかかわらず」と書いていることに注目してください。この一句が、32条1項が強行的な性質を持つと解される根拠です。最高裁判所は平成15年10月21日の判決で、賃料を自動的に増額する旨の特約があっても、それによって32条1項に基づく減額請求権の行使が妨げられるものではない、という趣旨を明らかにしています。

    もっとも、32条1項ただし書は「一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う」としています。増額しない特約は借主に有利なので認められ、減額しない特約は借主に不利なので効力が制限される、という非対称があります。

    32条2項・3項は、協議が調わない間の暫定的な処理を定めています。増額請求を受けた側は、増額を正当とする裁判が確定するまでは相当と認める額を支払えば足り、確定後に不足があれば年1割の利息を付して支払う。減額請求を受けた側は、減額を正当とする裁判が確定するまでは相当と認める額の支払を請求でき、確定後に受け取りすぎがあれば年1割の利息を付して返還する。この「年1割」は、民法の法定利率とは別に借地借家法が置いている数字です。

    定期借家では特約が優先する

    これに対し38条9項は、32条の規定は、1項の規定による建物の賃貸借において、借賃の改定に係る特約がある場合には、適用しない、と定めています。

    つまり定期借家では、賃料の改定に関する特約があれば32条は適用されず、特約の内容がそのまま効力を持ちます。増額しない特約も、減額しない特約も、有効になりうるということです。普通借家では封じられる「減額請求をしない」旨の合意が、定期借家では通ります。

    適用が外れるのは32条全体です。1項の増減請求権だけでなく、2項・3項の暫定処理も働きません。特約に従って賃料が決まるので、暫定処理を必要とする場面がそもそも生じないからです。

    なぜ定期借家だけ違うのか

    理由は、契約期間が確定していることにあります。定期借家では終了時期が決まっているため、その期間の賃料をあらかじめ固定しておくことに合理性があります。当事者は期間と賃料をセットで合意して契約に入っており、途中で一方が改定を求められると、その前提が崩れます。

    普通借家では、更新によって契約が長期に及ぶ可能性があるため、経済事情の変動に対応する仕組みが必要になります。10年、20年と続く契約で、当初の賃料に永久に縛られるのは不合理です。この違いが32条の適用の有無を分けています。

    言い換えると、32条は「いつ終わるか分からない契約」のための調整弁です。終わりが決まっている契約には、その調整弁を働かせる必要が薄い。ここまで理解しておけば、9項の存在理由を答えさせる問いにも対応できます。

    特約がない場合

    38条9項が適用されるのは、借賃の改定に係る特約がある場合です。特約がなければ、定期借家であっても32条が適用され、増減額請求ができます。「定期借家では常に増減額請求ができない」という肢は誤りです。

    「借賃の改定に係る特約」がどの程度具体的であればよいかは、条文からは一義に決まりません。少なくとも、賃料の改定について何らかの合意があることが必要で、単に賃料額を定めただけでは改定に係る特約とはいえないと理解されています。試験のレベルでは、特約の有無で32条の適用が切り替わるという骨格を押さえておけば足ります。

    定期借家でも外れないもの

    定期借家は更新に関するルールを外す制度であって、賃貸借の他の部分を丸ごと変えるものではありません。38条1項が明示的に適用を外しているのは30条と29条1項だけです。ここを取り違えると、「定期借家だから借主の保護は一切ない」という誤った一般化に流れます。混同しやすいので、変わらないものを条文ごとに確認しておきます。

    敷金と原状回復

    敷金と原状回復は民法の規定であって、借地借家法38条はここに一切触れていません。民法622条の2の敷金返還債務も、民法621条の原状回復義務(通常の使用収益によって生じた損耗と経年変化は対象から除かれる)も、定期借家にそのまま働きます。

    定期借家に固有の意味があるとすれば、622条の2第1項1号が返還の時期を「賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき」と定めている点です。普通借家では更新されるかどうかで終了時期そのものが動きますが、定期借家は期間の満了で確定的に終わるので、敷金返還債務がいつ発生するかも期間の満了と明渡しの二つで決まります。敷金の定義、充当が一方通行であること、賃貸人が代わった場合の処理は敷金・礼金の扱いが条文ごとに扱っているので、そちらを参照してください。

    造作買取請求権

    造作買取請求権も変わりません。借主が貸主の同意を得て建物に付加した畳、建具その他の造作について、建物の賃貸借が期間の満了または解約の申入れによって終了するときに時価で買い取るよう請求できるという33条1項の仕組みは、定期借家にも及びます。定期借家は期間の満了で終了するので、33条1項が定める終了事由に正面から当たります。

    33条1項は後段で「建物の賃貸人から買い受けた造作についても、同様とする」としています。貸主から買い取った造作については同意の要件が問題にならず、そのまま買取請求の対象になる、という趣旨です。同条2項は、期間の満了または解約の申入れによって終了する場合における転借人と賃貸人との間にもこれを準用しています。

    ただし、33条は37条の強行規定リスト(31条・34条・35条)に入っていないので任意規定であり、造作買取請求権を排除する特約は普通借家でも定期借家でも有効です。詳しくは造作買取請求権にまとめてあります。

    対抗要件と賃貸人たる地位の移転

    31条は、建物の賃貸借は、その登記がなくても、建物の引渡しがあったときは、その後その建物について物権を取得した者に対しその効力を生ずる、と定めています。38条1項はこの条を外していませんし、31条は37条によって強行規定とされているので、これに反する借主に不利な特約は無効です。定期借家の借主も、引渡しを受けていれば新しい所有者に賃借権を対抗できます。

    対抗要件を備えた後に建物が譲渡された場合の処理そのもの(民法605条の2による賃貸人たる地位の移転、移転を賃借人に対抗するには所有権移転登記が必要であること、費用償還債務と敷金返還債務が譲受人に承継されること)は、普通借家とまったく同じです。条文ごとの整理は借地権の対抗要件が借地と借家を並べて扱っています。

    定期借家で押さえるべきなのは、譲受人が引き継ぐのが「定期借家の貸主の地位」だという点です。譲受人は更新のない契約をそのまま承継するので、38条6項の終了通知の義務も引き継ぎます。譲渡の時点ですでに通知期間(満了の1年前から6か月前まで)に入っているなら、通知をすべきなのは新しい所有者です。前の所有者が通知しないまま譲渡し、新しい所有者も通知しなければ、通知の欠缺は新しい所有者の側の不利益になります。

    定期借家で外れているのは、あくまで期間満了後の更新に関する保護だけです。期間中の地位が弱くなるわけではありません。

    転貸借がされている場合

    定期借家の建物が転貸されている場合の処理は、条文を丁寧に追う必要があります。

    34条1項は、建物の転貸借がされている場合において、建物の賃貸借が期間の満了または解約の申入れによって終了するときは、建物の賃貸人は建物の転借人にその旨の通知をしなければ、その終了を建物の転借人に対抗することができない、と定めています。同条2項は、通知をしたときは転貸借はその通知がされた日から6か月を経過することによって終了する、としています。

    34条は37条によって強行規定とされており、38条1項もこの条の適用を外していません。したがって、定期借家が期間の満了によって終了する場面でも、転借人に対しては34条1項の通知が必要で、通知から6か月を経過して初めて転貸借が終わると読むのが条文の素直な理解です。

    ここで6か月がもう一つ増えます。38条6項ただし書の6か月(貸主が借主に対して遅れて通知した場合の猶予)と、34条2項の6か月(貸主が転借人に対して通知した場合の猶予)は、相手方も起算点も別のものです。サブリース方式で転貸されている物件では、この二つが重なって明渡しまでの期間が長くなります。サブリースにかかる規制は賃貸住宅管理業法の全体像にまとめてあります。

    居住用建物の賃借権の承継

    36条1項は、居住の用に供する建物の賃借人が相続人なしに死亡した場合において、婚姻または縁組の届出をしていないが事実上夫婦または養親子と同様の関係にあった同居者があるときは、その同居者が賃借人の権利義務を承継する、と定めています。ただし、相続人なしに死亡したことを知った後1か月以内に賃貸人に反対の意思を表示したときは承継しません。

    この規定も38条1項が適用を外していないので、定期借家に及びます。承継されるのは定期借家としての地位なので、承継した同居者も期間の満了で明け渡すことになりますが、期間の途中で契約が消えるわけではありません。同条2項により、賃貸借関係に基づいて生じた債権債務も承継した者に帰属します。

    借地上の建物を借りていた場合(借地借家法35条)

    見落とされやすいのが、借地借家法35条です。37条が強行規定として名指ししているのは31条・34条・35条の三つで、このうち35条だけが登場しないまま終わることがあります。後述する宅地建物取引業法35条(重要事項説明)とは別物なので、条番号だけで引かず、必ず法律名とセットで覚えてください。

    35条1項は、借地権の目的である土地の上の建物につき賃貸借がされている場合において、借地権の存続期間の満了によって建物の賃借人が土地を明け渡すべきときは、建物の賃借人が借地権の存続期間が満了することをその1年前までに知らなかった場合に限り、裁判所は建物の賃借人の請求により、知った日から1年を超えない範囲内で土地の明渡しにつき相当の期限を許与することができる、と定めています。同条2項は、期限の許与があったときは建物の賃貸借はその期限の到来によって終了するとしています。

    この規定も38条1項が外していないので、定期借家に及びます。借地上の建物を定期借家で借りていた借主は、地主と借地権者の間の借地契約が満了して土地を明け渡すべきことになったとき、35条の要件を満たせば期限の許与を求められます。

    数字の並び方に注意してください。35条は「1年前までに知らなかった場合に限り」という要件と、「知った日から1年を超えない範囲内」という効果の両方に1年を使っています。38条6項の1年(通知が必要になる契約期間の下限と、通知期間の始期)とは別の1年です。

    普通借家を定期借家に切り替えられるか

    平成11年法律第153号附則3条

    定期借家の制度は、良質な賃貸住宅等の供給の促進に関する特別措置法(平成11年法律第153号)第5条によって借地借家法38条を改正する形で導入され、平成12年3月1日から施行されました。

    この法律の附則3条が、実務上も試験上も重要な制限を置いています。条文はこうです。第5条の規定の施行前にされた居住の用に供する建物の賃貸借(旧法38条1項の規定による賃貸借を除く)の当事者が、その賃貸借を合意により終了させ、引き続き新たに同一の建物を目的とする賃貸借をする場合には、当分の間、改正後の借地借家法38条の規定は適用しない。

    要件を分解します。第一に、平成12年3月1日より前にされた賃貸借であること。第二に、居住の用に供する建物の賃貸借であること。第三に、旧法38条1項による賃貸借(改正前の制度である期限付建物賃貸借)でないこと。第四に、当事者がその賃貸借を合意により終了させ、引き続き新たに同一の建物を目的とする賃貸借をする場合であること。

    これらを満たす場合、38条は「当分の間」適用されません。適用されないということは、更新がない旨の定めをする根拠がないということなので、その定めは30条によって無効になり、新しい契約は普通借家になります。

    なぜこの制限があるのか

    定期借家が導入されたとき、既存の普通借家の借主が、いったん合意解除させられたうえで定期借家として貸し直され、事実上の追い出しに使われることが懸念されました。附則3条は、その転換を封じる経過措置です。

    「当分の間」という書き方から分かるとおり、期限が切られていません。したがって、令和8年度の試験でもこの制限は生きています。

    どこまでが禁止されるか

    禁止されるのは、平成12年3月1日より前から続いている居住用の普通借家を、合意解除して同じ建物の定期借家に切り替えることです。ここから外れるものは切替えができます。

    事業用の建物、つまり店舗や事務所の賃貸借は、附則3条が「居住の用に供する建物の賃貸借」に限定しているので、切替えができます。平成12年3月1日以後に締結された居住用の賃貸借も、附則3条の対象外なので切替えができます。借主が代わって別の人と新たに契約する場合も、「その賃貸借を合意により終了させ、引き続き新たに」という要件から外れます。

    試験では、この四つの要件のどれかを外した事例を出して、切替えの可否を問う形になります。特に「事業用なら可、居住用で古い契約なら不可」という分かれ目が問われます。

    39条の取壊し予定建物と、40条の一時使用

    取壊し予定の建物の賃貸借

    定期借家と並んで、更新の保護を外す制度が39条にあります。

    法令または契約により一定の期間を経過した後に建物を取り壊すべきことが明らかな場合において、建物の賃貸借をするときは、30条の規定にかかわらず、建物を取り壊すこととなる時に賃貸借が終了する旨を定めることができます(39条1項)。この特約は、建物を取り壊すべき事由を記載した書面によってしなければなりません(同条2項)。そして、特約がその内容および2項に規定する事由を記録した電磁的記録によってされたときは、その特約は2項の書面によってされたものとみなされます(同条3項)。

    定期借家との違いは三つあります。

    第一に、終了の基準です。定期借家は期間の満了で終了しますが、39条は建物を取り壊すこととなる時に終了します。取壊しの時期が前後すれば、終了時期も動きます。

    第二に、要求される書面の中身です。39条2項が求めるのは「取り壊すべき事由を記載した書面」です。38条3項のような事前説明の書面ではありません。39条には事前説明の要件そのものがありません。

    第三に、要件を欠いた場合の扱いです。39条には38条5項に相当する規定がないので、2項の書面がなければ、1項の特約をする根拠を欠き、30条により無効になります。

    法令による場合の例としては、都市計画事業の施行区域内にあって将来収用される建物などが考えられます。契約による場合は、借地契約の期間満了後に建物を収去する義務がある場合などです。

    一時使用目的の建物の賃貸借

    40条は、この章の規定は、一時使用のために建物の賃貸借をしたことが明らかな場合には、適用しない、と定めています。

    「この章」とは借地借家法第3章(借家)です。26条から40条までが第3章なので、更新も、正当事由も、29条1項の1年未満の擬制も、31条の対抗要件も、38条の定期借家も適用されません。残るのは民法の賃貸借の規定だけです。

    一時使用に当たるかどうかは、期間の長短だけで決まりません。期間を短く定めれば一時使用になるわけではなく、契約の目的や動機、建物の構造、賃料の定め方その他の事情から、一時使用のためのものであることが客観的に明らかであることを要すると理解されています。選挙事務所やイベント用の仮設施設のように、使用の目的自体が一時的であることが必要です。

    定期借家との使い分けは次のとおりです。短期で確実に返してほしいだけなら、40条の一時使用に当たらなくても定期借家を使えば足ります。定期借家なら1年未満の期間も有効なので、短期の需要は38条で処理できます。40条は、そもそも借地借家法の保護を及ぼすべきでない類型を切り分ける規定であって、貸主が選んで使う制度ではありません。

    借地の側にも同様の規定として25条(一時使用目的の借地権)がありますが、除外のしかたが40条とは違います。40条は「この章の規定は…適用しない」と第3章を丸ごと外します。これに対して25条は「第三条から第八条まで、第十三条、第十七条、第十八条及び第二十二条から前条までの規定は…適用しない」と、外す条を名指しで並べる書き方です。

    この違いは結論に出ます。25条の列挙に10条(建物の登記による借地権の対抗力)は入っていません。したがって、一時使用目的の借地権であっても、借地上に自己名義の建物の登記があれば第三者に対抗できます。一方、40条は31条ごと外すので、一時使用目的の建物賃貸借では引渡しによる対抗力が生じません。同じ「一時使用だから保護を外す」という規定でも、対抗要件が残るか消えるかが逆になります。借地の対抗要件の全体像は借地権の対抗要件にまとめてあります。

    終身建物賃貸借との関係

    高齢者住まい法52条の特例

    借地借家法30条の例外は、38条と39条のほかにもう一つあります。高齢者の居住の安定確保に関する法律(高齢者住まい法)52条1項の終身建物賃貸借です。

    同項は、自ら居住するため住宅を必要とする高齢者(60歳以上の者であって、賃借人となる者以外に同居する者がないもの、または同居する者が配偶者もしくは60歳以上の親族であるものに限る)またはその配偶者を賃借人とし、賃借人の終身にわたって住宅を賃貸する事業を行おうとする者は、その事業について都道府県知事の認可を受けた場合においては、公正証書による等書面によって契約をするときに限り、借地借家法30条の規定にかかわらず、賃借人が死亡した時に終了する旨を定めることができる、と定めています。

    構造が38条1項とよく似ていることに気づいてください。「30条の規定にかかわらず」「公正証書による等書面によって契約をするときに限り」という言い回しが共通しています。違うのは、終了の引き金が「期間の満了」ではなく「賃借人の死亡」であること、そして都道府県知事の認可という行政的な入口が置かれていることです。同条2項は電磁的記録による契約を書面によるものとみなしており、この点も38条2項と同じです。

    定期借家が仮入居に使われる

    54条は認可の基準を定めており、その1号ただし書と2号が定期借家と直接つながっています。

    54条1号は、賃貸住宅において書面によって契約をする建物の賃貸借であって賃借人の死亡に至るまで存続し、かつ賃借人が死亡した時に終了するもの(終身建物賃貸借)をするものであることを認可基準としつつ、ただし書で「賃借人を仮に入居させるために、終身建物賃貸借に先立ち、定期建物賃貸借(借地借家法38条1項の規定による建物賃貸借をいい、1年以内の期間を定めたものに限る)をする場合は、この限りでない」としています。

    さらに2号は、賃借人となろうとする者から仮に入居する旨の申出があった場合においては、終身建物賃貸借に先立ち、その者を仮に入居させるため定期建物賃貸借をするものであることを基準としています。

    つまり、いきなり終身の契約を結ぶのではなく、まず1年以内の定期借家で試しに住んでもらい、その後に終身建物賃貸借へ移行する、という道が制度として用意されているわけです。ここで定期借家の「1年未満でも有効」という性質が実際に使われています。

    58条の期間付死亡時終了建物賃貸借

    58条は、認可事業者が、賃借人となろうとする者から特に申出があった場合においては、公正証書による等書面によって契約をする建物の賃貸借であって、借地借家法38条1項の規定により契約の更新がないこととする旨が定められた期間の定めがあり、かつ賃借人が死亡した時に終了するもの(期間付死亡時終了建物賃貸借)をすることができる、と定めています。

    定期借家と終身建物賃貸借を重ねた類型です。期間が満了すれば終わり、その前に賃借人が死亡すればそこで終わる。38条1項による更新排除の定めを土台にしているので、書面と事前説明の要件はそのまま働きます。

    解約と1か月

    60条は、終身建物賃貸借において賃借人が解約の申入れをできる場合を四つ挙げています。療養、老人ホームへの入所その他のやむを得ない事情により認可住宅に居住することが困難となったとき。親族と同居するため認可住宅に居住する必要がなくなったとき。認可事業者が69条の改善命令に違反したとき。そして、解約の期日が申入れの日から6か月以上経過する日に設定されているとき。

    前三者の場合は解約の申入れの日から1か月を経過することによって、最後の場合は当該解約の期日が到来することによって終了します。この1か月は、借地借家法38条7項の中途解約と同じ数字です。要件の書きぶり(療養その他のやむを得ない事情)も似ています。

    一方、事業者からの解約は59条1項が二つの場合に限定したうえで都道府県知事の承認を要求し、同条2項が借地借家法28条の適用を排除しています。借主からは緩く、貸主からは厳しく、という設計は定期借家と共通です。

    35条書面では同じ号で扱われる

    宅地建物取引業法施行規則16条の4の3第9号は、借地借家法22条1項の一般定期借地権を設定しようとするとき、または建物の賃貸借で借地借家法38条1項もしくは高齢者住まい法52条1項の規定の適用を受けるものをしようとするときは、その旨を説明しなければならない、と定めています。

    つまり、重要事項説明の世界では、定期借家と終身建物賃貸借が同じ号にまとめられています。どちらも「更新されないこと」を借主に知らせるべき事項だからです。ここを知っていると、35条の説明事項を暗記ではなく理屈で拾えます。

    35条書面との関係

    説明義務は二本立てになる

    宅建業者が定期借家の媒介や代理をする場合、説明義務が二つ重なります。

    一つは、宅地建物取引業法35条の重要事項説明です。同条1項14号ロの委任を受けた施行規則16条の4の3が、建物の貸借の契約について説明すべき事項として1号から5号までと7号から12号までを挙げており、その9号が定期建物賃貸借である旨です。

    もう一つが、ここまで見てきた借地借家法38条3項の事前説明です。

    この二つは、根拠も義務者も書面も効果もすべて違います。35条の義務を負うのは取引に関与する宅建業者で、説明するのは宅地建物取引士でなければなりません。38条3項の義務を負うのは貸主本人で、宅建士でなければならないという制限はありません。35条書面に定期建物賃貸借である旨を記載して説明したからといって、38条3項の説明をしたことにはなりません。逆に、貸主が38条3項の説明をしたからといって、業者の35条の義務が消えるわけでもありません。

    効果の違いも決定的です。35条の義務に違反すると、宅建業者は業務停止処分などの行政処分の対象になりますが、賃貸借契約の私法上の効力が直ちに左右されるわけではありません。38条3項の説明を欠くと、更新排除の定めが私法上無効になりますが、貸主に行政処分が下るわけではありません。行政法規と私法規定という、規律の系統そのものが違います。

    この対比は貸借の重要事項説明が六つの軸で整理しているので、業法側の論点はそちらを参照してください。この記事では、借地借家法の側から「38条3項の義務者は貸主である」という点だけを押さえておきます。35条書面全体の構造は35条書面の完全整理にあります。賃貸の媒介実務で何がどこまで求められるかは賃貸仲介の実務にまとめてあります。

    試験での出題ポイント

    公正証書に限定する肢

    「定期建物賃貸借は公正証書によってしなければならない」という肢は誤りです。38条1項は「公正証書による等書面によって」としており、公正証書は例示です。事業用定期借地権が公正証書に限られること(23条3項)との対比で出題されます。

    説明を欠いた場合の効果をずらす肢

    「事前説明をしなかった場合、賃貸借契約は無効となる」という肢は誤りです。38条5項によって無効となるのは、契約の更新がないこととする旨の定めだけであり、契約は更新のある建物賃貸借として存続します。

    説明の主体を入れ替える肢

    「38条3項の説明は宅地建物取引士が行わなければならない」という肢は誤りです。38条3項の義務者は建物の賃貸人であり、宅建士でなければならないという制限はありません。宅建業法35条の重要事項説明と混同させる出題です。

    事前説明の時期をずらす肢

    「賃貸借契約の締結と同時に別個の書面を交付して説明すれば足りる」という肢は誤りです。38条3項は「あらかじめ」と定めているので、契約締結前でなければなりません。書面が別個独立であることと、交付が事前であることは別々の要件で、どちらか一方だけを満たしても足りません。

    1年未満の期間の扱いを入れ替える肢

    「定期建物賃貸借において期間を6か月と定めた場合、期間の定めのないものとみなされる」という肢は誤りです。38条1項後段により29条1項は適用されません。逆に、普通借家について「期間を6か月と定めても有効である」という肢も誤りです。両方向の出題があります。

    終了通知の期間をずらす肢

    通知期間は満了の1年前から6か月前までです。「6か月前から3か月前まで」「1年前から3か月前まで」といった変形が作られます。また、期間が1年未満の定期借家について通知が必要だとする肢も誤りです。期間がちょうど1年の場合は「1年以上」に当たるので通知が必要です。

    通知を怠った効果を「更新」とする肢

    「終了の通知をしなかった場合、契約は更新されたものとみなされる」という肢は誤りです。38条6項は「その終了を対抗することができない」と定めており、更新の擬制ではありません。しかも通知をすれば、その日から6か月経過後に終了を対抗できるようになります。

    中途解約の要件を緩める肢

    事業用の建物について中途解約を認める肢、床面積200平方メートル以上の建物について認める肢、貸主から中途解約できるとする肢は、いずれも誤りです。要件は居住用、200平方メートル未満、やむを得ない事情、借主からの申入れの四つです。

    中途解約の終了時期をずらす肢

    「解約の申入れの日から6か月を経過することによって終了する」という肢は誤りです。38条7項の終了は1か月です。6か月は27条1項(普通借家で貸主が解約を申し入れた場合)と38条6項ただし書(遅れた終了通知)と34条2項(転借人への通知)の数字です。

    電磁的記録・電磁的方法を否定する肢

    「定期建物賃貸借は紙の書面によらなければならず、電子契約によることはできない」という肢は誤りです。契約がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは、書面によってされたものとみなされます(38条2項)。

    事前説明の書面も同様で、貸主は借主の承諾を得て、書面に記載すべき事項を電磁的方法により提供することができ、この場合は書面を交付したものとみなされます(38条4項)。ただし借主の承諾が必要である点に注意してください。承諾なく電磁的方法で提供しても、交付したことにはなりません。

    賃料増減額請求を一律に排除する肢

    「定期建物賃貸借では賃料の増減額請求をすることができない」という肢は誤りです。38条9項が32条の適用を排除するのは、借賃の改定に係る特約がある場合です。特約がなければ32条が適用されます。

    切替えの可否を問う肢

    「平成12年3月1日より前から続いている居住用の建物賃貸借を合意により終了させ、同じ建物について定期建物賃貸借を締結することができる」という肢は誤りです。平成11年法律第153号附則3条により、当分の間38条は適用されません。一方、店舗の賃貸借であれば同じ切替えができます。居住用か事業用かで結論が分かれる点が問われます。

    こうした肢の作られ方そのものを整理したものとして引っかけ表現のパターンがあります。数字と主体を入れ替える型は、借地借家法以外でも同じ形で出てきます。

    覚え方・整理の仕方|数字の混同を防ぐ

    数字を場面ごとに固定する

    定期借家まわりには数字が集中しています。混同しやすいので、場面とセットで固定してください。

    1年には二つの意味があります。終了の通知が必要になる契約期間の下限(期間が1年以上のとき通知が必要)と、通知期間の始期(満了の1年前から)です。どちらも38条6項の中にあります。

    6か月には三つの意味があります。通知期間の終期(満了の6か月前まで、38条6項本文)。通知が遅れた場合に終了を対抗できるようになるまでの猶予(通知の日から6か月、38条6項ただし書)。そして、転借人に通知した場合に転貸借が終了するまでの猶予(通知の日から6か月、34条2項)です。起算点が、順に「満了から遡る」「通知から進む」「通知から進む」と分かれます。

    1か月は、中途解約の申入れから終了までの期間です(38条7項)。高齢者住まい法60条の終身建物賃貸借でも同じ1か月が使われています。

    200平方メートルは、中途解約が認められる居住用建物の床面積の上限です。未満であることが必要です。

    時間軸に並べる

    数字を単独で覚えると混ざるので、時間軸の上に置いてください。

    契約締結の前。事前説明の書面を交付して説明する。契約締結。書面または電磁的記録によって契約する。期間の途中。要件を満たせば借主から解約を申し入れ、1か月で終了する。満了の1年前から6か月前まで。終了の通知をする。期間の満了。契約が終了する。通知を忘れていた場合は、通知した日から6か月を経過して初めて終了を対抗できる。転借人がいる場合は、転借人に通知した日から6か月を経過して転貸借が終了する。

    この一本の線に乗せれば、「通知は満了の6か月前から1年前まで」といった順序の入れ替えにも気づけます。数値を語呂で固定する場合の考え方は宅建の語呂合わせを参照してください。

    「38条1項が外している条文は二つだけ」と覚える

    定期借家で何が変わり何が変わらないかを一つずつ覚えると量が多すぎます。起点を一つに絞ってください。

    38条1項が明示的に適用を外しているのは、30条(強行規定)と29条1項(1年未満の擬制)だけです。それ以外の条文は原則として生きています。26条の更新は、更新がない旨の定めによって働かなくなりますが、条文の適用が外れているわけではありません。28条の正当事由は、貸主からの中途解約の申入れの場面で生きています。31条の対抗要件、33条の造作買取、34条の転借人保護、35条の期限の許与、36条の承継は、いずれもそのまま及びます。

    「外れているのは30条と29条1項」と一言で覚えておけば、「定期借家では造作買取請求ができない」「定期借家では引渡しによる対抗ができない」といった肢を即座に切れます。

    普通借家との対比を五つに絞る

    普通借家と定期借家の違いは、次の五つに集約できます。

    更新の有無。普通借家は更新されるのが原則、定期借家は更新がない。

    契約の方式。普通借家は口頭でも可、定期借家は書面または電磁的記録が必要。

    事前説明。普通借家は不要、定期借家は契約書とは別個独立の書面で必要。

    1年未満の期間。普通借家は期間の定めなしとみなされる、定期借家は有効。

    賃料の増減額請求。普通借家は32条が適用される、定期借家は改定の特約があれば適用されない。

    この五つを言えるようにしておけば、比較の肢はほぼ処理できます。

    定期借地権と混ぜない

    定期借地権は借地借家法第2章(借地)、定期借家は第3章(借家)にあり、根拠条文の置き場所からして別です。名称が似ているだけなので、要件を混ぜないでください。

    方式の違いが特に紛れます。事業用定期借地権は公正証書によってしなければなりません(23条3項)。一方、定期借家は公正証書に限らず書面であれば足ります。一般定期借地権は書面(または電磁的記録)によることが必要ですが、公正証書に限られません。「公正証書に限る」のは事業用定期借地権だけ、と覚えておけば取り違えません。

    期間の違いも押さえてください。一般定期借地権は存続期間50年以上(22条1項)。事業用定期借地権等は全体としては10年以上50年未満ですが、条文の中でさらに二つに割れており、23条1項が30年以上50年未満、同条2項が10年以上30年未満です。建物譲渡特約付借地権は、設定後30年以上を経過した日に建物を譲渡する旨を定めるものです(24条1項)。定期借家には期間の下限も上限もありません。定期借地権の三類型は定期借地権の3類型にまとめてあります。

    事前説明の要否も違います。契約書とは別個独立の書面による事前説明が要求されるのは定期借家です。定期借地権にこの要件はありません。

    「別個独立」を一語で覚える

    判例の結論は、この一語に集約されます。事前説明の書面は、契約書とは別個独立の書面。最判平成24年9月13日。

    この一語を覚えておけば、「契約書に更新がない旨を明記していれば足りる」「借主が定期借家であることを認識していれば足りる」といった肢を、いずれも誤りと判断できます。

    「無効になるのは定めだけ」を口に出す

    38条5項の効果は、条文の言葉をそのまま覚えるのが早道です。無効になるのは「契約の更新がないこととする旨の定め」。契約ではありません。この一句を口に出せるようにしておけば、効果をずらす肢に引っかかりません。

    なお、民法の側で意思表示の瑕疵や強行規定違反を扱うときの「無効」と、ここでの一部無効は同じ言葉ですが、効果の及ぶ範囲が違います。民法の無効・取消しの整理は権利関係の民法改正まとめを参照してください。

    理解度チェッククイズ

    第1問。定期建物賃貸借において、賃貸人が更新がなく期間の満了により終了する旨を記載した書面を交付して説明しなかった場合、その賃貸借契約は無効となる。

    答えは誤り。借地借家法38条5項によって無効となるのは、契約の更新がないこととする旨の定めだけです。契約自体は有効に存続し、更新のある普通の建物賃貸借として扱われます。その結果、貸主は期間が満了しても正当事由がなければ更新を拒めなくなります。契約全体を無効とすると、説明を怠った貸主ではなく借主が住む場所を失うことになり、保護の趣旨に反します。

    第2問。定期建物賃貸借の事前説明は、賃貸借契約書に更新がなく期間の満了により終了する旨を明記していれば、別途書面を交付しなくても要件を満たす。

    答えは誤り。最高裁判所は平成24年9月13日の判決で、38条3項(当時は2項)の書面は、賃借人が更新がなく期間の満了により終了すると認識しているか否かにかかわらず、契約書とは別個独立の書面であることを要すると判断しました。契約書の条項に埋もれさせず独立した書面で注意を促すことが制度の趣旨だからです。借主が実際に認識していたかどうかは問われません。

    第3問。定期建物賃貸借において期間を6か月と定めた場合、その定めは期間の定めがないものとみなされる。

    答えは誤り。期間を1年未満とする建物の賃貸借を期間の定めがないものとみなす借地借家法29条1項は、38条1項後段によって定期建物賃貸借には適用されません。したがって1年未満の期間も有効です。普通借家では6か月の定めが期間の定めなしとみなされるため、この点が両者の対比の要になります。

    第4問。期間を3年とする定期建物賃貸借において、賃貸人が期間満了の1年前から6か月前までの間に終了する旨の通知をしなかった場合、契約は従前と同一の条件で更新されたものとみなされる。

    答えは誤り。38条6項が定めているのは、通知をしなければ終了を賃借人に対抗することができない、ということであって、更新の擬制ではありません。しかも同項ただし書により、通知期間の経過後に通知をした場合は、その通知の日から6か月を経過した後は終了を対抗できるようになります。普通借家の法定更新(26条1項)とは仕組みが異なります。

    第5問。床面積180平方メートルの居住用建物の定期建物賃貸借において、賃借人が転勤により生活の本拠として使用することが困難となった場合、賃借人は解約の申入れをすることができ、賃貸借は申入れの日から1か月を経過することによって終了する。

    答えは正しい。38条7項は、居住の用に供する建物で床面積が200平方メートル未満のものについて、転勤、療養、親族の介護その他のやむを得ない事情により賃借人が生活の本拠として使用することが困難となったときに、賃借人からの解約の申入れを認めています。終了は申入れの日から1か月の経過によります。なお、この規定に反する特約で賃借人に不利なものは無効です(同条8項)。

    宅建試験AIブートラボのアプリでは、定期建物賃貸借の要件や終了通知が問われる肢を、条文根拠つきの解説で演習できます。

    読んだ内容を、権利関係の肢で確かめる

    民法・借地借家法・区分所有法など、条文だけでは判断しづらい論点は、過去問の肢で覚えるのが最短です。

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