建物賃貸借の対抗力たてものちんたいしゃくのたいこうりょく
建物の賃貸借は、その登記がなくても、建物の引渡しがあったときは、その後その建物について物権を取得した者に対し、その効力を生じます(31条)。つまり、鍵を受け取って住んでいれば、建物が売られても、新しい所有者に対して借り続けると主張できます。
賃貸マンションに住んでいたら、ある日「所有者が替わりました」という手紙が届きました。新しい所有者に退去を求められたら、従わなければならないのでしょうか。民法では、賃借権を登記していなければ建物を買った人に対抗(自分の権利を主張)できないのが原則ですが、部屋を借りるたびに登記をする人はいません。そこで借地借家法は、建物の引渡しを受けていれば、登記がなくても新しい所有者に賃借権を対抗できることにしました。新しい所有者は、賃貸借契約を引き継いだ賃貸人になります。

賃借権の登記がなくても、建物の引渡しで対抗できます
31条は、建物の引渡しを対抗要件としています。引渡しとは、鍵を受け取って入居するなど、建物の占有を移してもらうことです。引渡しを受けた後に建物を買った人や、建物に抵当権の設定を受けた人に対して、賃借人は賃貸借の効力を主張できます。順番が大切で、引渡しより前に登記された抵当権が実行されたときは、競売で買い受けた人に賃借権を対抗できません。
定期建物賃貸借でも、引渡しによる対抗力は同じです
31条は、建物の賃貸借であれば、更新のある普通の賃貸借にも、更新のない定期建物賃貸借にも適用されます。どちらの契約でも、引渡しを受けた賃借人は、その後に建物を買った人に賃借人であることを主張できます。この規定に反する特約で賃借人に不利なものは無効です(37条)。適用されないのは、一時使用のためにしたことが明らかな建物の賃貸借で、その場合は民法の原則に戻り、賃借権の登記が対抗要件になります。
対抗できるときは、賃貸人の地位が新しい所有者に移ります
賃借人が対抗要件を備えている建物が譲渡されると、賃貸人たる地位は、賃借人の承諾がなくても譲受人に移転します(民法605条の2第1項)。賃借人は新しい所有者に家賃を支払い、敷金の返還債務も新しい所有者が引き継ぎます。ただし、譲渡人と譲受人が、賃貸人たる地位を譲渡人に留保する旨と、その建物を譲受人が譲渡人に賃貸する旨の合意をしたときは、賃貸人たる地位は移転しません(同条2項)。賃借人が前の賃貸人に前払いしていた賃料は、新しい所有者に対しても支払済みであると主張できます(判例)。

借地借家法 31条建物の賃貸借は、その登記がなくても、建物の引渡しがあったときは、その後その建物について物権を取得した者に対し、その効力を生ずる。
試験ではこう問われる
- 建物の引渡しを受けた賃借人は、賃借権の登記がなくても、その後に建物を購入した者に賃借人であることを主張できる(31条)
- 定期建物賃貸借でも普通の建物賃貸借でも、引渡しによる対抗力は同じ。「定期建物賃貸借では主張できない」は誤り
- 譲渡人と譲受人が、賃貸人たる地位を譲渡人に留保する旨と、建物を譲受人が譲渡人に賃貸する旨を合意したときは、賃貸人たる地位は譲受人に移転しない(民法605条の2第2項)
- 引渡し後に建物の所有権が移転すると、敷金は前の賃貸人に対する未払賃料に充当され、残額の返還債務が新所有者に承継される
- 賃借人は、契約期間中の賃料全額を前の賃貸人に前払いしていたことを、建物を買った新所有者に対抗できる
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