遺言の方式|要式行為である理由から読む
遺言が要式行為である理由を効力発生時に本人がいない点から説明し、自筆証書・公正証書・秘密証書の要件、2025年10月に変わった969条、保管制度と検認の関係を条文で整理します。
目次
この記事は、相続の分野のうち遺言の方式に絞ったものです。相続人の範囲・法定相続分・遺留分は相続の基本、相続した不動産の共有と登記は相続した不動産の基礎、遺産分割の手続は遺産分割協議と相続登記義務化にまとめてあります。
先に、宅建試験における位置づけを正直に述べます。遺言は権利関係14問のなかで出題頻度が高いテーマではありません。権利関係の全体像で述べているとおり、権利関係は満点を狙う科目ではなく、取れるところを確実に取り、深追いしない範囲をあらかじめ決めておくべき科目です。遺言はその「深追いしない」側に寄せてよい分野です。
そのうえで、出るとすれば何が問われるかは、はっきりしています。方式の要件と、検認の要否です。この二つに絞れば、投じる時間は短くて済みます。
この記事の軸を述べます。遺言は要式行為であり、法定の方式を欠けば無効になります。なぜそこまで厳格なのか。理由は一つです。遺言の効力が生じるとき、本人はもういません。「本当にそう書いたのか」「本当にそういう意味だったのか」を、本人に確かめる手段がないのです。
だから民法は、真意の確認を本人への問い合わせに代えて、書面の形式そのものに担わせています。自書を要求するのは筆跡が本人性を担保するから。日付を要求するのは複数の遺言の前後関係と遺言能力の有無を判定するため。押印を要求するのは日本の取引慣行で意思の最終性を示す作法だから。公証人と証人を要求するのは、作成過程を第三者が見届けるため。
そして、この同じ理由から、緩和された部分も説明できます。2019年1月13日施行の改正で相続財産の目録の自書が不要になったのは、目録が財産の特定という機械的な記載であって、そこに真意の表明がないからです。真意を担保する必要がない部分は緩めてよい。厳格さと緩和は、対立するのではなく同じ原理から出ています。
以下、この一点から全体を導きます。
なお、法令の基準日について確認しておきます。宅建試験は当該年度の4月1日現在施行の法令から出題されます。公正証書遺言の969条は2025年10月1日施行で大きく変わっており、これは令和8年度の出題範囲に入ります。一方、2027年6月23日施行の改正は遺言の規定を広く書き換えますが、令和8年度の範囲外です。この二つは最後に整理します。
なぜ方式がここまで厳格なのか
960条は「することができない」と書いている
出発点の条文を確認します。960条は「遺言は、この法律に定める方式に従わなければ、することができない」と定めます。
書きぶりに注意します。「効力を生じない」でも「無効とする」でもなく、「することができない」です。方式を欠いた文書は、効力の弱い遺言なのではなく、そもそも遺言として成立していません。
そして967条が方式の種類を限定します。「遺言は、自筆証書、公正証書又は秘密証書によってしなければならない。ただし、特別の方式によることを許す場合は、この限りでない」。普通方式は三つしかなく、当事者が新しい方式を作ることはできません。
効力が生じるとき、本人はもういない
なぜここまで閉じた制度になっているのか。985条1項が答えを持っています。「遺言は、遺言者の死亡の時からその効力を生ずる」。
契約なら、意味が不明確でも当事者に聞けます。錯誤や詐欺があれば本人が取り消せます。しかし遺言は違います。効力が生じる時点で、意思表示をした本人が存在しません。争いが起きたとき、真意を確かめる相手がいないのです。
しかも、遺言は相手方のない単独行為です。契約のように相手方が内容を了解しているわけではないので、当事者間の共通了解にも頼れません。
そこで民法は、真意の確認をあらかじめ形式に織り込みました。方式を守っていれば真意があったものとして扱い、方式を欠いていれば内容を審査せずに切る。内容の真偽を後から争わせない代わりに、入口の形式を厳しくしたのです。
遺言能力だけは、むしろ緩い
方式が厳格である一方、能力の要件は通常の法律行為より緩やかです。ここは対照的なので、あわせて押さえます。
961条は「十五歳に達した者は、遺言をすることができる」と定めます。行為能力の一般原則である18歳ではなく、15歳です。
962条はさらに踏み込みます。「第五条、第九条、第十三条及び第十七条の規定は、遺言については、適用しない」。5条は未成年者、9条は成年被後見人、13条は被保佐人、17条は被補助人に関する規定です。これらが遺言には適用されません。したがって、15歳以上であれば未成年者も法定代理人の同意なく遺言でき、被保佐人も保佐人の同意なく遺言できます。制限行為能力者制度の一般論は制限行為能力者で扱っています。
なぜ緩いのか。遺言は自分の財産の死後の帰属を決める行為であり、取引の相手方を害するおそれがなく、本人が不利益な取引に引き込まれる場面でもないからです。制限行為能力者制度は本人を取引から保護する仕組みなので、遺言には働かせる必要がありません。
963条が定める能力の基準時
ただし、能力そのものが不要なわけではありません。963条は「遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければならない」と定めます。
基準時は「遺言をする時」です。作成後に判断能力を失っても、作成時に能力があれば遺言は有効です。逆に、作成時に能力がなければ、後で回復しても遺言は無効です。
この規定があるからこそ、968条1項が日付を要求する意味が出てきます。日付がなければ、いつ書いたのかが分からず、その時点で能力があったかを判定できません。日付の要件は、単なる形式ではなく963条と結びついています。
成年被後見人の場合の特則
963条の要請を具体化したのが973条です。1項は「成年被後見人が事理を弁識する能力を一時回復した時において遺言をするには、医師二人以上の立会いがなければならない」と定めます。
2項は、立ち会った医師が、遺言者が遺言をする時において精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状態になかった旨を遺言書に付記して署名押印しなければならない、と定めます。秘密証書遺言の場合は封紙にその旨を記載して署名押印します。
医師「2人以上」という数字と、付記・署名押印まで要求される点が出題対象です。
方式とは別系統の無効事由
方式を守っていても無効になる場合が二つあります。方式の話と混同しないよう、位置づけを分けておきます。
966条は被後見人の遺言の制限です。1項は「被後見人が、後見の計算の終了前に、後見人又はその配偶者若しくは直系卑属の利益となるべき遺言をしたときは、その遺言は、無効とする」と定めます。2項により、直系血族・配偶者・兄弟姉妹が後見人である場合には適用されません。後見人が立場を利用して自分に有利な遺言をさせることを防ぐ規定です。
975条は共同遺言の禁止です。「遺言は、二人以上の者が同一の証書ですることができない」。夫婦が一通の書面で連名の遺言をすることはできません。理由は、それぞれが1022条によりいつでも自由に撤回できるはずのところ、一体の書面にしてしまうと撤回の自由が制約されるからです。
厳格さと緩和は同じ原理から出る
以上を踏まえると、この分野の見取り図が立ちます。
真意を担保する必要がある部分は厳格に、その必要がない部分は緩やかに。方式は厳格、能力は緩やか。本文の自書は必須、目録の自書は不要。方式を欠けば遺言は成立せず、しかし方式を守っていても後見人が利益を得る構造なら無効。
以下の各方式は、この原理をそれぞれの場面に当てはめた結果として読めます。
自筆証書遺言——968条を三つの項で読む
1項の四つの要件
968条1項は「自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない」と定めます。
要件は四つです。全文の自書、日付の自書、氏名の自書、押印。このうち三つが「自書」で、一つが押印です。
証人は不要で、費用もかからず、一人で作成できます。最も手軽な方式であり、そのぶん方式の不備で無効になる例が最も多い方式でもあります。
なぜ自書でなければならないのか
自書が要求される理由は、筆跡が本人性を担保するからです。他人が代筆した書面や、パソコンで作成して署名だけした書面では、本人が書いたことを筆跡から確かめられません。
したがって、パソコン・ワープロで作成した本文は、たとえ署名押印があっても自筆証書遺言としては無効です。他人に手を添えてもらって書いた場合も、遺言者自身の筆跡といえるかが問題になります。
録音や録画による遺言も、現行法では認められません。967条が方式を三つに限定しており、そのいずれも書面を前提にしているからです。
日付は「特定できること」が要件
日付について、条文は「日付」としか書いていません。しかし要求されているのは、その日が特定できることです。
「令和8年8月吉日」という記載は、月までは分かっても日が特定できません。したがって日付の記載を欠くものとして、遺言は無効になります。この帰結は前述の963条から導けます。日が特定できなければ、その日に遺言能力があったかを判定できず、また同じ月に複数の遺言があった場合の前後関係も決められません。
逆に、暦の上の日付でなくても、その日が一義的に特定できる書き方であれば足りると解されています。「満70歳の誕生日」のような記載です。争点は書式ではなく特定可能性だという点を押さえておけば、応用が利きます。
氏名と押印
氏名については、戸籍上の氏名でなくても、遺言者が誰であるかを特定できれば足りると解されています。通称や雅号でも、それによって本人を特定できるなら要件を満たします。
押印については、条文が「印を押さなければならない」と定めるだけで、印章の種類を限定していません。実印である必要はなく、認印でも足ります。指印(拇印)による押印も認められると解されています。
実印でなければならないという条文上の根拠はありません。「自筆証書遺言には実印による押印が必要である」という選択肢は誤りです。ただし実務上は、後の紛争を避けるために実印を用いるのが通常です。
2項の目録緩和は、要式性とどう両立するか
968条2項が、2019年1月13日施行の改正で入った規定です。
「前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第九百九十七条第一項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない」。
これにより、財産目録はパソコンで作成できます。不動産登記事項証明書のコピーや預金通帳のコピーを添付することもできます。
この緩和は、要式性の趣旨と矛盾しません。むしろ趣旨から導けます。目録に書かれるのは、不動産の所在・地番・地目・地積、預金の金融機関名と口座番号といった、財産を特定するための機械的な情報です。そこに遺言者の意思の表明はありません。真意を担保する必要がない部分だから、自書を求めなくてよい。
改正の背景も同じ方向です。不動産や預金の表示を一字一句手書きする負担は大きく、しかも書き間違えれば特定を欠いて無効になりかねません。真意と関係のないところで遺言が無効になるのは、制度の目的に反します。
目録の署名押印は「毎葉」に
緩和には条件が付いています。目録の毎葉、つまり各ページに署名し、印を押さなければなりません。
さらに括弧書きがあります。「自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面」。片面だけに記載があるなら片面に、両面に記載があるなら両面に署名押印が必要です。
なぜ各ページかというと、目録の差し替えを防ぐためです。本文が自書されていても、目録が自由に差し替えられるなら、実質的に遺言の内容を他人が変えられてしまいます。署名押印を各ページに要求することで、この抜け道を塞いでいます。
本文は依然として自書が必要である点は、繰り返し確認しておきます。緩和されたのは添付する目録だけです。
3項の加除訂正の方式
968条3項は、書き間違いを直すときの方式です。
「自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない」。
要求されているのは四つの動作です。変更の場所を指示すること、変更した旨を付記すること、その付記に署名すること、変更の場所に押印すること。
括弧書きにより、2項の目録の訂正にもこの方式が及びます。
訂正の不備は遺言全体を無効にしない
ここが試験で狙われる部分です。3項の文言は「その効力を生じない」です。何が効力を生じないのか。変更がです。
したがって、方式を欠いた訂正がされた場合、その訂正が無かったものとして扱われ、訂正前の記載のまま遺言は有効に存続します。遺言全体が無効になるわけではありません。
「加除訂正の方式を守らなかった場合、自筆証書遺言は全体として無効となる」という選択肢は誤りです。3項が無効にしているのは変更であって遺言ではない、と条文の主語を確認すれば判定できます。
自筆証書遺言書保管制度
自筆証書遺言の弱点は、紛失・偽造・改ざん・発見されないことです。これに対応するため、法務局における遺言書の保管等に関する法律が2020年7月10日に施行されました。
対象は968条の自筆証書遺言だけ
保管法1条は、この法律にいう遺言書を「民法第九百六十八条の自筆証書によってした遺言に係る遺言書」と定義しています。
公正証書遺言も秘密証書遺言も、この制度の対象外です。公正証書遺言はもともと原本が公証役場に保管されるので必要がなく、秘密証書遺言は内容を秘密にする方式なので保管制度になじみません。
保管法2条により、保管に関する事務は法務大臣の指定する法務局が遺言書保管所としてつかさどります。
4条の申請要件
保管法4条が申請の要件を定めます。押さえる点が四つあります。
第一に、2項により、遺言書は法務省令で定める様式に従って作成した無封のものでなければなりません。封をしたまま預けることはできません。保管の際に遺言書保管官が様式を確認するためです。
第二に、3項により、申請先は遺言者の住所地・本籍地・遺言者が所有する不動産の所在地を管轄する遺言書保管所に限られます。どこでもよいわけではありません。
第三に、4項により、申請書に遺言書に記載されている作成の年月日、遺言者の氏名・出生年月日・住所・本籍、受遺者や遺言執行者の氏名等を記載します。
第四に、6項により、申請は遺言者が遺言書保管所に自ら出頭して行わなければなりません。代理人による申請も郵送による申請もできません。本人が作成したことを確認するためです。
11条が検認の適用を除外する
この制度の最も重要な効果が、保管法11条です。
「民法第千四条第一項の規定は、遺言書保管所に保管されている遺言書については、適用しない」。
保管された自筆証書遺言は、検認が不要になります。自筆証書遺言は原則として検認が必要なので、これは大きな例外です。宅建試験で問われるとすれば、この点です。
理由は明確です。検認の目的は遺言書の現状を確保して偽造・変造を防ぐことにありますが、法務局が保管している以上、その目的はすでに達成されています。同じ目的の手続を重ねる必要がありません。
証明書の交付——9条と10条
相続開始後の手続も条文にあります。区別が問われることがあるので、二つ並べておきます。
保管法9条の遺言書情報証明書は、遺言書保管ファイルに記録されている事項を証明した書面です。請求できるのは「関係相続人等」に限られ、しかも遺言者が死亡している場合に限ります。相続人、受遺者、遺言執行者などがこれにあたります。
保管法10条の遺言書保管事実証明書は、遺言書が保管されているかどうかを証明した書面です。こちらは「何人も」請求できます。自分が関係する遺言書が保管されているかを誰でも確認できるようにすることで、遺言の存在が知られないまま相続が進むことを防いでいます。
内容を知れるのは関係相続人等だけ、存在の有無は誰でも確認できる。この違いで押さえます。なお、保管法12条2項により、手数料の納付は収入印紙によります。
保管しても方式不備は治らない
誤解が生じやすい点を確認しておきます。遺言書保管官が確認するのは、法務省令で定める様式に適合しているかどうかであって、遺言の有効性ではありません。
保管された遺言書が968条の要件を欠いていれば、その遺言は無効です。保管制度は保管と検認免除の制度であって、内容や効力を保証する制度ではありません。この構造は、次に見る検認が有効性を判断する手続ではないことと共通しています。
公正証書遺言——2025年10月に条文が変わった
ここは注意が必要な箇所です。969条は令和5年法律第53号により2025年10月1日施行で改正されており、条文の姿が大きく変わりました。この改正は2026年4月1日より前に施行されているので、令和8年度試験の出題範囲に入ります。
現行969条は1号と2号しかない
現行の969条は次のとおりです。
「公正証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。一 証人二人以上の立会いがあること。二 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること。」
「2 前項の公正証書は、公証人法(明治四十一年法律第五十三号)の定めるところにより作成するものとする。」
「3 第一項第一号の証人については、公証人法第三十条に規定する証人とみなして、同法の規定(同法第三十五条第三項の規定を除く。)を適用する。」
号は二つだけです。
3号から5号はどこへ行ったか
改正前の969条には、次の3号から5号がありました。
3号「公証人が、遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ、又は閲覧させること」。4号「遺言者及び証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し、印を押すこと(遺言者が署名することができない場合は公証人が事由を付記して署名に代えることができる)」。5号「公証人が、その証書は前各号に掲げる方式に従って作ったものである旨を付記して、これに署名し、印を押すこと」。
これらは削除され、公証人法に移りました。現行969条2項が「公正証書は、公証人法の定めるところにより作成する」と包括的に受けています。公証制度全体のデジタル化に伴い、公正証書一般の作成手続を公証人法に一元化した結果です。
したがって、「民法969条3号が読み聞かせを定めている」といった説明は、令和8年度受験者にとって現行条文に対応しません。古い教材や、改正前に作られた解説記事には、5号構成の969条がそのまま載っていることがあります。条番号を引くときは施行日を確認してください。改正の全体像は民法改正のポイントで扱っています。
969条の2の特則も変わった
969条の2(公正証書遺言の方式の特則)も同時に改正されました。
現行は2項構成です。1項が「口がきけない者が公正証書によって遺言をする場合には、遺言者は、公証人及び証人の前で、遺言の趣旨を通訳人の通訳により申述し、又は自書して、前条第一項第二号の口授に代えなければならない」。2項が「公証人は、前項に定める方式に従って公正証書を作ったときは、その旨をその証書に記載し、又は記録しなければならない」。
改正前は3項構成で、2項に「耳が聞こえない者」に関する読み聞かせの代替方法が置かれていました。現行の969条の2に耳が聞こえない者の規定はありません。読み聞かせ自体が民法から公証人法に移ったためです。
2項の「記載し、又は記録しなければならない」という書きぶりにも、電子的な公正証書を前提にした改正の趣旨が表れています。
令和8年度受験者が使うべき条文
整理します。令和8年度試験(2026年10月18日)は、2026年4月1日時点の条文から出題されます。969条の改正は2025年10月1日施行なので、改正後の条文が正解の基準です。
もっとも、実務的な注意も述べておきます。改正から日が浅いため、969条の細目そのものが出題される可能性は高くないと見るのが妥当です。変わっていない核心を押さえるほうが確実です。
変わっていない核心
改正されても、次の点は変わっていません。ここが試験で問われる部分です。
証人2人以上の立会いが必要(969条1項1号)。遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授する(同項2号)。そして、検認は不要(1004条2項)。
この三つを持っておけば、公正証書遺言に関する出題のほとんどに対応できます。「公正証書遺言には証人は不要」「公正証書遺言にも検認が必要」という選択肢は、いずれも誤りです。公正証書遺言の作成をめぐる近年の動きは公正証書遺言のオンライン化で扱っています。
なお、遺言者が全文を書く必要はありません。書くのは公証人です。遺言者がするのは口授であって自書ではない、という役割分担が公正証書遺言の特徴です。
秘密証書遺言——970条と971条
秘密証書遺言は、実務での利用がほとんどない方式です。それでも試験には出るので、位置づけだけ押さえます。
970条1項の四つの方式
「秘密証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。
一 遺言者が、その証書に署名し、印を押すこと。
二 遺言者が、その証書を封じ、証書に用いた印章をもってこれに封印すること。
三 遺言者が、公証人一人及び証人二人以上の前に封書を提出して、自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名及び住所を申述すること。
四 公証人が、その証書を提出した日付及び遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者及び証人とともにこれに署名し、印を押すこと」
そして2項が「第九百六十八条第三項の規定は、秘密証書による遺言について準用する」として、加除訂正の方式を準用しています。
自書は不要
秘密証書遺言の特徴は、証書の作成に自書が要求されていないことです。1号が求めているのは署名と押印だけで、本文の自書ではありません。
したがって、パソコンで作成しても、他人に代筆してもらっても構いません。3号が「その筆者の氏名及び住所」を申述させているのは、遺言者以外の者が筆記することを前提にしているからです。
その代わり、公証人と証人2人以上が関与します。内容は秘密にしたまま、その封書が遺言者本人の遺言書であるという事実だけを公証人が証明する仕組みです。
2号の「証書に用いた印章をもってこれに封印する」という要件にも注意します。証書に押した印と封印に使う印は同一でなければなりません。別の印章を使うと方式を欠きます。
972条の特則
972条は、口がきけない者が秘密証書によって遺言をする場合の特則です。公証人および証人の前で、通訳人の通訳により申述するか、封紙に自書することで、970条1項3号の申述に代えます。2項・3項は、その場合に公証人が封紙にその旨を記載すべきことを定めています。
971条の転換規定
秘密証書遺言に固有の、覚えておく価値のある規定があります。971条です。
「秘密証書による遺言は、前条に定める方式に欠けるものがあっても、第九百六十八条に定める方式を具備しているときは、自筆証書による遺言としてその効力を有する」。
秘密証書としての方式を欠いても、自筆証書遺言の要件(全文・日付・氏名の自書と押印)を満たしていれば、自筆証書遺言として有効になります。
これは無効行為の転換と呼ばれる考え方の明文化です。厳格な方式主義を貫きつつ、遺言者の意思をできるかぎり生かそうとする調整弁になっています。方式を欠いた瞬間にすべてが無に帰するのではなく、別の方式の要件を満たすなら救う。ここにも「真意を無駄にしない」という趣旨が出ています。
984条の領事の特則
984条は「日本の領事の駐在する地に在る日本人が公正証書又は秘密証書によって遺言をしようとするときは、公証人の職務は、領事が行う。この場合においては、第九百七十条第一項第四号の規定にかかわらず、遺言者及び証人は、同号の印を押すことを要しない」と定めます。細目なので、存在だけ知っておけば足ります。
証人と立会人の欠格事由——974条
三つの号
974条は「次に掲げる者は、遺言の証人又は立会人となることができない」として、三つを挙げます。
一 未成年者
二 推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族
三 公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び使用人
趣旨は、遺言の内容に利害関係を持つ者と、公証人と一体とみられる者を排除することです。遺言の作成過程を第三者が見届けるという証人制度の目的が、利害関係者では果たせないからです。
2号の射程
出題が集中するのは2号です。対象を分解します。
推定相続人そのもの。受遺者そのもの。そして、これらの配偶者と、これらの直系血族。
つまり、推定相続人の配偶者も、受遺者の配偶者も、推定相続人の子も親も、証人になれません。「推定相続人の配偶者は証人になれる」という選択肢は誤りです。
一方、条文に挙がっていない関係は対象外です。推定相続人の兄弟姉妹は、直系血族でも配偶者でもないので、条文上は欠格事由に当たりません。列挙を正確に読むことが要求されます。
3号の射程
3号は公証人との関係です。配偶者、四親等内の親族、書記、使用人の四つ。「四親等内」という数字が入れ替えられる形で問われます。
欠格者が立ち会うとどうなるか
974条に該当する者を証人として作成された遺言は、方式を欠くものとして無効になります。ただし、必要な人数の適格な証人が立ち会っていれば、それに加えて欠格者が同席していたというだけでは、直ちに無効にはならないと解されています。
証人が2人必要な場面で、適格者2人に加えて推定相続人が同席していた、という事案がこれにあたります。必要な人数が適格者で満たされているかどうかが判断の軸です。
973条と982条の関係
前述の973条(成年被後見人の遺言における医師2人以上の立会い)の医師も、974条にいう「立会人」にあたります。974条が「証人又は立会人」と書いているのは、この場面を含めるためです。
982条は「第九百六十八条第三項及び第九百七十三条から第九百七十五条までの規定は、第九百七十六条から前条までの規定による遺言について準用する」と定めます。976条以下は特別方式の遺言(死亡の危急に迫った者の遺言など)で、そこにも加除訂正の方式、成年被後見人の特則、証人の欠格事由、共同遺言の禁止が及びます。特別方式は宅建試験では深追い不要な領域なので、準用があるという事実だけ押さえれば足ります。
検認——1004条
検認は有効性を判断する手続ではない
まずここを確定させます。検認は、遺言の有効・無効を判断する手続ではありません。
検認の目的は、遺言書の存在と内容を相続人に知らせ、検認の日における遺言書の状態を明確にして、その後の偽造・変造を防ぐことにあります。形状、加除訂正の状態、日付、署名といった現状を記録する手続です。
したがって、検認を経た遺言書が方式を欠いていれば無効ですし、検認を経ていない遺言書でも方式を満たしていれば有効です。検認と有効性は独立しているという関係を、まず押さえます。
誰が、いつ、何をするのか
1004条1項は「遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない。遺言書の保管者がない場合において、相続人が遺言書を発見した後も、同様とする」と定めます。
義務を負うのは遺言書の保管者、保管者がない場合は発見した相続人です。時期は「相続の開始を知った後、遅滞なく」。提出先は家庭裁判所です。
2項の適用除外——公正証書遺言
1004条2項は「前項の規定は、公正証書による遺言については、適用しない」と定めます。
公正証書遺言に検認が不要な理由は、原本が公証役場に保管されており、偽造・変造のおそれがないからです。検認の目的がすでに達成されているので、手続を重ねる必要がありません。
保管法11条による適用除外
前述のとおり、保管法11条により、遺言書保管所に保管されている遺言書についても1004条1項が適用されません。
結果として、検認の要否は次のように整理されます。公正証書遺言は不要。法務局に保管された自筆証書遺言も不要。それ以外の自筆証書遺言と、秘密証書遺言は必要。
この四つの組み合わせが、この分野で最も出題される部分です。
3項の開封制限
1004条3項は「封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人又はその代理人の立会いがなければ、開封することができない」と定めます。
封印のある遺言書を勝手に開けてはいけない、というルールです。秘密証書遺言は必ず封印されているのでこれに該当し、自筆証書遺言も封筒に入れて封印されていれば該当します。
1005条の過料
1005条は「前条の規定により遺言書を提出することを怠り、その検認を経ないで遺言を執行し、又は家庭裁判所外においてその開封をした者は、五万円以下の過料に処する」と定めます。
制裁の対象になる行為が三つ並んでいる点に注意します。提出を怠ること、検認を経ないで執行すること、家庭裁判所外で開封すること。
そして重要なのは、制裁は過料にとどまるということです。5万円以下の過料は行政上の秩序罰であって、刑罰ではありません。前科にもなりません。
検認を経なくても遺言は無効にならない
ここが最も問われる部分です。検認を経ずに遺言を執行した者は過料に処せられますが、それによって遺言が無効になるわけではありません。
1004条にも1005条にも、検認を欠いた遺言を無効とする定めはありません。1005条が用意しているのは過料という制裁だけです。「検認を受けなかった遺言は無効となる」という選択肢は誤りです。
もっとも、実務上は検認済証明書がなければ相続登記や預金の払戻しの手続を進められないため、検認を省略する意味はほとんどありません。相続登記の手続は遺産分割協議と相続登記義務化、登記制度の全体像は不動産登記の基本で扱っています。
撤回——1022条から1026条
遺言は、生きているかぎり何度でもやり直せます。この自由が強く保護されている点も、遺言という制度の特徴です。
1022条の撤回自由
1022条は「遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる」と定めます。
理由は要りません。相手方の同意も要りません。ただし条件が一つあります。「遺言の方式に従って」です。撤回も遺言と同じ厳格さで行う必要があります。
もっとも、同じ方式である必要はありません。公正証書遺言を自筆証書遺言で撤回することも、その逆もできます。方式の間に優劣はありません。
1023条の法定撤回
明示的に撤回しなくても、撤回したものとみなされる場合があります。
1023条1項は「前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす」と定めます。
2項は「前項の規定は、遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合について準用する」と定めます。甲土地をAに遺贈する遺言をした後、その土地をBに売却した場合、抵触する部分について遺言を撤回したものとみなされます。
いずれも「抵触する部分について」であって、遺言全体ではありません。抵触しない部分は生き残ります。
1024条の破棄
1024条は「遺言者が故意に遺言書を破棄したときは、その破棄した部分については、遺言を撤回したものとみなす。遺言者が故意に遺贈の目的物を破棄したときも、同様とする」と定めます。
要件は故意です。過失で破れてしまった場合や、火災で焼失した場合は撤回とみなされません。また、破棄するのは遺言者自身でなければなりません。相続人が勝手に破棄しても撤回にはなりません。
後段の「遺贈の目的物を破棄したとき」も同じ扱いです。遺贈しようとしていた物を自ら壊せば、その遺贈を維持する意思がないと評価されます。
1025条の非復活と、ただし書
1025条は「前三条の規定により撤回された遺言は、その撤回の行為が、撤回され、取り消され、又は効力を生じなくなるに至ったときであっても、その効力を回復しない。ただし、その行為が錯誤、詐欺又は強迫による場合は、この限りでない」と定めます。
一度撤回された遺言は、撤回行為がさらに撤回されても復活しません。本則は非復活です。
ただし書が例外です。撤回行為が錯誤、詐欺、強迫によるものだった場合は、原則に戻って元の遺言が復活します。撤回そのものが遺言者の真意によらないなら、その撤回に効果を与える理由がないからです。意思表示の瑕疵については意思表示で扱っています。
1026条の撤回権放棄の禁止
1026条は「遺言者は、その遺言を撤回する権利を放棄することができない」と定めます。
「この遺言は今後撤回しない」という条項を遺言に入れても、その条項は無効です。遺言者と受遺者が別途そういう合意をしても同じです。
理由は、遺言が死亡の時に効力を生ずる(985条1項)ものだからです。生きているかぎり遺言はまだ効力を生じておらず、遺言者の意思は最後の瞬間まで変わり得ます。その変更可能性を封じることは、遺言という制度の前提と両立しません。
遺贈——964条・990条
遺言によって財産を与える行為が遺贈です。方式の話からは少し離れますが、遺言の効果として押さえておく範囲を示します。
包括遺贈と特定遺贈
964条は「遺言者は、包括又は特定の名義で、その財産の全部又は一部を処分することができる」と定めます。ここから二つの類型が出ます。
包括遺贈は、財産を割合で示して与えるものです。「全財産の3分の1をAに遺贈する」という形です。特定遺贈は、個別の財産を特定して与えるものです。「甲土地をBに遺贈する」という形です。
990条の包括受遺者
区別が効いてくるのが990条です。「包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する」。
包括受遺者は相続人と同じ扱いを受けます。したがって、債務も割合に応じて承継します。遺産分割協議にも参加します。放棄する場合は、遺贈の放棄(986条)ではなく相続放棄の手続によることになり、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月という期間の制限を受けます。相続放棄の手続は相続放棄と限定承認で扱っています。
特定受遺者はそうではありません。特定の財産を受け取るだけで、債務を承継しません。
包括は相続人と同じ、特定は財産をもらうだけ。この対比で押さえます。
986条の放棄と987条の催告
986条1項は「受遺者は、遺言者の死亡後、いつでも、遺贈の放棄をすることができる」と定めます。2項により、放棄は遺言者の死亡の時にさかのぼって効力を生じます。
放棄に期間の制限がないため、いつまでも確定しないおそれがあります。そこで987条が催告の制度を置いています。遺贈義務者その他の利害関係人は、受遺者に対し相当の期間を定めて承認または放棄をすべき旨を催告でき、受遺者がその期間内に意思を表示しないときは、遺贈を承認したものとみなされます。
沈黙が承認とみなされる点が特徴です。相続の承認・放棄における熟慮期間の経過が単純承認とみなされるのと、発想が共通しています。
994条から997条
994条1項は「遺贈は、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、その効力を生じない」と定めます。「以前」なので、同時死亡の場合も含みます。相続における代襲相続のような仕組みは、遺贈にはありません。
995条は、遺贈が効力を生じないとき、または放棄によって効力を失ったときは、受遺者が受けるべきであったものは相続人に帰属すると定めます。ただし遺言者が別段の意思を表示していればそれに従います。
996条は「遺贈は、その目的である権利が遺言者の死亡の時において相続財産に属しなかったときは、その効力を生じない」と定め、ただし書で、相続財産に属するかどうかにかかわらず遺贈の目的としたものと認められるときは効力を生じるとしています。
997条1項は、そのただし書により有効な場合に、遺贈義務者がその権利を取得して受遺者に移転する義務を負うと定めます。2項により、取得できないときや過分の費用を要するときは、価額を弁償することになります。
1027条の負担付遺贈
1027条は、負担付遺贈を受けた者が負担した義務を履行しないときの規定です。相続人は相当の期間を定めて履行を催告でき、その期間内に履行がないときは、負担付遺贈に係る遺言の取消しを家庭裁判所に請求することができます。
自動的に効力を失うのではなく、家庭裁判所への請求が必要である点が特徴です。
2027年6月23日施行の改正で何が変わるか
最後に、今後の改正に触れておきます。ここで述べる内容は令和8年度の出題範囲外です。令和9年度以降の受験者にとって対象になる話として、区別して読んでください。
民法は令和8年法律第45号により改正され、2026年6月24日から段階的に施行されます。この改正について、実務上重要な確認があります。2026年6月24日の施行段階では、民法の本則1,173条すべてに変更がありません。基準日版と施行後版を条単位で機械比較した結果、新設・削除・本文変更のいずれもゼロでした。この段階で加わったのは附則だけです。
実体的な改正が動くのは2027年6月23日からで、その対象は遺言に関する規定に集中しています。基準日版との差分は16条あり、891条、968条、970条、973条、974条、976条、976条の2、979条、979条の2、980条から984条、1004条、1005条、1024条です。この記事が扱っている条文の多くが含まれます。
主な変更を三つ挙げます。
第一に、968条から押印の要件がなくなります。改正後の1項は「遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書しなければならない」となり、「これに印を押さなければならない」が削られます。2項の目録も署名のみ、3項の加除訂正も署名のみで足りることになります。970条や976条からも同様に押印が外れます。
第二に、974条の証人欠格事由が再編されます。現行の2号「推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族」が、2号(推定相続人とその配偶者・直系血族)と3号(受遺者とその配偶者・直系血族・被用者、法人ならその被用者及び役員)に分かれます。現行3号は4号に繰り下がり、「使用人」が「被用者」に改められます。
第三に、1004条の検認の対象に電磁的記録が入ります。条見出しが「遺言書等の検認」に変わり、電磁的記録に記録された遺言が対象に加わります。デジタル形式の遺言を認める改正が背景にあります。
令和8年度を受験する人は、押印が必要な現行の968条、3号構成の現行974条で解いてください。最新の解説記事に押印不要と書かれていても、それは令和9年度以降の話です。
試験での出題ポイント
前提——深追いする分野ではない
冒頭に述べたことを繰り返します。遺言は権利関係14問のなかで出題頻度が高いテーマではありません。この分野に投じる時間は、意思表示・代理・物権変動・抵当権・借地借家法に投じる時間より少なくてよい、というのが権利関係の全体像で確定させている方針です。
そのうえで、出るとすれば何かを絞ります。方式の要件と、検認の要否です。以下はその二つを中心に、実際の作問の型を並べたものです。
自筆証書遺言の要件の抜き差し
「全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押す」の四要件から、一つを抜いたり別のものに置き換えたりする形です。
「自筆証書遺言はパソコンで作成してもよい」は誤り(本文は自書)。「押印は実印でなければならない」は誤り(認印でも指印でも足りる)。「日付は年月まで記載すれば足りる」は誤り(日が特定できなければならない)。「令和8年8月吉日」は日が特定できないので無効、という結論をそのまま持っておきます。
財産目録の緩和の範囲
「自筆証書遺言は財産目録も含めてすべて自書しなければならない」は誤りです(968条2項)。
逆に、緩和を広げすぎる形も出ます。「本文もパソコンで作成できる」は誤り。「目録には署名押印は不要」も誤り(毎葉に署名押印が必要)。「両面に自書によらない記載がある場合も片面の署名押印で足りる」も誤りです。
加除訂正の効果
「加除訂正の方式を守らなかった場合、遺言は全体として無効になる」は誤りです。968条3項が効力を生じないとしているのは変更であって、遺言ではありません。訂正が無かったものとして、訂正前の内容で有効に存続します。
検認の要否の四つの組み合わせ
最も出題されやすい部分です。公正証書遺言は不要(1004条2項)。法務局に保管された自筆証書遺言も不要(保管法11条)。それ以外の自筆証書遺言と秘密証書遺言は必要。
「秘密証書遺言は公証人が関与するから検認は不要」という形の誤りが典型です。公証人が関与しても内容を確認していないので、検認は必要です。
検認の性質
「検認を受けなければ遺言は無効となる」は誤りです。検認は遺言の有効性を判断する手続ではなく、検認を欠いても遺言は無効になりません。制裁は5万円以下の過料(1005条)にとどまります。
証人の欠格事由
974条2号の射程が問われます。「推定相続人の配偶者は証人になれる」は誤り。「受遺者の直系血族は証人になれる」も誤りです。
一方、列挙にない関係は対象外です。推定相続人の兄弟姉妹は条文上の欠格事由に当たりません。列挙を広げる方向の誤りにも、狭める方向の誤りにも対応できるよう、条文の文言で持っておきます。
3号は「四親等内の親族」という数字が入れ替えられます。
遺言能力
「未成年者は法定代理人の同意を得なければ遺言できない」は誤りです。962条により5条の適用が除外されており、15歳に達していれば単独で遺言できます(961条)。
「被保佐人が遺言をするには保佐人の同意が必要」も誤りです。13条の適用も除外されています。
成年被後見人については、事理弁識能力を一時回復した時に医師2人以上の立会いが必要という973条の要件が問われます。「医師1人の立会いで足りる」は誤りです。
撤回
「遺言者は撤回しない旨の特約により撤回を制限できる」は誤りです(1026条)。
「公正証書遺言は自筆証書遺言では撤回できない」も誤りです。方式の間に優劣はなく、後の遺言が優先します(1023条1項)。
「一度撤回した遺言は、撤回行為を撤回すれば復活する」は原則として誤りです(1025条本則)。ただし撤回行為が錯誤・詐欺・強迫による場合は復活します(同条ただし書)。
包括受遺者
「包括受遺者は債務を承継しない」は誤りです。990条により相続人と同一の権利義務を有するので、債務も割合に応じて承継します。
969条の条文構成
前述のとおり2025年10月1日施行で変わりました。細目が正面から問われる可能性は高くありませんが、読み聞かせや署名押印が現行969条の号に書かれていないことは知っておいてください。押さえるべきは、証人2人以上・口授・検認不要の三点です。
止めるべき範囲
最後に、追わなくてよい範囲を示します。特別方式の遺言(976条以下の危急時遺言・隔絶地遺言)の細目、遺言執行者の権限の詳細(1006条以下)、遺贈義務者の費用償還(993条)といった論点は、宅建試験では費用対効果が合いません。存在を知っていれば足ります。得点源の見極め方は宅建の合格戦略、科目ごとの時間配分は宅建の科目別攻略法にまとめてあります。
覚え方・整理の仕方
「死んだ後には聞けない」から全部を出す
この分野を一句にすると、これになります。効力が生じるときに本人がいないから、真意を形式に代替させる。
だから方式は厳格で、方式を欠けば内容を審査せずに切る。だから日付が要る(能力の判定と前後関係のため)。だから自書が要る(筆跡が本人性を担保するため)。だから証人と公証人が要る(作成過程の見届けのため)。
そして、真意の表明がない部分は緩めてよい。だから目録の自書は不要。だから秘密証書遺言の本文は自書でなくてよい(公証人と証人が別の形で担保するから)。
三方式は「誰が書くか」で分ける
自筆証書は遺言者が書く。公正証書は公証人が書く。秘密証書は誰が書いてもよい。
これに証人の要否が対応します。自筆証書だけ証人が不要で、公正証書と秘密証書は2人以上。書く人が遺言者本人なら筆跡が担保になるので証人が要らず、そうでないなら第三者の目が要る、と理由から復元できます。
検認は「保管されているか」で決まる
四つの組み合わせを丸暗記すると混ざります。判断の軸を一つにします。誰かが公的に保管しているなら検認は不要、していないなら必要。
公正証書遺言は公証役場が保管しているから不要。法務局に預けた自筆証書遺言は法務局が保管しているから不要。自宅にある自筆証書遺言と秘密証書遺言は誰も保管していないから必要。
検認の目的が偽造・変造の防止にあることを思い出せば、この軸が出てきます。
「検認は有効性を判断しない」を一文で持つ
検認と有効性は独立しています。検認を経ても無効な遺言は無効、検認を経なくても有効な遺言は有効。制裁は5万円以下の過料だけ。
この一文があれば、検認に関する誤りの選択肢はほぼ弾けます。
968条は三つの項で数える
1項が作り方(全文・日付・氏名の自書と押印)。2項が目録の緩和(毎葉に署名押印)。3項が直し方(場所の指示・変更した旨の付記・署名・変更場所への押印)。
「作る・添える・直す」の三段で持つと、どの項の話をしているかが混ざりません。そして3項が無効にするのは変更だけ、と付け加えます。
974条2号は「本人と、配偶者と、直系血族」
推定相続人と受遺者について、本人・配偶者・直系血族の三層。ここに兄弟姉妹は入らないことをセットで覚えます。
3号は公証人について、配偶者・四親等内の親族・書記・使用人の四つ。
撤回は「いつでも、方式に従って、放棄できない」
1022条の三要素です。いつでも(時期の制限なし)、方式に従って(撤回も要式行為)、そして1026条により撤回権は放棄できない。
法定撤回は1023条(抵触)と1024条(破棄)の二つ、復活しないのが1025条の本則、錯誤・詐欺・強迫なら復活するのがただし書。
理解度チェッククイズ
Q1. 自筆証書遺言に添付する相続財産の目録は自書することを要しないが、その目録の各ページに署名し、印を押さなければならない。(○か×か)
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○:968条2項の定めです。2019年1月13日施行の改正で入った規定で、目録についてはパソコンで作成したものや不動産登記事項証明書・預金通帳のコピーを添付できるようになりました。ただし条文は「その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない」と定めており、各ページへの署名押印が必要です。両面に自書によらない記載がある場合は両面に必要です。目録の差し替えを防ぐためです。緩和されたのは添付する目録だけで、**本文は依然として自書が必要**である点に注意してください。Q2. 自筆証書遺言の加除訂正について民法968条3項の定める方式を欠いた場合、その自筆証書遺言は全体として無効となる。(○か×か)
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×:968条3項は「遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、**その効力を生じない**」と定めており、効力を生じないのは**変更**であって遺言ではありません。方式を欠いた訂正は無かったものとして扱われ、訂正前の記載のまま遺言は有効に存続します。条文の主語を確認すれば判定できる形です。なお、この加除訂正の方式は、970条2項により秘密証書遺言にも準用され、982条により特別方式の遺言にも準用されます。Q3. 法務局の遺言書保管所に保管されている自筆証書遺言についても、相続開始後は家庭裁判所の検認を受けなければならない。(○か×か)
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×:法務局における遺言書の保管等に関する法律11条が「民法第千四条第一項の規定は、遺言書保管所に保管されている遺言書については、適用しない」と定めており、**検認は不要**です。検認の目的は遺言書の現状を確保して偽造・変造を防ぐことにありますが、法務局が保管している以上その目的は達成されているためです。検認の要否は、公正証書遺言が不要(1004条2項)、法務局に保管された自筆証書遺言も不要(保管法11条)、それ以外の自筆証書遺言と秘密証書遺言は必要、という四つの組み合わせで整理します。なお、保管の申請は遺言者が自ら出頭して行う必要があり(保管法4条6項)、遺言書は無封のものでなければなりません(同条2項)。Q4. 検認を経ないで遺言を執行した者は5万円以下の過料に処せられ、その遺言は無効となる。(○か×か)
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×:前半は正しく、後半が誤りです。1005条は、遺言書の提出を怠り、検認を経ないで遺言を執行し、または家庭裁判所外で開封した者を5万円以下の過料に処すると定めていますが、**検認を欠いた遺言を無効とする規定はありません。**検認は遺言の有効・無効を判断する手続ではなく、遺言書の存在と内容を相続人に知らせ、その時点の状態を明確にして偽造・変造を防ぐための手続だからです。検認を経ても方式を欠いた遺言は無効ですし、検認を経なくても方式を満たした遺言は有効です。なお5万円以下の過料は行政上の秩序罰であって刑罰ではありません。Q5. 推定相続人の配偶者は公正証書遺言の証人になることができないが、推定相続人の兄弟姉妹は証人になることができる。(○か×か)
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○:974条2号は「推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族」を証人・立会人の欠格事由としています。推定相続人の配偶者はこれに含まれるので証人になれません。一方、推定相続人の兄弟姉妹は、推定相続人本人でも、その配偶者でも、その直系血族でもないため、条文上の欠格事由に当たりません。列挙を正確に読むことが要求される条文です。なお1号は未成年者、3号は公証人の配偶者・四親等内の親族・書記・使用人です。この欠格事由は974条が「証人**又は立会人**」と定めているため、973条の成年被後見人の遺言に立ち会う医師にも及びます。まとめ
遺言は要式行為です。960条は「遺言は、この法律に定める方式に従わなければ、することができない」と定め、967条が普通方式を自筆証書・公正証書・秘密証書の三つに限定しています。厳格な理由は一つで、985条1項により遺言の効力は遺言者の死亡の時に生じるため、真意を本人に確かめる手段がないからです。だから真意の確認を書面の形式に担わせています。
同じ原理から緩和も説明できます。2019年1月13日施行の改正で相続財産の目録の自書が不要になったのは(968条2項)、目録が財産の特定という機械的な記載であって真意の表明がないからです。ただし目録の毎葉への署名押印は必要で、両面に自書によらない記載があれば両面に必要です。本文は依然として自書が必要です。
自筆証書遺言の要件は、全文・日付・氏名の自書と押印(968条1項)。日付は日まで特定できなければならず、「吉日」では無効です。押印は認印でも指印でも足ります。加除訂正の方式(968条3項)を欠いた場合、効力を生じないのは変更だけで、遺言全体は訂正前の内容で有効に存続します。
法務局における遺言書の保管等に関する法律による保管制度は、対象が968条の自筆証書遺言に限られ(1条)、申請は遺言者が自ら出頭し(4条6項)、遺言書は無封でなければなりません(同条2項)。最大の効果は11条による1004条1項の適用除外、すなわち検認の不要です。ただし保管しても方式不備は治りません。
公正証書遺言の969条は、令和5年法律第53号により2025年10月1日施行で改正され、令和8年度の出題範囲に入ります。現行は1号(証人2人以上の立会い)と2号(遺言者による口授)のみで、旧3号から5号の読み聞かせ・署名押印は削除され、2項により公証人法の定めるところによることになりました。969条の2の特則も2項構成に変わり、耳が聞こえない者に関する規定は民法から落ちています。変わっていない核心は、証人2人以上・口授・検認不要の三点です。
秘密証書遺言(970条)は自書を要さず、署名押印・封印・公証人1人と証人2人以上への提出と申述・封紙への記載と署名押印という四つの方式によります。封印には証書に用いたのと同じ印章を使う必要があります。方式を欠いても968条の要件を満たせば自筆証書遺言として有効になります(971条)。
証人・立会人の欠格事由は974条の三つで、2号の「推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族」に兄弟姉妹は含まれません。成年被後見人の遺言には医師2人以上の立会いが要ります(973条)。遺言能力は15歳(961条)で、962条により制限行為能力者に関する5条・9条・13条・17条は適用されません。
検認(1004条)は遺言の有効性を判断する手続ではありません。不要なのは公正証書遺言(2項)と法務局に保管された自筆証書遺言(保管法11条)で、それ以外の自筆証書遺言と秘密証書遺言は必要です。検認を欠いても遺言は無効にならず、制裁は5万円以下の過料(1005条)にとどまります。
撤回は、いつでも遺言の方式に従ってでき(1022条)、方式の間に優劣はありません。抵触する後の遺言や生前処分(1023条)、故意の破棄(1024条)は法定撤回にあたります。撤回された遺言は原則として復活しませんが、撤回行為が錯誤・詐欺・強迫による場合は復活します(1025条ただし書)。撤回権を放棄することはできません(1026条)。
遺贈については、包括受遺者が相続人と同一の権利義務を有し(990条)債務も承継する点が特定受遺者との最大の違いです。
最後に法令の基準日です。2027年6月23日施行の改正は968条から押印要件を外し、974条の証人欠格事由を再編し、1004条の検認対象に電磁的記録を加えますが、これらはいずれも令和8年度の出題範囲外です。令和8年度は押印が必要な現行968条、3号構成の現行974条で解いてください。なお、2026年6月24日の施行段階では民法の本則1,173条すべてに変更がないことを条単位で確認済みです。
宅建試験AIブートラボのアプリでは、遺言の方式や検認の要否といった、この記事で扱った条文の肢別演習を科目別に用意しています。
民法・借地借家法・区分所有法など、条文だけでは判断しづらい論点は、過去問の肢で覚えるのが最短です。