債権譲渡と相殺|対抗要件と469条の相殺権
民法466条以下の債権譲渡と505条以下の相殺を条文から解説。譲渡制限の意思表示が改正で有効に変わった点、467条の対抗要件と二重譲渡の優劣、509条の2類型、両者が交わる469条の相殺権を整理します。
目次
この記事は、民法の債権譲渡(466条から469条)と相殺(505条から512条の2)を扱います。弁済・供託は「弁済と供託」、債権が消える原因の全体像は「債権の消滅原因」で扱っているので、そちらとあわせて読んでください。権利関係全体での位置づけは「権利関係の全体像」を参照してください。
この二つを一本にまとめる理由は、469条にあります。債権が譲渡されたとき、債務者は譲渡人に対して持っていた債権で相殺できるのか。この問いは債権譲渡の話でもあり相殺の話でもあって、どちらか一方だけを知っていても答えられません。469条を山場として読んでください。
そしてもう一つ、両者に共通する事情があります。2020年4月1日施行の民法改正で、どちらも大きく変わりました。とくに債権譲渡では、譲渡制限特約に反する譲渡の効力について、結論が「無効」から「有効」へ反転しています。改正前の記述で覚えていると、正解が誤答になります。
先に結論を七つ述べます。
第一に、譲渡制限の意思表示をしても、債権譲渡の効力は妨げられません(466条2項)。改正前の466条2項は「前項の規定は、当事者が反対の意思を表示した場合には、適用しない」と定めており、譲渡自体が効力を否定される建て付けでした。条文の結論が正面から入れ替わっています。
第二に、ただし譲渡制限を知り、または重大な過失によって知らなかった譲受人に対しては、債務者は履行を拒み、譲渡人への弁済等をもって対抗できます(466条3項)。譲渡は有効だが、債務者は払わなくてよい、という二段構えです。
第三に、預貯金債権だけは例外で、譲渡制限の意思表示を悪意重過失の譲受人に対抗できます(466条の5第1項)。ここだけ改正前に近い扱いが残っています。
第四に、対抗要件は譲渡人からの通知または債務者の承諾(467条1項)、第三者対抗要件は確定日付のある証書によるもの(同条2項)です。通知の主体は譲渡人に限られます。
第五に、債務者は、対抗要件具備時までに譲渡人に対して生じた事由をもって譲受人に対抗できます(468条1項)。改正前にあった異議をとどめない承諾による抗弁切断の規定は、削除されました。
第六に、相殺には「双方の債務が弁済期にあること」が必要です(505条1項)。ただし受働債権の期限の利益は相殺する側が放棄できるので、実際に確認すべきは自働債権の弁済期です。
第七に、受働債権として相殺できない損害賠償債務は2類型に絞られました(509条)。悪意による不法行為に基づくものと、人の生命または身体の侵害によるものです。改正前は不法行為債権一般が対象でした。そして条文にはただし書があり、債権者がその債権を他人から譲り受けたときは相殺できます。
なお、宅建試験は当該年度の4月1日現在施行の法令から出題されます。この記事で引用する民法の条文は、すべて2026年4月1日時点で施行されているものです。民法は令和8年法律第45号により2026年6月24日に改正・施行されていますが、本則1,173条に差分はなく、この記事の内容に影響する改正はありません。改正前の条文として引用するものは、2020年4月1日より前に施行されていた版によります。
債権譲渡とは何か
466条1項 ― 債権は譲り渡すことができる
債権は、譲り渡すことができる。ただし、その性質がこれを許さないときは、この限りでない。(民法466条1項)
債権譲渡とは、債権の同一性を保ったまま、契約によって債権を移転させることです。AがBに対して1,000万円の代金債権を持っているとき、AがこれをCに譲渡すれば、CがBに対して1,000万円を請求できるようになります。
「同一性を保ったまま」という点が重要です。債権の内容も、付いている担保も、抗弁も、そのまま引き継がれます。新しい債権が生まれるのではありません。この点は更改と異なり、更改は旧債務を消滅させて新債務を発生させる制度です。
当事者は譲渡人と譲受人であり、債務者は当事者でない
債権譲渡の契約当事者は、譲渡人(旧債権者)と譲受人(新債権者)の二人です。債務者は契約の当事者ではありません。
したがって、債権譲渡は債務者の同意がなくても有効に成立します。「債権を譲渡するには債務者の承諾が必要である」という選択肢は誤りです。後述する承諾は、譲渡の成立要件ではなく対抗要件の一つにすぎません。
なぜ債務者の同意が要らないのかは、債務者の立場を考えれば分かります。債権者が誰であっても、債務者が払う金額は変わりません。誰に払えばよいかが分からなくなる危険はありますが、それは対抗要件の制度で処理されています。
性質上譲渡できない債権
466条1項ただし書は「その性質がこれを許さないとき」を除外しています。債権者が誰であるかによって給付の内容が変わってしまうような債権が典型で、扶養請求権のような一身専属的な権利がこれにあたります。
不動産取引で扱う代金債権や賃料債権は、いずれも性質上の制限にかかりません。誰が受け取っても金額は同じだからです。
466条の6 ― 将来債権も譲渡できる
債権の譲渡は、その意思表示の時に債権が現に発生していることを要しない。
2 債権が譲渡された場合において、その意思表示の時に債権が現に発生していないときは、譲受人は、発生した債権を当然に取得する。(民法466条の6第1項・2項)
まだ発生していない債権も譲渡できることが明文で認められています。これは改正で新設された規定で、これに合わせて467条1項にも「(現に発生していない債権の譲渡を含む。)」という括弧書きが加えられました。改正前の467条1項は「指名債権の譲渡は」と書き出されており、この括弧書きはありませんでした。
将来の賃料債権をまとめて譲渡する、といった取引がこれにあたります。2項が「当然に取得する」と定めているので、発生の都度あらためて譲渡の合意をする必要はありません。
- 債権譲渡は債権の同一性を保ったまま移転させる契約
- 当事者は譲渡人と譲受人。債務者の同意は不要
- 将来債権も譲渡できる(466条の6)
譲渡制限の意思表示 ― 結論が反転した改正
466条2項 ― 効力を妨げられない
当事者が債権の譲渡を禁止し、又は制限する旨の意思表示(以下「譲渡制限の意思表示」という。)をしたときであっても、債権の譲渡は、その効力を妨げられない。(民法466条2項)
この条文が、債権譲渡の分野で最も重要な改正点です。
契約書に「本契約に基づく債権を第三者に譲渡してはならない」と書いてあったとします。それでも債権者が第三者に譲渡した場合、その譲渡は有効です。条文が「その効力を妨げられない」と明言しています。
改正前は何が違ったのか
改正前の466条2項は、次のように定めていました。
前項の規定は、当事者が反対の意思を表示した場合には、適用しない。ただし、その意思表示は、善意の第三者に対抗することができない。(改正前の民法466条2項)
「前項の規定は……適用しない」という書き方です。前項は「債権は、譲り渡すことができる」ですから、それが適用されないということは、譲渡できないという結論になります。ただし書によって善意の第三者には対抗できないので、善意の譲受人との関係では譲渡が有効に扱われる、という構造でした。
新旧を並べると、原則と例外が入れ替わっていることが分かります。改正前は「原則として譲渡できない、善意の第三者には対抗できない」。改正後は「譲渡は有効、悪意重過失の譲受人には履行を拒める」。出発点が逆になっています。
さらに、改正前のただし書は「善意の」とだけ書いていました。改正後の466条3項は「知り、又は重大な過失によって知らなかった」と書いており、重過失が条文に明記されています。この点も差分です。民法改正で結論が動いた論点の一覧は「権利関係の民法改正まとめ」で扱っています。
466条3項 ― 悪意重過失の譲受人に対する債務者の対抗
前項に規定する場合には、譲渡制限の意思表示がされたことを知り、又は重大な過失によって知らなかった譲受人その他の第三者に対しては、債務者は、その債務の履行を拒むことができ、かつ、譲渡人に対する弁済その他の債務を消滅させる事由をもってその第三者に対抗することができる。(民法466条3項)
譲渡が有効だとしても、債務者の立場は保護されなければなりません。譲渡制限を付けたのは、見知らぬ第三者を債権者としたくない、あるいは弁済の相手を固定して事務を単純にしたい、といった債務者側の利益のためです。
そこで3項は、悪意または重過失の譲受人に対しては、債務者に二つの武器を与えています。
第一に、履行を拒むことができます。譲受人から請求されても、払わなくてよい。
第二に、譲渡人に対する弁済その他の債務を消滅させる事由をもって対抗できます。譲渡人に払ってしまえば、その弁済を譲受人に対しても主張できます。「もう旧債権者に払いました」と言えるということです。
「無効」と「履行を拒める」はどう違うのか
結論だけ見ると、悪意の譲受人は結局回収できないのだから、無効とあまり変わらないようにも見えます。しかし違いがあります。
譲渡が有効である以上、債権者は譲受人です。債務者が任意に譲受人へ弁済すれば、それは有効な弁済になります。3項は債務者に履行拒絶権を与えているだけで、譲受人が債権者でなくなるわけではありません。
また、譲渡が有効なので、譲受人はさらにその債権を処分できますし、譲渡人の債権者による差押えの対象からも外れます。無効であれば債権は譲渡人のもとに残り、譲渡人が破産すればその財産に含まれてしまいます。この違いは実務上大きいものです。
「譲渡制限特約に反する譲渡は無効である」という選択肢は、条文の結論そのものが違うため誤りです。「有効だが、悪意重過失の譲受人には債務者が履行を拒める」と、二段で答えられるようにしてください。
466条4項 ― 催告で履行拒絶を封じる
前項の規定は、債務者が債務を履行しない場合において、同項に規定する第三者が相当の期間を定めて譲渡人への履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、その債務者については、適用しない。(民法466条4項)
3項をそのまま認めると、悪意の譲受人は永久に回収できず、しかも債務者は譲渡人にも払わないまま放置できてしまいます。それでは債務者が不当に得をします。
そこで4項は、譲受人が相当の期間を定めて「譲渡人に払え」と催告し、その期間内に履行がないときは、3項が適用されなくなると定めます。3項が使えなくなれば、債務者は履行を拒めず、譲受人に払わなければなりません。
催告の内容が「自分に払え」ではなく「譲渡人に払え」である点が、この条文の特徴です。譲渡制限の趣旨を尊重しつつ、債務者の居直りだけを封じる、という設計になっています。
466条の2 ― 債務者は供託できる
債務者は、譲渡制限の意思表示がされた金銭の給付を目的とする債権が譲渡されたときは、その債権の全額に相当する金銭を債務の履行地……の供託所に供託することができる。(民法466条の2第1項)
譲受人が悪意重過失かどうかは、債務者にとって判断が難しい場合があります。判断を誤って一方に払えば、他方から請求される危険があります。
そこで466条の2は、債務者に供託という逃げ道を用意しています。「することができる」なので権利であって義務ではありません。2項により譲渡人と譲受人の双方に通知する必要があり、3項により還付を請求できるのは譲受人に限られます。譲渡が有効である以上、供託金を受け取るのは新債権者だ、という筋が通っています。供託制度そのものは「弁済と供託」で扱っています。
466条の4 ― 差押債権者には対抗できない
第四百六十六条第三項の規定は、譲渡制限の意思表示がされた債権に対する強制執行をした差押債権者に対しては、適用しない。(民法466条の4第1項)
譲渡制限の意思表示は、差押債権者には対抗できません。当事者の合意によって差押えを免れる財産を作り出せるとすれば、責任財産を自由に隠せることになってしまうからです。
ただし2項は例外を置いています。悪意重過失の譲受人その他の第三者が譲り受けた債権について、その譲受人の債権者が強制執行をしたときは、債務者は履行を拒むことができ、譲渡人への弁済等をもって差押債権者に対抗できます。もともと履行を拒める相手の債権者に対して、より強い地位を与える理由がないためです。
- 466条2項 ― 譲渡は有効。改正前は「譲渡できない」が出発点だった
- 466条3項 ― 悪意重過失の譲受人には、履行拒絶と譲渡人への弁済で対抗できる
- 466条4項 ― 譲受人が「譲渡人へ払え」と催告すれば、3項は使えなくなる
- 466条の2 ― 債務者は供託できる。還付請求できるのは譲受人だけ
- 466条の4 ― 差押債権者には対抗できない
預貯金債権だけは別扱い(466条の5)
預金口座又は貯金口座に係る預金又は貯金に係る債権(以下「預貯金債権」という。)について当事者がした譲渡制限の意思表示は、第四百六十六条第二項の規定にかかわらず、その譲渡制限の意思表示がされたことを知り、又は重大な過失によって知らなかった譲受人その他の第三者に対抗することができる。(民法466条の5第1項)
条文が466条2項を明示的に上書きしている
「第四百六十六条第二項の規定にかかわらず」という書き出しに注目してください。原則を定めた条文を名指しして、その適用を外しています。
預貯金債権については、譲渡制限の意思表示を悪意重過失の譲受人に対抗できます。対抗できるということは、その譲受人との関係では譲渡の効力を否定できるということで、改正前に近い扱いが残っている場面です。
なぜ預貯金だけなのか
金融機関は膨大な数の口座を扱っており、口座ごとに債権者が誰かを追跡することは現実的でありません。払戻しの相手を口座名義人に固定できなければ、決済システムが立ち行かなくなります。この実務上の必要から、預貯金債権だけが例外として切り出されています。
2項 ― 差押債権者には対抗できない
前項の規定は、譲渡制限の意思表示がされた預貯金債権に対する強制執行をした差押債権者に対しては、適用しない。(民法466条の5第2項)
466条の4第1項と同じ趣旨です。預貯金債権であっても、差押債権者には対抗できません。預金が差押えを免れる財産になってしまうことを防ぐためです。
「預貯金債権は譲渡制限の意思表示があれば差押えもできない」という選択肢は、2項に反するため誤りです。譲受人には対抗できるが差押債権者には対抗できない、という区別を押さえてください。
対抗要件(467条)
1項 ― 通知または承諾
債権の譲渡(現に発生していない債権の譲渡を含む。)は、譲渡人が債務者に通知をし、又は債務者が承諾をしなければ、債務者その他の第三者に対抗することができない。(民法467条1項)
譲渡そのものは当事者間の合意だけで成立しますが、それを債務者や第三者に主張するには対抗要件が要ります。方法は二つ、譲渡人からの通知か、債務者の承諾です。
通知の主体は譲渡人に限られる
条文は「譲渡人が債務者に通知をし」と書いています。譲受人からの通知は対抗要件になりません。
理由は債務者の保護にあります。もし譲受人からの通知で足りるとすると、債権を譲り受けてもいない者が「譲り受けました」と通知するだけで、債務者は弁済の相手を変えざるを得なくなります。真の債権者である譲渡人が通知することで、その危険を防いでいます。
この点は繰り返し出題されます。「譲受人が債務者に通知をすれば対抗要件を具備する」という選択肢は誤りです。なお、譲受人が譲渡人を代理して通知することは、代理の要件を満たす限り可能と解されています。あくまで通知の主体が譲渡人であることが必要だ、という理解です。
承諾の相手方は条文が限定していない
一方、承諾については条文が「債務者が承諾をし」とだけ書いており、誰に対して承諾するかを限定していません。譲渡人に対する承諾でも、譲受人に対する承諾でも構わない、という読み方になります。
通知には主体の限定があるが、承諾には相手方の限定がない。この非対称は条文の文言から読み取れます。
方式に制限はない
467条1項は方式について何も定めていません。口頭の通知や承諾でも、債務者に対する対抗要件としては足ります。書面が必要になるのは、次に述べる第三者対抗要件の場面です。
2項 ― 第三者対抗要件は確定日付のある証書
前項の通知又は承諾は、確定日付のある証書によってしなければ、債務者以外の第三者に対抗することができない。(民法467条2項)
債権が二重に譲渡された、あるいは債権が差し押さえられた、といった場面で、債務者以外の第三者に対して自分が債権者だと主張するには、確定日付のある証書による通知または承諾が必要です。
確定日付のある証書として実務で使われるのは内容証明郵便です。公正証書や、公証人が確定日付印を押した私署証書もこれにあたります。確定日付とは、その文書がその日に存在したことを公的に証明する日付のことで、当事者が後から日付を遡らせて作り変えることを防ぐ仕組みです。
二つの対抗要件の関係
債務者対抗要件と第三者対抗要件は、別々に考えます。
確定日付のない通知でも、債務者に対しては対抗できます。譲受人は債務者に請求できるということです。ただし、別の譲受人が現れたときに優先を主張することはできません。
逆に、確定日付のある証書による通知をすれば、債務者にも第三者にも対抗できます。第三者対抗要件を備えれば、債務者対抗要件も当然に備わる関係にあります。
「債務者に対抗するにも確定日付が必要である」という選択肢は誤りです。確定日付が必要になるのは第三者に対抗する場面だけです。
二重譲渡の優劣
条文は優劣の基準を書いていない
同じ債権が二人に譲渡され、どちらも確定日付のある証書による通知がされた場合、どちらが優先するのでしょうか。
467条2項は「確定日付のある証書によってしなければ……対抗することができない」と定めるだけで、双方が確定日付を備えたときの優劣を書いていません。条文に答えがない以上、解釈で埋めることになります。
判例は到達の先後で決する
判例は、確定日付のある通知が競合する場合、通知が債務者に到達した時の先後で優劣を決すると解しています。確定日付そのものの日付の先後ではありません。
理由は、債務者を情報の集約点として位置づけている点にあります。第三者は債務者に問い合わせて債権の帰属を知ることができる、という仕組みを民法が採っているため、債務者が知った順序が基準になります。確定日付は日付の遡及を防ぐための要件であって、優劣を決める基準ではない、という整理です。
「確定日付の日付が早いほうが優先する」という選択肢は誤りです。4月1日付の確定日付のある通知が4月10日に到達し、4月5日付の確定日付のある通知が4月6日に到達した場合、優先するのは後者です。
同時に到達した場合
二つの通知が同時に到達した場合、優劣がつきません。判例は、この場合、各譲受人は債務者に対して債権の全額を請求できると解しています。債務者はどちらか一方に弁済すれば債務を免れ、その後の清算は譲受人間の問題として処理されます。
「同時到達の場合は按分した額しか請求できない」という選択肢は、この処理と異なります。
一方だけが確定日付を備えている場合
一方の譲受人だけが確定日付のある証書による通知を備え、他方は確定日付のない通知しか備えていない場合、確定日付を備えたほうが優先します。確定日付のない通知では第三者に対抗できない、という467条2項の帰結です。
どちらも確定日付を備えていない場合
どちらの譲受人も第三者に対抗できません。互いに優先を主張できない関係になります。ただし、確定日付のない通知でも債務者対抗要件にはなるので、債務者との関係では請求が可能な状態です。
- 条文は優劣の基準を書いていない。判例が到達の先後で決している
- 基準は「到達の先後」であって「確定日付の日付の先後」ではない
- 同時到達なら各譲受人が全額を請求できる
- 一方だけ確定日付があれば、そちらが優先する
468条 ― 債務者の抗弁は切断されない
1項 ― 対抗要件具備時までに生じた事由
債務者は、対抗要件具備時までに譲渡人に対して生じた事由をもって譲受人に対抗することができる。(民法468条1項)
債権譲渡は債権の同一性を保ったまま移転させるものですから、債務者が譲渡人に対して持っていた言い分は、譲受人に対しても主張できます。債務者は自分の知らないところで行われた譲渡によって、立場を悪くされるべきではないからです。
基準時は「対抗要件具備時」です。466条の6第3項が「譲渡人が次条の規定による通知をし、又は債務者が同条の規定による承諾をした時(以下「対抗要件具備時」という。)」と定義しており、通知が到達した時または承諾をした時を指します。
「事由」には何が入るか
条文は「事由」とだけ書いており、限定していません。同時履行の抗弁、契約の無効・取消し、解除、弁済による消滅、消滅時効の完成などが広く含まれます。
たとえば、売買代金債権が譲渡されたが、売主が目的物を引き渡していない場合。買主は同時履行の抗弁(533条)を譲受人に対しても主張できます。同時履行の抗弁の要件は「同時履行の抗弁権と留置権」で扱っています。
契約が取り消された場合も同じです。取消しの効果は121条により遡及するので、債権は最初から発生しなかったことになり、譲受人は請求できません。無効と取消しの効果は「無効と取消しの違い」を参照してください。
異議をとどめない承諾の制度は削除された
ここが改正の重要点です。改正前の468条1項は、次のように定めていました。
債務者が異議をとどめないで前条の承諾をしたときは、譲渡人に対抗することができた事由があっても、これをもって譲受人に対抗することができない。(改正前の民法468条1項)
債務者が異議をとどめずに承諾すると、それだけで抗弁が切断されるという強い効果が認められていました。すでに弁済していたのに、うっかり異議をとどめずに承諾したために、譲受人に対して二重に払わされる、という事態が生じうる規定でした。
現行の468条には、この規定がありません。改正前の2項に相当する内容が1項に整理され、基準時が「その通知を受けるまでに」から「対抗要件具備時までに」に改められています。
したがって、「債務者が異議をとどめないで承諾したときは、譲渡人に対抗できた事由を譲受人に対抗できない」という選択肢は、現行法では誤りです。改正前の教材で学んだ知識がそのまま誤答になる、典型的な論点です。
なお、債務者が抗弁を放棄する意思表示をすれば、その効果が生じる余地はあります。しかし、承諾したという事実だけで自動的に抗弁が切断されることはなくなりました。
468条2項 ― 基準時の読替え
2項は、466条4項の催告があった場合には「対抗要件具備時」を「相当の期間を経過した時」と読み替え、466条の3の場合には「供託の請求を受けた時」と読み替える、と定めています。
譲渡制限がある場面では対抗要件具備時よりも後に決着がつくため、それに合わせて抗弁の基準時も後ろにずらす、という調整です。細かい規定ですが、基準時は一つではなく場面によって動くということを知っておくと、条文を読むときに迷いません。
相殺とは何か(505条1項)
対当額で消滅させる制度
二人が互いに同種の目的を有する債務を負担する場合において、双方の債務が弁済期にあるときは、各債務者は、その対当額について相殺によってその債務を免れることができる。ただし、債務の性質がこれを許さないときは、この限りでない。(民法505条1項)
相殺とは、互いに債務を負い合っている二人が、その債務を対当額で消滅させる制度です。AがBに1,000万円の債権を持ち、BもAに600万円の債権を持っているなら、600万円分を打ち消し合って、Aの債権を400万円に減らすことができます。
制度の意味は二つあります。第一に、双方が現実に支払う手間を省くという決済の簡易化。第二に、自分の債権が回収できるという期待を保護するという担保的機能です。Bが無資力になっても、Aは自分が負っている600万円と相殺すれば、その限度で確実に回収できます。この担保的機能があるため、相殺の可否は債権者間の公平の問題として、後述する差押えの場面で争われます。
なお、債務者が複数いる場面では相殺の扱いが変わります。連帯債務者の一人が相殺を援用すれば債権は全員の利益のために消滅しますが、援用しない間は、他の連帯債務者はその者の負担部分の限度で履行を拒めるにとどまります(439条)。相殺できるわけではありません。この点は「連帯債務と保証」で扱っています。
自働債権と受働債権
用語を固定します。相殺する側が持っている債権が自働債権、相殺される側の債権、つまり相殺する側が負っている債務が受働債権です。
Aが相殺の意思表示をするなら、AのBに対する1,000万円の債権が自働債権、BのAに対する600万円の債権が受働債権です。誰が相殺するかによって、同じ債権が自働債権にも受働債権にもなります。この用語を取り違えると、以下の議論がすべてずれます。
相殺適状の要件
相殺ができる状態を相殺適状といいます。505条1項から、四つの要件が読み取れます。
第一に、二人が互いに債務を負担していること、つまり債権が対立していることです。AがBに債権を持ち、BもAに債権を持っている必要があります。AがBに、BがCに債権を持っているという関係では相殺できません。
第二に、同種の目的を有する債務であることです。金銭債権同士が典型です。金銭債権と建物引渡債権では相殺できません。
第三に、双方の債務が弁済期にあることです。ただし後述するとおり、この要件は実質的に自働債権についてだけ問われます。
第四に、債務の性質が相殺を許すことです。ただし書がこれを定めています。現実に履行させることに意味がある債務、たとえば互いに労務を提供し合う債務などは、相殺になじみません。
「双方の債務が弁済期にある」の実際の読み方
条文は「双方の債務が弁済期にあるとき」と書いています。しかし実際には、受働債権の弁済期が来ていなくても相殺できます。
受働債権とは、相殺する側が負っている債務です。その弁済期が来ていないということは、相殺する側が期限の利益を持っているということです。期限の利益は放棄できます(136条2項本文)。期限前に自分から払うのは自由だからです。相殺は実質的に自分から払うのと同じなので、期限の利益を放棄して相殺すればよい、という理屈になります。期限の利益の詳細は「条件と期限の違い」で扱っています。
これに対し、自働債権の弁済期が来ていなければ相殺できません。自働債権は相手方が負っている債務であり、その期限の利益は相手方のものです。相殺する側が勝手に相手方の期限の利益を奪うことはできません。
したがって、確認すべきは自働債権の弁済期です。「受働債権の弁済期が到来していれば、自働債権の弁済期が到来していなくても相殺できる」という選択肢は、この向きを逆にしたもので誤りです。
自働債権に抗弁権が付着している場合
条文には書かれていませんが、自働債権に相手方の抗弁権が付着している場合には相殺できないと解されています。
売買契約で、売主Aが買主Bに代金債権を持ち、BがAに別口の貸金債権を持っているとします。Aがまだ目的物を引き渡していない場合、Bは同時履行の抗弁を持っています。ここでAが代金債権を自働債権として相殺すると、Bの同時履行の抗弁が一方的に失われてしまいます。相手方の抗弁権を相殺という単独行為で奪うことは認められない、という理由づけです。
逆向きなら問題ありません。Bが貸金債権を自働債権として相殺するのは、自分の抗弁を自ら手放すだけなので自由です。どちらが相殺するかで結論が変わる点に注意してください。
相殺の方法と効果(506条・507条)
506条1項 ― 一方的な意思表示による
相殺は、当事者の一方から相手方に対する意思表示によってする。この場合において、その意思表示には、条件又は期限を付することができない。(民法506条1項)
相殺は単独行為です。相手方の同意は要りません。相殺適状にある以上、一方が意思表示をすれば効果が生じます。
そして後段が、条件も期限も付けられないと定めています。理由は相手方の地位の不安定を避けることにあります。相殺には遡及効があるため、条件付きの相殺を認めると、条件が成就するまで法律関係が確定せず、しかも成就すれば過去に遡って債権が消えることになります。相手方にとって予測がつきません。
なお、期限を付けられないのは、相殺適状にあれば直ちに効力を生じさせるべきだからです。付款一般の仕組みは「条件と期限の違い」を参照してください。
506条2項 ― 相殺適状時にさかのぼる
前項の意思表示は、双方の債務が互いに相殺に適するようになった時にさかのぼってその効力を生ずる。(民法506条2項)
相殺の効力は、意思表示をした時ではなく、相殺適状が生じた時にさかのぼります。
これには実際的な意味があります。相殺適状が生じた後に発生した遅延損害金は、遡及効によって発生しなかったことになります。当事者は相殺適状に達した時点で決済されたものと考えるのが通常なので、その期待に合わせた規定です。
「相殺の効力は意思表示が相手方に到達した時から生じる」という選択肢は、2項に反するため誤りです。
507条 ― 履行地が異なっても相殺できる
相殺は、双方の債務の履行地が異なるときであっても、することができる。この場合において、相殺をする当事者は、相手方に対し、これによって生じた損害を賠償しなければならない。(民法507条)
履行地が違うことは相殺の妨げになりません。ただし、それによって相手方に損害が生じたときは賠償が必要です。
「双方の債務の履行地が異なるときは相殺することができない」という選択肢は誤りです。前段だけを覚えて後段の賠償義務を落とさないよう、条文を最後まで読んでください。
508条 ― 時効消滅した債権でも相殺できる
時効によって消滅した債権がその消滅以前に相殺に適するようになっていた場合には、その債権者は、相殺をすることができる。(民法508条)
自働債権がすでに時効によって消滅していても、その消滅より前に相殺適状が生じていたのであれば、相殺できます。
趣旨は当事者の期待の保護にあります。互いに債権を持ち合っていて相殺適状に達していれば、当事者はすでに決済されたつもりでいるのが通常です。わざわざ請求も相殺もしないまま時効期間が経過することは十分にありえます。それを理由に相殺を封じるのは、当事者の合理的な期待に反します。
要件は「消滅以前に相殺に適するようになっていた」ことです。時効完成前に相殺適状が生じていなければ、508条は使えません。時効完成後に初めて相殺適状に達した場合は対象外です。消滅時効の起算点と期間は「時効」で扱っています。
「時効によって消滅した債権を自働債権として相殺することはできない」という選択肢は、508条の存在を無視しているため誤りです。
相殺が制限される場面
505条2項 ― 相殺制限の意思表示
前項の規定にかかわらず、当事者が相殺を禁止し、又は制限する旨の意思表示をした場合には、その意思表示は、第三者がこれを知り、又は重大な過失によって知らなかったときに限り、その第三者に対抗することができる。(民法505条2項)
当事者は合意によって相殺を禁止できます。その合意を第三者に対抗できるのは、第三者が悪意または重過失であるときに限られます。言い換えれば、善意無重過失の第三者には対抗できません。
改正前の505条2項は「前項の規定は、当事者が反対の意思を表示した場合には、適用しない。ただし、その意思表示は、善意の第三者に対抗することができない」という書き方でした。改正で「善意」に「無重過失」が加わり、書き方も「対抗することができない」から「対抗することができる」へ、限定の向きが整理されています。
ここで気づいてほしいのは、466条3項の譲渡制限と同じ「知り、又は重大な過失によって知らなかった」という基準が使われていることです。466条の5第1項も同じ表現です。改正民法は、当事者の合意による制限を第三者に対抗できるかどうかの基準を、悪意重過失で統一しました。三か所をばらばらに覚える必要はありません。
509条 ― 二類型に絞られた相殺禁止
次に掲げる債務の債務者は、相殺をもって債権者に対抗することができない。ただし、その債権者がその債務に係る債権を他人から譲り受けたときは、この限りでない。
一 悪意による不法行為に基づく損害賠償の債務
二 人の生命又は身体の侵害による損害賠償の債務(前号に掲げるものを除く。)(民法509条)
受働債権として相殺できない損害賠償債務を定めた条文です。加害者の側から「損害賠償金は払わない、その代わり君が私に負っている借金と相殺する」と言わせない、という趣旨です。被害者に現実の金銭を渡すことを確保しています。
改正前の509条は「債務が不法行為によって生じたときは、その債務者は、相殺をもって債権者に対抗することができない」という一文で、不法行為債権一般が対象でした。改正により二類型に絞られています。
1号は悪意による不法行為です。ここでいう悪意は、単に知っているという意味ではなく、積極的に害する意図を指すものとして書かれています。過失による不法行為は1号に入りません。
2号は人の生命または身体の侵害による損害賠償の債務です。括弧書きが「前号に掲げるものを除く」としているので、1号と2号は重ならないよう整理されています。そして2号は不法行為に限定されていません。債務不履行によって人の生命・身体が侵害された場合の損害賠償債務も、2号に含まれます。債務不履行に基づく損害賠償の要件は「債務不履行」で扱っています。
裏を返すと、物の損壊にとどまる過失による不法行為の損害賠償債務は、受働債権として相殺できます。改正前なら相殺できなかった場面です。交通事故で物損だけが生じた場合などがこれにあたります。不法行為の要件は「不法行為」で扱っています。
509条ただし書 ― 譲り受けた債権なら相殺できる
この条文にはただし書があります。「その債権者がその債務に係る債権を他人から譲り受けたときは、この限りでない。」
被害者が損害賠償債権を第三者に譲渡し、その譲受人が債権者となった場合には、相殺禁止が働かないという意味です。
理由は趣旨から導けます。509条が守ろうとしているのは、被害者本人に現実の金銭を渡すことです。被害者が自ら債権を他人に譲り渡してしまったのであれば、もはやその保護は必要ありません。譲受人は投資として債権を取得しただけであって、現実の給付を受けなければ困る立場ではないからです。
このただし書が、債権譲渡と相殺が交わるもう一つの場面です。改正前の509条にはただし書がありませんでした。条文を短く引用した教材では落ちていることがあるので、条文を最後まで読む習慣をつけてください。
510条 ― 差押禁止債権
債権が差押えを禁じたものであるときは、その債務者は、相殺をもって債権者に対抗することができない。(民法510条)
給与債権の一部など、法律が差押えを禁じている債権を受働債権として相殺することはできません。差押えを禁じた趣旨は、その債権によって債権者の生活を保障することにあります。相殺で消してしまえば、その保障が失われます。差押えができないのに相殺はできる、という抜け道を塞ぐ規定です。
511条1項 ― 差押えと相殺
差押えを受けた債権の第三債務者は、差押え後に取得した債権による相殺をもって差押債権者に対抗することはできないが、差押え前に取得した債権による相殺をもって対抗することができる。(民法511条1項)
Bの財産であるBのAに対する債権が、Bの債権者Cによって差し押さえられた場面です。Aは第三債務者にあたります。Aは、差押え前に取得した債権による相殺であればCに対抗できますが、差押え後に取得した債権による相殺では対抗できません。
改正前の511条は「支払の差止めを受けた第三債務者は、その後に取得した債権による相殺をもって差押債権者に対抗することができない」とだけ定めており、差押え前に取得した債権で相殺できることは条文に書かれていませんでした。現行1項は、できる場合とできない場合を一文で書き分けています。
511条2項 ― 差押え前の原因に基づく債権
前項の規定にかかわらず、差押え後に取得した債権が差押え前の原因に基づいて生じたものであるときは、その第三債務者は、その債権による相殺をもって差押債権者に対抗することができる。ただし、第三債務者が差押え後に他人の債権を取得したときは、この限りでない。(民法511条2項)
差押え後に取得した債権であっても、その発生原因が差押え前にあったなら相殺できます。改正で明文化された規定です。
原因が差押え前にあるなら、第三債務者は差押え前の時点ですでに相殺への期待を持っていたといえます。その期待は保護に値する、という判断です。
ただし書は、差押え後に他人から債権を譲り受けた場合を除外しています。差押えを知ってから相殺の材料をわざわざ買い集める、という行為まで保護する理由がないためです。
- 505条2項 ― 相殺制限の合意は悪意重過失の第三者にだけ対抗できる
- 509条 ― 受働債権にできないのは2類型のみ。ただし書で譲り受けた債権は除外
- 510条 ― 差押禁止債権は受働債権にできない
- 511条 ― 差押え前に取得した債権、または差押え前の原因に基づく債権なら相殺できる
469条 ― 債権譲渡と相殺が交わる
ここが本記事の山場です。債権が譲渡されたとき、債務者は譲渡人に対して持っていた債権で相殺できるのか。
1項 ― 対抗要件具備時より前に取得した債権
債務者は、対抗要件具備時より前に取得した譲渡人に対する債権による相殺をもって譲受人に対抗することができる。(民法469条1項)
AがBに対して1,000万円の債権を持ち、これをCに譲渡した。BもAに対して600万円の債権を持っていた。BはCに対して相殺を主張できるでしょうか。
Bがその600万円の債権を対抗要件具備時より前に取得していたなら、できます。
理由は468条と同じ発想です。Bは自分の関与しない譲渡によって、相殺への期待を奪われるべきではありません。相殺には担保的機能があり、Bは「いざとなれば自分の債務と相殺して回収できる」と考えていたはずです。その期待は、譲渡があったからといって失われるものではありません。
基準時は468条と同じ「対抗要件具備時」、つまり通知の到達時または承諾時です。
2項1号 ― 対抗要件具備時より前の原因に基づいて生じた債権
債務者が対抗要件具備時より後に取得した譲渡人に対する債権であっても、その債権が次に掲げるものであるときは、前項と同様とする。ただし、債務者が対抗要件具備時より後に他人の債権を取得したときは、この限りでない。
一 対抗要件具備時より前の原因に基づいて生じた債権(民法469条2項柱書・1号)
取得したのが対抗要件具備時より後でも、その発生原因が前にあれば相殺できます。
たとえば、対抗要件具備時より前に締結していた契約に基づいて、その後に債権が発生した場合です。原因が先にある以上、債務者は相殺への期待をすでに持っていた、と評価できます。
2項2号 ― 譲受人の債権と同一の契約から生じた債権
二 前号に掲げるもののほか、譲受人の取得した債権の発生原因である契約に基づいて生じた債権(民法469条2項2号)
譲渡された債権と同じ契約から生じた債権であれば、対抗要件具備時より後に発生したものでも相殺できます。
同一の契約から生じた債権債務は、当事者にとって一体のものです。売買契約から代金債権が生じ、同じ契約の債務不履行から損害賠償債権が生じた、というような場合、その二つを切り離して一方だけ譲受人に持って行かれるのでは、債務者の期待に反します。
1号が「原因の時期」で判定するのに対し、2号は「契約の同一性」で判定します。判定の切り口が違うので、二つを別々に持ってください。
2項ただし書 ― 後から他人の債権を取得した場合
対抗要件具備時より後に他人から債権を譲り受けた場合は、相殺できません。
譲渡があったことを知ってから、相殺に使える債権を買い集める、という行為を封じる規定です。そのような債権には、もともと相殺への期待が存在しません。
469条と511条は同じ構造をしている
この二つの条文を並べると、まったく同じ設計になっていることが分かります。
469条は、基準時が「対抗要件具備時」。原則として基準時より前に取得した債権で相殺でき(1項)、後に取得したものでも基準時より前の原因に基づくなら相殺でき(2項1号)、ただし基準時より後に他人から取得した債権は除かれる(2項ただし書)。
511条は、基準時が「差押え」。差押え前に取得した債権で相殺でき(1項)、差押え後に取得したものでも差押え前の原因に基づくなら相殺でき(2項本文)、ただし差押え後に他人から取得した債権は除かれる(2項ただし書)。
基準時が違うだけで、三段の構造は同一です。債権譲渡も差押えも、債務者の関与なしに債権者が変わる、あるいは債権の処分が制限される場面であり、そこでの債務者の相殺への期待をどこまで保護するかという同じ問題を扱っているからです。
片方を覚えれば、もう片方は基準時を入れ替えるだけで再現できます。これが、この二か条を効率よく身につける方法です。
468条と469条の関係
468条は「対抗要件具備時までに譲渡人に対して生じた事由」を対抗できるとする一般規定です。相殺もその「事由」に含まれると読むこともできそうですが、民法は相殺について469条という独立した条文を置いています。
理由は、相殺が単なる抗弁ではなく、基準時より後に取得した債権にまで保護を広げる必要がある点にあります。468条だけでは2項1号・2号の場面をカバーできません。相殺は特別に手厚く保護されている、と理解しておくと、二つの条文の関係が整理できます。
- 469条1項 ― 対抗要件具備時より前に取得した債権なら相殺できる
- 469条2項1号 ― 後の取得でも、前の原因に基づくなら相殺できる
- 469条2項2号 ― 譲受人の債権と同一の契約から生じた債権なら相殺できる
- 469条2項ただし書 ― 後から他人の債権を譲り受けた場合は除かれる
- 469条と511条は基準時が違うだけの同一構造
不動産取引の場面に置いてみる
賃料債権の譲渡と賃借人の相殺
賃貸人Aが、賃借人Bに対する将来の賃料債権をCに譲渡したとします。Bは、Aに対して持っていた必要費償還請求権などの債権で相殺できるでしょうか。
469条の枠組みでそのまま処理できます。Bがその債権を対抗要件具備時より前に取得していれば1項で相殺できます。後に取得したものでも、原因が前にあれば2項1号、同一の賃貸借契約から生じたものであれば2項2号で相殺できます。賃貸借の全体像は「民法の賃貸借」で扱っています。
賃貸人たる地位の移転は債権譲渡ではない
混同しやすいので区別しておきます。賃貸中の建物が売却された場合に賃貸人たる地位が譲受人に移るのは、債権譲渡ではありません。
前条、借地借家法第十条又は第三十一条その他の法令の規定による賃貸借の対抗要件を備えた場合において、その不動産が譲渡されたときは、その不動産の賃貸人たる地位は、その譲受人に移転する。(民法605条の2第1項)
契約上の地位そのものが法律上当然に移転するという規定で、467条の通知や承諾は要りません。3項が「所有権の移転の登記をしなければ、賃借人に対抗することができない」と定めており、対抗要件が登記になっている点も債権譲渡と異なります。
4項は、費用償還債務と敷金返還債務を譲受人が承継すると定めています。地位の移転にともなって債務も移る、という処理です。賃借権の譲渡や転貸との違いは「賃貸借の譲渡と転貸」を参照してください。
敷金と622条の2第2項後段
相殺と似て非なるものとして、敷金の充当があります。
賃貸人は、賃借人が賃貸借に基づいて生じた金銭の給付を目的とする債務を履行しないときは、敷金をその債務の弁済に充てることができる。この場合において、賃借人は、賃貸人に対し、敷金をその債務の弁済に充てることを請求することができない。(民法622条の2第2項)
充当できるのは賃貸人だけで、賃借人から「敷金を賃料に充ててくれ」と請求することはできません。後段が明文でこれを否定しています。
相殺が当事者のどちらからでもできる制度であるのに対し、敷金の充当は一方通行です。敷金は賃貸人のための担保なので、担保を使うかどうかは賃貸人が決める、という筋になっています。敷金の詳細は「敷金と礼金」で扱っています。
試験での出題ポイント
譲渡制限特約を「無効」とする肢
最も重要な改正論点です。「譲渡制限特約に反する債権譲渡は無効である」「善意の譲受人に対してのみ有効である」といった形はいずれも改正前の枠組みです。現行466条2項は「その効力を妨げられない」と定めています。
悪意重過失の効果を取り違える肢
「譲渡制限を知っていた譲受人に対しては、譲渡は無効となる」という形。466条3項の効果は履行拒絶と譲渡人への弁済等による対抗であって、譲渡の無効ではありません。
預貯金債権の例外を落とす肢、または広げる肢
「預貯金債権についても、譲渡制限の意思表示は債権譲渡の効力を妨げない」という形は466条の5第1項に反します。逆に「預貯金債権は譲渡制限の意思表示があれば差押えもできない」という形は、同条2項に反します。
通知の主体をずらす肢
「譲受人が債務者に対して通知をすれば、債務者に対抗できる」という形。467条1項は「譲渡人が債務者に通知をし」と書いています。この論点は繰り返し出ます。
承諾に主体の限定を作る肢
「債務者の承諾は譲渡人に対してしなければならない」という形。条文は承諾の相手方を限定していません。通知には限定があり、承諾にはないという非対称を利用した肢です。
債務者対抗要件に確定日付を要求する肢
「債権譲渡を債務者に対抗するには、確定日付のある証書による通知が必要である」という形。確定日付が必要なのは467条2項の第三者対抗要件だけです。
二重譲渡の優劣を確定日付の日付で決める肢
「確定日付の日付が早いほうが優先する」という形。判例は到達の先後で決しています。日付の先後と到達の先後が食い違う事例が出されます。
異議をとどめない承諾の肢
「債務者が異議をとどめないで承諾したときは、譲渡人に対抗できた事由をもって譲受人に対抗できない」という形。改正前の468条1項の内容で、現行法には規定がありません。
相殺の弁済期の向きを逆にする肢
「受働債権の弁済期が到来していれば、自働債権の弁済期が到来していなくても相殺できる」という形。逆です。確認すべきは自働債権の弁済期で、受働債権の期限の利益は放棄できます。
相殺の遡及効を否定する肢
「相殺の効力は、相殺の意思表示が相手方に到達した時から生じる」という形。506条2項は相殺適状時にさかのぼると定めています。
相殺に条件を付けられるとする肢
506条1項後段が「条件又は期限を付することができない」と明文で定めています。
履行地が異なると相殺できないとする肢
507条前段が「することができる」と定めています。後段の損害賠償義務まで含めて覚えてください。
時効消滅した債権で相殺できないとする肢
508条を無視した形です。消滅以前に相殺適状が生じていたことが要件である点まで押さえます。
509条を不法行為一般に広げる肢
「不法行為に基づく損害賠償債務を受働債権として相殺することはできない」という形。改正前の条文です。現行509条は悪意による不法行為と、人の生命・身体の侵害の2類型に限定しています。過失による物損の損害賠償債務は相殺できます。
509条2号を不法行為に限定する肢
2号は「人の生命又は身体の侵害による損害賠償の債務」であり、不法行為に限られていません。債務不履行による生命・身体の侵害も含まれます。
509条ただし書を落とす肢
「悪意による不法行為に基づく損害賠償債務は、いかなる場合も受働債権として相殺できない」という形。ただし書により、債権者がその債権を他人から譲り受けたときは相殺できます。
511条・469条で「後に取得した債権」を一律に排除する肢
「差押え後に取得した債権では相殺できない」「対抗要件具備時より後に取得した債権では相殺できない」という形。いずれも「前の原因に基づいて生じた債権」なら相殺できるという2項を落としています。
469条2項2号を落とす肢
同一の契約から生じた債権による相殺を否定する形。1号の「原因の時期」だけを覚えていると引っかかります。
覚え方・整理の仕方
譲渡制限は「有効・拒める・催告・供託」の四語で持つ
譲渡は有効(466条2項)。悪意重過失なら債務者は履行を拒める(3項)。譲受人が譲渡人への履行を催告すれば拒めなくなる(4項)。債務者は供託できる(466条の2)。この四語を順に唱えれば、条文の流れがそのまま出てきます。
「悪意または重過失」は三か所で共通
466条3項(譲渡制限)、466条の5第1項(預貯金債権)、505条2項(相殺制限)。いずれも「知り、又は重大な過失によって知らなかった」という同じ基準です。当事者の合意による制限を第三者に対抗できるかは悪意重過失で決まる、と一本化して覚えてください。改正前はいずれも「善意」とだけ書かれていました。
対抗要件は「通知は譲渡人、承諾は誰でも、第三者には確定日付」
一息で言えるようにします。通知だけに主体の限定があり、承諾にはない。そして確定日付は第三者対抗要件にだけ必要。三つの要素を一文にまとめておくと、どこをずらされても気づけます。
二重譲渡は「到達」の一語
判例が基準にしているのは到達です。確定日付の日付ではありません。「日付ではなく到達」と唱えてください。同時到達なら双方が全額請求できる、まで一続きで覚えます。
相殺は「自働債権の弁済期だけ確認する」
条文は「双方の債務が弁済期にあるとき」と書いていますが、実際に確認すべきは自働債権だけです。受働債権は自分の期限の利益だから放棄できる、という理由とセットで持つと向きを間違えません。
509条は「悪意・生命身体・ただし譲り受け」
三つの要素で持ちます。1号は悪意による不法行為、2号は人の生命または身体の侵害、そしてただし書は譲り受けた債権なら相殺できる。改正前は「不法行為一般」だったことも、あわせて覚えてください。
469条と511条は基準時を入れ替えるだけ
三段の構造が同一です。「基準時より前に取得した債権で相殺できる」「後の取得でも前の原因に基づくなら相殺できる」「ただし後から他人の債権を譲り受けた場合は除く」。基準時が対抗要件具備時なら469条、差押えなら511条。片方を覚えれば両方使えます。
改正論点は「前はこうだった」まで覚える
この分野は改正で結論が動いた条文が多く、改正前の枠組みで作られた肢が誤答の主力になります。466条2項(譲渡は無効→有効)、468条1項(異議をとどめない承諾の削除)、509条(不法行為一般→2類型)、511条(差押え前の原因を明文化)、505条2項(善意→善意無重過失)。この五つは、改正前の内容まで言えるようにしておくと、肢を見た瞬間に「これは古い」と判断できます。
理解度チェッククイズ
Q1. AがBに対して有する貸金債権について、AB間で譲渡を禁止する旨の意思表示がされていた場合において、Aがこの債権をCに譲渡したときは、Cがその意思表示を知っていたかどうかにかかわらず、譲渡は無効である。
答えを見る
×。466条2項は「当事者が債権の譲渡を禁止し、又は制限する旨の意思表示(譲渡制限の意思表示)をしたときであっても、債権の譲渡は、その効力を妨げられない」と定めています。譲渡は有効です。この肢は改正前の枠組みで作られています。改正前の466条2項は「前項の規定は、当事者が反対の意思を表示した場合には、適用しない。ただし、その意思表示は、善意の第三者に対抗することができない」という書き方で、譲渡できないことが出発点でした。結論が正面から反転した改正です。もっとも、Cが譲渡制限を知り、または重大な過失によって知らなかったときは、債務者Bは466条3項により履行を拒むことができ、Aへの弁済等をもってCに対抗できます。「譲渡は有効だが、債務者は払わなくてよい」という二段構えで答えてください。なお、Cが相当の期間を定めてAへの履行を催告し、その期間内に履行がないときは、466条4項により3項が適用されなくなり、BはCへの履行を拒めなくなります。
Q2. AがBに対して有する債権をCに譲渡した場合、Cが債務者Bに対してその譲渡の事実を通知すれば、CはBに対して債権譲渡を対抗することができる。
答えを見る
×。467条1項は「債権の譲渡……は、譲渡人が債務者に通知をし、又は債務者が承諾をしなければ、債務者その他の第三者に対抗することができない」と定めています。通知の主体は譲渡人Aに限られ、譲受人Cからの通知では対抗要件になりません。債権を譲り受けてもいない者が「譲り受けました」と通知するだけで債務者が弁済の相手を変えざるを得なくなる事態を防ぐためです。これに対し、承諾については条文が相手方を限定していません。BがAに対して承諾しても、Cに対して承諾しても構いません。通知には主体の限定があり、承諾には相手方の限定がないという非対称が、この条文の要点です。なお、CがAを代理して通知することは、代理の要件を満たす限り可能と解されています。通知の主体が譲渡人であることが必要だ、という理解です。方式には制限がなく、口頭でも債務者対抗要件としては足ります。
Q3. AがBに対して有する債権をCとDに二重に譲渡し、いずれについても確定日付のある証書による通知がされた場合、Cへの譲渡に係る通知の確定日付が4月1日で債務者Bへの到達が4月10日、Dへの譲渡に係る通知の確定日付が4月5日で到達が4月6日であるときは、Cが優先する。
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×。467条2項は確定日付のある証書を第三者対抗要件として要求するだけで、双方が確定日付を備えたときの優劣を書いていません。この点について判例は、通知が債務者に到達した時の先後で優劣を決すると解しています。確定日付そのものの日付の先後ではありません。本問では、Dへの通知が4月6日に到達し、Cへの通知が4月10日に到達しているので、先に到達したDが優先します。理由は、民法が債務者を情報の集約点として位置づけている点にあります。第三者は債務者に問い合わせて債権の帰属を知ることができる仕組みなので、債務者が知った順序が基準になります。確定日付は日付の遡及を防ぐための要件であって、優劣を決める基準ではありません。「日付ではなく到達」と覚えてください。なお、二つの通知が同時に到達した場合には優劣がつかず、判例は各譲受人が債務者に対して全額を請求できると解しています。債務者はどちらかに弁済すれば債務を免れます。
Q4. AがBに対して有する債権について、Bの過失による交通事故でAの自動車が損壊したことによりBがAに対して負う損害賠償債務を受働債権として、Bは相殺をすることができない。
答えを見る
×。509条が受働債権としての相殺を禁じているのは、1号「悪意による不法行為に基づく損害賠償の債務」と、2号「人の生命又は身体の侵害による損害賠償の債務」の2類型だけです。本問は過失による物損なので、1号にも2号にも当たらず、Bは相殺できます。改正前の509条は「債務が不法行為によって生じたときは、その債務者は、相殺をもって債権者に対抗することができない」と定めており、不法行為債権一般が対象でした。改正でこの範囲が絞られたため、改正前の知識のままだと誤答になります。あわせて二点を押さえてください。第一に、2号は不法行為に限定されていません。債務不履行によって人の生命・身体が侵害された場合の損害賠償債務も含まれます。第二に、509条にはただし書があります。「その債権者がその債務に係る債権を他人から譲り受けたときは、この限りでない」。被害者が損害賠償債権を譲渡した場合、譲受人は現実の給付を受けなければ困る立場ではないので、相殺禁止の趣旨が及ばないためです。
Q5. AがBに対して有する売買代金債権をCに譲渡し、Aが確定日付のある証書によりBに通知して同通知が到達した後に、BがAに対する債権を取得した場合、Bはその債権による相殺をもってCに対抗することはできない。
答えを見る
×。469条1項は対抗要件具備時より前に取得した債権による相殺を認めていますが、条文はそこで終わっていません。2項が、対抗要件具備時より後に取得した債権であっても相殺できる場合を二つ定めています。1号は「対抗要件具備時より前の原因に基づいて生じた債権」、2号は「譲受人の取得した債権の発生原因である契約に基づいて生じた債権」です。本問は取得の時期しか示しておらず、原因が対抗要件具備時より前にあれば1号で、譲渡された代金債権と同じ売買契約から生じた債権であれば2号で、いずれも相殺できます。したがって「対抗することはできない」と言い切る本肢は誤りです。1号は「原因の時期」、2号は「契約の同一性」と、判定の切り口が違う点も押さえてください。なお2項ただし書は「債務者が対抗要件具備時より後に他人の債権を取得したときは、この限りでない」として、譲渡を知ってから相殺の材料を買い集める行為を封じています。
Q6. 相殺をするには双方の債務が弁済期にあることが必要であるから、自働債権の弁済期が到来していても、受働債権の弁済期が到来していないときは相殺をすることができない。
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×。505条1項は確かに「双方の債務が弁済期にあるとき」と書いていますが、受働債権の弁済期が到来していなくても相殺できます。受働債権とは相殺する側が負っている債務であり、その弁済期が来ていないということは、相殺する側が期限の利益を持っているということです。136条2項本文により期限の利益は放棄できるので、放棄して相殺すればよい、という理屈です。相殺は実質的に自分から払うのと同じですから、期限前に自分の判断で払うことと変わりません。これに対し、自働債権の弁済期が到来していなければ相殺できません。自働債権は相手方が負っている債務で、その期限の利益は相手方のものだからです。確認すべきは自働債権の弁済期だけと覚えてください。試験では向きを逆にした肢、すなわち「受働債権の弁済期が到来していれば、自働債権の弁済期が到来していなくても相殺できる」という形が出ます。これは誤りです。なお、自働債権に相手方の同時履行の抗弁などが付着している場合には、相殺を認めると相手方の抗弁権を一方的に奪うことになるため、相殺できないと解されています。
まとめ
- 譲渡制限の意思表示をしても、債権譲渡の効力は妨げられません(466条2項)。改正前の466条2項は「前項の規定は……適用しない」という書き方で、譲渡できないことが出発点でした。結論が反転した改正です。ただし悪意または重大な過失のある譲受人に対しては、債務者は履行を拒み、譲渡人への弁済等をもって対抗できます(3項)。譲受人が相当の期間を定めて譲渡人への履行を催告し履行がなければ、3項は適用されなくなります(4項)。債務者は供託もできます(466条の2)。
- 預貯金債権だけは例外で、譲渡制限の意思表示を悪意重過失の譲受人に対抗できます(466条の5第1項)。ただし差押債権者には対抗できません(同条2項)。466条の4も同じ趣旨で、譲渡制限は差押債権者に対抗できません。
- 対抗要件は、譲渡人からの通知または債務者の承諾(467条1項)。通知の主体は譲渡人に限られ、譲受人からの通知では足りません。承諾については条文が相手方を限定していません。方式に制限はなく、口頭でも債務者対抗要件になります。第三者対抗要件は確定日付のある証書による通知または承諾です(同条2項)。
- 二重譲渡の優劣について条文は基準を書いていません。判例は到達の先後で決しています。確定日付の日付の先後ではありません。同時到達なら各譲受人が全額を請求でき、一方だけ確定日付があればそちらが優先します。
- 債務者は、対抗要件具備時までに譲渡人に対して生じた事由をもって譲受人に対抗できます(468条1項)。改正前の468条1項にあった異議をとどめない承諾による抗弁切断の規定は削除されました。この肢は現行法では誤りになります。
- 相殺適状で実際に確認すべきは自働債権の弁済期です。受働債権の期限の利益は相殺する側のものなので放棄できます。自働債権に相手方の抗弁権が付着している場合は相殺できないと解されています。
- 相殺は単独行為で、条件も期限も付けられません(506条1項)。効力は相殺適状時にさかのぼります(同条2項)。履行地が異なっても相殺できますが、損害賠償義務を負います(507条)。時効消滅した債権でも、消滅以前に相殺適状が生じていれば自働債権にできます(508条)。
- 相殺制限の意思表示は、悪意または重大な過失のある第三者にだけ対抗できます(505条2項)。466条3項・466条の5第1項と同じ基準で、改正民法はこの三か所を悪意重過失で統一しました。
- 受働債権にできない損害賠償債務は2類型だけです(509条)。悪意による不法行為(1号)と、人の生命または身体の侵害(2号、不法行為に限られません)。改正前は不法行為一般でした。そしてただし書により、債権者がその債権を他人から譲り受けたときは相殺できます。
- 469条と511条は、基準時が違うだけで同一の三段構造です。基準時より前に取得した債権なら相殺でき、後の取得でも基準時より前の原因に基づくなら相殺でき、ただし基準時より後に他人から取得した債権は除かれる。基準時は469条が対抗要件具備時、511条が差押えです。469条2項2号の「譲受人の取得した債権の発生原因である契約に基づいて生じた債権」だけは469条に固有なので、別に足してください。
- 賃貸人たる地位の移転(605条の2)は債権譲渡ではありません。契約上の地位が法律上当然に移転し、対抗要件は467条の通知ではなく所有権移転の登記です(同条3項)。敷金の充当も相殺ではなく、賃貸人からしかできません(622条の2第2項後段)。
宅建試験AIブートラボの肢別トレーニングでは、債権譲渡と相殺の過去問を条文ごとに絞り込んで演習できます。この分野は改正で結論が動いた条文が集中しているので、肢を読んだら「これは改正前の枠組みではないか」を最初に疑う練習をすると、正答率が安定します。
民法・借地借家法・区分所有法など、条文だけでは判断しづらい論点は、過去問の肢で覚えるのが最短です。