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不法行為|709条の要件と特殊不法行為の整理

権利関係 読了 約23分

不法行為を条文から整理。709条の四要件、使用者責任715条と求償・逆求償の判例、工作物責任717条の二段構造、注文者の責任716条、724条の2による時効5年まで解説します。

目次

    本記事の役割 — この記事は不法行為を条文の順に整理します。契約責任である債務不履行との対比は債務不履行と損害賠償・解除、時効制度そのものの仕組みは時効|取得時効と消滅時効の要件・効果にそれぞれ譲ります。権利関係全体での位置づけは権利関係の頻出論点を参照してください。

    不法行為は、契約関係のない当事者の間に損害賠償の関係を生じさせる制度です。売買契約を結んでいない隣家の住人にも、通りすがりの歩行者にも責任が発生しうる。この点が、契約を前提とする債務不履行との根本的な違いです。

    条文の構成は明快です。709条が一般原則を置き、そこから外れる場面を710条以下が個別に手当てしている。責任能力がない者はどうするか(712条から714条)、他人を使っていた者はどうか(715条)、土地の工作物が原因ならどうか(717条)、複数人が関わったらどうか(719条)。709条を中心に、周りの条文が例外や補充を担うという構造を先に押さえてください。

    そして時効については、2020年4月1日施行の債権法改正で条文が組み替わっています。特に724条の2という新しい条文が置かれており、旧制度のまま覚えていると誤ります。ここは後で詳しく扱います。

    一般不法行為の四要件

    709条が求めるもの

    民法709条は「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」と定めます。

    この一文から四つの要件が読み取れます。故意または過失があること。他人の権利または法律上保護される利益の侵害があること。損害の発生があること。そして侵害行為と損害との間に因果関係があること。

    「権利」だけでなく「法律上保護される利益」まで含まれている点は、条文の文言として押さえておいてください。所有権のような明確な権利でなくても、法的に保護に値する利益が侵害されれば要件を満たしうるという建付けです。

    立証責任は被害者が負う

    条文の書き方から、もう一つ重要な帰結が出ます。四要件はいずれも、損害賠償を請求する側、すなわち被害者が主張・立証しなければなりません。

    709条は「故意又は過失によって……侵害した者は」という形で、故意過失を請求を基礎づける要件として書いています。したがって加害者に故意または過失があったことは、被害者の側が証明することになります。

    これが債務不履行との実務上の大きな差です。415条1項ただし書は「その債務の不履行が……債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない」という書き方で、帰責事由の不存在を債務者側が主張立証する構造になっています。

    不法行為は被害者が「あった」ことを証明し、債務不履行は債務者が「なかった」ことを証明する。この向きの違いが、後で見る請求権の競合の場面で選択の理由になります。

    責任能力と監督義務者

    責任能力を欠く者は責任を負わない

    709条の責任を負うには、責任能力が必要です。条文は二つに分かれています。

    712条は未成年者について、他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負わないと定めます。年齢で一律に線を引いてはおらず、その未成年者が弁識能力を備えていたかで判断します。

    713条は、精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態にある間に他人に損害を加えた者は、その賠償の責任を負わないと定めます。ただし書があり、故意又は過失によって一時的にその状態を招いたときは責任を免れません。飲酒などで自ら判断能力を失った場合が想定されています。

    監督義務者が代わって責任を負う

    責任無能力者が責任を負わないだけでは、被害者が救済されません。そこで714条が受け皿を置きます。

    714条1項は、前二条の規定により責任無能力者が責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う、と定めます。ただし書により、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは免責されます。

    そして2項が、監督義務者に代わって責任無能力者を監督する者も同項の責任を負うとしています。

    免責事由の立証責任は監督義務者の側にあります。709条が「あることを被害者が証明する」構造であるのに対し、714条は「なかったことを監督義務者が証明する」構造です。責任の重さが一段上がっており、これを中間責任と呼びます。

    714条が働く場面は限られている

    条文の書き出しをもう一度見てください。714条1項は「前二条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において」と始まります。

    つまり、712条・713条によって本人が免責される場合でなければ、714条は適用されません。未成年者に責任を弁識するに足りる知能が備わっていれば、本人が709条の責任を負い、714条の出番はありません。

    年齢による一律の線引きが条文にない以上、同じ年齢でも事案によって結論が分かれます。「未成年者だから監督義務者が責任を負う」という理解は正確ではなく、まず本人に弁識能力があったかを確認するという順序を踏んでください。714条は本人が責任を負わないことを前提に組まれた補充の規定です。

    損害賠償はどう算定されるか

    金銭賠償が原則

    賠償の方法について、722条1項は「第417条及び第417条の2の規定は、不法行為による損害賠償について準用する」と定めます。

    準用される417条は「損害賠償は、別段の意思表示がないときは、金銭をもってその額を定める」というもので、これが金銭賠償の原則です。原状回復ではなく金銭で賠償するのが原則で、当事者が別段の意思表示をすればそれによります。あわせて417条の2の中間利息の控除も準用されます。

    不法行為の賠償方法は、債務不履行の規定を借りてきているという構造です。722条という条文の見出し自体が「損害賠償の方法、中間利息の控除及び過失相殺」となっているとおりです。

    財産以外の損害も賠償される

    710条は「他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない」と定めます。

    いわゆる慰謝料の根拠条文です。読み落とされやすいのが「財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず」という部分で、財産権の侵害であっても財産以外の損害の賠償がありうることが明記されています。身体や名誉の侵害に限られません。

    711条はさらに進めて、「他人の生命を侵害した者は、被害者の父母、配偶者及び子に対しては、その財産権が侵害されなかった場合においても、損害の賠償をしなければならない」と定めます。近親者固有の慰謝料請求権です。

    条文の要件を正確に押さえてください。対象は生命の侵害の場合で、負傷にとどまる場合をこの条文は直接には対象にしていません。そして請求権者は父母、配偶者及び子と限定列挙されています。

    賠償の範囲

    どこまでの損害を賠償するかについて、不法行為の章には規定が置かれていません。判例は、債務不履行の賠償範囲を定める416条の趣旨を不法行為にも及ぼす立場を取っています。通常生ずべき損害に加え、特別の事情によって生じた損害については予見すべきであった場合に賠償の対象になる、という枠組みです。

    実際に賠償の対象となる損害は、慣用的に三つに分けて説明されます。治療費や修理費のように現に支出を余儀なくされた損害、休業損害や逸失利益のように得られたはずの利益を失った損害、そして710条にいう財産以外の損害です。前二者が財産的損害、最後が慰謝料にあたります。条文が明示しているのは710条の財産以外の損害だけで、財産的損害の内訳の区別は条文上のものではありません。

    過失相殺は「できる」

    722条2項は「被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる」と定めます。

    ここが債務不履行との対比で最も問われる箇所です。債務不履行の過失相殺を定める418条は「債務の不履行又はこれによる損害の発生若しくは拡大に関して債権者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の責任及びその額を定める」となっています。

    違いは二つあります。第一に、不法行為は「定めることができる」で任意的、債務不履行は「定める」で必要的です。第二に、債務不履行は「責任及びその額」を定めるので賠償責任そのものを否定できるのに対し、不法行為は「額」を定めるにとどまります。

    条文の語尾と目的語の両方が違う、という形で覚えてください。

    消滅時効は二本立て

    724条の構造

    724条は「不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する」として二つの号を置きます。

    1号が「被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき」。2号が「不法行為の時から二十年間行使しないとき」です。

    条文が「時効によって消滅する」と明記していることに意味があります。改正前は20年の期間を除斥期間と解する立場が有力で、その場合は完成猶予も更新もなく、援用も不要とされていました。現行法では両方が消滅時効なので、完成猶予や更新の規定が適用され、援用も必要になります。時効の完成猶予・更新の仕組みは時効にまとめています。

    724条の2は「読み替え規定」

    そのうえで、2020年4月1日施行の債権法改正で新設されたのが724条の2です。

    条文はこう書かれています。「人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第一号の規定の適用については、同号中『三年間』とあるのは、『五年間』とする。

    この条文の構造を正確に押さえてください。独立した時効期間を定めているのではなく、724条1号の「三年間」を「五年間」に読み替えるという規定です。したがって次のようになります。

    人の生命または身体を害する不法行為の場合、主観的起算点からの期間は3年ではなく5年になります。一方、724条2号の「不法行為の時から二十年間」はそのままです。読み替えの対象が1号に限られているからです。

    「生命・身体の侵害なら20年も延びる」という理解は誤りになります。延びるのは主観的起算点からの期間だけです。

    なお、債務不履行についても167条が同趣旨の規定を置いており、人の生命または身体の侵害による損害賠償請求権については166条1項2号の「十年間」が「二十年間」に読み替えられます。不法行為は主観の側が3年から5年へ、債務不履行は客観の側が10年から20年へ。結果として、生命身体侵害の場合は両者の時効期間が5年と20年で揃います。改正の全体像は権利関係の民法改正まとめにあります。

    使用者責任

    715条の三つの項

    715条1項は「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う」と定めます。ただし書により、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは免責されます。

    2項は、使用者に代わって事業を監督する者も前項の責任を負うとします。代理監督者の責任です。

    3項は「前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない」と定めます。

    免責事由の立証責任は使用者側にあるので、714条と同じ中間責任の構造です。もっとも、選任・監督について相当の注意をしたことの立証は実際には容易でなく、免責が認められる場面は限られると言われます。

    「事業の執行について」の広がり

    要件のうち最も争われるのが「事業の執行について」です。判例は、行為の外形から判断して職務の範囲内に属すると認められるかどうかで判断する立場を取っています。

    この立場によれば、被用者が内心では私利を図っていたとしても、外形から見て職務の範囲内と見える行為であれば使用者責任が成立しうることになります。被害者は内部事情を知りえないので、外形への信頼を保護する趣旨です。

    求償は制限され、逆向きも認められる

    3項は使用者から被用者への求償権を認めていますが、判例はこれを無制限には認めていません。最高裁昭和51年7月8日判決は、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において求償できるとしました。事業の性格、被用者の業務内容や労働条件、加害行為の態様などの事情を考慮するという枠組みです。

    そして最高裁令和2年2月28日判決は、逆向きの求償を認めました。被用者が第三者に損害を賠償した場合に、諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から相当と認められる額について、使用者に対して求償することができるとしたものです。

    条文には使用者から被用者への求償しか書かれていませんが、判例が反対方向も認めたことになります。判断の基準が両方向とも「損害の公平な分担」で共通していることに注目してください。使用者が事業活動から利益を得ている以上、損害も一方的に被用者に負わせるべきではない、という発想です。

    工作物責任

    二段構えの責任

    717条1項は「土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない」と定めます。

    構造が独特です。まず占有者が責任を負い、占有者が免責されると所有者に移る。責任の主体が段階的に移動します。

    第一段階の占有者は、損害の発生を防止するのに必要な注意をしたことを証明すれば免責されます。立証責任が転換された中間責任です。

    第二段階の所有者には、ただし書のような免責の余地が条文上ありません。したがって所有者の責任は無過失責任です。どれだけ注意を尽くしていても、占有者が免責されれば所有者が負います。

    この記事で扱う責任類型のうち、免責の余地が条文上まったくないのは工作物の所有者だけです。ここが最も出題されます。

    竹木への準用と求償

    717条2項は、前項の規定を竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合について準用します。土地の工作物ではない植栽についても、同じ二段構えが及ぶということです。

    3項は、前二項の場合において、損害の原因について他にその責任を負う者があるときは、占有者または所有者は、その者に対して求償権を行使することができると定めます。設置の瑕疵が施工業者に由来する場合などが想定されます。

    被害者に対しては占有者・所有者が責任を負い、内部的には真の原因者に求償する。被害者を早く救済しつつ、最終的な負担は原因者に回すという二段構えです。

    瑕疵の意味

    「設置又は保存に瑕疵がある」とは、その工作物が通常有すべき安全性を欠いている状態をいうと解されています。建てたときからの欠陥が設置の瑕疵、その後の維持管理の不備が保存の瑕疵にあたります。

    区分所有建物では、共用部分の瑕疵によって生じた損害の負担が問題になります。区分所有法の枠組みは区分所有法、住宅の品質確保に関する制度は住宅瑕疵担保履行法にまとめています。

    その他の特殊不法行為

    注文者は原則として責任を負わない

    716条は「注文者は、請負人がその仕事について第三者に加えた損害を賠償する責任を負わない。ただし、注文又は指図についてその注文者に過失があったときは、この限りでない」と定めます。

    715条と対比してください。使用者は被用者の行為について責任を負うのが原則ですが、注文者は請負人の行為について責任を負わないのが原則です。請負人は注文者の指揮監督に服さず、独立して仕事を完成させる立場だからです。請負と委任の違いは委任契約と請負契約にまとめています。

    ただし書の要件も正確に押さえてください。責任が生じるのは注文又は指図についての過失があった場合で、条文は「重大な過失」とはしていません。単なる過失で足ります。

    動物の占有者の責任

    718条1項は、動物の占有者は、その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負うとし、ただし書で、動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその管理をしたときは免責されるとします。2項は、占有者に代わって動物を管理する者も同項の責任を負うとしています。

    こちらも立証責任が転換された中間責任です。工作物責任と違い、所有者に責任が移る仕組みはありません。責任を負うのは占有者と管理者です。

    共同不法行為

    719条1項は「数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも、同様とする」と定めます。

    前段が狭義の共同不法行為、後段が加害者不明の場合です。後段があることで、誰が直接の加害者か特定できなくても被害者は全員に対して全額を請求できます。

    連帯して責任を負うので、被害者は加害者の誰に対しても損害の全額を請求できます。内部的な負担割合は、加害者どうしの求償の問題になります。

    2項は「行為者を教唆した者及び幇助した者は、共同行為者とみなして、前項の規定を適用する」と定めます。自ら手を下していなくても、そそのかした者や手助けした者は共同行為者として扱われます。「みなして」ですから、共同行為者に当たらないという反証は許されません。

    なお、共同不法行為者の一人が被害者に全額を賠償した場合、その者は他の共同行為者に対して負担部分に応じた求償ができると解されています。対外的には全員が全額を負い、内部的には割合で分け合うという二層構造です。連帯債務における求償の枠組みは連帯債務と保証債務にまとめています。

    違法性が阻却される場合

    720条1項は正当防衛を定め、他人の不法行為に対し、自己または第三者の権利または法律上保護される利益を防衛するため、やむを得ず加害行為をした者は損害賠償の責任を負わないとします。ただし書により、被害者から不法行為をした者に対する損害賠償の請求は妨げられません。

    2項は緊急避難について、他人の物から生じた急迫の危難を避けるためその物を損傷した場合に準用するとしています。民法の緊急避難は「他人の物」から生じた危難を避けるために「その物」を損傷する場合に限られており、刑法の緊急避難より範囲が狭い点が特徴です。

    債務不履行との違い

    同じ損害賠償請求権でも、契約責任と不法行為責任では規律が違います。試験ではこの対比が繰り返し問われます。

    立証責任は、不法行為では被害者が故意過失を立証し、債務不履行では債務者が帰責事由の不存在を立証します(415条1項ただし書)。

    消滅時効は、不法行為が知った時から3年・不法行為の時から20年(724条)で、人の生命身体を害する場合は主観の側が5年になります(724条の2)。債務不履行は権利を行使できることを知った時から5年・行使できる時から10年(166条1項)で、人の生命身体の侵害の場合は客観の側が20年になります(167条)。

    過失相殺は、不法行為が任意的で額のみ(722条2項)、債務不履行が必要的で責任及び額(418条)です。

    遅延損害金の起算点も違います。不法行為に基づく損害賠償債務は、判例により損害の発生と同時に、催告を要せず遅滞に陥るとされています(最高裁昭和37年9月4日判決)。債務不履行に基づく損害賠償債務は、期限の定めのない債務として履行の請求を受けた時から遅滞になるのが原則です。

    慰謝料については、不法行為には710条・711条という明文があります。債務不履行でも精神的損害の賠償が認められる場面はありますが、条文上の手当ての厚さが違います。

    請求権が競合する場面

    同じ事実が債務不履行と不法行為の両方の要件を満たすことがあります。判例は請求権の競合を認め、被害者はいずれの請求権も行使できるとしています。

    どちらを選ぶかは実益の問題です。立証の負担、時効期間の長短、慰謝料や遅延損害金の扱いを比べて有利なほうを選ぶことになります。「契約があるから債務不履行しか使えない」わけではないという点を押さえてください。

    不動産取引での現れ方

    説明義務違反

    宅建業者が媒介にあたって調査や説明を怠り、買主が損害を被った場合、契約関係の有無に応じて債務不履行または不法行為が問題になります。宅地建物取引業法35条の重要事項説明は行政上の義務ですが、それを怠ったことが私法上の責任を基礎づける事情になりうるという関係です。

    説明すべき事項の範囲は35条書面の記載事項一覧、業者の説明義務の広がりは宅建業者の説明義務まとめにまとめています。実際に紛争になった事例の型はトラブル事例から学ぶで扱っています。

    建物の瑕疵による事故

    外壁が剥落して通行人が負傷した、賃貸物件の設備の不具合で入居者が怪我をしたといった場面では、717条の工作物責任が正面から問題になります。

    賃貸物件であれば、まず賃借人が占有者として責任を問われ、賃借人が必要な注意をしていたと認められれば所有者である賃貸人が無過失責任を負います。賃貸借における修繕義務との関係も絡むので、民法の賃貸借とあわせて確認してください。

    売買であれば、引き渡された建物が契約の内容に適合しない場合の責任(562条以下)と、瑕疵によって生じた人身損害についての不法行為責任が、それぞれ別に問題になりえます。契約不適合責任は契約不適合責任にまとめています。

    試験での出題ポイント

    立証責任の向き

    「不法行為に基づく損害賠償を請求する場合、加害者が自己に故意又は過失がなかったことを証明しなければ責任を免れない」は誤りです。709条の構造上、故意過失は被害者が立証します。債務不履行と向きが逆であることを確認してください。

    過失相殺の語尾

    「不法行為において被害者に過失があったときは、裁判所はこれを考慮して損害賠償の責任及びその額を定めなければならない」は誤りです。722条2項は「損害賠償のを定めることができる」であり、責任そのものを否定する余地も、必ず考慮すべき義務もありません。418条との語尾と目的語の違いが狙われます。

    724条の2の読み替え範囲

    「人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権は、不法行為の時から二十年ではなく三十年で時効消滅する」といった記述は誤りです。724条の2が読み替えるのは724条1号の三年間だけで、2号の二十年間は変わりません。

    工作物責任の主体と性質

    「土地の工作物の設置に瑕疵がある場合、所有者は必要な注意をしたことを証明すれば責任を免れる」は誤りです。免責の余地があるのは占有者で、所有者の責任は無過失責任です。逆に「占有者は無過失責任を負う」も誤りになります。

    注文者の責任の要件

    「注文者は、注文又は指図について重大な過失があったときに限り、請負人が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う」は誤りです。716条ただし書は「過失があったとき」であり、重大な過失に限定していません。

    近親者の慰謝料の要件

    「他人の身体を害した者は、被害者の父母、配偶者及び子に対して損害を賠償しなければならない」は、711条が「他人の生命を侵害した者は」としている以上、条文の引用としては正確ではありません。請求権者が父母・配偶者・子に限定されていることもあわせて押さえてください。

    求償の方向

    「使用者は、被害者に賠償した全額について当然に被用者に求償することができる」は誤りです。判例は損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度に制限しています。また、被用者から使用者への逆求償も判例上認められています。

    覚え方・整理の仕方

    免責の余地で責任を三段に分ける

    特殊不法行為が多くて混乱する場合は、免責の余地がどれだけあるかで三段に並べてください。

    免責の余地が広いのが709条の過失責任です。故意も過失もなければ責任を負いません。中間にあるのが立証責任の転換された中間責任で、714条の監督義務者、715条の使用者、717条1項本文の占有者、718条の動物の占有者がここに入ります。免責事由はあるが、その立証は責任を負う側がしなければなりません。最も重いのが無過失責任で、717条1項ただし書の所有者だけがここに来ます。

    「無過失責任は工作物の所有者だけ」と一つ覚えれば、他は中間責任だと整理できます。

    「原則負う」か「原則負わない」か

    715条と716条は対になっています。使用者は原則として責任を負い、注文者は原則として責任を負わない。

    理由から覚えてください。被用者は使用者の指揮監督に服して働くので、その行為から生じた損害も使用者の事業活動の帰結です。これに対して請負人は独立して仕事を完成させる立場で、注文者の手足ではありません。指揮監督があるかどうかが分かれ目です。

    だから716条ただし書は「注文又は指図についての過失」という、注文者自身の関与を要件にしています。

    時効は「主観と客観」の格子で並べる

    時効の数字は、主観的起算点と客観的起算点の二列で並べると混線しません。

    不法行為は、主観が3年、客観が20年。生命身体を害する場合は主観だけが5年になります(724条の2)。債務不履行は、主観が5年、客観が10年。生命身体の侵害の場合は客観だけが20年になります(167条)。

    通常時は不法行為が「3と20」、債務不履行が「5と10」。生命身体が絡むと両方が「5と20」で一致する。この収束の仕方を知っておくと、四つの数字を別々に覚える必要がなくなります。

    過失相殺は「額だけ・できる」

    722条2項と418条の違いは、二語で覚えます。不法行為は「額」を「できる」、債務不履行は「責任及びその額」を「定める」。

    理由も筋が通っています。契約関係にある当事者どうしなら、債権者の落ち度を全面的に考慮して責任自体を否定することもありうる。他方、突然損害を被った不法行為の被害者について責任をゼロにするのは酷なので、額の調整にとどめる。関係の濃さの違いが、調整の幅の違いになっていると理解してください。

    判例は「公平な分担」で貫かれている

    使用者責任の求償をめぐる二つの判例は、どちらも同じ言葉を使っています。損害の公平な分担です。

    使用者から被用者への求償を信義則上相当な限度に制限したのも(最高裁昭和51年7月8日判決)、被用者から使用者への逆求償を認めたのも(最高裁令和2年2月28日判決)、この一つの発想から出ています。事業から利益を得る者が損害も相応に負担すべきという考え方です。

    判例の結論を二つ別々に暗記するより、貫いている理由を一つ覚えて両方を導くほうが確実です。

    理解度チェッククイズ

    問1 人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権は、被害者が損害及び加害者を知った時から5年間行使しないとき、また不法行為の時から30年間行使しないときに、時効によって消滅する。

    答え:×。民法724条の2は「前条第一号の規定の適用については、同号中『三年間』とあるのは、『五年間』とする」と定めており、読み替えの対象は724条1号(主観的起算点からの3年)だけです。2号の「不法行為の時から二十年間」は読み替えられません。したがって、人の生命または身体を害する不法行為の場合でも客観的起算点からの期間は20年のままです。なお724条は柱書で「時効によって消滅する」と明記しており、20年の期間も除斥期間ではなく消滅時効なので、完成猶予と更新の規定が適用されます。

    問2 土地の工作物の設置に瑕疵があることによって他人に損害が生じた場合、その工作物の所有者は、損害の発生を防止するのに必要な注意をしたことを証明すれば、損害賠償の責任を免れる。

    答え:×。717条1項は、まず占有者が責任を負うとし、ただし書で「占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない」と定めています。必要な注意をしたことによる免責が認められるのは占有者であって、所有者ではありません。所有者の責任は無過失責任であり、注意を尽くしていても責任を免れません。占有者と所有者を入れ替えた選択肢が繰り返し出題されます。

    問3 注文者は、請負人がその仕事について第三者に加えた損害について、注文又は指図に重大な過失があった場合に限り、賠償する責任を負う。

    答え:×。716条は「注文者は、請負人がその仕事について第三者に加えた損害を賠償する責任を負わない。ただし、注文又は指図についてその注文者に過失があったときは、この限りでない」と定めており、重大な過失に限定していません。単なる過失があれば責任を負います。原則として責任を負わない点は正しいので、ただし書の要件の重さだけをずらした選択肢に注意してください。使用者が原則として責任を負う715条との対比も押さえておきましょう。

    問4 不法行為において被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の責任及びその額を定めなければならない。

    答え:×。722条2項は「被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償のを定めることができる」と定めています。定める対象は「額」だけで、責任そのものを否定することはできず、しかも考慮するかどうかは裁判所の裁量です。「責任及びその額」を「定める」と必要的に規定しているのは、債務不履行の過失相殺を定める418条のほうです。

    問5 被用者が第三者に損害を加え、被用者自身がその損害を賠償した場合、被用者は使用者に対して求償することができる。

    答え:○。民法715条3項は使用者から被用者への求償権しか規定していませんが、最高裁令和2年2月28日判決は、被用者が第三者に損害を賠償した場合に、諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から相当と認められる額について、使用者に対して求償することができるとしました。いわゆる逆求償です。なお使用者から被用者への求償についても、最高裁昭和51年7月8日判決が損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度に制限しており、両方向とも同じ発想で調整されています。

    まとめ

    • 709条の四要件は故意または過失、権利または法律上保護される利益の侵害、損害の発生、因果関係で、いずれも被害者が立証します。債務不履行が債務者に帰責事由の不存在を立証させる(415条1項ただし書)のと向きが逆です。賠償は金銭が原則で(722条1項による417条の準用)、財産以外の損害も賠償され(710条)、生命侵害の場合は父母・配偶者・子に固有の請求権があります(711条)。
    • 消滅時効は知った時から3年、不法行為の時から20年(724条)。724条の2は724条1号の「三年間」を「五年間」に読み替える規定なので、人の生命または身体を害する不法行為でも20年は変わりません。20年も消滅時効なので完成猶予と更新が働きます。過失相殺は「額」を「定めることができる」(722条2項)で、418条とは語尾も目的語も違います。
    • 特殊不法行為は免責の余地で並べます。監督義務者(714条)、使用者(715条)、工作物の占有者(717条1項本文)、動物の占有者(718条)はいずれも立証責任が転換された中間責任で、免責の余地が条文上ないのは工作物の所有者だけです。注文者は原則として責任を負わず、注文または指図に過失があったときに限り責任を負います(716条)。

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    読んだ内容を、権利関係の肢で確かめる

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