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法定地上権の成立要件|判例で理解する4つの条件

権利関係 読了 約25分

宅建試験で頻出の法定地上権の成立要件を判例とともに解説。抵当権設定時の4要件、更地・再築・共有・未登記建物の処理、一括競売との違い、借地借家法の適用まで整理します。

目次

    この記事は、抵当権の学習の中でも判例の蓄積がとくに厚い「法定地上権」を、条文の要件から個別判例の結論まで一本の筋で追えるようにまとめたものです。抵当権そのものの仕組みは抵当権の基本と頻出論点で、実行手続と配当の計算は抵当権の実行と配当で扱っています。本記事はその中の法定地上権だけを深く掘る位置づけです。

    結論を先に述べます。法定地上権の成否は、ほぼすべてが「抵当権を設定した時点で、土地の上に建物があったか」「その土地と建物の所有者が同じだったか」の二点に還元されます。試験で出される複雑な事例も、この二つを設定時点に巻き戻して確認すれば答えが出ます。判例が分かれるのは、この二点の判断がぶれる場面、すなわち建物の再築、所有者が途中で変わった場合、そして共有が絡む場合の三つに集中しています。逆に言えば、その三つの型さえ押さえれば、法定地上権は得点源になります。

    法定地上権とは何か

    土地と建物を別個の不動産とする日本法の構造

    法定地上権を理解するには、まず日本の不動産法の出発点を確認する必要があります。日本の民法は、土地と建物をそれぞれ独立した別個の不動産として扱います。建物は土地の一部ではなく、土地とは別に所有権が成立し、別に登記され、別に売買や担保設定の対象になります。この仕組みは不動産登記法でも、土地の登記記録と建物の登記記録が別々に編成されていることに表れています。

    多くの国では建物は土地に付合し、土地の所有者が建物の所有者にもなります。その仕組みであれば、土地が競売されても建物は土地と運命をともにするため、建物だけが宙に浮くという事態は起きません。ところが日本法では、土地と建物が別々に処分されうるため、両者の所有者がずれる瞬間が生じます。所有者がずれたとき、建物の所有者は他人の土地の上に建物を置いていることになりますから、土地を使う権利がなければ建物を収去して土地を明け渡さなければなりません。

    自分の土地に自分の建物を建てているときの空白

    ここで問題になるのが、同一人が土地と建物の両方を所有している場合です。自分の土地に自分の建物を建てているとき、その人は自分に対して借地権を設定することはできません。自分と自分の間で賃貸借契約や地上権設定契約を結ぶことは、法律上意味がないからです。したがって、土地と建物が同一所有者に属している間、建物のための土地利用権は存在しません。存在する必要がないので存在しないのです。

    ところが抵当権が実行され、土地だけが競売されて別人のものになると、この空白が一気に表面化します。建物には土地を使う権利が何もついていないため、新しい土地所有者は建物所有者に対して建物の収去と土地の明渡しを請求できてしまいます。まだ十分に使える建物が取り壊されることになり、社会全体として大きな損失です。

    民法388条が用意した解決

    そこで民法は、この空白を法律の力で埋めることにしました。民法388条前段は「土地及びその上に存する建物が同一の所有者に属する場合において、その土地又は建物につき抵当権が設定され、その実行により所有者を異にするに至ったときは、その建物について、地上権が設定されたものとみなす」と定めています。当事者が合意していなくても、法律の規定によって地上権が発生したものとして扱う。これが法定地上権です。

    同条後段は「この場合において、地代は、当事者の請求により、裁判所が定める」と続きます。ただで使えるわけではなく、対価は必要だが、その額は裁判所が決められるという建て付けです。

    ここから重要な帰結が導かれます。法定地上権は建物を保護する制度ですが、同時に土地の抵当権者の担保価値を奪う制度でもあります。法定地上権つきの土地は、更地に比べて価値が大きく下がるからです。したがって民法は、抵当権者が「この土地には法定地上権が付くかもしれない」とあらかじめ織り込める場面に限って法定地上権を認めることにしました。抵当権を設定した時点を基準に判断するのは、この理由によります。制度趣旨から要件が導かれるという関係を、最初に押さえてください。

    なお、法定地上権と同じ発想の規定は民事執行法81条にもあります。抵当権の実行ではなく、一般債権者による強制競売で土地または建物が売却され、所有者が異なるに至った場合にも地上権が設定されたものとみなされます。宅建試験で正面から問われることは多くありませんが、法定地上権が抵当権に限った特殊な制度ではないことは知っておくとよいでしょう。

    4つの成立要件

    法定地上権が成立するには、次の4つをすべて満たす必要があります。一つでも欠ければ成立しません。

    要件1 抵当権設定当時に土地の上に建物が存在すること

    抵当権を設定した時点で、その土地の上に建物が建っていることが必要です。ここでいう建物は、社会通念上の建物といえる程度に完成していれば足り、登記の有無は問いません。

    この要件が置かれている理由は、抵当権者の予測可能性にあります。建物が建っている土地に抵当権を設定する抵当権者は、その土地が更地としてではなく建物の敷地として評価されることを当然に見込んでいます。法定地上権が発生しても、抵当権者の想定を裏切りません。逆に、何も建っていない更地に抵当権を設定した抵当権者は、更地としての高い評価額を前提に融資額を決めています。あとから建物が建ち、そこに法定地上権まで発生してしまえば、担保価値は根こそぎ失われます。それでは融資の基礎が崩れるため、更地の場合は法定地上権を認めないのです。

    要件2 抵当権設定当時に土地と建物が同一の所有者に属すること

    抵当権を設定した時点で、土地の所有者と建物の所有者が同じ人であることが必要です。

    この要件の理由は、要件1とは別のところにあります。もし抵当権設定当時に土地と建物の所有者が異なっていたのなら、建物の所有者はすでに賃借権や地上権といった何らかの土地利用権を持っているはずです。持っていなければ、そもそもその建物は不法占拠の状態にあります。すでに土地利用権があるのなら、それを競売後も維持すればよいだけで、わざわざ法律が新しい地上権を作り出す必要はありません。既存の借地権が競売後も守られるかどうかは対抗要件の問題であり、借地権の対抗要件で扱う建物登記による対抗の話になります。

    つまり要件2は、「土地利用権を作る必要がある場面かどうか」を仕分けるための要件です。既存の利用権があるなら法定地上権の出番はない、という整理になります。

    要件3 土地または建物に抵当権が設定されたこと

    抵当権が設定されている対象は、土地だけでも、建物だけでも、土地と建物の両方でもかまいません。条文が「その土地又は建物につき抵当権が設定され」と書いているとおりです。

    土地だけに抵当権が設定され、それが実行されて土地が競落された場合、建物の所有者は元の所有者のままですから、建物のために法定地上権が成立します。建物だけに抵当権が設定され、それが実行されて建物が競落された場合は、建物の新しい所有者のために法定地上権が成立します。土地と建物の両方に抵当権が設定されている場合でも、実行の結果として所有者が分かれたのであれば法定地上権は成立しえます。

    ここは試験で狙われやすい箇所です。「建物のみに抵当権が設定された場合には法定地上権は成立しない」という選択肢は誤りです。条文が「土地又は建物」と並列で書いていることを、そのまま覚えてください。なお、根抵当権が設定されている場合も同じ扱いです。根抵当権の仕組み自体は根抵当権と抵当権の違いにまとめています。

    要件4 競売の結果、土地と建物の所有者が異なるに至ったこと

    抵当権の実行としての競売によって、土地と建物の所有者が実際に別人になることが必要です。

    競売が行われても、たまたま同じ人が土地と建物の両方を買い受けた場合には、所有者は依然として同一ですから法定地上権は成立しません。所有者が同じである限り、土地利用権を観念する必要がないという要件2と同じ理屈です。もっとも、その後にその人が土地だけを第三者に売った場合には、法定地上権とは別の問題として、建物のための土地利用権をどう構成するかという議論が出てきます。宅建試験のレベルではここまで踏み込む必要はありません。

    この節の要点

    • 4要件は「建物の存在」「所有者の同一」「抵当権の設定」「競売による所有者の分離」の4つ。
    • 要件1と要件2はいずれも抵当権設定当時を基準に判断する。
    • 抵当権の対象は土地でも建物でも双方でもよい。ここを限定する記述は誤り。

    要件1をめぐる判例

    要件1、すなわち建物の存在をめぐっては、更地と再築という二つの型が繰り返し出題されます。

    更地に抵当権を設定した後に建物を建てた場合

    結論から言えば、法定地上権は成立しません。抵当権設定当時に建物が存在しなかった以上、要件1を満たさないからです。

    この場面で試験がよく仕掛けてくるのが、「抵当権者が建物の築造をあらかじめ承諾していた場合はどうか」という論点です。判例は、抵当権設定当時に更地であった以上、抵当権者が将来建物が建てられることを承認していたとしても法定地上権は成立しない、としています(最判昭36.2.10)。抵当権者の個別の内心や合意によって法定地上権の成否が左右されると、競売に参加する第三者から見て土地の担保価値が予測できなくなるからです。法定地上権は当事者の合意で作る権利ではなく、外形的な事実から一律に成否が決まる制度である、という性格がここに表れています。

    したがって、「抵当権者が建物の建築を承諾していたので法定地上権が成立する」という選択肢は誤りです。承諾の有無は結論を変えません。

    抵当権設定後に建物が滅失し、再築された場合

    抵当権設定当時には建物が存在していたものの、その建物が取り壊されたり焼失したりして、新しい建物が建てられたという場面です。ここで結論が二つに分かれます。分岐点は、抵当権が土地だけに設定されていたのか、土地と建物の両方に設定されていたのかです。

    土地だけに抵当権が設定されていた場合の再築

    土地のみに抵当権が設定されていた場合、建物が再築されても法定地上権は成立します。判例は大審院の時代から、この場合に法定地上権の成立を認めてきました。

    理由は担保価値の把握のしかたにあります。土地だけに抵当権を設定した抵当権者は、その土地の上に建物が建っていることを前提に、法定地上権の負担がついた土地としての価値を把握しています。建物が新しくなっても、土地に法定地上権の負担があるという状態自体は変わりません。抵当権者の予測は裏切られないのです。

    ただし、成立する法定地上権の内容は、あくまで旧建物を基準として定まるとされています。新しい建物が旧建物よりはるかに大きく堅固なものになったとしても、法定地上権の存続期間や範囲が新建物に合わせて拡張されるわけではありません。抵当権者が把握していた負担の大きさを超えて権利が膨らむことはない、という発想です。

    土地と建物の両方に共同抵当が設定されていた場合の再築

    これに対し、土地と建物の両方に抵当権が設定されていた場合、すなわち共同抵当の場合には、建物が取り壊されて再築されても、原則として新建物のための法定地上権は成立しません(最判平9.2.14)。

    判旨の考え方は次のとおりです。土地と建物の両方に共同抵当を設定した抵当権者は、土地と建物を一体としてその全体の価値を把握しています。土地については法定地上権の負担がない状態の価値を、建物については建物自体の価値を、合わせて担保にとっているという理解です。ところが建物が取り壊されると、建物の抵当権は目的物の滅失によって消滅します。にもかかわらず新建物のために法定地上権の成立を認めると、抵当権者は建物の担保価値を失ったうえに、残った土地までも法定地上権の負担つきの安い土地になってしまいます。二重に価値を奪われることになり、それでは共同抵当をとった意味がありません。この全体価値考慮説と呼ばれる考え方から、判例は原則として不成立という結論を導きました。

    もっとも判例は例外を完全に閉ざしてはおらず、新建物の所有者が土地の所有者と同一であり、かつ新建物について土地の抵当権と同順位の共同抵当が設定されたなど、抵当権者が把握していた担保価値が損なわれない特段の事情がある場合には、法定地上権が成立する余地を認めています。宅建試験では原則の側、すなわち「共同抵当の再築は原則不成立」を答えられれば十分です。

    この節の要点

    • 更地への抵当権設定後に建物を建てても不成立。抵当権者の承諾があっても結論は変わらない。
    • 再築は、土地のみの抵当権なら成立(内容は旧建物基準)、共同抵当なら原則不成立。
    • 分岐点は「建物にも抵当権がついていたか」。ここだけを見れば判別できる。

    要件2をめぐる判例

    要件2、すなわち所有者の同一性をめぐっては、途中で所有者が変わった場合、建物が未登記の場合、共有が絡む場合の三つが問われます。

    抵当権設定当時は所有者が異なり、その後同一になった場合

    抵当権を設定した時点では土地と建物の所有者が別人だったが、その後に一方が他方を買い取るなどして同一人の所有になり、さらに後順位の抵当権が設定された、という場面です。ここで基準になるのはどの時点か、という問題になります。

    土地に抵当権が設定されている場合、判例は1番抵当権の設定時を基準とします。土地について1番抵当権が設定された当時、土地と建物の所有者が異なっていて法定地上権の要件を満たしていなかったのであれば、その後に同一人の所有となって2番抵当権が設定されたとしても、1番抵当権が実行された競売において法定地上権は成立しません(最判平2.1.22)。1番抵当権者は、法定地上権の負担がない土地として担保価値を把握していたのであり、その期待を後から覆すことはできないからです。

    これに対し、建物に抵当権が設定されている場合は結論が逆になります。建物について1番抵当権が設定された当時は土地と建物の所有者が異なっていたが、その後に同一人の所有となり、2番抵当権が設定されたのちに競売された場合、法定地上権は成立するとされています(最判昭53.9.29)。建物の抵当権者にとっては、法定地上権が成立するほうが建物の担保価値が高まり有利であって、不利益を受ける者がいないからです。土地の抵当権者の期待を害するわけでもありません。

    この土地と建物の非対称は、暗記ではなく理由から導いてください。「誰の期待を守るための基準か」を考えれば、土地抵当なら1番抵当権者の期待を守るために厳しく、建物抵当なら誰も害されないので緩やかになる、と自然に整理できます。

    建物が未登記の場合

    抵当権設定当時に土地の上に建物が存在していたものの、その建物が未登記だった場合はどうなるか。判例は、建物が未登記であっても法定地上権は成立するとしています。

    要件1が求めているのは建物という物理的な存在であって、建物の登記ではありません。同様に、建物の登記名義が前の所有者のままになっていて、実際の所有者と登記名義人が食い違っている場合でも、実質的に土地と建物が同一人に帰属していれば要件2は満たされ、法定地上権は成立するとされています。

    ここで混乱しやすいのが、物権変動と対抗要件で学ぶ登記の役割との関係です。登記は、権利の取得を第三者に対抗するための要件であって、権利が成立するための要件ではありません。法定地上権の成立要件を判断する場面では、登記記録ではなく実体としての所有関係を見ます。この切り分けができていれば、「建物が未登記なので法定地上権は成立しない」という選択肢は迷わず切れます。

    土地が共有の場合

    土地が複数人の共有で、その上に共有者の一人が単独で所有する建物が建っている、という場面です。土地共有者の一人が自分の持分に抵当権を設定し、それが実行された場合、法定地上権は成立しません(最判昭29.12.23ほか)。

    理由は共有の基本構造にあります。法定地上権が成立すると、土地全体が地上権の負担を負うことになります。しかし抵当権を設定したのは共有者の一人にすぎず、他の共有者は何ら関与していません。持分に抵当権を設定した一人の行為によって、他の共有者の持分にまで地上権という重い負担を押しつけることは許されない、というのが判例の考え方です。共有物に対する処分や負担の設定に共有者全員の同意を要する構造については、共有の法律関係で扱う持分と管理のルールがそのまま効いてきます。

    土地も建物も同じ複数人の共有である場合に、土地共有者の一人の持分について抵当権が設定され実行されたときも、同じ理由から法定地上権は成立しないとされています(最判平6.4.7)。

    建物が共有の場合

    逆に、建物が複数人の共有で、土地は建物共有者の一人が単独で所有している、という場面では結論が変わります。その土地に抵当権が設定され実行された場合、法定地上権は成立します(最判昭46.12.21)。

    理由は、土地所有者の意思にあります。自分の土地の上に、自分を含む複数人の共有建物が建っていることを土地所有者は認めていたのですから、他の建物共有者のためにも土地の利用を認めていたと評価できます。法定地上権を成立させても、負担を受けるのは土地を単独で所有していた本人であり、意思に反して不利益を受ける第三者はいません。

    この節の要点

    • 途中で所有者が同一になった場合、土地抵当は1番抵当権設定時が基準で不成立、建物抵当は成立。
    • 建物が未登記でも、登記名義が前主のままでも法定地上権は成立する。
    • 共有は土地共有なら不成立、建物共有なら成立。負担を押しつけられる第三者がいるかで分かれる。

    法定地上権の内容

    成立要件を満たすとして、では成立した法定地上権はどのような中身の権利なのか。要件ばかりが問われがちですが、内容も出題対象です。

    権利の性質と範囲

    法定地上権は、その名のとおり地上権です。地上権は他人の土地において工作物または竹木を所有するために土地を使用する物権であり、賃借権とは異なり物権であるため、譲渡や転貸に土地所有者の承諾を要しません。地上権と地役権、永小作権の違いは地上権・地役権・永小作権で比較しています。賃借権との性質の違いは民法の賃貸借と読み比べると輪郭がはっきりします。

    範囲は、建物が現に建っている部分だけに限られるわけではありません。判例は、建物の利用に必要な範囲、すなわち建物を使用するうえで通常必要とされる周囲の土地にも法定地上権が及ぶとしています。玄関前の通路や建物を維持管理するための空地が含まれるという理解です。

    存続期間

    存続期間は借地借家法によって定まります。法定地上権は建物の所有を目的とする地上権ですから、借地借家法2条1号にいう借地権にあたります。そして借地借家法3条は借地権の存続期間を30年とし、契約でこれより長い期間を定めたときはその期間によるとしています。法定地上権は契約で成立するものではなく期間の定めがありませんから、30年ということになります。

    ただし前述のとおり、建物が再築された場合の法定地上権は旧建物を基準として内容が定まりますから、期間の起算や範囲について旧建物を前提とした制約がかかることに注意してください。

    地代

    地代は当事者の請求により裁判所が定めます(民法388条後段)。当事者間で協議が調えばその額によることは当然ですが、条文が明示しているのは裁判所が定めるという道筋です。当事者が合意できないから法律が地上権を作り出しているのであって、対価だけ合意に委ねると制度が機能しません。「地代について合意がなければ無償である」という記述は誤りです。

    対抗要件

    法定地上権は競売によって当然に発生するものですから、その競売で土地を買い受けた者との関係では、登記がなくても法定地上権の成立を主張できます。買受人は法定地上権の負担があることを前提に土地を取得しているからです。

    一方で、その後に土地がさらに第三者に譲渡された場合には、対抗要件の問題になります。地上権の登記があれば当然に対抗できますし、登記がなくても、借地借家法10条1項により、借地権者が土地の上に登記されている建物を所有しているときは借地権を第三者に対抗できます。この建物登記による対抗の仕組みは借地権の対抗要件に詳しくまとめています。

    「法定地上権は登記がなければ誰にも対抗できない」という選択肢は誤りですが、「常にいかなる第三者にも登記なしで対抗できる」という言い方も正確ではありません。買受人との関係と、その後の譲受人との関係を分けて考えるのが正しい整理です。

    特約で成立を排除できるか

    抵当権を設定するとき、抵当権設定者と抵当権者との間で「この抵当権が実行されても法定地上権は成立しないものとする」という特約を結んでおけば、法定地上権を封じられるのではないか。実務上そう考えたくなる場面はありますが、こうした特約は無効と解されています。

    理由は民法388条の趣旨にあります。法定地上権は、当事者の利害調整のためだけの制度ではなく、まだ使える建物が取り壊されることによる社会全体の損失を防ぐという公益的な目的を持っています。当事者の合意で自由に排除できるとすれば、融資を受ける側は立場が弱いために特約を飲まされることになり、制度が骨抜きになってしまいます。そのため388条は強行規定であり、あらかじめ法定地上権の成立を排除する特約は効力を生じないと理解されています。

    このことは、法定地上権の成否が外形的な事実だけで決まるという先ほどの性格とも一貫しています。抵当権者が建物の建築を承諾していても更地なら成立しない一方で、要件を満たしていれば当事者が排除を合意していても成立する。合意は成立の方向にも不成立の方向にも働かない、と覚えておくと整理しやすくなります。

    この節の要点

    • 存続期間は借地借家法3条により30年、地代は当事者の請求により裁判所が定める。
    • 買受人との関係では登記不要。その後の第三者には地上権の登記または建物の登記で対抗する。
    • 成立を排除する特約は無効。合意によって成否を動かすことはできない。

    一括競売との違い

    法定地上権とセットで問われるのが、民法389条の一括競売です。両者は更地に抵当権を設定した場合を接点として結びついています。

    制度が働く場面

    法定地上権は、抵当権設定当時に建物が存在していた場合に建物を守るための制度です。これに対し一括競売は、抵当権設定当時は更地であり、その後に建物が築造された場合に土地の抵当権者を助けるための制度です。

    更地に抵当権を設定した後に建物が建ってしまうと、土地の抵当権者は困った状況に置かれます。法定地上権は成立しないので建物には土地利用権がありませんが、それでも建物が建っている土地は買い手がつきにくく、実際上の売却価値は下がります。買受人が自分で建物収去の訴訟を起こさなければならないからです。そこで民法389条1項は「抵当権の設定後に抵当地に建物が築造されたときは、抵当権者は、土地とともにその建物を競売することができる」と定め、建物も巻き込んで一括して売却する道を開きました。

    誰が建てた建物でもよい

    かつては抵当権設定者自身が築造した建物であることが要件とされていましたが、現行の389条1項にその限定はありません。第三者が築造した建物であっても一括競売の対象になります。

    ただし例外があります。389条2項は、その建物の所有者が抵当地を占有することについて抵当権者に対抗できる権利を有する場合には一括競売の規定を適用しないと定めています。抵当権に対抗できる土地利用権を持っている建物所有者まで巻き込むことはできない、という当然の制限です。

    優先弁済を受けられる範囲

    もっとも重要な違いはここです。389条1項ただし書は「その優先権は、土地の代価についてのみ行使することができる」と定めています。抵当権者が優先弁済を受けられるのは土地の売却代金からだけであり、建物の売却代金は建物所有者に帰属します。抵当権の目的はあくまで土地であって建物ではない以上、当然の帰結です。

    「一括競売をすれば抵当権者は建物の代金からも優先弁済を受けられる」という選択肢は誤りです。ここは繰り返し狙われます。

    義務ではなく権利

    条文は「競売することができる」と書いています。一括競売をするかどうかは抵当権者の選択であり、義務ではありません。土地だけを競売することもできます。「更地に抵当権を設定した後に建物が築造された場合、抵当権者は一括競売をしなければならない」という記述は誤りです。

    この節の要点

    • 法定地上権は建物保護、一括競売は土地抵当権者の救済。働く場面が逆。
    • 一括競売の対象は第三者が建てた建物でもよいが、抵当権に対抗できる利用権があるときは適用外。
    • 優先弁済は土地の代価のみ。一括競売は権利であって義務ではない。

    借地借家法の適用

    法定地上権が成立したあと、その権利は借地借家法の枠組みの中で扱われます。ここを落とすと、存続期間や更新の出題に対応できません。

    法定地上権は建物の所有を目的とする地上権ですから、借地借家法2条1号の借地権に該当します。借地権に該当する以上、存続期間は借地借家法3条により30年となり、期間満了後の更新についても借地借家法5条、6条の規定が適用されます。借地権者が更新を請求し、建物がある場合には、土地所有者が正当の事由をもって遅滞なく異議を述べない限り、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなされます。借地借家法の全体像は借地借家法の要点整理にまとめており、普通借地権と定期借地権の違いは普通借地権と定期借地権で扱っています。

    なお、法定地上権が定期借地権になることはありません。定期借地権は当事者が契約で更新排除等の特約を定めることによって成立するものであり、法律の規定によって当然に発生する法定地上権とは成立の仕方が根本的に異なるからです。「法定地上権は50年で当然に消滅する」といった記述は誤りです。

    建物が朽廃した場合や、期間中に建物が滅失した場合の扱いも借地借家法の規律によります。細部まで宅建試験で問われることは多くありませんが、法定地上権は民法388条で発生した後は借地権として扱われる、という接続だけは押さえてください。

    試験での出題ポイント

    事例を時系列に並べ替えて解く

    法定地上権の問題は、事実が時系列で並んでいないことがよくあります。「Aは甲土地を所有していた。Bは甲土地に抵当権の設定を受けた。その前にAは甲土地上に乙建物を建築していた」といった順序で書かれると、設定時点に建物があったのかどうかが一瞬わかりにくくなります。

    解き方は単純です。抵当権設定の時点に線を引き、その線より前に起きた事実だけを拾って、建物があったか、所有者が同一だったかを確認する。それだけです。線より後に起きた事実は、原則として成否に影響しません。所有者がその後変わっても、建物が建っても、結論は動かない。この作業手順を身体に覚え込ませてください。

    抵当権の対象を限定する記述を疑う

    「土地に抵当権が設定された場合に限り法定地上権が成立する」「建物のみへの抵当権設定では法定地上権は成立しない」といった、抵当権の対象を狭める記述は誤りです。条文が「土地又は建物」と書いていることを根拠に切ってください。

    抵当権者の承諾を持ち出す記述を疑う

    「抵当権者が建物の建築を承諾していたので法定地上権が成立する」というパターンです。更地であった以上、承諾があっても成立しません(最判昭36.2.10)。逆に「抵当権者が反対していたので成立しない」という記述も誤りで、要件を満たせば抵当権者の意思にかかわらず成立します。法定地上権は合意ではなく法律の規定によって発生する、という性格を思い出してください。

    登記を成立要件にすり替える記述を疑う

    「建物が未登記であるため法定地上権は成立しない」「法定地上権は登記しなければ買受人に対抗できない」という二つが典型です。前者は成立要件の問題で、登記は要件ではないので誤り。後者は対抗の問題で、買受人との関係では登記なしで主張できるので誤りです。登記の役割については不動産登記法と併せて確認しておくと混乱しません。

    共有と再築は結論の向きを覚える

    共有と再築は、成立と不成立の両方向の判例があるため、逆に覚えていると必ず失点します。共有は土地共有が不成立、建物共有が成立。再築は土地のみの抵当権が成立、共同抵当が原則不成立。この四つの向きだけは確実にしてください。権利関係全体でどの論点にどれだけ時間をかけるべきかは権利関係の頻出論点ランキングも参考になります。

    覚え方・整理の仕方

    4要件は「建・同・抵・異」

    成立要件の4つは、順に「建物の存在」「所有者の同一」「抵当権の設定」「所有者が異なるに至った」です。頭文字をつなげて「建・同・抵・異(けん・どう・てい・い)」と唱えると抜けにくくなります。並び順が時系列とも一致しているので、事例を読みながら順に潰していけます。他の論点の語呂は民法の語呂合わせ集にまとめています。

    判断の手順を三段で固定する

    事例問題は次の三段で処理します。

    1. 抵当権設定の時点を特定する。複数の抵当権があるときは、土地の抵当権なら1番抵当権の設定時、建物の抵当権なら実行される抵当権の設定時を見る。
    2. その時点で建物があったか、所有者が同一だったかを確認する。片方でも欠ければそこで不成立。
    3. 両方満たしていれば、競売で所有者が分かれたかを確認する。分かれていれば成立。

    この三段で、標準的な出題はほぼ処理できます。

    誰が損をするかで判例の向きを思い出す

    判例の結論を丸暗記しようとすると、共有と再築で必ず混乱します。代わりに「法定地上権を成立させたとき、想定外の不利益を受ける人がいるか」を考えてください。

    土地共有の場合、抵当権設定に関与していない他の共有者が負担を負う。だから不成立。建物共有の場合、負担を負うのは自ら土地を提供していた本人だけ。だから成立。共同抵当の再築の場合、建物の担保価値を失った抵当権者が土地の価値まで削られる。だから不成立。土地のみの抵当権の再築の場合、抵当権者はもともと法定地上権の負担つきで評価していた。だから成立。すべて同じ問いから導けます。

    更地は二枚看板で覚える

    更地に抵当権を設定した後に建物が建った場合、法定地上権は成立しないが一括競売はできる。この二つを常にセットで思い出すようにすると、片方だけ問われても迷いません。「更地なら法定地上権なし、代わりに一括競売あり、ただし優先弁済は土地の代価のみ」と、三つ続けて言えるようにしておくと万全です。

    理解度チェッククイズ

    Q1. Aが所有する更地である甲土地にBの抵当権が設定された後、Aが甲土地上に乙建物を建築した。Bが抵当権を実行し、Cが甲土地を買い受けた場合、乙建物のために法定地上権が成立する。

    答えを見る **× 誤り。** 抵当権設定当時に甲土地上に建物が存在していないため、要件1を満たしません。更地に抵当権が設定された場合、その後に建物が建築されても法定地上権は成立しません。抵当権者Bは更地としての価値を把握して融資しているからです。この場合、Bは民法389条により土地とともに乙建物を競売することができますが、優先弁済を受けられるのは土地の代価からのみです。

    Q2. Aが所有する甲土地上のA所有の乙建物について、Bのために抵当権が設定された。抵当権が実行されてCが乙建物を買い受けた場合、乙建物のために法定地上権が成立する。

    答えを見る **○ 正しい。** 抵当権設定当時に建物が存在し、土地と建物がいずれもAの所有で、建物に抵当権が設定され、競売により建物の所有者がCとなって土地の所有者Aと異なるに至ったため、4要件をすべて満たします。民法388条は「その土地又は建物につき抵当権が設定され」と定めており、建物のみへの抵当権設定でも法定地上権は成立します。

    Q3. 甲土地上のA所有の乙建物が抵当権設定当時に未登記であった場合、法定地上権は成立しない。

    答えを見る **× 誤り。** 要件1が求めているのは建物という物理的な存在であり、建物の登記ではありません。判例も、未登記建物であっても法定地上権は成立するとしています。建物の登記名義が前の所有者のままであった場合でも、実質的に土地と建物が同一人に帰属していれば要件を満たします。

    Q4. A・Bが共有する甲土地上に、Aが単独で所有する乙建物が存在する。Aが自己の土地持分に抵当権を設定し、これが実行された場合、乙建物のために法定地上権が成立する。

    答えを見る **× 誤り。** 土地が共有である場合、共有者の一人が自己の持分に抵当権を設定して実行されても法定地上権は成立しないとするのが判例です(最判昭29.12.23ほか)。法定地上権が成立すると土地全体が地上権の負担を負うことになり、抵当権設定に関与していない共有者Bの持分にまで不利益を及ぼすことになるからです。逆に、建物が共有で土地が建物共有者の一人の単独所有である場合には、法定地上権は成立します(最判昭46.12.21)。

    Q5. 土地と建物の双方に共同抵当が設定された後、建物が取り壊されて新たな建物が再築された場合、原則として新建物のために法定地上権は成立しない。

    答えを見る **○ 正しい。** 判例(最判平9.2.14)は、共同抵当権者は土地と建物の全体としての価値を把握しているとしたうえで、建物の取壊しにより建物の抵当権が消滅したのに新建物のために法定地上権の成立を認めると、抵当権者は建物の価値を失ったうえ土地の価値まで削られることになるとして、原則として法定地上権は成立しないとしました。これに対し、土地のみに抵当権が設定されていた場合の再築では法定地上権が成立します。

    まとめ

    法定地上権は、土地と建物を別個の不動産とする日本法の構造から生じる空白を埋めるための制度です。同一人が土地と建物を所有している間は土地利用権が存在せず、抵当権の実行で所有者が分かれた瞬間に建物が土地利用権を欠く状態になる。その空白を民法388条が地上権とみなすことで埋めています。

    成立要件は4つですが、実質的に効いてくるのは抵当権設定当時に建物が存在したか、そして所有者が同一だったか、の二点です。更地への設定は不成立、建物が未登記でも成立、というのはいずれもこの二点から導けます。判例が分かれるのは、再築、途中で所有者が同一になった場合、共有の三つの型に限られ、そのいずれも「法定地上権を認めたとき、想定外の不利益を受ける人がいるか」という一つの問いから結論が導けます。

    成立後は借地借家法の借地権として扱われ、存続期間は30年、地代は当事者の請求により裁判所が定めます。買受人との関係では登記なしで主張でき、その後の第三者に対しては地上権の登記または建物の登記で対抗します。更地の場合に法定地上権が成立しない代わりに用意されているのが民法389条の一括競売であり、優先弁済は土地の代価に限られるという点を必ずセットで覚えてください。

    宅建試験AIブートラボのアプリでは、権利関係の肢別トレーニングで法定地上権の成否を問う問題をまとめて演習できます。

    読んだ内容を、権利関係の肢で確かめる

    民法・借地借家法・区分所有法など、条文だけでは判断しづらい論点は、過去問の肢で覚えるのが最短です。

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