宅建業法の改正ポイント|正誤が反転した箇所
宅建業法まわりの改正を、条文単位で「改正前は正しかったが今は誤り」という形に並べ直します。区分所有の説明事項10項目化、拘禁刑、押印廃止、報酬告示の空家等特例まで施行日つきで整理。
目次
本記事の役割 — この記事は宅建業法まわりの改正を一箇所に集める索引です。個々の制度の中身ではなく、どの条文がいつ、どう書き換わったかを扱います。権利関係側の改正は権利関係の民法改正まとめ、教材が改正に対応しているかを店頭で判定する方法は宅建の問題集の選び方にあります。
改正の記事は、たいてい「こういう改正がありました」という一覧になります。しかしその形は、読者が実際に困っている場面と噛み合っていません。
受験者が改正で失点するのは、改正を知らないからではなく、改正前の知識で正しく解けてしまうからです。古い問題集や数年前の講義ノートには、当時は正解だった記述が残っています。それを覚えたまま本試験に臨むと、条文が変わった一点だけで肢の正誤がひっくり返ります。しかも本人には、間違えた自覚が生まれにくい。理屈は通っているからです。
そこでこの記事は、改正の一覧ではなく、改正が正誤を反転させた箇所の一覧として組み立てます。ひとつの改正につき、改正前ならどう書いてあって、それが当時は正しく、いま同じ記述を見たらどう判断すべきか。この対比を条文の文言で示します。
扱う範囲は宅建業法本体と、その施行規則、報酬告示、そして宅建業法と一体で出題される住宅瑕疵担保履行法です。新しいものから順に並べます。
追うべき基準は試験年度の4月1日
「最新の法令」は基準ではない
改正の話に入る前に、どの時点の条文を正解とするかを固定しておきます。
宅建試験は、当該年度の4月1日現在施行されている法令から出題されます。令和8年度の試験であれば、正解を決めるのは2026年4月1日時点の条文です。今日の条文ではありません。
この二つはずれます。法令は年間を通じて改正され続けるので、4月2日以降に施行された改正は、その年度の出題範囲に入りません。「最新の情報に更新しておこう」という発想は、この試験では逆に危険だということです。試験制度そのものの決まりは宅建試験の全体像にまとめています。
施行日と公布日を混同しない
もうひとつ、改正を追うときに必ず確認するのが施行日です。
法律は公布されただけでは効力を持ちません。たとえば懲役と禁錮を拘禁刑に統合した刑法改正は2022年6月17日に公布されましたが、宅建業法の関係規定が実際に書き換わったのは2025年6月1日です。公布から施行まで3年近い間隔があります。
改正のニュースを見た時点で教材を書き換えると、まだ施行されていない内容を現行法として覚えることになります。改正情報を扱うときは、必ず施行日で判断してください。
施行日が後でも中身が動いたとは限らない
逆の注意もあります。施行日が基準日より後だからといって、条文が変わっているとは限りません。
改正法の施行日は、その改正法が触れた条文すべてに一律で適用されます。しかし一本の改正法が数十の法律に手を入れる場合、その多くは附則の整理や引用条文の番号あわせにすぎません。本則が一字も動いていないことも普通にあります。実際、この記事で扱う2026年4月1日の宅建業法「改正」がそれにあたります。
施行日を見て慌てるのではなく、条文を突き合わせて中身が動いたかを確かめる。この順序を守れば、不要な覚え直しをしなくて済みます。
2026年4月1日|区分所有建物の説明事項が10項目になった
令和8年度の出題範囲に入るもののうち、宅建業法まわりで唯一の実体改正がこれです。最も出題される可能性が高い改正なので、最初に置きます。
施行規則16条の2に9号が新設された
宅地建物取引業法35条1項6号は、区分所有建物について説明すべき事項を国土交通省令・内閣府令に委任しています。それを受けているのが宅地建物取引業法施行規則16条の2です。
この16条の2に、令和7年内閣府・国土交通省令第2号によって第9号が新設され、2026年4月1日に施行されました。
新9号の内容は、当該一棟の建物およびその敷地の管理者等が、当該一棟の建物およびその敷地に係る管理組合から委託を受けて管理事務を行うマンション管理業者である場合にあっては、その旨、というものです。管理者等・管理組合・管理事務・マンション管理業者の各語は、いずれもマンションの管理の適正化の推進に関する法律の定義を借りています。
マンションの管理者を区分所有者の中から選ぶのではなく、管理業者自身に担わせる、いわゆる第三者管理方式が広がってきたことを受けた改正です。管理者と管理業者が同一であれば利益相反が起こりうるので、その事実を買主に知らせる趣旨です。
旧9号は10号に繰り下がった
新9号が末尾ではなく中間に差し込まれたため、従来9号だった「当該一棟の建物の維持修繕の実施状況が記録されているときは、その内容」は10号に繰り下がりました。
結果として、区分所有建物について追加で説明すべき事項は9項目から10項目になっています。
改正前ならこう書いてあって正しかった。「区分所有建物の重要事項説明では、施行規則16条の2が定める9項目を説明する。維持修繕の実施状況の記録は9号である。」
いま同じ記述を見たら誤りです。項目数は10、維持修繕の記録は10号です。項目の中身そのものは変わっていないので実質的な学習負担は増えませんが、号数で問われたときに答えが変わります。各号の中身は区分所有建物の重要事項説明で一つずつ確認できます。
建物の貸借は3号と8号のまま
見落とされやすいのが柱書です。16条の2は「建物の貸借の契約以外の契約にあつては次に掲げるもの、建物の貸借の契約にあつては第三号及び第八号に掲げるものとする」と定めています。
この柱書は改正されていません。建物の貸借で説明が必要なのは3号(専有部分の用途その他の利用の制限に関する規約の定め)と8号(管理の委託先)だけで、改正前後で同じです。
したがって、新設された9号は建物の貸借では説明対象になりません。「第三者管理方式であることは、貸借の場合にも説明しなければならない」という記述は誤りになります。借主にとって管理者が誰であるかは所有者ほどの利害を持たない、という整理です。電子提供との関係を含めた詳細はIT重説と書面の電子化で扱っています。
2026年4月1日|宅建業法本体は「改正」されたが本則は動いていない
同じ2026年4月1日に、宅建業法本体にも改正が施行されています。ただし中身を伴わない改正なので、ここを取り違えないでください。
附則が付いただけである
宅建業法の2026年4月1日施行の改正は、令和7年法律第68号によるものです。法律の題名は「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法等の一部を改正する法律」で、宅建業法とは直接の関係がありません。
この改正の前後で条文を突き合わせると、本則は枝番を含む全201か条すべてに差分がありません。新設された条も、削除された条も、本文が書き換わった条もゼロです。付加されたのは附則だけです。
なぜこういうことが起きるか
一本の改正法が複数の法律に手を入れる場合、その多くは形式的な整理です。他の法律の条番号がずれたのでそれを引用している箇所を直す、経過措置を置く、といった作業が中心で、規律の中身には触れません。
「宅地建物取引業法は令和8年4月1日に改正された」という言い方は、形式的には正しくても、受験者に対しては誤解を与えます。それを聞いた受験者は、覚え直すべき変更があると考えて教材を探しに行くからです。
宅建業法の実体規定は2025年6月1日の拘禁刑への置き換え以降、動いていません。令和8年度に向けて条文レベルで覚え直すべきなのは、法律ではなく施行規則16条の2の1点だけです。宅建業法全体の構造は宅建業法の全体像にまとめています。
2025年6月1日|禁錮以上の刑が拘禁刑以上の刑になった
5条1項5号と18条1項6号
懲役と禁錮が拘禁刑に統合されたことに伴い、これを引用していた宅建業法の欠格事由が書き換わりました。改正法は刑法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整理等に関する法律(令和4年法律第68号)、宅建業法についての施行日は2025年6月1日です。
免許の基準を定める5条1項5号は、現在「拘禁刑以上の刑に処せられ、その刑の執行を終わり、又は執行を受けることがなくなつた日から五年を経過しない者」となっています。宅建士の登録の欠格事由を定める18条1項6号も、号数は違いますが文言は同一です。
改正前ならこう書いてあって正しかった。「禁錮以上の刑に処せられ、その刑の執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から5年を経過しない者は、免許を受けることができない。」
いま同じ記述を見たら、条文の引用としては誤りです。現行の文言は「拘禁刑以上の刑」です。
範囲は変わっていない
ただし、欠格となる刑の範囲そのものは実質的に変わっていません。
改正前の「禁錮以上の刑」は、禁錮・懲役・死刑を指していました。改正後の「拘禁刑以上の刑」は、拘禁刑と死刑を指します。懲役と禁錮が拘禁刑という一つの刑に統合された結果、指し示す対象は同じままです。5年という期間も、起算点の書きぶりも動いていません。
刑法側で刑の種類が整理されたことに合わせて、それを引用している側の文言を機械的に置き換えた、という性格の改正です。だから「拘禁刑になったことで欠格の範囲が広がった」という記述は誤りになります。経過措置や罰金刑による欠格との切り分けは拘禁刑と欠格事由に、欠格事由の全体像は欠格事由の一覧にまとめています。
2022年5月18日|押印の廃止と電磁的方法の解禁
一本の改正法で二つのことが起きた
デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律(令和3年法律第37号)により、宅建業法に二つの変更が入りました。施行日はいずれも2022年5月18日です。
押印の廃止と書面の電子化は、同じ改正法の同じ施行日です。片方だけが先に施行された、ということはありません。押印廃止だけを別の年として覚えている場合は、そこが誤りです。
35条5項・37条3項から押印が消えた
現在の35条5項は「第一項から第三項までの書面の交付に当たつては、宅地建物取引士は、当該書面に記名しなければならない」と定めています。37条3項は「宅地建物取引業者は、前二項の規定により交付すべき書面を作成したときは、宅地建物取引士をして、当該書面に記名させなければならない」です。どちらにも押印の語がありません。
改正前ならこう書いてあって正しかった。「35条書面および37条書面には、宅地建物取引士が記名押印しなければならない。」
いま同じ記述を見たら誤りです。紙で交付する場合であっても、押印は法律上の義務ではありません。電子化されたから押印が消えたのではなく、電子化と同じ改正で押印義務そのものが廃止されたという順序で理解してください。
34条の2第1項は記名押印のまま
ところが、媒介契約書面は違います。34条の2第1項は現在も「次に掲げる事項を記載した書面を作成して記名押印し、依頼者にこれを交付しなければならない」と定めています。
押印が残っているのです。しかも、記名押印するのは宅地建物取引業者であって、宅地建物取引士ではありません。条文の主語は「宅地建物取引業者は」であり、35条5項や37条3項のように宅建士を登場させる書き方をしていません。
ここは二段構えの引っかけになります。第一に、押印がすべての書面から消えたわけではないこと。第二に、媒介契約書面に求められているのは業者の記名押印であって、宅建士の関与ではないこと。「媒介契約書面には宅地建物取引士が記名押印しなければならない」は、押印の点では正しく、主体の点で誤りという、判定の難しい肢が作れます。記載事項は媒介契約書の記載事項、35条書面と37条書面の対比は35条書面と37条書面の横断整理にあります。
電磁的方法は五つの箇所に入った
同じ改正で、書面に代えて電磁的方法で提供できる旨の規定が追加されました。35条8項・9項、37条4項・5項、34条の2第11項・12項です。
34条の2第11項が媒介契約書面、同12項が指定流通機構への登録を証する書面、35条8項が重要事項説明書、同9項が業者間取引の場合、37条4項が売買・交換の契約書面、同5項が貸借の契約書面に対応します。
共通するのは、いずれも相手方または依頼者の承諾が必要だという点です。34条の2第11項は「依頼者の承諾を得て」、35条8項は相手方等の承諾を得て、37条4項・5項は各号に定める者の承諾を得て、と書き分けられていますが、承諾なしに電子提供できる規定は一つもありません。
条文の細部では、書面ごとに「何に代わる措置」かが違います。34条の2第11項は記名押印に代わる措置、35条8項は5項の措置すなわち記名に代わる措置です。元の書面で求められているものが違うので、代替物も違う、という素直な対応関係になっています。承諾の取り方と電磁的方法の技術基準はIT重説と書面の電子化で条文単位に扱っています。
IT重説は法改正ではない
ここで区別しておきたいことがあります。IT重説の解禁は、宅建業法の改正によるものではありません。
35条1項は「宅地建物取引士をして……書面を交付して説明をさせなければならない」と定めるだけで、説明を対面で行えとは書いていません。条文が対面を要求していない以上、テレビ会議等で行っても35条の説明として成立しうる、というのが出発点です。実際の取扱いは国土交通省の「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」に書き加えられました。根拠は通達であって、条文ではありません。
したがって、改正の一覧としてはIT重説はここに載りません。「IT重説は宅建業法35条◯項によって認められた」という形で条番号を挙げた記述は、その時点で疑ってよい部分です。
令和6年7月1日|報酬告示の空家等の特例が組み替えられた
宅建業法46条1項は報酬の額を国土交通大臣の定めに委任しており、その定めが昭和45年建設省告示第1552号です。この告示が令和6年6月21日国土交通省告示第949号により改正され、令和6年7月1日に施行されました。法律ではなく告示の改正ですが、報酬の上限が動くので出題への影響は大きい部分です。
上限額と対象額が引き上げられた
改正前の第七は「空家等の売買又は交換の媒介における特例」という見出しで、対象を代金の額が400万円以下の宅地建物とし、上限を18万円の1.1倍としていました。
改正後の第七は「低廉な空家等の売買又は交換の媒介における特例」となり、対象は800万円以下、上限は30万円の1.1倍すなわち33万円です。
改正前ならこう書いてあって正しかった。「代金400万円以下の宅地建物の売買の媒介については、18万円の1.1倍を上限として、通常の報酬額を超えて受領できる。」
いま同じ記述を見たら、金額が二重に誤りです。
売主側限定という縛りが外れた
金額よりも構造的に大きいのがこちらです。
改正前の第七は、報酬を受けられる相手を「依頼者(空家等の売主又は交換を行う者である依頼者に限る。)」と明記していました。売主側からしか上乗せできなかったわけです。
改正後の第七には、この括弧書きがありません。単に「依頼者から受ける報酬の額」となっています。したがって買主側の依頼者からも、この特例による報酬を受けられます。
改正前ならこう書いてあって正しかった。「低廉な空家等の特例により報酬を上乗せできるのは、売主である依頼者から受ける場合に限られる。」
いま同じ記述を見たら誤りです。
要件の書きぶりと代理の計算式も変わった
要件の文言も変わりました。改正前は「通常の売買又は交換の媒介と比較して現地調査等の費用を要するものについては」と、現地調査等の費用を要することを適用の入口に置き、上限額も「第二の計算方法により算出した金額と当該現地調査等に要する費用に相当する額を合計した金額以内」という積み上げ方式でした。
改正後は「当該媒介に要する費用を勘案して、第二の計算方法により算出した金額を超えて報酬を受けることができる」となり、費用の実額を積み上げる形ではなくなっています。
代理の第八はさらに構造が変わりました。改正前は「第二の計算方法により算出した金額と第七の規定により算出した金額を合計した金額以内」でしたが、改正後は「第七の規定により算出した金額の二倍以内」です。式そのものが別物なので、古い解説の計算手順をそのまま使うと答えが合いません。
貸借にも特例が新設された
同じ改正で、長期の空家等の貸借について第九(媒介)と第十(代理)が新設されました。改正前の告示に第九・第十は存在しません。双方から受ける報酬の合計額を、借主側の負担を増やさないことを条件に、借賃の一月分の2.2倍まで広げる特例です。
改正前の教材には、この特例が載っていません。「貸借の報酬は、媒介でも代理でも借賃の一月分の1.1倍が上限である」という記述は、原則としては正しいものの、長期の空家等の特例を落としています。告示全体の構造と各特例の要件は報酬額の制限、計算手順は報酬額計算のパターン別攻略にまとめています。
2021年9月30日|住宅瑕疵担保履行法の基準日が年1回になった
宅建業者が自ら売主として新築住宅を売る場合の資力確保措置は、宅建業法と一体で問われる領域です。ここでも改正が正誤を反転させています。
年2回から年1回へ
改正法は令和3年法律第48号「住宅の質の向上及び円滑な取引環境の整備のための長期優良住宅の普及の促進に関する法律等の一部を改正する法律」で、施行日は2021年9月30日です。
改正前の3条1項は、基準日を「毎年三月三十一日及び九月三十日をいう」と定義していました。改正後は「三月三十一日をいう」だけです。年2回だった基準日が、年1回になりました。
「基準日において」から「三週間を経過する日までの間において」へ
同時に、供託していなければならない時点の書きぶりも変わりました。
改正前の11条1項は「宅地建物取引業者は、各基準日において、……住宅販売瑕疵担保保証金の供託をしていなければならない」でした。改正後は「宅地建物取引業者は、毎年、基準日から三週間を経過する日までの間において、……供託をしていなければならない」です。
基準日という一点で判定するのではなく、基準日から3週間の幅で判定する形に改まっています。
改正前ならこう書いてあって正しかった。「基準日は毎年3月31日と9月30日の年2回であり、宅建業者は各基準日において供託をしていなければならない。」
いま同じ記述を見たら、回数も時点も誤りです。
届出と50日は動いていない
一方で、動いていない部分もあります。
12条1項の届出義務も、13条の「当該基準日の翌日から起算して五十日を経過した日以後においては、新たに自ら売主となる新築住宅の売買契約を締結してはならない」という制限も、条文は改正前後で同一です。
変わったのは基準日の回数と判定の時点だけで、50日の制限は不変。この切り分けを持っておくと、「50日が変わった」という形の誤りにも反応できます。制度の全体像は住宅瑕疵担保履行法にまとめています。
2020年8月28日|水害ハザードマップが説明事項に加わった
施行規則16条の4の3に3号の2が入った
宅建業法35条1項14号は、その他の説明事項を国土交通省令・内閣府令に委任しています。それを受ける施行規則16条の4の3に、令和2年内閣府・国土交通省令第2号によって第3号の2が追加され、2020年8月28日に施行されました。
3号の2の内容は、水防法施行規則11条1号の規定により当該宅地または建物が所在する市町村の長が提供する図面に当該宅地または建物の位置が表示されているときは、当該図面における当該宅地または建物の所在地、というものです。
条文が求めているのは、ハザードマップ上でその物件がどこに位置するかを示すことです。「浸水想定区域内にあるかどうか」を答えることではありません。位置を示した結果として区域内外がわかる、という順序になっています。
四つの取引類型すべてが対象
見落としやすいのが柱書です。16条の4の3は、宅地の売買・交換では1号から3号の2まで、建物の売買・交換では1号から6号まで、宅地の貸借では1号から3号の2までと8号から13号まで、建物の貸借では1号から5号までと7号から12号まで、と適用範囲を書き分けています。
3号の2は、この四つの類型すべてに含まれます。売買だけの義務ではなく、宅地の貸借でも建物の貸借でも説明が必要です。改正でこの柱書自体も、宅地について「第一号から第三号まで」から「第一号から第三号の二まで」に書き換えられました。
改正前ならこう書いてあって正しかった。「重要事項説明において、水害ハザードマップにおける物件の所在地を説明する義務はない。」
いま同じ記述を見たら誤りです。説明事項の全体は35条書面の記載事項、賃貸に絞った整理は賃貸借の重要事項説明にあります。
2019年9月14日|成年被後見人・被保佐人の一律欠格が消えた
5条1項10号・18条1項12号への置き換え
改正法は令和元年法律第37号「成年被後見人等の権利の制限に係る措置の適正化等を図るための関係法律の整備に関する法律」、宅建業法についての施行日は2019年9月14日です。
改正前の欠格事由には、成年被後見人と被保佐人が名指しで挙がっていました。後見や保佐が開始しているという形式だけで、一律に免許や登録から排除する建て付けです。
改正後の5条1項10号は「心身の故障により宅地建物取引業を適正に営むことができない者として国土交通省令で定めるもの」、18条1項12号は「心身の故障により宅地建物取引士の事務を適正に行うことができない者として国土交通省令で定めるもの」となりました。
受け皿となる省令が施行規則3条の2と14条の2で、いずれも「精神の機能の障害により……必要な認知、判断及び意思疎通を適切に行うことができない者」と定めています。形式ではなく実質で個別に判断する建て付けに変わったということです。
改正前ならこう書いてあって正しかった。「成年被後見人または被保佐人は、宅地建物取引業の免許を受けることができない。」
いま同じ記述を見たら誤りです。後見開始の審判を受けているという事実だけでは欠格になりません。免許制度は宅建業の免許制度、登録は宅建士の登録と宅建士証で扱っています。
破産者との違いに注意
同じ5条1項の中に、1号として「破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者」が残っています。こちらは改正されていません。
成年被後見人は形式基準から外れたが、破産者は形式基準のまま。似た位置にある二つの欠格事由で扱いが分かれているので、まとめて「形式基準はなくなった」と覚えると誤ります。なお破産者は復権を得れば直ちに欠格でなくなり、5年の待機は要りません。
2018年4月1日|建物状況調査が三つの場面に入った
平成28年法律第56号による改正
既存住宅の流通を促す目的で、建物状況調査(インスペクション)に関する規定が宅建業法に追加されました。改正法は平成28年法律第56号「宅地建物取引業法の一部を改正する法律」、施行日は2018年4月1日です。
入ったのは三つの場面で、それぞれ条文が違います。
媒介契約の段階が34条の2第1項4号。当該建物が既存の建物であるときは、依頼者に対する建物状況調査を実施する者のあっせんに関する事項を書面に記載します。
重要事項説明の段階が35条1項6号の2。イが、建物状況調査を実施しているかどうか、およびこれを実施している場合におけるその結果の概要。ロが、設計図書、点検記録その他の建物の建築及び維持保全の状況に関する書類で国土交通省令で定めるものの保存の状況です。
契約書面の段階が37条1項2号の2。当該建物が既存の建物であるときは、建物の構造耐力上主要な部分等の状況について当事者の双方が確認した事項を記載します。
実施義務ではない
条文をそのまま読めば出てくることですが、建物状況調査そのものを実施する義務は、どこにも書かれていません。
34条の2第1項4号が求めているのは「あっせんに関する事項」の記載であって、あっせんそのものでもありません。35条1項6号の2イが求めているのは、実施しているかどうかと、実施している場合の結果の概要の説明です。実施していなければ、していない旨を説明することになります。
「宅建業者は既存建物の媒介にあたって建物状況調査を実施しなければならない」は誤りです。この形の肢は繰り返し作られます。
イとロは別物である
35条1項6号の2で落とされやすいのがロです。
イが調査の結果、ロが書類の保存の状況で、この二つは別の説明事項です。ロは調査を実施したかどうかと関係なく、設計図書や点検記録が保存されているかを説明するものです。「建物状況調査を実施していないので、6号の2については説明を要しない」という記述は、ロを落としている点で誤りになります。
また、イの建物状況調査には「実施後国土交通省令で定める期間を経過していないものに限る」という括弧書きが付いています。古い調査結果は説明対象になりません。媒介契約書面の記載事項は媒介契約書の記載事項、37条書面は37条書面の記載事項にまとめています。
試験での出題ポイント
施行日を入れ替える
改正そのものを知っていても、施行日をずらした肢で失点することがあります。押印の廃止と電磁的方法の解禁は同じ令和3年法律第37号、同じ2022年5月18日施行です。片方だけ別の年に置いた記述は誤りになります。
拘禁刑への置き換えも、刑法本体の公布日(2022年6月17日)と宅建業法についての施行日(2025年6月1日)が離れているため、公布日を施行日として書いた記述が作られます。
「改正された」を実体改正と読ませる
2026年4月1日に宅建業法が改正されたのは事実ですが、本則は一字も動いていません。「令和8年4月1日施行の改正により宅地建物取引業法の規定が変更された」という記述を見たら、変更された規定を具体的に挙げているかを確認してください。挙げられないなら、それは附則の話です。
令和8年度に向けて条文レベルで覚え直すべき宅建業法まわりの変更は、施行規則16条の2の1点だけです。
押印の残る書面を見落とさせる
35条書面と37条書面から押印が消えた一方、34条の2第1項の媒介契約書面は記名押印のままです。しかも記名押印するのは宅建業者で、宅建士ではありません。「押印はすべて廃止された」も、「媒介契約書面には宅建士の記名押印が必要」も、どちらも誤りです。
承諾なしの電子提供を正しいと書く
電磁的方法による提供は、34条の2第11項・12項、35条8項・9項、37条4項・5項のいずれについても承諾が要件です。承諾を落とした肢は誤りになります。
報酬告示の旧数値を使わせる
低廉な空家等の特例は、800万円以下・30万円の1.1倍です。400万円・18万円は改正前の数値です。あわせて、売主側限定という縛りが外れていることと、代理は第七の額の二倍以内という計算式に変わっていることまで確認してください。
改正されていないものを改正と思わせる
逆方向の引っかけもあります。営業保証金に充てる有価証券の評価額(施行規則15条)は、国債証券が額面金額、地方債証券および政府保証債が額面金額の100分の90、その他の債券が100分の80です。これは近年の改正で変わった数値ではありません。「近年の改正により評価額が見直された」といった前置きが付いていたら、そこがまず誤りです。
住宅瑕疵担保履行法13条の50日も、基準日の改正では動いていません。数字の横断整理は宅建業法の数字まとめにあります。
通達を条文として引かせる
IT重説の要件は、法律にも政令にも省令にもありません。根拠は解釈・運用の考え方です。「宅地建物取引業法35条◯項により、ITを活用した重要事項説明を行うことができる」という形で条番号が付いていたら、その時点で誤りを疑ってください。
覚え方・整理の仕方
年表ではなく「反転した肢」で持つ
改正を年表で覚えても、試験では使えません。問われるのは年号ではなく肢の正誤だからです。
覚える単位を、「この記述は改正前なら○、いまは×」という一組にしてください。記名押印なら「改正前○、いま×」。成年被後見人の一律欠格なら「改正前○、いま×」。維持修繕の記録が9号なら「改正前○、いま×」。この形で持てば、そのまま解答に使えます。
年号が必要になるのは、施行日を入れ替えた肢に出会ったときだけです。まず反転を覚え、年号は後から貼る。この順序が効率的です。
「消えた語」で古い教材を検出する
改正で消えた語は、古い教材を見分ける目印になります。禁錮以上の刑、記名押印、成年被後見人、400万円以下、18万円、九月三十日。これらが現行制度の説明として出てきたら、その教材はその論点について未対応です。
この検査を店頭で行う手順は宅建の問題集の選び方にまとめてあります。あちらが教材を選ぶための検査、この記事が条文がどう変わったかの中身という分担です。
改正の階層を三つに分ける
宅建業法まわりの改正は、根拠の階層が三つあります。
法律が変わったのは、拘禁刑(2025年6月1日)、押印廃止と電磁的方法(2022年5月18日)、成年被後見人の欠格(2019年9月14日)、建物状況調査(2018年4月1日)。
省令が変わったのは、区分所有の説明事項10項目化(2026年4月1日)、水害ハザードマップ(2020年8月28日)。
告示が変わったのは、報酬の空家等特例(令和6年7月1日)。
階層を意識しておくと、条番号を問われたときに探す場所が決まります。説明事項の細目は施行規則、報酬の数字は告示、義務の骨格は法律。この対応は改正に限らず宅建業法全体に通用します。
「変わっていないもの」を並べて持つ
改正の記事を読むと、すべてが動いたように感じます。しかし宅建業法の骨格はほとんど動いていません。
クーリング・オフの8日間、8種制限の適用対象、営業保証金の主たる事務所1,000万円と従たる事務所500万円、報酬の原則の率、35条書面と37条書面の交付相手、住宅瑕疵担保履行法13条の50日。これらはいずれも近年の改正で変わっていません。
動いたところを列挙できるようになったら、次は動いていないところを言えるようにする。改正問題で焦らないための備えは、この二つが揃って初めて完成します。
理解度チェッククイズ
問1 令和8年4月1日施行の改正により、宅地建物取引業法の規定が変更されたため、免許の基準や重要事項説明の義務の内容を確認し直す必要がある。
答え:×。2026年4月1日に宅地建物取引業法を改正する法律(令和7年法律第68号)が施行されたことは事実ですが、本則は枝番を含む全201か条すべてに差分がなく、付加されたのは附則だけです。免許の基準(5条)も重要事項説明(35条)も、法律の条文は動いていません。令和8年度に向けて条文レベルで覚え直すべき宅建業法まわりの変更は、同じ2026年4月1日に施行された宅地建物取引業法施行規則16条の2への第9号の新設(令和7年内閣府・国土交通省令第2号)の1点です。「施行された」ことと「中身が変わった」ことは別なので、条文を突き合わせて確かめる習慣をつけてください。
問2 宅地建物取引業者が媒介契約を締結して依頼者に交付する書面には、宅地建物取引士が記名押印しなければならない。
答え:×。押印が残っている点は正しいのですが、主体が誤りです。34条の2第1項は「宅地建物取引業者は……次に掲げる事項を記載した書面を作成して記名押印し、依頼者にこれを交付しなければならない」と定めており、記名押印するのは宅地建物取引業者です。媒介契約書面に宅建士の関与は要求されていません。なお、令和3年法律第37号(2022年5月18日施行)で押印が廃止されたのは35条5項と37条3項、すなわち宅建士の記名押印についてであり、業者の記名押印を定める34条の2第1項は改正されていません。「押印はすべて廃止された」も誤りです。
問3 区分所有建物の売買の媒介において、当該建物の管理者等が管理組合から委託を受けて管理事務を行うマンション管理業者である場合、その旨を重要事項として説明しなければならない。また、この説明は建物の貸借の場合にも必要である。
答え:×。前段は正しく、後段が誤りです。宅地建物取引業法施行規則16条の2第9号は2026年4月1日に新設され、いわゆる第三者管理方式である旨を説明事項としました。しかし同条の柱書は改正されておらず、「建物の貸借の契約にあつては第三号及び第八号に掲げるもの」のままです。貸借で必要なのは3号(専有部分の用途その他の利用の制限に関する規約の定め)と8号(管理の委託先)だけで、新設された9号は含まれません。なお、旧9号だった維持修繕の実施状況の記録は10号に繰り下がり、区分所有建物の追加説明事項は9項目から10項目になっています。
問4 代金の額が700万円である宅地の売買の媒介について、宅地建物取引業者は、買主である依頼者から、低廉な空家等の特例による報酬を受けることができる。
答え:○。報酬告示第七は令和6年6月21日国土交通省告示第949号により改正され、令和6年7月1日から施行されています。改正後の低廉な空家等は「800万円以下の金額の宅地又は建物」なので、700万円の宅地は対象に含まれます。そして改正前の第七にあった「(空家等の売主又は交換を行う者である依頼者に限る。)」という括弧書きが削除されたため、買主側の依頼者から受ける場合にも適用されます。上限は30万円の1.1倍すなわち33万円です。改正前は400万円以下・売主側限定・18万円の1.1倍だったので、この肢は改正前なら誤りでした。ただし、告示は「当該媒介に要する費用を勘案して」と定めており、800万円以下でありさえすれば当然に33万円を受けられるわけではありません。
問5 宅地建物取引業者は、毎年3月31日と9月30日の各基準日において、住宅販売瑕疵担保保証金の供託をしていなければならない。
答え:×。特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律3条1項の基準日の定義は、令和3年法律第48号により2021年9月30日から「三月三十一日をいう」に改められ、年2回から年1回になりました。あわせて11条1項も「各基準日において」から「毎年、基準日から三週間を経過する日までの間において」に改まっており、判定の時点も一点から3週間の幅に変わっています。改正前ならこの記述は正しかったので、古い教材で学習していると引っかかります。なお、12条の届出義務と、13条の「基準日の翌日から起算して五十日を経過した日以後は新たに自ら売主となる新築住宅の売買契約を締結してはならない」という制限は、条文が改正前後で同一です。
問6 被保佐人は、宅地建物取引士の登録を受けることができない。
答え:×。令和元年法律第37号により、2019年9月14日から成年被後見人・被保佐人を名指しする欠格事由は削除されました。現在の18条1項12号は「心身の故障により宅地建物取引士の事務を適正に行うことができない者として国土交通省令で定めるもの」であり、受け皿となる施行規則14条の2は「精神の機能の障害により宅地建物取引士の事務を適正に行うに当たつて必要な認知、判断及び意思疎通を適切に行うことができない者」と定めています。保佐開始の審判を受けているという形式だけでは欠格になりません。免許についても5条1項10号と施行規則3条の2が同じ構造です。ただし、5条1項1号の「破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者」は改正されておらず、こちらは形式基準のまま残っています。
まとめ
- 出題の基準は試験年度の4月1日現在施行の法令です。令和8年度なら2026年4月1日時点の条文であり、最新の条文ではありません。改正を追うときは公布日ではなく施行日で判断し、施行日が後でも本則が動いたとは限らないので条文を突き合わせて確かめます。
- 令和8年度に向けて条文レベルで覚え直すべき宅建業法まわりの変更は、施行規則16条の2への第9号の新設(2026年4月1日、令和7年内閣府・国土交通省令第2号)の1点だけです。区分所有建物の追加説明事項が9項目から10項目になり、維持修繕の記録は10号に繰り下がりました。柱書は改正されておらず、建物の貸借は3号と8号のままです。同日施行の宅建業法本体の改正(令和7年法律第68号)は、本則201条すべてに差分がありません。
- 法律が動いたのは4回です。拘禁刑への置き換え(2025年6月1日、5条1項5号・18条1項6号。範囲は実質不変)、押印の廃止と電磁的方法(2022年5月18日、35条5項・37条3項が記名に。34条の2第1項は業者の記名押印のまま。電子提供はいずれも承諾が要件)、成年被後見人等の一律欠格の削除(2019年9月14日、5条1項10号・18条1項12号)、建物状況調査(2018年4月1日、34条の2第1項4号・35条1項6号の2・37条1項2号の2。実施義務ではない)。
- 省令と告示も動いています。水害ハザードマップが施行規則16条の4の3第3号の2として四つの取引類型すべてに追加され(2020年8月28日)、報酬告示の低廉な空家等の特例が400万円以下・18万円の1.1倍から800万円以下・30万円の1.1倍に拡大し、売主側限定という縛りが外れ、代理の計算式も第七の額の二倍以内に変わりました(令和6年7月1日)。長期の空家等の貸借の特例も新設されています。
- 住宅瑕疵担保履行法の基準日は年2回から年1回(3月31日)になり、判定の時点も「各基準日において」から「基準日から三週間を経過する日までの間において」に改まりました(2021年9月30日)。届出義務と13条の50日は動いていません。
- 覚える単位は年表ではなく、「改正前なら○、いまは×」という一組です。消えた語(禁錮以上の刑、記名押印、成年被後見人、400万円以下、18万円、九月三十日)を目印にすれば、古い教材も自分で検出できます。そして動いていないもの——クーリング・オフの8日間、8種制限、営業保証金の1,000万円と500万円、13条の50日——を言えるようになって、改正対策は完成します。
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宅建業法は20問と配点が最も大きく、確実に得点したい科目です。免許制度・重要事項説明・8種制限を肢別で固めましょう。