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営業保証金|供託額・事業開始・還付と取戻し

宅建業法 読了 約24分

営業保証金を条文から整理します。1,000万円と500万円の根拠、供託所と有価証券の評価、届出後でなければ事業を開始できない仕組み、還付・不足額・取戻しまで。

目次

    この記事は、宅建業法25条から30条までの営業保証金制度を、条文の順に追って整理するものです。保証協会に加入した場合の弁済業務保証金の仕組み、認証や還付充当金といった協会内部の手続は保証協会の仕組み|加入・弁済業務・還付充当金に分けてあります。この記事では、両制度を比べるときの軸だけを扱います。宅建業法全体での位置づけは宅建業法の全体像|20問の出題範囲と学習設計を参照してください。

    先に全体像を述べます。営業保証金は、宅建業者と取引した人が損害を受けたときに、その弁済を確保するための供託金です。金額は主たる事務所1,000万円、その他の事務所1か所につき500万円。供託先は主たる事務所のもよりの供託所ひとつだけ。そして、供託しただけでは営業を始められません。供託した旨を免許権者に届け出た後でなければ事業を開始できない、というのがこの制度の最大の出題ポイントです。

    以下、制度の趣旨から順に見ていきます。金額と期限には政令・省令に根拠があるので、条番号とあわせて示します。

    何のための制度か

    取引の相手方の弁済を確保する

    25条1項は「宅地建物取引業者は、営業保証金を主たる事務所のもよりの供託所に供託しなければならない」と定めます。なぜこんな制度があるのか。答えは27条1項にあります。

    27条1項は「宅地建物取引業者と宅地建物取引業に関し取引をした者(宅地建物取引業者に該当する者を除く。)は、その取引により生じた債権に関し、宅地建物取引業者が供託した営業保証金について、その債権の弁済を受ける権利を有する」と定めています。つまり、供託されたお金は、取引の相手方が損害を受けたときの引当てです。

    不動産取引は一件あたりの金額が大きく、業者の資力が尽きれば相手方は回収できません。そこで営業を始める前にまとまった金銭を国に預けさせ、いざというときにそこから弁済を受けられるようにしておく。この発想が制度の全体を貫いています。

    業者は還付を受けられない

    27条1項の括弧書きに注目してください。「宅地建物取引業者に該当する者を除く」とあります。取引の相手方が宅建業者だった場合、その業者は営業保証金からの還付を受けられません。

    理由は、業者どうしの取引ならプロ同士であり、相手の資力を調べることも担保を取ることもできるからです。同じ発想は8種制限にも現れており、78条2項は33条の2および37条の2から43条までを業者相互間の取引に適用しないと定めています。保護すべきは情報も交渉力も劣る相手方だけだ、という一貫した線引きです。8種制限の側は8種制限とは|自ら売主制限の全体像と8項目で扱っています。

    もうひとつ、還付の対象は「その取引により生じた債権」に限られます。宅建業に関する取引から生じた債権でなければならず、たとえばその業者に対する広告代金の債権や、業者に貸したお金の返還請求権は対象になりません。取引の相手方であるかどうかと、債権の性質と、二重に絞られていると理解してください。

    いくら、どこに、何で供託するのか

    金額は1,000万円と500万円

    25条2項は営業保証金の額を政令に委ねており、宅地建物取引業法施行令2条の4が「主たる事務所につき千万円、その他の事務所につき事務所ごとに五百万円の割合による金額の合計額」と定めています。

    本店1か所と支店3か所であれば、1,000万円に500万円を3つ足して2,500万円です。本店が支店の2倍になっているのは、本店が支店を統括し、取引の規模も大きくなるためと説明されます。同時に、どんなに小さな業者でも最低1,000万円は預けさせるという、制度全体の下限を画する役割も持っています。

    「事務所」に何が入るか

    金額は事務所の数で決まるので、何が事務所かが決定的です。3条1項の括弧書きは事務所を「本店、支店その他の政令で定めるもの」とし、施行令1条の2がその中身を定めています。1号が本店または支店、2号が「継続的に業務を行なうことができる施設を有する場所で、宅地建物取引業に係る契約を締結する権限を有する使用人を置くもの」です。

    ここから二つのことが出てきます。第一に、分譲地の案内所やモデルルームは、契約を締結する権限を有する使用人を置いていなければ事務所ではありません。営業保証金の計算に入らないということです。ただし標識の掲示(50条1項)や専任の宅建士の設置は、事務所以外の場所についても求められる場合があります。第二に、1号が本店を無条件に挙げているため、本店で宅建業を営んでいなくても、支店で営んでいれば本店は事務所として1,000万円の対象になる、という扱いになります。逆に、宅建業を営まない支店は事務所に当たりません。

    事務所の要件そのものは宅建業の事務所の要件|設置義務・届出事項を完全整理、人数の数え方は専任の宅建士の設置義務|5人に1人の数え方で扱っています。

    計算問題は事務所の選別から始める

    供託額を問う問題は、金額を掛け算する部分ではなく、どれを事務所として数えるかで差がつきます。手順は二段階です。まず示された場所を、施行令1条の2の1号と2号にあてはめて選別する。次に、主たる事務所に1,000万円、それ以外の事務所の数に500万円を掛けて足す。

    たとえば、本店と支店2か所を有し、ほかに分譲地の現地案内所を1か所設けている業者を考えます。案内所に契約を締結する権限を有する使用人が置かれていなければ、案内所は施行令1条の2の2号にあたらず事務所ではありません。したがって計算に入るのは本店と支店2か所で、1,000万円に500万円を2つ足した2,000万円になります。案内所を事務所として数えさせ、2,500万円を選ばせる肢が典型です。

    逆に、継続的に業務を行うことができる施設があり、そこに契約締結権限を持つ使用人が置かれていれば、名称が案内所であっても2号の事務所に当たり、500万円の対象になります。名前ではなく実質で判断する、というのが条文の書き方です。

    供託先は一か所だけ

    25条1項が指定するのは「主たる事務所のもよりの供託所」です。支店の分を含めた総額を、この一か所にまとめて供託します。支店ごとにその近くの供託所へ、ではありません。

    この点は繰り返し出題されます。「各事務所のもよりの供託所に、それぞれの額を供託しなければならない」という肢は誤りです。

    供託所というのは、法令にもとづいて金銭や有価証券を預かる国の機関で、実際には法務局・地方法務局とその支局・出張所がこれにあたります。供託をすると供託書の正本が交付され、その写しが25条4項の届出に添付されます。宅建業者が自分の口座に取り分けておくのではなく、国の機関に預けさせるからこそ、業者が倒れても相手方の引当てが残る。ここが制度の肝です。

    「もよりの」という語も条文どおりに読んでください。距離が最も近い供託所という意味で、業者が任意に選べるわけではありません。だから主たる事務所が移転してもよりの供託所が変われば、29条の保管替えや新規供託が必要になります。

    金銭でも有価証券でもよい

    25条3項は「営業保証金は、国土交通省令の定めるところにより、国債証券、地方債証券その他の国土交通省令で定める有価証券をもつて、これに充てることができる」と定めます。金銭だけでなく有価証券でも、両者の組み合わせでもかまいません。

    充てられる有価証券の範囲は施行規則15条の2が定めており、国債証券、地方債証券、そして国土交通大臣が指定した社債券その他の債券です。いずれも債券であり、株式は含まれません。ただし「社債は一切使えない」というのは正確ではなく、国土交通大臣が指定した社債券は使えます。

    そして重要なのが評価額です。施行規則15条1項は、有価証券を営業保証金に充てる場合の価額を次のように定めています。国債証券はその額面金額、つまり100パーセント。地方債証券または政府がその債務について保証契約をした債券は額面金額の90パーセント。それ以外の債券は額面金額の80パーセントです。

    したがって、額面1,000万円の地方債だけで本店分を賄おうとすると、評価額は900万円にしかならず100万円足りません。額面1,000万円の国債であれば、ちょうど1,000万円として扱われます。この差が計算問題として問われます。なお施行規則15条2項は、割引の方法により発行した債券で供託の日から償還期限までの期間が5年を超えるものについて、発行価額に別記算式で算出した額を加えた額を額面金額とみなすという特則を置いています。

    供託物については、保証協会に納付する弁済業務保証金分担金との対比が頻出です。分担金は金銭のみで、有価証券を使えません。一方、保証協会が供託所に供託する弁済業務保証金には、64条の7第3項が25条3項を準用しているため有価証券を使えます。分担金の納付と協会の供託を混同しないでください。

    事業を開始できるのはいつか

    供託しただけでは足りない

    この制度で最もよく問われるのがここです。25条4項は、営業保証金を供託したときは供託物受入れの記載のある供託書の写しを添付して、その旨を免許権者に届け出なければならないと定めます。そして同条5項が「宅地建物取引業者は、前項の規定による届出をした後でなければ、その事業を開始してはならない」と定めています。

    順序は、免許を受ける、供託する、届け出る、事業を開始する、の四段階です。免許を受けただけでも、供託しただけでも足りません。届出という一手続が挟まっている点を落とさないでください。「供託した後であれば事業を開始できる」という肢は誤りです。

    届出がないとどうなるか

    免許を受けたのに供託も届出もしないまま放置される事態に備えて、25条は二段構えの規定を置いています。

    6項は「国土交通大臣又は都道府県知事は、第三条第一項の免許をした日から三月以内に宅地建物取引業者が第四項の規定による届出をしないときは、その届出をすべき旨の催告をしなければならない」と定めます。免許の日から3月です。そして催告は免許権者の義務で、条文は「しなければならない」と書いています。

    7項は「国土交通大臣又は都道府県知事は、前項の催告が到達した日から一月以内に宅地建物取引業者が第四項の規定による届出をしないときは、その免許を取り消すことができる」と定めます。催告の到達から1月です。こちらは「できる」であり、免許権者の裁量に委ねられています。

    3月と1月という期間、催告の起算点が免許の日であること、取消しの起算点が催告の到達であること、そして義務と裁量の書き分け。この四点がまとめて問われます。免許制度全体は宅建業の免許制度|要否・免許権者・更新、監督処分としての取消しは監督処分|指示・業務停止・免許取消の違いを参照してください。

    届出前に営業したらどうなるか

    25条5項に違反して届出前に事業を開始した場合、二方向の制裁が用意されています。行政上は、65条2項2号が25条5項違反を業務停止事由として挙げており、免許権者は1年以内の期間を定めて業務の全部または一部の停止を命ずることができます。26条2項で準用される場合、つまり新設事務所についての違反も同じ扱いです。

    刑事上は、81条1号が25条5項違反について6月以下の拘禁刑もしくは100万円以下の罰金、またはその併科を定めています。同号には26条2項で準用される場合が明記されています。なお、還付後に不足額を供託しなかった場合、すなわち28条1項違反も、65条2項2号により業務停止事由になります。罰則の全体像は宅建業法の罰則一覧を参照してください。

    免許換えのときの扱い

    26条1項は、新たに事務所を設置したときに加えて、括弧書きで「第七条第一項各号の一に該当する場合において事務所の増設があつたときを含む」としています。7条1項は免許換えの規定で、知事免許の業者が他県に事務所を設けて大臣免許に変わる場合などが該当します。

    免許権者が変わっても、増設した事務所の分については同じように供託と届出が必要だ、ということです。免許換えそのものの手続は宅建業の免許制度を横断整理|登録制度との違いで扱っています。

    事務所を新設したとき(26条)

    営業を始めた後に支店を増やす場合も同じ構造です。26条1項は、事業の開始後新たに事務所を設置したときは、当該事務所につき25条2項の政令で定める額の営業保証金を供託しなければならないと定めます。1か所につき500万円です。免許換えに該当する場合の事務所の増設も含まれます。

    26条2項は、25条1項および3項から5項までを準用しています。したがって、供託先はやはり主たる事務所のもよりの供託所であり、有価証券も使え、免許権者への届出が必要で、届出をした後でなければその事務所で事業を開始できません。最初の供託と同じ流れを繰り返すだけだ、と理解すれば覚えることは増えません。

    還付と、不足額の供託

    還付を受ける手続

    取引の相手方が27条1項の権利を実行するとき、保証協会の「認証」にあたる手続はありません。ただし何の手続もなく請求できるわけでもなく、宅地建物取引業者営業保証金規則が段取りを定めています。

    同規則1条は、還付を受けようとする者は国土交通大臣に対し、取引をした者がその取引をした時において宅建業者に該当しないことを確認する書面の交付を申請しなければならないとし、同条4項で確認書が交付されます。そのうえで同規則2条により、確認書と所定の通知書3通を供託所に提出します。27条1項の括弧書きが業者を除いている以上、業者でないことを確認する仕組みが要る、という理屈です。

    試験で問われるのは、保証協会の認証が要るかどうかという対比です。弁済業務保証金の還付には64条の8第2項により保証協会の認証が必要ですが、営業保証金にはこれに相当する協会の関与がありません。

    不足額の供託は2週間が二つ

    還付が行われると、供託されている額が政令の定める額を下回ります。28条1項は「宅地建物取引業者は、前条第一項の権利を有する者がその権利を実行したため、営業保証金が第二十五条第二項の政令で定める額に不足することとなつたときは、法務省令・国土交通省令で定める日から二週間以内にその不足額を供託しなければならない」と定めます。

    条文が「法務省令・国土交通省令で定める日」と書いているので、起算日は省令を見る必要があります。営業保証金規則5条が「法第二十八条第一項の省令で定める日は、宅地建物取引業者が前条の規定により通知書の送付を受けた日とする」と定めています。供託所が還付をすると免許権者へ通知書が回り(同規則3条)、免許権者が業者へ送付する(同4条)。その送付を受けた日から2週間です。還付があった日でも、還付を知った日でもありません。

    そして28条2項が、供託したときは供託書の写しを添付して2週間以内に免許権者へ届け出なければならないと定めます。供託に2週間、届出にさらに2週間。同じ数字が二度出てくるので、片方だけを覚えていると取りこぼします。28条3項により、この供託にも有価証券を充てられます。

    保管替えと取戻し

    主たる事務所を移転したとき(29条)

    供託先は主たる事務所のもよりの供託所と決まっているので、本店が移転してもよりの供託所が変われば、供託も移す必要があります。29条1項は、その方法を供託物の種類で分けています。

    金銭のみで供託しているときは、遅滞なく、費用を予納して、供託している供託所に対し、移転後の主たる事務所のもよりの供託所への保管替えを請求します。それ以外のとき、つまり有価証券のみ、または金銭と有価証券を併用しているときは、遅滞なく、移転後の主たる事務所のもよりの供託所に新たに供託しなければなりません。

    金銭なら移し替えを頼めばよいが、有価証券は現物なので同じ扱いができない、という発想です。新たに供託した場合、移転前の供託所に預けてある分は取り戻すことになります。施行規則15条の4により、保管替えがされたとき、または新たに供託したときは、遅滞なくその旨を供託書正本の写しを添付して免許権者に届け出ます。

    取り戻せる場合(30条1項)

    30条1項前段が挙げる事由は、免許の有効期間が満了したとき、11条2項により免許が効力を失ったとき、11条1項1号または2号に該当することとなったとき、そして25条7項・66条・67条1項により免許を取り消されたときです。要するに、宅建業者でなくなった場面です。

    同項後段は二つの場合を加えています。一部の事務所を廃止して営業保証金の額が政令の定める額を超えることとなったときの超過額、そして29条1項により新たに供託した場合の、移転前の主たる事務所のもよりの供託所に供託した分です。

    公告が必要な場合と不要な場合(30条2項)

    30条2項は「前項の営業保証金の取りもどしは、当該営業保証金につき第二十七条第一項の権利を有する者に対し、六月を下らない一定期間内に申し出るべき旨を公告し、その期間内にその申出がなかつた場合でなければ、これをすることができない」と定めます。まだ還付を請求していない相手方がいるかもしれないので、名乗り出る機会を与えるという趣旨です。

    期間は6月を下らないこと、つまり6月以上です。営業保証金規則7条により、公告は官報に行い、権利を有する者は6箇月を下らない一定期間内に申出書2通を免許権者に提出すべき旨などを掲げます。公告をしたときは遅滞なく免許権者に届け出ます(同条3項)。

    公告が要らない場合が二つあります。ひとつは30条2項の括弧書きで、29条1項により新たに供託した場合の移転前の供託所分の取戻しです。移転後の供託所に同額が積まれている以上、相手方の引当ては減っていないからです。もうひとつは同項ただし書で、営業保証金を取り戻すことができる事由が発生した時から10年を経過したときです。この10年は見落とされやすい数字です。

    なお、保管替えの請求そのものは取戻しではないので、公告の問題は生じません。金銭のみで供託していて保管替えを請求した場合には、そもそも取り戻していないからです。

    保証協会に加入したとき

    64条の13は、保証協会の社員は弁済業務開始日以後は営業保証金を供託することを要しないと定めます。そして64条の14第1項が、供託することを要しなくなったときは供託した営業保証金を取り戻すことができるとしています。

    ここで大事なのは、64条の14第2項が準用しているのは30条3項だけで、公告を定める30条2項を準用していないことです。つまり、保証協会に加入したことによる取戻しに公告は不要です。営業保証金規則10条も、この場合に添付すべき書類を「宅地建物取引業保証協会の社員となつたことを証する国土交通大臣又は都道府県知事の書面」としており、公告に関する証明書を求めていません。弁済業務保証金という別の引当てに切り替わるだけで、相手方の保護に空白が生じないからです。

    保証協会という別ルート

    営業保証金は本店だけで1,000万円かかります。これを用意できない業者のために用意されているのが保証協会への加入です。制度の詳細は保証協会の仕組み|加入・弁済業務・還付充当金に譲り、ここでは営業保証金と比べる軸だけを並べます。

    金額は、64条の9第1項が政令に委ね、施行令7条が主たる事務所につき60万円、その他の事務所につき事務所ごとに30万円と定めています。営業保証金の1,000万円と500万円に対して、桁がふたつ違います。納付の期限は、加入しようとする日までです。

    なお、加入できる保証協会はひとつだけです。64条の4第1項は「一の宅地建物取引業保証協会の社員である者は、他の宅地建物取引業保証協会の社員となることができない」と定めています。二つの協会に加入して枠を広げることはできません。また同条2項により、保証協会は社員が加入し、または地位を失ったときは、直ちにその旨を当該社員の免許権者に報告しなければならないとされています。協会と免許権者が情報でつながっている、という設計です。

    納付するものは分担金であり、金銭に限られます。25条3項のような有価証券の規定が置かれていないためです。一方、保証協会が供託所に供託する弁済業務保証金には、64条の7第3項が25条3項を準用しているので有価証券を使えます。

    供託の主体と供託先も違います。営業保証金は業者自身が主たる事務所のもよりの供託所に供託しますが、弁済業務保証金は保証協会が、分担金の納付を受けた日から1週間以内に(64条の7第1項)、法務大臣および国土交通大臣の定める供託所に供託します(同条2項)。

    還付の限度は、64条の8第1項により「当該社員が社員でないとしたならばその者が供託すべき営業保証金の額に相当する額の範囲内」です。分担金が60万円でも、還付の枠は営業保証金と同じ1,000万円ということです。ここが制度の要で、少ない負担で同じ保護水準を実現しています。ただし還付には保証協会の認証が必要です(同条2項)。

    還付があった後の穴埋めも構造が違います。営業保証金は業者が供託所に不足額を供託しますが、弁済業務保証金では保証協会が社員に還付充当金の納付を通知し、社員は通知を受けた日から2週間以内に保証協会へ納付します(64条の10第2項)。納付しなければ社員の地位を失います(同条3項)。事務所を新設したときの分担金も、その日から2週間以内に納付しなければ地位を失います(64条の9第2項・3項)。

    そして社員の地位を失った場合、64条の15により、その日から1週間以内に営業保証金を供託しなければなりません。保証協会という傘を失った以上、自前で1,000万円を積み直す、ということです。供託所等の説明義務は制度によって説明内容が変わるので、供託所等に関する説明義務|35条の2を条文からもあわせて確認してください。開業時にどちらを選ぶかという実務的な話は宅建で独立開業する|免許と保証金の要件で扱っています。

    数字を混同しないための整理

    この分野は同じ単位の数字が並ぶので、意味ごとに束ねておくのが有効です。

    金額は「千と五百、六十と三十」

    営業保証金が主たる事務所1,000万円・その他の事務所500万円(施行令2条の4)、分担金が主たる事務所60万円・その他の事務所30万円(施行令7条)。どちらも主たる事務所がその他の2倍という構造は共通です。金額の大小と2倍という関係を一組で覚えます。

    2週間は「営業保証金に二つ、保証協会に二つ」

    営業保証金では、不足額の供託が通知書の送付を受けた日から2週間(28条1項)、その届出が供託から2週間(28条2項)。保証協会では、還付充当金の納付が通知を受けた日から2週間(64条の10第2項)、事務所新設時の分担金の納付が設置の日から2週間(64条の9第2項)。四つとも2週間で、意味だけが違います。

    1週間は「協会が供託するとき」と「協会を出るとき」

    保証協会が分担金の納付を受けてから弁済業務保証金を供託するまでが1週間(64条の7第1項)、社員の地位を失った業者が営業保証金を供託するまでが1週間(64条の15)。どちらも保証協会が絡む場面だと押さえておけば、営業保証金の2週間と混ざりません。

    3月と1月は「催告と取消し」

    免許の日から3月以内に届出がなければ催告しなければならず(25条6項)、催告の到達から1月以内に届出がなければ免許を取り消すことができる(25条7項)。長いほうが先、短いほうが後、という順序で覚えます。

    6月と10年は「取戻しの公告」

    取戻しの公告期間が6月を下らない期間(30条2項本文)、公告が不要になるのが取戻し事由の発生から10年経過(同項ただし書)。どちらも取戻しの場面にしか出てこないので、セットで覚えます。

    試験での出題ポイント

    事業開始の要件をずらす

    最頻出です。「免許を受ければ事業を開始できる」「供託すれば事業を開始できる」という肢は、いずれも誤りです。25条5項が求めているのは、供託した旨を免許権者に届け出た後であること。届出という一段階を抜いた肢を見抜けるかどうかが分かれ目になります。26条2項が25条5項を準用しているため、新設した事務所についても同じ結論です。

    供託先を各事務所に散らす

    「支店の分は支店のもよりの供託所に供託する」という肢は誤りです。25条1項の供託先は主たる事務所のもよりの供託所ひとつだけで、支店分もそこにまとめます。

    有価証券の評価額を入れ替える

    国債100パーセント、地方債・政府保証債90パーセント、それ以外の債券80パーセント(施行規則15条1項)。この三つを入れ替えた肢や、「有価証券はすべて額面どおりに評価される」とする肢が作られます。また「株式でも供託できる」は誤りですが、「社債はいっさい供託に使えない」も誤りです。施行規則15条の2は、国土交通大臣が指定した社債券その他の債券を含めています。

    分担金と弁済業務保証金を混ぜる

    「弁済業務保証金分担金は有価証券で納付できる」という肢は誤りです。金銭のみです。一方「保証協会が供託する弁済業務保証金には有価証券を充てられる」は正しい記述です(64条の7第3項による25条3項の準用)。誰が何を出すのかを分けて考えてください。

    還付を受けられる者を広げる

    「宅建業者も還付を受けられる」という肢は誤りです(27条1項括弧書き)。また「業者に対して有する債権であればどのようなものでも還付の対象になる」という肢も誤りで、対象は宅建業に関する取引により生じた債権に限られます。

    不足額の起算日を動かす

    28条1項の2週間の起算日は、還付があった日でも、還付があったことを知った日でもなく、免許権者から通知書の送付を受けた日です(営業保証金規則5条)。あわせて、供託後の届出にも2週間の期限があること(28条2項)を落とさないでください。

    保管替えの条件を緩める

    29条1項で保管替えを請求できるのは、金銭のみで供託しているときだけです。「有価証券で供託している場合も保管替えを請求できる」という肢は誤りで、この場合は移転後のもよりの供託所に新たに供託します。

    公告の要否を入れ替える

    取戻しには原則として6月を下らない期間の公告が必要ですが(30条2項)、保証協会の社員となって供託が不要になったことによる取戻しには公告が要りません(64条の14第2項は30条2項を準用していません)。また、取戻し事由の発生から10年を経過したときも公告は不要です(30条2項ただし書)。

    催告と取消しの表現を入れ替える

    25条6項の催告は「しなければならない」で義務、25条7項の免許取消しは「できる」で裁量です。「3月以内に届出がなければ免許を取り消さなければならない」という肢は、催告の段階を飛ばしているうえに義務にしている点でも誤りになります。

    覚え方・整理の仕方

    制度は「預ける・使える・戻す」の三幕で捉える

    供託して事業を始めるまでが第一幕(25条・26条)、還付されて穴を埋めるまでが第二幕(27条・28条)、供託所を移したり取り戻したりするのが第三幕(29条・30条)。条文が時間順に並んでいるので、この三幕で位置を思い出せます。

    「免許・供託・届出・開始」を四拍で唱える

    25条5項を落とさないための最短の対策です。四つの語を順に唱え、どれかが抜けている肢を見つけたら誤り、と判断します。

    供託所は「本店にひとつ」

    支店をいくつ持っていても、供託所は主たる事務所のもよりの一か所だけ。「本店にひとつ」と唱えておけば、供託先を散らす肢に反応できます。

    有価証券は「国百・地九・他八」

    国債は100パーセント、地方債と政府保証債は90パーセント、それ以外の債券は80パーセント。額面どおりに評価されるのは国債だけ、と押さえます。宅建業法全体の数字の整理は宅建業法の数字まとめ|混同しない覚え方で整理にまとめてあります。

    対比は「誰が・どこへ・何で・いくらまで」

    営業保証金と弁済業務保証金は、供託する主体、供託先、供託できるもの、還付の限度の四つの軸で比べると整理できます。業者が本店のもよりの供託所へ金銭または有価証券で、供託額まで。協会が法務大臣および国土交通大臣の定める供託所へ金銭または有価証券で、営業保証金相当額まで。分担金だけが金銭に限られる、と付け加えます。

    公告は「六月・十年・協会なし」

    取戻しの公告は6月を下らない期間。10年経過で不要。保証協会加入による取戻しでも不要。三点をまとめて唱えると、公告の要否を問う肢に迷いません。

    理解度チェッククイズ

    次の記述の正誤を判定してください。

    Q1. 宅地建物取引業者は、営業保証金を供託した後であれば、その旨を免許権者に届け出る前であっても事業を開始することができる。

    答えは誤りです。25条4項は供託した旨を免許権者に届け出ることを求め、同条5項は「宅地建物取引業者は、前項の規定による届出をした後でなければ、その事業を開始してはならない」と定めています。免許、供託、届出、事業開始という四段階のうち、届出を飛ばすことはできません。26条2項が25条5項を準用しているため、事業開始後に新設した事務所についても、供託と届出をした後でなければその事務所で事業を開始できません。

    Q2. 本店のほかに支店を2か所有する宅地建物取引業者は、本店のもよりの供託所に1,000万円を、各支店のもよりの供託所にそれぞれ500万円を供託しなければならない。

    答えは誤りです。金額の合計は正しく、施行令2条の4により主たる事務所につき1,000万円、その他の事務所につき事務所ごとに500万円なので合計2,000万円です。しかし供託先が誤っています。25条1項が定める供託先は「主たる事務所のもよりの供託所」だけであり、支店の分も含めて全額をそこに供託します。各事務所のもよりの供託所に分けて供託するのではありません。

    Q3. 営業保証金は、額面金額1,000万円の地方債証券を充てることによって、主たる事務所分の1,000万円を供託したものとして扱われる。

    答えは誤りです。25条3項により有価証券を充てることはできますが、その価額は施行規則15条1項が定めています。国債証券は額面金額どおり、地方債証券または政府がその債務について保証契約をした債券は額面金額の90パーセント、それ以外の債券は額面金額の80パーセントです。額面1,000万円の地方債証券の価額は900万円となり、100万円が不足します。なお、充てることができるのは施行規則15条の2が定める国債証券、地方債証券、国土交通大臣が指定した社債券その他の債券であり、株式は含まれません。

    Q4. 還付により営業保証金が政令で定める額に不足することとなった場合、宅地建物取引業者は、還付が行われた日から2週間以内に不足額を供託しなければならない。

    答えは誤りです。起算日が違います。28条1項は「法務省令・国土交通省令で定める日から二週間以内」と定めており、宅地建物取引業者営業保証金規則5条が、その日を「宅地建物取引業者が前条の規定により通知書の送付を受けた日」としています。供託所から免許権者へ通知書が回り、免許権者から業者へ送付される、その送付を受けた日が起算日です。あわせて28条2項により、供託したときは供託書の写しを添付して2週間以内に免許権者へ届け出る必要があります。

    Q5. 宅地建物取引業者が保証協会の社員となったことにより営業保証金を供託する必要がなくなった場合、その者が営業保証金を取り戻すには、6月を下らない一定期間内に申し出るべき旨の公告をしなければならない。

    答えは誤りです。この場合の取戻しの根拠は64条の14第1項であり、同条2項が準用しているのは30条3項だけで、公告を定める30条2項は準用されていません。したがって公告は不要です。営業保証金規則10条も、添付書類を「宅地建物取引業保証協会の社員となつたことを証する国土交通大臣又は都道府県知事の書面」としており、公告に関する証明を求めていません。弁済業務保証金という別の引当てに切り替わり、取引の相手方の保護に空白が生じないためです。なお、30条2項ただし書により、取戻し事由の発生から10年を経過したときも公告は不要です。

    まとめ

    • 営業保証金は取引の相手方の弁済を確保する制度で、還付を受けられるのは宅建業者に該当しない相手方に限られます(27条1項)。金額は主たる事務所1,000万円・その他の事務所500万円(施行令2条の4)、供託先は主たる事務所のもよりの供託所ひとつだけです(25条1項)。
    • 供託には有価証券も使えますが、価額は国債が額面どおり、地方債・政府保証債が額面の90パーセント、それ以外の債券が80パーセントです(施行規則15条1項)。そして供託しただけでは足りず、免許権者への届出をした後でなければ事業を開始できません(25条5項)。免許の日から3月以内に届出がなければ催告が義務づけられ(25条6項)、催告の到達から1月以内になお届出がなければ免許を取り消すことができます(25条7項)。
    • 還付後の不足額は、通知書の送付を受けた日から2週間以内に供託し、供託から2週間以内に届け出ます(28条1項・2項、営業保証金規則5条)。取戻しには6月を下らない期間の公告が必要ですが(30条2項)、移転に伴う新規供託の場合、事由発生から10年経過した場合、保証協会に加入して供託が不要になった場合には公告が要りません。

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