制限行為能力者制度|4類型と取消し・催告の整理
未成年者・成年被後見人・被保佐人・被補助人の4類型を、判断能力の程度に応じて制限の強さが変わる仕組みとして整理し、取消しと追認、相手方の催告権と詐術まで条文根拠つきで解説します。
目次
この記事は、権利関係で毎年のように問われる制限行為能力者制度を、4類型の違いと、取消し・追認・催告という手続の流れから整理するものです。権利関係全体の中での位置づけは「権利関係の全体像」、意思表示の各類型は「意思表示」で扱っています。
先に、この制度の骨格を書きます。制限行為能力者制度は、判断能力が十分でない人を保護する仕組みですが、保護だけを目的にしているわけではありません。取り消される可能性のある契約を結ばされる相手方の利益との調整が、同時に組み込まれています。4類型で制限の強さが違うのも、催告権や詐術の規定が置かれているのも、この調整の結果です。この視点があると、個々のルールを暗記せずに導けるようになります。
制度の趣旨
三つの「能力」を区別する
民法には、似た言葉が三つ出てきます。区別しておかないと、無効と取消しの違いが混ざります。
権利能力は、権利義務の主体となれる資格です。人であれば誰にでも認められ、生まれた時から取得します。
意思能力は、自分の行為の結果を判断できる能力です。民法3条の2は、法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は無効とすると定めています。泥酔状態や重度の認知症のように、その時点で判断できていなかった場合の規定です。
行為能力は、単独で有効に法律行為をすることができる能力です。制限行為能力者制度が扱うのはこの行為能力で、制限された人が単独でした行為は、無効ではなく取り消すことができる行為になります。
無効と取消しはどう違うか
意思能力を欠く状態でした行為は無効です。無効は最初から効力がなく、誰でも主張できます。
これに対し、制限行為能力者がした行為は取り消すことができる行為です。取り消されるまでは有効で、取り消す権利を持つ者が取り消して初めて、はじめから無効であったものとみなされます。
この違いには実際的な意味があります。無効は、意思能力がなかったことを証明しなければなりません。取消しは、審判を受けているという事実だけで主張できます。制限行為能力者制度は、その都度の判断能力を証明しなくても保護される仕組みを、あらかじめ用意したものだといえます。
相手方の利益との調整
一方で、取り消されるかもしれない契約を結ばされる相手方の立場を考える必要があります。いつまでも取り消される可能性が残ると、取引が成り立ちません。
そこで民法は、相手方が確答を求められる催告権(20条)を置き、制限行為能力者が自分の能力を偽った場合には取消権を失わせる規定(21条)を置いています。さらに、取消権には期間の制限があります(126条)。制度は、保護と取引の安全の両方を見て設計されています。
4類型と、制限の強さ
制限行為能力者は四つに分かれます。未成年者、成年被後見人、被保佐人、被補助人です。
このうち未成年者は年齢によって一律に定まりますが、残る三つは判断能力の程度に応じて分かれます。判断能力を欠く常況にあるのが成年被後見人、著しく不十分なのが被保佐人、不十分なのが被補助人です。判断能力が低いほど制限が広く、高いほど制限が狭くなる、という対応になっています。
この対応を理解しておくと、細かいルールの多くが導けます。たとえば、成年被後見人にだけ同意権が認められていないのはなぜか、補助開始の審判にだけ本人の同意が要る場合があるのはなぜか。いずれも、判断能力の程度と、本人の意思をどこまで尊重すべきかという考え方から説明がつきます。
未成年者
定義と保護者
未成年者とは18歳未満の者をいいます。民法4条は「年齢十八歳をもって、成年とする」と定めており、成年年齢は令和4年4月1日から20歳ではなく18歳になっています。
保護者は法定代理人で、親権者または未成年後見人がこれにあたります。他の三類型と違い、家庭裁判所の審判を要しません。年齢という客観的な事実だけで決まります。
原則は法定代理人の同意
民法5条1項は、未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならないと定め、同条2項は、同意を得ないでした行為は取り消すことができると定めています。
法定代理人は、同意権、取消権、代理権のすべてを持ちます。未成年者に代わって契約することもできますし、未成年者がした契約を取り消すこともできます。
同意がなくてもよい行為
もっとも、未成年者の行為すべてに同意が要るわけではありません。三つの例外があります。
第一が、単に権利を得、または義務を免れる法律行為です(5条1項ただし書)。贈与を受ける、債務を免除してもらうといった、一方的に有利な行為が該当します。保護の必要がないため、制限の対象から外れています。
ここで注意すべきなのが負担付贈与です。何かを受け取る代わりに義務を負う契約は、「単に権利を得る」行為ではありません。義務を負う以上、同意が必要です。この点は繰り返し問われます。
第二が、法定代理人が処分を許した財産の処分です(5条3項)。目的を定めて処分を許した財産はその目的の範囲内で、目的を定めないで処分を許した財産は自由に処分できます。小遣いの使用がこれにあたります。
第三が、営業を許された未成年者の、その営業に関する行為です。次に述べます。
営業の許可
民法6条1項は、一種または数種の営業を許された未成年者は、その営業に関しては成年者と同一の行為能力を有すると定めています。
つまり、営業の許可を受けた範囲では、もはや制限行為能力者として扱われません。その営業に関する契約は単独で有効にでき、取り消すこともできません。ただし、許可された営業の範囲外の行為については、通常どおり同意が必要です。
なお6条2項は、その営業に堪えることができない事由があるときは、法定代理人が許可を取り消し、またはこれを制限することができると定めています。
この「営業に関し成年者と同一の行為能力を有する未成年者」という概念は、宅建業法にも出てきます。後述する免許と登録の話につながる部分です。
成年擬制は廃止された
かつては、未成年者が婚姻した場合に成年に達したものとみなす制度がありました。成年年齢が18歳に引き下げられ、婚姻できる年齢も男女とも18歳に統一されたことに伴い、この規定は削除されています。
古い教材にはこの制度が残っていることがあります。現行法では存在しない制度なので、注意してください。
成年被後見人
要件と審判
成年被後見人とは、精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者で、家庭裁判所から後見開始の審判を受けた者をいいます(民法7条、8条)。
「欠く常況」とは、判断能力がない状態が通常である、という意味です。一時的に回復することがあっても、通常の状態として判断できないのであれば該当します。
審判の請求ができるのは、本人、配偶者、四親等内の親族、検察官などです。後見開始の審判については、本人の同意は要件とされていません。判断能力を欠く常況にある以上、同意を求めることに意味がないためです。
取り消せる行為と、取り消せない行為
民法9条は、成年被後見人の法律行為は取り消すことができると定め、ただし書で、日用品の購入その他日常生活に関する行為についてはこの限りでないとしています。
不動産の売買や贈与は当然に取り消せます。一方、食料品や日用品の購入は取り消せません。この例外は、本人の自己決定を最小限度は尊重するという考え方によるもので、日常の買い物まで取り消せることにすると、かえって本人が普通に生活できなくなるためです。
成年後見人に同意権がない理由
成年後見人は、取消権と代理権を持ちますが、同意権を持ちません。これは他の三類型と決定的に違う点です。
理由は判断能力の程度にあります。同意権とは、本人がその行為をすることを認める権限です。しかし、成年被後見人は判断能力を欠く常況にあるため、あらかじめ同意を与えたとしても、その内容どおりに行動できるとは限りません。同意を与えても意味がないので、制度として置かれていないのです。
この結論から、重要な帰結が出ます。成年後見人が同意を与えた行為であっても、成年被後見人が単独でした行為である以上、取り消すことができます。試験ではこの形で繰り返し問われます。
代理権については包括的に認められており、成年後見人が本人に代わって法律行為をすることになります。代理の仕組みそのものは「代理制度」で扱っています。
居住用不動産の処分には家庭裁判所の許可が要る
不動産取引で特に重要なのが民法859条の3です。成年後見人が、成年被後見人に代わって、その居住の用に供する建物またはその敷地について、売却、賃貸、賃貸借の解除、抵当権の設定その他これらに準ずる処分をするには、家庭裁判所の許可を得なければなりません。
居住用不動産を失うことは、本人の生活の基盤に直結します。だから、包括的な代理権を持つ成年後見人であっても、単独では処分できない仕組みになっています。
逆にいえば、居住用でない不動産の処分には、この許可は不要です。居住用かどうかで扱いが分かれる点が問われます。
被保佐人
要件と審判
被保佐人とは、精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分な者で、家庭裁判所から保佐開始の審判を受けた者をいいます(民法11条、12条)。保護者は保佐人です。
判断能力が「著しく不十分」であって、「欠く常況」ではありません。したがって、日常的な行為は自分でできる前提で制度が組まれています。制限されるのは、財産に重大な影響を及ぼす行為に限られます。
保佐人の同意を要する行為
民法13条1項は、被保佐人が保佐人の同意を得なければならない行為を列挙しています。主なものは次のとおりです。
元本を領収し、または利用すること。借財または保証をすること。不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること。訴訟行為をすること。贈与、和解または仲裁合意をすること。相続の承認もしくは放棄または遺産の分割をすること。贈与の申込みを拒絶し、遺贈を放棄し、負担付贈与の申込みを承諾し、または負担付遺贈を承認すること。新築、改築、増築または大修繕をすること。民法602条に定める期間を超える賃貸借をすること。そして、これらの行為を制限行為能力者の法定代理人としてすること。
宅建で最も問われるのは、不動産に関する権利の得喪を目的とする行為です。被保佐人が所有する土地を売る場合、保佐人の同意が必要になります。
賃貸借については、602条の期間を超えるものが対象です。602条は、樹木の栽植または伐採を目的とする山林の賃貸借は10年、その他の土地は5年、建物は3年、動産は6か月と定めています。この期間内の賃貸借であれば、同意は不要です。賃貸借の基本は「賃貸借」で扱っています。
同意を得ずにこれらの行為をした場合、取り消すことができます。逆に、13条1項に挙げられていない行為は、被保佐人が単独で有効にできます。すべての行為に同意が要るわけではない、という点が引っかけどころです。
同意を得られないとき
民法13条3項は、保佐人が被保佐人の利益を害するおそれがないにもかかわらず同意をしないときは、家庭裁判所が被保佐人の請求により、保佐人の同意に代わる許可を与えることができると定めています。
保佐人が理由なく同意を拒めば本人が身動きを取れなくなるため、その場合の逃げ道が用意されているわけです。
同意を要する範囲は広げられる
民法13条2項により、家庭裁判所は、13条1項に挙げられた行為以外の行為についても、保佐人の同意を要する旨の審判をすることができます。ただし、日用品の購入その他日常生活に関する行為は対象外です。
代理権は当然には認められない
保佐人は、原則として代理権を持ちません。ここが成年後見人との大きな違いです。
代理権が必要な場合は、家庭裁判所が特定の法律行為について代理権を付与する審判をすることになります(民法876条の4)。そして、本人以外の者の請求によってこの審判をするには、本人の同意が必要です。
被保佐人は判断能力が著しく不十分ではあるものの、まったく欠いているわけではありません。だから、本人の意思を確認せずに代理権を与えることはしない、という設計になっています。
被補助人
要件と審判
被補助人とは、精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な者で、家庭裁判所から補助開始の審判を受けた者をいいます(民法15条、16条)。保護者は補助人です。
三類型の中で、判断能力の低下が最も軽い類型です。そのぶん、本人の意思が最も尊重されます。
その表れが、民法15条2項です。本人以外の者の請求によって補助開始の審判をするには、本人の同意がなければなりません。後見開始や保佐開始にはこの要件がないのに、補助にだけ置かれています。判断能力が比較的保たれている以上、本人の意思に反して制限を課すべきではない、という趣旨です。
同意を要する行為は審判で決まる
補助人の同意を要する行為は、あらかじめ法律に列挙されているわけではありません。民法17条1項により、家庭裁判所が審判で定めます。
そして、その対象とできるのは、13条1項に規定する行為の一部に限られます。13条1項の行為の全部を対象とすることはできません。全部を対象にすれば、実質的に保佐と変わらなくなるためです。
この審判についても、本人以外の者の請求による場合には本人の同意が必要です(17条2項)。
補助人の代理権も、当然には認められません。特定の法律行為について家庭裁判所の審判により付与されます。
保佐との違いを一言で
被保佐人は13条1項の行為すべてについて同意が必要で、被補助人は審判で定められた一部の行為についてのみ同意が必要です。制限の範囲が、法律で決まっているか審判で決まるか、という違いだと押さえてください。
制限の強さがなぜ違うのか
四類型を並べると、判断能力の程度と制限の広さが対応していることが分かります。
成年被後見人は、日常生活に関する行為を除いてすべての行為が取り消せます。制限が最も広く、そのぶん保護が厚い類型です。被保佐人は、13条1項に挙げられた重要な財産行為に限って制限されます。被補助人は、そのうち審判で選ばれた一部だけです。
未成年者はやや性質が違います。判断能力の個別の程度ではなく年齢で一律に区切られ、しかも成長に応じて許可によって制限を外せる仕組み(営業の許可)が用意されています。
制限が広いほど本人は保護されますが、同時に自分で決められる範囲は狭くなります。どこで線を引くかが、この制度の設計の核心です。判断能力が高い類型ほど、本人の同意を要件にしたり、制限の範囲を審判で絞ったりしているのは、この緊張関係の表れです。
取消しと追認
誰が取り消せるか
民法120条1項は、行為能力の制限によって取り消すことができる行為は、制限行為能力者、その代理人、承継人もしくは同意をすることができる者に限り、取り消すことができると定めています。
注目すべきなのは、制限行為能力者本人も取消権者に含まれる点です。本人が単独で取り消すことができ、その取消しの意思表示について、あらためて保護者の同意を得る必要はありません。取消しは本人に不利益をもたらす行為ではないからです。
取消しの効果
取り消された行為は、はじめから無効であったものとみなされます(民法121条)。したがって、受け取ったものを互いに返すことになります。
ここで制限行為能力者に有利な特則があります。民法121条の2第3項は、行為の時に制限行為能力者であった者は、現に利益を受けている限度において返還の義務を負うと定めています。全額を返す必要はなく、手元に残っている利益、いわゆる現存利益の返還で足ります。
現存利益の判断でよく問われるのが、受け取った金銭を何に使ったかです。遊興費に費やした分は、手元にも残っておらず、本来支出するはずのない出費なので、現存利益になりません。これに対し、生活費に充てた分は、本来支出すべきだった費用を免れているため、現存利益として残っていると扱われます。同じ「使ってしまった」でも結論が分かれる点が狙われます。
追認
追認は、取り消すことができる行為を有効に確定させる意思表示です。
民法124条1項は、追認は、取消しの原因となっていた状況が消滅し、かつ取消権を有することを知った後にしなければ、その効力を生じないと定めています。未成年者であれば成年に達した後、成年被後見人であれば後見開始の審判が取り消された後です。制限された状態のまま追認できるとすれば、保護の意味がなくなります。
もっとも、法定代理人や、保佐人・補助人が追認する場合には、取消しの原因となっていた状況が消滅している必要はありません(124条2項)。保護者は判断能力に問題がないからです。
法定追認
民法125条は、追認をすることができる時以後に一定の事実があったときは、追認したものとみなすと定めています。全部または一部の履行、履行の請求、更改、担保の供与、取り消すことができる行為によって取得した権利の全部または一部の譲渡、強制執行がこれにあたります。
たとえば、成年に達した後に代金を支払えば、追認するという意思表示をしていなくても追認したものとみなされ、もはや取り消せません。ただし、異議をとどめたときは別です。
取消権の期間制限
民法126条は、取消権は、追認をすることができる時から5年間行使しないときは時効によって消滅し、行為の時から20年を経過したときも同様であると定めています。
取り消される可能性が永久に残ると取引が成り立たないため、期間で区切られています。時効の考え方は「時効」で扱っています。
相手方の保護
催告権
取り消されるかどうか分からない状態は、相手方にとって不安定です。そこで民法20条は、相手方に催告権を与えています。1か月以上の期間を定めて、追認するかどうかを確答するよう求めることができます。
重要なのは、誰に催告したかによって、期間内に確答がなかった場合の効果が変わることです。
保護者に催告した場合
法定代理人、保佐人、補助人に対して催告した場合、期間内に確答がなければ、追認したものとみなされます。
これらの者は判断能力に問題がなく、催告の意味を理解して対応できるはずです。それにもかかわらず確答しないのであれば、そのまま有効としてよい、という判断です。
行為能力者となった本人に催告した場合
制限行為能力者が行為能力者となった後、その本人に対して催告した場合も、確答がなければ追認したものとみなされます。すでに制限が外れている以上、保護者と同じ扱いになります。
被保佐人・被補助人本人に催告した場合
被保佐人または被補助人に対し、保佐人または補助人の同意を得るよう催告した場合は、扱いが変わります。期間内にその同意を得た旨の通知がなければ、その行為を取り消したものとみなされます。
理由は、本人が催告に適切に対応できるとは限らないからです。確答がないことをもって有効に確定させると、判断能力が不十分な本人に不利益が生じます。だから、本人にとって有利な取消しの側に倒すのです。
追認とみなすか取消しとみなすかは、催告の相手が自分で判断できる立場かどうかで決まる、と理解しておけば覚え直す必要がありません。
催告しても意味がない相手
未成年者本人や成年被後見人本人に対して催告しても、効果は生じません。これらの者は、催告を受けてその意味を理解し対応することが期待できないからです。
したがって、相手方が未成年者だと分かっている場合、催告は法定代理人に対して行うことになります。成年被後見人の場合は成年後見人に対して行います。
詐術を用いた場合
民法21条は、制限行為能力者が行為能力者であることを信じさせるため詐術を用いたときは、その行為を取り消すことができないと定めています。
自ら相手方を欺いた者まで保護する必要はない、という趣旨です。この規定は四類型すべてに適用されます。
詐術の範囲については判例があります。最高裁は、無能力者であることを黙秘していた場合でも、それが他の言動などと相まって相手方を誤信させ、または誤信を強めたものと認められるときは詐術にあたるが、単に無能力者であることを黙秘していただけでは詐術にあたらないという趣旨を示しています(最判昭和44年2月13日)。
つまり、積極的に「自分は成年だ」と述べたり、年齢を偽る書類を示したりすれば詐術です。何も言わなかっただけでは詐術になりません。その中間、たとえば取引を主導するような言動と黙秘が組み合わさった場合には、詐術と評価されうる、という三段構えになっています。
他の取消しとの関係
制限行為能力を理由とする取消しは、他の理由による取消しと重なることがあります。
たとえば、被保佐人が保佐人の同意を得ずに、しかも相手方に騙されて土地を売った場合を考えてください。この契約は、行為能力の制限を理由に取り消すこともできますし、詐欺を理由に取り消すこともできます(民法96条1項)。取消権が二つ並んでいる状態で、どちらを主張しても構いません。
この重なりが実際に意味を持つのは、一方の要件を満たさない場合です。詐欺による取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗できません(96条3項)。これに対し、行為能力の制限を理由とする取消しには、このような第三者保護の規定が置かれていません。したがって、第三者が登場している事案では、どちらを理由に取り消すかで結論が変わりえます。
錯誤についても同様で、錯誤による取消しにも第三者保護の規定があります(95条4項)。意思表示の各類型と第三者の保護は「意思表示の効力」で扱っています。法律行為という枠組みそのものは「法律行為とは」で整理しています。
なお、被保佐人が相続の承認や放棄、遺産の分割をするには保佐人の同意が必要です(13条1項)。相続の場面でこの制度が問題になることは実務上少なくありません。相続放棄の手続そのものは「相続放棄」で扱っています。
不動産取引の場面で何を確認するか
制限行為能力者が当事者となる不動産取引では、契約が後から取り消される可能性があります。宅地建物取引業者としては、次の点を確認することになります。
第一に、誰が契約の当事者で、誰に契約する権限があるかです。成年被後見人であれば、本人ではなく成年後見人が代理して契約します。被保佐人であれば、本人が契約したうえで保佐人の同意が必要です。同意の有無は、後から取り消されるかどうかを分けます。
第二に、居住用不動産かどうかです。成年被後見人の居住用不動産について成年後見人が処分する場合、家庭裁判所の許可が必要です(859条の3)。許可がなければ、その処分は効力を生じません。
第三に、保佐人や補助人に代理権があるかどうかです。これらの保護者は当然には代理権を持たないため、代理権付与の審判の有無を確認する必要があります。
第四に、未成年者であれば、営業の許可を受けているかどうかです。営業の許可を受けた未成年者は、その営業に関しては成年者と同一の行為能力を有します。
これらの確認事項は、物件そのものの調査とは別に、当事者側の確認として必要になります。物件側の調査は「物件調査の進め方」で扱っています。
宅建業法の欠格事由との関係
名指しの欠格事由は削除されている
かつて宅建業法は、成年被後見人と被保佐人を名指しして、免許や登録の欠格事由としていました。しかし、成年後見制度を利用したことだけを理由に一律に資格を奪う扱いは見直され、令和元年の法改正でこれらの規定は削除されています。
現行の宅建業法5条1項1号は、免許の欠格事由として「心身の故障により宅地建物取引業を適正に営むことができない者として国土交通省令で定めるもの」と定めています。宅地建物取引士の登録についても、18条1項12号が同様に「心身の故障により宅地建物取引士の事務を適正に行うことができない者として国土交通省令で定めるもの」と定めています。
つまり、審判を受けているという事実だけで自動的に排除されるのではなく、業務を適正に行えるかどうかが個別に判断されます。古い教材やまとめ記事には改正前の記述が残っていることがあるため、注意してください。欠格事由の全体像は「欠格事由の一覧整理」で扱っています。
未成年者の扱い
未成年者については、別の規定が置かれています。宅建業法18条1項1号は、宅地建物取引業に係る営業に関し成年者と同一の行為能力を有しない未成年者は、宅地建物取引士の登録を受けることができないと定めています。
裏を返せば、営業の許可を受けて成年者と同一の行為能力を有する未成年者であれば、この規定によって排除されることはありません。民法6条の営業の許可が、ここで効いてきます。
なお、成年年齢は18歳なので、実際には大学生の多くは未成年者にあたりません。この規定が問題になる場面は限られます。登録の要件全体は「宅建士の登録手続き」で扱っています。
免許についても同様の構造があり、営業に関し成年者と同一の行為能力を有しない未成年者については、その法定代理人が欠格事由に該当するかどうかが問われます。免許制度の全体像は「宅建業の免許制度」で扱っています。
試験での出題ポイント
同意権の有無を入れ替える
最も多いのが、成年後見人に同意権があるかのように書く形です。成年後見人が同意した行為なら取り消せない、という肢が典型です。正しくは、同意権がないため、同意があっても取り消せます。
逆に、保佐人や補助人に同意権がないかのように書く形もあります。四類型のうち同意権がないのは成年被後見人だけ、と押さえてください。
代理権の有無を入れ替える
保佐人や補助人が当然に代理権を持つかのように書く肢が作られます。これらの保護者の代理権は、家庭裁判所の審判により特定の法律行為について付与されるものです。
一方、法定代理人と成年後見人は当然に代理権を持ちます。この対比で覚えてください。
本人の同意の要否
補助開始の審判について、本人の同意が不要であるかのように書く肢が定番です。本人以外の者の請求による場合には、本人の同意が必要です(15条2項)。
後見開始・保佐開始にはこの要件がありません。三つを並べて、補助だけが違うと覚えます。
催告の相手と効果
保護者への催告で確答がない場合を取消しとみなす、被保佐人本人への催告で確答がない場合を追認とみなす、といった入れ替えが作られます。
判断できる立場の相手なら追認、判断が難しい本人なら取消し、という原理で導いてください。丸暗記だと逆にされたときに気づけません。
例外の範囲を広げる、または狭める
未成年者について、負担付贈与を「単に権利を得る行為」として同意不要とする肢。成年被後見人について、不動産の売買を日常生活に関する行為に含める肢。被保佐人について、13条1項にない行為にも同意が必要だとする肢。いずれも例外の範囲をずらす形です。
現存利益
制限行為能力者が受領した全額を返還する義務があるとする肢が作られます。正しくは現存利益の返還で足ります(121条の2第3項)。生活費に充てた場合と遊興費に充てた場合で結論が分かれる点も、そのまま問われます。
覚え方・整理の仕方
判断能力の順に並べてから考える
四類型を思い出すときは、まず判断能力の程度で並べてください。欠く常況、著しく不十分、不十分。この順に、制限が広い順、保護が厚い順が対応します。
順序が頭にあれば、どちらが強い制限かで迷うことがなくなります。個別のルールも、この順序から導けるものが多くあります。
「同意権がないのは後見だけ」を軸にする
四類型のうち、同意権がないのは成年被後見人だけです。この一点を軸に置き、なぜかを説明できるようにしてください。判断能力を欠く常況にある以上、事前に同意しても実行できる保証がないから、という理由です。
理由まで持っていれば、「同意があれば取り消せない」という肢を反射的に排除できます。
「本人の同意が要るのは補助だけ」を対で覚える
審判に本人の同意が必要なのは、本人以外の者の請求による補助開始の審判です。後見開始・保佐開始には不要です。
これも理由から導けます。判断能力の低下が最も軽いから、本人の意思を尊重する。制限が軽い類型ほど本人の意思が重視される、という関係を覚えておいてください。
催告は「相手が判断できるか」で決める
催告の効果は、相手が判断できる立場かどうかで決まります。保護者と、能力が回復した本人は判断できるので追認とみなす。被保佐人・被補助人本人は判断が難しいので取消しとみなす。未成年者本人と成年被後見人本人には、そもそも催告しても意味がない。
三段階に分けて覚えると、表を暗記せずに答えが出ます。
数字は三つだけ
この分野で覚える数字は多くありません。成年年齢18歳、取消権の期間は追認できる時から5年・行為の時から20年、催告の期間は1か月以上。602条の期間(山林10年、その他の土地5年、建物3年、動産6か月)を加えても、負担は軽い部類です。
取消しと無効を混ぜない
意思能力を欠く場合は無効(3条の2)、行為能力の制限は取消し。この区別を最初に固定してください。混ざると、誰が主張できるか、いつまで主張できるかがすべてずれます。
理解度チェッククイズ
Q1. 成年後見人が同意を与えた行為であれば、成年被後見人が単独でした行為であっても取り消すことができない(○か×か)
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×:成年後見人には同意権がありません。判断能力を欠く常況にある以上、事前に同意を与えても、そのとおりに行動できる保証がないためです。したがって、同意があっても成年被後見人が単独でした行為は取り消せます(民法9条)。ただし、日用品の購入その他日常生活に関する行為は取り消せません(同条ただし書)。
Q2. 被保佐人が保佐人の同意を得ずにした行為は、どのような行為であっても取り消すことができる(○か×か)
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×:同意が必要なのは、民法13条1項に列挙された行為(不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為、借財または保証、相続の承認・放棄、新築・改築・増築・大修繕など)に限られます。これらに当たらない行為は被保佐人が単独で有効にでき、取り消すことはできません。なお13条2項により、家庭裁判所が同意を要する行為を追加することはできます。
Q3. 本人以外の者の請求により補助開始の審判をするには、本人の同意が必要である(○か×か)
答えを見る
○:民法15条2項により、本人以外の者の請求によって補助開始の審判をするには本人の同意が必要です。後見開始・保佐開始にはこの要件がありません。被補助人は判断能力の低下が最も軽い類型であり、本人の意思を尊重すべきだからです。補助人の同意を要する行為を定める審判についても、同様に本人の同意が必要です(17条2項)。
Q4. 被保佐人本人に対し、保佐人の同意を得るよう1か月以上の期間を定めて催告したが確答がなかった場合、追認したものとみなされる(○か×か)
答えを見る
×:この場合は取り消したものとみなされます(民法20条)。判断能力が不十分な本人が催告に適切に対応できるとは限らないため、本人に有利な取消しの側に倒す扱いです。これに対し、保佐人などの保護者や、行為能力者となった本人に催告して確答がない場合は、追認したものとみなされます。
Q5. 制限行為能力者が制限行為能力者であることを黙っていた場合、それだけで詐術にあたり取消しができなくなる(○か×か)
答えを見る
×:判例は、単に黙秘していただけでは詐術にあたらないとしています。ただし、黙秘が他の言動などと相まって相手方を誤信させ、または誤信を強めたと認められるときは詐術にあたります(最判昭和44年2月13日)。詐術が認められれば、民法21条により取り消すことができなくなります。
まとめ
制限行為能力者制度の要点を三つに整理します。
第一に、判断能力の程度に応じて制限の強さが変わります。欠く常況の成年被後見人は日常生活に関する行為を除いてすべて取消し可能、著しく不十分な被保佐人は13条1項の行為のみ、不十分な被補助人は審判で定めた一部のみ。同意権がないのは成年被後見人だけで、保佐人・補助人の代理権は審判で付与されます。
第二に、取消しと追認には期限と要件があります。取消権者には本人も含まれ(120条1項)、返還は現存利益で足ります(121条の2第3項)。追認は取消しの原因が消滅した後でなければできず(124条)、一定の行為があれば法定追認となります(125条)。取消権は追認できる時から5年、行為の時から20年で消滅します(126条)。
第三に、相手方の保護が組み込まれています。催告に確答がない場合、判断できる立場の相手なら追認とみなし、被保佐人・被補助人本人なら取消しとみなします(20条)。詐術を用いれば取消権を失います(21条)。なお、宅建業法の免許・登録の欠格事由から成年被後見人・被保佐人を名指しする規定は令和元年の改正で削除されており、現在は個別に判断されます。
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民法・借地借家法・区分所有法など、条文だけでは判断しづらい論点は、過去問の肢で覚えるのが最短です。