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住所等変更登記の義務化|2年と5万円の根拠

権利関係 読了 約25分

不動産登記法76条の5が2026年4月1日に施行され、所有権の登記名義人の氏名・住所の変更登記が義務になりました。相続登記との起算点の違い、164条2項の過料、附則の読替え、76条の6の職権登記まで条文根拠つきで整理します。

目次

    この記事は、不動産登記法76条の5が定める所有権の登記名義人の氏名等の変更の登記の申請義務を扱います。不動産登記法の全体像は不動産登記法、登記記録の読み方は不動産登記簿の読み方、相続登記の義務化と遺産分割の関係は遺産分割協議と相続登記義務化にあります。ここでは住所等変更登記という一つの義務を条文から詳しく見ます。

    先に、この論点の位置づけを述べます。76条の5は2026年4月1日に施行されました。宅建試験は当該年度の4月1日現在施行の法令から出題されるため、この施行日は令和8年度試験の基準日と正確に一致します。基準日の当日に施行された規定であり、令和8年度の出題範囲に含まれます。改正から日が浅く、しかも権利に関する登記の原則を変える内容であることから、出題の対象として意識しておく価値があります。もっとも、出題を断定できるものではありません。

    内容の要点は二つです。第一に、権利に関する登記には原則として申請義務がないという大原則に、二つ目の例外が加わりました。一つ目が2024年4月1日施行の相続登記(76条の2)、二つ目がこの住所等変更登記(76条の5)です。第二に、この二つは数字が違うだけでなく、起算点の構造そのものが違います。期限が3年と2年、過料が10万円と5万円という数字の対比は覚えやすいのですが、より本質的なのは、相続登記が主観的な起算点を採り、住所等変更登記が客観的な起算点を採っているという点です。

    なお本記事は2026年4月1日時点で施行されている条文に基づきます。不動産登記法は令和8年法律第46号により2026年6月24日にも改正が施行されていますが、本則175条のうち変更されたのは133条だけで、76条の5にも164条にも影響はありません。この記事で扱う条文の文言は、基準日時点と現在とで同一です。

    権利に関する登記の原則と、二つの例外

    まず、この義務がどこに置かれた例外なのかを確認します。

    原則は申請義務がない

    権利に関する登記には、原則として申請義務がありません。登記をするかどうかは権利者の判断に委ねられています。

    代わりに働いているのが対抗要件の仕組みです。民法177条は、不動産に関する物権の得喪および変更は登記をしなければ第三者に対抗できないと定めています。義務ではないが、しなければ不利益を受ける。これが権利に関する登記のインセンティブ構造でした(物権変動と対抗要件)。

    表示に関する登記が過料という制裁で義務を担保しているのとは、性格がまったく違います。土地の表題登記は所有権の取得の日から1か月以内(36条)、地目または地積の変更は変更があった日から1か月以内(37条1項)、建物の表題登記も1か月以内(47条1項)と、いずれも申請義務が定められています。

    例外1 相続登記の申請義務化

    この原則に、二つの例外が加わりました。いずれも民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第24号)によるもので、所有者不明土地の発生を抑えることを目的としています。

    一つ目が76条の2です。所有権の登記名義人について相続の開始があったときは、相続により所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から3年以内に所有権の移転の登記を申請しなければなりません。相続人に対する遺贈により所有権を取得した者も同様です。2024年4月1日に施行されています。

    例外2 住所等変更登記の申請義務化

    二つ目が本記事の主題である76条の5で、2026年4月1日に施行されました。

    同じ改正法によるものなのに、施行日が2年ずれています。理由は附則にあります。附則1条は、この法律を公布の日から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日から施行すると定めたうえで、号を分けて別の施行日を置きました。2号が76条の2・76条の3などについて「公布の日から起算して三年を超えない範囲内において政令で定める日」、3号が76条の4から76条の6まで、および164条に1項を加える部分について「公布の日から起算して五年を超えない範囲内において政令で定める日」としています。

    公布日は令和3年4月28日ですから、2号の枠が令和6年4月27日まで、3号の枠が令和8年4月27日まで。実際の施行日は政令によりそれぞれ2024年4月1日、2026年4月1日と定められました。準備に要する時間の差が、施行時期の差になっています。職権登記の仕組み(76条の6)を動かすには他の制度との連携が必要で、そのぶん時間がかかったと理解できます。

    令和8年度の基準日と一致する

    前述のとおり、76条の5の施行日は2026年4月1日です。宅建試験の出題範囲を画する「当該年度の4月1日現在施行の法令」という基準に、ちょうど乗ります。

    同じ改正法の3号施行分でも、たとえば164条2項(後述する5万円以下の過料)は76条の5とセットで施行されているため、あわせて範囲に入ります。改正論点の全体像は民法改正のポイントにもまとめてあります。

    76条の5を要件に分解する

    条文はごく短いのですが、要素は多く含まれています。

    条文の全文

    76条の5はこうです。「所有権の登記名義人の氏名若しくは名称又は住所について変更があったときは、当該所有権の登記名義人は、その変更があった日から二年以内に、氏名若しくは名称又は住所についての変更の登記を申請しなければならない。」

    一文ですが、義務の主体、対象となる変更、起算点、期間、行うべき行為の五つが書かれています。順に見ます。

    主体は「所有権の」登記名義人に限られる

    義務を負うのは「所有権の登記名義人」です。条文が権利の種類を明示して限定しています。

    したがって、抵当権の登記名義人、地上権の登記名義人、賃借権の登記名義人などは、氏名や住所が変わってもこの義務を負いません。登記名義人であれば誰でも義務を負う、というものではありません。

    限定の理由は制度の目的にあります。この改正が解こうとしているのは所有者不明土地の問題であり、必要なのは所有者に連絡が取れることです。担保権者や用益権者の所在が分からないことは、所有者不明土地問題としては中心的な課題ではありません。目的から範囲が決まっていると理解すれば、この限定は覚える事項ではなくなります。

    対象となるのは氏名・名称・住所の変更

    対象は「氏名若しくは名称又は住所」の変更です。自然人の氏名、法人の名称、そして住所の三つが挙げられています。

    婚姻や養子縁組による改氏、法人の商号変更、引っ越しや住居表示の実施による住所の変更などが該当します。所有権の内容が変わるわけではなく、名義人を特定する情報が変わる場面です。

    起算点は「変更があった日」

    期間の起算点は「その変更があった日」です。登記名義人が変更を認識した日ではありません。

    自分の氏名や住所が変わったことを本人が知らないという事態は通常考えにくいので、客観的な日を起算点にしても不都合が生じません。この点は、後述する相続登記の起算点と対照的です。

    期間は2年以内

    期間は変更があった日から2年以内です。相続登記の3年ではありません。

    行うべきは変更の登記の申請

    義務の内容は「氏名若しくは名称又は住所についての変更の登記を申請」することです。登記が完了することまでは求められておらず、申請をすることが義務の内容になります。

    単独で申請できる

    手続の面で押さえておくべき点があります。60条は「権利に関する登記の申請は、法令に別段の定めがある場合を除き、登記権利者及び登記義務者が共同してしなければならない」と共同申請の原則を定めています。

    しかし、登記名義人の氏名等の変更の登記には、対立する当事者がいません。権利の得喪を伴わず、名義人を特定する情報を実態に合わせるだけの登記だからです。したがって、登記名義人が単独で申請できます。義務を課された者が自分だけで履行できる構造になっており、これは相続登記との重要な違いにもつながります。

    相続登記との違いは、数字だけではない

    二つの義務は対比して出題されます。数字の違いは覚えやすいのですが、その手前にある構造の違いを押さえるほうが確実です。

    起算点の構造が違う

    76条の2の起算点は主観的です。条文は「自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から」としています。二つの認識が要求され、しかも両方が揃った日から数えます。相続が開始したことを知っていても、自分がその不動産の所有権を取得したことを知らなければ、まだ起算されません。

    76条の5の起算点は客観的です。「その変更があった日から」であり、認識は問題になりません。

    なぜ違うのか

    理由は、当事者が事実を把握できる立場にあるかどうかの差にあります。

    相続は、本人の意思と無関係に、他人の死亡によって開始します。疎遠な親族の相続人になっていることを知らない、遺言の存在を知らない、遺産に不動産が含まれていることを知らない。こうした事態が現実に起こります。知らないうちに義務違反が成立し、過料の対象になるのでは酷です。だから認識を起算点に組み込んでいます。

    これに対し、自分の氏名や住所の変更は、本人が当然に知っている事実です。認識を要件に組み込む必要がありません。

    起算点が客観的か主観的かは、その事実を本人が把握できるかどうかで決まっている。この理解があれば、二つの条文の書き分けが必然に見えてきます。

    期間が3年と2年で違う理由も同じ発想で説明できる

    期間の差も、履行の難易から説明できます。

    相続登記を申請するには、相続人を確定し、遺産分割を成立させ、必要な書類を揃える必要があります。相続人が多数いれば連絡だけで時間がかかり、分割協議がまとまらないこともあります。自分ひとりでは完結しません。

    住所等変更登記は、前述のとおり単独で申請できます。添付書類も住民票の写しなど比較的容易に取得できるものが中心です。本人の行動だけで完結します。

    自分だけでは終わらない手続に3年、自分だけで終わる手続に2年。期間の差は、他人の関与が必要かどうかの差に対応しています。

    相続登記には逃げ道があるが、住所等変更登記にはない

    もう一つの構造的な違いがあります。

    76条の3は相続人申告登記という簡易な手続を用意しました。76条の2第1項の申請義務を負う者は、登記官に対し、所有権の登記名義人について相続が開始した旨および自らがその相続人である旨を申し出ることができ(1項)、期間内にこの申出をした者は、所有権の移転の登記を申請する義務を履行したものとみなされます(2項)。登記官は職権でその旨を所有権の登記に付記することができます(3項)。

    ただし暫定的な措置です。その後の遺産分割によって所有権を取得したときは、遺産分割の日から3年以内に所有権の移転の登記を申請しなければならず(4項)、これを怠れば過料の対象になります。76条の2第2項も、法定相続分に応じた登記がされた後に遺産分割があったときは、相続分を超えて所有権を取得した者が遺産分割の日から3年以内に登記を申請すべきことを定めています。

    76条の5には、これに相当する制度がありません。申出で義務を履行したとみなす仕組みは置かれていません。理由は明快で、単独で申請できる以上、簡易な代替手段を用意する必要がないからです。

    「住所変更についても、申し出れば義務を履行したものとみなされる」という記述を見かけたら、相続人申告登記と混同したものです。

    過料は164条の1項と2項に分かれている

    制裁の条文も、構造を見ると理解しやすくなります。

    164条1項に並んでいる顔ぶれ

    164条1項は、次の規定による申請をすべき義務がある者が正当な理由がないのにその申請を怠ったときは10万円以下の過料に処すると定めています。列挙されているのは、36条、37条1項・2項、42条、47条1項、49条1項・3項・4項、51条1項から4項まで、57条、58条6項・7項、そして76条の2第1項・2項76条の3第4項です。

    注目すべきは顔ぶれです。36条・37条・47条・51条などは、いずれも表示に関する登記の申請義務です。そこに相続登記の義務が並べて置かれています。相続登記は、制裁の面では表示に関する登記と同じ扱いを受けているということです。

    76条の5だけが2項に置かれ、額も低い

    これに対し164条2項は「第七十六条の五の規定による申請をすべき義務がある者が正当な理由がないのにその申請を怠ったときは、五万円以下の過料に処する」と定めています。

    76条の5だけのために独立の項が設けられ、額も半分になっています。前述の附則1条3号が「同法第百六十四条の改正規定(同条に一項を加える部分に限る。)」を3号施行分としていたのは、この2項を指しています。76条の5と164条2項は、同時に施行された一組の規定です。

    額が低いことの意味

    なぜ半額なのか。義務違反の重さが違うと評価されているためと考えられます。相続登記が未了だと権利者そのものが判明せず、世代を重ねるほど権利者が増えて手がつけられなくなります。住所の変更登記が未了の場合、名義人は判明しており、所在の追跡が困難になるにとどまります。問題の深刻さの差が、過料の額の差に表れていると整理できます。

    「正当な理由がないのに」という要件

    1項と2項に共通して、「正当な理由がないのに」という要件が置かれています。期間を過ぎれば直ちに過料になるのではなく、正当な理由があれば科されません。

    もっとも、何が正当な理由に当たるかは条文に定義されていません。この点について法務省が通達で考え方を示していますが、条文上の定義ではないため、この記事では具体的な類型を列挙しません。条文から言えるのは、正当な理由の有無という判断の余地が制度に組み込まれているという点までです。

    過料は刑罰ではない

    用語の確認をしておきます。過料は行政上の秩序罰であって、刑罰ではありません。罰金や科料とは異なり、前科にはなりません。

    宅建業法の罰則で出てくる拘禁刑や罰金とは性質が違うので、混同しないでください。宅建業法側の罰則体系は宅建業法の罰則一覧にあります。

    施行日前の変更も対象になる

    経過措置は、この論点で最も正確さが要る部分です。

    遡って適用される

    76条の5は、施行日より前に氏名や住所が変わっていた場合にも適用されます。施行日以後の変更だけが対象なのではありません。

    根拠は民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第24号)附則5条7項です。同項は、76条の5の規定を「同号に掲げる規定の施行の日(以下『第三号施行日』という。)前に所有権の登記名義人の氏名若しくは名称又は住所について変更があった場合についても、適用する」と定めています。

    仕組みは「猶予期間」ではなく起算点の読替え

    ここが正確を期すべき点です。附則は猶予期間という形をとっていません。読替えという方法を使っています。

    同項後段はこう定めています。76条の5中「所有権の登記名義人の」とあるのは「第三号施行日前に所有権の登記名義人となった者の」と、「あった日」とあるのは「あった日又は第三号施行日のいずれか遅い日」とする。

    つまり、施行日前に変更があった場合には、起算点が「変更があった日」から「変更があった日または施行日のうち遅いほう」に置き換わります。施行日前の変更であれば施行日のほうが遅いので、施行日が起算点になります。

    結果として2028年3月31日が期限になる

    施行日は2026年4月1日ですから、施行日前に生じていた変更については、そこから2年、すなわち2028年3月31日までに変更の登記を申請することになります。

    結論としては「2年の猶予がある」と説明されることが多く、実質はそのとおりです。ただし条文の作りは猶予規定ではなく起算点の読替えなので、根拠を問われたときに附則5条7項の読替えを指せるようにしておくと正確です。

    相続登記でも同じ方法が使われている

    附則5条6項が、76条の2について同じ構造の規定を置いています。76条の2の規定を第二号施行日前に相続の開始があった場合にも適用するとしたうえで、「知った日」とあるのは「知った日又は第二号施行日のいずれか遅い日」と、2項の「分割の日」とあるのは「分割の日又は第二号施行日のいずれか遅い日」とする、という読替えです。

    二つの義務で、遡及適用の方法まで揃えられています。相続登記については第二号施行日が2024年4月1日なので、施行日前に開始していた相続については2027年3月31日までが期限になります。

    職権による変更登記(76条の6)

    義務を課すだけでなく、義務を果たしやすくする仕組みも同時に導入されました。

    権利に関する登記に職権登記が入った

    従来、「表示に関する登記は登記官が職権でできるが、権利に関する登記は職権ではできない」という整理が使われてきました。76条の6は、この整理に例外を作りました。

    条文はこうです。「登記官は、所有権の登記名義人の氏名若しくは名称又は住所について変更があったと認めるべき場合として法務省令で定める場合には、法務省令で定めるところにより、職権で、氏名若しくは名称又は住所についての変更の登記をすることができる。ただし、当該所有権の登記名義人が自然人であるときは、その申出があるときに限る。

    ただし書が自然人と法人を分けている

    本文だけを読むと、登記官が職権で変更登記をできるように読めます。しかしただし書が、自然人については申出があるときに限ると定めています。

    したがって、自然人の場合は本人が申出をしていなければ職権登記は行われません。申出をしていない人が、自動的に義務を免れるわけではありません。プライバシーへの配慮から、本人の意思を介在させる仕組みになっています。

    法人については会社法人等番号が土台にある

    法人について申出が要求されていないのは、別の経路で情報がつながるからです。

    73条の2第1項1号は、所有権の登記の登記事項として、所有権の登記名義人が法人であるときは会社法人等番号その他の特定の法人を識別するために必要な事項を挙げています。商業・法人登記の側で名称や本店の変更が登記されれば、その情報を手がかりに不動産登記の側を更新できる、という設計です。

    なお73条の2第1項2号は、所有権の登記名義人が国内に住所を有しないときは、その国内における連絡先となる者の氏名または名称および住所その他の事項を登記事項としています。所在の把握を確保するという同じ目的から置かれた規定です。

    職権登記があっても申請義務は消えない

    理解を誤りやすい点です。76条の6は登記官が職権で登記を「することができる」と定めた規定であって、登記名義人の申請義務を免除する規定ではありません。

    76条の5の義務は、職権登記の有無にかかわらず存在します。実際に職権で変更登記がされれば、その時点で登記記録は実態に合致するので、あらためて申請する必要はなくなります。しかし制度の建て付けとして「申出をしておけば義務がなくなる」わけではないという点は押さえてください。

    宅建業の実務ではどこに現れるか

    試験科目としては権利関係の論点ですが、宅建業の実務とも接点があります。

    登記記録の住所と現住所がずれる

    住所の変更登記がされていない不動産では、登記記録上の住所と売主の現住所が一致しません。この状態で所有権移転登記を申請することはできないため、売買にあたっては前提として登記名義人の住所変更登記を済ませる必要が生じます。

    義務化によってこのずれが減れば、取引の準備にかかる手間も減ることになります。制度の目的は所有者不明土地の解消ですが、取引実務にも影響が及びます。

    重要事項説明との関係

    宅地建物取引業法35条1項1号は、重要事項説明の対象として「当該宅地又は建物の上に存する登記された権利の種類及び内容並びに登記名義人又は登記簿の表題部に記録された所有者の氏名」を挙げています。登記記録を確認して説明する以上、記録された名義人の情報が実態と合っているかは調査の対象になります(35条書面の記載事項一覧)。

    宅建業法側の「変更」の届出とは別の制度である

    紛らわしいので確認しておきます。不動産登記法76条の5の変更の登記と、宅建業法上の変更の届出・変更の登録は、まったく別の制度です。

    宅建業者については、宅建業法9条が、4条1項1号から5号までに掲げる事項に変更があった場合に30日以内の届出を求めています(宅建業者名簿と変更の届出)。宅建士については、20条が、登録を受けている事項に変更があったときは遅滞なく変更の登録を申請しなければならないと定めています(宅建士の登録と宅建士証)。

    2年以内は不動産登記法、30日以内は宅建業者、遅滞なくは宅建士。期限の形式がそれぞれ違うので、どの法律のどの主体の話かを確認してから答えてください。

    試験での出題ポイント

    期間と過料の数字を入れ替える

    最も基本的な型です。相続登記が3年以内で10万円以下、住所等変更登記が2年以内で5万円以下。これを交差させた肢が作られます。

    「相続は3年で10万円、住所氏名は2年で5万円」と対で覚えてください。数字が四つあるので、二つずつ組にしておくと崩れません。

    起算点をずらす

    76条の5の起算点は「変更があった日」です。「変更を知った日から」とする肢は誤りで、それは相続登記の構造です。逆に76条の2について「相続の開始があった日から3年以内」とする肢も誤りで、条文は「知り、かつ、知った日から」です。

    義務を負う者の範囲を広げる

    76条の5の主体は「所有権の登記名義人」です。「登記名義人は、その氏名または住所に変更があったときは2年以内に変更の登記を申請しなければならない」と権利の種類を落とした肢や、抵当権者を含める肢は誤りになります。

    施行日前の変更を対象外とする

    「76条の5は施行日以後に生じた変更について適用され、施行日前の変更には適用されない」という肢は誤りです。附則5条7項が施行日前の変更にも適用するとしたうえで、起算点を「あった日又は第三号施行日のいずれか遅い日」に読み替えています。

    職権登記に関する肢

    「登記官は、所有権の登記名義人の氏名等に変更があったと認めるべき場合には、常に職権で変更の登記をすることができる」は誤りです。76条の6ただし書により、自然人については申出があるときに限られます。

    逆に「職権による変更登記の制度が設けられたため、所有権の登記名義人は変更の登記を申請する義務を負わない」という肢も誤りです。76条の6は職権で登記を「することができる」と定めた規定にすぎません。

    相続人申告登記を住所変更に持ち込む

    「所有権の登記名義人は、住所の変更について登記官に申し出ることにより、変更の登記の申請義務を履行したものとみなされる」という肢が考えられます。誤りです。申出により義務を履行したものとみなす仕組み(76条の3第2項)は相続登記のためのもので、76条の5には対応する規定がありません。

    権利に関する登記の原則を問う

    「権利に関する登記には申請義務がない」という一般論を、例外を無視して出す肢にも注意してください。原則はそのとおりですが、76条の2と76条の5という二つの例外があります。表示に関する登記の1か月以内という期間(36条、37条1項、47条1項、51条1項など)と混同させる形でも出ます。権利関係の頻出論点は権利関係の頻出論点、分野全体の設計は権利関係の全体像にあります。

    覚え方・整理の仕方

    「自分で終わるか、他人が要るか」で二つを分ける

    期間と起算点の違いは、履行の難易から導けます。

    相続登記は、相続人の確定と遺産分割が要るので自分だけでは終わりません。だから起算点に認識を組み込み(知り、かつ、知った日)、期間を長くし(3年)、簡易な代替手段を用意しました(相続人申告登記)。

    住所等変更登記は、単独で申請でき自分だけで終わります。だから起算点は客観的で(変更があった日)、期間は短く(2年)、代替手段はありません。

    三つの違いが、一つの理由から同時に説明できます。数字を四つ暗記するより、この理屈を一つ持つほうが確実です。

    過料は「条文の項」で覚える

    164条1項が10万円以下、2項が5万円以下。1項には表示に関する登記と相続登記が並び、2項には76条の5だけが置かれています。

    「1項は大勢、2項は一人」と覚えておけば、額の対応も思い出せます。額の大小も、項の順序と一致しています。

    遡及適用は「いずれか遅い日」

    附則の読替えは、相続登記も住所等変更登記も同じ言葉を使っています。「いずれか遅い日」です。

    この一語を覚えておけば、施行日前の事案でも起算点を導けます。変更があった日と施行日を並べ、遅いほうから数える。施行日前の変更なら施行日から、施行日後の変更なら変更の日から。場合分けを覚えるのではなく、一つのルールで処理できます。

    職権登記は「法人は自動、自然人は申出」

    76条の6のただし書は、自然人にだけ条件を付けています。法人は自動、自然人は申出。

    理由も添えます。法人は会社法人等番号(73条の2第1項1号)で商業・法人登記とつながっているから自動でよい。自然人はプライバシーの問題があるから本人の意思を介在させる。理由から入れば、逆にしません。

    三つの「変更」を法律で分ける

    不動産登記法76条の5が2年以内、宅建業法9条の変更の届出が30日以内、宅建業法20条の変更の登録が遅滞なく。同じ「変更」でも、法律と主体が違えば期限の形式まで違います。

    問題文を読んだら、まず「どの法律の、誰の義務か」を確定させてください。

    理解度チェッククイズ

    問1 所有権の登記名義人の住所について変更があったときは、当該登記名義人は、その変更があったことを知った日から2年以内に変更の登記を申請しなければならない。

    答え:×。起算点が誤りです。不動産登記法76条の5は「その変更があった日から二年以内に」と定めており、認識は要件になっていません。客観的な起算点です。認識を起算点に組み込んでいるのは相続登記のほうで、76条の2第1項は「自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から三年以内」としています。相続は本人の意思と無関係に他人の死亡によって開始し、相続人が事実を知らないことがあり得るため認識が要件になっています。これに対し自分の氏名や住所の変更は本人が当然に知っている事実なので、認識を要件にする必要がありません。起算点が主観的か客観的かは、本人がその事実を把握できる立場にあるかどうかで決まっています。

    問2 抵当権の登記名義人は、その住所について変更があったときは、変更があった日から2年以内に変更の登記を申請しなければならない。

    答え:×。76条の5が義務を課しているのは「所有権の登記名義人」に限られます。条文が権利の種類を明示して限定しているため、抵当権者、地上権者、賃借権者などの所有権以外の登記名義人は、この義務を負いません。限定の理由は制度の目的にあります。この改正が解こうとしているのは所有者不明土地の問題であり、必要なのは所有者に連絡が取れることです。担保権者や用益権者の所在は、この問題の中心的な課題ではありません。目的が範囲を決めていると理解すれば、限定の存在を思い出せます。

    問3 正当な理由なく住所の変更の登記を怠った場合、10万円以下の過料に処せられる。

    答え:×。5万円以下です。164条は制裁を二つの項に分けており、1項が10万円以下の過料、2項が5万円以下の過料を定めています。そして2項が対象としているのは76条の5だけです。1項に列挙されているのは、36条・37条1項2項・42条・47条1項・49条・51条といった表示に関する登記の申請義務と、76条の2第1項2項および76条の3第4項、すなわち相続登記の義務です。相続登記が表示に関する登記と同じ10万円以下の枠に置かれているのに対し、住所等変更登記だけが独立の項で半額とされています。相続登記が未了だと権利者そのものが判明しなくなるのに対し、住所変更が未了でも名義人は判明しているという、問題の深刻さの差が額に表れていると整理できます。なお過料は行政上の秩序罰であって刑罰ではなく、前科にはなりません。

    問4 不動産登記法76条の5は2026年4月1日に施行されたため、同日より前に住所の変更があった場合には適用されない。

    答え:×。施行日前の変更にも適用されます。根拠は民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第24号)附則5条7項で、76条の5の規定を施行日前に氏名・名称・住所の変更があった場合についても適用すると定めています。ただし単純に遡及させるのではなく、読替えという方法が採られています。同項は76条の5中の「あった日」を「あった日又は第三号施行日のいずれか遅い日」と読み替えるとしており、施行日前の変更については施行日のほうが遅いため、施行日が起算点になります。結果として、施行日前に生じていた変更については2028年3月31日までが期限です。同じ読替えの方法は相続登記についても使われており、附則5条6項が「知った日」を「知った日又は第二号施行日のいずれか遅い日」と読み替えています。

    問5 登記官は、所有権の登記名義人の氏名または住所について変更があったと認めるべき場合には、当該登記名義人が自然人であるか法人であるかを問わず、職権で変更の登記をすることができる。

    答え:×。76条の6は本文で登記官が職権で変更の登記をすることができると定めていますが、ただし書が「当該所有権の登記名義人が自然人であるときは、その申出があるときに限る」としています。自然人については本人の申出が前提であり、申出がなければ職権登記は行われません。プライバシーへの配慮によるものです。法人について申出が要求されていないのは、73条の2第1項1号が所有権の登記の登記事項として会社法人等番号を挙げており、商業・法人登記の側の情報とつながる仕組みがあるためです。なお、76条の6は職権で登記を「することができる」と定めた規定にすぎず、76条の5の申請義務を免除するものではありません。

    まとめ

    1. 権利に関する登記の原則に、二つ目の例外が加わった。権利に関する登記には原則として申請義務がなく、民法177条の対抗要件がインセンティブとして働いてきました。そこに相続登記(76条の2、2024年4月1日施行)と住所等変更登記(76条の5、2026年4月1日施行)という二つの例外が置かれました。いずれも令和3年法律第24号によるもので、附則1条が号を分けて施行日を分けています。

    2. 76条の5の要件は五つに分解できる。主体は「所有権の」登記名義人に限られ、対象は氏名・名称・住所の変更、起算点は「変更があった日」、期間は2年以内、行うべきは変更の登記の申請です。共同申請の原則(60条)にかかわらず、単独で申請できます。

    3. 相続登記との違いは数字だけではない。76条の2は「知り、かつ、知った日」という主観的起算点を採り、76条の5は「変更があった日」という客観的起算点を採ります。期間が3年と2年で違うのも、簡易な代替手段(76条の3の相続人申告登記)が相続登記にだけあるのも、自分ひとりで履行できるかどうかという一つの理由から説明できます。

    4. 過料は164条の項で分かれている。1項が10万円以下で、表示に関する登記の義務と相続登記の義務が並びます。2項が5万円以下で、76条の5だけが対象です。いずれも「正当な理由がないのに」という要件があり、過料は刑罰ではありません。

    5. 施行日前の変更にも適用される。附則5条7項が、起算点を「あった日又は第三号施行日のいずれか遅い日」と読み替えることで遡及適用を実現しています。猶予規定ではなく読替え規定である点が正確な理解です。結果として施行日前の変更は2028年3月31日までが期限になります。

    6. 職権登記が権利に関する登記に導入された。76条の6は登記官が職権で変更登記をすることを認めましたが、ただし書により自然人については申出があるときに限られます。法人については73条の2第1項1号の会社法人等番号が土台になっています。職権登記の仕組みは申請義務を免除するものではありません。

    よくある質問

    Q. 引っ越しをするたびに登記を変更しなければならないのですか。

    A. 所有権の登記名義人であれば、変更があった日から2年以内に変更の登記を申請する義務があります(76条の5)。ただし76条の6の職権登記の仕組みがあり、自然人の場合は法務省令で定めるところにより申出をしておけば、登記官が職権で変更の登記をすることができます。申出をしていない場合は、自分で申請することになります。

    Q. 施行日前から住所が変わったままになっています。いつまでに申請すればよいですか。

    A. 施行日である2026年4月1日から2年、すなわち2028年3月31日までです。根拠は令和3年法律第24号附則5条7項で、76条の5の「あった日」を「あった日又は第三号施行日のいずれか遅い日」と読み替えるとしています。施行日前の変更については施行日のほうが遅いので、施行日から数えることになります。

    Q. 期限を過ぎたら必ず過料になりますか。

    A. 164条2項は「正当な理由がないのにその申請を怠ったとき」と定めており、正当な理由があれば過料は科されません。何が正当な理由に当たるかは条文に定義がなく、法務省が通達で考え方を示しています。また過料は行政上の秩序罰であって刑罰ではないため、科されても前科にはなりません。

    Q. 相続登記と住所変更登記の両方が必要になることはありますか。

    A. あります。たとえば被相続人の住所が登記記録と異なっている場合、相続による所有権移転登記の前提として被相続人の住所の変更を証する書面が必要になるなど、手続が重なる場面があります。両者は別個の義務であり、それぞれ76条の2と76条の5に根拠があります。相続に伴う登記の実務的な流れは相続不動産の基礎知識、遺産分割との関係は遺産分割協議と相続登記義務化で扱っています。

    Q. 宅建業者や宅建士の住所が変わった場合も、この2年以内のルールが適用されますか。

    A. 適用されません。まったく別の制度です。不動産登記法76条の5は、不動産の所有権の登記名義人としての義務です。宅建業者としての届出は宅地建物取引業法9条により30日以内、宅建士としての変更の登録は同法20条により遅滞なくと定められています。期限の形式も根拠法も異なるので、どの法律の、誰の立場での義務かを確認してください。


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