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意思表示の到達主義|いつ誰に効力が生じるか

権利関係 読了 約36分

意思表示は到達した時に効力を生じます(97条1項)。到達妨害・発信後の死亡・受領能力・公示による意思表示を条文で整理し、承諾の発信主義が削除された改正まで扱います。

目次

    この記事は、意思表示について「いつ効力を生じるか」と「誰に対して効力を生じるか」を扱います。意思表示の中身に問題がある場合、つまり心裡留保・虚偽表示・錯誤・詐欺・強迫は意思表示の瑕疵に、無効と取消しという効果の枠組みは無効と取消しの違いにあります。ここでは、中身が正常な意思表示であっても独立に問題になる、時と相手の問題だけを扱います。

    先に結論を述べます。民法は到達主義を採っています。97条1項は「意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる」と定めており、発信した時ではありません。

    そして、この一本の原則から派生する論点が四つあります。第一に、「到達」とは何か。現実に読むことまでは要りません。第二に、到達を妨げられたらどうなるか。97条2項が到達したものとみなします。第三に、発信後に表意者が死亡したらどうなるか。97条3項が効力を妨げないとしています。第四に、受け取る側に能力がない場合はどうなるか。98条の2が対抗できないとしています。

    四つのうち、宅建試験で最も落としやすいのは第四の受領能力です。受領能力を欠くのは意思無能力者・未成年者・成年被後見人の三つだけで、被保佐人と被補助人は含まれません。制限行為能力者は四類型あるのに、そのうち二つしか入っていない。この非対称が繰り返し問われます。

    さらに、この分野には正誤が反転した改正があります。改正前は隔地者間の契約について承諾の発信主義が定められていましたが、その規定は削除され、承諾についても到達主義に統一されました。

    以下、到達主義の中身を条文で確認したうえで、四つの派生論点と改正点を順に見ていきます。分野全体の設計は権利関係の全体像で扱っています。

    なお本記事は2026年4月1日時点で施行されている条文に基づきます。宅建試験は当該年度の4月1日現在施行の法令から出題されるためです。民法は令和8年法律第45号により2026年6月24日にも改正が施行されていますが、本則の条文に変更はなく、ここで扱う97条から98条の2まで、および522条以下の文言はすべて同一です。

    到達主義とは何か

    まず原則を確定させます。

    97条1項の文言

    97条1項はこう定めています。「意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる。

    短い条文ですが、二つのことを決めています。効力が生じる時点は「到達した時」であることと、それより前には効力が生じないことです。

    三つの時点のうち真ん中を採った

    意思表示が相手に届くまでには、区別できる時点が三つあります。

    表白、つまり手紙を書き上げた時点。発信、つまり投函した時点。到達、つまり相手の支配圏に入った時点。そして最後に了知、相手が読んで内容を知った時点です。

    このうち民法が選んだのは到達です。発信でも了知でもありません。

    なぜ真ん中なのか。理由は危険の分配にあります。

    発信を基準にすると、郵便事故で届かなかった場合でも意思表示は効力を生じてしまい、受け取っていない相手方が不意打ちを受けます。知らないうちに契約が解除されていた、という事態が起こりえます。

    逆に了知を基準にすると、相手が封を切らずに放置している間は効力が生じず、相手方の都合ひとつで効力の発生を先送りできてしまいます。表意者はいつまでも法律関係を確定できません。

    到達は、この両極の中間に線を引いたものです。相手が知ろうと思えば知ることができる状態まで持っていく責任は表意者が負い、そこから先、実際に読むかどうかの責任は相手方が負う。責任の分界点として合理的だから、到達が原則になっています。

    改正で「隔地者に対する」が削られた

    97条は平成29年法律第44号による改正(2020年4月1日施行)で書き換えられています。旧97条1項は「隔地者に対する意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる」でした。

    現行1項は「意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる」です。「隔地者に対する」という限定が削られています。

    改正前は、条文が隔地者間の場面しか定めておらず、対話者間の意思表示については明文がありませんでした。現行法は限定を外し、意思表示一般について到達主義が妥当することを条文で明らかにしています。改正点の全体像は民法改正のポイントにあります。

    到達の証明は表意者が負う

    条文には書かれていませんが、実務上重要な帰結があります。到達したことを主張する側、つまり表意者が、到達を証明する必要があります。

    「解除の通知を送りました」と述べるだけでは足りず、それが相手に届いたことを示さなければなりません。だから実務では、内容証明郵便に配達証明を付けて送ります。内容証明郵便はどういう内容の文書を出したかを郵便事業者が証明するもので、配達証明はいつ配達されたかを証明するものです。二つは別のサービスで、両方付けて初めて「この内容の通知がこの日に届いた」ことを示せます。

    期間の管理が要求される通知では、この差が結論を分けます。後述する借地借家法26条1項の更新拒絶の通知のように、期間内に到達したことを証明できなければ効果が生じない場面があるからです。

    「到達」とは何を意味するか

    次に、到達の中身です。ここが曖昧だと、事例問題で判断できません。

    現実に読むことは要らない

    到達といえるためには、相手方が現実に内容を了知することまでは必要ありません。相手方が知ろうと思えば知ることができる状態、いわゆる了知可能な状態に置かれれば足ります。

    この理解は、民法の条文の組み立てから読み取れます。三か所を確認してください。

    第一に、97条2項です。「相手方が正当な理由なく意思表示の通知が到達することを妨げたときは、その通知は、通常到達すべきであった時に到達したものとみなす」と定めています。受け取りを避けても到達扱いになるという規定が置かれている以上、条文は「読んだこと」を到達の要件としていません。

    第二に、98条3項です。公示による意思表示について「最後に官報に掲載した日又はその掲載に代わる掲示を始めた日から二週間を経過した時に、相手方に到達したものとみなす」と定めています。相手方は所在不明で、現実に官報を読んでいるはずがありません。それでも到達とみなされます。

    第三に、98条の2です。受け取る側の能力の問題を、97条とは別の条文で処理しています。「読んで理解できたか」を到達の中で判断するのではなく、別枠で扱う構造になっている。これも、到達が了知そのものを指していないことの現れです。

    条文が三か所で、了知していない場面を到達として扱っている。だから97条1項の「到達」は、了知可能な状態に置かれたことを意味すると理解されています。

    支配圏に入ったかで判断する

    言い換えれば、判断基準はその通知が相手方の支配圏に入ったかです。

    自宅の郵便受けに投函されれば、相手方はいつでも取り出して読める状態にあります。本人が旅行中で数日間読んでいなくても、その事情は表意者の側の問題ではありません。

    同居する家族や、会社であれば従業員が受け取った場合も、通常はその組織や世帯の支配圏に入ったといえます。ただし、これは常に到達になるという意味ではありません。受け取った者が本人に渡すことがおよそ期待できない事情があれば、了知可能な状態に置かれたとはいえないという判断もありえます。要は、その通知が本人に届きうる状態になったかを、状況に即して判断することになります。

    到達といえない場面

    逆に、次のような場合は到達といえません。

    投函しただけで、まだ配達されていない段階。これは発信にとどまります。到達主義の下では効力が生じません。

    誤った住所に配達された場合。相手方の支配圏に入っていないので、到達していません。

    不在で持ち戻された場合の扱い

    条文が正面から答えていない場面があります。相手方が不在で、不在配達通知書が投函されたものの受け取りに行かず、留置期間の経過で差出人に返送された、という場合です。

    このとき論点になるのは、97条2項の「正当な理由なく……到達することを妨げた」に当たるかどうかです。単に不在だったのか、通知が来ていると分かったうえで意図的に取りに行かなかったのかで、評価が変わりえます。条文に一律の答えがない領域なので、宅建試験で細かく問われることはありません。「不在票が入れば必ず到達する」とも「持ち戻されたら絶対に到達しない」とも言えないという点だけ押さえておけば十分です。

    到達を妨げられた場合(97条2項)

    新設された規定である

    97条2項は「相手方が正当な理由なく意思表示の通知が到達することを妨げたときは、その通知は、通常到達すべきであった時に到達したものとみなす。」と定めています。

    旧97条には、これに対応する規定がありませんでした。旧条文は1項が隔地者に対する意思表示の到達主義、2項が発信後の死亡等という二項構成で、到達妨害の規定はどこにもありません。現行2項は改正で新設されたものです。

    要件は二つ

    条文から要件を取り出すと二つです。

    第一に、相手方が到達を妨げたこと。受取りを拒絶する、居留守を使う、といった行為です。

    第二に、それが正当な理由のないものであること。条文は「正当な理由なく」と書いています。正当な理由があれば、この規定は働きません。長期の入院や、災害で受け取れる状態になかったといった事情があれば、妨げたとは評価されません。

    効果は「通常到達すべきであった時」

    効果の書きぶりも正確に押さえてください。「通常到達すべきであった時に到達したものとみなす」です。

    拒絶した時でも、返送された時でもありません。妨害がなければ普通に届いていたはずの時点まで遡って、到達したものとして扱います。期間の計算が絡む通知では、この起算点の違いが結論を左右します。

    なぜこの規定が置かれたのか

    到達主義は表意者に到達までの責任を負わせる仕組みです。ところが、相手方が受け取りを拒めば、表意者はどうやっても到達させられません。相手方が自分の行為で効力の発生を止められるとすれば、到達主義が相手方の武器になってしまいます。

    そこで、相手方が正当な理由なく到達を妨げた場合には、その妨害を評価に入れず、妨害がなかったならばどうなっていたかで処理する。責任の分界点を、妨害によって動かさないという趣旨の規定です。

    発信後に表意者に生じた事情(97条3項)

    効力は妨げられない

    97条3項は「意思表示は、表意者が通知を発した後に死亡し、意思能力を喪失し、又は行為能力の制限を受けたときであっても、そのためにその効力を妨げられない」と定めています。

    発信した後で表意者に何が起きても、意思表示はそのまま到達し、効力を生じます。売主が契約解除の通知を発送した後に死亡しても、その通知が買主に到達すれば解除の効力が生じます。

    理由は意思表示が完成していること

    意思表示は発信の時点で表意者の手を離れています。あとは届くだけであり、その間に表意者の側で何が起きても、すでにされた意思表示の内容が変わるわけではありません。

    到達主義は「効力が生じる時点」を決めるルールであって、「到達の瞬間まで表意者に判断能力が必要だ」というルールではありません。この二つを混同させる出題が出ます。

    改正で「意思能力を喪失し」が加わった

    ここも改正で条文が変わっています。旧97条2項は「隔地者に対する意思表示は、表意者が通知を発した後に死亡し、又は行為能力を喪失したときであっても、そのためにその効力を妨げられない」でした。

    現行3項と比べてください。三点違います。

    「隔地者に対する」が削られたのは1項と同じです。「意思能力を喪失し」が加えられました。旧条文は死亡と行為能力の喪失しか挙げておらず、意思能力を失った場合が明文で拾われていませんでした。そして「行為能力を喪失したとき」が「行為能力の制限を受けたとき」に改められました。行為能力は喪失するものではなく制限されるものだ、という整理に合わせた文言の修正です。

    意思能力と行為能力の区別そのものは制限行為能力者制度で扱っています。

    申込みには特則がある

    97条3項は意思表示一般のルールですが、契約の申込みについては526条が特則を置いています。

    「申込者が申込みの通知を発した後に死亡し、意思能力を有しない常況にある者となり、又は行為能力の制限を受けた場合において、申込者がその事実が生じたとすればその申込みは効力を有しない旨の意思を表示していたとき、又はその相手方が承諾の通知を発するまでにその事実が生じたことを知ったときは、その申込みは、その効力を有しない。」

    原則である97条3項によれば申込みは効力を失わないはずですが、二つの場合に例外的に効力を失います。申込者があらかじめそう表示していた場合と、相手方が承諾の通知を発するまでにその事実を知った場合です。

    後者の理由は、相手方の信頼保護にあります。申込者が死亡したと知りながら承諾しても、保護すべき信頼がありません。逆に知らずに承諾した相手方は、契約が成立すると信じているのですから、その信頼を守る必要があります。

    判断の基準時が「承諾の通知を発するまで」である点も条文どおりに押さえてください。承諾が到達するまで、ではありません。

    到達前なら撤回できる

    到達主義には裏返しの帰結があります。

    効力が生じていない以上、引っ込められる

    意思表示は到達して初めて効力を生じます。ということは、到達する前であれば、まだ効力が生じていないのだから、撤回できます。

    ただし条件があります。撤回の意思表示が、元の意思表示より先に、または同時に相手方に到達しなければなりません。元の意思表示が先に到達してしまえば、その時点で効力が生じてしまい、後から撤回の通知が届いても手遅れです。速達で追いかける、という実務上の工夫はここから出てきます。

    到達した後は、原則として撤回できません。効力が生じてしまった意思表示を一方的に引っ込めることは認められないからです。効力を否定したければ、取消しや解除といった別の制度によることになります。取消しの仕組みは無効と取消しの違い、解除は債務不履行で扱っています。

    申込みの撤回には別の制限がかかる

    契約の申込みについては、到達前かどうかとは別の次元で、撤回を制限する規定が置かれています。相手方が承諾の準備をしている段階で自由に撤回されては困るからです。

    承諾の期間を定めた申込みについては、523条1項が「承諾の期間を定めてした申込みは、撤回することができない。ただし、申込者が撤回をする権利を留保したときは、この限りでない」と定めています。ただし書の撤回権の留保は改正で加えられた部分です。2項は、その期間内に承諾の通知を受けなかったときは申込みが効力を失うとしています。

    承諾の期間を定めない申込みについては、525条1項が「申込者が承諾の通知を受けるのに相当な期間を経過するまでは、撤回することができない」と定め、こちらにも撤回権の留保のただし書があります。

    525条には対話者についての規定が二つ加わっています。2項は「対話者に対してした前項の申込みは、同項の規定にかかわらず、その対話が継続している間は、いつでも撤回することができる」、3項は「対話者に対してした第一項の申込みに対して対話が継続している間に申込者が承諾の通知を受けなかったときは、その申込みは、その効力を失う。ただし、申込者が対話の終了後もその申込みが効力を失わない旨を表示したときは、この限りでない」としています。

    旧524条は「承諾の期間を定めないで隔地者に対してした申込みは」と隔地者に限定しており、対話者についての2項・3項はありませんでした。97条から「隔地者」の限定が消えたのと同じ方向の整理です。

    受領能力(98条の2)

    ここがこの記事の核心です。受け取る側に問題がある場合を扱う唯一の条文であり、宅建試験でも繰り返し問われます。

    条文の全文

    98条の2はこう定めています。

    「意思表示の相手方がその意思表示を受けた時に意思能力を有しなかったとき又は未成年者若しくは成年被後見人であったときは、その意思表示をもってその相手方に対抗することができない。ただし、次に掲げる者がその意思表示を知った後は、この限りでない。一 相手方の法定代理人。二 意思能力を回復し、又は行為能力者となった相手方。

    受領能力を欠くのは三つだけ

    条文が挙げているのは三つです。意思能力を有しなかった者、未成年者、成年被後見人。

    被保佐人と被補助人は入っていません。これが最頻出の引っかけどころです。

    制限行為能力者は未成年者・成年被後見人・被保佐人・被補助人の四類型ありますが、そのうち受領能力を欠くのは前の二つだけです。したがって、被保佐人や被補助人に対してした意思表示は、そのまま対抗できます。解除の通知を被保佐人に送れば、保佐人を経由しなくても解除の効力を主張できます。

    なぜ二つだけなのか

    理由は、二つのグループで判断能力の水準が違うからです。

    成年被後見人は、9条本文が「成年被後見人の法律行為は、取り消すことができる」として、日常生活に関する行為を除きおよそ単独では有効に行為できないものとしています。成年後見人に同意権すら与えられていない類型です。届いた通知の意味を理解して対応することが期待できません。

    未成年者も、5条1項が原則として法定代理人の同意を要するとしており、判断能力が発達途上にあることを前提としています。

    これに対し被保佐人は、13条1項が列挙する重要な行為についてのみ保佐人の同意を要するとされ、それ以外は単独で有効に行為できます。被補助人に至っては、17条1項の審判で定められた特定の行為についてだけ同意が必要で、その範囲も13条1項に規定する行為の一部に限られます。

    単独でできる行為のほうが原則である類型に、受け取る能力まで否定する理由がない。制限の強さの順に並べれば、線がどこで引かれているかが見えます。四類型の制限の強弱は制限行為能力者制度で扱っています。

    効果は「対抗することができない」

    効果の書きぶりを正確に読んでください。条文は「その意思表示をもってその相手方に対抗することができない」です。

    意思表示が無効になるのではありません。到達していないことになるのでもありません。表意者の側から「あなたに通知しました」と主張できない、という相対的な処理です。

    この差が意味を持つ場面があります。受領能力を欠く相手方の側から、その意思表示の効力を主張することは妨げられません。この規定は受領能力を欠く者を保護するために置かれているのであって、その者に不利益を押し付けるためのものではないからです。未成年者に届いた解除の通知について、未成年者の側が解除を前提とした主張をすることは可能です。

    「対抗することができない」という表現の一般的な意味は意思表示の瑕疵でも扱っています。

    ただし書の二つの経路

    ただし書は、対抗できるようになる場合を二つ挙げています。

    1号は「相手方の法定代理人」がその意思表示を知った後です。未成年者に届いた通知を親権者が知れば、その後は対抗できます。判断能力のある者が現実に把握した以上、保護の必要がなくなるからです。

    2号は「意思能力を回復し、又は行為能力者となった相手方」がその意思表示を知った後です。未成年者が成年に達した後にその通知の存在を知った場合、成年被後見人について後見開始の審判が取り消された後に本人が知った場合、意思能力を失っていた者が回復して知った場合がこれに当たります。

    どちらの号も「知った後」であることが要件です。法定代理人が就任しただけでは足りず、その意思表示の存在を知る必要があります。

    改正で範囲が二重に広がった

    98条の2も改正されています。旧98条の2は「意思表示の相手方がその意思表示を受けた時に未成年者又は成年被後見人であったときは、その意思表示をもってその相手方に対抗することができない。ただし、その法定代理人がその意思表示を知った後は、この限りでない」でした。

    現行条文と比べると、二か所が広がっています。

    第一に、受領能力を欠く者に「意思能力を有しなかったとき」が加わりました。旧条文は未成年者と成年被後見人しか挙げていませんでした。3条の2で意思無能力の法律行為が無効とされたのと歩調を合わせた追加です。

    第二に、ただし書が号立てになり、2号が加わりました。旧条文は法定代理人が知った場合しか定めておらず、本人が成年に達した後に知った場合の扱いが明文にありませんでした。現行法は、本人自身が能力を備えたうえで知った場合も対抗できるようになる経路として明記しています。

    「法定代理人が知った後でなければ対抗できない」という説明は、現行法では不正確です。本人が行為能力者となって知った後も対抗できます。この点は古い教材が更新されていない場合があるので、条文で確認してください。

    代理人が受領した場合とは別の問題

    受領能力の話と混同しやすいのが、代理人が意思表示を受け取った場合です。これは99条2項の領域で、「前項の規定は、第三者が代理人に対してした意思表示について準用する」として、代理人に対してした意思表示が本人に直接効力を生じるとしています。

    受領能力は「本人に受け取る力があるか」、代理受領は「代理人に受け取らせてよいか」という別の問題です。代理の仕組みは代理制度で扱っています。

    公示による意思表示(98条)

    相手方が分からない、あるいはどこにいるか分からない。そういう場合に到達主義を貫くと、表意者は永久に意思表示ができません。その受け皿が98条です。

    使える場面は二つ

    98条1項は「意思表示は、表意者が相手方を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、公示の方法によってすることができる」と定めています。

    相手方が誰か分からない場合と、誰かは分かるが居場所が分からない場合の二つです。相続が発生して相続人が確定しない場合や、賃借人が行方不明になった場合が想定されます。

    方法は掲示と官報

    2項は「前項の公示は、公示送達に関する民事訴訟法の規定に従い、裁判所の掲示場に掲示し、かつ、その掲示があったことを官報に少なくとも一回掲載して行う。ただし、裁判所は、相当と認めるときは、官報への掲載に代えて、市役所、区役所、町村役場又はこれらに準ずる施設の掲示場に掲示すべきことを命ずることができる」と定めています。

    裁判所の掲示場への掲示と、官報への掲載の両方が必要です。「かつ」で結ばれています。官報への掲載は「少なくとも一回」で足ります。そして、ただし書により官報掲載を市役所等の掲示で代替できる場合があります。

    2週間で到達とみなされる

    3項の前段が効果です。「公示による意思表示は、最後に官報に掲載した日又はその掲載に代わる掲示を始めた日から二週間を経過した時に、相手方に到達したものとみなす。」

    起算点を正確に読んでください。「最後に官報に掲載した日」または「その掲載に代わる掲示を始めた日」です。2項ただし書で市役所等の掲示に代えた場合を受けて、二つの起算点が並べられています。裁判所の掲示場に掲示を始めた日ではありません。ここは書き換えて出題される余地があります。

    3項ただし書を落とさない

    3項にはただし書があります。「ただし、表意者が相手方を知らないこと又はその所在を知らないことについて過失があったときは、到達の効力を生じない。

    表意者に過失があれば、公示をしても到達しません。調べれば分かったはずの相手を調べずに公示に走ることは認められない、という趣旨です。公示による意思表示は到達主義の例外的な救済手段なので、真に手段がない場合に限られます。

    このただし書は見落とされやすく、そのぶん出題価値があります。「公示をすれば常に2週間で到達したものとみなされる」という肢は誤りです。

    管轄は二本立て

    4項が管轄を定めています。「公示に関する手続は、相手方を知ることができない場合には表意者の住所地の、相手方の所在を知ることができない場合には相手方の最後の住所地の簡易裁判所の管轄に属する。」

    二つの場面で管轄が違います。相手方が誰か分からないなら、相手方の住所地を特定できるはずがないので、表意者の住所地。所在だけが分からないなら、相手方の最後の住所地。理屈が通っているので、理由から思い出せます。

    「常に相手方の最後の住所地の簡易裁判所」とする説明は不正確です。なお、いずれも簡易裁判所である点は共通しています。

    費用は表意者が予納する

    5項は「裁判所は、表意者に、公示に関する費用を予納させなければならない」と定めています。公示を求める側が負担します。

    承諾の発信主義は削除された

    ここが、この分野で唯一、正誤が反転した改正論点です。

    改正前は発信主義だった

    旧526条1項は「隔地者間の契約は、承諾の通知を発した時に成立する」と定めていました。意思表示一般は旧97条1項で到達主義だったのに、契約の承諾についてだけ発信主義の特則が置かれていたのです。

    理由は、承諾の到達を待っていると契約の成立が遅れ、迅速な取引が妨げられるという実務的な配慮でした。

    現行法は到達主義に統一された

    旧526条1項は削除されました。そして522条1項が「契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する」と定めています。

    承諾についての発信主義の特則がなくなった以上、承諾も97条1項の原則に戻り、到達した時に効力を生じます。したがって契約は、承諾の通知が申込者に到達した時に成立します。

    「隔地者間の契約は承諾の通知を発した時に成立する」という肢は、現行法では誤りです。古い教材に残っている記述なので、注意してください。

    削除は一条にとどまらなかった

    この改正の筋を理解しておくと、周辺の変化もまとめて説明できます。発信主義を前提に置かれていた調整規定が、そろって不要になったのです。

    旧522条(承諾の通知の延着)が削除されました。承諾期間を定めた申込みについて、承諾が期間経過後に到達したが通常なら期間内に届いたはずだと分かる場合、申込者は遅滞なく延着の通知を発しなければならず、怠れば期間内に到達したものとみなす、という規定でした。

    旧527条(申込みの撤回の通知の延着)も削除されました。申込みの撤回の通知が承諾の通知の発信後に到達した場合の処理を定めたもので、承諾が発信で効力を持つことを前提にした規定です。

    どちらも、発信と到達がずれる期間をどう扱うかという問題を処理するための条文でした。承諾が到達して初めて効力を生じるのであれば、そのずれ自体が法律関係に影響しません。だから規定ごとなくなりました。

    条文の番号も動いた

    内容の変更に伴って、条文の位置も入れ替わっています。混乱しやすいので整理しておきます。

    旧521条(承諾の期間の定めのある申込み)は現行523条になり、撤回権の留保に関するただし書が加わりました。旧523条(遅延した承諾の効力)は現行524条旧524条(承諾の期間の定めのない申込み)は現行525条になり、対話者に関する2項・3項が加わりました。旧525条(申込者の死亡又は行為能力の喪失)は現行526条になり、内容も拡充されています。旧526条2項(承諾の通知を必要としない場合)は現行527条に移りました。

    条文番号そのものを答えさせる出題はありませんが、古い番号で覚えている知識が現行法とずれていないかを一度確認しておく価値はあります。

    それでも残っている「発信」の基準

    到達主義に統一されたといっても、発信を基準にする規定が消えたわけではありません。宅建試験で問われるものを挙げます。

    民法20条の催告

    制限行為能力者の相手方の催告権を定める20条は、「確答を発しないとき」を基準にしています。

    1項後段は「その者がその期間内に確答を発しないときは、その行為を追認したものとみなす」、2項も同じ形です。3項は「前二項の期間内にその方式を具備した旨の通知を発しないときは、その行為を取り消したものとみなす」、4項は「その期間内にその追認を得た旨の通知を発しないときは、その行為を取り消したものとみなす」としています。

    期間内に発信していれば、到達が期間経過後でも構いません。催告を受けた側を保護する趣旨です。催告権の全体像は制限行為能力者制度で扱っています。

    民法526条の基準時

    先に見た526条も、「その相手方が承諾の通知を発するまでにその事実が生じたことを知ったとき」と、発信を基準時にしています。承諾の効力発生が到達時であることとは別に、悪意の判定時点として発信を採っている点に注意してください。

    宅地建物取引業法のクーリング・オフ

    宅建試験で最も重要な発信主義の例外がこれです。

    宅地建物取引業法37条の2第2項は「申込みの撤回等は、申込者等が前項前段の書面を発した時に、その効力を生ずる」と定めています。到達ではなく発信です。

    買主を保護するための特則です。到達主義であれば、郵便の遅延や業者の受取拒否によって8日の期間を過ぎてしまう危険を買主が負うことになります。発信主義にすれば、投函した時点で効力が生じ、そのリスクを負いません。

    8日の起算や適用場所を含めた制度全体はクーリング・オフで扱っています。ここで押さえるべきは、民法の原則は到達主義、宅建業法のクーリング・オフは発信主義という対比です。8種制限の全体像は8種制限にあります。

    不動産取引で到達が問題になる場面

    抽象論として覚えるより、実際にどこで効いてくるかを見たほうが定着します。

    借地借家法26条1項の更新拒絶の通知

    26条1項は「建物の賃貸借について期間の定めがある場合において、当事者が期間の満了の一年前から六月前までの間に相手方に対して更新をしない旨の通知又は条件を変更しなければ更新をしない旨の通知をしなかったときは、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。ただし、その期間は、定めがないものとする」と定めています。

    この通知は期間内に相手方に到達しなければなりません。1年前から6か月前までという窓が決まっており、そこを外せば法定更新されてしまいます。しかも更新後は期間の定めがないものとされます。

    投函した日ではなく届いた日で判断されるので、期限ぎりぎりに発送すると窓を外す危険があります。到達主義が実務上の帰結を生む典型例です。加えて、賃貸人からの通知には28条の正当事由が必要になります。借地借家法の全体像は借地借家法、賃貸借の実務論点は賃貸借契約の注意点で扱っています。

    解約の申入れ

    期間の定めのない建物賃貸借について、民法617条1項2号は解約の申入れの日から3か月の経過で終了するとしていますが、借地借家法27条1項は賃貸人からの解約申入れについて「解約の申入れの日から六月を経過することによって終了する」と定めています。

    「解約の申入れの日」は、申入れの意思表示が到達した日です。期間の起算点が到達で決まる以上、いつ届いたかが終了時期を直接動かします。

    催告

    541条は「相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる」と定めています。この催告も相手方に到達して初めて効力を生じ、そこから相当期間が進行します。

    150条1項は「催告があったときは、その時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない」と定めています。時効の完成猶予の起算点も催告の到達時です。時効の仕組みは時効、解除の要件は債務不履行で扱っています。

    解除の意思表示

    540条1項は「契約又は法律の規定により当事者の一方が解除権を有するときは、その解除は、相手方に対する意思表示によってする」と定め、2項は「前項の意思表示は、撤回することができない」としています。

    到達すれば効力が生じ、そこから撤回できなくなります。到達前なら撤回できるという一般論と、到達後は540条2項で撤回できないという規定が、きれいにつながっています。

    試験での出題ポイント

    発信主義と到達主義を入れ替える

    最も基本的な型です。「民法は意思表示の効力発生時期について発信主義を原則としている」という肢は誤りで、97条1項は到達主義です。

    逆に、宅地建物取引業法37条の2第2項のクーリング・オフを到達主義とする肢も出ます。民法の原則は到達、クーリング・オフは発信。この一対で覚えてください。

    承諾を発信主義のままで出す

    「隔地者間の契約は、承諾の通知を発した時に成立する」という肢。旧526条1項の規定であり、削除されています。現行522条1項により、承諾も到達して初めて効力を生じます。正誤が反転した改正なので、単独で狙われます。

    被保佐人・被補助人に受領能力がないとする

    受領能力を欠くのは意思無能力者・未成年者・成年被後見人の三つだけです。「意思表示の相手方が被保佐人であった場合、その意思表示を対抗することができない」という肢は誤りです。制限行為能力者が四類型あることを利用して、四つ全部が入っているかのように書いてきます。

    98条の2のただし書を1号だけにする

    「法定代理人が知った後でなければ対抗できない」という形です。現行法のただし書は号立てで、2号として「意思能力を回復し、又は行為能力者となった相手方」が知った後も挙げられています。旧条文には1号相当の規定しかなかったので、古い知識のまま出されると引っかかります。

    受領能力の効果を「無効」にする

    98条の2の効果は「対抗することができない」であって、意思表示が無効になるわけではありません。到達しなかったことになるのでもありません。効果の性質を書き換える肢に注意してください。

    到達妨害の効果の時点をずらす

    97条2項の効果は「通常到達すべきであった時に到達したものとみなす」です。「拒絶した時」「返送された時」「現実に知った時」はいずれも誤りです。また「正当な理由なく」という限定を落として、受取りを拒めば常に到達扱いになると書く肢も出ます。

    発信後の死亡で効力が失われるとする

    97条3項により、効力は妨げられません。「表意者が通知を発した後に死亡した場合、その意思表示は効力を生じない」という肢は誤りです。ただし申込みについては526条の特則があり、申込者があらかじめ表示していた場合相手方が承諾の通知を発するまでに事実を知った場合には効力を失います。原則と特則を入れ替える形でも出題できます。

    公示による意思表示の細部

    三点が狙われます。起算点を「裁判所の掲示を始めた日」とする肢(正しくは最後に官報に掲載した日、またはその掲載に代わる掲示を始めた日)。3項ただし書を落とし、表意者に過失があっても到達するとする肢。管轄を一本化し、常に相手方の最後の住所地とする肢(相手方を知ることができない場合は表意者の住所地)。

    到達の意味を了知にすり替える

    「相手方が現実に内容を了知しなければ到達したことにならない」という肢は誤りです。了知可能な状態に置かれれば足ります。97条2項・98条3項・98条の2の存在が、その裏づけになります。権利関係の頻出論点は権利関係の頻出論点にまとめています。

    覚え方・整理の仕方

    条文を四つに割り当てる

    この分野は条文が少ないので、番号と役割を一対一で結びつけるのが最も速い方法です。

    97条が「いつ」。1項が到達主義、2項が到達妨害、3項が発信後の事情変更。98条が「相手が分からないとき」。公示による意思表示。98条の2が「相手に受け取る力がないとき」。受領能力。

    時の問題が97条、人の問題が98条と98条の2という二分で持てば、条文を取り違えません。

    到達主義は「責任の分界点」で理解する

    丸暗記より、なぜ到達なのかを一文で持つほうが応用が利きます。「知ろうと思えば知ることができる状態まで持っていく責任は表意者、そこから先に実際に読む責任は相手方。」

    この一文から、派生論点が導けます。読まなくても到達する(了知は不要)。受け取りを拒めば相手方が分界点を勝手に動かすことになるから、みなし到達で処理する(97条2項)。発信後に表意者が死んでも、すでに手を離れているのだから効力は変わらない(97条3項)。

    受領能力は「四類型のうち上の二つ」

    制限行為能力者を判断能力の低い順に並べます。成年被後見人、被保佐人、被補助人、未成年者は年齢による類型なので別枠ですが、受領能力の話では未成年者と成年被後見人が組になります。

    覚え方は一つで足ります。「受領能力がないのは、意思無能力者と、未成年者と、成年被後見人。保佐と補助は入らない。」

    理由づけも添えておくと安定します。保佐と補助は、原則として単独で有効に行為できる類型だからです。単独でできるほうが原則である者に、受け取る能力まで否定する理由がありません。

    「発する」と書いてある条文を数える

    到達主義が原則である以上、発信を基準にする条文は例外であり、数が限られています。逆にそれを手がかりにできます。

    宅建の範囲で押さえるのは、民法20条の催告に対する確答民法526条の悪意の判定時点、そして宅地建物取引業法37条の2第2項のクーリング・オフ。この三つです。それ以外で「発した時」と書いてある肢が出たら、まず疑ってください。

    公示の数字は「2週間」だけ

    98条で覚える数字は一つです。最後に官報に掲載した日、またはその掲載に代わる掲示を始めた日から2週間。

    そこに二つの限定を足します。表意者に過失があれば到達しない(3項ただし書)、管轄は相手方を知ることができない場合が表意者の住所地、所在が分からない場合が相手方の最後の住所地(4項)。数字一つと限定二つ、と決めておけば取りこぼしません。

    改正点は「隔地者が消えた」で束ねる

    この分野の改正は、ばらばらに覚えると量が多く見えます。「隔地者という限定が消え、到達主義に統一された」という一本で束ねてください。

    97条1項から「隔地者に対する」が消えた。旧97条2項の「隔地者に対する」も消え、意思能力の喪失が加わった。旧524条の「隔地者に対してした」が消え、対話者の規定が加わった。旧526条1項の「隔地者間の契約」の発信主義が消え、その前提で置かれていた旧522条・旧527条の延着規定も消えた。

    すべて同じ方向を向いています。苦手分野の潰し方は権利関係の苦手克服で扱っています。

    理解度チェッククイズ

    問1 民法は、意思表示の効力発生時期について、隔地者に対するものを含め発信主義を原則としている。

    答え:×。97条1項は「意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる」と定めており、到達主義が原則です。発信した時ではありません。到達を基準にするのは、発信主義では受け取っていない相手方が不意打ちを受け、了知主義では相手方の都合で効力の発生を先送りできてしまうためで、責任の分界点として両極の中間に線を引いたものです。なお、旧97条1項は「隔地者に対する意思表示は」と限定していましたが、現行法ではこの限定が削られ、意思表示一般について到達主義が妥当することが条文で明らかにされました。契約の承諾についても、旧526条1項の発信主義が削除された結果、到達主義に統一されています。

    問2 意思表示の相手方が被保佐人であった場合、その意思表示をもって相手方に対抗することができない。

    答え:×。98条の2が受領能力を欠く者として挙げているのは、意思能力を有しなかった者、未成年者、成年被後見人の三つだけです。被保佐人と被補助人は含まれていません。制限行為能力者は四類型ありますが、そのうち二つしか受領能力を否定されていない、という非対称がこの条文の急所です。理由は判断能力の水準の違いにあります。成年被後見人は9条本文により日常生活に関する行為を除いて単独では有効に行為できず、未成年者も5条1項により原則として法定代理人の同意を要します。これに対し被保佐人は13条1項が列挙する行為についてのみ同意が必要で、被補助人は17条1項の審判で定められた特定の行為に限られます。原則として単独で有効に行為できる類型に、受け取る能力まで否定する理由がないという線引きです。

    問3 相手方が正当な理由なく意思表示の通知が到達することを妨げた場合、その通知は、相手方が受領を拒絶した時に到達したものとみなされる。

    答え:×。97条2項は「相手方が正当な理由なく意思表示の通知が到達することを妨げたときは、その通知は、通常到達すべきであった時に到達したものとみなす」と定めています。「受領を拒絶した時」ではありません。妨害がなければ普通に届いていたはずの時点まで遡って到達を擬制する規定で、期間の計算が絡む通知ではこの起算点の違いが結論を左右します。また「正当な理由なく」という限定も要件です。長期の入院など受け取れない正当な事情があれば、この規定は働きません。「受取りを拒めば常に到達扱いになる」という肢も誤りです。なお、この2項は平成29年法律第44号による改正で新設された規定で、旧97条には対応する条文がありませんでした。

    問4 公示による意思表示は、表意者が相手方の所在を知らないことについて過失があったときであっても、最後に官報に掲載した日から2週間を経過した時に相手方に到達したものとみなされる。

    答え:×。98条3項は本文で「最後に官報に掲載した日又はその掲載に代わる掲示を始めた日から二週間を経過した時に、相手方に到達したものとみなす」としつつ、ただし書で「表意者が相手方を知らないこと又はその所在を知らないことについて過失があったときは、到達の効力を生じない」と定めています。調べれば分かったはずの相手を調べずに公示に走ることは認められません。公示による意思表示は到達主義の例外的な救済手段なので、真に手段がない場合に限られる、という趣旨です。あわせて起算点も確認してください。「最後に官報に掲載した日」または「その掲載に代わる掲示を始めた日」であって、裁判所の掲示場に掲示を始めた日ではありません。また管轄は4項が二本立てで定めており、相手方を知ることができない場合は表意者の住所地所在を知ることができない場合は相手方の最後の住所地の簡易裁判所です。

    問5 売主が買主に対して契約解除の通知を発送した後、その通知が買主に到達する前に売主が死亡した場合、その解除の意思表示は効力を生じない。

    答え:×。97条3項は「意思表示は、表意者が通知を発した後に死亡し、意思能力を喪失し、又は行為能力の制限を受けたときであっても、そのためにその効力を妨げられない」と定めています。意思表示は発信の時点ですでに表意者の手を離れており、その後に表意者の側で生じた事情によって内容が変わるわけではないからです。到達主義は効力が生じる時点を決めるルールであって、到達の瞬間まで表意者に判断能力が必要だというルールではありません。なお旧97条2項は「死亡し、又は行為能力を喪失したとき」としており、「意思能力を喪失し」は改正で加えられた部分です。ただし契約の申込みには526条の特則があり、申込者があらかじめその場合に申込みが効力を有しない旨を表示していたとき、または相手方が承諾の通知を発するまでにその事実が生じたことを知ったときは、申込みは効力を失います。

    まとめ

    1. 民法は到達主義を採る(97条1項)。意思表示は相手方に到達した時に効力を生じ、発信した時ではありません。到達とは了知可能な状態に置かれることであり、現実に読むことまでは要りません。97条2項・98条3項・98条の2が、いずれも了知していない場面を到達として扱っていることが、この理解の裏づけです。

    2. 到達を妨げられたときは、通常到達すべきであった時に到達したものとみなされる(97条2項)。要件は「正当な理由なく」「妨げた」ことの二つで、効果の時点は拒絶した時でも返送された時でもありません。この項は改正で新設されたもので、旧97条に対応する規定はありませんでした。

    3. 発信後に表意者が死亡・意思能力喪失・行為能力の制限を受けても、効力は妨げられない(97条3項)。ただし申込みには526条の特則があり、申込者があらかじめ表示していた場合と、相手方が承諾の通知を発するまでに事実を知った場合には効力を失います。

    4. 受領能力を欠くのは意思無能力者・未成年者・成年被後見人の三つだけ(98条の2)。被保佐人と被補助人は含まれません。効果は「対抗することができない」であって無効ではなく、ただし書により1号の法定代理人または2号の意思能力を回復し、もしくは行為能力者となった相手方がその意思表示を知った後は対抗できます。旧条文には意思無能力者も2号もなく、改正で二重に範囲が広がっています。

    5. 公示による意思表示は2週間で到達とみなされる(98条3項)。起算点は最後に官報に掲載した日、またはその掲載に代わる掲示を始めた日です。表意者に過失があれば到達の効力を生じません(3項ただし書)。管轄は、相手方を知ることができない場合が表意者の住所地、所在を知ることができない場合が相手方の最後の住所地の簡易裁判所です(4項)。

    6. 承諾の発信主義は削除された。旧526条1項の「隔地者間の契約は、承諾の通知を発した時に成立する」はなくなり、現行522条1項のもとで承諾も到達して効力を生じます。発信主義を前提に置かれていた旧522条・旧527条の延着規定もそろって削除されました。正誤が反転する改正なので独立して覚えてください。

    7. 発信を基準にする規定は例外として残っており、宅建の範囲では三つを押さえる。民法20条の催告に対する確答、民法526条の悪意の判定時点、そして宅地建物取引業法37条の2第2項のクーリング・オフです。民法の原則は到達、クーリング・オフは発信、という対比で押さえてください。

    よくある質問

    Q. 内容証明郵便を送ったのに相手が受け取らない場合、どうすればよいですか。

    A. 相手方が正当な理由なく受取りを拒んだのであれば、97条2項により、通常到達すべきであった時に到達したものとみなされます。したがって法律上は効力が生じています。もっとも、実際に争いになったときに「正当な理由なく妨げた」といえるかを示せるかどうかは別問題です。不在で持ち戻された場合のように、単に受け取れなかったのか、意図的に避けたのかが判然としない場面もあります。実務では、内容証明郵便に加えて普通郵便を併送する、送達を確認できる別の手段を重ねるといった工夫がされます。条文が一律の答えを置いていない領域なので、宅建試験で細部が問われることはありません。

    Q. 内容証明郵便と配達証明は何が違うのですか。

    A. 別のサービスです。内容証明は「どういう内容の文書を出したか」を証明するもので、いつ届いたかは証明しません。配達証明は「いつ配達されたか」を証明するもので、内容は証明しません。到達主義のもとでは、到達したことを主張する側が到達を証明する必要があるので、期間管理が絡む通知では両方を付けて送るのが通例です。借地借家法26条1項の更新拒絶の通知のように、1年前から6か月前までという窓の中に届いたことを示さなければならない場面では、この違いが実際に効いてきます。

    Q. 電子メールで送った場合はいつ到達したことになりますか。

    A. 判断の枠組みは紙の郵便と同じです。97条1項の到達といえるかを、相手方が知ろうと思えば知ることができる状態に置かれたかという基準で判断します。相手方が通常使っているアドレス宛に送られ、相手方が読める状態になっていれば、実際に開封していなくても到達といえる方向に働きます。逆に、アドレスの誤りで届いていない場合や、相手方が使っていないアドレスに送った場合は、支配圏に入ったとはいえません。手段が変わっても条文が変わるわけではないので、迷ったら97条1項の文言に戻ってください。

    Q. 受領能力がない相手に通知したいときは、どうすればよいですか。

    A. 98条の2ただし書1号が示すとおり、法定代理人がその意思表示を知れば対抗できるようになります。したがって、相手方が未成年者であることが分かっているなら親権者に、成年被後見人であるなら成年後見人に通知するのが確実です。なお、被保佐人・被補助人は受領能力を欠かないので、本人に対して通知すれば対抗できます。保佐人や補助人を経由する必要はありません。受け取る場面と、行為をする場面で必要な手当てが違う点に注意してください。行為をする場面での同意の要否は制限行為能力者制度で扱っています。

    Q. 到達主義と、契約が成立する時期は同じ話ですか。

    A. 重なりますが、別の条文の問題です。意思表示がいつ効力を生じるかは97条1項契約がいつ成立するかは522条1項が定めています。現行法では承諾についても発信主義の特則がないため、承諾の意思表示が申込者に到達して効力を生じ、その時に契約が成立するという関係になります。改正前は、旧526条1項が承諾について発信主義を採っていたため、両者がずれていました。この「ずれがなくなった」という点が、改正の要点です。

    Q. 意思表示に瑕疵がある場合と、到達の問題はどう関係しますか。

    A. 別の層の問題です。到達は「意思表示が効力を生じるか」という入口の問題であり、心裡留保・虚偽表示・錯誤・詐欺・強迫は「効力を生じた意思表示の中身に問題がないか」という次の段階の問題です。到達していない意思表示には、そもそも瑕疵を論じる前提がありません。逆に、到達して効力を生じた意思表示について、その中身に瑕疵があれば無効や取消しが問題になります。瑕疵の五類型と第三者保護は意思表示の瑕疵、無効と取消しという効果の枠組みは無効と取消しの違いで扱っています。


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