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無効と取消しの違い|法律行為の効果を条文で整理

権利関係 読了 約40分

無効は最初から効力を生じず、取消しは取り消されるまで有効です。主張権者・期間制限・追認・原状回復義務の四点で両者を区別し、どの制度が無効でどれが取消しかを条文番号つきで整理します。

目次

    この記事は、法律行為という枠組みと、その効果である無効・取消しを扱います。心裡留保・虚偽表示・錯誤・詐欺・強迫という五類型それぞれの要件と第三者保護は意思表示の瑕疵に、意思表示がいつ効力を生じるかという別問題は意思表示の効力発生時期にあります。ここでは、効果の枠組みそのものに絞ります。

    先に結論を述べます。無効と取消しは、似た言葉ですが、別の制度です。そして権利関係の問題文は、この二つを入れ替えるだけで正誤が反転します。

    違いは四点に集約できます。第一に、無効は最初から効力を生じないのに対し、取消しは取り消されるまで有効です。第二に、無効は原則として誰でも主張できるのに対し、取消しは条文が列挙した取消権者しか主張できません(120条)。第三に、無効には期間制限がないのに対し、取消権は追認できる時から5年、行為の時から20年で消滅します(126条)。第四に、無効な行為は追認しても効力を生じないのが原則である(119条本文)のに対し、取り消すことができる行為は追認すれば確定的に有効になります(122条)。

    この四点を持っていれば、どちらの制度かさえ判定できれば結論が出せます。だから残る作業は一つ、どの制度が無効でどれが取消しかを条文で押さえることです。この記事は、四点の中身を条文から確認したうえで、その振り分けを並べます。

    なお本記事は2026年4月1日時点で施行されている条文に基づきます。宅建試験は当該年度の4月1日現在施行の法令から出題されるためです。民法は令和8年法律第45号により2026年6月24日にも改正が施行されていますが、本則の条文に変更はなく、ここで扱う条文の文言はすべて同一です。分野全体の設計は権利関係の全体像で扱っています。

    法律行為とは何か

    無効・取消しの話に入る前に、その対象である法律行為を確定させます。ここが曖昧だと、「何が無効になるのか」が定まりません。

    定義は「意思表示を要素とする」の一点

    法律行為とは、意思表示を要素とし、表示された意思のとおりの法律効果を発生させる行為をいいます。定義の中心にあるのは意思表示です。

    これは民法が個々の契約について定めた条文を読めば見えてきます。555条は「売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる」と定めています。601条の賃貸借も、549条の贈与も、623条の雇用も、同じ形をしています。「約する」「意思を表示し」という当事者の意思表示が、そのまま効果を生む。この構造を持つ行為が法律行為です。

    だから、意思表示に問題があれば法律行為も効力を失います。93条から96条までの規定が置かれているのはそのためです。意思表示は法律行為の部品であって、部品が壊れれば全体が動かないという関係にあります。

    契約・単独行為・合同行為

    法律行為は、意思表示がいくつ、どう組み合わさるかで三つに分かれます。これは講学上の分類ですが、条文の理解に直結します。

    契約は、対立する二つ以上の意思表示が合致して成立します。申込みと承諾です。売買、賃貸借、贈与、請負、委任がこれに当たり、不動産取引で扱う法律行為の大半は契約です。

    単独行為は、一方の意思表示だけで効力が生じます。取消し、解除、追認、遺言、相続の放棄などです。ここには相手方のあるものとないものがあります。取消しは123条が「取り消すことができる行為の相手方が確定している場合には、その取消し又は追認は、相手方に対する意思表示によってする」と定め、解除も540条1項が「その解除は、相手方に対する意思表示によってする」と定めています。相手方に向けて意思表示をする必要がある単独行為です。これに対し遺言は、特定の相手方に対してするものではなく、985条1項により「遺言者の死亡の時から」効力を生じます。遺言の方式は遺言の方式で扱っています。

    合同行為は、同じ方向を向いた複数の意思表示が結合して成立するとされるもので、社団の設立行為が例に挙げられます。宅建試験で正面から問われることはほとんどありません。

    準法律行為との区別

    意思表示に似ていても、法律行為ではないものがあります。講学上、準法律行為と呼ばれます。

    準法律行為とは、人の行為ではあるが、効果が意思の内容によってではなく法律の規定によって定まるものをいいます。二つに分けて説明されるのが通例です。

    一つは意思の通知です。相手に何かを求める意思を伝えるものの、生じる効果は法律が決めています。541条の履行の催告がその例です。「期間内に履行せよ」と求める行為ですが、その催告から生じる効果、すなわち期間経過後に解除権が発生するという効果は、催告した人の意思ではなく541条が定めています。20条の制限行為能力者の相手方による催告も同じ構造で、確答がないときに追認とみなすか取消しとみなすかは、催告した人が選べるものではなく、20条各項が相手ごとに定めています。

    もう一つは観念の通知です。事実を知らせるだけの行為で、467条1項の債権譲渡の通知が例に挙げられます。「譲渡した」という事実を伝えるだけであり、対抗要件が備わるという効果は467条が定めています。

    区別の実益は、意思表示に関する規定がそのまま当てはまるとは限らない点にあります。もっとも宅建試験では、この線引き自体が単独で出題されることはまれです。法律行為=意思表示のとおりの効果、準法律行為=法律の定めた効果という違いを押さえておけば足ります。

    事実行為との区別

    さらに外側に、意思表示をまったく要素としない事実行為があります。

    22条は「各人の生活の本拠をその者の住所とする」と定めています。住所は、そこを住所にしようという意思表示によって決まるのではなく、生活の本拠という事実によって決まります。240条の遺失物の拾得、246条の加工も同じで、拾った、工作を加えたという事実に法律が効果を結びつけています。

    事実行為には意思能力も行為能力も要りません。意思表示をしていない以上、意思表示の有効性を問題にする余地がないからです。逆にいえば、意思能力がないことを理由に無効となるのは法律行為だけです。ここは3条の2の適用範囲に直結します。

    法律行為が有効であるための三つの層

    法律行為が完全に効力を持つには、三つの層すべてで問題がないことが必要です。そして、どの層で問題が起きたかによって、効果が無効になるか取消しになるかが決まります。この対応を最初に押さえてください。

    第一層 当事者の能力

    まず、行為をする者に能力があることが必要です。ここには二つの能力があります。

    意思能力は、自分の行為の結果を判断できる精神的な能力です。3条の2は「法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする」と定めています。効果は無効です。

    行為能力は、単独で完全に有効な法律行為をすることができる資格です。未成年者、成年被後見人、被保佐人、被補助人という四つの制限行為能力者について、民法は取消しを認めています。効果は取消しです。制度の中身は制限行為能力者制度で扱っています。

    同じ「能力」の層でありながら、意思能力を欠けば無効、行為能力を制限されていれば取消し。この非対称が第一の分岐点です。

    第二層 内容の適法性と社会的妥当性

    次に、法律行為の内容そのものが問題になります。

    90条は「公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする」と定めています。効果は無効です。

    強行規定に反する内容も無効です。強行規定とは、当事者の合意で変えることができない規定をいいます。裏返しの規定が91条で、「法律行為の当事者が法令中の公の秩序に関しない規定と異なる意思を表示したときは、その意思に従う」と定めています。公の秩序に関しない規定、すなわち任意規定であれば当事者の合意が優先し、公の秩序に関する規定、すなわち強行規定であれば合意のほうが効力を失うという振り分けです。92条は、さらにその外側で、任意規定と異なる慣習がある場合に当事者がその慣習による意思を有していると認められるときは慣習に従う、と定めています。

    このほか、内容が特定できないもの(確定性を欠くもの)、はじめから実現できないものについても効力が問題になります。ただし宅建試験で問われるのは、圧倒的に90条と強行規定違反です。

    第三層 意思表示の健全性

    最後に、意思表示それ自体に問題がないことが必要です。ここが93条から96条までの領域です。

    心裡留保で相手方が悪意または有過失のとき(93条1項ただし書)と虚偽表示(94条1項)は無効、錯誤(95条1項)と詐欺・強迫(96条1項)は取消しになります。第三層の中でも、無効と取消しに分かれています。要件と第三者保護の詳細は意思表示の瑕疵で扱っています。

    三層をどう使うか

    事例問題を解くときは、この三層を上から順に当てていきます。

    契約した人に判断能力の問題はないか(第一層)。契約の中身に法令違反や公序良俗違反はないか(第二層)。その意思表示に嘘・勘違い・だまし・脅しはないか(第三層)。

    問題文が誰の何を問題にしているかを、この三層のどこかに位置づける。そこまでできれば、あとは条文が無効と書いているか取消しと書いているかを思い出すだけです。層と効果の対応を覚えるのが、この分野の学習の実体です。

    無効とは何か

    ここから効果の中身に入ります。まず無効です。

    最初から効力を生じない

    無効とは、その法律行為が最初から法律上の効力を生じないことをいいます。

    誰かが「無効だ」と主張したから無効になるのではありません。要件を満たした時点で、はじめから効力がないのです。3条の2は「その法律行為は、無効とする」、90条は「公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする」、94条1項は「相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする」と、いずれも断定形で書いています。行使を要する権利として構成されていません。

    ここが取消しとの最大の違いです。取消しには「取り消すことができる」という条文の書きぶりがあり、権利の行使が前提になっています。条文が「無効とする」と書いているか「取り消すことができる」と書いているかで、制度が分かれる。条文の文末を見る癖をつけてください。

    主張できる者に制限がない

    無効は行使すべき権利ではないので、主張権者を限定する規定が置かれていません。原則として、誰でも、誰に対しても主張できます。

    これに対し取消しには120条という取消権者の規定があります。条文の有無がそのまま結論の差になっています。

    ただし、無効の中には、特定の者を保護するために置かれたことが条文の文言自体から読み取れるものがあります。借地借家法9条は「この節の規定に反する特約で借地権者に不利なものは、無効とする」と定めており、30条は「この節の規定に反する特約で建物の賃借人に不利なものは、無効とする」と定めています。16条、21条、37条も同じ形です。借主に不利な特約だけが無効になるのであって、借主に有利な特約は有効です。このような規定を片面的強行規定といいます。借地借家法の全体像は借地借家法で扱っています。

    宅地建物取引業法にも同じ形があります。37条の2第4項は「前三項の規定に反する特約で申込者等に不利なものは、無効とする」、39条3項は「前項の規定に反する特約で、買主に不利なものは、無効とする」と定めています。「不利なもの」という限定が条文にあるかどうかを読み落とさないでください。クーリング・オフの詳細はクーリング・オフ、手付の制限は手付の制限にあります。

    期間制限がない

    無効には、時の経過で主張できなくなるという規定がありません。取消権について126条が「追認をすることができる時から五年間行使しないときは、時効によって消滅する。行為の時から二十年を経過したときも、同様とする」と定めているのと対照的です。

    「無効も5年で主張できなくなる」という肢は誤りです。126条は取消権の規定であって、無効には適用されません。期間制限一般の考え方は時効で扱っています。

    追認しても効力を生じないのが原則

    119条本文は「無効な行為は、追認によっても、その効力を生じない」と定めています。

    理由は無効の性質から出てきます。無効な行為とは、そもそも存在しないに等しい行為です。存在しないものを後から認めても、生まれてくるものがありません。「なかったこと」を追認しても、なかったままです。

    119条ただし書 知って追認すれば新たな行為とみなされる

    もっとも、ただし書があります。「ただし、当事者がその行為の無効であることを知って追認をしたときは、新たな行為をしたものとみなす。

    ここは二つの点を正確に読んでください。

    第一に、「無効であることを知って」追認したことが要件です。無効だと知らずに追認しても、この規定は働きません。

    第二に、効果は「新たな行為をしたものとみなす」であって、「はじめから有効になる」ではありません。遡及しないのです。追認した時点で、あらためて同じ内容の行為をしたものとして扱われるだけです。

    この違いは、次に見る取消しの追認との対比で意味を持ちます。取り消すことができる行為は、そもそも取消しまで有効なので、追認すればその有効性が確定します。これに対し無効な行為の追認は、過去に遡らず、追認時点から先に向かって効力が生じるにすぎません。「無効な行為を追認すると、はじめから有効であったことになる」という肢は誤りです。

    無効な行為が生む効果はゼロではない

    無効といっても、当事者の間に何も起きないわけではありません。すでに給付がされていれば、その清算が必要になります。それを定めるのが121条の2で、後述します。

    取消しとは何か

    次に取消しです。

    取り消されるまでは有効

    取消しとは、いったん有効に成立した法律行為の効力を、取消権者の意思表示によって消滅させることをいいます。

    条文は「取り消すことができる」と書いています。5条2項、9条本文、13条4項、17条4項、95条1項、96条1項がすべてこの形です。「取り消すことができる」ということは、取り消すまでは有効だということを含意しています。

    ここは実務的にも重要です。制限行為能力者が単独でした契約も、詐欺による契約も、取り消されるまでは有効なので、履行を請求できますし、登記も移転します。「取り消すことができる行為は無効である」という肢は、この点で誤りです。

    取消権者は条文が列挙している

    120条が取消権者を定めています。項が二つに分かれており、列挙されている者が違います。

    1項は行為能力の制限による取消しです。「行為能力の制限によって取り消すことができる行為は、制限行為能力者(他の制限行為能力者の法定代理人としてした行為にあっては、当該他の制限行為能力者を含む。)又はその代理人、承継人若しくは同意をすることができる者に限り、取り消すことができる。」

    2項は意思表示の瑕疵による取消しです。「錯誤、詐欺又は強迫によって取り消すことができる行為は、瑕疵ある意思表示をした者又はその代理人若しくは承継人に限り、取り消すことができる。」

    比べてください。1項には「同意をすることができる者」が入っていますが、2項には入っていません。1項の場面には法定代理人・保佐人・補助人という同意権者がいるのに対し、2項の場面にはそのような者が想定されていないからです。項によって取消権者の範囲が違う。ここが問われます。

    もう一点、1項では制限行為能力者本人も取消権者に含まれます。本人が単独で取り消すことができ、その取消しについてあらためて保護者の同意を得る必要はありません。取消しは本人に不利益をもたらす行為ではないからです。「未成年者が単独で契約を取り消すには法定代理人の同意が必要である」という肢は誤りです。

    そして共通するのは、契約の相手方は取消権者ではないという点です。だまされた側は取り消せますが、だました側から取り消すことはできません。取消しは瑕疵を抱えた側を保護する制度だからです。

    取消しの方法は相手方への意思表示

    123条は「取り消すことができる行為の相手方が確定している場合には、その取消し又は追認は、相手方に対する意思表示によってする」と定めています。

    裁判を起こす必要はありません。相手方に対して「取り消す」と伝えれば足ります。この意思表示がいつ効力を生じるかは97条の到達主義によります。詳細は意思表示の効力発生時期にあります。

    121条 遡及効

    121条は「取り消された行為は、初めから無効であったものとみなす。」と定めています。

    取消しの効果は将来に向かってではなく、契約の時点まで遡ります。売買が取り消されれば、所有権はもともと移転しなかったことになり、代金の支払義務ももともとなかったことになります。

    ここが解除との違いです。解除の効果を定める545条1項は「各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う」としつつ、ただし書で「第三者の権利を害することはできない」と定めています。取消しの121条には、このただし書がありません。取消しと解除は、効果の書きぶりが違う。混同しないでください。

    126条 期間制限

    126条は「取消権は、追認をすることができる時から五年間行使しないときは、時効によって消滅する。行為の時から二十年を経過したときも、同様とする」と定めています。

    二つの期間が並んでいます。起算点が違う点に注意してください。5年のほうは「追認をすることができる時」から、20年のほうは「行為の時」からです。どちらか一方が経過すれば取消権は消滅します。

    「追認をすることができる時」がいつかは、124条が定めています。取消しの原因となっていた状況が消滅し、かつ取消権を有することを知った時です。未成年者であれば成年に達した後、詐欺であれば詐欺に気づいた後ということになります。「行為の時から5年」ではありません。数字の入れ替えとあわせて起算点の入れ替えが出ます。

    追認と法定追認

    追認は、取消しの制度の裏側にあたる部分です。ここを飛ばすと、取消権が消える経路を一つ見落とします。

    122条 追認すれば取り消せなくなる

    122条は「取り消すことができる行為は、第百二十条に規定する者が追認したときは、以後、取り消すことができない。」と定めています。

    追認できるのは120条の取消権者、つまり取り消せる立場にある者です。追認によって、その行為は取り消される可能性を失い、確定的に有効になります。

    ここで一点、改正で条文が変わっています。平成29年改正前の122条にはただし書があり、「ただし、追認によって第三者の権利を害することはできない」と定めていました。現行法ではこのただし書が削除されています。取り消すことができる行為は追認前も有効なのですから、追認によって新たに第三者の権利が害されるという場面が想定しにくく、規定を置く必要がないと整理されたためです。改正点の全体像は民法改正のポイントにあります。

    124条 追認できる時期

    124条1項は「取り消すことができる行為の追認は、取消しの原因となっていた状況が消滅し、かつ、取消権を有することを知った後にしなければ、その効力を生じない」と定めています。

    二つの要件が「かつ」で結ばれています。状況の消滅だけでは足りず、取消権があることを知っている必要があります。未成年者が成年に達しただけでは追認できず、自分に取消権があると知ったうえで追認して初めて効力を生じます。

    2項は例外を二つ挙げています。1号が「法定代理人又は制限行為能力者の保佐人若しくは補助人が追認をするとき」、2号が「制限行為能力者(成年被後見人を除く。)が法定代理人、保佐人又は補助人の同意を得て追認をするとき」です。この場合には、取消しの原因となっていた状況が消滅した後にすることを要しません。保護者が判断に関与しているので、本人の状態が続いていても構わないという趣旨です。

    2号の括弧書き、「成年被後見人を除く」を落とさないでください。成年被後見人は同意を得ても有効に行為できない類型なので、同意を得て追認するという経路自体がありません。

    125条 法定追認

    125条は、追認の意思表示がなくても追認したものとみなされる場合を定めています。

    追認をすることができる時以後に、取り消すことができる行為について次に掲げる事実があったときは、追認をしたものとみなす。ただし、異議をとどめたときは、この限りでない。

    列挙されている事実は六つです。全部又は一部の履行、履行の請求、更改、担保の供与、取り消すことができる行為によって取得した権利の全部又は一部の譲渡、強制執行。

    この六つは、いずれも「その契約が有効であることを前提とした行動」です。取り消せる立場にありながら、代金を払ったり、相手に履行を求めたり、取得した権利を他人に売ったりすれば、もはや取り消さない意思を示したものと扱ってよい、という発想です。

    三点、条文から確認してください。

    第一に、「追認をすることができる時以後」でなければなりません。まだ未成年のうちに代金を払っても法定追認にはなりません。

    第二に、「異議をとどめたとき」は除かれます。「取消権は留保する」と述べたうえで履行すれば、法定追認にはなりません。

    第三に、追認の意思は不要です。追認しようと思っていなくても、六つの事実があれば追認とみなされます。ここが125条の怖いところで、出題もされます。

    119条ただし書との違いを並べる

    無効な行為の追認(119条ただし書)と、取り消すことができる行為の追認(122条)は、名前が同じでも中身が違います。

    要件が違います。119条ただし書は「無効であることを知って」追認したことを求めます。122条は120条の取消権者による追認を求め、124条が時期の要件を加えます。

    効果が違います。119条ただし書は「新たな行為をしたものとみなす」で、遡及しません。122条は「以後、取り消すことができない」で、もともと有効だった行為の有効性が確定します。

    みなし規定の有無が違います。取消しには125条の法定追認がありますが、無効な行為の追認には対応する規定がありません。

    この三点を対で持っておくと、混ぜた形の出題に対応できます。

    121条の2 原状回復義務

    無効・取消しの後始末を定めるのが121条の2です。平成29年法律第44号による改正で新設され、2020年4月1日に施行された条文で、宅建試験でも問われます。

    1項 原則は原状回復

    121条の2第1項は「無効な行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は、相手方を原状に復させる義務を負う。」と定めています。

    条文は「無効な行為」と書いていますが、121条により取り消された行為は初めから無効であったものとみなされるので、取消しの場合にも121条の2が働きます。売買が取り消されれば、売主は代金を返し、買主は目的物を返すことになります。

    改正前は、この清算を不当利得の規定(703条・704条)で処理していました。現行法は121条の2という専用の規定を置き、原状回復義務という形で明示しています。

    2項 無償行為で善意の者は現存利益

    2項が第一の例外です。「前項の規定にかかわらず、無効な無償行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は、給付を受けた当時その行為が無効であること(給付を受けた後に前条の規定により初めから無効であったものとみなされた行為にあっては、給付を受けた当時その行為が取り消すことができるものであること)を知らなかったときは、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う。」

    要件が二つあります。無償行為であることと、給付を受けた当時、無効であること(取り消せるものであること)を知らなかったことです。贈与を受けた人が、その贈与が無効だと知らずに受け取っていた場合が典型です。

    理由は分かりやすい話です。有償行為であれば、返す代わりに自分が払ったものを返してもらえます。ところが無償行為では、返すだけで何も戻ってきません。事情を知らずに受け取った人に全部返せというのは酷なので、手元に残っている限度でよいとしたのです。

    3項 意思無能力者と制限行為能力者は常に現存利益

    3項が第二の例外です。「前項の規定にかかわらず、行為の時に意思能力を有しなかった者は、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う。行為の時に制限行為能力者であった者についても、同様とする。

    こちらは2項と違い、有償・無償を問いません。善意・悪意も問いません。行為の時に意思能力がなかった、あるいは制限行為能力者だった、という一事で現存利益の返還に軽減されます。

    保護されるべき者に全部返せと求めれば、制度の意味がなくなるからです。取消しによって保護しておきながら、返還で不利益を負わせるのでは筋が通りません。

    ここも改正で位置が動いています。改正前は121条ただし書が「制限行為能力者は、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う」と定めていました。現行法ではこれが121条の2第3項に移り、意思無能力者も並べて規定されました。条文番号を答えさせる出題はありませんが、「意思無能力者にも現存利益の特則がある」という点は現行法で確認しておく価値があります。

    現存利益とは何か

    3項の「現に利益を受けている限度」、いわゆる現存利益の判断は、受け取った金銭を何に使ったかで結論が分かれます。

    生活費に充てた分は現存利益として残っていると扱われます。本来自分の財産から支出するはずだった費用を免れているので、その分の財産が手元に残っているのと同じだからです。

    遊興費に費やした分は現存利益になりません。もともとする予定のなかった支出であり、それによって免れた出費もないので、利益が残っていないと評価されます。

    同じ「使ってしまった」でも結論が逆になる点が繰り返し問われます。残っているかどうかではなく、本来の支出を免れたかどうかで判断すると覚えてください。

    解除の原状回復と混ぜない

    545条の解除にも原状回復義務があります。ただし条文の中身が違います。

    545条1項ただし書は「第三者の権利を害することはできない」と定めていますが、121条の2にこれに対応する規定はありません。取消しの場合の第三者保護は、93条2項・94条2項・95条4項・96条3項という個別の規定が担っています。

    545条2項は、金銭を返還するときはその受領の時から利息を付さなければならないと定めています。121条の2にはこの規定がありません。

    取消しの原状回復と解除の原状回復を、同じものとして覚えない。条文が別に置かれている以上、中身は別です。

    どの制度が無効で、どれが取消しか

    ここまでが四点の中身です。あとは制度ごとの振り分けを条文で確定させれば、この分野は完成します。

    無効となるもの

    意思無能力(3条の2)。「法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。」なお、この条文は平成29年法律第44号による改正で新設され、2020年4月1日に施行されたものです。改正前は明文がなく、判例法理として認められていました。

    公序良俗違反(90条)。「公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。」

    強行規定違反。91条が任意規定と異なる意思表示は「その意思に従う」としていることの裏返しとして、公の秩序に関する規定に反する合意は効力を持ちません。個別法にも明文があり、借地借家法9条・16条・21条・30条・37条、宅地建物取引業法38条2項・39条3項・40条2項・42条2項などがこれに当たります。

    心裡留保で相手方が悪意または有過失のとき(93条1項ただし書)。本文は「その効力を妨げられない」で原則有効、ただし書で「相手方がその意思表示が表意者の真意ではないことを知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする」としています。原則は有効で、例外が無効という構造を落とさないでください。

    虚偽表示(94条1項)。「相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。」こちらは例外なく無効です。心裡留保と違い、相手方の主観によって結論が変わることはありません。

    取消しとなるもの

    制限行為能力。未成年者は5条2項が「前項の規定に反する法律行為は、取り消すことができる」、成年被後見人は9条本文が「成年被後見人の法律行為は、取り消すことができる」、被保佐人は13条4項が「保佐人の同意を得なければならない行為であって、その同意又はこれに代わる許可を得ないでしたものは、取り消すことができる」、被補助人は17条4項が同じ形で定めています。四類型すべて取消しです。

    9条にはただし書があり、「日用品の購入その他日常生活に関する行為については、この限りでない」として取消しの対象から外しています。5条1項ただし書も「単に権利を得、又は義務を免れる法律行為」を同意不要としています。取消しの対象から外れる行為が条文に書かれている点は、制限行為能力者制度で詳しく扱っています。

    錯誤(95条1項)。「意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。」

    詐欺・強迫(96条1項)。「詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。」詐欺と強迫は同じ項に置かれており、効果はどちらも取消しで共通です。「強迫されてした意思表示は無効である」という肢は誤りです。

    錯誤は改正で無効から取消しに変わった

    この一点だけは、正誤が反転する変更なので独立して覚えてください。

    改正前の95条はこう定めていました。「意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。」

    現行95条1項は「取り消すことができる」です。効果が無効から取消しに変わりました。

    変更の影響は効果の名称にとどまりません。取消しになったことで、120条2項の取消権者の限定と126条の期間制限がかかるようになりました。改正前は無効だったので、期間制限がなく、主張できる者の限定もありませんでした。

    条文の書きぶりも変わっています。改正前は「法律行為の要素に錯誤があったとき」でしたが、現行法は1項柱書で「法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なもの」と表現し、1号の表示の錯誤と2号の基礎事情の錯誤に分けたうえ、2号については2項で「その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたとき」に限る、という限定を明文化しました。重大な過失の扱いも、改正前は「自らその無効を主張することができない」だったのに対し、現行3項は取消しができないとしたうえで、1号(相手方が悪意または重過失)と2号(共通錯誤)という例外を明文で置いています。

    「錯誤による意思表示は無効である」という肢は誤りです。改正から時間が経ちましたが、いまも出題され続けています。

    覚え方は「条文の文末」

    以上を暗記事項として並べると量が多く見えますが、実際にやることは一つです。条文が「無効とする」で終わっているか、「取り消すことができる」で終わっているかを見る。

    3条の2、90条、93条1項ただし書、94条1項は「無効とする」。5条2項、9条、13条4項、17条4項、95条1項、96条1項は「取り消すことができる」。条文の文末が制度を決めています。理屈から思い出そうとするより、文末で持つほうが速く確実です。

    無効・取消しの効果は第三者にどこまで及ぶか

    無効も取消しも、当事者の間で効力を否定する制度です。では、その間に登場した第三者はどうなるか。ここは条文が制度ごとに分かれており、要件の差がそのまま出題されます。

    条文は三段階に分かれている

    善意で足りるもの。93条2項は「前項ただし書の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない」、94条2項は「前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない」と定めています。無過失は要求されていません。

    善意かつ無過失を要するもの。95条4項は「第一項の規定による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない」、96条3項は「前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない」と定めています。

    保護規定がないもの。強迫については、第三者を保護する規定が置かれていません。96条2項は「第三者が詐欺を行った場合」、3項は「詐欺による意思表示の取消しは」と、いずれも詐欺に限定して書かれており、強迫はどちらにも入っていません。したがって強迫による取消しは、第三者が善意無過失であっても対抗できます。強迫された者に落ち度がないため、取引の安全よりも表意者の保護を徹底したものです。

    制限行為能力を理由とする取消しにも、第三者保護の規定はありません。5条2項、9条、13条4項、17条4項のいずれにも、対応する項が置かれていないことを条文で確認してください。したがって、未成年者が単独でした売買を取り消せば、その間に登場した善意無過失の第三者に対しても取消しを対抗できます。

    要件の差がそのまま最頻出の出題になる

    善意で足りるものと善意無過失を要するものの入れ替えが、この分野で最も多い出題です。94条2項を「善意でかつ過失がない第三者」と書き換える肢、95条4項や96条3項を「善意の第三者」と書き換える肢が繰り返し出ます。

    判定法は条文の文言を思い出すことに尽きます。93条2項と94条2項は「善意の第三者」、95条4項と96条3項は「善意でかつ過失がない第三者」。文言に要件を足さず、文言から要件を落とさない。

    なぜ差があるのかという理屈と、各類型の詳細は意思表示の瑕疵で扱っています。要点だけ述べれば、表意者の帰責性が小さくなるほど第三者のハードルが上がり、最後には保護規定自体がなくなるという並びになっています。

    取消しの前か後かで条文が変わる

    もう一点、効果の枠組みとして押さえるべきことがあります。これらの第三者保護規定が守るのは、取消しがされる前に登場した第三者です。

    取消しの後に元の相手方から権利を取得した第三者との関係は、121条による復帰的物権変動と第三者への物権変動が競合する場面となり、対抗問題として処理されます。判例は177条を適用し、先に登記を備えた者が優先するとしています(大判昭和17年9月30日)。この場面では第三者の善意・悪意は原則として問われません。物権変動と対抗要件の一般論は物権変動と対抗要件にあります。

    したがって、第三者が登場する問題では時系列を先に確定させる必要があります。取消前なら各類型の第三者保護規定、取消後なら177条。この分岐を先にやらないと、条文を正しく覚えていても間違えます。

    一部無効・無効行為の転換・無効と条件

    無効という効果には、いくつかの応用形があります。宅建試験で正面から定義を問われることは少ないものの、条文の場面として現れます。

    一部無効の明文例

    法律行為の一部だけが無効になることがあります。宅地建物取引業法38条2項が明文の例です。

    38条1項は、宅地建物取引業者が自ら売主となる売買契約において、債務不履行を理由とする解除に伴う損害賠償額の予定と違約金を合算した額が代金の10分の2を超える定めをしてはならないと規定しています。そして2項は「前項の規定に反する特約は、代金の額の十分の二をこえる部分について、無効とする。」と定めています。

    特約全体が無効になるのではありません。10分の2までは有効に残り、それを超える部分だけが効力を失います。代金3,000万円で損害賠償額の予定を1,000万円と定めた場合、600万円までは有効で、超える400万円の部分が無効になります。「特約全体が無効になり、損害賠償の予定がなかったことになる」という肢は誤りです。8種制限の全体像は8種制限、担保責任の特約は契約不適合責任で扱っています。

    なお、同じ8種制限でも40条2項は「前項の規定に反する特約は、無効とする」と定めるだけで、一部無効の限定がありません。条文ごとに書きぶりが違うので、まとめて覚えないでください。

    無効行為の転換の明文例

    ある方式では無効だが、別の行為としてなら有効に扱われる場合があります。971条が明文の例です。

    「秘密証書による遺言は、前条に定める方式に欠けるものがあっても、第九百六十八条に定める方式を具備しているときは、自筆証書による遺言としてその効力を有する。

    968条1項は自筆証書遺言の方式として、遺言者が全文・日付・氏名を自書し、これに印を押すことを求めています。秘密証書遺言としての方式に不備があっても、この要件を満たしていれば自筆証書遺言として効力を持つ、というのが971条です。当事者の意思をできる限り生かそうとする発想が条文になった例といえます。遺言の方式は遺言の方式で扱っています。

    条件と無効

    条件を付した法律行為についても、無効を定める規定があります。

    131条1項は、条件が法律行為の時に既に成就していた場合、停止条件であれば無条件、解除条件であればその法律行為は無効と定めています。2項は逆に、条件が成就しないことが既に確定していた場合、停止条件であれば無効、解除条件であれば無条件としています。

    132条は「不法な条件を付した法律行為は、無効とする。不法な行為をしないことを条件とするものも、同様とする」と定めています。後段まで含めて無効になる点が特徴です。条件・期限の全体像は条件と期限で扱っています。

    試験での出題ポイント

    無効と取消しを入れ替える

    最も基本的で、最も多い型です。「意思無能力者の法律行為は取り消すことができる」(正しくは無効、3条の2)、「成年被後見人の法律行為は無効である」(正しくは取消し、9条本文)、「公序良俗に反する法律行為は取り消すことができる」(正しくは無効、90条)といった形で出ます。

    条文の文末で判定してください。理屈で考えると迷いますが、文末で持っていれば即答できます。

    錯誤を「無効」とする

    改正前の理解をそのまま出す型です。95条1項柱書は「取り消すことができる」です。効果が取消しであることから、120条2項の取消権者の限定と126条の期間制限が連動します。

    無効に期間制限をかける、取消しから期間制限を外す

    「無効の主張は行為の時から20年で できなくなる」という肢、「取消権に期間制限はない」という肢。いずれも誤りです。126条は取消権の規定であり、無効には対応する規定がありません。

    126条の起算点をずらす

    「取消権は行為の時から5年で時効消滅する」という形です。5年の起算点は「追認をすることができる時」、20年の起算点が「行為の時」です。二つの期間で起算点が違うことを利用した引っかけです。

    追認の効果を遡らせる

    「無効な行為を追認すると、はじめから有効であったものとみなされる」という肢。119条ただし書の効果は「新たな行為をしたものとみなす」であって、遡及しません。しかも「無効であることを知って」追認したことが要件です。

    法定追認の要件を落とす

    「取消権者が代金を支払った場合、取消しの意思がなければ法定追認にはならない」という肢は誤りです。125条は追認の意思を要求していません。逆に、「追認をすることができる時以後」という時期の要件と、「異議をとどめたとき」の除外を落とした肢も出ます。列挙されている六つの事実(全部又は一部の履行、履行の請求、更改、担保の供与、権利の全部又は一部の譲渡、強制執行)に含まれないものを混ぜてくる形もあります。

    原状回復の範囲を広げる、または狭める

    「制限行為能力者は受け取ったものを全部返還しなければならない」という肢は121条の2第3項に反します。逆に「無効な契約で給付を受けた者は、常に現存利益の返還で足りる」という肢も誤りで、原則は1項の原状回復、現存利益で足りるのは2項(無償行為で善意)と3項(意思無能力者・制限行為能力者)の場合に限られます。

    現存利益の中身についても、「受け取った金銭を生活費に充てた場合は現存利益がない」という肢が出ます。生活費は現存利益あり、遊興費は現存利益なしです。

    取消権者を広げる、または狭める

    「契約の相手方も詐欺を理由に取り消せる」という肢は120条2項に反します。「未成年者が単独でした契約を取り消すには法定代理人の同意が必要である」という肢は120条1項に反します。1項と2項で列挙が違い、1項にだけ「同意をすることができる者」が入っている点も問われます。代理人が取消権者に含まれる根拠は両項にあり、代理の仕組みは代理制度で扱っています。

    第三者保護の要件を入れ替える

    94条2項を「善意でかつ過失がない第三者」に、95条4項や96条3項を「善意の第三者」に書き換える型です。加えて、強迫と制限行為能力の取消しには第三者保護規定がないという点を、「善意無過失の第三者には対抗できない」と書いて誤らせる形が出ます。

    一部無効を全部無効にする

    宅地建物取引業法38条2項の「代金の額の十分の二をこえる部分について、無効」を、「特約全体が無効」と書き換える型です。条文が超過部分に限定していることを読み落とさせる出題です。権利関係の頻出論点は権利関係の頻出論点にまとめています。

    覚え方・整理の仕方

    四つの軸で対比表を頭に置く

    無効と取消しは、次の四つの軸で並べると混ざりません。

    効力。無効は最初から効力なし。取消しは取り消されるまで有効で、取り消されると121条により初めから無効であったものとみなされる。

    主張権者。無効は原則として制限なし。取消しは120条の列挙者に限る。

    期間制限。無効はなし。取消しは126条で5年・20年。

    追認。無効は119条本文で原則として効力を生じず、ただし書で知って追認すれば新たな行為とみなされるにとどまる。取消しは122条で確定的に有効になり、125条の法定追認もある。

    この四つを縦に並べて、左に無効、右に取消しを置く。問題文がどの軸を触っているかを見つければ、答えは出ます。

    条文の文末で振り分ける

    どの制度が無効でどれが取消しかは、理屈より文末で持つほうが速いと述べました。もう一度並べます。

    「無効とする」で終わる条文が3条の2、90条、93条1項ただし書、94条1項。「取り消すことができる」で終わる条文が5条2項、9条、13条4項、17条4項、95条1項、96条1項。

    さらに一段まとめると、能力のうち意思能力は無効・行為能力は取消し内容の問題は無効意思表示の瑕疵は嘘の系統(心裡留保・虚偽表示)が無効・勘違いと外圧の系統(錯誤・詐欺・強迫)が取消しという並びになります。文末を忘れたときはこの三段で復元してください。

    数字は三つだけ

    この分野で覚える数字は多くありません。取消権の5年(追認をすることができる時から)と20年(行為の時から)、そして宅地建物取引業法38条の10分の2です。5年と20年は起算点とセットで、10分の2は「超える部分だけが無効」とセットで持ちます。

    法定追認は「有効を前提にした行動」で束ねる

    125条の六つを丸暗記しようとすると抜けます。「その契約が有効であることを前提にした行動をとったら、もう取り消せない」という一文で束ねてください。

    代金を払う(履行)、代金を請求する(履行の請求)、債務を作り替える(更改)、担保を付ける(担保の供与)、取得した権利を売る(譲渡)、強制執行をかける。どれも「この契約は生きている」という前提でしか説明できない行動です。理屈から入れば列挙を思い出せます。

    原状回復は「原則は全部・例外は現存利益」で持つ

    121条の2は項が三つあって混乱しやすいので、原則と例外の形で持ちます。

    原則は1項の原状回復、つまり全部返す。例外が二つあり、2項は「無償かつ善意」の組み合わせで初めて現存利益に落ちるのに対し、3項は意思無能力者・制限行為能力者なら無条件で現存利益に落ちる

    2項には条件が二つ付いていて、3項には条件が付いていない。この非対称で覚えると、要件を足したり落としたりしなくなります。

    取消しと解除を条文で切り分ける

    似ているので混ざりますが、条文が別なので中身も別です。取消しは121条・121条の2、解除は545条。545条1項ただし書の第三者保護と2項の利息は解除にだけあり、121条の2にはありません。逆に、現存利益への軽減は121条の2にあり、545条にはありません。

    「原状回復」という同じ言葉が出てきたら、どちらの条文の話かを先に確定させる。苦手分野の潰し方は権利関係の苦手克服で扱っています。

    理解度チェッククイズ

    問1 意思能力を有しない状態でされた法律行為は、取り消すことができる行為であり、取消権者が取り消して初めて効力を失う。

    答え:×。3条の2は「法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする」と定めています。取消しではなく無効なので、取消権者が取り消すまでもなく、最初から効力を生じていません。したがって120条の取消権者の限定も、126条の期間制限もかかりません。同じ「能力」の問題でも、意思能力を欠く場合は無効、行為能力を制限されている場合は取消しです。5条2項、9条、13条4項、17条4項はいずれも「取り消すことができる」と定めており、条文の文末が違います。なお3条の2は平成29年改正で新設された条文で、それ以前は明文がなく判例法理として認められていました。返還の範囲については、121条の2第3項が「行為の時に意思能力を有しなかった者は、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う」として、制限行為能力者と同じ現存利益の特則を置いています。

    問2 無効な行為であっても、当事者がその行為の無効であることを知って追認をしたときは、その行為は初めから有効であったものとみなされる。

    答え:×。119条は「無効な行為は、追認によっても、その効力を生じない。ただし、当事者がその行為の無効であることを知って追認をしたときは、新たな行為をしたものとみなす」と定めています。効果は「新たな行為をしたものとみなす」であって、「初めから有効であったものとみなす」ではありません。遡及しないのがこの規定の要点です。追認をした時点で、あらためて同じ内容の行為をしたものとして扱われるにすぎません。対比すべきなのが取り消すことができる行為の追認で、こちらは122条により「以後、取り消すことができない」となります。取り消すことができる行為はもともと有効ですから、追認によってその有効性が確定するという関係になり、無効な行為の追認とは構造が違います。なお119条ただし書は「無効であることを知って」追認したことを要件としているので、無効だと知らずに追認しても、この規定は働きません。

    問3 取消権は、追認をすることができる時から5年間行使しないときは時効によって消滅し、行為の時から20年を経過したときも同様である。

    答え:○。126条の文言どおりです。「取消権は、追認をすることができる時から五年間行使しないときは、時効によって消滅する。行為の時から二十年を経過したときも、同様である」と定めています。二つの期間で起算点が違う点が急所で、5年のほうは「追認をすることができる時」、20年のほうは「行為の時」から数えます。「行為の時から5年」と書き換える肢が繰り返し出ます。「追認をすることができる時」がいつかは124条1項が定めており、取消しの原因となっていた状況が消滅し、かつ取消権を有することを知った後です。また、この126条は取消権の規定であって、無効には適用されません。無効の主張には期間制限がなく、「無効も20年で主張できなくなる」という肢は誤りです。

    問4 未成年者が法定代理人の同意を得ずに締結した売買契約を取り消した場合、その未成年者は、受け取った代金のうち手元に残っている額にかかわらず、全額を返還しなければならない。

    答え:×。121条の2第3項は「行為の時に制限行為能力者であった者は、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う」と定めています。原則である1項の原状回復義務ではなく、現存利益の返還で足ります。制限行為能力者を取消しによって保護しておきながら、返還の場面で全額の負担を負わせるのでは制度の意味がなくなるからです。この特則は有償・無償を問わず、善意・悪意も問いません。無償行為かつ善意という二つの要件が必要な2項とは、要件の構造が違います。なお現存利益の判断では、受け取った金銭を生活費に充てた分は現存利益として残ると扱われ、遊興費に費やした分は残らないと扱われます。本来支出するはずだった費用を免れたかどうかで分かれる点が問われます。

    問5 取り消すことができる行為について、取消権者が追認をすることができる時以後にその債務の一部を履行した場合、追認する意思がなくても追認したものとみなされる。

    答え:○。125条は「追認をすることができる時以後に、取り消すことができる行為について次に掲げる事実があったときは、追認をしたものとみなす。ただし、異議をとどめたときは、この限りでない」と定め、1号に「全部又は一部の履行」を挙げています。追認の意思は要件になっていません。契約が有効であることを前提とした行動をとった以上、もはや取り消さない意思を示したものとして扱う、という規定です。ほかに列挙されているのは、履行の請求、更改、担保の供与、取り消すことができる行為によって取得した権利の全部又は一部の譲渡、強制執行の五つです。ただし条文には二つの限定があり、「追認をすることができる時以後」の行為でなければならない点と、「異議をとどめたとき」は除かれる点を落とすと誤ります。まだ未成年のうちに代金を支払っても法定追認にはならず、「取消権は留保する」と述べたうえで履行した場合も同様です。

    まとめ

    1. 無効と取消しは四点で違う。効力(最初から効力なし/取り消されるまで有効)、主張権者(制限なし/120条の列挙者)、期間制限(なし/126条の5年・20年)、追認(119条本文で原則効力を生じない/122条で確定的に有効)。この四つの軸に問題文を落とせば結論が出ます。

    2. どちらの制度かは条文の文末で決まる。「無効とする」で終わるのが3条の2、90条、93条1項ただし書、94条1項。「取り消すことができる」で終わるのが5条2項、9条、13条4項、17条4項、95条1項、96条1項。意思能力を欠けば無効、行為能力の制限は取消しという非対称に注意してください。

    3. 錯誤は改正で無効から取消しに変わった。改正前の95条は「無効とする」でしたが、現行1項柱書は「取り消すことができる」です。効果が変わったことで、120条2項の取消権者の限定と126条の期間制限が連動してかかるようになりました。正誤が反転する変更なので独立して覚えてください。

    4. 追認は無効と取消しで中身が違う。119条ただし書は「無効であることを知って」追認したときに「新たな行為をしたものとみなす」で、遡及しません。122条は取消権者の追認により「以後、取り消すことができない」。加えて取消しには125条の法定追認があり、追認の意思がなくても六つの事実があれば追認とみなされます。

    5. 原状回復は原則が全部、例外が現存利益。121条の2第1項が原状回復義務を定め、2項が「無償かつ善意」の場合、3項が「意思無能力者・制限行為能力者」の場合に現存利益への軽減を認めます。3項には無償・善意の要件が付いていません。現存利益は、生活費に充てた分は残り、遊興費に費やした分は残りません。

    6. 第三者保護の要件は条文の文言がそのまま結論になる。93条2項と94条2項は「善意の第三者」、95条4項と96条3項は「善意でかつ過失がない第三者」。強迫と制限行為能力を理由とする取消しには、第三者保護の規定自体がありません。取消し後に登場した第三者との関係は対抗問題となり、177条により登記の先後で決まります(大判昭和17年9月30日)。

    よくある質問

    Q. 無効と取消し、当事者にとってどちらが有利ですか。

    A. 一概には言えません。主張権者に制限がなく、期間制限もない点では無効のほうが主張しやすいといえます。しかし取消しには、追認によって契約を確定的に有効にできるという利点があります。だまされて買った不動産が実は良い買い物だったという場合、取消しであれば追認して契約を維持できますが、無効であれば119条ただし書によって新たな行為をしたものとみなされるにとどまり、遡って有効にはなりません。どちらが有利かは場面によります。試験で問われるのは有利不利ではなく、それぞれの法的効果の違いです。

    Q. 一つの契約に無効の原因と取消しの原因が両方あるときはどうなりますか。

    A. 両方の主張ができます。たとえば、被保佐人が保佐人の同意を得ずに、しかも相手方にだまされて土地を売った場合、13条4項による取消しと96条1項による取消しが並びます。意思無能力の状態でされた行為であれば、3条の2による無効と、制限行為能力による取消しが並ぶこともあります。どちらを主張してもよく、選択できます。この重なりが実際に意味を持つのは、要件や効果が違う場合です。詐欺による取消しは善意無過失の第三者に対抗できませんが(96条3項)、制限行為能力を理由とする取消しにはそのような制限がありません。第三者が登場している事案では、どちらを理由にするかで結論が変わりえます。

    Q. 「善意」と「悪意」は日常用語と同じ意味ですか。

    A. 違います。法律用語の善意は「ある事実を知らないこと」、悪意は「ある事実を知っていること」を意味し、道徳的な評価は含みません。「有過失」は、知らなかったことについて落ち度がある、つまり注意すれば知ることができたのに知らなかったという意味です。したがって「善意無過失」は、知らず、かつ知らないことに落ち度もなかった状態を指します。この記事で扱った93条2項・94条2項と95条4項・96条3項の差は、すべてこの意味での差です。

    Q. 契約が無効になった場合、すでに登記が移転していたらどうなりますか。

    A. 無効な行為に基づく登記は、実体を伴わない登記ということになります。121条の2第1項の原状回復義務の一環として、登記を元に戻すことを求めることができます。ただし、その間に第三者が登場している場合には、94条2項などの第三者保護規定や、取消し後であれば177条の対抗問題として処理されることになります。登記が実体と食い違う状態をどう扱うかは、物権変動の領域の問題です。詳しくは物権変動と対抗要件で扱っています。

    Q. 宅地建物取引業法の規制に違反した契約は、すべて無効になるのですか。

    A. すべてではありません。宅地建物取引業法には、38条2項、39条3項、40条2項、42条2項、37条の2第4項のように「無効とする」と明記した規定があり、これらに当たれば私法上の効力が否定されます。しかし、条文が「無効とする」と定めていない業務規制については、違反があっても監督処分や罰則の対象となるにとどまります。契約が無効になるかどうかは、その条文が無効と書いているかで判断してください。38条2項のように「超える部分について、無効」と一部無効にとどめている条文もあります。監督処分の仕組みは監督処分で扱っています。

    Q. 取消しと解除は何が違うのですか。

    A. 発生原因が違います。取消しは、意思無能力・制限行為能力・錯誤・詐欺・強迫といった、契約が成立した時点の問題を理由とします。解除は、債務不履行などの契約が成立した後に生じた事情を理由とします。効果の条文も別で、取消しは121条・121条の2、解除は545条です。545条1項ただし書の第三者保護と2項の利息は解除にだけあり、121条の2にはありません。逆に、意思無能力者・制限行為能力者の現存利益への軽減は121条の2にだけあります。「原状回復」という同じ言葉が出てきたら、どちらの条文の話かを確定させてください。債務不履行と解除は債務不履行で扱っています。


    宅建試験AIブートラボのアプリでは、この記事で扱った無効と取消しの四つの軸、追認と法定追認、121条の2の原状回復義務、無効・取消しの振り分けといった論点を、肢別トレーニングと年度別過去問演習で確認できます。

    読んだ内容を、権利関係の肢で確かめる

    民法・借地借家法・区分所有法など、条文だけでは判断しづらい論点は、過去問の肢で覚えるのが最短です。

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