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宅建業者と宅建士の義務|主体で分ける整理

宅建業法 読了 約50分

宅建業法の義務を「業者が負うのか宅建士が負うのか」で整理。宅建士が名宛人の規定は本則に8か所だけ。提示と返納、事務所の備付け、使役構文、業者間取引の読替え、処分と罰則の名宛人まで条文根拠つきで解説します。

目次

    この記事は、宅地建物取引業法が定める義務を「誰が負うのか」という主体の軸で整理するものです。試験で問われるのは義務の内容そのものよりも、その義務の名宛人が宅地建物取引業者なのか宅地建物取引士なのか、という点です。宅建業法という法律の全体像は宅建業法の全体像で扱うので、ここでは名宛人の切り分けだけに絞ります。

    結論を先に述べます。宅地建物取引業者は事業主体として、宅地建物取引士は個人の資格者として、それぞれ別の義務を負っています。そして条文の主語を読めば、どちらの義務かは必ず判別できます。「宅地建物取引業者は」で始まる条文は業者の義務、「宅地建物取引士は」で始まる条文は宅建士の義務です。

    そのうえで、この記事が示したい事実がひとつあります。宅建業法の本則で「宅地建物取引士は」と主語を置いている箇所は、8か所しかありません。条数でいえば6か条です。これに対し「宅地建物取引業者は」で始まる箇所は本則に76か所、35か条にわたって置かれています(2026年4月1日施行の条文をe-Gov法令検索の全文データで数えたもの。附則は除く)。宅建業法は圧倒的に業者を名宛人とする法律であり、宅建士が名宛人になる場面はごく限られている。この非対称を先に頭に入れておくと、選択肢の主語を見た瞬間に違和感が働くようになります。

    混乱が生じるのは、重要事項説明のように、業者が負う義務を宅建士が実行するという二層構造の場面です。ここだけを丁寧に押さえれば、あとは条文の主語で機械的に処理できます。

    なぜ名宛人の区別が問われるのか

    業者は事業主体、宅建士は資格者

    宅地建物取引業法2条3号は、宅地建物取引業者を「第三条第一項の免許を受けて宅地建物取引業を営む者」と定義しています。同条4号は、宅地建物取引士を「第二十二条の二第一項の宅地建物取引士証の交付を受けた者」と定義しています。

    この2つの定義は、定義の仕方からして性格が違います。業者は「免許を受けて営む者」、つまり許可された事業活動の主体として定義されている。宅建士は「宅建士証の交付を受けた者」、つまり交付という事実によって定義されている。前者は法人でも個人でもかまいませんが、後者は個人に限られます。免許は事業に対する許可であり、登録と宅建士証の交付は個人の資格に対するものです。

    したがって、両者に課される義務も性格が違います。業者には事業の適正な運営に関する義務が、宅建士には専門家としての行為規範が課されます。事務所を置き、金銭を預かり、広告を出し、契約書面を交付するのは事業活動ですから、これらはすべて業者の側の義務になります。一方、説明する、記名する、証を提示するというのは、資格を持つ個人でなければ意味をなさない行為ですから、宅建士の側に置かれます。免許制度そのものの仕組みは宅建業の免許制度、登録と宅建士証の仕組みは宅建士の登録と宅建士証にまとめてあります。

    義務の名宛人と、処分の相手が対応する

    名宛人の区別が実務上も試験上も重要なのは、義務違反があったときに誰が処分されるかが、義務の名宛人によって決まるからです。業者の義務に違反すれば業者が監督処分を受け、宅建士の義務に違反すれば宅建士が監督処分を受けます。処分の種類も系統ごとに別に用意されていて、業者に対しては65条の指示・業務停止と66条・67条の免許取消し、宅建士に対しては68条の指示・事務禁止と68条の2の登録消除が置かれています。

    そしてひとつの事象が両方の違反になることもあります。この点は条文にはっきり書かれています。65条1項4号は、宅建士が68条または68条の2第1項の処分を受けた場合において、宅地建物取引業者の責めに帰すべき理由があるときは、当該業者に対して必要な指示をすることができるとしています。宅建士が処分されたという事実を、業者への処分事由として取り込んでいるわけです。名宛人が分かれていても、責任が完全に切り離されているわけではありません。

    条文の主語は4種類ある

    判別の方法はひとつです。条文の主語を読むことです。ただし主語は2種類ではありません。宅建業法の本則には、少なくとも次の4種類の主語が現れます。

    第一が「宅地建物取引業者は」。これが最も多く、76か所あります。第二が「宅地建物取引士は」。これが8か所です。第三が「第十八条第一項の登録を受けている者は」。19条の2(登録の移転)、20条(変更の登録)、22条の2第1項(宅建士証の交付申請)の3か所で使われていて、宅建士証をまだ受け取っていない登録者を含みます。第四が「従業者」で終わる主語で、48条2項の「従業者は」(従業者証明書の提示)と、75条の3の「宅地建物取引業者の使用人その他の従業者は」(従業者の守秘義務)の2か所です。

    選択肢の主語と条文の主語がずれていれば、その時点で誤りだと判断できる。以下では、この軸に沿って、宅建士が名宛人の規定、業者が名宛人の規定、両者が交差する使役の構文、従業者という第三の主体、そして違反したときの処分を順に見ていきます。

    資格を持つ前の段階にも名宛人が置かれている

    主語の種類はこれで尽きません。宅建業法は、まだ業者でも宅建士でもない段階の人にも義務を課しています。その場面で使われるのが「……しようとする者は」という主語です。

    3条1項は「宅地建物取引業を営もうとする者は……免許を受けなければならない」。同条3項は「前項の有効期間の満了後引き続き宅地建物取引業を営もうとする者は、免許の更新を受けなければならない」。4条1項は「第三条第一項の免許を受けようとする者は……免許申請書を提出しなければならない」。同条6項は、国土交通大臣の免許を受けようとする者に登録免許税の納付を、大臣免許の更新を受けようとする者に手数料の納付を義務づけています。免許制度の入口はすべてこの形です。

    宅建士の側にも同じ形があります。22条の2第2項は「宅地建物取引士証の交付を受けようとする者は、登録をしている都道府県知事が国土交通省令の定めるところにより指定する講習で交付の申請前六月以内に行われるものを受講しなければならない」と書いています。法定講習の受講義務は、宅建士に課された義務ではありません。まだ宅建士ではない人に課された義務です。

    理由は2条の定義にあります。業者は「免許を受けて営む者」、宅建士は「宅建士証の交付を受けた者」。免許や交付を受ける手続そのものを義務づけようとすると、名宛人を「宅地建物取引業者」「宅地建物取引士」と書くことができません。定義の外にいる人に向けた条文だからです。だから入口の条文はすべて「……しようとする者は」になる。

    逆側もあります。12条1項の「第三条第一項の免許を受けない者は、宅地建物取引業を営んではならない」は、入口を通らないまま事業を始める者を名宛人にした条文です。免許制度の入口には、通ろうとする者への義務と、通らない者への禁止が対になって置かれている、という配置になっています。

    「宅地建物取引士は」で始まる規定は本則に8か所

    宅建士を名宛人とする規定は、探せば全部見つかります。数が少ないからです。2026年4月1日時点の宅建業法本則で「宅地建物取引士は」と主語を置いているのは、次の8か所です。

    15条・15条の2・15条の3

    第一が15条(宅地建物取引士の業務処理の原則)、第二が15条の2(信用失墜行為の禁止)、第三が15条の3(知識及び能力の維持向上)。この3か条が、宅建士の行為規範を定めた部分です。次の節で条文の語尾まで読みます。

    22条の2第6項・第7項

    第四が22条の2第6項(返納)、第五が同条7項(提出)。宅建士証を手放す場面の規定です。この2つは条文が並んでいるうえに言葉が似ているので、場面で切り分ける必要があります。

    22条の4

    第六が22条の4(宅地建物取引士証の提示)。取引の関係者から請求があったときの提示義務です。

    35条4項・第5項

    第七が35条4項。「宅地建物取引士は、前三項の説明をするときは、説明の相手方に対し、宅地建物取引士証を提示しなければならない」という規定です。第八が35条5項。「第一項から第三項までの書面の交付に当たつては、宅地建物取引士は、当該書面に記名しなければならない」という規定です。

    ここに大きな意味があります。重要事項説明の条文である35条は、1項から3項までの主語が宅地建物取引業者であるのに、4項と5項だけ主語が宅地建物取引士に切り替わっている。ひとつの条文の中で名宛人が入れ替わっているわけです。この切り替わりを見落とすと、35条をめぐる出題は必ず取りこぼします。

    この8か所以外はすべて別の名宛人

    逆にいえば、これ以外の義務はすべて業者か、登録を受けている者か、従業者か、あるいは業者以外の第三者を名宛人としています。「宅地建物取引士は、事務所ごとに従業者名簿を備えなければならない」「宅地建物取引士は、報酬の額を掲示しなければならない」といった選択肢は、8か所のリストに存在しない義務を宅建士に負わせているので、条文を思い出すまでもなく誤りです。宅建士の独占業務という切り口からの整理は宅建士の独占業務3つにあるので、あわせて読むと輪郭がはっきりします。

    宅建士の3か条を語尾まで読む

    15条から15条の3までの3か条は、いずれも「宅地建物取引士は」で始まりますが、性格がそれぞれ違います。違いは語尾に出ます。

    業務処理の原則(15条)

    15条は、宅地建物取引士は宅地建物取引業の業務に従事するときは、宅地または建物の取引の専門家として、購入者等の利益の保護および円滑な宅地または建物の流通に資するよう、公正かつ誠実にこの法律に定める事務を行うとともに、宅地建物取引業に関連する業務に従事する者との連携に努めなければならないと定めています。

    内容は2つに分かれます。前段が、専門家として公正かつ誠実に事務を行うこと。後段が、関連する業務に従事する者との連携に努めることです。後段でいう関連業務の従事者には、司法書士、土地家屋調査士、建築士、金融機関の担当者などが含まれます。不動産取引が多くの専門職の関与によって成り立つことを踏まえた規定です。

    条文の冒頭に「宅地建物取引業の業務に従事するときは」という限定が置かれている点も見ておいてください。宅建士証を持っているだけで、宅建業に従事していない人にまで、この条文が事務処理の在り方を命じているわけではありません。次条の15条の2が場面を限定していないのと対照的です。

    信用失墜行為の禁止(15条の2)

    15条の2は、宅地建物取引士は宅地建物取引士の信用または品位を害するような行為をしてはならないと定めています。「してはならない」で終わる禁止規定です。

    この規定で押さえるべきは、対象が業務中の行為に限られないという点です。条文には15条のような「業務に従事するときは」という限定がありません。宅建士としての職務に直接関係しない場面での行為であっても、宅建士全体の信用や品位を害するものであれば、この規定に触れる可能性があります。私的な場面の行為が一切対象外だ、という理解は誤りです。

    なお、この規定は宅建士に向けられたものであり、業者の従業者一般に向けられたものではありません。宅建士資格を持たない従業者の行為は、この条文の対象外です。

    知識および能力の維持向上(15条の3)

    15条の3は、宅地建物取引士は宅地または建物の取引に係る事務に必要な知識および能力の維持向上に努めなければならないと定めています。条文の文言は「宅地又は建物の取引に係る事務」であって、勤務先や事務所を条件にしていません。勤務先を持たない宅建士にも向けられた責務だという読み方になります。

    こちらは全体が努力義務です。違反したからといって直ちに処分されるという性質のものではありません。ただし、5年ごとの宅建士証の更新にあたって法定講習の受講が求められているのは、この責務を制度として担保する仕組みだと理解できます。講習の内容と手続は宅建士の法定講習で扱っています。

    関連して、75条の2は、宅地建物取引業者を直接または間接の社員とする一般社団法人は、宅地建物取引士等がその職務に関し必要な知識および能力を効果的かつ効率的に習得できるよう、法令、金融その他の多様な分野に係る体系的な研修を実施するよう努めなければならないと定めています。名宛人が業界団体である努力義務で、15条の3と対になる位置にあります。宅建士個人の努力義務と、団体側の研修実施の努力義務がセットで置かれている、という構造です。

    3か条の性格を並べて覚える

    15条が原則規定で、前段が義務、後段が努力義務。15条の2が禁止規定。15条の3が努力義務。この性格の違いは選択肢の作り方に反映されるので、条文の語尾まで含めて覚えておいてください。「15条の2により、宅建士は信用を害する行為をしないよう努めなければならない」という記述は、禁止規定を努力義務にすり替えているので誤りです。逆に「15条の3により、知識および能力の維持向上を怠った宅建士は事務禁止処分を受ける」という記述も、努力義務を作為義務のように扱っていて過剰です。

    これら3か条は、宅地建物取引主任者から宅地建物取引士へ名称が変更された際に整備されたもので、宅建士が単なる手続の担い手ではなく専門家として位置づけられていることを示しています。宅建士が実際に何をする資格なのかは宅建士の仕事内容にまとめてあります。

    宅建士証をめぐる義務は提示・返納・提出の三つ

    宅建士証に関する義務は、提示の系統と、返納・提出の系統に分かれます。ここは数字ではなく場面で区別する必要があります。

    提示は2つの場面がある

    第一の場面が35条4項です。宅建士は「前三項の説明」つまり35条1項から3項までの重要事項説明をするときは、説明の相手方に対し宅建士証を提示しなければなりません。ここでは相手方からの請求は不要です。自分から提示する義務があります。

    第二の場面が22条の4です。宅建士は取引の関係者から請求があったときは、宅建士証を提示しなければなりません。こちらは請求があってはじめて義務が生じます。名宛人はここでも宅建士ですが、提示を求める側の書き方が違います。22条の4は「取引の関係者から請求があつたとき」とだけ書いていて、契約の相手方に限っていません。これに対し35条4項は「説明の相手方に対し」と提示先を特定しています。名宛人が同じでも、義務が向く先の広さは条文ごとに違う、ということです。

    両者は罰則の有無でも分かれます。86条は、22条の2第6項もしくは7項、35条4項または75条の規定に違反した者は10万円以下の過料に処すると定めており、35条4項の提示義務違反は過料の対象です。一方、22条の4はこの列挙に含まれておらず、過料の定めがありません。

    「請求がなくても提示」と「過料あり」がセットになっているのが35条4項、「請求があったとき」と「過料なし」がセットになっているのが22条の4。この対応で覚えると、罰則の有無まで含めて答えられます。なお86条が挙げる75条は、宅地建物取引業協会でない者が協会という文字を名称に用いることを禁じた規定で、宅建士とは無関係です。86条の過料は宅建士だけに向けられた規定ではない、ということも確認しておいてください。

    宅建士証に携帯義務はない

    宅建士証について、常に携帯していなければならないという規定はありません。携帯が義務づけられているのは、後述する従業者証明書のほうです(48条1項)。

    「宅建士証を携帯していなければ業務に従事させてはならない」という記述は誤りになります。逆に「従業者証明書は請求があったときに提示すればよく、携帯までは不要」という記述も誤りです。どちらの証明書の話かを取り違えないでください。この2つを混ぜる出題は、名宛人の入れ替えと並んで定番の型です。

    返納と提出は別のもの

    22条の2第6項は、宅地建物取引士は、18条1項の登録が消除されたとき、または宅建士証が効力を失ったときは、速やかに、宅建士証をその交付を受けた都道府県知事に返納しなければならないと定めています。

    22条の2第7項は、宅地建物取引士は、68条2項または4項の規定による禁止の処分を受けたときは、速やかに、宅建士証をその交付を受けた都道府県知事に提出しなければならないと定めています。

    言葉が似ていますが、場面が違います。登録が消除された、あるいは有効期間が満了して効力を失ったという、宅建士証がもう役目を果たさなくなった場面が返納です。これに対し、事務禁止処分を受けたという、一定期間だけ事務ができなくなる場面が提出です。同条8項は、提出を受けた知事は、禁止の期間が満了した場合においてその提出者から返還の請求があったときは、直ちに宅建士証を返還しなければならないと定めています。返す前提の預かりだから「提出」なのだ、と理解しておくと取り違えません。

    返す相手はいずれも交付を受けた都道府県知事です。登録の移転をしていれば移転後の知事から新しい宅建士証が交付されるので、そのときは移転後の知事が「交付を受けた知事」になりますが、いずれにせよ免許権者でも、勤務先の所在地の知事でもありません。

    そして返納も提出も、86条により10万円以下の過料の対象です。登録と宅建士証をめぐる手続の全体像は宅建士の登録と宅建士証で扱っています。

    「効力を失ったとき」に含まれる場面

    返納義務の引き金になる「宅建士証が効力を失ったとき」には、有効期間の満了だけでなく、22条の2第4項の場面が含まれます。同項は、宅建士証が交付された後に19条の2の規定により登録の移転があったときは、当該宅建士証はその効力を失うと定めています。登録を移転すると、それまで持っていた宅建士証は自動的に失効するわけです。

    このとき同条5項により、登録の移転の申請とともに宅建士証の交付の申請があれば、移転後の知事は、従前の宅建士証の有効期間が経過するまでの期間を有効期間とする宅建士証を交付します。新しく5年がもらえるのではなく、残りの期間を引き継ぐ形です。有効期間が伸びると書いた選択肢は誤りになります。

    登録を受けている者と宅建士は同じではない

    ここは名宛人の話としてもっとも精密な部分です。2条4号の定義により、宅地建物取引士とは宅建士証の交付を受けた者をいいます。ということは、試験に合格して登録は済ませたけれども宅建士証の交付を受けていない人は、宅建業法上の「宅地建物取引士」ではありません。

    20条・21条・19条の2の主語

    だからこそ、これらの人にも義務を及ぼす必要がある条文は、主語を「第十八条第一項の登録を受けている者」と書いています。

    20条(変更の登録)は「第十八条第一項の登録を受けている者は、登録を受けている事項に変更があつたときは、遅滞なく、変更の登録を申請しなければならない」。19条の2(登録の移転)も同じ主語です。22条の2第1項の宅建士証の交付申請も「第十八条第一項の登録を受けている者は」で始まります。宅建士証を持っていない人が交付を申請するのですから、主語が「宅地建物取引士は」であるはずがありません。

    21条(死亡等の届出)も「第十八条第一項の登録を受けている者が次の各号のいずれかに該当することとなつた場合においては」という形で、登録者を基準に書かれています。届出義務者は事由ごとに分かれていて、死亡の場合は相続人、18条1項1号から8号までのいずれかに該当するに至った場合は本人、同項12号(心身の故障により事務を適正に行えない者として国土交通省令で定めるもの)に該当するに至った場合は本人またはその法定代理人もしくは同居の親族です。1つの条文の中で名宛人が3通りに分かれている、珍しい構造をしています。

    宅建士証を持たない登録者への処分

    処分の側にも同じ区別があります。68条の2第1項は、登録を受けている宅地建物取引士について登録を消除すべき場合を定めていますが、同条2項は、18条1項の登録を受けている者で宅建士証の交付を受けていないものについて別に列挙を置いています。2項の3号は「宅地建物取引士としてすべき事務を行い、情状が特に重いとき」です。

    宅建士証を持たない登録者が重要事項の説明をしてしまった場合、その人は宅建業法上の宅建士ではないので、68条の指示処分や事務禁止処分にはなじみません。そこで68条の2第2項3号が受け皿になっている、という設計です。名宛人の定義を厳密に守った結果、処分規定まで二重に用意されているわけで、宅建業法が主語をどれだけ意識して書かれているかがよく分かる箇所です。

    出題ではどう使われるか

    「宅地建物取引士は、登録を受けている事項に変更があったときは、遅滞なく変更の登録を申請しなければならない」という選択肢は、結論としては正しい扱いを受けます。宅建士も登録を受けている者だからです。しかし、「宅建士証の交付を受けていない者は、勤務先が変わっても変更の登録を申請する必要がない」という選択肢は誤りになります。20条の名宛人は登録を受けている者全員だからです。合格から登録、宅建士証の交付までの流れは宅建合格後にやることでも扱っています。

    業者が名宛人の一般的な義務

    業務処理の原則(31条)と従業者の教育(31条の2)

    31条1項は、宅地建物取引業者は取引の関係者に対し、信義を旨とし、誠実にその業務を行わなければならないと定めています。宅建士の15条に対応する、業者側の原則規定です。

    ここで条ずれに注意が必要です。31条2項は従業者教育の規定ではありません。同項は「宅地建物取引業者は、第五十条の二第一項に規定する取引一任代理等を行うに当たつては、投機的取引の抑制が図られるよう配慮しなければならない」という、取引一任代理等についての配慮義務です。

    従業者の教育を定めているのは31条の2です。「宅地建物取引業者は、その従業者に対し、その業務を適正に実施させるため、必要な教育を行うよう努めなければならない」。名宛人は業者、語尾は努力義務です。従業者の質を確保する責任が事業者にあることを示した規定で、専任の宅建士の設置義務とあわせて理解しておくとよいでしょう。設置義務の詳細は専任の宅建士の設置義務にまとめてあります。

    守秘義務(45条)と従業者の守秘義務(75条の3)

    45条は、宅地建物取引業者は正当な理由がある場合でなければ、その業務上取り扱ったことについて知り得た秘密を他に漏らしてはならないとし、宅地建物取引業を営まなくなった後であっても同様であると定めています。

    押さえるべき点が3つあります。

    第一に、廃業後も義務が続くことです。免許が失効しても、在職中に知った秘密を漏らしてよいことにはなりません。「廃業すれば守秘義務は消滅する」という記述は誤りです。廃業等の届出そのものの手続は宅建業の廃業届・免許取消を参照してください。

    第二に、正当な理由があれば漏らすことができる、という構造になっていることです。義務は絶対的なものではありません。正当な理由の例としては、裁判の証人として証言を求められた場合、税務署などの官公署から法令にもとづく照会を受けた場合、取引の相手方に真実を告げなければ相手方に不測の損害を与える場合、そして本人の承諾がある場合が挙げられます。「いかなる場合も漏らしてはならない」という記述は誤りです。

    第三に、従業者にも別に守秘義務があることです。75条の3は、宅地建物取引業者の使用人その他の従業者は、正当な理由がある場合でなければ、宅地建物取引業の業務を補助したことについて知り得た秘密を他に漏らしてはならないとし、従業者でなくなった後も同様であると定めています。業者を辞めた後も義務が続くという構造は、45条と同じです。

    45条と75条の3は、名宛人が違うだけでなく、対象になる秘密の入口も書き分けられています。45条は「その業務上取り扱つたことについて知り得た秘密」、75条の3は「宅地建物取引業の業務を補助したことについて知り得た秘密」。業務そのものを行う立場と、業務を補助する立場という違いが、文言に反映されています。

    供託所等の説明(35条の2)

    35条の2は、宅地建物取引業者は、宅地建物取引業者の相手方等(宅地建物取引業者に該当する者を除く)に対して、契約が成立するまでの間に、営業保証金を供託した主たる事務所の最寄りの供託所およびその所在地について説明をするようにしなければならない、というものです。保証協会の社員である場合は、社員である旨、協会の名称・住所・事務所の所在地、および64条の7第2項の供託所とその所在地を説明します。

    この説明について押さえるべきは3点です。第一に、義務を負うのは業者であり、宅建士による説明は求められていません。第二に、書面の交付も要求されていません。35条の重要事項説明が宅建士による説明と書面の交付を求めるのと対照的です。第三に、条文のかっこ書きにより、相手方が宅地建物取引業者である場合はそもそも対象から外れています。内容の詳細は供託所等に関する説明義務を参照してください。

    なお、説明の土台になる営業保証金の供託(25条)も、保証協会への加入と弁済業務保証金分担金の納付(64条の9)も、名宛人は宅地建物取引業者です。宅建士がこれらに関与する場面はありません。制度そのものは営業保証金と保証協会の仕組みで扱っています。

    業者でない者を名宛人とする規定

    先に見た12条は、無免許の者を名宛人とする規定でした。同条2項は、免許を受けない者が宅建業を営む旨の表示をし、または営む目的をもって広告をすることまで禁じています。営業行為そのものだけでなく、営業していると見せる行為も1項とは別に押さえているわけです。

    13条は逆に業者を名宛人としていて、1項が自己の名義をもって他人に宅建業を営ませることを、2項が自己の名義で他人に表示や広告をさせることを禁じています。12条と13条は項の構成まで対応していて、無免許営業を「する側」を12条が、「させる側」を13条が押さえる構造です。罰則も対応しており、79条2号が12条1項違反を、同条3号が13条1項違反を、いずれも3年以下の拘禁刑もしくは300万円以下の罰金またはその併科としています。表示・広告にとどまる12条2項と13条2項は、82条2号の100万円以下の罰金です。どこからが宅建業に当たるのかという判定は宅建業の「業」に当たるケースで扱っています。

    また78条1項は「この法律の規定は、国及び地方公共団体には、適用しない」と定めています。名宛人の外側を法律自身が明示している例で、国や地方公共団体が売主になる取引に宅建業法の義務が及ばないのはこの規定によります。

    使役の構文——「宅建士をして……させなければならない」

    ここが最も混乱しやすい領域です。義務の名宛人と、行為の実行者が分かれる場面があるからです。宅建業法はこれを「宅地建物取引士をして……させなければならない」という使役の構文で書き分けています。

    重要事項の説明(35条1項)

    35条1項の主語は宅地建物取引業者です。業者が、宅建士をして、重要事項を記載した書面を交付して説明をさせなければならない、という構造になっています。

    つまり、義務を負っているのは業者であり、宅建士は業者がその義務を履行するための実行者として指名されています。「重要事項の説明義務は宅建士にある」という言い方は、正確ではありません。義務は業者にあり、説明という行為を宅建士が行うのです。宅建士でない従業者に説明をさせた場合、35条1項に違反したのは業者です。

    同じ使役の構文は35条2項(割賦販売の場合の追加事項)と3項(信託受益権の売主となる場合)にも置かれています。記載事項そのものは35条書面の記載事項一覧と35条書面の覚え方にまとめてあるので、そちらで確認してください。

    記名は35条5項と35条7項で名宛人が違う

    書面への記名については、条文が2つに分かれていて、名宛人が違います。ここは条文を並べないと気づけません。

    35条5項は「第一項から第三項までの書面の交付に当たつては、宅地建物取引士は、当該書面に記名しなければならない」。主語は宅地建物取引士です。宅建士自身が名宛人になっています。

    35条7項は「宅地建物取引業者は、前項の規定により読み替えて適用する第一項又は第二項の規定により交付すべき書面を作成したときは、宅地建物取引士をして、当該書面に記名させなければならない」。こちらは業者間取引の場合の規定で、主語は宅地建物取引業者、構文は使役です。

    同じ「記名」という行為について、通常の取引では宅建士自身が名宛人、業者間取引では業者が名宛人。条文が分かれている理由は次の節で説明しますが、宅建業法が名宛人をどれだけ意識して書き分けているかを示す好例です。

    37条書面の記名は業者が名宛人

    37条1項・2項の主語も宅地建物取引業者です。契約が成立したときに、契約の各当事者に書面を交付する義務は業者が負います。

    そして37条3項は「宅地建物取引業者は、前二項の規定により交付すべき書面を作成したときは、宅地建物取引士をして、当該書面に記名させなければならない」と定めています。使役の構文であり、名宛人は業者です。

    つまり、35条5項の記名だけが宅建士自身を名宛人としていて、37条3項の記名は業者を名宛人としている。「37条書面に記名する義務は宅建士が負う」という言い方は、実行者と名宛人を混同しています。記名という行為を行うのは宅建士ですが、義務を負っているのは業者です。記載事項は37条書面の記載事項、2つの書面の横断整理は35条書面と37条書面の違いを参照してください。

    媒介契約書は業者が記名押印する

    34条の2第1項は、宅地建物取引業者が売買または交換の媒介契約を締結したときに、遅滞なく所定の事項を記載した書面を作成して記名押印し、依頼者に交付することを求めています。ここで記名押印するのは業者です。宅建士ではありません。

    しかも文言は「記名押印」です。35条書面と37条書面が「記名」だけになったのに対し、34条の2の書面は押印の要求が残っています。宅建士の押印が不要になったという改正の記憶で34条の2まで押印不要にしてしまうと誤ります。媒介契約書の記載事項とレインズ登録義務は媒介契約書の記載事項、3類型の違いは媒介契約の3類型で扱っています。

    3つの書面を名宛人で並べる

    交付義務の名宛人は3つとも業者。宅建士自身が名宛人になるのは35条5項の記名と35条4項の提示だけ。37条書面の記名と、業者間取引での35条書面の記名は、業者が名宛人で宅建士が実行者。媒介契約書は記名押印まで含めて業者が行う。この4段階を条文の主語で仕分けておけば、どの選択肢が来ても対応できます。

    広告と報酬も業者が名宛人

    32条の誇大広告等の禁止、33条の広告開始時期の制限、34条の取引態様の明示は、いずれも主語が宅地建物取引業者です。宅建士の義務ではありません。広告規制の詳細は広告に関する規制、取引態様については取引態様の明示義務、おとり広告や二重価格表示といった具体的な禁止行為はおとり広告と二重価格表示、広告に書くべき表示の基準は不動産広告の表示基準を参照してください。

    46条2項の報酬の上限を超える受領の禁止も、業者の義務です。宅建士個人が依頼者から報酬を受け取る関係ではありません。報酬額そのものの枠組みは報酬額の制限にあります。

    相手方が宅建業者だと義務の形が変わる

    名宛人の話には、もうひとつの軸があります。義務を負う側ではなく、義務が向けられる相手方が誰かによって、義務の形が変わる場面があるのです。

    35条6項の読替えで何が消えるか

    35条6項は、宅地建物取引業者の相手方等が宅地建物取引業者である場合について、読替えの表を置いています。1項の「宅地建物取引士をして、少なくとも次に掲げる事項について、これらの事項を記載した書面を交付して説明をさせなければ」という部分が、「少なくとも次に掲げる事項を記載した書面を交付しなければ」に読み替えられます。割賦販売についての2項も同様です。

    そして同項は「前二項の規定は、適用しない」と続けます。前二項とは4項と5項、つまり宅建士証の提示義務と、宅建士自身を名宛人とする記名義務です。

    したがって業者間取引では、説明そのものが不要になり、宅建士証の提示も不要になります。ただし書面の交付は必要です。ここで記名が丸ごと不要になるかというと、そうではありません。前節で見たとおり、35条7項が別に「宅地建物取引業者は……宅地建物取引士をして、当該書面に記名させなければならない」と定めているからです。

    整理すると、業者間取引で消えるのは「説明」と「宅建士証の提示」の2つ。残るのは「書面の交付」と「宅建士の記名」の2つ。そして記名については、名宛人が宅建士自身から業者に移る。ここまで書けて、はじめて35条6項を読んだことになります。

    35条3項の説明は相手方が業者でも外れない

    35条6項には、条文の並びを見ないと気づけない射程の限界があります。読替えの表の第一欄に挙がっているのは、「宅地建物取引業者の相手方等」と「第二項に規定する宅地又は建物の割賦販売の相手方」の2つだけです。3項の売買の相手方は挙がっていません。

    35条3項は、宅地または建物に係る信託の受益権の売主となる場合の説明義務です。この売買の目的物は信託の受益権であって、宅地や建物そのものではありません。したがってその買主は、1項がかっこ書きで定義した「宅地建物取引業者の相手方等」にあたりません。表の第一欄に該当する者がいない以上、6項の読替えも、4項・5項を不適用とする効果も、3項には及びません。信託受益権の買主が宅地建物取引業者であっても、宅建士による説明も、宅建士証の提示も、宅建士の記名も、そのまま必要だということです。

    では3項の義務はどういうときに外れるのか。3項ただし書が「その売買の相手方の利益の保護のため支障を生ずることがない場合として国土交通省令で定める場合は、この限りでない」と定め、施行規則16条の4の4第1項が3つの場合を挙げています。第一が、金融商品取引法2条31項に規定する特定投資家等を売買の相手方とする場合。第二が、契約の締結前1年以内に相手方に対し同一の内容の契約について書面を交付して説明をしている場合。第三が、相手方に対し金融商品取引法2条10項の目論見書(書面を交付して説明すべき事項のすべてが記載されているものに限る)を交付している場合です。基準になっているのは、相手方が宅建業者かどうかではなく、投資家としての属性か、すでに説明が済んでいるかです。

    「相手方が業者なら35条の説明は要らない」と一般化すると、この3項で外れます。義務が外れる根拠は6項という条文の位置にあり、6項が届く範囲は表の第一欄が決めている。名宛人だけでなく、適用除外の射程も条文の書き方で決まる、という一例です。

    電磁的方法による提供も名宛人で分かれる

    35条8項と9項は、書面の交付に代えて電磁的方法で提供する場合の規定ですが、これも名宛人が分かれています。8項は通常の取引についての規定で、業者が相手方等の承諾を得て「宅地建物取引士に……提供させる」という使役の構文です。9項は業者間取引についての規定で、業者が相手方である業者の承諾を得て「提供することができる」と、業者自身の行為として書かれています。

    説明が不要な業者間取引では宅建士を介在させる必要がないので、提供の主体も業者になる。名宛人の設計が一貫していることが分かります。電磁的方法の要件やIT重説の実施方法はIT重説と書面電子化で扱っています。

    8種制限も相手方の属性で適用が変わる

    78条2項は、33条の2および37条の2から43条までの規定は、宅地建物取引業者相互間の取引については適用しないと定めています。いわゆる8種制限が業者間で外れる根拠条文です。

    これも義務の名宛人ではなく、相手方の属性によって適用の有無が変わる例です。名宛人はいずれも自ら売主となる宅地建物取引業者ですが、買主も業者であれば規制自体が働かない。射程の詳細は8種制限が適用されない場合、8つの制限の中身は8種制限とはにまとめてあります。

    相手方が業者でも外れないもの

    一方で、相手方が業者であっても外れない義務があります。37条書面の交付は業者間でも必要です。35条書面の交付も、上で見たとおり必要です。従業者証明書の携帯も、標識の掲示も、帳簿への記載も、相手方の属性とは無関係に業者に課されます。

    「業者間だから宅建業法の規制は一切かからない」という理解は誤りです。外れるのは78条2項が列挙した8種制限、35条6項が外した説明と提示、そして35条の2のかっこ書きが外した供託所等の説明。この3つを条文の位置とセットで覚えておけば足ります。

    従業者という第三の主体

    宅建業法の名宛人は業者と宅建士の2つだけではありません。従業者を名宛人とする規定が別にあります。

    携帯させる義務と提示する義務(48条1項・2項)

    48条1項は、宅地建物取引業者は国土交通省令の定めるところにより、従業者に、その従業者であることを証する証明書を携帯させなければ、その者をその業務に従事させてはならないと定めています。名宛人は業者で、しかも文の形が「携帯させなければ従事させてはならない」という禁止形になっています。単に携帯させる義務があるというより、携帯させていない者を業務に従事させること自体が禁止されている、という書き方です。

    48条2項は「従業者は、取引の関係者の請求があつたときは、前項の証明書を提示しなければならない」と定めています。こちらの名宛人は従業者本人です。1項と2項で名宛人が入れ替わっている。携帯させるのは業者、提示するのは従業者です。

    ここで重要なのは、対象が従業者全員だという点です。宅建士であるかどうかを問いません。そして、宅建士証を提示することで従業者証明書の提示に代えることはできません。別の制度だからです。逆に、従業者証明書を提示しても、重要事項説明の場面で35条4項が求める宅建士証の提示を果たしたことにはなりません。証明書の様式は施行規則17条が別記様式第八号と定めており、宅建士証とは書式からして別のものです。

    47条と47条の2で名宛人の範囲が違う

    業務上の禁止行為についても、名宛人の広さが条文によって違います。ここは条文を突き合わせないと気づけない差です。

    47条は「宅地建物取引業者は、その業務に関して、宅地建物取引業者の相手方等に対し、次に掲げる行為をしてはならない」で始まります。名宛人は業者だけです。禁じられるのは、重要な事項について故意に事実を告げず、または不実のことを告げる行為(1号)、不当に高額の報酬を要求する行為(2号)、手付について貸付けその他信用の供与をすることにより契約の締結を誘引する行為(3号)です。

    47条の2は違います。「宅地建物取引業者又はその代理人、使用人その他の従業者(以下この条において「宅地建物取引業者等」という。)は」で始まり、以後の3項すべてがこの「宅地建物取引業者等」を名宛人としています。断定的判断の提供(1項)、威迫(2項)、国土交通省令・内閣府令で定める行為(3項)は、従業者個人にも直接向けられた禁止です。

    つまり、断定的判断を提供した営業担当者は、47条の2に自分自身が違反しています。47条の名宛人は業者だけですが、47条の2の名宛人は従業者まで広がっている。この差は、選択肢の主語を「宅地建物取引業者の従業者は」に変えたときの正誤を分けます。禁止行為の中身そのものは宅建業法47条の禁止行為で扱っています。

    両罰規定が名宛人のずれを埋める

    47条の名宛人が業者だけなら、実際に不実告知をした従業者は刑事責任を負わないのか。ここを埋めているのが84条の両罰規定です。

    84条は、法人の代表者または法人もしくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人または人の業務に関し、列挙された規定の違反行為をしたときは、その行為者を罰するほか、その法人に対して各号に定める罰金刑を、その人に対して各本条の罰金刑を科すると定めています。1号が「第七十九条又は第七十九条の二」で法人に1億円以下の罰金刑、2号が「第八十条又は第八十一条から第八十三条まで(同条第一項第三号を除く。)」で各本条の罰金刑です。

    構造としては、義務の名宛人は業者だが、実際に行為した自然人が「行為者」として罰せられ、それに加えて法人にも罰金が科される、という二段構えになります。義務の名宛人と処罰される者は一致しない。ここは名宛人の議論でもっとも誤解されやすいところです。

    守秘義務違反だけが両罰の外にある

    84条2号のかっこ書きは「同条第一項第三号を除く」となっています。83条1項3号は、45条または75条の3の規定に違反した者を50万円以下の罰金に処するという規定、つまり守秘義務違反です。これだけが両罰規定の対象から外れています。

    加えて83条2項は「前項第三号の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない」と定めています。守秘義務違反は親告罪だということです。秘密を漏らされた本人の意思を無視して刑事手続が進むと、かえって秘密が広がるからだと理解できます。

    守秘義務は、45条が業者を、75条の3が従業者を名宛人とし、罰則は83条1項3号が両方をまとめて受け、しかも親告罪で、両罰規定の適用外。名宛人・罰則・訴訟条件の3つがきれいに整理された、宅建業法の中でも珍しい構造をしています。罰則の体系全体は宅建業法の罰則一覧で確認できます。

    事務所に備える義務と掲げる義務

    事務所をめぐる義務は、すべて宅地建物取引業者に課されるものです。宅建士個人の義務ではありません。ここでは名宛人の観点から要点だけを押さえます。

    名簿と帳簿では、名宛人が置かれている項の数が違う

    48条3項が従業者名簿を備えて記載する義務を、同条4項が取引の関係者から請求があったときに閲覧に供する義務を定めています。どちらも主語は宅地建物取引業者です。備える義務と見せる義務が、2つの項に分けて業者に課されている。

    49条の帳簿はそうなっていません。備えて記載する義務を定めた1項があるだけで、閲覧に供する義務にあたる項がありません。帳簿には取引の相手方の氏名・住所や報酬の額まで記載されるので(施行規則18条1項)、第三者に見せる制度になっていないからです。「帳簿を取引の関係者の閲覧に供しなければならない」という記述が誤りになるのは、48条4項に相当する条文が49条に存在しないからだ、という位置の話として押さえてください。記載事項・様式・保存期間の細目は従業者名簿と帳簿にまとめてあります。

    名宛人の観点からもうひとつ確認しておきたいのは、48条が1項から4項まで一つの条の中で名宛人を切り替えていることです。1項が業者(携帯させる)、2項が従業者(提示する)、3項が業者(備えて記載する)、4項が業者(閲覧に供する)。従業者を名宛人とする項が、業者を名宛人とする項に挟まれています。条番号ではなく項番号まで見ないと名宛人が分からない条文の代表例で、「48条の義務はすべて業者が負う」という覚え方では2項で外れます。

    標識・案内所等の届出・報酬額の掲示

    50条1項は、宅地建物取引業者は事務所等および事務所等以外の国土交通省令で定めるその業務を行う場所ごとに、公衆の見やすい場所に、国土交通省令で定める標識を掲げなければならないと定めています。掲げる場所は事務所に限られません。

    50条2項は、宅地建物取引業者は国土交通省令の定めるところにより、あらかじめ、31条の3第1項の国土交通省令で定める場所について、所在地、業務内容、業務を行う期間および専任の宅地建物取引士の氏名を、免許を受けた国土交通大臣または都道府県知事、およびその所在地を管轄する都道府県知事に届け出なければならないと定めています。

    条文の文言は「あらかじめ」です。よく知られた「業務を開始する日の10日前まで」という期限は、法律ではなく施行規則19条3項が定めています。届出先が2か所である点は法律に書かれていますから、法律に書いてあること(届出先と届出事項)と省令に落ちていること(期限と様式)を分けて記憶しておくと、条文の位置を問う出題に強くなります。届出が必要な場所の切り分けと標識の様式は案内所等の届出と標識で詳しく扱っています。

    46条4項は、宅地建物取引業者はその事務所ごとに、公衆の見やすい場所に、国土交通大臣が定めた報酬の額を掲示しなければならないと定めています。掲示が必要なのは事務所だけです。標識が案内所にも必要なのに対し、報酬額の掲示は事務所に限られる。「案内所にも報酬額を掲示しなければならない」という記述は誤りです。事務所という単位が何を決めるのかは宅建業の事務所にまとめてあります。

    手続上の義務を主体で対比する

    免許と登録は別の制度なので、変更があったときの手続も別々に定められています。期限の書き方が違うため、対比しておくと得点になります。

    業者側の届出

    宅地建物取引業者は、4条1項1号から5号までに掲げる事項について変更があったときは、30日以内に、免許権者へ変更の届出をしなければなりません(9条)。対象になるのは、商号または名称、法人の役員および政令で定める使用人の氏名、個人業者本人および政令で定める使用人の氏名、事務所の名称および所在地、事務所ごとに置かれる専任の宅地建物取引士の氏名です。

    ここで見落とされやすいのが、4条1項6号が届出の対象から外れていることです。6号は「他に事業を行つているときは、その事業の種類」。兼業の内容が変わっても変更の届出は不要だ、ということになります。名簿の登載事項と届出の対象がずれている点は宅建業者名簿と変更の届出で詳しく扱っています。

    廃業等の届出も30日以内です(11条)。届出義務者が事由ごとに違い、死亡なら相続人、合併消滅ならその法人を代表する役員であった者、破産手続開始の決定なら破産管財人、その他の解散なら清算人、廃止なら業者であった個人または法人を代表する役員です。死亡の場合だけは起算点が異なり、その事実を知った日から30日以内とされています。

    事務所の設置状況が変わって免許の種類が変わる場合は免許換えとなります(7条)。免許制度と登録制度を横に並べた整理は宅建業の免許制度を横断整理にあります。

    登録側は主語が違うので、条文の書き方も揃っていない

    登録の系統の主語が「宅地建物取引士は」ではなく「第十八条第一項の登録を受けている者は」であることは、すでに見たとおりです。要件・登載事項・移転の可否といった手続の中身は宅建士の登録と宅建士証にまとめてあるので、ここでは業者側の9条・11条と並べたときに見える書き方の差だけを取り出します。

    第一に、行為の名前が違います。9条(業者の変更の届出)、11条(廃業等の届出)、21条(登録者の死亡等の届出)はいずれも「届け出なければならない」ですが、20条だけは「変更の登録を申請しなければならない」です。届け出れば足りるのではなく、知事に登録という行為を求める申請だということです。同じ「変更があったとき」の手続でも、免許の系統は届出、登録の系統は申請。ここを入れ替えた選択肢が作れます。

    第二に、宛先の書き方が違います。9条は「その免許を受けた国土交通大臣又は都道府県知事に提出しなければならない」、11条も「その免許を受けた国土交通大臣又は都道府県知事に届け出なければならない」、21条は「当該登録をしている都道府県知事に届け出なければならない」と、いずれも条文本体が宛先を書いています。ところが20条には宛先の記載がありません。条文は「遅滞なく、変更の登録を申請しなければならない」で終わっています。宛先が書かれていない以上、条文だけを根拠に「変更の登録は勤務先の所在地を管轄する知事に申請する」と言うことはできません。

    期限の書き方が違う

    第三が、最も問われる期限です。業者の変更の届出は「30日以内」(9条)、登録の変更は「遅滞なく」(20条)。数字が定められているのは業者側だけです。「宅地建物取引士は、変更があったときは30日以内に変更の登録を申請しなければならない」という記述は、条文にない数字を持ち込んだ誤りになります。

    一方、死亡等の届出は業者側の11条も登録者側の21条も30日以内で揃っていて、起算点が「その事実を知つた日」になるのが死亡の場合だけである点まで共通しています。同じ2つの条を並べても、変更の場面では期限の書き方がずれ、死亡等の場面では揃う。制度をまたいで一律に覚えられないので、条文ごとに確認してください。宅建業法の数字を横断的に確認したい場合は宅建業法の数字まとめを使ってください。

    なお、期限の語が「遅滞なく」なのは登録の変更だけではありません。37条1項の書面交付も「遅滞なく」、34条の2第1項の媒介契約書の作成・交付も「遅滞なく」です。名宛人が業者であっても、期限が日数で書かれているとは限らない。日数が置かれているのは、9条・11条・21条の30日、31条の3第3項の2週間、34条の2第9項の報告頻度といった、行政や依頼者が期日を管理する必要のある場面に限られます。

    専任の宅建士という交差点

    名宛人を考えるうえで、専任の宅建士は交差点にあたる論点です。

    設置する義務を負うのは業者です。31条の3第1項が、宅地建物取引業者は事務所その他国土交通省令で定める場所(事務所等)ごとに、事務所等の規模、業務内容等を考慮して国土交通省令で定める数の成年者である専任の宅建士を置かなければならないと定めています。省令で定める数は、事務所については、その事務所において業務に従事する者の数に対する専任の宅建士の数の割合が5分の1以上となる数、案内所等については1以上です(施行規則15条の5の3)。

    不足したときに是正する義務も業者にあります。31条の3第3項が、業者は1項の規定に抵触する事務所等を開設してはならず、既存の事務所等が同項の規定に抵触するに至ったときは2週間以内に必要な措置を執らなければならないと定めています。「宅建士が2週間以内に補充されなければならない」という言い方は主体がずれており、義務を負うのは業者です。

    業者と宅建士が同一人になる場面

    31条の3第2項は、名宛人の重なりを正面から扱った規定です。宅地建物取引業者(法人の場合はその役員)が宅地建物取引士であるときは、その者が自ら主として業務に従事する事務所等については、その者はその事務所等に置かれる成年者である専任の宅建士とみなされます。

    このとき、ひとりの人間が業者としての義務と宅建士としての義務を同時に負います。事務所に標識を掲げるのは業者としての義務、重要事項の説明で宅建士証を提示するのは宅建士としての義務。名宛人が同一人格に重なっても、義務の系統は分かれたままです。監督処分も、免許に対するものと登録に対するものが別々に動きます。誰を専任にできるかという要件は専任の宅建士の設置義務で詳しく扱っています。

    名義の問題は両方の系統で違反になる

    実際には勤務していないのに専任として届け出るいわゆる名義貸しは、業者にとっては31条の3の設置義務違反であり、届出の内容が虚偽であれば83条1項1号の虚偽の届出にも当たります。

    宅建士の側については、68条1項が事由を列挙しています。1号は、宅建業者に、自己が専任の宅建士として従事している事務所以外の事務所の専任の宅建士である旨の表示をすることを許し、当該業者がその旨の表示をしたとき。2号は、他人に自己の名義の使用を許し、当該他人がその名義を使用して宅建士である旨の表示をしたとき。3号は、宅建士として行う事務に関し不正または著しく不当な行為をしたときです。

    1号と2号がいずれも「表示をすることを許し」「名義の使用を許し」という形で、許した宅建士自身を名宛人としている点に注目してください。名義を使った側だけでなく、使わせた側も処分される。ひとつの事象が、業者の側と宅建士の側の両方で違反を構成する典型例です。

    違反したときに誰が処分されるか

    義務の名宛人が分かれているのと同じく、監督処分も業者に対するものと宅建士に対するもので系統が分かれています。

    業者に対する処分

    宅地建物取引業者に対する監督処分は3段階です。65条が指示処分と業務停止処分を、66条と67条が免許取消処分を定めています。業務停止は1年以内の期間を定めて行われます。

    処分権者に違いがあります。65条1項・2項が免許権者による指示と業務停止、同条3項・4項が、国土交通大臣または他の都道府県知事の免許を受けた業者で当該都道府県の区域内において業務を行うものについて、その区域内における業務に関して知事が行う指示と業務停止です。これに対し、66条の免許取消処分は免許権者だけが行えます。

    なお65条2項2号は、業務停止の対象になる違反条文を具体的に列挙しています。この列挙に何が入っていて何が入っていないかは、それ自体が出題の素材になります。監督処分の要件と手続は監督処分の種類と手続で扱っています。

    宅建士に対する処分

    宅地建物取引士に対する監督処分も3段階です。68条が指示処分と事務禁止処分を、68条の2が登録消除処分を定めています。事務禁止も1年以内の期間を定めて行われます。

    処分権者の構造は業者側と同じです。68条1項・2項が登録をしている知事による指示と事務禁止、同条3項・4項が、当該都道府県の区域内において、他の都道府県知事の登録を受けている宅建士が1項各号のいずれかに該当する場合の指示と事務禁止です。登録消除処分は、登録をしている知事だけが行えます。

    対応関係で覚える

    業者の業務停止に対応するのが宅建士の事務禁止、業者の免許取消に対応するのが宅建士の登録消除です。名称を入れ替えた選択肢が出るので、「業者は免許を失い、宅建士は登録を消される」という形で対応づけておいてください。

    そして、最も重い処分だけが本来の権者に限られるという構造も共通しています。免許取消は免許権者のみ、登録消除は登録知事のみ。中間までの処分は現地の知事も行えるが、資格そのものを奪う処分は本来の権者に限る、という設計です。

    報告徴収と立入検査でも名宛人が違う

    72条は監督のための調査権限を定めていますが、ここでも業者と宅建士で扱いが違います。

    72条1項は、国土交通大臣は宅地建物取引業を営むすべての者に対して、都道府県知事は当該都道府県の区域内で宅建業を営む者に対して、必要な報告を求め、または職員に事務所その他その業務を行う場所に立ち入り、帳簿、書類その他業務に関係のある物件を検査させることができると定めています。報告と立入検査の両方です。

    72条3項は、国土交通大臣はすべての宅地建物取引士に対して、都道府県知事はその登録を受けている宅建士および当該都道府県の区域内でその事務を行う宅建士に対して、その事務について必要な報告を求めることができると定めています。こちらは報告だけで、立入検査はありません。宅建士は事務所を構える主体ではないので、立ち入る対象がないからです。

    そして83条1項5号は、72条1項から3項までの規定による報告をせず、または虚偽の報告をした者を50万円以下の罰金に処すると定めています。3項が含まれているので、報告を求められた宅建士が応じなければ、宅建士個人が罰金の対象になります。「宅建士に科されるのは10万円以下の過料だけだ」という理解は、この点で不正確です。

    一つの事象で両方が処分されうる

    宅建士でない者に重要事項の説明をさせた場合、35条1項に違反した業者が処分の対象になります。65条2項2号の列挙には35条1項から3項までが含まれているので、業務停止の対象にもなりえます。

    これとは別に、その場に関与した宅建士が名義だけを貸していたような場合には、その宅建士も68条1項各号にもとづく処分を受けうる立場に立ちます。さらに、宅建士が処分を受けた場合において業者の責めに帰すべき理由があるときは、65条1項4号により業者にも指示処分ができます。

    義務の名宛人が業者だから宅建士は処分されない、という関係にはありません。それぞれが自分の系統の規範に照らして判断され、しかも65条1項4号のように系統をまたぐ回路まで用意されています。

    令和8年度に向けた確認事項

    宅地建物取引業法そのものは、令和7年法律第68号による改正が2026年4月1日に施行されていますが、本則1条から86条まで、および別表に実体的な差分はありません。附則が付加されただけです。したがって、この記事で扱った名宛人の構造は、令和8年度の出題範囲でもそのまま通用します。

    一方、宅地建物取引業法施行規則には実体的な改正が入りました。令和7年内閣府令・国土交通省令第2号により、16条の2に第9号が新設され、区分所有建物の重要事項説明事項が9項目から10項目に増えています。新設された9号は、一棟の建物およびその敷地の管理者等が管理組合から委託を受けて管理事務を行うマンション管理業者である場合にその旨を説明するもの、いわゆる第三者管理方式の開示です。従来の9号だった維持修繕の実施状況の記録は10号に繰り下がりました。号数で覚えていた人はずれるので、区分所有建物の重要事項説明で確認しておいてください。

    この改正は説明事項の追加であって、名宛人の構造を変えるものではありません。説明義務を負うのは業者、説明を行うのは宅建士、という二層構造は動いていません。令和8年度に影響する法改正の全体像は令和8年度の法改正まとめにまとめてあります。

    試験での出題ポイント

    主語を入れ替える

    最も基本的な型です。「宅地建物取引士は、重要事項を記載した書面を交付しなければならない」「宅地建物取引業者は、35条書面に記名しなければならない」といった形で、条文の主語をすり替えます。条文の主語を思い出せるかどうかで決まるので、義務を覚えるときは必ず主語とセットにしてください。

    判断を速くする方法があります。宅建士が名宛人の規定は本則に8か所しかないので、そのリストにない義務を宅建士に負わせている選択肢は、その時点で誤りだと決められます。リストは15条、15条の2、15条の3、22条の2第6項、同7項、22条の4、35条4項、35条5項です。

    使役の構文かどうかを見る

    「宅地建物取引士をして……させなければならない」と書かれていれば、名宛人は業者です。35条1項から3項まで、35条7項、37条3項がこの形をとります。これに対し35条4項と5項は宅建士自身が名宛人です。選択肢が「業者は宅建士をして記名させなければならない」としているとき、それが35条書面の話なのか37条書面の話なのか、業者間取引の話なのかで正誤が変わります。

    提示義務の場面と罰則

    35条4項は請求がなくても提示、22条の4は請求があったとき。そして過料があるのは前者だけです。この2点を入れ替えた選択肢が出ます。加えて、業者間取引では35条6項により4項の適用がないので提示も不要になる、という三段目まで問われることがあります。

    携帯するのはどちらか

    携帯義務があるのは従業者証明書であって宅建士証ではありません。逆に、重要事項説明で提示するのは宅建士証であって従業者証明書ではありません。2つの証明書を入れ替える出題は定番です。48条1項の名宛人が業者、2項の名宛人が従業者という点も、あわせて狙われます。

    48条は項ごとに名宛人が変わる

    1項が業者、2項が従業者、3項と4項が業者。ひとつの条の中で名宛人が入れ替わっているので、「48条の義務」とまとめて覚えると2項で外れます。閲覧に供する義務が48条4項にしかなく49条に対応する項がないという条文の位置も、あわせて狙われます。

    標識と届出と報酬額の掲示

    標識はすべての業務を行う場所に必要。案内所等の届出は免許権者と所在地の知事の2か所へ、業務開始の10日前までに。報酬額の掲示は事務所のみ。3つで必要な場所が違うので、そこを入れ替えた選択肢が出ます。届出の期限が法律ではなく施行規則19条3項に置かれている点も、条文の位置を問う形で使われます。

    守秘義務の範囲

    廃業後も義務が続くこと、正当な理由があれば漏らせること、従業者にも別に義務があること。「廃業後は義務がない」「いかなる場合も漏らしてはならない」はいずれも誤りです。罰則が親告罪であること、両罰規定の適用外であることまで問われることもあります。

    期限の書き方を入れ替える

    業者の変更の届出は30日以内、登録の変更は遅滞なく。数字が定められているのは業者側だけです。「宅地建物取引士は30日以内に変更の登録を申請しなければならない」という記述は、条文にない数字を持ち込んだ誤りになります。

    一方、死亡等の届出はどちらも30日以内で、死亡の場合の起算点が「その事実を知った日から」である点まで共通しています。揃っているところと揃っていないところが混在しているので、条文ごとに確認する必要があります。専任の宅建士が不足した場合の2週間、案内所等の届出の10日前、宅建士証の交付申請前6か月以内の法定講習といった数字と混ぜられることもあります。こうした語のすり替え方の類型は宅建の引っかけ表現パターンで整理しています。

    処分の名称と処分権者

    業務停止と事務禁止、免許取消と登録消除。そして免許取消は免許権者のみ、登録消除は登録知事のみ。名称と権者の両方で誤りが作られます。72条の報告徴収について、宅建士にも報告を求められること、ただし立入検査は業者だけであることも押さえておいてください。

    宅建業法20問をどこで取りにいくかという配分の話は宅建業法の頻出論点と宅建業法で18問以上取るにまとめてあります。

    覚え方・整理の仕方

    まず「宅建士は8か所」を暗記する

    義務を覚えるときは、内容よりも先に主語を覚えてください。そのうえで、宅建士が名宛人の規定は8か所しかない、という事実を記憶の軸にします。責務3つ(15条・15条の2・15条の3)、宅建士証3つ(返納・提出・請求時の提示)、35条2つ(説明時の提示・記名)。3・3・2の8つです。

    この8つに入っていない義務は、すべて業者かそれ以外の主体が名宛人です。事業の運営に関わるもの、事務所に関わるもの、書面の交付に関わるもの、金銭に関わるものは業者。これで選択肢の半分は処理できます。

    3か条は語尾で覚える

    15条は前段が義務で後段が努力義務、15条の2は禁止、15条の3は努力義務。この語尾の違いが選択肢に反映されます。内容だけでなく、義務なのか禁止なのか努力義務なのかまで含めて記憶してください。業者側の対応物として、31条1項が義務、31条の2が努力義務であることも一緒に覚えると、条ずれを防げます。

    証明書は「携帯と提示」で分ける

    従業者証明書は業者が携帯させる義務を負い、従業者が請求に応じて提示する。宅建士証は携帯義務がなく、重要事項説明では請求がなくても宅建士が提示し、それ以外は請求があれば提示する。「携帯は従業者証明書だけ、提示は両方あるが場面と名宛人が違う」と束ねておけば混ざりません。

    事務所に置くものを一列に

    事務所に関して業者が負う義務は、専任の宅建士を置く、従業者名簿を備える、帳簿を備える、標識を掲げる、報酬額を掲示する、の5つです。このうち標識だけが事務所以外の場所にも必要で、報酬額の掲示だけが事務所に限られます。5つを並べたうえで、この2つの例外を覚えるのが効率的です。

    業者間で外れるものを3つに絞る

    相手方が業者であることによって外れるのは、78条2項の8種制限、35条6項の説明と宅建士証の提示、35条の2のかっこ書きによる供託所等の説明。この3つだけです。書面の交付と記名は残ります。しかも35条6項が届くのは表の第一欄に挙がった1項と2項の相手方までで、3項の信託受益権の買主には及びません。「業者間なら何もしなくてよい」と広げないよう、外れるものを条文の位置で覚えてください。

    処分は縦2列で覚える

    業者側が指示、業務停止、免許取消。宅建士側が指示、事務禁止、登録消除。左右に並べて、同じ段が対応していることを覚えます。そして最下段だけが本来の権者に限られる、と付け加えれば足ります。系統をまたぐ回路として65条1項4号があることも、余裕があれば足しておいてください。

    理解度チェッククイズ

    Q1. 宅地建物取引士は、宅地建物取引士証を常に携帯していなければ、宅地建物取引業の業務に従事することができない。(○か×か)

    答えを見る×:宅建士証に携帯義務を定めた規定はありません。携帯が義務づけられているのは従業者証明書で、48条1項が、宅地建物取引業者は従業者に証明書を携帯させなければその者を業務に従事させてはならないと定めています。名宛人は業者であり、しかも「携帯させなければ従事させてはならない」という禁止の形をとっています。宅建士証については、重要事項の説明をするときに請求がなくても提示すること(35条4項)と、取引の関係者から請求があったときに提示すること(22条の4)が義務づけられているだけです。

    Q2. 宅地建物取引業者間の売買において、売主業者は35条書面を交付する必要があるが、その書面に宅地建物取引士が記名する必要はない。(○か×か)

    答えを見る×:35条6項は、相手方等が宅地建物取引業者である場合について読替えの表を置き、1項の「宅地建物取引士をして……交付して説明をさせなければ」を「交付しなければ」に読み替えたうえで、「前二項の規定は、適用しない」としています。前二項とは4項(宅建士証の提示)と5項(宅建士の記名)です。ここまでなら記名も不要に見えます。しかし35条7項が別に「宅地建物取引業者は、前項の規定により読み替えて適用する第一項又は第二項の規定により交付すべき書面を作成したときは、宅地建物取引士をして、当該書面に記名させなければならない」と定めているため、記名は必要です。業者間で消えるのは説明と宅建士証の提示の2つで、書面の交付と記名は残ります。ただし記名義務の名宛人は、5項の宅建士自身から7項の業者に移ります。

    Q3. 宅地建物取引業者が、宅地に係る信託の受益権の売主として、宅地建物取引業者である買主に当該受益権を売却する場合、買主が宅地建物取引業者であるから、宅地建物取引士による説明も宅地建物取引士証の提示も要しない。(○か×か)

    答えを見る×:35条6項の読替えの表は、第一欄に「宅地建物取引業者の相手方等」と「第二項に規定する宅地又は建物の割賦販売の相手方」の2つしか挙げていません。信託の受益権の売買は宅地や建物そのものの売買ではないので、その買主は1項がかっこ書きで定義した「宅地建物取引業者の相手方等」にあたらず、表の第一欄に該当する者がいません。したがって6項の読替えも、4項・5項を不適用とする効果も、3項の説明には及びません。3項の義務が外れるのは、3項ただし書を受けた施行規則16条の4の4第1項が定める3つの場合、すなわち金融商品取引法上の特定投資家等を相手方とする場合、締結前1年以内に同一の内容の契約について書面を交付して説明をしている場合、そして目論見書を交付している場合です。相手方が宅建業者かどうかは基準になっていません。

    Q4. 宅地建物取引士が事務の禁止の処分を受けたときは、速やかに宅地建物取引士証をその交付を受けた都道府県知事に返納しなければならない。(○か×か)

    答えを見る×:事務の禁止の処分を受けたときは「提出」です(22条の2第7項)。「返納」が必要になるのは、18条1項の登録が消除されたとき、または宅建士証が効力を失ったときです(同条6項)。事務禁止は一定期間だけ事務ができなくなるものなので、同条8項により、期間が満了して本人から返還の請求があれば知事は直ちに返還します。返す前提の預かりだから「提出」だと考えると取り違えません。返す相手はいずれも交付を受けた都道府県知事であり、免許権者ではありません。なお、返納も提出も、違反すれば10万円以下の過料の対象です(86条)。

    Q5. 宅地建物取引業者の従業者が、契約の締結について勧誘をするに際し、利益を生ずることが確実であると誤解させるべき断定的判断を提供した場合、宅建業法上その禁止に違反したのは業者であって、従業者自身は名宛人ではない。(○か×か)

    答えを見る×:47条の2第1項の名宛人は「宅地建物取引業者又はその代理人、使用人その他の従業者」であり、条文自身がこれを「宅地建物取引業者等」と定義したうえで、同条2項・3項もこの語を使っています。したがって断定的判断を提供した従業者は、自分自身が47条の2に違反しています。名宛人が業者だけなのは47条のほうで、こちらは故意の不告知・不実告知、不当に高額の報酬の要求、手付についての信用の供与を禁じています。もっとも47条についても、84条の両罰規定により、業務に関して違反行為をした代理人・使用人その他の従業者は「行為者」として罰せられ、加えて法人にも罰金刑が科されます。名宛人と処罰される者は一致しない、という点までセットで押さえてください。

    まとめ

    宅建業法の義務は、条文の主語を読めば名宛人が判別できます。そして名宛人は2種類ではありません。「宅地建物取引業者は」が本則に76か所、「宅地建物取引士は」が8か所、「第十八条第一項の登録を受けている者は」が3か所、「従業者は」が2か所。この分布を知っているだけで、主語をすり替えた選択肢は処理できます。

    宅建士が名宛人になるのは、15条の業務処理の原則、15条の2の信用失墜行為の禁止、15条の3の知識および能力の維持向上という3か条と、宅建士証の返納(22条の2第6項)・提出(同7項)・請求時の提示(22条の4)、そして重要事項説明時の提示(35条4項)と35条書面への記名(同5項)の8つだけです。業者が名宛人になるのは、31条の業務処理の原則、31条の2の従業者教育、45条の守秘義務、48条・49条の備付け、50条の標識と届出、46条4項の報酬額の掲示、35条・37条の書面交付といった事業運営上の義務です。

    混乱が生じるのは、使役の構文が使われる場面です。35条1項から3項までと37条3項、そして業者間取引についての35条7項は「宅地建物取引士をして……させなければならない」という形をとり、名宛人は業者、実行者は宅建士になります。この二層構造と、35条4項・5項だけが宅建士自身を名宛人としていることを押さえれば、あとは主語で機械的に処理できます。

    違反したときの処分も、業者は指示・業務停止・免許取消、宅建士は指示・事務禁止・登録消除と系統が分かれ、罰則の側では84条の両罰規定が義務の名宛人と処罰される者のずれを埋めています。名宛人を追うという読み方は、宅建業法のどの論点にも使える道具です。

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