宅建業者と宅建士の義務|主体で分ける整理
宅建業法の義務を「業者が負うのか宅建士が負うのか」で整理。15条から15条の3の3か条、宅建士証の提示と返納、事務所への備付けと掲示、違反時の処分まで条文根拠つきで解説します。
目次
この記事は、宅地建物取引業法が定める義務を「誰が負うのか」という主体の軸で整理するものです。試験で問われるのは義務の内容そのものよりも、その義務の名宛人が宅地建物取引業者なのか宅地建物取引士なのか、という点です。宅建業法という法律の全体像は宅建業法の全体像で扱うので、ここでは主体の切り分けに絞ります。
結論を先に述べます。宅地建物取引業者は事業主体として、宅地建物取引士は個人の資格者として、それぞれ別の義務を負っています。そして条文の主語を読めば、どちらの義務かは必ず判別できます。「宅地建物取引業者は」で始まる条文は業者の義務、「宅地建物取引士は」で始まる条文は宅建士の義務です。混乱が生じるのは、重要事項説明のように、業者が負う義務を宅建士が実行するという二層構造の場面です。ここだけを丁寧に押さえれば、あとは条文の主語で機械的に処理できます。
なぜ主体の区別が問われるのか
業者は事業主体、宅建士は資格者
宅地建物取引業法2条3号は、宅地建物取引業者を、免許を受けて宅地建物取引業を営む者と定義しています。同条4号は、宅地建物取引士を、宅地建物取引士証の交付を受けた者と定義しています。
前者は事業を営む主体であり、法人でも個人でもかまいません。後者は個人に限られます。免許は事業に対する許可であり、登録と宅建士証の交付は個人の資格に対するものです。したがって、両者に課される義務も性格が違います。業者には事業の適正な運営に関する義務が、宅建士には専門家としての行為規範が課されます。
義務の主体と、処分の相手が対応する
主体の区別が実務上も試験上も重要なのは、義務違反があったときに誰が処分されるかが、義務の主体によって決まるからです。業者の義務に違反すれば業者が監督処分を受け、宅建士の義務に違反すれば宅建士が監督処分を受けます。処分の種類も系統ごとに別に用意されています。
そしてひとつの行為が両方の違反になることもあります。宅建士でない者に重要事項の説明をさせた場合、説明させる義務に違反した業者が処分の対象になりますが、これに関与した宅建士がいれば、その宅建士も処分されうるという構造です。
条文の主語を読む習慣
判別の方法はひとつです。条文の主語を読むことです。「宅地建物取引業者は」で始まっていれば業者の義務、「宅地建物取引士は」で始まっていれば宅建士の義務。選択肢の主語と条文の主語がずれていれば、その時点で誤りだと判断できます。
以下では、この軸に沿って、宅建士の義務、宅建士証をめぐる義務、業者の一般的な義務、事務所に関する義務、取引の場面での義務の帰属、そして違反したときの処分を順に見ていきます。
宅建士が負う3か条
宅地建物取引業法15条から15条の3までが、宅建士の行為規範を定めています。3か条はいずれも「宅地建物取引士は」で始まりますが、性格がそれぞれ違います。
業務処理の原則(15条)
15条は、宅地建物取引士は宅地建物取引業の業務に従事するときは、宅地または建物の取引の専門家として、購入者等の利益の保護および円滑な宅地または建物の流通に資するよう、公正かつ誠実にこの法律に定める事務を行うとともに、宅地建物取引業に関連する業務に従事する者との連携に努めなければならないと定めています。
内容は2つに分かれます。前段が、専門家として公正かつ誠実に事務を行うこと。後段が、関連する業務に従事する者との連携に努めることです。後段でいう関連業務の従事者には、司法書士、土地家屋調査士、建築士、金融機関の担当者などが含まれます。不動産取引が多くの専門職の関与によって成り立つことを踏まえた規定です。
前段の「公正かつ誠実に」は義務の形で書かれ、後段の連携は「努めなければならない」という努力義務の形になっています。一つの条文の中で義務と努力義務が分かれている点が特徴です。
信用失墜行為の禁止(15条の2)
15条の2は、宅地建物取引士は宅地建物取引士の信用または品位を害するような行為をしてはならないと定めています。禁止規定です。
この規定で押さえるべきは、対象が業務中の行為に限られないという点です。宅建士としての職務に直接関係しない場面での行為であっても、宅建士全体の信用や品位を害するものであれば、この規定に触れる可能性があります。私的な場面の行為が一切対象外だ、という理解は誤りです。
なお、この規定は宅建士に向けられたものであり、業者の従業者一般に向けられたものではありません。宅建士資格を持たない従業者の行為は、この条文の対象外です。
知識および能力の維持向上(15条の3)
15条の3は、宅地建物取引士は宅地建物取引業を営む事務所において従事することとなる事務に必要な知識および能力の維持向上に努めなければならないと定めています。
こちらは全体が努力義務です。違反したからといって直ちに処分されるという性質のものではありません。ただし、5年ごとの宅建士証の更新にあたって法定講習の受講が求められているのは、この責務を制度として担保する仕組みだと理解できます。講習の内容と手続は宅建士の法定講習で扱っています。
3か条の性格を並べて覚える
15条が原則規定で、前段が義務、後段が努力義務。15条の2が禁止規定。15条の3が努力義務。この性格の違いは選択肢の作り方に反映されるので、条文の語尾まで含めて覚えておいてください。
これら3か条は、宅地建物取引主任者から宅地建物取引士へ名称が変更された際に整備されたもので、宅建士が単なる手続の担い手ではなく専門家として位置づけられていることを示しています。宅建士が実際に何をする資格なのかは宅建士の仕事内容にまとめてあります。
宅建士証をめぐる義務
宅建士証に関する義務は、提示と、返納・提出の2系統に分かれます。ここは数字ではなく場面で区別する必要があります。
提示は2つの場面がある
第一の場面が35条4項です。宅建士は重要事項の説明をするときは、説明の相手方に対し宅建士証を提示しなければなりません。ここでは相手方からの請求は不要です。自分から提示する義務があります。
第二の場面が22条の4です。宅建士は取引の関係者から請求があったときは、宅建士証を提示しなければなりません。こちらは請求があってはじめて義務が生じます。
両者は罰則の有無でも分かれます。86条は、22条の2第6項もしくは7項、35条4項または75条の規定に違反した者は10万円以下の過料に処すると定めており、35条4項の提示義務違反は過料の対象です。一方、22条の4はこの列挙に含まれておらず、過料の定めがありません。
「請求がなくても提示」と「過料あり」がセットになっているのが35条4項、「請求があったとき」と「過料なし」がセットになっているのが22条の4。この対応で覚えると、罰則の有無まで含めて答えられます。
宅建士証に携帯義務はない
宅建士証について、常に携帯していなければならないという規定はありません。携帯が義務づけられているのは、後述する従業者証明書のほうです(48条1項)。
「宅建士証を携帯していなければ業務に従事させてはならない」という記述は誤りになります。逆に「従業者証明書は請求があったときに提示すればよく、携帯までは不要」という記述も誤りです。どちらの証明書の話かを取り違えないでください。
返納と提出は別のもの
22条の2第6項は、宅建士証の交付を受けた者は、登録が消除されたとき、または宅建士証が効力を失ったときは、速やかに、宅建士証をその交付を受けた都道府県知事に返納しなければならないと定めています。
22条の2第7項は、宅建士証の交付を受けた者は、事務の禁止の処分を受けたときは、速やかに、宅建士証をその交付を受けた都道府県知事に提出しなければならないと定めています。
言葉が似ていますが、場面が違います。登録が消除された、あるいは有効期間が満了して効力を失ったという、宅建士証がもう役目を果たさなくなった場面が返納です。これに対し、事務禁止処分を受けたという、一定期間だけ事務ができなくなる場面が提出です。事務禁止の期間が満了して本人から返還の請求があれば、知事は直ちに宅建士証を返還します。
返す相手はいずれも交付を受けた都道府県知事です。登録の移転をしていれば移転後の知事になりますが、いずれにせよ「交付を受けた知事」であって、免許権者でも、勤務先の所在地の知事でもありません。
そして返納も提出も、86条により10万円以下の過料の対象です。登録と宅建士証をめぐる手続の全体像は宅建士登録の手続きで扱っています。
宅建業者が負う一般的な義務
業務処理の原則(31条)
31条1項は、宅地建物取引業者は取引の関係者に対し、信義を旨とし、誠実にその業務を行わなければならないと定めています。宅建士の15条に対応する、業者側の原則規定です。
31条2項は、宅地建物取引業者はその従業者に対し、その業務を適正に実施させるため必要な教育を行うよう努めなければならないと定めています。こちらは努力義務です。従業者の質を確保する責任が事業者にあることを示した規定で、専任の宅建士の設置義務とあわせて理解しておくとよいでしょう。設置義務の詳細は専任の宅建士にまとめてあります。
守秘義務(45条)
45条は、宅地建物取引業者は正当な理由がある場合でなければ、その業務上取り扱ったことについて知り得た秘密を他に漏らしてはならないとし、宅地建物取引業を営まなくなった後であっても同様であると定めています。
押さえるべき点が3つあります。
第一に、廃業後も義務が続くことです。免許が失効しても、在職中に知った秘密を漏らしてよいことにはなりません。「廃業すれば守秘義務は消滅する」という記述は誤りです。
第二に、正当な理由があれば漏らすことができる、という構造になっていることです。義務は絶対的なものではありません。正当な理由の例としては、裁判の証人として証言を求められた場合、税務署などの官公署から法令にもとづく照会を受けた場合、取引の相手方に真実を告げなければ相手方に不測の損害を与える場合、そして本人の承諾がある場合が挙げられます。「いかなる場合も漏らしてはならない」という記述は誤りです。
第三に、従業者にも別に守秘義務があることです。75条の3は、宅地建物取引業者の使用人その他の従業者は、正当な理由がある場合でなければ、宅地建物取引業の業務を補助したことについて知り得た秘密を他に漏らしてはならないとし、従業者でなくなった後も同様であると定めています。業者を辞めた後も義務が続くという構造は、45条と同じです。
業務に関する禁止事項(47条、47条の2)
47条は、宅地建物取引業者がその業務に関して相手方等に対して行ってはならない行為を列挙しています。重要な事項について故意に事実を告げず、または不実のことを告げる行為、不当に高額の報酬を要求する行為、手付について貸付けその他信用の供与をすることにより契約の締結を誘引する行為です。
47条の2は、断定的判断の提供、威迫による契約の締結の強要や解除の妨害、そして国土交通省令で定める行為を禁じています。
これらは業者に課された義務ですが、実際の違反行為は従業者によって行われることが多いため、罰則の設計も含めて整理が必要です。詳細は業務に関する禁止事項を参照してください。
供託と保証協会は業者の義務
営業保証金の供託(25条)も、保証協会への加入と弁済業務保証金分担金の納付(64条の9)も、宅地建物取引業者の義務です。宅建士がこれらに関与する場面はありません。
関連して、35条の2が定める供託所等の説明があります。宅地建物取引業者は、相手方等に対し、契約が成立するまでの間に、営業保証金を供託した主たる事務所の最寄りの供託所およびその所在地について説明をするようにしなければならない、というものです。保証協会の社員である場合は、社員である旨、協会の名称と住所、弁済業務保証金を供託した供託所とその所在地を説明します。
この説明について押さえるべきは3点です。第一に、義務を負うのは業者であり、宅建士による説明は求められていません。第二に、書面の交付も要求されていません。35条の重要事項説明が宅建士による説明と書面の交付を求めるのと対照的です。第三に、相手方が宅地建物取引業者である場合は説明が不要とされています。内容の詳細は供託所等の説明を参照してください。
手続上の義務を主体で対比する
免許と登録は別の制度なので、変更があったときの手続も別々に定められています。期限の書き方が違うため、対比しておくと得点になります。
業者側の届出
宅地建物取引業者は、免許申請書の記載事項に変更があったときは、30日以内に免許権者へ変更の届出をしなければなりません(9条)。商号や名称、事務所の名称と所在地、役員や政令で定める使用人の氏名、専任の宅建士の氏名などが対象です。
廃業等の届出も30日以内です(11条)。ただし死亡の場合だけは起算点が異なり、相続人が死亡の事実を知った日から30日以内とされています。
事務所の設置状況が変わって免許の種類が変わる場合は免許換えとなります(7条)。免許の全体像は宅建業の免許制度にまとめてあります。
宅建士側の届出
宅地建物取引士は、資格登録簿の登載事項に変更があったときは、遅滞なく変更の登録を申請しなければなりません(20条)。氏名、住所、本籍、勤務先の宅地建物取引業者の商号または名称および免許証番号が対象です。
死亡等の届出は30日以内です(21条)。死亡の場合は相続人が死亡の事実を知った日から30日以内という点は、業者側の11条と同じ構造です。
そして登録の移転(19条の2)は、登録を受けている都道府県以外の都道府県に所在する事務所に勤務することとなったとき、または勤務しようとするときに申請できる制度です。義務ではなく任意であり、住所を移しただけでは申請できません。
期限の書き方が違う
ここで最も問われるのが期限です。業者の変更の届出は「30日以内」、宅建士の変更の登録は「遅滞なく」。数字が定められているのは業者側だけです。「宅地建物取引士は、変更があったときは30日以内に変更の登録を申請しなければならない」という記述は誤りになります。
一方、死亡等の届出はどちらも30日以内で揃っています。揃っているものと揃っていないものが混在しているので、条文ごとに確認してください。
専任の宅建士という交差点
主体の区別を考えるうえで、専任の宅建士は交差点にあたる論点です。
設置する義務を負うのは業者です。31条の3第1項が、宅地建物取引業者は事務所その他国土交通省令で定める場所ごとに、国土交通省令で定める数の成年者である専任の宅建士を置かなければならないと定めています。事務所については、業務に従事する者5人に1人以上の割合です(施行規則15条の5の3)。
不足したときに是正する義務も業者にあります。31条の3第3項が、既存の事務所等が同条1項の規定に抵触するに至ったときは2週間以内に必要な措置を執らなければならないと定めています。「宅建士が2週間以内に補充されなければならない」という言い方は主体がずれており、義務を負うのは業者です。
一方、専任であるという状態は宅建士個人の側の話です。専任とは、その事務所に常勤し、専ら宅地建物取引業の業務に従事することをいうと、国土交通省の解釈・運用の考え方が示しています。したがって、実際には勤務していないのに専任として届け出るいわゆる名義貸しは、業者にとっては虚偽の届出という違反になり、宅建士にとっては68条にもとづく処分の事由になりえます。
ひとつの事象が、業者の側と宅建士の側の両方で違反を構成する。設置義務は、主体が交差する典型例です。要件の詳細は専任の宅建士で扱っています。
事務所に備える義務と掲げる義務
事務所をめぐる義務は、すべて宅地建物取引業者に課されるものです。宅建士個人の義務ではありません。
従業者証明書(48条1項・2項)
48条1項は、宅地建物取引業者は従業者に、その従業者であることを証する証明書を携帯させなければ、その者をその業務に従事させてはならないと定めています。携帯させる義務が業者に、携帯する状態が従業者にという構造です。
48条2項は、従業者は取引の関係者の請求があったときは、この証明書を提示しなければならないと定めています。
ここで重要なのは、対象が従業者全員だという点です。宅建士であるかどうかを問いません。そして、宅建士証を提示することで従業者証明書の提示に代えることはできません。別の制度だからです。逆に、従業者証明書を提示しても、重要事項説明の場面で35条4項が求める宅建士証の提示を果たしたことにはなりません。
従業者名簿と帳簿(48条3項・4項、49条)
48条3項は、宅地建物取引業者は事務所ごとに従業者名簿を備え、従業者の氏名などを記載しなければならないと定めています。同条4項は、取引の関係者から請求があったときは、この名簿をその者の閲覧に供しなければならないと定めています。保存期間は最終の記載をした日から10年間です(施行規則17条の2)。
49条は、宅地建物取引業者は事務所ごとに業務に関する帳簿を備え、取引のあったつど所定の事項を記載しなければならないと定めています。保存期間は、各事業年度の末日をもって閉鎖したうえで閉鎖後5年間、業者が自ら売主となる新築住宅に係るものは10年間です(施行規則18条)。
両者の最大の違いは、閲覧義務の有無です。従業者名簿には48条4項という閲覧させる義務がありますが、帳簿にはこれに相当する規定がありません。帳簿は取引の記録であり、他の取引の内容が第三者に見られてはならないからです。「帳簿を取引の関係者の閲覧に供しなければならない」という記述は誤りになります。
保存期間も、名簿が10年、帳簿が5年(新築住宅の売主となる場合は10年)と異なります。この2つの制度の記載事項や運用の細目は従業者名簿と帳簿で詳しく扱っているので、そちらで確認してください。
標識の掲示(50条1項)
50条1項は、宅地建物取引業者は事務所等および事務所等以外の国土交通省令で定めるその業務を行う場所ごとに、公衆の見やすい場所に、国土交通省令で定める標識を掲げなければならないと定めています。
掲げる場所は事務所に限られません。案内所、モデルルーム、展示会場など、業務を行う場所であれば標識が必要です。契約行為を行うかどうかを問わず必要になる点も重要です。
案内所等の届出(50条2項)
50条2項は、宅地建物取引業者が31条の3第1項に規定する国土交通省令で定める場所において業務を行おうとする場合、業務を開始する日の10日前までに、免許を受けた国土交通大臣または都道府県知事、およびその所在地を管轄する都道府県知事に届け出なければならないと定めています。
数字と届出先の両方が問われます。期限は業務を開始する日の10日前まで。届出先は2か所で、免許権者と、その場所の所在地を管轄する知事の両方です。免許権者だけでは足りません。
そして届出が必要になるのは、契約の締結や申込みの受付を行う場所です。標識はすべての業務を行う場所に必要なのに対し、届出は契約行為等を行う場所に限られる。この非対称が頻出です。
報酬額の掲示(46条4項)
46条4項は、宅地建物取引業者はその事務所ごとに、公衆の見やすい場所に、国土交通大臣が定めた報酬の額を掲示しなければならないと定めています。
ここで注意すべきは、掲示が必要なのが事務所だけだという点です。標識が案内所にも必要なのに対し、報酬額の掲示は事務所に限られます。「案内所にも報酬額を掲示しなければならない」という記述は誤りです。報酬額そのものの制度は報酬額の制限で扱っています。
取引の場面での義務の帰属
ここが最も混乱しやすい領域です。義務の主体と、実行者が分かれる場面があるからです。
重要事項の説明(35条)
35条1項の主語は宅地建物取引業者です。業者が、宅建士をして、重要事項を記載した書面を交付して説明をさせなければならない、という構造になっています。
つまり、義務を負っているのは業者であり、宅建士は業者がその義務を履行するための実行者として指名されています。「重要事項の説明義務は宅建士にある」という言い方は、正確ではありません。義務は業者にあり、説明という行為を宅建士が行うのです。
書面への記名は35条5項が定めており、こちらは宅建士が行います。書面の交付そのものは業者の義務で、宅建士でない従業者が交付しても違反にはなりません。整理すると、交付は業者、説明は宅建士、記名は宅建士ということになります。記載事項の詳細は35条書面の記載事項と35条書面の完全解説にまとめてあります。
37条書面(37条)
37条1項・2項の主語も宅地建物取引業者です。契約が成立したときに、遅滞なく、契約の各当事者に書面を交付する義務は業者が負います。
37条3項は、業者が37条書面を作成したときは、宅建士をして当該書面に記名させなければならないと定めています。したがって記名は宅建士です。
35条書面との違いは説明義務の有無で、37条書面に説明義務はありません。したがって37条書面について宅建士が行うのは記名だけです。記載事項は37条書面の記載事項を参照してください。
媒介契約書(34条の2)
34条の2第1項は、宅地建物取引業者が媒介契約を締結したときに、遅滞なく所定の事項を記載した書面を作成して記名し、依頼者に交付することを求めています。ここで記名するのは業者です。宅建士ではありません。
3つの書面のうち、35条書面と37条書面は宅建士の記名、媒介契約書は業者の記名。この振り分けが繰り返し問われます。宅建士の独占業務の範囲は宅建士の独占業務で確認できます。
広告と報酬
32条の誇大広告等の禁止、33条の広告開始時期の制限、34条の取引態様の明示は、いずれも主語が宅地建物取引業者です。宅建士の義務ではありません。広告規制の詳細は広告に関する規制、取引態様については取引態様の明示義務を参照してください。
46条2項の報酬の上限を超える受領の禁止も、業者の義務です。宅建士個人が報酬を受け取る関係ではありません。
違反したときに誰が処分されるか
義務の主体が分かれているのと同じく、監督処分も業者に対するものと宅建士に対するもので系統が分かれています。
業者に対する処分
宅地建物取引業者に対する監督処分は3段階です。65条が指示処分と業務停止処分を、66条と67条が免許取消処分を定めています。業務停止は1年以内の期間を定めて行われます。
処分権者に違いがあります。指示処分と業務停止処分は、免許権者だけでなく、業務が行われた区域を管轄する都道府県知事も行うことができます。これに対し、免許取消処分は免許権者だけが行えます。
宅建士に対する処分
宅地建物取引士に対する監督処分も3段階です。68条が指示処分と事務禁止処分を、68条の2が登録消除処分を定めています。事務禁止も1年以内の期間を定めて行われます。
処分権者の構造は業者側と同じです。指示処分と事務禁止処分は、登録をしている都道府県知事のほか、事務を行った区域を管轄する知事も行えます。登録消除処分は、登録をしている知事だけが行えます。
対応関係で覚える
業者の業務停止に対応するのが宅建士の事務禁止、業者の免許取消に対応するのが宅建士の登録消除です。名称を入れ替えた選択肢が出るので、「業者は免許を失い、宅建士は登録を消される」という形で対応づけておいてください。
そして、最も重い処分だけが本来の権者に限られるという構造も共通しています。免許取消は免許権者のみ、登録消除は登録知事のみ。中間までの処分は現地の知事も行えるが、資格そのものを奪う処分は本来の権者に限る、という設計です。監督処分の要件と手続は監督処分の種類と手続で、罰則の体系は宅建業法の罰則一覧で扱っています。
一つの行為で両方が処分されうる
宅建士でない者に重要事項の説明をさせた場合、35条1項に違反した業者が処分の対象になります。これとは別に、その場に関与した宅建士が名義だけを貸していたような場合には、その宅建士も68条にもとづく処分を受けうる立場に立ちます。
義務の主体が業者だから宅建士は処分されない、という関係にはありません。それぞれが自分の系統の規範に照らして判断されます。
試験での出題ポイント
主語を入れ替える
最も基本的な型です。「宅地建物取引士は、重要事項を記載した書面を交付しなければならない」「宅地建物取引業者は、35条書面に記名しなければならない」といった形で、条文の主語をすり替えます。条文の主語を思い出せるかどうかで決まるので、義務を覚えるときは必ず主語とセットにしてください。
提示義務の場面と罰則
35条4項は請求がなくても提示、22条の4は請求があったとき。そして過料があるのは前者だけです。この2点を入れ替えた選択肢が出ます。
携帯するのはどちらか
携帯義務があるのは従業者証明書であって宅建士証ではありません。逆に、重要事項説明で提示するのは宅建士証であって従業者証明書ではありません。2つの証明書を入れ替える出題は定番です。
名簿と帳簿
閲覧義務があるのは従業者名簿だけ、保存期間は名簿が10年で帳簿が5年(自ら売主となる新築住宅は10年)。この2軸で誤りが作られます。
標識と届出と報酬額の掲示
標識はすべての業務を行う場所に必要。案内所等の届出は契約行為等を行う場所について、業務開始の10日前までに、免許権者と所在地の知事の2か所へ。報酬額の掲示は事務所のみ。3つで必要な場所が違うので、そこを入れ替えた選択肢が出ます。
守秘義務の範囲
廃業後も義務が続くこと、正当な理由があれば漏らせること、従業者にも別に義務があること。「廃業後は義務がない」「いかなる場合も漏らしてはならない」はいずれも誤りです。
期限の書き方を入れ替える
業者の変更の届出は30日以内、宅建士の変更の登録は遅滞なく。数字が定められているのは業者側だけです。「宅地建物取引士は30日以内に変更の登録を申請しなければならない」という記述は、条文にない数字を持ち込んだ誤りになります。
一方、死亡等の届出はどちらも30日以内で、死亡の場合の起算点が「相続人が死亡の事実を知った日から」である点まで共通しています。揃っているところと揃っていないところが混在しているので、条文ごとに確認する必要があります。専任の宅建士が不足した場合の2週間、案内所等の届出の10日前、宅建士証の更新に必要な法定講習の申請前6か月といった数字と混ぜられることもあります。
処分の名称と処分権者
業務停止と事務禁止、免許取消と登録消除。そして免許取消は免許権者のみ、登録消除は登録知事のみ。名称と権者の両方で誤りが作られます。
覚え方・整理の仕方
主語で仕分ける
義務を覚えるときは、内容よりも先に主語を覚えてください。「宅地建物取引業者は」で始まるか「宅地建物取引士は」で始まるか。この一点で、選択肢の半分は処理できます。
大づかみにいえば、事業の運営に関わるもの、事務所に関わるもの、書面の交付に関わるものは業者の義務です。専門家としての行為規範、説明と記名、宅建士証に関わるものは宅建士の義務です。
3か条は語尾で覚える
15条は前段が義務で後段が努力義務、15条の2は禁止、15条の3は努力義務。この語尾の違いが選択肢に反映されます。内容だけでなく、義務なのか禁止なのか努力義務なのかまで含めて記憶してください。
証明書は「携帯と提示」で分ける
従業者証明書は携帯させる義務があり、請求があれば提示する。宅建士証は携帯義務がなく、重要事項説明では請求がなくても提示し、それ以外は請求があれば提示する。「携帯は従業者証明書、提示は両方あるが場面が違う」と束ねておけば混ざりません。
事務所に置くものを一列に
事務所に関して業者が負う義務は、専任の宅建士を置く、従業者名簿を備える、帳簿を備える、標識を掲げる、報酬額を掲示する、の5つです。このうち標識だけが事務所以外の場所にも必要で、報酬額の掲示だけが事務所に限られます。5つを並べたうえで、この2つの例外を覚えるのが効率的です。宅建業法の数字は宅建業法の数字まとめで横断的に確認できます。
処分は縦2列で覚える
業者側が指示、業務停止、免許取消。宅建士側が指示、事務禁止、登録消除。左右に並べて、同じ段が対応していることを覚えます。そして最下段だけが本来の権者に限られる、と付け加えれば足ります。
理解度チェッククイズ
Q1. 宅地建物取引士は、宅地建物取引士証を常に携帯していなければ、宅地建物取引業の業務に従事することができない。(○か×か)
答えを見る
×:宅建士証に携帯義務を定めた規定はありません。携帯が義務づけられているのは従業者証明書で、48条1項が、宅地建物取引業者は従業者に証明書を携帯させなければその者を業務に従事させてはならないと定めています。宅建士証については、重要事項の説明をするときに請求がなくても提示すること(35条4項)と、取引の関係者から請求があったときに提示すること(22条の4)が義務づけられているだけです。Q2. 宅地建物取引業者は、その業務上取り扱ったことについて知り得た秘密を、宅地建物取引業を営まなくなった後は他に漏らしても差し支えない。(○か×か)
答えを見る
×:45条は、正当な理由がある場合でなければ業務上知り得た秘密を漏らしてはならないとしたうえで、宅地建物取引業を営まなくなった後であっても同様であると明記しています。廃業しても義務は続きます。なお、義務は絶対的なものではなく、裁判の証人として証言を求められた場合や本人の承諾がある場合など、正当な理由があれば開示できます。従業者についても75条の3が同様の義務を定めており、従業者でなくなった後も続きます。Q3. 宅地建物取引業者は、事務所ごとに備える帳簿を、取引の関係者から請求があったときはその者の閲覧に供しなければならない。(○か×か)
答えを見る
×:閲覧させる義務があるのは従業者名簿です(48条4項)。帳簿については、これに相当する規定がありません。帳簿には他の取引の内容が記載されているため、第三者に見せる制度になっていないのです。保存期間も異なり、従業者名簿は最終の記載をした日から10年間、帳簿は各事業年度の末日をもって閉鎖した後5年間(自ら売主となる新築住宅に係るものは10年間)です。Q4. 宅地建物取引業者が契約の締結を行う案内所を設置する場合、業務を開始する日の10日前までに、免許を受けた国土交通大臣または都道府県知事にのみ届け出れば足りる。(○か×か)
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×:50条2項は、業務を開始する日の10日前までに、免許を受けた国土交通大臣または都道府県知事「及び」その所在地を管轄する都道府県知事に届け出なければならないと定めています。届出先は2か所であり、免許権者だけでは足りません。なお、標識の掲示(50条1項)は契約行為等を行うかどうかにかかわらず業務を行う場所ごとに必要で、届出とは必要になる場面が異なります。Q5. 宅地建物取引士が事務の禁止の処分を受けたときは、速やかに宅地建物取引士証をその交付を受けた都道府県知事に返納しなければならない。(○か×か)
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×:事務の禁止の処分を受けたときは「提出」です(22条の2第7項)。「返納」が必要になるのは、登録が消除されたとき、または宅建士証が効力を失ったときです(同条6項)。事務禁止は一定期間だけ事務ができなくなるものなので、期間が満了して本人から返還の請求があれば、知事は直ちに返還します。返す相手はいずれも交付を受けた都道府県知事であり、免許権者ではありません。なお、返納も提出も、違反すれば10万円以下の過料の対象です(86条)。まとめ
宅建業法の義務は、条文の主語を読めば主体が判別できます。「宅地建物取引業者は」で始まれば業者の義務、「宅地建物取引士は」で始まれば宅建士の義務です。この習慣だけで、主語をすり替えた選択肢は処理できます。
宅建士が負うのは、15条の業務処理の原則、15条の2の信用失墜行為の禁止、15条の3の知識および能力の維持向上という3か条と、宅建士証の提示(35条4項、22条の4)および返納・提出(22条の2第6項・7項)です。業者が負うのは、31条の業務処理の原則、45条の守秘義務、48条・49条の備付け、50条の標識と届出、46条4項の報酬額の掲示、そして35条・37条の書面交付といった事業運営上の義務です。
混乱が生じるのは重要事項説明の場面だけです。義務を負うのは業者、説明と記名を行うのは宅建士、書面の交付は業者。この三層を押さえれば、あとは主語で機械的に処理できます。違反したときの処分も、業者は指示・業務停止・免許取消、宅建士は指示・事務禁止・登録消除と、系統ごとに分かれています。
宅建試験AIブートラボのアプリでは、宅建業者と宅建士のどちらの義務かを問う過去問を、条文根拠つきの解説で繰り返し演習できます。
宅建業法は20問と配点が最も大きく、確実に得点したい科目です。免許制度・重要事項説明・8種制限を肢別で固めましょう。