宅建士の将来性|制度と統計から読む
宅建士の将来性を、宅建業法の独占業務と設置義務、IT重説と書面電子化の到達点、国土交通省と総務省の公表統計から整理。予測ではなく確認できる事実で判断材料を示します。
目次
この記事は、宅建士(宅地建物取引士)の将来性について、予測ではなく確認できる事実だけで判断材料をそろえるためのものです。資格取得後の進路は宅建士のキャリアパス、仕事の中身は宅建士とは、否定的な評判の検証は宅建は「やめとけ」と言われる理由で扱っています。
将来性を論じる記事の多くは「AIに代替される」「されない」という予測を結論に置きますが、この記事はその形を取りません。10年後の技術と市場を言い当てることは誰にもできないためです。代わりに扱うのは、法律で誰の行為として定められているか、その定めを変えるには何が必要か、そして公表されている統計が何を示しているか、の3点です。以下の数値はすべて出典と時点を明記しています。制度も統計も更新されるため、判断のときは最新の公表資料で確認してください。
制度上、宅建士でなければできないこと
宅建士の位置づけを理解する出発点は、宅地建物取引業法が「宅建士でなければできない」と定めている行為を正確に把握することです。ここは意見ではなく条文の話なので、確認すれば決着します。
重要事項の説明(宅建業法35条)
宅建業法35条1項は、宅建業者に対し、売買・交換・貸借の契約が成立するまでの間に、宅建士をして、一定の事項を記載した書面を交付して説明させなければならないと定めています。ここで注意すべきは主語の構造です。義務を負うのは宅建業者ですが、説明という行為を実際に行う者は宅建士に限定されています。
説明すべき事項は、登記された権利の種類と内容、法令に基づく制限、私道負担、飲用水・電気・ガスの供給施設の整備状況、代金以外に授受される金銭、契約の解除、損害賠償額の予定、手付金等の保全措置など、多岐にわたります。売買と貸借で説明事項が異なる点も含め、記載事項の全体像は35条書面の記載事項一覧にまとめています。
この行為が宅建士に限定されている理由は、資格者を優遇するためではありません。不動産取引は金額が大きく、当事者間の情報格差が構造的に大きいため、専門知識を持つ者が契約前に事実を説明する仕組みを制度として組み込んでいるからです。説明の趣旨は重要事項説明とは何かでも扱っています。
35条書面と37条書面への記名
宅建士でなければできないもう一つの行為が、書面への記名です。35条書面には宅建士の記名が必要であり、契約成立後に交付する37条書面にも宅建士の記名が必要です。
37条書面については、記名は宅建士の行為ですが、説明義務は課されていません。交付そのものは宅建業者の義務です。この「35条は説明と記名、37条は記名のみ」という違いは、試験でも実務でも混同されやすい箇所です。両者の比較は37条書面と35条書面の違いで整理しています。
なお、かつて必要とされていた押印は、後述する2022年の改正で不要になりました。記名は残り、押印は消えたという整理です。
宅建士証の提示と5年ごとの更新
宅建士であることは、登録だけでは足りません。宅建業法は宅地建物取引士証(宅建士証)の制度を置き、有効期間を5年としています。交付を受けようとする者は、原則として交付申請前6か月以内に行われる法定講習を受講しなければなりません。
提示義務も2種類あります。宅建業法22条の4は、取引の関係者から請求があったときに宅建士証を提示しなければならないと定めています。これに対して35条4項は、重要事項の説明をするときは、相手方に対し、請求がなくても宅建士証を提示しなければならないと定めています。請求の有無で扱いが分かれる点が要点です。
この仕組みが意味しているのは、宅建士の資格が一度取れば終わりの資格ではなく、5年ごとに講習を経て更新される前提で設計されているということです。法改正が続く分野であることを、制度自体が織り込んでいます。裏を返せば、更新の負担を負ってでも維持する価値があると判断されている資格だとも言えます。
「独占」の意味を正確に捉える
ここで押さえておきたいのは、独占業務という言葉の射程です。宅建士の独占業務は、不動産取引の全工程ではなく、上記の限られた行為です。物件の調査、価格の査定、広告の作成、顧客への提案、交渉、契約書の作成といった業務の大半は、宅建士でなくても行えます。
したがって「宅建士でなければ不動産取引はできない」というのは誇張です。正確には、「取引を完結させるには、どこかの時点で宅建士が説明と記名を行う必要がある」という構造です。この構造がある限り、取引が1件成立するごとに宅建士の関与が最低1回発生します。
設置義務が生む構造的な需要
独占業務が取引ごとの需要を生むのに対し、もう一つ別の経路で需要を生んでいるのが専任宅建士の設置義務です。
5人に1人という基準
宅建業法31条の3第1項は、宅建業者に対し、事務所等ごとに、国土交通省令で定める数の成年者である専任の宅建士を置くことを義務づけています。この省令上の数が、事務所については業務に従事する者5人に1人以上です。契約行為等を行う案内所等については、1人以上とされています。
この基準は人数の割合で定められているため、従業者が増えれば必要な専任宅建士も増えます。従業者10人の事務所なら2人、20人なら4人という計算です。数え方の細かい論点、たとえば従業者に誰を含めるか、専任性がどう判断されるかについては専任の宅建士の設置義務で扱っています。
欠員は2週間以内に是正する必要がある
同条第3項は、既存の事務所等が基準に抵触するに至ったときは、2週間以内に必要な措置を執らなければならないと定めています。退職や異動で専任宅建士が欠けた場合、事業者は放置できません。
この期限の存在が、雇用側から見た需要の性質を決めています。専任宅建士は「いると望ましい人材」ではなく、「欠けると2週間で埋めなければならない枠」です。事業を継続するかぎり、この枠は消えません。資格手当が支給される事業者が多いのも、この構造の反映と考えられます。待遇の実態は宅建士の年収を参照してください。
事業者数が需要の下限を決める
国土交通省の「令和6年度宅地建物取引業法の施行状況調査結果」(2025年10月3日公表)によれば、令和6年度末、すなわち2025年3月末時点の宅地建物取引業者数は132,291業者です。内訳は大臣免許が3,158業者、知事免許が129,133業者で、前年度から1,708業者、1.3パーセントの増加となり、11年連続の増加でした。
同調査の20年推移を見ると、事業者数は平成17年度末の131,251業者から減少に転じ、平成25年度末の122,127業者を底として増加に反転しています。2025年3月末の132,291業者は、20年前の水準を上回りました。
事業者は1者につき最低1つの事務所を持ち、事務所ごとに専任宅建士の設置義務がかかります。したがって、この事業者数そのものが、専任宅建士という枠の下限を規定していることになります。
技術で置き換わった部分
ここまでが制度の話です。次に、実際に技術で何が変わったのかを、変わった部分と変わっていない部分に分けて見ます。予測ではなく、すでに起きたことの確認です。
IT重説は「場所」を変えた
テレビ会議等のITを活用した重要事項説明、いわゆるIT重説は、国土交通省の報道発表によれば、賃貸取引について2017年10月1日から本格運用が始まりました。売買取引については社会実験を経て、令和3年度、すなわち2021年度から本格運用に移行しています。
IT重説で変わったのは、説明を行う場所です。従来は対面が前提でしたが、オンラインで完結できるようになりました。遠隔地の当事者が来店せずに取引を進められる、宅建士が移動時間を削減できる、といった効果があります。
変わっていないのは、説明を行う主体です。IT重説であっても、説明するのは宅建士本人であり、宅建士証の提示も必要です。宅建業法35条の条文構造自体は、IT重説の導入によって変更されていません。運用上のルールは重要事項説明のIT化で詳しく扱っています。
書面の電子化は「媒体」を変えた
デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律(令和3年法律第37号)による宅建業法の改正が2022年5月18日に施行され、34条の2、35条、37条の各書面について、電磁的方法による提供が可能になりました。同時に、これらの書面への押印義務が廃止されています。
電磁的方法で提供する場合には要件があります。相手方の承諾を得ていること、書面に出力できる形式であること、電子署名等により改変が行われていないことを確認できる措置が講じられていることなどです。国土交通省は「重要事項説明書等の電磁的方法による提供及びITを活用した重要事項説明 実施マニュアル」(令和4年4月)を公表しています。
ここでも、変わったのは媒体であり、記名を行う主体は変わっていません。紙が電子データになっても、宅建士の記名という要件は残っています。電子契約の実務はIT重説と書面電子化にまとめています。
情報処理は大幅に自動化された
物件情報の検索と整理、成約事例に基づく相場の概算、書類の下書き作成といった作業は、システムによる処理の比重が大きく上がりました。この分野は不動産テックと呼ばれ、サービスの種類も増えています。個別のサービス動向は不動産テック(PropTech)とは、業界全体の変化は不動産業界の最新トレンドで扱っています。
自動査定について一点補足すると、算出された数値は取引価格の参考値であり、その数値をどう説明し、どこまで根拠として示すかは人の判断に委ねられています。査定結果を顧客に提示する場面で、前提条件や誤差の範囲を伝えないまま数字だけを渡せば、後の紛争の火種になります。
技術で置き換わっていない部分
説明の主体は法律で人に固定されている
繰り返しになりますが、重要事項の説明を行う者は宅建士であると宅建業法が定めています。この定めは、IT重説の導入でも書面の電子化でも変更されていません。
したがって、「AIが重要事項説明を行う」という状態が生じるためには、宅建業法35条の改正が必要です。技術が可能にするかどうかとは別に、法改正という手続きが要るという点が重要です。逆に言えば、将来この構造が変わる可能性を否定することもできません。確実に言えるのは、変わる場合には法改正という目に見える形を取る、ということだけです。「AIに代替される」「されない」という断定は、どちらも根拠を示せません。
責任の引き受け手が必要である
説明義務違反があった場合、責任は宅建業者と宅建士が負います。監督処分の対象になり、損害賠償請求の相手方にもなります。
同じ調査によれば、令和6年度の監督処分は147件で、内訳は免許取消99件、業務停止16件、指示32件です。前年度から20件、12.0パーセントの減少でした。あわせて、宅建業法71条に基づく文書による行政指導が592件行われ、前年度から61件、11.5パーセント増加しています。処分と指導という仕組みが現に機能していることは、制度が責任の所在を人と法人に置いていることの裏返しです。
個別性の高い判断が残る
不動産は一件ごとに条件が異なります。隣地との境界が確定しているか、過去に浸水履歴があるか、再建築が可能か、心理的瑕疵に該当する事情があるか。これらは物件データベースに揃っている情報とは限らず、現地確認や役所調査、売主への聞き取りを通じて集める必要があります。
契約不適合責任の対象になりうる事実をどこまで調べ、どう説明するかは、定型処理に落としきれない部分です。この論点は瑕疵(契約不適合)とはでも扱っています。
免許制と保証金という枠組み
もう一つ、技術では代替されていない構造が、宅建業そのものが免許制であることです。宅地建物取引業を営むには、国土交通大臣または都道府県知事の免許が必要で、免許を受けた業者は営業を開始する前に営業保証金を供託しなければなりません。金額は主たる事務所につき1,000万円、その他の事務所につき1事務所あたり500万円です。
宅地建物取引業保証協会に加入する場合は、これに代えて弁済業務保証金分担金を納付します。金額は主たる事務所につき60万円、その他の事務所につき1事務所あたり30万円で、供託と比べて負担は小さくなります。
この仕組みが置かれている理由は、取引の相手方が損害を被ったときの弁済原資を、あらかじめ確保しておくためです。つまり制度は、不動産取引を「事故が起こりうる取引」と位置づけ、その責任を負う主体として免許業者を指定しています。責任の引き受け手を制度上どこかに置く必要がある以上、取引を丸ごと無人化する設計は、現行法の枠組みの中では成立しません。
数字で読む宅建士と宅建業者
ここからは、公表統計をそのまま示します。評価は付けず、読み取れることと読み取れないことを分けて書きます。
登録者数は121万人を超えた
国土交通省の同じ調査によれば、令和6年度末時点の宅地建物取引士の総登録者数は1,211,760人です。令和6年度中に新たに30,336人が都道府県知事へ登録しました。
推移を見ると、平成27年度末の総登録者数は982,411人でした。9年間で約23万人増えたことになります。新規登録者数も、平成27年度の24,485人から令和6年度の30,336人まで、増加傾向で推移しています。
この数字から読めること、読めないこと
読めるのは、登録者数が事業者数を大きく上回っているという事実です。事業者数132,291に対し登録者数1,211,760なので、単純に割れば1事業者あたり約9.2人になります。専任宅建士の設置義務が求める人数を、登録者総数が大幅に上回っている状態です。
一方、読めないことも多くあります。第一に、登録者のうち何人が不動産業に従事しているかは、この調査からは分かりません。宅建士の登録は宅建業への従事を条件としないため、他業種で働きながら登録を維持している人が相当数含まれます。第二に、登録は取消しがない限り残るため、実務から離れた人も数に残ります。
したがって、この数字から「宅建士は飽和している」と結論づけることも、「希少性が高い」と結論づけることもできません。言えるのは、資格を持っているというだけでは他の登録者との差がつきにくい規模になっている、という点です。差をつける方法については後述します。
受験者の3分の2は不動産業以外から来ている
不動産適正取引推進機構が公表した「令和7年度宅地建物取引士資格試験結果の概要」(2025年11月26日)によれば、令和7年度試験の申込者は306,099人、受験者は245,462人、合格者は45,821人で、合格率は18.7パーセントでした。受験者の平均年齢は36.2歳です。
注目すべきは職業別の構成比です。不動産業が33.2パーセント、金融業が8.1パーセント、建設業が8.7パーセント、他業種が27.9パーセント、学生が10.9パーセント、その他が11.3パーセントとなっています。不動産業からの受験者は3分の1で、残りは不動産業以外から来ています。
この構成は、宅建士の知識が不動産業の外でも評価されていることを示唆します。金融機関の融資審査で担保不動産を扱う、建設業で土地の取得や開発の手続きに関わるといった場面が想定されます。受験者の内訳の詳細は宅建試験の受験者データにまとめています。
取引そのものはどう変わっているか
人口は減っても世帯数は増えている
「人口が減るから不動産取引も減る」という推論には、確認すべき前提があります。取引の単位は人ではなく世帯だという点です。
総務省の「令和5年住宅・土地統計調査 住宅及び世帯に関する基本集計(確報集計)」(2024年9月25日公表、2023年10月1日現在)によれば、総世帯数は5,621万5千世帯で、2018年と比べ4.1パーセント、221万4千世帯の増加となり、過去最多です。総住宅数も6,504万7千戸で、2018年比4.2パーセント、263万9千戸の増加となり、こちらも過去最多でした。1世帯当たりの住宅数は1.16戸で、2013年以降ほぼ同水準です。
世帯の分化、すなわち単身世帯や高齢者のみの世帯の増加によって、人口の減少局面でも世帯数は増えています。住宅の需要は世帯単位で発生するため、この差は取引量を考えるうえで無視できません。
空き家は900万戸を超えた
同じ調査によれば、空き家は900万2千戸で、2018年の848万9千戸から51万3千戸増加し、過去最多となりました。総住宅数に占める空き家の割合、すなわち空き家率は13.8パーセントで、2018年の13.6パーセントから0.2ポイント上昇し、過去最高です。空き家数は1993年から2023年までの30年間で約2倍になっています。
内訳も重要です。賃貸用、売却用、二次的住宅(別荘など)を除いた空き家は385万6千戸で、2018年比で36万9千戸増加し、総住宅数に占める割合は5.9パーセントでした。この区分は、市場に出ていない空き家、つまり転勤や入院で長期不在の住宅や、建て替えのために取り壊す予定の住宅などを指します。
数字が示しているのは、市場に出ていない住宅ストックが積み上がっているという事実です。これを流通に乗せる、賃貸に転用する、解体して土地として売却するといった動きが起きれば、いずれの経路でも重要事項説明と書面交付が発生します。ただし、これらが実際にどの程度取引に転化するかは、この統計からは分かりません。
既存住宅の流通に合わせて業務が追加された
住宅ストックが積み上がる状況に対応して、既存住宅の取引に関する制度も追加されています。2018年4月1日に施行された宅建業法の改正で、建物状況調査、いわゆるインスペクションに関する事項が3か所に加わりました。
第一に、媒介契約書面に、建物状況調査を実施する者のあっせんに関する事項を記載することとされました。第二に、35条書面の記載事項に、建物状況調査を実施しているかどうか、実施している場合はその結果の概要、および設計図書や点検記録等の保存の状況が加わりました。第三に、37条書面の記載事項に、建物の構造耐力上主要な部分等の状況について当事者双方が確認した事項が加わりました。
この改正が示しているのは、既存住宅の流通が政策的に後押しされるとき、その手続きは宅建士の業務として制度に組み込まれる、という関係です。空き家や中古住宅の取引を増やそうとすれば、買主が判断できるだけの情報開示が必要になり、開示の担い手は説明義務を負う宅建士になります。市場の構造変化が、そのまま宅建士の業務範囲の拡張として現れた例と言えます。
相続登記の申請義務化
所有者不明の土地や建物が増える一因として、相続登記が行われないまま世代が進むことが指摘されてきました。これに対応するため、不動産登記法が改正され、2024年4月1日から相続登記の申請が義務化されています。
相続により不動産を取得した相続人は、所有権の取得を知った日から3年以内に登記の申請をしなければならないという内容です。施行前に発生した相続にも適用されます。相続に伴う不動産の処理が制度上前に進みやすくなったことで、売却や活用の相談が発生する経路が増えたと見ることができます。相続の基本は相続の基礎知識、不動産に絞った論点は相続不動産の基礎知識で扱っています。
資格を取ったあとに何を足すか
登録者数が121万人を超えている以上、資格の保有だけで差がつく場面は限られます。組み合わせの方向性を3つ挙げます。
方向1 調査と説明の精度を上げる
重要事項説明は、書式を埋める作業ではなく、調査した事実を伝える作業です。役所調査で何を確認するか、現地で何を見るか、売主から何を聞き出すか。この精度が、トラブルの発生率と、顧客からの信頼の両方を決めます。
具体的には、登記事項証明書で権利関係を確認するだけでなく、都市計画や建築基準法上の制限を役所で確認する、道路の種別と接道状況を調べる、上下水道やガスの引き込み状況を管理者に照会する、といった作業が積み上がります。既存住宅であれば、前述の建物状況調査の実施の有無や、設計図書・点検記録の保存状況も確認対象です。どれも定型的な手続きに見えますが、確認を省いた項目がそのまま説明漏れになります。
説明が形式的だったために後から紛争になる事例は、監督処分や行政指導の対象にもなりえます。前述のとおり令和6年度には147件の監督処分と592件の行政指導が行われています。制度が求める水準を満たすこと自体が、実務における価値になります。
方向2 隣接する領域の知識を足す
不動産取引は、税務、相続、建築、金融と接続しています。譲渡所得の課税関係を説明できる、相続の場面で登記と遺産分割の順序を整理できる、住宅ローンの審査で何が見られるかを把握している。こうした周辺知識は、宅建の学習範囲と重なる部分があるため、上乗せの負担が比較的軽く済みます。
資格として形にする場合の選択肢は宅建と組み合わせる資格一覧にまとめています。組み合わせを決めるときは、資格の数ではなく、自分が関わる取引で実際に出てくる論点から逆算してください。
方向3 働き方の選択肢を広げる
IT重説と書面の電子化により、業務の一部は場所に依存しなくなりました。これは、勤務形態の選択肢が広がったことを意味します。ただし、専任宅建士は事務所への専任性が求められるため、どこまで柔軟にできるかには制約があります。実態と求人の探し方は宅建士は在宅ワークできるかで扱っています。
不動産業以外への展開も選択肢です。前述のとおり受験者の3分の2は不動産業以外から来ており、資格の使いどころが業界の外にも広がっていることを示しています。職種別の実像は宅建の転職先、資格の活かし方の全体像は宅建資格のメリットを参照してください。
試験での出題ポイント
将来性というテーマ自体は出題されませんが、この記事で扱った制度は、いずれも試験の頻出範囲です。どう問われるかを整理します。
35条と37条の区別
最も繰り返し問われるのが、35条書面と37条書面の違いです。押さえるべき軸は4つあります。交付の時期は、35条が契約成立前、37条が契約成立後です。説明義務は、35条にあり、37条にはありません。記名は、どちらも宅建士が行います。交付先は、35条が買主・借主等の相手方、37条が契約の両当事者です。
引っかけの典型は、37条書面について「宅建士が説明しなければならない」と書く形です。37条書面に説明義務はありません。もう一つは、記載事項を入れ替える形で、35条固有の事項を37条の必要的記載事項として並べるパターンです。
専任宅建士の設置義務
31条の3では、数の基準と是正期限が問われます。事務所は業務に従事する者5人に1人以上、契約行為等を行う案内所等は1人以上、抵触した場合は2週間以内に必要な措置、という3点です。
引っかけは、期限を「30日以内」に変える、割合を「5人に2人以上」に変える、案内所を事務所と同じ基準にする、といった形です。数字を単独で覚えず、事務所と案内所を対で覚えてください。
IT重説と書面の電子化
近年の改正事項として出題されます。押さえるべきは、電磁的方法による提供には相手方の承諾が必要であること、押印義務は廃止されたが記名は残っていること、IT重説でも宅建士証の提示が必要であることです。
引っかけは、「相手方の承諾なく電子データで提供できる」と書く形、「電子化により宅建士の記名も不要になった」と書く形です。何が廃止され何が残ったかを分けて覚えておけば対応できます。
宅建士証の提示義務
提示義務は、請求の有無で場面が分かれる点が問われます。取引の関係者から請求があったときは提示しなければならない(22条の4)、重要事項の説明をするときは請求がなくても提示しなければならない(35条4項)という2本立てです。
引っかけは、重要事項説明の場面について「請求があった場合に提示すれば足りる」と書く形と、逆に、あらゆる場面で請求なしの提示を義務づけるように書く形です。あわせて、宅建士証の有効期間が5年であること、交付申請前6か月以内の法定講習が原則として必要であることも押さえておいてください。従業者証明書の提示義務と混同させる出題もあるため、宅建士証と従業者証明書は別物として区別しておきます。
数字が絡む論点
35条書面や37条書面まわりでは、期間や金額の数字を変える出題が定番です。学習の進め方としては、条文ごとにばらばらに覚えるのではなく、書面の種類ごとに一覧に落として比較する形が有効です。演習の手順は過去問の活用術にまとめています。
覚え方・整理の仕方
この記事で扱った内容を、記憶に残る形に整理する手順です。
「誰が」を主語にして覚える
宅建業法は、義務の主体が宅建業者である規定と、行為の主体が宅建士である規定が入り混じっています。混同を防ぐには、条文を覚えるときに必ず主語を添えることです。
「重要事項説明書の交付義務は業者、説明する行為は宅建士」「37条書面の交付義務は業者、記名は宅建士」「専任宅建士を置く義務は業者」。この形で口に出せるようにしておくと、主体をすり替えた選択肢に反応できます。
変わったものと変わらないものを2列で持つ
IT重説と電子化の論点は、「変わった」「変わらない」の2列で整理してください。
変わったのは、説明の場所(対面からオンラインも可へ)、書面の媒体(紙から電磁的方法も可へ)、押印(義務から廃止へ)です。変わらないのは、説明を行う主体(宅建士)、記名(宅建士)、宅建士証の提示、そして電子化に必要な相手方の承諾という要件です。
この2列を持っておくと、改正論点の出題で迷いません。同時に、将来性を考えるうえでも、何が動いて何が動いていないかを見分ける枠組みになります。
数字は出典とセットで覚える
統計の数字は、単体で覚えると古くなったときに気づけません。「国土交通省の施行状況調査で業者数と登録者数」「総務省の住宅・土地統計調査で住宅数・世帯数・空き家」というように、どの調査に何が載っているかをセットで覚えてください。
そうしておけば、数字が更新されたときに自分で確認しに行けます。将来性を語る記事の数字を鵜呑みにせず、出典が示されているかを見る癖をつけることのほうが、個別の数値を暗記するより長く役立ちます。
制度と予測を分けて考える
将来性についての議論を読むときは、それが制度の話なのか予測の話なのかを毎回仕分けてください。「宅建業法35条は説明を宅建士に限定している」は制度の話で、確認できます。「10年後もこの規定は残る」は予測で、確認できません。
この仕分けができると、根拠のある部分だけを取り出して判断材料にできます。学習を続けるかどうかの判断も、この形で行うのが確実です。
理解度チェッククイズ
Q1. 重要事項の説明を行う者は宅建士に限られるが、IT重説の場合はこの限定が緩和されている(○か×か)
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×:IT重説でも説明を行うのは宅建士本人であり、宅建士証の提示も必要です。宅建業法35条1項が、宅建業者は契約が成立するまでの間に宅建士をして重要事項を説明させなければならないと定めており、この構造はIT重説の本格運用(賃貸取引は2017年10月1日から、売買取引を含めては2021年度から)によって変更されていません。変わったのは説明を行う場所であって、説明を行う主体ではありません。Q2. 2022年5月18日施行の宅建業法改正により、35条書面と37条書面は相手方の承諾がなくても電磁的方法で提供できるようになった(○か×か)
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×:電磁的方法による提供には相手方の承諾が必要です。デジタル社会形成整備法(令和3年法律第37号)による改正が2022年5月18日に施行され、34条の2、35条、37条の各書面を電磁的方法で提供できるようになりましたが、相手方の承諾を得ること、書面に出力できる形式であること、電子署名等により改変が行われていないことを確認できる措置を講じることなどが要件とされています。なお、この改正で押印義務は廃止されましたが、宅建士の記名は残っています。Q3. 事務所において専任の宅建士が不足する事態が生じた場合、宅建業者は30日以内に必要な措置を執らなければならない(○か×か)
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×:2週間以内です。宅建業法31条の3第3項は、既存の事務所等が同条1項の基準に抵触するに至ったときは、2週間以内に必要な措置を執らなければならないと定めています。設置すべき人数は、事務所については業務に従事する者5人に1人以上、契約行為等を行う案内所等については1人以上です。Q4. 令和5年住宅・土地統計調査によれば、日本の総世帯数は前回調査より減少している(○か×か)
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×:増加しています。総務省の「令和5年住宅・土地統計調査 住宅及び世帯に関する基本集計(確報集計)」(2024年9月25日公表、2023年10月1日現在)によれば、総世帯数は5,621万5千世帯で、2018年と比べて4.1パーセント、221万4千世帯の増加となり過去最多です。人口が減少局面にあっても、単身世帯や高齢者のみの世帯の増加によって世帯数は増えており、住宅需要が世帯単位で発生することを踏まえると、人口の減少がそのまま取引量の減少になるとは限りません。Q5. 令和6年度末時点の宅地建物取引士の総登録者数は約121万人であり、この数字から宅建士の3分の1以上が不動産業に従事していると分かる(○か×か)
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×:登録者数は正しいものの、後半が誤りです。国土交通省の「令和6年度宅地建物取引業法の施行状況調査結果」(2025年10月3日公表)によれば、総登録者数は1,211,760人です。ただし、この調査は登録者の従事先を集計しておらず、何人が不動産業に従事しているかは分かりません。宅建士の登録は宅建業への従事を条件としないため、他業種で働きながら登録を維持している人も含まれます。なお、受験者の職業別構成比(不動産業33.2パーセント)は不動産適正取引推進機構が公表していますが、これは受験者の内訳であって登録者の内訳ではありません。まとめ
制度は確認できるが、予測は確認できない。 宅建業法35条は重要事項の説明を宅建士の行為と定め、35条書面と37条書面への記名も宅建士に限定しています。31条の3は事務所ごとに業務に従事する者5人に1人以上の専任宅建士を求め、欠けた場合は2週間以内の是正を義務づけています。この構造を変えるには法改正が必要です。「AIに代替される」「されない」という断定は、どちらも根拠を示せません。
技術は場所と媒体を変え、主体は変えていない。 IT重説は賃貸取引で2017年10月から、売買取引を含めて2021年度から本格運用されました。2022年5月18日施行の改正で書面の電磁的方法による提供が可能になり、押印義務は廃止されました。いずれも説明と記名を行う主体は宅建士のままです。
統計は判断材料であって結論ではない。 国土交通省の施行状況調査によれば、2025年3月末の宅建業者数は132,291業者で11年連続の増加、宅建士の総登録者数は1,211,760人です。総務省の住宅・土地統計調査によれば、総世帯数は5,621万5千世帯で過去最多、空き家は900万2千戸・空き家率13.8パーセントで過去最多・過去最高です。これらは需要の下限と市場の方向を示しますが、個人の年収や求人数を予測するものではありません。
資格の保有だけでは差がつかない規模になっている。 登録者121万人という水準を踏まえると、上乗せが必要です。調査と説明の精度、税務・相続・建築・金融といった隣接領域の知識、働き方の選択肢の拡張が現実的な方向です。試験対策の入口は宅建の難易度と合格率、学習の進め方は独学で合格する方法を参照してください。
宅建試験AIブートラボでは、35条書面や専任宅建士の設置義務を含む2016年度から2025年度の全2,000肢を、肢別トレーニングと年度別演習の形で公開しています。制度の理解はそのまま得点になるので、演習で確認してください。
肢別演習・年度別演習・学習記録を無料で使えます。アプリなら通勤中でも1肢ずつ進められます。