宅建を異業種で活かす|自社が当事者になる場面の条文
宅建の知識が不動産業界以外でどう効くかを、業種ではなく「自社が当事者になる場面」で整理。自社が貸主・借主になるとき、経理が固定資産税や印紙税を扱うときに効く条文を根拠つきで解説します。
目次
本記事は、不動産業以外の会社で働く人にとって、宅建の学習範囲がどこで実際に効くのかを整理するものです。業種別の話は宅建が効く業界が担当しており、この記事はそれとは別の切り口を取ります。
切り口はこうです。業種で切るのではなく、「自社が不動産の当事者になる場面」で切ります。
理由を述べます。業種別の議論が扱っているのは、その会社の本業と試験範囲の重なりです。銀行なら担保物権と保証、建設なら法令上の制限、保険とFPなら税。いずれも顧客の不動産を扱う話です。詳細はそれぞれ銀行員が宅建を取る意味、建設業と宅建、公務員と宅建にあります。
しかし、どの業種の会社にも共通して発生する不動産の場面が別にあります。オフィスを借りる。社宅を用意する。使っていない土地を貸す。固定資産税の通知が届く。契約書に印紙を貼る。これらは本業が何であっても発生し、しかも自社が当事者です。
顧客の不動産を見る話と、自社の不動産を扱う話は違います。銀行員が担保として顧客の土地を評価するのと、その銀行の総務が本店ビルの賃貸借契約を結ぶのは、必要な知識が別です。前者は業種の話、後者は職能の話で、後者はどの業種にも存在します。
そして、この場面で効く知識には明確な条文の裏付けがあります。「契約を構造で読む力がつく」といった抽象的な効用ではなく、借地借家法の何条がどう効くか、という形で書けます。以下、その具体を追います。
出発点 — 不動産業の外から受ける人は例外ではない
令和7年度の職業別構成
まず前提を数字で確認します。一般財団法人不動産適正取引推進機構「令和7年度宅地建物取引士資格試験結果の概要」(令和7年11月26日公表)によれば、合格者の職業別構成比は、不動産業33.2パーセント、金融業8.1パーセント、建設業8.7パーセント、他業種27.9パーセント、学生10.9パーセント、その他11.3パーセントです。
他業種が27.9パーセントで、不動産業に次ぐ二番目の規模です。金融と建設を足しても16.8パーセントですから、それを大きく上回ります。
「不動産業界以外から受ける人がいる」ではなく、「不動産業以外から受ける人が多数を占める」というのが公表値から言えることです。受験者層の詳細は宅建試験の受験者データにあります。
ただし、この数字は「役に立つ」ことを意味しない
ここで注意が必要です。他業種27.9パーセントという数字が示すのは、受けている人の分布であって、役に立ったかどうかではありません。役に立つかどうかは、統計ではなく条文で確認する必要があります。
そして条文で確認できるのは、独占業務も設置義務も発生しないという事実です。宅建業法35条・37条の独占業務は宅地建物取引業者の取引について働くものですし、31条の3の設置義務も主語が宅地建物取引業者です。自社が宅建業者でない限り、資格の有無が業務の可否を変えることはありません。
したがって、この記事が扱うのは知識としての効き方だけです。資格が待遇に反映されるかどうかは勤務先の制度次第で、そこに一般化できる統計は存在しません。この点の構造は宅建士の年収で分解しています。
自社が貸主になる場面 — 免許は要らない
自ら貸借は宅建業に当たらない
自社が所有する不動産を貸す場面から始めます。空いた土地を駐車場として貸す、自社ビルの空きフロアをテナントに貸す、寮や社宅を従業員に貸す。
この場面で、宅地建物取引業の免許は要りません。
宅建業法2条2号は、宅地建物取引業を「宅地若しくは建物の売買若しくは交換又は宅地若しくは建物の売買、交換若しくは貸借の代理若しくは媒介をする行為で業として行うもの」と定義します。
条文を分解すると、貸借について挙げられているのは代理と媒介だけです。売買と交換には「自ら行う」場合が含まれているのに、貸借にはそれがありません。したがって、自ら貸主として貸す行為は、戸数がどれだけ多くても宅地建物取引業に当たりません。
これは実務で誤解されやすい部分です。「不動産を人に貸すのだから何か資格が要るのではないか」と考えてしまいますが、条文の列挙に入っていない以上、免許は不要です。免許の要否の判定は宅建業の免許制度、業として行うかどうかの判定は宅建業の「業」に当たるケースと当たらない例にまとめています。
借上社宅の転貸も自ら貸借である
同じ理屈が、借上社宅にも当てはまります。
会社が建物を賃借し、それを従業員に社宅として転貸する。この場合、会社は従業員との関係で貸主です。自ら貸借ですから、宅地建物取引業には当たりません。従業員から使用料を徴収していても、この結論は変わりません。
もっとも、原契約の側では会社は借主ですから、後述する借地借家法の規律を受けます。同じ社宅制度の中に、借主としての立場と貸主としての立場が同時に存在することになります。
層が移る場合がある
ただし、条件が変わると規制がかかります。
媒介や代理を始めれば宅建業です。自社所有物件を貸すだけなら免許不要ですが、他人の物件について借主を探して契約を成立させれば、貸借の媒介として2条2号に該当します。
管理を他人から受託すれば別の法律がかかります。賃貸住宅の管理業務を賃貸人から受託し、その戸数が200戸以上になれば、賃貸住宅管理業法3条1項の登録が必要になり、12条1項により営業所または事務所ごとに業務管理者を選任しなければなりません。宅建業法では規制の外でも、別の法律で規制の中に入るという組合せです。詳細は賃貸住宅管理業法の全体像と不動産管理会社と宅建にあります。
売る場合も別です。2条2号は売買については「自ら行う」場合を含めています。遊休地を区画に分けて反復継続して売れば、自社所有であっても宅地建物取引業に当たります。「貸すのは自由だが、売るのは場合による」という非対称を押さえてください。
自社が借主になる場面1 — 普通借家は簡単には終わらない
借主を守る規定は、借主である自社に有利に働く
オフィスや店舗を借りる場面に移ります。ここで効くのが借地借家法です。
借地借家法の規定の多くは借主を保護する方向に働きます。そして自社が借主である以上、これらは自社に有利な規定として使えます。「貸主が更新を拒んできたが、応じなければならないのか」という場面で、条文を知っているかどうかで判断が変わります。
26条 — 通知がなければ自動的に更新される
借地借家法26条1項は、期間の定めがある建物の賃貸借について、「当事者が期間の満了の一年前から六月前までの間に相手方に対して更新をしない旨の通知又は条件を変更しなければ更新をしない旨の通知をしなかったときは、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす」と定めます。ただし「その期間は、定めがないものとする」とされています。
放っておけば更新されるのが原則で、しかも更新後は期間の定めがない契約になります。2項は、通知をした場合であっても、期間満了後に借主が使用を継続し、貸主が遅滞なく異議を述べなかったときも同様とします。
28条 — 貸主からの更新拒絶には正当事由が要る
さらに強い規定が28条です。「建物の賃貸人による第二十六条第一項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない」。
通知の期間を守っただけでは足りず、正当事由が必要です。そして条文が考慮要素として挙げているのは、双方の使用の必要性、従前の経過、利用状況、建物の現況、そして立退料の申出です。立退料は正当事由を補完する要素であって、それだけで正当事由になるとは書かれていません。
借主である自社の側から見れば、この規定があるおかげで、貸主の都合だけで退去を迫られることはないということになります。
29条 — 1年未満の期間と、上限の不存在
29条1項は「期間を一年未満とする建物の賃貸借は、期間の定めがない建物の賃貸借とみなす」と定めます。短い期間を定めても、その定めは効きません。
29条2項は「民法第六百四条の規定は、建物の賃貸借については、適用しない」としています。民法604条は賃貸借の存続期間の上限を定める規定ですから、建物の賃貸借には期間の上限がありません。長期のオフィス賃貸借契約が可能なのはこのためです。
31条 — ビルが売られても居続けられる
見落とされやすいのが31条1項です。「建物の賃貸借は、その登記がなくても、建物の引渡しがあったときは、その後その建物について物権を取得した者に対し、その効力を生ずる」。
賃借権の登記をしていなくても、引渡しを受けていれば新しい所有者に対抗できます。入居中にビルが売却されても、そのまま使用を続けられるということです。
賃貸借の存続期間や更新の全体像は借地借家法の基本に、数字の整理は借地借家法の数字にまとめています。
自社が借主になる場面2 — 定期借家だと出られない
38条1項 — 更新がない類型
一方で、更新のない類型があります。定期建物賃貸借です。
借地借家法38条1項は「期間の定めがある建物の賃貸借をする場合においては、公正証書による等書面によって契約をするときに限り、第三十条の規定にかかわらず、契約の更新がないこととする旨を定めることができる」とし、「この場合には、第二十九条第一項の規定を適用しない」とします。
29条1項が適用されないので、1年未満の期間を定めることもできます。2項により、電磁的記録によって契約がされたときは書面によってされたものとみなされます。
38条3項・5項 — 事前の説明を欠くと定期借家にならない
38条3項は、定期建物賃貸借をしようとするときは、賃貸人はあらかじめ賃借人に対し、「契約の更新がなく、期間の満了により当該建物の賃貸借は終了することについて、その旨を記載した書面を交付して説明しなければならない」と定めます。4項により、賃借人の承諾を得て電磁的方法で提供することもできます。
そして5項が効果を定めます。「建物の賃貸人が第三項の規定による説明をしなかったときは、契約の更新がないこととする旨の定めは、無効とする」。
説明を欠けば、定期借家の定めだけが無効になり、普通借家として扱われます。契約書に「定期建物賃貸借契約」と書いてあっても、それだけでは足りません。自社が借主として契約するとき、契約書とは別の説明書面を受け取ったかどうかが分かれ目になります。
38条6項 — 終了の通知
38条6項は「期間が一年以上である場合には、建物の賃貸人は、期間の満了の一年前から六月前までの間に建物の賃借人に対し期間の満了により建物の賃貸借が終了する旨の通知をしなければ、その終了を建物の賃借人に対抗することができない」とします。ただし書により、通知期間の経過後に通知した場合は、その通知の日から6月を経過した後は対抗できるようになります。
通知が遅れても終了しないわけではなく、6月遅れるという構造です。
38条7項 — 中途解約権は事業用にはない
この記事で最も実務的なのがここです。
38条7項は、定期建物賃貸借において賃借人からの解約申入れを認めていますが、対象を厳しく限定しています。「第一項の規定による居住の用に供する建物の賃貸借(床面積(建物の一部分を賃貸借の目的とする場合にあっては、当該一部分の床面積)が二百平方メートル未満の建物に係るものに限る。)において、転勤、療養、親族の介護その他のやむを得ない事情により、建物の賃借人が建物を自己の生活の本拠として使用することが困難となったときは、建物の賃借人は、建物の賃貸借の解約の申入れをすることができる」。この場合、解約の申入れの日から1月を経過することによって終了します。
居住の用に供する建物で、床面積200平方メートル未満のものに限られます。したがって、事業用のオフィスや店舗を定期建物賃貸借で借りた場合、この規定による中途解約はできません。
意味は重大です。オフィスを定期借家で5年借りたら、契約に中途解約の特約がない限り、5年間出られません。移転や縮小の計画を立てるとき、この制約は先に確認しておく必要があります。
なお8項は「前二項の規定に反する特約で建物の賃借人に不利なものは、無効とする」としています。6項と7項は片面的強行規定です。定期借家の詳細は定期建物賃貸借にまとめています。
賃料は合意だけでは固定できない
32条 — 借賃増減請求権
賃料についても、契約書に書けばそのとおりになるとは限りません。
借地借家法32条1項は「建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる」と定めます。
「契約の条件にかかわらず」という文言が核心です。賃料を固定する合意があっても、この請求権は働きます。
ただし書 — 不増額特約だけが明文で認められている
32条1項ただし書は「一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う」とします。
明文で効力が認められているのは、増額しない旨の特約だけです。借主に有利な方向の特約なので許されている、という構造です。逆に減額しない旨の特約は、条文に規定がありません。
32条2項 — 協議が調わないときの支払額
32条2項は「建物の借賃の増額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、増額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の建物の借賃を支払うことをもって足りる」とします。
増額を請求されても、直ちにその額を払う義務は生じません。自社が借主として増額を求められたとき、この規定を知っているかどうかで対応が変わります。
38条9項 — 定期借家だけは特約で外せる
そして例外があります。借地借家法38条9項は「第三十二条の規定は、第一項の規定による建物の賃貸借において、借賃の改定に係る特約がある場合には、適用しない」と定めます。
定期建物賃貸借であれば、賃料改定に関する特約を置くことで32条そのものを排除できます。普通借家ではできません。ここでも普通借家と定期借家で扱いが分かれます。
自社が借主として重要事項説明を受ける場面
説明されるのは自社である
自社がオフィスを借りるとき、媒介した宅建業者から重要事項説明を受けます。宅建業法35条1項は、宅地建物取引業者に対し、宅地建物を取得しようとする者または借りようとする者に、契約が成立するまでの間に、宅地建物取引士をして一定事項を説明させることを義務づけています。
説明の相手方は自社です。したがって、何が説明されるべきかを知っていれば、説明されていない事項に気づけます。
貸借で説明される事項を知っておく意味
35条の説明事項は、売買と貸借で範囲が異なります。建物の貸借では、登記された権利、法令上の制限のうち貸借に関するもの、飲用水・電気・ガスの供給と排水施設の整備状況、契約期間と更新に関する事項、用途その他の利用の制限、敷金その他の金銭の精算に関する事項、管理の委託先などが挙げられます。
そして定期建物賃貸借であるときは、その旨が説明事項に含まれます。前述のとおり定期借家は更新がなく、事業用なら中途解約もできません。説明の場でこれを確認しないまま契約すると、後から移転計画に制約が出ます。
説明事項の全体像は35条書面の記載事項一覧、賃貸借に特有の論点は賃貸の重要事項説明にまとめています。
敷金の性質を知っておく
契約時に差し入れる敷金についても、民法622条の2が定義を置いています。いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の債務を担保する目的で賃借人が賃貸人に交付する金銭をいい、賃貸借が終了して賃貸物の返還を受けたときに、債務額を控除した残額を返還しなければならないとされています。
返還の時期は「明渡し後」であって、契約終了と同時ではありません。この順序は、退去時の交渉で争点になります。敷金の扱いは敷金・礼金の基本にあります。
経理が扱う場面 — 固定資産税と印紙税
固定資産税の納税義務者は1月1日で決まる
自社が不動産を保有していれば、固定資産税の通知が届きます。
地方税法359条は「固定資産税の賦課期日は、当該年度の初日の属する年の一月一日とする」と定めます。そして343条1項が「固定資産税は、固定資産の所有者に課する」とし、2項が、土地または家屋については登記簿または補充課税台帳に所有者として登記または登録がされている者を指すとします。
この二つを重ねると、1月1日現在の所有者がその年度の納税義務者になります。
ここから実務的な帰結が出ます。年の途中で売却しても、その年度の納税義務者は変わりません。売買のときに引渡日を基準に日割りで精算する慣行がありますが、それは当事者間の合意にすぎず、市町村に対する納税義務者が入れ替わるわけではありません。買主が精算金を払わなかったとしても、市町村は売主に請求します。
経理が売買契約書の精算条項を見るときは、「税を負担する者」と「納税義務者」が別の概念であることを押さえておく必要があります。制度の全体は固定資産税に、不動産の税の見取り図は不動産にかかる税金の全体像にあります。
印紙税 — 建物の賃貸借契約書には印紙が要らない
契約書に印紙を貼る場面でも、条文の知識が直接効きます。
土地の賃貸借契約書は課税文書です。印紙税法別表第一の第1号の物件名2が「地上権又は土地の賃借権の設定又は譲渡に関する契約書」を掲げているためです。
しかし建物の賃貸借契約書は課税文書ではありません。第1号の物件名2が掲げているのは土地の賃借権だけで、建物の賃借権は掲げられていません。そして課税物件表の他のどの号にも、建物の賃貸借契約書は現れません。掲げられていないものは課税されないというだけの話です。
オフィスの賃貸借契約書に印紙を貼る必要はなく、社宅用の土地を借りる契約書には必要になる。同じ「賃貸借契約書」でも扱いが逆になります。なお第1号の2文書の記載金額は、賃借権の設定の対価である権利金などであって、賃料や敷金は含まれません。課税文書の判定は印紙税の課税文書一覧にまとめています。
相続が絡む場面
企業の場面から少し外れますが、資産の承継に関わる職種では相続の知識が効きます。相続財産に不動産が含まれる場合、誰が相続人で法定相続分がどうなるか、共有になっていないか、登記がどうなっているかを整理しないと分割案が組めません。この領域は相続した不動産の基礎知識で扱っています。
資格ではなく知識が効く、という構造
独占業務も設置義務も発生しない
改めて整理します。自社が宅地建物取引業者でない限り、宅建士の独占業務も設置義務も発生しません。
35条の重要事項説明は、宅地建物取引業者が行う取引について、宅地建物取引士をして説明させるものです。自社が借主として説明を受ける側であれば、自社に宅建士がいる必要はありません。31条の3の設置義務も、主語が宅地建物取引業者です。
したがって、この記事で挙げた場面のどれについても、「宅建士でなければできない」ことはありません。
効くのは判断の場面である
では何が効くのか。判断の場面です。
契約書に「定期建物賃貸借契約」と書いてあるのを見て、事前説明書面を受け取ったかを確認する。オフィスを定期借家で借りようとしているとき、中途解約の特約があるかを確認する。賃料の増額を求められたとき、相当と認める額を払えば足りることを知っている。売買契約書の固定資産税精算条項を見て、それが当事者間の合意であることを理解している。契約書に印紙を貼る前に、それが課税文書かを判定する。
どれも「できる/できない」の問題ではなく、「気づく/気づかない」の問題です。そして気づくためには、条文を知っている必要があります。
待遇に反映されるかは勤務先次第
この記事では、異業種での年収額や資格手当の額を示しません。宅建士の年収を示す統計が存在しないからです。厚生労働省の賃金構造基本統計調査には「宅地建物取引士」という職業区分がなく、集計されているのは職業や産業であって資格ではありません。
法律が需要を作っていない領域である以上、評価するかどうかは各社の判断になります。構造は宅建士の年収で、職種ごとの実像は宅建の転職先で扱っています。資格取得の位置づけそのものは宅建のメリットを参照してください。
試験での出題ポイント
この記事が扱った場面は、そのまま試験の頻出論点です。実際の問われ方を挙げます。
「自ら貸借」を宅建業に含める
最も基本的な型です。「自己所有の建物を多数の者に反復継続して賃貸する場合、宅地建物取引業の免許が必要である」は誤りです。2条2号の貸借について挙げられているのは代理と媒介だけだからです。
転貸を持ち出す変形もあります。「自ら賃借した建物を転貸する場合は、自ら貸借に当たらないため免許が必要である」も誤りです。転貸も自ら貸借です。
普通借家と定期借家の要件を入れ替える
定期建物賃貸借の要件は、書面(または電磁的記録)による契約と、あらかじめの書面交付・説明の二つです。「契約書に更新がない旨を記載していれば、事前の説明がなくても定期建物賃貸借となる」は誤りで、38条5項により更新がないこととする定めが無効になります。
逆に、「定期建物賃貸借は公正証書によらなければならない」も誤りです。1項は「公正証書による等書面によって」としており、公正証書に限定していません。
中途解約権の対象を広げる
38条7項の解約申入れは、居住の用に供する建物で床面積200平方メートル未満のものに限られます。「定期建物賃貸借の賃借人は、やむを得ない事情があれば解約の申入れをすることができる」という一般化した肢は誤りです。用途と床面積という二つの限定を落としています。
増額と減額を入れ替える
32条1項ただし書が明文で認めているのは、増額しない旨の特約です。「一定期間、借賃を減額しない旨の特約は有効である」という肢は、条文に根拠がありません。
また32条2項の「相当と認める額を支払えば足りる」は増額請求を受けた側の規定です。減額請求をした側が自分の考える減額後の額しか払わなくてよい、と読み替えた肢は誤りになります。
対抗要件を登記に限る
31条1項は、引渡しがあれば登記がなくても対抗できるとしています。「建物の賃借人は、賃借権の登記をしなければ、建物の譲受人に賃借権を対抗できない」は誤りです。借地の場合に借地上の建物の登記で対抗できる(10条1項)のと合わせて、借地借家法は登記以外の対抗要件を用意していると整理してください。
固定資産税の納税義務者を移す
「年の途中で売却した場合、売主と買主が日割りで精算すれば、その年度の納税義務者は買主となる」は誤りです。地方税法359条の賦課期日は1月1日で、343条によりその日現在の所有者が納税義務者です。私人間の精算合意は課税関係を動かしません。
課税文書の範囲をずらす
「建物の賃貸借契約書は課税文書であり、記載された賃料の額に応じて印紙税が課される」は誤りです。建物の賃貸借契約書は課税物件表に掲げられていません。逆に、土地の賃貸借契約書を不課税とする肢も誤りです。
覚え方・整理の仕方
「顧客の不動産」と「自社の不動産」で分ける
異業種で宅建がどう効くかを考えるとき、まずこの二つを分けてください。
顧客の不動産を扱うのは業種の話です。銀行なら担保、建設なら法令上の制限、保険とFPなら税。自分の業種に対応する記事を読むのが早道です。
自社の不動産を扱うのは職能の話で、どの業種にも存在します。総務が契約し、経理が税を処理する。この記事が扱ったのは後者です。
「貸すのは自由、売るのは場合による」
自ら貸借は宅建業に当たらず、自ら売買は当たる。2条2号の列挙の非対称を、この一句で持ってください。
転貸も貸借なので、借上社宅の運用は免許の外です。ただし他人の物件について媒介を始めれば内側に入り、管理を受託して200戸以上になれば別の法律の内側に入ります。
普通借家と定期借家を「出られるか」で分ける
借主である自社の関心は二つあります。追い出されないかと、出られるかです。
追い出されない方向では普通借家が強い。26条の法定更新があり、28条の正当事由が要求されるからです。
出られる方向では普通借家が有利で、定期借家は不利です。定期借家の中途解約権(38条7項)は居住用・200平方メートル未満に限られ、事業用には及びません。
「更新されないことの裏返しは、途中で抜けられないこと」と覚えておくと、オフィスの契約形態を選ぶときに迷いません。
数字は「1年前から6月前まで」で束ねる
普通借家の更新拒絶の通知(26条1項)も、定期借家の終了通知(38条6項)も、期間満了の1年前から6月前までです。同じ数字が別の制度で使われています。
そのうえで、それぞれ違う点を足します。普通借家は通知に加えて正当事由が要る。定期借家は正当事由が不要な代わりに、通知を怠っても6月遅れて終了を対抗できるようになる。
「契約の条件にかかわらず」を拾う
32条1項の「契約の条件にかかわらず」は、合意より条文が優先することを示す文言です。この種の言い回しを条文中で見つけたら、特約で外せない規定だと判断できます。
例外は二つ。32条1項ただし書の不増額特約と、定期借家における38条9項の賃料改定特約です。
税は「日付」と「掲げられているか」で決まる
固定資産税は1月1日という日付だけで納税義務者が決まります。誰がいつ買ったかも、精算合意も関係ありません。
印紙税は課税物件表に掲げられているかだけで決まります。土地の賃借権は掲げられていて、建物の賃借権は掲げられていない。理屈を探すのではなく、表を見る。この割り切りが早道です。
理解度チェッククイズ
5問です。
Q1:会社が第三者から賃借した建物を、従業員に社宅として転貸し使用料を徴収する行為は、宅地建物取引業に当たらないため、宅地建物取引業の免許を必要としない。
答えを見る
**○(正しい)** 宅建業法2条2号は、宅地建物取引業を「宅地若しくは建物の**売買若しくは交換**又は宅地若しくは建物の**売買、交換若しくは貸借の代理若しくは媒介**をする行為で業として行うもの」と定義しています。 貸借について挙げられているのは**代理と媒介だけ**で、自ら貸主となる行為は含まれていません。転貸も、転借人との関係では自ら貸主となる行為ですから、宅地建物取引業に当たりません。使用料を徴収していても、反復継続していても、この結論は変わりません。 **「自ら貸借は宅建業に当たらない」は、転貸にも及びます。** なお、他人が所有する物件について借主を探して契約を成立させれば、それは貸借の媒介として2条2号に該当し、免許が必要になります。また、賃貸住宅の管理を賃貸人から受託して200戸以上になれば、賃貸住宅管理業法3条1項の登録が別途必要です。Q2:事業用の事務所として定期建物賃貸借により建物を賃借した法人は、やむを得ない事情により当該建物を使用することが困難となったときは、借地借家法38条の規定により解約の申入れをすることができる。
答えを見る
**×(誤り)** 借地借家法38条7項は、解約申入れの対象を厳しく限定しています。「第一項の規定による**居住の用に供する建物**の賃貸借(**床面積**……が**二百平方メートル未満**の建物に係るものに限る。)において、**転勤、療養、親族の介護その他のやむを得ない事情**により、建物の賃借人が建物を**自己の生活の本拠**として使用することが困難となったとき」です。 **用途が居住用であること、床面積が200平方メートル未満であること、という二つの限定があります。**事業用の事務所はこのどちらにも当てはまりません。 したがって、事業用の定期建物賃貸借では、**契約に中途解約の特約がない限り、期間中は解約できません。**オフィスを定期借家で借りるときに最も注意すべき点です。 なお、解約申入れが認められる場合、賃貸借は申入れの日から**1月**を経過することによって終了します。また38条8項により、6項・7項に反する特約で賃借人に不利なものは無効とされています。Q3:期間の定めのある普通建物賃貸借において、一定の期間、建物の借賃を増額しない旨の特約をした場合、その期間中、賃貸人は借賃の増額を請求することができない。
答えを見る
**○(正しい)** 借地借家法32条1項本文は、租税その他の負担の増減、価格の上昇・低下その他の経済事情の変動、近傍同種の建物の借賃との比較により借賃が不相当となったときは、「**契約の条件にかかわらず**」当事者が増減を請求できると定めます。 しかし同項ただし書が「**一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う**」としています。**不増額特約は明文で効力が認められています。** 一方、**減額しない旨の特約については条文に規定がありません。**賃借人に不利な方向の特約だからです。「一定期間減額しない旨の特約は有効である」という肢は、条文上の根拠がありません。 なお、定期建物賃貸借であれば扱いが変わります。38条9項が「第三十二条の規定は、第一項の規定による建物の賃貸借において、**借賃の改定に係る特約がある場合には、適用しない**」としており、32条そのものを特約で排除できます。**普通借家ではできず、定期借家ではできる**という差です。Q4:年の途中で土地を売却し、売買契約において固定資産税を引渡日を基準に日割りで精算した場合、その年度の固定資産税の納税義務者は買主となる。
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**×(誤り)** 地方税法359条は「固定資産税の**賦課期日**は、当該年度の初日の属する年の**一月一日**とする」と定め、343条1項は「固定資産税は、固定資産の**所有者**に課する」としています。343条2項により、土地・家屋については登記簿または補充課税台帳に所有者として登記・登録されている者が「所有者」です。 したがって、**その年度の納税義務者は1月1日現在の所有者、すなわち売主のまま**です。年の途中で所有権が移転しても、納税義務者は動きません。 日割り精算は**当事者間の合意にすぎません。**市町村に対する関係では売主が納税義務者であり、買主が精算金を支払わなかったとしても、市町村は売主に請求します。 **「税を経済的に負担する者」と「納税義務者」は別の概念です。**この区別は売買契約書の精算条項を読むときに効きます。Q5:建物の賃貸借契約書は、印紙税法別表第一の課税物件表に掲げられていないため、印紙税の課税文書に当たらない。
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**○(正しい)** 印紙税法別表第一の第1号の物件名2は「**地上権又は土地の賃借権の設定又は譲渡に関する契約書**」を掲げています。掲げられているのは**土地**の賃借権であって、建物の賃借権ではありません。そして課税物件表の他のどの号にも建物の賃貸借契約書は現れません。 **課税物件表に掲げられていない文書は課税されません。**したがって、オフィスや社宅の建物賃貸借契約書に収入印紙を貼る必要はありません。一方、社宅用の土地を借りる契約書は第1号の2文書として課税されます。 **同じ「賃貸借契約書」でも、目的物が土地か建物かで扱いが逆になります。** なお、第1号の2文書の記載金額は、賃借権の**設定の対価**である権利金などの金額であり、後日返還される敷金・保証金や、使用収益の対価である**賃料は含まれません**(国税庁タックスアンサーNo.7101)。まとめ
- 業種ではなく「自社が当事者になる場面」で切ると、条文で裏付けられる。顧客の不動産を扱う話は業種ごとに違いますが、オフィスを借りる、社宅を用意する、遊休地を貸す、固定資産税の通知が届く、契約書に印紙を貼るといった場面は、本業が何であっても発生します。令和7年度の合格者の職業別構成でも他業種が27.9パーセントを占め、不動産業以外から受ける人は例外ではありません。
- 貸主側は免許不要、借主側は借地借家法の規律を受ける。宅建業法2条2号の貸借は代理と媒介だけを挙げているため、自ら貸すこと(転貸を含む)に免許は要りません。一方、借主としては26条の法定更新と28条の正当事由に守られる代わりに、定期借家では38条7項の中途解約権が居住用・200平方メートル未満に限られるため、事業用オフィスは期間中に抜けられません。
- 効くのは「できる/できない」ではなく「気づく/気づかない」。自社が宅建業者でない限り独占業務も設置義務も発生しないので、資格の有無が業務の可否を変えることはありません。効くのは、定期借家の事前説明書面の有無に気づく、増額請求に対して相当と認める額で足りると知っている、固定資産税の日割り精算が当事者間の合意にすぎないと分かる、といった判断の場面です。
宅建試験AIブートラボの肢別トレーニングでは、借地借家法の更新と定期借家、固定資産税の賦課期日、印紙税の課税文書といった、この記事で扱った論点を条文根拠つきの解説で演習できます。
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